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「最近の著作権制度上の課題について」 大阪工業大学知的財産学部 教授 甲野正道

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Page 1: 「最近の著作権制度上の課題について」...「最近の著作権制度上の課題について」 大阪工業大学知的財産学部 教授 甲野正道 本日の説明の内容

「最近の著作権制度上の課題について」

大阪工業大学知的財産学部

教授 甲野正道

Page 2: 「最近の著作権制度上の課題について」...「最近の著作権制度上の課題について」 大阪工業大学知的財産学部 教授 甲野正道 本日の説明の内容

本日の説明の内容

• オンライン教育と著作権

• 令和2(2020)年著作権法等の改正(インターネット上の海賊版対策関係)

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オンライン教育と著作権

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大学の授業では、様々な著作物が複製され、授業を受ける学生に配布されてきた。【例】• 「論文購読」における学術論文、語学の授業における外国語の新聞雑誌記事などの教材

• 教員が作成するレジュメ中に他人の作成した図表、イラスト、写真などを掲載

• 卒論の指導の過程で、学生が参照すべき文献をコピーして渡す

〇教材中に利用される著作物の例

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〇2018年の著作権法改正施行前は・・• 著作物を複製することはできる• 著作物の公衆送信は遠隔合同授業(同時中継)のみで、事前の教材の配布、オンデマンド授業、スタジオ型配信は不可

〇2018年の著作権法改正施行後は、すべての公衆送信が可能となる

文化庁作成資料より

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6

(学校その他の教育機関における複製等)第三十五条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

2以下 略

2018年改正後の規定

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他方、教育機関の設置者は、この法改正で認められた公衆送信について、補償金を支払うことが必要。

改正法施行前 改正法施行後

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(学校その他の教育機関における複製等)第三十五条2 前項の規定により公衆送信を行う場合には、同項の教育機関を設置する者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

3 前項の規定は、公表された著作物について、第一項の教育機関における授業の過程において、当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第三十八条第一項の規定により上演し、演奏し、上映し、若しくは口述して利用する場合において、当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信を行うときには、適用しない。

• 第2項 教育機関の設置者の補償金支払い義務• 第3項 従来権利制限されている公衆送信(=無許諾・無償で利用で

きていた部分)については、補償金の支払いは不要

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以上の改正法の施行は、改正法の公布(平成30年5月25日)から3年を超えない範囲において政令で定める日とされているが、2020年に入っても、政令は制定されていなかった(関係者は、2021年4月1日施行を想定)。

一方、本年に入って、コロナウィルスの感染が拡大し、学校でのオンライン授業は必須となった。

そうした事情を踏まえ、権利行使する団体として指定を受けた「一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)」は、補償金額について2020年度に限り無償で文化庁に認可申請。文化庁がこれを認可するとともに、施行日を定める政令が定められ、改正法は2020年4月28日に施行された。

国立感染症研究所提供写真

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2021年4月からの補償金は・・・

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指定管理団体について

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教育目的の複製・公衆送信の要件

〇以下の要件を満たした場合に複製・公衆送信

(以下「複製等」という)できる(35条1項)。

1. 公表された著作物であること

2. 学校等教育機関の授業の過程で用いる目的• 大学もこれに入る。• 授業資料を学外者に公開するためにサーバーに蓄積する行為は含まれない。

3. 授業担当者または授業を受ける者により行う• 他の教員の授業分は複製できない。

4. 必要な範囲• 授業を受ける人数分が基本。

5. 権利者の利益を不当に害しない• ソフトウェアや学校向け出版物の複製はできない。• 書籍の丸ごとコピーはだめ。

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• 教育関係者(学校、教育委員会等)と権利者からなる「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」において、35条にかかるガイドラインを作成(本年4月)。

• 令和3年度以降のこの制度に関する運用指針(ガイドライン)は、これまでのフォーラムにおける議論を踏まえ、引き続き議論を行った上で、取りまとめられる。

https://forum.sartras.or.jp/wp-content/uploads/unyoshishin2020.pdf

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令和2(2020)年著作権法等の改正(インターネット上の海賊版対策関係)

・リーチサイト規制

・侵害コンテンツのダウンロード違法化

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リーチサイトとは?

違法にアップロードされた著作物へのリンク情報が掲載されたウェブサイト→利用者を違法サイトに誘導して広告収入を得るなどしている

• 摘発されるまでの1年間の被害額731億円。

• 3名の運営者は自ら違法アップロードを行っており、2年4月~3年6月の懲役刑(実刑)。

なお、スマートフォン向けには、同様の機能を持つ「リーチアプリ」がある。

(例)「はるか夢の址」(現在削除)

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〇リンク提供行為と著作権侵害

• リンク提供行為は直接の著作権侵害とならない➢ 著作物の送信行為を行ったのは、リンク先のサイト管理者等

• もっとも「著作権侵害の幇助」となる可能性はある➢ 利用者による侵害コンテンツへのアクセスを容易にしているので、侵害コンテンツの送信行為をも容易にしているといえる。

➢ しかし、幇助行為の差止め(=リンクの削除)については、否定的に考える意見が多い。

• 刑事罰については、「幇助罪」ということで、科すことは不可能ではない。➢ しかし、正犯(侵害コンテンツの送信行為)の立件ができない場合には、幇助犯のみの立件は困難。

リンク提供の差止め(=リンクの削除)は不可能で、刑事罰についても十分とはいえない。

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〇リーチサイト運営者の法的責任は?

• 個々の被害者がリンクを張った者のみならず、サイト運営者に対しても差止め(サイトからリンク情報の削除)を求めることができるか?➢ リンク情報等を削除する権限及び義務があるにもかかわらず第三者によって書き込まれたリンク情報等を削除せずに放置している者も,一定の場合にはリンク情報等の提供行為の主体と評価され,当該リンク情報等に関し,サイト運営者に対する差止請求が認められ得る(2019.2著作権分科会報告書)。

• 個々の被害者がリーチサイト自体の削除を求めることができるか?➢ 侵害の態様によっては認められる可能性はある(同報告書)。

(差止請求権)第百十二条2 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物、侵害の行為によつて作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具の廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求することができる。

責任が重大なリーチサイト運営者への対応として、不十分ではないか

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文化庁作成資料(2019年2月著作権分科会報告書)

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リーチサイト規制の具体的内容

〇リンクを提供する行為について• リーチサイトにおいてリンクを提供する行為を著作権を侵害する行為とみなす。

➢ 差止め(=リンクの削除)や、提供行為に刑事罰を科すことが可能となる。

〇リーチサイトの運営について• リーチサイトにおいてリンク提供を放置する行為を著作権を侵害する行為とみなす。

➢ 運営者に対してリンクの差止め(=リンクの削除)を求める要件を明確にする。• リーチサイト運営行為に刑事罰を科す。

➢ 個々のリンク情報等の提供を行う者との比較において,違法行為を助長する度合いがより大きく,社会総体として見たときに著作権者により深刻な不利益を及ぼしていると評価できることから,個々の著作物等に係るリンク情報等の提供行為とは独立して,社会的な法益侵害を及ぼすものとして,罰則の対象とする。

• なお、個々の権利者がリーチサイト自体の削除を類型的に請求できるようにすることは、過剰差止めの問題が生じるので、行わない。

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漫画の海賊版の問題

• 海賊版サイトには、漫画雑誌等のコンテンツがそのままアップロードされ、アクセスした者は無料で鑑賞できる。音楽の場合は、ライブなどで収益を得られるが、漫画の場合は作家や出版社の経済的損失は膨大。

• 外国にあるサーバーにアップロードされており、法執行が容易ではない。アップロードサービスを行うCDN事業者は顧客情報の開示に消極的といわれる。

• 日本国内でこうしたサイトにアクセスする行為は、日本法でも非侵害。また、ダウンロード複製する行為については、違法とされるのは「録音」、「録画」だけであり、静止画の複製は違法ではない。

https://news.biglobe.ne.jp/smart/it/0101/8873402134/jc_news_20171227183747_jpg.html

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•書籍のダウンロードによる被害状況

文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会資料(2018.10.29)(一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)提出)

漫画だけでなく一般書籍も含む。

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侵害コンテンツにかかる著作権法の内容• 無断アップロードは著作権者の公衆送信権(22条1項)侵害で違法

• 視聴は、適法(無断アップロードされたものの視聴も適法)

• 静止画や文字情報をダウンロードして複製する行為は、私的使用目的であれば適法(改正前)

「録音又は録画」⇒音楽及び映像に限られ、静止画・文字情報等は含まない。

(私的使用のための複製)第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。三 著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合

〇違反者には、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科となる。

【改正前の規定】

著作物一般についてダウンロード禁止にする必要

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侵害コンテンツ一般についてのダウンロード禁止(違法化)についての懸念(例)

• 違法・適法の判断が困難• 権利者が問題としていなくても違法となる• 濫用的な権利行使/刑事罰の運用の不当な拡大の懸念• スクリーンショットも違法となりうる(違法な著作物が紛れ込んでいた場合)。

• ごく一部の軽微なダウンロード(漫画の一コマ、違法引用が行われている論文など)でも違法となる

• 二次創作やパロディがネット上にあげられることがあるが、これができなくなる。

そこで・・・

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ダウンロード違法化にかかる改正内容

(文化庁作成資料)

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附 則(国民に対する啓発等)

第二条 国及び地方公共団体は、国民が、私的使用(第二条の規定による改正後の著作権法(以下「第二条改正後著作権法」という。)第三十条第一項に規定する私的使用をいう。)の目的をもって、特定侵害複製(同項第四号に規定する特定侵害複製をいう。以下この項において同じ。)を、特定侵害複製であることを知りながら行って著作権を侵害する行為(以下「特定侵害行為」という。)の防止の重要性に対する理解を深めることができるよう、特定侵害行為の防止に関する啓発その他の必要な措置を講じなければならない。

2 国及び地方公共団体は、未成年者があらゆる機会を通じて特定侵害行為の防止の重要性に対する理解を深めることができるよう、学校その他の様々な場を通じて特定侵害行為の防止に関する教育の充実を図らなければならない。

〇改正法の施行はリーチサイト規制 令和2(2020)年10月1日侵害コンテンツのダウンロード違法化 令和3(2021)年 1月1日

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文化庁作成資料より

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2019.10.18関係省庁名により公開

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ご清聴ありがとうございました。