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PGx検査の運用指針」と それを含めた位置づけについて 株式会社エスアールエル 正好 ヒト生物資源研究会設立記念シンポジウム 2013118日(金) 国際研究交流会館大会議場

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「PGx検査の運用指針」と それを含めた位置づけについて

株式会社エスアールエル

堤 正好

ヒト生物資源研究会設立記念シンポジウム 2013年1月18日(金)

国際研究交流会館大会議場

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ゲノム指針(3省合同)見直し委員会で感じたこと

1.「遺伝情報の開示」に係る検討において、個人情報保護法等と学術研究 の関係においては、必ずしも現在の整理が妥当とは言えない。 2.倫理指針に法に定められた条文を改変して引用すること及び倫理的要件 (インフォームド・コンセント等)を並列して記載することが必ずしも妥当とは 言えないと考えられ、これらは今後の検討課題とされる。 3.ゲノム情報をもとに多数の被験者を長期間に渡り追跡調査するゲノムコホ ート研究の実施に際しては、研究分野を対象とした「ヒトゲノム・遺伝子解析 研究に関する倫理指針」、「臨床研究に関する倫理指針」、「疫学研究に 関する倫理指針」すべてが関わる場合があり、今後はこれら指針の統合 等を検討する必要がある。 4.今後も発展し続けるであろうヒトゲノム解析研究が適正に推進されるために は、研究者自らが、本指針の主旨を十分理解したうえで研究を行うとともに、 人や遺伝情報の多様性及び特性について認識し、ゲノム研究に関する国民 の理解が促進する必要もあることから、研究者は研究に用いる試料等を 提供する被験者や市民に対して真摯に向き合うことが望まれる。

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疫学・臨床研究に関する倫理指針の見直し

第1回疫学研究に関する倫理指針の見直しに係る専門委員会・ 第1回臨床研究に関する倫理指針の見直しに係る専門委員会合同委員会

平成24年12月27日 13:00~15:00 共用第8会議室

疫学研究に関する倫理指針の見直しに係る専門委員会 臨床研究に関する倫理指針の見直しに係る専門委員会

合同委員会の今後の進め方について(案)

○ 両指針の見直しについては、内容の整合性や研究者の利便性の向上を図ることが 求められている。また、第74 回厚生科学審議会科学技術部会(10 月18 日開催)にお いても、両委員会を合同開催するべきとの指摘があったことも踏まえ、今後も合同開 催することを原則とする。 ○ また、「疫学研究に関する倫理指針」については、文部科学省との共同告示であり、 これまでの見直しの際にも合同で検討してきたことから、今回も、文部科学省におい て「疫学研究に関する倫理指針」の見直しに向けた専門委員会が設置された後には、 厚生労働省、文部科学省とが連携し合同で委員会を開催することを原則とする。 ○ 平成25 年夏までに指針の見直しの方向性をまとめ、科学技術部会に報告する。 ○ 具体的な会議スケジュールは以下のとおり。 第1回 (12月27日) ・ 両指針の現状を共有 他 第2回~6回 :厚生労働省、文部科学省合同で開催予定(2月~6月:月1回程度) ・ 現状の課題の整理と検討

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「ヒトのバイオバンクおよび個人遺伝情報研究用 データベースに関するOECDガイドライン 」

(OECD Guidelineson Human Biobanks and Genetic Research Databases) (2009 年10 月22 日)

序文 1 第I部 ヒトのバイオバンクおよび遺

伝学研究用データベースに関するガイドライン 3

1. 一般的要素 4 2. HBGRD の構築 5 3. ガバナンス、管理および監督 6 4. 参加の条件 7 5. HBGRD の内容 9 6. ヒト生物試料およびデータの保護 10 7. アクセス 12 8. 資格、教育および訓練 13 9. 管理、利益共有および知的財産 14 10. HBGRD の中止および試料とデータ

の処分 15

第Ⅱ部 注釈 17 1. 一般的要素 19 2. HBGRD の構築 20 3. ガバナンス、管理および監督 21 4. 参加の条件 22 5. HBGRD の内容 27 6. ヒト生物試料およびデータの保護 29 7. アクセス 30 8. 資格、教育および訓練 32 9. 管理、利益共有および知的財産 33 10. HBGRD の中止および試料とデータ

の処分 34

用語集

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指針・ガイドライン 策定団体 スコープ 備考

「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」

(2011年2月)

日本医学会 (17団体で検討)

遺伝学的検査[分子遺伝学的検査(DNA/RNA 検査),

染色体検査,遺伝生化学的検査,等]

1)すでに発症している患者の診断を目的 として行われる遺伝学的検査 2)非発症保因者診断,発症前診断,出生前診断 を目的に行われる遺伝学的検査 3)未成年者など同意能力がない者を対象と する遺伝学的検査 4)薬理遺伝学検査 5)多因子疾患の遺伝学的検査(易罹患性診断)

「ファーマコゲノミクス検査の運用指針」 (2009年3月24日 11月2日改定

2010年12月1日 2012年7月2日)

日本臨床検査医学会 日本人類遺伝学会 日本臨床検査標準協議会

診療(保険診療、先進医療)においてPGx検査として実施する遺伝学的検査

2008年6月に抗がん剤イリノテカンによる副作用の可能性を調べるUGT1A1)多型検査が初めて厚生労働省から製造販売承認を取得し、11月には保険適用となった。

「ゲノム薬理学を適用する臨床研究と検査に関するガイドライン」

(2010年12月)

日本人類遺伝学会 日本臨床検査医学会 日本臨床薬理学会 日本TDM学会 日本臨床検査標準協議会

ゲノム薬理学が関わる研究および検査の範囲全体

ゲノム指針よりは臨床研究に関する倫理指針にウエイトおいている。

「遺伝学的検査受託に関する倫理指針」(平成13年4月10日策定 平成16年9

月16日改正 平成19年4月1日改正 平成23年10月1日改正)

社団法人 日本衛生検査所協会 遺伝子検査受託倫理審査委員会

受託検査:遺伝学的検査:ヒト生殖細胞系列の遺伝子検査

「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」、「ファーマコゲノミクス検査の運用指針」等の公表を受けて改定

「遺伝子関連検査の検体品質管理 マニュアル」 (承認文書)

(2011年12月)

JCCLS 遺伝子関連検査標準化専門委員会

遺伝子関連検査に用いる検体の品質管理を網羅

日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」作成委員所属学会

日本人類遺伝学会 日本遺伝カウンセリング学会 日本遺伝子診療学会 日本家族性腫瘍学会 日本産科婦人科学会 日本小児遺伝学会

日本先天異常学会 日本先天代謝異常学会 日本マス・スクリーニング学会 日本臨床検査医学会 日本循環器学会 日本神経学会

日本皮膚科学会 日本耳鼻咽喉科学会 日本眼科学会 日本血液学会 日本糖尿病学会 (17学会)

「遺伝子関連検査の実施に関わる各種指針・ガイドライン」

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「医療における遺伝学的検査・ 診断に関するガイドライン」

日本医学会 2011年2月

「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」 作成委員(順不同)

日本人類遺伝学会: 福嶋義光(委員長),鎌谷直之,小杉眞司,高田史男, 田中敏博,玉井真理子,丸山英二,武藤香織,古川洋一 日本遺伝カウンセリング学会: 黒木良和 日本遺伝子診療学会: 斎藤加代子 日本家族性腫瘍学会: 田村和朗 日本産科婦人科学会: 平原史樹 日本小児遺伝学会: 小崎健次郎 日本先天異常学会: 沼部博直 日本先天代謝異常学会: 奥山虎之 日本マス・スクリーニング学会:原田正平 日本臨床検査医学会: 宮地勇人 日本循環器学会: 中澤 誠 日本神経学会: 辻 省次 日本皮膚科学会: 澤村大輔 日本耳鼻咽喉科学会: 宇佐美真一 日本眼科学会: 東 範行 日本血液学会: 嶋 緑倫 日本糖尿病学会: 南條輝志男 有識者: 位田隆一,具嶋 弘,玉起美恵子,堤 正好,増井 徹, 松田一郎,森崎隆幸,山本隆一,米本昌平

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「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」 目次

はじめに (p3) 1.本ガイドラインの適用範囲 (p3) 2.遺伝学的検査・診断を実施する際に考慮すべき 遺伝情報の特性 (p3) 3.遺伝学的検査の留意点 (p4) 3-1)すでに発症している患者の診断を目的として 行われる遺伝学的検査 (p4) 3-2)非発症保因者診断,発症前診断,出生前診断 を目的に行われる遺伝学的検査(p4) 3-2)-(1) 非発症保因者診断(p4) 3-2)-(2) 発症前診断(p4) 3-2)-(3) 出生前診断(p4) 3-3)未成年者などを対象とする遺伝学的検査(p5)

3-4)薬理遺伝学検査(p5) 3-5)多因子疾患の遺伝学的検査(易罹患性診断)(p5) 4.個人情報および個人遺伝情報の取扱い(p5) 5.遺伝カウンセリング(p6) おわりに(p6)

[注1]遺伝子関連検査の分類と定義(p7) [注2]本ガイドラインの対象となる 生殖細胞系列変異(p7) [注3]分析的妥当性,臨床的妥当性, 臨床的有用性(p7) [注4]遺伝カウンセリング(p7) [注5]ゲノム薬理検査と薬理遺伝学検査(p8) 表1.遺伝学的検査実施時に考慮される 説明事項の例(p9) 【参考】関連する指針・ガイドライン等(p10) 1)学会による指針・ガイドライン(p10) 2)医療分野におけるガイドライン(p10) 3)研究分野における指針・ガイドライン(p10) 4)国外の関連指針等(p11) 「医療における遺伝学的検査・診断に関する ガイドライン」作成委員(p12)

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1.本ガイドラインの適用範囲 本ガイドラインの主な対象は,遺伝子関連検査[注1]のうち,個人の遺伝情報を扱う上で,その特性に基づいた配慮が求められる遺伝学的検査[分子遺伝学的検査(DNA/RNA検査),染色体検査,遺伝生化学的検査,等]と,それを用いて行われる診断である. 本ガイドラインにいう遺伝学的検査はヒト生殖細胞系列における遺伝子変異もしくは染色体異常に関する検査,およびそれらに関連する検査を意味している[注2].医療の場において実施される遺伝学的検査には,すでに発症している患者の診断を目的とした検査のみならず,保因者検査,発症前検査,易罹患性検査,薬理遺伝学検査,出生前検査,先天代謝異常症等に関する新生児マススクリーニングなどが含まれる. 一方,がん細胞などで後天的に起こり次世代に受け継がれることのない遺伝子変異・遺伝子発現の差異・染色体異常を明らかにするための検査・診断においても,生殖細胞系列の遺伝情報が関係する可能性がある場合は,本ガイドラインを参照する必要がある.

2.遺伝学的検査・診断を実施する際に考慮すべき遺伝情報の特性 遺伝情報には次のような特性があり,遺伝学的検査およびその結果に基づいてなされる診断を行う際にはこれらの特性を十分考慮する必要がある. ・生涯変化しないこと. ・血縁者間で一部共有されていること. ・血縁関係にある親族の遺伝型や表現型が比較的正確な確率で予測できること. ・非発症保因者(将来的に発症する可能性はほとんどないが,遺伝子変異を有しており, その変異を次世代に伝える可能性のある者)の診断ができる場合があること. ・発症する前に将来の発症をほぼ確実に予測することができる場合があること. ・出生前診断に利用できる場合があること. ・不適切に扱われた場合には,被検者および被検者の血縁者に社会的不利益がもたらさ れる可能性があること. 8

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3.遺伝学的検査の留意点

3-1)すでに発症している患者の診断を目的として行われる遺伝学的検査 すでに発症している患者を対象とした遺伝学的検査は,主に,臨床的に可能性が高いと考えられる疾患の確定診断や,検討すべき疾患の鑑別診断を目的として行われる.遺伝学的検査は,その分析的妥当性,臨床的妥当性,臨床的有用性[注3]などを確認した上で,臨床的および遺伝医学的に有用と考えられる場合に実施する.複数の遺伝学的検査が必要となる場合は,検査の範囲や順番について,臨床的に適切に判断した上で実施する.検査実施に際しては,検査前の適切な時期にその意義や目的の説明を行うことに加えて,結果が得られた後の状況,および検査結果が血縁者に影響を与える可能性があること等についても説明し,被検者がそれらを十分に理解した上で検査を受けるか受けないかについて本人が自律的に意思決定できるように支援する必要がある. 十分な説明と支援の後には,書面による同意を得ることが推奨される.これら遺伝学的検査の事前の説明と同意・了解(成人におけるインフォームド・コンセント,未成年者等におけるインフォームド・アセント)の確認は,原則として主治医が行う.また,必要に応じて専門家による遺伝カウンセリング[注4]や意思決定のための支援を受けられるように配慮する. 遺伝学的検査の結果は,一連の診療の流れの中でわかりやすく説明される必要がある.診断は遺伝学的検査の結果のみにより行われるのではなく,臨床医学的な情報を含め総合的に行われるべきである.遺伝学的検査の結果は,診断の確定に有用なだけではなく,これによってもたらされる遺伝型と表現型の関係に関する情報も診療上有用であることにも留意する.一方で,新規の変異などその病的意義を確定することが困難な場合や,浸透率が必ずしも100%でないと考

えられる場合などにおいては,遺伝学的検査の結果を解釈する際に,特段の注意が求められる.確定診断が得られた場合には,当該疾患の経過や予後,治療法,療養に関する情報など,十分な情報を提供することが重要である. 9

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3-2)非発症保因者診断,発症前診断,出生前診断を目的に 行われる遺伝学的検査

非発症保因者診断,発症前診断,出生前診断を目的に行われる遺伝学的検査は,事前に適切な遺伝カウンセリング[注4]を行った後に実施する.

3-2)-(1) 非発症保因者診断 非発症保因者診断は,通常は当該疾患を発症せず治療の必要のない者に対する検査であり,原則的には,本人の同意が得られない状況での検査は特別な理由がない限り実施すべきではない.

3-2)-(2) 発症前診断 発症する前に将来の発症をほぼ確実に予測することを可能とする発症前診断においては,検査実施前に被検者が疾患の予防法や発症後の治療法に関する情報を十分に理解した後に実施する必要がある.結果の開示に際しては疾患の特性や自然歴を再度十分に説明し,被検者個人の健康維持のために適切な医学的情報を提供する.とくに,発症前の予防法や発症後の治療法が確立されていない疾患の発症前診断においては,検査前後の被検者の心理への配慮および支援は必須である.

3-2)-(3) 出生前診断 出生前診断には,広義には羊水,絨毛,その他の胎児試料などを用いた細胞遺伝学的,遺伝生化学的,分子遺伝学的,細胞・病理学的方法,着床前診断,および超音波検査などを用いた画像診断的方法などがある.しかしながら,出生前診断には,医学的にも社会的および倫理的にも留意すべき多くの課題があることから,検査,診断を行う場合は日本産科婦人科学会等の見解を遵守し,適宜遺伝カウンセリング[注4]を行った上で実施する. 10

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3-2)-(1) 非発症保因者診断 → Incidental findings 非発症保因者診断は,通常は当該疾患を発症せず治療の必要のない者に対する検査であり,原則的には,本人の同意が得られない状況での検査は特別な理由がない限り実施すべきではない. 代表事例:X連鎖劣性遺伝病 血友病,ドゥシャンヌ型筋ジストロフィー(ジストロフィン遺伝子欠失)など約600種類の病気が知られている.

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Q 非発症保因者とは具体的にどのような方でしょうか? A 非発症保因者は、常染色体劣性遺伝疾患、X連鎖遺伝疾患、あるいは染色体均衡型転座などで、本人が その疾患を発症することはありませんが、病的遺伝子変異、あるいは染色体転座を有しており、その疾患 に罹患した子が生まれてくる可能性のある人を意味しています。非発症保因者診断は本人の健康管理に 必要であるということはありませんが、次子の再発率を明らかにしたり、次子の出生前診断の可能性を 知るために行われることがあります。稀なことではありますが、常染色体劣性遺伝疾患、X連鎖遺伝疾患、 あるいは染色体均衡型転座の保因者が、当該疾患を発症することがあります(manifesting carrier)。 その場合には、非発症保因者診断として行っていたものが患者を対象とした確定診断や、将来の発症を 予知する発症前診断となることがあることについても認識しておく必要があります。

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3-3)未成年者など同意能力がない者を対象とする遺伝学的検査 すでに発症している疾患の診断を目的として,未成年者や知的障害者など同意能力がない患者に対して検査を実施する場合は,本人に代わって検査の実施を承諾することのできる立場にある者の代諾を得る必要があるが,その際は,当該被検者の最善の利益を十分に考慮すべきである.また,被検者の理解度に応じた説明を行い,本人の了解(インフォームド・アセント)を得ることが望ましい. 未成年期に発症する疾患で発症前診断が健康管理上大きな有用性があることが予測される場合も同様である. 一方,未成年者に対する非発症保因者の診断や,成年期以降に発症する疾患の発症前診断については,原則として本人が成人し自律的に判断できるまで実施を延期すべきで,両親等の代諾で検査を実施すべきではない.

3-5)多因子疾患の遺伝学的検査(易罹患性診断) 多因子疾患の遺伝要因の解明が進められており,これらを対象とする遺伝学的検査は疾患の発症予防等のために臨床応用への発展が期待される.ただし,これら多因子疾患の発症予測等に用いられる遺伝学的検査には以下のような特性があるため,検査を実施する場合には,当該検査の分析的妥当性,臨床的妥当性,臨床的有用性[注3]などの科学的根拠を明確にする必要がある. また,必要に応じて遺伝カウンセリング[注4]の提供方法等について考慮した上で実施する. ・多因子疾患の発症には複数の遺伝要因が複雑に関わること. ・得られる結果は,疾患発症に関わるリスク(確率)であること. ・遺伝型に基づく表現型の予測力が必ずしも高くないこと. ・疾患発症には遺伝要因のみならず,環境要因の関与もあり得ること. ・疾患により,遺伝要因や環境要因の寄与度は多様であること.

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3.遺伝学的検査の留意点 3-4)薬理遺伝学検査 ゲノム薬理学検査に含まれる薬理遺伝学検査[注5]は,生殖細胞系列の遺伝情報を取扱うものであるが,以下の特性があるため,単一遺伝子疾患の遺伝情報とは 異なり,診療の場においては,関連ガイドライン[注5]を参照した上で,通常の診療情報と同様に扱うことができる. ・危険な副作用をもたらす薬物,または有効性の乏しい薬物の投与を回避 できること. ・適切な投与量を推定できること. ・遺伝型に基づく表現型の予測力が必ずしも高くないこと. [注5]ゲノム薬理検査と薬理遺伝学検査 「ゲノム薬理学における用語集」(厚生労働省)では,「ゲノム薬理学(Pharmacogenomics: PGx)」を「薬物応答と関連するDNAおよびRNAの特性の変異に関する研究」,「薬理遺伝学(Pharmacogenetics: PGt)」を「ゲノム薬理学(PGx)の一部であり,薬物応答と関連するDNA配列の変異に関する研究」と定義している. 本定義に従えば,生殖細胞系列の遺伝子変異だけではなく,腫瘍細胞の体細胞遺伝子変異解析や細胞内の遺伝子発現解析も含まれる. なお,本ガイドラインにおいては,前記定義を踏まえたうえで,薬物応答に関して生殖細胞系列の遺伝情報を取扱う検査を薬理遺伝学検査として定義し,ガイドライ

ンの適用範囲とした.これらの検査に関連した指針等には,「ファーマコゲノミクス検査の運用指針」および「ゲノム薬理学を適用する臨床研究と検査に関するガイドライン」がある.

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内因性 単一遺伝子疾患

(遺伝性疾患;血友病/ 先天代謝異常症など)

内因性/外因性相互作用 多因子疾患;生活習慣病

(高血圧・糖尿病痴呆・喘息) ・体質;肥満・飲酒・頭髪など

外因性 外部要因 中毒・外傷

など

疾患の成因に関わる遺伝要因と環境要因 診断対象分野により遺伝情報の特性が異なる

環境要因

体質遺伝子検査 (遺伝子型/表現型

⇒疾患発症のリスク)

PG

x検査

遺伝要因

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4.個人情報および個人遺伝情報の取扱い 遺伝情報にアクセスする医療関係者は,遺伝情報の特性を十分理解し,個人の遺伝情報を適切に扱うことが求められる. すでに発症している患者の診断を目的として行われた遺伝学的検査の結果は,原則とし

て,他の臨床検査の結果と同様に,患者の診療に関係する医療者が共有する情報として診療録に記載する必要がある. 遺伝学的検査で得られた個人の遺伝情報は,すべての医療情報と同様に,守秘義務の対象であり,被検者の了解なく血縁者を含む第三者に開示すべきではない. 被検者の診断結果が血縁者の健康管理に役立ち,その情報なしには有効な予防や治療に結びつけることができないと考えられる場合には,血縁者等に開示することも考慮される.

その際,被検者本人の同意を得たのちに血縁者等に開示することが原則である.例外的に,被検者の同意が得られない状況下であっても血縁者の不利益を防止する観点から血縁者等への結果開示を考慮する場合がありうる.この場合の血縁者等への開示については,担当する医師の単独の判断ではなく,当該医療機関の倫理委員会に諮るなどの対応が必要である.

5.遺伝カウンセリング[注4] 遺伝学的検査・診断に際して,必要に応じて適切な時期に遺伝カウンセリングを実施する. 遺伝カウンセリングは,情報提供だけではなく,患者・被検者等の自律的選択が可能となるような心理的社会的支援が重要であることから,当該疾患の診療経験が豊富な医師と遺伝カウンセリングに習熟した者が協力し,チーム医療として実施することが望ましい. 遺伝カウンセリングの内容について,記載内容がプライバシー等を損なうおそれがある場合には,通常の診療録とは切り離して記載・保存するなど,慎重な対応が求められる.

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「ファーマコゲノミクス 検査の運用指針」

日本人類遺伝学会

日本臨床検査医学会 日本臨床検査標準協議会

2009年3月24日 第1回改定 11月2日

第2回改定 2010年12月1日 第3回改定 2012年7月2日

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【背景】 遺伝子関連検査1は、近年のゲノム・遺伝子解析研究の進歩と検査技術の革新の結

果、対象が拡大し、病原体(ウイルス、細菌など)の検出やがん細胞における特異的遺伝子異常の検出のみならず、分子標的療法における治療薬の選択や効果予測に用いる体細胞遺伝子検査がすでに保険診療で利用可能となった。 さらに遺伝子関連検査は、治療薬の副作用予測や投与量調節にも利用可能となり、薬物代謝などに関係した遺伝子の解析に基づく検査システムが開発されファーマコゲノミクス(pharmacogenomics: PGx)2検査として利用が拡大しつつある。そして、PGx検査として、2008年6月に抗がん剤イリノテカンによる副作用の可能性を調べるヒト遺伝子診断薬〔UDP-グルクロン酸転移酵素をコードする遺伝子(UGT1A1)多型検査〕が初めて厚生労働省から製造販売承認を取得し、11月には保険適用となった。しかしながら、本

検査は遺伝学的検査(生殖細胞系列遺伝子検査)に相当する。したがって、検査の運

用にあたり、適切な診療体制を整える為には、「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」(日本医学会 2011年2月)3や「遺伝学的検査に関するガイドライン」(遺伝医学関連10学会 2003年)などの指針を参照する必要がある。 一方、同じ遺伝学的検査であっても、PGx検査の目的は、薬物の効果や副作用の予測補助であり、単一遺伝子疾患における診断とは異なる。このため、PGx検査の利用において、診療現場の実情に即した内容の運用指針の策定が求められる。 このため、日本臨床検査医学会 日本人類遺伝学会 日本臨床検査標準協議会の3団体では、以下の4項のPGx検査実施の要件からなる「ファーマコゲノミクス検

査の運用指針」(以下、「PGx検査運用指針」という)を策定した。

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【指針の目的と適用範囲】 本指針の利用は、前記背景を鑑みて、今回、各種指針で述べられている内容を踏まえつつ、PGx検査の普及と適正な利用の促進を目的とし、PGx検査を被検者に提供する主治医および医療機関、PGx製品を提供する診断薬メーカーおよびこれら検査を受託する衛生検査所を対象とする。

なお、本運用指針の適用範囲は、診療(保険診療、先進医療等)においてPGx検査として実施する遺伝学的検査(生殖細胞系列遺伝子検査)とし、体細胞遺伝子検査(がん細胞などにおける治療標的を明らかにするためのPGx検査)は対象外とする。

さらに、ヒトゲノム・遺伝子解析研究および薬事法に従い実施される治験(市販後調査を含む)は対象外とする。

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【PGx検査実施の要件】 1.検査実施時のインフォームド・コンセントについて PGx検査におけるインフォームド・コンセントにおいては被検者が、検査実施にあたり、

その検査の目的、方法、精度、限界、結果の開示方法および予測される不利益などを理解し、原則として、自由意思に基づき検査実施について同意することが求められる。ここで最も重要なことは、「PGx検査実施についての同意」と「検査に関する十分な説明」である。被検者に対して説明する検査の具体的な内容として、遺伝医学関連10学会に

よる「遺伝学的検査に関するガイドライン」では、「検査の目的、方法、予想される検査結果、内容(想定される被検者の利益・不利益を含む)、精度(特に不可避な診断限界)、被検者のとり得る選択肢、実施にあたっての医療上の危険性」などが挙げられている。 これらについて、原則として主治医が被検者に十分な説明のうえ、同意取得を行う。検査に関する説明は、必要に応じて、PGx検査に関する専門的知識を有する医師および担当者(薬剤師・看護師・臨床検査技師等)から受ける。 一方、これらの説明項目は、被検者に提供されるPGx検査の製品や検査の内容によって異なる。このため、PGx製品や検査を提供する企業(診断薬メーカーおよび衛生検査所等)においては、供給するPGx製品・検査における特性を明らかにし、前記項目

(検査の分析的妥当性、臨床的妥当性を含む)それぞれについて分かりやすい情報を主治医および医療機関に提供する。また、医療機関が自施設内でPGx検査をhome-brew methodにより行う場合についても、同様の情報提供を被検者に行う必要がある。

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2.検査前後の説明 PGx検査の利用においては、主治医、必要に応じてPGx検査に関する専門的知識を有する医師および担当者(薬剤師・看護師・臨床検査技師等)により、被検者に対して検査前後の説明を行う。 また、主治医および医療機関は、被検者のPGx検査の利用に必要な情報へのアクセスを確保することが重要である。 なお、PGx検査を利用する主治医およびPGx検査について、必要に応じて被検者に説明を行うPGx検査に関する専門的知識を有する医師および担当者(薬剤師・看護

師・臨床検査技師等)に対しては、講習会またはそれに準ずる教育機会への参加を推奨する。 また、PGx検査が遺伝学的検査(生殖細胞系列遺伝子検査)であることを考慮し、

主治医および医療機関は、被検者の希望がある場合には、専門医を紹介する、または遺伝カウンセリングが受けられる体制を整えておく。

3.個人の遺伝情報の保護 現在、単一遺伝子疾患の診断を目的とした遺伝学的検査では匿名化や親展報告書などにより、個人情報が保護されている。 PGx検査の実施においても、単一遺伝子疾患が考えられる場合は、医療機関等に

おいて、各種安全管理措置(組織的、人的、物理的、技術的安全管理措置)を講じた上で、個人情報の保護は「匿名化」にて運用する。 ただし、単一遺伝子疾患が考えられる場合でも、原則として、健康障害をもたらさない場合は、匿名化の必要性や電子カルテあるいは紙カルテでの取扱い方はその限りでない。

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4.生体試料(検体)の検査前後の取扱い PGx検査に用いる生体試料(検体)の測定前プロセス(採取、保

存と処理)は、測定精度を左右する。これを踏まえ、測定前の生体試料の取扱いは、日本臨床検査標準協議会が策定した「遺伝子関連検査検体品質管理マニュアル」(2011年12月)に従う。 遺伝学的検査の実施においては、検査後の生体試料(検体)について他の研究などへの利用の可能性(目的外使用)が懸念されている。 これらの懸念を払拭し、PGx検査の適切な運用のためには、測定後の生

体試料は、他の臨床検査における試料の取扱いと同様に、日本臨床検査医学会の見解「臨床検査を終了した検体の業務、教育、研究のための使用について」(2009年)を参照し、「管理者が責任をもって、明確な一定期間の保管経過後、試料を廃棄する」という規定を設けて運用する。 【指針の改定について】 PGx検査を取巻く環境や技術的進歩が非常に速いことから、本「PGx検

査運用指針」は必要に応じて適宜見直しを図る予定である。

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別紙1.用語の定義および解説 5)PGx検査の実施・運用体制について →第2回改定時に追記 (1) 実施予定のPGx検査が「PGx検査運用指針」の対象となる遺伝学的検査 (生殖細胞系列遺伝子検査)か、対象である体細胞遺伝子検査かの確認を行う。 (2) PGx検査が遺伝学的検査の場合には、検査の対象が単一遺伝子疾患の診断に 関わる遺伝情報を明らかにする遺伝学的検査か否かを確認する。 (3) インフォームド・コンセントの取得に際して、被検者への説明と同意を 文書により行うか否かの方針を決める。 (4) PGx検査項目を、院内のオーダリングシステムに掲載するか否かの方針を決める。 (5) PGx検査を検査センター等に外部委託する際に被検者(患者)氏名 を匿名化するか否かの方針を決める。 (6) 院内電子カルテへPGx検査の結果を掲載するか否かの方針を決める。 (7) オーダリングシステムや電子カルテへのアクセス制限をどのように設けるのかの 方針を決める。(被検者(患者)に関わる診療情報の共有化と個人遺伝情報保護 体制の整合性をどのように図るのかについての方針を決める)。 (8) PGx検査を実施する際に、医療機関に設置された倫理審査委員会による審査が 必要か否かの方針を決める。

なお、PGx検査の情報管理として、被検者(患者)の匿名化、オーダリングシステムへの掲載、検査結果の電子カルテ掲載等については、各種安全管理措置を講じた上で、 以下の場合には通常の臨床検査と同様に取り扱うことが容認されうる。 ・体細胞遺伝子検査に分類されるPGx検査の場合 ・検査対象となる遺伝子が単一遺伝子疾患の原因遺伝子である生殖細胞 系列のPGx検査であっても、被検者に健康障害をもたらさない場合

以上、「PGx検査運用指針」を遵守し、(1)~(8)に示した課題等を踏まえた上で、 PGx検査の実施体制全体を施設として取り決める必要がある。

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6)PGx検査の特性 PGx検査により得られる結果は、以下の特性を持つことが「医療における遺

伝学的検査・診断に関するガイドライン」(日本医学会 2011年2月)により示されている。(以下、ガイドライン本文より引用。)

3.遺伝学的検査の留意点 3-4)薬理遺伝学検査 ゲノム薬理学検査に含まれる薬理遺伝学検査[注5]は、生殖細胞系列の遺伝情報

を取扱うものであるが、以下の特性があるため、単一遺伝子疾患の遺伝情報とは異なり、診療の場においては、関連ガイドライン[注5]を参照した上で、通常の診療情報と同様に扱うことができる。

・ 危険な副作用をもたらす薬物、または有効性の乏しい薬物の投与を回避できること。 ・ 適切な投与量を推定できること。 ・ 遺伝型に基づく表現型の予測力が必ずしも高くないこと。

[注5]ゲノム薬理検査と薬理遺伝学検査 「ゲノム薬理学における用語集」(厚生労働省)では、「ゲノム薬理学

(Pharmacogenomics: PGx)」を「薬物応答と関連するDNAおよびRNAの特性の変異に関する研究」、「薬理遺伝学(Pharmacogenetics: PGt)」を「ゲノム薬理学(PGx)の一部であり、薬物応答と関連するDNA配列の変異に関する研究」と定義している。本定義に従えば、生殖細胞系列の遺伝子変異だけではなく、腫瘍細胞の体細胞遺伝子変異解析や細胞内の遺伝子発現解析も含まれる。なお、本ガイドラインにおいては、前記定義を踏まえたうえで、薬物応答に関して生殖細胞系列の遺伝情報を取扱う検査を薬理遺伝学検査として定義し、ガイドラインの適用範囲とした。これらの検査に関連した指針等には、「ファーマコゲノミクス検査の運用指針」および「ゲノム薬理学を適用する臨床研究と検査に関するガイドライン」18)がある。

第3回改定 追記事項

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「ファーマコゲノミクス検査の運用指針」 (PGx検査運用指針)

Q&A 日本臨床検査医学会 日本人類遺伝学会

日本臨床検査標準協議会 (2012年7月2日)

本PGx検査運用指針Q&Aは、PGx検査を被検者に提供する主治医および医療機関、PGx製品を提供する診断薬メーカーおよびこれら検査を受託する衛生検査所を対象とした「ファーマコゲノミクス検査の運用指針」(PGx検査運

用指針)(参考ガイドライン等1.参照)を円滑に導入するためのヒントや解決方法を、目的に応じてQ&A形式で説明したものです。

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Q16.生体試料(検体)の検査前後の取扱いの留意点とは 何でしょうか?

A16.PGx検査に用いる生体試料(検体)の測定前プロセス(採取、

保存と処理)は、日本臨床検査標準協議会が策定した「遺伝子関連検査検体品質管理マニュアル」(承認文書)(2011年12月)に従う必要があります。(参考ガイドライン等10.参照) なお、PGx検査の検体となるゲノムDNAは、すべての遺伝情報を含んでいます。したがってPGx検査後に、他の研究等への利用(目的外利用等)の可能性が懸念されています。 このため、PGx検査を実施する医療機関等でゲノムDNAを取り扱う際には、PGx検査に用いた検体の取扱いについて、「管理者が責

任をもって、明確な一定期間の保管経過後、試料を廃棄する」という規定を設けて運用する必要があります。 (研究に利用する場合はQ17を参照) (参考ガイドライン等8.9.参照) *PGx検査運用指針参照項目:<PGx検査実施の要件> 4.生体試料(検体)の検査前後の取扱い

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Q17.研究として行っているPGx検査は、この運用指針の対象と なるのでしょうか?

A17.ゲノム薬理学研究はPGx検査と同じく、取扱う遺伝情報は単一遺伝子疾患と異なる側面を有しています。PGx検査運用指針は、診療(保険診療、先進医療等)として実施するPGx検査のみが対象であり、ゲノム薬理学研究にはPGx検査運用指針は適用されません。 ゲノム薬理学研究、並びにその成果を診療に適用する検査を取り扱うガイドラインとして、新たに「ゲノム薬理学を適用する臨床研究と検査に関するガイドライン」(日本人類遺伝学会、日本臨床検査医学会、日本臨床薬理学会、日本TDM学会、日本臨床検査標準協議会)が策定され、2010年12月に公表されました。(参考ガイドライン等3.参照) なお、介入等を伴うゲノム薬理学研究を実施する際には、「臨床研究に関する倫理指針」や「ヒトゲノム遺伝子解析研究に関する倫理指針」に沿って研究を実施する必要があります。 (参考ガイドライン等6.7.参照) *PGx検査運用指針参照項目:<指針の目的と適用範囲>

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Q18.今後の課題としてはどのようなことがありますか?

A18. PGx検査の取扱いを周知し、PGx検査運用指針の対象となるPGx検査の適正な利用を促進し、PGx検査を診療の中で普及していくことが大きな課題です。PGx検査への認識を深めていくためには、主治医をはじめとするPGx検査に関わる各職種(薬剤師・看護師・臨床検査技師等)一人ひとりの努力が重要です。 また、施設内で検査結果や検体の取扱い等個人情報の保護や倫理面での対応を適切に行うために、PGx検査に関わる各職種・

部門が連携し、必要な組織体制や環境の整備を図ることが重要です。 一方、PGx検査の歴史は新しく、現在はPGx検査の実施・運用

体制には施設間で大きな差が生じています。従って、教育機会の充実や情報提供システムの構築にはPGx検査を行う医療施設間の情報交換が有用であり、PGx検査に関わる企業等(診断薬メーカー、衛生検査所、製薬会社)、PGx検査に関するガイドラインの策定を行う学会やPGx検査を活用する医療現場の監督省庁との連携が重要となります。

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「ゲノム薬理学を適用する 臨床研究と検査に関する

ガイドライン 」

日本人類遺伝学会 日本臨床検査医学会 日本臨床薬理学会 日本TDM学会

日本臨床検査標準協議会

2010年12月 28

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目次 1.背景 p3 2.スコープ p5 3.ゲノム薬理学研究/検査の分類と特徴

p6 4.一般の臨床検査、研究的検査について

の指針 p8 5.検査前後の説明 p8 6.ゲノム薬理学検査の有用性の確認p10 7.個人の遺伝情報の保護 p11 8.ゲノム薬理学に関するカウンセリング

p11 9.ゲノム薬理学検査に用いる生体試料

(検体)の取扱い p11 10.ゲノム薬理学研究を目的とした資料の

保管 p12 11.本ガイドラインの改定 p12 12.用語の概念と解説 p13 (1)遺伝子関連検査の分類 p13 (2) 匿名化 p13

(3) ゲノム薬理学(ファーマコゲノミクス;PGx)と薬理遺伝学(ファーマコジェネティクス;PGt) p14

(4)ゲノムバイオマーカー p14 (5)ICH p15 (6)GCP省令 p15 (7)ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫

理指針(三省合同) p16 (8)「遺伝学的検査に関するガイドライン」

(遺伝医学関連10学会) p18 (9)ファーマコゲノミクス(PGx)検査の運用

指針 p19 (10)ヒト遺伝学的検査(生殖細胞系列遺伝

子検査)の特性 p20 (11)遺伝学的検査の倫理問題とゲノム薬

理学の特性 p20 13.参考ガイドライン等 p22 14. ガイドライン検討委員会名簿 p25

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2.スコープ 本ガイドラインはゲノム薬理学に関わる医療機関、医療従事者(医師、薬剤師等)、治験や製造販売後調査に関わる製薬企業等および研究者を対象とする。 ICH や厚生労働省は「ゲノム薬理学(Pharmacogenomics: PGx)」を、「薬物応答と関連するDNAおよびRNAの特性の変異に関する研究」、「薬理遺伝学(Pharmacogenetics: PGt)」を、「ゲノム薬理学(PGx)の一部であり、薬物応答と関連するDNA配列の変異に関する研究」と定義している 。以上の定義は古典的な人類遺伝学での定義と必ずしも一致しないが、本ガイドラインでは厚生労働省による定義を用いる。

本ガイドラインの取り扱う範囲は、上記のゲノム薬理学が関わる研究および検査の範囲全体である。即ち、ヒト生殖細胞系列遺伝子解析、ヒト体細胞遺伝子解析、ヒト遺伝子発現解析を含む 。しかし、個人の遺伝情報の取扱い上、特別な倫理的問題が存在するの

は生殖細胞系列の遺伝子解析のみであり、その理由は巻末の「ヒト遺伝学的検査(生殖細胞系列遺伝子検査)の特性」の項で詳しく述べる 。また、ヒト体細胞遺伝子解析とヒト遺伝子発現解析を厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」に沿って実施すれば倫理的な問題は生じないと考えられる。従って、ゲノム薬理学が関わる研究および検査を実施する場合、それが次の世代へ伝わる生殖細胞系列の情報を含むか否かを正しく判断することが何よりも大切である。

本ガイドラインは、通常の医療以外の目的で行われるゲノム薬理学検査、例えばDTC(direct-to-consumer)サービス として行われるもの、一般市民を対象とした遺伝子検査や、個人識別や血縁鑑定に用いる場合等は対象としない。

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3.ゲノム薬理学研究/検査の分類と特徴 (1) 保険診療と先進医療に関連したゲノム薬理学検査 → 「ファーマコゲノミクス検査の運用指針」

(2) 治験,製造販売後臨床試験以外の臨床研究(GCP適用外)で実施する ゲノム薬理学研究治験や製造販売後臨床試験以外のゲノム薬理学研究 としては,以下があげられる. A.ゲノムバイオマーカーと薬物代謝あるいは薬力学の関連を評価する研究 および適切な用量を設定するための研究 B.ゲノムバイオマーカーと薬剤の有効性,安全性の関連を評価する研究 C.ゲノムバイオマーカーと毒性,副作用の関連を評価する研究 D.ゲノムバイオマーカーの臨床的有用性を評価する研究 E..将来のゲノム薬理学研究のための遺伝子の保管

(3) 治験,製造販売後臨床試験(GCPが適用されるもの)に関連した

ゲノム薬理学研究 31

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ゲノムバイオマーカー PGx、PGt等用語の定義

*「ゲノム薬理学における用語集について」

(ICH E15)

厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知および厚生労働省医薬食品局安全対策課長通知(薬食審査発第0109013号)および(薬食安発第0109002号)(平成20年1月9日)

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ゲノム薬理学(ファーマコゲノミクス;PGx)検査と 薬理遺伝学(ファーマコジェネティクス;PGt)検査

「ゲノム薬理学における用語集」(厚生労働省)では、 ゲノム薬理学と薬理遺伝学を以下に定義している。 (1)ゲノム薬理学(Pharmacogenomics: PGx): 「薬物応答と関連するDNA及びRNAの特性 の変異に関する研究」

(2) 薬理遺伝学(Pharmacogenetics: PGt): 「ゲノム薬理学(PGx)の一部であり、薬物応答 と関連するDNA配列の変異に関する研究」

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ゲノムバイオマーカー 「ゲノム薬理学における用語集」(厚生労働省)による定義 ゲノムバイオマーカー 正常な生物学的過程、発病過程、及び/または治療的介入等への反応を示す 指標となる、DNAもしくはRNAの測定可能な性質 1.以下により測定される: ・遺伝子の発現 ・遺伝子の機能 ・遺伝子の制御 2.ゲノムバイオマーカーは、デオキシリボ核酸(DNA)及び/リボ核酸(RNA)の 1つまたは複数の特性から構成され得る。 3.DNAの特性には以下が含まれる: ・一塩基多型 ・短い繰り返し配列の多様性(繰り返し数の違い) ・ハプロタイプ ・DNAの修飾 例:メチル化 ・塩基の欠失(deletion)または挿入(insertion) ・コピー数の変異 ・細胞遺伝学的な再配列 例:転座(translocation)、重複(duplication)、欠失(deletion)、逆位(inversions) 4.RNAの特性には以下が含まれる(ただしこれらは限定するものではない): ・RNA配列 ・RNA発現 ・RNAプロセシング 例:スプライシング、エディティング ・マイクロRNA量 5.これら定義はヒト由来試料に限定するものではない 6.タンパク質あるいは低分子量代謝産物の測定値や特性は含まれない

→生殖細胞系列変異か体細胞変異かの分類は行われていない!

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*「医薬品の臨床薬物動態試験につて」 厚生労働省医薬局審査管理課長通知(医薬審発第796号)(平成13年6月1日)

*「薬物相互作用の検討方法について」 厚生労働省医薬局審査管理課長通知(医薬審発第813号)(平成13年6月4日)

*「医薬品の臨床試験におけるファマコゲノミクスの利用指針の作成に 係る行政機関への情報提供について」 厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知(薬食審査発第0318001号)(平成17年3月18日)

*「重篤な皮膚有害事象などに関する研究への協力について(依頼)」 厚生労働省医薬局安全対策課長通知(薬食安発第061500号)(平成18年6月15日)

*「ゲノム薬理学における用語集について」(ICH E15) 厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知および厚生労働省医薬食品局安全対策課長 通知(薬食審査発第0109013号)および(薬食安発第0109002号)(平成20年1月9日)

*「DNAチップを用いた遺伝子型判定用診断薬に関する評価指標」 厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室(平成20年4月4日)

*「ゲノム薬理学を利用した治験について」 厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知(薬食審査発第0930007号)(平成20年9月30日)

厚生労働省医薬品局からの通知

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バイオマーカーの分類

(1)体細胞遺伝子検査

1.肺がん;ゲフィチニブ(イレッサ® ) ・EGFR変異;薬剤感受性/耐性 2.CML;イマチニブ(グリベック® ) ・bcr/abl(mRNA);薬剤感受性 ・変異あり⇒効果なし ⇒ダサチニブ(スプリセル® )へ変更 3.大腸がん;セツキシマブ(アービタックス® ) ・K-ras;変異あり⇒効果なし 4.Oncotype DX ;(mRNA) ・乳がん;予後予測とタモキシフェン+ 化学療法の必要性に関する情報

(2)染色体検査およびFISH検査 *CML;イマチニブ;G-バンド分染法/ FISH法によるPh染色体の検出 (染色体検査) *乳がん;トラスツズマブ(ハーセプチン® )・ HER2/neu遺伝子増幅(FISH検査)

(3) 遺伝学的検査(遺伝子型を検査) (生殖細胞系列遺伝子検査) 1. N-アセチル転移酵素2 (NAT2) ・イソニアジド ・プロカインアミド 2.チトクロームP450 (CYP2C9) ・S-ワルファリン ・フェニトイン 3.チトクロームP450 (CYP2C19) ・オメプラゾール 4.チトクロームP450 (CYP2D6) ・ほとんどの抗うつ薬と抗精神病薬 ・抗不整脈薬 5.チオプリンメチル転移酵素(TPMT) ・6-メルカプトプリン ・アザチオプリン 6.UDP-グルクロンサン転移酵素 (UGT1A1遺伝子多型) 塩酸イリノテカン 7.IL28B;INF・リバビリン効果判定 8. HLA-B*1502;カルバマゼピン(人種差) 9.HLA-B*5801;アロプリノール(ザイロリック® ) 10.HLA-B*5701;アバカビル(エプジコム® )

*ゲノムバイオマーカー

*バイオマーカー(発現たんぱく質の検出を含む) *乳がん; トラスツズマブHER2/neu免疫染色(タンパク質)

大腸がん の併用治療

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「ヒト遺伝情報に関する国際宣言」(UNESCO)2003年 A.一般規程

第4条 特別な地位 ⇒遺伝子(情報)例外主義!?

(a) ヒト遺伝情報は以下の理由により、特別な地位を有する。

(ⅰ) 個人に関する遺伝的疾病体質を予見し得ること。

(ⅱ) 世代を超えて、子孫を含む家族に対して、そしてある場合 には関係者が属する集団全体に対して、重大な影響力を 有し得ること。

(ⅲ) 生物学的試料の収集の時点では必ずしも知られていない 情報を含み得ること。

(ⅳ) 個人又は集団に対する文化的な重要性を有し得ること。

遺伝情報は特別か?

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”Pharmacogenetics – Towards improving treatment with medicines”

2005年 CIOMS(Council for International Organizations of Medical Science; 国際医学団体協議会) 【1949年にWHO(世界保健機構)とユネスコとの協賛により設立されその本部はジュ

ネーブ(スイス)にある。各国の医学関連団体、研究グループ、行政機関がメンバーとなり、国際間にまたがるような医学関連事項の研究推進を行い、国際的な医療関連業務の円滑

な促進を図ることを目的としている。】

• PGx情報は医療情報の一部として捉えるべきであり、他の医療データと全く異質のものではない

• 全ての遺伝情報の機密性は、他のあらゆる個人情報と同様の厳重な保護をしなければならない

• PGx及びその生み出す情報の意味を理解してもらうためにも、一般及び専門家向けの教育を大いに活発にする必要がある

• 公共政策においては、PGxデータを含む全ての医療情報の不正使用を防止するための安全管理措置を講じなければならない

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医薬品の臨床試験における ファーマコゲノミクス実施に際し 考慮すべき事項 (暫定版) 2008年3月14日 日本製薬工業協会 医薬品評価委員会

1. 基本的考え方 1.2 本資料の適用範囲と分類

分類A) 治験実施時に具体的な方法と実施時期が決定されている当該薬物の評価に限定したゲノム・遺伝子解析 当該薬物の 応答に関連するゲノムバイオマーカーの検討に限定したゲノム・遺伝子解析を行い,治験実施計画策定段階において, その検 討のための目的遺伝子が特定され,ゲノム・遺伝子解析の詳細および実施時期が明確になっている場合。 治験と同時期にゲノム・遺伝子解析を実施する。 例1) CYP2C19の遺伝子型による当該薬物の体内動態への影響を検討するために 変異アレルCYP2C19*2 およびCYP2C19*3を調べる場合 例2) 薬物の有効性との関連性を調べるため標的分子の遺伝子における 既知の多型の遺伝子型を調べる場合

分類B) 治験実施時に具体的な方法または実施時期が決定されていない当該薬物の評価に限定したゲノム・遺伝子解析 当該薬物の応答に関連するゲノムバイオマーカーの検討に限定したゲノム・遺伝子解析を行うが,治験実施計画策定段階 においては,目的遺伝子が特定されていない,あるいは目的遺伝子を含むゲノム・遺伝子解析の詳細が明確になっている 場合であっても実施時期が決定していない場合。治験終了後にゲノム・遺伝子解析を実施する。 例1) CYP3A4の遺伝子型による当該薬物の体内動態への影響を検討することを 目的とするが,調べるSNPsが未定である場合 例2) 当該薬物に重篤な副作用が認められた場合,当該薬物の副作用の発現に 関連するようなマーカー探索のための検討

分類C) 当該薬物の評価とは直接関係しない探索的研究 分類Aおよび分類Bとは異なり,当該薬物の評価とは直接関係しない 探索的な研究。 例) 疾患関連遺伝子の探索

分類A 分類B 分類C

目的遺伝子 特定 特定/未定 特定/未定

当該薬物の評価への限定 有 有 有

試料・結果の匿名化 連結可能 連結可能/ 連結不可能 連結不可能

ゲノム・遺伝子解析の実施時期 特定 未定 未定

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2. ファーマコゲノミクス試験の実施体制 ファーマコゲノミクス試験の標準的な実施体制を表2に示す。

対象分類 治験依頼者 検査受託機関1) 実施医療機関

治験実施計画の策定

A,B,C

○ - -

治験実施計画の審査 - - ○

治験審査委員会

試料の採取 - - ○

試料の保存・廃棄 ○ ○ -

ファーマコゲノミクス検討

実施計画の策定

○ - -

ファーマコゲノミクス検討

実施計画の妥当性検討

○ - -

研究計画の策定2)

○ - -

研究計画の審査3) ○

倫理審査委員会

- -

ゲノム・遺伝子解析 ○ ○ -

評価・報告4) A,B,C ○ - -

1) 治験依頼者がゲノム・遺伝子解析を委託する場合。治験依頼者や実施医療機関から独立した機関 2) 分類Cの研究計画は,研究機関(治験依頼者がその責任者として機能する)あるいは検査受託機関 において策定 3) 分類Cの研究計画の審査は,「ゲノム倫理指針」に基づく倫理審査委員会にて実施(p.8 参照) 4) ファーマコゲノミクス検討の結果を治験の一部,あるいは研究として評価することがあり,報告形態も 異なる。

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2.1.2 研究計画の審査

(1) 研究を行う機関における審査 分類Cのゲノム・遺伝子解析を行う場合,研究を行う機関では,ゲノム・遺伝子解析の研究計画書を作成し,「ゲノム倫理指針」に則った研究を行う機関あるいは外部の「倫理審査委員会」で,その実施の適否等について,倫理的および科学的観点から審査する。

なお,ゲノム・遺伝子解析を外部委託する場合であっても,委託先の「倫理審査委員会」での追加の審査は必要ないと考えられる。

(2) 実施医療機関における審査 分類Cのゲノム・遺伝子解析は,治験とは独立した臨床研究にあたる。 分類Cの試料を採取する時の治験実施計画書には『研究計画が確定した時点で,

別途,「ゲノム倫理指針」に則った研究を行う機関における「倫理審査委員会」で審査する。』旨を予め記載し,「治験審査委員会」の審査,承認を得,並びに十分な説明ののち各被験者から文書による同意の取得が完了していることを前提としている。

したがって,研究計画については,試料を採取した実施医療機関の「治験審査委員会」では再度の審査は必要としない。

2.1.治験実施計画および研究計画の審査体制

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「医療機関[病院・診療所(歯科を含む)]」

製薬 事業

衛生 検査 所

検査 事業

エステ・通販・健康サービス会社等

DNA 鑑定 事業

GCP基準 (厚労省)

衛生検査所協会ガイドライン

受託解析 情報処理 事業

取次 事業

研究 機器 事業

経済産業省個人遺伝情報保護ガイドライン

DNA 保存

サービス 事業

ゲノム指針の対象

※この他、以下の学会向けガイドラインがある。 ・遺伝学的検査に関するガイドライン、 ・親子鑑定に関する指針/DNA鑑定に関する指針

医療・介護事業者における 個人情報の適切な取扱いの ためのガイドライン (厚労省)

研 究

事 業

経済産業分野ガイドライン

研究 機関

個人遺伝情報取扱事業者自主基準(案)

研究・事業分野における法と指針等の対象の整理

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Q7 ゲノム薬理学を利用する治験において、被験者が、当該治験薬に係る自らのゲノム・遺伝子解析結果の開示を希望した場合はどのようにすればよいか。 A7 治験の枠組みにおける遺伝情報の開示方法の適切性については、治験審査委員会において審議することとなるが、個々の被験者の遺伝情報が明らかとなる試験に関して、被験者が開示を希望している場合には、原則として開示するなど、ゲノム倫理指針に基づき開示方法を検討する。

ゲノム薬理学を利用した治験について 厚生労働省医薬食品局審査管理課長

(薬食審査発第0930007号) 平成20年9月30日

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「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」 平成13年3月29日(平成16年12月28日全部改正)(平成17年6月29日一部改正)

(平成20年12月1日一部改正) 文部科学省 厚生労働省 経済産業省

第6用語の定義 16 用語の定義 (3)ヒトゲノム・遺伝子解析研究 提供者の個体を形成する細胞に共通して存在し、その子孫に受け継がれ得るヒトゲノム及び遺伝子の構造又は機能を、試料等を用いて明らかにしようとする研究をいう。本研究に用いる試料等の提供のみが行われる場合も含まれる。

薬事法(昭和35年法律第145号)に基づき実施される医薬品の臨床試験及び市販後調査、又は医療機器の製造、輸入承認申請のために実施される臨床試験及び市販後調査については、同法に基づき、既に医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成9年厚生省令第28号)及び医薬品の市販後調査の基準に関する省令(平成9年厚生省令第10号)により規制されており、本指針の対象としない。

第3 提供者に対する基本姿勢 10 インフォームド・コンセント (11) 試料等の提供が行われる機関の研究責任者は、提供者又は代諾者等からのインフォームド・コンセントを受ける手続においては、提供者又は代諾者等に対し、十分な理解が得られるよう、必要な事項を記載した文書を交付して説明を行わなければならない。提供者が単一遺伝子疾患等(関連遺伝子が明確な多因子疾患を含む。)である場合には、遺伝カウンセリングの利用に関する情報を含めて説明を行うとともに、必要に応じて遺伝カウンセリングの機会を提供しなければならない。 <説明文書の記載に関する細則>

・遺伝情報の開示に関する事項(非開示にする場合はその理由)

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JCCLS 遺伝子関連検査 標準化専門委員会における

標準化への取組み

JCCLS 日本臨床検査標準協議会 http://www.jccls.org/

遺伝子関連検査標準化専門委員会 副委員長 WG-1 WG-2 委員会 副委員長

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主治医 一般消費者

衛生検査所

検 査 依 頼

病原体遺伝子 検査(核酸検査)

遺伝学的検査 (生殖細胞系列遺伝子検査 )

検 査 実 施

検査適正化

研究機関 民間企業

報 告

体細胞遺伝子検査

単一遺 伝子病

疾患 リスク

アルコール 肥満 個人識別等

白血病 がん等 肝炎 結核等

民間 企業

民間 企業

環境・ 食品

薬物 代謝

個人情報保護 検査ネットワーク

検査依頼者

検査機関

報告(書) 検査利用

検査専門医/検査管理医

遺伝子分析科学認定士

検査適正化、精度管理委員会

いでんネット/自動化学会/ONJ

測定者 臨床検査技師等 研究者等 臨床細胞遺伝学認定士

認定染色体技師

臨床遺伝専門医 遺伝カウンセラー

県の立入調査

ISO,CAP認定/認証

測定方法 測定・機器試薬 自動化

システム

外部精度管理

標準物質 二次的 (メーカー)

日本自動化学会マニュアル

CAPサーベイ 日臨技 サーベイ

自動化学会 サーベイ

染色体検査 ガイドライン

JBA

医療・介護関係者個人情報(遺伝情報)保護ガイドライン

個人遺伝情報取扱 協議会自主基準

個人遺伝情報取扱 協議会自主基準

遺伝医学関連10学会ガイドライン 日衛協指針

監督指導

EBGT/エビデンスに基づく…

個人遺伝情報保護ガイドライン

病院検査室(保険医療機関)

食品 産業等 健康(産業)

個別化 予防医療

遺伝診療 一般診療(保険診療)

指導監督医 精度管理責任者

臨床遺伝専門医 遺伝カウンセラー

個人遺伝情報取扱 協議会自主基準

遺伝子関連検査 現状マップ

(JCCLS遺伝子関連検査 標準化専門委員会)

OECD ガイドライン 未整備

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遺伝子関連検査 検体品質管理マニュアル

Appooved Guideline (承認文書)

JCCLS日本臨床検査標準協議会 遺伝子関連検査標準化専門委員会

平成23年 12月

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「検体品質管理マニュアル」 目次

はじめに

第1章 遺伝子関連検査における検体品質管理

マニュアル策定の背景

第2章 遺伝子関連検査における検体品質管理

マニュアル

1 遺伝子関連検査における検体保存と運搬

1.1 病原体遺伝子検査における検体保存と運搬:血清 血漿等 尿 喀痰尿

1.2体細胞遺伝子検査における検体保存と運搬: 組織 組織切片 血液・血球 尿・糞便

1.3遺伝学的検査(生殖細胞系列遺伝子検査)における検体保存と運搬 (外部委託の要件を整理)

2 遺伝子関連検査における検体取扱い

2.1 病原体遺伝子検査における検体取扱い: 血清 血漿 喀痰 糞便 尿 血液(白血球)、骨髄 胸

水、腹水、心嚢液、膵液、気管支肺胞洗浄液(BALF)等 リンパ節、固形組織(生検、手術材料)

2.2 体細胞遺伝子検査における検体取扱い: リンパ節、固形組織(生検、手術材料) ホルマリン固定パ

ラフィン包埋組織ブロック 血液(白血球)、骨髄 胸水、腹水、心嚢液、膵液、気管支肺胞洗浄液(BALF)、尿(沈渣) 培養細胞

2.3遺伝学的検査(生殖細胞系列遺伝子検査)における検体取扱い:血液(白血球) 口腔細胞 毛髪 爪 血痕 臍帯(へその緒)

2.3 遺伝子関連検査における検体採取

3.1 病原体遺伝子検査における検体採取 ○主なウイルス感染症:肝炎ウイルス、急性呼吸器感染

症原因ウイルス、嘔吐・下痢症原因ウイルス、脳炎原因ウイルス、無菌性髄膜炎原因ウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルス、ヒトパルボウイルスB19、ヒトパピローマウイルス、HTLV-1、HIV

○主な細菌感染症:結核菌 非定型抗酸菌、レジオネラ菌、肺炎マイコプラズマ、クラミジア・ニューモニエ/シッタシ、淋菌/クラミジア・トラコマティス、MRSA

○真菌・その他:病原性真菌、ニューモシスチス肺炎

3.2 体細胞遺伝子検査における検体採取 ○固形腫瘍の遺伝子検査:膵がんのK-ras遺伝子変異

解析、肺がんのEGFR遺伝子、K-ras遺伝子変異解析、大腸がんのp53遺伝子、K-ras遺伝子変異解析、GISTのc-kit遺伝子、PDGF-Rα遺伝子変異解析

○造血器腫瘍の遺伝子検査:白血病細胞の微小残存病変(MRD)の検索、 悪性リンパ腫細胞の微小残存病変(MRD)の検索

3.3遺伝学的検査(生殖細胞系列遺伝子検査)における検体採取

第3章 今後の課題と展望 3.1 今後の検討の方向性

3.2 検体品質管理マニュアル作成の意義と効果

おわりに

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ホルマリン固定パラフィン包埋組織(FFPE)から抽出したDNAのPCR増幅有無の施設間差

(10検体以上の16施設対象)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

A B C D E F G H I J K L M N O P

検体数

依頼施設

増幅検体数

増幅不良検体数

・手術材料のFFPE(ホルマリン固定パラフィン包埋組織)よりQIAquick DNA Mini Kit(QIAGEN)を用いて回収した521検体のDNAのうち、10検体以上の依頼があった16施設(266検体)を対象とした。 ・PCR増幅の有無はPCR(DNA断片長約190bp)後のミニゲル電気泳動の結果より判断した。 ・16施設のうち4施設においてPCR増幅不良検体がみられた。

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50

第2章 遺伝子関連検査における検体品質管理マニュアル 2. 遺伝子関連検査における検体取扱い 2.1 病原体遺伝子検査における検体取扱い 2.2 体細胞遺伝子検査における検体取扱い 2.2.2 ホルマリン固定パラフィン包埋組織ブロック 病理診断に用いる検体は、生検または手術により組織を採取した後、直ちに 10~20 %ホルマリン固定液に浸漬し適切な固定処理を行う。 固定後の組織は直ちにパラフィン包埋し、組織ブロックを作製する。 遺伝子関連検査にホルマリン固定パラフィン包埋ブロックを用いる場合には、 薄切標本はミクロトームにより5~10μm程度で作製する。 検体間の相互汚染を避けるため、薄切時は、検体ごとにミクロトームの刃を 替える等の配慮も必要である。 一般に推奨される固定液は10 %中性緩衝ホルマリンであり、固定時間の目安 は手術材料では室温で18~36時間、生検材料では室温3~6時間程度である。 10 %中性緩衝ホルマリンによる固定は、緩衝作用を持たない10~20 %ホル マリンによる固定と比較して、核酸の断片化の進行が遅延するとの報告がある。 また室温もしくは低温(4 ℃)で保存されたパラフィン包埋組織ブロック中 では核酸は分解されることは少なく長期間保持されている。ブロックからの 薄切組織切片には酸化による経時的劣化が認められるが、RNAの質的劣化は 薄切後10日間まで認められないと報告されている。

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「遺伝学的検査受託 に関する倫理指針」

平成13年4月10日 策定 平成16年9月16日 改正 平成19年4月1日 改正 平成23年10月1日 改正

社団法人 日本衛生検査所協会 遺伝子検査受託倫理審査委員会

遺伝子検査受託倫理審査委員会 副委員長

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「ヒト遺伝子検査受託に関する倫理指針」の改正・改名に際して 「遺伝学的検査受託に関する倫理指針」へ

社団法人日本衛生検査所協会(以下、「日衛協」という)では、平成12年以降、遺伝子・染色体検査の受託実績等の把握を目的としてアンケート調査を継続的に実施し公表してきた。本アンケート調査を実施したことにより遺伝子・染色体検査の動向と推移が明確となり、現在では非常に重要な調査結果として位置付けられるものとなった。また、「遺伝子検査受託倫理審査委員会」を設置し、遺伝子検査を取り巻く社会動向の変化に注目しつつ倫理指針の実務運用に関する各種課題の抽出とその対応方針について検討を行っている。 近年の動向としては、平成18年4月の診療報酬改定に際し、初めて遺伝学的検査(生殖細胞系列遺伝子検査、平成13年の当指針では「ヒト遺伝子検査」と表記)として「進行性筋ジストロフィーのDNA診断」が保険適用となり、

その後、平成20年4月には、それまで先進医療として実施されてきた栄養障害型表皮水痘症やムコ多糖Ⅰ型等10疾患の診断に関わる遺伝学的検査が新たに保険収載(2,000点)された。また、平成22年4月には、保険適用項目の表記として「遺伝病学的検査」の名称が「遺伝学的検査」に変更され保険点数も4,000点に増点され、新たにハ

ンチントン舞踏病及び球脊髄性筋萎縮症の診断に関わる遺伝学的検査が追加され、同時に染色体検査についても保険点数が2,400点から3,000点に増点された。 さらに、近年その実用化に期待が高まっている薬剤応答性診断に関わる遺伝子検査(ファーマコゲノミクス検査)についても、平成20年には抗がん剤イリノテカンによる副作用の可能性を調べるUGT1A1遺伝子多型検査が保険

適用(2,000点)され、平成21年には「ファーマコゲノミクス検査の運用指針」(平成21年3月,11月改正,平成22年12月改正)が、その後、平成22年には「ゲノム薬理学を適用する臨床研究と検査に関するガイドライン」(平成22年12月)が新たに策定され公表された。 さらに、平成23年2月には日本医学会より「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」(平成23年2月:日本医学会)が公表された。 このような状況の下、日衛協においても「ヒト遺伝子検査受託に関する倫理指針」の見直しを再度図る必要があると考え、改正の検討を行なった。「ヒト遺伝子検査受託に関する倫理指針」の策定を行った平成13年当時は、まだ遺伝子検査に関する用語の統一が図られていなかったため、日衛協では臨床診断における生殖細胞系列遺伝子検査を「ヒト遺伝子検査」と定義して用いてきたが、平成21年2月に公表された日本臨床検査標準協議会

(JCCLS)により定義された「遺伝学的検査」が広く用いられるようになったので、今回、指針の名称を「遺伝学的検査受託に関する倫理指針」変更するに至った。また、内容に関する主な改正点としては、「ファーマコゲノミクス検査の運用指針」に対応した遵守事項の解説を加えた。 平成23年10月1日

社団法人日本衛生検査所協会 遺伝子検査受託倫理審査委員会

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Ⅲ. 遺伝学的検査受託における遵守事項

7. 衛生検査所は、遺伝学的検査の実施前に医師が被検者に対して、検査の目的、方

法、精度、限界、結果の開示方法等について十分な説明をし、被検者の自由意思による同意(インフォームド・コンセント)を得ることを医療機関に要請する。 また、遺伝学的検査実施前後に遺伝カウンセリングが特に必要と考えられる検査の受託に際しては、関連学会等で示された指針・ガイドラインに従い、十分な遺伝医学的知識・経験を有する臨床遺伝専門医等が適切に遺伝カウンセリングを行う体制があることを医療機関に確認する[注3 注10]。 8.衛生検査所は、遺伝学的検査を受託するに当たり、医療機関において各種安全管理措置(組織的、人的、物理的、技術的安全管理措置)が講じられ、被検者の個人名等を、符号又は番号によって匿名化するなど、個人情報の保護が適切に行われるよう医療機関に要請する。 また、衛生検査所では、匿名化された検体の安全管理ができる体制を整備し、特に単一遺伝子疾患の診断を目的とした遺伝学的検査の結果の報告に際しては、担当医師に対して親展扱いで報告する等、個人遺伝情報の保護に努める。 但し、薬剤応答性診断に関する遺伝子検査(生殖細胞系列のファーマコゲノミクス検査)の取扱いに関しては、これまでに示された指針・ガイドラインに従い、単一遺伝子疾患が考えられる場合でも、原則として、健康障害をもたらさない場合は、匿名化や親展報告の取扱いについてはその限りでなく、医療機関と協議の上で適切な運用方法を決めることができる[注3 注10]。

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第6回 日本衛生検査所協会 アンケート調査の対象範囲

1.対象期間; 2010年4月1日から2011年3月31日

2.対象施設数; 2011年7月1日に、社団法人日本衛生検査所 協会に加盟する132社を対象

3.回収施設数(回収率): 99社 75.0%

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「ヒト遺伝子検査受託に関する倫理指針」 平成13年4月10日 策定 平成16年9月16日改正 平成19年4月1日改正

平成23年10月1日 改正 社団法人 日本衛生検査所協会 遺伝子検査受託倫理審査委員会

(1) 単一遺伝子疾患の診断に関する遺伝子検査 (2) 家族性腫瘍の診断に関する遺伝子検査[改定により(1)に統合] (3) 薬剤応答性診断に関する遺伝子検査 (4) 生活習慣病等の疾患感受性(易罹患性)診断に関する遺伝子検査 (5) その他、個人の体質診断に関する遺伝子検査等

<本指針の対象から除かれる遺伝子検査等に関する細則> 以下の検査については本指針の対象から除く。 (1) 「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に規定されたヒトゲノム・遺伝子解析 を目的とした研究 (2) 薬事法に従い実施される遺伝子検査・染色体検査 (3) 感染症診断に関する病原体の遺伝子検査 (4) ヒト体細胞遺伝子解析に関する遺伝子検査(白血病/リンパ腫及び固形腫瘍の診断に 関する遺伝子検査、及びファーマコゲノミクス検査のうち腫瘍組織を用いる遺伝子検査) (5) 骨髄移植骨髄移植等における適合性やドナー/レシピエントを識別する遺伝子検査 (HLA検査及びキメリズム解析検査等) (6) 親子鑑定(DNA鑑定)に関する遺伝子検査

(7) 白血病/リンパ腫及び固形腫瘍等の診断に関する染色体検査 (8) 先天異常・生殖障害等の診断に関する染色体検査 (9) 先天性疾患等の診断に関する生化学検査

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0

5000

10000

15000

20000

25000

遺伝性疾患 家族性腫瘍 生活習慣 薬剤応答 体質

第1次合計(1999年)

第2次合計(2001年)

第3次合計(2004年)

第4次合計(2006年)

第5次合計(2008年)

第6次合計(2010年)

1.日衛協倫理指針対象の遺伝学的検査実施数

遺伝性疾患 2006年:筋ジス保険収載 2008年:遺伝学的検査13疾患 2010年:2疾患追加(合計15疾患) DMD/BMD:約640件 福山;70件

薬剤応答遺伝子検査 2008年11月:UGT1A1保険収載 2009年4月:UGT1A1検査開始PGx検査の運用指針公表 2010年:6月;IL28B検査開始 *実績:保険適用;UGT1A1:11627件 保険適用外:10605件

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2.日衛協倫理指針対象外の遺伝子検査実施数

0

20000

40000

60000

80000

100000

120000

140000

160000

白血病 固形癌 臓器移植 親子鑑定

第1次合計(1999年)

第2次合計(2001年)

第3次合計(2004年)

第4次合計(2006年)

第5次合計(2008年)

第6次合計(2010年)

固形癌遺伝子検査 2007年6月:悪性腫瘍遺伝子検査(肺癌:K-ras,EGFR遺伝子検査) (2008年実績は肺癌におけるEGFR遺伝子検査が主体) 2010年4月:(肺癌:K-ras,EGFR遺伝子検査)→大腸癌追加 2010年度実績: EGFR:46,543件 K-ras:35,223件

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3.染色体検査実施数

0

20000

40000

60000

80000

100000

120000

140000

160000

遺伝性疾患 白血病・リンパ腫

第3次合計(FISH)(2004年)

第4次合計(FISH) (2006年)

第5次合計(FISH)(2008年)

第6次合計(FISH)(2010年)

第2次合計(Gバンド)(2001年)

第3次合計(Gバンド )(2004年)

第4次合計(Gバンド)(2006年)

第5次合計(Gバンド)(2008年)

第6次合計(Gバンド)(2010年)

FISH FISH

Gバンド

Gバンド

倫理指針対象

倫理指針対象外

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0

500000

1000000

1500000

2000000

2500000

3000000

3500000

4000000

4500000

5000000

感染症

第1次合計(1999年)

第2次合計(2001年)

第3次合計(2004年)

第4次合計(2006年)

第5次合計(2008年)

第6次合計(2010年)

4.感染症の遺伝子検査実施数

0

500000

1000000

1500000

2000000

2500000

3000000

3500000

4000000

4500000

5000000

感染症

第1次合計(1999年)

第2次合計(2001年)

第3次合計(2004年)

第4次合計(2006年)

第5次合計(2008年)

第6次合計(2010年)

倫理指針対象外

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第3回開催シンポジウム(2013年12月13日)

第1回開催シンポジウム(2011年12月9日) 第2回開催シンポジウム(2012年12月6日)

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1.「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」の見直しに関する専門委員会 http://www.lifescience.mext.go.jp/council/council011.html 2.「ヒトのバイオバンクおよび遺伝学研究用データベースに関するOECDガイドライン」 (JBA訳)OECD Guidelines on Human Biobanks andGenetic Research Databases http://mbrdb.nibio.go.jp/kiban01/document/HBGRD_Guidelines_jp_JBA201003.pdf 3.「医薬品の臨床試験におけるファーマコゲノミクス実施に際し考慮すべき事項」(暫定版) http://www.jpma.or.jp/about/basis/guide/phamageno.html 4.ゲノム薬理学を利用した治験について http://www.pmda.go.jp/operations/shonin/outline/shinrai/file/tuchi/1_0930007.pdf 5.日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」 http://jams.med.or.jp/guideline/genetics-diagnosis.html 6.「ファーマコゲノミクス検査の運用指針」 http://www.jccls.org/techreport/pgx_guideline.pdf 7.「ゲノム薬理学を適用する臨床研究と検査に関するガイドライン」 http://www.jslm.org/others/news/genomics21001203.pdf 8.遺伝子関連検査 検体品質管理マニュアル(承認文書) http://www.jccls.org/active/public2.html 9.「遺伝子関連検査に関する日本版ベストプラクティスガイドライン」 http://www.jccls.org/techreport/bestpractice_guideline.pdf 10.分子遺伝学的検査における質保証に関するOECD ガイドライン(JBA 仮訳) http://mbrdb.nibio.go.jp/kiban01/document/OECD_Guideline_QA_final_Molecular_ Genetic_Testing_ja.pdf 11.「遺伝学的検査受託に関する倫理指針」 http://www.jrcla.or.jp/info/info/info_58.html

参考となる指針・ガイドライン