p14-19 講演 合同移動講座 43つめは「地方分権・道州制,地方創生」です。...

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平成30年新年号でお知らせしましたように,蔵前工業会と如水会(一橋大学同窓会)の主催で第9回一橋大学・ 東京工業大学合同移動講座が,昨年11月23日にグランフロント大阪で開催されました。ここに講演の要旨を紹介 いたします。 1066 14 公益財団法人関西経済連合会会長・住友電気工業株式会社取締役会長 松本 正義 株式会社日立製作所代表執行役 執行役副社長CSO 西野 壽一 (S53物55修) 国立大学法人 一橋大学長 蓼沼 宏一 国立大学法人 東京工業大学長 三島 良直 (S48金50修) 講 演 創造と挑戦 ~新産業革命と関西の未来~ 基調講演Ⅰ 「LOOK WEST~関西発の創造戦略~」 松本正義 本日は,関西の経済をどのようなステップでレベル アップして,今まで先達が蓄えてきたリソースをさら に充実させていくかという観点から,現状を説明し, 将来に向けた取り組みをめぐる関経連の中でのディ スカッションの内容を紹介していきたいと思います。 私が本年(平成29年)5月に会長を引き継ぎまし た関経連の設立趣旨には,まず 「自由なる創意と活 潑なる活動」とあります。 関西,なかでも大阪の人 は非常にリベラルで,自由な発想をするという特長が ある。 大阪は政治がベースの首都ではなく,経済を ベースにした大きな街でございまして,「自由なる創 意と活潑なる活動」 があるわけです。それから「旺 盛なる企業心を心起し,総意の結果を具現化してい く」。 言うばかりではだめで,何らかの結果を出さな いといけないということですね。そして,大勢の個性 のある経営者が副会長や理事として名を連ねており ますから,常に 「緊密なる連携」を持って意見の交 換をする必要がある。そのようなことが関経連のフィ ロソフィーとして活動のベースにあります。 私は会長就任にあたりまして,次の4つのキーワー ドを掲げました。 1つめ。グローバリゼーションへの対応というのは よく言われることですが,私は 「ルック・ウエスト」, つまり関西から見て東にある東京ではなく,西にある アジアに目を向けようということを言っています。これ まで,関経連も含め,「東京一極集中の是正」とい うことを言ってきたわけでありますが,「東京一極集 中を止めないと関西が衰退していく」という発想はお かしいのではないか。むしろ,関西がどのように発展 していくのかを自分たちで考え,実行していかなけれ ばならないのではないか,ということです。 関西には 関西の特長があり,今までの歴史があります。 関西 独自の強みを磨き,関西のアセットを活用していくこ とが必要である,すなわち,関西は縮小版の東京を 目指すべきではない,というのがひとつ。また,関西 地区は昔からアジアとの関係が非常に深い。 今まで のようにワンウェイで日本の技術を東南アジアや中国 に出していくだけではなく,アジアとのツーウェイ・コ ミュニケーションが必要なのではないか。 例えば,ア ジアの立派な会社に関西に来ていただいて,新しい ものを日本にもたらしてもらうというようなコラボレー ションをやっていくんだ,というようなことも「ルック・ ウエスト」 に込めたメッセージです。 第9回 一橋大学・東京工業大学 合同移動講座 ※役職名は開催当時

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平成30年新年号でお知らせしましたように,蔵前工業会と如水会(一橋大学同窓会)の主催で第9回一橋大学・東京工業大学合同移動講座が,昨年11月23日にグランフロント大阪で開催されました。ここに講演の要旨を紹介いたします。

106614

公益財団法人関西経済連合会会長・住友電気工業株式会社取締役会長 松本 正義 株式会社日立製作所代表執行役 執行役副社長CSO 西野 壽一(S53物55修) 国立大学法人 一橋大学長 蓼沼 宏一 国立大学法人 東京工業大学長 三島 良直(S48金50修)

講 演 創造と挑戦 ~新産業革命と関西の未来~

基調講演Ⅰ

「LOOK WEST~関西発の創造戦略~」松本正義

 本日は,関西の経済をどのようなステップでレベルアップして,今まで先達が蓄えてきたリソースをさらに充実させていくかという観点から,現状を説明し,将来に向けた取り組みをめぐる関経連の中でのディスカッションの内容を紹介していきたいと思います。 私が本年(平成29年)5月に会長を引き継ぎました関経連の設立趣旨には,まず「自由なる創意と活潑なる活動」とあります。関西,なかでも大阪の人は非常にリベラルで,自由な発想をするという特長がある。大阪は政治がベースの首都ではなく,経済をベースにした大きな街でございまして,「自由なる創意と活潑なる活動」があるわけです。それから「旺盛なる企業心を心起し,総意の結果を具現化していく」。言うばかりではだめで,何らかの結果を出さないといけないということですね。そして,大勢の個性のある経営者が副会長や理事として名を連ねておりますから,常に「緊密なる連携」を持って意見の交換をする必要がある。そのようなことが関経連のフィロソフィーとして活動のベースにあります。

 私は会長就任にあたりまして,次の4つのキーワードを掲げました。 1つめ。グローバリゼーションへの対応というのはよく言われることですが,私は「ルック・ウエスト」,つまり関西から見て東にある東京ではなく,西にあるアジアに目を向けようということを言っています。これまで,関経連も含め,「東京一極集中の是正」ということを言ってきたわけでありますが,「東京一極集中を止めないと関西が衰退していく」という発想はおかしいのではないか。むしろ,関西がどのように発展していくのかを自分たちで考え,実行していかなければならないのではないか,ということです。関西には関西の特長があり,今までの歴史があります。関西独自の強みを磨き,関西のアセットを活用していくことが必要である,すなわち,関西は縮小版の東京を目指すべきではない,というのがひとつ。また,関西地区は昔からアジアとの関係が非常に深い。今までのようにワンウェイで日本の技術を東南アジアや中国に出していくだけではなく,アジアとのツーウェイ・コミュニケーションが必要なのではないか。例えば,アジアの立派な会社に関西に来ていただいて,新しいものを日本にもたらしてもらうというようなコラボレーションをやっていくんだ,というようなことも「ルック・ウエスト」に込めたメッセージです。

第9回 一橋大学・東京工業大学 合同移動講座

※役職名は開催当時

創造と挑戦 ~新産業革命と関西の未来~講 演

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 2つめが「産業クラスター」です。これからの関西地域の発展にはイノベーションが不可欠ですが,それには地域にクラスターを形成し,産業を集積させなければなりません。そのためには,大振りでホームランを狙うのではなく,イチローのように確実にヒットを積み重ねていくような,いわば数多くの企業がブドウの房を増やしていくような取り組みが大切だと思っています。今の関西には,繊維や家電の後を継ぐ大きな産業がありません。関経連では,①「健康・医療」,②「環境・エネルギー」,③「航空機産業」,④「AI,IoT,ロボット」の4つを中心に,付加価値のある産業群を育て,非常に強靱な構造を持った関西を創っていくための環境整備に取り組むことを目指したいと考えています。 3つめは「地方分権・道州制,地方創生」です。関経連は1955年から道州制を提言しています。これは,国の形を変えることが基本コンセプトですから,今,政府がやっている地方創生とは意味合いが違います。地方分権というのは引き続き大きな課題です。 最後が「スポーツ」です。来たる2019~2021年のゴールデン・スポーツイヤーズを契機として,例えばスポーツ・ツーリズムがインバウンドのサポートになると思っています。経済団体として取り組むべき課題は,①トップアスリートを育成するための援助。②スポーツの普及とともに,市民がスポーツに親しみ,健康寿命を延ばしていくような社会保障的な取り組み。③関西に多数あるスポーツ用具の生産を核にしたスポーツ産業振興,そして,④世界の大会を関西に呼び込む興行,ではないかと考えています。 さて,関経連では現在,関西の「ありたき姿」の実現に向け,先ほどの4つのキーワードを中心として,2018年度から3年間の中期計画の検討を進めています。これは,関経連のフィロソフィーを土台として,企業・経済活動の環境整備やインフラの整備という基盤となる活動があり,その上に重点的に取り組む5項目(グローバル/アジア,産業イノベーション,地方創生,スポーツ,文化/観光)が,これまでの蓄積の上に花開くというイメージで検討を進めているところであります。 最後に,万博に関してでありますが,ご承知の通り日本は2025年の万博誘致に立候補しておりまして,私は誘致委員会の会長代行を仰せつかっています。日本のほかにフランス,ロシア,アゼルバイジャンが立候補を表明しており,2018年の11月に開催され

1967 年,一橋大学法学部卒業。1967 年,住友電気工業(株)入社。1992年,同社自動車企画部長・自動車部長。1996 年,支配人兼中部支社長。1997 年,取締役支配人 中部支社長。1999 年,常務取締役。2003 年,専務取締役。2004 年,代表取締役社長。2017年,取締役会長(現)。2017年,(公

財)関西経済連合会会長(現)。

まつもと まさよし

1980 年,(株)日立製作所入社。1997 年,中央研究所オプトエレクトロニクス研究部長。2000 年,日立製作所 CVC 室部長。2002 年,中央研究所所長。2005 年,日立製作所技術戦略室長兼経営企画室副室長。2005 年,日立ディスプレイズ常務取締役。2009 年,ルネサステクノロジ取締役。2011 年,

日立製作所執行役常務経営企画本部長。2015 年,同社代表執行役 執行役副社長 CSO(現)。博士(物理学)。

にしの としかず

1982 年,一橋大学経済学部卒業。1984 年,同大経済学研究科修士課程修了。1989 年,ロチェスター大学大学院経済学研究科博士課程修 了(Ph.D. in Economics  取得)。1990 年,一橋大学経済学部専任講師。1992 年,同大経済学部助教授。2000 年,同大大学院経済学研究科教授。2011 年,同

大大学院経済学研究科長・経済学部長(~2013 年)。2014年,同大学長(現)。

たでぬま こういち

1973年,東京工業大学工学部金属工学科卒業。1975 年,同大学院理工学研究科金属工学専攻修士課程修了。1979 年,University of California, Berkeley 大学院材料科学専攻博士課程修了,University of California, Berkeley 材 料 科学 専 攻,Assistant Research Engineer。

1981 年,東京工業大学精密工学研究所助手。1989 年,同助教授。1997 年,同大学院総合理工学研究科材料物理科学専攻教授。2006 年,同大学院総合理工学研究科長(~2010年)。2010年,同大フロンティア研究機構長(~2011年)。2011年,同大ソリューション研究機構長(~2011年)。2011年,同大理事・副学長(教育・国際担当)(~2012年)。2012年 10月~ 2018年 3月,同大学長。

みしま よしなお

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るBIE(博覧会国際事務局)の総会で加盟国170か国の投票で決まります。投票にあたっては,個人会員の登録数など国内の機運盛り上がりが尺度のひとつですので,ぜひ,皆さんにも誘致委員会の会員になっていただきたい,とこれはお願いであります。 1970年万博の頃,関西経済は日本のGDPの約20%を占めていましたが,現在は約16%です。「関西を再び20%経済圏に!」,「関西のアセット・魅力を活かし,“自由闊達”の成果を自らの力で結実させ,元気な関西へ!」ということをめざして取り組んで参りたいと思っております。本日はありがとうございました。

基調講演Ⅱ

「デジタルによる社会と産業の革新」西野 壽一

 最近,新聞やテレビで,「IoT」とか「デジタル」という言葉を見たり,聞いたりすることが多いと思います。何故,今,こういう事が言われるのか?これまでと何が違ってくるのか?その変化の背景にあるものは何か?ということについて,今日は少しお話をしたいと思います。 今,世の中で起こっている事象として,人口の減少,経済成長の鈍化,インフラの老朽化,差別化できない製品のコモディティ化と価格競争の激化,ビジネスのサービス化などが挙げられます。そして,これらの状況に対処するには,従来の仕事のやり方を相当変えて行く必要があり,イノベーションが非常に重要になります。車の世界では電気自動車とか,金融の世界ではブロックチェーンやFinTechなどがその良い例ですが,今までのやり方がそのまま生き残ることが出来なくなっています。 これらの課題を解決する手段として,WEF(World Economic Forum)のような政策によって政府主導で解決するもの,世界銀行やアジア開発銀行,最近では中国系のアジアインフラ投資銀行などの投資による解決方法があります。それから,もう一つは技術によって解決しようとするものです。 技術で解決をという要請に沿って,総合科学技術会議により内閣府の第5期科学技術基本計画として出されたものがSociety 5.0です。この中には,ヘルスケア,自然災害,ものづくり,エネルギー,道路など沢山のテーマが盛り込まれています。

 ご存知の通り,産業革命は1次,2次,3次,4次とあって,最初が蒸気機関で,自動車に代表される大量生産,コンピューターによる自動化と続き,今はAI・ロボットだと言われています。スマート工場やCPS(Cyber-Physical System)に象徴されるデジタルが新しい産業革命になると言われています。 その背景は何かと言うと,社会的な問題もありますが,ビジネス環境の観点からは,非常に重大な変化が幾つかあります。一つは技術の問題で,従来は日本が非常に得意だった分野が他の国に取って代わられる,或いは,成長性や収益性の点で,従来技術の延長線上でビジネスを伸ばして行くことが難しくなって来たことがあります。 二つ目は,お金の話で,誰が大きな変化を引き起こすような投資をリードするのかということです。例えば,クラウドというコンピューターの使い方は随分昔からありましたが,大きな変化が起こったのはこの4~5年で,一番大きな影響は電子商取引が爆発的に伸びたことによってデータセンターへの投資が伸びたからです。 三つ目の社会構成の変化と四つ目の投資と回収のスピードアップはごく普通の話です。 このような背景がある中で,IBMがBig Dataと,ドイツがIndustry4.0と,また,シスコは,初めてIoTという言葉を使ったのです。GEはPredixと,MicrosoftはクラウドでAzure.を売り始めるとか,日本はSociety 5.0と言い始めました。大体1年以内のところで,世界的にこういう動きが出て来た訳です。 本当にこういうものでビジネスが生き残って行けるのかというと,正直に申し上げて,まだ試行レベルであって,答えが出ているわけではありません。 クラウドでコンピューターコストがものすごく下がり,通信コストも安くなったので,一度に大量の数字を扱えるようになり,数字で扱えるビジネスの範囲がすごく広がりました。ただ規模が大きくなっただけではなく,相当本質的な問題が起こっています。科学で定義できる問題は,基本的には本質はそれほど変わる筈はありませんが,人間が作った仕組みにデジタル技術を使うことによって,いろいろなことが変化して来る。これが今起こっていることだと思います。 産業で起こっていることは,デジタルによるValue Chainの効率化や保守の効率化を始め,業種を超えた新しい価値の創造が期待されます。 金融で起こっていることは,FinTechという新しい

講 演 創造と挑戦 ~新産業革命と関西の未来~

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金融システムの登場や,金融や信用に対する考え方の変化,財布に替わってスマートフォンなどが挙げられます。 社会で起こっていることは,データの利活用によって社会の効率を上げたり,今までそういう恩恵が届かなかった方にまで届けようと努力がされています。その一方で,そもそもデータは誰のものかという問題があります。「あなたの街の情報を誰が一番良く知っているか?」というと多分Googleなのです。「あなたの好みを誰が一番良く知っているか?」というと多分Amazonなのです。本当にこれで良いのかと言う話になりますが,その判断は,その国の文化に関わりがあると思われます。 最後に,今日あまり詳しい話をしませんでしたが,人材に求められるのは能力より志の問題ではないかと思います。マインドセットにおいて,次の大きなジャンプを創るための人材が必要になってくる。能力の問題を議論することは,あまり必要ではなく,むしろマインドセットの方が問題で,そこをどうするかが私達のこれからの課題ではないかと思います。

講演Ⅰ

「 社会イノベーションに貢献する一橋大学の研究・人材育成」

蓼沼 宏一

 今日の共通テーマは「創造と挑戦」ですが,私のテーマにある「社会イノベーション」とは,まさに新しい社会の創造と挑戦ということであります。それに向けて一橋大学がどのような貢献ができるかをお話ししたいと思います。 まず「社会イノベーション」を,広い意味で「社会の改善をもたらすシステム変革」と定義したいと思います。一橋大学のミッション「日本及び世界の自由で平和な政治経済社会の構築に資する知的,文化的資産を創造し,その指導的担い手を育成すること」は,「社会イノベーションに資する社会科学の研究」と「社会イノベーションを担う人材の育成」に他なりません。 「社会イノベーションに資する社会科学の研究」とは「真の実学」,つまり,実証に基づきつつ,社会に実りをもたらす学問研究を進めることです。その真

の実学研究を推進するために,本学ではマトリクス型全学組織をつくろうとしています。即ち,縦軸として,人類の蓄積してきた知的資産を継承し,発展させ,各専門分野に基礎を置く研究と人材育成を担う学部・研究科,研究所,横軸として,今日の世界の様々な社会問題の解決に貢献するために,分野を跨ぐ全学的な研究機構・センターを配置するというものです。その中核を担うのが全学の研究の旗艦となる「社会科学高等研究院」です。社会科学高等研究院の下に,グローバルなレベルで人類の厚生を高めることを共通の目標として,社会の課題解決に向けて多様な分野が協働する「グローバル・ウェルフェア研究機構」と,社会的ニーズが急速に高まっているエビデンスに基づく政策形成に資する研究教育を進める「Evidence-Based Policy-Making研究教育機構」を設置する計画です。 次に,社会イノベーションを担う人材を育成するため,本学の最大の特色である少人数ゼミナールを中心に,課題を発見し,論理的に思考し,解決への道筋を見出す力,いわば,社会に貢献できる人材のコアとなる力を磨くとともに,学生が世界を体験できる多様なプログラムを実施しています。本学は特に海外の交流協定校への長期派遣留学など,質の高い国際交流を重視しており,派遣・受入留学生数はどちらも近年急速に増加しています。 さらに,高度専門職業人の育成も重要です。現代ではビジネスや法務に必要な専門知識やスキルのレベルが急速に高くなる一方,企業の側では学部卒業生を採用して中で育てる余力がなくなりつつあり,文系であっても修士まで学び高度な知識を身につけることが必要だということが日本の社会でも浸透してきました。こうした社会的ニーズに応え,高度専門職業人教育を一層強化するため,本学では大掛かりな組織の再編・統合を行い,来年(平成30年)4月には,新生の「一橋ビジネススクール」と「一橋ロースクール」が発足します。 加えて,社会課題の解決に貢献する研究や人材育成には文系と理系との「文理共創」も欠かせません。四大学連合のメンバーである東京工業大学や東京医科歯科大学など,理系の大学との連携は今後も重視していきます。さらに,包括連携協定を締結した産業技術総合研究所とは,技術系経営人材の育成や社会科学分野における数理・情報研究教育,文理共創型のコンサルティングなどを進めていき

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ます。 一橋大学は,社会イノベーションに貢献する「真の実学」の推進と,未来の日本及び世界において社会イノベーションを担う人材を育成することを,2つの大きなミッションとして,これからも様々な取り組みを進めていきます。一橋大学の発展を見守っていただき,さらなる温かいご支援・ご協力を賜りますようお願いいたします。

講演Ⅱ

「 東工大が目指す新たな産学連携共同研究体制」

三島 良直

 東京工業大学と社会との連携と言うテーマを中心にお話をしたいと思います。2012年秋に私が学長に就任して以来5年が経ちましたが,この間,東工大の教育・研究の強化に関して非常に大きな改革に取り組んでまいりました。東工大が現在目指すものは,新しい活力ある社会を切り拓くために人材を育成し,革新的科学技術の創出と体系化によって社会に貢献しようというものです。教育では,「グローバル社会で活躍する修士人材の輩出」と「世界トップレベルの研究者・リーダーとしての博士人材の輩出」を掲げ,教育の量的拡大から質的充実への転換を目指して,改革を進めているところです。研究では,「世界的な研究成果とイノベーションの創出」と「システム・基盤整備による研究力の強化」を掲げ,特にマネジメントの改革を進めてきました。そして教育も研究も国際的なものにして行くことが大きな目標で,世界中から優秀な学生や研究者が東工大に集まる,逆に東工大から優秀な学生が世界に飛び出て行くような「世界トップ10に入るリサーチユニバーシティ」を目指しています。 東工大では学部学生の90%が大学院へ進学しますが,今回の改革によって学部と大学院がつながりました。理学院,工学院他6つの学院がありまして,ここで新入生から博士までカリキュラムを連続でナンバリングしたような形の新しい教育体系をつくりました。東工大は伝統的に教養教育を大事にしておりまして,今回,リベラルアーツ研究教育院に教養の先生方を全部集めまして,1年生から博士コースに至る全学

修期間を通じて教養科目を履修するシステムをつくりました。それから,東工大の研究の組織としては科学技術創成研究院を唯一のものとしました。従来は,4つの附置研究所と2つのセンターが,それぞれ独立した研究組織だったのですが,全てをこの科学技術創成研究院の中に入れました。そして研究のミッションや研究者の採用を,全部執行部から見えるような形としました。これが東工大の研究改革で最も大きい変化です。 二つの改革に加えて,産学連携体制の強化,ベンチャー育成支援に取り組んでいます。東工大は,企業等との組織的連携を核とした人材交流,知財活用,資金の大型化に基づくプロジェクト型共同研究を推進して行きますが,従来に比べ,より組織的な連携をするため,大学改革の中で産学連携のあり方を見直して,今年(平成29年)の4月から研究戦略機能と産学連携一体化など5つの取組を開始しました。それから今,大学で研究の支援人材が非常に重要視されておりまして,その配置を強化しようとしています。 それから都市連携と拠点化,あるいは地域連携も強化して,政府と一体的な大型共同研究を実施して行く,そして産業・金融との組織連携強化をこの5つのサイクルを回しながら進めて行きたいと思っています。地域連携の例としては,広域京浜地域での東工大・IT創薬設計ファクトリー,秋田大学及び秋田県医師会との医理工連携などが挙げられます。企業コンソーシアムとの連携による政府大型プロジェクト提案の例としては,大規模都市建築における,日常から想定外の災害時まで安心して社会活動が継続できる技術の創出ということで,文部科学省のOPERA事業*に採択されたものがあります。 野村総研との連携では,サイバーセキュリティ人材育成を目的として情報系の学科でこの教育への貢献も含めた教育研究の共創を進めています。これら以外にも幾つかの産学連携が進行中ですが,東工大は研究教育の質を高め,企業との大型共同研究やベンチャーも含めた新しい知恵や起業に,一層力を入れて行きます。それによって入ってくる研究費等の資源の一部を大学の更なる強化のため教育研究の各分野にリソースとして注ぎ込み,その好循環の中で,世界トップ10の研究大学を目指そうとしています。*OPERA事業: 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(Program on Open Innovation Platform with Enterprises, Research Institute and Academia)

講 演 創造と挑戦 ~新産業革命と関西の未来~

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クロージングリマークス(司会:石田 義雄蔵前工業会理事長)

石田 :本日は13時からの講演に多数ご参加いただき,また講師の皆様には貴重なお話をありがとうございました。会場からたくさんの質問をいただきました。初めに松本さんへの質問です。「道州制は,現在ある行政区画の区分と何がどういうふうに違うのか」について,メリットを中心にお聞きします。松本:道州制は,財源的な面,税の徴収も含めて道州が権限を持って地方活性化するということです。国は防衛,金融,教育,外交に集中する。それ以外のことは道州に任せたほうがいいということです。一番のポイントは,道州がどう財源権を得られるかですが,なかなか難しい状況にあることは確かです。石田:次に,「AIは本質にどこまで迫るのか,人間のやるべき領域は残るのか」という西野さんへのご質問です。西野:大量のデータを蓄積できるようになったので,決まったルールから逸脱しないもの,つまり境界条件(ルール)が変わらない問題であれば,AIは相当正しい答えを出すと思います。問題は,社会のイノベーションが起きた時,境界条件が変わる時です。今のAIは,人間として一体何をするべきかという問題に対する順番や価値判断のようなものはまだ解けません。石田:「現在,中国が強力に進めている一帯一路,AIIBにどう対処していくのがよいと思われますか」という松本さんへのご質問です。松本:一帯一路に関しては,安倍内閣は習国家主席に対して「やりましょう」とポジティブな意見を言っていますので必ず引き合いが来ます。非常に大きなプログラムになると思うので,一企業で完結するのは難しいです。コンソーシアムを組んで対処していくことになると思いますが,規模が大きいので,ODAにお金を貸してくださいといったときに,日本がスムーズにお金を貸すことができるのかという問題がでます。日本はまだ参加していませんが,ビジネスとして成立すれば,この段階でAIIBのお金を利用できる可能性があります。石田:両学長にご質問です。マインドセットが大切だというお話について,学生の育成という観点からお答え願いたいと思います。

蓼沼:人間や社会がどうあるべきかという価値判断の場で,正しい判断をするために必要なことは,まず関心を持っていろいろな社会の問題を知ることです。次に,多様な人と接して多様な視点を身につけること,加えて幅広い視野,考え方を学習を通してできることが必要だと思います。三島:積極的にいろいろなことに挑戦してほしいというのが,原点です。将来何をやるのかを真剣に考えながら勉強する必要があります。ただ,学生だけではだめで,学生たちの背中を押してあげるような教材,指導など教員のマインドセットも非常に重要です。石田:学生からです。「語学等のスキルについてどうお考えでしょうか」。西野:大事なのは,語学が上手なことではなくて,文化の違いを受入れて,全く価値観の違う人と共通の価値をつくり上げていく作業ができることです。何故かというと,世界でみんなが理解できる同じようなものをつくって売ればいい時代は,もう終わっているからです。三島:普段から自分の考えをきちんと持つことが大事です。大学の中にたくさん留学生がいるので,話す機会をどんどん自分から積極的につくっていく。そしてお互いに,意見を言い合うことが一番いいのではないかと思います。蓼沼:留学時代の経験ですが,自分が深く理解している領域については,ほとんどの英語が聞き取れます。ところが少しでも分野が異なってくると,途端に理解度が落ちてくる。つまり英語のスキルの問題ではなくて,自分の中にどれだけの知識・教養があるかが,英語の理解力を大きく左右していることがわかります。石田:この講座を開設するに当たって両大学の同窓会を中心に,関係の自治体,企業等も含めてさまざまな方にご協力をいただき有意義な時間をお互いに持ち合えたのではないかと思います。改めて御礼申し上げまして今日の講演会を終了させていただきます。どうもありがとうございました。