アジア「内需」とともに成長する 第2章 我が国、持続的成長...

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アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み 2010 White Paper on International Economy and Trade 156 第2章 2 アジア「内需」とともに成長する 我が国、持続的成長実現に向けた アジア・太平洋の枠組み 1 世界の成長センターアジア 第1節 世界で存在感を高めるアジア 1 章では、世界経済が世界経済危機から緩やかに 回復する中、アジアを中心とした新興国経済が、その 成長率、経済規模ともに世界経済の中で存在感を高め ており、世界経済は、米国を中心とした一極集中から アジアを中心とした新興国に多極化しつつあることを 明らかにした。 本章では、こうした世界経済の構造変化の中心とな るアジア新興国について分析を行う。第 1 節で世界経 済危機から回復するアジア経済について紹介し、第 2 節ではこれまでの経済成長を支えてきた東アジア生産 ネットワークの変化について確認する。第 3 節では、 経済成長により拡大してきているアジア消費市場につ いて、現状説明と今後についての検証を行う。第 4 では、これからアジア経済がさらに発展していくため に必要なインフラ整備について紹介する。一方で持続 的に発展していくにあたっては課題も存在しているた め、第 5 節では、少子高齢化、環境・エネルギー問題 等の課題について取り上げる。最後に、第 6 節では、 こうした課題を解決し持続的な発展を遂げるために は、アジア地域、さらにはアジア太平洋地域による協 力が重要であり、今年 2010 年に我が国が議長となる APEC の枠組みを紹介する。 これまでアジア経済は、我が国を先頭に、韓国、香 港、台湾、シンガポールといった NIEs、その次に ASEAN、中国、インドが続く雁行型経済発展を遂げ てきた。しかし、中国やインド等の急成長により、近 年、アジア経済の成長モデルが変化しつつある。ま た、世界経済危機後にいち早く回復したことからも、 アジア経済の世界経済における存在感は高まってきて いる。我が国としても、こうした成長著しいアジア経 済が持続的に発展するために貢献し、我が国の成長に も結びつけることの重要性が高まっている。 本節では、世界経済における存在感を高め、拡大し つづけるアジア経済の成長要因について経済構造等か ら分析する。また、世界経済危機からいち早く回復し たアジア経済の足元の動向について確認するととも に、経済回復の原動力について分析を行う。さらに、 特に成長が著しく、2010 年には、我が国を上回り、 世界第 2 位の経済大国となることが見込まれる中国に ついて 1 、対外直接投資の動向を確認する。 (1)アジア経済の概観 アジア経済は、中国の 2001 WTO 加盟後の躍進、 インドの今後の発展の可能性等から、世界経済に対す る存在感を年々高めている。 1980 年には、約 2 兆ドルの規模を有していたアジア 経済は、2009 年には約 15 兆ドルに達している(第 2-1- 1-1 図)。IMF の見通しでは、2015 年には、約 24.4 兆ド ルと NAFTAEU を超える経済圏になると予想されて いる。 このように世界経済における存在感を高めているア ジア経済であるが、その特徴としては、世界人口の約 5 割を占める人口規模がある。特に、NAFTA 4.4 人や EU 5.0 億人といった経済圏と比較すると 6 倍以 上の 33 億人にも上る(第 2-1-1-2 表)。 また、一人当たり GDP が低いことも特徴的である。 2009 年のアジアの一人当たり名目 GDP は、4,391 ドル 1 IMFWorld Economic Outlook Database, October 2009」。

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  • アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み

    2010 White Paper on International Economy and Trade156

    第 2章 世界で存在感を高めるアジア

    第2章アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み

    1 世界の成長センターアジア

    第1節 世界で存在感を高めるアジア

    第1章では、世界経済が世界経済危機から緩やかに回復する中、アジアを中心とした新興国経済が、その成長率、経済規模ともに世界経済の中で存在感を高めており、世界経済は、米国を中心とした一極集中からアジアを中心とした新興国に多極化しつつあることを明らかにした。本章では、こうした世界経済の構造変化の中心となるアジア新興国について分析を行う。第1節で世界経済危機から回復するアジア経済について紹介し、第2節ではこれまでの経済成長を支えてきた東アジア生産ネットワークの変化について確認する。第3節では、

    経済成長により拡大してきているアジア消費市場について、現状説明と今後についての検証を行う。第4節では、これからアジア経済がさらに発展していくために必要なインフラ整備について紹介する。一方で持続的に発展していくにあたっては課題も存在しているため、第5節では、少子高齢化、環境・エネルギー問題等の課題について取り上げる。最後に、第6節では、こうした課題を解決し持続的な発展を遂げるためには、アジア地域、さらにはアジア太平洋地域による協力が重要であり、今年2010年に我が国が議長となるAPECの枠組みを紹介する。

    これまでアジア経済は、我が国を先頭に、韓国、香港、台湾、シンガポールといったNIEs、その次にASEAN、中国、インドが続く雁行型経済発展を遂げてきた。しかし、中国やインド等の急成長により、近年、アジア経済の成長モデルが変化しつつある。また、世界経済危機後にいち早く回復したことからも、アジア経済の世界経済における存在感は高まってきている。我が国としても、こうした成長著しいアジア経済が持続的に発展するために貢献し、我が国の成長に

    も結びつけることの重要性が高まっている。本節では、世界経済における存在感を高め、拡大しつづけるアジア経済の成長要因について経済構造等から分析する。また、世界経済危機からいち早く回復したアジア経済の足元の動向について確認するとともに、経済回復の原動力について分析を行う。さらに、特に成長が著しく、2010年には、我が国を上回り、世界第2位の経済大国となることが見込まれる中国について 1、対外直接投資の動向を確認する。

    (1)アジア経済の概観アジア経済は、中国の2001年WTO加盟後の躍進、インドの今後の発展の可能性等から、世界経済に対する存在感を年々高めている。

    1980年には、約2兆ドルの規模を有していたアジア経済は、2009年には約15兆ドルに達している(第2-1-1-1図)。IMFの見通しでは、2015年には、約24.4兆ドルとNAFTA、EUを超える経済圏になると予想されて

    いる。このように世界経済における存在感を高めているアジア経済であるが、その特徴としては、世界人口の約5割を占める人口規模がある。特に、NAFTAの4.4億人やEUの5.0億人といった経済圏と比較すると6倍以上の33億人にも上る(第2-1-1-2表)。また、一人当たりGDPが低いことも特徴的である。

    2009年のアジアの一人当たり名目GDPは、4,391ドル

    1 IMF「World Economic Outlook Database, October 2009」。

  • アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み 世界で存在感を高めるアジア 第1節

    通商白書 2010 157

    第2章

    であり、NAFTAの同36,708ドルやEUの同32,913ドルと比べると1/7未満となっている。これは、人口大国の一人当たりGDPが低いことが影響している。13億人の人口を抱える中国の一人当たり名目GDPは3,658ドル、12億人の人口を抱えるインドのそれは1,031ドル(いずれも2009年)である。さらに、アジア内の格差も大きい。2009年のアジアにおける国・地域別の一人当たりGDPは、オーストラリアの45,586ドルが最大で、ミャンマーの459ドルが最小となっており、約100倍の格差がある。

    2008年時点で、我が国のアジア向け輸出額は42.4%、輸入額は43.7%を占めている。我が国からアジア向けの直接投資残高は、2008年末時点で全直接投資残高の23.2%となっている。地理的、経済的に我が国とアジアは緊密な関係にある。

    第2-1-1-1図 �世界の名目GDPに占める各国・地域の割合の推移

    NAFTA,3.3

    NAFTA,6.6

    NAFTA,11.3

    NAFTA,16.5

    NAFTA,21.6

    EU27,3.7EU27,7.1

    EU27,8.5

    EU27,16.4

    EU27,19.5

    0.3 0.4 1.2

    4.9

    9.4

    0.7 1.52.5

    5.3

    8.7

    1.13.0

    4.7

    5.1

    6.2

    アジア2.1

    アジア5.0

    アジア8.4

    アジア15.2

    アジア24.4

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    1980 1990 2000 2009 2015(予測)

    (兆ドル)

    (年)

    NAFTA EU 27日本 その他アジア 中国

    備考:「その他アジア」とは、ASEAN+6から日本、中国を引いたもの。資料:IMF「World Economic Outlook Database, 2010 April 」から作成。

    第2-1-1-2表 �アジア経済の概観

    人口 名目GDP 1人当たり名目GDP 総貿易額 総輸出額 総輸入額対日本輸出額

    日本からの輸入額

    日本からの直接投資

    日本からの直接投資残高

    年 2009年 2009年 2009年 2008年 2008年 2008年 2008年 2008年 2008年 2008年末単位 億人 10億ドル ドル 10億ドル 10億ドル 10億ドル 10億ドル 10億ドル 億円 億円

    ブルネイ 0.004 11 26,835 13 10 3 4.2 0.2 42 −インドネシア 2.32 539 2,325 266 137 129 27.7 15.1 739 7,699マレーシア 0.28 191 6,838 356 200 157 21.5 19.6 618 6,990フィリピン 0.92 161 1,750 110 49 60 7.7 7.1 737 7,042シンガポール 0.05 177 37,946 659 339 320 16.7 25.9 1,122 17,615タイ 0.67 264 3,939 352 173 179 19.7 33.6 2,093 18,533カンボジア 0.14 11 790 12 4 8 0.1 0.2 38 −ラオス 0.06 6 895 4 2 3 0.02 0.1 3 −ミャンマー 0.60 28 459 14 7 7 0.3 0.2 -4 −ベトナム 0.87 92 1,063 143 63 81 8.5 8.6 1,130 2,986ASEAN計 5.91 1,480 2,504 2,104 984 946 106.5 110.7 6,518 61,078日本 1.28 5,068 39,731 1,545 783 762 − − − −中国 13.42 4,909 3,658 2,561 1,429 1,132 116.2 150.8 6,700 44,239韓国 0.49 833 17,074 862 427 435 28.3 61.0 2,447 10,996ASEAN+3計 21.09 12,289 5,827 7,072 3,623 3,275 250.9 322.5 15,665 116,313インド 11.99 1,236 1,031 459 178 281 3.2 7.3 5,429 8,523オーストラリア 0.22 997 45,586 397 186 211 41.2 19.1 5,369 17,249ニュージーランド 0.04 118 27,261 65 31 34 2.6 2.8 618 1,300ASEAN+6計 33.34 14,640 4,391 7,993 4,017 3,802 297.9 351.7 27,081 143,385NAFTA 4.49 16,468 36,708 4,472 2,048 2,955 79.0 177.1 46,375 214,013

    (うち米国) 3.07 14,256 46,437 3,180 1,300 2,166 66.6 143.4 44,617 204,584EU 5.00 16,447 32,913 10,810 5,901 6,152 62.3 110.8 23,431 146,058その他 24.51 10,382 4,236 6,268 4,053 3,623 243.1 189.6 35,433 113,944世界計 67.34 57,937 8,604 32,550 16,019 16,531 682.4 829.3 132,320 617,400

    備考:一人当たり名目GDP=名目GDP/人口。資料:名目GDP、1人当たり名目GDPはIMF「World Economic Outlook Database April 2010」、貿易額はIMF「DOT」、直接投資額は財務省・日本銀行

    「国際収支統計」、人口はEUについてはEurostatから、それ以外の国・地域についてはIMF「World Economic Outlook Database April 2010」から作成。

  • アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み

    2010 White Paper on International Economy and Trade158

    第 2章 世界で存在感を高めるアジア

    欧米等先進国は、経済危機の影響による景気後退から緩やかに回復に向かうとみられるが、アジア経済は2009年第2四半期以降、既に著しい回復を見せている(第2-1-2-1図)。アジア経済の回復には大きく分けて2つのパターン

    が存在する。輸出依存度の高いシンガポールやタイ等については、実質GDP成長率が2009年の第1四半期に大幅なマイナス成長となった後、2009年第4四半期には、韓国で前年同月比6.0%、シンガポールで前年同月比4.0%、タイで同5.8%まで回復しており、世界経済危機前の成長率に戻っている。我が国についても、好調な中国を始めアジア地域にけん引され、2010年にはプラス成長に転じると予想されている2。一方、インド、インドネシアのように輸出依存度が比較的低く、内需が底堅く推移した国では、実質GDP成長率がマイナスに転じることなく、危機前の水準に近づいている。インドの2009年第3四半期の成長率は、前年同期比7.9%、インドネシアの2009年第4四半期の成長率は、同5.4%となっている。また、中国においても、拡大する投資・消費を背景に、2010年第1四半期の成長率は前年同月比で11.9%と高成長を実現している。

    (1)アジアの需要を底上げしたアジア各国の景気対策中国を始めアジア各国では、公共投資や補助金を中心とした大規模な景気対策が、投資や消費を刺激し、需要を底上げしたことにより、世界の先陣を切って急速な回復を実現している。景気対策における財政支出額の対GDP比は、我が

    国では6.0%、中国では13.3%に上るなど、アジア地域では、欧米先進国の平均値の2.2%を上回っている(第2-1-2-2図)。アジア主要各国の景気対策の概要は、以下のとおり

    (第2-1-2-3表)。

    ①日本2008年8~12月の3度に渡る景気対策において、定額給付金による家計支援、雇用対策、中小企業資金繰り対策等を実施(約75兆円)。2009年4月の経済対策では、低炭素革命(太陽光発電導入促進、環境対応車買い替え促進等)関連、子育て支援、中小企業資金繰り対策などを実施(約57兆円、国費約15兆円)、2009年12月の経済対策では、雇用対策、景気対応緊急保証の創設等を実施した(約24兆円、国費約7兆円)。

    ②中国2008年11月に中国国務院常務会議決定として「内

    2 いち早く回復するアジア経済

    2 IMF「World Economic Outlook 2010」では、2010年の我が国の実質経済成長率を1.7%と見込んでいる。内閣府「平成22年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」では平成22年度の我が国の実質経済成長率を1.4%と見込んでいる。

    第2-1-2-1図 �アジア主要国の実質GDP成長率

    -0.4

    6.0

    4.05.8

    -1.2

    -15.0

    -10.0

    -5.0

    0.0

    5.0

    10.0

    15.0

    1-3

    4-6

    7-9

    10-12

    1-3

    4-6

    7-9

    10-12

    1-3

    4-6

    7-9

    10-12

    1-3

    4-6

    7-9

    10-12

    1-3

    4-6

    7-9

    10-12

    1-3

    4-6

    7-9

    10-12

    1-3

    4-6

    7-9

    10-12

    1-3

    4-6

    7-9

    10-12

    2006 2007 2008 2009

    日本韓国シンガポールタイマレーシア

    前年同期比(%)

    資料:各国統計から作成。

    10.7

    6.05.4

    1.8

    0.0

    2.0

    4.0

    6.0

    8.0

    10.0

    12.0

    14.0

    16.0

    2006 2007 2008 2009

    中国インドインドネシアフィリピン

    前年同期比(%)

    資料:各国統計から作成。

  • アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み 世界で存在感を高めるアジア 第1節

    通商白書 2010 159

    第2章

    需促進・経済成長のための10大措置 3」を打ち出し、2010年末までに4兆元を支出することとしている。さらに、自動車や鉄鋼等の10大産業調整振興政策や家電や自動車の購入補助(家電下郷、汽車下郷)といった消費刺激策も打ち出した。消費刺激策については、2009年12月の国務院常務会議で延長することが決定し、農村部の住民が建材を購入した場合に補助金を支給する「建材下郷」も加えられている。

    ③韓国政府は、金融危機以降急速に悪化した景気の回復を目的として、2008年11月、総額14兆ウォン(財政支出(11兆ウォン)+減税(3兆ウォン))の「経済難局克服総合対策」を発表した。次いで2009年1月、韓国政府は、「グリーン・ニューディール」政策を発表した。これは、省エネ・クリーンエネルギー技術開発を中心に、2012年までに中核9事業・関連27事業に、総事業費約50兆ウォン(正確には、50兆492億ウォン)を支出する計画で、約96万人の雇用創出を見込んでいる。さらに、2009年4月には28.4兆ウォンの2009年度追加補正予算(追加景気対策)を成立させた。また、内需の下支えのため、自動車の個別消費税の引き下げ(2008年12月~2009年6月)や新車買換促進減税(2009年5月~2009年12月)等も行われた。

    ④タイ2009年1月に、タイでは失業者の職業訓練、公共投

    資(鉄道、道路、空港等)、農業のインフラ整備、低

    燃費車普及支援(輸入関税率の引き下げ等)、低所得者向けに定額給付、中小企業支援(最低税率の適用拡大)等を盛り込んだ景気刺激策を発表(1,167億バーツ)。その後、3月には景気対策事業「ストロング・タイ2012」(予算額は総額で1兆4300億バーツ)を発表し、2009年10月から3年間の実施を予定している。

    ⑤マレーシア2008年11月、2009年3月に2度の景気刺激策を発表。中低価格住宅の建設や、地方のインフラ整備等に拠出するとしている。

    ⑥インドネシア2008年10月に、インドネシア政府は国債の買い戻

    しや外貨の買い戻し等の緊急経済対策を発表した(12.5兆ルピア)。2009年2月には、公共事業投資によるインフラ整備のほか、企業向けには法人税率の引き下げ、輸入関税・付加価値税、エネルギーコストへの補助、消費者向けには所得税率の引き下げなどによる減税などを盛り込んだ補正予算を成立させている(緊急経済対策と合わせて73.3兆ルピア)。

    3 事業分野は、〔1〕低中所得者層向け社会保障的な住宅建設、〔2〕農村インフラ整備、〔3〕鉄道・道路・空港・電力等の重大インフラ整備、〔4〕医療衛生・文化教育事業の発展、〔5〕生態環境整備、〔6〕自主的なイノベーションと構造調整、〔7〕地震被災地域の災害復興。

    第2-1-2-2図 �景気対策による各国の財政支出�(対GDP比)

    14.313.3

    9.4

    7.16.0 5.8 5.6 5.5

    4.13.2

    0

    2

    4

    6

    8

    10

    12

    14

    16

    タイ 中国 ベトナム インドネシア 日本 シンガポール 韓国 マレーシア フィリピン インド

    欧米平均2.2%

    (%)

    備考:欧米は、米国、カナダ、EU15(ギリシャ、アイルランド除く)、ノルウェー、スイス。

    資料:国連「World Economic Situation and Prospects 2010」から作成。

    第2-1-2-3表 �アジア主要国の景気対策と財政支出額

    内容 財政支出額(億ドル)

    日本

    ・定額給付金、減税措置(住宅ローン減税最大控除可能額引上げ等)、雇用対策、中小企業資金繰り対策

    ・低炭素革命、健康長寿・子育て支援、21世紀型インフラ整備

    2,975

    中国・インフラ整備を中心とした内需拡大対策・家電や自動車の購入補助(減税含む)などの消費

    刺激策5,853

    韓国

    ・総合経済対策(財政支出拡大、減税)と補正予算による雇用支援

    ・「グリーンニューディール政策」による公共事業・金融安定化のための支援

    534

    インド

    ・物品税引下げ、輸出企業支援、インフラ投資支援、住宅取得支援

    ・海外金融機関からの借入既成緩和、、国営銀行への資本注入

    384

    タイ ・中小企業支援、不動産市場の刺激等・雇用創出支援、低所得者向け定額給付 390

    マレーシア ・民間企業支援やインフラ投資等・中低価格住宅建設や地方インフラ整備 121

    インドネシア ・減税(所得税、法人税)、産業向け電力料金引き下げ・公共事業、インフラ投資等 71

    シンガポール・「回復パッケージ」として雇用保護・企業支援対策・企業の資金調達支援、中小企業融資の支援(融資

    枠及び政府保証の拡大等)106

    資料:経済産業省「通商白書2009年」、内閣府「世界経済の潮流2009年6月」、国連World Economic Situation and Prospects 2010から作成。

  • アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み

    2010 White Paper on International Economy and Trade160

    第 2章 世界で存在感を高めるアジア

    ⑦シンガポール企業の資金調達を支援するため、中小企業等への融資枠及び政府保証を拡大(23億シンガポールドル)。2009年度予算に「回復パッケージ」として雇用保護(雇用主に対し月給の12%を現金給付)、職業訓練、企業支援(法人税率の引き下げ等)、家計支援(物品・サービス税還付等)等を盛り込んだ(205億シンガポールドル)。

    (2)アジアの工業生産動向アジア各国では、消費刺激策による需要の増加により、工業生産が回復している(第2-1-2-4図)。中国では、家電製品の補助金政策により、デバイスやパネルの需要が増加した。特に韓国や台湾等では、中国向けの IT関連製品の輸出・生産が大きく回復している。また、中国では、景気対策に伴う建設財需要などの増加も生産増に寄与したとみられ、韓国では、減税により自動車の生産も伸びている。シンガポールでは IT

    関連に加え、非 ITの化学等で生産が回復している。さらに、ウォン安、円高等が、韓国企業の世界シェアの拡大の追い風となり、韓国では日本より一足早く生産が回復している。

    (3)中国を中心としたアジア域内貿易の活性化中国の景気対策は、自国のみならず、アジア域内の景気に大きな影響を及ぼしている。ASEAN、韓国、日本について、それぞれ中国、米国、EU向けの輸出動向をみると、いずれの国・地域も米国、EUへの輸出額は低迷しているものの、中国への輸出額は2009年に入り回復している(第2-1-2-5図)。アジア各国の景気対策は、特に中国を中心とした域内の貿易を活性化・緊密化させている。アジア域内の貿易比率は、2009年に入って上昇し、2009年10月には53%と世界経済危機前の水準を上回っている。また、中国側の統計から一般貿易(原材料除く)と加工貿易に分けて輸入状況をみると、部品を輸入し、

    第2-1-2-4図 �アジア主要国の鉱工業生産の推移

    マレーシア12.7

    タイ28.6

    シンガポール39.4

    日本18.5

    韓国31.8

    -40

    -30

    -20

    -10

    0

    10

    20

    30

    40

    50マレーシアシンガポール韓国

    タイ日本

    (前年同月比、%)

    資料:Bloombergから作成。

    (年月)

    鉱工業生産指数の推移①

    インド16.7

    中国12.8

    インドネシア5.5

    ベトナム13.6

    -10

    -5

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    2007年2月

    2007年4月

    2007年6月

    2007年8月

    2007年10月

    2007年12月

    2008年2月

    2008年4月

    2008年6月

    2008年8月

    2008年10月

    2008年12月

    2009年2月

    2009年4月

    2009年6月

    2009年8月

    2009年10月

    2009年12月

    2010年2月

    (前年同月比、%)

    資料:Bloombergから作成。

    鉱工業生産指数の推移②

    (年月)

    インド中国インドネシアベトナム

    2007年2月

    2007年4月

    2007年6月

    2007年8月

    2007年10月

    2007年12月

    2008年2月

    2008年4月

    2008年6月

    2008年8月

    2008年10月

    2008年12月

    2009年2月

    2009年4月

    2009年6月

    2009年8月

    2009年10月

    2009年12月

    2010年2月

    第2-1-2-5図 �アジア主要国・地域の対中国、米国、EU向け輸出の推移

    米国向け

    020406080100120140160180

    1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1

    2008 2009 2010

    (億ドル) ASEAN 10

    中国・香港向け

    EU向け

    資料:World Trade Atlasの中国・香港・米国・EUの輸出入総計から作成。

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1

    2008 2009 2010

    (億ドル) 韓国

    中国・香港向け

    米国向け

    EU向け

    020406080100120140160180

    2008 2009 2010

    (億ドル) 日本

    中国・香港向け

    米国向けEU向け

  • アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み 世界で存在感を高めるアジア 第1節

    通商白書 2010 161

    第2章

    中国で組み立て、欧米等に再輸出するといった加工貿易は、緩やかに回復している。中国国内市場での最終消費が想定される一般貿易(原材料除く)は、2009年2月以降、加工貿易よりも速いスピードで拡大している(第2-1-2-7図)。このように、ASEAN、韓国、日本からの中国向け

    輸出の増加は、欧米向けの加工貿易によるものではなく、中国国内市場での消費が想定される一般貿易の増加が大きく寄与していると考えられる。中国の景気対策の影響からその持続可能性に注視する必要があるものの、中国の内需が拡大しつつあると考えられる。中国では、最終財輸入の急回復を誘導しているの

    は、内陸部の経済成長である。2008年11月から実施されている中国の4兆元の景気刺激策は、主に内陸部

    のインフラ整備を中心に構成されている。2009年の実質GDP成長率は、内陸部の重慶市では前年比14.9%、四川省は同14.5%、陝西省は同13.6%と中国全体の同8.7%を大幅に上回っている(第2-1-2-8図)。一方で、世界経済危機により輸出が大幅に落ち込んだことから、GDPの輸出依存度の高い上海市、浙江省、広東省といった沿海部地域では、内陸部よりも低い成長となっている。さらに、中国の輸出についてみると、アジア新興国の需要回復により、ASEAN・インド向けの最終財の輸出は、2009年8月から前年同月比プラスで推移しており、2009年12月には、同42.7%となっている(第2-1-2-9図)。こうしたアジア新興国向け輸出が拡大する一方で、中国の米国・EU向け輸出は、回復が遅れ

    第2-1-2-6図 �アジアの域内貿易比率の推移

    46

    47

    48

    49

    50

    51

    52

    53

    54

    1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

    2006 2007 2008 2009

    (%)

    備考:アジアとは、ASEAN+6。資料:IMF「Balance of Payments Statistics」、World Trade Atlasから作成。

    第2-1-2-7図 �中国の品目別輸入状況の推移

    0

    50

    100

    150

    200

    250

    300

    2006 2007 2008 2009 2010

    一般貿易(原材料除く)加工貿易

    資料:CEIC Databaseから作成。

    (2006年=100)

    1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3

    第2-1-2-8図 �中国の地域別実質GDP成長率�(2009年)

    16.5

    13.112.412.0

    11.9

    11.7

    10.1

    10.0

    9.58.9

    8.2

    13.6

    13.3

    13.2

    13.1

    12.9

    11.110.7

    5.5

    16.9

    14.9

    14.513.9

    13.6

    12.4

    12.111.611.210.110.0

    8.1

    0

    2

    4

    6

    8

    10

    12

    14

    16

    18

    天津遼寧江蘇福建山東海南北京河北広東浙江上海湖南吉林湖北江西安徽

    黒龍江河南山西

    内蒙古重慶四川広西陝西

    チベット雲南寧夏貴州青海甘粛新彊

    沿岸部 中部 西部

    (%)

    資料:CEIC Database から作成。

    中国全体8.7%

    第2-1-2-9図 �中国の地域別最終財輸出動向

    42.7

    12.9

    1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112

    2008 2009

    ASEAN・インド米国・EU

    -40-30-20-10010203040506070前年同月比(%)

    資料: World Trade Atlasから作成。

  • アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み

    2010 White Paper on International Economy and Trade162

    第 2章 世界で存在感を高めるアジア

    ている。アジア全体の最終財輸出の約6割は日米欧向け 4と

    されており、アジアの最終組立地とされる中国では、輸出総額が2009年12月にようやく前年同期比でプラスに転じるなど、回復に遅れがみられる。アジア経済の本格回復には、日米欧経済の復調が前提となる。しかし、中長期的には、アジア自身が外需のみならず、内需と両立した形で経済成長を実現できるような経済構造への変革が求められるところ、こうしたアジア内需拡大の動きが持続的なものとなることが期待される。

    (4)アジア向け投資の拡大各国政府による資金注入や政府保証による金融安定化策は、金融市場の不透明感を軽減させ、グローバルな資金の流れを回復に向かわせている。アジア向けの対外直接投資や証券投資等も拡大しており、経済危機の直接の影響が小さかったアジア金融市場に資本流入が進んでいる(第2-1-2-10図)。また、韓国ウォンや、インドネシアルピア等、世界経済危機後に大きく下落していたアジア通貨も回復しつつある(第2-1-2-11図)。こうした投資や資金流入がアジア経済の成長の原動力としても期待される一方で、地域によっては不動産価格の上昇等、資産インフレの懸念もみられ、各国の金融政策の動きに注目が集まっている。

    (5)引締めに転じるアジアの金融政策財政支出とあわせて行われてきた金融緩和策の中で、アジア各国の政策金利は引き下げられてきた。し

    かしながら、期待インフレ率の高まりや不動産価格の上昇等の資産インフレの懸念が生じていること、足元では消費者物価が上昇し始めていることなどから、各国で政策金利引上げの動きがみられるなど、出口戦略が模索され始めている(第2-1-2-12図)。アジア主要国における金融政策等の動きは、以下のとおり。

    ①中国中国では、2008年後半から政策金利が引き下げられ金融緩和政策をとってきた。2010年における「マクロ経済政策の基本方針」を決定する2009年12月の中国中央工作会議においても「適度に緩和的な金融政

    第2-1-2-10図 �アジア主要国への証券投資流入額(ネット)の推移

    Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ

    2006 2007 2008 2009

    ASEANインド香港韓国日本

    -2,000

    -1,500

    -1,000

    -500

    0

    500

    1,000

    1,500

    2,000(億ドル)

    備考:ASEANはインドネシア、タイ(2009Ⅰまで)、マレーシア(2008Ⅳまで)、シンガポール(2008Ⅳまで)、フィリピン、ベトナム。インドは2009Ⅰまで。

    資料:IMF「BOP」から作成。

    第2-1-2-11図 �アジア主要国の為替レートの推移

    2007年1月

    2007年3月

    2007年5月

    2007年7月

    2007年9月

    2007年11月

    2008年1月

    2008年3月

    2008年5月

    2008年7月

    2008年9月

    2008年11月

    2009年1月

    2009年3月

    2009年5月

    2009年7月

    2009年9月

    2009年11月

    2010年1月

    2010年3月

    2007年1月

    2007年3月

    2007年5月

    2007年7月

    2007年9月

    2007年11月

    2008年1月

    2008年3月

    2008年5月

    2008年7月

    2008年9月

    2008年11月

    2009年1月

    2009年3月

    2009年5月

    2009年7月

    2009年9月

    2009年11月

    2010年1月

    2010年3月

    資料:Bloombergから作成。

    (年月)

    資料:Bloombergから作成。

    (年月)

    インドネシアルピア102.1

    マレーシアリンギット94.1

    タイバーツ92.0 フィリピンペソ93.2

    ベトナムドン118.8

    (2007年1月1日=100)

    80

    90

    100

    110

    120

    130

    140

    150

    インドネシアルピアマレーシアリンギットタイバーツフィリピンペソベトナムドン

    対ドル為替レート②

    日本円72.3

    中国元87.5

    韓国ウォン122.5

    対ドル為替レート①(2007年1月1日=100)

    60

    80

    100

    120

    140

    160

    180日本円中国元韓国ウォンシンガポールドルインドルピー

    シンガポールドル91.2 インドルピー 102.7

    4 Global Trade Analysis Project(GTAP)DatabaseによりADB試算、2004年。

  • アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み 世界で存在感を高めるアジア 第1節

    通商白書 2010 163

    第2章

    策」を継続する方針を示している。こうしたなかで、中国人民銀行は預金準備率を2010年1月、2月、5月にそれぞれ0.5ポイント引き上げており、政策金利に変化はないものの、段階的な金融引締めの動きがみられる。

    ②韓国韓国銀行(中央銀行)は、2008年10月以降、政策

    金利を過去最低水準の2.0%まで引下げ、その後据え置いている。2009年11月の政策決定会合では、国内の生産が循環のピークに達していることなどから、韓国銀行総裁は「低金利の維持が経済に与える影響は、マイナス面よりプラス面の方が多い」との考えを示し、金融緩和を続けている。また同月には、韓国銀行はインフレ目標上限を3.5%から4.0%に引上げている。

    ③インドインドでは、2008年10月から2009年4月にかけて

    政策金利を引き下げる金融緩和政策を行った。しかし、2009年末以降、食品価格の高騰から物価上昇圧力が強まっており、インド準備銀行は2010年1月に預金準備率を0.75%ポイント引き上げた。また、同年3月、4月には政策金利(レポレート)を2か月連続で0.25%ずつ引上げるなど、金融引締めを進めている。

    ④インドネシアインドネシア中央銀行は、2009年8月に政策金利を

    6.5%に下げた後、消費者物価は、2010年のインフレ目標(4~6%)に沿っているためこの金利を据え置いている。

    ⑤マレーシアマレーシアでは、世界経済の回復と2009年10~12月期以降の国内経済の回復を理由に、2010年3月、5月に政策金利を0.25%ポイントずつ引上げて2.25%とした。インフレは緩やかな上昇にとどまると予測され

    第2-1-2-12図 �アジア主要国の政策金利と消費者物価指数の推移

    ベトナムインドネシア中国インド

    ベトナム8.0

    インド4.8

    資料:Bloombergから作成。

    (年月)4

    6

    8

    10

    12

    14

    16政策金利の推移②政策金利の推移①

    フィリピンマレーシア韓国タイ日本

    フィリピン4.0

    韓国2.0 タイ1.3

    日本0.1

    (年月)

    2008年3月

    2008年4月

    2008年5月

    2008年6月

    2008年7月

    2008年8月

    2008年9月

    2008年10月

    2008年11月

    2008年12月

    2009年1月

    2009年2月

    2009年3月

    2009年4月

    2009年5月

    2009年6月

    2009年7月

    2009年8月

    2009年9月

    2009年10月

    2009年11月

    2009年12月

    2010年1月

    2010年2月

    2010年3月

    2008年1月

    2008年2月

    2008年3月

    2008年4月

    2008年5月

    2008年6月

    2008年7月

    2008年8月

    2008年9月

    2008年10月

    2008年11月

    2008年12月

    2009年1月

    2009年2月

    2009年3月

    2009年4月

    2009年5月

    2009年6月

    2009年7月

    2009年8月

    2009年9月

    2009年10月

    2009年11月

    2009年12月

    2010年1月

    2010年2月

    2010年3月

    資料:Bloombergから作成。

    0

    1

    2

    3

    4

    5

    6

    7(%)

    2007年2月

    2007年4月

    2007年6月

    2007年8月

    2007年10月

    2007年12月

    2008年2月

    2008年4月

    2008年6月

    2008年8月

    2008年10月

    2008年12月

    2009年2月

    2009年4月

    2009年6月

    2009年8月

    2009年10月

    2009年12月

    2010年2月

    2007年2月

    2007年4月

    2007年6月

    2007年8月

    2007年10月

    2007年12月

    2008年2月

    2008年4月

    2008年6月

    2008年8月

    2008年10月

    2008年12月

    2009年2月

    2009年4月

    2009年6月

    2009年8月

    2009年10月

    2009年12月

    2010年2月

    資料:Bloombergから作成。

    (年月)

    資料:Bloombergから作成。

    (年月)

    インドネシア3.8

    インド1.5 中国2.7

    ベトナム8.5

    消費者物価指数の推移②

    インドネシアインド中国ベトナム

    マレーシアフィリピン日本韓国タイ

    (前年比、%) 消費者物価指数の推移① (前年比、%)

    -5

    -3

    -1

    1

    3

    5

    7

    9

    11

    13

    15

    マレーシア1.3

    韓国2.7タイ4.1

    マレーシア2.3

    インドネシア6.5

    中国5.3

    フィリピン4.2

    日本2.6

    -5

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30

  • アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み

    2010 White Paper on International Economy and Trade164

    第 2章 世界で存在感を高めるアジア

    ているものの、海外からの資金流入が拡大しており、今後も小幅な利上げにより徐々に金融政策の正常化を進めていくものとみられる。

    ⑥タイタイ中央銀行は2009年4月に1.25%まで政策金利を下げた後、同金利を維持している。景気減速の懸念は低まったが、世界経済の動向や国内にリスク要因があるとして現行水準が適切と判断している。

    ⑦フィリピンフィリピン中央銀行は、インフレ率は目標域に留まると見込んでいること、徐々に経済回復が進むことが期待されていることから、政策金利を据え置いている。当局は、物価上昇が想定内にあること、内需によ

    る自立成長の兆候が鮮明に現れていないことから、現状の金融政策を維持するとの見解を示している。

    金融引締めに転じるタイミングについては、一般的に、先進国の場合は、GDPギャップ5が大きい間は低インフレ率が続くとみられるため、中央銀行には金融緩和を長期間継続する余裕がある。一方、新興国において、金融緩和が長期化する場合、新興国の高い経済成長を見込んだ海外からの投資資金流入と相まって、資産価格バブルを引き起こすリスクがあるなど、先進国と異なった課題を抱えている。こうしたことから、多くの新興国は先進国よりも早く金融緩和策を終えることが妥当であると指摘されており 6、今後の動きに注視が必要である。

    3 世界で存在感の高まる中国の対外投資(1)中国の対外直接投資の動向①拡大する中国の対外投資中国は、これまで海外からの直接投資を拡大し、海外の資金と技術を国内に取り込み成長を続けてきた。しかし近年は、これまでの成長によって蓄えた資金力・技術力の向上等により中国企業による海外への直接投資の動きが強まっている。世界経済危機の起きた2008年においても、中国の対外直接投資額(フロー)は、559億ドルと2007年の265億ドルから約1.9倍に拡大している(第2-1-3-1図)。対外直接投資の増加の背景には、中長期的な中国の成長に対応し得る資源の確保、2001年末のWTO加盟を契機に拡大し続けている中国の貿易黒字や対内直接投資の拡大に伴う巨額の資金流入によってもたらされる人民元の増価圧力や国内の過剰流動性の高まり、といった国内事情がある。加えて、海外の投資対象資産(株、不動産、資源)の価格が大幅に下落するという投資環境があり、政府・企業に海外進出を一段と積極化する動機付けとなっている。対外直接投資の業種別動向をみると、2003年以降、

    鉱業を中心に対外直接投資が拡大しており、特に資源

    獲得のための国有企業による大型案件が目立っている。2008年末の中国対外直接投資残高の上位企業は、中国石油天然気集団公司(CNPC)や中国石油化工集団公司(SINOPEC)、中国アルミ業公司等、資源関連の国有企業が占めている 7。世界経済危機以降は、海外の投資対象資産の価格の下落を海外企業買収の好機として、技術や経営のノウハウ、ブランド、販売ネットワークなどの取得を目的とする対外直接投資も増加している。

    5 物価の変動には様々な要因が働いているが、基本的には、経済全体の供給力に対して実際にどれだけの総需要が存在するかが、重要な決定要因であると考えることができる。この「経済全体の供給力」と「総需要」の乖離のことを、一般にGDPギャップ(output gap)と呼んでおり、物価変動圧力を評価するための基本的な指標の一つ。

    6 IMF 「World Economic Outlook 2009oct」。7 竹原美佳(2009)「備蓄と資産買収による資源(現物)確保を加速する中国」(石油天然ガス・金属鉱物資源機構Webサイト)。

    第2-1-3-1図 �中国の業種別対外直接投資額(フロー)の推移

    0

    100

    200

    300

    400

    500

    600

    2003 2004 2005 2006 2007 2008

    その他リース・ビジネスサービス卸売・小売業交通・運輸業製造業鉱業金融業

    備考:2005年以前は金融業のデータは含まれていない。資料:CEIC Databaseから作成。

    (億ドル)

    (年)

  • アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み 世界で存在感を高めるアジア 第1節

    通商白書 2010 165

    第2章

    ②拡大する外貨準備を背景に増加する中国の海外投資中国企業の海外進出増加の背景としては、中国経済の発展が前提として挙げられるが、中国個別の事情として、貿易黒字の急増がある。2001年末のWTO加盟に伴い、海外から中国への生産工場の移転が加速し、貿易黒字は2008年まで拡大が続いていた(第2-1-3-2図)。その結果、経常収支の対名目GDP比率は、WTO加盟前の1%台から2008年には10%へ上昇し、我が国を大幅に上回る水準に達している。同時に海外からの対中直接投資の増加等により資本収支の黒字も続いており、国際収支の「双子の黒字」という構造が定着している(第2-1-3-3図)。貿易黒字と資本収支の黒字により、人民元高の圧力が生じるが、中国政府は、雇用の受け皿となる輸出産業等への影響等を考慮し、為替介入により為替レートを安定に保っている。為替介入にあたり、商業銀行が企業から、そして中央銀行が商業銀行から外貨を買い

    取り外貨準備としている。この結果、人民元のマネーサプライは拡大し、国内の流動性拡大によって、不動産・株式等の資産バブルが発生しかねない状況にある。なお、中国は、2006年に日本を上回り、世界一の

    外貨準備保有国となっている(第2-1-3-4図)。外貨取得に関する規制を大幅に緩和する余裕ができたことも大規模な対外投資を可能にさせたといえる。

    ③中国の金融緩和政策が中国企業の対外投資を後押し中国企業の国際展開が進む要因として、中国の金融緩和政策が挙げられる。金融緩和による融資拡大は、中小輸出企業支援が主な目的だが、国有大手企業の資金調達が比較的容易になっており、対外投資活性化の背景となっている。なお、中国の2009年の新規融資額は9.5兆元を超え、政府の年間目標である5兆元を大幅に上回っている(第2-1-3-5図)。資金が不振の輸

    第2-1-3-2図 �中国の貿易収支と対内直接投資

    345 340 442 447

    590

    1,342

    2,177

    3,154

    3,607

    2,495

    384 442 493 471 549 791 781

    1,384 1,478

    782

    0

    500

    1,000

    1,500

    2,000

    2,500

    3,000

    3,500

    4,000

    2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

    貿易収支対内直接投資

    (億ドル)

    (年)

    資料:CEIC Databaseから作成。

    第2-1-3-3図 �我が国と中国の経常収支の対GDP比率の推移

    11.0

    10.0

    4.3 4.8

    3.2

    -6

    -4

    -2

    0

    2

    4

    6

    8

    10

    12

    1980

    1982

    1984

    1986

    1988

    1990

    1992

    1994

    1996

    1998

    2000

    2002

    2004

    2006

    2008

    資料:IMF「World Economic Outlook」から作成。

    (%)

    (年)

    中国日本

    第2-1-3-4図 �中国の外貨準備高の推移

    中国2.39

    日本0.99

    0.0

    0.5

    1.0

    1.5

    2.0

    2.5

    3.0

    2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

    (兆ドル)

    資料:CEIC Databaseから作成。

    (年)

    第2-1-3-5図 �中国の金融機関貸出とマネーサプライの推移

    0.7

    27.2

    25.5

    0.0

    (年・月)

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1.0

    1.2

    1.4

    1.6

    1.8

    2.0

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    30

    35

    40

    1 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2

    2007 2008 2009 2010

    前年同月比(%) (兆元)

    資料:CEIC Databaseから作成。

    金融機関新規貸出(右目盛)金融機関貸出残高マネーサプライ(M2)

  • アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み

    2010 White Paper on International Economy and Trade166

    第 2章 世界で存在感を高めるアジア

    出企業ではなく、不動産や株式への再投資に回り、資産バブルが形成されたとの見方もある 8。

    ④投資を加速させる中国の対外投資政策「走出去」中国の対外直接投資拡大の背景には、経済の拡大に伴うエネルギー資源や素材に対する需要の急増が挙げられる。中国国内の供給だけでは需要を満たせず、供給不足が深刻化しつつある。このため、中国政府は、企業の海外での資源開発への参加、投資、企業買収を奨励し、資源の確保を図ろうとしている。また、国際競争力を持つ多国籍企業の育成にあたって、先進国との技術格差を埋めるためにM&A等の対外直接投資による技術獲得を図っている。中国は先進国との間で技術格差が存在し、技術人材の不足の問題もある。このほか、過剰生産能力の解消や国内市場のグローバル化なども中国の対外直接投資拡大の要因として挙げられるが、これらの問題への打開策として中国政府が打ち出したのが、海外進出を促す「走出去」(Going Out)政策である。中国の対外投資政策の「走出去」は、第10次五か年計画(2001-2005年)で初めて提起され、第11次五か年計画(2006-2010年)にも受け継がれている。また、中国第11期全国人民代表大会第3回会議(2010年3月5日)における2010年の施策方針においても、「走出去」戦略の実施を掲げ、①海外へ生産能力を移転することを奨励、②合併・買収の後押し、海外における資源の互恵協力の深化、③海外工事の請負と海外労働の質的向上、などについて強調している。中国政府はこれまで、税制や融資の優遇措置、各種の審査・認可手続面での簡素化、法制度の整備や外貨使用に関する規制緩和等、対外直接投資拡大に向けた一連の支援策を相次いで発表している。

    (a)税制面での支援企業が対外直接投資で工場を設立し、海外に原材料や部品を持ち込んで加工や組立事業を行い、国内の輸出を増大させる場合は、輸出戻し税の引上げ又は輸出関税の免除等を行っている。

    (b)金融面での支援主に融資、信用保証に関する支援を行っている。例

    えば、海外での原料、部品輸出加工・組立て業務に対する優遇金利の融資や、一部の資源開発プロジェクトに対する金利の全額補助等を行っている。

    (c)認可手続審査手続や申請資料の数を簡素化し、対外投資申請書提出後、特段の問題がなければ、3営業日以内に企業対外投資証書を発給するなどとしている。

    (d)外貨調達中国国家外貨管理局は、2009年6月に国内企業の国

    外貸付に関する外貨管理についての通知を公布し、多国籍企業に限定されていた海外子会社への貸出に対する規制を緩和した。また、2009年7月に対外直接投資における外貨管理規定を公布し、対外直接投資に使用可能な資金の範囲を自己資金のみならず、外貨借入、人民元からの交換外貨、対外直接投資から得た利益などに拡大、対外直接投資に使用する外貨の管理方式を事前審査から事後登録に変更するなどの規制緩和が盛り込まれている。上記以外にも各地方政府が独自の支援策を講じるなど、中国の対外進出にかかる「走出去」政策は様々な支援により推進されている。

    (2)資源確保に向けた中国の取組中国政府は経済の持続的成長を維持するため、エネルギーの安定供給を重視しており、特に資源関連企業の対外直接投資を奨励している。金融危機直後、資源国が資源価格下落で財政が悪化し資金調達に苦しむ中、中国政府は2009年2月にベネズエラ、ロシア、ブラジルと首脳外交を展開し、「融資による原油購入(Loan For Oil)」について合意した。基本スキームは中国国家開発銀行や中国輸出入銀行などの政策銀行を通じて産油国に融資を行い、中国国有石油企業と相手国の国営石油会社との間で石油の長期販売契約を締結し、融資の返済は中国向け原油輸出代金により行うというものである。その後中国は、カザフスタンやトルクメニスタンとも同様の合意を行い、その総額は455億ドルに達している。

    8 竹原美佳(2009)「備蓄と資産買収による資源(現物)確保を加速する中国」(石油天然ガス・金属鉱物資源機構Webサイト)。

  • アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み 世界で存在感を高めるアジア 第1節

    通商白書 2010 167

    第2章

    中国が行った一連の資源国へのLoan For Oil(Gas)(第2-1-3-6表)は、米国債下落や米ドル安に対する懸念が高まる中で、世界最大の米国債保有国であり、世界最大の外貨準備保有国である中国の金融資産運用の多様化に向けた取組の一環ではないかとの見方もある9。一方で、中国の石油輸入量は、1993年の石油純輸入国への転換以降、急拡大しており、2009年には、石油輸入量が国内生産量を上回っている(第2-1-3-7図)。また、石油輸入比率は現在の約50%から2030年には約80%にまで達する見通しとなっている 10。ま

    た、中国は、世界有数の鉄鉱石生産国で、鉄鉱石は大幅増産されているものの、鉄分含有量が低いことから、国内の供給だけでは、需要を満たすことはできずに、輸入にも依存している(第2-1-3-8図)。中国の資源の確保にあたっては、中国における原油や鉱物資源などの備蓄積み増しの動きもある。2001年に全人代で承認された第10次五カ年計画(2001~2005年)において「国家石油備蓄」構築を発表後、政府は備蓄基地建設を3期に分けて進めており、国家石油備蓄基地1期 114基地(貯蔵容量合計:1,640万kL

    第2-1-3-6表 �金融危機後の中国の主なLoan�for�Oil(Gas)

    産油国 合意時期 融資銀行 融資契約、融資先、融資額 長期供給契約 その他

    ベネズエラ 2009年2月 国家開発銀行 中国とベネズエラの「共同投資基金」への拠出額を40億→80億ドルに

    原油購入契約ベネズエラ:PDVSA中国:CNPC数量:8万~20万b/d

    CNPC、PDVSAと共同で重質油開発、成熟5油田の埋蔵量評価等で合意

    ロシア 2009年2月 国家開発銀行Rosnest:150億ドルTransneft:100億ドル融資額計:250億ドル

    原油購入契約ロシア:Rosneft中国:CNPC

    (2011~30年:30万b/d)

    CNPCはTransneftと太平洋原油パイプライン中国向け(大慶)支線建設、運営について合意

    ブラジル 2009年2月 国家開発銀行

    Petrobras:100億ドル国立経済社会開発銀行(BNDES):8億ドル融資額計:108億ドル

    原油購入契約ブラジル:Petrobras中国:Sinopec

    (2009年:15万b/d、2010~19年:20万b/d)

    SinopecはPetrobrasとブラジル沖合2探鉱鉱区権益付与で交渉中

    カザフスタン 2009年4月 中国輸出入銀行 融資:17億ドル

    共同資産買収カザフスタン:Kazmunaigaz中国:CNPC

    (CNPCがKazmunaigazに33億ドル支払い、Mangistaumunaigasの所有権49%を取得)

    トルクメニスタン 2009年6月 国家開発銀行 融資:40億ドル

    天然ガス購入契約トルクメニスタン:Turkmengas中国:CNPC

    (2010~30年:最大400億m3/年)

    エクアドル 2009年7月 国家開発銀行 融資:10億ドル 原油購入契約(2年間、10万b/d) −

    資料:竹原美佳(2009)「ドルから資源へ、金融危機後の中国における石油資源確保の動き」から作成。

    第2-1-3-7図 �中国の石油需給の推移

    0.0

    0.5

    1.0

    1.5

    2.0

    2.5

    3.0

    3.5

    4.0

    2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

    石油生産石油輸入石油輸出石油消費

    (億トン)

    資料:CEIC Databaseから作成。

    (年)

    第2-1-3-8図 �中国の鉄鉱石需給の推移

    粗鋼生産鉄鉱石生産鉄鉱石輸入

    012345678910(億トン)

    資料:CEIC Databaseから作成。2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009(年)

    9 中国は保有する米国債について短期債(1年以内に償還)の比率を2008年8月末の3%から2009年5月末には26%に高めたとも報じられている。

    10 IEA(2009)「World Energy Outlook 2009」。11 2020年までに7,000万kL(4億4000万バレル)の備蓄を構築する計画である。(竹原美佳「中国:国家石油備蓄の現状と見通し」)

  • アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み

    2010 White Paper on International Economy and Trade168

    第 2章 世界で存在感を高めるアジア

    (約1億300万バレル))は現在全ての備蓄が完了している。2009年6月には、2015年までに300億元(約44億ドル)で、8基地(貯蔵容量2,680万kL(約1.68億バレル))を建設するという2期国家石油備蓄計画が公表されている。また、鉱物資源については、中国国土資源部が全国鉱産資源計画(2008~2015年)を2009年1月に公表し、銅、クロム、マンガン、タングステン、希土類金属の戦略備蓄を進める方針としている。さらに、2008年の中国の原油輸入量は約360万バレル/日(約50万トン/日)であり(第2-1-3-9図)、そのうち約8割がマラッカ海峡を経由する輸入となっているが、喫水の深いVLCC(大型タンカー)の通行の安全性等も考慮して、中国政府はエネルギーの安定供給という観点から、ロシア・カザフスタンからの陸路(パイプライン・鉄道)による石油調達多様化構想も進めている。

    (3)海外の技術とブランドの獲得を進める中国企業のグローバル戦略また、先進国に対する中国の対外直接投資の特徴として、技術や経営のノウハウ、ブランド、販売ネットワークなどの取得を目的としている点が挙げられる。

    2000年以降、中国メーカーは技術とブランドを確保するため、先進国の大企業に対するM&Aを増加させている(第2-1-3-10表)。2004年には、パソコンメーカーのレノボによる IBMのパソコン事業、電機メーカーTCLによるフランス企業のテレビ・携帯電話事業と大型買収が相次ぎ、世界的に注目を集めた。しかし、進出先の労働者保護、法規制等に適応するのは容易でなく、海外事業の不振からグループ全体の業

    績が悪化する事態や、投資先の政府認可が下りない場合もあるなど、中国メーカーの海外進出は一部見直しが余儀なくされる事態も生じている。世界経済危機後は、海外の投資対象資産の価格の下落により、再び海外企業買収の機運が高まっている。特に自動車業界の動きが目立っており、吉利汽車はオーストラリアの自動車部品メーカー買収に続き、フォード・モーター参加のボルボ(スウェーデン)買収で調印した。

    (4)動き出した中国政府系ファンド①中国投資有限公司(CIC)の設立世界一の規模を誇る中国の外貨準備は、中国国家外貨管理局により安全性や流動性を前提に、主に米国債に投資されていたが、為替リスクの高まりなどから、運用先の多様化等を目的として、2007年9月に資本2000億ドルの政府系ファンド(SWF:Sovereign Wealth Fund)である中国投資有限公社(CIC)が設立された(第2-1-3-11表)。CICは、企業の対外投資への支援等も目的としている。

    第2-1-3-9図 �中国の原油輸入国�(重量ベース、2009年)

    サウジアラビア20%

    アンゴラ16%

    オマーン6%

    イラク4%

    クウェート3%

    リビア3%

    カザフスタン3%

    ベネズエラ3%

    その他17%

    イラン11%ロシア

    7%

    資料:World Trade Atlasから作成。

    スーダン6%

    第2-1-3-10表 中国の近年の投資案件

    時期 概要

    2004年

    TLCはフランスのトムソンと合弁でTCLトムソン電子有限公司を設立、両者のテレビ、DVD製造部門を統合。新会社の資産規模は4.3億ユーロでTCLが株式の67%を保有。2004年10月にTCLはフランスの通信大手アルカテルと携帯電話事業の合弁会社を設立、新会社の資本金は1億ユーロ

    (約130億円)で、TCLが株式の55%を握った。2005年5月に合弁解消。上海汽車は、韓国の自動車メーカー双竜の株式48.92%を5億7,400万ドルで取得したが、双竜は2009年に経営破綻。レノボはIBMのパソコン部門買収を発表。連想は現金と株式を合わせて合計12億5000万ドルを支払うほか、約5億ドルとされる同事業部門の負債を引き継ぎ、投資総額は約17億5000万ドル。

    2005年

    南京汽車は、英国のMGローパーを推5,000万ポンドで買収。ハイアールは、米家電メーカー、メイタグを約13億ドルでの買収を図ったが、米ワールプールが高値を提示したため断念。結局、ワールプールが27億ドルで買収。

    2008年

    華為は米投資会社ベイン・キャピタル・パートナーズと共同で米通信機器メーカー、スリーコムの買収を図るも、米政府の許可が下りず、断念。鉄道車両用電子部品メーカー、株州南車時代電気はカナダの半導体メーカー、ダイネックス・パワー株75%を1,672万カナダドルで買収。

    2009年

    首鋼集団や自動車部品の天宝集団などが出資する北京京西重工は米自動車部品大手デルファイのブレーキとサスペンション事業を買収。ハイアールはニュージーランドの家電メーカー、フィッシャー・アンド・パイケルに約5,000万ドルを投資、20%の株式取得。吉利汽車はオーストラリアの自動車部品メーカーDSIを7,000万豪ドルで買収。重機メーカー、四川騰中重工機械は米GMからの大型スポーツ多目的車「ハマー」部門の買収で暫定合意。

    資料:三菱東京UJF銀行経済調査室「経済レビューNo2009-20」から作成。

  • アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み 世界で存在感を高めるアジア 第1節

    通商白書 2010 169

    第2章

    CICは、「政企分離」(政府と企業の分離)、「自主経営」、「商業目的」を目指しており、会社法に基づき設立された有限会社であるが、取締役会等の構成メンバーはすべて政府高官となっている。

    CICの投資戦略は、①資本市場のポートフォリオ投資、②海外のエネルギー・原材料などの戦略投資、③中国企業の海外M&A戦略への支援等であると提言されているが、投資政策はいまだに明確にされておらず、政府の戦略の実施ではないかと先進国を中心に海外から警戒されている。

    CIC設立前の2007年5月の投資ではあるが、米国最大のプライベートエクイティファンドのブラックストーンへの投資は、議決権無し、売却禁止期間4年という条件で30億ドルの投資(出資比率10%)であった。ブラックストーンの成長性等を見込んだ純粋な財務投資で米国の反発はなかったが、ブラックストーンの株価下落に伴う大きな評価損などで中国国内の批判は高まっている。最近では、米国の金融機関が抱える不良資産の買上げへの参加など、資源確保中心であった中国の対外直接投資が金融業等様々な分野に展開されている。

    ②世界から警戒される中国のSWF2007年頃から中東やシンガポールのSWFがメリル

    リンチなどに大規模な株式投資を実施したことなどからSWFに対する注目が世界的に高まった(第2-1-3-12表)。世界で最も古いSWFであるクウェートのクウェート投資庁は55年の歴史があるのに対して、中国のCICは設立から新しい。中国CICの運用資産は2,000億ドル(資本金)で、アブダビ投資庁の6,250億ドルの3

    分の1にも満たないものの、米議会の諮問機関である「米中経済安全審査委員会」は、中国の共産党一党独裁体制やCICの運営制度整備の遅れ、投資方針や投資行動が検証できない点を懸念しており、2008年2月に主に中国SWFを対象にした「SWF投資の国家安全に与えるインパクトに関する公聴会」を開催している。

    ③巨額の資金と政府による経営介入が懸念されるSWFIMF12によれば、世界の外貨準備総額5.6兆ドルに加えて、SWFの総額は1.9~2.9兆ドルとすでにヘッジファンド(1兆~1.5兆ドル)を上回っており、新興国を中心として今後も年間8,000~9,000億ドルの外貨資産が累積していくと予想されている。SWFはグローバル・インバランスを背景の一つとして、産油国を中心とした資源国や新興アジア諸国に富(外貨)が蓄積されたことをきっかけに生まれ、その富を再び世界に還流させる働きを担っているが、いくつかの潜在的な問題を生むことが懸念されている。一つは、SWFにおける投資運用の不透明性である。一部の例外を除いて、SWFの投資規模や内容等に関する情報はほとんど開示されておらず、SWFの投資を巡る思惑が市場の価格変動を増大させる懸念もある。また、あくまでも政府機関であるSWFが、投資を通じて企業経営に多大な影響を持つことも懸念される。SWFが投資先に対して、自国企業に有利になるような影響力を行使するほか、被投資国の安全保障が脅かされる可能性も指摘されている。こうしたことから IMF13では、SWFが独自に行動規範を定め、その投資の透明度を高めるよう促している。

    第2-1-3-11表 中国SWFによる投資案件

    投資時期 投資先名 投資分野 投資金額2007年 5月22日 Blackstone PEファンド 30億米ドル2007年11月28日 China Railway 鉄道 1億米ドル2007年 3月19日 Visa 金融 2億米ドル2008年10月16日 Blackstone PEファンド 2.5億米ドル

    ― Tesco 小売 ―2009年 6月16日 Goodman REIT 2億豪ドル2009年 7月 3日 Teck Resources 資源 15億米ドル2009年 7月17日 BBMG 不動産 2,500万米ドル2009年 7月17日 CITIC Capital PEファンド 20億香港ドル2009年 7月22日 Diageo 酒類 2.21億ポンド2009年 9月22日 ノーブル 商社 8.5億米ドル2009年 9月23日 ブミ 資源 27.5億米ドル

    資料:大和総研資料を基に各種報道から作成。

    第2-1-3-12表 世界の主なSWF

    国 名称 規模(億ドル) 財源

    アブダビ首長国 アブダビ投資庁 8,750 原油ノルウェー 政府年金基金 3,580 原油サウジアラビア サウジアラビア通貨庁 3,200 原油クウェート クウェート投資庁 2,500 原油中国 中国投資有限責任公司 2,000 外貨準備ロシア 準備基金 1,200 原油香港 香港通貨管理局投資ポートフォリオ 1,100 外貨準備シンガポール テマセク・ホールディングス 1,080 財政余剰金シンガポール シンガポール政府投資公社 1,000 外貨準備カタール カタール投資庁 700 天然ガス

    資料:日経BP社(2008)『政府系ファンド入門』日経BP出版センターから作成。

    12 「Global Financial Stability Report, Oct.2007」による。13 国際通貨基金(IMF)の国際通貨金融委員会(IMFC)は2008年10月11日、SWF国際作業委員会(IWG)が提出した行動規範「Generally Accepted Principles and Practices(GAPP)―Santiago Principles」を了承した。