「ペアワーク・アクティビティ」と 「ティーチング...

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はじめに 今年度の日本語聴解上級 12 B クラスで、筆者は、将来、日本語教師を志す日本人学生と、 日本語の運用能力を高めたい留学生が、2 人一組になり、日本語を仲立ちにして学びあう、試行的 な授業を行った。本稿は、その実践報告である。 2010 12 25 日現在、追手門学院大学には、153 名(学部生 123 名、大学院生 30 名)の外国 人留学生が学んでいる。また、毎年、アメリカ、オーストラリア、イギリス、インドからも交換留 学生を 10 名前後、受け入れている。彼ら留学生に共通した課題は、言うまでもなく日本語力の習 得である。中でも蓄えた言語知識(文字、語彙、文法)を活用して、日本人学生と同等、もしくは それ以上に、書いたり読んだり聞いたり話したりできるようになることが、目下の課題である。し かし、外国人留学生の常として、日本人学生と交わるよりも同国人、同地域人と徒党を組み、母語 だけでコミュニケーションをとりたがる。45 年日本で暮らし、毎日、大学で講義や演習の授業 に参加していながら、なかなか思うように日本人と意思の疎通のとれない留学生は少なくない。 一方、国際教養学部へと改組が行われ、日本語教員養成コースが設置されるに伴い、追手門学院 大学にも、将来のキャリアとして、日本語教師を志す学生が少しずつ増えてきた。彼らは、若者の 「内向き志向」が取り沙汰されるなか、国際交流や外国語習得に熱心で、なおかつ言葉を教える面 白さにも目覚めた前向きな学生たちである。しかし、国際教養学部が用意した日本語教員養成コー スは、3 年次まで、日本語学や日本語教育演習など、もっぱら日本語教師になるための座学に重き を置いており、生身の留学生に日本語を教える、いわゆる実習の機会は 4 年次に上がるまで巡って こない。せっかく日本語教育に関心を寄せていても、3 年次から本格化する就職活動で他業種に目 移りしてしまうせいか、それとも日本語教師の実入りの少なさを知るに及んでか、4 年次に筆者の 日本語教育実習を履修する学生はごくわずかである。日本語教育に興味のある日本人学生を、早め に日本語教育の現場に導き、4 年次の日本語教育実習までの空白を埋めることが急務である。 このように、それぞれ問題を抱えた両者─日本語を学びたい留学生と日本語を教えたい日本語教 師志望の日本人学生─の出会いを用意する授業を行ったらどうだろう。こうした発想から、筆者 「ペアワーク・アクティビティ」と 「ティーチング・プロジェクト」 国際教養学部アジア学科教授 梅村 追手門学院大学教育研究所紀要 29 2011 3 pp.1-16

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Page 1: 「ペアワーク・アクティビティ」と 「ティーチング ...は、春学期に、「ペアワーク・アクティビティ」、そして、秋学期に「ティーチング・プロジェク

Ⅰ はじめに

今年度の日本語聴解上級 1・2の B クラスで、筆者は、将来、日本語教師を志す日本人学生と、

日本語の運用能力を高めたい留学生が、2人一組になり、日本語を仲立ちにして学びあう、試行的

な授業を行った。本稿は、その実践報告である。

2010年 12月 25日現在、追手門学院大学には、153名(学部生 123名、大学院生 30名)の外国

人留学生が学んでいる。また、毎年、アメリカ、オーストラリア、イギリス、インドからも交換留

学生を 10名前後、受け入れている。彼ら留学生に共通した課題は、言うまでもなく日本語力の習

得である。中でも蓄えた言語知識(文字、語彙、文法)を活用して、日本人学生と同等、もしくは

それ以上に、書いたり読んだり聞いたり話したりできるようになることが、目下の課題である。し

かし、外国人留学生の常として、日本人学生と交わるよりも同国人、同地域人と徒党を組み、母語

だけでコミュニケーションをとりたがる。4、5年日本で暮らし、毎日、大学で講義や演習の授業

に参加していながら、なかなか思うように日本人と意思の疎通のとれない留学生は少なくない。

一方、国際教養学部へと改組が行われ、日本語教員養成コースが設置されるに伴い、追手門学院

大学にも、将来のキャリアとして、日本語教師を志す学生が少しずつ増えてきた。彼らは、若者の

「内向き志向」が取り沙汰されるなか、国際交流や外国語習得に熱心で、なおかつ言葉を教える面

白さにも目覚めた前向きな学生たちである。しかし、国際教養学部が用意した日本語教員養成コー

スは、3年次まで、日本語学や日本語教育演習など、もっぱら日本語教師になるための座学に重き

を置いており、生身の留学生に日本語を教える、いわゆる実習の機会は 4年次に上がるまで巡って

こない。せっかく日本語教育に関心を寄せていても、3年次から本格化する就職活動で他業種に目

移りしてしまうせいか、それとも日本語教師の実入りの少なさを知るに及んでか、4年次に筆者の

日本語教育実習を履修する学生はごくわずかである。日本語教育に興味のある日本人学生を、早め

に日本語教育の現場に導き、4年次の日本語教育実習までの空白を埋めることが急務である。

このように、それぞれ問題を抱えた両者─日本語を学びたい留学生と日本語を教えたい日本語教

師志望の日本人学生─の出会いを用意する授業を行ったらどうだろう。こうした発想から、筆者

「ペアワーク・アクティビティ」と

「ティーチング・プロジェクト」

国際教養学部アジア学科教授 梅村 修

追手門学院大学教育研究所紀要第 29号 2011年 3月 pp.1−16

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は、春学期に、「ペアワーク・アクティビティ」、そして、秋学期に「ティーチング・プロジェク

ト」と名付けた実験的な授業に取り組んでみた。

Ⅱ ペアワーク・アクティビティの概要

前者の「ペアワーク・アクティビティ」は、日本人と留学生の間に与件としてある“文化的ギャ

ップ”や、ファシリテータ1)によって“意図的に作り出された情報格差”を埋める、コミュニケー

ション・ゲームを通して、留学生には日本語運用力の向上を、日本人学生には異文化理解の促進を

企図した授業である。言いかえれば、外国人と日本人との間にある「異文化間のギャップ」と、

「外国人留学生と日本人学生の唯一の共通語が日本語である」という特殊環境を逆手にとって、自

然なコミュニケーション活動を作り出そうというアクティビティである。ペアワークと銘打ったの

は、その活動の大半が日本人学生と留学生の、1 対 1 の対話から構成されるからにほかならな

い2)。

ところで、外国語教育におけるコミュニケーション・ゲームとは

1.達成すべき何らかの課題があること

2.その課題を達成するために、他者との言葉のやり取りを必要とすること

3.課題遂行の巧みさや速さを競い合い、序列や勝敗が、賞罰や評価につながること

4.クラスの構成員相互に親和的な協調関係が形成されていること

などを条件としている。達成すべき事柄に対する学習者の動機付けがあまり高くない場合や、情報

格差を埋める言葉の能力に問題がある場合や、活動の成果が賞罰や評価に結び付かない場合や、日

本人学生と留学生に心理的な隔たりがある場合は、コミュニケーションが滞ったり、ファシリテー

タが学生に無理強いしたりする活動に陥る恐れがある。

そこで、本アクティビティでは、

1.明確な目標を設定し

2.口頭で正確な意思の疎通を必要とする場面を作り

3.ペアワークの成果をクラスで発表したり勝敗を競いあったりし

4.常日頃、国際交流教育センターに出入りすることが多く、筆者と顔みしりの学生に声をかけ

和やかな雰囲気の中で、メリハリの利いた活動になるように心掛けた。

Ⅲ ティーチング・プロジェクトの概要

一方、後者の「ティーチング・プロジェクト」とは、留学生が日本語学習の経験を活かして、日

本人学生に母語を教えながら、随伴的に日本語力の練磨を企図した、体験的な学習プロジェクトで

ある。留学生は、ここでは学生であると同時に教師でもある。教師役の留学生は、機能シラバス、

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もしくは状況シラバスを、ペアを組んだ日本人学生(生徒役)といっしょに作成し、話題提供(導

入・学習目標提示)→語彙・表現の導入・練習(新出語彙の意味や用法、慣用的な表現の発音や機

能の説明、練習)→会話練習(会話文の発話、意味説明、練習)→文法説明・練習(日本人学生

(生徒役)の質問に応じての説明)→発展練習、この流れを制限時間内で行う。また、日本人学生

の外国語学習の成果と、留学生の母語教育の成果は、ロールプレイとしてクラスメートに披露さ

れ、相互評価される。そのため、即席の外国語学習・外国語教授とはいえ、適度な緊張感と振り返

りの中で、学生たちは真剣に課題に取り組むことになる。

このプロジェクトの狙いは次の諸点である。

まず、留学生は、日本語学習者の“キャリア”を活かして、母語(中国語や英語やベトナム語)

を日本人に教えることで、外国語学習の“学びのプロセス”に自覚的になることができる。また、

教師の立場に身をおくことによって、外国語学習における“よい学び手”とはどんな学習者なの

か、実感することができる。さらに、母語を、日本人に、習い覚えた日本語を活用して、教える過

程で、「教えるための日本語」を習得することができる3)。

一方、日本人学生にとっては、目標言語である外国語のスキルを磨き、留学生と親睦を深める機

会であることは言うまでもない。それだけではなく、日本人学生は、つねに語学学習における「よ

い生徒」とはどんな生徒であるかを自覚することができる。なぜなら、かれらは、即席の素人外国

語教師である留学生にとって、たいへん意欲的で、教えやすい生徒であらなければならないから

だ。この制約の中で、日本人学生は、「能動的に学び、教師からよい説明や練習を引き出す生徒と

は、どんな学習者なのか」を発見することができる。さらに、授業で使う教材作成に参画すること

によって、自分が日本語教師になったときのコースデザインやシラバス作成の実習ができる。

Ⅳ 先行事例

このように、大学に設置された留学生のための日本語の教室に、同年輩の日本人学生がゲストと

して入り込み、ペアを組んでコミュニケーション・ゲームをしたり、留学生の母語を学んだりする

授業の試みは、極めて珍しい。その理由のひとつには、留学生に日本語を教え、同時に、日本語教

師を志す日本人学生に教授法を指導しているファシリテータが数少ないこと、また、普通、留学生

の日本語科目を日本人学生が履修することは認められておらず、仮に授業に出席しても卒業要件の

単位として認められないこと、さらに、留学生と日本人学生の間に異文化間の隔たりが大きく、打

ち解けあうことが難しいことなど、さまざまな理由が考えられる。

しかし、これは非常にもったいないことであるといわざるをえない。

巷の日本語学校とちがい、大学には、留学生と同年輩の日本人が共に学んでいる。この教育的リ

ソースを日本語教育に活用しない手はないだろう。幸い、筆者は学内の外国人に対する日本語教育

の責任を負いつつ、日本語教員養成の仕事にも携わっているし、たとえ単位にならずとも、留学生

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とのアクティビティに積極的な日本人学生を何人も知っている。また、異文化間のギャップは所与

の前提であり、これは、いかんともしがたいとはいえ、逆にその隔たりこそがアクティビティの動

機になりうると常日頃から考えている。

もとより、大学で日本語教育や日本語教授法の授業に関与する教員であれば、TA として、また

教育実習生として、日本人学生を留学生の教室に迎え入れて、補助的な教育活動に当たらせたり、

研修の機会を提供したりということは、日常的に行われているだろう4)。また、筆者と同様の発想

から、日本人学生と留学生のインターアクションによる授業を進めている教員も、あまたおられる

に違いない。

しかし、不思議なことに、教育実践の報告はほとんど残されていない。また、教育効果の程を検

証した成果も寡聞にして知らない。

Ⅴ ペアワーク・アクティビティの実際

春学期の日本語聴解上級 1 B のクラスには、中国人学生 4名(劉虎さん、劉淑芸さん、白亜彬さ

ん、陳秀琴さん)、ベトナム人学生 1名(ダン・バン・ハーさん)の計 5名の履修者があった。一

方、対する日本人学生は、石森大地君(アジア 4回生)、北野真実さん(アジア 2回生)、矢尾昂永

君(アジア 2回生)、大津裕矢君(アジア 1回生)、加藤涼さん(心理 1回生)、都筑裕也君(経済

1回生)、山田紗稀さん(心理 1回生)の 7名。このうち、心理と経済の学生は、学則上、日本語

教員養成コースの履修は認められていない。それにもかかわらず、国際交流への興味から授業に参

加してくれていた。

まず、授業の開始に当たって、留学生、日本人学生の両方に、授業の基本方針を掲げた。それ

は、

1.ばかばかしいと思えることでもまじめにやること

2.教師の指示には絶対服従すること

3.大きな声で発表すること

以上の 3つである。ペアワークは座学ではないから、大学の教室で行うにしては、あまりに他愛の

ない“遊び”の要素が多い。しかし、それらはただの悪ふざけや冗談ではない。いずれも教育的な

意図が伏在する。だから生真面目に取り組んでほしい。時には、恥ずかしくて躊躇してしまうアク

ティビティもあるかもしれないが、ファシリテータの命令は神の声であると思って、謹んで従って

ほしい。また、縮こまった身体で、蚊の鳴くような声を出していてはコミュニケーション不全に陥

ってしまうから、どうか身体を開いて大きな声で発言してほしい。とくに、最後の基本方針は、留

学生への注意というより、もっぱらシャイな日本人学生に対する注意であった。

1コマ 90分の授業時間は、毎回おおまかに 3つのアクティビティからなる。すなわち、

1.「準備、心と体のほぐし」

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2.「うちとけ、ラポール5)形成」

3.「コミュニケーション」

と名付けた。以下に、それぞれのアクティビティの実際例を示したい。

1.「準備、心と体のほぐし」

「準備、心と体のほぐし」では、ペアワークの前に、硬直した身体と心を解き放つべく、童心に

帰って集団遊びをした。

(1)「1分間揺さぶり体操」

毎回、欠かさず繰り返したのは「1分間揺さぶり体操」と称する、気味の悪い体操だ。全員で輪

を作り、ファシリテータの合図とともに、全身の力を抜いて、自分があたかも理科室の骨格標本に

なって、天井から吊り下げられているつもりになる。そして、ファシリテータの合図とともに、全

身から力を抜いて、ひざの屈伸を利用して、身体を上下に揺さぶる。できれば、表情も弛緩させた

ほうがよい。これを教師も含めて教室全員でやっていると、傍目にはトランス状態に嵌り込んだ、

カルト教団の儀式を思わせたに違いない。

(2)「アイ・レーザービーム自己紹介」

初回の授業では、ご多聞にもれず、自己紹介をさせた。しかし、ありきたりの自己紹介ではな

い。「アイ・レーザービーム(Eye Laser Beam、熱視線、激光)自己紹介」という。まずは、型ど

おり、順番に前に出て自ら語る。そのとき、聞き手の学生も立っている。自己紹介は、時間も内容

も問わないが、一つ条件がある。それは、前に出た話し手の学生が、聞き手全員に、熱い視線(ア

イ・レーザービーム)を送ることだ。つまり、話し手はしっかり相手の目を見ながら言葉を送り届

けなければならない。そして、前に立って話している人物から、「熱い視線を送られたな」と思っ

た人から順に椅子にかけていく。話し手は全員の聴衆を座らせるまで、自己紹介をやめることがで

きない。早く全員を座らせることができればよし、うまく視線を送り届けることができない学生

は、自己紹介をなかなか終えることができない6)。

(3)「New Face 聞き取り調査」

ところで、このクラスには、ときどき授業の噂を聞きつけて、飛び入りでゲストが加わることが

あった。それは日本人学生だったときもあるし、留学生だったときもあるが、そんな場合は、必

ず、自己紹介をしてもらってからアクティビティに合流してもらう。その自己紹介を「New Face

聞き取り調査」となづけた。

まず、全員起立する。そして、ヴィジター(ゲストの学生)に「できるだけおもしろい自己紹介

をしてくれ」と頼む。レギュラー(常連の学生)は、「話し手の目を見る、微笑む、頷く、そして

相槌を打つ。」この 4つを確実にこなし、よい聞き手であることに努める。自己紹介が終わった

ら、オーディエンスは、相手が思わず答えたくなるような、魅力的な質問をしなければならない。

質問をした学生から着席していく。最後に、教師が、ヴィジターに「あなたにとって、いちばんい

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い質問をしてくれた人はだれでしたか」と聞き、「この人!」と指差してもらう。指さされた学生

は果報者となり、その日のペアワークのパートナーになるわけである。

(4)「真似っこ動物ゼスチャーゲーム」

また、ある時は「真似っこ動物ゼスチャーゲーム」というのをやったことがある。留学生、日本

人が交互に横並びになるようにサークルを作る。まず、ファシリテータが A を指名して、ある動

物のゼスチャーをさせる。それを見て、隣の B がそれをまね、C に伝えていく。「まねっこ」がぐ

るりと一巡したら、さきほどの A が B を指名して、ある動物のゼスチャーをさせる、というアク

ティビティだ。

(5)「何しとんねん?」

似たようなアクティビティで、「何しとんねん?」という吉本興業的なノリのゼスチャーゲーム

で盛り上がったこともある。全員で同様のサークルを作り、A があるゼスチャー(例:ラーメン

を食べている)をする。隣の B がそれを見て、「何しとんねん」と聞く。ところが、聞かれた A

は、自分のしているゼスチャー(「ラーメンを食べている」)とは、全く違う答えをする(例:「見

ればわかるやろ。たこ焼き、食べてんねん」)。そう言われた B は、即座にそのゼスチャー(「たこ

焼きを食べる」)を表現する。そして 3人目の C が B に「何しとんねん」と聞き、聞かれた B

は、たこ焼きを食べるふりをしながら、「鼻糞ほじってんねん」とか「キスしてるねん」とかでま

かせをいう。それを C が身体で表現する・・・・というように、まわしていく。自分がやりやす

く、皆にもわかりやすいゼスチャーを一つ考え、臨場感あふれた演技を心がけるのがコツである。

(6)「ねえ、ちょっと、そこのあなた」

また、あるときは、「ねえ、ちょっと、そこのあなた」と名付けた、怪しげなアクティビティに

爆笑したこともある。まず、黒板に背中を向けて、全員が均等に距離をとって教室に散らばる。ま

ず、模範演技として、ファシリテータが教卓から、特定の誰かの背中に向けて“念力”を差し向け

て、「もしもし」とか、「ねえ、そこのあなた」とか、「君、そう、君のことだよ」とか、日本語で

声をかける。目の前に立っている人に向けてなら、当然、小声で囁くように、逆に教室の端っこに

たたずむ人に向けてなら、カン高い大声で叫ぶように、真正面の人にならあたかも矢を放つよう

に、呼び掛けるだろう。また、教室に散在している人たちも、全身を耳にして背後から聞こえてく

る呼びかけに耳を澄ます。

当然ながら、呼び掛ける人は、意中の人のことを実名で呼びかけてはならない。あくまでも“思

い”を、日本語の抑揚やストレスや強弱に託して相手に伝えるのである。こうして、呼びかけられ

た当の人が、「はい」と振り向けば OK。今度はその人が教卓から呼びかける役になる。逆に、一

時に複数の人が振り返ってしまったり、全く見当違いの人が呼応したりしたら失敗である。その人

はいつまでも「ねえ、ちょっと」を繰り返さなければならない。

(7)「一文回し書き作文」

また、「一文回し書き作文」というアクティビティを試みたこともある。まず、日本人学生と留

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学生が交互に机を持ち寄って車座になってかける。つぎに、ファシリテータが全員に A 4の紙を

配り、紙の上方に人数分の通し番号を振らせる。そして通し番号 1に、物語の書き出しに相当する

一文(センテンス)を書かせ、書いたら全員が時計回りに次の人に渡していく。そして、通し番号

2に、冒頭の一文(通し番号 1の文)を引き継ぐ物語を考えて書く。まるで連歌のように、制限時

間内で全員で話を自在に展開させていく。そして、ぐるりと一巡したときに、一話が完結していな

ければならない。イメージとしてはサイコロの 6つの面を埋めていく作業に似ていて、単なる起承

転結ではなく、局面が変わりつつ話の筋が展開し、最後には決着をみる、といった話の組み立て方

ができれば最高だ。

そのほかにも、日本人なら誰しも遊んだことがある「フルーツバスケット」や「ウインク・キラ

ー」や「連想ゲーム」などをやったこともあるし、「大声!他者紹介」、「逆引きかるたとりゲー

ム」など、ゲームの名前から、その内容もおおよそ見当がつくようなアクティビティに取り組んだ

こともある。総じて、単純にして動きを伴うウォーミングアップが「準備、心と体のほぐし」の中

心である。

2.「うちとけ、ラポール形成」

「うちとけ、ラポール形成」では、「準備、心と体のほぐし」で温まった身体と上気した気分をそ

のままに、日本人学生と留学生が 2人一組になって、お互いのことをよく知り、親和感を醸成する

ためのアクティビティをする7)。

(1)「愛の告白」

たとえば、「愛の告白」ゲームというアクティビティでは、男女(日本人と留学生)でペアにな

り、向かい合って見つめ合い、相手の異性としての魅力を書きあげる。容貌でも性格でもかまわな

い。そして、まず、日本人学生が留学生に日本語で求婚する。できるだけ相手が思わずプロポーズ

を受け止めたくなるように、情理を尽くして熱烈に愛を告げる。次に、留学生が日本人学生に日本

語で同様のプロポーズをする。最後に、「相手の求婚を受け止めたくなったか」というファシリテ

ータの問いかけに、恥ずかしそうに頷けたら成功である。

(2)「即席占いゲーム」

また、「即席占いゲーム」というペアワークをしたこともある。まず、ペアになり、向かい合い、

1分間にらめっこをする。そして、相手の表情だけから、最近の彼(彼女)の身の上に起こった出

来事を言い当てる。この段階で正解を導けたら本物の占い師顔負けだが、そんなことはまずあり得

ないので、次に、自分の今の気分を表情やゼスチャーで相手に伝え、その表情が何に起因している

のかを推測させる。次に、「最近、どうですか」と相手の状況を取材し、次週の相手の運勢を、相

手に見えないように、具体的に予測して書き、封筒に封入し、「来週、開封してください」といっ

て手渡しする。そして、実際に次週の授業で開封して検証してみる、というアクティビティだ。ま

れに、ズバリ当たることがあり、言い当てた学生はしばらくクラスメートから畏敬の眼差しで見ら

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れていた。

(3)「私の食事体験」

また、「私の食事体験」という、人気テレビ番組「くいしん坊、万才」から着想したアクティビ

ティも面白かった。これは、味覚や触覚といった、五感で感じた感動を言葉で表現し、聞き手の共

感を引き出す力を鍛えるトレーニングの一つである。まず、自分が今まで食べてきた食材や料理の

中で、非常に珍しかったもの、とても美味しかったもの、非常にまずかったものなどを思い出す。

そして、2人一組になってその感動を相手に伝える8)。聞き手は、話し手が興に乗って話しやすい

ように、できるだけ目を見て、あいづちをうち、ほほえみを絶やさないよう心がける。話が終わっ

たら、相手の食事体験をみなの前で話す。おいしいものなら聴き手が生唾を飲み込むぐらい、まず

いものなら聴き手が吐き気を催すぐらい、上手に話せたら最高だ。

3.「コミュニケーション」

ペアとして十分なラポールが形成されたら、いよいよ本格的な「コミュニケーション」に入って

いく。すなわち、日本人と留学生の間に、所与の前提としてある“異文化間のギャップ”や、“意

図的に作り出された情報格差”を埋めるコミュニケーション・ゲームを通して、留学生の日本語運

用力の向上、日本人学生の異文化理解の促進を企図したアクティビティである。

(1)異文化間ギャップを逆手にとったアクティビティ

まず、日本人と外国人の間にある異文化間ギャップを逆手にとったアクティビティの実践例を示

したい。

①「日本の常識、世界の非常識」

ペアになった日本人学生と留学生が、自国の「常識」と「非常識」について、議論する。そし

て、「自分は常識だと思っていたけれど、相手の国では非常識」なこと、反対に、「自分の国では非

常識だが、相手の国では常識的」なことを、できるだけたくさん発見するアクティビティである。

まず、自分が常識だと思っていること、非常識だと思うことを、できるだけ書きあげる。たとえ

ば、

・「健康のために水をたくさん飲まなければならない」VS「水は体に悪いから湯冷ましを飲んだ

方がいい」

・「ビールは冷えていなければおいしくない」VS「冷えたビールは体を冷やすので生ぬるくても

いい」

・「電車の中で化粧をするのはおかしい」VS「電車の中は身だしなみを整える場所である」

・「お正月は家族全員が集まる」VS「お正月は家族が集まらなくてもいい」

・「贈り物をもらったら、次に会ったとき再度お礼を言う」VS「お礼は贈り物をもらったときだ

けでいい」

そのほか、「食事中にテレビを見てはいけない」「食事中は話をしてはいけない」「デートの時に 30

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分くらいなら遅れてもいい」「プレゼントは贈ってくれた人の目の前で開封するものだ」等々、書

き挙げられた。

つぎに、二人で、書きだした常識と非常識を見比べ、相違点を 5つ探し出す。そして、最後に、

相違点を黒板に書き出して、それを常識(非常識)だと考える根拠を日本人学生と留学生で議論す

る。

②「ここが変だよ、日本人」

以前、全国放送で茶の間を賑わせた、同名の人気バラエティーショーから着想したアクティビテ

ィ。「ここが変だよ、日本人」というテーマで、ペアの留学生が、日頃、体験したり見聞したりし

ている日本人の“異常行動”をあげつらう。たとえば、「日本のサラリーマンは夜遅くまでお酒を

飲んでいる。これは変だよ。」というようにまとめる。ペアの日本人学生は、この指摘にたいし

て、日本人を代表して説明を試みる。また、「日本の常識=世界の非常識」のステレオタイプな事

例をいくつも提示して、「よく日本人は外国人からこんな指摘を受けるが、どう思うか」と“挑

発”する。

議論を通して、一通りの決着を見た問題はさておき、議論が紛糾した事例については、板書し、

クラスで共有する。そして、板書された留学生の質問に、その場の留学生全員が「なるほどー」と

いう説明ができるまで、ディスカッションをする。納得できなかったら、留学生たちは「変だよ

ー」を繰り返す。

③「私のかわいい写真」

ペアの日本人学生の幼いころの写真を話題にして、取材(インタビュー)したり、答えたりす

る。最後に、留学生が取材の結果を報告する。このアクティビティは、一見、異文化間のギャップ

を利用したアクティビティには思えないかもしれないが、一枚の写真から導かれる質問は、生活習

慣の違いはもちろんだが、写真撮影という行為そのものに起因している場合が多い。たとえば、

「なぜ、日本人はみんな指を二本立てて写っているのですか」と外国人に聞かれて、即座に説得力

のある答えを用意できる日本人は少ない。

さて、手順だが、まず教室設置のプラズマテレビに、日本人学生の幼い頃の写真を映し出す。そ

して「これはだれだ?」と、クラス全員で当っこをする。

つぎに、2人一組(もしくは 3人一組)になる。日本人学生の幼いころの写真を見て、留学生は

質問を考える。3人一組の場合は、日本人のうち、一人は留学生に付き添い、「こんな質問はどう

か」と提案する。そして、質問の中に、必ず「子供時代の最大の事件はなんでしたか」を入れるよ

うにする。

留学生は取材(インタビュー)の結果を、3分間以内にまとめて、前に出て皆に紹介する。もし

言葉に詰まったら、付き添った日本人学生が助太刀する。聞いている人は、質問を用意して話を聞

くようにする。

梅村 修:「ペアワーク・アクティビティ」と「ティーチング・プロジェクト」

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(2)意図的に作り出された情報格差を埋めるアクティビティ

つぎに、“意図的に作り出された情報格差”を埋める、コミュニケーション・ゲームを紹介した

い。

①「喜劇のあらすじを日本語で語る」

ローワン・アトキンソン主演のビジュアルコメディ、「ミスター・ビーン」を見て、何が面白い

のかを相手にわかるように説明するアクティビティ。

まず、留学生だけの教室と、日本人だけの教室に分ける。そして、二つの教室で、同時並行で、

「ミスター・ビーン」を 12分間、見せる。もちろん、日本人学生の教室で再生されている「ミスタ

ー・ビーン」と、留学生の教室で再生されている「ミスター・ビーン」は、全く違うストーリーで

ある。視聴し終わったら、ペアになって、今、見たビデオの展開を日本語で説明し、どこがおもし

ろかったか、何がおかしかったかを説明する。このとき、その説明によって、相手が本当に腹を抱

えて笑ってくれなければならない。

つぎに、教室を交代して、相手が見ていた「ミスター・ビーン」をそれぞれ鑑賞し、相手が勘所

をとらまえた説明ができていたかどうかを検証する。

このアクティビティを応用して、「ホラーのあらすじを日本語で語る」というアクティビティも

試みたことがある。ずなわち、「百物語」のような怪談を視聴して、何が怖いのかを相手にわかる

ように説明し、相手が思わず「こわーい」といったら成功、というものだ。案に相違して、「笑

い」のツボに関しては、異文化間のギャップがそれほど表面化しない。それに対して、「何に恐怖

を感じるか」は、日本人学生と留学生の間に微妙なズレがあった。したがって、「恐怖」を異文化

間で共有することは、「笑い」を共有するよりも難しいという発見があった。

また、同じく応用編として、「寸劇のあらすじを日本語で語る」というアクティビティも行った

ことがある。教材は 1989年に一世を風靡した JR 東海のテレビ CM「クリスマス・エクスプレス

(深津絵里編、牧瀬理穂編)」だ。この CM を留学生と日本人学生に分かれて視聴し、寸劇に描か

れていない前後の状況を自分で想像し、話を膨らませて、相手にわかりやすく説明することを課し

た。CM は 15秒や 30秒という放送枠で商品の便益や企業のブランドを消費者に訴求しなければな

らない。当然、そこには凝縮された情報が満載されている。これを読み解き、映像広告の意図を説

明するのである。

②「だれだ?そりゃ」

筆者がまだ学齢期にあった頃だから、35年以上前だろうか。毎週、日曜日、NHK の「お笑いオ

ンステージ」というバラエティー番組に中で、「減点パパ」というコーナーが放映されていた。著

名人の息子や娘がステージに現れて、司会の三波伸介が出演者のコメントにしたがって、彼(女)

の父親の似顔絵を描く、という番組だった。この番組に着想を得たアクティビティ。有名人の顔写

真(マリリン・モンローや毛沢東やアインシュタインやレオナルド・ダ・ヴィンチやジョン・レノ

ンなど有名人の写真、ときに余興としてファシリテータの写真など)を使って、その特異な風貌

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を、留学生に日本語で、限りなく正確に説明させる。

まず、ペアになり背中合わせに椅子にかける。ファシリテータが留学生に有名人の写真を配付す

る。そして「あとで見せあうまで、相手に写真を見せてはいけない」と指示する。

つぎに、留学生は、それを背中合わせの状態のまま、日本人学生に言葉だけで写真の人物の容姿

を伝える。決して、その有名人の実名を言ってはいけない。彼(女)の外見的な特徴だけから、相

手がその人物を彷彿とするような説明に心がける。日本人学生は、留学生の説明を聞きながら、背

中合わせのままで紙にペンを走らせて似顔絵を描きだす。いよいよ絵が出来上がったら相手に絵を

見せ、だれの顔かを言い当てる。最後に、出来上がった似顔絵を教室の黒板に貼って、皆で観賞す

る。実際の人物写真と比較して、その差異を楽しむのも一興だ。

このアクティビティで際立つのは、日本人学生の作画リテラシーの驚くべき高さである。それは

各国の留学生を一様に瞠目させるもので、世界に冠たるマンガ大国・日本の若者の面目躍如たる感

がある(図 1参照)。

なお、有名人の写真以外にも、物語性のある写真(美しい風景や写真パネルなど)や、世界的に

知られた名所・旧跡の写真を使うという方法もある。

③「本物はだれだ」

このアクティビティは、先の「だれだ?そりゃ」の応用編で、これまた 30年ほど前、NHK で放

映されていたクイズ番組「ホントにホント」から着想を得たものだ。

まず、4人一組になり、一人ずつ、自分の特殊な経験(例:私は救急車で運ばれたことがある、

私はバキュームカーの掃除のアルバイトをしたことがある)や、特別な履歴(例:私のおじいさん

のお父さんはロシア人でした)、誰も知らない秘密(例:じつは私の髪の毛は鬘です)、私の初恋、

死ぬかと思った体験など、相手がびっくりしたり、感心したりするであろうことを発表する。

聞き手は面白かったら、フジテレビ系列の人気番組「トリビアの泉~素晴らしきムダ知識」さな

がらに「へー」と大げさに反応する。もしつまらなかったら「あっ、そう」といなす。4人が全

員、体験談を語り終えたら、その中から、いずれか一つ、面白い話を選ぶ。できるだけ、奇抜で特

図 1 「だれだ?そりゃ」のペアワークで、日本人学生が作画した人物の似顔絵の 1例

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殊な体験がいい。

つぎに、4人が前に並んで、さきほど皆で選んだ、とっておきの経験や秘密を語る。しかし、そ

の面白い話は、4人のうち 3人まで、自分自身の経験や秘密ではない。すなわち 4人のうち、3人

までは実体験を持たない偽モノである。偽モノの 3人は、その体験や経験や秘密を、あたかも本当

に自分の身の上に起きたことのように語らなければならない。

オーディエンスのクラスメートは、本モノ(1人)と偽モノ(3人)の混じった 4人に、様々な

質問を浴びせかけ、だれが本モノかを見極める。そして、最後に「せーの」で一斉に本物だと思う

人を指差す。

④「二人でテレビ・ショッピング」

「ジャパネットたかた」の「テレビ・ショッピング」のように、二人の掛け合いで、商品の機能

や低価格を訴えて、聴衆が思わず買いたくなるように仕向けるアクティビティ。まず、日本人と留

学生がペアになって、インターネットで配信された「スタジオ 242」の動画を見る。次に、ファシ

リテータが持参した商品を一つ選び、その商品のセールスポイントを二人で考える9)。準備ができ

たら、留学生が聞き手、日本人が商品説明役を演じる。聴衆は二人の掛け合いを聞きながら、バー

チャル貨幣で実際に何か最低一つはお値打ちに購入することが義務付けられており、二人のセール

ストークが終わったら、教室はオークション会場に、前の二人はオークショニア(競売人)に早変

わりする。二人は、バナナのたたき売りさながらの口上で何とか高値で競り落とせるよう、一方オ

ーディエンスは何とか安く買い叩けるよう、丁々発止のやり取りをする。この模様をファシリテー

タは DVC に録画し、次週の授業で視聴する。

このアクティビティはたいへん盛り上がる。日本人学生はもちろん、留学生も、日本の消費社会

の渦中で生活しているせいか、商品を売り込むための日本語は、実に巧みに使いこなすことができ

る。

以上、「ペアワーク・アクティビティ」の実際例を、「準備、心と体のほぐし」、「うちとけ、ラポ

ール形成」「コミュニケーション」の三つのアクティビティに分けて紹介してきた。なお、ペアワ

ークの後には、必ず、ペアを組んだ相手についてコメントや感想をかかせて、相手に渡す。常にア

クティビティの相手から最終的なリアクションがあることを予定しながらアクティビティをするの

である。

Ⅵ ペアワーク・アクティビティ参加者の声

ペアワーク・アクティビティは、かろうじて、春学期の 13回の授業を全うすることができた。

日本語教師を志す日本人学生と、日本語を学ぶ留学生の出会いを用意する、という初期の目標は達

成できたと思う。ただ、双方の異文化理解の促進や、留学生の日本語運用力の養成がどれほど進展

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したか、心もとない。残念ながら、筆者はこのアクティビティの教育効果の程を定量的に測定する

術を持たないので、ここには、授業に参加した学生の声を書きとめておきたい10)。

・とても楽しかったです。留学生と仲良くなれて、いい経験になりました。(大津裕矢君)

・この授業はとても奇抜で、新鮮な授業でした。留学生とうまくコミュニケーションがとれるかど

うか、一番最初にこの授業に来た時は、大変不安でした。しかし、石森先輩が上手くバックアッ

プして下さり、次第に自分だけでもペア・ワークができるようになり、少しはお役に立てたかと

思います。私自身にも、こんな経験ははじめてだったので、これからの大学を含めた生活、人生

の中で、素晴らしい糧になると思います。授業に参加できて、本当に良かったです。ありがとう

ございました。(加藤涼さん)

・留学生と交流できて、楽しい授業でした。この授業を通して知り合えた人もいたので、本当によ

かったと思います。(矢尾昂永君)

・追大で日本語を勉強することがとても面白かったです。この 2010年の春学期は、特別なクラス

であって、普通のクラスじゃなくて、ペアワークで留学生と日本人の学生で一緒に日本語を勉強

して、いろいろなことをしました。ゲームをやったり、インタビューをやったり、とてもおもし

ろかったので、私にとても役に立ちました。このクラスで勉強したことは、すぐに使えます。私

にとって、このペアワークは初めてでした。ベトナムではしませんでした。(ダン・バン・ハー

君)

・この授業みたいな形式の授業を受けたことがありませんでした。この授業では楽な雰囲気の中

で、日本人とゲームをしたり、ビデオを見たり、しゃべったりして、本当に楽しかったです。こ

の授業が大好きです。しかも、留学生として、日本人と友達になるのはなかなか難しいとおもっ

ていたんですけれども、この授業でいっぱい友達ができました。本当に嬉しいです。授業中、日

本人と話して、たくさんの知らないことと不思議なことがわかってきました。とても面白かった

です。(劉淑芸さん)

・いつも日本語の授業は単調な授業だと思います。前は、梅村先生の聴解授業はラジオを聞いて、

作文を書く授業と聞きました。最初は半年の日本語授業がどうしようと思いました。しかし、先

生の授業を受けて、前の話と全然ちがいます。単調ではなく、とてもおもしろい授業です。日本

人とペアを作って、ゲームをしたり、ビデオを見たり、終わったら、日本人の相手に説明しま

す。それは本当の日本語授業だと思います。遊びながら知識を身につけます。それは一番有効な

語学勉強だと思います。先生の授業が大好きです。また秋学期、先生の授業に期待しておりま

す。(劉虎さん)

・この半年、みんなと一緒で楽しかった。先生が仕事に熱心で感動した。ゲームの授業はおもしろ

かった。僕にとってこんな授業は初めてだったけど、すごく好きだった。日本の皆さんもやさし

かった。わざわざ来てくれて本当にありがとうございます。ペアワークの時間帯は相手と話して

日本人に関していろいろわからないことがわかるようになった。誰とペアになったら一番うれし

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いかといったら難しい。みんな親切だし聞いたら何でも答えてくれる。(白亜彬君)

・この授業は、日本語を現場で活用することに役に立つと思います。前のプリントやテキストに沿

って勉強する日本語の授業ではなく、日本人と一緒にペアワークをする授業です。日本人と一緒

にゲームをしたりすると、日本語を日常生活で活用するのが難しいと思っていましたが、正しい

日本語をうまく話す能力がアップしたと思います。本当に楽しかった。特にテレビ・ショッピン

グが印象深かった。そして日本人の友達も作って楽しかった。みんな優しいしおもしろいし、出

会えて本当に最高だと思います。(陳秀琴さん)

Ⅶ ティーチング・プロジェクトの実際

秋学期の日本語聴解上級 2 B のクラスには、中国人学生 4名(劉虎さん、劉淑芸さん、白亜彬さ

ん、陳秀琴さん)、ベトナム人学生 1名(ダン・バン・ハーさん)の計 5名の履修者があった。ま

た、正規に履修したわけではないが、当授業に興味を抱いて自主的に参加した交換留学生が 2名い

た。一人は、アメリカ人男性(Cuppett, Kevin Jerald さん)、もう一人は豪州人女性(Barber, Zoe

Ann-Marie さん)である。したがって、母語(英語、中国語、ベトナム語)を教える教師役の学生

は、全部で 7名である。

一方、対する日本人学生は、津田聖実さん(英コミ卒業生)、藤本美芙遊さん(アジア 4回生)、

池田茉実さん(アジア 4回生)、藤井あゆみさん(アジア 3回生)、藤立宗隆君(アジア 3回生)、

北野真実さん(アジア 2回生)、堀部綾乃さん(英コミ 2回生)、金本涼子さん(英コミ 2回生)、

大津裕矢君(アジア 1回生)、加藤涼さん(心理 1回生)、の 10名だった。ただし、就職活動の真

っただ中にある人、クラブ活動や必修授業がダブっている人、病気がちになってしまった人など、

皆さんそれぞれ事情があって、日替わり自転車操業にならざるを得なかった。また、基本的に、英

語コミュニケーション学科の学生は、二人の欧米系の交換留学生とペアを組み、アジア学科の学生

は、中国人留学生とペアを組むことになるが、ベトナム人留学生とペアを組む学生が見当たらず、

やむなくファシリテータが学生を務めることになった。

さて、本稿を書き進めている 2010年 12月 25日現在、このプロジェクトは、まだ進行中であ

る。したがって、ここでは、1回の授業で扱うシラバスの概略と、ここまでの授業で扱ったテーマ

(場面と機能)を書きあげるにとどめたい。プロジェクトの成果や課題については、稿を改めて論

述したい。

1.ティーチング・プロジェクトのシラバスの概略

(1)話題提供・・・・・・日本語で、その時間に学ぶ内容に対して、日本人が興味を抱くような

話題を提供する。また、暗黙知やスキーマを共有するために、確認を

する

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(2)語彙・表現の導入・練習・・・・・・新出語彙の発音と意味を説明、練習する。

(3)会話練習・・・・・・日本人学生(生徒)が覚えられる分量の会話を用意し、学生の発問に

応じて、(4)の文法説明をし、役割を変えて発話練習をし、徹底的に

覚えこませる。

(4)文法説明・・・・・・日本人学生(生徒)の質問に答える形で行う。

(5)発展練習・・・・・・ロールプレイやゲームをする。

2.テーマ(場面と機能)

(1)パーティー会場・・・・・紹介する

(2)キャンパス・・・・・誘う、勧める、申し出る

(3)レストラン・・・・・頼む、要求する、命令する

(4)旅行代理店・・・・・希望する、願望する

(5)デート・・・・・ほめる

(6)電話・・・・・伝言する

(7)家族の写真・・・・・比較する、対比する

(8)セールスマンの来訪・・・・・意志を表明する、断る

注釈1)筆者・梅村のこと。本稿では、日本語教師一般を指す“教師”と区別するために、あえてファシリテータという呼称を用いた。

2)時には 3人以上が関わるアクティビティもあったが、広義のぺアワークと解釈していただきたい。3)当然ながら、留学生は長らく日本語の学習者であった。したがって、常に教えられる、もしくは導かれるための日本語を浴びせかけられてきた。つまり、「発問」や「指示」といった遂行的な日本語を教室で教師から投げかけられてきたわけである。ところが、こうした「発問」や「指示」は、身近でありながら、留学生自身の口からはほとんど発せられたことがない。こうした日本語を教師という立場になることで、臆せず発することができる。

4)ゲストとして、語学教育の教室に、目標言語を母語とする外国人を招いて、コミュニカティブな活動を行う「ヴィジター・セッション」などがその例である。

5)ラポールとは、臨床心理学の用語で、精神的な悩みを抱えたクライアントと、心理療法を施すセラピストの間に、警戒感のない感情の交流が行える信頼関係が成立している状態を指す。本稿では、この術語を援用し、日本人と留学生が心の隔てや蟠りがない、親和的な関係にあることをラポールと称している。

6)教師はストップウォッチを持参しており、自己紹介の内容はもとより、その速さを競わせるわけだ。7)「うちとけ、ラポール形成」のアクティビティは、次の「コミュニケーション」のアクティビティの前座に位置づけられる。基本的に「うちとけ、ラポール形成」でペアになった学生は、そのまま「コミュニケーション」のアクティビティに移行することになる。

8)ただし、「おいしい」と「まずい」という二つの表現は禁句である。9)マクドナルドの「ハッピーセット」のおまけ、熱帯魚用えさ「赤虫」、肩こりや筋肉痛を癒す金属ボールなど、「だれがこんなもの買うだろうか」と思うような、いかがわしいもののほうが面白い。

梅村 修:「ペアワーク・アクティビティ」と「ティーチング・プロジェクト」

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10)言葉遣いや表現の不適切はあえてそのまま表記してある。

参考文献大鐘雅勝(1996)「『英語のペア学習』わくわくワーク集(英語授業改革双書 No.12)明治図書

謝辞本「ペアワーク・アクティビティ」、および「ティーチング・プロジェクト」の実施にあたっては、日本人

学生の手配のために、国際教養学部アジア学科の松家裕子教授にたいへんお世話になりました。また、交換留学生の授業参加にあたっては、国際交流教育センターから、ご支援をいただきました。深く感謝申し上げます。さらに、授業や就職活動で忙しいなか、都合をつけて留学生の授業に出席してくれた日本人学生の皆さん、本当にありがとうございました。

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