systemic nevus verrucosusの穎粒変性の 組織化学的,電顕細胞...

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日皮会誌:87 (4), 263-272, 1977 (昭52) Systemic Nevus Verrucosusの穎粒変性の 組織化学的,電顕細胞化学的研究 Systemic nevus verrucosus (以下S.N.V・と略す)の 穎粒変性部の細胞質内,特に願粒層下部の細胞質内空隙 内の物質について組織化学的ならびに電顕細胞化学的研 究を行った.その結果,光学顕微鏡ではホルマリン固 定の場合より,ルテニウムレッド(以下R,R・と略す) 固定,およびアリューシャソブルー(以下Al. B. と略 す)PH 7.2で固定した場合の方が,細胞質内物質はよ く残り空隙は縮小していた.電子顕微鏡では,2.5%グ ルタールアルデハイドとオスミウム酸の二重固定では穎 粒細胞の細胞質内には空隙が存在し,その部に細線維様 構造の物質が認められた.連続切片でのアルカリ性ビス ーマス染色では,細線維上に穎粒状粒子(150Å~300Å) がみられた. Periodate-lysin・paraformaldehyde(以下 P.L.P.と略す)固定および, R.R.による固定法では空 隙内にはいずれも細線維上に穎粒状粒子の存在か観察さ れた. 以上より,穎粒変性部の細胞質内空隙にはグリコー ゲンではないある種のprotec^lycanの存在が考えられ た. I.はじめに S.N.V.のうちあるものぱgranular degeneration”あ るいぱepidermolytic hyperkeratosis”と呼ばれる特徴 的な病理組織所見を呈する.すなわちホルマリソ固定, ヘマトキシリソエオジソ(以下H.E.と略す)染色では 有疎層および穎粒層での核周囲の空胞形成,細胞境界不 *名古屋大学医学部皮膚科教室(主任 小林敏夫教 授) Yoko Sawada and Masaru Ohashi: Histochemi- cal and Electronmicroscopic Cyto chemical Studies of Granular Degeneration in Systemic Nevus Verrucosus 昭和51年12月22日受理 別刷請求先:(〒466)名古屋市昭和区鶴舞町65 名古屋大学医学部皮膚科教室 沢田雍子 勝* 明瞭,未熟なあるいは過剰に形成された不規則な形のケ ラトヒアリソ穎粒(以下K.G.と略す),および角質の過 形成等である. 穎粒変性を示す疾患としては,先天的なものでは, bullous congenital ichthyosiforra erythrodertna, epithelial neviのある種のもの,すなわちichthvosis hystrix, nevus unius lateris, keratosis palmaris et plantaris 等がよく 知られている.その他,後天的にもこの現象が生じう るとの報告もある.すなわちAckerman"はpilar cyst, seborrheuc keratosis. squamous cell carcinoma, cutaneus horn, benign verrucos keratosis, granuloma anulare, lichenoid amyloidosis 等7例について穎粒変性像を記載 しておりShapiroら2)はisolate epidermolytic acanthoma について穎粒変性像を報告している. 穎粒変性の本態は今まで多くの形態的,生化学的研究 がなされているにもかかわらず,不明である.現在まで の研究では,ケラチソ形成異常があることは多くの研究 者が認める所見である3)-8≒ ホルマリン固定でみられる 核周囲の空隙形成については,細胞内浮腫と考えられて いたのに対し≫'≪, Braun-Faicoら6)はartifactであるこ とを,凍結切片標本作製により証明している. Wilgram らs)の研究では電顕所見で,核周囲の空隙すなわちhalo の部分にはendoplasmic reticulum (以下E.R・と略す) が充満しているとの報告をしている, がしかし,もし haloをうめている物質がE,R・であるとすれば,ホルマ リン固定H,E・染色では,好塩基性に染色されるはずで ある.変化のあまりひどくない細胞では,細胞質が好塩 基性にうすく染色されるものもある.がしかし願粒変性 の特徴的所見である白くぬけてしまう現象の全部を説明 できない. 本研究ではS.N.V.の細胞質内のいわゆる空胞化につ いて,凍結切片で固定される水溶性物質,たとえばある 種の多糖類の存在を考え,主として酸性ムコ多糖類を固 定する方法を用いて組織化学的,電顕的に物質の固定を 試みるとともに,酸性ムコ多糖をよく染色する電子染色

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  • 日皮会誌:87 (4), 263-272, 1977 (昭52)

    Systemic Nevus Verrucosusの穎粒変性の

      組織化学的,電顕細胞化学的研究

    沢 田 雍 子

               要  旨

     Systemic nevus verrucosus (以下S.N.V・と略す)の

    穎粒変性部の細胞質内,特に願粒層下部の細胞質内空隙

    内の物質について組織化学的ならびに電顕細胞化学的研

    究を行った.その結果,光学顕微鏡ではホルマリン固

    定の場合より,ルテニウムレッド(以下R,R・と略す)

    固定,およびアリューシャソブルー(以下Al. B. と略

    す)PH 7.2で固定した場合の方が,細胞質内物質はよ

    く残り空隙は縮小していた.電子顕微鏡では,2.5%グ

    ルタールアルデハイドとオスミウム酸の二重固定では穎

    粒細胞の細胞質内には空隙が存在し,その部に細線維様

    構造の物質が認められた.連続切片でのアルカリ性ビス

    ーマス染色では,細線維上に穎粒状粒子(150Å~300Å)

    がみられた. Periodate-lysin・paraformaldehyde(以下

    P.L.P.と略す)固定および, R.R.による固定法では空

    隙内にはいずれも細線維上に穎粒状粒子の存在か観察さ

    れた.

     以上より,穎粒変性部の細胞質内空隙にはグリコー

    ゲンではないある種のprotec^lycanの存在が考えられ

    た.

              I.はじめに

     S.N.V.のうちあるものぱgranular degeneration”あ

    るいぱepidermolytic hyperkeratosis”と呼ばれる特徴

    的な病理組織所見を呈する.すなわちホルマリソ固定,

    ヘマトキシリソエオジソ(以下H.E.と略す)染色では

    有疎層および穎粒層での核周囲の空胞形成,細胞境界不

    *名古屋大学医学部皮膚科教室(主任 小林敏夫教

      授)

     Yoko Sawada and Masaru Ohashi: Histochemi-

      cal and Electronmicroscopic Cyto chemical

      Studies of Granular Degeneration in Systemic

      Nevus Verrucosus

     昭和51年12月22日受理

     別刷請求先:(〒466)名古屋市昭和区鶴舞町65

      名古屋大学医学部皮膚科教室 沢田雍子

    大 橋 勝*

    明瞭,未熟なあるいは過剰に形成された不規則な形のケ

    ラトヒアリソ穎粒(以下K.G.と略す),および角質の過

    形成等である.

     穎粒変性を示す疾患としては,先天的なものでは,

    bullous congenital ichthyosiforra erythrodertna, epithelial

    neviのある種のもの,すなわちichthvosis hystrix, nevus

    unius lateris, keratosis palmaris et plantaris 等がよく

    知られている.その他,後天的にもこの現象が生じう

    るとの報告もある.すなわちAckerman"はpilar cyst,

    seborrheuc keratosis. squamous cell carcinoma, cutaneus

    horn, benign verrucos keratosis, granuloma anulare,

    lichenoid amyloidosis 等7例について穎粒変性像を記載

    しておりShapiroら2)はisolate epidermolytic acanthoma

    について穎粒変性像を報告している.

     穎粒変性の本態は今まで多くの形態的,生化学的研究

    がなされているにもかかわらず,不明である.現在まで

    の研究では,ケラチソ形成異常があることは多くの研究

    者が認める所見である3)-8≒ ホルマリン固定でみられる

    核周囲の空隙形成については,細胞内浮腫と考えられて

    いたのに対し≫'≪, Braun-Faicoら6)はartifactであるこ

    とを,凍結切片標本作製により証明している. Wilgram

    らs)の研究では電顕所見で,核周囲の空隙すなわちhalo

    の部分にはendoplasmic reticulum (以下E.R・と略す)

    が充満しているとの報告をしている, がしかし,もし

    haloをうめている物質がE,R・であるとすれば,ホルマ

    リン固定H,E・染色では,好塩基性に染色されるはずで

    ある.変化のあまりひどくない細胞では,細胞質が好塩

    基性にうすく染色されるものもある.がしかし願粒変性

    の特徴的所見である白くぬけてしまう現象の全部を説明

    できない.

     本研究ではS.N.V.の細胞質内のいわゆる空胞化につ

    いて,凍結切片で固定される水溶性物質,たとえばある

    種の多糖類の存在を考え,主として酸性ムコ多糖類を固

    定する方法を用いて組織化学的,電顕的に物質の固定を

    試みるとともに,酸性ムコ多糖をよく染色する電子染色

  • 264 沢田雍子 大橋 勝

    法による形態学的研究を併用して,穎粒変性の組織化学

    的,電顕細胞化学的追求を行った.

           II. 臨床材料および方法

     症例は27歳男性で,生下時より右側躯幹と大腿および

    膝高に発疹があった.生検は,腰部の紀贅状角化性丘疹

    を無麻酔で, 3 mmトレパンを用いて行った.

     組織化学的方法

      1) 10%ホルマリン固定後, H.E・染色.

      2) Al. B. 圃定後H.E.染色:生検材料を1mmに

    細切後, 1 ^ Al. B・含有,2.5%グルタールアルデハ

    イド, O.OlM, pH 7,2 phosphate buflfered saline (以

    下P.B.S.と略す)で24時間固定,その後一昼夜P.B.S・

    で洗剰後,アルコール系列で脱水,パラフ4ソ包埋し,

    H.E・染色した.

      3) R.R.固定後H.E.染色:生検材料をlmmに細

    切後1%R.R・含有,0.01M P.B.S, で2時間浸漬.その

    後1XR.R・含有2.5%グルタールアルデハイドで3時

    間浸潰しP.B.S.で一昼夜洗浄後, H.E・染色を行った.

     電顕細胞化学的方法

      1) 2.5%グルタールアルデハイドとオスミウム酸の

    二重固定:1mmに細切した生検材料を2.5%グルター

    ルアルデハイドで1時間前固定.次いでP.B.S.で一昼

    夜洗浄.1%Os04で1時間後固定した.アルコー/レ系

    列で脱水後,エポソ812で包埋した.超薄切片は連続切

    片を作製し,交互にクェソ酸鉛と酢酸ウラニール染色の

    ものと,アルカリ性ビスマス染色後クェソ酸鉛と酢酸ウ

    ラニール染色とを行った9).

      2) R.II.とオスミウム酸固定:生検材料を1mmに

    細切後,1%R,R・含有P.B.S.で2時間浸潰.その後

    1%R.R・含有2.5%グルタールアルデハイドで3時間浸

    潰.一昼夜P.B.S.で洗浄後,1%Os04で後固定し

    た.アルコール系列で脱水し,エポン812で包埋し,超薄

    切片作製,クェン酸鉛と酢酸ウラニール染色を行った.

      3) P.L.?. solution による固定1o)こ1 mmに細切し

    た生検材料をP.L.P. solution に3時間前固定. sucrose

    含有0.05M sodium phosphate buffer (PH 7.2)で一昼

    夜洗浄.1%Os04で1時間後固定.エボソ812で包

    埋.超薄切片作製.クェソ酸鉛と酢酸ウラ・こール染色

    と,アルカリ性ビスマス染色後夕こ二ン酸鉛と酢酸ウラニ

    ール染色とを行った.

             III. 結  果

     組織化学的方法による所見

      1)ホルマリン固定, H.E.染色(図1):角質層は著

    明に肥厚していて,部分的に網目状構造をとる場合と,

    parakeratosisをとる場合とがある.穎粒層から有辣層,

    場所によっては基底層直上まで,いわゆる穎粒変性の像

    を示し,不規則で強い好塩基性を示すK.G.が存在す

    る.核の周囲およびK.G.の周囲には,著明な空胞が形

    成されている.基底層は穎粒変性の強い部分では2ない

    し3層に肥厚している.

      2) Al. B. 固定, H.E.染色(図2):いわゆる穎粒

    変性の部分では,部分的に不規則な裂隙がみられた.が

    しかし核周囲の空胞はみられず,この部は弱好酸性に染

    色されていた.

      3) R.R.固定, H.E.染色(図3):穎粒変性の部

    分は不規則に空胞が裂隙状に存在していた.この変化は

    ホルマリン固定, H.E・染色(図1)での同様の部分に

    比べると変化は少なく,核周囲の細胞質にR.R・染色陽

    性の物質が認められた.

     電顕細胞化学的方法による所見

      1) 2.5%グルタールアルデハイドならびにオスミウ

    ム酸固定後クエン酸鉛と酢酸ウラニール染色による所見

     (図4,図5,図6A,図7A):

      (a)基底細胞は核は大きく,細胞質には多数の遊離

    リボソームおよびポリソームが存在していた.また粗面

    小胞体が発達し,ゴルジー装置vesiclesも時々認めら

    れた.ミト=・ソドリアも存在した.細胞膜は入り組んで

    いた.トノフィラタソトは単一でなく,束状になってい

    るものもあり,主として核の周りを取り囲んでいた.以

    上の所見をまとめると,細胞質内にリボソーム,ミトコ

    ンドリア以外に,粗面小胞体,ゴルジー装置が存在した

    ことと,フィラメントが束になって,核の周囲を取り巻

    いて存在していた点とであった(図4).

      (b)基底細胞直上の有線細胞では,核に比べ細胞質

    の量が増しており,ポリソームも多数認められ, coated

    vesiclesも存在した.ミトコンドリアは一部膨化してい

    たものもあった.細胞質は全体にポリソームが豊富で,

    電子密度はやや高かった.細胞質の一部分には電子密度

    が低く,白くぬけたように見られる部分があった(図5

    の矢印).トノフィラメソトは正常のものは少なく,異常

    に太い東となり,核の周りを取り巻く像がみられた.細

    胞膜は入り組んでおり,細胞間隙も認められた.以上の

    病的所見は,細胞質に豊富にポリソームが存在したこと

    と,細胞質に部分的な空隙形成が生じたこと,トノフ4

    ラjソトの東状変化であった.

      (c)願粒層下部の細胞の所見(図6 A,図7 A).顎粒

  • 類粒変性の組織化学的,電顕的研究

    |ヌ目 ホルー・リソ固定,H.E.染色.顕粒層から有科層中程まで穎粒変性の像がみられる. 800×

    図2 Al. B・ 固定, H.E.染色.顕粒変性の部分で核周囲の空胞はみられず,弱好酸性に染

     色されている. 800×

    図3 R.R.固定, H.E.染色.頭粒変性部には空胞が列隙状にみられる.しかし図1に比べ

      変化は少なく,核周囲の細胞質にはR.R・可染性物質がみられる. 800×

    265

  • 266 沢田雍子  大橋 勝

    |か1 2.5%グルタ一ルアルデハイドならびにオスミウム酸固定.クェソ酸鉛と酢酸ウリニ

     ール染色.法底細胞の細胞質内には粗面小胞体が八られ、トノフィラ.タントは束になっ

     て核を取り巻いている.10、000×

    図5 2.5%ダルター-ルアルデハイドならびにオスiウム酸固定.クェン酸鉛と酢酸ウラニール

    染色.基底細胞直上の有煉細胞.細胞質にポリゾームが存在している.細胞質内には部分的に

    郊隙形成(矢印)がみられる.トノフィラタソトは束状変化が片明である. 10,000×

  • 頌粒変性の組織化学的,電顕的研究

    図6A 2.5%ダルタールアルデハイド,オスミウ

     ム酸固定.クェン酸鉛と酢酸ウラニール染色.穎

     粒層下部の細胞.空隙内に定子密度の低い銅線維

     隋造がみられる(矢印). 10,㈲Ox

    図7A 2.5%ダルタールアルデハイド,オスミウ

     ム酸固定.クェソ酸鉛と酢酸ウラユール染色.穎

     粒層下部の細胞.空隙内に市子彬皮の低いamor-

     phousな物質がみられる(矢印八10心)OX

    267

    図6B 2.5%ブルクー-ルアルデハイド,オスミウ

     ム酸内定.アルカリ性ビス大八染色ならびにクェ

     ソ酸鉛と酢酸ウラニール染色.図6Aの連続切片.

     図6Λの空隙内訓線維構造の部分に. 150Åから

     300Åの完了浦度の高い頴粒状粒了・が染色されて

     いる.10,000×

    図7B l.D/oグルタールアルデハイド,オスミウ

     ム酸固定.アルカリ性ビスロス染色ならびにクェ

     ソ酸鉛と酢酸ウラ二一ル染色.図7Aの連続切片.

     卜にAの空隙内 amorphous な物質の部分に電子

     密度のずいヽ穎粒状粒子が認められる. 10,㈲Ox

  • 268 沢田雍子 大橋 勝

    図8 2.5%ダルタールアルデ・ヽイド,オスミウム酸固定.クェソ酸鉛と酢酸ウラニール染

      色.顕粒層上層部の細胞.細胞質は全体に冗ご子審度が低く, amorphousな物質の付着した

      細線維構造がみられる. 10,000×

    図9 P.L.P・固定.クェン酸鉛と酢酸ウクニール染色.穎粒層下部の細胞.細胞質内の空

     隙に細線維構造がみられる. 150Åべ00Åの顛粒状粒了・が絹線維とつながって数珠状にみ

     られる部分(長い矢印)と,則粒状粒子からくも状に細線維が出ている部分(短かい矢

     印)とがみられる. 20,000×

  • 頬粒変性の組織化学的,電顕的研究

    図10 P.L.P.固定.アルカリ性ビ.スー・ス染色後ク

     ェソ酸鉛と酢酸ウラニー丿レ染色.頻粒屑上層部の

     細胞質内に,アルカリ性ビスマス可染性の頻粒状

     粒子が散在性にみられる(矢印). 10,叩Ox

    269

    図11 P.L.P・固定.アルカリ性ビスマス染色後クェ

     ン酸鉛と酢酸ウラニール染色.扁粒層下部の細胞

     細胞質内の空隙に,願粒状粒子か数珠状構造を呈

     している. 20,000×

    図12 R.R・,オスミウム酸固定.クェソ酸鉛と酢酸ウラニール染色.

     100Åから400Åの電子密度の比較的高い頬粒状粒了・が細胞質内に散

     在している.空隙内では頻粒状粒子が絹線維とつながっているのが

     み几れる(矢印). 10,㈲()>;

  • 270 沢田雍子  大橋 勝

    層下部の細胞とは細胞膜の凹凸があり,細胞問に間隙が

    存在しraerabran coating granule (以下M.C.G.と略

    す)のみられた細胞を呼んだ.ここでは細胞内に粗大化

    したK.G.がみられた.ミトコンドリアは一部では空胞

    化し,多数存在した.ゴルジー装置,粗面小胞体も存在

    した.細胞によってはポリソームが非常に増えており,

    そのため細胞質の電子密度がやや高くなっていた.この

    細胞群では細胞質内にところどころ空隙がみられた.こ

    の所見は基底細胞直上の細胞に比べ増加していた.空隙

    内には電子密度の低い細線維構造(図6Aの矢印),あ

    るいはamorphousな物質(図7Aの矢印)がみられる部

    分があった.

      (d)願粒層上部の細胞の所見(図8).穎粒層上部の

    細胞とは(e)の細胞のうち細胞膜の湾曲が少なく,直

    線的になり,肥厚し,細胞間隙がほとんど消失している

    細胞を呼んだ.この細胞ではM.C.G.は細胞膜に付着

    しているものと細胞間隙に存在しているものとが認めら

    れた.ミトコソドリアは空胞化していたが,細胞によっ

    てはかなり多数存在した.多くの細胞では細胞質全体の

    電子密度は低く,網目状に電子密度の低い細線維を残

    し,細線維にはamorphousな物質が付着しているもの

    もみられた.また細胞によってはポリソームが多数みら

    れるものもあった.

     以上の表皮細胞の所見を要約すると,穎粒変性の特徴

    としての細胞質内,特に核周囲の空隙形成は有線層細胞

    ですでに生じているが,最も著明にみられるのは穎粒層

    下部の細胞であった.したがって以下の記載は穎粒層下

    部の細胞の所見である.

      2) 2.5%グルタールアルデハイド,オスミウム酸固

    定後,アルカリ性ビスマス染色とクエン酸鉛とウラニー

    ル染色を行った所見.(連続切片による(c)の所見と

    の対比)(図6B,図7B):クェソ酸鉛と酢酸ウラニ

    ール染色のみでは図6A,図7Aに示す如く,細胞質の

    一部に電子密度が低く白くぬけ,内部に細線維構造(図

    6 A),あるいはamorphousな物質(図7A)がみられ

    た部分は,その連続切片をアルカリ性ビスマス染色をほ

    どこしてみると,図6 B,図7Bにみられるように,

    穎粒状粒子が認められた.これらの頷粒状粒子は,直径

    約150Å~300Aで電子密度は高く,またこの穎粒状粒子

    は,幅約50Åの細線維状物質と連続していた.

      3) P.L.P.固定,クェン酸鉛と酢酸ウラニール染色

    による所見(図9):細胞質には空隙がみられた力≒し

    かし網目状に走る細線組は認められた.細線維に150Å

    ~400Åの電子密度の比較的高い穎粒状粒子が連なって

    いる像と,穎粒状粒子から放射線状に細線維か出ている

    像がみられたP.L.P・固定でクェソ酸鉛と酢酸ウラニ

    ール染色を行うと,グルタールアルデハイド固定の所見

    と異なり,細線維構造がはっきりしていることと, 150Å

    ~400Åの穎粒状物質が細線維と連続している所見であ

    る.

      4)P.L.P.固定,アルカリ性ビスマス染色ならびに

    クエン酸鉛と酢酸ウラ二-ル染色の所見(図10,図11):

    電子密度の比較的高いアルカリ性ビスマス可染性の穎粒

    状粒子が細胞質全体に存在し,それらは細線維と連なっ

    ていた.しかしP.L.P・固定,クェソ酸鉛とウラニール

    染色単独の場合に比べると,細線維構造ははっきりしな

    かった(図10).また,図11にみられるような大きな空隙

    では,その内部には200Åないし500Åの穎粒状粒子が数

    珠状につながっているのがみられた.この方法では細胞

    質全体にアルカリ性物質可染性の穎粒状粒子がみられた

    ことと,空隙内では穎粒状粒子の数珠状構造が認められ

      5) R.R.ならびにオスミウム酸固定,クエン酸鉛と

    酢酸ウラニール染色の所見(図12):細胞質内の空隙に

    は100Åないし400Åの電子密度の比較的高い穎粒状粒子

    がみられた.それらの粒子は細線維によって互いにつな

    かっていた.一方amorphousな物質か細線維に付着し

    ており,空隙以外の細胞質では一定の電子密度が保たれ

    ていた.

     以上の所見のうち組織化学は表1に,電顕細胞化学的

    所見は表2に示した.

              工V● 考  案

     穎粒変性の病理組織的特徴は大きく分けるとケラチソ

    形成の異常と核周囲の空胞化とである.電顕的観察によ

    りケラチン形成異常の所見として,私どもは,従来の報

    告とほぼ一致する所見を得た.すなわち基底細胞ですで

    にtonofibrilが束になって核の周囲を取り巻いている像

    が多くみられたこと.基底細胞直上にある有蘇細胞では

    すでにtonofibrilの束状変化がみられたこと.有縁層上

    部から穎粒層にかけて粗大なK.G.が出現し,それにも

    かかわらずM.C.G.が核の周辺あるいは細胞質全体に存

    在していたこと等である.このようなケラチソ形成の異

    常を呈する原因としては,細胞の物質代謝完進が認めら

    れている11ぺその点に関して私どもの観察では基底細胞

    層で正常の皮膚に比べ,リボソーム,ミトコソド`リアの

    ほか粗面小胞体,ゴルジー装置が多数存在し,有縁細胞

  •    顕粒変性の組織化学的,電顕的研究

    表1 粟粒変性部の核周囲細胞質の組織化学的所見

    271

    固 定 法 染 色 法 所             見

    10%ホルマリン H.E. 空胞形成著明

    Al. B. pH 7.2 H.E. 空胞みられず,弱好酸性に染色される

    R.R. H.E. 空胞みられず, R.R.可染性物質陽性

    表2 顛粒層下部の核周囲空隙内物質の電顕細胞化学的所見

    固 定 法 染 色 法 所            見

    2.5%ダルタールアルデノヽイドオスミウム酸

    クェン酸鉛と酢酸

    ウラ4-ル

    電子密度の低い細線維構造あるいはamorPhousな物質が存在す

    2.5%グルタール

    アルデノヽイドオスミウム酸

    アルカリ性ビスマスとクェソ酸鉛,酢酸ウラニール

    150Å~300Åの電子密度の高い顕粒状粒子が細線維と連続し

    ている

    P.L.P.

    オスミウム酸タェン酸鉛と酢酸ウラニール

     150Å~400Åの電子密度のやや商い頭粒状粒子が細線維に数珠状に連なっている像と,顕粒状粒子から細線維が放射線状に出ている像とがみられる

    P.L.P.

    オスミウム酸

    アルカリt生ビスマスとクェソ酸鉛,酢酸ウラニール

    200Å~500Åの電子密度の商い顕粒状粒子が数珠状に連なっている

    R.R.

    オスミウム酸クェソ酸鉛と酢酸ウラニール

    100Å~400Åの電子密度の比較的商い顕粒状粒子が細線維上にみられる

    ではゴルジー装置,粗面小胞体が多数みられたほか,細

    胞質全体にポリソームが豊富に存在していた.これら物

    質代謝の宜進を示す所見がトノフィラメソトの過形成

    や, K.G.の早期粗大化を引き起こす可能性は十分考え

    られる.あるいはまた他の物質代謝,たとえば多糖類,

    脂質等の代謝にも影響をおよぼしている可能性もある.

     次に穎粒変性におけるもう一つの変化,すなわち核周

    囲の空隙にっいては従来の考え方のように浮腫であると

    すれば,物質代謝の宜進とは結びつきにくい,がしか

    し,たとえば多糖類等の貯溜があるとするならば,代謝

    宜進とは結びっけることができる.10%ホルマリン固定

    しH,E・染色を行った場合,変化の少ない部分では細胞

    質が浮腫状にみえ,変化の強い部分では細胞質内容がほ

    とんどみられず網目状を呈する.私どもの観察所見は,

    光学顕微鏡上, Al. B・ およびR.R.による固定では,ホ

    ルマリン固定によるものよりはるかによく細胞質が固定

    されており,固定法に問題があることが推察された.

     一方電顕によるこの部の観察所見は,従来の報告では

    光顕と同様,細胞質の浮腫あるいは融解がみられたとす

    るものs)4〉のほか,Wilgramら6)はいわゆるhaloの部分

    は多くの場合,多数の粗面小胞体によって占められてお

    り,リボソーム,ミトコソドリアも多数みられ,細胞の

    代謝活性の上昇が考えられるとしている.そして時には

    その部に粗面小胞体のかわりに細線維状物質が存在し,

    細胞内小器管があまりみられず,いわゆる変性の初期像

    であろうと報告している.

     私どもの電顕的観察でphosphate buffer で調整され

    た2.5%ダルタールアルデハイド,オスミウム酸固定,

    クェy酸鉛と酢酸ウラニール染色による観察で,ほぽ

    Wilgramら5)の所見と一致するものを得た.そして

    Wilgramらが変性の初期像であろうとしている空隙内

    の細線維状物質の存在する部分を連続切片で通常の方法

    であるクェン酸鉛と酢酸ウラニール染色とアルカリ性ビ

    スマス染色の両方を施すと,通常の方法では空隙内に細

    線維状物質とamorphousな物質とがみられたのに対し,

    アルカリ性ビスマス染色を施したものでは,細線維上に

    直径約150Åないし300Åの電子密度の高い願粒状粒子が

    付着していた.

     一方P.L.P・固定の場合では,空隙は存在したが,モ

    の部の細線維構造はグルタールアルデハイド固定よりは

  • 272 沢田雍子  大橋11勝

    つきりしており,細線維上には直径約150Aないし400Å

    の穎粒状粒子が付着しているのがみられた.それらは電

    子密度はやや高く,不正円形ないしは多角形をしてお

    り,細線維がそれらから放射線状に出ている場合と,穎

    粒状粒子が数珠状に細線維につながっている像とがみら

    れた. R.R.による.固定では,細胞質内の空隙内に,細

    線維上にamorphousな物質とともに電子密度のやや高

    い直径100Åないし400Åの穎粒状粒子を認めた.すなわ

    ち,いわゆる変性の初期像と考えられる穎粒層下部の細

    胞の細胞質内空隙には通常の固定法でもアルカリ性ビス

    マス染色を行うと穎粒状粒子が観察され, P.L.P・固定

    とR.R・固定の場合ではクェソ酸鉛と酢酸ウラニール染

    色のみで細線維上に願粒状粒子が認められた.

     アルカリ性ビスマスは1,2 glycol 基をもつ多糖類の

    検出に用いられている9).またP.L.P

    を固定する"≫. Al. B・,R.R. 12)もproteoglycanをよく

    固定するといり報告があり,それらはphosphate buffer

    を用いた場合,よりうまく固定されるという1゛.これら

                             文

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      7) Ishibashi, Y. und KlingmuUer, G.:Ery-

    の事実を基礎として考えると,細胞質内空隙の細線維間

    には多糖類の存在が考えられる.表皮の多糖類のうち,

    グリコーゲンは正常表皮内に微量ではあるが存在するこ

    とはわかっており,尋常性乾癖等の病的状態では顕著に

    蓄積されることが知られている,がしかし,グリコーゲ

    ンはホルマリン固定で固定され, P.A.S・染色可染性で

    あり,アルシアン青で異染性を示さない.電頭形態学的

    にも鉛染色でよく染色され,細線維と共存する粒子では

    なくて孤立性の直径約200Åの球状粒子の散在(β型)

    か,または集合して直径約2000Åの集合(α型)として

    認められる.これらの点からS.N.V.のhaloに存在す

    るアルカリ性ビスマス可染性物質は,グリコーゲン以外

    の多糖類であり, R.R・, Al. B. で染色され, P.L.P.固

    定で認められ,電頭的には約200Åの穎粒状粒子が細線

    維と連続する所見はある種のproteoglycanである可能

    性が強い.すなわち穎粒状粒子が糖部分であり,それと

    つながっている細線維が蛋白部分と推察されるのであ

    る.

       throdermia ichthyosiformis congenita buUosa

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