「小児在宅医療における薬剤師の役割に関する研究」 · 2019-03-27 ·...

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1 公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団 2016 年度(後期) 一般公募「在宅医療研究への助成」完了報告書 「小児在宅医療における薬剤師の役割に関する研究」 申請者:櫻井浩子 所属機関:東京薬科大学 提出年月日:2019 年 3 月 5 日

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公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団

2016 年度(後期)

一般公募「在宅医療研究への助成」完了報告書

「小児在宅医療における薬剤師の役割に関する研究」

申請者:櫻井浩子

所属機関:東京薬科大学

提出年月日:2019 年3 月5 日

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研究の目的

本研究の目的は、次の2 点である。第一に、NICU を退院した医療的ケアを必要とする子どもとその母親が、

在宅生活を過ごすなかでどのような支援を必要としているか、特に薬剤師の役割を明らかにする。第二に、得ら

れた結果をもとに、在宅医療におけるかかりつけ薬剤師に対するニーズを分析し、ニーズに応えうる薬学教育の

カリキュラムについて考察する。

新生児医療の進歩に伴い、これまで NICU で亡くなっていた重度障がいを持つ子どもたちが在宅で生活でき

るようになってきた。しかしながら、痰の吸引などの医療的ケアや栄養剤の点滴、投薬などが必要であることが

多い。このような介護は主に母親が担っているが、反面訪問看護の利用は少ない。こうした現状に対し申請者は

「重度障害児の在宅支援に関する調査研究」を行った。その結果、親のニーズと訪問看護のシーズのミスマッチ

を明らかにした。具体的には、親は訪問看護師に対し「我が家にあったサービスの提供」「話を聞いてほしい」

という要望が高いのに対し、訪問看護師は「お母さんのほうが手技が上手で、役割が見いだせない」「小児看護

の経験が少ない」といった回答が得られた。小児在宅のニーズにあった訪問看護のサービス提供や研修の必要性

を提案した。

在宅で子どもを介護している母親たちに聞くと、点滴や投薬の方法などは母親たちの経験知に基づいた情報に

頼っているのが現状であり、薬剤師のアドバイスを受けているという話はあまり聞いたことがない。残念ながら、

現状では小児在宅医療での薬剤師の存在は感じられない。こうした背景には、小児の投薬は診療点数が少ないこ

とから収益に繋がらないため、在宅医療の薬という観点において小児の問題は後回しにされやすいのかもしれな

い。重い病気の子どもに対しても適正な投薬が行われるべきであり、状況を改善するには小児在宅医療を薬、薬

剤師というアプローチから検討する必要がある。

一方で医薬分業が普及し、在宅医療におけるかかりつけ薬局の役割が重要視されてきている。医師から処方箋

の指示を受ける立場だけでなく、患者宅への医療品の配達、投薬の手技指導や残薬の管理、副作用への対応など

薬剤師が主体性と専門性を持ち、直接患者に接する立場へと変容している。さらに2016 年4 月より、かかりつ

け薬剤師制度が開始され、患者の処方箋の他に市販薬や健康食品、健康管理や疾病予防までと広範囲にわたり患

者の生活にかかわる。つまり、薬剤師一人ひとりの資質が問われ、患者・患者家族のニーズに応じた柔軟な姿勢

が要請される。

以上2点の研究背景をもとに、「小児在宅医療」における「薬剤師」の役割について本研究では考察を行う。

申請者が知る限り、小児在宅医療の先行研究では、主に医師や訪問看護師の観点から検討したものが多く、「薬

剤師」から言及したものは余りない。日常の医療から看取りに至るまで、医師の指示にただ従うのではなく、チ

ーム医療の一員として薬剤師の判断が求められる。今後、かかりつけ薬剤師の普及により、薬剤師の責務は増え

るだろう。

こうした背景および現状を踏まえ、本研究では小児在宅医療に焦点をあて①「子どもの最善の利益」追求のた

めに薬剤師がどのような役割を担い、②役割を全うするために薬剤師がどのような知識・能力を習得しておくべ

きか、薬学教育の観点から検討を行う。

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研究の方法

以下、3つの方法により調査を進めた。

① 家族へのインタビュー

全国各地に居住する医療的ケア児の家族に構造化インタビューを行う。インタビュー内容は以下のとおりであ

る。

⚫ お子さんの疾患名、年齢、退院年齢

⚫ 現在の医療的ケアの内容

⚫ 服薬(栄養も含む)の現状

⚫ 服薬の際、工夫していること

⚫ 訪問薬剤師を使っているか否か

⚫ 訪問薬剤師にしてほしいこと

⚫ 在宅介護で困っていること

⚫ 「薬」「服薬」「調剤」についての要望

⚫ 新生児医療、小児医療への要望

インタビューを文字化し、小児在宅における服薬の現状、家族が必要としているニーズ、薬剤師に求められて

いる資質及び能力などについて整理をする。

② 訪問薬剤師へのインタビュー

小児在宅医療の経験のある薬剤師に対し構造化インタビューを行う。

インタビュー内容は以下のとおりである。

⚫ 服薬の状況に関する問題点

⚫ 小児在宅医療における訪問薬剤師のかかわりの現状と課題

インタビューを文字化し、小児在宅医療における服薬の現状や訪問薬剤師の業務、課題について整理をする。

③ 海外事例文献調査

国内外の先行研究について、分析結果と課題を網羅的にレビューし、整理を行う。

なお本研究実施にあたり、東京薬科大学ヒト組織等を研究活用するための倫理審査委員会の承認を得た(17

-10)。

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結果

家族へのインタビュー

調査対象者は、医療的ケア児を介護している(介護経験のある)親15 名(回収方法:紙面8 名、半構造化

インタビュー7 名)である。調査期間は2017 年7 月から2018 年6 月までである。主な質問として、子どもの

基本情報に加え、①服薬の現状、②服薬の際工夫していること、③訪問薬剤師にして欲しいこと、④「薬」

「服薬」「調剤」についての要望などである。 得られた結果を集計し、さらにインタビューの文字化を行っ

た。

1)子どもの基本情報

15 人の子どもの基本情報を表1 に示す。

表1 子どもの基本情報

年齢 0~18 歳 平均値6.9 歳(標準偏差5.5)

居住地域 北海道地方 0 人( 0.0%)

東北地方 0 人( 0.0%)

関東地方 5 人(33.3%)

中部地方 0 人( 0.0%)

近畿地方 4 人(26.7%)

中国地方 1 人( 6.7%)

四国地方 2 人(13.3%)

九州地方 3 人(20.0%)

在宅前の入院期間 平均値13.4 か月(標準偏差20.6)

自宅移行時の年齢 平均値13.6 か月(標準偏差20.5)

病気や障害(複数回答あ

り)

染色体異常 10 人(66.7%)

心疾患 5 人(33.3%)

脳障害 4 人(26.7%)

呼吸器疾患 4 人(26.7%)

消化器疾患 3 人(20.0%)

神経筋疾患 3 人(20.0%)

眼疾患 1 人( 6.7%)

手帳 身体障害手帳有 13 人(86.7%)

うち1 級 11 人(73.3%)

療育手帳有 8 人(53.3%)

薬の種類 平均値6.1 種類(標準偏差 3.9)

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1~3 種類 4 人(26.7%)

4~6 種類 6 人(40.0%)

7~9 種類 1 人( 6.7%)

10~12 種類 3 人(20.0%)

15 種類 1 人( 6.7%)

服薬の回数・時間 1 回(朝食後) 1 人( 6.7%)

2 回(朝夕の食後)5 人(33.3%)

3 回 8 人(53.3%)

(朝昼夕の食後)

(朝昼深夜(23 時))

4 回(3・9・15・21 時) 1 人(6.7%)

➢ ポンプ使用時の注入を2 時間かけて行い、終了時に薬を注入していた。

2)子どもに必要な医療行為(複数回答あり)

子どもに必要な医療行為として、口腔鼻腔吸引(73.3%)と経管栄養(73.3%)が最も多く、次いで在宅酸素

(60.0%)、人工呼吸器(46.7%)であった。子どもの生存に直結する呼吸や栄養管理と医療依存度が高かった。

3)服薬で困っていること・工夫していること

服薬で困っていることがあると 35.7%が回答した。具体的な内容として、経管チューブの詰まり、服用の時

間、投与方法に関することが挙げられた。こうした服薬での困りごとに対し、工夫していることがあると60.0%

が回答した。具体的な工夫として、子どもの状態に合わせて服薬の時間を調整している、詰まりやすい薬への対

応、飲ませ方、薬の管理が挙げられた(表2)。

表2 服薬で困っていること・工夫していること

【服薬で困っていること】

経管チューブの詰まりなど

⚫ たまにむせて、口から粉がまってしまう。

⚫ 朝の投与によって日中眠くなってしまう。

⚫ 漢方の粒が大きく詰まりやすいので、薬局で粉砕対応してもらう。漢方が湿気やすいので乾燥剤を一緒

に入れているが、最初しか効果がない。

⚫ 薬が水に溶けないので、注入しきれず残るのが気になる。

⚫ ハーモニックだったか、ミルクだったか、ムコダイン(私の記憶では)を注入する時にチューブ内で固ま

ったことが何度かあり、チューブを入れ直し、とても困った。チューブを入れる時はとても嫌がって頭

を押さえてしなくてはならず、とてもかわいそうで、チューブも入りにくくて子どもも親もかなりの精

神的な負担だった。

【工夫していること】

⚫ えずきのある時は時間をずらしている。内服はイレウスがあるため、ムリはさせていない。

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⚫ てんかん薬の投与時間(日中眠くならないように)

⚫ 経管が詰まりやすい粗い薬やべたつきのある薬は、違うものに変えてもらっている。

⚫ 経鼻カテーテルよりミルクを注入しており、ミルクと一緒に注入している。

⚫ 漢方は薬局で粉砕してもらい、溶けにくいため早めにお湯で溶解し注入している。

⚫ 薬をシリンジ内で水と混ぜて注入している。シリンジ内に薬が残るので、もう一度水を入れて残さず注

入するようにしている。

⚫ 薬入れでウォールポケット(?) 1 週間分の薬を分かりやすくするために布とビニール素材のもので作

って使用していた。薬が多かったので入れ忘れをなくすために使用していて、仕分けする時、負担にな

りましたが薬を使う時は便利だった。薬注入時、注射器を振りながら詰まらないようにして注入してい

た。調剤をしてもらった漢方薬は湿気で固まっていたので乾燥剤をよく頂いていた。

4)訪問薬剤師にして欲しいこと

訪問薬剤管理指導等活用できる制度のこと、薬のこと(臨時で処方される薬の効果や飲み合わせ等)につい

て教えて欲しいという意見がだされた(表3)。

表3 訪問薬剤師にして欲しいこと

⚫ まず、訪問をしているかどうか、管理指導の制度など、患者はあまり知らないので、積極的に教えて欲

しい。

⚫ 薬の話をもっと聞かせてもらえるとよかった。医師からも薬に詳しく説明を受けていなかった。病棟で

1 ヵ月使ってその後在宅。小児科のベッドに薬剤師も来なかった。(薬の説明を聞いていたら)在宅で

生活するうえでも自分の自信になった。当時は流れ作業のようになった。

⚫ 定期で処方されている薬については、飲み忘れがなければ特に相談したいことはないかなとは思う。で

も、入院するまではなく在宅での臨時で処方された内服薬治療では、どれくらいで効果が出始めるかな

ど教えてもらいたい。そして薬のことだけでなく、下痢などして胃腸の調子が悪い時などのイオン飲料

やエネルギーゼリーの使用や、又それ以外に何か良いものがあればなどを教えて頂きたい。(飲み合わ

せなども)

5)「薬」「服薬」「調剤」「薬剤師」への要望

「薬」「服薬」「調剤」「薬剤師」への要望として、病院と調剤薬局の連携、ジェネリック薬の使用、一包化、

飲み合わせに関する情報、薬の配達、相談システムの希望等が挙げられた(表4)。

表4 「薬」「服薬」「調剤」「薬剤師」への要望

⚫ せっかくカルテを作っているなら患者の状態をくわしく知ろうとして欲しい。一人ひとり薬とのつき

合い方は違うので、薬情どおりではない。 それを伝えたらカルテにメモして欲しい。 調剤薬局と病

院、もう少し仲良くして欲しい。

⚫ 子どもが通っている病院は可能な限りジェネリックの処方をする。在宅では、訪問看護師さんと学校や

薬の話になることが多く、一般的に知られた名前の薬を出してもらった方が話もスムーズだし、間違い

も少なくて助かる。

⚫ 薬が多い時(種類)、まとめてくれる薬局とダメという薬局がある。先生に聞けば「別にいいよ」と言う

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ので、伝えても「指示なし」と融通がきかない。定期的に通っている病院の時は処方せんをもらうので、

かかりつけ薬局に薬(ミルクなども)を自宅まで届けてもらう。しかし、かかりつけの往診医の診察後は

処方せんをくれず隣りの薬局に回し、そこから自宅に届けてくれる。薬局が2 つになってしまい、少し

一方に気を遣う。

⚫ 現在服薬している種類が少なく、特に必要としていないが、かかりつけの薬剤師にいろいろと相談でき

るシステムがあれば便利だと思う。

⚫ もっと声掛けをして欲しかった。

⚫ 要望というか、して欲しいことだが、受診後、薬局に寄らなくていいように配達してもらえたのはとて

も助かっていた。

食品や飲料物と混ざると変質するものを事前に教えてもらいたい。(これは実際にやってみないとわからな

いこともあるでしょうけれど)

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訪問薬剤師へのインタビュー

小児在宅訪問をしている薬局薬剤師2 名にインタビューを行った。

インタビュー内容

1)小児在宅業務について

病院からFAX をもらい、親御さんに薬を届ける日、処方箋と照らし合わせながら足りない薬はないかといっ

た確認を行った後に調剤し薬を届ける。患者さんのほとんどが先天性疾患のため対症療法により、薬の変更と

いうものはあまりなく、症状確認と残薬確認が主な業務となっている。介入当時は患者さんの年齢が4,8,16 歳

と歴が長く親御さんから薬剤師に対しての要望はあまりない。

2)医師、親御さんとの関係性

患者であるお子さんに熱が出た場合の医師との連携は十分にとれている。親御さんから薬の不足であった

り、出してほしい薬の要望があった場合に医師と親御さんの間を中継したりする。ご家族さんと医療機関との

コミュニケーションには関与しない。薬剤師が介入することで役に立ったと思ったことは、お子さんが帯状疱

疹で成育病院の方からバルトレックス顆粒で処方箋が出された。親御さんに処方された薬の確認を取ったとこ

ろ、顆粒の粒が胃のチューブに詰まってしまうといった相談を受けたため、医師に相談し、粉砕に変更した。

親御さんからの話を聞くこと、加えて在宅に行くことで実際に子どもの状態も把握することができた。外来の

場合、親御さんだけ病院に来て、薬をもらって帰っていってしまうため、患者である子どもの状態が分からな

いことが多い。

3)在宅における問題点

在宅訪問に行っても入れてもらえないという問題がある。訪問を始めて4 回目で家に入れてもらえるように

なった。親御さんは、薬剤師に頼れることは何もないと思いがちである。薬剤師は何ができるのかを知らない

からである。最初であると信頼関係というものもないため、何かしようと思っても、自分たちでできるから大

丈夫と断られてしまう。コミュニケーションをとることで信頼関係を構築し、ようやく家に入ることができ

た。薬剤師には何ができるのかを知ってもらうためにも薬剤師側からの積極的なアプローチが大事である。重

い病気の子どもの場合は付きっ切りであるため、外に出ることも難しい。薬や重い栄養剤などを持ってきても

らえることは本当にありがたい。しかし、薬の運び屋で終わらないでほしい。薬剤師が相談役という存在にな

れば、相談する人は増えるのではないかと考える。

4)相談役とは

小児在宅だから、もちろん患者は子ども、親御さんは自分の子どものことなのですごく熱心である。自分の

子どもに出されている薬についての知識は高い。看護師さんよりも親御さんの方が知識をもつ人もいる。親御

さんが一番苦しんでいるのは、「どうして元気に生むことができなかったのか」「なぜ病院で治してくれなか

ったのか」といったやりきれない気持ちである。そこから医療不信につながるケースも少なくない。医師が出

禁にされたり、訪問看護師の手技があまり良くない場合で出禁にされたりするケースもある。子どもに付きっ

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切りで、ある意味社会から隔離された状態のため、子どもや親御さんのためにも、誰か相談できる相手が必要

である。その相談役の一人に薬剤師がなることは大きな意味があると感じる。話し相手がいることはとても重

要である。薬のことだけでなく、悩みであったり、お子さんが二人いる場合はお子さんの相手をしたりするこ

とで親御さんが別の用事に取り掛かることができる機会を作ってあげることができる。そういった作業の合間

に今使っている薬の話になる場合もある。治療の介入をすることができなくても行くことに意味があると感じ

る。

5)病院と薬局の連携

小児病院は都市部にはあるが地方等にはない。そのため遠いとこから子どもの治療のために来る人も少なくな

い。お子さんの容態も安定してきたから、医師はなるべく近場ですむことが治療の面でも、経済面においても

負担の軽減となるだろうと考え、近場の病院を紹介する。しかし、親御さんからしたら医師から見放されたの

ではと思ってしまう。それが医療不信につながってしまう。小児在宅というのがそもそもまだ日本では少な

く、地方で重い疾患を抱える患者さんになると尚更対応できる医師というのが少ない。それが親御さんの医療

不信につながってしまう。

また、病院から在宅に移行するとなった時に、重度の疾患を持つお子さんの場合もう医師からも見放されて

看取るしかないのだと思ってしまう人も多いため、「在宅になったから」が看取りになるわけではないと教え

ることが大事。病院の薬剤師と薬局の薬剤師が連携することで在宅を支えてほしい。門前薬局で処方を受けて

いた患者さんの場合、門前だと時間もかかるし、お子さんも重度の疾患を抱えているため、早く帰りたいと思

っていた。病院の門前ではなく、家の近くの薬局でアプリを使って処方箋の薬を頼むことができる方に変更す

ると楽になったという例もある。病院と薬局が連携することも大事だが、連携した上でどう改善していくかと

いうのも検討すべき問題である。ただ、時間の問題といった改善点を求める声が上がることも一つの進歩であ

る。薬剤師が患者さんに信頼されている証拠ともいえる。しかし、連携する上での失敗例もある。家から遠い

病院に通っていて、地域の病院の方に変更した後に、門前の薬局で処方された薬を受け取っていたのだが、調

剤方法の細かいルールが門前の薬局に前の薬局から伝達されていなかった。地域の薬局側の勝手な解釈で薬を

調剤してしまった。患者側からすると、何故そのような重要な情報が薬局側に伝達されていないのかという怒

りがあった。この例の場合、薬局間での情報伝達ミスであるが、病院と薬局間で起こらないとは限らない。連

携する上でもこういったミスに十分に注意する必要がある。

6)小児の特徴

成長するということ。高齢者は看取るというのが最終的な着地点ともいえるが、小児はそうではない。ま

た、高齢者はできなくなることからできるように。小児はできることをよりできるように。“できない”と現実

を突きつけることは一番辛い。患者さんは先天性の人が多いため、これから成長していく上でより良い方向に

治してあげたいという思いが強い。お子さんの成長も大事だが、やはり親御さんのケアも第一に考えていきた

い。子どもに付きっ切りの状態というのは、夜に寝るときも子どものベッドの横に親御さんのベッドという状

態で、子どもに何か異常があるとアラームが鳴るように設定してある。すぐに対応できるようにするためであ

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る。負担も多く、アラームに敏感になるため睡眠不足になる親御さんは多い。この生活をエンドレスで行うた

め辛い状況にある。そんな親御さんのケアも薬剤師として可能な限り行っていきたい。

7)病院から在宅へ移行した時のカンファレンスについて

カンファレンスは病院の看護師にお話を伺う。薬の管理方法等が挙げられる。NICU では母子入院を行い、

親御さんが在宅で行う手技を学ぶ。在宅に移行するということはリスクを抱えるということで、手技ができる

から在宅もできるということではない。親御さんのメンタル、気持ちの持ちようがやはり在宅をする上で重要

なのではないか。お子さんに何か異常が生じた場合、自分の手技のせいで異常が出たのでは、亡くなってしま

ったのではないかとショックを受けてしまう。手技を教えた病院にも原因があるのではと、医療不信につなが

る場合もある。

8)薬剤師の関わり方

ケアの方針は主に医師がメインとなり方針を決めていく。薬剤師は薬の説明、なぜこの薬を使うのか、細か

い調剤過程についての説明を行うことがメインとなる。親御さんから相談を受ける例としては、チューブが細

くて粉砕しても通らない、チューブを通ってもジョイント部分が詰まるという新たな問題も生まれた。特に漢

方等がつまりやすい。これの解決方法としては漢方の溶かし方にあった。相談を受けることで、情報収集して

親御さんに新たな情報を伝達するという流れを、試行錯誤しながら行っている。親御さんは自分で薬の情報調

べているため、仮に処方された薬に対して親御さんがこの薬より私が調べた薬の方が良いと意見が出た場合ど

ちらが優先されるのかという疑問が出た。この場合の解答としては医師の決定がベースとなる。子どもにもっ

といい薬を、子どもが元気になる薬を使いたいという心理が親御さんには働いている。薬の情報というのはネ

ットで検索をかけている人が多い。ネットの怖いところはネットに出ている情報よりもネットで調べようとし

ている人の心理である。「治る」というキーワードを頼りに検索ワードからいい薬を選択しようとする。これ

は偏った情報を掴みがちになる。ポジティブな意見だけではなく、ネガティブな意見も伝えることで、患者に

最適な薬を選択するのが医師の仕事である。処方された薬で何らかの不備、例えばチューブが詰まってしまう

といったことがあれば処方変更を促すのが薬剤師の役割といえる。

9)薬剤師は何をしてくれるのかという疑問

「栄養剤など重たい栄養剤を持ってきてくれて、とても助かる」で終わってしまっている。重病の子がいる

から親御さんは“早く帰りたい”。なるべく薬を多くもらいたいが、もらいに行く時間がない。薬剤師は薬をま

ず、困っている患者さんのところに持っていくことから治療の介入が始まる。服薬管理も大事だが、まず小児

在宅においてはその服薬管理に至るまでの過程が大事。小児在宅が増えてきているが、その在宅を支えるため

の準備が未だに不十分である。高齢者の在宅の場合、患者本人との関わりを持つが、小児は親御さんとの関わ

りとなる。未だに一部の小児在宅では玄関までしか入れてもらえない。薬剤師の関わり方についての認知、親

御さんとの信頼関係構築はまだ模索しているのが現状。NICU 自体が薬剤師の存在が薄い。

11)薬剤師の必要性

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看護師から分からない薬がある時に薬剤師がいてもらえると相談できて助かる、と聞いたがNICU において

患者と密に接するのは医師や看護師が多い。そのため患者との信頼関係もそうだが、手技においては、看護師

の方が上手い場合もある。そうなると薬剤師は治療に関わるうえで、どうやったらもっと大きな存在となりえ

るのか。

医師向けの調査と看護師向けの調査を行った。「どうしたら医師の業務が楽になったか」「どうしたら看護

師さんの業務負担が軽減したか」といった質問に対して、一番評価が高かったのが「カルテを入力する事務員

をつける」ということだった。上位にある解答の中には、「薬剤師と連携する」というのもあった。非常勤の

医師を雇うよりも薬剤師と連携した方が業務負担が軽減したという結果が得られた。なぜ連携したら楽になっ

たのかというと、欲しい薬の情報が速やかに入ってくるからである。副作用の発見、患者さんに適した薬物療

法の選択を行う場合においても薬剤師と連携するとスムーズに行える。また、連携していることでその病院全

体の薬物療法に対する知識レベルが上がるという結果も出ている。病院内で薬剤師が患者さんと密に接する機

会というのは少ない。医師と看護師の後方支援という立ち位置が薬剤師のパフォーマンスにつながる。

(研究協力:東京薬科大学生命・医療倫理学研究室4 年 新山尚未)

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海外事例文献調査

海外の薬学部のカリキュラムで、小児在宅に関する講義をしているかどうか、実態はつかめなかった。ただ

し、アメリカの小児在宅の事情について書かれている論文を紹介する。

Elaro , Amanda, Sinthia Bosnic-Anticevich, Kathleen Kraus, et al., 2017, “Pharmacists’ perspectives of the current

status of pediatric asthma management in the U.S. community pharmacy settining”, International Journal of

Clinical Pharmacy, 39(4), 935–944.

米国の地域薬局における小児喘息管理の現状に対する薬剤師の現状に関するもので、地域の薬剤師の継続教

育、カウンセリングおよびコミュニケーションの実践、小児喘息管理に関する課題について考察した論文であ

る。アメリカ合衆国ミシガン州の地域薬局40 店舗に対し、アンケート調査を行った。アンケートの質問は、①

ガイドラインおよび継続教育(CE)、②カウンセリングおよび医薬品、③コミュニケーション、④実践におけ

る課題である。

1 年間のうち喘息に関する教育(CE)への参加について、10 時間以上を費やした薬剤師はおらず、1~10 時

間が54%、まったくしていないが46%であった。喘息のガイドラインについてもあることは知っているが、

実際に使っているのは26%であった。

新薬に関する親へのカウンセリングでは、新薬の使用に関する情報提供、吸入ステロイドの副作用に関する

話し合いを行っている薬剤師が半数以上いた。親とのコミュニケーションが良好であると70%以上が感じてい

た。

ほとんどの薬剤師が喘息のカウンセリングや教育を行うことで医師と同じような効果が得られると考えてい

るが、適切な教育の実施やカウンセリングのための時間不足が課題であるという声があった。

地域薬剤師は、慢性疾患の服薬管理について一番貢献できる立場にある。ただし、アメリカでは小児喘息の

治療において地域薬局の介入が今一つである。ガイドラインを遵守し、薬剤師が親との良好なコミュニケーシ

ョンをとることで、小児喘息の治療に薬剤師の職能を発揮することができると考える。

(研究協力:東京薬科大学生命・医療倫理学研究室4 年 新山尚未)

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本研究のまとめ

小児在宅医療における親のニーズを明らかにした。親は訪問薬剤管理指導を知らないため、服薬の困りごと

について独自に工夫をこらしながら行っていた。ある親が、「薬局の中に『子どもの薬相談にのります』とい

うポスターやチラシがあれば、遠慮なく相談したいと思う人は沢山いるはず」と言っていた。まずは、親に対

し薬剤師の職能を積極的に発信し、親が薬剤師を活用することで在宅介護の負担軽減につながる。

筆者による医療的ケア児を介護している母親の疲労度の調査では、半数の母親に身体的心理的精神的疲労が

認められた。地域で医療的ケア児を支えるには、24 時間つきっきりで介護している親のストレスの確認も必要

である。病院と薬局、薬局間の連携を密にし、在宅医療チームによる見守りや提供すべき支援策等情報共有す

る体制作りが求められる。

小児在宅への薬剤師介入に関する海外論文も少なく、課題として小児医療の教育の不足が挙げられていた。

日本の薬学教育カリキュラムでも、新生児・小児医療に関する講義が少なく、薬学生・薬剤師が学ぶ機会が少

ない。高齢者の在宅医療が主となり、小児への関わりが見えにくい。小児在宅の現状を広く知ってもらうこと

が急務であり、そのうえで薬剤師がどのように関われるのか具体的に検討することが必要である。

2020 年度を目途に、医師の処方薬について薬局と家庭をオンラインでつなぎ、服薬指導や薬の配達ができる

よう法改正が行われる。患者が離島やへき地に居住し薬剤師と対面が難しい場合に限定されているが、医療的

ケア児は独居ができないため、本調査で示したようにこうしたサービスに対する親からの強い要望がある。つ

まり、小児在宅も法改正の支援対象とすべきである。

医療的ケア児が日本中どこでも最善の支援が受けられるよう医療体制及び社会づくりが喫緊の課題である。

このような取り組みは、親が孤立せずに医療的ケアの子どもとともに安心して生活できる第一歩であると考え

る。

今後も本調査を継続し、親のニーズを分析し、薬剤師介入の障壁の理由についてもヒアリング等をとおして

明らかにしていきたい。

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親へのアンケート票

Ⅰ.お子様について教えてください。

⑴ 年齢 歳 カ月

⑵ 兄弟姉妹 いる いない

⑶ 在宅前の入院期間 年 カ月

⑷ 在宅移行時の年齢 歳 カ月

⑸ 在宅期間 年 カ月

⑹ 病気や障がい

⑺ お子様に必要な医療

行為

(当てはまるものすべて

に〇をつけてくださ

い。)

①人工呼吸器 ②気管内吸引 ③口腔鼻腔吸引 ④気管カニューレ ⑤在宅酸

素 ⑥ネプライザー ⑦点滴 ⑧IVH 中心静脈栄養 ⑨注射 ⑩経管栄養

⑪膀胱留置カテーテル ⑫膀胱洗浄 ⑬人工膀胱 ⑭人工肛門 ⑮褥創ケア ⑯

CAPD 連続的携帯式腹膜透析

⑰その他( )

⑻ お子様の就学や就園

a. 年齢

b. 就園就学の形態

c. 通学時に送り迎え

d. 親の学内待機

e. 待機して行う処置

①就年齢未満 ②就園年齢 ③就学年齢

①訪問 ②通学

①スクールバス ②親

③その他( )

①通学時の条件で待機 ②親が自ら待機

③待機していない

( )

Ⅱ.福祉の利用について教えてください。

当てはまるものすべてに〇をつけてください。

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A.手帳制度

(等級、手帳名)

①身体障害手帳( :取得時期 歳 カ月)

②療育手帳 ( :取得時期 歳 カ月)

b. 手当 ①特別児童扶養手当 ②障害児福祉手当

③その他 ( )

C.税金の控除 ①医療費控除 ②特別障害者扶養控除 ③自動車税の減免

④その他 ( )

d.補装具・日常生活用

具の給付・修理

①補装具の交付・修理 ②日常生活用具の交付

e.医療費の助成 ①未熟児養育医療 ②自立支援医療(育成医療)

③小児慢性特定疾患治療研究事業 ④特定疾患治療研究事業

⑤その他 ( )

f.福祉制度の情報収集

①かかりつけの病院の(医師・看護師・薬剤師・心理士・保健師・MSW)

②通所通園施設の(医師・看護師・薬剤師・心理士・保健師・MSW・PT)

③保健所・保健センター ④市町村役場

⑤訪問医 ⑥訪問看護師 ⑦訪問薬剤師

⑧患者会 ⑨その他 ( )

Ⅲ.在宅での服薬の状況について教えてください。

a.薬の種類と投与方法

(中心静脈栄養も含む)

①薬剤名( ) 剤形( )投与方法( )

②薬剤名( ) 剤形( )投与方法( )

③薬剤名( ) 剤形( )投与方法( )

④薬剤名( ) 剤形( )投与方法( )

⑤薬剤名( ) 剤形( )投与方法( )

5種類以上服薬されている場合は、余白にご記入ください。

b.服薬の時間

c.服薬で工夫しているこ

とはありますか?

①ある ②ない

※「①ある」と回答した方へ

些細なことでも構いません。具体的な内容をお書きください。

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c.服薬で困っていること

はありますか?

①ある ②ない

※「①ある」と回答した方へ 具体的な内容をお書きください。

d.服薬に関する質問や

相談は、誰にしています

か?

①かかりつけ病院の(医師・看護師・薬剤師)

②訪問医 ③訪問看護師 ④訪問薬剤師

⑤患者会 ⑥その他 ( )

Ⅳ.訪問薬剤管理指導について教えてください。

※訪問薬剤管理指導とは、医師の指示に基づき薬剤師が自宅を訪問し、薬の正しい飲み方の説明、服用状況の

確認などを行い、薬物療法が適正に実施されているかどうかを確かめ、より質の高い在宅療養を提供するため

の制度のことです。

a.訪問薬剤管理指導の

利用状況

①現在利用している

(1 カ月の利用日数 日、1回の利用時間 時間 分)

②過去に利用していた ③利用したことがない

⇒ ②、③を回答した方へ

①現在利用の必要がない ②利用したいと思う

③利用したくない(具体的な理由 )

b.訪問薬剤師にして欲

しいことはありますか?

①ある ②ない

※「①ある」と回答した方へ 具体的な内容をお書きください。

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Ⅴ.その他

ご意見ご要望等ありましたらご自由にお書きください。

在宅介護でお困りのことは

ありますか?

「薬」「服薬」「調剤」「(病

院・薬局・訪問)薬剤師」

への要望はありますか?

新生児医療および小児医療

への要望はありますか?

以上

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謝辞

本研究実施にあたり、公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団の助成をいただき、あつく御礼申し上げま

す。