sugawara stanford

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経営学部では、教授 :菅 原秀幸先生が研究活動の目的で2011年 10月 から2012年 9月 の期間でスタン フォー ド大 学 に留学 しました。菅原 秀幸先生 がスタンフォ ー ド大学留 学で得 たもの、感 じたものとは? 今回、その貴重な経験についてお聞きしました。 言鰍■i憚 辮群晋 Iず ― ― シ リコンバ レー とス タンフォー ド大 学 につ いてお 聞 か せ 下 さい。 アップル、グーグル、ファイスブックといった誰もが知 っている1丁企業が軒を並べるのがシリコンバ レーで す。ここは、イノベーションの中心地、新 しいことへの挑戦を意味する場所。世界中から人、金、エ ネルギーを引 き付 けています。その中核をなすのがスタンフォー ド大学で、世界屈指の名 門校 として、世界の大学ランキン グでは、常にトップグループに位置 し、幅広 い分野で最先端の研 究が行われています。 ―― 最先端という点でスタンフォード大学を選ばれたのでしょうか ? このような大学で、世界 中から一流の人々が集 い切磋琢磨する中で、自分の研 究をよリー層進展 させたい と、かねてより願 っていた私 は2011年 9月 から1年 間、東アジア研究センターに客員研 究員として滞在する 機会 を得 ました。途上国の低所得層 貧 困層の抱 える課題を、ビジネスのアプローチによっていかに解決す るか、途上国で現地 の人々を巻 き込んでイノベーションをおこし、これまで考 えられなかったような新 しいビ ジネス モデルをいかに創 り出すのかを探求する、というのが今 回の研 究目的です。イノベーションのメッカ、 シリコンバ レーで、その中 ′らのスタンフォー ド大学こそがまさに最適だったのです。 一 ― 菅 原 先 生 が 感 じた シ リコンバ レー と日本 の違 い は ? シリコンバ レーの人々は、「イノベーション」という言葉が大好 きで、よく口にします。うまくいかなくても、 次から次 へと試 していきます。とにかくやってみる。 前例 がない」、 誰もやってない」という表現 は、ここには 存在 しません。仮 にあったとしても、 だからこそ、やってみよう」ということになるでしょう。 そういう人たちが集 まってしのぎを削っているのだから、それは過酷な競争が繰 り広 げられています。時間 との勝負。3か月遅れたらおしまいだと、私が知 り合 った起業家は言 っていました。彼 は、朝早 くから夜遅 くま で、さらに土 日も関係なく働 くとのこと。日曜 日の午後 は、ちょうどアジアの月曜 日午前 中なので、アジアの取 引先との会議 にあてるには好都合 だといいます。夫婦共働 きで子供 の世話 は、もっぱら、おじいちゃん、おば あちゃんにまかせっきりなのだそうです。 なんでそんなに働 くのか」との質 問に、「野心だ」との返答。かたや「野心」が死語 になってしまった日本。 日本人が口にするのを聞いたことがないです。日本人がシリコンバ レーでなかなか勝てないはずです。 一 ― 先 生 が シ リコンバ レー で の 生 活 で 感 じた ことを教 えて 下 さい。 シリコンバ レーの気候 は穏やかで、実に暮 らしやすかったです。 2月にはすでに梅が咲いて、春 の気配が し、 気候 的にはとても住みやすい場所です。しかし、生活が落ち着 いてきて周 りがよく見えるようになってくると、 実際に生活するのには過 酷な場所であることが分か りました。能力のある人 間 しかここでは暮 らせないこと が分か り、わが身のちっぽけさを痛感させられました。 特 にインド人と中国人のノヽワーはすこく、いたるところで活躍 している姿を目にし、残念ながら日本人 は苦 戦すると実感せざるを得 ませんで した。いずれ 自国に帰ると思 っている日本 人と、国を捨ててここにやってき ているインド人や中国人 とでは、まったく生きる姿勢が異なっているのです。彼 らは退路を断ってきているの だから、腰の据わり方が違 います。 21世 紀 は、確かにインド人と中国人の時代 になるだろうなと、否が応でも 思わされました。 2月 上旬 には、中国の旧正月を祝 うイベントが、スタンフォー ド大学のコンサー ト ホールを貸 し切 って開催 されました。ホールをびっしりと埋 め尽 くした中国人 の姿は圧巻でした。言 い知れぬ敗北感を突 き付 けられ たような日々を過 ごし、これからの自分の在 り方を深 く考える時でもありました。

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Page 1: Sugawara stanford

経営学部では、教授 :菅原秀幸先生が研究活動の目的で2011年 10月 から2012年 9月 の期間でスタン

フォード大学に留学しました。菅原秀幸先生がスタンフォード大学留学で得たもの、感じたものとは?

今回、その貴重な経験についてお聞きしました。

言鰍■i憚辮群晋Iずジ―― シリコンバ レーとスタンフォー ド大学についてお聞かせ下さい。

アップル、グーグル、ファイスブックといった誰もが知っている 1丁 企業が軒を並べるのがシリコンバレーで

す。ここは、イノベーションの中心地、新しいことへの挑戦を意味する場所。世界中から人、金、エネルギーを引

き付けています。その中核をなすのがスタンフォード大学で、世界屈指の名門校として、世界の大学ランキン

グでは、常にトップグループに位置し、幅広い分野で最先端の研究が行われています。

―― 最先端という点でスタンフォー ド大学を選ばれたのでしょうか ?

このような大学で、世界中から一流の人々が集い切磋琢磨する中で、自分の研究をよリー層進展させたい

と、かねてより願っていた私は2011年 9月 から1年 間、東アジア研究センターに客員研究員として滞在する

機会を得ました。途上国の低所得層・貧困層の抱える課題を、ビジネスのアプローチによっていかに解決す

るか、途上国で現地の人々を巻き込んでイノベーションをおこし、これまで考えられなかったような新しいビ

ジネス・モデルをいかに創り出すのかを探求する、というのが今回の研究目的です。イノベーションのメッカ、

シリコンバレーで、その中′らのスタンフォード大学こそがまさに最適だったのです。

一― 菅原先生が感 じたシリコンバ レーと日本の違いは?

シリコンバレーの人々は、「イノベーション」という言葉が大好きで、よく口にします。うまくいかなくても、

次から次へと試していきます。とにかくやってみる。「前例がない」、「誰もやってない」という表現は、ここには

存在しません。仮にあったとしても、「だからこそ、やってみよう」ということになるでしょう。

そういう人たちが集まってしのぎを削っているのだから、それは過酷な競争が繰り広げられています。時間

との勝負。3か月遅れたらおしまいだと、私が知り合った起業家は言っていました。彼は、朝早くから夜遅くま

で、さらに土日も関係なく働くとのこと。日曜日の午後は、ちょうどアジアの月曜日午前中なので、アジアの取

引先との会議にあてるには好都合だといいます。夫婦共働きで子供の世話は、もっぱら、おじいちゃん、おば

あちゃんにまかせっきりなのだそうです。「なんでそんなに働くのか」との質問に、「野心だ」との返答。かたや「野心」が死語になってしまった日本。

日本人が口にするのを聞いたことがないです。日本人がシリコンバレーでなかなか勝てないはずです。

一― 先生がシリコンバ レーでの生活で感 じたことを教えて下さい。

シリコンバレーの気候は穏やかで、実に暮らしやすかったです。2月 にはすでに梅が咲いて、春の気配がし、

気候的にはとても住みやすい場所です。しかし、生活が落ち着いてきて周りがよく見えるようになってくると、

実際に生活するのには過酷な場所であることが分かりました。能力のある人間しかここでは暮らせないこと

が分かり、わが身のちっぽけさを痛感させられました。

特にインド人と中国人のノヽワーはすこく、いたるところで活躍している姿を目にし、残念ながら日本人は苦

戦すると実感せざるを得ませんでした。いずれ自国に帰ると思っている日本人と、国を捨ててここにやってき

ているインド人や中国人とでは、まったく生きる姿勢が異なっているのです。彼らは退路を断ってきているの

だから、腰の据わり方が違います。21世紀は、確かにインド人と中国人の時代になるだろうなと、否が応でも

思わされました。

2月 上旬には、中国の旧正月を祝うイベントが、スタンフォード大学のコンサート・ホールを貸し切って開催

されました。ホールをびっしりと埋め尽くした中国人の姿は圧巻でした。言い知れぬ敗北感を突き付けられ

たような日々 を過ごし、これからの自分の在り方を深く考える時でもありました。

一余

Page 2: Sugawara stanford

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一― スタンフォード大学の特徴はどこにあると思いますか ?

スタンフォードでは、多くの教員が、企業経営や起業に携わっており、現実と学問の間を行ったり来たりし

ています。シリコンバレーでは、研究成果が現実にどれぐらい役立つかが常に評価されるとのこと。とにかく挑

戦することを奨励する環境に身を置いていると、教員、学生を問わ哄 だれもが、自分でも何かやりたいという

気持ちになってきます。

7つ の大学院がある中で、メディカル・スクール、国―・スクール、ビジネス・スクールの3つ が、なんといって

も花形です。この3つ のスクールの教授が、格上とされているのは、社会に直接貢献し、お金を稼ぐことができ

るかどうかが評価の基準となっているからでしょう。

この様な中で、異彩を放つのがデザイン・スクール (通称 D school)。 このスクールは、特定の学部・大学

院に属するのではなく、横断的な組織で、多様な専攻の学生・教授陣が集まり、途上国貧困層の二―ズを満

たし、生活水準の向上に貢献できる製品・サービスを開発することを目的としています。ここに集まる教員、学

生は、単にお金儲けではなく、社会に貢献したいという強い意志をもっています。

ここで行われている研究は、私自身の研究に合致し、新鮮でした。「異質なるものとの出会いが倉」造につな

がる」と言われている、まさに異質性の宝庫から創造への挑戦が日々 行われています。異質な人々が一つの

チームを作って課題解決に挑戦する姿は感動的でさえありました。

一― スタンフォー ド大学で印象に残った授業は?

日本でも「スタンフォードの自熱講義」で有名なティナ・シーリング女史の講義を、数回にわたって聴講し、

多いに学ぶ点がありました。徹底的に「創造」に焦点をあてて、いかに実現するかについて、毎回、議論を重ねて

いきます。その時々で、学外からゲスト・スピーカーを招き、実際のビジネスの現場での創造について話をしても

らいます。その講義模様は、ネットで公開していて、いつでも、どこでも、だれでも観ることができます。大学のもつ

ものは、「共有」するという考え方が基本にあって、多くのことが、どんどん公開されていきます。キャンパス内は

もちろんのこと、シリコンバレー地域では、どこでも、だれでも、無料でインターネットにつながることが出来て、

インターネットの活用では、日本はまったく及びません。

またEntrepreneurship Weekも 特徴的でした。スタンフォードでは毎年、2週間にわたって、学生の起業を

支援する目的で、キャンパスのあちこちで、起業に関する多くのセミナーやワークショップが行われます。いくつかに

参加する中で スタンフォードの学生も、やはり学生、能力の点からは、日本人学生と大差ないように感じました。

ビジネス・スクールの学生が、自分たちのビジネス・モデルについて2分間プレゼンをし、ベンチャー・キャピタ

リストからコメントをもらうという企画がありました。スタンフォード・ビジネス・スクールの学生といえば、世界

中から集まった超一流の学生だろうから、さぞやすごいプレゼンの数々だろうと期待していったところ、「あ

れっ」という感じでした。

一― スタンフォード大学の雰囲気はどうでしょうか?

同じ人間、大差はありません。違いは環境にあります。スタンフォードでは、起業を支援する環境が整って

おり、ツじ戦しやすいのです。アメリカ人も同じ人間なので、日本人と同じように、やっぱリリスクをとることは怖

い。でもリスクをとるように背中を押してくれるのがシリコンバレーなのです。

「リスクをとつて挑戦する」、これができるかどうかが大きな違いです。それを後押しする環境が、日本より

はるかに整っています。ベンチャー・キャピタルが実際に投資するのは100案件のうち1案件だけといわれて

います。さらにそれが成功する確率は、より」ヽさくなります。つまり、ほとんどは失敗。しかし、その失敗から学

ぶことが財産になるのです。ツじ戦しなければ何も生まれないことを改めて思い知らされます。

一一 挑戦する雰囲気はどこから生まれると感 じたのでしょうか ?

スタンフォード流加点方式です。ゼロからスタートして、ちょっとでもできたら、それを認めて点数を積み上

げていく。失敗しても0のまま、正解するとプラスになるので、間違いを気にしないで、学生はどんどんチャレン

ジしていきます。これが、挑戦する姿勢をはぐくみ、多くのイノベーションを生み出す原動力の一つになってい

るように感じます。一方、日本は減点方式。100点満点からスタートして、失敗すると減点する。当然、学生は

失敗を恐れてツじ戦しないようになります。

もう一つ感心したことは、年齢が話題になることは一切ないということ。年齢を聞くことは差別になり、聞

いてはいけないので、当然、定年退職もありません。教員が働き続けるかリタイアするかは、あくまでも本人が

自分で決めます。自分で自分を厳しく律し、強い自己規律と自己責任が求められるところです。

また、幼稚園生に対しても、先生や親が、「Yes or No」 と常に聞いて、本人の意思表示を求めている点に

も驚きました。いつも、Yesか Noと 応えて、そのあとに、Becauseを続けて、理由を述べます。これを小さな子

が、当然のことくにしているので、とても感動しました。

―― 最後に今後の抱負をお聞かせ下さい。

学生を評価する姿勢、自分で自分を厳しく律する姿勢、常に意思表示を尊重する姿勢は、私がこれから教

壇に立つ中で、決して忘れてはいけないと肝に銘じています。研究者として、教育者として、いかに自分が足り

ないかを思い知らされるスタンフォードでの日々 。そして、そこから私の新たな「JL戦」が始まります。

緻 1‐1:饉:ヽ11菫薔|::』 :二