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Philosophy Book 01

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Philosophy Book

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内山

節 哲学者

つながり合う世界を通じて、森と歩んでいく。

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5

 

魚釣りが趣味で多くの山間地域に行き、気にな

る風景を見つけると、地元の役場や森林組合、農

協に行ったり、地元の人に声をかけて話を聞きま

した。分かったのは、森のことは現地に行って語

るべきことで、森一般で語れることは本当に表面

的であるということ。木は二酸化炭素を固定して

いる、という話ならば森一般で語ってもよいです

が、その森にどういう木があるのか、どういう動

物がいるのか、そしてその森と人々がどう関わっ

てきたのかも場所ごとに違います。具体的な森の

集積が全体の森であるので、全体の森だけを見て

終わりにしてはいけないのです。

 

私が40年ほど前から住んでいる群馬県上野村は

森林率が94%、川などが2%、残りの4%に人が

住んで暮らしている村です。森ばかりなので、こ

の村ではずっと林業をやってきたんですかと、訪

れる人によく聞かれます。村に流れる神流川は水

量が足りなくて筏を流せなかったので、江戸時代

には林業をしておらず、軽くて高く売れる蚕や紙

をつくって人が背負って運び、村の産業としてい

ました。明治時代に入ってしばらくしてから林業

が始まり、クリの木がたくさんあったので、鉄道

の枕木にしていました。その生産量はものすごく

多く、満州鉄道にまで使われていたそうです。林

業といっても計画的に植林したものを伐採するの

ではなく、自然に生えている木を伐って、山で造

材して小さくしてから川に流しました。炭焼きは

明治時代の中ごろから。そして森林軌道が敷設さ

れて、トラックが入って来られるようになり、ス

ギ、ヒノキを植える生業としての林業をするよう

になったのは戦後になってからです。ここには天

然のヒノキ、ケヤキ、マツ、クリもあって、自分

の家の建て替えにわざわざ植えなくても、山にあ

る木を使えばそれでよかったのです。一般的に本

を読んでいるだけだと、ここではずっと炭焼きを

やっていたような、ずっと林業をやってきたよう

な感じがしますが、現地で話を聞いてみて初めて

このような歴史を知ることができるのです。

 

上野村では普通の民家の場合、150年くらい

で建て替えるところが多かったようです。私がこ

の村に来て年配者たちに教わったのは、家の建て

直しが終わった時点で、次の建て直し用の大黒柱

だけは切っておくことでした。普通の家ではケヤ

キを1本切ってきて150年くらい転がして自然

乾燥すれば、次に使うころにはちょうどいい、狂

森は現地に行って語るのが

原則なのです。

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いが出ない大黒柱になっているのです。そしてそ

のころには、山でよく育っているケヤキのなかか

ら、次の次の大黒柱によい木を見定めておきま

す。特殊材だからということもありますが、村の

人たちは300年ぐらいの時間を読みながら暮ら

してきました。家具もひとつ買うと、昔なら最低

100年くらいは使っていました。

 

しかし今では数百年間も使い続けることが暮ら

しにそぐわなくなり、家も家具も単なる消費財と

なってしまいました。森は動物が暮らす場所、人々

が使わせてもらう場所であるのに、現代では森か

ら伐った瞬間に木は商品となり、最終的には森を

木材という商品価値ではかろうとする事態が起き

ています。ここに根本的な無理があります。昔は

木という商品を買ったというよりも、森から木を

出してきたという感覚があり、家を建てるのに

100年前に見つけた木を100年寝かして使う、

そんなことが当たり前の世界だったのです。

 

このような世界を可能にしていたのは、家のな

かでつながっていく物語があったからでした。家

具で言えば、江戸時代の終わりに五郎左衛門とい

う人が苦労して手に入れたという言い伝えがあっ

たり、あるいは戦時中の物資が不足する状況で嫁

入り道具として買ったけれどあまりいいものでな

くて恥ずかしいと、お嫁さんの物語があった。受

け継がれる物語があっての家具であり、少なくと

も江戸時代まではつながっていました。

 

もうひとつ、共同体としての物語もありました。

村では家系とこの共同体の物語が重複していたの

です。ところが、都市では共同体の物語が薄れて

家系のつながりに一本化され、明治時代には壊れ

始めて昭和の戦後にはどうでもいいものになって

しまいました。つまり、歴史軸的つながり、縦軸

のつながりの全てを失ったのです。

 

近代はこのつながりを失わせた時代でしたが、

本当は新しい歴史軸のつながりを必要としていた

と思います。それを今、どういうかたちでつくっ

たらよいか。もう一度家系軸なのか、共同体軸な

のか、あるいは第三の新しいかたちなのか。これ

が分からずにきているのが現代なのです。

 

しかしこのつながりを回復させるとなると、

100年かけて育てたものを取り込んでいく生活

デザイン、社会デザインをどうするのか、本当に

大変な課題が出てきてしまいます。人が暮らし、

人が使うからこそ家も家具も存在するのであって、

新しい歴史軸のつながりを

本当は必要としています。

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生活をどうするのか、社会をどうするのかということが

あっての森、家、家具なのです。100年かけて育てた

木を受け入れられる暮らし、家族関係、地域の人がもつ

デザインをすぐに回復できる方法などありません。しか

しこのようなことを視野に入れながら、今の自分の仕事

をするのがとても大事なのではないかと思います。そう

することで少しずつ問題提起でき、少しずつ変わってい

くことができるのです。

 

つながりをつくっていくときの奥にあるのは、説明

できないことが多いです。人間同士のつながりの場合、

例えば家族を家族たらしめているものは何かというと、

﹁ずっと一緒にいたい﹂とか、﹁この子が無事に育つように﹂

とか一種の祈りと言ってもいい。合理的でない共通の思

いが働いて、本当のつながりになっていくのです。これ

は森林に対しても同じで、森に抱く愛しさでも、森に対

するロマンでもいい。このような何かが奥にあってつな

がりをつくっているのですが、今はつながらなければい

けない理由を合理的に求め過ぎている。そのことを社会

は忘れているように思います。

 

本当の豊かさとは共通でくくれるものではなく、風土

によって異なるローカルなものです。そして人がどうい

うものとつながっているかによって中身が全然違い、合

理的に説明できるものではありません。ただ風土がなぜ

必要かというと、自分はなぜここに生きているのか、自

分の生き方はこれでいいのかと問うときに自己了解でき

るからです。上野村の風土もつながりによってつくられ

ていて、人と人、人と自然、そして過去に蓄積してきた

ものとのつながりもまだ見ることができます。

 

そういう縦横なつながりを都会でつることは難しいで

すが、「

つながり合う世界」

においてつくっていくことが

可能なのではないかと思います。都会に住んで、直接自

然に触れなくても、人と人とのつながりが自然とのつな

がりをもたらすことがあります。例えば産直野菜を購入

し、農産物や地方の農家さんとのやり取りを通じて自然

とつながるとか、古民家の修復のワークショップなどに

参加して、人の暮らしが自然素材に支えられていること

を感じてみるとか。家具も同じような役割を果たせるか

もしれません。そしてもうひとつ、歴史的と言えるよう

なつながりは、ここでつながっている人たちが自分たち

の物語を紡ぎ始めることでつくることができると思いま

す。伝統的な風土とは違うけれど、これでいいんだと了

解できる。それがあって初めて豊かさというものを手に

入れられるという気がしています。でも、豊かさとは問

いかけるものであって、結論を出すときっとさびしいも

のになってしまうのです。

自己了解できる〝風土〟から

豊かさが生まれるのです。

内山

Ta

ka

sh

i Uc

hiy

am

a

1950年生まれ。哲学者。

1970年代初めに群馬県上野

村を初めて訪れ、その景色の美

しさに驚き、人間と自然の関係

性を知りたいと村に通い始め、

東京と上野村の双方で暮らすよ

うになる。

﹃森にかよう道—

知床から屋久

島まで—

﹄﹃﹁里﹂という思想﹄

︵ともに新潮社刊︶のほか、﹃ロー

カリズム言論~新しい共同体を

デザインする~﹄︵農文協刊︶

など共同体、労働に関する著書

も多数。

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山m

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人と自然を結び続けてきた、現代の里山づくりへ。

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都会にいると忘れてしまいがちだが、日本の国土の約

7割は山地であり、私たち日本人は山とともに歩んでき

た長い歴史がある。日本の森林面積は約2500万ヘク

タール︵2010年国際連合食料農業機関の統計による︶

で、国土面積に占める森林率は、フィンランドやスウェー

デンなどの森林大国と肩を並べるほど。日本の急峻な地

形が農地や都市への転用を拒み、高度経済成長を経た現

在までも高い森林率を維持してきたと考えられる。

 

そして日本には、人が森を利用することで関わり合っ

てきた﹁里山﹂の文化がある。日本の山村には、村人が

暮らす里があり、その周辺に里山が展開し、そして神々

が宿る荘厳な場としての、山伏たちが修行をする霊的な

場としての奥山へと続いている。村の文化では、﹁森﹂の

ことを﹁山﹂という。平地林で起伏がなくてもである。

太古の昔から〝山仕事〟を介して、人と森は関係を結ん

できた。木を伐って家を建て、薪や炭にして燃料にし、

山菜やきのこといった森の恵みを季節ごとに得てきた。

また農業をするうえでも、里山は重要な役割を果たした。

水田がつくれずに稲わらが手に入らない土地では、農民

たちは晩秋から初冬にかけて落ち葉を掃き集めて堆肥に

変え、牛や馬のために草を刈ってエサにした。

 

生きていくためになくてはならない里山を、村の人々

は大事に大事に利用してきた。村落などでは里山への立

ち入りを制限する﹁入会﹂という形態で共同管理し、里

山の資源を使い果たすことなく次の世代にも引き継いで

きた。

 

しかし昭和に入り戦争を体験してから、里山の在り方

にも変化が起こり始める。戦時中と戦後の復興期に森林

の乱伐が進み、山を丸裸にした。そして日本の木材需要

にこたえようと、天然林を伐採してスギやヒノキを植え

て人工林に変えていった。拡大造林と呼ばれるこの政策

は全国に広がっていき、日本は高度経済成長期に突入し

ていった。

 

時を同じくして日本のエネルギーは石油や天然ガスに

替わり、薪炭は必要のないものとなった。そして経済的

な価値が社会を支配し始めると、村を離れて都市へ移動

する者もいれば、山に林業経営の視点を持ち込んだ者も

いた。こうしてこれまで生活の場としてあった森や畑に

も商品価値が求められるようになり、人と森とがつなが

る伝統的な使い方は廃れていった。

 

人と森との関係が変わり始めてから半世紀が経った今、

日本人は人と自然のつながりをようやく取り戻そうとし

ている。失って初めて大切なものに気づかされたのだ。

ワイス・ワイスは思い始めた。人と自然、人と人とが新

しいかたちで関係を結び直せる家具づくりを、国産材を

軸に実現することができるのではないかと。

国産材を軸にして

人と自然の関係を結び直す。

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森fo

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それぞれの地域を支えてきた、森の多様性を取り戻す。

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待ちわびた季節の到来に

細胞が生き生きと働き出す。

太陽の光を浴びようと

上へ上へと向かっていく。

春夏

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葉を落として

眠りにつく準備をする。

凍らないよう水を止め、

じっと春を待つ。

秋冬

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森は木材を生産するだけでなく、私たちの命も守り続

けてきた。人間が生きてこられたのも森のおかげだ。

 

森の中に足を踏み入れると、木々がどっしりと根をお

ろし、土が落ち葉や枝で覆われていたり、草や小さな木

が生えていたりと、多様な生命の世界の広がりに息をの

む。このように土がしっかりしているおかげで、雨が降っ

ても土壌が浸食されて土砂が流れ出たり、崩壊したりす

ることから守ってくれる。また森に降った雨や雪は土壌

にゆっくりゆっくり吸収されて川に流れ出るため、洪水

や渇水を緩和してくれる。森林が〝緑のダム〟と呼ばれ

る所以である。さらに雨水が地中に浸透する過程で自然

に浄化され、岩や石の間を通ってミネラル分を含むよう

になり、私たちにおいしい水を提供してくれる。

 

そして森林には陸上の動植物の8割が生息していると

言われ、さまざまな生き物の営みがある。生物の多様性

は里山でも豊かで、希少種が分布する地域の5割以上が

里山に含まれている。このような森のさまざま役割を﹁森

林の公益的機能﹂と呼び、2001年の試算によると年

間70兆円にものぼるという。それ以上に生物多様性によ

り遺伝子や生物種、生態系が保全される機能などは、貨

幣価値には換算できない地球の財産である。

 

森の役割はこれだけにとどまらない。全国の森を訪ね

歩いてきた内山節さんは、森は公益的機能といった一般

的な表現では言い表せないほど、それぞれの地域と結び

ついた多様な役割を担っていたと著書﹃森にかよう道—

知床から屋久島まで—

﹄でつづっている。

 ﹁北海道の道東地方には、海から押し寄せてくる霧か

ら農作物を守るための防霧林がある。そして、海岸林

と内陸防風林の助けを借りて成立する北海道の農業。

江戸時代にはじまり今日もなおつくられつづける日本

海沿岸の松林も、防風林、飛砂防止林として沿岸の人々

の暮らしを守っている。海ガメの産卵地としても知ら

れる鹿児島の吹上浜も、広大な松林の造成がこの地域

の農村社会を支えていた。漁民の暮らしを守る魚つき

林、良好な漁業を営むために、山に広葉樹を植えてい

る漁民たちもいる﹂

 

その土地の自然や歴史と関わりながら各地域で森がつ

くられてきたが、森の在り方を無視して、日本全国でス

ギ・ヒノキが大量に植林され、森林全体の4割を占める

までになった。さらにこれらの木が生長して伐採の時期

を迎えているが、輸入した安価な木材に押され、伐れな

い、手入れもできない状況に陥っている。しかも外材の

利用が進むことで海外の豊かな自然と人々の暮らしを奪

い、どちらにとっても不幸な状況を招いている。森との

関係を結び直さなければ、日本の森も、世界の森も取り

返しのつかない状況になる。

多様な日本の森、世界の森が

人と自然の健全性を育む。

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木tre

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針葉樹と広葉樹、それぞれが織り成す世界を受け止める。

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針のような葉が多くの光を求め、

   

天に向かって真っ直ぐ伸びる。

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伐採した後にひこばえを生やし、

   

いのちをつなぐ生命の力強さ。

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マツ、スギ、ヒノキなど地球上に約540種あると言

われている針葉樹。カラマツは落葉するが一般的には常緑

で、亜寒帯から温帯に分布する。その名のとおり葉が針の

ように細く、少しでも多くの光を浴びようと真っ直ぐに伸

びる性質がある。マツはやせた土地でも育ち、塩や風にも

強いために、昔から防風林、防砂林に利用されてきたが、

やにを多く含むので加工するのに手間がかかる。

 

それに対してスギやヒノキは、その真っ直ぐに生長す

る性質から角材にも板材にも加工しやすく、建築用材と

して使われている。スギは真っ直ぐ伸びる﹁直く木﹂が、

ヒノキは古代に擦り合わせて火を起こした﹁火の木﹂が

語源とされる有史以前から存在する樹木で、その歴史は

意外と長い。

 

戦後、日本全国に植林され、生長を遂げた針葉樹が暮

らしに役立つものに生まれ変わる準備をしている。しか

し費用を工面できずに間伐できない木、間伐できても運

び出せずにそのまま放置されている木があり、このまま

では森が荒れ、豊かさを失ってしまう。そこで国内の合

板メーカーは、東南アジアの熱帯材を輸入して製造して

いたが、徐々に国内産針葉樹に切り替え、利用し始めて

いる。ワイス・ワイスでは、被災地でより多くの仕事を

つくり、長きにわたって復興を支援できたらと、スギ材で

の椅子づくりを宮城県から始める。デザインの力と工夫で

スギに価値が生まれ、人や森を潤すことを願っている。

 

針葉樹に対して広葉樹は20万種もあり、温帯に分布す

るものは落葉し、暖帯から熱帯に分布するものは常緑で

ある。広葉樹は葉を広げて太陽の光を浴びようとするた

め、横に広がって空間を必要とし、幹や枝が必ずしも真っ

直ぐに伸びるとは限らない。しかしながら広葉樹のよさ

はその硬さにあり、昔から家具に使われてきた。針葉樹

にはない水分だけを通す導管があることからもわかるよ

うに、広葉樹は進化を遂げて細胞の構成が複雑である。

よって木の色も材質もさまざまで、個性があるのが魅力

的だ。ケヤキ、ナラ、サクラ、クルミ、チーク、メープル、

キリなどが家具に好まれてきた。

 

広葉樹の場合、伐採した後に日がよく当たるようにき

れいにしておくと、根株の脇から

〝ひこばえ〟が生えて、

次の世代の芽となる。生活に必要な分だけ伐って山を

順々に移動していくと、元の山に戻るころにはひこばえ

だった幼木が生長している。昔の人たちは、山の資源を

使い果たすことなく、使い続ける知恵を知っていた。

 ﹁100年育てた木は、100年使え﹂という教えもあ

る。丈夫な広葉樹で丁寧につくられた家具を、何世代に

もわたって大事に使う。そして新しい家具を必要とする

ころには、木が大きく育って家具にできる準備ができて

いる。循環する世界がここにはある。

木の個性を見極めて使う。

人も森も幸せな時間を過ごす。

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材w

oo

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育ってきた環境を離れ、木の第二の人生が始まる。

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41

運切

剥乾

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木を伐って30年以上という木こりでも、木を伐るとき

は﹁気は抜けない﹂と言う。50年、60年と長い時間をか

けて育った木が、わずか数分で伐り落とされる現場に立

つと、自然と厳かな気持ちになってくる。そして伐り方

を間違えれば自分の方に向かってくることもあり、倒し

方をよみ間違えれば木を傷つけ、周囲の木も一緒に倒さ

れて大きな事故にもつながる。木を伐る現場は命がけで

ある。

 

木は昔、筏を組んで川を下り、貯木場へと運ばれたが、

今では道がつくられてトラックが山奥まで入って来られ

るようになった。重機で数十キロ、数百キロある木を山

から下ろし、トラックに積む。時には山に道をつくり、

クローラーがついた運搬車で道路まで運び出さなければ

ならない。そして原木市場や製材所へと運ばれていく。

 

製材所では樹種ごとにまとめて保管され、ある程度の

量がまとまると、製材作業に入る。秋田県仙北市で約20

種類の国産広葉樹を専門に扱う田鉄産業の田口宗平さん

は、﹁広葉樹は手間がかかり、神経を使う﹂と話す。冬の

間は木が水分を吸うのを止めて養分を蓄えているため、

しばらく置いても問題はないが、夏になると木にしみが

入ったり虫がついたりしてしまい、時間との勝負になっ

てくる。早く製材しなければ、せっかく数十年とかけて

育った木の価値が下がってしまう。

 

機械の轟音が鳴り響くなか、木を転がしながら皮をむ

く。そうして段々と角材や板材になっていく。ここで問

われるのは、木のよみ方。挽き方で木目も木の性質の出

やすさも変わり、加工にも影響が出てくる。木の状態や

節や相をよみ、その後も木が生きるように挽くことが求

められるのだ。

 

製材を終えた木は、乾燥の時間に入る。風通しをよく

するために桟をはさんで積み上げ、屋外で自然に乾燥さ

せて含水率をゆっくりと下げながら出荷の出番を待つ。

昔のすきま風が吹く家屋と違い、現代の気密性の高い住

宅環境にさらされても木が耐えられるよう、家具にする

場合は最終工程で人工的に乾燥させて含水率を10%ほど

にする。同じ広葉樹でも水っぽい木もあればそうでない

木もあり、天然乾燥させた期間によっても、樹種、材の

厚みや幅によっても乾燥方法や時間が違ってくる。﹁経験

を重ねて、木をよむ力がないとできない。そういう人が

少なくなってきています﹂と田口さん。国産材を扱える

人がいなければ、国産材で家具をつくることはできない。

 

乾燥を終えて養生させた後、再びトラックに載せられ

て家具の製作現場へ運ばれる。木が生長するまでの時間

も相当だが、伐り出してから家具に加工できる状態にな

るまでにも数か月から数年単位の時間がかかるのである。

木が山から下ろされ、

里の環境になじんでいく。

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技te

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受け継ぎ、磨き上げてきた技で、再び木にいのちを注ぐ。

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木目の表情、節の位置を見極め、

   

無駄を出さないよう部材を取る。

理想的な湾曲を生み出すため、

   

手づくりの型を当てて削り出す。

断削

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部材同士を正確につなぐために、

 

穴の位置、角度に意識を集中させる。

繊細な力加減が仕上がりを左右する、

    

長年の経験を要する職人の技。

掘磨

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木の家具や道具が私たちの毎日の生活を支えてくれるの

は、日本全国にものづくりにいそしむ職人たちがいるから

に他ならない。来る日も来る日も木と向き合い、これまで

積み上げてきた技術を駆使してこそ、木のある心地よい暮

らしを可能にしてくれる。

 

自分たちよりも長い時間を生き続けてきた木のいのちと

引き換えに、家具が生み出される。ワイス・ワイスのもの

づくりを支える工房のひとつ、北海道旭川市の山岡木材工

業で働く伊藤直紀さんは、﹁切り出した木材から家具の部材

を取る木取りは、経験を積んだ者にしかできない作業。特

に節が表に出ることを避けつつも、材を無駄にしないよう

木を見極めなければいけない。これができるようになるに

は、かなりの年月を必要とします﹂と話す。家具になった

ときの木の表情を頭のなかで思い描き、木目の出方や節の

位置を何度も確認しながら、部材を取る。人々から愛され、

永く使われる家具となるように願いながら。

 

木を直線的に切り出し、背、座面、脚をつなげて椅子を

つくることもできる。しかし単純な作業から生まれる椅子

は重たく武骨な表情で、今の生活にはなじみにくいことも

ある。そこで、私たちとともに人生を歩む家具として木に

新しいいのちを吹き込むのに必要なのは、永く使い続けら

れるデザインと職人の技。豊かな気持ちをもたらす佇まい

でありながら、座り心地がよく、立ったり座ったり、移動

させたりとさまざまな動きをしても変わらずにあり続ける

強度を持ち合わせているなど、あらゆる条件を満たす、高

度なものづくりが求められる。

 

そしてデザインする者と現場の職人とが連携することも、

家具づくりには欠かせない。理想とする姿を図面から読み

取ってかたちにしながら、現実的な条件を整えなければ、

家具として完成しないからだ。例えば椅子の背から脚にか

けての微妙なラインひとつにしてもその加減で表情も強度

も変わってくる。デザイナーと職人が信頼関係を築いて何

度もやり取りすることで最終的なデザインが決定し、生産

に向けて部材づくりが始まる。

 

装飾を極限まで省いた椅子﹁A

KI

﹂をつくるにしても、17

個の部材を必要とする。部材ごとに手づくりした型に木を当

ててひとつずつ削り出し、接合部の加工を施して、表面をな

めらかに磨き上げる。一日中機械が動く音が鳴り響く工房で、

真っ直ぐな思いで手を動かす職人たち。ひとつの部材の長さ、

幅、厚み、穴の位置、削り出しの角度とどれをとっても寸分

の狂いがなく、部材だけを見ていても芸術作品を見ているよ

うな仕上がりだ。そうでなければ、組み立てたときに調和を

失い、家具として成立することができない。

 

持っている技の全てを出して、自分に与えられた使命を

果たす。そんな妥協を知らない職人の手を何度も経て、家

具になるための部材が出来上がる。

職人の技と木の魂が呼応し、

木にいのちが吹き込まれる。

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木が育つ時間と同じ時間を、家具として過ごすために。

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部材を組み上げる作業に入る。北海道旭川市の山岡木

材工業でつくられる椅子﹁A

KI

﹂の場合、極限まで装飾

を排除したデザインであるがゆえに、職人の技術力と経

験が要求される。毎日の暮らしのなかで繰り返し使って

も変わることのない強度を持ち合わせていなければ、〝暮

らしの道具〟として成立しないからだ。木が育った年月

と同じ、願わくはそれ以上の年月を経てもなお受け継が

れる家具であるため、部材を木組み工法で組み立てる。

木組みは日本の神社仏閣などに使われてきた伝統的な木

工技術で、日本が世界に誇れる文化である。

 

部材にかんなややすり掛けなどが施され、下地調整が

行われたのち、接合部分に接着剤を塗布して組む。端金

という道具で固定し、ゆがみのない状態で接着剤が乾く

まで養生させる。長い間使用し続けられるよう、バラン

スよく荷重を受ける厳密な精度が必要とされる。

 

そして仕上げの段階へ。

 

背柱と笠木の接合部などは、かんなや小刀、のみなど

を使って職人の手で仕上げ、機械加工では出せない微妙

なラインや手ざわりを生み出している。その境目を手で

触れてみると段差がなく、まるでひと続きのようななめ

らかさ。これは﹁さすり仕上げ﹂と呼ばれ、手しごとで

しか成し得ない技術である。

 

いよいよ最終工程。家具に汚れがつくのを防ぎ、木目

を引き立ててより美しい家具にするため、塗装の作業に

入る。木の表面を樹脂で覆う石油系のウレタン塗装が主

流であるが、ワイス・ワイスでは、亜麻仁油など植物性

オイルを主成分にした﹁オイルフィニッシュ﹂をはじめ、

地球への負荷が少なく、安心安全な自然塗装も選択でき

るようにした。オイルを塗り込むなど定期的なメンテナ

ンスが必要になるが、これは生きている木と向き合う大

切な時間。木の組織に染み込んで木を内側から保護して

くれる自然の理にかなった塗装で、木が本来もっている

質感、手ざわり、香りを味わうことができるからだ。 

工房は木の粉が舞いやすい環境にあるので、塗装前にご

みやほこりをよく落とし、刷毛でむらができないよう細

心の注意でオイルを塗る。そして布で余分なオイルを拭

き取った後、もう一度オイルを塗って全ての組織にオイ

ルを浸透させてオイルのなじみをよくする。こうしてよ

うやくいのちが吹き込まれ、道具としての椅子が誕生す

る。

 

何十人もの人の手を介し、長い年月を経て木は家具へ

と生まれ変わる。数十年かけて生長した木のいのちを大

切に思い、さまざまな人のひたむきな心と手間をかけて

つくられた家具。何世代にもわたって受け継がれ、人と

森、人と人をつなぐ役割を果たせる存在となることを願

いながら。

愛され、受け継がれていく

家具としてのはじまり。

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樹齢100年の木の家具を、

100年使えるように。

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︿ご協力いただいた皆さん﹀

内山

節さん

くりこま高原自然学校

諸塚村役場

田鉄産業有限会社

NPO

エコラ倶楽部 

宮城支部

中村木材工業株式会社

栗駒木材株式会社

株式会社クワハタ

山岡木材工業株式会社

林ベニヤ産業株式会社

発行日 

2013年3月28日

発行元 

株式会社ワイス・ワイス

発行人 

佐藤

岳利

〒150・0001

東京都渋谷区神宮前5・12・7 

TEL 

03・5467・7001

UR

L : http://ww

w.w

isewise.com

Copyright 2013 W

ISE

・WISE

Inc. All right reserved 

無断転載・複製を禁ず。

 

私が長い年月をかけて追い求めてきた〝豊かさ〟とは何だっ

たのだろうか。経済的な価値や物質的な豊かさばかりを追い

求めて、心が空っぽになっていないか。

 

これまでのさまざまな経験の果てに、私は大切にしたいこ

とを考えた。

 

山で暮らしている人、地域の人たちとつながり、いつでも

訪ね合う関係があること。季節ごとに安心して旬のものが食

べられること。お互いの会社や家族を気づかいながら、温か

い気持ちで日々仕事ができること。好きな人と時を過ごし、

植物や動物とも触れ合えること。

 

地域や世代を超えて、自然と人とつながって生きていく仕

組みや関係性が、これからの時代には必要だと思うのです。

                

株式会社ワイス・ワイス

                

代表取締役 

佐藤

岳利

2012 年 8月、内山節さん(左)と上野村にて。