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Reask モデルを⽤いたマイクロティーチングの開発と効果 Development of Micro-teaching with Reask Model and Investigation of its Effect 康彦・⽊下光⼆・藤原伸彦・若井ゆかり MORI Yasuhiko, KINOSHITA Mitsuji, FUJIHARA Nobuhiko, and WAKAI Yukari (鳴⾨教育⼤学 / Naruto University of Education) キーワード: Reask,マイクロティーチング,教員養成 Keywords: Reask, Micro-teaching, Pre-service Teacher Education Abstract Authors have been working on improvement of lesson competency and skills of undergraduate and graduate students who would like to be a teacher through trial lessons and micro-teachings. By the trial lessons and micro-teachings, of course, studentsʼ competency and skills are improved, but there still remain some problems. One of them is that student teachers tend to do teacher-centered class where they mainly talk and people whose role are pupils listen teacherʻs explain. In this research, we construct Reask model that aims to have students make classes where they bring out pupilsʼ reactions and accept them, and develop micro-teaching with Reask model and investigate its effect. We propose Reask model which is a method to bring out childrenʼs thought and experiences and to deepen their learning. We consider their expression to Reask as an effective key to improvement of pre-service teachersʼ lessons. So, we have pre-service teachers do micro-teaching with Reask model and attempt to improve competency for pre- service teachers to conduct children-centered classes. 1. はじめに 筆者らは,教員をめざす学部⽣及び学卒院⽣に対し,模擬授業による演習やマイクロテ ィーチングを中⼼に授業⼒の向上を図る取り組みを⾏ってきた。それらにより全体的な授 業⼒の向上は⾒られるものの,教師主導の授業から脱しきれない状況があり⼤きな課題と なっている。本研究では,教師の問いに対する児童の反応を授業改善のよりどころと考え, 深い学びにつながる児童の反応を引き出すための Reask モデルを提案する。そして,Reask モデルを取り⼊れたマイクロティーチングによって,児童の思考に寄り添った児童主体の 授業を⾏う⼒の育成を試みる。 41

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Reask モデルを⽤いたマイクロティーチングの開発と効果

Development of Micro-teaching with Reask Model and Investigation of its Effect

森 康彦・⽊下光⼆・藤原伸彦・若井ゆかり MORI Yasuhiko, KINOSHITA Mitsuji, FUJIHARA Nobuhiko, and WAKAI Yukari

(鳴⾨教育⼤学 / Naruto University of Education) キーワード: Reask,マイクロティーチング,教員養成 Keywords: Reask, Micro-teaching, Pre-service Teacher Education Abstract Authors have been working on improvement of lesson competency and skills of undergraduate and graduate students who would like to be a teacher through trial lessons and micro-teachings. By the trial lessons and micro-teachings, of course, studentsʼ competency and skills are improved, but there still remain some problems. One of them is that student teachers tend to do teacher-centered class where they mainly talk and people whose role are pupils listen teacherʻs explain. In this research, we construct Reask model that aims to have students make classes where they bring out pupilsʼ reactions and accept them, and develop micro-teaching with Reask model and investigate its effect. We propose Reask model which is a method to bring out childrenʼs thought and experiences and to deepen their learning. We consider their expression to Reask as an effective key to improvement of pre-service teachersʼ lessons. So, we have pre-service teachers do micro-teaching with Reask model and attempt to improve competency for pre-service teachers to conduct children-centered classes. 1. はじめに

筆者らは,教員をめざす学部⽣及び学卒院⽣に対し,模擬授業による演習やマイクロティーチングを中⼼に授業⼒の向上を図る取り組みを⾏ってきた。それらにより全体的な授業⼒の向上は⾒られるものの,教師主導の授業から脱しきれない状況があり⼤きな課題となっている。本研究では,教師の問いに対する児童の反応を授業改善のよりどころと考え,深い学びにつながる児童の反応を引き出すための Reask モデルを提案する。そして,Reaskモデルを取り⼊れたマイクロティーチングによって,児童の思考に寄り添った児童主体の授業を⾏う⼒の育成を試みる。

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2. 実習⽣の問い 問うことは相⼿の思考を促す有効な⼿段である。⼩学校の授業においても,問うことを

通して児童の思考を促そうとするのは教師にとって有効な⼿段の⼀つである。だが,教師

を⽬指す学⽣の⾏動を⾒ていると,児童に問うことがなかったり,問うたとしても児童の

思考を促すのに適切ものでなかったりする。さらには,児童の思考を促すためではなく,

⾃⾝の計画した授業を進めるのに必要な⾔葉を引き出すためだけに問うていることすらあ

る。その最たる例が「他にありますか」である。

実習⽣ 「…の答えはどうなりますか?」

児童 A 「◯◯です。」

実習⽣ 「ありがとう。他にありますか?」

児童 B 「△△です。」

実習⽣ 「なるほど。他にありますか?」

児童 C 「□□です。」

実習⽣ 「そうですね。」(板書する。)

実習⽣に時折⾒られるやりとりだが,「他にありますか」を繰り返し,⾃分の授業を進める

のに必要な⾔葉が出たらそれを捕まえて授業を進める。⾃分が授業をするのに必要のない

⾔葉は,児童がせっかく考えて発⾔したにも関わらず取り上げることはしない。

ここまで極端でないとしても,学⽣が問い,児童が答え,学⽣が次の問いを出し,とい

う,いわゆる⼀問⼀答形式で授業を進めるケースもしばしば⾒かける。次の例は,学⽣が

⼩学校におけるインターンシップで実践した授業(⼩学校 6 年⽣社会科,歴史)のプロト

コルある。

実習⽣ 「Y さん,その結果,何が発展したって⾔ってくれたかな?」

児童 A 「重⼯業。」

実習⽣ 「ちなみにみんな重⼯業って⾔葉わかる?」

児童 B 「⾦属,鉄。」

実習⽣ 「そう,⾦属とか,鉄とか。逆の軽⼯業っていうのもあるんやけど,それは服

とかです。じゃあ,他に何か調べた事⾔ってくれる⼈いる?Cさん。」

児童 C 「重⼯業が発展したことで,⾜尾銅⼭鉱毒事件が起きて,⽥中正造が動いたこ

とだと思います。」

実習⽣ 「ちなみに,⾜尾銅⼭って何が悪かったんやったっけ?」

児童D 「カドミウム。」

実習⽣ 「それはどういう⾵に出たって書いてた?」

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児童D 「⼯場から出る有毒な煙や⽔。」 実習⽣ 「有毒な煙とか排⽔からの問題だね。煙とか⽔で,有毒な物が出てきちゃって,

健康に被害が及んだっていう⾵になってました。他に何か調べたことある?」 このケースでは,実習⽣が問うことによって児童は知っていることや教科書に載っていたことを答えている。⾔い換えれば,児童は記憶していることや教科書で⾒つけた⾔葉を⾔っているのであり,児童が考えたことや感じたことは表出していない。また,このやりとりをきっかけに思考が促されて疑問が⽣じたり,その疑問やそれに続く思考が表出されたりすることもない。 3. 問いと学びについての仮説

教室における学びに関して,我々は次のように仮定している。教師の問いに対する児童の発⾔は,その背景にある児童⾃⾝が経験したことや価値観,思考や感情などによって⽀えられている。(特に教室場⾯という協働的な場⾯において)学ぶ・理解する,ということは,児童が背景に持っている経験や価値観,思考,感情を表出して,それを共有しあい,それに基づいて思考し,⾃⾝の考えを精緻にしていくことである。

この我々の知識観に関する仮説は,シェドロフ(2001)の,⼈間へのいわゆる“情報”の⼊⼒とそれに対する理解のレベルに関する「理解の外観」という図(Figure 1)によって説明することができる。シェドロフは,理解は「データ(Data)」「情報(Information)」「知識(Knowledge)」「知恵(Wisdom)」の順に深まっていくと考えている。「データ(Data)」は,その出どころやなぜ伝えられているのか,どのように並べられているのかといった様々なコンテクスト(⽂脈あるいは背景; Context or Background)から切り離された事実の⼩⽚のことである。データは,分類されたり整理されたりして「情報(Information)」となる。分類や整理は,当然意図を持って⾏われる。そのため,情報はデータと異なり,特定の⽅向性(=コンテクスト; Context)」を持って意味付けられている,と⾔える。「知識(Knowledge)」は⾃⾝の経験を通して情報を内化したものであり,会話(Conversation)やストーリーテリング(Storytelling)によってやりとりできるものである。「数多くの経験や疑問を通して初めて,知識の⾜跡のパターンを⾒ることができる。そうして得た情報のパターンこそ知識

Figure 1. The understanding spectrum (drawn by one of authors based on Shedroff, 1999). On the diagram, Shedroff said “Understanding is a continuum that leads from Data, through Information and Knowledge, and ultimately to Wisdom.”

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なのであり,それにより,ものごとをより深く理解できるようになるばかりでなく,その

パターン⾃体を理解することで,他の問題における異なった⽂脈上にも当てはめて使うこ

とができるようになる。教育がすべきことは,これなのだ。」(シェドロフ,2001,p. 63)。

したがって,情報は他者にも当てはまる⼀般的・形式的な知であるのに対し,知識は⾃⾝

の経験という個⼈的な⽂脈に彩られた知であると⾔える。(「知恵(Wisdom)」については

ここでは割愛する。)

先に挙げた実習⽣と児童とのやりとりにおいて,児童から引き出された⾔葉は断⽚的で

あり,教師や他の児童は背景にある⽂脈なしでその⾔葉を受け取るしかない。シェドロフ

の⾔葉で⾔えば,「データ」をそのまま記憶するしかない。それでは児童は深く理解したと

は⾔えない。深い理解のためには,児童の発⾔の背景にある経験やそれに関連して考えた

こと,感じたこと(これらも経験の⼀種であろう)を引き出し,それを含めて児童の考え

の全体像をとらえる必要がある。

4. Reask そのための⼿段として,我々は Reask を提案する。Reask とは,教師の問いに対する児

童の発⾔を受けて,続けて問い返すことである。単なる問い返しと異なる点は,Reask で

は,深い理解のためには,児童の発⾔の背景にある経験や関連して考えたこと,感じたこ

と(これらも経験の⼀種であろう)を引き出そうとする点である。

前節に⽰した知識観に基づき,我々は次のような授業観を持っている。児童の発⾔に対

して,それに関わる個⼈的な経験や根拠となる考えを再度問うことで,データを情報とし

て位置付け共有し,知識としてクラスの児童の中に定着させることができるようになる。

授業における教師と児童の発話を分析するために,(模擬)授業の映像記録をもとにプロ

トコルを起こし,Figure 2 のような図として視覚化する。この図は,プロトコルを⽂に分

割し,教師の問いを起点のノードとしてそれに対する児童の発⾔,またそれに対する教師

の発⾔…とノードを接続している。別の児童が発⾔した場合には,起点とした教師の問い

のノードに接続するノードとして表す。また,教師の別の問いをした場合には,それを新

たなノードとして表す。これにより,授業全体のやりとりを全体としてネットワーク状に

表現したものである。

学⽣が Reask した場合に

は,教師の問いにつながる⼀

連のノード群の⻑さが⻑くな

る。⼀⽅,先述した「他にあ

りますか」の例では,教師の

問いのノードに 3つのノード

がつながるような図となる。

Figure 2. Visualization of protocol. Utterances by teacher are underlined

and Reask are shown in bold. Utterances from students are surrounded

by frame.

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5. ⽬的

本研究では,Reask を組み込んだトレーニング法である Reask モデルを構築し,Reask モデルを⽤いたマイクロティーチングを通して,児童の思考を授業進⾏に活かす⼿法を獲得し,また児童が主体的に考え知識を修得していく授業観を学⽣たちの中に醸成させることによって,児童の思考に寄り添った授業を⾏う⼒を育成することを⽬指す。

より具体的には,次の 2つの⽬的を持って⾏われた。 ⽬的 1 Reask モデルを⽤いたマイクロティーチングを開発し,実践を通して修正を図る。 ⽬的 2 模擬授業及び授業実践を通して,マイクロティーチングの効果を検証する。

6. 実践の実際と考察

研究は,学部学⽣を対象とする調査Ⅰと,学卒院⽣を対象とする調査Ⅱに分けて⾏われた。以下,調査ⅠとⅡを分けて記述考察し,最後に総合的な分析考察を⾏う。 6.1. 調査Ⅰ

6.1.1. ⽅法

調査Ⅰは,N ⼤学学部 2 年⽣ 8 名を対象に,Table 1の通り 2017年 12⽉〜2018年 1⽉にかけて,正規の授業時間を使い実施した。

授業の 1回⽬,2回⽬は学⽣が⾃由に考えたマイクロティーチングを⾏い,3回⽬の授業で Reask モデルについての教⽰を⾏い,引き続いて Reask を意識したマイクロティーチングを⾏った。

Table 1. Schedule and Contents of Survey I. 授 業

(Lesson) 実施⽇

Date

実施内容

(Contents of Lesson) 教 材

(Teaching material)

授業 1 (Lesson 1) 2017年 12⽉15⽇ マイクロティーチング

(Micro-teaching) 6 年社会『聖武天皇と⼤仏づくり』(導⼊) Grade 6, Japanese History [8th century]

授業 2 (Lesson 2) 2018年 1⽉19⽇ マイクロティーチング

(Micro-teaching) 6 年社会『武⼠があらわれる』(導⼊) Grade 6, Japanese History [11th century]

授業 3 (Lesson 3)

2018年 1⽉26⽇

Reask モデル教⽰+ マイクロティーチング (Reask instruction + Micro-teaching)

授業 2に同じ same as Lesson 2

Reask モデル教⽰の内容としては,先に述べた知識観,授業観に関することに加え,『⼤仏づくり』『貴族の屋しき』の教材を例に,「仏教の⼒で平和な世の中にしようと考えた。」

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という学⽣の意⾒に対して「その頃は平和じゃなかったの?」「どんな世の中だったの?」「仏教ってどんなもの?」「仏教には世の中を平和にする⼒があるの?」など筆者らが質問しながら Reask の仕⽅や Reask の例を⽰した。

その後,Reask を意識しながら導⼊部分の細案を書き,学⽣ A がマイクロティーチングを⾏った。 6.1.2. 結果と考察 (1) 授業 2 と授業 3 における発話数の変化

学⽣ A は,Reask モデルの教⽰のなかった授業 2と Reask モデルの教⽰を⾏った授業 3においても,同じ教材を扱ったマイクロティーチングを⾏った。

Figure 3は,授業 2のマイクロティーチングにおける教師の主発問に対する児童役の発⾔とそれに対する教師の受け答えを話題ごとに⾏を変えて記録したものである。そのうち,Reask の様⼦がわかる部分について拡⼤したものを Figure 4に⽰した。

Figure 3. Diagram of a part of protocol from a lesson by Student A [Before Reask instruction]

Figure 4. A part of Figure 3 (magnified).

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Figure 5. Diagram of a part of protocol from a lesson by Student A [After Reask instruction]

Figure 6. A part of Figure 4 (magnified).

Figure 6. A part of Figure 5 (magnified).

Figure 5は,授業 3のマイクロティーチングにおける同様の記録である。また,Figure 6はその⼀部拡⼤したものである。

Table 2 は教⽰前後のマイクロティーチングにおける児童及び教師の発話数を⽐較したものである。

教⽰前のマイクロティーチングでは,児童の発⾔に対して復唱したり,どこにいるかを確認したりする発⾔がほとんどで,話題が続かず,すぐに異なる話題に移ってしまっていた。しかし,教⽰後のマイクロティーチングでは,「貴族の屋敷とどんなふうに建て⽅が違

詳しい説明を求める Reask

Reask で理由を問う

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Table 2. Numbers of utterances from student teacher and students as pupil

before and after Reask Instruction.

児童の発話

(Utterances from student as pupil)

教師の発話 (Utterances from student teacher)

教⽰前 (Before instruction)

9 [39%] 14 [61%]

教⽰後 (After instruction)

39 [46%] 46 [54%]

うの?」「なぜ⼸⽮の練習などして強くならないといけないの?」など,児童の発⾔に応じた Reask を考え,児童との発⾔を⾏っていた。

児童の発話数の増加については,教師の Reask により児童の付け加えの意⾒や返答が増

えたということだけでなく,児童が発⾔した話題に教師が興味を⽰し、Reask することで話題になっていることへの興味が増し,話し合いが活性化したことも⼤きな要因であると考

えられる。

(2) 話題への思考の深まり 発話数の増加だけでなく,1 つの話題についてのやりとりが⻑くなっていることが図を

⽐較して⾒て取ることができる。これは,Reask により,話題についての思考が豊かなもの

になっていることを⽰していると⾔える。Reask することにより事実の発⾒をもとに,そ

の意味や時代のイメージを考えたり探ったりできた。その結果,⼀つの気付きからの発⾔

が⻑く続いた。先にあげた例のように,剣や⼸の練習をしていることについて「強くなる

ため」という児童の意⾒に対して「なぜ強くなる必要があるの?」と Reask することで,

武⼠台頭の背景に迫る学習につながっていく。

また,ここでの授業プロトコルを詳しく⾒ると,1 つの話題について複数の児童が発⾔

している。すなわち,Reask は発⾔した児童にだけ問い返すことではなく学級全体に対し

て問いかける機能も持っているということである。

(3) 学⽣の振り返りについての検討 以下に⽰すのは,参加した学⽣の主な振り返りである。

l ⼦供の発⾔回数が⼤きく増え,授業時間も延びた。

l 掘り下げなくていいところまで掘り下げている印象をうけた。もっと学習内容の焦点化をはかりたい。

l Reask 前に⽐べて,Reask 後では個⼈間の発⾔回数のばらつきが減り,みんなが発⾔

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していた。 l Reask後の⽅が,授業をスムーズに進められていたと思う。ただ,児童の発⾔のどこ

までを授業に採⽤していくかを,瞬間的に判断するのが難しく,授業が⻑くなってしまった。

授業者にとって Reask は,授業を児童主体に進めやすいものであるという実感をもった

ようである。児童の発⾔を詳しく聞いていくことで内容が豊かに理解されていくという機能を Reask は持っている。それは児童にとっても同様で、Reask されることで内容理解が進み,教材への興味が増し,その結果として個⼈間の発⾔回数のばらつきが減る傾向となると考えられる。

しかし,どこまで Reask したらよいのかわからず授業が⻑引いてしまう懸念がある。授業のねらいや授業の各学習過程での学習内容を授業者として明確に持っておくことが⼤切だと⾔える。 6.2. 調査Ⅱ 6.2.1. ⽅法 調査Ⅱは,筆者らの所属する N ⼤学⼤学院 2 年⽣,学⽣ B の Reask 教⽰前後の実践授業

を⽐較検討することにより Reask の効果について考察する。Reask モデルについての教⽰は,筆者の⼀⼈である藤原がゼミの時間を利⽤して 2回にわたって⾏った。教⽰の内容は,Reask モデルの知識観,授業観,Reask の⽅法について教⽰し,そのマイクロティーチングを⾏った。

院⽣ B は 4 ⽉から N 市内の公⽴⼩学校に週 2〜3 回のインターンシップを実施しており,Reask モデルの教⽰の前後で授業実践を⾏ったため院⽣ B の授業を調査対象としたものである(Table 3)。

Table 3. Schedule and Contents of Survey II. 授 業

(Lesson) 実施⽇ Date

実施内容 (Contents of lesson)

教 材 (Teaching material)

授業 1 (Lesson 1) 2018年 5 ⽉ 31⽇ 実践授業

(Teaching Practice) 6 年社会『武⼠があらわれる』(導⼊) Grade 6, Japanese History [11th century]

授業 2 (Lesson 2)

2018年 6⽉ 8 ⽇ 2018年 6⽉ 15 ⽇

Reask モデル教⽰+ マイクロティーチング (Reask Instruction + micro-teaching)

6 年社会『全国統⼀への道』(導⼊) Grade 6, Japanese History [16th century]

授業 3 (Lesson 3)

2018年 6⽉ 19⽇ 実践授業 (Teaching Practice)

6 年社会『元との戦い』(導⼊) Grade 6, Japanese History [13th century]

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6.2.2. 結果と考察 (1) 児童の発話数および発話者数の増加

Reask 教⽰前の実践授業の導⼊部分である“武⼠の館の挿絵を⾒て気がついたこと”を発表し合う場⾯と、Reask 教⽰後の実践授業の導⼊部分である“元とのたたかいの後,ほうびをもらえなかった御家⼈について”話し合う場⾯について分析した。

Table 4 は,Reask 教⽰前後の授業における児童及び教師の発話数を表したものである。扱った教材が違い,また授業時間も違うため単純に⽐較はできないものの授業全体に占める児童の発話は⼤きく増加している。Figure 7 の授業記録にみられるように教⽰前授業の授業者の発話のほとんどが児童の発話の復唱であり,そのため話題が深まることなく,次々と話題が移っていっている。

Table 4. Numbers of utterances from student teacher and pupils

before and after Reask Instruction.

児童の発話

(Utterances from student as pupil)

教師の発話 (Utterances from student teacher)

教⽰前 (Before instruction) 69 [42%] 96 [58%]

教⽰後 (After instruction) 72 [50%] 73 [50%]

Figure 7. Diagram of a part of protocol from a lesson by Student B [Before Reask instruction]

復唱 Simple Repetition

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Figure 8. Diagram of a part of protocol from a lesson by Student B [After Reask instruction]

しかし,Figure 8に⽰すように,教⽰後の授業では,「なんでふざけんじゃねえってなっ

たん?」など児童が考えた理由を Reask することで考えの根拠を引き出している。それが児童の発話数の増加につながっていると考えられる。また,考えの根拠を Reask することで話題に対する理解の深まりが⽣まれ,その時代のイメージを持つ結果につながっていると考えられる。

授業者の印象として,教⽰前は発話者も少なく偏りがあったが,教⽰後の授業ではより多くの児童の発⾔があったとしている。Reask によって,より児童の授業への参加が促され,児童主体の授業に近づけることになったといえる。

これらの結果は、Reask により児童の思考が刺激され考えの⼀段奥にある考えを引き出すことになり,授業をより児童主体のものに近づけることになったといえる。 (2) Reask による受容の効果

児童の発話数及び発話者数の増加について述べたが,実は Reask した結果として増加したというだけでなく、Reask という⾏為の前提として,児童の意⾒を⼀旦受け⽌め,⼀⼈の考えとして認めた上で Reask することになるので,⾃分の意⾒が受容されたという安⼼感が発話数及び発話者の増加につながったのではないかと考えられる。また,教師がこのような態度で Reask することで学級に受容的な雰囲気が⽣まれ,児童にとって発⾔しやすい雰囲気が⽣まれたと考えられる

このことから,Reask を⾏う上でどう Reask するかということも⼤切であるが,それ以

Reask で理由を問う

⽴場になって考えさせる Reask

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前に児童の意⾒をどう受容的に,興味深く聴くかという授業者の聴く構えが重要であるということが⾔えるだろう。 (3) Reask による思考の深まり

教⽰後の授業は,元との戦いに勝ったものの,御家⼈に領地を与えることができず幕府が弱体化していくきっかけを扱う部分である。児童に御家⼈の不満を想像させながら「ほうびくれんかったから」という児童の意⾒に「ほうびってなに?」と Reask することにより「領地」という当時最も重要だったものに焦点を当てている.また⼀⽅で,Reask により,ほうびとしてあげる領地がなく窮している幕府にも⽬をつけることに話し合いが及んでいる。

このように、Reask は,児童の思いつきの考えであったり,思考の⼀番表⾯にある事柄に対して,その理由を問うたり,詳しく説明を求めたりすることを通して,児童の思考の⼀段奥にあるものを引き出したり,改めて考えた根拠に思いを馳せたりさせる効果があると考えられる。

(4) Reask により児童の理解の様⼦を把握できる

教⽰前の授業では,ほとんど Reask は⾒られず,児童の発⾔の復唱であった。「⼸⽮の練習をしている。」という意⾒を児童が⾔っているが,そこから児童が何を理解しているかは⾒えない。ここで「なぜ⼸⽮の練習をしてると思う?」と Reask すれば武⼠のくらしに対する児童の理解の仕⽅が⾒えてくる。

教⽰後の授業では,褒美をくれなかったことに対して⼀⼈の児童が「けち」と発⾔した。授業者の「なんでけちっていったん?」という Reask に対して,「だって,どうせいっぱい蓄えてるくせにくれない」という児童の反応。その時代に対する児童の理解が表れている。児童の理解の様⼦がわかれば,授業者として次にどういう資料や課題を設定すればよいか検討することができる。

Reask は児童の理解の様⼦をはかりながら授業を進めていく上で有効である。

7. まとめと今後の課題 調査Ⅰ,調査Ⅱを通して,Reask を中⼼に授業を進めていくことは,児童の気づきを出発点とした授業づくりとして,また,そこから児童の考えを探り,引き出しながら進める授業づくりとして有効であることがわかった。

Reask の効果として次の点を挙げることができる。 l 児童の発話数および発話者が増え,授業が活性化しより児童主体のものになる。 l 児童の思考が深まり,教材と⼦どもとのつながりが強くなる。

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l 児童の理解の様⼦を把握しながら授業を進めることができる。 しかし,⼀⽅で課題も⾒られた。 l どこで,どこまで Reask したらよいか判断が難しい。 l ねらいとの関係で Reask の内容も検討する必要がある。

これらの課題について検討すると共に,今回の調査は社会科だけであったが,他教科に

ついても調査研究をさらに進めたい。 引⽤・参考⽂献 シェドロフ, N. (2001). 理解の外観. ワーマン, R.S. (著), ⾦井哲夫(訳). それは「情報」で

はない, pp. 61-64. エムディエスコーポレーション. [cf. Shedroff, N.. Figure of Understanding spectrum. In: Robert Jacobson (Ed.). Information Design. MIT Press, Cambridge, MA, 1999.]

野村 篤・森 康彦 (2017). 合同ゼミ形式によるマイクロティーチングの効果についての事例的研究. 鳴⾨教育⼤学研究紀要, 32, 188-202.

前川勇太 (2019). 児童が考え合う場をつくるための⼿⽴てについて. 2018年度鳴⾨教育⼤学⼤学院 学校教育研究科 ⾼度学校教育実践専攻 最終成果報告書.

森 康彦・⽊下光⼆・藤原伸彦・若井ゆかり (2018). 学⽣の授業実践⼒向上を⽬指したReask モデルの構築. 鳴⾨教育⼤学 学校教育研究紀要, 32, 199-207.

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Appendix. Leaflet on Reask. Page 1 Page 2

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