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平成 27 3 「中期経営計画」策定/実行のポイント SMBCコンサルティング株式会社 経営相談部

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Page 1: 「中期経営計画」策定/実行のポイント...2015/03/04  · 本資料の目的は以下の通りです ・目 的:中期経営計画の策定・実行のポイント・留意点等に関する情報提供

平成 27 年 3 月

「中期経営計画」策定/実行のポイント

SMBCコンサルティング株式会社

経営相談部

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本資料の目的は以下の通りです

・目 的:中期経営計画の策定・実行のポイント・留意点等に関する情報提供

・対 象:①中期経営計画を初めて策定する中堅・中小企業

②中期経営計画を策定しているがうまく機能していない中堅・中小企業

目 次

1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

2.中計の機能 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

3.中計策定・実行にあたっての留意点 ・・・・・・・・・ 4

4.中計の策定プロセス ・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

(1)中計策定プロセスのタイプ分類 ・・・・・・・・・・・ 5

(2)具体的な手順・方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

5.中計策定の推進体制 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 18

6.中計の進捗(プロセス)管理 ・・・・・・・・・・・・ 19

7.中計のローリング ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21

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1.はじめに

企業経営は、「アート(感性、価値観等)」と「サイエンス(論理性、合理性等)」が融合

した「複雑な生き物」に喩えられることがあります。

したがって、経営理論・経営管理手法は多数ありますが、実際の企業経営に当てはめよう

とした場合、どれが絶対的に正しくて、どれが間違っていると言い切れない面があります。

経営理論あるいは経営管理手法の評価・選択基準は、状況により変化すると言えます。

そうした中で、中期経営計画(以下「中計」と表記)の必要性についても、意見は分か

れており、中計不要論を唱える経営者もいます。

以下が、中計不要論において、よく聞かれる理由です。

・変化が激しい時代において、3年先、5年先を予測するのは難しい。

・予測困難な中で、時間をかけて中計を策定するより、精度の高い単年度計画を策定し、

この計画を必達するマネジメントに注力する方が有効である。

・不確実性を内包する中計の未達が続くと、社員も、どうせ中計は修正されるものと思

うようになり、形骸化してしまう。

要するに「精度の低い計画づくりに膨大な時間をかけ、その計画が、毎年達成されず修

正を繰り返すくらいなら作らない方がましだ」という意見です。

現在、上場企業を中心に多くの企業が中計を策定していることからも、この中計不要論

は、極端な考え方と言えるかもしれません。しかし、中計策定の問題点を鋭く突いている

とも言えます。

本資料では、中計策定について、このような賛否があることを認識した上で、中計の機

能、中計策定・実行にあたっての留意点、中計の策定プロセス、中計策定の推進体制、中

計の進捗管理、中計のローリング等について説明します。

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2.中計の機能

最初に、なぜ中計が必要なのか考えると、中計の重要な機能として以下3点が挙げられ

ます。ちなみに、これらは企業規模を問わず求められる機能です。

(1)「戦略的意思決定」を行うためのツール

経営を取り巻く環境の安定が保証されていれば、現状の延長線上に自社の将来像を描く

ことが可能です。経営施策も、大きく変える必要はなく、過去の計画に準じた内容を繰り

返えせばよく、わざわざ中計を策定する必要はありません。

しかし、現実的には、社会構造、法制度、顧客、競合、技術、為替相場などの外部環境

はめまぐるしく変化し、世の中の複雑性も増す一方です。こうした「外部環境変化の影響

を大きく受ける企業」の場合は、小手先の対症療法ではなく、抜本的な経営構造改革(新

しい方向性)が必要です。したがって、こうした企業の経営トップに求められるのは、「新

しい方向性を決断し明示すること」すなわち「戦略的意思決定」です。社員も、重要課題

に本気で経営トップが取り組むかを注視しています。しかし「戦略的意思決定」は、高度

な判断業務であり、思いつきや願望だけで、できるものではありません。

そこで登場するのが、中計というツールです。中計策定のプロセスをうまく活用すれば、

より有効な「戦略的意思決定」が可能になるはずです。

(2)ステークホルダーと「情報共有」するためのコミュニケーション・ツール

ステークホルダーとは、企業活動によって直接的・間接的に影響を受ける人や団体など

の利害関係者のことです。例えば、株主、社員、顧客、金融機関、取引先などです。

ステークホルダーが、会社の将来方向を気にするのは当然であり、それを知るためのツ

ールが中計です。

また、優良企業は経営トップと社員の間に信頼関係があると言われ、その背景には「情

報共有」に力を入れている傾向がみられます。したがって、社内で、中計の「情報共有」

を図れば組織の一体感醸成の一助になると考えられます。

さらに、特に若い社員は、会社の将来性を気にする傾向が強く、これが不透明であると

モチベーションが低下することが知られています。若手のモチベーション向上の観点から

も、中計の「情報共有」には意味があります。

また、中計策定作業に社員が参加すれば、その過程を通じて、中計の「情報共有」が図

れるため、中計を策定するプロセス自体にも意義があると言われています。

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(3)中長期的経営課題を「解決」するためのツール

経営課題には、短期的経営課題と中長期的経営課題がありますが、中計は中長期的経営

課題を「解決」するための重要なツールです。

短期的経営課題としては、それ程手間をかけずに部内だけで「解決」できるようなテー

マが該当します。

これに対して、中長期的経営課題としては、全社横断的なテーマであり、「解決」には多

大な経営資源と長い時間を要するようなテーマが該当します。中長期的経営課題の例とし

ては、技術革新に対応するための大型設備投資、出店エリア拡大のための店舗開発や人材

採用・育成、新規分野進出を図るための研究開発などが挙げられます。

例えば、ある製造業では、開発期間を「1年以内」「中期」「長期」に分けて、「中期」

の開発についてはX年後の実用化、「長期」の開発についてはY年後の実用化を目指して

開発を行っています。そして、具体的な対応策としては、「中期」の開発に投入する人材

や資金の配分割合を決めています。

図表 1. 中計の機能

戦略的意思決定

ステークホルダーとの情報共有

中長期的経営課題の解 決

中計の機能

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3.中計策定・実行にあたっての留意点

中計を何回も策定している企業において、よく見られる問題は「内容のマンネリ化」や

「絵に描いた餅」などの現象です。以下は、これらの問題を回避して、より有効な中計を

策定するための留意点です。

(1)戦術をいくら束ねても戦略にはならない

各部門が策定した計画を積み上げて全社中計としてまとめている場合(俗称:ホチキス

中計)、内容がマンネリ化しやすくなります。特に「構造改革が求められる企業」において

は、戦略的意思決定が必要であると説明しましたが、視野の狭い戦術をいくら束ねても、

肝心の戦略にはなりません。トップダウンの要素が必要です。

(2)前もって何を準備するか決めるための計画

中計のポイントのひとつは「前もって何を準備するか決めること」です。「戦略的意思

決定」の意味は、環境変化を乗り越えるために、変化にあわせて先手を打つこと、すなわ

ち、準備をすることです。例えば「3~5年先を読んで、今から○○に対応するために、

具体的な準備△△をX年間かけて行う」というような内容が示されていれば中計として合

格です。

(3)計数重視、短期業績主義は要注意

「絵に描いた餅」については、中計を一度も達成したことがない会社を見たことがあり

ます。特に、新規顧客開拓や新規事業開発等がお題目に終わっているケースが多いようで

す。これらは、そもそも難易度の高い課題です。しかし、それだけではなく、短期業績主

義により、成果獲得までに時間が掛る中期的課題への取組みが先送りされることに原因が

あります。計数重視が行き過ぎて、目先の数字ばかり追いかけると、こうした事態が生ま

れます。また、短期業績主義により、セクショナリズムが高まり、部門横断的な中期的課

題が宙に浮いてしまうこともあります。

(4)計画の精度にこだわりすぎない

これは、誤解を生みやすい表現ですが、計画の内容がいい加減でもよい、ということで

はありません。将来事象には不確定要素がつきまとうのが前提です。これが中計不要論の

主たる理由でした。しかし、全ての事象が不確定ではないはずであり、確からしさの程度

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にもバラツキがあるはずです。これらの状況を少しでも解明するために、仮説を構築し、

検証を繰り返し、戦略的意思決定に資する分析を行うことが重要です。計数や精度にこだ

わりすぎて、中計を否定的にとらえると何も進みません。

また、企業経営には「夢や思い入れ」などの「意思」があるはずで、不確実性に対する

チャレンジも時には必要です。こんな言葉もあります。「未来は予測するものではなく、創

り出すものである」。

(5)ローリングが必要

ローリング方式とは、中計と実績のズレを埋めるために、施策の見直しや、目標数値の

修正を毎年転がすように定期的に行う手法のことです。これを行うことで、中計と単年度

予算は毎年、連動します。

ローリングを行わず、中計と実績がずれたまま放置すると、その乖離が大きくなり、や

がて中計は形骸化し「絵に描いた餅」になってしまいます。

(4)で示した通り、中計は、不確実性を内包せざるを得ない計画であるが故に、ローリン

グが必要と言えます。

4.中計の策定プロセス

(1)中計策定プロセスのタイプ分類

中計策定のプロセスは、大きくは以下の3タイプに分かれます。

それぞれに、メリット・デメリットがあり、どれが絶対的に正しくて、どれが間違ってい

るとは言い切れません。どのタイプを選択するかは、状況により変化すると言えます。

図表2. 中計の策定プロセス

経営トップ

ミドル/ロア

経営トップ

ミドル/ロア

経営トップ

ミドル/ロア

【トップダウン型】 【ボトムアップ型】 【折 衷 型】

ガイドライン

実行戦略

計数積上型権限トップ集中型 資源配分+コンセンサス

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①トップダウン型

経営トップが、中期経営目標や経営戦略・経営計画を意思決定し、社員に明示して、そ

の方向に引っ張っていくスタイルです。中小規模のオーナー系企業、ベンチャー企業など

にみられるケースです。

メリットは、策定手続きに手間(コスト)を掛けずに、スピーディに戦略的意思決定が

行える点です。反面、社員の理解納得を得にくいというデメリットがあります。これも、

経営スタイルのひとつですが、企業の発展段階等に応じて、その方法を変えていく必要が

生じる可能性があります。

②ボトムアップ型

各部門に中計を作らせ、これを吸い上げて全社の中計とする方法です。計数重視の傾向

が強い企業によくみられます。勿論、単純に合算・集約するのではなく、部門間調整等を

行いますが「各部門から数字と施策を出させてまとめる」というのが基本スタンスです。

この方法からは、中計内容の戦略性の欠如・マンネリ化などが発生する恐れがあります

が、構造改革の必要性が少なく、基本動作が重要な企業には適しています。

③折衷型

経営トップが会社の中期的方向性を明示した上で、各部門が、これをガイドラインとし

て中計を策定し、それらを調整しまとめる方法です。①トップダウン型と②ボトムアップ

型の要素を併せた方法なので、折衷型と呼ぶことにします。

①トップダウン型や②ボトムアップ型と比較して、策定プロセスが複雑になるというデ

メリットがありますが、構造改革が課題の企業には適しています。要するに、戦略はトッ

プダウンで、戦術はボトムアップでということです。

なお、以降の説明は、構造改革が求められる企業に適した③折衷型を念頭に進めることに

します。

図表3. 中計策定プロセスのタイプ別のメリット・デメリット

メ リ ッ ト デ メ リ ッ ト 適した企業

 トップダウン型 意思決定スピード 社員の理解・納得不足の可能性 ベンチャー等発展途上の企業

 ボトムアップ型 全社を巻き込みやすい 戦略性を発揮しにくい、マンネリ化 基本動作が重要な企業

 折衷型 戦略性と実現可能性の両立 策定プロセスが複雑 構造改革が課題の企業

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(2)具体的な手順・方法

折衷型の中計策定の具体的な手順は、図表4.の通りです。

中堅・中小企業の場合、中計策定に費やせる労力・時間には限界があります。したがっ

て、経営トップが先に戦略仮説を示し、それを検証する形で現状分析を行うとか、アウト

プットの体裁(資料の厚み、見た目)にこだわるのではなく、要点が分かれば良しとし簡

潔にまとめる(例えば、1枚にまとめる)などの工夫が必要になります。目的は「中計資

料づくり」ではなく「動く戦略的な中計づくり」です。

策定に要する期間の目安は、3ヶ月~6ヶ月程度です

図表4. 中計策定の具体的な手順

<1> 経営理念 <2> 経営ビジョン

Ⅰ. 中計の土台(指針)の確認

<1> ドメイン <2> 時間軸

Ⅱ. 中計の目標設定

<3>計数目標

<1> 自社(内部)の分析

Ⅲ. 現 状 分 析

<2> 外部環境の分析

<1> 事業ミックス構想

Ⅳ. 中計ガイドライン(計数目標と戦略方向)の設定

<2> 事業部門別ガイドライン

トップ・ダウン

Ⅴ. 各事業部門・管理部門の中計策定

<3> 管理部門ガイドライン

Ⅵ. 全社まとめ

ボトム・アップ

<1> 事業部門計数目標/重点課題・重点テーマ

<2> 管理部門計数目標/重点課題・重点テーマ

調

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以降「図表4.中計策定の具体的な手順」に沿って、その内容を説明します。

Ⅰ.中計の土台(指針)の確認

中計は、経営の土台(指針)である「経営理念(我社の価値観・存在意義)」と「経営ビ

ジョン(我社がめざす将来像)」の上に作られます。

したがって、これらを事前に確認した上で、中計策定をスタートします。また、策定を

進める中で、中計の方向性に迷った時は、これらの指針に立ち返って判断します。

ちなみに、経営ビジョンは、実現可能性を考慮せず「こうなりたいという夢」を語るイ

メージがよいと思います。経営ビジョンが夢を感じさせるものでないと、戦略発想の呼び

水になりにくいからです。実現可能性は、中計策定のプロセスで検証すればよいことです。

Ⅱ.中計の目標設定

このステップの基本的考え方は「戦略は目標を先行させて考える」ということです。目

的と手段の関係で言えば、戦略は手段です。例えば、現在、売上高 30 億円の会社が、3年

後、35 億円の売上高をめざす場合と 50 億円の売上高をめざす場合とでは、戦略の内容に大

きな差が出てくるはずです。

したがって、戦略を検討する前に、「経営ビジョン」の実現をめざすための「中計の目標

設定」(項目は以下<1>~<3>)を行います。

図表5. 中計の目標設定

1年目 2年目 3年目 X年目・・・・・・

経営ビジョンめざす将来像)

中計目標

現在

経 営 理 念 (価値観・存在意義)

計数目標

時間軸

<1>ドメイン<2>時間軸<3>計数目標

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<1> ドメイン(どの事業領域で)

ドメイン(事業領域)とは、企業の活動の範囲や領域のことで、企業の生存領域・貢献

領域を示すものです。企業の経営資源は有限なので、今後、どのドメインに絞って生存・

貢献を図るか決める必要があります。「業種業態名」で表わしたり、「提供価値・機能」で

定義しますが、「経営ビジョン」で示した「めざす将来像」との整合性にも留意が必要です。

ドメインを規定すると、事業展開方向や事業戦略の検討範囲が明確になります。同時に、

議論の拡散を防ぐ効果もあります。

図表6. ドメインのイメージ

【補足説明】:「事業」とは

・「事業」とは、「市場と製品・サービス」の組み合わせのこと(誰に何を提供するのか)。

・市場特性の違い、製品・サービス特性の違いから見て、戦略的に意味のある括りで

「事業(事業部門)」として区分する。

・したがって、中計で戦略を考える単位は事業別(事業部門別)が基本。→事業戦略

・全社戦略=Σ事業戦略(全社戦略は、事業戦略の総和)。

図表7. 事業とは

A事業 B事業

新規事業

我社のドメイン

X Y Z

製品・サー

ビス

市     場

A事業

B事業

新規事業

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<2> 時間軸(いつまでに)

いつの時点をターゲット(期限)にして中計目標を設定するかということです。

一般的に多いのは「3ヶ年計画」です。外部環境の不確実性を考慮すると5年では長す

ぎる、2年では単年度計画と大差がない等の理由が考えられます。

<3> 計数目標(めざす水準)

例えば、上場企業は、株主資本利益率(ROE)などを重視しますが、一般的には、売上

高と利益率(営業利益率、経常利益率)が、計数目標の指標になります。

計数目標設定は、「経営ビジョン」と「自社の現状」から判断することになりますが、基

本的には以下の3方向が考えられます。

・売上高の拡大(規模的成長)か

・利益体質の強化(利益率の向上)か

・両方(規模的成長と利益率の向上)か

また、計数目標の水準の決め方としては、例えば、以下があります。

・「経営ビジョン」に将来的な計数イメージが示されていれば、それをめざす

・業界平均値を参考にする

・業界トップ水準値を参考にする

・業界他社の中計を参考にする

・将来へ向けた発展原資(利益)確保の観点から逆算する

・競争戦略(市場シェア確保 等)の観点から決める 等

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Ⅲ.現状分析

現状分析の目的は、既存事業部門と管理部門を評価して、経営トップが戦略的意思決定

を行うためです。

既存事業部門と管理部門の評価は、「自社(内部)」の分析結果と「外部環境(市場と競

合)」の分析結果を統合して行います。(分析項目は図表8~10 を参照)

ここで気をつけたいのは、分析項目が多岐にわたるため、分析のための分析にならない

ことです。分析の結果を統合して「要するに○○である。」と一言で言い切ることがポイン

トです。分析結果が羅列されているだけで、要するに何が言いたいのか分からない調査分

析結果を、経営トップが見ても「戦略的な意思決定」ができないからです。

現状分析で知りたいポイントは、以下になります。

●「この事業は、今後伸びる余地があるのか、ないのか」「それは何故か」

・「伸びる余地があるとすれば、伸ばすべきか(理由)、その場合の課題は何か」

・「伸びる余地がないとすれば、維持すべきか(理由)、その場合の課題は何か」

・「伸びる余地がないとすれば、縮小・撤退すべきか(理由)、その場合の課題は何か」

●「管理部門(コストセンター:人事・総務・経理等)の課題は何か」「それは何故か」

<1> 自社(内部)の分析

図表8. 自社(内部)分析のポイント

分 析 項 目 視          点

(1)業績計数

・全社に占める各事業の売上貢献度、利益貢献度の割合・各事業の売上推移とその変化要因・各事業の利益推移とその変化要因・各事業の費用構造特性 等

(2)ビジネスモデル・各事業のビジネスモデルの特徴・各事業のビジネスモデル内の付加価値の源泉・各事業のビジネスモデルにおけるIT活用状況 等

(3)強み/弱み

※各事業の以下についての評価

・マーケティング力 (製品・サービス、顧客層、営業力、企画力 等)・技術開発力 (技術水準、特許、研究設備、技術者の質 等)・製造力 (コスト水準、生産性、生産能力と柔軟性 等)・財務力 (資金調達力、財務水準 等)・管理力 (管理職の質、管理制度・システム、組織風土 等)

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<2> 外部環境(市場と競合)の分析

図表9. 市場分析のポイント

図表10. 競合分析のポイント

分 析 項 目 視          点

(1)市場の規模・本事業の顧客はだれか・顧客はどこに、どのくらいいるのか

(2)市場の成熟度・本事業が提供する製品・サービスのライフサイクルは どの段階にあるのか(開発期・成長期・成熟期・衰退期)

(3)顧客の特性・購入の方法・購入に影響する条件はなにか・本事業が提供する製品・サービスをどのように利用しているか

(4)顧客の変化動向

・顧客を取り巻く環境(経済面、競争面等)に変化は起きていないか・顧客の持つ能力(知識、支払能力等)に変化は起きていないか・その結果、顧客ニーズに構造変化は起きていないか・新しい顧客層が誕生する兆候はないか

(5)顧客の満足度・製品・サービスの品質、価格、納期等の中で、顧客が最も重視 するのは何か・重視する項目に対する顧客満足度(対競合比較)

(6)流通チャネル      の動向

・本事業で活用している流通チャネルの強み/弱み・流通チャネル変革の動向

(7)その他の変化動向・代替製品・サービスが開発される可能性・市場構造を変えるような技術革新の可能性・市場構造を変えるような法改正、規制緩和等の可能性

分 析 項 目 視          点

(1)競争相手の抽出・本事業の競争相手はだれか・競争相手はどこに、どのくらいいるのか

(2)競争力地位・当社の市場シェアとその推移・競争相手の市場シェアとその推移・市場シェアの変化要因

(3)競争相手の特性

・基本戦略(価格、品質、品揃え等)は何か・顧客層の特徴・製品・サービスの特徴・ビジネスモデルの特徴・その他の強み/弱み

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Ⅳ.中計ガイドライン(計数目標と戦略方向)の設定

<1> 事業ミックス構想

「中計の目標設定」と「現状分析の結果」を踏まえて、中計の期限(例えば3年後)ま

でにめざす事業ミックス(構成)を構想します。

図表11. 事業ミックス構想(例)

<2> 事業部門別ガイドライン

事業ミックスを構成する各事業のミッション(使命)と戦略キーワードをガイドライン

として示します。

図表12. 事業別ガイドライン(例)

(売上高/億円)

現 状 3年後

 A事業 20 20

 B事業 10 15

 新規事業 0 5

(合計) 30 40

事業ミックス構想

中計の目標値

A事業 B事業 新  規  事  業

 事業ミッション(使命)・基幹事業・収益源

・成長牽引役 ・次世代の担い手

 戦略キーワード・効率化

・高付加価値化

・マーケティング

・イノベーション

・ドメイン内で選定・A、B事業とのシナジー効果を期待・リスク許容度 ・投資規模の上限 ○億円 ・撤退基準  事業開始後 ○年以内に黒字化

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<3> 管理部門ガイドライン

管理部門(コストセンター:人事・総務・経理等)に対する中計ガイドラインを示しま

す。基本的には、インプットであるコスト・要員とアウトプットである品質(スピード、

正確性、他部門へのサービスレベル等)のバランスが論点になります。例えば、将来的に、

コスト・要員は現状維持のまま、業務改善や教育等により品質向上をめざすのか、品質は

現状維持のまま、コスト・要員を削減するのか等の方向づけが考えられます。また、現状

において不十分な機能(弱み)があれば、それらを強化するという方向づけも加わります。

図表13. 管理部門ガイドラインのパターン(例)

ガイドラインⅠ ガイドラインⅡ ガイドラインⅢ

 コスト・要員 現状維持 現状維持 削 減

 品 質 向 上 向 上 現状維持

 強化機能 な し リスク管理機能等 な し

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Ⅴ.各事業部門・管理部門の中計策定

<1> 事業部門:計数目標/重点課題・重点テーマ

トップダウンで示された「中計ガイドライン」を踏まえて、各事業部門は自部門の中計

をまとめます。内容イメージは図表14を参照してください。ガイドライン→重点課題→

重点テーマへのブレークダウン(具体化)は、ツリー構造で発想します(図表15参照)。

図表14. 事業部門中計のフォーマット(例)

図表15. ガイドライン、重点課題、重点テーマのツリー構造

今年度 1年後 2年後 3年後 売上高 売上原価  (売上高比) 販管費  (売上高比) 営業利益  (売上高比)

 要 員(合計)  (      )  (      )  (      ) 設備投資(合計)  (      )  (      )

1年後 2年後 3年後

生 産

物 流

営 業

部 門 重点テーマスケジュール

開 発

事 業 部 門

 事業ミッション(使命)

 戦略キーワード

中計ガイドライン戦略方向

計数目標

 中計の重点課題 重点課題設定の背景・理由

(1)

(2)

(3)

ガイドライン

重点課題 重点課題 重点課題

重点テーマ 重点テーマ 重点テーマ 重点テーマ 重点テーマ 重点テーマ

(例)高付加価値化

(例)商品戦略の見直し

(例)新商品開発

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<2> 管理部門:計数目標/重点課題・重点テーマ

トップダウンで示された「中計ガイドライン」を踏まえて、各管理部門は自部門の中計

をまとめます。内容イメージは図表16を参照してください。事業部門と同様に、ガイド

ライン→重点課題→重点テーマへのブレークダウン(具体化)を行います。

図表16. 管理部門中計のフォーマット(例)

部  名

品  質

強化機能

(1)

(2)

(3)

中計ガイドライン

コスト・要員

 中計の重点課題 重点課題設定の背景・理由

今年度 1年後 2年後 3年後

 販管費

 その他

 人件費

 【要 員】

 IT関連費用

(合 計)

1年後 2年後 3年後

区 分 重点テーマスケジュール

基本動作

構造改革

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Ⅵ.全社まとめ

ボトムアップで上がってきた各事業部門および管理部門の中計を以下の観点から評価し

必要に応じて追加修正・調整等を行い、全社中計(図表17.参照)としてまとめます。

・ガイドラインとの整合性、内容の是非

・重点課題設定の背景・理由の妥当性

・経営資源とスケジュールからみた重点テーマの実現可能性

・内容レベルに部門間のバラツキはないか

・全社的な内容の整合性、部門間連携の余地

・全社合算数値の確認 等

評価は、経営トップが中心になって行いますが、各部の案を尊重する姿勢が必要です。

修正等を求める場合は、各部の理解・納得が得られるような丁寧なコミュニケーションが

理想です。目的は、動く中計づくりにあるからです。

図表17. 中計の目次(例)

1.経営の指針(1)経営理念(2)経営ビジョン

2.現状分析(1)外部環境(2)内部(自社)(3)まとめ

3.中計の基本方針(1)全社(2)事業部門(3)管理部門

4.中計の個別計画(1)事業部門

①ミッション②計数目標・計画③重点課題と重点テーマ

(2)新規事業①ミッション②基本方針

(2)管理部門①ミッション②計数計画③重点課題と重点テーマ

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5.中計策定の推進体制

(1)経営トップ

経営トップの役割は、方向(ガイドライン)を決断し明示することです。リーダーシッ

プと本気度が試されます。

(2)スタッフ

経営トップに方向(ガイドライン)を求めるためには、中立的な立場で、判断の材料や

仮説を検証するデータ等を提供する機能が必要です。

また、一連の中計策定作業の進捗を調整・管理する推進機能(事務局機能)も必要です。

一般的には、これらの機能を果たす部門は「経営企画」になりますが、必ずしも組織機

構にこだわる必要はありません。企業規模によっては、既存組織の中から、これはと思わ

れる人材を抜擢して、兼務等で担当させることも可能です。

(3)実行部門

ガイドラインを理解・納得した上で、当事者意識を持って、魂の入った中計を策定でき

るかどうかが鍵です。そのためには、部門内を巻き込んだ、建設的なディスカッションを

ある程度繰り返すことが必要になります。

図表18. 中計策定の推進体制(例)

経営トップスタッフ

部 門 部 門 部 門

実 行 部 門

ガイドライン

中計(案)

・情報収集・分析・事務局・中計全体まとめ 等

ディスカッション

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6.中計の進捗(プロセス)管理

(1)進捗管理表による管理

中計が「絵に描いた餅」にならないためには、中計の進捗(プロセス)管理(図表19.

参照)が必要です。

ポイントは、以下3点になります。

・中期的重点テーマは、個人別のアクションプランへの落とし込みが必要。

・中期的重点テーマと短期テーマは別々に進捗管理する。

・進捗管理を仕組化する(会議体、管理ツール等の制定)

図表19. 中計の進捗管理表(例)

区分 アクションプラン 1Q 2Q 3Q 4Q

計画実績計画実績計画実績計画実績計画実績計画実績計画実績計画実績

開 発

生 産

試作ラインの構築 ○○

本番ラインの構築 ○○

3年目

事前リサーチ ○○ ○百万

××技術の開発 ○○ ○百万

 重点テーマ(         )担当 予算

(1年目)計/実

1年目2年目

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(2)マイルストーン、コンティンジェンシープラン

進捗管理の応用動作になりますが、マイルストーンとコンティンジェンシープランの考え

方を説明します。

マイルストーンとは、プロジェクトの中で工程遅延の許されないような大きな節目のこと

です。中計の進捗管理においても、マイルストーンを設定し、これに対する進捗をモニタリ

ングすることで、中計達成率を高めます。

コンティンジェンシープランとは、 不測事態対応計画のことです。中計を推進していく上

で障害となるリスクには、さまざまなものがあります。これらのリスクが万一、顕在化した

場合に備えて事前に対策や手続を計画しておきます。 例えば、売上の急減や、原材料の入

手難・高騰などの不測事態が起きた場合の、緊急避難的なコスト削減手段や、代替原材料の

調達手段などを事前に検討しておきます。

図表20. マイルストーン、コンティンジェンシープラン

マイルストーン

中期経営計画

DO(実行)

CHECK(評 価)

ACTION(対 策)

コンティンジェンシープラン

DO(実行)

ローリング

不測事態

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7.中計のローリング

ローリングとは、中計と実績のズレを埋めるために、施策の見直しや、目標数値の修正

を毎年転がすように定期的に行う手法のことです。これを行うことで、中計と単年度予算

は毎年、連動します。

ローリングを行わず、中計と実績がずれたまま放置すると、その乖離が大きくなり、や

がて中計は形骸化し「絵に描いた餅」になってしまいます。

中計は、不確実性を内包せざるを得ない計画なので、環境変化に合わせて計画を修正す

るローリングが必要になります。例えば、3ヶ年中計の場合、1年目が終了する段階で、

その年の実績と要因を評価し、必要に応じて翌年からの3ヶ年中計を見直します(図表2

1.参照)。

ローリングは、目標数値および中計施策のどちらか一方を見直す場合と、両方とも見直す

場合が想定されます(図表22.参照)。

図表21. ローリングのイメージ

図表22. ローリングのパターン

目標(数値) 中計施策 備     考

ケースⅠ 不変 不変 ローリングした結果、見直し不要と判断

ケースⅡ 不変 見直し 当初の目標は維持し、達成のための施策を見直す

ケースⅢ 見直し 見直し 目標見直しに伴い、施策も見直す

n+1年 n+2年 n+3年 n+4年 n+5年n年

中計(n+2年)

中計ローリングプラン(n+3年)

中計ローリングプラン(n+4年)

中計ローリングプラン(n+5年)

レビュー(評価・見直し)

レビュー(評価・見直し)

レビュー(評価・見直し)

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但し、ローリングには、以下のメリット、デメリットがあることに留意が必要です。

・メリット

中計目標と実績が大きく乖離すると、目標達成に実感がなくなり、モチベーションの低

下を招く可能性がありますが、これを防止します。

中計目標を余裕で達成している場合は、目標を見直さないと、ビジネスチャンスを逃す

恐れが想定されますが、これを防止します。

・デメリット

当初の中計策定の責任が曖昧になる可能性があります。したがって、変更の履歴を記録

するなどして、何らかの形で見える化・フィードバック・策定方法改善につなげる工夫が

求められます。

また、2年目以降が単なる短期計画の延長線にならないように留意することが必要です。