札幌駅周辺の公共的トイレのアクセシビリティに関...

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Instructions for use Title 札幌駅周辺の公共的トイレのアクセシビリティに関する評価とその手法 : 車いす利用者のトイレ利用に着目 して Author(s) 佐川, 景子; 森, 傑 Citation 都市学研究, 43, 43-51 Issue Date 2006 Doc URL http://hdl.handle.net/2115/14924 Type article (author version) File Information 都市学研究43.pdf Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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Instructions for use

Title 札幌駅周辺の公共的トイレのアクセシビリティに関する評価とその手法 : 車いす利用者のトイレ利用に着目して

Author(s) 佐川, 景子; 森, 傑

Citation 都市学研究, 43, 43-51

Issue Date 2006

Doc URL http://hdl.handle.net/2115/14924

Type article (author version)

File Information 都市学研究43.pdf

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

札幌駅周辺の公共的トイレのアクセシビリティに関する評価とその手法- 車いす利用者のトイレ利用に着目して -

A Method for the Evaluation about the Accessibility of Restrooms around Sapporo Station:Focusing on the wheelchair users' behavior to use the restroom

佐川 景子* , 森 傑**

Keiko Sagawa* and Suguru Mori **

 The purpose of this research is to assess the accessibility of restrooms in daily life for elders and persons with disabilities around Sapporo station. We reviewed laws and guidelines for the barrier-free design in Japan and the United States, and also conducted the field check about the usability of public spaces. For considering the public capacity which is the accessibility as a seamless environment for persons' stay in downtown, we designed the check sheet and devised the method to examine whether or not restrooms meet users' needs in daily life based on these surveys . We concluded that the present state of public restrooms around Sapporo station is unequally laid out or partially serviced.1. 背景と目的 1994 年に施行されたハートビル法をはじめとする法律や条例によって建物や道路のバリアフリー化が進められ、また、ノーマライゼーションの一般的浸透により高齢者や障害者の日常的な外出の機会も増えつつある。しかし一方で、外出先での排泄行為への不安は大きく、外出自体を躊躇してしまう高齢者や障害者の人々がいるのも事実である。 本研究は、公共的トイレ注1)が実際の生活に即したかたちで有効に利用できるかどうかを考える立場から、トイレへの移動と設備自体の利用を含んだアクセシビリティ注2)を評価する手法を考案し、札幌駅周辺の公共的トイレのパブリック・キャパシティを把握することを目的とする。ここで言うパブリック・キャパシティとは、ある設備の公共的な利用に

* 北海道大学工学院工学研究科 修士課程・学士(工学) (Graduate student, Graduate School of Engineering, Hokkaido University, B. in Eng.)**北海道大学工学院工学研究科 助手・博士(工学) (Instructor, Graduate School of Engineering, Hokkaido University, Ph.D. in Eng.)

対する受容力を指す。特に駅周辺の市街地においては、建物に用のない人でも、その建物のトイレを利用することが日常的に行われる。そのため、公共的トイレのパブリック・キャパシティはその対象施設内からの利用に限られないことが望ましい。公共的トイレのパブリック・キャパシティを高めることで、高齢者や障害者の不安が減り、外出する機会が増加することが期待できる。

2. 既往研究と本研究の位置づけ トイレのバリアフリ-やユニバーサルデザインを扱った研究として、松尾哲彦らはトイレ内の動作観察およびヒアリング調査により、多目的トイレ自体の使い勝手に関する問題点を抽出し、今後の設計要件を求めている 1,2)。ここでは、介助器具の不適切な位置への設置による個室の面積や通路幅の不足が結論として挙げられており、整備基準を満足した空間であっても実際の利用においては問題が残されていることを指摘している。また、ヒアリング調査によって 80%の人がトイレまでの経路に困難を感じていることも示されている。 愛甲哲也・柴田まちこは、車いす利用者を対象にした都市公園の園路について、GIS を用いて勾配、幅員や舗装等について評価を行っている 3)。その評価方法では、日本国内とアメリカの整備基準をもとにして難易度を示しており、連続した移動環境をとり上げた研究として注目できる。 田中直人・老田智美 4)は、全国の主要自治体を対象にしたアンケート結果から、多目的トイレに対する整備状況についてまとめ、専用・優先・共用の概念をもとにトイレの配置、規模、設備性能等の空間計画についてのユニバーサルデザイン化を追求して

いる点で評価に値する。 以上の既往研究の成果をふまえ、本研究ではトイレ単体だけでなくトイレまでの移動経路を含んだアクセシビリティを対象とし、特に日常的な利用における移動の連続性について、新しい評価手法を考案することで、既往の法律やガイドライン等の適合性だけでは把握できない実態を明らかにすることを目指す。

3. 現在の対応策の把握3-1.既往整備基準等の整理 7 つの整備基準等の比較を行い、これまでの整備基準やチェックリストの形式・傾向を把握した。『ADA法 5)』や『ハートビル法 6)』『交通バリアフリー法 7)』『札幌市福祉のまちづくり条例 8)』は、代表的なバリアフリーに関わる法律や条例であり、法的な強制力を持つものである。次に、これらを基本に自治体が独自に定めた、『まっことようなるみんなのトイレ 9)』や『Universal Design New York10)』は、より詳細な設計要件が記載されており、計画時のガイドラインとしての役割を担っている。また、『アクセス環境評価指針 11)』は、ボランティア団体等が施設完成後に行うフィールドチェックの手法を示している。 これらを整理した結果、具体的な数値や寸法等に違いはあるものの、いずれも人間工学的な注3)知見に依った内容であることがわかった ( 表 1)。また、これらの法律や条例等は設計者を対象にした基準であるため、設計者が遵守しやすく、行政等が審査しやすい仕様になっている。ガイドラインも基本的に法律をもとにしているため、法律の定める領域を超えることができていない。3-2.フィールドチェックの実態調査 札幌市のボランティア団体の活動に参加することで、車いす利用者が外出時に直面する問題点の抽出とそこで用いられたフィールドチェックの手法の把握を行った。(1)旭山記念公園 2005 年 6 月 26 日(日)、バリアフリー・デザイン協議会が主催する「旭山記念公園再整備-ユニバーサルデザインに配慮した園路(散策路)-園路点検」に参加した。ここでは、あらかじめ作成され

た資料をもとに車いす使用者、視覚障害者、聴覚障害者とバリアフリーの点検を行った。(2)札幌駅周辺 2005 年 10 月 13 日(木)には、独自のフィールドチェックを実施した。事前にアンケートを行った結果をもとに、問題点の挙げられた公共的トイレやエレベーター等の設備と、使いやすいと言われる公共的トイレを主な点検対象とした。ここでは、自走可能な車いす使用者 2名と同伴者 1名に参加していただいた。(3)恵庭駅周辺 2005 年 10 月 16 日(日)に、交通権を考える連絡協議会が主催するフィールドチェックに参加した。ここでは、車いす利用者、視覚障害者、肢体不自由者とともに点検し、出てきた問題点について写真撮影による記録を行った。3-3. 現在の評価手法の課題 これらのフィールドチェックの結果から、外出環境における問題点は大きく二つに分類することができた(表2)。人間工学的な注3)問題点は、エレベーターがない、段差があるなどの現在の建築設計基準等にも記されているものであり、挙げられた数は少ない。生態学的な注4)問題点は、自動扉であっても利用が集中する場合は通行が困難である、スロープの場所が遠回りであるなどの問題点で、挙げられた数は多かった。以上の調査から、人間工学的な問題点を扱ってきたこれまでの整備基準やガイドラインにより人

表 2 問題点の分類人間工学的な問題点 生態学的な問題点

・重い両開き戸・入り口付近の段差・毛の長いマット

・混雑する自動扉・入り口の延長上の障害物・見つけにくい扉の色・多数の入り口のうち利用できる箇所が少ない・段差の解消のため係員を呼ぶ(自由度が低い)・スロープの先の段差

・交差点付近の傾斜・ゆがみの多い歩道・整備不十分の歩道・枝や石により前輪を奪われる

・人混みの多い通路の利用問題・柱や広告による通行と視界の障害・商品や荷台の通路へのはみだし・未修理の床・車いすが振動する床材・泥よけマットのはみ出し・路上駐車、駐輪・冬期の除雪具合・排水溝・館内のわかりにくさ

・勾配のきつい傾斜・連続する傾斜路

・傾斜路前後の扉や障害物・進行方向と異なる位置のスロープの設置

・エレベーターのない施設・整備不十分な信号機

・自由に利用できないエレベーター・利用時の事前連絡の必要性・わかりにくい配置のエレベーター・待機時に他の人の通行を邪魔してしまう

・利用可能なトイレの数の不足 ・自動施錠による閉じ込めの危険性・室内灯と扉の開閉の連動・通行障害となる設備・多目的トイレの利用マナー問題・設備の分かりにくさ・届かない位置の設備・分かりにくい配置のトイレ

・設置位置 ・サインを隠す広告や柱・異なる建築のサインの不足

エントランス

通路

傾斜路エレベーター

トイレ

サインその他

・係員の介助教育・点字ブロックや設備の謝った設置

較比の等

準基備整

往既 

1表

(2003)

名 称 背 景

使 用 対 象

と 目 的

   

の 構 造

ト イ レ に 関 す る 記 載 事 項

ADA法

アメリカ

(1990)

ハートビル法

建設省(当時)

(1994)

札幌市福祉の

まちづくり条例

札幌市(1998)

アクセス環境

改善整備指針

全国社会福祉協議会

(1995)

まっことようなる

みんなのトイレ

高知県土木部建築課

(1996)

UniversalDesign

NewYork

Mayor'sOfficeforPeople

withDisabilities(2002)

医療の発達により救われ

た命が増加し始め、これ

まで取り締まれなかった

障害による差別を取り締

まる初めての法律。

急激な高齢化に伴い、全

国的に統一された最低基

準を設定することで建築

等の改善の増進を目指し

た。日本の基本的な法律

ハートビル法や北海道の

条例を受け、生活環境全

体を含む改善を目標とし

た。

各地方自治体独自の整備

活動を検討することで統

一した整備基準等を定め

ることを目標とした。

求められる生活環境の充

実の一環としてパブリッ

クトイレの充実による美

しいまちづくりの形成を

目指した

ADA法に基づき障害者を特

別扱いすることを差別と

してとらえ、UDの原則に

従う建築に関する基準を

設定

ボランティア団体等がフ

ィールドチェックを行う

際の有効な判断基準

要素�(出入り口・廊下

など)ごとに、設備の寸

法や設置位置について細

かい�設計基準�が定めら

れている

要素�ごとに、設定され

た条件を満たすために�

整備基準�が数値等で設

定されており、設計内容

とて記号状況を判断する

要素�ごとに整備項目と

整備基準�が推数値等で

設定されており、設計内

容と比較し、適合状況の

合否を決める。

要素ごとの調査項目と設

問に対して◎○△×とな

る段階の評価を掲載して

いる。各質問ごとに4段

階の回答をしていく

マニュアルのため、写真

や図面を交え、配置計画

から寸法、設備器具の計

画の検討事項を掲載して

いる

要素�ごとに、1~3の

スコアの段階の評価に値

するスコアが与えられ施

設全体の得点が決められ

る。

交通バリアフリー法

国土交通省

(2000)

ハートビル法による個々

の施設の整備が進み、そ

れらへの移動手段の改善

を目的とした法律。

ガイドラインは、実際の

例を交え、要所ごとの寸

法を細かく明記し、計画

段階での設計基準を定め

ている

関 係アクセスの権利

に関する基本概念

NY市の�建築家やディベロ

ッパー等�を対象に、彼ら

の建築行為を補助するた

めの、遵守基準

公共交通機関を扱ってい

る�事業体�を対象に、新

設や増築等の際に遵守す

べき最低基準

建築等の行為をする者�

を対象とした計画時に遵

守し、審査するための最

低基準

パブリックトイレの�建

築計画を行う者�を対象

に、参考となるマニュ

アル

建築等の行為をする者�を

対象とした計画時に遵守

し、また各地方自治体が

審査するためのもの

便所⑴不特定多数又は主として

高齢者、身体障害者等が利

用する便所を設ける場合

 ①車いす使用者用便房を

  1以上設置

 ②腰掛便座、手摺等の適

  切な配置

 ③車いす使用者の利用に

  十分な空間の確保

 ④車いす使用者用便房が

  ある旨の表示

⑵男子用小便器のある便所

 ①床置式その他これに類

  する小便器を1以上設

以上の項目につき有・無

の審査

便所⑴不特定多数の利用する便

所を設ける場合、車いす用

便房を1以上設置

 ①車いす使用者に十分な

ス  ペースの確保、腰掛

便座  、手すり、荷物台

等の適  切な配置

 ②出入り口幅80cm以上

 ③開閉しやすい戸

  施錠・解錠しやすい錠

 ④車いす使用者の通過の

支  障となる段を設けな

い ⑵不特定多数の利用する男

子用小便器を設ける場合

トイレ

★アクセシブルな車いす用

ト イレは設置されている

か  ◎各トイレごとにある

 ○各階にある

 △建物に1カ所以上ある

 ×ない

項目が、入り口までのアク

セシブルか・表示は分かり

やすいか・男女別に設置さ

れているか・ドアは開閉し

やすいか・スペースは広く

とっているか・手すりは両

側についているか・施錠は

Public�Restrooms

Score1

アクセシブルな扉・通路幅

・設備・洗面設備・手すり

(法律に適合し、維持管理

の実行によりアクセシブル

を保つこと)

Score2

多用なニーズに適応させる

幅・長さ(調節可能な高さ

の設備・選択可能な長さの

手すり・移動を助ける広い

空間)

Score3

 女性トイレには子供用の

便所・便所の出入り口付近に男

女 の区別・構造を音声・

点字 で表示

・滑りにくい床の仕上げ

・便所と移動円滑経路間の

経路も円滑にする

・出入り口は容易に開閉し

通過できるものとする

・高齢者や身体障害者の利

用に適した水洗器具

以上の適合・不適合の審査

以上に加えて、トイレ自体の

整備基準が記載されているが、

札幌市の条例と同じ内容であ

るこの他に、廊下やエントランス

などのチェックを行った総合点

で施設の評価がされる

車いす用トイレ・多目的ト

イレに関しては、各種設備

の寸法・配置を示す詳細参

考図と、実施例の掲載。

人体動作を基本とした寸法

①通路幅90cm以上対面通行

の 場合150cm以上

②障害者用トイレ広さ

����230cm×230cm

��多目的トイレ広さ

  250cm×250cm

③手すりは高さ70cm程度

以上の様な寸法の設定を、

参考図面・写真によって表

障害をもつ人への差別を

排除するために、あらゆ

る商業について施行可能

な基準を制定した

便所・便房の寸法

正面からのアクセスの場合

幅1220mm以上奥行き1675mm

以上とする。

斜め方向からのアクセスの

場合幅1220mm以上奥行き

1420mm以上とする。

横からのアクセスの場合幅

1525mm以上奥行き1420mm以

上とする

・便座の高さ・手すり位置

・水洗レバー・ペーパーホ

ルダー等について同様に規

定されている

ADAに定める障害者への差

別をなくす設備の基準を示

すADAアクセスガイドライ

整備項目は建築要素

高齢者人口が

日本の人口の

14%

1983年~1992年

国際障害者の10年

神奈川県で車いす

使用者への対応を

盛り込んだ条例を制定

北海道

福祉のまちづく

り条例

Universal�Design�New�Yorkの制定を受け、

ガイドラインとしてUniversal�Design�

New�York2を作成

設計時の活用を想定

分類

法律および条例

ガイドライン

影響を与える

チ ェ ッ ク リ ス ト

日本の整備基準を参考

国際障害者年と並ぶ

重要な役割

その後の各国の法律等

に影響を与える

いて分析を行った。KJ 法は、川喜田次郎氏が開発した発想法である 12)。大量に収集した情報の分類・構造把握および新たな問題点の発見に有効である。今回、調査で抽出された大量の問題点について、筆者らおよび研究協力者で行った。 分析の第一段階では、これまで「エントランス」「階段」「通路」と建築要素により分類されてきた問題点が、問題点の性質に焦点をあてることで「パワー注7)」「テクニック注8)」「複雑性注9)」などの新しい分類のパターンが見つかった(図 1)。 第二段階では、先に分類された問題点の類似性や関係性により、さらに上位の3つの分類とその関係による構造が得られた。「利用におけるバリア」は環境の利用を可能とするが、その際バリアをクリアするために車いす利用者によるアクション ( 段差をパワーとテクニックでクリアする等 ) が必要となる場合である。「シークエンスによるバリア 」は、移動の性質に関わるもの(エントランスとトイレの配置による複雑性等)である。「選択性によるバリア」は、ある環境の利用ができず他の環境を選択しな

間工学的な問題点は改善されてきたが、依然として、生態学的な問題点が残されていることがわかった。

4. 調査シートによる現状4-1.調査シートの作成と現状調査 これまでの調査結果から明らかになった問題点を分類・整理、作成した調査シートをもとに、札幌駅周辺の公共的トイレの問題点の抽出を行った。調査シートの形式は既往整備基準のチェックリストの分類を参考にし、生態学的視点から現状調査を行った。調査対象は、札幌駅周辺の公共的車いす利用者用トイレ28カ所とし、2005年11月3日(木)、5日(土)、6日(日)のいずれも祝休日の昼間、13 時から 15時に行った注5)。各トイレについて、トイレのある「対象フロア」、上下階の「異なるフロア」、トイレのあるフロアと直接連結する「異なる建築物」、1階の場合は「屋外」の 4カ所からのアクセシビリティの調査を行った注6)。4-2.現状調査の結果 現状調査で得られた問題点について、KJ 法を用

図 1 KJ 法による分析結果

入り口との連続性

エントランス 通路 傾斜路 エレベーター トイレ

パワー

リーチ

テクニック

体力

ストレス

プライバシー

時間

複雑性

受容力

選択肢の

自由度

わかりやすさ

代替環境の選択

利用断念の選択

新分類既往分類

利用における制限︵バリア︶

シークエンスによる制限︵バリア︶選択性における

制限︵バリア︶

毛の長いマット

重い扉の開閉開き戸の開閉

混雑した自動扉

開き戸の開閉

連続した接続部

段差解消の

スロープ

混雑障害物の回避

振動する床材

トイレとの連続性

エレベータとの連続性

見通しの悪い接続部

連続した接続部

数多い入り口

目立たないエントランス

すぐ目に入らないサイン

利用可能なエントランスが

少ない

係員を呼ぶ

遠回りの代替案

(スロープ)

開閉困難な扉しかないフロア

代替案のない段差がある

やわらかい床

大きめの段差

開き戸の開閉

混雑障害物の回避

車いす前輪の操作

傾斜路状の

主要通路

振動する床材

隠れてしまうサイン

建物までの庇

(屋外)

障害物を待機で回避

フロア図サインの有無

見通しの問題人込み等

プランの

複雑性

接続する建築物の数

異なる建築のトイレのサインが

望める

吹き抜け上下階望む

遠回りの代替案

(スロープ)

係員を呼ぶ

唯一の手段の故障

段差方向と

傾斜路の方向

サインの有無

遠回りのスロープ

暗いスロープ

遠回りのスロープ

見通しの問題人込み等

床面利用のサイン

障害物を待機で回避

振動する床材

傾斜路状の

主要通路

連続する傾斜路

混雑障害物の回避

傾斜路前後の扉

混雑障害物の回避

手すりの有無

急な勾配停止中に

体を支える

操作盤の位置

扉の窓による見通し

乗降時のバック回転

混雑時の人込みの回避

待機中に通行の邪魔となる

ホール付近の

扉の開閉

係員の

許可・同行

トイレとの連続性

入り口との連続性

他のエレベータとの連続性

行き先の分かりにくさ

均等な配置

サインがわかりにくい

背景と同化した扉

行き先がわかる吹き抜け

目立つスケルトン形式

閉めるボタンがない

自由に利用

できない

利用できない

開閉困難な扉

障害となる設備の移動

障害となる設備の移動

トイレ設備の利用

障害となる設備の回避

入り口前の

スロープ

振動する床材

トイレの清潔具合

設備の多さによる混乱

施錠と照明の連動

男女共用の配置計画

数が少なく待つ

ベビーシートによる通行障害

施錠の

容易さ

上下可動式の

手すり

利用率の高い配置計画

設備の多様化で広いニーズに応える

均等な配置

設置位置色・光大きさ数

見つけにくいサイン

サインによる利用可能の示唆の有無

車いす使用者用トイレの選択

アクセスを想定しない空間に配置

大きめの段差

開き戸の開閉

手すりの有無

停止中に

体を支える

段差解消の

スロープ

混雑がひどい

異なる建築のトイレのサインが望める

多い数のうち利用できるのは?

混雑がひどい

トイレとの連続性

開閉困難な扉

別のトイレの情報の取得

近くのトイレの段差

数が少なく待つ

設備の多様化

A B

A,Bが相反する問題点

A A

2つ以上にまたがる問題点

A B

AによりBの問題点を解決

A B

Aが悪化するとBになる

設置位置色・光大きさ数

見つけにくいサイン

A B

A,Bが補完しあう問題点

混雑がひどい

障害物を待機で回避

良い点 悪い点

対象フロア

異なるフロア

対象外建築物

② A,B,Cが   0~32の場合は�1  �33~66の場合は�2    �67~100の場合は3つ分円を塗る�

① チェックシートのチェックの数を数え、  下図のa����に当てはめ、計算します。

例:Aが88、Bが25、Cが30の場合

③ その他の公共的トイレについても①②を同様に行い、  周辺地図の上にプロットし、比較・検討を行う

ほぼ均等に配色された円は、対象フロアだけでなく、異なるフロアや建築からの利用も有効であることを示す。

中心の濃い色の範囲の広い円は、トイレ自体や対象フロアの利用は有効であるのに対して、近接する場所からの利用が困難であることを示し、アクセス問題の解決が望まれる。

中心の濃い色の範囲が小さく、薄い色の範囲が広い円の場合、アクセス環境が良好であるが、対象フロアやトイレ自体に問題があることを示す。

79×100=

���A A

au+as

51×100=

51- �B B

bu+bs

59×100=

59-C C

cu+cs

図 3. 評価手法の概略

くてはいけない際のバリア(階差を解消できず、利用できるエントランスが限られる等)である。5.評価手法の考案5-1 チェックシートの考案 以上の分析より、独自のチェックシートを作成した ( 図 2)。チェックシートの形式は、ある地点から目標のトイレを発見・移動し、利用するまでの行動を追うものである。チェック方法は、左上の「情報の入手」から始まり、トイレ自体が見つかればそのまま「移動」へ移る。フロアの平面計画が複雑な場合やトイレが分かりにくい場所に計画されたためにトイレを発見できない場合、下の矢印をなぞりサインを探すことになる。また 「移動 」では、当てはまる 「□(チェックボックス)」にチェックしていく。この作業によって、なぞられた矢印の数が 「シークエンスによるバリア」を、チェックボックスのチェック数が「利用におけるバリア」を評価することになる。 チェックシートによる評価はフィールドチェックの場合だけでなく、トイレを計画する段階で使用し、事前に点検を行うことで、よりよいトイレ環境を築くために有効だと考える。5-2.パブリック・キャパシティの評価(1)評価手法 チェックシートによる調査結果を数値化もしくは視覚化することは、評価内容を比較・検討する上で有効である。 集計・視覚化は、図 3に示す評価手法に従って

表 3 評価点

場所A B C

au bu cuas bs csJR札幌駅北

JR札幌駅西

JR札幌駅南

地下鉄さっぽろ駅地下鉄さっぽろ駅

大丸B1

大丸2F大丸3F

大丸8F

大丸7F

大丸6F

大丸5F

大丸4F

ステラプレイスB1東

7

JR札幌駅東

5

3 5

3 5

1

8 10 5 7

7 7 4 10

7 8 4 10

7

6

7 9 3 8

7 1 9 1 8

6 7 1 9 1 8

6 7 1 9 1 8

6 7 1 9

6 7 1 9ステラプレイスB1西

ステラプレイス2F東ステラプレイス3F中

ステラプレイス4F東ステラプレイス5F中

ステラプレイス6F西

ステラプレイス3F東ステラプレイス4F中

ステラプレイス5F東

ステラプレイス6F中ステラプレイス6F東

ステラプレイス2F西ステラプレイス2F中

- - - - - -

ー - - - - - -

- - - - - -

- - - -

- - - -

- -

- -

10 8 2 11 7 8

9 8 11 7 8

7 6 11 7 8

7 6 3 11 7 8

7 6 3 11 7 8

7 6 11 7 84

4

4

エスタ4F

場所A B C

bu cuau as bs csエスタB1

エスタ2F

エスタ3F

エスタ5F

エスタ6F

エスタ7F

エスタ8F

エスタ9F

エスタ10F

アピア東

アピア西2

アピア西1

アピア中央

Lプラザ1F

Lプラザ4F

Lプラザ3F

Lプラザ2F

パセオ1F東・北パセオ1F東・南パセオ1F西パセオB1東・北パセオB1東・南パセオ B1中央パセオB1西・北パセオB1西・南パセオB1東・中央

ステラプレイス7F

7  9 4  9 3 8

8 7 3 8

8 8 4 9

5 6 1 8 7 11

5 6 1 8 7 11

5 6 1 8 7 11

9 7 6 12 8 12

4 8 1 9

4 8 1 9

4 8 1 9

4 8 1 9

10 8 2 11

2 9

- - - - - -

- - - - - -

- - - - - -

- - - - - -

- -

- - - - - -

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- -

- -

行う。まず、チェックシートに記入されたチェックと矢印の数を数え、au,as,bu,bs,cu,cs に記入し計算を行う。計算結果のA,B,C の値の範囲が、0~ 32 の場合は 1つ、33 ~ 66 の場合は 2つ、67 から 100の場合は 3つ分所定の色で円を塗る。ただし、利用できないと判断された場合は、評価点は「-」評

別の経路選択

別のトイレの選択

なし

対象フロアの

情報の入手へ

トイレとフロア間に高低差

トイレに近づく

 □障害物がある

 □手摺がない

 □振動する床である

  例:継ぎ目が多い

   � 表面の粗い床

 □操作に負担がある

  例:凹凸のある床 

  �  平坦でない床

 ス ロ ー プ 昇 降 機

□安全に利用できない

・自由に利用できない

係員を呼ぶ

(許可を受ける)

代替案の選択

□ある

□なし

注意が ある

 □なし

スロープ・段差解消機がある

 □障害物がある

 □手摺がない

 □振動する床である

  例:継ぎ目が多い

    表面の粗い床

 □操作に負担がある

  例:凹凸のある床 

    平坦でない床

 ス ロ ー プ 昇 降 機

□安全に利用できない

・自由に利用できない

高低差の解消

サ イ ン

利用前

 □サインがない

 □分かりにくい

  例:利用の可能

  �����

�を表示

 □男女共用である

  �例:プライバシー

■使用中の場合

□空くのを待つ

異なるトイレを選択

・複数ある

・異なるトイレの

 情報が手に入る

 例:サインがある

   

�近くの別のトイレ

  ��

�が目に入る

できる

□できない

配 置

□でない

扉の仕様

自動扉である

□照明と連動している

 例:介助者との間の

  

� プライバシー

□自動施錠

 例:閉じ込めの危険性

手動

□取手の位置・形状

 例:取手を掴めるか

□扉の重さ

□開閉のしやすさ

 例:引き戸は開閉しやすく

   開き戸の引く側は困難

扉の開閉

︵ 広 さ ︶

□不動

 可動

□上下

 左右

移動

便器へ移動

 □動きにくい床

  例:毛の長い絨毯

    

���柔らかい床 

 □振動する床

  例:継ぎ目の多い床

    

���表面の粗い床

 □操作に

����負担のある床

  例:凹凸のある床 

   

��� 平坦でない床

 □広さが狭い

 □設備がはみ出

���   ている 

 □小さな段差

 □注意がない

床 幅

・プランの複雑性

・トイレの配置

・人込み

・見つけやすさ

   数

   大きさ

   色使い

   (背景に対して) 

   光っている

・分かりやすさ

   色使い

   各交差部に配置

・インフォメーション

・店員の配置

トイレを探す

■サインを探す

■聞く

■トイレ自体を探す

見つからない

見つからない

 発見

情報

入手

 発見

情報の入手

・プランの複雑性

・トイレの配置

・人込み

・見つけやすさ

   数

   大きさ

   色使い

   (背景に対して) 

   光っている

・分かりやすさ

   色使い

   各交差部に配置

・インフォメーション

・店員の配置

トイレを探す

■サインを探す

■聞く

■トイレ自体を探す

見つからない

見つからない

 発見

情報

入手

 発見

情報の入手

EVへ移動

 □動きにくい床

  例:毛の長い絨毯

    柔らかい床 

 □振動する床

  例:継ぎ目の多い床

    表面の粗い床

 □操作に負担のある床

  例:凹凸のある床 

    平坦でない床

 □人ごみを回避できない

 □商品や設備が通路に

  はみ出ている 

 □小さな段差がある

 □乗り越えられない段差

 □段差の注意がない

床 幅

移動

段 差

□代替案なし

EVに近づく

・扉の色

・配置

・明るさ

EVの見つけやすさ

見つけにくい

見つけ

やすい

 □障害物がある

 □手摺がない

 □振動する床である

  例:継ぎ目の多い床

    表面の粗い床

 □操作に負担のある床

  例:凹凸のある床 

    平坦でない床

 ス ロ ー プ 昇 降 機

□安全に利用できない

・自由に利用できない

係員を呼ぶ

  (許可を受ける)

代替案の選択

代 替 案 の 選 択

・プランの複雑性

・EVの配置

・人込み

・見つけやすさ

   数

   大きさ

   色使い

   (背景に対して) 

   光っている

・分かりやすさ

   色使い

   各交差部に配置

・インフォメーション

・店員の配置

EVを探す

■サインを探す

■聞く

■EV自体を探す

見つからない

見つからない

 発見

情報

入手

 発見

情報の入手

別の経路選択

別のトイレの選択

□係員等

 の許可

自由な利用が可能

□利用できないEV

EVホールにつく

□操作ボタンの位置

□行き先の分かりやすさ

 例:どんな階に行くか

  の表示の有無

  �スケルトン仕様

 � 吹き抜け

 □障害物がある

  例:扉の開閉・荷台

    などの障害物

 □広さが充分でない

  例:通行の邪魔

ホ ー ル 諸 設 備

EVを利用する

 目的の階には行かない

     EV

EVの操作

□操作盤の位置

□操作ボタンの種類

 例:非常ボタンも届くか

□人込みを回避できない

 例:際に避けられるか

幅 床 見 通 し

□段差がある

 例:籠との間の隙間

□手摺

 例:体を支えられるか

□扉の窓が機能しない

 例:EVの中が見えるか

設 備 操 作 盤

EVを降りる

直進で降りられる

□回転して降りる

 ・広さが充分か

□バックで降りる

    □鏡の有無

EVの乗降

乗降時

エントランスへ移動

 □動きにくい床

  例:毛の長い絨毯

    柔らかい床 

 □振動する床

  例:継ぎ目の多い床

    表面の粗い床

 □操作に負担のある床

  例:凹凸のある床 

    平坦でない床

 □人やモノを避けられない

 □商品や設備が通路に

  はみ出ている 

 □小さな段差がある

 □乗り越えられない段差

 □段差の注意がない

床 幅

移動

段 差

□代替案なし

別の経路選択

別のトイレの選択

・プランの複雑性

・トイレの配置

・人込み

・見つけやすさ

   数

   大きさ

   色使い

   (背景に対して) 

   光っている

・分かりやすさ

   色使い

   各交差部に配置

・インフォメーション

・店員の配置

トイレを探す

■サインを探す

■聞く

■トイレ自体を探す

見つからない

見つからない

 発見

情報

入手

 発見

情報の入手

・プランの複雑性

・ENの配置

・人込み

・見つけやすさ

   数

   大きさ

   色使い

   (背景に対して) 

   光っている

・分かりやすさ

   色使い

   各交差部に配置

・インフォメーション

・店員の配置

エントランスを探す

■サインを探す

■聞く

■EN自体を探す

見つからない

見つからない

 発見

 発見

情報の入手

情報

入手

扉の開閉

でない

扉の仕様

である

自動扉である

□混雑している

 例:利用が集

  中している

手動式で

開放してある

□取手の位置・形状

 例:握れるか

□扉の重さ

□開閉のしやすさ

□開閉しなくては

 いけない

開放してある

扉はなく

連続している

扉がある扉がない

施設内へ移動

 □動きにくい床

  例:毛の長い絨毯

    柔らかい床 

 □振動する床

  例:継ぎ目の多い床

    表面の粗い床

 □操作に負担のある床

  例:凹凸のある床 

    平坦でない床

 □人やモノを避けられない

 □商品や設備が通路に

  はみ出ている 

 □小さな段差がある

 □乗り越えられない段差

 □段差の注意がない

床 幅

移動

段 差

□代替案なし

対象フロアの

情報の入手へ

エントランスとフロア

間に高低差がある

なし

扉に近づく

例:係員を呼ぶ等

その他代替案がある

□なし

注意が ある

□なし

スロープ・段差解消機がある

 □障害物がある

 □手摺がない

 □振動する床である

  例:継ぎ目の多い床

    表面の粗い床

 □操作に負担のある床

  例:凹凸のある床 

    平坦でない床

 ス ロ ー プ 昇 降 機

□安全に利用できない

・自由に利用できない

エントランスに近づく

□ある

エントランスを

利用できない

□なし

代 替 案 の 選 択

トイレへ移動移動

 □動きにくい床

  例:毛の長い絨毯

    �

�柔らかい床 

 □振動する床

  例:継ぎ目が多い

    

���表面が粗い

 □操作に負担がある

  例:凹凸のある床 

    

���平坦でない床

 □人やモノを避けら

  れない

 □商品や設備がはみ

  出ている 

 □小さな段差がある

 □乗り越えられない

 □段差の注意がない

床 幅 段 差

便座へ移動する

 □手摺に手が届かない

 ・手摺の仕様

手 摺

利用

設備の操作

□設備の設置位置

 例:座ったままで

   

�手が届くか

□分かりやすさ

□押しやすさ

車いすに座る

手を洗う

□手が届かない

 手を洗えない

設 備 洗 面 所

動 線 と 設 備 位 置 の 一 致 ・ 不 一 致

□不動

 可動

□上下

 左右

 □手摺に手が届くか

 ・手摺の仕様

手 摺□不動

 可動

□上下

 左右

(蛇口・石けんに届く)

対 象 フ ロ ア 異 な る フ ロ ア 対 象 外 建 築 物 ︵ 屋 外 含 む ︶

である

代 替 案 の 選 択

代 替 案 選 択 可 能

不可能

可能

□ 代 替 案 な し

□:(au)__個

→:(as)__個

集計

□:(bu)__個

→:(bs)__個

集計

□:(cu)__個

→:(cs)__個

集計

係員を呼ぶ

シクッェチ 

2図

価結果は色を塗らずに「×(バツ)」記号で表現する。 つまり、円の大きさがそのトイレのパブリック・キャパシティの大きさを表現している。例をあげると、中心の濃い色の円(対象フロアからのアクセス)が大きく、薄い色の円(異なるフロアと別の建築物からのアクセス)が小さいものは、移動性に改善点があると考えられる。逆に、中心の濃い色の円が小さく、薄い色の円が大きい場合は移動性には優れているが、トイレ設備自体や対象フロアに改善点があると考えられる。(2)評価結果 チェックシートおよび集計シートを用いて札幌駅周辺の公共的トイレの調査を実際に行った。調査日時は、2006年 2月 18日(土)、19日(日)、25日(土)、26日(日)、の各 13時から 16時である。 図2の評価手法①から、札幌駅周辺の公共的トイレの評価点が表 3のようになった。それをもとに評価手法②③を用いて視覚化したのが図 4である。 ここから明らかとなったことは、まず、1階中心付近のトイレの不足である。これは、トイレのみの利用を商業施設が制限するために 1階にトイレを設置しないことが原因として考えられる。逆に、地下 1階のトイレが充足しているのは、積雪寒冷地である札幌の地下街が発達したことが一因であると言える。また、JR 札幌駅の東側のトイレが不足していることから、車いす利用者の日常の行動範囲を制限している可能性がある。 次に、JR札幌駅周辺の全公共的トイレ数注10)の約半分が何らかのバリアフリー化が施されているが、エスタやパセオの比較的古い建物注11)では、利用不可能なトイレが多いことがわかる。 最後に、ステラプレイスは車いす利用者用トイレを4カ所しか設置していないが、トイレ環境の充実した大丸と接続していることと、多目的トイレ以外にも個室が広く利用可能なトイレがあったことで、西側に関しては高い評価を得ている。(3)考察 評価結果から、JR 札幌駅周辺の公共的トイレのパブリック・キャパシティのばらつきが明らかとなり、そこからトイレの配置計画や古い建物の改善を検討する要点を得ることができた。また、今回評価した公共的トイレの中には、扉さえ通れれば利用可

【謝辞】 本稿にあたり、NPO 法人バリアフリー・デザイン協議会、NPO法人交通権を考える連絡協議会の皆様に多大なご協力をいただき、また、匿名の査読者から有益なご指摘を頂きました。ここに記して感謝の意を表します。

【注釈】1)ここで言う「公共的トイレ」とは、利用に際して特別な許可や資格を必要とせず、広く一般に開かれているトイレのことを言い、公共の施設や駅、百貨店などのトイレのことを指す。また、公共的トイレは、対象施設を利用しない人も利用できる点が特徴である。2) 本研究では、Access-able-ty の意味として、Access[利用する・近づく]able[ことを可能とする]ty[性質]とする。ある場所から目的物に近づき、実際にその機能を利用することを可能とする性質と解釈し、ある場所から様々な環境を利用しトイレへ辿り着き、それを利用するまでの全過程を指す。3)「人間工学的な」とは、人間の身体的特性から求められた道幅や勾配、段差の高さを基準にすることで人間の利用に適合した設備を設計する考え。4) 「生態学的な」とは、生物にとっての生活の場である環境とそこに暮らす生物との相互作用についての科学である生態学の立場からものごとを捉えることをいう 13)。5) 実際の利用における問題点を抽出するため、札幌駅周辺施設が、活発に利用される祝休日の昼間 13時から 15時に調査を行った。6) 実際の公共的トイレの利用を想定すると、階数ごとに男女

能なものが多かったため、最小限の改装により、パブリック・キャパシティを高めることも可能である。

6. 今後の課題 本研究では、公共的トイレを実際に利用する際の有効性を示す評価指標の必要性を述べ、チェックシートと評価手法の考案を行い、JR 札幌駅周辺を対象に実際に評価を行った。本研究によって考案した評価手法は生態学的な観点からによるものであるため、それを用いた評価の内容は、例えば評価する人の障害の程度や評価する際の状況などによって異なるという性質を持つ。これは生態学的な評価を目指す限り当然の結果であり、重要なのは多様な評価主体と状況によって得られた多面的な生態学的評価をどのように総合的・複合的に捉えていくかという点にある。この点を踏まえ、以下今後の展開における主な課題を挙げる。①評価視点を電動式車いす使用者、視覚や聴覚に障害を持つ人々に拡げ、チェックシートの改良を重ねることで、よりユニバーサルに応用可能な評価手法の考案に結びつけていきたい。②現段階ではチェックシートの評価項目を一律に扱って点数化しているので、評価主体にとって異なるバリアの重みづけを考慮した数値化を検討していきたい。

大丸札幌

札幌

ステラプレイス

エスタ

Lプラザ

パセオ

JR札幌駅

地下鉄

さっぽろ駅

N

車いす利用者が利用

できるトイレ

車いす利用者が利用

できないトイレ

×

××

××

×

××××

×

××

××

×××

×

××

××

×××

×

東側の

 不足エリア

西側の

充足エリア

地上階

地下1階

アピア

地下1階の

充足エリア

×

価評

のレイト的

共公の辺周

駅幌札 

4図

別の計画がされていたり、隣接する建物のトイレの方が近い場合があり、対象トイレのあるフロアと繋がるフロアからの総合的なアクセシビリティを評価する必要がある。そこで本研究の調査範囲を、「対象フロア」、「異なるフロア」、「異なるフロア」「屋外」の4カ所からとした。例えば、商業施設1階のトイレを対象とした場合、1階、2階および地下1階、屋外の4カ所からの調査を行った。7)ここで言う「パワー」は直面したバリアを力で解決する時のバリアのグループで、例えば力を必要とする段差や扉の開閉が含まれる。8)ここで言う「テクニック」は直面したバリアを車いす操作のテクニックで回避する時のバリアのグループで、例えばテクニックを必要とする人込みの回避や凸凹な通路の通過が含まれる。9)ここで言う「複雑性」はサインやトイレの分かりにくさの原因の1つであり、シークエンスの問題である。例えば、複雑な平面計画や分かりにくいトイレの配置が含まれる。10)ここで言うトイレ数とは、トイレの個室の数ではなくトイレの場所の数のことを指す。11) 調査対象の施設の建築年はそれぞれ、JR札幌駅 1988 年、地下鉄さっぽろ駅南北線 1971 年、東豊線 1988 年、大丸札幌2003 年、札幌ステラプレイス 2003 年、Lプラザ 2003 年、札幌エスタ 1978 年、パセオ 1988 年、アピア 1999 年である。

【参考文献】1)松尾哲彦・柏原士郎・吉村英祐・横田隆司・飯田匡・中島佐智子:多目的トイレにおける重度肢体不自由者の利用上の問題点について その1トイレ内動作観察及びヒアリング調査による考察,日本建築学会大会学術講演梗概集,pp.955-956,2005.92)中島佐智子・柏原士郎・吉村英祐・横田隆司・飯田匡・松尾哲彦:多目的トイレにおける重度肢体不自由者の利用上の問題点について その 2多目的トイレ実態調査結果の考察,日本建築学会大会学術講演梗概集,pp.957-958,2005.93)愛甲哲也 , 柴田まちこ:車いす使用者からみた都市公園利用意識と園路の連続性の実態,日本都市計画学会都市計画論文集,No.40-3,pp853-858,2005.104)田中直人・老田智美:専用・優先・共用の施設利用対象概念からみた全国主要自治体における多目的トイレの整備変遷状況に関する調査研究 , 日本建築学会計画系論文集,pp65-70,2005.55) 斉藤明子訳:アメリカ障害者法:全訳・原文,現代書館,1991 6)高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(平成六年六月二十九日法律第四十四号),19947)高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(平成十二年五月十七日法律第六十八号),20008)札幌市保健福祉局障害保健福祉部障害福祉課:施設整備マニュアル,19999)高知県土木部建築課:まっことようなるみんなのトイレ,199610)City of New York Department of Design and Construc-tion in partnership with The Mayor’ s Office for People with Disabilities:universal design new york 2, 200311)社会福祉法人全国社会福祉協議会:アクセス環境改善評価指針,199512)川喜田二郎:発想法 創造性開発のために,中公新書,196713)佐々木正人・三嶋博之[翻訳]:生態心理学の構想 アフォーダンスのルーツと突端,東京大学出版,2005