rootless wanderer - trip with hpn - spl edition

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Special Edition

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FRM Vol.46に掲載した「Rootless Wanderer」の特別編です。

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Page 1: Rootless wanderer - Trip with HPN - Spl Edition

Special

Edition

Page 2: Rootless wanderer - Trip with HPN - Spl Edition

目的地だけ決めておく。あとは適当にフラフラ。そんな旅のストーリー。

迷う、時間を失う、トラブルが発生する、進めなくなる……日常生活では出来るだけ避けたいそんなことが、時に旅を深く記憶に刻むエッセンスとなったりする。だから、旅は面白い。やめられない。また行きたい。そんなことを考えさせられた、素晴らしい仲間との3デイ・トリップ・ストーリー。

photo and text by Katsuhisa Mikami

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Page 3: Rootless wanderer - Trip with HPN - Spl Edition

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Page 4: Rootless wanderer - Trip with HPN - Spl Edition

800〜1100ccの排気量をもつだけに、高速での移動もらく。左・三橋+HPN Rally Sport、右・篠原+HPN Baja

*HPN = BMWのGSシリーズをベースに、顧客の要望に合わせたオリジナル・モーターサイクルを制作するカスタムビルダー。1980年代にパリダカで活躍したBMWファクトリーマシンを制作していたことで有名

旅のスタートは、練馬にある篠原さんの会社だった。SSERは主催する北海道4デイズというラリーで知り合い、その後も忘年会などで顔を合わせていた彼は、練馬で英国製のスポーツカーであるロータスを扱うショップを経営している。その彼から、相談を受けたのだ。「HPN*が欲しい、あるいは乗っているというような仲間のための場所を作ろうと思っている。ついては、そのマインドを伝えるようなストーリーを作れないか?」というものだった。でも、穏やかなほほえむ目の奥には、僕と三橋淳

(パリダカドライバー)が3年前に行った、北海道〜東北のような旅に行きたいだけなんじゃないか、と、僕は感じたのだ(笑)。

初めてのメンバーで行く適当3デイズ。ただしバイクは3台ともHPN。

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Page 5: Rootless wanderer - Trip with HPN - Spl Edition

転倒

 意外なほど乗りやすい。関越道の

三芳パーキングで待ち合わせた僕と

篠原さん、そして三橋の3人は、それ

ぞれ仕様の異なるHPNに乗ってワイ

ンディングを走っていた。

 関越を本庄児玉ICで降り、国道462

号で西へ。ところどころダートの残

る御荷鉾林道(20年前は日本最長級

の林道だった)を走って佐久方面に

向かおうというプランだった。

 道案内は、僕だ。短いけれど、ちょっ

とガレていて面白い名無村林道を抜

けて、富岡方面に向かっていた。セ

ンターラインのない細いワインディ

ングからは、日本の原風景のような

山村の風景が広く望める。自然のま

まのものだろう広葉樹と、植林らし

き針葉樹とが急傾斜の斜面を覆って

いる。その斜面と斜面の間の、狭い

エリアには細い川と、肩を寄せ合う

ように立つ住宅が並ぶ。そして、そ

の家のまわりには、よく耕されたい

い土の色をした畑が隙間を埋め尽く

すように広がっている。ところどころ、

黒く輝く、水が張られた田んぼも。

川の上には、川を跨ぐようにたくさ

んの鯉のぼりがかけられているとこ

ろもある。美しい。

 東京では桜はとっくに咲き、もう

散ってしまっていたが、このあたり

ではまだポツポツと桜が花を咲かせ

て春らしい雰囲気を盛り上げている。

そんな谷間を、HPNならではの高い

乗車位置から見下ろしながら、ごく

狭いワインディングを下っていた。

 おそらく地元の農家の方だろう、

軽ワンボックスカーに追いついた。

僕らのほうがペースが速いので抜き

たいのだが、道幅が狭く、カーブも

連続しているので、軽が道をゆずっ

てくれないと抜くことはできない。

 しかたない、のんびり行こう……

と思い、左側の美しい山村の風景に

ふと視線を送った。これがまずかった。

 はっとしたときには、目の前で軽

が止まりかけていた! 僕はフルブ

レーキングしたが、だめだ、間に合

わない! 決して軽くはないHPNだ。

それにタイヤはオフロードタイヤ。

ぎゅううっとフロントブレーキレバ

ナーを握ったが、タイヤのブロック

は舗装の上で虚しく滑っていく。

 あと50cm、30cm、と軽のテール

ランプが近づく。だめだ、ぶつかる!

と思った瞬間に、転倒した。立ちゴ

ケくらいの速度だと思っていたのだ

が、僕は振り落とされるように左側

のガードレールに投げつけられ、ヘ

ルメットのバイザーがガードレール

にあたって地面に押しつけられた。

 後ろから、篠原さんと三橋がやっ

てきて、かなり緊迫した声で「大丈

夫? 無理して動かないで!」と言う。

 僕は足がHPNに挟まれていて、動

けずにいたのだけど、彼ら2人がよい

しょ、と起こしてくれた。

 体はどこも痛くなかった。

 軽の運転手だろうおじさんがクル

マから降りてきて、「あんたらスピー

ド速いから抜かせてあげようと思っ

たんだけど……」とおそるおそる遠

くから言う。

 僕らは、いやいや、僕たちが悪い

んです。大丈夫です、と言って、お

今回使用した3台のHPNのうち、最もオフロード色の強いHPN BajaはR80G/Sのエンジン、車体をベースにツインショックで仕上げたもの。800ccとは思えないほど軽快

2000年にBMWファクトリーマシンに試乗した経験のある三橋が「ファクトリーマシンに近い乗り味がする」と絶賛だったHPN Rally sport

左、篠原祐二さん(詳細はP.37)。今回のツーリングの発起人(大げさか)。右は三橋淳、本誌でもおなじみのプロクロスカントリーラリードライバー。2013年のダカールは残念なリタリアに終わったが、2014年もチームランドクルーザーからダカールに出場、市販車クラス優勝を奪回する予定

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Page 6: Rootless wanderer - Trip with HPN - Spl Edition

みかぼ高原荘から富岡方面へと下る県道。センターラインもなく路面には落ち葉や砂が浮いているが、それでもHPNだと楽しい。楽しすぎてオーバーランしちゃったけど……

行き止まりの林道に入り込み、戻る6

Page 7: Rootless wanderer - Trip with HPN - Spl Edition

じさんにはそのまま行ってもらった。

俺がよそ見をしていたのが悪い。

 じつは、その前にも僕は一度道か

ら飛び出しそうになっていたのだ。

僕が乗っていたHPNは、篠原さんが

ラリーモンゴリアで使った大柄なモ

デルなのだが、これが見た目の巨体

と裏腹にじつに軽快に走る。

 このサイズのバイクにもなれば、

乗っているときにハンドルが遠く、

どうしても狭く滑りやすい道では

おっかなびっくりな走りになってし

まうものだが、このHPNにはそうし

た巨体感が(乗っている限りは)ない。

ちょっと大きなオフロードバイクに

乗っているような感覚なのだ。

 それで、飛ばし過ぎた。転倒を喫

する10分くらい前に、ワインディン

グの下りでコーナーを曲がりきれず

に飛び出しそうになったのだ。ブレー

キングしようとしたポイントの路面

に砂が浮いていたのが原因だが、な

んとか道路の端にあった縁石にタイ

ヤを当てて持ち直し、事なきを得た。

その10分後に転倒してしまった。

 価格は正確には知らないが、300万

円は下らない高級車だ。それを転倒

させてしまって、篠原さんには本当

に申し訳ない。

破損箇所と応急処理

 三橋が「ああ、オイルが漏れている」

と、黒く濡れた路面の先をたどって

いくと、左側のヘッドカバーが凹み、

穴が空いているのが見えた。あちゃー。

3人とも、ガムテープも、もちろんデ

ブコン(金属補修用の粘土のような

もの)も持ってきていない。

 すると、篠原さんが「とりあえず

引っ繰り返しましょう」と言う。な

んと、この頃のBMWのヘッドカバー

は、180度上下を回転させて取り付け

られるそうなのだ。穴が空いたのは

下側だから、それを上にもってくれ

ばオイルの流出量は減るはず。なる

ほど!

 篠原さんがてぎわよくヘッドカ

バーを反転させながら、「いや首大丈

夫ですか? 凄い角度で首が曲がっ

てましたよ」と言う。

 三橋も「あ、こりゃ(旅が)終わっ

たなと思った」と言う。後ろから見

ると、それくらい痛そうな転倒だっ

たそうだ。どこか折れてるんじゃな

いかってくらい。だけど、僕はわず

かに指先に痛みを感じるくらいで

まったくの無傷だった。

 1cmくらいあいた穴を、僕がカメ

ラのレンズに巻いていたテープでふ

さぎ、応急修理は終了。富岡の街で

修理材を買って昼飯を食おう、とい

うことにして再スタートした。

 ヘッドカバーに穴を開けてしまっ

たのも悪かったが、もっとショック

なことには(たぶん貴重なものだろ

う)ピカピカのヘッドライトカウル

も傷つき、割れていた。篠原さん、

本当すみません……。

HPNならではの目的地

 旅の目的地は、なぎさドライブウェ

イだった。富山県、能登半島の付け

根にある千里浜(ちりはま)を走れ

る自動車道だ。

シリンダーヘッドカバーを外して裏返す。これでとりあえずほとんどオイル漏れはなし

この2人は結構ガタイがいいので、大柄な車格のHPNがよく似合うね。悔しいわ

ホームセンターでエポキシとガムテープを買って修理中

富岡郊外から富岡へ。美しい山並みを背後に気持ち良く走る

買った物。やっぱもってっといたほうがいいね。金属用のエポキシ補修材

名無村林道は名無村(ななむらと読む)に続く林道。凄い名前の村だわ

BMW純正のGS用車載工具。いいつくりと品揃え。袋もいい感じ

御荷鉾高原荘近くからの眺め。関東にも素晴らしい眺めの場所があるなあ

100GSのヘッドカバーは上下逆でも使えるのだ

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Page 8: Rootless wanderer - Trip with HPN - Spl Edition

この続きはFRM Vol.46でお楽しみください。

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