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Studies on Rhodium- and Ruthenium-Catalyzed Carbonylation Reactions by Utilization of Chelation Assistance おび触媒に配位 用いた化反応 要旨 2009 大阪大学大学院工学研究科 応用化学専攻 博士後課程3年 井上 聡

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Studies on Rhodium- and Ruthenium-Catalyzed

Carbonylation Reactions by Utilization of

Chelation Assistance

ロジウムおよびルテニウム触媒によるキレート配位を

用いたカルボニル化反応

要旨

2009年

大阪大学大学院工学研究科

応用化学専攻 博士後期課程3年

井上 聡

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1

―緒言緒言緒言緒言―

有機合成化学において、位置選択的もしくは立体選択的な反応の開発は重要な課題であ

る。位置や立体を制御する方法の多くは立体的や電子的な要因を用いるが、その他の有用な

方法の一つとして配位の利用がある。配位を利用することで Liや Mg、Alや Znなどの典型金

属を導入し新たな金属種を発生させ、立体選択的な反応を行ってきた1。またキレート配位を

用いることにより、量論量の Liや Mn、Pdなどの金属を用いた位置選択的な炭素-水素結合

のメタル化も行われきた2。これら配位を利用した方法は、量論的な炭素-水素結合の変換反

応において有用な方法であった。位置選択的な炭素-水素結合の先駆的な触媒反応の研究は、

Lewis と Smith らによるフェノールのオルト位選択的なエチル化が挙げられる3。その後、

Jordan4および Moore5らによってピリジン類のα位炭素-水素結合のアルキル化およびカル

ボニル化が報告されたが、使用可能な基質に大きな制限があった。1993年、当研究室におい

て芳香族ケトンのオルト位炭素-水素結合のオレフィンへの付加が高効率・高選択的に進行

することを見出した6。この反応では、カルボニル酸素の金属への配位が重要となっている。

この報告以来、キレート配位を利用した方法は一般的な手法の一つとなり、位置選択的な炭

素-水素結合が触媒的に変換可能となった7。さらに、配位を利用することによって、これま

で不活性とされてきた C-F 結合8や C-O 結合9、C-N 結合10の触媒的変換反応も見出され

た。これらのように配位を利用することによって、新しい形式の触媒反応の開発が行えると

考えられる。

当研究グループでは特に、直接カルボニル化反応について検討を行っている。今まで、様々

な含窒素化合物の位置選択的な炭素-水素結合の直接カルボニル化反応を見出してきた。一

例として、触媒量のルテニウムカルボニル存在下、フェニルピリジンと一酸化炭素、エチレ

ンの反応を行うと、オルト位選択的な炭素-水素結合のカルボニル化反応が進行することを

報告している11。この反応では、ピリジン窒素の金属への配位による5員環メタラサイクルの

生成が鍵過程であることが明らかとなった。そこで私は、このヘテロ原子のキレート配位を

1 a) Reetz, M. T. Angew. Chem., Int. Ed. 1984198419841984, 23, 556-569. b) Hoveyda, A. H.; Evans, D. A.; Fu, G. C. Chem. Rev. 1993199319931993, 93, 1307-1370. 2 Omae, I. Chem. Rev. 1919191979797979, 79, 287-321. 3 Lewis, L. N.; Smith, J. F. J. Am. Chem. Soc. 1986198619861986, 108, 2728-2735. 4 a) Jordan, R. F.; Taylor, D. F. J. Am. Chem. Soc. 1981981981989999, 111, 778-779. b) Rodewald, S.; Jordan, R. F. J. Am. Chem. Soc. 1919191994949494, 116, 4491-4492. 5 Moore, E. J.; Pretzer, W. R.; O’Connell, T. J.; Harris, J.; LaBounty, L.; Chou, L.; Grimmer, S. S. J. Am. Chem. Soc. 1919191992929292, 114, 5888-5890. 6 Murai, S.; Kakiuchi, F.; Sekine, S.; Tanaka, Y.; Kamatani, A.; Sonoda, M.; Chatani, N. Nature 1993199319931993, 366, 529-531. 7 a) Directed Metallation; Chatani, N., Ed.; Topics in Organometallic Chemistry, Vol. 24; Springer: Berlin, 2007. b) Kakiuchi, F.; Kochi, T. Synthesis 2008200820082008, 3013-3039. 8 Ishii, Y.; Chatani, N.; Kakiuchi, F.; Murai, S. Chem. Lett. 1998199819981998, 157-158. 9 Kakiuchi, F.; Usui, M.; Ueno, S.; Chatani, N.; Murai, S. J. Am. Chem. Soc. 2004200420042004, 116, 2706-2707. 10 Ueno, S..; Chatani, N.; Kakiuchi, F. J. Am. Chem. Soc. 2007200720072007, 129, 6098-6099. 11 Chatani, N.; Ie, Y.; Kakiuchi, F.; Murai, S. J. Org. Chem. 1997199719971997, 62, 2604-2610.

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利用することで発生する5員環メタラサイクルを新たなカルボニル化反応の開発に適用でき

ないかと考え、研究を行ってきた。

第一章では、分子内に配位可能な窒素を持ったアルコールと内部アルキンのヒドロエステ

ル化反応を述べる。

第二章では、分子内に配位可能な窒素を持ったアミンと内部アルキンの環化カルボニル化

反応について述べる。

第三章では、ルテニウム触媒による芳香族アミドのオルト位選択的な炭素-水素結合のカ

ルボニル化について述べる。

― 第第第第一一一一章章章章 ―

ロジウムロジウムロジウムロジウム触媒触媒触媒触媒によるによるによるによるアセチレンアセチレンアセチレンアセチレンへのへのへのへのダブルヒドロエステルダブルヒドロエステルダブルヒドロエステルダブルヒドロエステル化反応化反応化反応化反応

ヒドロエステル化反応は、アルケンなどの不飽和化合物などとアルコール、一酸化炭素か

ら一段階でエステルを合成できる有機合成上有用でかつ原子効率の高い反応であり、Coや

Pdなど種々の遷移金属が触媒として用いられている12。これまでの報告では高温、高圧また

は強酸か強塩基が必要であり、適用できるアルケンは一置換に限定される場合が多かった。

しかし最近になり、Alperらがデンドリマーに担持した Pd触媒を用いることで、温和な条件

でも一置換アルケンのヒドロエステル化が進行することを報告した13。また、当研究室におい

ても窒素の配位を用いることにより、ロジウム触媒存在下で一置換もしくは二置換アルケン

とのヒドロエステル化が進行することを報告した(式 1)14。この反応条件下、配向基であるピ

リジル基を持たないアルコールを用いると反応は進行しない。

アルケンと同様に、アルキンとアルコールとのヒドロエステル化反応も良く知られており、

Ni, Co, Fe, Pd, Ptの遷移金属錯体が触媒として用いられている。これらの反応では、通常、

1度のヒドロエステル化反応が進行しα,β-不飽和エステルを生成する (Scheme 1Scheme 1Scheme 1Scheme 1)。

12 For reviews on carbonylation reactions, see: a) Mullen, A. In New Synthesis with Carbon Monoxide; Falbe, J., Ed.; Springer-Verlag: Berlin, 1980. b) Colquhoun, H. M.; Thompson, D. J.; Twigg, M. V. Carbonylation. Direct Synthesis of Carbonyl Compounds; Plenum Press: New York, 1991. c) Ali, B. E.; Alper, H. In Transition Metals for Organic Synthesis; Beller, M., Bolm, C., Eds.; Wiley-VCH: Weinheim, 1998; 49. d) Kiss, G. Chem. Rev. 2001200120012001, 101, 3435-3456. e) Chiusoli, G.; Costa, M. In Handbook of Organopalladium Chemistry for Organic Synthesis; Negishi, E., Ed.; Wiley-Interscience: New York, 2002; Vol. 2. 13 Reynhard, J. P. K.; Alper, H. J. Org. Chem. 2003200320032003, 68, 8353-8360. 14 Yokota, K.; Tatamidani, H.; Fukumoto, Y.; Chatani, N. Org. Lett. 2003200320032003, 5, 4329-4331.

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また、アルキンに 2分子あるいは 3分子の一酸化炭素を導入することは、1度に多くの官

能基を導入することができるといった利点がある。しかし、このような反応は Pdや Rh錯体

を触媒に用いた反応が数例報告されているのみである15。今回、アルコールとして 2-ピリジ

ンメタノールを用いると形式的に 2回のヒドロエステル化が起こった 1,4-ジエステル体が

効率よく得られることを見出した。

ロジウム触媒存在下、4-オクチン (2 mmol)と 2-ピリジンメタノール (2 mmol)を一酸化

炭素加圧下で反応を行うと、形式上2回のヒドロエステル化が進行した 1,4-ジエステル体 3333

が高収率で得られた。また、副生成物として、ヒドロエステル化体 4444とフラノン誘導体 5555が

生成した (Scheme Scheme Scheme Scheme 2222)。しかし、配位可能な窒素を持たないベンジルアルコールで反応を行っ

たところ目的生成物は全く得られなかった。

アルキンのダブルヒドロエステル化反応は、両末端をエステル基により活性化されたアル

キンを用いた場合にのみ反応が進行することが報告されている (式 2)16。

15 Pd: a) Gabriele, B.; Sarerno, G.; De Pascali, F.; Costa, M.; Chiusoli, G. P. J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1 1983198319831983, 147. b) Alper, H.; Despeyroux, B.; Woell, J. B. Tetrahedron Lett. 1983198319831983, 24, 5691-5694. c) Izawa, Y.; Shimizu, I.; Yamamoto, A. Bull. Chem. Soc. Jpn. 2004200420042004, 77, 2033-2045. d) Izawa, Y.; Shimizu, I.; Yamamoto, A. Chem. Lett. 2005200520052005, 34, 1060-1061. Rh: a) Hong, P.; Mise, T.; Yamazaki, H. Chem. Lett. 1981198119811981, 10, 989-992. b) Mise, T.; Hong, P.; Yamazaki, H. J. Org. Chem. 1983198319831983, 48, 238-242. c) Joh, T.; Doyama, K.; Onitsuka, K.; Shinohara, T.; Takahashi, S. Organometallics 1991199119911991, 10, 2493-2498. d) Yoneda, E.; Kaneko, T.; Zhang, S.-W.; Onitsuka, K.; Takahashi, S. Tetrahedron Lett. 1919191999999999. 40, 7811-7814. 16 Tsuji, J.; Nogi, T. J. Org. Chem. 1966196619661966, 31, 2641-2643.

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本反応における遷移金属錯体の検討を行った (Table 1Table 1Table 1Table 1)。Rh4(CO)12や Rh6(CO)16といった

ロジウム 0価錯体のみが触媒活性を示し、その他の金属錯体は触媒作用を示さなかったこと

からロジウム 0価錯体特有の反応であることがわかった (entries 1 and 2)。

次に、様々なアルキンの検討を行った。種々の内部アルキンが、良好な収率で目的の生成

物を与えた。しかしながら、エステルにより活性化されたアルキンや末端アルキンでは、複

雑な反応系となり目的の生成物は得られなかった (FigureFigureFigureFigure 1 1 1 1)。

本反応は新しい形式のカルボニル化反応であるため、反応機構に興味がもたれる。そこで、

反応機構解明のため、いくつかの検討を行った。まず、本反応の副生成物が中間体となって

いるのではないかと考え、内部アルキンの代わりに副生成物である不飽和エステル4444を加え

反応の検討を行った (式 3)。しかし、目的の生成物は全く得られず、原料 4444が 96%回収され

た。この結果は、副生成物である不飽和エステル4444は中間体ではないということを示してい

る。

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同様に、反応系に副生成物であるフラノン 5555を加え反応を行ったが、前記と同じで原料 5555

が 94%回収された (式 4)。これらのことより、副生成物は反応中間体でないことがわかった。

次に、2-ピリジンメタノールとベンジルアルコールを 1:1の比とし反応を行った。する

とこれまでの生成物 3333がわずかに与えるのと同時に、それぞれアルコールが 1分子ずつ導入

された 1,4-ジエステル体 6666を新たに主生成物として与えた。しかし、ベンジルアルコールだ

けが2分子導入された 1,4-ジエステル体 7777はまったく検出されなかった。

これまでの実験結果より、想定した反応機構を Scheme Scheme Scheme Scheme 4444に示す。ロジウム触媒にピリジ

ン窒素が配位した後、分子内のアルコールが配位している一酸化炭素を攻撃するとアシル-

ロジウム種 8888を生成する。アシル-ロジウム種がアルキンへ付加した後(8888→9999)、一酸化炭素

が挿入し中間体 10101010を生成する。つぎに中間体 10101010にある矢印のように電子が流れケテン 11111111

が生成した後、2分子目のアルコールがケテン炭素を攻撃することで、1,4-ジエステル体が

生成する。中間体 11111111としてケテンが発生するため、配向基をもたないアルコールでもケテン

炭素を攻撃できるため、1,4-ジエステル体 3333と 6666の両方が生成する。しかし、反応が進行す

るためには窒素原子の触媒への配位が必要なため 2分子のベンジルアルコールが導入された

1,4-ジエステル体 7777は生成しない。

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本系では、アルキンのダブルヒドロエステル化反応を達成することができた。ピリジン窒

素の配位とケテンの発生が、反応進行の鍵過程となっており、これまでに困難であった電子

的に活性化されていないアルキンへの適用が可能となった。

― 第第第第二二二二章章章章 ―

ロジウムロジウムロジウムロジウム触媒触媒触媒触媒によるによるによるによるアセチレンアセチレンアセチレンアセチレンととととアミンアミンアミンアミンのののの環化環化環化環化カルボニルカルボニルカルボニルカルボニル化反応化反応化反応化反応

アミンと一酸化炭素による反応は、アミドを合成できる有用な反応であり、Pdや Rh触媒

存在下、アリールハライドと反応することで、芳香族アミドが合成できる。Ruや Ni、Fe、

Co触媒存在下でアルケンを反応させることで、ヒドロアミド化が進行し、不飽和アミドが合

成できる 12b。さらに、このアルケンの分子内ヒドロアミド化を利用しβ-ラクタム17や 2-ピリ

ドン18、ピロール19といった含窒素複素環の合成が行われている。前章では一酸化炭素存在下、

アルキンと配位可能なアルコールによるダブルヒドロエステル化反応を見出した。この系で

は、分子内にピリジン窒素の存在することで鍵中間体が発生している。そこで、本章では、

アミンを用いた場合にも同様の中間体が発生するのではないかと考え検討した。

4-オクチン (2 mmol)と 2-ピリジンメタノール (1 mmol)を一酸化炭素加圧下、

Rh4(CO)12を触媒に用いて反応を行った。するとヒドロアミド化体 14141414の他に不飽和体である

マレイミド誘導体 11113333が得られた (Scheme 5Scheme 5Scheme 5Scheme 5)。これに対して、ベンジルアミンを用いた場合

17 Berryhill, S. R.; Price, T.; Rosenblum, M. J. Org. Chem. 1919191983838383,,,, 48, 158-162. 18 Barfacker, L.; Hollmann, C.; Eilbracht, P. Tetrahedron 1998199819981998, 54, 4493-4506. 19 Buchwald, S. L.; Wannamaker, M. W. S.; Watson, B. T. J. Am. Chem. Soc. 1919191989898989,,,, 111, 776-777.

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には、ヒドロアミド化体とジヒドロアミド化体が得られたが、マレイミド誘導体は得られな

かった。この結果よりマレイミドが生成するためには、ピリジン窒素が必要であることがわ

かった。

次にこのマレイミド 13131313の収率の向上を目指し、添加剤の検討を行った (Table 2Table 2Table 2Table 2)。添加剤と

して、PPh3や P(OPh)3を加えた場合には収率が低下した (entries 1 and 2)。P(OEt)3を加えた場

合に収率が向上し 100 ℃のときに最も良い収率を与えた (entries 5-7)。

最も良い収率で生成物を与えた entry 6を標準条件として、種々のアルキンの検討を行った。

内部アルキンのとき効率よく反応が進行した。末端アルキンのときは低収率となった

(Figure 2Figure 2Figure 2Figure 2)。この結果は、前章で述べたアルコールを用いた場合の結果と類似している。

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本反応で得られる生成物は、飽和体のスクシンイミド 15151515でなく不飽和体であるマレイミド

13131313である。そこで反応機構を次のように仮定した。まず前章の反応と同様に反応が進行し、

ケテン中間体が発生する。その後、分子内のアミンがケテン炭素を攻撃することでスクシン

イミド 15151515を生成する。その後、脱水素反応が起こることにより目的化合物 13131313が生成すると

考えた (Scheme Scheme Scheme Scheme 6666)。

そこで飽和体であるスクシンイミドを別途合成し検討を行った。しかし、目的の生成物 13131313

は得られず、原料 15151515が回収されたのみであった (式 5)。

反応機構の検討の結果から想定される反応機構の中の 1つを Scheme 7Scheme 7Scheme 7Scheme 7に示す。

まず、ピリジン窒素がロジウムへ配位し、アミンがロジウム上に配位している一酸化炭素

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を分子内攻撃することによりアシルロジウム種が生成する(12121212→16161616)。ここまでは前章の 2-ピ

リジンメタノールを用いた場合と同じである。次に、アシル-ロジウム種から脱水素反応が

起こりイソシアナート錯体 17171717を生成する。このイソシアナートがアルキンと反応することで

メタラサイクルを形成する(17171717→18181818)20。さらに一酸化炭素が挿入することで6員環メタラサイ

クルを生成し、その後、還元的脱離が起こることによりマレイミド 13131313が生成する (18181818→13131313)21。

本章では、アルコールの場合と同様にアミンの場合でも、ピリジン窒素の配位を利用し、

これまでには報告されていない形式のカルボニル化反応を見出した。

― 第第第第三三三三章章章章 ―

2222座配位座配位座配位座配位をををを利用利用利用利用したしたしたしたルテニウムルテニウムルテニウムルテニウム触媒触媒触媒触媒によるによるによるによる炭素炭素炭素炭素----水素結合水素結合水素結合水素結合のののの直接直接直接直接カルボニルカルボニルカルボニルカルボニル化反応化反応化反応化反応

これまでの炭素-水素結合の直接カルボニル化反応は、ピリジンやオキサゾリン、イミン

などの sp2窒素を持つ化合物が必要であり、カルボン酸誘導体を用いた例はほとんどなかっ

た。この理由は、カルボニル基の配位力が弱く、高圧一酸化炭素圧の反応条件下では、基質

の触媒への配位が不十分だったためである。そこで基質に更なる配向基の導入を考えた。つ

まり、これまでの単座の配向基の代わりに、2座の配向基を用いることで触媒への配位力を

向上させることを考えた (Scheme 8Scheme 8Scheme 8Scheme 8)。

2座の配向基を用いた触媒反応の開発は、DaugilusらのPd触媒によるアリール化反応22と

Yuらの Pd触媒によるアルカンから脱水素反応によるオレフィン化23の2例のみである。

まず、配向基として、2-ピリジルメチルアミノ基を利用し、芳香族アミドの直接カルボニ

ル化反応を試みた。Ru3(CO)12触媒存在下、一酸化炭素 (20 atm)とエチレン (7 atm)加圧下、

芳香族アミド (1 mmol)の反応を行った。すると目的のオルト位がアシル化されたエチルケト

ン誘導体 21212121は全く得られず、フタルイミド誘導体 20202020が得られることがわかった (Scheme 9Scheme 9Scheme 9Scheme 9)。

フタルイミド誘導体 20202020の生成においてもオルト位の炭素―水素結合の切断が起こっている

20 Friedman, K. R.; Rovis, T. J. Am. Chem. Soc. 2002002002009999, 131, 10775-10782. 21 Ruを用いた[2+2+2]環化反応が報告されている。Kondo, T.; Nomura, M.; Ura, Y.; Wada, K.; Mitsudo, T. J. Am. Chem. Soc. 2006200620062006, 128, 14816-14817. 22 Zaitsev, V. G.; Shabashov, D.; Daugulis, O. J. Am. Chem. Soc. 2005,2005,2005,2005, 127, 13154-13155. 23 Giri, R.; Maugel, N.; Foxman, B. M.; Yu, J.-Q. Organometallics 2008200820082008, 27, 1667-1670.

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10

ために、この反応に興味を持ちさらなる検討を行った。

まず収率の向上のため、添加剤の検討を行った (Table 3Table 3Table 3Table 3)。エチレンが存在しない場合、反

応は全く進行しなかった (entry 2)。この結果よりエチレンは水素捕捉剤として働いているこ

とがわかる。エチレン以外の水素捕捉剤であるノルボルネンやアクリル酸メチルの検討を行

ったが、エチレン以上の結果は得られなかった (enties 3 and 4)。また、ほかの水素捕捉剤と

してアルデヒドやケトンあるいは酸化剤の検討を行ったが、良い結果は得られなかった。種々

の検討を行っているうちに、水の添加が効果的なことがわかった。水 1当量加えた場合、中

程度の収率であったが、2当量加えた場合 77%まで改善した (entries 5 and 6)。2当量以上

加えた場合はあまり変化がなかった (entry 7)。メタノールや水酸化カリウムを加えた場合に

は、効果が見られなかった (entries 8 and 9)。これらの結果より、水 2等量加えた場合を最

適条件とし、以後の検討を行うことにした。

NH

O

+ CO N

O

O

toluene 3 mL

Table 3. Effect of Additives on Ruthenium-Catalyzed Direct Carbonylation

160 °C, 24 h

20 atm

AdditiveRu3(CO)12 0.05 mmol

isolated yieldadditive

25%none

19 (1 mmol)

77%H2O (2 mmol)a)

47%H2O (1 mmol)a)

33%MeOH (2 mmol)a)

79%H2O (3 mmol)a)

H

no reactionnone

9%

tracenorbornene (2 mmol)

methyl acrylate (2 mmol)

hydrogen accepter

none

none

ethylene (7 atm)

ethylene (7 atm)

ethylene (7 atm)

ethylene (7 atm)

ethylene (7 atm)

none

a) CO 10 atm

complexKOH (2 mmol)a)ethylene (7 atm)

N

N

entry

1

6

5

8

7

2

4

3

9

20

次に配向基についての検討を行った (Figure 3Figure 3Figure 3Figure 3)。まず、ピリジル基をフェニル基 22222222に変え、

反応を行ったがまったく進行しなかった。また、基質中のピリジンが塩基として働いている

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可能性も考えられるため、系中に1当量のピリジンを加え反応を行ったが、まったく反応は

進行しなかった。また、4―ピリジノメチル基をもったアミド 23232323も試したが、反応は進行し

なかった。次に 2-アミノピリジン由来のアミド 24242424やメチレン鎖が長いアミド 25252525でも目的生

成物は全く得られなかった。これらの結果より、適切な位置と距離に存在する窒素が必要で

あるということがわかった。次に、ピリジル基以外の配向基について調べた。キノリン 26262626や

sp2窒素でないジメチルアミノ基 27272727では、全く反応が進行しなかった。また、Daugliusらが

用いたベンジルアミド由来のアミド 28282828でも同様に反応が進行しなかった。これらの結果より

2-ピリジルメチルアミノ基がもっとも良い配向基であることがわかった。

次に、パラ置換体のアミドの置換基効果について検討を行った (Table 4Table 4Table 4Table 4)。電子供与性が高

いと、収率の低下が見られた (entries 1-4)。電子求引性の置換基の場合は、効率よく反応

が進行し、ハロゲンの場合、クロロ基だけでなくブロモ基の場合でもそれらが損なわれるこ

となく反応が進行した (entries 5-9)。反応の傾向として、より電子不足の置換基が存在す

る芳香環の方が、効率的に反応することがわかった。

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次にメタ置換体の位置選択性について検討をおこなった (Table 5Table 5Table 5Table 5)。メタ置換体の化合物で

は立体的に空いている側の炭素-水素結合で反応すると生成物 Aが得られ、立体障害のより

大きい側の炭素-水素結合で反応すると生成物 Bが得られる。この Aと Bの生成比を NMR

測定により決定することで反応における位置選択性について求めた。3位にメチル基を置換

したアミドでは、この反応点の位置選択性はまったくなく、ほぼ 1:1の比で生成した (entry

1)。3位にメトキシ基を置換した場合、11:1と立体的に空いている側の炭素-水素結合で

反応した化合物 Aが優先して得られた (entry 2)。また 3-トリフルオロメトキシ基の場合も

似た結果となった (entry 3)。フェニル基やジメチルアミノ基、アセチル基の場合でも同様の

傾向であった (entries 4-6)。これらの結果より、メタ置換体の反応点の選択性は電子的影

響ではなく、立体の大きさ、つまりより立体的に空いている側の炭素-水素結合で反応する

ということがわかった。3,5-2置換体の場合についても同様に検討を行った。3,5-ジメトキ

シや 3,5-ジブロモの場合でも、問題なく反応は進行した (entries 8 and 9)。メトキシ基とメ

チル基やクロロ基をもったアミドの場合、メトキシ基とは逆の方、つまりより立体的に空い

ている側で反応すると考えられる。実際、立体的に小さいメチル基やクロロ基側の炭素-水

素結合が優先的に反応した (entries 10 and 11)。

次に反応機構の情報を得るために、量論反応を行った。アミド(0.02mmol)と Ru3(CO)12

(0.007 mmol)をトルエン中、触媒反応の時より低い温度である 130 ℃で反応を行った。する

と水やエチレン、一酸化炭素のあるなしに関係なく定量的に生成物が得られた。この生成物

を結晶化することで錯体 AAAAが得られ、X線により構造の決定を行った (FigureFigureFigureFigure 4 4 4 4)。得られた

錯体 AAAAは予想通り、ピリジンの窒素とアミドの窒素でルテニウムへ配位していることがわか

った。そして、アミドのカルボニル酸素が別のルテニウムに配位し、2核構造を取っている

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こともわかった。またアミドの芳香環は、ルテニウム

と違う方向を向いており、この段階ではオルト位の炭

素-水素結合の切断は起こっていなかった。この錯体

は、トリフェニルホスフィンやエチレン、水を加えて

も反応しなかった。

次に得られた錯体 AAAAを Ru3(CO)12の代わりに触媒として用い、標準条件下で反応の検討を

行った (Scheme 10Scheme 10Scheme 10Scheme 10)。すると目的の生成物が良い収率で得られることがわかった。しかしな

がら、添加物の水がない条件で反応を行うと反応は全く進行せず、原料が回収されただけで

あった。この結果より、先ほど得られた錯体 AAAA自身は触媒活性を示さないが、水を添加する

ことで触媒活性種を発生することがわかった。

反応機構の検討の結果より、想定される反応機構を次に示す (Scheme 11Scheme 11Scheme 11Scheme 11)。まず、反応条

件下、ルテニウムカルボニルから単核 Ru種 29292929が生成する。生成した Ru種 29292929に基質 19191919が

配位し、アミドの N-Hと反応することにより、ルテニウム-ヒドリド種となる (29292929→31313131)。

次に、エチレンがルテニウム-ヒドリド間に挿入し、より活性なエチル-ルテニウム種 32323232を

生成する。そして、芳香環のオルト位の炭素-水素結合が切断され、エタンを発生しながら

5員環メタラサイクル 33333333を形成する。その後、一酸化炭素の挿入、還元的脱離を経て、触媒

が再生すると考えている(33333333→29292929)。この触媒サイクルにおいてルテニウムは、すべて単核で

存在していると考えている。

なお先ほどの量論反応から得られたルテニウム2核錯体 AAAAは、ルテニウム-ヒドリド2分

子 31313131から水素が発生することで生成すると考えている。この 2核錯体 AAAAを触媒に用いる場

合に水の添加が必須であったことから、水はこの錯体 AAAAを水性ガスシフトによりルテニウム

ヒドリド 31313131へ戻す役割を果たしていると考えている24。

24 Ru3(CO)12と bipyridineを使うことで温和な条件(100 ℃, CO; 0.52 atm)で水性ガスシフトが

進行することが知られている。Venalainen, T.; Pakkanen, T. A.; Pakkanen, T. T.; Iiskola, E. J. Organomet. Chem. 1986198619861986, 314, C49-C50.

Figure 4. ORTEP Diagram of Complex A

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CO + H2O

N

O

NRu

N

O

N

CO

Ru

O

N

O

O

N

NH

O

N

N

O

NRu

H2C CH2

H

N

O

NRu

Et

CH3CH3

CO2

H

[Ru] [Ru]

Ru3(CO)12

HN

O

NRu

[Ru]

H2

Scheme 11. A Proposed Mechanism of Direct Carbonylation at ortho C-H Bond

29

30

31

32

33

34

1920

complex A

―総括総括総括総括―

本研究では、配位を利用しロジウムを触媒として用いることで、新たなアルコールやアミ

ンの活性化に成功し、従来の炭素-水素結合の切断以外にも新たな形式の反応の開発に成功

した。また、ルテニウムを触媒として用いることで、芳香族アミドの炭素―水素結合の活性

化に成功した。

第一章では、ロジウム触媒によるアルキンへのダブルヒドロエステル化反応について述べ

た。本反応では、これまでに困難であった活性化されていないアルキンへのダブルヒドロエ

ステル化が可能となった。これは、ピリジン窒素の配位を利用することによって、アルコー

ルが活性化され生じるアシル錯体が鍵過程となり反応が進行している。

第二章では、ロジウム触媒によるアミンと一酸化炭素、アルキンからのこれまでにない形

式のカルボニル化反応について述べた。これも前章と同様に、ピリジン窒素の配位を利用す

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ることによるアミンの活性化が鍵過程となっており、イソシアナート錯体が発生していると

考えている。

第三章では、ルテニウム触媒を用いた芳香族アミドの炭素―水素結合の切断を経るカルボ

ニル化反応について述べた。この反応は、これまであまり利用されてこなかった2座で配位

可能な配向基を持つ基質を設計することでも炭素-水素結合の切断が進行することを示して

いる。この結果は、2 座の配向基を用いることで新たな反応の開発が行える可能性を示して

いる。

第一章と第二章より、キレート配位を利用することで炭素―水素結合以外の結合も活性化

することができ、一酸化炭素を炭素源とした新たなカルボニル化反応を見出すことができた。

また第三章から新たに 2 座配向基を設計することで新たな触媒反応開発の更なる展開を見出

すことができた。本研究により得られた知見を基に、配位を利用することで新規の有機合成

反応がさらに開発されると期待できる。

List of Publications

(1) A Chelation-Assisted Transformation: Synthesis of 1,4-Dicarboxylate Esters by the Rh-Catalyzed

Carbonylation of Internal Alkynes with 2-Pyridinylmethanol

Satoshi Inoue, Kazuhiko Yokota, Hiroto Tatamidani, Yoshiya Fukumoto, and Naoto Chatani

Org. Lett., 2006, 8, 2519-2522.

(2) A Chelation-Assisted Transformation: Synthesis of Maleimides by the Rh-Catalyzed Carbonylation of

Alkynes with Pyridin-2-yl-methylamine

Satoshi Inoue, Yoshiya Fukumoto, and Naoto Chatani

J. Org. Chem., 2007, 72, 6588-6590.

(3) Ruthenium-Catalyzed Carbonylation at ortho C-H Bonds in Aromatic Amides Leading to Phthalimides:

C-H Bond Activation Utilizing a Bidentate System

Satoshi Inoue, Hirotaka Shiota, Yoshiya Fukumoto, and Naoto Chatani

J. Am. Chem. Soc., 2009, 131, 6898-6899.

Supplementary List of Publications

(1) Chelation-Assisted Carbonylation Reactions by Rh and Ru Complexes

Naoto Chatani, Satoshi Inoue, Kazuhiko Yokota, Hiroto Tatamidani, and Yoshiya Fukumoto.

Pure Appl. Chem. submitted