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men

tal m

odel

definepositive proofbusiness model

concept operation

needs

wants

collaboration

特集 1

イノベーションと デザイン思考 インタビュー

奥出直人

座談会 共創の実践者たち

田川欣哉×水野大二郎×田子 學

特集 2

NT Tデータ発 イノベーション最前線

p l u s

32   

大切なのは形のデザインではなく、コンセプトのデザイン。それが本当の意味でのイノベーションを生み出すのです。

「デザイン思考」とは何か?

「デザイン思考」は、アメリカのデザインコンサ

ルティング会社IDEO(※1)が提唱した、イノベー

ションを創造するアプローチです。僕がこれを初

めて知ったのは、デザイン思考という言葉が生

まれる10年以上も前のことでした。

 当時、僕はアメリカから帰国して、デザイン評

論をしていました。その縁で、ある雑誌の記者か

ら、IDEOのビル・モグリッジ(※2)が来日するので

会いませんか、と誘いを受けたんです。そのころ

モグリッジは、自ら生み出した「インタラクショ

ンデザイン」の考え方を導入し、GPSを使ったナ

ビゲーションの仕組みをデザインしていたので、

それについて興味深く話をしました。

 それからしばらくして、大阪で日本の企業を

集めてデザインマネジメントを行うという話が

持ち上がりました。海外からデザイナーを招聘

してワークショップを行う企画を立てた僕は、モ

グリッジのことを思い出しました。サンフランシ

スコにいる彼を訪ねてその話をすると、快諾して

くれた上、IDEOの現CEO、ティム・ブラウン(※3)

を紹介してくれたんです。

 1週間にわたって行われたティム・ブラウン

のワークショップは、驚くべき内容でした。まず、

デザインコンセプト、プロセス、ツールをあらか

じめ提示します。これは、みんなで共有すること

で、幅広い問題解決へと導くためです。それから

ようやくワークショップが始まるのですが、従来

の、自由曲線で形を考えて3D化し、それをもと

にプロトタイプを作るという作業はありません。

どんな問題に取り組むのかというイノベーショ

ンの概要を考え、それを具現化するコンセプト

イノベーションとデザイン思考イノベーションを生み出すための方法として、「デザイン思考」が注目を集めている。

「デザイナーのごとく思考する」ことが、なぜ新たな価値の創造をもたらすのか? NT Tデータのコミュニケーションスペース「INFORIUM豊洲イノベーションセンター」の再生・再始動に伴い、「共創」が拓く未来について考えてみた。

日本におけるデザイン思考の第一人者へのインタビュー、共創の実践者たちによる座談会、第一線で活躍するクリエイターたちへのアンケートで構成した特集をお届けする。 ※1 IDEO(アイディオ)

米国シリコンバレーに本拠を構えるデザインコンサルティング会社。既存の3つのデザインファーム、デイヴィッド・ケリー率いるDavid Kelly Des

ign、ビル・モグリッジ率いるID Two、マイク・ヌタル率いるMatrix Product Designの合併により、1991年に創設された。アップル社の初代マウスのデザインで脚光を浴び、現在はサムスンをはじめ、世界的企業の繁栄を支える企業として知られる。世界でも最もイノベーティブな会社のひとつ。

特集 1

※2 ビル・モグリッジ (1943-2012)

英国人デザイナー。インタラクションデザインを提唱し、世界初のクラムシェル型(折り畳み式)ラップトップコンピュータを作ったことで知られる。IDEOの共同創設者のひとり。

奥出直人(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)

聞き手/編集部 撮影/五十嵐絢也 イラストレーション/清水淳子

インタビュー

特集

イノベーションとデザイン思考

54   

を作り、形にしていく。そのプロセスがデザイン

なのだという認識に、僕は大きな衝撃を受けま

した。この方法を使えば、自分にもデザインがで

きるんじゃないか。そう思った僕は評論家をやめ、

以来、デザインを実践する活動に転じました。

 デザインするという行為は、もはや造形を生

み出すだけのことではなく、デザイナーだけのも

のでもありません。知識に代わる経営資源とし

て「創造性」の活用が注目される今日、デザイン

は美術の領域を超え、ビジネス戦略のための

有効なアプローチになりつつあります。創造性は、

個人の才能ではなく、方法であり、その中核を成

すのがデザイン思考です。

 現代の会社組織では、商品開発の現場は経営

の下流過程に属していて、コンセプト立案に始ま

る上流過程での議論は、商品開発の現場ではほ

とんどなされていません。だから現場は何を作

っていいのか、自信を持って商品開発をすること

ができない。新しいものを作るときは、商品開発

に任せるのではなく、上流過程でする必要があ

ります。言い換えれば、商品開発を経営戦略とし

て行う。イノベーションを起こすためには、どん

な商品を作っていかなければいけないか。そこ

にデザイン思考を取り入れることで、創造性を

高め、競争力を強化することが可能なのです。

 デザイン思考には、イノベーションの方法とし

てのデザイン思考と、発想の方法としてのデザ

イン思考があります。イノベーションの方法は、

①フィールドワークで観察をして、②そこで経験

したことを、頭で考えるのではなく、形が見つか

るまで手を使って考える。③これを、業種の違う

人と行う。この3点に尽きます。ところが、それ

ぞれに難しいところがたくさんあり、フルに実行

するとなると数年はかかってしまう。

 そこで僕は、その中から、誰でもできる形にわ

かりやすく切り出してパッケージ化しています。

イノベーションを生み出す方法としては、かなり

練り上げられたもので、重要なのは次の3点で

す。まず1つめは、電子機器やインタラクション、

コンピュータが入っていること。デザイン思考は、

従来のインダストリアルデザインの方法では対

応できないというところから生まれているので、

デジタル技術をどこまで商品開発の中にねじこ

むかが鍵になります。2つめは、異分野が集ま

ること。そして、3つめが最も重要で、デザイン

という言葉からデザイナーの仕事を外している

こと。つまり、大切なのは形のデザインではなく、

コンセプトのデザインであり、それが本当の意味

でのイノベーションを生み出すのです。

「創造のプロセス」の設計

 では、僕が用いている創造の方法について、具

体的に説明しましょう。まず大切なのは「創造の

プロセス」の設計で、それには次の7つのステッ

プがあります。①哲学とビジョンの構築、②フィ

ールドワークと技術の棚卸し、③コンセプトとモ

デルの構築、④デザイン、⑤実証、⑥ビジネスモ

デルの構築、⑦オペレーション。

 最初に必要な「哲学」は、マーケティングで言

う「ニーズ」に当たります。自分は何を信じてい

るのか、人としてどうありたいのか。企業に10年、

20年と働いている人は、総じて自分というもの

を持っているので、それを確認してからものを考

えよう、ということです。ただし、あまりに当たり

前のことや正義を哲学にするのはやめましょう。

誰も否定できないことに対しては、何の意見も

出てこないので、むしろ反論が出てくるくらいの

ほうがいいのです。

「ビジョン」はマーケティングの「ウォンツ」に

当たり、哲学に基づいて、自分は何が欲しいの

か、何を実現したいのかを考えます。会社の哲学

やビジョンとは異なってもかまいません。ここで

大事なのは、プロジェクトを行うチームメンバー

1人ひとりの哲学とビジョンをみんなで論じると

ころから始め、それを全員で共有することです。

 哲学とビジョンを構築したら、次は「フィール

ドワーク」。これは、「技術の棚卸し」と前後して

行います。実際に現場に行って観察するわけで

すが、いまは特に、会社自身のイノベーションを

大切にしつつ、イノベーションを生み出すことが

求められるので、ステークホルダーの分析をする

よう勧めています。作る人と買う人だけでなく、

自分のビジョンを実現するには、どういう人が関

係しているのかを徹底して考えるのです。

 ここで注意したいのは、フィールドワークは、

マーケティングにおける市場調査とは違うとい

うことです。ピーター・ドラッカー(※4)は、企業

の基本機能にマーケティングとイノベーション

の2つを挙げ、「マーケティングは顧客とのコミ

ュニケーション、イノベーションは顧客の創造」

だと言っています。顧客のウォンツとニーズを探

ろうとするのはマーケティングで、フィールドワ

ークは顧客を知り、顧客を創造するために行う。

つまりフィールドワークの目的は、既存の顧客が

何を求めているかを知ることではなく、あるター

ゲットとする領域の人々が、どういう状況に生き

ているのか、どういうコンテクストにあるのかを

知ることです。そして、そこに対してどういうも

のを提供すれば、彼らは顧客になるのか。それを

探ることがフィールドワークのポイントなので、

すでにある市場の調査とは違います。

 もうひとつ誤解しがちなのは、エスノグラフィ

ー(※5)で観察すれば、その背後にリアリティが

あると思ってしまうことです。しかしエスノグラ

フィーは、あくまでコンテクストを厚くし、欲し

いという顧客を作ることが目的であり、エスノグ

ラフィーの最前線では、「間主観性(インターサ

ブジェクティビティ)」と言って、自分と相手との

関係の中にしかリアリティはないと考えるのが

基本です。

 フィールドワークでいちばん難しいのは「ラ

ポール」、すなわち相手にも自分のことを理解し

てもらい、お互いに心を通わせることです。その

鍵となるのが「エンパシー」、つまり共感です。

尊敬することによって相手に対しての共感を生

む。このエンパシーとコンテクストの情報をもと

に、何を与えたら相手が喜ぶかということを設

計していきます。

※4 ピーター・ドラッカー (1909-2005)

「マネジメントの父」ともいわれる経営学の第一人者。米国クレアモント大学院で社会学とマネジメント理論を教える傍ら、経営コンサルタントとしてFortune500社に名を連ねる企業をはじめ、美術館や病院、大学、政府などの経営陣が抱える悩みに50年以上にわたって取り組んだ。代表作に『現代の経営』『経営者の条件』『マネジメント』など。

※5 エスノグラフィー

文化人類学や社会人類学において、調査対象者の生活を一緒に体験することにより、その行動様式から対象者の属する集団を感覚的、視覚的に理解していく方法。現在は社会デザインやビジネス、マーケティングなどの課題解決に応用される。「民族誌」とも呼ばれる。

特集

イノベーションとデザイン思考

※3 ティム・ブラウン (1962-)

IDEOの現会長兼CEO。英国生まれ。1987年にビル・モグリッジ率いる ID Twoに入社。3社合併によりIDEOが誕生した後、サービス、インタラクション、エクスペリエンスのデザインに関わり、同社のヨーロッパ部門を統括した。2001

年に創業者のデイヴィッド・ケリーからCEOを引き継ぐ。

76   

「技術の棚卸し」は、自分のビジョンを実現する

ための技術は何かを考えること。チームメンバ

ーが持っている技術を集め、それをビジョンに割

り振りながら、自分たちの技術で実現可能なも

のを見つけるという方法です。特にエンジニア

リングがある会社は、これをしておかないと、み

んな自分の知っているテクノロジーでものを作

ろうとする。会社によっては「うちはデータベー

スがありますから」と言う人もいますが、自分の

技術をみんなの前で話すことが大事なのであり、

データベースとは違うので誤解のないように。

 ここまでで、ビジョンを決め、ステークホルダ

ーを考えて、どうすれば実現するかの技術リス

トを作ります。これが出来ると、誰に会いにフィ

ールドワークに行けばいいのかがわかり、それが

わかると、行く場所やフィールドワークのフォー

カスポイントも見えてきます。

 フィールドワークから戻ったら、すぐに観察し

たことを文章化する「シックディスクリプショ

ン(厚い記述)」をします。見て、解釈して、書くこ

とを積み重ねることによって、現場を見る力が

身に付き、それが真実かどうかとは別として、自

分なりにリアリティをもって見えてくるのです。

自分なりのリアリティが構築されたら、ここでビ

ジョンと哲学に戻ってもう一度考える。ビジョン

を実現するとして、誰があなたの作ったものの

価値を感じるのですか、と。どうして価値を感じ

るのかということを考えて、想定されるユーザー

を自分たちで作ります。この人はこう考えるので、

こう行動する、というパターンから出てくるメン

タルモデルを入れて、作っていく。ここが、デザ

イン思考とマーケティングの大きな違いです。

コンセプトが生み出す価値の検討

 こうしてコンテクストを厚くして、いろいろわ

かって、初めてアイディエーション(アイデア出

し)を行います。この段階でアイデアを出し合え

ば、取っ散らかって収拾が付かなくなることは

ほぼありません。アイデアを練ったら、いよいよ

コンセプト作りです。ここでビジネスモデルを入

れるわけですが、大抵の人が思っているビジネ

スモデルは、マーケティングのビジネスモデル

で、どれだけ儲かるかという観点から作られて

います。何歳の人が何人いて、どのくらいの市場

で、どうやってそこにプロモーションし、流通す

るか。そして最後に、どうやって作るかを考える。

しかし、それでは駄目だと説いたのが、クレイト

ン・クリステンセン(※6)です。

 クリステンセンは、ビジネスモデルは「バリュ

ープロポジション」が大事だと言っています。つ

まり、何を与えるか、どうやって作るか、どうや

って顧客の手に届けるか、そして、どうやって収

益をもたらすか。イノベーションにはこの順番

が重要なので、そういうビジネスモデルを入れ

てコンセプトを作ります。創造のプロセスの中で、

ここがいちばん難しいところです。

 エスノグラフィーを自分で行い、コンテクスト

を厚くして、いよいよコンセプトを作るというと

きに、いったいこのコンセプトが提供する価値は

誰が受けるんだろう? どんな価値があるんだ

ろう? と考える。すると実は、ここでビジョン

が変わることがあります。コンセプトとは、ビジ

ョンを実現可能にするために、具体的な技術を

組み入れて検討した方策ですから、ビジョンが

変わるようなら、コンセプトを作る方法とコンセ

プトが生み出す価値とはいったい何なのか、もう

一度考えてプレゼンテーションします。

 バリューを決めると、あとの話は楽になります。

バリューを決めるということは、問題解決する必

要が何もないわけです。問題が解決すると、バリ

ューももちろん出てくる。だからほとんどのデザ

イン思考の場合は、問題解決でバリュープロポ

ジションを乗り切ろうとします。

 そうすると、地球を救え、貧しい人を救えとい

う正義になる。そういう価値はわかりやすいです

から。スタンフォード大学のd.school(※7)は、バ

リュープロポジションを社会的正義に置いてい

ます。それは決して悪いことではありませんが、

社会的正義は、実はさほど大きい価値を生むわ

けではないのです。

 この話を、以前、デザイン思考の研究会でメン

バーにしたことがあります。そのメンバーは、経

営不振に陥った某電機会社の社員でしたが、こ

う言っていました。「そうなんですよね。デザイ

ナーたちは地球を救えとか環境を救えとか言う

けれど、それよりも会社を救ってほしい」と(笑)。

まさにそこがバリューで、それをどうやって生み

出すかを考える。最終的に金儲けではあるけれ

ども、受け取った顧客がバリューを感じている。

そこが重要です。それは、哲学がニーズ、ビジョ

ンがウォンツという関係ともよく似ています。

手で作りながら考える

 次に、エレメント(要素)の統合という大問題

があります。手を使うのが大事だというのはま

さにそこで、複数の要素を統合して1つのシス

テムにするのは、頭で考えているだけではでき

ない。ところが、手を使って作りながら考えるこ

とを繰り返していくと、何となくできるものな

のです。この「ビルド・トゥ・シンク(Build to

Think)」は、デザイン思考の非常に重要なポイン

トのひとつです。

 以前、インドのハイテクの開発会社が社員の

創造性が低下していると言うので、日本に呼ん

で1週間研修をしたことがあります。彼らは毎日

CADを使って緻密な作業ばかりしている人たち

です。自由曲線のCADは、一見作っているように

は見えますが、何を作るか決まっていないと作れ

ない。そこで、どうやったら出来るのか、出来な

いのかを、段ボールを使って手で作りながら考え

るわけです。これをIDEOは「プロトタイピング」

と言っていますが、最近は、マイクロソフト研究

所のビル・バクストン(※8)によって「スケッチン

グ」と呼び直されています。紙に描くようにハー

ドウェアでスケッチするという、かなり有効な方

法で、徐々に電子機器も使いながら、コンセプト

が出来るまでひたすら手で考えるのです。

 おおよそのコンセプトが 出来 たら、すぐに

プロトタイプを作ります。一度作ったくらいでは

たいていは駄目で、何度も何度も試作する必要

がある。ティム・ブラウンも、「コンセプトらしき

ものが出来たら、もう作りなさい」と言っていま

す。「出来なかったら、もう1回作る。作れないの

は失敗ではなく学びなので、できるだけ早く作り

なさい」と。そうしてどんどん作らせる。先ほどの

インドの会社の例で言えば、CADに持っていく前

に、スケッチを描いたり、段ボールや粘土で作っ

たり、手を動かしながら考える作業を山のように

※6 クレイトン・クリステン セン(1952- )

ハーバードビジネススクール教授。著書『イノベーションのジレンマ』により「破壊的イノベーション」の理論を確立させたことで知られる、イノベーション研究の第一人者。最も影響力のある経営思想家トップ50を隔年で選出する『 Thinkers50』のトップ3に3回連続で選ばれている。

※7 d.school

2005年にスタンフォード大学に創設されたデザインスクール。文系・理系を問わず様々な領域の学生や教員が集まり、社会課題を解決するイノベーターの育成を行っている。

※8 ビル・バクストン (1949-)

ヒューマン・コンピュータ・インタラクション研究のパイオニア。ゼロックスPARC、トロント大学に長年勤める。デザインとコンサルティングを行う会社、バクストン・デザイン代表。

特集

イノベーションとデザイン思考

98   

行います。そうすると、その過程で、「あっ!」と

思う瞬間がある。この気づきが大事なんです。

 プロトタイピングでは、利用者の時間をデザ

インすることも欠かせません。どうするかという

と、iPhoneとiMovieを使ってビデオストーリー

を作るんです。プロダクトを実際に使っている状

況を合わせてストーリーを作り、バリュープロポ

ジションが顧客に届く瞬間をクライマックスに

持っていく。映像にすると、ストーリーの中に日

常生活で違和感のある行動があれば制作の段階

で気付くので、現実感のある設計を行うことが

できます。

 これはプロダクトに限らず、サービスの場合

も同 様 です。サービ スを 提 供 する瞬 間には

必ずモノがあるので、それを作る。UX(User

Experience)とUI(User Interface)で言えば、

サービスデザインはUXです。だから、そこを攻

める。そのUXを可能にし、主にグラフィックスの

形でサービスと人間が触れ合うところに寄与し

ているのがUIです。

イノベーションを阻むネック

 日本の企業がイノベーションをするには、僕は

以下の3点がネックであると思っています。

 まず1つめは、分業以前に、カンパニー制にな

っている、あるいは事業部制になっているところ

が多いこと。カンパニー制や事業部制は、何をす

るにも採算が優先するので、デザインもどうや

って安く抑えるかを考える。これでは、いい イノ

ベーションが出来にくいのは当然です。

 2つめは、R&D(Research & Development)

の存在です。かつてはいい意味で「中央研究所

の闇」と言われ、所長が自分の裁量で予算や人

材の何割かを充ててイノベーションをしていま

したが、経営の透明化などもあって、それがで

きなくなってしまった。それとともに、R&Dの評

価が学会の論文数などで判断されるようになっ

たので、みんな学問重視になっていった。さらに、

R&Dにアイデアマンを置くようになったけれど、

アイデアマンはコンセプトが作れないので役に

立たない。つまり、R&Dにかかるコストが無駄な

のです。P&Gは、デザイン思考の方法を取り入れ、

たった数年間で売り上げを3兆から9兆円にしま

したが、R&Dの費用はほとんど増やしていない。

むしろ減らしています。それはなぜかというと、

異部門でコラボレーションしていればR&Dは

必要ないからです。ですから、イノベーションを

特定のR&Dに依存している体制が問題なのです。

 3つめは、イノベーションを外部から導入し

ようとすること。外のイノベーションはあまり意

味がありません。外のイノベーションというの

は、会社にとっては M&A、あるいはイノベーシ

ョン投資の対象にはなるので、これはこれで大

事なことではあります。しかし必要なのは、内側

から始まるイノベーションです。これを「オーガ

ニックグロース」といい、自力で伸びること、つ

まり、会社が自分の力でイノベーションできる体

質になっているかどうかが重要なのです。例え

ばM&Aを積極的に行っているネスレは、決算書

を見るとオーガニックグロースとあります。数パ

ーセントで、決して大きい数字ではありませんが、

それは独力で伸びたということであり、そこの指

標が大事なのです。ですから、投資するのはいい

けれど、それはあくまで投資であり、M&Aであっ

て、イノベーションで会社を成長させる話とは別

ということ。M&Aとイノベーションが合わさっ

て、初めて大きな経営戦略が取れるのです。

希望を与えるビジネスの創造

 最初に話したように、創造性は、いわゆる広告

で言うクリエイティブのものだけではありませ

ん。むしろ、コンセプトのイノベーションで、こ

れは集団で行い、かつ異質なものが混じると効

果的です。例えばコラボレーションは、顧客とし

たら単なるテストマーケティングになってしま

います。でも異質の会社、異質の人たちとすれば、

これはものすごいパワーになる。東レは、その好

例です。カーボンファイバーであれば、それを使

おくで・なおひと 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)教授。1954年、兵庫県生まれ。慶應義塾大学文学部社会学科卒業。ジョージ・ワシントン大学アメリカ研究科博士課程修了後、埼玉大学講師、慶應義塾大学環境情報学部教授などを経て現職。文化人類学、現象学、メディア環境論などの幅広い研究業績を基盤に、21世紀のものつくりの根幹となるフレームワークを研究・開発。その成果をもとに多くの企業にイノベーションコンサルティングを行い、商品開発にも参加している。株式会社オプティマ代表取締役。近年の主な著書に『デザイン思考の道具箱』『デザイン思考と経営戦略』『会議力』などがある。

1: ティム・ブラウン『デザイン思考が世界を変える』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)/2: 奥出直人『デザイン思考と経営戦略』(NTT出版)/3: 奥出直人『デザイン思考の道具箱』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)/4: トム・ケリー+デイヴィッド・ケリー『クリエイティブ・マインドセット』(日経BP社)

特集

イノベーションとデザイン思考

ってくれるであろう企業を、小さければ買収して、

一緒に作る。すると、ポーンと爆発して、新しい

ものが出来る。ですから創造性のマネジメント

は、基本的には新しい人と組むことが大事で、新

しい人とのコラボレーションにおいては「知ら

ないこと」が武器になります。

 デザイン思考は、ビジネス戦略だけでなく、人

に役立つものだと僕は思っています。かつては

プロダクトが輝いていた時代もあり、人々は自動

車やテレビ、冷蔵庫などを買うことによって大き

な幸せを得られた。でもいまは、それらを手に入

れてももう幸せにはならないので、別のことで幸

せになりたいと思う。そのときの幸せをバリュー

として捉え、それをどう提供するかということに、

デザイン思考は非常に有効なのです。バリュー

プロポジションが提供できるところは、高齢化社

会であったり、農業などの仕事の問題であったり、

あるいは社会インフラの問題であったり、様々

あります。その中でイノベーションを続けるには、

デザインという仕事を、物の形からバリュー創造

のコンセプトへ移していかなければいけない。そ

うすれば幸せになる、とは言いません。幸せにな

るための方法なんてありませんから。幸せでも

なく、救うでもなく、僕は希望を与えるのだと思

っています。希望を与え続けるところにはビジネ

スが生まれます。デザイン思考は、名前こそ矮小

化されてしまったけれど、イノベーションを起こ

して、希望を提供し続ける方法なのです。

1 2 3 4

Books on Design Thinking

1110   

特集

イノベーションとデザイン思考

—今回はデザイン思考、またはそれに準ずる方法論の実践者としてお三方をお呼びしましたが、まずご自身の活動について教えて下さい。

田川 takramはデザインとエンジニアリング

の両方を扱うことを目的にスタートした会社で

す。始めは、企業の中で個々の領域が分断され

ていることに対する素朴な違和感から始まった

ものですが、最近では「(異分野の)融合」といっ

た言葉を使わなくなりました。「融け合う」ので

はなく、異なるものが緊張状態を保持したまま

「クリエイティブな衝突」を起こすこと、そこに

新しいものづくりがあると思っています。現在の

takramにはデザインエンジニアもいれば、元商

社マンもいて、色々なタイプを受け入れていま

す。今回、ぜひ皆さんと吟味してみたいと思って

いるのが、これまで歴史を作ってきたヨーロッパ

を代表とする天才デザイナー主導型のクリエー

ションと、そこに拮抗する形で生まれたデザイン

思考との二項対立をどう超えていくのかという

こと。このあたりに「ポスト=デザイン思考」が

あると思っています。

水野 私も田川さんと同様にイギリスのロイヤ

ル・カレッジ・オブ・アート(以下RCA)出身で、ま

さにゴリゴリの天才主導型デザインを勉強して

きました。ところが、女性服を専門としながらデ

ザイン事務所でも仕事をしていたものの、まず

その服を自分が着ることはできないし、そもそ

も対象が8頭身のモデルたち。自分は誰のため

に作っているのかという問題にぶつかったとき、

RCA併設のヘレン・ハムリン・センター・フォー・

デザインという研究所で提唱されている「イン

クルーシブデザイン」を知ったんです。この研究

所は1999年に設立され、高齢者向けのデザイ

ンを考えるプロジェクト「デザイン・エイジ」を

行っていたのですが、2001年からは高齢者だけ

ではなく障がい者や外国人など、社会的マイノ

共創の実践者たち領域を横断しながら社会との架け橋を生み出す人々が時代をリードし始めている。

デザインを基軸に社会を動かす実践者3名を招き、これからの「共創」について尋ねた。

聞き手・文/塚田有那 撮影/五十嵐絢也

座談会

田川欣哉 × 田子 學 × 水野大二郎takram

design engineeringMTDO デザイン研究者

1312   

リティと呼ばれる人々と協働することで、誰もが

使いやすくなるデザインを発案していく方法論

を研究・開発しています。

 日本で「デザインリサーチ」という言葉はあま

り知られていませんが、最終的なアウトプットに

いい影響を与えるために、方法論にもなるデザ

インのプロセスを研究しているんです。

田子 まず僕の中にあるのは、日本において「デ

ザイン」という言葉が非常に狭義に認知されて

いることへの問題意識です。そもそも、デザイン

とは社会運動のひとつであり、人の営みと密接

したもの。そのことを鑑みずに、ただ言葉に踊ら

されただけの「デザイン思考」は非常にくだらな

いものに見えるんですよ。僕がやっているのは

約30年前に確立されたデザインマネジメントの

概念で、いかにデザインを社会的な運動に変え

ていくかといった視点を持っています。そもそも、

日本にも感覚的なデザインアプローチは既にあ

って、例えば200年も続くような老舗の旅館には

何らかのデザインプロセスが必ず存在している

はずです。それを波及させるときにデザインマ

ネジメントの手法が効果的に働くことを経営者

たちに理解してもらい、デザインとは何かといっ

た定義を底上げしていくように努めています。

—デザイン思考という言葉がひとり歩きしている現在において、日本の課題はどこにあると思いますか。

田子 いま、イノベーションという言葉もすごく

流行っていますが、その本質は何かをやりたい

という願望にあると思うんです。しかし、ノウハ

ウも蓄積もある日本企業になぜ新しいことが起

きにくいかというと、ビジネスデザインが出来て

いないから。僕はいつも、自分たちがやってきた

ことは何なのか、その価値や社会的意義をじっ

くり掘り下げてもらいたいと企業の方に話して

います。彼らの根底にあるものを解放していった

ら、もっと現状を打破できる可能性があると思

っています。

田川 日本に限らず、いまは従来のシステムや

考え方が大きくシフトする時代に入ってきてい

ますよね。その背景はインターネットとITの普及

による第3次産業革命だとよく言われています。

まず、時代というのは革新、停滞、その中間期を

行ったり来たりするもので、変化した社会のロジ

ックが浸透するまでに100年はかかるとして、今

年はインターネットが登場した1995年からち

ょうど20年目です。そうした中で、デザイン思

考が果たす役割というのは、個々に細分化した

分業的なものづくりではなく、0から1を生み出

すこと。それが実行可能になってきた時代なの

で、色々なものが一気にシャッフルされているし、

「非分業」や「共創」といったキーワードが際立

ってきているんです。

 産業界については田子さんに賛成で、もっと

俯瞰した視点で見たほうがいい。また、トップの

経営者にデザインリテラシーがあるかどうかも

重要です。これまでは商品やサービスで勝負し

てきた時代でしたが、ITが普及した世界になって

ユーザーエクスペリエンスなどの価値が問われ

るようになりました。

水野 僕も大学ではデザインの本質的な価値を

常に問うように教えています。僕たちの暮らす世

界とは、色々な関係性の中で成立している「人

工環境」であり、すべてがデザインされています。

照明器具ひとつとっても、それが成立する背景

には発電所から配電設備まで様々なものがあり

ます。この意味において、消費を促すための表層

的な操作「だけ」がデザインだと思われてはい

けないんです。

—異分野との連携、いわば「共創」を実現するために実践されていることは何でしょうか。

田川 デザインに限った話ではないですが、価

値観の違う人々を集めて仕事しようとすると、

必ず互いに共有できる何かが必要になってきま

す。あまりに現場が多様すぎるので、場当たり的

にやっていくと失敗する確率が高い。その入門

編としてデザイン思考などがあるのだと思いま

すが、方法論至上主義にならず、人と人の関係性

にも軸を置くことが鍵でしょうか。

田子 僕の会社では、アイテムが先にあってデ

ザインを任されるという流れはほとんどないん

ですよ。まずは企業内の漠然とした悩みをヒアリ

ングし、それをどう解決するかに注力して対話

を重ねていくんです。たとえば、創業90周年を迎

えた部品メーカーとの仕事では、古い体質の中

から新しい発想、クリエイティブマインドが生ま

れるための社内環境やブランド作りについて相

談を受けました。そこで部品ひとつをデザイン

するという可能性もあったかもしれないけれど、

僕が目を付けたのは、30年間顧客用に作られて

きたダイアリー手帳だったんです。これを社内も

含めたコミュニケーションツールに変えられな

「新たな領域に跡を残し、 パートナーたちの誇りとなるものづくりがしたい」 田子 學

「僕たちの暮らす世界は、 すべてがデザインされている」 水野大二郎

BAO BAO ISSEY MIYAKEと協働して作った、PCやガジェットの収納機能を備えたトートバッグ「CHANGE」

障がい者が作成した原画を元に、水野氏がデジタル工作機械を用いて「ユーザーによるデザイン」を実験した服

DESIGN EAST 2012で開催されたシンポジウム「ファッションは更新できるのか?会議」の様子撮影/増田好郎

特集

イノベーションとデザイン思考

世界的部品メーカーSMK株式会社における、得意先配布用のダイアリーを30年ぶりにリニューアル

1514   

いかと提案して制作した結果、社内外の配布先

からの反響が大きく、社員のモチベーション向

上につながったようです。

 また、僕はクライアントであるパートナーたち

がいままで踏み込んだことのない領域を切り拓

き、彼らの誇りとなるようなものづくりがしたい

と思っています。その意味で、BAO BAO ISSEY

MIYAKEとのコラボレーションは象徴的でした。

2000年の発表以降、彼らは独自のプロダクトラ

インとブランドを確立していますが、今後どのよ

うに新しい価値を見出し、ブランドを深化させる

ことができるかという課題に対して対話を重ね、

「クリエイティブ・クラス」に向けた新たなモデル

を共同開発していきました。

水野 皆さんの話を聞いていて、「共創」には

3つの種類があると思いました。1つ目は「異

なる利害関係者たちを巻き込む」共創、2つ目

は「ユーザーを巻き込む」共創、そして3つ目は

「ユーザー自身によってデザインを考える」共創、

いわばマスコラボレーション的なデザイン支援

環境の構築としての共創です。僕の例を挙げる

と、1つ目は大阪開催のシンポジウム「DESIGN

EAST」などデザイン関係のプロジェクトに携わ

ってきました。これは様々なタイプの人を招き入

れ、デザインする状況について横断的に議論す

ることが目的でしたが、ここでの出会いをきっか

けに、色々なコラボレーションが大阪で巻き起こ

るようになってきました。

 ユーザーを巻き込む方法については、障がい

者の支援施設と共同でものづくりを行っていま

す。国の障がい者自立支援法が変わって、障がい

者を取り巻く環境は「福祉から就労へ」を奨励

する方向になっています。そこで、デザインから

販売の仕組みまで、彼らにとって楽しいと思える

形になるようなデザインを学生とともに取り組

んでいます。

 そして3つ目は、最近の3Dプリンタブームに

代表されるデジタルファブリケーションなど、一

般の人でもデザイナーのようなものづくりが可

能になった時代において、本職のデザイナーた

ちが新型のデザイナーにとってやりやすい制作

環境をメタ的に作っていく方向。これらを大学の

研究室や個人活動で行っていると、それぞれに

異なる共創の方法があるし、デザイナーの役割

も変わってきていると感じますね。

—近年ではワークショップなどを実施する企業も増え、デザインへの関心もより高まりつつありますが、一方で短期的な成果が見えにくいという課題もあります。

田川 ワークショップというのは数多くある引

き出しのひとつであって、教科書通りのフレー

ムをなぞるのではなく、状況やメンバー次第で

アレンジを加えるなど現場で活きるチューニン

グをする必要があると思います。そうしていくと、

ときどきすごくいいワークショップに出会うこ

ともある。新しいことを始めるとき、特に大勢の

人々が関わっているときは、会議がそれぞれの

ポジショントークに終始してしまい、何かアイデ

アが出ても自分の部署に不都合が起きそうなこ

とを察知して事前に予防線を張ってしまうこと

が多いんです。ワークショップが面白いのは、こ

うした人間関係をひっぺがして、素の人間に戻

せるところ。

田子 イノベーションのようなジャンプをしよ

うとするとき、懐疑的になったらダメなんですよ

ね。何かわからなくても作り始めてみて、そこか

ら逆算して既存の方法論とオリジナルのアイデ

アをかけ合わせていくのが最も効果的ですね。

田川 いま田子さんのお話を伺って、ワークショ

ップの方法と同時に、出口のイメージ、アウトプ

ットのスキルを上げるような取り組みの必要が

あるように感じました。出口のイメージが見えて

いる人は、入口からの勉強効率が3倍くらい上が

るという話もありますね。デザイン思考などの手

法から入りつつ、最後は優秀なデザイナーを使

ってアウトプットまでを導くカリキュラムがあ

ってもいいと思います。

水野 いま、デザイナーの役割が多岐にわたっ

てきている中で、目に見えないものやコンサルテ

ィングに主軸を置くデザイン会社も出てくると

田子 學(MTDO inc.)たご・まなぶ/東京造形大学Ⅱ類デザインマネジメント卒業。株式会社東芝デザインセンターを経て、株式会社リアル・フリートにデザインマネジメント責任者として勤務。2008年株式会社エムテドを設立。幅広い産業分野でコンセプトメイキングからプロダクトアウトまでを総合的にデザイン、マネジメントしている。

水野大二郎みずの・だいじろう/慶應義塾大学環境情報学部 専任講師。2008年、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート ファッションデザイン博士課程修了、芸術博士。「DESIGN

EAST」実行委員、Inclusive Design Now実行委員。主な著書に『x-DESIGN』『Inclusive Design』『Fash

ion Design For Living』など。

田川欣哉(takram design engineering)たがわ・きんや/1999年東京大学機械情報工学科卒業。2001年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修了。ハードウェア、ソフトウェアからインタラクティブアートまで、幅広く精通するデザインエンジニア。2014年よりロイヤル・カレッジ・オブ・アートのイノベーション・デザイン・エンジニアリング学科の客員教授を兼務。

「異なるものが緊張状態を保持したまま『クリエイティブな衝突』を起こす」 田川欣哉

独自に編み出したイノベーションの方法論をまとめた書籍『デザインイノベーションの振り子」(LIXIL出版)

特集

イノベーションとデザイン思考

思うんです。そうした従来とは異なるタイプのデ

ザイナーたちが、これからどう企業の中に入り

込んでいくかは興味深いですね。

—これから新しいものづくりを実現するためには、どんな環境を作っていくべきだと思われますか。

田子 環境って与えられるものだと思いがちで

すが、自分から変えていかないと何も変わらな

い。例えば自分の働く時間をデザインしてみる

だけでも、新しい発見につながると思うんです。

田川 アイデアを実現させて、ものごとを生み

出すために最も重要なのは、当たり前のようです

が周囲の人をその気にさせること。そして、自己

肯定力。デザイン思考というのは、人に熱っぽく

語るとか、自分で確信するとか、泥臭くて本には

書かれないような感情のベクトルが根っこにあ

るんだと思っています。

水野 こうした時代においては、未来を空想し

たりするような、ゆるい想像力を使う訓練が効

いてくるんです。僕は「包摂」と「動員」という

言葉をよく使うのですが、ものごとを広い視野

で見つめながら、当事者性をもってプロジェクト

を推進できる人が強いと思っています。

特集

イノベーションとデザイン思考

1716   

クリエイター5人に尋ねた未来を作るキーワード市場や消費者の多様化によって、従来の垣根を越えた新たなクリエーションやビジネスモデルの構築が求められる昨今。異なる背景の人々と「問いを共有し、解決する」プロセスが企業や組織に求められている。こうした中、「これからの社会に求められるデザイン」とは何だろうか。その鍵を握るキーワードを第一線で活躍する5人のクリエイターに尋ねた。

文/塚田有那

シンギュラリティの問題 [*] が現実味を伴って語られる今、未来は人間が何

もしなくてもよい(できない)社会ではなく、人間にできることが拡がる社

会であってほしい。デザインへの期待は、新たな視点・体験の提供では物足

りず、促されるように人間の次の行動やネットワークの形成へとつながるこ

とが望まれる。単体で閉じた成果物としてではなく、それがいかに周囲を巻

き込んだかという「触媒性」の評価・議論が積極的になされるべきだろう。

(*人工知能が人類の知性を超えると言われる、いわゆる「2045年問題」)

[ キーワード ] 触媒性

筧 康明かけひ・やすあき/1979年、京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部 准教授。株式会社プラプラックス取締役。インタラクティブメディアに関する先端技術の研究開発・デザインと、それらを駆使したメディアアート作品の発表を行う。

太刀川英輔たちかわ・えいすけ/NOSIGNER代表。領域を超えたデザインへの深い見識を活かし、社会に機能するデザイン戦略を手がける。コンセプトディレクターとしてクールジャパンミッション宣言「世界の課題をクリエイティブに解決する日本」に貢献。

宮本武蔵が「観見二ツの事、観の目強く、見の目弱く」という言葉を残して

いる。これは「自分の視界に囚われず、全体を見る視界を持てば強くなる」

という意味だが、現代のデザインに当てはめれば、「自分の専門性に囚われ

た視点だけでイノベーションは起こらない。領域や時間を超えて俯瞰する目

が必要だ」と言い換えることができる。観の目を鍛え、未来を、状況を、デザ

インはどこまで俯瞰できるようになるだろうか。

複雑化する社会においては、これまで個別最適にデザインされてきたハー

ドとソフト、モノとモノ、地球の課題と自分の暮らし、社会のあり方とサー

ビスなどをつないで思考する統合的なデザインが求められる。

(*「integration」は統合、完結の意。分業化した生産プロセスを一貫させる見直しや、分離した教育カリ キュラムの統合など、様々な分野で重要視され始めている)

永井一史ながい・かずふみ/HAKUHODO DESIGN代表。アートディレクター、クリエイティブディレクター。多摩美術大学教授。企業・商品のブランディング、ソーシャル&コミュニケーションデザインなどの領域でデザインの可能性を追求。毎日デザイン賞、ADC賞など受賞多数。

社会やビジネスへ与えるインパクトの大きさは、モノの形ではなく、目に見

えない上位概念の美しさに大きく左右される。ビジネスモデル、テクノロジ

ー、顧客体験、さらにその上位にあるIntention(意図)、これら全てを包含

するような概念の設計において、解法の自由度は一気に高まる。高い自由度

の中で形無きものを美しくデザインできる能力が、個人および組織に求め

られている。

[ キーワード ] 形無きものを美しくデザインする

濱口秀司はまぐち・ひでし/ビジネスデザイナー。monogoto CEO、Ziba エクゼクティブ・フェロー。日本初のイントラネット、世界初のUSBフラッシュメモリー、FedExのブランド顧客体験をはじめ、120を超えるイノベーションをリード。ドイツRedDotデザイン賞審査員。

藤原 大ふじわら・だい/クリエイティブディレクター、デザイナー。コーポレイト、アカデミック、リージョナルの3分野で活動を展開。(株)DAIFUJIWARA代表。MUJI to GOディレクター、多摩美術大学教授、東京大学生産技術研究所研究員などを務める。

[ キーワード ] アートサービス

[ キーワード ] 観

[ キーワード ] 

integration [*]

モノゴトに対して無意識や直感で行動する人がいて、新しい価値

を見い出すパワーを持っていたりする。しかし、価値ある直感力

があっても、より良い社会のために意義ある行動や表現ができな

ければ、価値を創る人=クリエイターとはならない。彼らの潜在

的なパワーを刺激し、社会に意義あるつながり方を提供するアー

ト(個人の心をあらわす表現技術)のサービスは、未来のクリエ

イティブな社会作りに有効かもしれない。もちろんデザインにも。

アンケート

1918   

NTTデータ発 イノベーション最前線

これまでに経験したことのない、巨大な変化を前にして、

私たちのビジネスやライフスタイルは、どのような軌跡を辿っていくのか。

NTTデータは、ITがもたらす社会や経済への影響を予想しながら、

ビジネス環境の変化を先取りした技術やサービスの情報を随時公開。

また、お客様とともにビジョンを描き、実現するための拠点として、

「INFORIUM 豊洲イノベーションセンター」をリニューアルした。

その展示コンテンツの中から、大きな変貌を遂げるであろう未来の生活シーンや、

ウェアラブルデバイス、クラウドロボティクス基盤など注目のR&D事例、

お客様との新たな試みとなる「共創ワークショップ」にフォーカス。

あらゆる人々の幸せと、よりよい社会の実現に向けて、

イノベーションを導く最新の取り組みをお届けする。

INFORIUM 豊洲イノベーションセンターのタッチパネル型展示「TOUCH THE FUTURE」より、未来のショッピング体験の1コマ

※写真はイメージです。実際の展示内容とは異なります

特集 2

2120   

city environment

health care

「TOUCH THE FUTURE」が描き出すストーリー

ITが変える未来の生活

文/深沢慶太

バーチャルショッピングを支える決済システム例えば家具を購入する場合は、自宅などに設置した様子をシミュレーションして検討し、支払いボタンに触れるだけで購入完了。自室に居ながらにして製品の詳細や使用シーンを確認できる一方、生体認証などを利用したセキュアな決済システムによって、オンラインショッピングの利便性が飛躍的に高まる。

1 ショッピング

2 ワークスタイル

リアルタイム分析によるプレゼンテーション例えば都市設計のプレゼンテーションであれば、建築物の仕様変更に伴い、電力の需要と供給量などのシミュレーションが瞬時に実施され、様々な条件を比較しながら検討できる。業種を問わず、検討に必要な諸条件がビッグデータ解析によってリアルタイムで提供され、迅速な意志決定とサービスのクオリティ向上につながる。

3ヘルスケア

医学的なトレーニングサポート衣服に織り込まれるなど、着用感のないウェアラブルセンサーによって疲労度や血糖値などが常時モニタリングされ、最適なトレーニングメニューを実施。例えばランニングであれば、ペースアップによる心肺機能強化の提案やゲーミフィケーションの活用など、走る楽しみを最大限に引き出すサポートで、健康の増進に貢献する。

4 都市環境

ますます加速するIT技術の進展によって、産業構造やビジ

ネスのあり方はもちろんのこと、私たち自身の生活にも、あ

らゆる場面で劇的な変革が訪れようとしている。NTTデータ

は、ITと情報社会のトレンド予測「NTT DATA Technology

Foresight」の知見に基づき、未来の生活を体感できるインタ

ラクティブ展示「TOUCH THE FUTURE」(p.34)をINFORIUM

豊洲 イノベーションセンターに設置。その中から、5つの生活

シーンにおける画期的なソリューションを紹介する。

entertainment5 エンターテインメント

shopping

work style

安全で快適なサスティナブルシティNTTデータでは既に、橋梁に設置したセンサーを通して橋の異常の早期検知や車両の通行量統計の算出を行う橋梁監視ソリューションを提供しているが、将来的にはこうしたモニタリングシステムと連動したロボットが自動的に補修・改良を行うなど、自律化が進んでいく。また、自動車や鉄道、ドローンほか、多様化する交通状況を常時モニタリングし、渋滞の予防や最適なル ート提供、災害時の誘導などを複合的に行う高度な交通制御技術が導入される。

アーカイブを活用した娯楽と教育の進化形あらゆる分野に渡って収集・蓄積され続ける情報は、文化的表現や娯楽のあり方にも大きな影響を与える。例えば 科学館では、天体や惑星が目の前に現れ、それらを実際に触ることでテーマを身近に感じながら、より多くの情報を得られる仕組みが導入されるなど、デジタルアーカイブとバーチャル体験を活用した学習体験が生み出される。スポーツ分野では選手の視覚情報を体感できるなど、よりリアルな観戦サービスが普及。没入感と学習効果の融合によって、新たなビジネス領域が誕生する。

ビッグデータ解析に基づくレコメンド機能リアル店舗にて、これまでの購入履歴などから導かれた客の趣味嗜好の分析やトレンド、SNSにおける友人からの評価予測などの要素を加味し、最適なレコメンドが行われる。入店時の個人認証を元に客ごとの購買行動を予測し、その人に似合うもの、興味を抱きそうなもの、次に買うべきものなどを先回りして提案する仕組みだ。

自由な働き方を叶えるバーチャルオフィスNTTデータがご 提供している、クラウド経由でオフィスと同様の作業環境を実現するサービスの発展型。クラウド技術と高度なセキュリティによって、自宅 や出張先など、どこでも同一の作業環境を再現する。遠隔地との交信においても、相手が目の前にいるかのようなコミュニケーションや書類のやりとりが可能になる。

脳科学に基づくウェルネスケア心拍数や血圧、脳波などの生体情報をセンシングして、睡眠状態や夢の内容までをも把握し、感情や気分などのメンタル面をサポート。心理動向を予測し、居室の風景や音、匂いなど、居住空間そのものを変えることで五感的要素を最適化する。健康状態に応じたメニューの提案やロボットとの会話など、様々な角度で快適な暮らしを演出していく。

※写真はイメージです。実際の展示内容とは異なります

2322   

イスを導入すれば、グラス上に仮想キ

ーボードが映し出され、それを指で操

作できるようになる。キーボードが見

えるのは自分の視界に限られるので、

盗み見される心配がない。また、キー

の配置を毎回ランダムに変更すれば、

より安全な入力を行える。パネルなど

に直接触れるわけではないので、温

度変化をサーモグラフィで解析して

パスワードを盗まれる不安もない。

 第2の側面は、遠隔作業支援システ

ムによる、製造業などで両手を使う作

業員たちのサポートだ。作業を行う側

のメリットとしては、作業手順を携帯

電話やタブレットで確認するのが危

険な場所でも、メガネ型ウェアラブル

デバイスを使えばハンズフリーで資

料の閲覧や本部との連絡が可能にな

る。デバイスの操作は音声に加え、頭

の動きなど手を介さずに行う。作業

時の目線をカメラで撮影し、静止画や

動画を本部に送るなどすれば、言葉

のみの場合よりも状況報告を正確に

行える。本部の側ではそれらを通して

問題点を具体的に把握し、作業員に

的確な指示を与えられる。送られてき

た画像にマーカーでチェックを入れ

て返信したり、作業者の視界に必要

なマニュアルを表示したりすること

もできる。

 ハードの性能ばかりが注目を集め

がちなウェアラブルデバイスだが、重

要なのはそれをいかに活用していく

か。これらの研究開発は、その1つの

道筋を示すものになるだろう。

メガネ型ウェアラブルデバイスを用いた文字入力の様子(イメージ)。着用者の視界には仮想キーボードが映し出され、それを指先で操作する。しかし着用者以外には見えないため、パスワード認証時の安全性は飛躍的に高まる

小山武士(こやま・たけし) NTTデータ 基盤システム事業本部 セキュリティビジネス推進室 セキュリティ技術担当 主任 「メガネ型デバイスとAR入力技術で、カフェなどでも周囲を気にせず安全なオンライン決済が可能になります」(「NTT DATA Innovation Conference

2015」会場にて)

情報社会と技術のトレンドを導き出し、ビジネスに革新をもたらす「NTT DATA Technology Foresight」。その展望に基づき、新 INFORIUM 豊洲イノベーションセンターで展示されるNTTデータのR&D事例の中から、注目すべき最新の話題をピックアップして紹介する。

ビジョンの実現に向けて NT TデータのR&D事例取材・文/鍵和田啓介+深沢慶太 撮影/五十嵐絢也(ポートレート)

「NTT DATA Technology Foresight」とは

テクノロジーがビジネス環境に与える影響が拡大と加速の一

途を辿る中で、ビジネスに変革をもたらす技術的要素を把握

し、その技術を活用しながら継続的な成長を実現するために、

NTTデータが公開している最新レポート。政治・経済・社会・技

術の4つの観点からITの変化を捉え、「情報社会トレンド(近

未来の展望)」と「技術トレンド」を毎年策定している。

Technology

Foresightウェアラブルデバイスとは、顔や

腕、または体の特定の部位に

装着して利用するタイプのコンピュ

ーティングデバイスのこと。NTTデー

タでは、特に今後の普及が期待され

ているメガネ型ウェアラブルデバイ

スについて、その特徴を活かしたソリ

ューション開発を2つの側面から進め

ている。

 第1の側面は、AR(拡張現実)入力

技術による、セキュリティの強化。例

えば、銀行ATMなどのパスワード入

力作業にメガネ型ウェアラブルデバ

ウェアラブルデバイスの業務活用ソリューションいま話題のメガネ型デバイス。その活用法として、セキュリティと作業支援の2つのソリューションを紹介する。

25

渡辺 出(わたなべ・いづる)NTTデータ 技術開発本部 ロボティクスインテグレーション推進室 課長

近年、ロボット産業の市場が産

業・娯楽分野から、より社会や

生活に密着した分野へと移行し、活

況を呈している。「第3次ロボットブ

ーム」とも称されるこの潮流を後押

ししているのが、「クラウドロボティ

クス」の進展だ。その概要は、通信で

クラウド上のコンピュータと連携し

てロボットを稼働させるというもの。

従来のロボットは単体で演算処理を

していたため、演算処理能力が高ま

れば高まるほどに大型化、高価格化

を免れなかった。しかし、これをクラ

グローバルな競争市場において、

いまなお日本企業の最大のハ

ードルと言われる言語の壁。この根

深い問題をIT技術の活用によって解

決すべく、NTTデータではタブレット

を活用したリアルタイム翻訳(音声

認識、機械翻訳)の研究開発を進めて

いる。

 その成果といえるのが、外国語話

者とTV会議を行う際、発話内容を音

声認識してリアルタイムでテキスト

化し、翻訳結果と合わせて画面に表

示するグローバル会議支援ソリュー

ションだ。現時点ではTV会議などで

交わされる発言の内容(日本語ー英

語)を音声認識し、認識・翻訳結果を

タブレット端末などに表示している。

TV会議上で相手が英語で話した内容

を、英文テキストと日本語訳をリアル

タイムに画面上に表示する。あらかじ

め専門的な辞書を入力しておけば、ビ

ジネス用語や日本語に多い同音異義

語などにも対応できる。さらに、この

ツールは議事内容を自動的に取捨選

択し、議事録作成を支援する機能も

兼ね備えている。

 将来的には、多人数での会議であ

っても発言者を自動的に認識して表

示を振り分けたり、会議内容のキーワ

ードを解析して、重要な情報を強調し

たりすることで、会議の実施テーマな

どに沿った議事録を作成。加えて、議

論内容の要約や、キーセンテンスの分

析による今後の課題事項の抽出も行

い、リアルタイムに更新されていく議

事録の共有によって、会議の効率化

にも貢献する。

 グローバルな会議の実施に伴う言

語の壁と、非参加者への情報共有が

難しいという距離の壁。この2つの壁

高柳和宏(たかやなぎ・かずひろ)NTTデータ ビジネスソリューション事業本部 ネットワークソリューション事業部営業統括部 ビジネス推進担当 課長

「お手持ちの電話やTV会議のシステムに接続して、翻訳・字幕の表示や議事録の作成が可能です」

クラウドロボティクス基盤を応用したロボットサービス今後、各分野で導入が進むロボットサービス。その鍵を握る「クラウドロボティクス」技術の展望とは?

グローバル会議支援ソリューションTV会議システムに自動翻訳技術と議事録作成機能を組み合わせ、言葉の壁を越える試み。その実力に迫る。

新しい INFORIUM 豊洲イノベーションセンターで案内と展示説明を行う、2種類の自律移動型コミュニケーションロボット。Double Robotics社の「Double」(右)と、日本バイナリー社が代理店として販売するオープンハード「 TurtleBot 2」(左。上部にタブレット端末を設置予定)(「NTT DATA Innovation Conference 2015」会場にて。撮影/五十嵐絢也)

グローバル会議ソリューションによる、リアルタイムな翻訳画面表示(右)。既存の電話やTV会議システムにも導入できる。人数分のマイクを設置すれば個々の発言者を認識して記録が行われる。左は「NT T

DATA Innovation Conference 2015」会場におけるデモ展示風景

石黒佑樹(いしぐろ・ゆうき)NTTデータ 技術開発本部 ロボティクスインテグレーション推進室 主任

「クラウドロボティクス基盤によって、ロボットを活用した高齢者支援や各種サービスが飛躍的に進むでしょう」

ウド上に配置するという発想の「ク

ラウドロボティクス」の導入で、より

軽く、安く、賢いロボットを気軽に利

用することができるようになる。

 この技術の体験機会をご提供する

ために、新しいINFORIUM 豊洲イノ

ベーションセンターは、NTTデータが

開発を進めているロボット用クラウ

ドに接続された自律移動型コミュニ

ケーションロボットを展示している。

主な機能は「案内」と「展示説明」。カ

メラによって来場者を検知して接近

し、搭載されたタブレットで案内先を

尋ね、目当ての展示までご案内する。

ご要望があれば、展示の説明ビデオ

をタブレット上に再生する。

 技術が進めば、ユーザーの興味対

象や来場目的に合わせて、ロボットが

的確な話題を選んで積極的に会話す

るようになることもありうる。例えば、

SNSの投稿記録などを解析して、ユー

ザーの好きな映画や音楽の内容につ

いて話すこともできるかもしれない。

将来的には、このようにクラウドに接

続されたコミュニケーションロボッ

トが、高齢者向けサービスや各種機関

の窓口業務、教育者の代理として利

用されていくと期待されている。

 そう遠くない未来、例えば2020年

の東京オリンピック開催時には、道に

迷った外国人観光客をカメラで解析

して接近し、その人の出身地に応じた

言語で行きたいところまで案内する

機能を備えた「おもてなしロボット」

が登場しているかもしれない。

を、音声認識や機械翻訳、TV会議と

いった複合的なI Tソリューションを

組み合わせることによって取り払う

試み。多言語間のコミュニケーション

の障壁や意思疎通の劣化を防ぎなが

ら、グローバルなビジネス展開に迅速

な意志決定を導くべく、今後の活用

が期待される。「高齢者の介護現場の人手不足など、日本が抱える様々な問題の切り札として、期待が高まっています」

2726   

ゲ ーミフィケーションとは、ビ

ジネスをはじめとする日常

生活の要素に、ゲームの持つ楽しさ

や学習プロセスなどのノウハウを取

り入れることで、課題解決や活動促

進への貢献を目指す取り組みを指す。

NTTデータも、2013年からゲーミフ

ィケーションを利用したソリューシ

ョン開発に努めており、実際の仕事現

場での試験導入が行われている。

「世界遺産パズルゲーム」は、営業担

当者が管理システム上に顧客データ

を登録する際のモチベーションアッ

プを目的に開発された。商談情報を

入力するごとにパズルのピースが1枚

ずつ与えられ、これを組み立てていく

と世界遺産の写真が現れる。1つのパ

ズルが完成すると次の世界遺産に進

むことになり、世界を旅しているよう

な気分を味わえる。プレイヤーごとの

ランキングが世界遺産の訪問件数や

「お土産」などゲーム的な演出によっ

て公表されるため、通常の業績比較

に対してネガティブな印象を与えに

くく、滞りがちな事務的作業を楽しさ

古久根 敦(こくね・あつし)NTTデータ 技術開発本部 サービスイノベーションセンタ シニア・エキスパート

「ゲーミフィケーションは、楽しみながら行動を良い

方向へ変えていく解決策として注目されています」

高 齢化が進む日本において、介

護サービスの市場が急速に拡

大する一方、介護士などの労働力不

足が懸念されている。お年寄りの健

康状態などの情報をリアルタイムで

把握し、限られた人的リソースを最適

に提供するためのシステム構築の取

り組みは、まさに急務と言えるだろう。

NTTデータでは、心拍や呼吸などの

生体情報を取得できるセンサーを活

用したソリューション開発を進めて

いる。

 用いるのは薄く小さな円盤形の圧

力センサー。ベッドのマットレスの下

に置くだけで、ベッド上に横たわる人

間の心拍、呼吸、体動、睡眠状態を感

知する。身体に装着する必要がない

ため、従来型のセンサーではコードな

どが拘束感を与えるとして敬遠され

てきた老人介護施設への導入が期待

される。現状では入所者が深夜に目

覚めてトイレに行く際、気を遣ってナ

ースコールを押さずに転倒する事例

が多発しているが、ベッドから起き上

がったことをこのセンサーで感知し

て介護士のタブレット端末に送信す

れば、すぐに介助に向かうことができ

る。医療の事例においても、心臓発作

を繰り返す在宅患者の心拍を病院で

モニタリングし、心拍と呼吸のパター

ンから発作を未然に防ぐよう適切な

措置を採ることが可能になる。

 こうした介護・医療現場への導入以

外にも、メンタルヘルスを含む健康科

学分野での活用にも可能性が広がる。

例えば、このセンサーによって眠りの

深さを割り出し、最もスムーズに目覚

められるタイミングで目覚まし時計

のアラームを鳴らすなど、日常生活に

おける睡眠の質の向上にも効果を発

揮する。さらに、コミュニケーション

ロボットに接続すれば、目覚めととも

に「おはようございます」の声を掛け

てくれることだろう。

 ITの導入によって目覚ましい進展

が確実視されるヘルスケア分野。誰

もが健康に暮らすことのできる未来

に向けて、今後のシステム活用に大き

な期待が寄せられている。

川森茂樹(かわもり・しげき)NTTデータ 公共システム事業本部 e-コミュニティ事業部 第一ビジネス統括部 第一営業担当 課長

「退院後の患者の状態にも注意を払うことができるなど、医療現場でもその効果に注目が集まっています」

ゲームの手法で社員の行動を変えるゲーミフィケーション入力作業など滞りがちな業務にゲームの手法を取り入れるゲーミフィケーション。2つの導入事例を紹介する。

生体情報センサーの活用によるヘルスケアソリューション医療・ヘルスケア分野の進展の鍵を握る生体データ活用。ベッド設置型のセンサーから、健康管理の未来が見えてくる。

NTTデータグループ内で試験導入された、2つのゲーミフィケーション事例。「世界遺産パズルゲーム」(左)では、営業管理業務が仲間と競争しながらの世界遺産の旅として表現されている。事務系業務の進捗が農作物の収穫となって表される「農園ゲーム」(右)では、効率アップやコミュニケーションの活性化など実作業における効果が既に報告されている

EarlySense社が開発した非拘束生体情報センサー本体とその導入イメージ、およびNTTデータが開発したデータ収集基盤の分析画面。このセンサーをベッドのマットレスの下に設置するだけで、心拍、呼吸、体動などをリアルタイムにモニタリングできる。高齢者の見守りサービスをはじめ、ここで取得した生体データなどを分析することで、さらなる病気予防や創薬の可能性が広がっていく

と競争心によって促進していく。

「農園ゲーム」は、事務系BPOセンタ

の業務の進み具合に応じて自分の畑

で苗が育ち、野菜や果物を収穫する

という設定。作業が滞ると苗の成長

が遅れ、捗るほどに様々な収穫がも

たらされる。参加者ごとの作業状況

が畑の様子によって表現される仕組

みだが、作業が遅れている他のメン

バーの状況をゲーム上の畑の様子に

よって共有し、業務のサポートを促す

というチームビルディング的な効果

も考慮されている。このゲームの導入

によって、作業開始から完了までの時

間が6割短縮されるなど、納期遵守や

ミスの低減、作業のスキルアップにつ

ながる効果が確認されている。

 ゲームを進めていくことの楽しさ

を単調な作業のモチベーションアッ

プに役立てつつ、その成果がチーム

内での競争やコミュニケーション促

進につながるという、画期的な試み。

実際の導入に当たっては、顧客ごとに

特有の課題や目的に即したゲームデ

ザインが施されていく。

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NTTデータの強みである最先端テクノロジーの知見に、デザイン思考の方法論を掛け合わせ、新規事業につながるアイデアを発想する「共創ワークショップ」。従来のビジネスの限界を越え、顧客自身の将来あるべき姿をともに描き出していく画期的な手法とその展望について、開発担当者の声や実施の流れを交えて紹介する。

イノベーションプランを導く共創ワークショップ

取材・文/深沢慶太

「共創ワークショップ」とは

「NTT DATA Technology Foresight」で示される情報社

会の潮流とITのトレンドを起点に、お客様とともに新たなビジ

ネスアイデアを発想する試み。

 市場の需要に基づいて製品やサービスを開発し、お客様に

提供する従来のアプローチに対して、NTTデータが提唱する

「共創型イノベーション」は、“何を作るか”というアイデアやデ

ザインの段階からお客様を巻き込み、ビジョンから事業化へ

 テクノロジーの目覚ましい進展は、この世界に大

きな変化をもたらしてきました。技術主導や市場の

顕在化したニーズに応えようとする従来型の産業構

造が転換期を迎え、まだ見えていない社会課題の

解決に取り組む姿勢が企業にも問われる中で、ITの

役割も、アイデアやデザインと一体となって新たな

サービスや新製品を実現することへとシフトしつつ

あるのです。そこで私たちは、市場の顕在ニーズあり

きの発想から脱却し、お客様とともにそもそも何を

すべきかを考える段階から将来のビジョンを描き出

す実践的な方法として、「共創ワークショップ」の取

り組みをスタートさせました。

 ワークショップでは、デザイン思考のノウハウを用

いながら、お客様自身の課題や可能性を可視化して

いきます。そして、そこに弊社独自の最先端テクノロ

ジーに関する知見を掛け合わせ、新しいビジネスの

創出を目指していきます。受発注の関係を越え、まだ

見ぬ眺めを切り拓くパートナーとして、ともに新しい

未来を築いていきましょう。(談)

 共創ワークショップの目的は、最新技術や社会動

向を元にお客様自身の将来像を考え、 中長期の方針

策定や新たなサービス創出につなげていくことにあ

ります。ここで重要なのは、単に最新技術の展望を提

供するだけに留まらず、お客様が何を求め、何を考え

ているかを体感させていただくことで、弊社の技術

の新しい価値を我々自身も見出していくことです。

 従来のビジネスモデルでは、弊社はシステム開発

やソリューションの提供を行うベンダーという位置

付けでした。しかしこれからは、お客様の中長期戦

略やそのためのアイデアを発想する中で、技術を最

適化しながらアップデートしていく取り組みが必要

です。課題に対して対策を講じるのではなく、弊社

が持つ最新技術の視点から、まったく新しいニーズ

や市場自体を切り拓いていくこと。それは、いま何

をすべきか、企業としてどうあるべきかといった大

きなビジョンを描きながら、私たち自身の未来を具

現化していく試みでもあるのです。(談)

最新テクノロジー×デザイン思考で共創を実践

革新的なニーズを生み出す発想の試み

松下正樹(まつした・まさき)NT Tデータ 技術開発本部

企画部 戦略担当 シニア・エキスパート

石井 宏(いしい・ひろし)NT Tデータ 技術開発本部

サービスイノベーションセンタ ドキュメントソリューション推進室 シニア・エキスパート

と至るプロセスを共有することで、新たな価値創造を目指す。

 その共創型イノベーションの実現に向けて、NTTデータでは

新しいINFORIUM 豊洲イノベーションセンターにワークショ

ップ用のスペースを用意。社員1人ひとりの中に埋もれていた

アイデアを発掘し、新たなビジネスモデルを創出しながら企

業全体の中長期戦略を具体化する手法として、積極的に打ち

出していく。

NTTデータ社内における共創ワークショップ体験会の様子。デザイン思考の方法論を用いながら、参加者自身の未来像を思い描き、新規事業につながるアイデアを膨らませていく

3130   

 共創ワークショップは、お客様とNTTデータの事業部門、

技術開発部門から多様な人材が集まって対話をすることで、

本質的な課題と事業における価値を突き詰め、ともに未来を

描く場として機能する。参加者は数人ずつのグループに分か

れ、「NTT DATA Technology Foresight」の技術トレンドな

ど参考資料を元にアイデアを記述し、チームごとに発表を行

う。約2時間の実施時間を通して、新たな課題や要望を発掘す

る「テーマ抽出ワーク」と、サービスやシステムの改善点を発

掘する「サービスブラッシュアップワーク」の2種類のワーク

「共創ワークショップ」実施の流れお客様との従来の関係性を越え、新たな価値創造を目指す共創ワークショップ。デザイン思考のアプローチを取り入れつつ、独自に開発されたプログラムによって構成されている。

を行い、問題意識を共有しながら、これまでのビジネスの枠組

みにとらわれない斬新な発想を体験していく。

 なお、共創ワークショップには最新技術を用いた未来のビジ

ネスアイデアをスケッチする「アイデア発想型」と、技術や社会

の変化を考慮して10年後に向けたストーリーを描く「中長期方

針検討型」の2種類があるが、ここでは前者の例をご紹介する。

写真はNTTデータ社内における共創ワークショップ体験会より。なお、新しいINFORIUM 豊洲イノベーションセンターでは、最新技術のデモ展示コーナーに隣接した「Innovation Lab」で共創ワークショップを実施する。(p.35参照)

各自が考えた将来像をグループ内で共有し、最もよいと思われる案を1つ選ぶ。それをグループごとにプレゼンする

「サービスブラッシュアップワーク」。現状の業務に最新技術を適用することによってもたらされる変化について、グループ内で話し合う

技術の種類と、それによって生まれるサービスのアイデアを付箋に書き出し、グループごとに表に貼り出して検討していく

グループ内で話し合い、最もよいと思われるアイデアを1つ選ぶ。そのアイデアをグループごとにプレゼンし、評価を行う

共創ワークショップの実施風景。参加者はいくつかのグループに分かれて着席し、各自の発想をグループ内で共有していく

ワークショップの所要時間は約2時間。ファシリテーターの指示に従いながら、2種類のグループワークを行い、アイデアを発想する

「テーマ抽出ワーク」。提示された技術トレンドから1つを選び、その技術によって導かれる自社の将来像を発想する

用意されたシートに各自のアイデアを書き込んでいく。言葉だけでなく絵を使って表現することで、イメージを具体化していく

共創ワークショップで技術トレンドを提示するために用いられる「フォーサイトカード」に掲載されたイメージビジュアル。ロボティクスやデジタルファブリケーションから、生命や感情など人間の本質に迫る科学的知見まで、様々な技術が切り拓く未来のイメージが描かれている

3332   

来たる2020年、東京はどんな街へと様変わりしているだろうか。

現在、東京オリンピックに向けて大きな開発の進む豊洲ベイエリアは、

新たな都市のランドスケープが生まれつつある東京の最重要スポットのひとつだ。

リニューアルした「 INFORIUM 豊洲イノベーションセンター」もまた

国内外のお客さまを迎え入れ、未来の姿を描き始める。

 自動走行する案内ロボット、ウェアラブルデバイスや自動翻訳、3Dプリンタなど、

最新技術を駆使したデモンストレーションでは、テクノロジーで変革する未来の姿を実感できるだろう。

また、多様な人々との対話によってともに知恵を出し合う「共創ワークショップ」を通じて、

新たなビジネス創出の場を育み、画期的なサービス開発を促進する。

撮影/編集部

新生INFORIUM豊洲イノベーションセンター

3534   

INFORIUM施設概要

A オープンエリア

NTTデータが描く未来ビジョンをお伝えし、お客さまを共創

の場へと導く、明るく開放的なエントランス。目に飛び込ん

でくる大型ディスプレイでは、世界中で展開しているNTT

データグループの事業活動映像を上映するほか、「TOUCH

THE FUTURE」( ※ 下 記 )では「NTT DATA Technology

メガネ型ウェアラブルデバイス、自動翻訳技

術と議事録作成機能を組み合わせたグロー

バル会議支援ソリューションなど、p.22–27

でも紹介したNTTデータの取り組む最新技

術を実際に体験できるデモ展示エリア。ほか

にも、暮らしに役立つ決済サービスやセンサ

ーを活用した高齢化社会対応システムなど、

進化する社会の様子をデモンストレーション

形式でご紹介します。ここでも自律型テレプ

レゼンスロボットが登場し、お客さまの質問

に応対しながら、搭載されたタブレットで展

示案内を行います。

TOUCH THE FUTURE

NTTデータが開発を進めるテクノロジーは、どんな未来を

もたらすのでしょうか。タッチパネル式テーブル「TOUCH

THE FUTURE」では、未来の社会を描いたストーリーを展開。

p.20-21でも紹介した5つのテーマに沿って、「未来のショッ

INFORUM 豊洲イノベーションセンター

東京都江東区豊洲3-3-3 豊洲センタービル10F

東京メトロ有楽町線豊洲駅1Bまたは3出口すぐご利用を希望される方は、弊社営業担当者までお問い合わせください。

http://www.nttdata.com/jp/ja/inforium/

Foresight」で提唱されたビッグデータ活用や、ITと個人のラ

イフスタイル、システム開発の未来などをテーマとした映像

をご体験いただけます。また、自動走行する案内ロボットがお

客さまをデモ展示エリアへと誘導するなど、これからの活用

が期待されるロボットと人間との共生も実験しています。

AC

B

TOUCH THE FUTURE

ピング」「未来の働き方」「未来のヘルスケア」「未来の都市」

「未来のエンターテインメント」をご紹介します(「未来の都

市」と「未来のエンターテインメント」は2015年上半期内に

追加予定)。

p.28–31で詳しく紹介した「共創ワークショ

ップ」の実施会場は、「Innovation Lab A」

と 「Innovation Lab B」(各定員24名)の2室。

ワークショップのほかにNTTデータ技術開発

本部が主催する「NTT DATA Technology

Foresight」の個別解説セミナーを随時開催

するなど、お客さまとの「共創」を促進する

場として機能します。新たなビジネスヒント

を得るため、施設内にある最新のデモ機材や

備品に触れながらのワークショップも可能

です。

B デモ展示エリア

C ワークショップエリア

ENTRANCE

c o n t e n t s : I n F o R I U M plus

特集 1: イノベ ーションとデザイン思考 インタビュー 奥出直人 2 座談会 共創の実践者たち  田川欣哉×田子學×水野大二郎 10 アンケート  クリエイター5人に尋ねた 未来を作るキーワード 16

特集 2: NTT データ発 イノベーション最前線 ITが変える未来の生活 20 ビジョンの実現に向けて NTTデータのR&D事例 22 イノベーションプランを導く共創ワークショップ 28 新生INFORIUM豊洲イノベーションセンター 32

INFORIUM(インフォリウム)とは「Information」(情報)と「Atrium」(開放的内部空間)を合わせた造語です。本誌『 INFORIUM plus』(インフォリウム・プラス)は、弊社の東京・豊洲センタービル内に同名のイノベーションセンターを移転リニューアルしたことに合わせ刊行いたしました。施設の利用をご希望される方は、弊社営業担当者までお問い合わせ下さい。

2015年3月30日発行(非売品)【発行】 株式会社 NTTデータ 広報部 〒 135-6033 東京都江東区豊洲 3-3-3 豊洲センタービル 電話 03-5546-8051 www.nttdata.

co.jp(本誌に掲載した社外からの寄稿や発言は、当社の見解を表すものではありません。また、本誌に記載されている会社名、製品名およびロゴは、NTT データもしくは各社の商標または登録商標です)

【制作スタッフ】 編集長 小崎哲哉 編集 深沢慶太/塚田有那 編集協力

鍵和田啓介/斉藤雅子/杉瀬由希 アートディレクション 宮崎光弘 デザイン 入澤花絵 企画・制作 上田壮一/笹尾実和子

【印刷・製本】 株式会社サンニチ印刷 Printed in Japan