日本の新しいファッションブランドの構築 ~メイド …’論/8...199...

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甲南大学 マネジメント創造学部 2017 年度 卒業研究プロジェクト 指導教員 佐藤治正 日本の新しいファッションブランドの構築 ~メイドインジャパンを世界へ~ 11481095 中嶋 絵梨 目次 1.日本のファッション業界 2.日本の強みを活かした企業の事例研究 3.海外市場における日本製品の受け入れられ方 4.海外市場開拓に向けた日本の新しいブランドの構築 5.日本製品の強みを活かした海外市場開拓~中国をターゲットに~

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甲南大学 マネジメント創造学部

2017 年度 卒業研究プロジェクト

指導教員 佐藤治正

日本の新しいファッションブランドの構築

~メイドインジャパンを世界へ~

11481095 中嶋 絵梨

目次

1.日本のファッション業界

2.日本の強みを活かした企業の事例研究

3.海外市場における日本製品の受け入れられ方

4.海外市場開拓に向けた日本の新しいブランドの構築

5.日本製品の強みを活かした海外市場開拓~中国をターゲットに~

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目次

はじめに

1.日本のファッション業界

1-1. 日本のファッション業界の現状

1-2. 日本のファッション業界をめぐる環境変化

2.日本の強みを活かした企業の事例研究

2-1.「ラコステ」本社が認める技術と品質「ヴァルモード」

2-2.自社工場を持つ「メーカーズシャツ鎌倉」

2-3.桃太郎ジーンズを海外に展開「ジャパンブルー」

3.海外市場における日本製品の受け入れられ方

3-1.日本製品全般に対する諸外国のイメージ調査

⑴ 日本製品=高品質なのか

⑵ 他国を上回る「高品質」なのか

3-2.海外市場における日本製ファッションへのイメージ

4.海外市場開拓に向けた日本の新しいブランドの構築

4-1.メイドインジャパンを強みに ~ユニクロとしまむらを参考に~

4-2.クールジャパン政策における日本のファッション

5.日本製品の強みを活かした海外市場開拓~中国をターゲットに~

5-1. 中国市場の魅力

5-2. 中国のアパレル市場とニーズ

5-3. デザインやサービスの価値で顧客を獲得「マッシュホールディングス」

5-4. 越境 EC で中国市場開拓

おわりに

参考文献

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はじめに

ファッションとは、一般に衣類だけではなく、靴、バッグ、帽子、宝飾品、香水、化粧

品にまで至り、人々が身に着ける全てのものに関連した広義の言葉である。ファッション

は、いつも私たちの身近にあり、誰もが生活の中でそれを楽しむことによって、人生を彩

る価値ある存在である。しかし、考えてみると現在取り入れているファッションは海外か

ら輸入されたものが多い。本論文では、日本のファッション業界が世界で戦うためには何

が必要なのかを様々な企業やブランドを参考に研究していきたい。

1.日本のファッション業界

本章では、近年における日本のファッション業界の現状、環境変化について見ていく。

1-1.日本のファッション業界の現状

国内の衣料品市場規模は、1990 年に約 15 兆円であったが、2010 年には約 10 兆円にま

で縮小している(図 1-1)。一方、同時期の国内生産と輸入を合わせた国内供給量は、約 20

億点から約 40 億点へと倍増した(図 1-2)。したがって単純に計算すれば、国内の供給単価

は、20 年の間に 3 分の 1 に下がったことになる。 また、総務省の家計調査によれば、20

年間で各家計の衣料品購入単価は6割弱までにしか下がっていないことから、市場に供給

されたが消費されていないものも相当数増加しているのではないかと推測される。この間

に、衣料品の輸入浸透率は約 50%から 96%へと急激に上昇しており、縫製の工程が海外

にシフトしたことを示している。

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出所:(国内供給量)経済産業省「⽣産動態統計」、

(国内市場)⽮野経済研究所「繊維⽩書」

図 1-1 国内アパレル供給量・市場規模の推移

(億点) (兆円)

出所:購⼊単価=総務省「家計調査」,輸⼊単価=財務省「貿易統計」

※1991年を「100」とする

図 1-2 輸入単価及び購入単価の推移

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次に、ファッション市場をセグメント別に、ラグジュアリー市場、トレンド市場、マス

ボリューム市場の 3 つに分類し、市場規模の推移(図 2-3)、構成及び市場規模を細かく見て

いく。

まず、ラグジュアリー市場には、富裕層や可処分所得の多い女性をターゲットにしたセ

リーヌ、グッチに代表されるハイエンドブランドなど、ヨーロッパ発信のファッションや

レザーグッズ、そして時計やジュエリーなどを総称したブランドが属している。日本はグ

ローバル SPA 型1のファーストリテイリングや良品計画、カテゴリーキラー型2のアシッ

クスや鎌倉シャツのように、一部ではグローバル展開に成功するプレーヤーが台頭してき

1 SPA とは specialty store retailer of private label apparel の略で製造小売ともいう。企画から製造、

小売までを一貫して行うアパレルのビジネスモデルを指す。(コトバンク) 2 特定のカテゴリーに特化することで安定的な事業運営と収益性の向上を図るビジネスモデルであり、

アパレル業界における所謂ニッチ戦略である。(コトバンク)

図 1-3 セグメント別国内アパレル小売市場規模推移(十億円)

出所:ローランドベルガー分析

図 1-4 アパレル市場の構成及び市場規模

出所:ローランドベルガー分析

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ているものの、多くのプレーヤーが依然として国内市場に依拠している。高付加価値型に

代表されるラグジュアリービジネスに至っては、日本企業が最も苦手とする分野であり、

サカイやコムデギャルソンのようなアパレル中心のデザイナーズブランドは存在するもの

の、カテゴリーを増やしてライフスタイルブランドとしてビジネスを成功させた例は皆無

である。トレンド市場は、流行に敏感な消費者を相手にオンワード、ワールド等のアパレ

ル企業ブランドやユナイテッドアローズやベイクルーズに代表されるセレクトショップブ

ランドを指す。そして、マスボリューム市場では、より一般層を相手に事業を行うユニク

ロやしまむらが代表的である。また、ZARA や H&M などのファストファッションブラン

ドはトレンド市場とマスボリューム市場の一部を侵食し成長している。これら 3 つの各市

場の市場規模は、2014 年時点でラグジュアリー市場(1 兆円)、トレンド市場(2.6 兆円)、マ

スボリューム市場(5.3 兆円)となっている。

フォーブスが発表した 2016 年版「世界の最も価値あるブランド」ランキングによると、

世界のラグジュアリーブランド 1 位のルイヴィトンを傘下に収める LVMH(モエ・ヘネシ

ー・ルイ・ヴィトン)の売上高は約 4 兆 5900 億円、2 位はグッチを傘下に収めるケリング、

3 位はクロエやラルフローレンを傘下に収めるリシュモンで約 1 兆 3500 億円であった。

これらの3大企業がラグジュアリーブランドを牛耳っているといっても過言ではない。共

通の特徴としては、衣服に加え、バッグや財布などのレザーグッズやジュエリー、化粧品

の販売、さらに、異業種・異ジャンルの企業を買収して非関連多角化の企業統合形態をも

つコングロマリット企業体としての役割を担っていることである。これはブランドという

歴史・ブランディングがあるからこそ成り立つ企業体と言え、誰もが知っているラグジュ

アリーブランドは、幅広い分野で世界のファッションリードしているのである。

日本の市場全体としてはほぼ横ばいで推移しているが、上記 3 つの市場別に見ると、ト

レンド市場の縮小が目立つ。これは、消費者の価値観の変化に伴いトレンドを追わなくな

ってきたことが関係している。かつては、ある一定規模の消費者は一斉に流行を追いかけ

て商品を買い求める傾向があったため、トレンド市場のアパレル企業は、流行を作り出せ

ることができれば収益を得ることができていた。しかし、2000 年頃を境に消費者の価値観

の多様化が進み、消費者は自らのライフスタイルや価値観を示すようになった。その結果、

アパレルメーカーは消費者の多様化に合わせるためにブランドを増やし、ファストファッ

ションの勢いが増したこともあって、トレンド市場にブランドが溢れかえってしまったの

である。

1-2.日本のファッション業界をめぐる環境変化

ファッション業界は、商品を使用する消費者と、それを企画販売する企業の関係によっ

て成り立っている。ところが時代と共に、日本のファッション業界をめぐる環境が変わっ

てきた。ここでは、上記でも触れた価値観の多様化に伴うファッション消費者自身の変化

に焦点を当てて説明していく。

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1960 年代に入ると、東京の銀座に若者向けファッションの店舗が増加し、日本を代表す

るおしゃれな街となった。1964 年に東京オリンピックが開催されると、東京大阪間に東海

道新幹線が走り、都心には高層のホテルやビルが立ち並び、高速道路の交通網が整備され、

敗戦の面影が消えた東京は様変わりした。1960 年代以前のモノを消費する時代が終わっ

たのである。1970 年代以降は、既製服の拡大、大量生産・大量消費の確立を背景とし、心

の豊かさを求めて、より新しく、変化の早いファッションに関心が向かうようになる。流

行発信の頂点であるパリコレクションで高田賢三などのデザイナーが活躍し、それらの既

製服を紹介する媒体として、『an・an』(1970 年)、『non-no』(1971 年)、『JJ』(1975 年)な

どの雑誌の創刊が続き、人々はより多くの媒体からファッションの情報を得ることができ

るようになったことも大きい。そして、最もファッションが変化したのはバブル崩壊を経

て、現在に至るまでの期間だろう。ファッションを楽しむのは女性が中心で、その中の多

くの女性は社会に出て働き始めた。働く女性は生活が豊かになり、趣味や生き方が多様化

していった。その結果、働く女性が好むファッションの増加、かつてのような時代を代表

する流行が生まれていない。現在、消費者の商品を取捨選択する力は格段に向上し、自分

に似合う商品やブランドを選択したり、コーディネートを組むようになった。つまり、現

在のファッション消費者は、自分の価値観で個性を尊重したライフスタイルを創造するこ

とを重んじているのである。このようなファッション消費者の変化によって、より多くの

価値観が生まれたことになる。消費者は、自身の個性にあった商品を求め選択するので、

多くの価値観に対応する商品を揃えることが重要視されている。

また、ソーシャルネットワーク3(以下、SNS)の普及は消費者の変化を加速させた。すで

にパソコン、インターネットやスマートフォン、タブレット端末などが普及しており、多

くの人々と SNS は非常に密接な関係にある。SNS の普及はインターネット通販を代表に

ファッションの選択の幅が増えた。消費者は、選択の幅が増えたことで、値段が高いもの

が価値が高いのではなく、自分に合ったものを安く手に入れ、様々な洋服を組み合わせて

ファッションを楽しむようになったのである。その大きな例の 1 つが古着ブームのリバイ

バルである。ストリートファッションが流行した 1990 年代は古着ブームの全盛期で、リ

ーバイスの 501 や CASIO の G-SHOCK など、現在でも活躍するアイテムが人気を博し

た。当時は、リーバイスのジーンズを寝るときやお風呂に入るときまで履きっぱなしにし

て育てるなど、古着は 1 点豪華主義な考え方とされていた。しかし現在では、古着を着る

ことは個性を着ることだとされている。先ほども述べたように、グローバル化が進んだこ

とによって、安くてオシャレなデザインの洋服をたくさん持つことが可能になった。しか

し同時に、ファストファッションが流行しすぎた結果、同じ服や似ている服が大量に流通

してしまったのである。そんな中、比較的値段が安く、人と被らずに個性を表現すること

3 「Social Network Service」を略して「SNS」と呼ばれる。人と人との現実の関係をインターネット

を使って補助するコミュニケーション・サービス。(コトバンク)

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ができる古着に注目が集まったのだろう。また、古着を愛用する芸能人やモデルの人が

Twitter や Instagram などの SNS に写真を投稿し、そのスタイリングや個性に憧れて購

入する人が増えたことも、古着ブームの一因である。IT の進展による SNS の普及は、そ

れぞれの人にそれぞれのファッションアイコンがいる時代を作ったのである。

2.日本の強みを活かした企業の事例研究

第 1 章で、アパレル市場の構成を価格の高い順からラグジュアリー市場、トレンド市場、

マスボリューム市場の 3 つに分けて説明した。ラグジュアリー市場の競争には、デザイン、

ブランド力が求められるため日本が勝負することは難しい。マスボリューム市場はファス

トファッションブランドを中心とし、それなりの価格と品質が求められる。そして、トレ

ンド市場では、流行のデザイン、価格に見合った質に加えて機能性も求められている。そ

の中で、日本は、モノ作り精神の宝庫と言われており、生地のこだわりや縫製技術の丁寧

さなどから高品質であることが強みである。日本製品のクオリティーは世界的にみても優

れており、本章では、日本が誇る技術と品質を持った企業を紹介する。

2-1.「ラコステ」本社が認める技術と品質「ヴァルモード」

フランスの衣料・雑貨ブランドの「ラコステ」。実は日本で売られている主力のポロシャ

ツの 90%以上は日本製であり、2012 年にラコステが子会社化したヴァルモードの工場が

秋田県横手市に存在する。ポロシャツやTシャツなどを作る工場の面積は 1553 平方メー

トルで、74 人が勤務。年産能力は 50 万枚に及ぶ。生産ラインはパリの本工場と共通化し

ており、綿は繊細な管理が必要なことから、湿度も 60%を徹底して保っている。綿はもち

ろんラコステ仕様で、通常のシャツは洗濯すると6%縮むというが、同社では 2~3%にお

さえることができている。

ラコステのポロシャツの場合、縮みにくさに加え、「襟が一日中立ったままでいられる」

ほか、狂いの少ない精巧な縫製が魅力である。縫製は手作業で行えば、器用な日本人なら

ではの細かく丁寧な製品を作ることができるが、それでは生産数に限りがある。そこで、

縫製の主要作業はミシンが担っているが、既存のミシンの機能は設計された範囲での作業

に留まる。2 枚重ねでの縫製、縫い代が極めて狭くピンポイントでの縫製、ラコステのワ

ニのマークの種類が豊富なため微妙に異なる縫製など、既存ミシンの機能だけでは到底対

応できないものばかりであった。そこで、そのような作業を迅速かつ精度よくできるよう

に、ミシンにどのような動きをさせるかを考え、ミシンメーカーと協議し、ミシンの機能

を作った。この方式は今では世界の基準になっており、それまで難しかった縫製技術を可

能にしたのである。生地からの裁断工程のプロセスでも、いろいろな工夫が施されている。

金型企業との製造プロセスの共同開発が、それを可能にしている。そういうプロセス開発

が高品質の製品を作り上げているのである。

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企業規模の大小ではなく、モノ作りに込める想いや哲学、他ではできないことを実現す

る執着心、それがブランドを形作っていく。日本には、そのようなモノ作り精神の宝庫が

たくさんある。

2-2.自社工場を持つ「メーカーズシャツ鎌倉」

ドレスシャツの縫製工程の全てで「メイドインジャパン」にこだわりながら、1 枚 5400

円という値ごろ感を実現するメーカーズシャツ鎌倉(MSK,神奈川・鎌倉)。「鎌倉シャツ」

の愛称で幅広い世代のビジネスパーソンに支持され、国内外 27 店を展開する。創業者の

貞末良雄会長は日本のアパレル企業で先陣を切って製造から物流、販売までを一貫して手

がける SPA(製造小売り)モデルを確立した。衣料不況の中、好調を続ける背景には高品

質の原材料を使って「これからは積極的に損をするぞ」(貞末良雄会長)という逆張りの商

品政策(MD)と、国産主義を担う国内工場との密接な関係がある。もともと MSK の素材

の基準は男性用で「綿 100%で 80 番手以上」と厳しい。番手は糸の太さを指し数字が高い

ほど細く、生地にすると滑らかで光沢が出る。80 番手は百貨店で 1 万~2 万円で売られる

高級シャツにも使われる。MSK の売価に占める原価率は 60%程度に達し「高級シャツの

原価率はおよそ 20%」(大手商社)と言われるのに比べ約3倍の水準だ。

手ごろな価格と国内縫製を両立できる要因は、製販一貫で合理性を追求する、そのビジ

ネスモデルにある。MSK の生産管理や商品企画はグループ会社サダ・マーチャンダイジ

ング・リプリゼンタティブ(SMR、東京・渋谷)に集約し、商社などは通さず縫製工場と

直接取引する。国内では SPA と称する企業でも縫製に関して中間業者を一切介さない事

例は非常に珍しい。小売価格が 5145 円でも中間経費を徹底して削ることで、工場には海

外高級ブランドに劣らない縫製費を払うことができるのである。

また、SMR は工場の安定稼働を意識し1年を通し発注を切らさない。岡部縫製では以前

は 10~11 月が閑散期だったが、SMR との取引で一時休業などの必要がなくなったとい

う。さらに SMR の決済はすべて翌月現金払いである。縫製取引は手形を使う企業が多く、

優良工場でも目先の資金繰りに苦労する例は多いので、毎月の現金収入は工場にとって大

きな魅力となる。貞末会長は名門ファッション企業「VAN ヂャケット」出身で知られるが、

VAN の前にエンジニアとして電機メーカーに勤務した経歴も持つ。その時期に「川下が利

益を独占するモデルは続かない。工場も利益を出せる仕組みが長期の収益を生む」と強く

刷り込まれたことが、今日のビジネスモデルにつながった。

2-3.桃太郎ジーンズを海外に展開「ジャパンブルー」

桃太郎ジーンズとは、2006 年に始動し国産の底力を世界に発信するために、もの作りに

こだわる岡山のジーンズブランドの名称である。こだわりとしては、①素材にヨーロッパ

の高級ドレスシャツにも使用されているジンバブエコットンを採用、しなやかな履き心地

を実現、②青、藍、紺、瓶覗(かめのぞき)など日本が得意とする豊富な色展開、③商品のよ

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さ、商品にかける思いを伝えるために、海外店舗を 1 つずつ回って営業、などが挙げられ

る。

2014 年に旧コレクトと旧藍布屋が合併し、ジャパンブルーとなる。ジャパンブルーの売

上実績推移を見ると、売上高は年々上昇しており、2016 年には 40 億円を突破している。

これは、アメリカやフランス、中国などのアパレル市場規模の大きい国など、25 カ国にま

で海外展開が進んだことが大きく影響している。

3.日本製品全般に対する諸外国のイメージ調査

日常、日本製品の高品質性や高度技術を称賛する言葉を耳にする機会は少なくない。現

実に、日本製品には、事故・故障・不良品が少なく、ユーザーとして安心できる印象もあ

る。概して、海外でもそうした好意的イメージがあるようだが、具体的には、どの程度確

かなことなのだろうか。または、日本人側が勝手にそう感じているだけということはない

のか。 そこで本章では、日本製品の強みを改めて認識するためにも、世界の市場における

日本製品に対するイメージについて、具体的なデータや声を集めた。

3-1.日本製品全般に対する諸外国のイメージ調査

⑴ 「日本製品=高品質」なのか

日本製品全般に対して諸外国が持つイメージについては、日本の大手広告代理店である

㈱博報堂が大規模な調査を実施しており、その結果がかなり参考になった。同社は、世界

主要都市で意識・価値観などを尋ねる生活者調査を毎年実施し、その結果を公表しており、

2015 年調査では、「日本製品」に対するイメージを整理している。 これによると、日本製

品に対して「高品質な」イメージを持っていると回答している割合が、ニューヨークを除

くすべての都市で 1 位となっており、当調査結果からみても「日本製品=高品質」と考え

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ている人が圧倒的に多いことがわかる(表 3-1)。 とくに、シンガポール、クアラルンプー

ル、メトロマニラ、ジャカルタ、ヤンゴンでは、同回答割合が 7 割を超え、香港、台湾、

ホーチミンシティ、デリーに至っては 8 割を超えている。こうした都市では、「日本製品

=高品質」は当然のことと捉えられているようだ。 ちなみに、ニューヨークでは、日本製

品に対して「先端技術のある」イメージが最も高くなっていて、「高品質な」イメージは 2

位に付けている。一方、「安心/安全な」というイメージは、全体の 5 位であるが、香港で

は 2 位、台北、クアラルンプール、ホーチミンシティ、ヤンゴン、モスクワでは、3 位に

ランクされている。

(2) 他国より「高品質」なのか

他国を上回る「高品質」があるかどうかが非常に重要である。そこで、日本製品と他国

製品との比較という観点から、「高品質な」「カッコイイ/センスがいい」「安心/安全」なと

いう 3 つのイメージの回答割合について、各国と比較したものを見てみる(表 3-2)。そこで

も、やはり「高品質な」イメージにおいては、日本製品が他国製品を上回っており、特に

アジア人の持つイメージは、先進国であるアメリカ製品や韓国製品と比較しても、日本製

品の「高品質な」イメージが圧倒的に高い。同様に、「安心/安全」イメージも、多くの都市

で日本製品が 1 位を獲得し、特に香港や台北、クアラルンプールなどで高くなっている。

また、2013 年調査では、日本から連想するモノやサービスは、「家電」(1 位)、「デジタル

製品」(2 位)、自家用車(3 位)、「漫画/アニメ」(4 位)、「日本食」(5 位)となっており、衣料

品の「高品質な」イメージはまだ浸透していないことがうかがえる。

表 3-1「日本製品」に対するイメージ

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3-2.海外市場における日本製ファッションへのイメージ

表 3-3 は主要における日本ファッションに対するイメージである。東アジアでは中国を

中心に日本のファッション誌が販売されていることもあり、日本のファッションは身近な

存在である。一方、インドネシアやベトナムなどは、依然として「原宿」や「着物」など

の日本を代表する場所やモノのイメージを持つ人も多い。

表 3-3 主要国における日本のファッションに対するイメージ

東 ア ジ

中国

日本ブランドの店舗販売も順調に増加している。また、インター

ネットにおける日本製品の売上高が増加しつつある。さらに、日

本のファッション雑誌の売り上げも多い。「vivi(ヴィヴィ)」

「with(ウィズ)」「style(スタイル)」など日本の女性誌の中国

版が出版されており、それらを通して日本のファッション、化粧

が若い女性層に認知されている。

韓国

流行に敏感というよりは自分の個性を活かしたファッションを

追い求めている。また、多様なスタイルをミックスして、独特で

新しいスタイルを生み出している。レイヤードファッションも目

を引く。

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タイ

一般的なタイ人は、日本に対し「ファッションの中心地」という

イメージ。日本のファッションは高い人気を誇り、とくに若い世

代がつねに日本の流行や動向を注視している。

インドネ

シア

日本のファッションといえば、「ハラジュク」というイメージが

非常に強い。「ハラジュク」をテーマ にしたファッションショー

が多く開催されている。

ベトナム

ベトナムの若い女性の中では、日本の高価なコスメやメイクアッ

プ法、服飾デザイン等に興味を持つものは多いが、情報媒体が少

ない。旅行者が置いていったような日本のファッション雑誌

(CanCam,non-no)等の古い雑誌を使い回しているところもあ

る。しかし、依然として日本を紹介するときには常に伝統的な「着

物」ばかり使われている印象。

北米

アメリカ

セレクトショップの中に、日本の若手デザイナーを中心に扱う店

も出始めている。また一部のマニアは、ゴスロリやアニメ系のコ

スプレや日本の刺青もファッションの一部として受け入れられ

ている。

中南米

ブラジル

2008 年のサンパウロファッションウィーク(世界3大ファッシ

ョン事業のひとつ)は「日本」が テーマであった。現地で活躍

する日系スタイリストも誕生するほか、東京に店を構えるブラジ

ルのデザイナーも誕生。デザイン界で今後も日本・ブラジル交流

が生まれる分野だと期待されている。

メキシコ

日本の有名デザイナーのショップは当地にはあまり進出してい

ない。日本のファッションについての情報もそれほど多くないの

で、関心を持っている若者はごくわずか。

欧州

イギリス

若者の中には日本のファッション、建築、芸術、デザイン、アニ

メなどに注目する層が現れている。「アリーナ」「フェイス」など

の流行の先端をいくライフスタイル雑誌やファッション業界が

日本の流行に注目し始めている。

フランス

パリコレクションや展示会への日本ブランドの出展数は多いこ

ともあって日本の生地素材への評価も高まりつつある。日本のフ

ァッションが一部フランス人にはファッションの先端を行って

いると捉えられており、街角で日本の流行を垣間見ることがあ

る。世界的に有名なミヤケ・イッセイ、ヤマモト・ヨウジ等の日

本人デザイナーの評価は依然として高く、主要デパートには単独

の売り場が設けられている。また、MUJI(無印良品)を愛用す

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表 4-1 国内・海外ユニクロ事業数

るフランス人は多く、近パリ郊外に出店したユニクロの今後の展

開も注目されている。日本のファッションブランドは、レベルに

かかわらず一般的に良質で高級というイメージがある。

出所;国際交流基金「各国における分野ごとの日本に対するイメージ」より作成

4.海外市場開拓に向けた日本の新しいブランドの構築

日本には、既に自動車や産業機械など高い競争力を持つ産業が存在する。これらに続い

て、ファッションも日本の経済を牽引する存在になることが理想である。そして、競争力

の 1 つになるのが日本製品の高品質という強みである。前章では、他の分野で獲得してき

た日本製品のイメージの良さに加え、特に中国を中心としたアジア地域では、日本のファ

ッションに馴染みがあることも分かった。これを前面に押し出して、他国との差別化を図

り、高品質でありながら低価格である日本の新しいブランドの構築が必要である。本章で

は、日本の新しいブランドの構築とはどのようなものかを説明していく。

4-1 メイドインジャパンブランドの構築~ユニクロとしまむらを参考に~

ユニクロは、企画からデザイン、生産、販売までのプロセスを一貫して行うビジネスモ

デルで、他社には真似のできない独自商品を次々と開発している。そして、ユニクロの強

みはアジアを中心に海外展開に成功している点である。ユニクロの売上推移をみると、

2017 年の国内売上は低下しているものの、海外売上は伸びていることがわかる(図 4-1)。

これは、ユニクロの地域に合わせた企業戦略によるものである。海外事業数の約半分を占

める中国を例に挙げると、中国大陸は国土が広く、気候が大きく異なるので、地域ごとに

新商品の投入時期や商品構成を緻密に考えていることが勝因につながった(図 4-2)。

[単位:店舗] 2016 年 11 月末 2017 年 5 月末 2017 年 11 月末

図 4-1 ユニクロ売上推移

出所:朝日新聞デジタル「ユニクロ、過去最高の売上高 海外好調、国内は伸び悩み」

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国内事業数合計 841 834 833

海外事業数合計 1009 1071 1141

中国 497 540 576

台湾 63 65 65

韓国 178 180 181

タイ 34 34 35

米国 49 47 46

英国 10 10 11

一方、しまむらは、中心価格が 1000 円~3000 円という「低価格戦略」が最大の武器で

ある。しまむらの強さの 1 つは、計算されつくした、商品供給や店舗運営の仕組みがある。

約 5 万点のアイテムを取り揃えているが、売り切れると追加発注はしない。その代わり、

ある店舗で商品が売り切れると、コントローラーと呼ばれる在庫管理担当者が、在庫のあ

る日本全国の店舗から取り寄せる。そのための物流網が整っていることも強みである。ま

た、2015 年には、全ての商品に販売を終了させる期限を設けて、値下げしても売れ残った

ものには店頭に置かず、処分するようにした。

ユニクロは海外市場、しまむらは国内市場を中心に事業展開している。店舗数で見ても

しまむらは中国で 14 店舗、台湾で 39 店舗とユニクロと比べると圧倒的に少なく、海外展

開は進んでいない。また、両者とも、ファストファッションブランドに属している。その

ような状況で、日本のファッションがもう一歩海外に出るためには、日本の縫製技術や品

質を活かしたメイドインジャパン製品を展開する新しいブランドの構築は必要だろう。

4-2.クールジャパン政策における日本のファッションへの取り組み

新しいブランドを構築するための政策の 1 つとして、クールジャパン戦略がある。クー

ルジャパン機構は、2013 年 11 月、法律に基づき官民ファンドとして設立された。クール

ジャパンの狙いは、日本ブームを創出して、現地で稼ぎ、日本で消費すること。経済産業

省によると、現在日本は、少子高齢化等に伴う国内需要の減少に直面しており、経済の持

続的な成長を実現させるためには、諸外国の旺盛な外需を獲得していくことが必要である。

しかし、日本のファッションや日本食などは海外で高い人気を誇っているにも関わらず、

リスクが不透明であることなどにより、金融機関からの資金不足や海外拠点の不足、情報

やノウハウ不足などによって、海外展開が進まず、収益が結び付いていない。そこで経済

産業省は、クールジャパン政策を民間のビジネスにつなげ、世界へ広げる役割を担ってい

る。

出所:First Retailing グループ店舗一覧より作成

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212

まず初めに、経済産業省が平成 29 年 12 月に発表した投資案件一覧を見ていく(図 4-3)。

平成 29 年 4 月時点での株主の出資金は、693 億円である。そのうち、電通や博報堂 DY グ

ループなどの民間出資が 107 億円、政府からの出資は 586 億円であった。グラフを見てみ

ると、全体の 40%をメディア・コンテンツ、21%を食・サービスに投資していることがわ

かる。これはやはり、日本の漫画やアニメ、日本食ブームなど日本を代表する分野を中心

に、日本に興味をもってもらうことが狙いだろう。

次に、ファッション分野への投資を見ていく。ライフスタイル分野の投資案件の中に、

「日本発ファッションブランドの海外展開」がある。しかし、投資額は 8 億円で、上記で

述べた、メディア・コンテンツや食・サービスに比べるとまだまだ少ない。さらに、ファ

ッション分野への投資は 2017 年、今年が初めてであった。

そうした「日本発ファッションブランドの海外展開」を進める政策として、クールジャ

パン機構が取り組む、ファッションブランド「45R」を紹介する。日本ならではの高品質

なテキスタイルやこだわりのものづくりで「和」の魅力を世界に発信する先駆けとなるモ

デル作りを支援すること、本事業の拡大を通じ、「45R」に素材や縫製・加工サービス等を

提供する地域中小事業者等の海外展開の足がかりとなる機会を提供し、地域の繊維産業の

活性化に寄与することを目的としている。

日本のテキスタイル、縫製・加工技術は海外から高く評価され、欧米ラグジュアリーブラ

ンドへの素材供給や OEM 生産を支えている。その一方で、海外において個別に評価の高

い日本人デザイナーは存在するものの、日本ならではのテキスタイル、縫製・加工技術と

いった「和」の要素で差別化を図り、海外進出する日本発ファッションブランドは、これ

までほとんどない。

「45R」は、「気持ちのよい服を世界中の人たちに喜んで着ていただく」というビジョン

のもと、高品質のナチュラル系原料・素材や日本の藍染・インディゴ染の高い技術を使用

図 4-3 投資決定案一覧(2017)

出所:経済産業省

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213

したテキスタイル、独特の柔らかな見た目や着心地を出す縫製や加工までの全ての工程に

こだわったものづくりをしているファッションブランドである。それらのこだわりは、徳

島県内や愛知県内の藍染の技術、岡山県内や広島県内の加工技術、宮城県内の縫製技術な

ど、日本企業の持つ高い技術に支えられている。2000 年に海外初進出したニューヨーク店

をはじめとして、既に出店している米国・仏国の店舗では、高品質な素材と着心地の良さ

やディテールにこだわったデザインが良質なものを長く愛用する欧米の富裕層の心をつか

んだ。また、日本の伝統技術を取り入れたスタイリッシュな内装が日本の文化・価値観を

表現し、日本のこだわりが凝縮したブランドとして、顧客層を広めている。日本の品質の

良さを伝えていくためにもクールジャパン政策おける日本のファッションへの取り組みは

重要になってくるだろう。

5.日本製品の強みを活かした海外市場開拓~中国をターゲットに~

日本製品を海外に展開しようとする際、まずは自国で顧客を獲得し、認知度を高めるこ

とに注力する。しかし、日本製品が海外展開されるためには、まず「国内ありき」の姿勢

を変えていくことが必要であると考える。海外展開はリスクを伴うが、多くの可能性も秘

めている。そして、次に必要となるのは人口 GDP の伸び、進出した際のメリット、消費

動向などから進出する対象を絞ることであると考えた。それらをふまえて、本章では進出

の対象を中国に絞って考察する。

5-1.中国市場の魅力

2016 年の中国の人口は 13 億 8271 万人4であり、日本の人口である 1 億 2696 万人の約

10.9 倍で、市場の規模が圧倒的に異なる。次に、中国の GDP は急速に伸びていることが

わかる(図 5-1)。さらに、中国は日本より高い成長率を維持しており、中国の 2010 年 4-

6 月期の名目国内総生産は米ドル換算にして 1 兆 3369 億ドルで、同期の日本の GDP の

速報値(1 兆 2883 億ドル)を上回った(図 5-2)。5

4 国際通貨基金(IMF) World Economic Outlook Database, October 2017 より 5 サーチナ 2010/08/17(火)記事 GDP が日本抜いた中国、目立つ「有頂天になるな」

の論調より

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また、2015 年には、中国は過去 30 年余り続けてきた高度成長から、7~8%程度の GDP

成長率を目指す経済目標転換を打ち出した。これにより、経済成長が穏やかな安定成長下

での新しい時代に入り、消費は質的にも以下のように変化してきている。①所得水準の上

昇に伴い、消費者ニーズは多様化・高度化すると見込まれる。中国の消費者のライフスタ

イルは、多少高くても、手が届く範囲なら、より良い商品を手に入れる、品質を重視する

ものに変わりつつある。しかも、インターネットの普及により、インターネット通販(EC)

を利用して、個性的な商品、オーダーメイド商品、輸入品など、様々な商品を誰でも容易

に購入できるようになった。②「理性的な消費」が一般化する。中国の急速な経済成長は、

一方で社会のひずみを拡大してしまった。貧富の格差は広がり、物価も上昇している。中

国の各メーカーは、富裕層向けの高級市場を狙い、高価な商品を販売したが、あまりに高

額なため、手を取る消費者は少なかった。しかし、現在は贅沢品が減速する傍ら、日本の

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ファーストリテイリング(ユニクロ)などの大衆向けの商品は著しい伸びを示した。この大

衆消費は中国全体の消費レベルを向上させ、中国経済を牽引する役割を果たしている。

中国は農村部と都市部で依然所得格差は大きいが、上記で述べた変化に加え、膨大な人

口を保有していることや経済的に高成長を続けていることから、生産国から消費国として

の可能性を秘めていると考える。また、中国市場に進出した際は、国内では市場規模の小

ささゆえに活用できていない独自技術や高品質さを伝えたり、他のアジア地域などに進出

するきっかけを得ることができるかもしれない。

5-2.中国のアパレル市場とニーズ

中国の市場には日本のアパレル製品に対するニーズがあるのかを、中国全土の消費者に

対するアンケート調査 から検討した。まず、ファッションとして好きな国および地域とし

て日本は、香港・マカオ・台湾、中国、韓国には劣るがファッションの発信地として歴史

のある欧米諸国よりも高い位置につけている(図 5-3)。 次に、 所得の差の大きい中国の消

費者を月収で 6 つに区分し、それぞれの階層におけるファッション全般で重視するポイン

トを数値化している(図 5-4)。月収が上がるにつれて品質を重視しており、価格をあまり気

にしていないことになる。これは、高品質イメージの高い日本製品の需要が高まる可能性

があると言える。

図 5-3 ファッションとして好きな国および地域(複数回答、N=4080)

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また、日本系ファッション誌が普及していることも大きい。近代中国において、1920 年

代からファッション誌はあったが、現代中国のファッション誌市場は 1980 年代に本格化

した開放政策によって急成長した経済に伴って台頭した。中国のファッション誌は、海外

提携誌と中国オリジナル誌(本土誌)の 2 つに大きく分けられ、現状は海外提携誌が圧倒的

に多い(図 5-5)。海外提携誌は欧米系と日本系があり、現在最も発行部数が多いのが、日本

系の「瑞麗服飾美容 Ray」であった。そして驚いたのは、総売り上げの半数以上が日本系

のファッション誌であったことである。SNS の普及によって、ファッション誌市場も厳し

くなっているが、日本と中国を結ぶ重要な役割を担っていると言える。

しかし、図 5-5 で示した日本系のファッション雑誌に掲載されているブランドの衣服は

日本の高品質を前面に押し出した製品ではない。そこで、次節では、ファッション雑誌に

掲載され、中国でもデザインやサービスで顧客を獲得している企業を紹介する。

20.90%

16.29%

11.82%9.21%

7.97%

6.25%

6.13% 4.54% 3.52% 2.54%

図5-5 北京における雑誌類売上分布

瑞麗服飾美容Ray 昕薇ViVi瑞麗伊人風尚CLASSY 服飾与美容VOGUE世界服装之苑ELLE 時尚芭莎Harper's BAZAAR瑞麗時尚先鋒GALMOROUS 時尚伊人COSMOPOLITAN嘉人Marie Claire 姉妹Ceci

出所:中国ファッション誌の現在

図 5-4 月収別ファッション全般で重視するポイント(複数回答、N=4080)

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5-3. デザインやサービスの価値で顧客を獲得「マッシュホールディングス」

情報と選択肢がたくさんありすぎて、おのおのの「カワイイ」が分散化しており、若い

女性の好みが把握しにくくなった。それゆえ、売れるブランドや商品を企画するのが難し

いと言われているが、中国でも成長し続けている日本の企業が「マッシュホールディング

ス」(以下、マッシュ)である。2000 年代に入ってから、日本の大手アパレルは中国を中心

とした東アジア市場に攻勢をかけたが、そのほとんどは、利益を生み出すまでに至ってい

ない。そうした負け戦が常態化している中で、マッシュは売上を伸ばしている。2017 年 8

月期売上高は前年比 1 割増の 641 億円で、売上高営業利益率は 1.8 ポイント上昇の 11.6%

だった。6

中でも人気のブランドは、20 代~30 代の女性をターゲットに大人の遊び心を表現した

「スナイデル(Snidel)」とルームウェアブランドの「ジェラートピケ(gelato pique)」であ

る。2016 年 5 月末時点で、中国事業は 149 店舗(うちスナイデルが 112 店舗)まで拡大。

2 年前に投入した「ミラオーウェン(Mila Owen)」も 37 店舗まで増え、第 2 のスナイデ

ルに育てている最中である。

では、なぜマッシュは中国で成功を収めることができたのだろうか。1つは、若い女性

の心をつかむ 3 つの戦略にある。それは、①現代の若者のお財布事情に合った価格戦略、

②価格に対して価値の高い商品を供給していること、③女性が女性のためにデザインして

いること、である。

現代の若者は、お小遣いを配分するセグメントが増えすぎて、昔のように洋服に一極集

中することは不可能である。そのような若者のお財布事情を考慮しているため、マッシュ

のブランドは全体的に高くない。例えば、スナイデルの場合、ワンピースは 1 万~2 万円

台、ニットも 1 万円台と 20 代女性にも手が届きやすい価格設定となっている。生産は中

国を中心としたアジアが大半を占めるが、素材や縫製には手を抜いておらず、価格に対し

て高い価値の商品を提供できている。

また、大手アパレルの原価率は、平均的に 10%代後半から 20%代前半と言われており、

価格に対して価値が伴っていないものが多い。しかし、スナイデルは十分な利益を生んで

いながらも、原価率は 30%台後半と高い水準で推移している。この背景には、アイデアを

出しているのが女性で、女性に寄り添ったモノ作りをしているからであると言う。

そして、中国で好調に売り上げを伸ばしている背景は2つある。1つは接客である。中

国では現在日本の 1.3~1.5 倍程度の価格で販売している。そのため、日本以上にサービス

に気を遣っており、店員によるコーディネートの提案のほかに、顧客に飲み物や食べ物を

提供しながら接客する「VIP ルーム」を置く店もある。

もう1つがネットでの情報の波及である。中国ではネットでファッションの情報を得る

6 東洋経済新報社「20 代女性を虜にするアパレルブランドの正体」2016 年 12 月 21 日

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消費者が急速に増え、テレビドラマで女優が何を着ているかなどもすぐに広まる。この現

状をふまえて、次節では、越境 EC を利用した中国市場の開拓を提案する。

5-4.越境 EC で中国市場開拓

中国市場を開拓する際、最も実現可能性の高い方法として越境 EC を取り上げる。世界

の商取引額は、2015 年時点で約 22 兆ドルに達し、経済成長に伴い拡大を続けている。そ

のうち、EC(電子商取引)(以下、EC)による取引額は急成長し、2015 年で約 1.7 兆ドル

に達しているが、 これは商取引額全体でみると 1 割弱に過ぎない。このように、EC は、

インターネットで利用されているサービスとしてグローバルに広く普及しているものの、

まだまだその成長余地は大きいだろう。eMarketer によると、EC 市場は、2019 年には現

在の約 2 倍の 3.5 兆ドルまで拡大すると予想している。地域別でみると、アジア太平洋地

域による貢献が大きく、2015 年時点では同地域の市場規模が全体の約半分を占めている

が、2019 年時点には約 65%まで増加する予想となる(図 5-6)。商取引額のうち e コマー

スが占める割合でみてみると、全世界が 2019 年時点で 12.8%であるのに対して、アジア

太平洋は 20%を超える水準に達すると予想される(図 5-7)。

国別で見てみると、市場規模と成長性の観点から、中国の存在感が圧倒的に大きい。中

国は、米国と比べても、EC が商取引に占める割合も成長率も高く、今後世界の EC を牽

引することが見てとれる。成長率の観点からは、中国の他、インドやインドネシア、南米

諸国の高さが目立つ。日本の市場は、規模は異なるものの、商取引に占める割合や成長率

図 5-6 EC 市場規模の推移及び予測

出所:総務省「IoT 時代における ICT 産業の構造分析と ICT による

経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成 28 年)

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が米国やドイツと似ている(図 5-8)。EC 市場の成長要因としては、携帯電話を利用した

電子商取引のモバイルコマースが挙げられる。急速に普及するスマートフォンやタブレッ

ト端末等のモバイル端末を利用し、商品の検索から決済までを行う習慣が広く普及してい

る。

図 5-8 諸外国の EC 市場の規模と成長性

出所:総務省「IoT 時代における ICT 産業の構造分析と ICT による

経済成長への多面的貢献の検証に 関する調査研究」(平成 28 年)

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近年の中国におけるインターネット環境の整備とスマートフォンの普及は著しい。『中

国統計年鑑』によれば、中国のインターネットユーザーは、2000 年の 2,250 万人から 2010

年に 4 億 5,730 万人、2015 年には 6 億 8826 万人に増加し、その割合は人口の 50%を超

えた。また、中国インターネット情報センター(CNNIC)によれば、 2016 年 12 月末に

は、インターネットユーザー は 7 億 3,100 万人に増加している。これは、この1年間にも

4,000 万人以上のユーザーが増えたことになる。もちろん、インターネットユーザーの規

模では世界第1位である。そして、市場の牽引役である中国のモバイルコマース市場につ

いてみてみると、2015 年時点で約 0.3 兆ドルと既に EC 市場全体の半分を占めている。同

市場の成長は続き、2019 年までに 1.4 兆ドルまでに拡大し、モバイルコマースの割合は

70%強まで増加することが見込まれる(図 5-9)。

図 5-9 中国モバイルコマース市場の推移及び予測

出所:総務省「IoT 時代における ICT 産業の構造分析と ICT による

経済成長への多面的貢献の検証に 関する調査研究」(平成 28 年)

現在、安くてもそこそこ良いモノが手に入る時代に突入している。そのような状況下で、

日本が海外で戦うためには、日本の強みである高品質を前面に押し出す必要がある。日本

のアパレル企業の成功例としてユニクロとしまむらを挙げたが、いずれもファストファッ

ションブランドであり、しまむらにおいては海外展開が難しい。日本のファッションがも

う一歩海外に進出するためには、日本で企画から生産までを行い、高品質を売りにしたメ

イドインジャパンブランドの構築が必要である。そして、海外で戦うための方法として越

境 EC を取り上げたが、インターネットユーザーの規模が世界 1 位であること、変わりつ

つある中国の消費者や日本系ファッション雑誌の売上、日本のアパレルブランドの成功例

から見ても、中国市場の開拓は必要不可欠だろう。

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おわりに

私はとにかくファッションが好きで、卒業論文は興味のある分野でないと書き上げるこ

とができないだろうと思い、このテーマを選びました。しかし、いざ取り掛かろうとする

と、自分のファッションの好みやブランドは把握していても、ファッション業界全体の仕

組みや市場規模などの基礎的な知識が欠けていることに気付きました。書き始めても、構

成がうまく作れず、何度ストーリーが出来ていないと言われたかわかりません。また、根

本的に書き始めるのが遅く、最後にバタバタと完成させることになってしまい、自分の計

画性の無さに失望しました。それでも、時間を割いて相談に乗ってくださった佐藤先生に

は感謝の気持ちでいっぱいです。長い間、本当にありがとうございました。

参考文献

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明治大学商学部編,同文館出版,2015.8

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http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/creative/file/171204Cooljapanfun

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http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/pdf/n2200000.pdf

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8.調査部 上席主任研究員 大泉啓一郎「中国の消費市場と越境 EC(電子商取引)」

https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/jrireview/pdf/9952.pdf

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12.日経ビジネス 2016 年 4 月 4 日 「しまむら 新・成長モデルで復活」

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13.ローランドベルガー 「アパレル産業の未来」

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http://cmmninc.com/tag/emarketer/

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