「チーム」で勝ち 抜くゴルフ 個人競技のゴルフでチームとし …東 14...

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14 松山英樹プロをはじめ、名だたる選手を輩出している 東北福祉大学ゴルフ部。男女合わせて41回の団体戦 優勝を誇り、2018年には創部30周年を迎える。 日本屈指の強豪校を率いる阿部監督は、本来個人競技 であるゴルフの団体スポーツとしての側面を重視し、 選手にとって土台となる「人としての成長」にも注力 している。 個人競技のゴルフでチームとして戦う 東北福祉大学ゴルフ部は1989年にゴルフサークル としてゼロから発足した。27歳のとき、軟式野球部 と監督を兼任することになったが、私自身にはそれ までゴルフの技術指導の経験はなかった。そんな自 分に何ができるか考えた末に出した結論が、プレー ヤー、そして指導者として長年携わってきた野球で 培った団体スポーツの知識・経験を個人競技のゴル フに取り入れて生かすこと。ゴルフは確かに個人競 技であり、一人で練習に励み技術を磨くことはでき る。しかし、大学のゴルフ部はチームであり、学生 スポーツである以上団体競技として、団結を大事に したいと考えた。 基本的に練習は技術レベルに関係なく全員で取り 組む。週に3日、最初に全員参加のミーティングを 行いその後にそれぞれ打球練習やラウンドと分かれ るが、練習時間中、選手は皆同じ空間で過ごす。ま た、選手は入学から卒業まで原則全員寮生活となる。 練習時だけでなく、一つ屋根の下で寝食を共にして 共同生活を送ることで団結力も深まっていく。 こうして育まれた関係性はOBと在学生のつなが りにも影響している。現在、ゴルフ部の選手はOBで ある現役プロ選手と宿泊先も共にして一緒にラウン ドを回る機会がある。自分はチームの一人であると いうことを常に意識して過ごす4年間の経験を通じ て、卒業後も先輩が後輩を支える文化が作られて きた。 ゴルフ部は「人間形成の場」 自分が将来どんな道を歩むか見極めながら、人と して成長していく。ゴルフ部はそのような「人間形 成の場」だと考えている。ゴルフでもルールやマナー を守るのは大切なこと。学生として、人として、今 すべきことを教えるのが自分たちの役目だととらえ ている。 選手は大学外の施設では、必ずユニフォームを着 て練習する。私服のTシャツなどは禁止。遠征の際 も寮を出たときから宿泊先の部屋に入るまではブレ ザー、ネクタイ着用の正装を義務付けている。周囲 から見たときに一目で所属が分かる服装をすること で、東北福祉大ゴルフ部の一員であるという自覚を 持ち、意識が変わり自分の行動にも責任を持つよう になる。 また、幅広い経験を積むことも大切だと伝えてい る。ゴルフだけをやっていても成功しない。例えば テニスや卓球など他のスポーツを体験することで体 の使い方がもっと分かるようになる。寮で共同生活 「チーム」 で勝ち 人間形成重視 平成 29 年度 第 54 回全国大学ゴルフ対抗戦・ 40 回全国大学女子ゴルフ対抗戦 男女アベック優勝 15 をすることでチームメイトと学年を超えて話す機会 も多くなる。さまざまなことを互いに話し、聞くこ とで人間として豊かになっていく。 活動を支えてくれる方々への感謝 大学時代の濃密な4年間を過ごす地元、仙台に対 する選手らの思いも深い。2011年、東日本大震災が 起こったとき、当時在学中の松山(松山英樹プロ) は初出場のマスターズを控え、われわれはオースト ラリアで直前合宿中だった。帰国後、被災地を目の 当たりにして「果たしてこの状況で出場するべきな のか、できるのか」迷っていたところ、「松山選手の 活躍する姿が見たい、ぜひ出場してがんばってほし い」という声がメールや電話で全国から届いた。そ して最終的に学長や部長と相談のうえ出場を決意し、 松山は初めてのマスターズを戦い抜いた。あれは彼 にとっても転機となる試合だったと思う。 われわれの活動は全国、そして地元の方々の応援 やバックアップなしでは決して成り立たない。私自 身も卒業生として、今後も地域に貢献して恩返しを していきたい。 当部では入部者を選考する制度、いわゆるセレク ションがない。そのため、毎年さまざまな学生が 入ってくる。これまで何百人もの卒業生を出してき 相手の個性を見極め、自分自身も 成長する たが、もちろん全員人柄やものの考え方が違う。一 人一人と向き合ってしっかりと話し合い、それぞれ の個性を見極めることが重要となる。接する学生の 年齢層はいつも同じ。しかし、それ以外の部分はす べてが違うし、一人として同じ人間はいない。時代 も常に変化していくので、自分自身も選手とともに 成長していかなくてはならない。ずっと同じことを していたのではここまでの継続はきっとなかっただ ろう。 社会で活躍できる人材の育成 少子化が進む現在、700以上ある大学のうち約4 割が定員割れとなる事態が起きている。そのような 現状のなか、東北福祉大がこれからも存続していく ためどう盛り上げていくか考え試行錯誤し、人間形 成の場・教育の場としてのゴルフ部を維持していく と同時に、社会で活躍できる人材を育てていく意義 を強く感じる。 抜くゴルフ   の選手育成  東北福祉大学 ゴルフ部 監督 阿部 靖彦 (あべ・やすひこ) 1962年、秋田県生まれ。 秋田県立大曲農業高等学校、東北福祉大学と野球部に 所属。大学卒業後、東北福祉大学軟式野球部監督に就 任。1989年、新設されたゴルフ部監督を兼任。星野英 正、谷原秀人、宮里優作、池田勇太、松山英樹らプロ 選手を輩出。 現在、東北福祉大学理事、総務部長、硬式野球部副部 長(GM)。 東北福祉大学 宮城県仙台市青葉区国見1-8-1 https://www.tfu.ac.jp/ 在学中の松山英樹選手、三井住友 VISA 太平洋マスターズ アマチュア優勝( 2011

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Page 1: 「チーム」で勝ち 抜くゴルフ 個人競技のゴルフでチームとし …東 14 松山英樹プロをはじめ、名だたる選手を輩出している 東北福祉大学ゴルフ部。男女合わせて41回の団体戦

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 松山英樹プロをはじめ、名だたる選手を輩出している

東北福祉大学ゴルフ部。男女合わせて41回の団体戦

優勝を誇り、2018年には創部30周年を迎える。

 日本屈指の強豪校を率いる阿部監督は、本来個人競技

であるゴルフの団体スポーツとしての側面を重視し、

選手にとって土台となる「人としての成長」にも注力

している。

個人競技のゴルフでチームとして戦う 東北福祉大学ゴルフ部は1989年にゴルフサークルとしてゼロから発足した。27歳のとき、軟式野球部と監督を兼任することになったが、私自身にはそれまでゴルフの技術指導の経験はなかった。そんな自分に何ができるか考えた末に出した結論が、プレーヤー、そして指導者として長年携わってきた野球で培った団体スポーツの知識・経験を個人競技のゴルフに取り入れて生かすこと。ゴルフは確かに個人競技であり、一人で練習に励み技術を磨くことはできる。しかし、大学のゴルフ部はチームであり、学生スポーツである以上団体競技として、団結を大事にしたいと考えた。 基本的に練習は技術レベルに関係なく全員で取り組む。週に3日、最初に全員参加のミーティングを行いその後にそれぞれ打球練習やラウンドと分かれるが、練習時間中、選手は皆同じ空間で過ごす。また、選手は入学から卒業まで原則全員寮生活となる。練習時だけでなく、一つ屋根の下で寝食を共にして

共同生活を送ることで団結力も深まっていく。 こうして育まれた関係性はOBと在学生のつながりにも影響している。現在、ゴルフ部の選手はOBである現役プロ選手と宿泊先も共にして一緒にラウンドを回る機会がある。自分はチームの一人であるということを常に意識して過ごす4年間の経験を通じて、卒業後も先輩が後輩を支える文化が作られて きた。

ゴルフ部は「人間形成の場」  自分が将来どんな道を歩むか見極めながら、人として成長していく。ゴルフ部はそのような「人間形成の場」だと考えている。ゴルフでもルールやマナーを守るのは大切なこと。学生として、人として、今すべきことを教えるのが自分たちの役目だととらえている。 選手は大学外の施設では、必ずユニフォームを着て練習する。私服のTシャツなどは禁止。遠征の際も寮を出たときから宿泊先の部屋に入るまではブレザー、ネクタイ着用の正装を義務付けている。周囲から見たときに一目で所属が分かる服装をすることで、東北福祉大ゴルフ部の一員であるという自覚を持ち、意識が変わり自分の行動にも責任を持つようになる。 また、幅広い経験を積むことも大切だと伝えている。ゴルフだけをやっていても成功しない。例えばテニスや卓球など他のスポーツを体験することで体の使い方がもっと分かるようになる。寮で共同生活

「チーム」 で勝ち 人間形成重視

平成29年度 第54回全国大学ゴルフ対抗戦・第40回全国大学女子ゴルフ対抗戦 男女アベック優勝

15

をすることでチームメイトと学年を超えて話す機会も多くなる。さまざまなことを互いに話し、聞くことで人間として豊かになっていく。

活動を支えてくれる方々への感謝  大学時代の濃密な4年間を過ごす地元、仙台に対する選手らの思いも深い。2011年、東日本大震災が起こったとき、当時在学中の松山(松山英樹プロ)は初出場のマスターズを控え、われわれはオーストラリアで直前合宿中だった。帰国後、被災地を目の当たりにして「果たしてこの状況で出場するべきなのか、できるのか」迷っていたところ、「松山選手の活躍する姿が見たい、ぜひ出場してがんばってほしい」という声がメールや電話で全国から届いた。そして最終的に学長や部長と相談のうえ出場を決意し、松山は初めてのマスターズを戦い抜いた。あれは彼にとっても転機となる試合だったと思う。 われわれの活動は全国、そして地元の方々の応援やバックアップなしでは決して成り立たない。私自身も卒業生として、今後も地域に貢献して恩返しをしていきたい。

 当部では入部者を選考する制度、いわゆるセレクションがない。そのため、毎年さまざまな学生が 入ってくる。これまで何百人もの卒業生を出してき

相手の個性を見極め、自分自身も成長する

たが、もちろん全員人柄やものの考え方が違う。一人一人と向き合ってしっかりと話し合い、それぞれの個性を見極めることが重要となる。接する学生の年齢層はいつも同じ。しかし、それ以外の部分はすべてが違うし、一人として同じ人間はいない。時代も常に変化していくので、自分自身も選手とともに成長していかなくてはならない。ずっと同じことをしていたのではここまでの継続はきっとなかっただろう。

社会で活躍できる人材の育成  少子化が進む現在、700以上ある大学のうち約4 割が定員割れとなる事態が起きている。そのような現状のなか、東北福祉大がこれからも存続していくためどう盛り上げていくか考え試行錯誤し、人間形成の場・教育の場としてのゴルフ部を維持していくと同時に、社会で活躍できる人材を育てていく意義を強く感じる。

抜くゴルフ   の選手育成 

東北福祉大学 ゴルフ部 監督

阿部 靖彦(あべ・やすひこ)1962年、秋田県生まれ。秋田県立大曲農業高等学校、東北福祉大学と野球部に所属。大学卒業後、東北福祉大学軟式野球部監督に就任。1989年、新設されたゴルフ部監督を兼任。星野英正、谷原秀人、宮里優作、池田勇太、松山英樹らプロ選手を輩出。現在、東北福祉大学理事、総務部長、硬式野球部副部長(GM)。

東北福祉大学宮城県仙台市青葉区国見1-8-1https://www.tfu.ac.jp/

在学中の松山英樹選手、三井住友VISA太平洋マスターズアマチュア優勝(2011)