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Title 万葉集の訓解について -雄略天皇の御製を中心として-
Author(s) 屋嘉, 宗克
Citation 沖大論叢 = OKIDAI RONSO, 3(1): 1-14
Issue Date 1963-01-10
URL http://hdl.handle.net/20.500.12001/10712
Rights 沖縄大学
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万
葉
集
の
ヨ"解に
て〉
~)
て
雄
略
天
皇
の
御
製
を
中
心
と
し
て
屋
嘉
-呈".刀て
克
古代文学の研究と云うと、他の時代における文学の研究とは違った特殊の研究法があるように考えられるけれども、古代文
学の研究にのみ適用されて、他の時代の文学には適用出来ないという方法が存在するものではない。研究する根本の方法は一
つでなければならないが、時代の相違による社会基盤というようなζ
とに注意する必要がある。
H
古代文学を究研する場合に、特に注意を要する四つの事柄として
第一|古代文学は、すべて漢字を以て書かれているというζ
とである。外来の文字の音訓を仮借して国語を表現しているので
あるから、訓み方が大きな問題となるが、文体にも純漢文体・準国文体或はそれらの文体の混請したもの等があるから、
訓み方の問題は一入重要と言わねばならない。
第二|古代文学は、それぞれの時代において生産せられたものを、或る時期に於て統一文は集成したものであるというととで
ある。古代の文学作品は、その中に長い年代と多くの作者を包擁しているのであるから、
ζ
れを与えられたまh
に静的に
平面的に考察するだけでは不十分であって、動的に発生的に若しくは淵源的に研究しなければならないであろう。
第三
l古代文学は、純粋文芸的な動機から制作せられたものは稀で、犬部分は政治的又は宗教的な動機から生産されたもので
あるというととでああ。すなわち万葉集の如きは比較的純粋な
4
文芸的動機から作られているが、記一紀・風土記・宣命の如
きは、政治的乃至宗教的な動機文は目的から作られたものである。従って文学の意義を広義に解して、「古代」文学の真
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相の把握に努めるζとが肝要であると思われる。
第四
l古代文学は、個人的所産は稀で、大部分は民族的(或は民衆的)所産で伝語性が著しいというととであ忍。
との四つの事柄は、他の時代の文学では稀薄であって、古代文学に著しく、その本質究明のためには、見逃してはならない
問題である。いまとの小論文で、万葉集の訓説についての研究そ考察してみようと思う。
万葉集は、片仮名・平仮名によらない漢字の音訓を仮借した様式であるから、まずその訓み方の問題がおこってくるのであ
る。漢字によって記されているのは、万葉集のみに限られているわけではないが、漢字が輸入されて後に、古代の人たちが、
文法上の構造・音韻系統の異なる漢語を用いて
漢文を国語でどのように訓むか。
(1) ηL
という事についていかに苦労してきたか。彼我の言語易対照さ骨、やがア国需の路樹易問営し、問需の禽条英、わし方にいろ
漢字をどのように用いて国語を書き表わすか。
いろ工夫が疑らされ、また実際にその工夫が或る程度成功を収めおようになってから万葉集が編纂されており、
その文字遣の
上i乙おいては
最も発達した方法を用
かてにり因。挫の
モでああるそ7J~
込古物琴霊豆 琴7
13ミてり
2喜の にでよあ りる 研。百'"国が語つま号のり
犀刊を 種辿々つので 訓い方くがと凶行、」わ
れてき
ている事実は、万葉集の復原作業が、
「天暦五年(九五一年)村上天皇は始めて宮中の昭陽舎に和歌の編纂所を置き、万葉集を読み解き撰ばせられ、梨壷の五人
を召されてその時附けた訓み仮名が古点である。さらに古点は万葉集会部の歌に加えられなかったので、大江匡房等によっ
て訓み仮名を補っていった。これが次点と呼ばれ、さらに寛元凶年(一二四六年)に、仙覚は古点・次点の加えられなかっ
た残りの百五十二首全部に点を加えた。これが新点である。」
と、平安時代・鎌倉時代さらに江戸時代になると、多くの学者が輩出し、研究されてきた。
いま万葉集巻第一雑歌の雄略天皇の御製について、
その訓み方を調べてみよう。
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国泊瀬朝倉宮御字天皇代
大泊瀬稚武天皇
天皇御製歌
コ
モ
ヨ
ミ
コ
モ
チ
フ
ク
シ
モ
ヨ
ミ
ブ
ク
シ
モ
チ
コ
ノ
ヲ
カ
ユ
ナ
ツ
マ
ス
コ
徳
毛
与
美
徳
母
乳
布
久
思
毛
与
美
夫
君
志
持
此
岳
爾
菜
採
須
児
オシナベテヲレコソヲレ・シキナベテヲレコソヲレワレコソハノラメ
押奈戸手吾許曲目居師吉名倍手菩巳曲目座吾許背歯止ロ目
箆もよ
み鏑持ち
堀廟もよ
て
吾ζ
そ居れ
敷きなべて
O飽毛与美徳母乳
コ
モ
ヨ
ミ
コ
モ
チ
・
鑓
毛
与
美
飽
母
乳
-・・・.箆カ能戸能カ箆カ箆カ箆カタノタタタタ
毛Z毛Z毛Z毛Z毛Z毛ミ与三与五与五与五与五与三
"*' ~ 美ミ美ミ美ミ美ミ美ミーマカ
カカカカカ事茜タ箆タ箆ッ箆タ箆タ箆タEE母Z母ご母Z母Z母~iiC!手L;手L長乳非L事乳幸 J
。布フ布フ突久ク久ク思思シ思シ毛毛モ毛モ与与ヨ与ョ
美ミ美
美ミ 夫夫プ夫フ君君グ君ク志志ぎ志ぞ持持セ持七チチ
み堀廟持ち
乙の聞に
菜採ます児
吾乙そ坐れ
吾こそは
止口らめ
イヘキカナナノラサネ
家
吉
閑
名
告
紗
根
イへヲモナヲモ
家呼毛名雄毛
家聞かな
名告らさね
家をも名をも
同
拾穏抄・古義・新考・新訓・講義・全註解釈
代匠記
僻案抄
略解・致証・燈
考註疏
槍嬬手
僻案抄
考・略解
ソラミツヤマトノクユハ
虚見津山跡乃園者
そらみつ倭の国は
おしなぺ
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臨
布フ布フ布フ久ク久ク久ク思シ思シ思.;,-
毛モ毛モ毛モ与ョ与ョ与a
ミヲクシモチ
美夫君志持
Eフ.グシモチ
美夫君志持
ミフグシモタシ
美夫君志持
敬証・新考・美夫君志
註疏・新訓・講義
槍嬬手
O菜採須児
s
ナツムスコ
.菜採須児
ナツムスゴ
.菜採須児
ナツマスコ
.菜採須児
ナ
ツ
ム
ス
コ
・
菜
採
須
児
O家士口閑名告紗根
イヘキカナツゲサネ
・家吉閑名告沙根
イヘキケナノラサネ
・家吉閑名告沙根
拾穂抄
僻案抄・考
略解・新訓・講義・会註釈
代匠記
拾稿抄
代匠記
「家きかは、家をきかせよなり、按ずるに、此の集多分呉音安用ゐたれば、家きけよとよみて家きけよと心
得
べきか。
-:中略:・きかとよみては、事たらぬやうに侍ぺり。なつげさねは、名を告げねと云ふに、さの字をそへたるせ
0
・:中略・:
今案ずるに、告の字のるともよめば名のらさねとよむべきか。」
イヘキカムナノリサネ
-家官閑名告抄根
(代匠記)
僻案抄
「今上三字を一旬とし、下回字を一旬として、家きかむ名のりさねとよむは、結局に家をも名をもと有にかけ合せてみれ
ば、此ニ旬は詞を互に通じて、家も名もきかむ家も名ものりねと云義をいへきかな名のりさねとよみ給へるとみれば也。
イヘキカム
・家吉閑
ナメラサネ
名告沙根
(僻案抄)
守安証
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イへノラへ
・家告問
ナノラサネ
名告沙根
考・略解・撞・槍嬬手
講義(折口)
-私注
「吉閑一本告閑とあり、聞は問の誤にて、告問とす、
いへのらへは伶所帯玄やせなり。止ロぞいにしへのるといへり、乃礼
を乃良閑といふなり。名のらさねは名を告げよ也。のらさねを約れば、乃礼となりて名のれと云ふに同じ。」
イヘノ日フセ
・家告勢
ナノラサネ
名告沙根
(略解)
古義
「闘は誤字なることは疑なけれども、其字は未だ恩得ず。勢などの誤にもあるべし・:中略:・さて此の此の御一旬は、イヘ
ハタラク
ノラセと訓ぺし、告を伸べ言う時は、佐斯須勢と活用例なれば、必ずノラセとなくてはかなはず。」
イ
ヘ
キ
カ
ナ
ナ
ノ
ラ
サ
ネ
-家吉閑名告沙根
(古義)
美夫君志・字音・新考
新訓・講義(山田〉
-全釈・校本
増訂全註釈
イヘキカナナノラサネ
乙h
に異同あるζ
となし、さればもとのままにて、家吉閥、名告沙根と
よむべきなり、闘は韻鏡第二十ご転山摂の字にて音・漢(カヌ)なれば、奈行の通にてハカナ)と転用すべし。:・中略・:
かなのなはかのんと云意のな也。但し閣は字のままにて(カジ〉とよみても、きとえぬにはあらねど、此は必ずナと云ふ
「版本又はぺ古本ども、いづれも吉岡とありて、
ぺき語勢なり。」
(美夫君志〉
「名を上につけて、イへキカナ、ノラサネと訓むと長句短旬の形となり、例外的な旬形となる。また単に家のみを尋ねら
れるとととなって、末尾の家ヲモ名ヲモの句と照応しなくなる。
n韻の字をナで表わしている例は固有名詞以外にもみら
れる。文
n韻ではないが漢字字音の未尾をアの韻に当てて書く例があり、固有名調におけるとの種の用字法はかならずし
m韻の字と
n韻の字とを使いわけている事花よっても推考されるところであ
ιも上の一昔だけに当てたものでないととは、
,玄
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六
る。
ζ
れによってすくない例ではあってもなお闘の字をカナと読むにつくべきである。」
イヘキカナ
・家吉閑名
(「増訂全註釈」から要約)
ナノラサ
告沙根
「舌内発音尾を有する漢字(散・君)などを、サニ・クニなどの仮名に舟ゐる事はあるが、そのニをナに転ずる事(信濃
・因幡の如き)は固有名詞以外には例がない。従って聞はカニとは訓めるがカナと訓むのは無理であり、カの仮名と認め
る。そζ
で名を上の句につけて「閑名」ユ字でカナと訓み、「告沙根」三字をノラサネと訓む。
古典文学大系
(「国語と国文学」昭和十八年四月号所載・亀井孝氏「上代和音の舌内機音尾と唇内擬音尾」から要約〉
-「またもし、名止ロルと云うζ
とに、執するならば閑をカ一音に読まず、カニと訓むことも考えられる。未然形に接続する
ニは用例が少いが、説えの意ぞ表わすかと見られるものがあるからである。イヘノラへと訓む説は、闘を閉の誤りと見る
のであるが、閉(へ)は乙類同りが命令形ノラへのへは甲類恥であるからζ
の誤字説は成立しない。」
(古典文学大系〉
イヘノラセ
・家告閑
ナノラサネ
名告沙根
注釈
「ζ
ζ
に注意すべき新見が私注に一不されている。それは「閑」のままでセと訓む案である。・:中略:・ζ
うして閑・闘は棚
と共に当時の国語としては、セと訓む事は十分認められるとζ
ろであり、今はそのセの借訓仮名として「閑」を用ゐたの
でζ
れを誤字とする必要はないのである。」
r、、注
釈、J
O吾許曲目居ji--:ji--吾己曽座
ワ
レ
コ
ソ
ヲ
ラ
シ
ワ
レ
コ
ソ
ヲ
ラ
シ
・吾許曽居師ji--:::::吾許曽居師
拾穂抄・代匠記・僻案抄
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「ワレコソヲラVは、我こそをれとの給ふ古語なり、疑の詞に非ず。下同此
ワ
レ
コ
ソ
ヲ
ラ
シ
ワ
レ
コ
ソ
ヲ
レ
・吾許曽居師::・::-ji--吾己曲目座
(代匠記)
略解
「ワレコソヲラジは、天皇大和に都して天の下知しめすによりて、斯くのたまひて天の下知らする事となれり。
略
解
ワ
レ
コ
ソ
ヲ
レ
ワ
レ
コ
ソ
マ
セ
・吾許曲目居:::::::::吾己曽座
槍嬬手・古義・美夫君志
新考・講義・私注・註釈
古典文学大系・全註釈
「ヲルは天つ日嗣の高御座に坐し坐すを詔ふ也。マスは上と全く同意なるを、少し調をかへて調べを助くる。」
(槍嬬手)
「次語句の帽酬を此の御旬につけて、
ヲラVとよみ来れるはひがどとなり。
「座」
はマセと訓むべし。
「座」
を拾穂本に
「居師」とあるは、上の句の「居師」を見まがへて字誤れるなり。」
(古義〉
「ζれは鈴屋翁の説によりて、かく読むべき也。此等の句を古来対句とのみおもひたり。」
「ワレコ
yマセは、再びワレコソヲ
νとのたまはむは平板なれば語を換へて、マセとのたまへるなるが天皇はかく御自身
(美夫君志〉
にも敬語を用ひたまひしなり。」
新
考)
ζ
の四字を一旬として、ワ
νコソヲ
νとよむべしといへり。ヲレは許曽の結び。宣長がマセとよめるを
よしとす。巴曽に対して己然形マセによむなり。旧訓ヲラ
νとよみたり。されど、ヲラジといふ語あるべくもあらず。」
「玉の小琴には、
(講義
l山田〉
七
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八
「座せはいますと同じで居るの敬語。天皇であるからかく仰せられるのである。ヲ
νとよむのは悪い。」
e
e
-
-
「ヲνLQマセは少し語をかへてくり返したのであるq
」
〆「
全
釈、回,
〆「
私
注
「マセ
lゐるの敬語一」
評
釈、-.../
「ζ
その係助詞があるのでヲ
νと己然形に訓む、
「座」を敬語としてマセとよませようとした。」
(註
釈、J
「マヌはいらっしゃる意。
マセは己然形」
〈古典文学大系)
-吾許一首居::・:ji--・:吾巳曲目座
講義
l折口
l・全注釈
「「居」の字、官一長はませと訓んで、下の「座」に照応させようとした様だが特に敬語に訓む必要はないから上下ともヲ
νを用ゐる。又、旧訓のヲラジは文法的に許すことの出来ぬ訓み方だから、顧慮する必要はない。「座」の字、居の敬語
に用ゐる事もあるからとてマセと訓もうとする説は当を得ていない。前の対句として、
やはりヲ
νであるo
」
(講義
l折口)
「「居」はコソを受けてヲ
νで結ぶ。この「座」を普通にマセとよんでいる。が「座」をヲレと読むζ
とも、軍主見山の
にトリヲルワガコロモデエ
歌にも「独座吾衣手爾」(巻一の五)とあって、
「座」をヲルと読むのであるから、不都合でない。ヮ
νコソヲ
νの同一
旬をかさねた方が古風である。」
(全註釈)
r-、参
考〕
(五)
居(イ)
乎ヲ雲クヲ礼レ居モルt 9 63
乎ヲ居キキ浪ラ名ヂノレ1 野二71
1月
スエ
7
ヰナナニハヰナカ
居名1
難波居中1
ヲ
ラ
ヲ
ル
ヲ
ル
乎良1
乎流E
呼留1
(ロ)eき
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与)
ヲラシ
家居之1
(巻十・一八二九)
座
Lイ)
キル
5
イマシ
御座1
7
ス
動調+座日
イマチヅキタカクラクモキ
座待月1
高座1
雲座1
マ
サ
マ
シ
マ
セ
パ
麻佐1
麻之1
坐者1
マセド
雑居座1
伊ィマ盟主マス9ス15
ヲル6
スエ
1
(ロ)
(巻十一・二三五-)
村判制付
イマサム
(巻八・一六三八)将御在1
(巻六・九七三〉
。吾許背歯告目
ヲレコソハセイシノラメ
・我許曽者、背歯告目
考・美夫君志・燈
「許曲目は多かる事物の中にて、ひとつをとりあげて、そのとり残せる多物を思はせむがための脚結なり。乙れは、わが身
ひとつをとりわけ給ふは、他の人の比国にすまぬを羨みおぽす心地なり。・:中略:・おほかた脚結は調をたすくる用のみな
らず。多言なるべきを少く言にすべき専用脚結の本意然るなり。歯ほ齢と同じければ、としという脚結の仮名にてセト釘
ノヲメと六言によむべし。」
ヲレコソハセトハJ
ラメ
-我許曽者背歯告白
ハ燈〉
全釈・新考・私注
「訓従来に定せず、まず真淵は許の下に曽の字おちたりとしで、ワ
νコアハ、セト
νノラメとよみ、宣長は者を曽の誤と
しで、ワヲコヅセトリV
ノラメとよみ歯は
νの仮名に用いられた例なく、
ハの仮名には、巻一一・-=・四・七・九・十・十
九
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。
等に用ひられている。
ζ
れもハとよむべきなり。」
ハ全釈)
「吾乙そは夫として告げよう。
ζ
の二句をヲ
νコソハノラメと訓む説は、
ζ
の辺の原文の校異の多・いによって、成立した
ので一理あるが、語勢からして云えば必ずセトハの三音がなければならなぬ。」
ワレコソセトハノラメ
-我許曽背歯告白
r、私
注、__,
槍嬬手・玉の小琴
「「我許曽」今本「我許者」とあれば、天暦校本其の他の古文にも、
「者」の字なければ、今本者は、曽を写し誤れりし
事明らけし。・:中略:・前にも、
ワVコソとすでにあり。
「背歯止ロ目」此の二句の意は、天下所知朕をとそ夫として名告者
名ナノラパナという小意也。きれば「歯」の字は、登えと云ふに当てたるに非ず。登は「背」の下によみつけて歯の辞に
用ひたる也。」
アヲコソセイハノラメ
・我乎許曽背跡歯告白
(槍嬬手)
古
義
オ・モフ
「「我乎許曽」は、アヲコソと訓むべし。我字の語辞を、よみつけむも、さることながら、猶比前後の例を考に、我乎と有
「跡」字は旧本には脱せり、紀洲六条本にはがと
作り、そは跡字の扇減にて、途にかと誤れるべし。さて跡字なきに就て、背にトの語辞をよみて、セトハとよまむも然るζ
けむが、比上に吾許曲目また吾己曽などあるよりまぎれて脱せしなるべし。
我?と許どな曾ヲが
り背セ、
歯トな令シほ
目伝メ前後を考え
るに、
「跡」の字のありし乙とうたがひなし。」
(古
義)
放
証
「歯は、考にト
νとよまれしをよしとす。乙れは借字にて、としのしは助辞なり。本集団絶年云者云々とあるも同語にて、
年は借字なり。万葉集燈で、歯と齢と同じとして、さらに年と通ぜりし点は、頭書に(礼記)に歯年也云々をみても、歯は
年とかよひて、としの借字なるを知るべし。」
f、、百茂
証、,J
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ワレコソハ
・我許背歯
告と自3
新
訓・全注釈
「類衆古集に、目を自に作っている。それでヲ
νコyハ、ノジとする説があるが。ζ
れでは意味が不解であり、類衆古集は、
乙の一本のみに依って事を決するわけに行か
目を固に誤る乙と多く、次
ω紋
ω加β日
ω同母国
κ誤っているのであるから、
ない。目
ω制幽伝説脱して菅えことから固に誤ったも
ωと解すべきであろう。
ワレコソセトシノラメ
-我許曾背歯告目
代匠記
参
考〕
(
ム
ハ
)
コ
ツ•
JJ」許許許己己己 而
乞 き写憎増曽曽所年 曽
2 11111 511 412 113 316 111
一一 一一一一
1127 1 3 717 1
4 1 1 2 3 1
一一 -,
311 1 3 11211 W
トー
711 計
31
47
12
102
12
(全注釈)
注
ー:・コソとなるもの
E・:コソ・:己然形
E・:コソ・:連体形
w・:コソ・:名詞など
(--E
・E以外の接続)
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ζ
のようにして、万葉集の訓み方についての研究も長い年月経経て、なお現在もつづけられている事は、万葉集の注釈書が、
源氏物語のそれと同じく多いというζ
とによっても察する事ができるのである。研究のプロセスにおいて、当時の他の文献、
即ち記紀・風土記・宣命・祝詞の類からその他の参考文献そ渉猟する必要があり、そればかりではなく、平安時代のもの或は
それより時代の下るとζ
ろの和名抄・類楽名義抄や新撰字鏡などの辞書類も、古語が収載せられており、また奈良朝末期頃か
H
に
ら見える漢籍経巻類に加えられた訓点物にも留意しなければならない。中西進氏もその論文の中で、
「訓話注釈的研究は基礎
研究中最も重要な部分を占め長年研究されて来たにもかh
わらず、万葉集には余りにも難語難訓がありすぎる。十世紀を経た
今日でも三十指に余る訓が試みられるまh
定訓を得ないものがある。とれらに当つては霊異記その他の同時代作品の分註、古
経訓点、古辞書(平安・鎌倉期に九種。更に必要があれば江戸期のもの。〉の訓そ参照し、見在書目録に見られる中国の辞書
から用字の意味を理解する事が必要である。」と論じておられる。
このように、各文献との協力によって帰納的に一つの訓が決定されていくのであるが、対象が流動性を有する言語の事であ
るから、勿論文献による帰納法が万全なものとして、必ずしも正しいとは云へない場合もあろうが、しかし大体において考察
しうる範囲内において妥当と認めて加えた訓は、正しいものに近いと考えられるのである。
「日本古典文学大系」万葉集の訓法において、大野晋氏が国語学的見地から創見を示しておられるが、音韻や仮名づかいの
国語学的研究は多くの成果をあげて、万葉集の研究に寄与するとζ
ろが大きいと云わねばならない。
註ハ一)国文学の指導法第一輯
l総論篇
倉野憲司「古代文学研究法序説」
註'つ一〉田辺
E男若寸国語学史」(上古・中世篇)
註(コ一)武田祐吉著「万葉集金註釈」一十四頁
註(四》略号を使用してある注釈書の名称は次のとおりである。
一十六頁
三十九頁
四十六票
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。代匠記
。拾穂抄
l万葉拾穂抄(北村秀吟〉
万葉代匠記ハ契沖)
。考
。僻案抄!万葉僻案抄ハ荷回春満〉
!万葉考(加茂真淵)
。玉の小琴!万葉集玉の小琴(本居宣長〉
略
解ー万葉集略解ハ橘干蔭〉
。燈!万葉集燈(富士谷御杖)
。
日
証
l万葉集日証(岸本申豆流)
。檎嬬手!万葉集檎嬬手ハ橘守部)
。古義!万葉集古義〔鹿持雅澄〉
。美夫君志!万葉集美失君志(木村正辞)
。字音弁証
l
(
木村正辞)
。
講
義
lロ訳万葉集(折口信夫〉
疏
l万葉集註疏(近藤芳樹)
考
l万葉集新考ハ井上通泰)
訓
l新訓万葉集(佐々木信網)
。註新新会
。論京ム
釈J万葉集会釈ハ鴻巣盛広)
義le万葉集講義ハ山田孝雄)
注
l方葉集私注〈土屋文明)
一ー-._
![Page 15: Title 沖大論叢 = OKIDAI RONSO, 3(1): 1-14 Issue Dateokinawa-repo.lib.u-ryukyu.ac.jp/.../10712/1/Vol3No1p1.pdf相の把握に努める ζ とが肝要であると思われる。第四](https://reader035.vdocuments.net/reader035/viewer/2022070912/5fb3a1d3f3a7e247004e634f/html5/thumbnails/15.jpg)
本
i校本万葉集(佐々木信網)
。全注釈!万葉集会註釈(武田祐吉)
校。文学大系
i古典文学大系4
万葉集〈高木市之助
(万葉集総索引漢字篇・丁数篇諸訓説篇を資料とした。)
註(五)沢潟久孝佐伯梅友共著「新校万葉集」より
「居」・「座」の使用されている数を調査したものである。
註(六)沢潟久孝佐伯栴友共著「新校万葉集」より
「コソ」係結びの研究で調査した数である。
註(七)国文学一月号第四巻第一号
五味智美
中西進「万葉集の研究テlマ」
九十一頁
四
大野晋)