possibility of low-temperature processing of off-line heat

7
TECHNICAL REPORT オフライン・ヒートソーク1 , ³ 1 1 本板6648520 2 1312 Possibility of low-temperature processing of o-line heat soak test Chihiro SAKAI 1 , ³ and Ryoji SATO 1 1 Research and Development, Nippon Sheet Glass Co., Ltd., 2-13-12 Konoike, Itami, Hyogo 664-8520, Japan Processing conditions of two kinds of heat soak tests (o-line heat soak test and in-line continuous heat soak test) which were standardized in ISO20657_2017 were compared in detail. Several experimental investigations (high- temperature optical microscope observations, micro-Raman spectrometry, high-temperature powder X-rays Diractometry, and Dierential Thermal Analysis) were carried out in order to improve the processing conditions (thermal history) of the o-line heat soak test. These experimental investigations indicated that beta-phase transformation of nickel sulde in the glass products was completed during the heating process of the o-line heat soak test, in the case of low-heating rate of 3 °C / min. It was shown that we could shift the holding temperature of the o-line heat soak test to the temperatures lower than 260 °C (+/¹10 °C) which was described in ISO20657 based on the detailed investi- gations. The improved time-temperature conditions during the holding phase are as follows. 1) Holding phase commences when the surface temperature of all glasses has reached 240 °C. 2) Glass temperature is maintained in the range of 240 °C (+/¹20 °C) during holding phase. 3) The glasses are held for 15 min or longer in the furnace. In the low-temperature processing of o-line heat soak test, we can improve the productivity of the safe tempered sheet glass, and realize the energy saving. ©2020 The Ceramic Society of Japan. All rights reserved. Key-words : Nickel sulde, Phase transformation, Tempered sheet glass, Spontaneous breakage, Heat soak test, ISO20657 [Received April 3, 2020; Accepted April 24, 2020] 1. ガラスやガラスのガラ () でしばしばまれにきなクレームとなるこのようなガラスのしてはいくつかのがあ 々はしたガラスのから(150 μm) ニッケル (Ni x S y ) つけることができる 1)-3) Wagner 1) Kullerud 4) したニッケル-2 づけばNi / S1.0 するニッケルは992 °C 以下から A させるA さらにれると379 °C B (millerite) するニッケルのくなる B 282 °C こるガラスはその生産におい 600 °C よりもされてちによってされてされるしたがって600 °C 以上安定であったニッケルの A B にはされずにとしてガラスするこのようなニッケルのしてはでは A 安定であるのでそれがされな ければガラスにおいて安定B するそのPopoola et al. 5) したようにニッケルは B ってガラ 4するニッケルのクラックがされそれらはしてガラスのする 1)-3),5) ニッケルのするのニッケルとのによってソーダのガラスにおいて³ Corresponding author: C. Sakai; E-mail: chihiro. sakai@ nsg.com JCS - Japan Journal of the Ceramic Society of Japan, Supplement 128 [7] S1-S7 2020 DOI http:// doi.org /10.2109/ jcersj2.20074 ©2020 The Ceramic Society of Japan S1 This is an Open Access article distributed under the terms of the Creative Commons Attribution License (https://creativecommons.org/ licenses / by-nd/4.0/), which permits unrestricted use, distribution, and reproduction in any medium, provided the original work is properly cited.

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Page 1: Possibility of low-temperature processing of off-line heat

TECHNICAL REPORT

オフライン・ヒートソーク試験の低温処理化の可能性

酒井千尋 1,³・佐藤良司 1

1日本板硝子株式会社研究開発部,〒 664–8520 兵庫県伊丹市鴻池 2丁目 13–12

Possibility of low-temperature processing of off-line heat soak testChihiro SAKAI1,³ and Ryoji SATO1

1Research and Development, Nippon Sheet Glass Co., Ltd., 2­13­12 Konoike, Itami, Hyogo 664­8520, Japan

Processing conditions of two kinds of heat soak tests (off-line heat soak test and in-line continuous heat soak test)which were standardized in ISO20657_2017 were compared in detail. Several experimental investigations (high-temperature optical microscope observations, micro-Raman spectrometry, high-temperature powder X-raysDiffractometry, and Differential Thermal Analysis) were carried out in order to improve the processingconditions (thermal history) of the off-line heat soak test.These experimental investigations indicated that beta-phase transformation of nickel sulfide in the glass productswas completed during the heating process of the off-line heat soak test, in the case of low-heating rate of3 °C/min. It was shown that we could shift the holding temperature of the off-line heat soak test to thetemperatures lower than 260 °C (+/¹10 °C) which was described in ISO20657 based on the detailed investi-gations. The improved time-temperature conditions during the holding phase are as follows.1) Holding phase commences when the surface temperature of all glasses has reached 240 °C.2) Glass temperature is maintained in the range of 240 °C (+/¹20 °C) during holding phase.3) The glasses are held for 15min or longer in the furnace.In the low-temperature processing of off-line heat soak test, we can improve the productivity of the safe temperedsheet glass, and realize the energy saving.©2020 The Ceramic Society of Japan. All rights reserved.

Key-words : Nickel sulfide, Phase transformation, Tempered sheet glass, Spontaneous breakage, Heat soak test,ISO20657

[Received April 3, 2020; Accepted April 24, 2020]

1. 緒  言

強化板ガラスや倍強度ガラスの自然破損は,ガラ

ス市場 (建築用途や輸送機材用途)でしばしば発生し

て,まれに大きなクレームとなる.このような強化

板ガラスの自然破損に対してはいくつかの原因があ

る.我々は,破損した強化板ガラスの始発点の破片

から,細粒 (平均粒径は約 150 µm)の硫化ニッケル

(NixSy)を見つけることができる1)­3).

Wagner1)と Kullerud4)が示したニッケル-硫黄の 2成分系の状態平衡図に基づけば,Ni/S=1.0の化学

量論組成を有する硫化ニッケルは,992 °C以下で液

相から A相を結晶化させる.A相は,さらに徐冷さ

れると,379 °Cで B 相 (millerite)に相転移する.ま

た,硫化ニッケルの硫黄成分の含有量が多くなる

と,B相転移は 282 °Cの低温で起こる.

一般的に,強化板ガラスは,その生産工程におい

て 600 °Cよりも高温で加熱されて,直ちに風冷に

よって急冷されて製造される.したがって,600 °C以上で安定であった硫化ニッケルの A相は,室温で

は B相には相転移されずに過冷却相としてガラス製

品中に残存する.

このような硫化ニッケルの包有物に対しては,室

温では A相は不安定であるので,それが除去されな

ければガラス市場において時間の経過に伴い安定な

B相に相転移する.その結果,Popoola et al.5)が報告

したように,硫化ニッケルは B相転移に伴ってガラ

ス製品中で最大 4%の体積膨張を発生する.同時

に,硫化ニッケル粒子の周囲に複数のクラックが形

成され,それらは急速に伸展して強化板ガラスの自

然破損が発生する1)­3),5).

一般的に,硫化ニッケルの包有物は,芒硝に由来

する硫黄成分と不純物のニッケル元素を含む金属夾

雑物や化合物との間の反応によって,ソーダ石灰珪

酸塩組成のガラス製造において,原料の熔解過程で

³ Corresponding author: C. Sakai; E-mail: chihiro. [email protected]

JCS-JapanJournal of the Ceramic Society of Japan, Supplement 128 [7] S1-S7 2020

DOI http://doi.org/10.2109/jcersj2.20074

©2020 The Ceramic Society of JapanS1

This is an Open Access article distributed under the terms of the Creative Commons Attribution License (https://creativecommons.org/licenses/by-nd/4.0/),which permits unrestricted use, distribution, and reproduction in any medium, provided the original work is properly cited.

Page 2: Possibility of low-temperature processing of off-line heat

反応相として形成されると言われている3),5).この対

策として,ガラス原料中の金属夾雑物や製造工程内

での金属粉 (例えばステンレス鋼の屑や溶接火花な

ど)の除去が精力的に行われているが,板ガラスの

製品中に流出する硫化ニッケルの異物を完全に除去

することはできない.

ヒートソーク試験は,ガラス製品から効果的に硫

化ニッケルの包有物を除去し,ガラス市場において

強化板ガラスの自然破損を回避するための解決策の

1 つである. ISO20657-20176)では,異なる 2つのヒートソーク試験技術に対して,以下のように最適

な処理条件が標準化された.

1) オフライン・ヒートソーク試験

昇温速度:3 °C/min保持温度:260 °C («10 °C)保持時間:2時間

2) インライン連続式ヒートソーク試験

保持温度:220 °C («20 °C)保持時間:12分以上

Figure 1は,これらの 2種類のヒートソーク試験

技術の概略的な図を示す.

オフライン・ヒートソーク試験は,生産された強

化板ガラスの製品を一時的に室温で保管した後に実

施される.強化板ガラスの製品は,ヒートソーク試

験炉の内部において,室温から 3 °C/minの昇温速度

で加熱され,260 °C («10 °C)の温度で 2時間保持さ

れる.

いっぽう,インライン連続式ヒートソーク試験で

は,強化板ガラスは強化工程の急冷後に直ちに一定

温度に保持されたヒートソーク試験炉に挿入され

る.ヒートソーク炉内での保持時間は 220 («20 °C)の温度で 12分以上である6),7).

ISO20657-20176) で示されたように,オフライ

ン・ヒートソーク試験の保持温度は 260 °C («10 °C)であり,インライン連続式ヒートソーク試験の保持

温度である 220 °C («20 °C)よりも高温側にある.

ニッケル-硫黄の 2成分系の状態平衡図1),4)に基づけ

ば,ヒートソーク試験は硫化ニッケルの B相が安定

な温度域で実施されるため,2つの異なるヒート

ソーク試験における保持温度はほとんど類似すると

考えられる.したがって,我々は,オフライン・

ヒートソーク試験の保持温度が 260 °Cよりも低温側

にシフトできると考える.本研究では,オフライ

ン・ヒートソーク試験の保持温度の低温化の可能性

が議論される.

2. 実験方法

2.1 硫化ニッケルのサンプル硫化ニッケルの A -B相転移の調査を行うために,

以下の方法によって,硫化ニッケルのサンプルが準

備された.

高温顕微鏡観察と顕微ラマン分光法の測定では,

ガラス製品中の硫化ニッケルの包有物 (実際の異物)が次の 2つの方法で準備された.高温顕微鏡観察で

は,強化されていない板ガラスの製品中の硫化ニッ

ケルの粒子が用いられた.これらのサンプルは,ガ

ラス製造工程で製造技術者によって継続的に採集さ

れた.顕微ラマン分光法の測定では,ガラス市場と

製造工程において,強化板ガラスの始発点の破片か

ら回収された硫化ニッケルの粒子が使われた.

示差熱分析 (DTA)と高温X線回折 (XRD)のサンプルに対しては,多くの硫化ニッケルの粉末が真空雰

囲気中でニッケルと硫黄の混合物を電気熔融するこ

とによって合成された.真空雰囲気中で合成された

硫化ニッケルは,A相を得るために真空雰囲気中で

急冷された8).これらの合成された硫化ニッケルの

粉末の結晶状態は,以下に示すそれぞれの実験前

に,粉末X線回折法によって A相であることが確認

された.

2.2 分析方法硫化ニッケルの B相転移は,ヒートソーク試験の

熱履歴を用いて,次の方法によって実験的に調査さ

れた7).以下にそれぞれの調査結果を示す.

1) 高温顕微鏡観察

2) 顕微ラマン分光法による測定

3) 示差熱分析 (DTA)4) 高温X線回折法 (XRD)Figure 2 に示されるように,加熱治具 (室温

~900 °C)を装着した偏光実体顕微鏡が高温顕微鏡の

観察で用いられた.高温顕微鏡に装着されたヒー

ターは,加熱されるサンプルの均熱化を維持するた

めに,º30mm©40mmHの石英ガラスの円筒にニク

ロム線を巻いたものを使った.サンプルはヒーター

の中央部にセットされた.ガラス製品中に含まれる

硫化ニッケル粒子の相転移は,酸化還元状態がガラ

Fig. 1. ISO2075_2017における 2種類のヒートソーク試験技術.Two kinds of heat soak tests in ISO2075_2017.

酒井千尋 他 : オフライン・ヒートソーク試験の低温処理化の可能性JCS-Japan

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Page 3: Possibility of low-temperature processing of off-line heat

ス内部では保持されるために可逆的である.した

がって,相転移の実験を異なる熱履歴に対して繰り

返して実施することができる.このような A -B相転

移の変化は,ビデオテープに連続的に記録された.

顕微ラマン分光法の測定に対しては,硫化ニッケ

ルの研磨された表面に対して,大気雰囲気中で

30 µmよりも微小な領域で分析された.これらのサ

ンプルの加熱と冷却は,硫化ニッケルの酸化を防ぐ

ために,ヘリウムガスの雰囲気で置換されたポリイ

ミド製 (カプトン)のドーム内で実施された.硫化

ニッケルのサンプルの表面は,顕微ラマン分光法の

測定前にダイヤモンドペーストを用いて,60秒以下

の短時間で再研磨された.

高温X線回折法と示差熱分析では,真空雰囲気中

で合成されたそれぞれ,0.5~0.9 gと 50~60mgの硫

化ニッケルの A相の粉末が使用された.高温X線回

折法では,加熱,冷却,および測定の全てがヘリウ

ムガスに置換された雰囲気中で実施された.また,

示差熱分析においては,雰囲気は窒素ガス置換に

よってコントロールされた.

3. 実験結果

高温顕微鏡観察,顕微ラマン分光法の測定,高温

X線回折,および示差熱分析の全ての実験的な調査

は,オフライン・ヒートソーク試験の熱履歴の条件

下で実施された.

3.1 高温顕微鏡観察の結果Figure 3は,昇温速度が制御された高温顕微鏡観

察の結果を示す.ガラスサンプルに含まれる硫化

ニッケルの A相から B相への相転移は,相転移に

伴う体積膨張 (最大 4%)によって生じた圧縮応力の

ために,偏光顕微鏡下では,その粒子の周囲に強い

干渉色を示す2),5),9),10).したがって,我々は 530 nmの鋭敏色検板を挿入した直交ニコルの条件下で,偏

光顕微鏡を用いて硫化ニッケルの粒子の周囲に生じ

る干渉色の僅かな変化を連続的に観察することがで

きる.

高温顕微鏡観察で出発物質として使用された硫化

ニッケルの包有物を含む未強化の板ガラスの製品

は,数mm□©5mmH以下に成形された.この硫化

ニッケルの粒子は,既に体積膨張に伴ってガラス中

に微細なクラックを伴う B相である.また,B相転

移における温度変化を正しく記録するために,サン

プル表面に熱電対をセットした.硫化ニッケルの粒

子の周囲に生じたクラックは,ガラス内部でその伸

展が止まっているので,加熱と冷却を繰り返す一連

の実験的な調査を通しても粒子の酸化-還元状態は一

定に保持されていると考えられる.

我々は,最初に,硫化ニッケルの安定な A相を得

るために,10 °C/minの昇温速度でガラスサンプル

を加熱した.そして,硫化ニッケルの粒子は,

400 °Cで 20分間の加熱によってほぼ安定な A相に相

転移した.Figure 3に示されるように,A相の硫化

ニッケルは体積の収縮によって硫化ニッケルの粒子

の周囲には非常に僅かな干渉色しか確認できない.

このように干渉色が非常に弱い A相は,400 °Cから

Fig. 3. 1 °C/minの加熱速度での高温顕微鏡観察の結果.横軸:処理時間 (分),縦軸:温度 (°C).Results of high-temperatures optical microscope observations at 1 °C/min heating rate. Horizontal axis showsprocessing time (min), and vertical axis shows temperature (°C).

Fig. 2. 板ガラス製品中の硫化ニッケル包有物のA -B相転移を観察するための高温偏光顕微鏡の概略的な図.Schematic image of high-temperature polarizing microscope toobserve alpha-beta phase transformation of a nickel sulfideinclusion in glass product.

Journal of the Ceramic Society of Japan 128 [7] S1-S7 2020 JCS-Japan

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Page 4: Possibility of low-temperature processing of off-line heat

急冷されることで,室温 (25 °C)でも観察することが

できた.急冷は大気雰囲気中で空気を吹きかけなが

ら行われた.

上記のガラスサンプルは,5 °C/minの昇温速度で

150 °Cまで急速に加熱され,その後,350°Cまで1 °C/minの昇温速度でゆっくりと加熱された.干渉

色の強度は,170 °C以上の高温域では最大となった

(図 3の黒丸●).Figure 3において,白丸〇は硫化

ニッケル粒子中にいくらかの A相が含まれることを

示す.ガラス中の硫化ニッケルの B相は,170 °Cから 300 °Cまでの温度域で安定であった.

Figure 4は,異なる昇温速度に対する高温顕微鏡

観察の結果を示す.この図において,黒丸●は,硫

化ニッケルの B相転移が完了したことを示す.いっ

ぽう,白丸〇はいくらかの A相を含む硫化ニッケル

の不十分な B相転移を示す.

オフライン・ヒートソーク試験において,B相転

移の完了する温度が昇温速度に強く影響するという

ことは重要な現象である11),12).昇温速度の増加に伴

い B相転移の完了する温度の下限は高温側にシフト

する.昇温速度の違いに対する B相転移の完了する

温度の下限値は,以下の通り示される.

1 °C/min: 170 °C3 °C/min: 190 °C5 °C/min: 195 °C10 °C/min: 210 °C既に述べられたように,オフライン・ヒートソー

ク試験の昇温速度は ISO20657-20176)では 3 °C/minである.したがって,ISO20657における保持温度

(260 °C+/¹10 °C)は,かなり高温側に位置すると考

えられる.

3.2 顕微ラマン分光法の測定結果Figure 5は,ガラス製品中に包有された硫化ニッ

ケル粒子の顕微ラマン分光法の測定の結果を示す.

Sakai7),13)で示されたように,硫化ニッケルの A相

に対しては明瞭なラマンバンドが検出されない.し

かしながら,B相に対しては複数の明瞭なラマンバ

ンドを検出することができる.そのスペクトルは,

RRUFF Raman Database14)から引用される天然の硫化

ニッケルの B相 (millerite)のラマンスペクトルと非常

に類似している.

硫化ニッケルは,450 °Cで 15 分間の加熱後に安定

な A相に相転移した.そして,硫化ニッケルは,急

Fig. 4. 異なる昇温速度での硫化ニッケルの高温顕微鏡観察の結果.横軸:処理時間(分),縦軸:温度(°C).Results of high-temperatures optical microscope observations of nickel sulfide in the different heating rate.Horizontal axis shows processing time (min), and vertical axis shows temperature (°C).

Fig. 5. 硫化ニッケルの包有物の顕微ラマン分光測定の結果.Results of micro-Raman spectrometry measurements of nickel sulfide inclusion.

酒井千尋 他 : オフライン・ヒートソーク試験の低温処理化の可能性JCS-Japan

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Page 5: Possibility of low-temperature processing of off-line heat

冷後に,3 °C/minで再加熱され,240 °Cで 15 分間

の加熱によって安定な B相に相転移した (Fig. 4).我々は,高温顕微鏡観察の結果と同様な現象を確認

することができた.

3.3 高温X線回折の結果Figure 6は,オフライン・ヒートソーク試験の熱

履歴で,170 °Cから 270 °Cまでの異なる保持温度に

対して,硫化ニッケルの B相転移の達成度を示した

図である.Figure 6において,240 °C-30minでの実

験結果に対しては,異なる日に実施された 3回の測

定結果を示した.以下の実験的な調査においては,

硫化ニッケルの A相 (合成された粉末)が出発物質と

して用いられた.

硫化ニッケルの A相の粉末は,ヘリウム雰囲気中

で,450 °Cで 30分間の加熱後に 100 °C/minよりも早い冷却速度で急冷することによって準備された.

全ての実験において,A相は,加熱前に室温で粉末

X線回折法によって同定された.B相転移率は,こ

れまでの調査結果7)に基づいて,B相 (それぞれの保

持温度)と A相 (450 °C)の間の回折線の積分強度比か

ら計算された.

Figure 6において,B相転移率の最大値は,硫化

ニッケルの粒子に対して約 0.9 (90%)である.これ

までの研究でも示されているように,板ガラスの製

品中に流出した硫化ニッケルの異物粒子は,複数

の硫化ニッケルの結晶相 (A -NiS,B -NiS,Ni3S2,Ni7S6,および Ni3S4)を含む7),15),16).したがって,B

相転移後でも B 相転移率は 100%にはならない.

3 °C/minの昇温速度の場合には,硫化ニッケルの B

相転移は 180 °Cよりも高温域で 15 分以上の加熱に

よって完了することが明らかである.Fig. 6に示さ

れるように,B相転移は,ISO20657-20176)よりも低

温条件 (200 °Cから 250 °C)で達成されると結論さ

れる.

3.4 示差熱分析の結果Figure 7は,合成された硫化ニッケルの示差熱分

析 (DTA)の結果を示す.この実験で,硫化ニッケル

の粉末は,窒素 (N2)ガス雰囲気中で,5 °C/minの昇

温速度で加熱された.そして,450 °Cで 30分間加熱

された後に急冷された硫化ニッケルの A相が出発物

質として準備された.

室温で不安定な A相は,177 °Cで安定な B相に相

転移した.この現象は,ニッケル-硫黄の 2成分系の

状態平衡図1),4)に基づけば,B相転移 (発熱反応)を示

す.B相の一部は,さらなる加熱に伴って 270 °CでA相に相転移した.我々は,Fig. 7のDTA曲線にお

いて,270.1 °Cに小さな吸熱反応を確認することが

できる.この現象は,過剰な硫黄成分を含む硫化

ニッケル (NixSy: x < y)の A相転移を示す (状態平衡図

の反応 “a”).最終的には,硫化ニッケルの全ての B

相は 396 °Cで安定な A相に相転移した (状態平衡図

の反応 “b”).既に述べたように,板ガラスの製品に流出した硫

化ニッケルの粒子は,NixSyの化学組成で示されるい

Fig. 6. 高温X線回折によるオフライン・ヒートソーク試験での硫化ニッケルの B相転移率 (ヘリウム雰囲気中).Degree of beta-phase transformation of nickel sulfide in the off-line heat soak test conditions by high-temperatures X-rayDiffraction (in helium gas atmosphere).

Fig. 7. 合成された硫化ニッケルの示差熱分析の結果(窒素雰囲気中).ニッケル-硫黄の2成分系の状態平衡図

はWagner1) and Kullerud4)に基づく.Results of Differential Thermal Analysis of synthesized nickel sulfide (in nitrogen gas atmosphere). Nickel-Sulfurbinary phase diagram was reconstructed based on Wagner1) and Kullerud.4)

Journal of the Ceramic Society of Japan 128 [7] S1-S7 2020 JCS-Japan

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Page 6: Possibility of low-temperature processing of off-line heat

くつかの結晶相 (Ni7S6,NiS,Ni1¹xS,あるいはNi3S4)から構成され,これらの結晶相の量比も変動

する.したがって,DTA曲線における反応のピーク

強度は全ての硫化ニッケルに対しても変化すると考

えられる.我々は,特に,270~280 °C付近での A相

への再相転移 (Fig. 7の状態平衡図の反応 “a”)に対し

ては十分に注意しなければならない.270 °C付近で

のヒートソーク試験は,硫化ニッケルの A相への再

相転移のリスクを含む.硫化ニッケルの B相転移は

DTAによる実験的な調査においても,昇温の過程で

200 °Cよりも低温で完了した.

4. 考  察

我々は,いくつかの実験的な研究結果 (高温顕微

鏡観察,顕微ラマン分光法,高温X線回折,および

示差熱分析)に基づいて,オフライン・ヒートソー

ク試験の低温処理の可能性を議論する.

4.1 オフライン・ヒートソーク試験の低温処理の可能性

Figure 8は,いくつかの実験的な調査で得られた

硫化ニッケルの昇温過程で,B相転移が完了する温

度の比較を示す.

棒グラフは,12個のサンプルに対して DTA曲線

の B相転移の完了した温度のピーク位置のばらつ

きを示す.それぞれの実験的な調査に基づけば,

オフライン・ヒートソーク試験の加熱ステージにお

いて,185 °C~195 °Cの温度で B相転移が完了する

ことを示している.したがって,ISO20657-20176)のオフライン・ヒートソーク試験の処理温度は 260 °C(«10 °C)よりも低温側に変更が可能であると考えら

れる.

4.2 オフライン・ヒートソーク試験の最適な処理条件

我々は,硫化ニッケルの B相転移が 3 °C/minの昇温速度では,昇温過程において,200 °Cまでに完了できることをいくつかの実験で確認した.これ

らの実験的な調査においては,2種類の硫化ニッケ

ル (ガラス製品中の硫化ニッケル粒子と合成され

た硫化ニッケル粉末) が用いられた.さらに,A

相と B相の間の相転移に対して,酸化-還元状態が

全ての実験で制御された (ヘリウムガスおよび窒素

ガス雰囲気による置換).したがって,我々は,オ

フライン・ヒートソーク試験が Sakai and Kikuta15)が既に報告したように,インライン連続式ヒートソー

ク試験と同じ温度 (220 °C « 20 °C)で処理できると考

える.

オフライン・ヒートソーク試験では,ヒートソー

ク炉の温度は,強化板ガラスの製品の頻繁な入れ替

えのために,常に,室温と保持温度の間で繰り返し

て変化する.したがって,一定の温度 (例えば220 °C)での加熱に対しても,ヒートソーク試験炉内

での温度の安定化と均熱化は最も重要である.した

がって,オフライン・ヒートソーク試験では,ヒー

トソーク炉内での加熱温度がインライン連続式ヒー

トソーク試験での温度 (220 °C « 20 °C)よりも僅かに

高い値で制御されることが望ましいと考える.我々

は,以下に,オフライン・ヒートソーク試験に対し

て新たな操業条件を提案する.

1) 昇温速度:3 °C/min2) 保持温度 (最高温度):240 °C « 20 °C (ただし,

加熱が最も遅いガラス板の表面温度に対して)3) 保持時間:15分以上

5. ま と め

ISO20657_2017に登録された 2種類のヒートソー

ク試験 (オフライン・ヒートソーク試験とインライ

ン連続式ヒートソーク試験)に対して,処理条件の

最適化がニッケル-硫黄の 2成分系の状態平衡図に基

づいて考察された.硫化ニッケルの B相転移の条件

は,相平衡論に基づけば,これらのヒートソーク試

験に対しては同様であると考えられる.詳細な実験

的な調査において,オフライン・ヒートソーク試験

に対する硫化ニッケルの B相転移は以下のように示

された.

Fig. 8. 幾つかの実験的な調査に対する B相転移の温度の比較.Comparison of beta-phase completion temperature for several experimental investigations.

酒井千尋 他 : オフライン・ヒートソーク試験の低温処理化の可能性JCS-Japan

S6

Page 7: Possibility of low-temperature processing of off-line heat

1) 高温顕微鏡観察では,3 °C/minの昇温速度

で,強化工程後に室温で不安定な硫化ニッケ

ルのA相は,190 °C以上の温度で安定な B相に

相転移した.

2) ガラス市場において,強化板ガラスの破損し

た始発点部から回収された硫化ニッケルの包

有物は,ヘリウムガス雰囲気中で,450 °C-15分の加熱後に安定な A相に相転移した.硫化

ニッケルは,その後急速に冷却され,再度

3 °C/minの昇温速度で加熱され,240 °Cで 15分間の加熱後に安定な B相に相転移した.硫

化ニッケルの B相は顕微ラマン分光法によっ

ても確認された.

3) 真空雰囲気下でニッケル-硫黄の混合物から合

成された硫化ニッケルの A相は,粉末X線回

折法によってヘリウム雰囲気中で 3 °C/minで加熱され,180 °Cから 270 °Cの温度範囲で結

晶状態が調査された.硫化ニッケルは,

180 °C以上で 15分よりも長く保持されること

によって安定な B相に相転移した.

4) 合成された硫化ニッケルサンプルの示差熱分

析は,B相転移が 190 °C以上の高温域で完了

することを示した.硫黄成分の多い硫化ニッ

ケル (NixSy:x < y)に対しては,A相への再相

転移のために,270 °Cよりも高温部でヒート

ソーク試験をすることができない.

5) 複数の実験結果を考察すると,我々はオフラ

イン・ヒートソーク試験が以下の条件で実施

できると考える.

保持温度:240 °C « 20 °C (最も加熱が遅いガラス

板の表面温度に対して)保持時間:15分以上 (全てのガラス板の表面が

240 °Cに到達してからの時間)オフライン・ヒートソーク試験に対するこれらの

改善された条件によって,我々は,強化板ガラスに

対する生産性の向上とエネルギー削減を期待するこ

とができる.

謝 辞 ヒートソーク試験技術の有用なアドバイスと

議論に対して,著者は,菊田雅司氏 (退職)に最も厚い

謝意を述べたい.また,著者は,Saint Gobain HRDCのAndreas Kasper博士に,継続した技術的な議論に対して

の感謝を述べたい.

さらに,著者の感謝は,継続的な有用な議論に対し

て,日本板硝子株式会社の久田隆司さんに対しても示

される.

分析的な調査は,日本板硝子株式会社の研究開発部の

多くの分析技術者によって支援された.著者は,ヒー

トソーク試験技術と硫化ニッケルの試験分析技術に関

係した日本板硝子株式会社の全ての同僚たちに対して

も感謝を述べたい.

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