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「ネットワーク工学(第 2 版)」

サンプルページ

この本の定価・判型などは,以下の URL からご覧いただけます.

http://www.morikita.co.jp/books/mid/082892

※このサンプルページの内容は,第 2版発行当時のものです.

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初版が発行されてから,ちょうど 10年が経った.進歩に早い IPネットワークにおいては,10年を経つと無視できない新しい技術が登場する.そこで,本書を改版することとした.改版の主なポイントは,次のとおりである.

(1)10年間に登場したネットワーク技術を盛り込んだ.1.6節NGN(次世代情報通信ネットワーク),5.3.4節 40/100 Gbpsイーサネット,11章ソフトウェア定義ネットワーク(SDN)などである.

(2)6.4節 IPv6では,説明内容を充実させるとともに,IPv6ネットワークでの最新動向を紹介した.

(3)わかりにくいと思われる箇所を,箇条書きにするなどわかりやすくする見直しをした.本書が,将来ネットワークビジネスで活躍することを希望する,学生や若手社員の入門として利用されることを願います.

2014年 3月村上 泰司

改版にあたって

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ii まえがき

まえがき

1880年に東京 ─ 横浜間において,加入者数約 200と少ないながら,電話サービスが日本で初めて開始された.それから 1世紀のうちに加入者数は約 6千万となり,電話ネットワークは約 100年をかけて完成したといえる.今後の通信ネットワークは,ISDNから B ─ ISDNへと進展していくという予想のもと,活発な研究開発が行われていたが,ちょうどそのころ,インターネットの商用サービスが開始され,急速な普及を見せ始めた.インターネットは,もともとコンピュータ間通信を確実に行うために開発されたものであるが,1990年代末に ADSLなど安価で高速なアクセス回線を用いたインターネット接続が本格的となると,ユーザはインターネット上で展開されるリアルタイムアプリケーションに注目するようになった.

21世紀に入り,IP電話が普及するに至って,インターネットは情報通信ネットワークへと変貌していくことが明確となった.インターネットを技術として正確に述べると,IP(インターネットプロトコル)を用いたネットワークである.電話サービスの開始からまもなく1世紀と四半世紀が経過しようとする現在,IPが情報通信工学の基本技術であるといえるだろう.筆者は,情報・通信系工学科の卒業生の多くが,ソリューションビジネスといわれる情報通信システムの構築・運用の業務に就職し,SE(システムエンジニア)として成長していく姿をみてきたが,大学専門課程の授業として IPネットワーク技術を体系的に講義する必要を痛感している.本書は,学部 3年生の授業での教科書として利用されることを想定して書かれている.本書のねらいは,次のとおりである.(1) 将来,ネットワーク構築・運用業務に従事することを希望する学生,およびこれから

従事する社会人を対象とする.(2) ネットワーク工学の体系的な技術を習得するための入門書である.(3) ネットワークビジネスの基礎となる最新技術を紹介することにより,大学教育の中で

キャリアプランを形成するための動機づけをする.また,内容について,工夫した点は次のとおりである.(1) 大学初年度修了の学生を対象に,専門課程の知識が十分でなくても理解できる内容と

した.(2) 動作原理の説明に重点をおき,暗記ものとしないことに注意した.

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まえがき iii

(3) 数値例での説明により理解を深めるとともに,演習問題により理解の確認ができるようにした.

(4) 現在のネットワーク技術において主流となったイーサネットと TCP/IPを中心に説明し,過去のネットワーク技術は省略した.

(5) IP電話,仮想私設ネットワークなど,今後のネットワーク技術の中核となる内容について簡単に説明し,より深く勉強するための準備とした.

著者は,企業通信システムの構築がビジネスとして注目され始めた 1980年代末から数年間,このシステム関連の開発業務にたずさわった.その経験から,大学教育の中でも現在のソリューションビジネスにとって,基礎となる技術の習得が必要であると考えている.本書が,その目的に沿って利用されていくことであれば幸いである.本書の執筆にあたり,多くの人々からご教示いただいた.同僚の信楽義彦先生には IPア

ドレス,同じく同僚の村上恭通先生には暗号方式を,また NTTコミュニケーションズの齋藤義男氏,上村郁應氏には配線システムの最新動向を教えていただいた.ここに深く感謝する.

2004年 8月村上 泰司

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目 次1章 ネットワークの進展 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  1

1.1 情報通信ネットワークとは 1

1.2 電話ネットワーク 3

1.3 データ通信ネットワーク 5

1.3.1 発展の歴史 5 / 1.3.2 回線交換とパケット交換 6

1.4 ISDN 8

1.4.1 発展の歴史 8 / 1.4.2 ATM交換 9

1.5 インターネット 10

1.6 NGN(次世代情報通信ネットワーク) 13

1.7 インターネットの課題と今後 14

章末問題  15

2章 ディジタル伝送技術の基礎 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17

2.1 アナログ信号のディジタル化 17

2.2 並列伝送と直列伝送 19

2.3 全二重伝送と半二重伝送 20

2.4 ベースバンド伝送とブロードバンド伝送 21

2.4.1 ベースバンド伝送 21 / 2.4.2 ブロードバンド伝送 22

2.5 同期と非同期 24

2.5.1 非同期伝送 24 / 2.5.2 同期方式 24

2.6 伝送媒体(通信ケーブル) 25

2.6.1 より対線ケーブル 25 / 2.6.2 同軸ケーブル 29 / 2.6.3 光ファイバケーブル 29

章末問題  31

3章 ネットワークアーキテクチャ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33

3.1 ネットワークトポロジー 33

3.2 プロトコルとは 35

3.3 プロトコルの階層化 37

3.3.1 階層化構造 37 / 3.3.2 コネクション指向とコネクションレス 38

3.3.3 OSI参照モデル 39 / 3.3.4 TCP/IPでの階層化構造 41

3.4 標準化組織 42

章末問題  44

4章 ローカルエリアネットワーク ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45

4.1 LAN標準規格 45

4.2 IEEE 802.3(CSMA/CD) 46

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4.2.1 フレーム構成 47 / 4.2.2 媒体アクセス制御方式 48

4.2.3 伝送遅延とケーブル長 49

4.3 IEEE 802.5(Token Ring)と FDDI 52

4.4 IEEE 802.11(無線 LAN) 54

4.4.1 方式概要 54 / 4.4.2 アクセス制御方式 56

章末問題  58

5章 イーサネットの発展 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59

5.1 イーサネット系列 59

5.2 10 Mbpsイーサネットとハブ方式 61

5.2.1 10 Mbpsイーサネット 61 / 5.2.2 リピータハブとスイッチングハブ 62

5.3 高速イーサネット 64

5.3.1 100 Mbpsイーサネット 64 / 5.3.2 1000 Mbpsイーサネット 66

5.3.3 10 Gbpsイーサネット 68 / 5.3.4 40G/100 Gbpsイーサネット 69

5.4 スイッチングハブの高度化 70

5.4.1 バーチャル LAN 71 / 5.4.2 スパニング・ツリー・プロトコル 73

5.5 配線システム 74

5.5.1 配線システムの標準化 74 / 5.5.2 配線システムの基本形態 75

5.5.3 ケーブルカテゴリー 77

章末問題  79

6章 IPネットワーク ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 81

6.1 IPの役目 81

6.1.1 IPネットワーク構造 81 / 6.1.2 IPv4と IPv6 83

6.2 IPv4 83

6.2.1 データグラム形式 83 / 6.2.2 IPv4アドレス 84

6.2.3 サブネット・アドレッシング 88 / 6.2.4 ネットワークのサブネット分割 90

6.3 IPルーチング 91

6.3.1 経路制御 91 / 6.3.2 ルーチングプロトコル 93

6.4 IPv6 95

6.4.1 ヘッダフィールド 96 / 6.4.2 アドレス構造 97 / 6.4.3 IPv4との共存技術 99

章末問題  101

7章 広域 IPネットワーク技術 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  103

7.1 広域ネットワークの形態 103

7.2 MPLS 105

7.2.1 概要 105 / 7.2.2 ヘッダとラベル配布 106

7.2.3 トラヒック・エンジニアリング 108

7.3 フォトニックネットワーク 109

7.3.1 概要 109 / 7.3.2 GMPLS 110

章末問題  112

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8章 トランスポート層 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  113

8.1 TCP 113

8.1.1 概要 113 / 8.1.2 コネクションの確立と終了 115

8.1.3 データ送信とフロー制御 116

8.2 UDP 119

章末問題  120

9章 アプリケーション層 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  121

9.1 DNS 121

9.1.1 ホスト名とドメイン 121 / 9.1.2 DNSによる変換手順 123

9.2 DHCP 124

9.3 SIP 126

9.3.1 概要 126 / 9.3.2 呼制御 127 / 9.3.3 音声転送 129

章末問題  133

10章 仮想私設ネットワーク ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  134

10.1 概要 134

10.2 広域イーサネット 136

10.3 IP-VPN 138

10.4 インターネット VPN 140

10.4.1 概要 140 / 10.4.2 暗号化方式 142 / 10.4.3 IPsecと TLS/SSL 144

章末問題  147

11章 ソフトウェア定義ネットワーク(SDN) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  148

11.1 ネットワークの仮想化から SDNへ 148

11.1.1 ネットワークの仮想化 148 / 11.1.2 SDNの必要性 150

11.2 OpenFlow 152

11.2.1 概要 152 / 11.2.2 構成と動作 153

章末問題  157

演習問題の解答  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  158

参考文献  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  164

索 引  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  166

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本書で述べるネットワークとは,もちろん情報通信のためのネットワークである.ネットワーク(networks:網)とは,いくつかの個体が結びついたものをいい,情報通信以外にも,道路ネットワーク,鉄道ネットワーク,ニューラルネットワークなどさまざまに,この言葉が用いられている.しかしながら,長年この分野にたずさわってきた著者のひいき目でみると,新聞,雑誌等において単にネットワークというと情報通信ネットワークを意味するように思われる.本章では,情報通信分野で利用されてきたネットワークについて,その発展の歴史,

構成,技術内容を鳥瞰する.開発の歴史を通して技術を理解する方が,現状の技術をそのままに理解するより容易である.

1.1 ■ 情報通信ネットワークとは相手と情報のやり取りをすることをコミュニケーション(communications)という.これに対して,テレコミュニケーション(telecommunications)とは,図 1.1に示すように,遠くにいる人と情報のやり取りをすることをいう.“tele-”は“遠くの”とか,“遠隔の”という意味である.従来は遠くに伝えるものが「音声」であることがあたり前であったので,テレコミュニケーションの訳である「通信」または「電気通信」は,電話についての用語として用いられてきた.これに対して,伝えるものがデータや画像などの「情報」である場合を,特に「情報通信」という.しかしながら,この内容も英語で

遠くまで伝える手段

( b)テレコミュニケーション

情報

( a)コミュニケーション

A B A B

図 1.1 コミュニケーションとテレコミュニケーション

1章 ネットワークの進展

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2 1章■ネットワークの進展

は同じ telecommunicationsである.遠くの人と情報のやり取りをすることが「通信」であるならば,相手がいつも同じで

あると一対一の通信となる.これに対して,図 1.2に示すように,遠くにいる多くの人と情報のやり取りをすることは,ネットワークを用いた通信となる.このネットワークが主として「音声」を伝えるものであるならば「通信ネットワーク」であるし,データや画像などの「情報」を伝えるものならば「情報ネットワーク」となる.より厳密に定義するならば,前者は電話信号を伝える回線交換ネットワークを意味し,後者は加工されたデータを転送する蓄積交換ネットワークを意味する.しかしながら,ネットワーク本来の目的を考えると,音声を含めたすべての情報を伝えるためのものとして「情報通信ネットワーク」を定義することが自然である.もう一つの分類に,「通信」と「放送」がある.図 1.3に示すように,お互いに相手のわかっている特定個人間で情報のやり取りをすることが「通信」であるのに対して,不特定な多数に対して一方的に情報を流すのが「放送」である.両者のネットワークは,要求される内容が異なるため当然異なる形態となる.通信では通信相手以外には情報が漏れないようにする秘話性が要求されるのに対して,放送では情報そのものは公開

( b)ネットワークを用いた通信( a)一対一の通信

ネットワーク

図 1.2 一対一の通信とネットワークを用いた通信

不特定な多数の人に,一方的に情報を流す

A B

情報源

特定な個人の間で情報のやり取りをする

( a)通信 ( b)放送

図 1.3 通信と放送

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1.2 電話ネットワーク 3

されるためその情報の著作権確保が要求される.しかしながら,現在技術的に進展している「情報通信ネットワーク」は,「放送ネットワーク」にも利用されることを可能としつつあり,その境界が曖昧になりつつある.

1.2 ■ 電話ネットワーク電話(telephones)は,1876年に米国のアレクサンダー・グラハム・ベル(Alexander

Graham Bell)が発明して以来,1世紀余りを経て,現在の携帯電話に至るまで絶え間なく進化してきた.遠くに(tele-)音(phones)を伝える機械としての電話は,通信の原点である.表 1.1に,電話ネットワークにおける主な出来事を示す.日本においては,全国自動即時化が完了し,自動車電話,光ファイバ通信システムが導入された1980年頃から電話ネットワークのディジタル化が推進され,現在のネットワークを形成している.図 1.2( a)は一対一での通信形態を示すが,図 1.2( b)のように n対 nの通信を行

うネットワークを形成しようとすると,主として二つのやり方がある.図 1.4に示すように,メッシュ形とスター形の形態である.図 1.4( a)に示すメッシュ形ネットワークでは電話の数を nとすると,電話を結ぶ線,すなわち伝送路の数は n(n- 1)/2となり,電話数の二乗で増加する.たとえば,n= 1000でも,伝送路の数は 499500

となる.また,端末交換機の数も nに比例して増加する.一方,図 1.4( b)のスター形ネットワークでは,中央交換機が 1台あれば,伝送路の数は電話数 nに比例する

表 1.1 電話ネットワークにおける主な出来事

西 暦 出来事

1876 アレクサンダー・グラハム・ベル(米国)が電話機を発明

1889 A. B. ストロージャ(米国)が実用的自動交換機の特許申請

1890 東京,横浜間で 200加入の交換サービスを開始

1945 フォン・ノイマンが蓄積プログラム制御(SPC:stored program control)の思想を発表

1965 米国で蓄積プログラム制御空間分割形電子交換機 No.1ESSがサービス開始

1979 日本全国自動即時化が完了

NTTが自動車電話サービスの開始

1981 NTTが光ファイバ通信システムを商用電話回線に導入

1982 D60ディジタル中継交換機の導入開始

1991 NTTが超小型携帯電話機「ムーバ」を発表

1995 電話交換機 SPC化と市外回線のディジタル化の完了

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ネットワークの基本構造,構造を形成するための考え方,階層化構造の枠組みなどを総称してネットワークアーキテクチャ(network architecture)という.もともとアーキテクチャとは建築技術の意味である.したがって,情報通信ネットワークを構築する上で基本となる技術がネットワークアーキテクチャといえる.この意味で,本章はネットワーク技術の基礎を説明する.

3.1 ■ ネットワークトポロジーネットワークを構成する要素を,端末(ステーション:station),交換機(ノード:

node),伝送路(リンク:link)に割り振ったとき,それぞれの幾何学的な関係を表したものがネットワークトポロジー(network topology)である.図 3.1にネットワークトポロジーの基本形態を示す.それぞれのトポロジーには長所と短所があり,ネットワークの使用目的,規模などによって使い分けられる.(1)スター(star)形中央ノードから放射状に端末またはノードが接続される形態をスター形という.各

端末は一つの伝送路を専有しているため,端末の追加と削除が容易にでき,またその管理も容易である.伝送路切断事故においては接続された端末のみの障害となり,ネットワーク全体に影響を及ぼさないことは長所となるが,中央ノードに故障があるとネットワーク全体が停止するという弱点をもつ.このため,予備の中央ノードを用意するなどの対策が必要である.端末数 nに対して n本の伝送路が必要になることは,他のトポロジーとの比較においては中程度の経済性をもつ.(2)リング(ring)形,またはループ(loop)形ノードを数珠つなぎにしてリング状に接続し,信号を一巡させる形態をリング形と

いう.中央ノードがなく各ノードは対等であるためネットワークの制御は分散形となる.ただし,故障復旧後の初期化やネットワーク全体のクロック制御などの役割をもつ親ノードの存在は必要である.リング形は伝送路総長が短く経済的である上に高速伝送が可能で,比較的簡単にネットワークを構築できる利点をもつ.したがって,小

3章 ネットワークアーキテクチャ

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34 3章■ネットワークアーキテクチャ

規模な高速ネットワークに利用されている.しかしながら,ノードを追加する場合やノードまたは伝送路の故障にはネットワーク全体が停止するという欠点があり,そのための対策は必須である.通常は伝送路を二重化しておき,故障発生の際には故障点に最も近い両端のノードで信号を折り返すことが行われる.(3)バス(bus)形

1本の基幹伝送路に多くの端末がぶら下がるように接続される形態がバス形である.各端末は対等でありネットワーク制御が分散形であるのはリング形と同じである.端末の追加と削除が容易であるが,すべての信号が基幹伝送路を経由するいわゆる伝送路共有形のため,輻輳に弱く端末間の情報転送速度が上がらない,信号はネットワーク全体に伝わり盗聴・妨信などのセキュリティに弱いなどの短所をもつ.したがって,大規模なネットワークには向かない.構造が単純で経済的であることからきわめて小規模なネットワークに利用される.(4)メッシュ(mesh)形ノードが複数のノードと接続され,網目状に形成されたネットワークをメッシュ形

という.特に,すべてのノードが相互に一対一で接続されている状態をフルメッシュ(full mesh)という.目的ノードに到達するための経路が複数存在するので,地域的なトラヒックの急増や変動には柔軟に対応できる,ノードや伝送路の故障時には切り替えルートが確保されるなどの利点をもつ.したがって,ネットワークの信頼性はきわめて高く,基幹ネットワークに利用される.この利点の代償として,設備コストがかかるという問題がある.フルメッシュの場合,ノード数 nに対して伝送路数はn(n- 1)/2となり,nの二乗で増大する.

( 1)スター形 ( 2)リング形 ( 3)バス形

( 4)メッシュ形 ( 5)ツリー形

:集中制御形ノード

:分散制御形ノード:ステーション

図 3.1 ネットワークトポロジーの基本形態

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3.2 プロトコルとは 35

(5)ツリー(tree)形中央ノードを根幹としてそこから基幹伝送路が接続され,端末は基幹伝送路から枝

分かれした伝送路の先に接続される形態をツリー形という.端末の追加と削除が容易で,多くの端末が接続された大規模ネットワークを経済的に構築できる.中央ノードは同じ情報を配信するのには便利な形態であるが,逆に,端末からの情報発信では基幹伝送路での輻輳が生じやすい,端末どうしの一対一接続は制約が多いなどの欠点をもつ.

3.2 ■ プロトコルとは電話で相手と会話する,情報を相手端末まで転送するなど端末がネットワークを利

用する場合,当然のことながら端末はネットワークと接続される.このときの接続点を分界点(インターフェイス:interfaces)とよぶ.端末は,分界点を通してネットワークから情報転送などのサービスを受ける.これをネットワークサービス(network

services)という.また,分界点とは設備所有者を分ける点でもある.ネットワークにおける分界点には図 3.2に示すように,端末とネットワークとを分

けるユーザ ─網インターフェイス(UNI:user-network interfaces)とネットワーク装置間,またはネットワークどうしを接続するための網ノードインターフェイス(NNI:network node interfaces)とがある.これら分界点を通して情報のやり取りがなされる.また,やり取りする際には制御信号の交換が行われる.端末がネットワークからサービスを受けるためには,接続するコネクタの形状から

始まり,制御信号の交換,情報の形状,切断の仕方などの一連の約束事を遵守する必要がある.これら一連の約束事をプロトコル(protocol)といい,通信規約と訳されている.これは分界点において課せられた規約であり,機器内部や端末内部の状態はいわばブラックボックス化している.UNIと NNIとはそれぞれ接続する相手が異なるので,一般には別のプロトコルとなる.

ネットワークA ネットワークB

ユーザ-網インターフェイス(UNI)

網ノードインターフェイス(NNI)

図 3.2 端末とネットワークおよびネットワーク間接続

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36 3章■ネットワークアーキテクチャ

プロトコルは,もともとは国家間の外交において使われた言葉であり,公的な儀礼に関する(暗黙の)約束事の意味である.私的な行儀・作法をマナーとかエチケットというが,これらとは区別される.たとえば,宮中晩餐会や大使主催のディナーでは,招待状の発送から,席次,料理内容,お礼の手紙まで公式な手順があるように,プロトコルには公的なという意味合いがある.

[例 3.1 電話における手順]受話器を上げてから会話を開始するまでの間,電話機とネットワーク(この場合は交換機),ネットワークとネットワーク(交換機間)で実行されるやり取りを図 3.3に示す.受話器を上げて交換機の受け入れを確認する,電話番号を送り相手側電話機の呼出音を確認する,など会話が開始されるまで多くの手順を実行している.世界中のすべての国,通信事業者において電話が通じるようにするために,これらの手順は標準化され,標準化されたとおりに実行されている.

プロトコルは,ネットワークのユーザ,ネットワーク事業者,機器メーカなどネットワークに関係するすべての人々,機関に共通のルールであるため,標準化されている.基本的には国際標準化機関,一部では国内標準化機関において文書の形で発行されている.すなわち,プロトコルの実体は文書(ドキュメント:documents)である.通常,標準化文書(standards)では守るべき約束事の形で書かれており,要求条件(requirements)とか仕様(specifications)といわれる.必要条件が書かれているだけで,実現方法はメーカや事業者に任されている.たとえば,「0 ℃から 40 ℃まで使用

図 3.3 会話が開始されるまでの手順

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3.3 プロトコルの階層化 37

可能なこと」とあれば,機器が 0 ℃から 40 ℃の範囲においてすべての機能を問題なく実行することが要求される.メーカや事業者は,要求条件を満足するように装置または設備にさまざまな技術と工夫を加える.これを実装(implementations)という.したがって,実装の仕方はメーカや事業者ごとに異なる.これがメーカ製品の違いや事業者サービスグレードの違いとなる.

3.3 ■ プロトコルの階層化3.3.1 階層化構造一つのインターフェイスにおけるプロトコルを記述する場合,すべての規約を同じ

扱いで並べると一部の変更が全体の機能にどのように波及するかが不明となる.このような場合,わずかな機能拡充のためにシステム全体を見直し動作確認する必要が生じる.この問題を解決するため,規約をいくつかの塊に分割して各々を一つの部品(モジュール)とし,個々の部品の内容と部品間の関係を明らかにするように記述することが行われる.ここでは,機能拡充は部品単位で行われ,部品に要求される条件を確認すれば十分となる.開放型システム間相互接続の基本参照モデル(open systems inter-connection-ba-

sic reference model)(以下 OSI参照モデルという)は,部品(モジュール)分けの基本的な枠組みを提供している.まず,階層に分け,層ごとに機能を配分する.人間が直接扱う,端末とのインターフェイスに近い機能を最上位層に配置し,人から最も遠い機能を最下位層(第 1層)に配置する.各階層には機能分けした部品であるエンティティ(entity)がいくつか存在する.すなわち,通信サービスを実行するための機能要素をエンティティとよぶ.階層の構造を図 3.4に示す.N層にあるエンティティを〈N〉エンティティといい,

通信を実行する場合には同位エンティティどうしで論理的な通信路を形成する.論理的な通信路とは,〈N〉エンティティからみると,下位層にあるエンティティのサービスを受けているにもかかわらず,あたかも同位エンティティどうしが直接通信できる経路があるようにやり取りしている状態のことをいう.このような状態を形成することを,コネクションを設定するという.ちょうど電話で会話しているとき,電話という手段を利用しているにもかかわらず,直接相手と会話しているように振る舞う状態になることである.さらに,〈N〉エンティティは,同位エンティティと協力して必要な機能を上位層の

〈N+ 1〉エンティティに提供する.これを〈N〉サービスとよび,〈N〉サービスアクセス点(service access points)を通して行われる.サービスの受け渡しは,サービスプ

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38 3章■ネットワークアーキテクチャ

リミティブ(service primitive)によって行われる.サービスプリミティブには,要求(request),指示(indication),応答(response),および確認(confirm)の四つの基本動作がある.

[例 3.2 コネクションの設定における手順]〈N+ 1〉エンティティどうしでコネクションを設定する際の手順を図 3.5に示す.①送信側〈N+ 1〉エンティティがコネクションの設定を〈N〉エンティティに要求する.②受信側〈N〉エンティティがコネクション設定を〈N+ 1〉エンティティに指示する.③受信側〈N+ 1〉エンティティが〈N〉エンティティに受け入れの応答をする.④送信側〈N+ 1〉エンティティがコネクション確立を確認する.

3.3.2 コネクション指向とコネクションレス例 3.2のように,通信に先立ってコネクションを設定し,通信を開始するための環境を整えるやり方を,コネクション指向形(connection oriented)通信という.代表例は,図 3.3に示した電話通信である.会話を開始するまでに,相手の電話までの回線を開通させ,お互いが電話に出てすぐに会話のできる状態にしている.例 3.2においては,受信側〈N+ 1〉エンティティは,送信側〈N+ 1〉エンティティからの設定要求を受けて,受け入れ応答することにより,情報転送の受信が準備できたことを送信側に通知している.

〈N+ 1〉エンティティ 〈N+ 1〉エンティティ

〈N〉エンティティ 〈N〉エンティティ

〈N〉サービスアクセス点

Nプロトコル

①要求

④確認

③応答

②指示

図 3.5 コネクション設定における手順

〈N+ 1〉エンティティ 〈N+ 1〉エンティティ

〈N〉エンティティ 〈N〉エンティティ

N+ 1層

N層

N+ 1プロトコル

〈N〉サービスアクセス点

〈N - 1〉サービスアクセス点

Nプロトコル

図 3.4 階層の構造

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3.3 プロトコルの階層化 39

これに対して,例 3.2の①と④の手順のみで,すなわち受信側からの応答を確認しないで情報を転送するやり方をコネクションレス形(connection less)通信という.コネクションレス形の通信では,相手の受け入れを確認しないで情報を転送するので,郵便物の転送と同じように,情報ごとに転送経路が異なることや,送り出された順序とは異なる順序で相手先に届く可能性がある.

3.3.3 OSI参照モデルOSI参照モデルは,どのような通信システムにも適用できる汎用モデルとして標

準化された.階層化構造としては,図 3.6に示すように,7階層(7 layers)をもつ.JIS X 5003(開放型システム間相互接続の基本参照モデル)の記述に従って各階層の機能を以下に説明する.JISでは層を定義するように機能条件が記述されているが,具体的な通信システムの機能モジュールを例にとり説明しない限り,定義のみでは内容の理解は困難である.したがって,ここでは簡単な説明に留める.4章から各層を具体的に説明するので,その中で理解を深めることができるはずである.(1)第 1層 物理層(physical layer):伝送路にビット列となる電気信号を送るための電気的条件やコネクタ形状などの機械的な条件を規定する.パルス波形,ビット同期条件,ケーブル仕様なども規定される.(2)第 2層 データリンク層(data link layer):小規模なネットワークが形成された中で端末間やノード間でデータ転送のためのリンクを設定し,データを転送する手順を規定する.誤り検出と再送制御も含まれる.(3)第 3層 ネットワーク層(network layer):接続された複数のネットワークを通して目的先にデータを転送するための通信経路を選択する方法やネットワーク間のデータ転送方法を規定する.アドレス体系とその付与方法も含まれる.

第 7層

第 6層

第 5層

第 4層

第 3層

第 2層

第 1層

応用層

プレゼンテーション層

セッション層

トランスポート層

ネットワーク層

データリンク層

物理層

応用プログラムの提供

データ変換サービス

会話機能

エンド ─エンド間のデータ転送

ネットワーク間の経路選択,交換制御

小規模ネットワーク内の伝送制御

物理接続条件,電気特性,ビット同期

情報伝送の制御

データ伝送の制御

図 3.6 OSI参照モデルにおける 7階層

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40 3章■ネットワークアーキテクチャ

(4)第 4層 トランスポート層(transport layer):エンド ─ エンド間で要求された通信品質を確保するためのコネクション機能や制御方法を規定する.データの流れを制御するフロー制御や紛失データの検出と回復も含まれる.(5)第 5層 セッション層(session layer):上位層が会話をするための機能を提供する.半二重・全二重通信における送受信制御,誤り回復時の開始時点同期制御などである.(6)第 6層 プレゼンテーション層(presentation layer):応用層で利用するプログラムの情報形式(抽象構文)を通信に適した情報形式(転送形式)に変換する機能と抽象構文の記述法を規定している.(7)第 7層 応用層(application layer):情報処理アプリケーションと直接結合する汎用的な通信アプリケーション機能を提供する.ネットワークに接続された端末間通信を例にとり,各階層の機能範囲を図 3.7に示

す.小規模なネットワークにある端末 Aは,大規模ネットワークを介して端末 Bまでのコネクションを設定し,通信を行う状態を想定している.物理層は,端末 Aから伝送路に信号を送るまでを規定する.データリンク層は,大規模ネットワークへの経路上にある隣接ノードまでのリンクを開通させる.ネットワーク層は,大規模ネットワークを介して端末 Bまでの経路を選択する.トランスポート層は,端末 Bとのコネクションを確認し,データ転送の送受を行う.セッション層以上は,アプリケーション間で情報転送するための形式を制御する.このように,1層から 4層までは単なるデータの確実な転送を制御するのに対して,

5層以上では送受するデータを意味のある情報として認識し,その扱いを制御している.ちなみに,ネットワーク工学が扱うのは 4層までの技術であり,本書のねらいはこの範囲の技術を講義することである.

アプリケーションセッション層以上

トランスポート層

アプリケーション

端末A

大規模ネットワーク

端末B

ルータ,交換機

ネットワーク層データリンク層

物理層

図 3.7 各階層のネットワークモデル

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3.3 プロトコルの階層化 41

3.3.4 TCP/IPでの階層化構造インターネットの発展と普及により,TCP/IPが開放型ネットワークの事実上の

標準(defacto standards)になり,OSI参照モデルは残念ながらあまり普及していない.TCP/IPというと,一般には TCP(transport control protocol),IP(internet

protocol)などを含むプロトコル群全体を意味する.その階層化構造を,OSI参照モデルでの階層化構造と対応させて,図 3.8に示す.TCP/IPは 4層構造である.(1)ネットワークインターフェイス層:OSI参照モデルでの物理層とデータリンク層に対応する.標準化された LANやインターネットへのアクセス回線がこの層での機能を実現する.(2)インターネット層:ネットワーク層に対応する.経路選択を制御するプロトコルはこの層に含まれる.IPアドレスと下位のデータリンク層アドレスとの変換を行うARP(address resolution protocol)や RARP(reverse ARP),制御データの交換や転送を行う ICMP(internet control message protocol)などである.(3)トランスポート層:OSI参照モデルのトランスポート層に対応する.送受端末間でコネクション指向形の通信路を提供する TCPとコネクションレス形の通信路を提供する UDP(user datagram protocol)がある.(4)アプリケーション層:TCP/IPには OSI参照モデルにおけるセッション層とプレゼンテーション層に相当する階層がなく,アプリケーション層はトランスポート層のサービスを直接受ける.実際のところセッション層とプレゼンテーション層の機能を利用するアプリケーションが少ないためである.図 3.8ではネットワークサービスに近いアプリケーションを示した.概要は次のとおりである.

1)SMTP(simple mail transfer protocol):電子メールや電子掲示板に利用されるメッセージ転送を行うプロトコルである.

図 3.8 TCP/IPの 4階層と OSIの 7階層の関係

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42 3章■ネットワークアーキテクチャ

2)HTTP(hyper text transfer protocol):HTML(hyper text mark-up language)で書かれたWWW(world wide web)サーバ内の文書を転送するプロトコルである.

3)DNS(domain name system):階層化されたドメイン名と IPアドレスとを変換するプロトコルである.

4)DHCP(dynamic host configuration protocol):クライアントホストに対してIPアドレスの自動割り当てを行うプロトコルである.

5)SIP(session initiation protocol):IP上で電話接続の制御,すなわち接続確立,変更および終了を行うプロトコルである.

3.4 ■ 標準化組織プロトコルは標準化されていることを述べたが,情報通信ネットワーク技術を取り

扱う代表的な標準化機関を表 3.1に示す.国際標準を審議する機関には,情報技術を扱う ISO(国際標準化機構)と電気通信技術を扱う ITU-T(国際電気通信連合 ─ 電気通信標準部門)とがある.大まかに分類すると,ISO標準はメーカやベンダが提供する通信機器・装置に反映され,ITU-T標準は通信事業者の通信サービスに反映される.OSI参照モデルは ISOにて標準化されたものである.国際標準は,各国の国内標準をもとに,いろいろな国が研究・審議し国際版にアレ

ンジして制定される.もととなる国内標準には米国内で標準とされたものが多い.IEEE(米国電気電子技術者協会)802委員会での LAN標準がその代表である.また,IETF(インターネット技術標準化委員会)の RFC(request for comments:標準勧告文書)はインターネット技術に関する唯一の標準として世界中で通用している.日本では,制定された国際標準を翻訳して国内標準とすることを標準化戦略の柱としている.国内標準が国際標準と違うことによる商取引上の不都合を起こさないためである.JIS(日本工業標準)は ISO標準を主に扱い,TTC(情報通信技術委員会)はITU-T標準を扱う.

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3.4 標準化組織 43

表 3.1 主な国際および国内標準化機関

国際標準化機関1.ISO(International Standardization Organization:国際標準化機構):OSI参照モデルなど情報技術に関する標準を審議する.

2.ITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sec-

tor:国際電気通信連合 ─電気通信標準化部門):電気通信技術に関する標準を審議する.

日本国内標準化機関1.JIS(Japan Industrial Standards Committee:日本工業標準調査会):産業技術に関する標準を審議する.

2.TTC(Telecommunication Technology Committee:情報通信技術委員会):電気通信技術に関する標準を審議する.

米国内標準化機関1.IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers:米国電気電子技術者協会)802

委員会:LAN技術に関する標準を審議する.2.NCITS(National Committee for Information Technology Standardization:全米情報技術標準化委員会):情報技術に関する標準を審議する.

3.IETF(Internet Engineering Task Force:インターネット技術標準化委員会):ISOC(Internet

Society:インターネット学会)の下部組織であり,インターネット技術に関する標準を審議する.4.TIA(Telecommunications Industry Association:米国通信産業協会):電気通信技術に関する標準を審議する.

shallと should

標準化文書の記述法にはいくつかの約束がある.特に,助動詞には要求のレベルを決める特別な意味がある.(1)shall/required/must:これらの用語は,要求レベルが必須(必ず守らなければならないこと)の場合に使用する.

(2)should/recommended:これらの用語は,要求レベルが推奨(特別な理由がない限り守るべきもの)の場合に使用する.強制する要求ではないが,守ってほしいというニュアンスである.

(3)may/optional:これらの用語は,文字どおり要求がオプションの場合に使用する.普通は守らなくても支障はない.実際には,標準化文書の作成段階における意見調整場面での妥協の産物であることが多い.

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44 3章■ネットワークアーキテクチャ

演習問題3.1 スター形,リング形,バス形,メッシュ形,およびツリー形の各ネットワークトポロ

ジーにおける特徴を下記に記述した.記述した内容は,どのトポロジーに相当するか.( a)伝送路障害,ノード障害に対してネットワークの影響度が小さく,特定ノード

で通信量が瞬時に増大しても柔軟に対応できるが,伝送路コストが最も大きい.( b)一対一の通信に対して盗聴セキュリティが最も高く,各ノードが専用の伝送路

を保有するためノードの追加や削除が容易であるが,伝送路コストは比較的大きい.

( c)構造が簡単で伝送路コストが小さく,ノードの追加・削除が容易であるという利点があるが,伝送路を共有するため小規模なネットワークにしか適用できない.

( d)同じ情報を数多くのノードに一度に配信するのには最適なネットワークで,ノードの追加・削除が容易であるという利点があるが,一対一の通信には困難さが伴う.

( e)総伝送路長が短いのでネットワークを経済的に構築できるが,ノードの追加・削除が容易でない,伝送路・ノードの障害がネットワーク全体に影響を及ぼすといった欠点がある.

3.2 UNIにおける通信プロトコルとは何か,定義せよ.

3.3 日本語しか話せない A君が,英語しか話せない Bさんと通訳を介して会話する場面を想定する.通訳は日本語インターフェイス(N ─ I)と英語インターフェイス(E ─ I)の二つのインターフェイスをもつとする.A君が話をして返事が戻るまでの手順を図3.9のように書いたとき,矢印の内容を記述せよ.

3.4 JIS標準において,shall,should,mayに相当する助動詞はどのように表現されているか,確認せよ.

A君 N ─ I通訳

E ─ I B さん

図 3.9 通訳を介した会話の手順

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166

英数先頭3方向ハンドシェイク 116

802.1Qタグ 71

802委員会 42

ALOHA 45

APNIC 86

ARP 126

ATM 8

BGP 93

CCITT 8

CEルータ 138

CIDR 89

CSMA/CA方式 56

CSMA/CD 46

dB(デシベル) 26

DHCPクライアント 125

DHCPサーバ 124

Diffie-Hellman鍵配布方式 143

FEC 106

GSMP 112

HTML 42

HTTP 42

IaaS 151

IANA 86

IEEE 42

IETF 42

IPsec 144

IPデータグラム 82

IP電話 126

IP電話アダプタ 126

ISM帯 55

ISO 42

ITU-T 13,42

JIS 42

JPNIC 86

mac-in-mac 137

MPLSドメイン 105

ONF 152

OpenFlowチャンネル 154

OSPF 93

OTN 69

PBB 137

PBX 134

PEルータ 138

RFC 42

RIP 93

RTP 130

RTS/CTS方式 57

SaaS 151

SDH 69

SDNオーケストレータ 153

SIP URI 128

SIPサーバ 127

SMTP 41

SONET 69

TCP/IP 10

TCPセグメント 82

TDM 110

TTC 42

VLANタグ 71

VPN識別 138

VPN装置 140

VPNトンネル 142

WWW 42

あ 行宛先アドレス 47

アドホックネットワーク 54

網ノードインターフェイス 35

暗号化鍵 142

位相変調方式 22

インターネット・エクスチェンジ

105

インターネット接続サービスプロ

バイダ 103

インターネット層 41

インターネットデータセンター 151

インターフェイス 35

インターフェイス ID 97

インディペンダント方式 54

インフラストラクチャ方式 55

ウインドウ・サイズ 118

ウインドウ・フロー制御 118

ウェルノウン・ポート 115

エッジ LSR 106

エッジスイッチ 136

エンティティ 37

オートネゴシエーション 65

音声転送技術 127

か 行開始デリミナ 47

回線 6

外部ゲートウェイプロトコル 103

開放型システム間相互接続の基本

参照モデル 37

加入者交換機 4

カプセル化 82

北側境界インターフェイス 153

基底帯域伝送 21

基本サービスセット 54

基本サービス領域 55

キャラクタ同期 24

ギャランティ型 7

キャリア 22

キューイング遅延 132

共通鍵 142

共通鍵暗号方式 142

距離ベクトル形 94

クライアント 115

クラウドサービス 151

グループ表 154

グレーデッドインデックス形光ファ

イバ 31

グローバル AS番号 112

グローバルユニキャストアドレス 97

グローバルルーチングプレフィック

ス 97

経路表 91

ゲートウェイ装置 126

原始元 143

コア LSR 106

公開鍵暗号方式 142

構造化配線システム 76

光波長パス 110

呼制御プロトコル 126

コネクションを設定する 37

コリジョンドメイン 52

コロケーションサービス 151

さ 行サーバ 115

サービスアクセス点 37

サービス総合ディジタルネットワーク 8

サービスプリミティブ 37

最短パス・ツリー 95

サブネット 88

サブネット・プレフィックス 97

サブネットマスク 89

シールド付きより対線 28

索 引

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索 引 167

実装 37

時分割多重 110

シムヘッダ 106

ジャム信号 49

周波数変調方式 22

周波数ホッピングスペクトラム拡散

方式 55

巡回冗長検査 48

衝突検出付き搬送波検知多重アクセス 46

情報コンセント 76

自律システム 95

振幅位相変調方式 22

振幅変調方式 22

スイッチ管理プロトコル 112

スタティックルーチング 93

ステーション 33

ステップインデックス形光ファイバ

30

ストア・アンド・フォワード方式 63

ストラテム 14

スライディング・ウインドウ方式

119

制御・データ ─プレーンインターフェイス 153

制御プレーン 112

セグメント 52

セッション層 40

セル 9

先行配線 74

即時式 7

ソケット 115

た 行帯域伝送 22

待時式 7

対称暗号方式 142

ダイナミックルーチング 93

タグ 71

タグ付きフレーム 72

タグフレーム 72

多モード光ファイバ 30

単一モード光ファイバ 30

単方向伝送 20

地域別 NIC 86

中継交換機 4

調歩同期 24

直接スペクトラム拡散方式 55

通信アウトレット 76

通信規約 35

データセンター 149

データリンク層 39

デュアルスタック 101

同期方式 24

トークン 52

トークン制御方式 52

トークンリング方式 52

ドット付き 10進数表示 86

な 行内部ゲートウェイプロトコル 103

長さ/タイプ 47

ネームサーバ 122

ネットワークアーキテクチャ 33

ネットワークインターフェイス層 41

ネットワークサービス 35

ネットワーク層 39

ネットワークトポロジー 33

ネットワーク番号 86

ノード 33

は 行パイプライン 154

パス 105

パスベクトル形 95

波長多重方式 109

バックオフ時間 49

発信元アドレス 47

パルス振幅変調 17

パルス符号変調 18

搬送波 22

ピア・ツー・ピア 54

光ノード 110

ビジートークン 52

非シールドより対線 28

非対称暗号方式 142

ビット同期 24

非武装地帯 149

標本化 17

標本化周波数 17

標本化定理 17

標本化パルス 17

ファイアウォール 149

ファストイーサネット 64

フェルマーの定理 143

フォーマットプレフィックス 97

復号鍵 142

符号化 18

物理層 39

プライベート・ネットワーク 6

プライベート AS番号 112

フリートークン 52

ブリッジ 62

プレアンブル 47

フレーム 47

フレーム間ギャップ 67

フレーム検査シーケンス 48

フレーム同期 24

プレゼンテーション層 40

フローエントリー 154

フロー制御 117

フローテーブル 154

ブロードキャスト 47

プロバイダー基幹ブリッジ方式 137

平衡ケーブル 28

平衡伝送 28

平文 142

ベスト・エフォート型 7

変調 22

ボー 23

ホスティングサービス 151

ホスト 81

ポート番号 113

ボーレイト 23

ま 行マルチトークン方式 52

南側境界インターフェイス 153

メータ表 155

網内転送ラベル 138

や 行ユーザ ─網インターフェイス 35

より(撚り)対線 25

ら 行ラベル配布プロトコル 108

リゾルバ 123

リピータ 51

流動項目 154

流動表 154

量子化 18

量子化雑音 18

リンク 33

リンク状態形 94

リンクローカルユニキャストアドレス 98

ルータ 81

ルーチングテーブル 91

ルート・ネームサーバ 122

ルートブリッジ 73

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著 者 略 歴村上 泰司(むらかみ・やすじ)

1975年 京都大学大学院修士課程修了(電子工学科)1975年 日本電信電話公社(現日本電信電話株式会社)勤務1984年 工学博士(京都大学)2000年 大阪電気通信大学教授 現在に至る

編集担当 丸山隆一(森北出版)編集責任 富井 晃(森北出版)組  版 双文社印刷印  刷   同製  本 ブックアート

ネットワーク工学(第 2版) ©村上泰司 2014

2004年 11月 19日 第 1版第 1刷発行 【本書の無断転載を禁ず】2013年 3 月 10日 第 1版第 6刷発行2014年 10月 14日 第 2版第 1刷発行

著  者 村上泰司発 行 者 森北博巳発 行 所 森北出版株式会社

東京都千代田区富士見 1-4-11(〒 102-0071)電話 03-3265-8341/ FAX 03-3264-8709http://www.morikita.co.jp/日本書籍出版協会・自然科学書協会 会員

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Printed in Japan/ ISBN978-4-627-82892-6