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The 47th Western Regional Meeting of the Japanese Society of Nephrology, Luncheon Seminar 8 *先生方のご所属は本資材発刊時(2018年2月現在)のものです 第47回日本腎臓学会西部学術大会 ランチョンセミナー 8 CKD患者の予後を見据えた慢性腎臓病治療戦略 ~早期からの鉄・ミネラル代謝異常管理の重要性~ 開催日:2017年10月14日(土) 場所:岡山コンベンションセンター 第3会場 The 47th Western Regional Meeting of the Japanese Society of Nephrology, Luncheon Seminar 8 司会: 深川 雅史 先生(東海大学医学部内科学系 腎内分泌代謝内科 教授) 鶴屋 和彦 先生(奈良県立医科大学 腎臓内科学 教授演者: 常喜 信彦 先生(東邦大学医療センター大橋病院 腎臓内科 准教授稲熊 大城 先生(藤田保健衛生大学 医学部腎内科学 教授昨今、「心腎連関」として慢性腎臓病(CKD)患者の心臓と腎臓には密接な関連があることが解明されてきており、CKD患者の 予後改善のためには心血管疾患(CVD)に着目した治療が重要であるといえる。 また、CKDに伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)の病態における、リンやリン利尿ホルモンFGF23、さらに鉄の役割の 解明が進んだ結果、CKD-MBDや鉄がCVD抑制につながる重要な因子であることが注目されている。リン吸着薬や鉄剤の臨床 における有用性を示唆する、さまざまなエビデンスも蓄積されてきている。一方、透析患者の最たる死因は依然として心不全で あり、CKD患者の予後については十分に改善されたとはいえない。 そこで今回、本領域のエキスパートである常喜信彦先生、稲熊大城先生にCKD患者の予後改善を見据えて、早期からの治療の 重要性について、最新の知見を交えご講演いただいた。 Masafumi FUKAGAWA Kazuhiko TSURUYA Nobuhiko JOKI Daijo INAGUMA

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The 47th Western Regional Meeting of the Japanese Society of Nephrology, Luncheon Seminar 8

*先生方のご所属は本資材発刊時(2018年2月現在)のものです

第47回日本腎臓学会西部学術大会 ランチョンセミナー 8

CKD患者の予後を見据えた慢性腎臓病治療戦略~早期からの鉄・ミネラル代謝異常管理の重要性~

開催日:2017年10月14日(土) 場所:岡山コンベンションセンター 第3会場

The 47th Western Regional Meeting of the Japanese Society of Nephrology, Luncheon Seminar 8

司会: 深川 雅史 先生(東海大学医学部内科学系 腎内分泌代謝内科 教授) 鶴屋 和彦 先生(奈良県立医科大学 腎臓内科学 教授)演者: 常喜 信彦 先生(東邦大学医療センター大橋病院 腎臓内科 准教授) 稲熊 大城 先生(藤田保健衛生大学 医学部腎内科学 教授)

 昨今、「心腎連関」として慢性腎臓病(CKD)患者の心臓と腎臓には密接な関連があることが解明されてきており、CKD患者の予後改善のためには心血管疾患(CVD)に着目した治療が重要であるといえる。 また、CKDに伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)の病態における、リンやリン利尿ホルモンFGF23、さらに鉄の役割の解明が進んだ結果、CKD-MBDや鉄がCVD抑制につながる重要な因子であることが注目されている。リン吸着薬や鉄剤の臨床における有用性を示唆する、さまざまなエビデンスも蓄積されてきている。一方、透析患者の最たる死因は依然として心不全であり、CKD患者の予後については十分に改善されたとはいえない。 そこで今回、本領域のエキスパートである常喜信彦先生、稲熊大城先生にCKD患者の予後改善を見据えて、早期からの治療の重要性について、最新の知見を交えご講演いただいた。

Masafumi FUKAGAWA Kazuhiko TSURUYA

Nobuhiko JOKI Daijo INAGUMA

  

 慢性腎臓病(CKD)患者は心血管疾患の発症率が高くなると同時に、両者が合併すると極めて予後が悪くなることが知られている。そのためCKD患者の予後を改善するためには心疾患への介入、特に虚血性心疾患への介入が不可欠であり、

実際にそれが行われてきた。果たしてその介入は功を奏してきたのか、課題を提起し、検証を試みた。 The United States Renal Data System(USRDS)の報告によると、透析患者のST上昇型心筋梗塞(STEMI)の発症は、過去20年間において減少傾向にある1)。その背景として、経皮的冠動脈形成術(PCI)施行の増加やアスピリン、レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬、スタチン、β遮断薬の処方増加等が考えられる2)。わが国においても、透析患者の冠動脈病変合併率は減少しているという報告3)がある一方、CKDステージ3以上の患者の心筋梗塞(MI)発症後の予後をみると、30日以内の予後は近年改善傾向にあるものの、5年予後には顕著な改善はみられない2)。これまで我々は透析患者における虚血性心疾患の抑制に努めてきたが、MI発症後の予後の改善は限定的である可能性があることから、虚血性心筋症以外の心筋障害にも注目することが必要であると考えられる。

 腎機能の低下とともに、左室肥大の合併率が増加することや4)、心筋の線維化が進行することが知られている。このような知見は、一般的に心リモデリングと総称され、その実態は

心筋の肥大により内腔が狭くなる求心性心リモデリング(肥大型心筋症)と、心筋の線維化により内腔が拡がって全体的に心臓が拡大する遠心性心リモデリング(拡張型心筋症)に大別される。また、実臨床では肥大型心筋症は無症候のことも多く、心収縮能も保たれていることも多いため、肥大型よりも拡張型において予後が不良であるイメージがもたれてきたが、実際は、拡張型よりも肥大型のほうが予後不良であるとする報告もある5)。

 近年、慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)と左室肥大の関連が指摘されており、CKD患者における高リン血症が遠心性心リモデリングと関連するとの報告がある6)。その一方で、リン利尿ホルモンである血中FGF23濃度高値のCKD患者では、肥大型心筋症に関与する割合が大きいとの報告もあり7)、病態の複雑さが示唆される(図1)。 また、重度の慢性貧血は、心拡大(拡張型リモデリング)を引き起こすことが示唆されている8,9)。心拡大は胸部レントゲンによる心胸比(CTR)で評価することができるが、透析導入時のヘモグロビンが低いほど、CTRが大きくなることが知られている9)(図2)。加えてCTRは鉄欠乏とも相関することが示唆されており、心不全患者の予後には貧血よりも鉄欠乏の影響が大きいとする報告(図3)を支持する10)。その心不全

患者を対象にした研究報告によると、貧血の有無および鉄欠乏のマーカーであるトランスフェリン飽和度(TSAT)≧20%と<20%を組み合わせた4群で生存率を比較した結果、TSAT<20%の2群において予後不良であった10)。 わが国の心疾患の既往のない保存期CKD患者においても、潜在する心筋壊死や線維化が予後を規定する可能性が報告されており、早期からの介入の重要性も示唆される11)。 このように、CKD患者の長期予後不良の要因に非虚血性の心筋障害が潜在している可能性が示唆されることから、今後は、CKD-MBDや鉄欠乏の観点からも保存期CKD患者の病態理解を深め、非虚血性心筋障害に対するアプローチの検討が望まれる。

図1 FGF23と左室肥大<海外データ> 図2 透析導入時のヘモグロビン濃度と心拡大

Asakawa T, et al.: Cardiorenal Med 4(3-4): 189-200, 2014 を一部改変

非虚血性心筋障害における心リモデリング

講演1

深川 雅史 先生Masafumi FUKAGAWA

司 会

東海大学医学部内科学系 腎内分泌代謝内科 教授

常喜 信彦 先生Nobuhiko JOKI

演 者

東邦大学医療センター大橋病院 腎臓内科 准教授

慢性腎臓病と非虚血性心筋障害

末期腎臓病患者の心予後は改善したか

Republished with permission of American Society for Clinical Investigation, from FGF23 induces left ventricular hypertrophy, Faul C et al., 121(11), 2011; permission conveyed through Copyright

Clearance Center, Inc.

CTR>50%のOdds比

対象: CRIC(Chronic Renal Insufficiency Cohort)studyの延長として、1年後に心エコー検査を受けたCKD患者3,070例

方法: 対象患者をFGF23レベルに応じて四分位に分け、心エコーにおける左室肥大との関連を調査した。

試験概要

100

90

80

70

60

50

40

30

20

10

0Quartile1 Quartile2

FGF23濃度

低 高

Quartile3 Quartile4

NormalRemodeling

Eccentric LVHConcentric LVH

求心性

遠心性

対象: 2006年1月~2013年10月に血液透析を開始した末期腎不全患者2,249例(年齢67歳±13歳、男性67%、糖尿病性腎症41%)

方法: 最初の血液透析施行直前のヘモグロビン濃度と心胸郭比(CTR)の関連及びCTRに関連する臨床学的因子を調査した。

試験概要

2.5

2

1.5

1

0.5

0

(g/dL)

(%)

導入時ヘモグロビン濃度<7.07.9-7.08.9-8.09.9-9.010.9-10.0≧11

2.41

1.9

1.5

1.091

0.83

49

21

19

11

38

16

30

16

33

12

31

24

27

11

35

27

Prevalence

The 47th Western Regional Meeting of the Japanese Society of Nephrology, Luncheon Seminar 8

  

 慢性腎臓病(CKD)患者は心血管疾患の発症率が高くなると同時に、両者が合併すると極めて予後が悪くなることが知られている。そのためCKD患者の予後を改善するためには心疾患への介入、特に虚血性心疾患への介入が不可欠であり、

実際にそれが行われてきた。果たしてその介入は功を奏してきたのか、課題を提起し、検証を試みた。 The United States Renal Data System(USRDS)の報告によると、透析患者のST上昇型心筋梗塞(STEMI)の発症は、過去20年間において減少傾向にある1)。その背景として、経皮的冠動脈形成術(PCI)施行の増加やアスピリン、レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬、スタチン、β遮断薬の処方増加等が考えられる2)。わが国においても、透析患者の冠動脈病変合併率は減少しているという報告3)がある一方、CKDステージ3以上の患者の心筋梗塞(MI)発症後の予後をみると、30日以内の予後は近年改善傾向にあるものの、5年予後には顕著な改善はみられない2)。これまで我々は透析患者における虚血性心疾患の抑制に努めてきたが、MI発症後の予後の改善は限定的である可能性があることから、虚血性心筋症以外の心筋障害にも注目することが必要であると考えられる。

 腎機能の低下とともに、左室肥大の合併率が増加することや4)、心筋の線維化が進行することが知られている。このような知見は、一般的に心リモデリングと総称され、その実態は

心筋の肥大により内腔が狭くなる求心性心リモデリング(肥大型心筋症)と、心筋の線維化により内腔が拡がって全体的に心臓が拡大する遠心性心リモデリング(拡張型心筋症)に大別される。また、実臨床では肥大型心筋症は無症候のことも多く、心収縮能も保たれていることも多いため、肥大型よりも拡張型において予後が不良であるイメージがもたれてきたが、実際は、拡張型よりも肥大型のほうが予後不良であるとする報告もある5)。

 近年、慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)と左室肥大の関連が指摘されており、CKD患者における高リン血症が遠心性心リモデリングと関連するとの報告がある6)。その一方で、リン利尿ホルモンである血中FGF23濃度高値のCKD患者では、肥大型心筋症に関与する割合が大きいとの報告もあり7)、病態の複雑さが示唆される(図1)。 また、重度の慢性貧血は、心拡大(拡張型リモデリング)を引き起こすことが示唆されている8,9)。心拡大は胸部レントゲンによる心胸比(CTR)で評価することができるが、透析導入時のヘモグロビンが低いほど、CTRが大きくなることが知られている9)(図2)。加えてCTRは鉄欠乏とも相関することが示唆されており、心不全患者の予後には貧血よりも鉄欠乏の影響が大きいとする報告(図3)を支持する10)。その心不全

患者を対象にした研究報告によると、貧血の有無および鉄欠乏のマーカーであるトランスフェリン飽和度(TSAT)≧20%と<20%を組み合わせた4群で生存率を比較した結果、TSAT<20%の2群において予後不良であった10)。 わが国の心疾患の既往のない保存期CKD患者においても、潜在する心筋壊死や線維化が予後を規定する可能性が報告されており、早期からの介入の重要性も示唆される11)。 このように、CKD患者の長期予後不良の要因に非虚血性の心筋障害が潜在している可能性が示唆されることから、今後は、CKD-MBDや鉄欠乏の観点からも保存期CKD患者の病態理解を深め、非虚血性心筋障害に対するアプローチの検討が望まれる。

図3 心不全患者の予後に与える影響<海外データ>

引用文献 1) Shroff GR, et al.: J Am Soc Nephrol 28(5): 1379-83, 2017 2) Nauta ST, et al.: Kidney Int 84(2): 353-8, 2013 3) Iwasaki M, et al.: J Atheroscler Thromb 21(6): 593-604, 2014 4) Levin A, et al.: Am J Kidney Dis 34(1): 125-34, 1999 5) Paoletti E, et al.: Clin J Am Soc Nephrol 11(2): 271-9, 2016 6) Zou J, et al.: Int J Cardiol 221: 134-40, 2016 7) Faul C, et al.: J Clin Invest 121(11): 4393-408, 2011 8) Stritzke J, et al.: J Hypertens 25(6): 1301-9, 2007 9) Asakawa T, et al.: Cardiorenal Med 4(3-4): 189-200, 2014 10) Okonko DO, et al.: J Am Coll Cardiol 58(12): 1241-51, 2011 11) Nakamura S, et al.: J Nucl Cardiol, 2017. doi: 10.1007/s12350-017-0880-5. [Epub ahead of print]

左室肥大に関与するリンと鉄欠乏

Reprinted from J Am Coll Cardiol., 58(12), Okonko DO et al., Disordered iron homeostasis in chronic heart failure: prevalence, predictors, and relation to anemia, exercise capacity, and survival., 1241-51, Copyright 2011, with permission from American College of Cardiology Foundation.

対象: 慢性心不全患者157例

方法: 対象者の鉄関連マーカーを測定し、鉄代謝および貧血予測因子、有病率、心機能と貧血、鉄欠乏と運動能力および生存との関係などについて調査した。

試験概要

100

80

60

0

5

4

3

2

1

(日)

(%)

貧血なし、TSAT≥20%貧血あり、TSAT≥20%貧血なし、TSAT<20%貧血あり、TSAT<20%

Numbers at Risk0

p<0.01(ログランク検定)

貧血なし、TSAT≥20%貧血あり、TSAT≥20%貧血なし、TSAT<20%貧血あり、TSAT<20%

200 400 600 800 1,000 1,200

67222939

65222732

63222529

51172322

36111413

3316

0001

1,400

累積生存率

ハザード比

貧血なし、TSAT≥20%

HR1

貧血なし、TSAT<20%

HR2.2(95%CI 0.7-70)

貧血あり、TSAT≥20%

p<0.01

HR0.9(95%CI 0.2-4.7)

貧血あり、TSAT<20%

HR4.1(95%CI 1.5-10.8)

講演2

 

 日本においては、慢性腎臓病(CKD)に関する疫学研究として、保存期、導入期、維持期それぞれの時期で複数の研究が存在する。 このうち、保存期の患者を対象とした研究の1つに、日本CKDコホート研究(CKD-JAC)がある1)。本研究では、腎臓専門医の治療を受けている20~75歳の日本人CKD患者2,966例を対象として、腎イベント(eGFRの半減あるいは

腎代替療法開始)ならびに心血管系イベントおよび全死亡の発現を主要評価項目として検討が行われた2)。その結果、透析導入患者は514例、心血管系イベント発現217例、全死亡は69例であった。全死亡のうち心血管系死亡が17例と、米国の保存期CKD患者を対象としたCRIC研究3)と比較すると、圧倒的に死亡が少数であり、死亡に比べ透析導入が多かった点が特徴的であった。透析導入後の予後を踏まえると、保存期から導入期の管理が重要であり、多くの腎臓内科医共通の課題といえよう。

 

 慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)では、CKDの進行に伴い多くのパラメーターが変化する4)。腎機能の低下とともにまずFGF23が上昇し、代償的にリン利尿を促すことで血中リン濃度の上昇を抑制している。最近、FGF23が直接心臓に影響し左室肥大に関与している可能性5)

が示唆され、それと関連してか保存期CKD患者においてFGF23濃度が上昇するほど死亡リスクが高まることが報告された6)。FGF23を上昇させる因子は多数知られており、リンやカルシウム負荷、活性型ビタミンDはFGF23の産生を亢進する。さらに最近では鉄欠乏もFGF23を上昇させることが報告されている。導入時には多くのCKD患者が貧血傾向にある中、保存期から導入期にかけてのCKD患者の鉄管理状況は知られていない。

 我々が行っている愛知県透析導入コホート研究(AICOPP)は、CKDの保存期から透析導入期にかけての管理状況と予後の関係を検討した数少ない日本のコホート研究であり、県内で透析導入される約半数である1,520例をカバーしている。本研究において、透析導入患者の総死亡リスクを上昇させる因子を検討したところ、加齢、心血管系疾患の既往に加え、透析導入時の血清補正カルシウム濃度高値が有意に関連することが示された。一方、透析導入患者の総死亡リスクを低下させる因子として、性別(女性)、収縮期血圧低値に加え、リン吸着薬の使用が示された7)(図1)。わが国においてもリン吸着薬による早期のリン管理の意義が示されたことは大きい。 現在、わが国では6種類のリン吸着薬が臨床応用されている。その中でもカルシウム含有製剤は、過剰なカルシウム負荷が血管石灰化を助長し、カルシウム非含有製剤に比べ生命予後を悪化させることが示されている8)。また、『KDIGO CKD-MBDガイドライン2017』9)でも、CKDステージG3a-G5Dの成人患者において、高カルシウム血症を避けることが望ましい、あるいはCKDステージG3a-G5Dの成人患者がリン低下療法を受ける場合、カルシウム含有リン吸着薬の投与量を制限することが望ましい、と改訂され、カルシウム含有リン吸着薬の使用は限定的であるべきことが示さ

れた。現在リン吸着薬は多くの薬剤が選択可能であるが、早期介入の重要性を鑑みると、保存期から使用できるカルシウム非含有製剤は重要な選択肢の一つであるといえる。カルシウム非含有製剤であり、保存期CKD患者にも適応を有するクエン酸第二鉄(商品名:リオナ)は3価の鉄を含有しその強力なリン結合能によりリン低下作用を示す10 , 11)。同時にFGF23の低下11)も報告されている(図2)。 FGF23は活性型ビタミンDの産生を抑制するが、ビタミンDは、心、血管、代謝、骨髄、免疫などその多面的な効果が期待されている12)。 CKDは保存期、透析導入期から維持透析期へと続く一連の病態である(図3)。長い維持透析期を状態よく過ごすために、特に患者の病態に大きな変化がある保存期から導入期の管理が重要である。CKD-MBD対策は、心血管疾患予防の観点からも重要であり、保存期から目を向けるべきである。

鶴屋 和彦 先生Kazuhiko TSURUYA

司 会

奈良県立医科大学 腎臓内科学 教授

稲熊 大城 先生Daijo INAGUMA

演 者

藤田保健衛生大学 医学部腎内科学 教授

透析導入後の生命予後改善を見据えて~観察研究から読み解く心腎連関対策~

図2 保存期CKD患者に対するリオナの影響図1 総死亡に与える因子

Inaguma D, et al.: Renal Replacement Therapy 3(2), 2017を一部改変

日本における慢性腎臓病の疫学研究

慢性腎臓病とミネラル代謝~導入期の変化~

試験概要

対象: 高リン血症を呈する透析導入前の保存期慢性腎臓病患者(CKDステージ3~5)90例方法: 2~4週間の観察期(Wash Out期)終了後、リオナまたはプラセボを1日3回、食直後に12週間

投与した。リオナの投与量は1.5g/日から開始し、2週観察日に3g/日に増量した。4週観察日以降は1.5~6g/日の範囲で用量を調節(1回の増減量は1.5g/日)、血清リン濃度低下効果および安全性を検討した。

試験概要

対象: AICOPPグループの施設で透析開始した患者1,524例方法: 対象を血清補正カルシウム①<7.0mg/dL、②7.0~<8.0mg/dL、③8.0~

9.0mg/dL、④9.0~<10.0mg/dL、⑤≧10.0mg/dLの5つのグループに分け、死亡率を比較し、死亡率に影響を及ぼす因子の抽出を行った。

Cox比例ハザード解析(ステップワイズ法)血清補正カルシウム、年齢、性別、BMI、血圧、心胸比、心血管病、炭酸カルシウム使用、ヘモグロビン、eGFR、PTH、CRPで補正 投与期観察期

(Wash Out期)

(mg/dL)

血清リン濃度

0 2 4 6 8 10 12観察開始時

投与終了時

(週)2

3

4

5

6

7

8

平均値±標準偏差

開始用量1.5g 3gに

増量

用量調節

用量調節 用量

調節

リオナ群(n=57)プラセボ群(n=29)

血清リン濃度の推移

0 0.5 1 1.5← 低い死亡率 高い死亡率 →

2 2.5

血清補正カルシウム(mg/dL)

年齢(10歳毎)

女性

収縮期血圧(10mmHg毎)

心血管病既往

リン吸着薬使用

The 47th Western Regional Meeting of the Japanese Society of Nephrology, Luncheon Seminar 8

図3 CKDの病態

 

 日本においては、慢性腎臓病(CKD)に関する疫学研究として、保存期、導入期、維持期それぞれの時期で複数の研究が存在する。 このうち、保存期の患者を対象とした研究の1つに、日本CKDコホート研究(CKD-JAC)がある1)。本研究では、腎臓専門医の治療を受けている20~75歳の日本人CKD患者2,966例を対象として、腎イベント(eGFRの半減あるいは

腎代替療法開始)ならびに心血管系イベントおよび全死亡の発現を主要評価項目として検討が行われた2)。その結果、透析導入患者は514例、心血管系イベント発現217例、全死亡は69例であった。全死亡のうち心血管系死亡が17例と、米国の保存期CKD患者を対象としたCRIC研究3)と比較すると、圧倒的に死亡が少数であり、死亡に比べ透析導入が多かった点が特徴的であった。透析導入後の予後を踏まえると、保存期から導入期の管理が重要であり、多くの腎臓内科医共通の課題といえよう。

 

 慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)では、CKDの進行に伴い多くのパラメーターが変化する4)。腎機能の低下とともにまずFGF23が上昇し、代償的にリン利尿を促すことで血中リン濃度の上昇を抑制している。最近、FGF23が直接心臓に影響し左室肥大に関与している可能性5)

が示唆され、それと関連してか保存期CKD患者においてFGF23濃度が上昇するほど死亡リスクが高まることが報告された6)。FGF23を上昇させる因子は多数知られており、リンやカルシウム負荷、活性型ビタミンDはFGF23の産生を亢進する。さらに最近では鉄欠乏もFGF23を上昇させることが報告されている。導入時には多くのCKD患者が貧血傾向にある中、保存期から導入期にかけてのCKD患者の鉄管理状況は知られていない。

 我々が行っている愛知県透析導入コホート研究(AICOPP)は、CKDの保存期から透析導入期にかけての管理状況と予後の関係を検討した数少ない日本のコホート研究であり、県内で透析導入される約半数である1,520例をカバーしている。本研究において、透析導入患者の総死亡リスクを上昇させる因子を検討したところ、加齢、心血管系疾患の既往に加え、透析導入時の血清補正カルシウム濃度高値が有意に関連することが示された。一方、透析導入患者の総死亡リスクを低下させる因子として、性別(女性)、収縮期血圧低値に加え、リン吸着薬の使用が示された7)(図1)。わが国においてもリン吸着薬による早期のリン管理の意義が示されたことは大きい。 現在、わが国では6種類のリン吸着薬が臨床応用されている。その中でもカルシウム含有製剤は、過剰なカルシウム負荷が血管石灰化を助長し、カルシウム非含有製剤に比べ生命予後を悪化させることが示されている8)。また、『KDIGO CKD-MBDガイドライン2017』9)でも、CKDステージG3a-G5Dの成人患者において、高カルシウム血症を避けることが望ましい、あるいはCKDステージG3a-G5Dの成人患者がリン低下療法を受ける場合、カルシウム含有リン吸着薬の投与量を制限することが望ましい、と改訂され、カルシウム含有リン吸着薬の使用は限定的であるべきことが示さ

れた。現在リン吸着薬は多くの薬剤が選択可能であるが、早期介入の重要性を鑑みると、保存期から使用できるカルシウム非含有製剤は重要な選択肢の一つであるといえる。カルシウム非含有製剤であり、保存期CKD患者にも適応を有するクエン酸第二鉄(商品名:リオナ)は3価の鉄を含有しその強力なリン結合能によりリン低下作用を示す10 , 11)。同時にFGF23の低下11)も報告されている(図2)。 FGF23は活性型ビタミンDの産生を抑制するが、ビタミンDは、心、血管、代謝、骨髄、免疫などその多面的な効果が期待されている12)。 CKDは保存期、透析導入期から維持透析期へと続く一連の病態である(図3)。長い維持透析期を状態よく過ごすために、特に患者の病態に大きな変化がある保存期から導入期の管理が重要である。CKD-MBD対策は、心血管疾患予防の観点からも重要であり、保存期から目を向けるべきである。

提供: 稲熊 大城 氏

引用文献 1) Inaguma D, et al.: Clin Exp Nephrol 21(3): 446-56, 2017 2) Tanaka K, et al.: Kidney Int 91(1): 227-34, 2017 3) Denker M, et al.: Clin J Am Soc Nephrol 10(11): 2073-83, 2015 4) John GB, et al.: Am J Kidney Dis 58(1): 127-34, 2011 5) Faul C, et al.: J Clin Invest 121(11): 4393-408, 2011 6) Isakova T, et al.: JAMA 305(23): 2432-9, 2011 7) Inaguma D, et al.: Renal Replacement Therapy 3(2), 2017 8) Jamal SA, et al.: Lancet 382(9900): 1268-77, 2013 9) Kidney Disease: Improving Global Outcomes(KDIGO) CKD-MBD Update Work  Group: Kidney International Suppl 7(1): 1-59, 2017 10) Yokoyama K, et al.: Am J Nephrol 36(5): 478-87, 2012 11) Yokoyama K, et al.: Clin J Am Soc Nephrol 9(3): 543-52, 201412) 小川哲也, ほか.: 透析会誌 44(1): 44-5, 2011

透析導入時の血清補正カルシウム濃度高値は予後不良因子の一つ

Republished with permission of American Society of Nephrology, from Ferric citrate hydrate for the treatment of hyperphosphatemia in nondialysis-dependent CKD, Yokoyama K et al., 9(3), 2014;

permission conveyed through Copyright Clearance Center, Inc.

0 4 8 12(週)0

200

400

600

800

1,000

1,200(pg/mL)

FGF23

観察開始時

中央値/第1四分位、第3四分位

・久山町研究・宮城艮陵CKD研究・日本CKDコホート研究: CKD-JAC

・日本透析導入研究会: JSTART

・沖縄透析研究: OKIDS・Qコホート・東海透析コホート研究・宮崎透析患者 コホート研究

・愛知県透析導入コホート研究:AICOPP

投与期観察期(Wash Out期)

投与終了時

リオナ群(n=57)プラセボ群(n=29)

FGF23の推移

保存期 導入期 維持期

● CKDは保存期、透析導入期ならびに維持透析期と続く一連の病態である。● CKDはCVDのリスク因子であるが、海外の報告とは発生率を含め異なる点があるので、今後さらに、日本におけるデータを出していく必要がある。

● CKD-MBD対策は、CVD予防の観点からも重要であり、保存期から目を向けるべきである。

● リン管理の一つであるリン吸着剤の使用には、血清カルシウムへの影響ならびにFGF23を意識する必要がある。

使用上の注意

注1)注意-医師等の処方箋により使用すること

気密容器、室温保存(「取扱い上の注意」参照)3年(外箱等に表示の使用期限を参照のこと)

貯  法使用期限

リオナ®錠 250mg

Riona®Tab. 250mg

87219

承 認 番 号承 認 年 月薬 価 収 載販 売 開 始販  売  元製 造 販 売 元

22600AMX000050002014年1月2014年4月2014年5月鳥居薬品株式会社日本たばこ産業株式会社

和 名

洋 名商品名

一  般  名

日本標準商品分類番号

【禁忌(次の患者には投与しないこと)】本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

組成・性状

効能・効果慢性腎臓病患者における高リン血症の改善

用法・用量通常、成人には、クエン酸第二鉄として1回500mgを開始用量とし、1日3回食直後に経口投与する。以後、症状、血清リン濃度の程度により適宜増減するが、最高用量は1日6,000mgとする。

<用法・用量に関連する使用上の注意>・本剤投与開始時又は用量変更時には、1~2週間後に血清リン濃度の確認を行うことが望ましい。・増量を行う場合は、増量幅をクエン酸第二鉄として1日あたりの用量で1,500mgまでとし、1週間以上の間隔をあけて行うこと。

包 装リオナ®錠250mg:100錠(10錠×10 PTP包装)、500錠(10錠×50 PTP包装)、1,000錠(10錠×100 PTP包装)

取扱い上の注意アルミピロー開封後は湿気を避けて保存すること。

クエン酸第二鉄水和物を無水物として(クエン酸第二鉄として)250mg含有

白色のフィルムコーティング錠

長径 約14.9mm、短径 約6.9mm、厚さ 約4.6mm

JTP 751

セルロース、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコール・グラフトコポリマー、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、ステアリン酸Ca、ヒプロメロース、酸化チタン、タルク、ポリエチレングリコール

有 効 成 分( 1 錠 中 )

添 加 物

性 状 ・ 剤 形

外 形

サ イ ズ

識 別 コ ー ド

注2)透析療法を受けている患者へは投与禁忌である。

1. 慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)(1)消化性潰瘍、炎症性腸疾患等の胃腸疾患のある患者[病態を悪化させるおそれが

ある。](2)ヘモクロマトーシス等の鉄過剰である患者[病態を悪化させるおそれがある。](3)C型慢性肝炎等の肝炎患者[病態を悪化させるおそれがある。](4)血清フェリチン等から鉄過剰が疑われる患者[鉄過剰症を引き起こすおそれがある。]

(5)他の鉄含有製剤投与中の患者[鉄過剰症を引き起こすおそれがある。](6)発作性夜間血色素尿症の患者[溶血を誘発し病態を悪化させるおそれがある。]2. 重要な基本的注意(1)本剤は、血中リンの排泄を促進する薬剤ではないので、食事療法等によるリン摂取

制限を考慮すること。(2)本剤は、定期的に血清リン、血清カルシウム及び血清PTH濃度を測定しながら投

与すること。血清リン、血清カルシウム及び血清PTH濃度の管理目標値及び測定頻度は、学会のガイドライン等、最新の情報を参考にすること。低カルシウム血症の発現あるいは悪化がみられた場合には、活性型ビタミンD製剤やカルシウム製剤の投与を考慮し、カルシウム受容体作動薬が使用されている場合には、カルシウム受容体作動薬の減量等も考慮すること。また、二次性副甲状腺機能亢進症の発現あるいは悪化がみられた場合には、活性型ビタミンD製剤、カルシウム製剤、カルシウム受容体作動薬の投与あるいは他の適切な治療法を考慮すること。

(3)本剤は消化管内で作用する薬剤であるが、本剤の成分である鉄が一部吸収されるため、血清フェリチン等を定期的に測定し、鉄過剰に注意すること。また、ヘモグロビン等を定期的に測定し、特に赤血球造血刺激因子製剤と併用する場合には、過剰造血に注意すること。

臨床症状・措置方法 機序・危険因子薬剤名等

これら薬剤の作用を減弱させるおそれがあるので、併用する場合にはこれらの薬剤の作用を観察すること。

これら薬剤と結合し、吸収を減少させるおそれがある。

甲状腺ホルモン剤 レボチロキシン等

キノロン系抗菌剤 シプロフロキサシン等

他のクエン酸製剤との併用で血中アルミニウム濃度が上昇したとの報告があるので、同時に服用させないなど注意すること。

クエン酸との併用により、吸収が促進されるとの報告がある。

テトラサイクリン系抗生物質 テトラサイクリン等

セフジニル

エルトロンボパグ オラミン

経口アルミニウム製剤注2)

 水酸化アルミニウムゲル 合成ケイ酸アルミニウム

抗パーキンソン剤 ベンセラジド・レボドパ等

2%以上 2%未満

下痢(10.1%)、便秘(3.2%)、腹部不快感(2.5%)

腹部膨満、腹痛、十二指腸潰瘍、排便回数増加、胃腸障害、悪心、嘔吐、便通不規則

胃腸障害

赤血球増加症、肝機能異常、食欲減退、そう痒症、高血圧

臨床検査

その他

血清フェリチン増加(2.7%) 血中アルミニウム増加、γ-グルタミルトランスフェラーゼ増加、ヘマトクリット増加、ヘモグロビン増加

3. 相互作用併用注意(併用に注意すること)

5. 高齢者への投与一般に高齢者では生理機能が低下しているので、患者の状態を観察しながら慎重に投与すること。

6. 妊婦、産婦、授乳婦等への投与妊婦又は妊娠している可能性のある婦人、産婦及び授乳婦には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[これら患者への投与に関する安全性は確立していない。]

7. 小児等への投与小児等に対する安全性は確立していない(使用経験がない)。

8. 適用上の注意薬剤交付時:PTP包装の薬剤はPTPシートから取り出して服用するよう指導すること。(PTPシートの誤飲により、硬い鋭角部が食道粘膜に刺入し、更には穿孔をおこして縦隔洞炎等の重篤な合併症を併発することが報告されている。)

9. その他の注意(1)本剤の投与により便が黒色を呈することがある。(2)腹部のX線又はMRI検査で、本剤が存在する胃腸管の画像に未消化錠が写る可能性がある。(3)イヌを用いた長期反復投与毒性試験において、最大臨床用量の鉄として約5倍に

相当する用量より、鉄の過剰蓄積に伴う肝臓の組織障害(慢性炎症巣、細胆管の増生及び肝実質の線維化)が認められた。これらの変化は休薬による回復性はなく、休薬期間中に病態の進行が認められた。

4. 副作用国内における本剤の主要な臨床試験において、801例中204例(25.5%)に副作用が認められた。主な副作用は、下痢、便秘、腹部不快感、血清フェリチン増加であった。(承認時)その他の副作用下記の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合は適切な処置を行うこと。

**2016年1月改訂(第5版) *2015年5月改訂

クエン酸第二鉄水和物(Ferric Citrate Hydrate)

頻度種類

上面 側面

詳細は添付文書をご参照ください。禁忌を含む使用上の注意の改訂に十分にご留意ください。

クエン酸第二鉄水和物(Ferric Citrate Hydrate)錠

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2018年2月作成 RIO TJ031A