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67 新聞・週刊誌の事件報道にみるプライバシー問題/島﨑 哲彦・信太 謙三・片野 利彦 新聞・週刊誌の事件報道にみるプライバシー問題 ―神戸児童連続殺傷事件記事の内容分析から― * 1 The problem of privacy in the news of newspapers and weekly magazines The analysis of the articles on the child serial killing incidents in Kobe 島 﨑 哲 彦 Akihiko SHIMAZAKI 信 太 謙 三 Kenzo SHIDA 片 野 利 彦 Toshihiko KATANO 1.はじめに 1997527日、神戸市須磨区で小学生の男児が残忍な手口で殺害される事件が発生した。同地区 では同年23月にも、小学生の女児らが殺傷される事件が発生しており、マス・メディアは事件の 背景の分析、犯人像の推測、捜査状況などを取り上げ、報道はにわかに過熱した。また、同年6月に 逮捕された加害者が当時中学三年生であったこともあり、逮捕後は教育問題や少年法改訂問題など にも注目が集まった。さらに、加害者の顔写真を一部の週刊誌が掲載したことや、事件発生地域に おける報道関係者の殺到(集団的過熱取材=メディア・スクラム ) )などにより、犯罪報道における マス・メディアの倫理性や公共性がメディアの内外で活発に議論されることとなった。本事件は、報 道による人権侵害やプライバシー侵害の問題など、広範な議論を呼ぶきっかけの一つともなったの である。 本論は、マス・メディアの報道に関するさまざまな問題を提起した本事件を事例に、それぞれ異 なる特徴を持つとされる新聞および週刊誌の報道内容を、報道される側のプライバシーの観点から 比較することにより、新聞ジャーナリズムと週刊誌ジャーナリズムの問題点を明らかにすることを 目的とするものである。 前述の通り、本事件は社会の多方面に波紋を呼び、活発な議論を引き起こすこととなった。その 結果、本事件を対象とした学術研究は、法制度、教育学、心理学、児童福祉、精神医療などさまざ * 2

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新聞・週刊誌の事件報道にみるプライバシー問題/島﨑 哲彦・信太 謙三・片野 利彦

新聞・週刊誌の事件報道にみるプライバシー問題―神戸児童連続殺傷事件記事の内容分析から―*1

The problem of privacyin the news of newspapers and weekly magazines

- The analysis of the articleson the child serial killing incidents in Kobe-

島 﨑 哲 彦Akihiko SHIMAZAKI

信 太 謙 三Kenzo SHIDA片 野 利 彦

Toshihiko KATANO

1.はじめに

 1997年5月27日、神戸市須磨区で小学生の男児が残忍な手口で殺害される事件が発生した。同地区

では同年2・3月にも、小学生の女児らが殺傷される事件が発生しており、マス・メディアは事件の

背景の分析、犯人像の推測、捜査状況などを取り上げ、報道はにわかに過熱した。また、同年6月に

逮捕された加害者が当時中学三年生であったこともあり、逮捕後は教育問題や少年法改訂問題など

にも注目が集まった。さらに、加害者の顔写真を一部の週刊誌が掲載したことや、事件発生地域に

おける報道関係者の殺到(集団的過熱取材=メディア・スクラム1))などにより、犯罪報道における

マス・メディアの倫理性や公共性がメディアの内外で活発に議論されることとなった。本事件は、報

道による人権侵害やプライバシー侵害の問題など、広範な議論を呼ぶきっかけの一つともなったの

である。

 本論は、マス・メディアの報道に関するさまざまな問題を提起した本事件を事例に、それぞれ異

なる特徴を持つとされる新聞および週刊誌の報道内容を、報道される側のプライバシーの観点から

比較することにより、新聞ジャーナリズムと週刊誌ジャーナリズムの問題点を明らかにすることを

目的とするものである。

 前述の通り、本事件は社会の多方面に波紋を呼び、活発な議論を引き起こすこととなった。その

結果、本事件を対象とした学術研究は、法制度、教育学、心理学、児童福祉、精神医療などさまざ

*2

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東洋大学社会学部紀要 第44-1号(2006年度)

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まな側面から行われてきた。しかし、本事件報道を対象としたジャーナリズムの観点からの実証的

研究はきわめて少なく、印象論的な私論や批判が多数を占めている。

 『新聞研究』には、新聞による本事件報道を事後的に検証した記事が掲載されているが(志賀2000

および2004、緒方2004、山内2004)、いずれも取材に当たった記者自身による取材活動の回顧および

自己批判、さらに、今後事件報道を行う上での課題や対策、心構えの提示に主眼が置かれた内容で

ある。したがって、プライバシーや人権、パック・ジャーナリズム2)、集団的過熱取材などの問題に

も触れてはいるものの、あくまで主観的・経験的な論考であり、客観的・計量的な手法による報道

内容の分析は加えられていない。

 本事件報道の内容を客観的・計量的に検証したものとしては、小城(1998、1999a、1999b、2003)

による一連の研究がある。これらは、内容分析および統計的手法を用いた一定の実証性を有する研

究であるが、いずれも加害者逮捕前における有識者のコメントや目撃証言の分析など、時期的・内

容的にも本事件報道の一部に対象をしぼったものであり、本事件を題材として日本のジャーナリズ

ムが抱える諸問題を論ずるものではない。

 他方、高橋(2004)は、いわゆる長崎幼児誘拐殺害事件(2003年)を題材に、新聞および週刊誌におけ

る報道内容の比較を行っている。時系列分析の中で高橋は、新聞は「捜査当局およびその周辺がリー

クする情報を独自取材によって検証することなく報道」しているとし、独自取材の必要性を訴えて

いる。また、週刊誌については、「(事件の)異常性、了解不能性を強調し、社会的不安を煽る」傾向

が強く、それらの報道により「(犯人の)少年を了解不能な怪物的存在として印象づけてしまう」恐

れがあるとしている。同一事例の報道の検証を新聞と週刊誌の双方から行うという多角的な視点は

一定の評価がなされよう。しかし、①これまでの内容分析を用いた諸研究の手法を踏まえておらず、

計量的な手法を用いてはいるもののその選定基準が不明瞭である、②サンプル数がきわめて少ない

ため、分析結果の解釈に恣意性がみられる、③心理学的分析に重点を置いているため、ジャーナリ

ズムの観点からの問題提起が不十分である、などの点で、研究上の課題を残すものであるといえる。

 本論は、一定の信頼性と影響力を持つとされる新聞と、それとは対照的に、センセーショナルな

報道指針を持つと指摘される週刊誌3)を題材に、本事件の報道内容、特に登場人物のプライバシー

に関する記述を量的・質的に把握し、新聞および週刊誌の報道傾向の違いを浮き彫りにすることで、

ジャーナリズムとプライバシーの関連と問題点を明らかにすることを目的とするものである。さら

に本事件の報道の広範な分析については、研究報告書『神戸児童連続殺傷事件の新聞・週刊誌の報

道に関する内容分析』(島崎、信太、片野、2006)を参照されたい。

 

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新聞・週刊誌の事件報道にみるプライバシー問題/島﨑 哲彦・信太 謙三・片野 利彦

2.日本のジャーナリズムの問題点

 前掲のように、本事件はジャーナリズムの分野でもさまざまな議論を呼び起こした。しかし、こ

れらの問題は以前からも指摘されていたものが多く、“古くて新しい”問題であるといえる。それでは、

どのような問題がジャーナリズム研究の中で提起されてきているのであろうか。早川(1998)は、日本

のマス・メディア全体にも当てはまるとしながらも、新聞の特徴を以下のようにまとめている。

(1)速報競争の原理

   他社との競争の中で発生する拙速主義

(2)センセーショナリズム

   人間の原始的興味や関心に重点を置く扇情主義

(3)網羅主義

   マス・メディアの送り内容と国民の意見の画一性、議論の活性化の阻害

(4)客観=中立主義

   当局情報に対する独自取材の不徹底=「発表ジャーナリズム」化

(5)権力=権威に対する批判の禁欲

   〈タブー〉に対する批判的姿勢の弱さ

(6)パック・ジャーナリズム

   同一の事例を扱い、同一の情報源に依拠し、同一の結論に達する報道

 また、ジャーナリズムに対する批判的な風潮と絡めて週刊誌報道に言及した論考としては、赤尾

(2004)によるに指摘が挙げられる。赤尾は、人権侵害を理由とするジャーナリズム批判が1980年代後

半から高まったことについて、①相次いだ大事故・大事件を報じるマス・メディアの非倫理的な取

材活動、②死体写真や人に見られたくない場面などを扱う写真週刊誌の隆盛、の2点を指摘し、「既

存のメディアに対する批判と新興メディアに対する批判とが共振現象を生起させ」たとしている。

 さらに、山際(2004)も、1980年代のメディア状況を取り上げ、新聞の「発表ジャーナリズム」の進

展を指摘し、それと並行した週刊誌ジャーナリズムにおけるスキャンダリズムの傾向の強まりに着

目している4)。

 本論は、このような新聞・週刊誌それぞれに対する批判を踏まえつつ、プライバシーの記述のし

かたとセンセーショナリズムやスキャンダリズムについて実証的に把握しようとするものである。

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3.分析対象および方法

 本論における分析の概要は以下の通りである。

 分析対象は、「朝日新聞」、「毎日新聞」、「読売新聞」の全国紙3紙と、「週刊文春」、「週刊新潮」、「週

刊ポスト」の週刊誌3誌における本事件に関連するすべての記事(新聞は投書を含む)である。分析対

象期間は、新聞・週刊誌ともに、事件発生直後の1997年5月27日から1998年5月31日までの約一年間

と、加害者の仮退院を中心とした2004年3月の一ヶ月間である。なお、対象期間は事件の進展に応じ

て以下のように分割した上で分析を行った。

 

 第Ⅰ期(1997年5月27日~ 6月27日:事件発生~逮捕前)

 第Ⅱ期(1997年6月28日~ 7月31日:逮捕後~報道過熱期)

 第Ⅲ期(1997年8月1日~ 12月31日:報道沈静期Ⅰ)

 第Ⅳ期(1998年1月1日~ 5月31日:報道沈静期Ⅱ)

 第Ⅴ期(2004年3月1日~ 3月31日:仮退院および遺族への通知)

 

 第Ⅰ~Ⅳ期の合計記事数は、新聞1,216件、週刊誌97件であった。第Ⅴ期については、新聞63件、

週刊誌5件であった(表3-1および表3-2参照)。

表3-1 新聞 時期別記事数

TOTAL

朝日新聞

毎日新聞

読売新聞

*Ⅰ~Ⅳ期 計 1,216 443 416 357

100 36.4 34.2 29.4*第Ⅰ期:97年5月 27日~6月 27日(事件発生~逮捕前) 207 68 69 70

100 32.9 33.3 33.8*第Ⅱ期:97年6月 28日~7月 31日(逮捕後~報道過熱期) 512 187 151 174

100 36.5 29.5 34

*第Ⅲ期:97年8月1日~ 12月 31日(報道沈静期Ⅰ) 301 106 110 85

100 35.2 36.5 28.2*第Ⅳ期:98年1月1日~5月 31日(報道沈静期Ⅱ) 196 82 86 28

100 41.8 43.9 14.3

*第Ⅴ期:04年3月1日~3月 31日(仮退院および遺族への通知) 63 25 16 22

100 39.7 25.4 34.9

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新聞・週刊誌の事件報道にみるプライバシー問題/島﨑 哲彦・信太 謙三・片野 利彦

表3-2 週刊誌 時期別記事数

TOTAL

週刊文春

週刊新潮

週刊ポスト

*Ⅰ~Ⅳ期 計 97 40 32 25

100 41.2 33 25.8*第Ⅰ期:97年5月 27日~6月 27日(事件発生~逮捕前) 17 9 5 3

100 52.9 29.4 17.6*第Ⅱ期:97年6月 28日~7月 31日(逮捕後~報道過熱期) 43 24 11 8

100 55.8 25.6 18.6*第Ⅲ期:97年8月1日~ 12月 31日(報道沈静期Ⅰ) 28 5 12 11

100 17.9 42.9 39.3*第Ⅳ期:98年1月1日~5月 31日(報道沈静期Ⅱ) 9 2 4 3

100 22.2 44.4 33.3

*第Ⅴ期:04年3月1日~3月 31日(仮退院および遺族への通知) 5 1 3 1

100 20 60 20

 次に、分析の手順についてであるが、新聞については縮刷版を用い、週刊誌については大宅壮一

文庫よりコピーを入手し、事件関連記事を通読した上で分析項目を分類した。ついで、事件に関連

するすべての記事を切り抜き、分析項目に基づきそれらを分類し、項目の修正を行いながらコー

ディングを進めた。コーディング終了後、データを入力し、各紙誌別・時期別に集計した後、分析

を行った。分析に用いた項目は以下の通りである。

①基礎的項目

「新聞名(週刊誌の場合、週刊誌名)」、「年月日」、「朝夕刊別(新聞のみ)」、「掲載面(週刊誌の場合、

掲載場所)」、「面内の位置(トップ記事か否か、新聞のみ)」、「写真の有無」、「図表の有無」

②当該事件に関連する事項

「記事内容」、「記事分類(新聞と写真で内容は異なる)」、「登場人物」、「個人属性項目:被害者」、「個

人属性項目:被害者親族」、「個人属性項目:加害者」、「個人属性項目:加害者親族」、「写真・図

表の内容」

 

 記事の切り抜きや各項目の分類にしたがったコーディングにあたっては、東洋大学社会学部開講

科目「社会調査および実習⑬」(担当教員:島崎哲彦)の履修学生の協力を得た。

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東洋大学社会学部紀要 第44-1号(2006年度)

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 なお、内容分析の結果を研究上の諸変数の因果関係の中でどのように位置づけるかに関して、こ

れまでの内容分析手法を用いた諸研究を整理した上で、鈴木(1990)は以下のようにまとめている。

(1)結果が目的変数である内容分析

   メッセージをある先行現象の結果(の一部)とみなす。

(2)結果を説明変数として用いる内容分析

   刺激・反応の関係を、刺激側の特性に重点を置いて分析する。

(3)結果を他の変数との相関関係をみるのに用いる内容分析

   併存する他の現象との相関関係をみいだす。

 この分類にしたがえば、本研究における内容分析の性格は、新聞・週刊誌間での比較を主軸とし

ている点から、(3)に該当するものであるといえる。

4.分析結果

 本節では、紙幅の都合上、調査結果のすべてを詳細に論じることはできない。そこで、本論の目

的に沿って事件における被害者男児および加害者、またそれぞれの家族・親族らの個人属性項目に

関する報道を、第Ⅰ期から第Ⅳ期の時間的経過に沿って検証し、さらにそれらを第Ⅴ期と比較する

という手法を採った。報道対象となった人物のプライバシーや人権について、新聞および週刊誌が

どのように扱っているのかという側面からの分析を加えることで、新聞および週刊誌ジャーナリズ

ムの特質と問題点を検証した。

4.1.被害者男児の個人属性に関する記事 新聞における被害者男児の個人属性項目については、第Ⅰ期でみると、「性別」(86.5% )がもっと

も多く、「氏名」(80.5%)がそれに続いている。また、「年齢」(69.1%)、「学校名」(60.9%)も高い割合

で報道されており、「住所」(48.3%)も約半数の記事で触れられている。第Ⅱ~Ⅳ期は、「性別」が依

然最多であるものの、時間の経過とともに減少傾向にあり(第Ⅱ期54.1%、第Ⅲ期18.6%、第Ⅳ期

9.2%)、とりわけ第Ⅲ期以降の減少が顕著である。その他の項目も減少する傾向にある。それに対し、

「プライバシー該当項目なし」(第Ⅰ期5.3%、第Ⅱ期28.3%、第Ⅲ期56.8%、第Ⅳ期60.7% )は4期を通

じて増加傾向にある。

 内容を詳しくみると、第Ⅰ期においては、「○○君」といった表現による「性別」、姓・名の表記

による「氏名」がみられる。「住所」は、被害者の父の属性の一部として、地区名のみならず○丁目

にまで触れられている。第Ⅱ期以降は、姓が省かれた「君」付けの表記が目立つ。「学校名」、「年齢」、「住

所」に触れた記事はなくなり、「小学生」、「児童」など、プライバシーに触れる言及を避けた記述が

増加している。

 第Ⅴ期においては、「氏名」、「性別」(各31.7% )、「年齢」(20.6% )のみに触れている。また、「小6男児」、

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新聞・週刊誌の事件報道にみるプライバシー問題/島﨑 哲彦・信太 謙三・片野 利彦

「男児」、「小学生の男児」といった匿名の表現も多いが、親族が発表した手記や事件の経過の説明な

どに際しては、実名で掲載している記事もみられる(表4-1-1参照)。

表4-1-1 新聞 個人属性項目:被害者男児

TOTAL

氏名

仮名

性別

住所

年齢

学校名

病歴

知的障害の記述

その他

項プ目ラなイしバ シ 

該当人物なし

*Ⅰ~Ⅳ期 計 1,216 437 1 530 164 299 199 0 3 11 446 231

100 35.9 0.1 43.6 13.5 24.6 16.4 0 0.2 0.9 36.7 19

*第Ⅰ期 207 167 1 179 100 143 126 0 0 7 11 16

100 80.7 0.5 86.5 48.3 69.1 60.9 0 0 3.4 5.3 7.7*第Ⅱ期 512 246 0 277 59 119 62 0 1 3 145 87

100 48 0 54.1 11.5 23.2 12.1 0 0.2 0.6 28.3 17

*第Ⅲ期 301 19 0 56 4 26 9 0 2 0 171 71

100 6.3 0 18.6 1.3 8.6 3 0 0.7 0 56.8 23.6*第Ⅳ期 196 5 0 18 1 11 2 0 0 1 119 57

100 2.6 0 9.2 0.5 5.6 1 0 0 0.5 60.7 29.1

*第Ⅴ期 63 20 0 20 0 13 0 0 0 0 31 11

100 31.7 0 31.7 0 20.6 0 0 0 0 49.2 17.5

 他方、週刊誌における被害者の個人属性項目については、第Ⅰ期でみると、新聞同様「性別」

(94.1%)がもっとも多く、ついで「氏名」(88.2% )、「年齢」(76.5% )に触れる記事が多い。新聞とは

異なり、「学校名」(29.5% )に触れた記事は少ないが、一方、新聞がごく僅かしか触れていない「知

的障害の記述」(29.5% )への言及の多さは特徴的である。第Ⅱ~Ⅳ期は、新聞同様、すべての個人

属性項目の割合が減少しており、一方で「該当人物なし」(第Ⅱ期23.3%、第Ⅲ期53.6%、第Ⅳ期

66.7% )が増加傾向にある。

 内容を詳しくみると、第Ⅰ期においては、 「○○君」といった表現による「性別」の他、「○○クン」

といったくだけた表現もみられる。第Ⅱ期以降は、「○○君殺害」や「○○君惨殺」といった姓を省

いた名のみの表現がみられる。「知的障害の記述」には、「知的障害」、「なかよし学級」などの記述

で触れている。

 第Ⅴ期においては、すべての記事が「氏名」、「性別」に触れており、姓・名、あるいは名のみの

報道がみられる。

 新聞・週刊誌に共通していえることは、時間の経過とともに個人属性項目に触れた記事が減少す

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東洋大学社会学部紀要 第44-1号(2006年度)

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る傾向がみられる点である。ただし、週刊誌においては「プライバシー該当項目なし」が一切みら

れないことから、被害者男児が記事に登場する際には必ず何らかの個人属性項目に触れていること

が分かる。なお、これは被害者男児のみならず、本論で取り上げた登場人物すべてにあてはまるこ

とであり、新聞とは対照的である(表4-1-2参照)。

表4-1-2 週刊誌 個人属性項目:被害者男児

TOTAL

氏名

仮名

性別

住所

年齢

学校名

病歴

知的障害の記述

その他

項プ目ラなイしバ シ 

該当人物なし

*Ⅰ~Ⅳ期 計 97 54 0 61 19 38 9 2 9 0 0 31

100 55.7 0 62.9 19.6 39.2 9.3 2.1 9.3 0 0 32

*第Ⅰ期 17 15 0 16 8 13 5 1 5 0 0 0

100 88.2 0 94.1 47.1 76.5 29.4 5.9 29.4 0 0 0

*第Ⅱ期 43 28 0 31 10 18 4 1 3 0 0 10

100 65.1 0 72.1 23.3 41.9 9.3 2.3 7 0 0 23.3*第Ⅲ期 28 10 0 11 1 5 0 0 1 0 0 15

100 35.7 0 39.3 3.6 17.9 0 0 3.6 0 0 53.6*第Ⅳ期) 9 1 0 3 0 2 0 0 0 0 0 6

100 11.1 0 33.3 0 22.2 0 0 0 0 0 66.7

*第Ⅴ期 5 5 0 5 0 4 1 0 0 0 0 0

100 100 0 100 0 80 20 0 0 0 0 0

4.2.被害者男児親族の個人属性に関する記事 新聞における被害者男児親族の個人属性項目については、4期を通じて「該当人物なし」(第Ⅰ期

85.0%、第Ⅱ期93.2%、第Ⅲ期92.0%、第Ⅳ期92.9% )が圧倒的に多く、記事にはあまり登場しないと

いってよい。登場しても、「氏名」、「性別」、「年齢」、「職業」、「住所」に触れている記事がごく僅か

にある程度である(いずれも0.3~ 10.1% )。その中では、事件発生直後である第Ⅰ期における言及回

数は他の期と比べて多い。

 内容を詳しくみると、第Ⅰ期においては、被害者の父に関する記述が多く、被害者の遺体発見直

後の段階では、前掲の通り○丁目まで記述した「住所」、「職業」、姓に読み仮名を振った「氏名」、「年

齢」に触れている。ただし、4期を通じてこれらの記述は減少し、「遺族」などの匿名の表現が増加

する傾向にある。第Ⅱ期以降も、手記を発表した際などに僅かに「氏名」、「性別」、「年齢」などに

触れる記事がみられる程度である。

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新聞・週刊誌の事件報道にみるプライバシー問題/島﨑 哲彦・信太 謙三・片野 利彦

 第Ⅴ期においては、5期を通じてもっとも多く「氏名」、「性別」(各22.2% )、「年齢」(17.5% )に触

れている。これは、①事件からは一定の期間を経ているため、改めて基本的な項目を掲載した、②

手記の発表や記者会見を報じる記事の中で、姓・名による「氏名」、「父」などの表記による「性別」

に触れた、などの理由によるものと考えられる(表4-2-1参照)。

表4-2-1 新聞 個人属性項目:被害者男児親族

TOTAL

氏名

仮名

性別

住所

転居の事実

年齢

学歴

職業

経済状況

病歴

その他

項プ目ラなイしバ シ 

該当人物なし

*Ⅰ~Ⅳ期 計 1,216 27 0 47 19 0 28 0 18 0 0 0 49 1,112

100 2.2 0 3.9 1.6 0 2.3 0 1.5 0 0 0 4 91.4*第Ⅰ期 207 15 0 21 12 0 15 0 13 0 0 0 3 176

100 7.2 0 10.1 5.8 0 7.2 0 6.3 0 0 0 1.4 85

*第Ⅱ期 512 8 0 14 6 0 7 0 4 0 0 0 20 477

100 1.6 0 2.7 1.2 0 1.4 0 0.8 0 0 0 3.9 93.2*第Ⅲ期 301 4 0 7 0 0 2 0 1 0 0 0 17 277

100 1.3 0 2.3 0 0 0.7 0 0.3 0 0 0 5.6 92

*第Ⅳ期 196 0 0 5 1 0 4 0 0 0 0 0 9 182

100 0 0 2.6 0.5 0 2 0 0 0 0 0 4.6 92.9

*第Ⅴ期 63 14 0 14 0 1 11 0 0 0 0 0 21 28

100 22.2 0 22.2 0 1.6 17.5 0 0 0 0 0 33.3 44.4

 他方、週刊誌における被害者男児親族の個人属性項目については、第Ⅰ期でみると、新聞同様「該

当人物なし」(64.7%)がもっとも多く、ついで「性別」(35.3% )、「氏名」(29.4% )、「住所」、「年齢」、「職

業」(各17.6% )と続いている。第Ⅱ~Ⅳ期においては、これも新聞同様、個人属性項目が大幅に減少

し、「該当人物なし」が90.0%前後で推移している。

 内容を詳しくみると、第Ⅰ期においては、遺体発見直後では姓・名による「氏名」、「父」といっ

た表記による「性別」、「住所」、「年齢」が目立ち、「職業」にも若干触れている。第Ⅱ期以降は、個

人属性項目に関する記述は大幅に減少しており、新聞のように○丁目まで触れた「住所」の記述は

なく、地区名までにとどまっている。

 第Ⅴ期においては、新潮のみが1件の記事で「氏名」、「性別」、「年齢」に触れているだけであり、

被害者男児親族はほとんど登場していない。なお、新潮はこの記事において、被害者男児の父によ

る手記を掲載している。

 新聞・週刊誌ともに、被害者男児親族が登場する記事の割合は10%程度であるが、事件発生直後

の報道では「氏名」、「住所」、「職業」、「年齢」などのプライバシーに関する項目が比較的多く触れ

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東洋大学社会学部紀要 第44-1号(2006年度)

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られている。被害者男児親族は、事件の進展において重大な出来事が発生した場合により頻繁に報

道の対象となっている傾向にあるといえよう。新聞・週刊誌間にはその傾向に大きな差はみられな

いが、一つ特徴的な点を挙げるならば、新聞が被害者男児の父の住所を週刊誌よりも詳細に掲載し

ている点であろう(表4-2-2参照)。

表4-2-2 週刊誌 個人属性項目:被害者男児親族

TOTAL

氏名

仮名

性別

住所

転居の事実

年齢

学歴

職業

経済状況

病歴

その他

項プ目ラなイしバ シ 

該当人物なし

4.3.加害者の個人属性に関する記事 新聞における加害者の個人属性項目については、第Ⅰ期でみると、加害者が特定されていないた

め推測記事が僅かにみられる程度である。第Ⅱ期においては、「性別」(72.1% )と「年齢」(65.4% )

が圧倒的に多く、その他の項目に触れている記事はいずれも10%に満たない。第Ⅲ期においても「性

別」(68.8% )と「年齢」(47.8% )が多い。また、事件の解明が進み背景などが明らかになっていっ

た結果、加害者の内面に触れた「異常性の示唆」(18.9% )が増加している。 他方、 「該当人物なし」

(24.3% )の割合も高まっており、これは少年法の改訂問題や加害者更生の制度、あるいは事件報道の

検証に関する記事が増加したため、加害者に直接言及しない記事の増加に伴われたものと考えられ

る。第Ⅳ期においては、「異常性の示唆」(1.0% )の激減の他は、第Ⅲ期とほぼ同様の傾向がみられる。

 内容を詳しくみると、第Ⅱ~Ⅳ期は、「男子生徒」や「少年」などの表記により「性別」に触れて

おり、「年齢」は第Ⅱ期中に迎えた加害者の誕生日に伴い変化している。第Ⅲ期において顕著である「異

常性の示唆」については、「行為障害」、「性的サディズム」、「分裂病の前段階」など精神医療的な側

面から触れられているものが多い。

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新聞・週刊誌の事件報道にみるプライバシー問題/島﨑 哲彦・信太 謙三・片野 利彦

 第Ⅴ期においては、第Ⅳ期とほぼ同様の傾向がみられるが、「学校・施設名」(27.0% )として加害

者が収容された更生施設の名称が比較的多く触れられている。第Ⅳ期で激減した「異常性の示唆」

(15.9% )は、第Ⅲ期と同程度に触れられている。内容としては、「かつてはこのような異常性がみら

れたが、今はもうない」といった趣旨で触れられている記事が多く、仮退院時の加害者の異常性を

喚起させるものは少ない。呼称については、「加害者男性」、「加害男性」、「男性」といった記述が多く、

これまでの「少年」からの変化は、加齢5)を考慮したことによるものと考えられる(表4-3-1参照)。

表4-3-1 新聞 個人属性項目:加害者

TOTAL

氏名

仮名

性別

住所

年齢

学校・施設名

病歴

異常性の示唆

弟の存在

勤め先

その他

項プ目ラなイしバ シ 

該当人物なし

*Ⅰ~Ⅳ期 計 1,216 0 26 706 13 548 86 5 86 20 2 8 72 375

100 0 2.1 58.1 1.1 45.1 7.1 0.4 7.1 1.6 0.2 0.7 5.9 30.8*第Ⅰ期 207 0 0 1 0 0 0 0 1 0 0 0 17 188

100 0 0 0.5 0 0 0 0 0.5 0 0 0 8.2 90.8*第Ⅱ期 512 0 10 369 10 335 44 0 26 8 2 4 32 60

100 0 2 72.1 2 65.4 8.6 0 5.1 1.6 0.4 0.8 6.3 11.7*第Ⅲ期 301 0 2 207 2 144 23 5 57 11 0 3 15 73

100 0 0.7 68.8 0.7 47.8 7.6 1.7 18.9 3.7 0 1 5 24.3*第Ⅳ期 196 0 14 129 1 69 19 0 2 1 0 1 8 54

100 0 7.1 65.8 0.5 35.2 9.7 0 1 0.5 0 0.5 4.1 27.6

*第Ⅴ期 63 0 6 57 0 32 17 0 10 3 0 1 1 5

100 0 9.5 90.5 0 50.8 27 0 15.9 4.8 0 1.6 1.6 7.9

 他方、週刊誌における加害者の個人属性項目については、第Ⅰ期でみると、新聞同様に推測記事

が僅かにみられる程度である。第Ⅱ期においては、「性別」(83.7% )と「年齢」(65.1% )が圧倒的に多く、

次いで新聞ではほとんど触れられていない「仮名」(41.9% )、「学校・施設名」、「異常性の示唆」(各

23.3% )と続いている。第Ⅲ期においては、「性別」(96.4% )が圧倒的に多く、次いで「年齢」(67.9% )、

「仮名」(60.7% )の順である。「異常性の示唆」(42.9% )は、新聞同様、他の期に比べてこの期間がもっ

とも多い。第Ⅳ期においても同様の傾向がみられるが、「異常性の示唆」(22.2% )は第Ⅲ期に比べて

半減している。

 内容を詳しくみると、第Ⅱ期においては、加害者の映画や漫画に対する嗜好からその特異性を「狂

気」と表現したり、有識者の「加害者は人類の敵」との発言が掲載されるなど、「異常性の示唆」に

関する記述が目立つ。「性別」、「仮名」は「少年」、「少年A」といった表現で触れられている。第Ⅲ

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東洋大学社会学部紀要 第44-1号(2006年度)

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期においても同様の表記が多い。「異常性の示唆」については、「行為障害」、「性的サディズム」といっ

た表現は新聞と共通するが、「人間形成障害病」という、必ずしも学術的には確立されていない表現6)

の使用は週刊誌にのみみられた。第Ⅳ期における「異常性の示唆」については、「強い攻撃性」、「性

障害」といった表現や、流出した加害者の調書の詳細を報じた記事において触れられている。

 第Ⅴ期においては、加害者の個人属性項目については、すべての記事が「仮名」と「性別」に触

れている。「少年」ではなく「A」という表記が使用されていることから、新聞同様、加害者の加齢

を考慮したことによるものと考えられる。「異常性の示唆」は新聞と比べて多く、また5期を通じて

もっとも多い時期であることから、加害者の異常性に対する週刊誌の関心の高さがうかがえる。内

容としては、仮退院を迎えてもなお異常性が払拭し切れていないのでは、との疑念に基づいた記事

がみられ、新聞の抑制的な報道とは対照的である(表4-3-2参照)。

表4-3-2 週刊誌 個人属性項目:加害者

TOTAL

氏名

仮名

性別

住所

年齢

学校・施設名

病歴

異常性の示唆

弟の存在

勤め先

その他

項プ目ラなイしバ シ 

該当人物なし

*Ⅰ~Ⅳ期 計 97 0 41 73 12 52 14 1 24 8 0 1 0 21

100 0 42.3 75.3 12.4 53.6 14.4 1 24.7 8.2 0 1 0 21.6*第Ⅰ期 17 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1 0 15

100 0 0 5.9 0 0 0 0 0 0 0 5.9 0 88.2*第Ⅱ期 43 0 18 36 7 28 10 0 10 4 0 0 0 5

100 0 41.9 83.7 16.3 65.1 23.3 0 23.3 9.3 0 0 0 11.6*第Ⅲ期 28 0 17 27 4 19 4 1 12 2 0 0 0 1

100 0 60.7 96.4 14.3 67.9 14.3 3.6 42.9 7.1 0 0 0 3.6*第Ⅳ期 9 0 6 9 1 5 0 0 2 2 0 0 0 0

100 0 66.7 100 11.1 55.6 0 0 22.2 22.2 0 0 0 0

*第Ⅴ期 5 0 5 5 1 4 2 0 3 1 0 0 0 0

100 0 100 100 20 80 40 0 60 20 0 0 0 0

4.4.加害者親族の個人属性に関する記事 新聞における加害者親族の個人属性項目については、第Ⅰ期でみると、加害者が特定されていな

いため、加害者の個人属性同様、推測記事が僅かにみられる程度である。第Ⅱ期においては、「該当

人物なし」(89.8% )が圧倒的に多く、「性別」(3.5% )、「転居の事実」(0.4% )、「職業」、「出身地」(各0.2% )

がごく僅かにみられる程度である。第Ⅲ・Ⅳ期においてもほぼ同様の傾向がみられるが、第Ⅲ期に

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新聞・週刊誌の事件報道にみるプライバシー問題/島﨑 哲彦・信太 謙三・片野 利彦

おいては、「性別」(13.0% )に関する記述が比較的多い。

 内容を詳しくみると、第Ⅱ~Ⅳ期では、加害者の成育歴、学校での生活、家族との関係などの事

件以前の生活を取り上げた記事の中で、加害者の親族が「父親」、「母親」、「弟」など匿名で登場し

ている(表4-4-1参照)。

表4-4-1 新聞 個人属性項目:加害者親族

TOTAL

氏名

仮名

性別

住所

転居の事実

年齢

学歴

職業

経済状況

病歴

苗字の変更

出身地

実家関係事項

その他

項プ目ラなイしバ シ 

該当人物なし

*Ⅰ~Ⅳ期 計 1,216 0 0 60 1 4 1 0 4 0 2 0 1 0 7 69 1,078

100 0 0 4.9 0.1 0.3 0.1 0 0.3 0 0.2 0 0.1 0 0.6 5.7 88.7*第Ⅰ期 207 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 5 201

100 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0.5 0 0 0 0 2.4 97.1*第Ⅱ期 512 0 0 18 0 2 0 0 1 0 0 0 1 0 1 32 460

100 0 0 3.5 0 0.4 0 0 0.2 0 0 0 0.2 0 0.2 6.3 89.8*第Ⅲ期 301 0 0 39 1 0 1 0 3 0 0 0 0 0 6 26 232

100 0 0 13 0.3 0 0.3 0 1 0 0 0 0 0 2 8.6 77.1*第Ⅳ期 196 0 0 3 0 2 0 0 0 0 1 0 0 0 0 6 185

100 0 0 1.5 0 1 0 0 0 0 0.5 0 0 0 0 3.1 94.4

*第Ⅴ期 63 1 0 11 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 10 42

100 1.6 0 17.5 0 0 1.6 0 0 0 0 0 0 0 0 15.9 66.7

 他方、週刊誌における加害者親族の個人属性項目については、第Ⅰ期ではまったく触れられてい

ない。第Ⅱ期においては、「該当人物なし」(81.4% )が圧倒的に多いが、「性別」(18.6% )、「住所」(11.6%)、

「職業」(9.3%)、「転居の事実」(7.0%)、「年齢」、「実家関係事項」(各4.7%)、などにも触れており、

項目数としては新聞よりも多岐に亘っている。第Ⅲ期においても「該当人物なし」(82.1% )が圧倒的

に多く、その他の項目としては「性別」(17.9% )と「年齢」(3.6% )に触れているのみである。第Ⅳ

期においては、記事数が9件しかなく、「該当人物なし」(82.1% )が多い中で、「性別」(33.3% )、「転

居の事実」、「職業」、「経済状況」(各22.2% )が目立つ。

 内容を詳しくみると、第Ⅱ期においては、「該当人物なし」が多い中、両親の「職業」の内容と勤

務部門、事件後の「転居の事実」、きょうだいの人数などの「実家関係事項」、県名の記述による「出

身地」、厳しい「経済状況」など、プライバシーに関する項目に多岐に亘って触れている。また、加

害者や加害者親族らの人物像や事件以前の日常生活に触れた記事もみられる。第Ⅲ期においても「該

当人物なし」が圧倒的に多く、「祖母」などの表記による「性別」が僅かにみられる。第Ⅳ期においては、

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東洋大学社会学部紀要 第44-1号(2006年度)

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「職業」や家族構成、転居および転校の噂などについて触れている記事がみられ、また、加害者の両

親が親友に会った際に打ち明けた、事件に関する話などを取り上げた記事もあり、その中で「職業」

や「経済状況」に触れている。

 加害者親族に関しては、新聞がきわめて抑制的な報道に終始しているのに対し、週刊誌は多数の

項目に触れる傾向にあることがわかる(表4-4-2参照)。

表4-4-2 週刊誌 個人属性項目:加害者親族

TOTAL

氏名

仮名

性別

住所

転居の事実

年齢

学歴

職業

経済状況

病歴

苗字の変更

出身地

実家関係事項

その他

項プ目ラなイしバ シ 

該当人物なし

*Ⅰ~Ⅳ期 計 97 0 0 16 6 5 4 1 6 3 0 0 1 2 2 0 81

100 0 0 17 6.2 5.2 4.1 1 6.2 3.1 0 0 1 2.1 2.1 0 84

*第Ⅰ期 17 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 17

100 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 100

*第Ⅱ期 43 0 0 8 5 3 2 1 4 1 0 0 1 2 1 0 35

100 0 0 19 12 7 4.7 2.3 9.3 2.3 0 0 2.3 4.7 2.3 0 81

*第Ⅲ期 28 0 0 5 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1 0 23

100 0 0 18 0 0 3.6 0 0 0 0 0 0 0 3.6 0 82

*第Ⅳ期 9 0 0 3 1 2 1 0 2 2 0 0 0 0 0 0 6

100 0 0 33 11 22 11 0 22 22 0 0 0 0 0 0 67

*第Ⅴ期 5 0 0 2 0 1 1 0 0 1 0 0 0 0 0 0 3

100 0 0 40 0 20 20 0 0 20 0 0 0 0 0 0 60

5.考察

 本節では以上の分析をもとに、報道される側のプライバシーの観点から、新聞および週刊誌

ジャーナリズムの差異と問題点について考察を加えた。

 とりわけ顕著な差異は、登場人物のプライバシーに関する項目にどの程度踏み込むのかという点

である。新聞・週刊誌とも、いずれの人物についても、事件発生直後や加害者の逮捕直後といった

注目を集めやすい時期においては、記事への登場回数や個人属性項目への言及も他の時期と比べて

多い。とりわけ、週刊誌における登場人物への言及範囲は多岐に亘っており、被害者男児の「知的

障害の記述」、加害者の「異常性の示唆」、加害者親族の「転居の事実」、「経済状況」など、新聞で

はあまり触れられていない事実を取り上げている。

 清水(1990)は、週刊誌ジャーナリズムの役割について「正統派の“上品な”メディアが果たし得な

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新聞・週刊誌の事件報道にみるプライバシー問題/島﨑 哲彦・信太 謙三・片野 利彦

い役割を、週刊誌は担ってきた」と指摘している。本論で比較対象とした新聞が“上品”であるか

は別にしても、新聞があくまで知り得た事実を抑制的に記述するスタイルであるのに対し、週刊誌

は新聞報道では触れられない、あるいは触れられても掘り下げが浅い情報を積極的に報じていると

考えられる。少年事件報道に関する論考の中で、飯室(2004)が「インサイドストーリーを重視する週

刊誌などは…(略)…新聞、テレビが伝えない情報を積極的に拾い上げている」と指摘するように、週

刊誌は「非正統派」のマス・メディアとしての機能を果たしているといえる。

 しかし、このような姿勢が必ずしも社会的な規範や法に合致しない場合もある。例えば、本論で

は取り上げなかったが、新潮による加害者の顔写真の掲載は、少年法の第61条(記事等の掲載の禁

止)に抵触するとされ、日本弁護士連合会人権擁護委員会(2000)は「新潮社が主張する正当な理由を

見いだすことは全くできない」7)と批判している。また、加害者親族の「転居の事実」や「経済状況」

などは、事件報道として不可欠なものなのか、疑問の残るところである。このような週刊誌報道の

姿勢からは、より過激で社会的な関心をひく情報を扱おうとするセンセーショナリズム(扇情主義)や

商業主義的な性質を指摘できるであろう。

 他方、新聞については、週刊誌との比較でみると抑制された報道姿勢であると考えられる。例え

ば、神戸新聞社は本事件の取材に際し、加害者の氏名を伏せて聞き込みを行ったり、加害者の学

校名を報じる際にも紙面に「お断り」を掲載し、その判断基準を読者に対して明らかにした(宮沢

1997、志賀2000)。そこには事件発生地域の地域紙としての事情もあるのであろうが、週刊誌報道と

の比較としては注目すべき点であろう。また、本論で検証した新聞については、日本新聞協会が定

めた「新聞協会の少年法第61条の扱いの方針」(1958年)8)に準じ、氏名や顔写真の掲載を避けた自制

的な報道姿勢であったといってよかろう。

 また、加害者の仮退院時における報道において、週刊誌はおおむね加害者の異常性の払拭、治癒

に懐疑的な立場での報道姿勢をとっていたが、新聞は対照的に、仮退院の時期や退院後の予定、仮

退院を特例的に被害者遺族に伝えた法務省の措置などに報道の重点を置いており、週刊誌報道とは

一線を画するものであった。

 ただし、このような事件報道における新聞の姿勢全般に対しては、雑誌編集者や記者らから「新

聞は事件の全容を伝えていない」といった批判もなされている(飯室2004)。ある事象に関する多様

な情報を可能な限り広範かつ詳細に提供し、それをもって市民による議論や判断に資することが

ジャーナリズムの機能の一つであるとするならば(赤尾2002)、社会的事象の本質や核となる部分を明

らかにしない報道は報道の名に値しないであろう。週刊誌との対比でみた場合、新聞報道にはその

ような問題点がみいだせるのである。

 一方で、新聞は本事件報道の初期において、被害者男児の住所を週刊誌以上に詳細に報じた。前

掲のように抑制的な取材や報道姿勢が見受けられる反面、ときにはきわめてプライバシーに踏み込

んだ記述もみられたのである。さらに、複数のメディアによる報道と組み合わせることで、新聞報

道がある程度自制的な報道をしていても、報道対象者のプライバシーが侵害されるとの指摘もある

(宮沢1997)。ここから、新聞報道は、週刊誌ほどには突出した表現やプライバシーに関する項目への

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東洋大学社会学部紀要 第44-1号(2006年度)

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言及が少ない分、より多面的な批判にさらされやすい傾向にあるといえよう。

 本論は、日本の犯罪史上においても特異な事例を扱い、その中でもとりわけ報道される側のプラ

イバシーの側面に着目した分析を行った。今後、ジャーナリズムが抱えるさまざまな問題点を検証

するに当たっては、より多くの個別事例を取り上げ、さらに多角的な視点からの分析を加えること

が求められるであろう。

【注】

*1 本研究は、東洋大学平成17年度特別研究(共同研究)の助成を受けて実施したものである。*2 東洋大学大学院社会学研究科社会学専攻博士前期課程1) 日本新聞協会の「集団的過熱取材に関する日本新聞協会編集委員会の見解」(2001年12月6日)によれば、集団的過熱取材(メディア・スクラム)とは「大きな事件、事故の当事者やその関係者のもとへ多数のメディアが殺到することで、当事者や関係者のプライバシーを不当に侵害し、社会生活を妨げ、あるいは多大な苦痛を与える状況を作り出してしまう取材」を指す。

2) 本論 「2.日本のジャーナリズムの問題点」を参照。3) 飯室2004、清水1990、山田2004など。4) 『潮』2004年1月号における特集「メディアと人権を問う」の中の記事「『週刊誌ジャーナリズム』のあり方を問う」において、複数の研究者、ジャーナリストらによる提言が掲載されており、本論ではそれらの提言の一つとして山際の意見を参考にした。

5) 当時、加害者は21歳である。6) 国立情報学研究所の論文情報ナビゲータ(http://ci.nii.ac.jp/cinii/servlet/CiNiiTop#)にて「人間形成障害」と検索したところ、特定の医療機関に属する同一の論者らによる文献が3件検索されたのみであった。

7) 新潮社の主張とは、1997年10月に開かれた「マスコミ倫理懇談会全国協議会」における新潮社代表の「編集部は少年法の枠を超えた凶悪犯罪と判断し(掲載し)た。いろんなジャーナリズムがあって構わないはずだ」との発言を指す(朝日新聞、1997年10月9日付朝刊)。

8) 日本新聞協会のホームページ(http://www.pressnet.or.jp/index.htm)より一部抜粋。「(少年法第61条に)罰則がつけられていないのは、新聞の自主的規制に待とうとの趣旨によるものなので、新聞はいっそう社会的責任を痛感しなければならない。すなわち、20歳未満の非行少年の氏名、写真などは、紙面に掲載すべきではない。ただし(1)逃走中で、放火、殺人など凶悪な累犯が明白に予想される場合、(2)指名手配中の犯人捜査に協力する場合など、少年保護よりも社会的利益の擁護が強く優先する特殊な場合については、氏名、写真の掲載を認める除外例とするよう当局に要望し、かつこれを新聞界の慣行として確立したい。」

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新聞・週刊誌の事件報道にみるプライバシー問題/島﨑 哲彦・信太 謙三・片野 利彦

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Page 18: The problem of privacy in the news of newspapers …in the news of newspapers and weekly magazines -The analysis of the articles on the child serial killing incidents in Kobe -

東洋大学社会学部紀要 第44-1号(2006年度)

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【Abstract】

The problem of privacyin the news of newspapers and weekly magazines

-The An analysis of the articleson the serial child-murder case in Kobe-

Akihiko SHIMAZAKIKenzo SHIDA

Toshihiko KATANO

 The serial child-murder case that took place in Suma Ward, Kobe City in May, 1997 had a big impact on society at large firstly because the criminal was a junior high school student, and also because of the abnormality of the cruel modus operandi, where the criminal sent out a crime statement to a newspaper company. Wide and various analyses concerning this incident were made in such fields as education, psychology, law and psychiatry, etc. immediately after the arrest of the criminal. The primary objective of this dissertation is to reveal various problems of journalism in Japan through the analyses from the viewpoint of journalism. The method of analysis is as follows. All articles on the incidents in three national newspapers, namely, “Asahi Shimbun," "The Yomiuri Shimbun," "Mainichi Shimbun," and three weekly magazines, or " Weekly Bunshun," "Weekly Shincho," " Weekly Post," were classified by using the technique of the content analysis on plural items multiple items. In particular, the authors paid special attention to the factor of privacy in the news and verified them. One of the findings was that newspapers showed a tendency of self-restraint on human rights abuse but that they didn’t function well as journalism. In other words, newspapers were insufficient to get closer to the heart of the incidents and their report tended to be superficial. On the other hand, weekly magazines had a tendency to carry more articles with aspects of privacy which don’t necessarily pertain to the essence of the incidents. Moreover, they had a general trend toward more detailed report than newspapers. Through this analysis, their peculiar aspects of commercialism and sensationalism, which had been widely pointed out, became clearer.