pilonidalcyst (sinus)あるいは一種の慢性膿皮症 …日皮会誌:82 (5), 307~312, 1972...

6
日皮会誌:82 (5), 307~312, 1972 (昭47) Pilonidal Cyst (Sinus)あるいは一種の慢性膿皮症 (Pyodermia Chronica Abscedens et Suffodiens) に続発した扁平上皮癌の症例 だ田 作山 みず 49才男子の野部に20年余出没していた慢性膿皮症に扁 平上皮癌を続発し,爪蹊リンパ節転移もあり,プレオマ イシソ注射( 300nig)/°Co照射(13,00OR)を行なった が死の転帰をとった.組織学的に表皮は正常で,真皮内 に形成された嚢腫,痩孔上皮に角化傾向の強い扁平上皮 癌が認められた.野郎~仙骨部~肛門周囲に生ずる難治 性化膿性病変はpilonidal cyst(sinus),pyodermia chro- nica abscedens et suffodiensなどと呼ばれるが,この長 期間存在する慢性炎症性病変が一種の癌前駆症となった ものと思われ,特に真皮内に縦横に形成された痩孔上皮 が癌化したと考えられる. I● 成年男子において,腎部~仙骨部,あるいは肛門周囲 に,年余にわたり,難治性の化膿性病変を生じ,これに 扁平上皮癌を続発することがある.この腎部の慢性の化 膿性病変については種々の病名が与えられているが,長 期間の慢性炎症性病変が一種の癌前駆症となり得るもの として興味深く思われ,このような慢性化膿性病変に対 しては早期に根本的な治療が必要であると考える. n● 症例の記載 者:神○清O, 49才,農業. 家族歴:特記すべきものなし 既往歴:1年前,糖尿病にて医治を受けた. 現病歴:約20年前,右背部に瘤,癈様の化膿性病変を 次々に生じ,切開,排膿を受け,軽快したが,尾骨部 にも同様の発疹を生じ,切開を受け,あとに痩孔を残し た.また,顎部,狽部などにも癌を生じたが,これらは 比較的容易に治癒した.右野部さらに左瞥部に屯次々に *大阪赤十字病院皮膚科(主任 山日丿瑞穂部長) 昭和47年4月25日受理 別刷請求先;(〒543)大阪市天王寺区筆ヶ崎町 50 大阪赤十字病院皮膚科 おお さか せつ 子* 307 発赤,腫脹,排膿を繰り返し,多くのものは痘痕となっ たが,毎年同様のことを繰り返し,完全治癒することが なかった.約4ヵ月前から,右警部に小隆起を生じ,潰 瘍を生じ,増大してきた. 初診時の局処所見:右瞥部に径10Cm余りの周辺花弁状 で,境界不鮮明な板状硬の隆起性紅斑があり,その中央 から左寄りに約5×6Cmの不規則な類円形の潰瘍があ り,辺縁は穿掘性で,底面は凹凸不平,腫瘍性で,痩孔 をいくつか有し,悪臭ある液を漏出し,かつ,おから様 の角質塊を排出している.また右端に径2CI前後の同様 の小潰瘍があり,周囲には多数の癩痕があり,数個の痩 孔が見られる. 仙骨部には,径4Cm位の硬い癩痕様の肥厚があり,モ のところどころに痩孔が見られる. 左腎部にも同様の径5Cm余の板状硬の硬結があり,痘 痕,痩孔が数個認められる(図1). 両側蝋蹊部に,それぞれ数個の栂指頭大以上のリyパ 節が硬く腫脹して触知される. 慢性膿皮症の悪性化と判断され,たXごちに入院した・ 入院時の全身所見:体格やや大で,肥満型.顔貌はや や黄色調で,乾操性であるが,その他,胸部,腹部には 特に異常を認めない.爪蹊部以外にリンパ節腫大は認め られない. 入院時のおもな検査成績:・赤血球数385万,白血球 数16,500,同分類,好中球A9%.好酸球1%,単球5 %,リンパ球45%,CRP(-),ASL0 12 Todd単位, RA (-),ワッセルマン反応陰性,血清蛋白8.0g/dl (Al 56%,α,G13.4%.α2GI11.9%,β-G1 9.7%,7-GI19.0 %),Co反応R1,クソケル試験14単位, GOT 17u, GPT 21U,アルカジフォスフアターゼ10単位,総コレステl=z -ル235iiig/(il,総ビリルビン0.61iiiiこ邱,空腹時血糖90 覧流ブドー糖負荷60分後180廻流 120分後80nig/dl, BSP 15分後5%,30分後7%(Σ12%),60分後13%(X

Upload: others

Post on 11-Jan-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

日皮会誌:82 (5), 307~312, 1972 (昭47)

Pilonidal Cyst (Sinus)あるいは一種の慢性膿皮症

 (Pyodermia Chronica Abscedens et Suffodiens)

     に続発した扁平上皮癌の症例

だ田

作山

みず ほ瑞 穂

           要  旨

 49才男子の野部に20年余出没していた慢性膿皮症に扁

平上皮癌を続発し,爪蹊リンパ節転移もあり,プレオマ

イシソ注射( 300nig)/°Co照射(13,00OR)を行なった

が死の転帰をとった.組織学的に表皮は正常で,真皮内

に形成された嚢腫,痩孔上皮に角化傾向の強い扁平上皮

癌が認められた.野郎~仙骨部~肛門周囲に生ずる難治

性化膿性病変はpilonidal cyst (sinus),pyodermia chro-

nica abscedens et suffodiensなどと呼ばれるが,この長

期間存在する慢性炎症性病変が一種の癌前駆症となった

ものと思われ,特に真皮内に縦横に形成された痩孔上皮

が癌化したと考えられる.

          I● 緒  言

 成年男子において,腎部~仙骨部,あるいは肛門周囲

に,年余にわたり,難治性の化膿性病変を生じ,これに

扁平上皮癌を続発することがある.この腎部の慢性の化

膿性病変については種々の病名が与えられているが,長

期間の慢性炎症性病変が一種の癌前駆症となり得るもの

として興味深く思われ,このような慢性化膿性病変に対

しては早期に根本的な治療が必要であると考える.

         n● 症例の記載

 患 者:神○清O, 49才,農業.

 家族歴:特記すべきものなし

 既往歴:1年前,糖尿病にて医治を受けた.

 現病歴:約20年前,右背部に瘤,癈様の化膿性病変を

次々に生じ,切開,排膿を受け,軽快したが,尾骨部

にも同様の発疹を生じ,切開を受け,あとに痩孔を残し

た.また,顎部,狽部などにも癌を生じたが,これらは

比較的容易に治癒した.右野部さらに左瞥部に屯次々に

*大阪赤十字病院皮膚科(主任 山日丿瑞穂部長)

 昭和47年4月25日受理

 別刷請求先;(〒543)大阪市天王寺区筆ヶ崎町

  50 大阪赤十字病院皮膚科

おお さか大 阪

せつ こ節 子*

307

発赤,腫脹,排膿を繰り返し,多くのものは痘痕となっ

たが,毎年同様のことを繰り返し,完全治癒することが

なかった.約4ヵ月前から,右警部に小隆起を生じ,潰

瘍を生じ,増大してきた.

 初診時の局処所見:右瞥部に径10Cm余りの周辺花弁状

で,境界不鮮明な板状硬の隆起性紅斑があり,その中央

から左寄りに約5×6Cmの不規則な類円形の潰瘍があ

り,辺縁は穿掘性で,底面は凹凸不平,腫瘍性で,痩孔

をいくつか有し,悪臭ある液を漏出し,かつ,おから様

の角質塊を排出している.また右端に径2CI前後の同様

の小潰瘍があり,周囲には多数の癩痕があり,数個の痩

孔が見られる.

 仙骨部には,径4Cm位の硬い癩痕様の肥厚があり,モ

のところどころに痩孔が見られる.

 左腎部にも同様の径5Cm余の板状硬の硬結があり,痘

痕,痩孔が数個認められる(図1).       ,

 両側蝋蹊部に,それぞれ数個の栂指頭大以上のリyパ

節が硬く腫脹して触知される.

 慢性膿皮症の悪性化と判断され,たXごちに入院した・

 入院時の全身所見:体格やや大で,肥満型.顔貌はや

や黄色調で,乾操性であるが,その他,胸部,腹部には

特に異常を認めない.爪蹊部以外にリンパ節腫大は認め

られない.

 入院時のおもな検査成績:・赤血球数385万,白血球

数16,500,同分類,好中球A9%.好酸球1%,単球5

%,リンパ球45%,CRP(-),ASL0 12 Todd単位, RA

 (-),ワッセルマン反応陰性,血清蛋白8.0g/dl (Al

56%,α,G13.4%.α2GI11.9%,β-G1 9.7%,7-GI19.0

%),Co反応R1,クソケル試験14単位, GOT 17u, GPT

21U,アルカジフォスフアターゼ10単位,総コレステl=z

-ル235iiig/(il,総ビリルビン0.61iiiiこ邱,空腹時血糖90

覧流ブドー糖負荷60分後180廻流 120分後80nig/dl,

BSP 15分後5%,30分後7%(Σ12%),60分後13%(X

308 山田瑞穂 大阪節子

25^), 120分後20%(Σ45%),尿中蛋白(-),糖(-).

 胸部X線写真:特に異常なし.      十

 初診時右腎部潰瘍周囲より採取した生検標本の組織学

的所見:表皮はほぼ正常で,その下方においてこの表

皮細胞とは連絡がなく,標本の側方より,真皮仝層にわ

たり煉細胞の集団が索状,嚢腫状その他種々の形,大き

さで認められ,ほ1ご正常と思われる細胞もあるが,濃染

する,クロマチyの多い,また大きな核を有する.また

胞体も大きい,など種々の異型細胞,異常,個別角化細

胞,角真珠などが多数認められ,その間の真皮に好中多

核球,好酸球,形質細胞,リンパ球様小円形細胞から成

’右著明な細胞浸潤が認められ,角化傾向の非常に強い扁

平上皮癌と診断される(図2)lある部位では中に少数の

角化性腫瘍細胞および多数の角質片を容れた長大な痩管

様構造も認められる(図3). >

ニモの後仙骨部付近の紅斑部より採取した生検標本で

乱同様に表皮には異常なく,この表皮が標本の端の方

で深部の方に折り返しとなって真皮内に入り込んでいる

’(塵孔の部にあたると思われる)(図4).こめ岬状の部

の表皮細胞は皮表,育入部とも全く正常であるが(図

5),入り込んだずっと奥の部分では異型細胞が多数認め

られ,明らかに癌病巣を形成し(図6),そのさらに深部

では種々の大きもし形状をなして,腫瘍細胞の集団が真

皮内に一面に,多数認められる.さらにずっと深部で,

巨大な嚢腫を作っているように表皮細胞のうすい層が認

められ,この壁は大部分正常の扁平上皮細胞のように見

えるがトこれから真皮内に伸びる索状構造のものは明ら

かに上述したと同様の性格の扁平上皮癌である(図7).

 ・周辺のほ!ご正常と思われる部分より採取した生検標本

では,表皮は正常であるが,真皮内にあきらかに毛包と

考えられるもののほかに,角質と毛幹の断面のように見

えるもめを含む不規則な形の表皮細胞の集合が見られ,

大きな嚢腫をなしているものがあり,そのあるものは非

常に巨大セ,皮表に開口しているものもあり,その壁の

=一部には異型の腫瘍細胞も認められ,かつ,内容の多量

の角質の中臨池八角化性腫瘍細胞と思われるものも認め

られる(図8).

 数力所の腫瘍部め標木を詳細に検討したが,いずれも

角化傾向の強い扁平上皮癌の構造を示し,腺癌(アポク

リン腺あるいはエクリン汗腺より)を思わせる像は全く

認められなかっ,だ.

 ,以上の組織学的所見より,この扁平上皮癌は,この部

の皮膚の表面をなす表皮より生じたと考えるよりは,真

皮内の角化性の上皮性嚢腫様のものから生じたと推定さ

れる.

 治療および経過:かなり広範囲にわたる深部に及ぶ扁

平上皮癌であり,すでに蝋蹊リンパ節に転移を生じてい

ると思われるので,直ちに手術を行なうことは極めて困

難であろうと思われ,ブレオマイシン(以下BLM)治

療を行なった.

 BLM I5nig筋注を週2回行ない,8週間に20木,総量

 300nig投与した. 3週(7~9本)頃より腫瘍性の潰瘍

の底部の凹凸が減じ,かつ,潰瘍が縮小し,軽央を思わ

せた.注射部の疼痛以外には副作用と思われるものはな

かったが,11本注射後38°Cの発熱があり, BLMとは無

関係と思われたが,以後半量ずつ2日に分割して注射

した.この間特に異常を認めなかったので,17木目より

再び1回15昭とした.この頃より病巣部に甚だしい疼痛

を訴えるようになった.20本のBLM注射終了時,両手

の手指に脱脂様の腫脹と,黒褐色の色素沈着を認めた,

また.咳泉,喀痰を来たしたが,胸部X線像には特に異

常は認められなかった.白血球数も18,000で,白血球減

少は認められない.しかし疼痛はますます増強し,麻薬

を使用せねばならぬようになり,栄養はあまり衰えてい

ないが全く元気がなくなった.ダ

 この問に行なった免疫学的検査で, DNCB誘発テスト

は陽性であったが,培養リンパ球のPHA添加による幼

若化率は41%と著るしく低下し,免疫低下がうかがわれ

た.

 また, BLMで縮小した病巣,病巣よりかなりへだた

った硬結,周辺に新たに生じた膿庖様の丘疹などの組織

学的検査では,いずれも扁平上皮癌の所見が認められ

た.

 BLM注射終了時,根治手術を再び考慮したが,両腎

部から直腸,蝋蹊部を含める非常に広範な部に及ぶ大手

術となり,さらにその欠損部を補うための植皮も必要

で,患者の気力,体力が耐えられないように思われたの

で,放射線治療を行なった.腎部の主腫瘍に6oCo照射

 ( 6,O00R/4W)を行なったが,あまり反応がないの

で,さらに7,0OOR増量し,のも,両側蝋蹊リンパ節に

も照射した. この頃から,時に38°Cに達する発熱を見る

ようになり,全身状態も衰えを見せはじめた.

 6oCo治療終了後(入院5ヵ月後),38~39°Cの熱が弛張

し,病巣より下肢への疼痛が激しく,一時縮小した腫瘍

性の潰瘍は増大し,さらに周囲に小隆起を生じ,軟化,

自潰し,角質塊と悪臭ある液を漏出し,:蝋蹊リンパ節も

図 1

図 3

閥 4

慢性丿膿心症に統征にり。け寸。,IU・1・,・,;

図 2

309

川1:初診時,脊部の潰瘍を伴・川匪瘍皿

   隆起.

|刈2:右背部の生渋瘍周辺部の組織像,

   表面の表皮は正常,真皮内に稀々

   の大きさ,形に辨細胞帽匯瘍性増

   殖が認められる.×52, HE.

図j:図2のやや深部,腫瘍細胞を介物

   角化物質を容れた座管様構造.

   ×52.

図」:仙什部付近の紅斑性硬結の座孔辺

   縁部の組織像,岬状の部の衣皮は

   ||モ常で,座孔の奥の方は腫瘍.

   ×□.脱

310

図 5

図 7

図 8

山田川肋 人阪節ダ

図 6

図5:図4の岬状の正常表皮部.×52.

ドト:図・」の班孔の奥の肺瘍部.×52.

N7:ずっと深部のし人な光肺囃と思ト

   八る=tバ)かに忖細胞心肺瘍性.川浜

   カバヤリ」に、冷めj丿へ ×丿.

図8:仙骨晶り近の、丿Unしりぷト.汗

   る部分の細、織f‰ 人、卜宍づ峠加川ミ

   常表皮出‰1していへ 内で剱)角

   質物ヤレ)巾にけイ竹付㈲町細割と心

   われるものもある.×丿.

慢性膿皮症に統発した扁平上皮癌

増大し,鷲卵大以上となった,

 腫瘍部局処に5 FU, BLM液の撒布,さらに病巣内注

射をも試みたが,ほとんど見るべき効果は得られなかっ

た.病巣はさらに増大し,左背部に新たに生じた潰瘍と

右腎部の増大した潰瘍が融合し,全身状態も徐々に悪化

し,入院の7ヵ月余り後,鬼籍に入った・

 剖検は行ない得なかった.

         m● 考  按

 成年男子の背部あるいは仙骨部に化膿性の皮疹を次々

に生じ,度々,切開,排膿などを受けるも,再発を繰り

返し,難治性で,年余の経過をとるものがある.このよ

うな化膿性皮膚病変は,単なる描あるいは疸ではなく,

真皮深部あるいは皮下に,種々の方向に不規則に分岐す

る索状の硬結を有し,この部を手術的に検索すると,肉

芽性の炎症,線維化を伴う嚢腫ないしは麿管状構造りも

のが埋没されており,これらを完全に剔除しない限りは,

単なる切開,排膿のみでは全治せしめ得ない.このよう

な慢性膿皮症はrecurrent fistulas,abscess, pilonidal cysts

(sinus)などと呼ばれていたが,アポクリン腺由来の

hidradenitis suppurativa であるとするも0もある2), 加

藤3)はこのような化膿性病変に対し, pyodermia chronica

abscedens et suffodiens なる病名を与え,本態的にHo一

江mann氏頭部膿瘍性侵襲性毛嚢炎兼毛嚢周囲炎あるい

は集族性痙盾と同様のもので,膿瘍形成,結合織肥厚の

強度のものであり,毛嚢の障害が初発であろうと述べて

いる.

 Pilonidal cysts (sinus)は1854年Andersonにより始め

て記載され, 1880年Hodgesにより命名されたもので,

欧米人に多く,本邦人では少ないとされていたが,真に

少ないのではなく,気付かれていなかったためと思われ

る‘).しかも外科領域の報告が多く,皮膚科領域ではあ

まり注目されていなかったs).多くは仙骨部に初発し,

皮下の空洞内に上皮,毛髪,肉芽組織を有し,化膿性炎

症により気づかれるもので,先天性と後天性の両原因が

考えられてはいるが,長時間坐位をとっていて背部に強

い外力が加わること,非衛生的環境が発症の大きな誘因

をなすとされており,第2次大戦時米軍兵士に多発し,

Jeep disease とも呼ばれた.腹中に毛髪を証明すれば本

症と診断されるが,化膿性病変が長期にわたり,複雑な

腹管が形成され,毛髪がすでに排出されたり,あるいは

どこかにひそんでいて,組織学的検索を行なった部より

遠くへだたった部に存在していれば,毛髪が必ず証明さ

れるとも限らず,加藤の記載したpyodermia chronica

311

abscedens et sufiFodiens と同一症と考えて差しつかえな

いように思われる.     十    . ∧

 Don skyら6)は,われわれと同様の症例を報告している

が,扁平上皮癌を併発と理解し√従来pilonidal cystsと

されていたものは実はアポクリン腺由来のhidradenitis

suppurativa であり,鑑別すべきであると述べている.

アポクリン腺から扁平上皮癌の発生する・ことは理解し難

いか,彼らば扁平上皮癌をpresacral Q teratoma ,由来

のものであるとしている. しかし彼らの症例も既往に

pilonidal cystsが存在しており,それから扁平上皮癌が

発生したと考える方が自然のように思われる.

 いずれにせよ,慢性の骨髄炎おるいば火傷後の潰瘍な

どから癌が発生することと同様,このような長期間持続

する慢性化膿性炎症から癌が発生することは当然考えら

れることである.前述のように原疾患に対する考え方に

は若干相違があるものの,肛門周囲,野部に長期間存在

した化膿性病変に扁平上皮癌を併発ないしは続発したと

いう報告は少なくない7)-10)

 われわれの症例は初診時すでに癌が存在していたもの

で,既往にpilotiidal cystsあるいはsinusが存在してい

たといりことを証明することはできないが,数力所の生

検組織像で皮表の表皮細胞は正常で,癌性病変はいずれ

も真皮内に存在しており,かつ多数の嚢腫,痩管が見られ

ているところから,これらの嚢腫を扁平上皮癌に伴った

二次的の嚢腫形成と考えることもできるが,すでに本例

の既往歴中にも多数の化膿性の痩孔が長期間存在してい

たことは明らかであり,むしろ慢性の化膿性の炎症を伴

う,真皮内の嚢腫,痩管が腎部の真皮内で長期間縦横に

発達し,悪性腫瘍化したと考えることの方が妥当と思わ

れる.ちなみに,この他にはアポクリン腺由来の腫瘍性

病変はどこにも見られなかった.

 われわれの報告1°)にもとづいて,森田らが,同様の症

例を報告している“)が,森田らの例は癌発生の3年前に

慢性侵蝕性膿瘍性膿皮症の診断が下されていたもので,

非常に興味深く,かつ非常に貴重な例といえる.

         IV● 結  論

 1) 49才男子の背部に約20年前より難治性の膿皮症が

出没し,真皮内に長期存在していたこの嚢腫あるいは

痩管から生じたと思われる扁平上皮癌の1例を報告し

た.

 2)加藤が記載したpyodermia chronica abscedens et

suffodiensと pilonydal cysts(sinus)はほふご同-の疾患

であろうと思われる.

312 山田瑞穂 大阪節子

 犬                     文   献

1) Rosser, C: Etiology of Anal Cancer, Amer,    六7) McAnally, A.K. & Dockerty, M.B.:Carcinoma

  J- Smg・,U:328・ヽ333, 1931 ―6)による.         developing in chronic draining cutaneous

2) Brunsting, H.A.: Hidradenitis suppurativa.      minuses and fistulas,&ぼ. Gynec. Obstet., 88:

  Arch. Derm.政所・,39: 108~120, 1939 -6)       87~96, 1949 -6)による.

  による.                       8) Humphrey, L・J・, Playforth, H. & Leavell,

3)加藤篤二:ニ,三膿皮症の知見補遺(Ⅲ).増殖      U.W. Jr.: Squamous cell carcinoma arising

  性膿皮症,一種の慢性侵蝕性膿瘍性膿皮症に就      in hidradenitis suppurativum, A�l.{!fDertrmt・,

  て,皮膚紀要,40: 265~279,昭17.           100: 59~62, 1969.

4}石山俊次:毛巣痩Pilonidal cystfsinus), Med-     9) Wcnzcl, M.: Plattenepithelcarcinom der

  i17ぷllNews, 4 : 101~105,1969.              rechten Gesass-seite, Hautarzt, 21: 517, 1970.

5)竹村 司,辛 悦基,君塚 功:Pilonidal cyst     lO)大阪節子,山田瑞穂:Pilonidal sinus(cyst)?に

  or sinus(毛巣嚢腫)の経験,皮膚臨床,12 :       続発した扁平上皮癌の1例,日皮会誌,80 : 846,

  642~647, 1970.                     昭45.          /

6) Donsky, H.J. & Mendelson, C.G.:Squamous     11)森田吉和,高須俊治,風間善雄:慢性侵蝕性膿

  cell carcinoma asa complication of hidradenitis       瘍性膿皮症の経過中に扁平上皮癌を併発した1

 supp°tiva・Arch.がに')ertnat.・90: 488―491,      例,臨床皮膚,25 : 981~985,昭46.

  1964.

    ACase of Squatuous Cell Carcinoma

     ArisinginニPilonidalCyst (Sinus)

or Pyodermia Chronica Abscedens et SufFodiens

     YizuhoYamada and SetsukoOsaka