標本剥製の作製(鳥類) - huscap...ノ...

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Instructions for use Title 標本剥製の作製(鳥類) Author(s) 市川, 秀雄 Citation 北海道大学大学院農学研究科・農学部技術部研究・技術報告, 8, 20-25 Issue Date 2001-03 Doc URL http://hdl.handle.net/2115/35411 Type bulletin (article) Note 研究・技術発表 File Information 8_p20-25.pdf Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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Page 1: 標本剥製の作製(鳥類) - HUSCAP...ノ ので、各研究機関・博物館等に保管されている。作製方法についての文献は飯島魁「鳥類の採集及び剥製J(動物学雑誌・1888

Instructions for use

Title 標本剥製の作製(鳥類)

Author(s) 市川, 秀雄

Citation 北海道大学大学院農学研究科・農学部技術部研究・技術報告, 8, 20-25

Issue Date 2001-03

Doc URL http://hdl.handle.net/2115/35411

Type bulletin (article)

Note 研究・技術発表

File Information 8_p20-25.pdf

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

Page 2: 標本剥製の作製(鳥類) - HUSCAP...ノ ので、各研究機関・博物館等に保管されている。作製方法についての文献は飯島魁「鳥類の採集及び剥製J(動物学雑誌・1888

<研究・技術発表>

1.はじめに

標本剥製の作製(鳥類)

博物館市川秀雄

(環境・飼育系 植物管理班)

科学では、いろいろな法則で分類体系の提唱が行われている。それらはでき

るだけ多くの事例や標本を集め、研究を重ねることで基準が決められていく。

動物学における自然史研究(博物館学)も、動物の多様性を踏まえた標本を各

種ごとに数多く集めなくては研究そのものがはじまらない。ここでは生きた標

本よりも生命を断たれた標本を研究の対象とすることが多く、長い年月に渡り、

広く、多くの標本を収集・保存していくことが重要になってくる。これらの標

本は正確なデータのもとに半永久的なものを作る必要があり、 高い技術力で作

製することが要求される。

2.剥製標本について

日本の剥製の歴史は新しく、明治初年頃からと伝えられている。欧米の博物

学に関心のある人たち(シーボルト (1796-1866)、ブラキストン (1832・1891)

など)が日本に来るようになってからのようである。彼らが残した日本産動物

標本のなかにはタイプ標本もあり大英博物館などで現在も手厚く保管されてい

る。

動物の剥製には本剥製標本・標本剥製標本がある。本剥製標本は義眼を入れ

生態そのままに作られているもので、個人の観賞用・学校教材、また一般社会

教育の場である博物館などで使われていて、製作には芸術的素養が要求される。

標本剥製は専門的な学術上の資料とし、保存することを目的として作られたも

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ので、各研究機関・博物館等に保管されている。

作製方法についての文献は飯島魁「鳥類の採集及び剥製J(動物学雑誌・1888

年)、内田清之助 「鳥類標本採集製作法J (脊権動物体系・ 1937年)、橋本太

郎「動物剥製の手引きJ (北隆館・ 1956年)など、約 30冊ほど知られているが、

明治から現在に至るまで機材、薬品等の質さえ違うだけで製法的にはなんら変

わりのないものといえよう。

3.製作の準備

(1) 道具

メス・ハサミ・ピンセe ット等の解剖用具、脱脂綿・木綿・糸・縫い針・リバ

イダー・スケール・秤・筆記具・防腐剤(四ほう酸ナトリウム) ・エタノール・

タオル・古新聞・水

(2) 材料鳥の扱い

材料の鳥は新鮮で無傷のものが良い。汚れや傷がある場合はできるだけ取り

除く。土の汚れは水につけて軽くもみ落とし、血痕は脱脂綿に水をしたしめ軽

く絞り血痕の上に置き吸い取る。口・紅門には脱脂綿を詰め汚物が出ないよう

にしておく。濡れた羽毛は完全に乾かしてから剥皮をおこなう。

(3) 記録と計測

記録は採集地・採集年月日(西暦) ・採集者・和名(カタカナ) ・学名・英

名・性別、その他の記録として死亡の原因・食性等がわかれば記入しておく。

また、虹彩・脚・鳴の色も時間が経つと抜けてくるので新鮮なうちに記録して

おくとよい。計測値は全長 (mm) ・翼長 (mm) ・尾長 (mm) ・噴峰長 (mm)

ふ瞭長 (mm) と体重 (g) をはかりラベルに記入する。

4.剥皮と除肉の手JII買(胸剥ぎ)

(1)鳥の腹部を竜骨突起に沿ってメスを用いて切開し、皮をつまんで体側半ば

まで剥ぐ。左右同じ行程で行い聞に紙などをはさんで羽毛を汚さないようにす

る(写真 1)。

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(2)全体を首の方に 々

持ち上げ首の付け根

をだし、頚椎を気

管・食道とともに鋼

部より切り離す。切

り口には出血を防ぐ

ため脱脂綿をあてる。

(3)左右の上腕骨の 写真 1.胸部の切開

関節を肩からはずし、

背部の皮を腰まで剥ぐが、腰部は皮が薄く骨盤に密着しているため爪でこそぐ

ようにして剥ぐ。大腿骨を胴部側につけた状態で膝関節から切り離す。左右同

じ行程で行う。

(4)直腸は紅門の内側で切る。尾は尾端骨を挟むように付いているので尾の羽

軸を切らないように、また尾羽の付け根には油壷があるので皮を切らないよう

に取り除く。

(5)翼の剥皮と除肉は、上腕骨を持ち皮を反転しながら手首関節まで剥ぐ。次

列風切りは尺骨に癒着しているため、羽軸を 1本づつはずすようにする。尺骨

の肉付きをスケッチしてから筋肉・靭帯などを取り除き皮を戻す。左右同じ行

程で行う。

(6)脚の剥皮と除肉は、膝関節部をつまみ上げ皮を反転させながらかかと関節

の毛の生え際まで剥ぐ。肉付きをスケッチしてから筋肉・靭帯などを取り除い

て皮を戻す。皮膚の露出しているかかと関節から下は、足底を切開して先の尖

ったものでふ際部の臆を引き出すことができる。左右同じ行程で行う。

(7)頭部の剥皮と除肉は、頚部を持ち皮を反転させながら後頭部まで剥ぐ。耳

は外耳道の薄膜が頭骨内に入っているのでピンセットで引き出す。眼は眼球に

接して険を切らないようにする。皮は鳴の生え際まで剥ぐことができ、舌・頚

骨はハサミで切りとる。後頭部を広く切り脳を取り出す。眼球をピンセットで

とりだし、頭部の細かなところの肉もできる限り取り除く。

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以上で剥皮は完了するが、羽毛を汚したり除肉をしっかり行っていなければ

虫害の原因を引き起こすので、除肉はもちろんであるが剥皮した皮の裏側に付

いている靭帯,脂肪もできる限り取り除いておく。また脂肪や血のついた手の

汚れもこまめに落としておくことが大切である。

5.翼 ・脚・胴芯の作製と入れ方

(1) 翼の尺骨は防腐

剤を塗り、元の肉付き

と同じように脱脂綿

を巻いて糸でとめる。

このとき糸を長めに

とっておく。これは胴

芯を入れるとき翼の

正確な位置とその後

の破損を防ぐため で

ある。

(2) 脚の腔部は防腐

剤を塗り、元の肉付き写真 2.翼部・脚部・胴芯の作製

と同じように脱脂綿を巻いて糸でとめる(写真 2) 。

(3)取り出された胴部・頚部と同じサイズかやや小さめに、綿または木綿を糸

で巻き胴芯を作る。

(4)胴芯の入れ方は、皮全体に防腐剤を塗り、後頭部に胴芯の頚部を差し込み、

針と糸を用いて頭骨に固定する。綿を丸めて眼球の位置に入れ、頭部の皮を元

に戻して頚芯部にかぶせる。両翼の糸を胴芯の肩幅に合わせて結び胴芯を入れ

る。この時皮全体を下腹部へ下げておくと胴芯が入りやすい。

(5)全体の位置を修正し、縫合は腹部から千鳥掛けに羽毛を巻き込まないよう

に浅く縫い上げる。

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6.仕上げと乾燥

(1)皮膚の露出している部分また翼の指骨部の皮の剥げないところは、直接エ

タノールを塗るか注射器で注入して防腐を完全にする。

(2)脚はクロスして縛り、全体の羽毛を整えてバンドをする。

(3)記録ラベルを結ぶ。

(4)風通しのよい日陰で十分に乾燥させる。

写真3.仕上げ

7.標本の管理

作製時に薬品を使い防腐・防虫の処理をしても、保管の状態が充分でなけれ

ば虫害やカビによる被害を受けやすい。これらの対応には殺虫剤による薫蒸・

加熱処理・冷凍処理等があり、いずれも比較的手軽に行える。またケース内に

はナフタリン等を入れるなどの管理が必要である。標本庫は密閉度が高く薫蒸

ができ、温度・湿度の管理もできる特別な施設が必要になってくる。

8.おわりに

一般に野外で死んだ鳥を採取した場合、その管轄支庁のたとえば自然保護課

なと、に届け出る規則になっている。当館では調査または研究資料として保存す

る主旨を支庁長に伝え、寄贈していただくことにしていて年間数羽が持ち込ま

れる。これらの中には希少なものも含まれていることがある。また実習などに

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活用して標本の重要性を理解してもらっている。

標本語j製は丁寧に作ることは勿論であるが、標本は長く繰り返し研究の基盤

材として利用されるため、計測データのもと正しく作ることが重要である。ま

た、標本は情報公開のもと広く活用してもらうことも大切で、このことによっ

て標本の価値が高まっていくし、標本はそういった性格のものであると思って

いる。

参考文献

飯島 魁

橋本太郎

鳥類の採集及び剥製 動物学雑誌 (1888)

動物剥製の手引き 北隆館 (1956)

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