tapa認証制度とサプライチェーン セキュリティの最新事情 セ...

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2011 2 17 グローバル・ロジスティクスとい う言葉が一般誌紙でも広く見られる ようになった現在,日本の物流事業 者の海外進出も拡大しています。 これは大いに結構なことだと思い ますが,日本で提供されているサー ビスをそのまま輸出することは,海 外で大きなリスクを伴うのではない かと,セキュリティ専門家の一人と して以前より憂慮しています。 日本では当たり前の“性善説”が 海外では通用しないことは最近定説 となりつつありますが,まだ認識不 足だといえます。 例えば日本では当たり前になって いることですが,毎日定時にやって くる宅配便のドライバーは,本当に その物流事業者の人間なのでしょう か。ドアを開けたら最後,荷物を受 け取る代わりに金品を奪い盗られ, 人命にまで被害を蒙るなどの事件 は,海外でよくあることです。 物流事業者の社員証や制服を偽造 することで一般ユーザーは信用して ドアを開けてしまいがちですが,こ れは世界的には非常に危険なことで あるといえます。 宅配便を例にとると,毎日定時に 引き取りに来るサービスは都合がよ いものですが,悪意を持った人間に もかなりの好都合といえます。チャ イム越しに名前を告げれば,ドアを 開けてくれる可能性が高いのですか ら。 日本のサービスを海外で実践する 際には,治安のよい日本と異なり 「サービスよりリスク」「システムよ りもセキュリティ」を前提にする必 要があると私は考えています。 我 々 が 運 営 す る TAPA(Trans- ported Asset Protection Association/技 術資産保護協会)は,ハイテク・高 付加価値商品,貴重品等の保全と企 業の資産の保護を目的とする倉庫を 対象とした認証機関です。ハイテク 製品の保管・輸送中の紛失・盗難な どによる損失防止を目的に,1997に米国で非営利団体(NPO)として 設立され,セキュリティレベルを審 査し,認証を与えています。 製造~保管~輸送~納入までの製 品の安全の確保(セキュリティ)要求する規格を体系化しており,高 付加価値商品の生産がアジアや南米 地区に拡大するなか,セキュリティ の重要性を再認識した荷主からの TAPA認証への期待度は非常に高ま っています。 日本ではまだ少数だと思います が,荷主から物流事業者に対して, 欧米ではTAPA認証が多くの業務発 注依頼の必須条件となっており,競 合する企業との差別化に結びつきま す。 特に海外の荷主はTAPA認証を取 得した物流事業者を使うことを指定 してくる事例も多数耳にします。 近年は盗難,破損などによる損害 保険への請求が増加傾向にありま す。この点TAPA認証は企業,損保 会社双方のリスク軽減にも貢献する TAPA認証制度とサプライチェーン セキュリティの最新事情 TAPA認証制度とサプライチェーン セキュリティの最新事情 TAPAアジア日本支部の取り組み TAPAアジア日本支部の取り組み ~グローバル物流から食品・医薬品セキュリティまで~ ~グローバル物流から食品・医薬品セキュリティまで~ 特集//物流拠点の安心・安全[Security & Safety] 特集//物流拠点の安心・安全[Security & Safety] 一般社団法人 TAPAアジア日本支部 代表理事 浅生成彦氏(談) グローバル・ロジスティクスの盲点

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2011・2 17

グローバル・ロジスティクスとい

う言葉が一般誌紙でも広く見られる

ようになった現在,日本の物流事業

者の海外進出も拡大しています。

これは大いに結構なことだと思い

ますが,日本で提供されているサー

ビスをそのまま輸出することは,海

外で大きなリスクを伴うのではない

かと,セキュリティ専門家の一人と

して以前より憂慮しています。

日本では当たり前の“性善説”が

海外では通用しないことは最近定説

となりつつありますが,まだ認識不

足だといえます。

例えば日本では当たり前になって

いることですが,毎日定時にやって

くる宅配便のドライバーは,本当に

その物流事業者の人間なのでしょう

か。ドアを開けたら最後,荷物を受

け取る代わりに金品を奪い盗られ,

人命にまで被害を蒙るなどの事件

は,海外でよくあることです。

物流事業者の社員証や制服を偽造

することで一般ユーザーは信用して

ドアを開けてしまいがちですが,こ

れは世界的には非常に危険なことで

あるといえます。

宅配便を例にとると,毎日定時に

引き取りに来るサービスは都合がよ

いものですが,悪意を持った人間に

もかなりの好都合といえます。チャ

イム越しに名前を告げれば,ドアを

開けてくれる可能性が高いのですか

ら。

日本のサービスを海外で実践する

際には,治安のよい日本と異なり

「サービスよりリスク」「システムよ

りもセキュリティ」を前提にする必

要があると私は考えています。

我々が運営するTAPA(Trans-

ported Asset Protection Association/技

術資産保護協会)は,ハイテク・高

付加価値商品,貴重品等の保全と企

業の資産の保護を目的とする倉庫を

対象とした認証機関です。ハイテク

製品の保管・輸送中の紛失・盗難な

どによる損失防止を目的に,1997年

に米国で非営利団体(NPO)として

設立され,セキュリティレベルを審

査し,認証を与えています。

製造~保管~輸送~納入までの製

品の安全の確保(セキュリティ)を

要求する規格を体系化しており,高

付加価値商品の生産がアジアや南米

地区に拡大するなか,セキュリティ

の重要性を再認識した荷主からの

TAPA認証への期待度は非常に高ま

っています。

日本ではまだ少数だと思います

が,荷主から物流事業者に対して,

欧米ではTAPA認証が多くの業務発

注依頼の必須条件となっており,競

合する企業との差別化に結びつきま

す。

特に海外の荷主はTAPA認証を取

得した物流事業者を使うことを指定

してくる事例も多数耳にします。

近年は盗難,破損などによる損害

保険への請求が増加傾向にありま

す。この点TAPA認証は企業,損保

会社双方のリスク軽減にも貢献する

TAPA認証制度とサプライチェーン セキュリティの最新事情

TAPA認証制度とサプライチェーン セキュリティの最新事情

TAPAアジア日本支部の取り組み TAPAアジア日本支部の取り組み

~グローバル物流から食品・医薬品セキュリティまで~ ~グローバル物流から食品・医薬品セキュリティまで~

特 集 特集//物流拠点の安心・安全[Security & Safety] 特集//物流拠点の安心・安全[Security & Safety]

一般社団法人 TAPAアジア日本支部

代表理事 浅生成彦氏(談)

グローバル・ロジスティクスの盲点

18 2011・2

システム)をモデルとして,セキュ

リティの改善・向上を図るためのア

プローチ方法を包括的に規定したマ

ネジメント規格です。

関係規格としてISO 28001(サプ

ライチェーンセキュリティ実施のため

の最適実施手順-評価と計画)があり,

セキュリティの計画・実施に係わる

要件を規定します。

セキュリティ・プログラムの基本

的目的は,輸入貨物に紛れてテロリ

スト,武器・爆発物,生物・化学兵

器,麻薬などが米国内に流入するこ

とを防ぐことにあり,特にコンテナ

貨物の約98%が何のチェックも受け

ないまま米国本土に陸揚げされてい

る現状への強い危機感が背景にあり

ます。

◆AEO制度の進展以上のうち,C-TPATは米国へ流

入する輸入貨物の輸入経路のセキュ

リティを高めるためのプログラム

で,税関における検査回数の削減等

のベネフィットを得られ,輸入物流

に係わる企業(船会社,通関事業者,

倉庫管理者,輸入業者,製造業者等)

がプログラムの対象となっていま

す。

また国際物流におけるセキュリテ

ィ確保(強化)と円滑化の両立が重

要な課題となってきた背景から,物

流セキュリティ確保とコンプライア

ンスに優れた事業者をAEO事業者

として認定し,税関手続を簡素化す

ることを目的とする制度が導入され

ています。

日本では輸入者,輸出者及び倉庫

業者(保税蔵置場の被許可者)を対

象とするAEO制度(簡易申告制度,

と考えられ,欧米では安心・安全を

荷主に証明する手段として,大手フ

ォワーダにはTAPA認証が必須事項

になっております。

TAPAの現在の会員は電子機器や

精密機械メーカーを中心に,輸送会

社や警備会社,損保会社などで構成

されており,近年では対象とする製

品もハイテク製品から後述する食

品・医薬品,そしてブランド品など

高付加価値商品へと拡大していま

す。その結果欧米では,荷主の物流

事業者選定の基準ともなっているわ

けです。

現在,急速な経済のグローバル化

と企業活動の国境を越えたサプラチ

ェーンの構築が進展する中,世界各

国においては物流分野におけるセキ

ュリティ確保に向けた施策が実施さ

れ,物流を巡る国際的な環境は目ま

ぐるしく変化しています。

とくに2001年9月に発生した米同

時多発テロを機に様々なセキュリテ

ィ基準が新たに制定され,TAPAや

C-TPATをはじめとするセキュリテ

ィ基準にも多くの影響を与えまし

た。

このため国際運送事業者には,リ

ードタイム短縮とコスト削減と同時

に,安全・安心の確保にも取り組む

ことが要請されています。

TAPA以外に世界で普及している

貿易上の主な取り決め,セキュリテ

ィ規格を挙げてみると;

(1)C-TPAT(Customs Trade Part-

nership Against Terrorism)

同時多発テロ事件以降,2002年に

CSI(Container Security Initiative)が,

米国向けコンテナ貨物の船積み港で

の検査を開始し,同年にはC-TPAT

(Customs Trade Partnership Against

Terrorism)が米国関税局から発表

されました。

C-TPATは輸出国から米国に至る

輸入サプライチェーンのセキュリテ

ィ強化を目的として,米国が02年4

月より導入した官民共同の取組みで

す。

対象は米国の輸入者,トラック,

海運,航空,鉄道,港湾事業者,フ

ォワーダ,通関業者等のサプライチ

ェーンに関係する事業者であり,認

定を受けると税関における検査回数

の削減等のベネフィットを得ること

ができます。

(2)CSI(Container Security Initiative)

米国向け海上コンテナ内に大量破

壊兵器等を隠匿し米国内で爆発させ

るテロを未然に防止するため,米国

向けコンテナ貨物を船積みする米国

外の港に米国税関職員を派遣し,当

該国の税関当局と協力して,ハイリ

スク・コンテナの特定・検査を実施

する取組みです。

(3)AEO(Authorized Economic Operator)

物品のサプライチェーンにおいて

安全基準を遵守しているとして税関

当局等が認定した輸出入者,運送業

者,倉庫業者等に対し,税関手続の

簡素化やセキュリティに関連する優

遇等の便益を付与する制度。

(4)ISO 28000

「サプライチェーンのためのセキ

ュリティ・マネジメント・システム

の仕様」として2007年に発行されま

した。ISO 14001(環境マネジメント

新・物流セキュリティ基準

特集●物流拠点の安心・安全[Security & Safety]

2011・2 19

特定輸出申告制度及び特定保税承認制

度)が順次導入,改善されてきまし

た。そして08年3月の関税法改正に

よって同年4月より,新たに国際運

送事業者及び通関業者を対象とする

AEO制度として特定保税運送制度

「AEO運送者制度」及び認定通関業

者制度「AEO通関業者制度」が創

設されました。

AEO運送者制度は,国際運送事

業者として船会社,航空会社,フォ

ワーダ等を対象としています。

AEO運送者制度の承認を受けるた

めには,業務遂行能力や過去の法令

違反歴について審査を受け,また,

法令遵守規則の作成及びその法令遵

守規則に沿って適正かつ確実に業務

を行うための社内体制整備が求めら

れます。

AEO運送者制度のベネフィット

としては,保税運送に係る税関手続

きの簡素化及び荷主の輸出リードタ

イムの短縮が可能となる点,さらに

は国際間のサプライチェーンにおい

て,有利なステータスを得るための

ブランドとして活用できるようにな

ることが期待されています。

また,AEO制度を導入している

諸外国の税関当局との間では,一方

の当局が認定したAEO事業者を他

方の当局もセキュリティ管理等に優

れた者として認定され,相互に貿易

円滑化措置を付与することを基本的

な考え方とする「相互承認」が推進

されています。

グローバル物流における製品の調

達・生産・販売の一連のサプライチ

ェーンにおいて,大きなリードタイ

ム短縮やコスト削減が可能となり,

国際競争力の強化につながることが

期待されています。

日本を中心に見た場合,北米2か

国,EU加盟の27か国,オセアニア

と相互認証がとれています。

けた日本の倉庫・保管施設の安全性

アピールにも繋がり,日本へのハイ

テク製品や付加価値商品の集積にも

寄与するものと考えています。

◆TAPAの歴史米国で設立以後,1999年より

TAPA EMEA(欧州・中東・アフリ

カ)で普及,2000年にはTAPA Asia

(オセアニア,アジア),05年に

TAPA Brazil(南米)が活動を開始

したのに続き,07年よりTAPA

Japan が正式に発足しました。

現在TAPA BrazilはTAPA Amer-

icaに,TAPA Japanは TAPA Asia

の支部として位置づけられています

(図表-1,2)。

◆過半数がアジアでの認証少し古い資料では全世界で1212件

の施設がTAPAの認証を受けていま

す。うちアジアは604件と過半数を

占めていますが,これはアジア地域

における施設の安全が確保されてい

ないということの表れではないでし

ょうか。

TAPAは個々の倉庫施設のセキュ

リティの要求事項の審査のため,倉

世界的には物流におけるセキュリ

ティの基準とこれを認定する組織は

いくつかありますが,中でもTAPA

の特徴はセキュリティの具体的な数

値や効果を定義していること,つま

りフィジカルセキュリティの要求項

目を重要視していることです。

前述の通り,TAPAは倉庫・輸送

におけるセキュリティレベルを審査

し,認証を与える機関として広く認

知され,欧米を中心に認証施設が拡

大しています。荷主が倉庫・輸送会

社への業務委託条件としてTAPA認

証取得を必須条件とするケースが増

大しており,セキュリティ確保によ

る他社との差別化が進んでいます。

荷主によるTAPA認証取得要求は

日本へも波及しつつあります。

TAPA認証取得の促進は,世界に向

TAPA;フィジカルなセキュリティ要求項目

図表-1 TAPAの運営体制

20 2011・2

庫や物流拠点など施設単位での認証

になります。

日本における認証取得の数として

は,30数拠点とまだ多くはありませ

んが,日本HP社,AMD社などの電

子機器メーカーの施設のほか,日本

通運,近鉄ワールドエクスプレス,

郵船ロジスティクス,西鉄NNRロ

ジスティクスなど大手フォワーダ事

業者,TNT,DHL,Exel社など外

資系物流事業者の施設などが認証取 得済みとなっています。

◆TAPA-FSRとは「ハイテク・高付加価値商品,貴

重品等の保全」と「企業の資産」の

保護を目的とする倉庫を対象とした

認証をTAPA-FSR(Freight Security

Requirements)といいます。TAPA

が物流事業者のとるべき保安に関す

る要求事項として定めた「FSR」の

なかで,規定の点数をクリアするこ

とで認証が与えられます(図表-

3)。

FSRは「貨物セキュリティ要求事

項」と呼ばれ,最低限のセキュリテ

ィ要求項目をリスト化したもので

す。レベルの高い順にA,B,Cの

3ランクがあり,必要なセキュリテ

ィレベルをバイヤー(荷主)が指定

します。

A,Bレベルの認証には独立の認

定法人による監査(査定)が必要で,

2009年1月1日以降の監査(内部監

査を含む)は,「FSR 2009」のカテ

ゴリーとなり,FSR2011は1月に発

表されました。

FSR査定対象エリアは以下の8項

目になります。

①施設周辺セキュリティ

倉庫の資産保護のためのTAPA-FSR認証

図表-2 TAPAのロードマップ

図表-3 TAPAの認証フローチャート

2011・2 21

②アクセス管理-事務所

③ドック/倉庫施設

④セキュリティシステム

⑤セキュリティ手順

⑥標準的なセキュリティ要求事項

(トラック)

⑦事前通知

⑧より高いレベルのセキュリティ

要求事項

◆配送時のセキュリティ強化FSRは倉庫や物流センターを中心

とした基準ですが,運送を中心とす

る TSR( Track Security Require-

ments;トラックセキュリティ要求事

項)にも昨年動きがありました。

TSRは配送時の現場セキュリティ

レベルをチェックするもので,要求

事項には①車輛は施錠され,警報装

置を作動させた状態で常に運転者の

見える範囲に駐車させなければなら

ない,②夜間はフェンスで囲まれ照

明が十分な駐車場に駐車する,③停

車時は常時1人の運転者が積み荷に

付き添う,④運転手の採用前の審査

では5年前までの前雇用主を調査す

る――ほかとなります。

これにより盗難による損害の抑制

のほか,盗難品が市場に出回ること

による信用失墜,マーケット喪失を

未然に防ぐことができます。認証に

より,物流事業者の他社との差別化

に結びつくのです。

◆要求事項は3年ごとに改訂FSRもTSRも要求項目はこれまで

は2年ごとに改訂されていました

が,今年より3年ごとに改訂される

ことになりました。これは犯罪手口

の推移に対応するためと,技術的進歩

によって新たにリーズナブルなコス

トで利用できるようになったシステ

ムを採用していくためでもあります。

例えばFSR 2009の改訂では監視

カメラ(CCTV)の秒当たりフレー

ム数が増加していますが,07年当時

は高価だったCCTVと録画装置の価

格が下がってきたため,セキュリテ

ィの要求に見合う投資として,より

きめ細かい記録を求められるように

なりました(写真-1)。

◆FSRの採点例FSRは78の要求項目から構成され

ており,「フェンスは 1.8m以上」

「2.4m以上あると加点」などと具体

的な数値が示されています。単に

「フェンスで囲まれていること」と

言えば,園芸用フェンスでも該当す

ると主張できます。

そのように記述が曖昧になってい

た場合,世界規模で均質なセキュリ

ティが設定できません。基準認証を

受けようとする企業も,塀が必要な

のかどうか,何mの高さの塀を作れ

ばいいのか,いちいち専門家を呼ん

で議論させなければなりません。

このような,実践的で明解な数値

を示すことがTAPA- FSRの特色で

す。

TAPA-FSRは America,Asia,

EMEAのどのサイトからも基準の

解説とともにダウンロードが可能と

なっています。ただし日本語版は,

暫定的に日本支部会員に限定して配

布中です。

例えばフェンスの項目には,「1.

施設周辺/1.1 外周警備(ゲートを

含む)」という設定項目の基本条件

に,「1.1.1 荷捌き,入出荷ヤード

は塀で囲まれている」という要求事

項があります。

これらには採点基準が示され,

「外周に塀あるいはゲートがない」

場合は0点となりますが,「荷捌き,

入出荷ヤードは塀で囲まれている」

「塀の高さは1.8m(6feet)以上ある」

「塀は日常的に検査,補修されてい

る」「塀は良好に維持されている」

「ゲートは手動で開閉され,管制さ

れている」「雑居,多層階型の倉庫

ドックは柵が設けられ,アクセスが

管制(Control)されている」の各項

目を同時に満たすと1点加算されま

す(写真-2,3)。

さらに,「荷捌き,入出荷ヤード

を含む全施設は塀で囲まれている」

「塀の高さは2.4m(8feet)以上ある

いは1.8m(6feet)以上で,電子警報写真-1倉庫内に設置された監視カメラ(CCTV)

写真-2,3 厳重にモニタリングされている受付

22 2011・2

装置(乗り越え/接触)が設置されて

いる」「塀は日常的に検査,補修さ

れている」「塀は良好に維持されて

いる」「ゲートは人あるいは電子的

に管制されている」「雑居,多層階

型の倉庫ドックは柵が設けられ,管

理されている」を満たせば2点にな

ります(写真-4~7)。

つまり,1点と2点の差は,「荷

捌き,入出荷ヤードが囲まれている」

ことが1点。「全施設が塀で囲まれ

ている」ことが望ましく2点の基準

写真4~7 TAPA認証施設の高額商品保管区画(HVC)

図表-4 倉庫レイアウト例

特集●物流拠点の安心・安全[Security & Safety]

2011・2 23

です。

また「塀の高さは1.8m以上」が必

須であり,「2.4m以上ある」ことが望

ましく,「2.4m未満1.8m以上であれ

ば電子警報装置」が着いていること

が望ましい,ということになります。

塀の高さが1.8m未満であるか,維

持管理が十分でない,出入りが管制

されていなければ0点です。

TAPAの採点は,具体的なものが

設置されているかなど,設備の現状

を明確にしています(図表-4)。

FSRでAクラス認証を取得する場

合,全要求項目の78項目のうち,77

項目が審査対象になります。各項目

が0点,1点,2点ですから,最高

点は77×2点=154点。その60%以

上,すなわち93点以上が合格ライン

(ただし要求項目1~5は項目ごとに

得点の60%の獲得が必要)であり,

同時に77項目のうち23個の項目は1

点以上を取っている必要があるので

す。77項目のすべてが1点ではAク

ラスの認証は取れません(図表-

5)。

図表-5 FSRの要求事項

こうしたTAPA認証が近年,世界

の物流スタンダードになりつつあり

ます。認証取得していない施設はセ

キュリティの脆弱な倉庫として,商

品を預けないという傾向が見られま

す。

最近になって日本をはじめ世界の

税関で採用されているAEO認定へ

の,フィジカルセキュリティのエビ

デンスとして有効と考えられるよう

になりました。取得メリットは多く

ありますが,日本においては,物流

関連企業が社内におけるセキュリテ

ィ教育の向上に大いに役に立ってい

ると思います。

◆TAPAアジア日本支部07年にTAPA Asia Japan Chapter

(日本支部)が,TAPA Asia の日本

法人として正式に誕生しました。1

グローバルな物流スタンダード化

24 2011・2

年半の広報活動を経て,09年4月に

一般社団法人として設立登記されま

した。現在ではTAPA-FSR審査

員・内部監査員トレーニングも

TAPA-Asia 公認トレーニングとし

て開催しております(写真-8)。

このトレーニングは,これまで香

港やシンガポールなどアジア主要都

市で英語での授業で開催されていま

したが,語学もさることながら海外

渡航費用・日数の問題が大きな障害

になっていました。さらに日本での

受講メリットとしてはTAPA-Asia

委員会の正式な修了資格証(内部監

査員資格及び審査員前提資格)が取得

できることにあります。

TAPA日本支部は現在,法人会員

の参加を促進している最中ですが,

2010年11月現在,法人会員22社,個

人会員52名となり,11年は法人会員

30社を目標としています。

また今年3月よりTAPA日本支部

では,TAPA FDSR(Food & Drug

Security Requirements)認証モニタ

ーを開始予定です。

この認証は日本支部が企画・立案

したもので,昨年2月より3社程の

冷凍食品企業のモニター審査をはじ

め,7月には中国の食品工場4社程

を視察・審査しており,日・英・中

国語での Food & Drug Scoring

Matrixドラフトは作成済みです。そ

して今年4月よりTAPA全支部で本

格的に始動予定にしています。

写真-8 TAPA-FSR審査員養成・内部監査員トレーニングの模様

最近,食品企業において期限表示

や原産地偽装表示やデータの改ざ

ん,虚偽記載など,違反の隠ぺいな

どさまざまな不祥事が発生し,中国

産食品でも危害異物混入事件(混入

ギョーザ事件),メラミン混入事件が

問題となり,食品企業の社会的責任,

つ ま り CSR(Corporate of Social

Responsibility)が問われています。

食品企業の社会的役割が,安全で

栄養価や品質の良い食品を消費者に

提供することなのは間違いなく,食

品等の衛生管理や品質管理をしっか

り行うことが欠かせません,

特に最近,食品安全を損なう危害

異物の混入等の事件が国内外で続発

しており,食品犯罪に対する防犯対

策が求められています。日本では食

品自給率が低く,輸入に頼らざるを

得ない現状では強固なセキュリティ

が必須となります(図表-6)。

そこで,食品事件の根絶を図るた

めには,効果的なフードセキュリテ

ィシステムを構築し,人材を養成す

ることが必要だと日本支部が食品医

薬品セキュリティ要求事項「FDSR」

(Food & Drug Security Requirements)

を企画・立案,2011年中には日本と

中国をはじめとしたTAPAアジア全

域で開始する予定です。

TAPAの特長であった高価な製品

の安全確保のコンセプトを食品と医

薬品にまで対象を拡大したもので,日

本支部では昨年1月にフードディフ

ェンス推進委員会を立ち上げました。

食品の安全面や衛生に関する認証

にはHACCPやISO22000などがあり

ますが,製造後の保管や輸送などの

物流業務を含めた条項を定めた認証

はありません。

フードセキュリティの対象は,食

品の栽培・養殖・採取行程,製造加

工行程及び流通販売行程において生

じる 意図的な危害異物の混入,ま

たはその恐れが十分にある犯罪行為

です。

食品・医薬品にセキュリティシステム[FDSR]を

図表-6 フードセキュリティの損害規模区分

特集●物流拠点の安心・安全[Security & Safety]

2011・2 25

食品医薬品セキュリティ診断チャ

ートは,サプリメント(健康食品),

高級食品,医薬品の盗難対策に十分

に機能し,かつ危害物の意図的な混入

防止対策の確認を目的としています。

また,診断チャートで有効と確認

された防御対策は,役職員が引き起

こす食品の偽装や虚偽表示等の不祥

事対策はもちろん,食品テロの未然

防止対策においても有効に寄与する

ものと考えています。

これは食品のみならず医薬品も対

象とし,食品,医薬品業界は経口摂

取品を扱うという点において,毒物,

異物の混入が行われた場合,企業の

損害ばかりでなく,大きな社会的影

響の発生源となり得ます。

そこで盗難ばかりでなく,侵入業

図表-7 FDSRの要求事項

26 2011・2

務妨害,サプライチェ-ン管理,社

内不正の阻止の視点を重視しなけれ

ばならないわけです。

FDSRは毒物,薬物,生物,異物

などの混入が容易な場所として,製

造施設内を重視し,製品と原材料の

保管場所,流通方法をも適用範囲と

して,世界的なサプライチェーンの

全域で適用されるべきものだろうと

考えています。要求事項の一部は図

表-7のようになります。

食品供給行程に健康被害,損害を

もたらす意図的な攻撃方法は,以下

の5点を想定しています。

①貨物の盗難,すり替え,偽装,

破損・水濡れ・ダメージ

②危害異物,不潔異物の食品への

混入・汚染・散布・注入

③情報漏洩,虚偽報告及び不審行動

④ゆすり・脅迫

⑤物理的な破壊行動

ただし,役職員による偽装,虚偽表

示等の法令違反による攻撃,微量で

多数殺傷可能な毒性が極めて強い有

毒物資による食品テロは,FDSRで

掲げる一般的なセキュリティ措置に

よる対処は極めて困難です。効果的

なテロ防御措置ではないとしても,

抑止効果はある程度期待できます。

そこでTAPAでは食品防御対策の

ポイントとして

(1)製品,原材料等の安全・品質保証

(2)侵入,不審挙動,脅威・不信行

動の注意・監視

(3)役職員,特に従業員の出入り等

行動制限

(4)消費者,顧客に対して製品,原材

料の安全,品質,管理等の履歴報告

(5)施設,織内外の脅威等による食

品攻撃に対する危機対応

の5点を提唱し,施設現場でのセキ

ュリティ対策として,①CCVTを含

み施設及び周辺の管理,②適切な照

明,③警報装置,④窓,ドア等の周

辺開口部の施錠,防御策ほかを設定

しました。

現在はカリキュラムを作成中の段

階ですが,食品関連企業の運営方針

も徹底したうえで,ソフト面,ハー

ド面から強固なセキュリティを施す

必要があります(写真-9)。

FDSRは日本発アジア全域対象の

事業になると確信しております。特

に中国は食品の事件が多いことか

ら,この認証は日本以上の取得数と

なるでしょう。

日本支部では食品メーカーの

TAPAへの参画を募っている最中で

すが,現在のところ冷食メーカーを

中心に普及促進を図ります。

続いては当然,医薬品分野にも拡

大していきますので,今後のTAPA

の動きに期待していただけたらと考

えています。

問い合わせ先

一般社団法人TAPAアジア日本支部

千葉市花見川区幕張町6-85

TEL.043-275-0532

e-mail: [email protected]

http://www.tapa-asia.org/

昭和44年に早稲田大学卒業後,大手海運会社及び外資系航空会社に勤務。昭和60年に㈱日本技術情報研究所設立・代表取締役に就任,現在まで25年間,海外の先端産業調査(医療・環境・セキュリティ等)に携わり,コーディネーター・団長として渡航歴100数十回に亘る。平成19年,TAPAアジア日本支部を創設・代表理事に就任,現在に至る。主な所属学協会は,全米産業セキュリティ学会(ASIS), 日本安全保障・危機管理学会, バイオインダストリー協会(JBA)等。特にフィジカルセキュリティ分野に精通し,海外での学習経験が豊富で,欧米のセキュリティ関連・行政(警察等)関係者に多くの知人を持つ。現在は一般社団法人TAPAアジア日本支部の代表として,物流セキュリティの普及活動をはじめ,リスク管理セミナーの講師として啓蒙活動に励む。

*3月2日開催,ビューローベリタスジャパン㈱主催によるセミナーで,浅生氏は「TAPA認証制度とサプライチェーンセキュリティ」と題した講演を行う。会場は日本赤十字社本社ビル(東京都港区芝大門1丁目1番3号)。入場は無料。詳細はhttp://certification.bureauveritas.jp/まで。

浅生成彦氏プロフィール

取材協力: 日本冷凍食品検査協会

常務理事 東島 弘明(はるしま・ひろあき)氏*略歴獣医師。1969年厚生省(現厚生労働省)入省。環境衛生・生活衛生局:食品衛

生課・食品保健課、乳肉衛生課の課長補佐等,指導課専門官神戸検疫所輸入食品検疫・検査センター長など衛生行政に従事。2002年に 日

本食品衛生協会理事,2006年 日本冷凍食品検査協会常務理事に就任,現在に至る。2008年より TAPAアジア日本支部理事に就任,フードデイフェンス推進委員会座長として活躍。

写真-9 セキュリティで固められた通用門