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http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/ Title 学報. 号外 昭和62年第4号 Author(s) 大阪府立大学 Editor(s) Citation Issue Date 1987-12-20 URL http://hdl.handle.net/10466/9568 Rights

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Title 学報. 号外 昭和62年第4号

Author(s) 大阪府立大学

Editor(s)

Citation

Issue Date 1987-12-20

URL http://hdl.handle.net/10466/9568

Rights

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昭和62年12月20日 号外 第4号 1

昭和62年12月20日

大阪府立大学 学 編 集 発 行

大阪府立大学事務局

目 次

告 示

学位論文内容の要旨及び論文審査結果の要旨公表 ……………・・…・…一 ……・…・・……… 1

告 示

学位論文内容の要旨及び

論文審査結果の要旨公表

大阪府立大学告示第33号

大阪府立大学学位規程(昭和50年大阪府立大学規則

第2号。以下「学位規程」という。)第15条第1項の規

定に基づき、昭和62年9月30日博士の学位を授与した

ので、学位規程第16条第1項の規定により、論文内容

の要旨及び論文審査の結果の要旨を次のとおり公表す

る。

昭和62年12月20日

大阪府立大学長 矢 吹 萬 壽

かく た みつ なお称号及び氏名 工学博士 角 田 三 尚

(学位規程第3条第2項該当者)

(兵庫県 昭和17年7月3日生)

論 文 名

石油系重質油の炭化と黒鉛化に関する研究

1 論文内容の要旨

炭素材料は金属につぐ電気伝導性と熱伝導性をも

ち、耐熱性にも優れ、高温において高強度を示す。

さらに、化学的安定性、耐薬品性も大きい。これら

の優れた性質、とくに高温耐熱性によって、炭素材

料はすでに冶金、機械、化学工業用材料などとして

利用されているが、将来は原子力工業、宇宙開発工

業などにとっても有望な材料とされている。

炭素材料は炭素化合物の炭化反応によって製造す

ることができる。近年、石油系重質油が炭素材料製

造の重要な資源となっているが、この石油系重質油

から得られる炭素材料の品質は、原料重質油の性質

や加工条件に強く依存する。しかし、その精細につ

いてはなお不明の点が多く、また炭素材料の構造と

諸物性との関係についても未知の点が多い。したが

って、炭素材料を工業材料としてさらに発展させる

には、重質油の炭化、黒鉛化に関する研究を通して

これらの問題点を解明することが必要である。

そこで本研究では、原料として用いる石油系重質

油の性質と生成するコークスの性質との関連性およ

び石油コークスのか焼、黒鉛化段階における構造変

化と諸物性との関連性について検討した。本論文は

これらの研究結果をまとめたものであって、緒言の

ほか3章よりなる。

緒言では、本研究の目的、研究の経過、本研究を

行うに至った背景などについて述べた。

第1章では、石油系重質油の化学構造や組成とコ

ークスの構造および性質との関連性を検討し、その

結果を3節にわけて述べた。

第1節では、まず分解系重質油である流動接触分

解残油を溶剤を用いて芳香族炭化水素成分と飽和炭

化水素成分とに分別し、それらの組成を調べた。つ

(104)

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2 号外 第4号

いで、両成分を所定割合に混合した各原料油を熱処

理して得たコークスの特性と原料油の組成との関係

を検討した。

重質油中の芳香族炭化水素成分は3環程度の縮合

芳香環に炭素数1~2個からなる側鎖が3ケ所程度

置換したような平均的構造をもち、飽和炭化水素成

分は芳香族炭化水素成分をほとんど含まない。両成

分を混合して得られる原料油から生成するコークス

の性質は両成分の混合割合によって変化し、熱膨張

係数の小さいコークスを製造するには、原料油に含

まれる芳香族炭化水素成分の割合に最適値があるこ

とがわかった。さらに、原料油の熱処理段階におい

て発生するメソフェース球体の大きさと密集度もま

た両成分の混合割合によって変化し、熱膨張係数の

小さいコークスが生成する場合は、試料の流動保持

時間が長く、メソフェースの流動度がコークスの品

質に影響を与えることが明らかになった。

第2節では、まずディレードコーカー原料油とし

て知られている各種石油系重質油を溶剤法あるいは

アルミナ吸着法により組成別に分離し、それらの組

成を分析した。ついで、組成別に分離した各原料油

を加圧炭化して得られるコークスの黒鉛化性と原料

油の組成との関連性を検討した。また、コークス生

成過程における各原料油の組成変化や流動性変化に

ついても併せて検討した。この結果、結晶構造の発

達した易黒鉛化性のコークスを得るには、芳香族炭

化水素成分含有量、縮合芳香環数、側鎖置換基数な

どのあまり大きくない重質油を原料として用いる必

要のあることがわかった。重質油中の各成分が熱処

理される過程において、芳香環の側鎖が熱的変成を

うけ、多環芳香族化合物へ租界合して易黒鉛化性の

コークスになる。しかし、芳香族炭化水素成分の含

有量の多い重質油では、メソフェース生成段階にお

ける流動性が低いため、結晶構造の悪いコークスを

与える。この点については、メソフェー・一スの発生、

成長過程において生成する生成物の高温流動特性を

調べることによって実証することができた。

第3節では、まず石油系重質油を組成別に加圧炭

化することによって得られるコークスの性質を検討

した。ついで、炭化初期段階における原料油の組成

変化を調べることによって、この原因を検討した。

この結果、芳香族炭化水素成分含有量の少ない原料

油から高品位コークスが得られることがわかった。

(105)

昭和62年12月20日

また、飽和炭化水素成分はまず分解反応によりナフ

テン系化合物に環化、ついで脱水素反応により芳香

族化合物へ変化することが明らかになった。さらに、

炭化初期過程において重縮合反応は比較的均一に進

行し、反応観世の流動性が十分保たれ、炭化物が流

れ模様主体の組織に変化することが明らかになった。

第2章では、石油コークスのか焼段階における構

造変化を調べることによって、か焼条件がか焼コー

クスの構造と性質に与える影響を検討し、その結果

を3節にわけて述べた。

第1節では、か焼段階における石油生コークスの

性状の変化を調べた。また、か焼過程における活性

化エネルギーを求め、炭化時、黒鉛化時の値と比較

した。この結果、石油生コークスのか焼段階では、

揮発分の発生、熱処理中に起こる膨張、収縮により、

コークス中に気孔と亀裂が発生し、発達することが

わかった。また、X線回折法から求めたコークス中

の結晶子の面間隔の変化傾向から、か焼段階におい

ては多量の構造的な欠陥が熱処理によって結晶子と

なり、また元素分析結果からこの段階で脱水素反応

が起り、分解重縮合反応が進行することがわかった。

さらに、熱処理にともなって変化する石油コークス

の真比重の値から、か焼過程の見掛の活性化エネル

ギーは約70kca]/mo1と見積ることができた。

第2節では、石油生コークスのか平中の構造変化

をX線パラメーター、熱膨張係数、コークス強度、

組織、揮発分、密度、気孔率の測定によって検討し

た。この結果、X線回折から得られる構造パラメー

ター(d-spacing.Lc)、コークス強度、熱膨張係

数、気孔率は、ともに700~800℃の間で顕著に変

化し、この温度領域はか焼工程において重要である

ことがわかった。また、か焼中の空隙構造や結晶構

造の変化は、コークス中に含まれている揮発分の放

出やコークス自体の寸法変化にともなって起こるこ

とがわかった。

第3節では、コークスの熱膨張係数を低下させる

新しいか焼方法を開発した。また、この方法により

熱膨張係数が低下する要因についても併せて検討し

た。従来の方法では、生コークスを1段処理で最高

温度1300~1400℃へ昇温し、この温度でしばら

く保持したのち、室温へ冷却してか焼コークスを得

るが、新しいか焼法では2段で生コークスを処理す

る。すなわち、まず生コークスを600~900℃でか

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昭和62年12月20日

焼したのちいったん冷却し、ついでこれを1300~

1400℃で再か馴する。新しいか国法で処理したコ

ークス中には、1~60μmのユニークな微小亀裂が

顕著に発達し、これが熱膨張係数低下の要因となっ

た。しかもこの微小亀裂が結晶子の膨張を吸収、緩

和するような空隙として作用していることがわかっ

た。さらに、この微小亀裂は、コークスの熱処理時

の膨張、収縮挙動によってコークス内部に特別な応

力分布が発生し、これが誘因となって亀裂がさらに

発達することがわかった。

第3章では、黒鉛化コークスの構造と性質を調べ

ることを目的として、か焼石油コークスの諸性質と

黒鉛化成形体の諸特性との関係について検討し、そ

の結果を3節にわけて述べた。

第1節では、UHP電極材料として用いられてい

るものを中心に11種の秤皿ドルコークスを選び、熱

膨張係数とコークスの性質および焼成、黒鉛化した

成形体の特性との関係について検討した。この結果、

X線回折強度が大きく、しかも細孔容積の大きいコ

ークスほどその黒鉛化成形体の熱膨張係数は小さく

なることがわかったeまた、コークスおよびその黒

鉛化成形体の熱膨張係数は結晶子の結晶化度、配向

性とその集合構造ならびに気孔、亀裂のような空隙

の分布などによって支配されることが明らかになっ

た。

第2節では、か焼コークスの性状とこれらから作

成した押出黒鉛化棒の特性との間の関連性を検討し

た。この結果、か焼コークスの熱膨張係数と黒鉛化

成形品の熱膨張係数や曲げ強度との間には正の相関

関係があることがわかった。また、押出焼成品と押

出黒鉛化品のかさ比重、曲げ強度、弾性率の間にも

正の相関関係が認められた。これらの関係から、黒

鉛化品の特性は焼成段階である程度の予測ができる

ことが明らかになった。

第3節では、か焼コークスから作成した押出成形

体を黒鉛化各温度領域で熱処理して、熱処理温度と

黒鉛化体の特性値の変化の関係を調べ、か焼コーク

スの黒鉛化段階における構造変化を検討した。コー

クスから作った成形体の曲げ強度、弾性率、電気抵

抗、かさ密度などの諸特性は熱処理にともなって変

化し、ことに2000℃付近で急激に変化することが

わかった。また、これらの特性はコークス粒子の

2000℃までの気孔の発達と2000℃以上での結晶

号外 第4号 3

構造の発達に関係づけることができた。さらに、生

成する黒鉛化電極の特性は原料か焼コークスの特性

に強く依存することが明らかになった。

2.論文審査結果の要旨

本論文は、石油系重質油の性質と生成するコーク

スの性質との関連性および石油コークスのか焼、黒

鉛化段階における構造変化と諸物性との関連性につ

いて検討した結果をまとめたものであり、つぎの成

果を得ている。

{1)結晶構造の発達した易黒鉛化性コークスを得る

には、芳香族炭化水素成分含有量が比較的少なく、

縮合芳香環数、側鎖置換基数のあまり大きくない

成分を含む重質油を原料として用いる必要がある

ことを見出した。また、重質油のメソフェース生

成段階における高温流動特性を調べ、メソフェー

スの蔽動度がコークスの品質に影響を与えることを

明らかにした。

{2)石油系重質油を組成別に加圧炭化し、重質油が

コークスに変化する過程を調べることによって、

芳香族炭化水素成分含有量の少ない重質油から高

品位コークスが得られる成因を明らかにした。

〔3}石油コークスのか焼過程では、脱水素反応、分

解重縮合反応が進行し、多量の構造的な欠陥が熱

処理によって結晶子となることを明らかにした。

また、か焼過程の見掛の活性化エネルギーを求め

炭化時、黒鉛化時の値と比較することによって、

か焼過程におけるコークスの構造変化の特性を考

察した。

〔4)石油コークスのか焼中の空隙構造、結晶構造な

どの諸性質の変化はいずれも700~800℃の間で

顕著に起り、この温度領域はか焼工程において重

要であることを明らかにした。

〔5)コークスの熱膨張係数を低下させる新しい2段

階か焼法を開発した。また、新しいか嗣法で処理

したコークス中には微小亀裂が顕著に発達し、こ

の微小亀裂がコークスの熱膨張係数低下の原因と

なり、さらに結晶子の膨張を吸収、緩和するよう

な空隙として作用していることを明らかにした。

{6}X線回折強度が大きく、しかも細孔容積の大き

いコークスほどその黒鉛化成形体の熱膨張係数は

小さくなることを見出した。また、コークスおよ

びその黒鉛化成形体の熱膨張係数は結晶子の結晶

(106)

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4 号外 第4号

化度、配向性、気孔・亀裂のような空隙の分布な

どによって支配されることを明らかにした。

(7)押出黒鉛化成形品の特性は焼成段階である程度

予測できることを見出した。さらに、か焼コーク

スの黒鉛化過程を検討し、黒鉛化によって得られ

る成形体の諸特性は2000℃付近で急激に変化す

ることを明らかにした。

以上の諸成果は、石油系重質油の炭化と黒鉛化過

程の解明に有益な知見を与えるとともに高性能炭素

材料製法技術の開発に寄与したものであり、材料化

学の分野の発展に貢献するところ大である。また、

申請者が自立して研究活動を行うに必要な能力と学

識を有することを証したものである。

本委員会は、本論文の審査ならびに学力確認試験の

結果から、工学博士の学位を授与することを適当と認

める。

審査委員

主査教授大辻吉男 副査教授北尾悌次郎

副査教授米田茂夫

大阪府立大学告示第34号

大阪府立大学学位規程(昭和50年大阪府立大学規則

第2号。以下「学位規程」という。)第15条第1項の規

定に基づき、昭和62年10月30日博士の学位を授与した

ので、学位規程第16条第1項の規定により、論文内容

の要旨及び論文審査の結果の要旨を次のとおり公表す

る。

昭和62年12月20日

大阪府立大学長 矢 吹 萬 壽

こ じま ひで こ称号及び氏名 工学博士 小 島 秀 子

(学位規程第3条第2項該当者)

(大阪府 昭和23年8月8日生)

論 文 名

吸着及び抽出による微量金属イオンの高感度分離

分析法に関する研究

(107)

昭和62年12月20日

1.論文内容の要旨

活性炭は表面積が大きく、有機物の疎水的吸着性、

表面の細孔による炉開作用、酸化還元作用など、色

々な機能を合せもつ吸着剤として知られており、古

くから化学工業の各分野において、また近年は上水、

下水処理などにも広く利用されている。しかし、こ

のような活性炭の分析化学的応用は比較的少なく、

また断片的にしか行われていなかった。微量成分分

析においては、試料中の目的成分を予めマトリック

スや妨害成分から分離、濃縮することにより、定量

限界や正確さを向上することは分析機器の進歩した

今日でも必要となる場合が多い。このため、活性炭

による環境試料中の微量水銀の吸着分離、濃縮を検

討することは意義があると考えて本研究を始めた。

次いで種々の微量金属の吸着挙動の研究中に、活性

炭は濃い塩酸溶液から欽:⑳のクロロ錯イオンを吸着

するという現象を見いだし、これを契機として活性

炭にとどまらず、含酸素系吸着剤及び抽出剤による、

鉄(皿)、金(①、ガリウム(皿)、タリウム(田)、アンチモン

(V)のクロロ錯イオン(FeCIT、 AuClil、 Ga C14、

TICIT、 SbCIす)の吸着及び抽出分離に関する研

究を展開した。

本論文は、それら微量金属イオンの分離分析法に

ついての研究をまとめたものであり、第1編と第皿

編から構成されている。

第【編では、活性炭を微量金属吸着剤として分析

化学的に利用するための基礎的研究と、その応用と

して環境試料申の微量水銀の定量に関する研究をま

とめた。

第1章においては、活性炭、カーボンブラック、

グラファイト化カーボンブラック、グラファイト、

無煙炭など9種の炭素材料の比表面積、元素組成(C、

H、N、0、 S)を測定し、各材料によるナノグラ

ム量の水銀(ll)、メチル水銀のpH O-14における吸

着挙動を調べた。その結果、活性炭(粉末、粒状、

フェルト)は両水銀の最も優れた吸着剤であること

を明らかにした。

第2章においては、主に廃水中の水銀の定量を目

的として、保存試薬を加えた水溶液からの活性炭に

よる吸着と、その水銀を再び溶出する研究について

述べた。ナノグラム量の水ee(ll)、またはメチル水銀

を含むL一システインの希硝酸溶液を粉末活性炭と

振とうした後、炉別した活性炭中の水銀を加熱気化

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昭和62年12月20日

原子吸光法によって測定し、両水銀の定量的回収率

を得た。次にその活性炭を8M硝酸で処理すれば両

水銀は定量的に溶出された。また0.1M硝酸一95v/v

%アセトンを用いる溶出によって、水銀([)とメチル

水銀の分別定量が可能であることを示した。本法を

実験室廃水中の水銀の定量に適用した。

第3章においては、海水中のtw ng 1-1程度の非

常に低い水銀の定量に、活性炭吸着分離を応用した

研究について述べた。まずブランク値を小さくする

ために活性炭、水、鉱酸などの精製方法を検討した。

次に人工海水を用いて吸着の諸条件などを調べた後、

実際の海水(茨城県大洗)に適用し、平均水銀値2.O

ng rlを得た。別の研究者による本法の適用結果、

及び最近の文献値との比較から本法の有用性が実証

された。

第4章においては、活性炭によるマイクログラム

量の20金属イオンのpH 1-13における吸着挙動に

ついて述べた。その金属イオンは、セシウム(D、イ

ットリウム(皿)、セリウム(llD、チタンUV)、ジルコニウ

ム(!駄クロム(皿)、クロム(鴨、マンガン(ll)、鉄(皿)、コ

バルト(皿Xニッケル(皿)、ルテニウム(m)、銅(皿)、銀(IX

亜鉛(皿Xカドミウム(ll)、アルミニウム(血)、鉛(llXア

ンチモン(皿)及びビスマス(m)である。各金属は放射性

トレーサーのγ線測定、吸光光度法、原子吸光法に

より定量した。セシウム(1)とアンチモン(皿)は活性炭

に吸着されなかったが、他の18金属イオンはpH3-

13の適するpH範囲においてよく吸着された。その

主な理由は、非常に小さい金属水酸化物粒子が活性

炭表面の細孔に捕集されるためと考えられる。活性

炭は、多くの金属の非選択的分離あるいは濃縮のた

めの吸着剤として適することが示唆された。本研究

において、活性炭に吸着された鉄の溶出を検討した

際、濃い塩酸では鉄は一部しか溶出しなかった。こ

の現象は、濃い塩酸溶液中で生成する鉄(m)のクロロ

錯イオンを活性炭が吸着するために生じたと考えら

れたので以下の研究を行った。

第巨編では、活性炭をはじめとする含酸素系吸着

剤及び抽出剤による、鉄⑩、金(臥ガリウム(田)、タ

リウム(皿)、アンチモン(V)のクロロ錯イオンの吸着及

び抽出分離に関する研究をまとめた。

第1章においては、活性炭によって塩酸溶液から

鉄(肱ガリウム(皿)、タリウム価)、アンチモン(VXア

ンチモン㎝)はよく吸着され、その吸着挙動は従来か

号外 第4号 5

らの陰イオン交換樹脂によるクロロ錯イオン交換、

及びエーテル、ケトンなどの含酸素溶媒による抽出

の挙動と似ていることを述べた。最大吸着率の得ら

れる塩酸濃度は鉄炉)は10M、ガリウム(Dは7M、タ

リウム佃)は1M、アンチモン(V)は9M、アンチモン

佃Nま3Mであり、分配係数は低い金属濃度では約104

mig-1である。用いた活性炭には約5%の酸素が含

まれるので、これらの吸着現象は、活性炭の表面酸

化物の酸素原子とクロロ錯イオンとの、水素イオン

を介した相互作用によって生じると推定された。

第2章においては、活性炭吸着分離法をケイ酸塩

鉱石中の金の定量に応用した研究について述べた。

貴金属元素の金(皿)、白金U)、銀(Dの、塩酸及び硝酸

溶液からの活性炭やカーボンブラックによる吸着挙

動を調べ、金(mは両吸着剤によって非常によく吸着

されることを示した。多数の共存金属は金⑪の活性

炭吸着を妨害しなかったので、ケイ酸塩鉱石中の金

を吸着分離し定量した。得られた値は既に報告され

た別の2方法による値とよく一致した。

第3章においては、多孔質樹脂Arnberlite XAD

-7とXAD-8(ポリアクリル酸エステル)、及

びキレート樹脂Chelex 100もまた活性炭と同様に

塩酸溶液:からクロロ錯イオンをつくる5金属をよく

吸着することを述べた。その吸着容量はO.4-0.9

㎜ol g-1である。ところで、 Dowex 50Wのよう

な強酸性陽イオン交換樹脂がクロロ錯イオンを同様

に吸着する現象、いわゆる異常吸着(anoma bus

sorption)の原因は今まで不明であったe今回、ス

チレンージビニルベンゼン共重合体(SVB)である

XAD-4もクロロ錯イオンをかなり吸着することが

分り、Dowex 50Wのマトリックスも共にSVBで

あることから異常吸着はマトリックスによるものと

判断された。

第4章においては、クラウンエーテルによるクロ

ロ錯イオンの抽出挙動について述べた。ジシクロヘ

キシルー18一クラウンー6、ジベンゾー18一クラウ

ンー6、18一クラウンー6のクロロホルム溶液は、

鉄①X釦)、ガリウム(ID、タリウム(肱アンチモン

(V)を塩酸溶液からよく抽出したが、15一クラウンー

5、12一クラウンー4はあまり抽出しなかった。一

方、酸性塩化リチウム溶液からは15一クラウンー5、

12一クラウンー4でさえも5金属をよく抽出した。

抽出化学種のクラウンエーテルと金属のモル比は1

(108)

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6 号外 第4号

:1であり、また鉄は塩酸溶液からはHFeC14、塩

化リチウム溶液からはLiFeC14として抽出されるこ

とを明らかにした。

第5章においては、クラウンエーテル抽出の応用

として、ケイ酸塩岩石中のガリウムを18一クラウン

ー6のクロロホルム溶液で抽出し、逆抽出後、改良

されたローダミンB法により光度定量したことを述

べた。本法によるガリウムの回収率はほぼ定量的で

あり、従来法よりも簡便であるe多数のケイ酸塩岩

石標準試料(地質調査所)などの中のガリウムを定

量したが、その値は文献値と±10%以内で一致した。

第6章において、金(皿)は非環状ポリエーテルであ

る非イオン界面活性剤ポリ(オキシエチレン)二4

一ノニルフェニル=エーテルを用いて、塩酸溶液か

ら曇点に基づく抽出法によっても、また通常の液一

液抽出法によってもよく抽出されることを述べた。

金の定量にはク付帯錯イオンの紫外吸光光度法を用

いた。

以上の研究により、活性炭の分析化学的利用法を

明らかにするとともに、活性炭を用いる微量水銀の

高感度分離分析法、及び含酸素系吸着剤を用いるク

早目錯イオンのイオン会合系分離分析法を確立する

ことができた。

2.論文審査結果の要旨

本論文は、活性炭ならびに含酸素系吸着剤及び抽

出剤による微量金属イオンの分離分析法に関する一

連の研究をまとめたものであり、次の成果を得てい

る。

Ul活性炭は各種炭素材料の中で最も優れた微量水

銀の吸着剤であることを明らかにした後、活性炭

吸着法による微量水銀の簡便な分析方法を提案し、

廃水中や海水中の極微量水銀の定量に適用できる

ことを示した。

C2)活性炭はpH 3~13の適するIH範囲において各

種の金属イオンをよく吸着することを見いだし、

多くの微量金属イオンの非選択的吸着剤として適

することを明らかにした。

〔3)活性炭は塩酸溶液からクロロ錯イオンをつくる

鉄(皿x金(皿)、ガリウム(皿)、タリウム(m).アンチモ

ン(V)などをよく吸着することを見いだし、それら

の吸着は活性炭表面酸化物中の酸素原子が関与す

るクロロ錯イオンのイオン会合系吸着機構に従う

(109)

昭和62年12月20日

ことを明らかにした。また、この吸着法を用いる

微量金属の分析方法を提案し、ケイ酸塩鉱石中の

金の定量に適用できることを示した。

(4}含酸素系合成高分子吸着剤(Amber・lite XAD

など)も金属のクロ日別イオンをよく吸着するこ

とを明らかにし、活性炭によるクロロ錯イオンの

吸着機構の妥当性を証明した。

C5)含酸素系抽出剤であるクラウンエーテル類はク

ロロ錯イオンをよく抽出すること、及び抽出化学

種のクラウンエーテルとクロロ錯体のモル比は1

:1であることを明らかにした。また、この抽出

法を用いるガリウムの簡便な分析方法を提案し、

多数の岩石標準試料中のガリウムの定量に適用で

きることを示した。

(6)非イオン界面活性剤 ポリ(オキシエチレン)

=4一ノニルフェニル=エーテルは塩酸溶液から

金型)をよく抽出することを明らかにした。

以上の諸成果は、活性炭ならびに含酸素系吸着剤及

び抽出剤を用いる微量金属イオンの分析方法を確立す

るとともに、吸着及び抽出機構について新たな知見を

提供するものであうて、分析化学の分野だけでなく環

境化学、地球化学の研究の発展に寄与するところ大で

あり、また、申請者が自立して研究沽動を行うに必要

な能力と学識を有することを証したものである。

本委員会は、本論文の審査ならびに学力確認試験の

結果から、工学博士の学位を授与することを適当と認

める。

審査委員

主査 教授 和 佐 保

副査 教授 北 尾 悌次郎

副査 教授 南 努

大阪府立大学告示第35号

大阪府立大学学位規程(昭和50年大阪府立大学規則

第2号。以下「学位規程」という。)第15条第1項の規

定に基づき、昭和62年11月30日博士の学位を授与した

ので、学位規程第16条第1項の規定により、論文内容

の要旨及び論文審査の結果の要旨を次のとおり公表す

る。

昭和62年12月20日

Page 8: Title 学報. 号外 昭和62年第4号 大阪府立大学 - CORE2 号外 第4号 いで、両成分を所定割合に混合した各原料油を熱処 理して得たコークスの特性と原料油の組成との関係

昭和62年12月20日

称号及び氏名

大阪府立大学長 矢 吹 萬 壽

ひら い しゅt じ農学博士 平 井 俊 次

(学位規程第3条第2項該当者)

(長野県 昭和17年9月16日生)

論 文 名

カキ果実の成熟・貯蔵および加工中における呈味成

分の変化に関する研究

1.論文内容の要旨

第1章 緒 論

カキは東アジア温帯地域固有の果実で古くから栽

培されてきた、日本では、果実は菓子・茶の子・無

糖など食物として広く利用され、カキ渋は皮なめし、

清酒の清澄、養蚕網・魚網・和紙の防腐・強化など

に用いられてきた。このようにカキ果は、甘味と渋

味を大きな特徴とする果実である。

本研究は、カキ果に含まれるタンニン・糖・有機

酸成分の同定と定量、カキインベルターゼの活性お

よびビタミンCの定量について研究を行うとともに、

カキ果の品種・成熟と貯蔵の過程、脱渋及び干し柿

などの加工処理によって、それらの諸成分がどのよ

うに変化するかについて検討を加え、将来それぞれ

の地方においてカキ果の栽培、加工の拡大と合理化

をはかろうとするときの基礎資料の一助としょうとし

したものである。

第2章 タンニン成分に関する研究

第1節 市田柿青柿中のタンニン物質の分離

とその化学構造

市田柿は、長野県飯田地方で生産される干し柿で、

白粉のふいた”ころ柿ttタイプのものであり、その

生産額は年間約1,300トンで全国第3位に位置して

いる。本節では、市田柿の未熟な青柿(7月上旬の

直径15nnのもの、なお適熟果は11月上旬のものであ

る)を用いてタンニン物質の抽出・分離について検

討した。

カキタンニンの単離については、従来酢酸や酢酸

鉛を用いて沈澱分離させる方法がとられてきた。し

かし、この方法はタンニン物質を著しく変性させる

おそれがあるので適当とは言えないb本節では、メ

タノール、酢酸エチル、エーテルなどの有機溶媒に

対する溶解度差のみを利用する分離法について研究

号外 第4号 7

し、メタノール抽出により得られたカキ果タンニン

物質にはTLC分析で、8種以上の成分の存在を認

めた。そのうちRf値〔展開溶媒:BuOH一恥0-

AcOH(5:5:1)、及びPhOH-H20(1:1)の

全層〕の最も高いタンニン成分を車離し、1H-NMR

およびIR分析の結果からメチルガレートに近い化

合物と推定した。その他のタンニン成分については、

各種の定性反応からピロガロールタンニン、カテコ

ールタンニンおよびロイコアントシアンを含むフラ

ボノール型タンニンなどであり、その成分比は、そ

れぞれ6~8:1~3:1の割合でピロガロール型

タンニンが主体であることを明らかにした。また、

果実の腐敗や鮮度低下によるタンニンの変性、皮な

めしに用いるカキ里中のタンニンの特性についても

検討した。

第2節 メチルガレート溶液の光による変質

干し柿の加工・貯蔵申におけるタンニン物質の変

質の機構を明らかにするため、とくに光の影響につ

いて調べた。メチルガレートの各種濃度の水、メタ

ノールおよび10%メタノール水溶液を作成し、これ

をフイルム容器(ナイロンーポリエチレンおよび防

湿セロファンーポリエチレン製)およびガラス容器

に密封して暗所、蛍光燈下、直射日光下に1ケ月半

静置し、試料溶液の色調、沈澱物の生成量と色調、

TLC、 UV、IRスペクトルなどからメチルガレート

の変質を追跡した。その結果、メチルガレートの変

質は暗所でも進行するが、光の照射量(時間)、溶

液の種類、溶液中の濃度などによって異なった反応

が起こり、とくに直射日光下では著しく変質するこ

とが明らかとなった。すなわちメタノール溶液では

白~黄色の沈澱物を生じ、水溶液ではさらに変質し

て黒色の沈澱物を生成(渋味も減少)した。これら

の沈澱物は何れも塩化第二鉄反応を示さなかった。

さらにIRでは、メチルガレートのベンゼン環、メ

チル基、エステル結合に由来する特性吸収が確認で

きないほどに、3SOO・一20000m-1および1760~

900 on 一i領域に幅広い吸収を示し、化学構造の推

定は不可能であるが、著しく重合が進んでいるもの

と推察され、とくに日光下のものが顕著であった。

また3000 ・・w 2200 on 一iと1400 ・v 1100 cm 一1領域

の吸収の変化が実験初期から起きる傾向にあった。

以上の結果から干し柿の脱帽機構は、光のあたる果

実の表面と光のあたらない内部では異なった脱回目

(110)

Page 9: Title 学報. 号外 昭和62年第4号 大阪府立大学 - CORE2 号外 第4号 いで、両成分を所定割合に混合した各原料油を熱処 理して得たコークスの特性と原料油の組成との関係

8 号外 第4号

応が生じるものと推察した。

第3節 カキ生果の四戒に対する物理化学的

判別法

渋柿を脱渋処理するときの渋味の変化を物理化学

的万法で評価しようとする試みは現在まで殆どなさ

れていない。しかしながら脱渋加工処理において、

味覚による判別法の外に物理化学的な評価が次第に

必要になってきたe本節では、窒素ガス脱渋、アル

コールさわしおよび干し柿加工(イオウ煉蒸したも

のとしないもの)の4種類の脱渋処理における脱渋

の程度と物理化学的特性との印刷について調べた。

その結果、次のような知見を得たa①渋味の強いカ

キのメタノール抽出物はUVスペクトルのK吸収帯

(λmax 219 ’v 223 nrn)とB吸収帯(285~316nm)

に強い吸収を示すが、渋味のない柿にはこれらの吸

収がない。またピークが鋭く吸光度(ε・max)が大き

いほど渋味が強い。②TLCでは、渋味の強いもの

ほど塩化第二鉄による紫~青色の呈色が濃く、渋味

の減少につれRf値の低いスポットから塩化第二鉄

による呈色を示さなくなり、さらにはヨードによる

呈色でもスポットが確認できなくなる傾向にあった。

③CFP法(果実の切断面を濾紙に押付けて、果汁

を濾紙に吸着させ、その濾紙を風乾後、0.5%塩化

第二鉄メタノール溶液を噴霧して呈色させ、その色

調によって渋味を判定する著者が考案した方法)は

渋味の強弱に応じて紫青色の呈色の状態が異なり、

渋味が強いほど呈色が濃くなる。④果実から抽出し

たタンニン物質(水、メタノールに可溶で、酢酸エ

チル、エーテルに不溶の部分)を10%塩酸酸性下で

10分間煮沸した時の色調は、渋味の強いものほど鮮

赤色に呈色する(この色素はn-Bu OHに抽出9れ

る)。以上の方法は何れも渋味判定法として有効で

あるが、とくにCFP法は敏速・簡便な点で最も優

れている。

第3章 糖成分に関する研究

第1節 カキ生果中の糖成分の同定と定量

従来、カキ生果の糖成分組成はペーパークロマト

グラフィーを用いて同定しているが、この方法は炭

素数が接近している糖や、糖の異性体間では分離確

認が困難で誤りをおかしやすい。本節においては、

カキ生果を電子レンジを用いて加熱し、酵素を不活

性にしてから切断し、80~95%メタノールで抽出し、

抽出液をろ過、減圧濃縮して糖試料とした。さらに

(111)

昭和62年12月20日

この試料の一部を水素化ホウ素ナトリウムで還元後、

真空乾燥して、還元糖試料とした。これら2種の試

料についてTLCによる定性分析、トリメチルシリ

ル化(TMS化)した後のガスクロマトグラフィー

およびガスクロマトグラフィー連結質量分析計で分

析を行った。また、定量分析では果実の含水メタノ

ール抽出物中の全遊離糖をベルトラン法で求めた。

その結果、カキ生果中の糖成分はフルクトース(市

田2.8%、富有1.7%)、グルコース(市田2.9%、

富有1.8%)、スクロース(市田10.5%、富有8.5

%)が大部分であり、その他の成分は極めて微量で

あって、他の果実に多く見られるソルビトールやガ

ラクトースは含まれないか、またはソルビトール、

グルクロン酸が7~8月の未熟果に僅かに検出され

るのみであった。スクロースが多い点から見てカキ

生果は、バナナ(スクu一ス8.3%)、パイナップ

ル(スクロース8.9%)など熱帯果実類に近い特徴

をもつことが明らかになった。

第2節 干し柿中の糖組成と白粉の発生にお

よぼす製造条件の影響

干し柿中の糖成分の同定も、前節と同様にメタノ

ール抽出物を用いて行うことができる。しかし、こ

の方法では抽出中に還元糖のα、β異性体が容易に

転換する恐れがある。本節では、千し柿の白粉の糖

組成においてα、β異性体が味覚と密接に関連して

いると考え、α、βの転換の少ない抽出および分析

方法の確立について検討した。種々の試みの結果、

摩砕した干し柿の果肉や白粉を無水ピリジン中に入

れ、直ちにTMS化試薬を加えてTMS化し、得ら

れた試料のガスクロマトグラフィー分析を行うと、

α、βが転換しない状態の同定が可能であることが

確認された。分析の結果、干し柿果肉の糖組成は、

フルクトースとグルコースの比がおよそ44:56でス

クロースは微量であることが明らかとなった。また、

グルコースのαとβ型の比は46:54でほぼ一定であ

った。また、干し柿表面に付着する白粉はα一D一

グルコースの結晶であることが判明した。従来白粉

の成分の1つと考えられていたβ一D一グルコース

やフルクトースは果表面に羽状に存在している糖成

分が臼粉の試料採取の際に混入したものであること

が明らかとなった。

第3節 カキ生果および干し柿の品種、収穫

時期、脱渋処理、貯蔵による糖成分

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昭和62年12月20日

の変化

長野県産の市田柿と富有柿の成熟過程・脱渋処理

中の糖組成の変化、長野県産の甘柿、渋柿の適隊士

や冷凍貯蔵品種による糖組成の変化、9品種の渋柿

を干し柿に加工した際の糖組成の変化などをガスク

ロマトグラフィーとベルトラン法を併用して調べ、

カキ果の生産加工における基礎資料としょうとした。

その結果、全遊離糖含量については品種・熟度・

貯蔵前後の違いによってかなり大きな差が見られ、

平均して甘柿より渋柿の方が遊離糖含量が高く、10

月下旬の富有柿(甘柿)が12~13%であったのに対

して市田柿(渋柿)では18~20%に達した。両者と

もに成熟するに従い1ケ口あたり遊離糖が2~4%

の割合で増加するため、収穫して貯蔵しておくより

も遅い時期に収穫した方が高濃度のものが得られる。

また、全遊離糖中のスクロースの比率は、種々の条

件によって0~80%の広範囲で変動し、成熟するに

つれて高くなり、逆に貯蔵・加工中に低くなる傾向

にある。とくに、干し柿や一27℃で3ケ月以上の貯

蔵果には殆どスクロースが検出されず、フルクトー

スとグルコースに転化している。なお、糖の消耗が

ない限りスクロースが転化した方が甘味が強い。

このように脱渋・貯蔵方法の違いにより、スクロ

ースの転化率が異なるため、スクロースの量はカキ

果の食味に大きく影響し、アルコール脱渋果(スク

ロース52.2%)よりエチレン脱聖君(スクロース27.9

%)の方が甘味が強い。これはスクロースの転化率

の違いの外、アルコール脱渋の方が全糖が減少する

ためと考えられる。

第4章 インベルターゼ活性に関する研究

第1節 カキ生果の成熟、貯蔵、加工処理中

のインベルターーゼ活性の変化

カキ生果の成熟段階あるいは貯蔵・加工などによ

る糖組成の変化に対し、果実中のインベルター・ゼが

大きく関与していることが推察され、呈蝦上極めて

重要な問題である。本節では、ガスクロマトグラフ

ィーを用いてカキ果試料中に添加したスクロースの

変化を追跡することにより、インベルターゼの特性

や各種条件下における活性の変化について研究した。

カキ生果の成熟段階あるいは貯蔵・加工などによ

る糖組成の変化に対し、果実中のインベルター・ゼが

大きく関与していることが推察され、これは柿の呈

添上極めて重要な要因である。本節では、ガスクロ

号外第4号 9

マトグラフィーを用いてカキ果試料中に添加したス

クロースの変化を追跡することにより、インベルタ

ーゼの特性や各種条件下における活性の変化につい

て研究した。

カキのインベルターゼの至適pHは5.5ケ日で、

至適温度は約30~40℃であり、果実1g当りのイン

ベルターゼ活性は8~24時間の測定においてpH5ふ

30℃で、80~230nKat(4.{ト13.8U)と他の果実

と比較してもかなり強いことがわかった。また、室

温や冷蔵などの貯蔵、アルコールさわしゃ干し柿加

工(イオウ燥蒸)などの処理後もかなり強いインベ

ルターゼ活性をもっていることがわかった。とくに、

成熟後期、貯蔵、脱渋時に活性が増強する傾向が見

られた。また、一27℃で1年間冷凍貯蔵したカキ果

は、冷凍前に比べてスクロースが著しく減少し、β一

一フルクトフラノシドの生成が認められることより、

凍結中でもインベルターゼが作用していることがわ

かった。さらに、凍蔵2~3年後の柿、干し柿およ

びアルコールさわし柿にも同様に生果の1/3~IAo

程度の活性が認められるなど果実の呈味にインベル

ターゼの活性が大きく影響していることが推察され

た。

第2節 カキ生果のアルコール抽出時におけ

るアルキルβ一D一フルクトフラノ

シドの生成

カキ生果のインベルターゼは60%のメタノールお

よびエタノール抽出液中においても失活せず、pH

5.5の水溶液中におけるインベルターゼ活性の1~

10%に相当する活性を示し、カキ郷中においてスク

U一スの転化のほかに、フルクトシドの生成を触媒

することを見い出した。

本節では、生成されたフルクシドの同定と生成に

およぼすアルコール濃度の影響について検討した。

カキ生果に対して2倍量の重量の80%メタノールま

たは60%エタノール水溶液を加えて抽出し、メタノ

ール抽出物2.72から400㎎、エタノール抽出物2.5

9から50ngのフルクシドをイオン交換カラムクロマ

トグラフィーで分離し、これらのスペクトルデータ

を検討した結果、それぞれメチルβ一D一フルクト

フラノシド(MF)およびエチルβ一D一フルクトフ

ラノシド(EF)と同定した。なお両者とも甘味が弱

く、苦みの強い物質であった。これは、カキ口中の

スクロースにインベルターゼと抽出用のアルコール

(112)

Page 11: Title 学報. 号外 昭和62年第4号 大阪府立大学 - CORE2 号外 第4号 いで、両成分を所定割合に混合した各原料油を熱処 理して得たコークスの特性と原料油の組成との関係

10号外 第4号

が作用して生成したものである。さらに、アルコー

ル抽出時におけるインベルターゼ活性におよぼすア

ルコール濃度の影響を調べた。80%の高濃度のアル

コール中でもインベルター・ぜの転化作用とフルクシ

ドの生成が認められ、20℃、3時間でカキ果に含ま

れているスクロースの10%前後が転化した。また、

フルクシドの生成量は、20℃、3時間ではスクロー

スに対して、MF 4.2~4.8%、20℃、24時間抽出

では、MF 10~15%、 EF 3~6%であった。アル

コール濃度の違いによるフルクシドの生成量は大差

がなかったが、メタノールでは40~50%、エタノー

ルでは20%のときが最もβ一フルクシドの生成量が

高かった。

第3節スクロースとインベルターゼを原料

とするメチルおよびエチルβ一D一

フルクトフラノシドの酵素的調製法

従来、メチルβ一D一フルクトフラノシド(MF)

の調製については、無水メタノール申酸触媒または

イオン交換樹脂を用いて化学的に合成した報告があ

る。しかし、これらの方法ではα、β型のフラノシ

ドとピラノシドの混合物を生成し、反応生成物から

MFのみを単離することは困難であった。また、酵

素を用いた合成法も報告されているが、アルコール

およびスクロースの濃度が低く、緩衝液を使用する

ため、精製操作が煩雑で、高純度のMFの調製法と

しては適当でなかった。本章ではスクロースを45%

メタノールまたは30%エタノールに溶解し、酵母イ

ンベルターゼを加え、20℃で3時間静置した後、煮

沸により酵素を不活性化し、イオン交換樹脂カラム

クロマトグラフィーを用いて、MF(収率21.2 %)

またはEF(収率6.9%)を得ることに成功した。

なお、EFの酵素による調製法はこれまで報告がな

い。さらに最良の生成条件を求めるため、スクロー

ス、アルコールおよびインベルターゼの濃度と反応

時間について検討した。

第5章 有機酸成分に関する研究

ペーパークロマトグラフィー、ガスクロマトグラ

フィーおよびマススペクトルグラフィーを用いて、

カキ生中中の有機酸の同定を行った。また、有機酸

の定量は、メタノール抽出物の水溶液をフェノール

フタレインを指示薬として0.1N一水酸化ナトリウ

ム水溶液で滴定し、ガスクロマトグラムの組成比と

比較して算出した。

(113)

昭和62年12月20日

その結果、カキ生果の有機酸総量は0.03・一〇.15

%であり、甘柿(O.06・一〇.09%)より渋柿(0.09~

O.13%)の方が若干多い。また、両者とも成熟につ

れやや増加の傾向にある。しかし他の果実に比して、

柿は極めて酸含量の少ない果実といえる。酸組成は

リンゴ酸が主体で、他にTLCおよびGCでマレイ

ン酸に近似した物質が検出されたが構造は不明であ

る。また、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、フマー

ル酸、マレイン酸、シュウ酸などは検出されなかっ

た。なお、7・8月の未熟果には、僅かにアジピン

酸、酒石酸が検出された。以上のことよりカキ生果

の有機酸組成はナシ、リンゴなどに似ていることが

明らかとなった。

第6章 カキの生果、葉に含まれるビタミンC

カキの果実および葉のビタミンC含量については

既に報告がある。しかし、品種・産地によってかな

り含有量に差があるといわれている。本章では、市

田柿の果実と葉に含まれるビタミンCについて調べ

た。ビタミンCは糖成分に比較して極めて含量が少

ないため、とくに糖濃度の高い10~11月は、GC分

析法ではかなり誤差が大きくなり定量が難しい。一

方、カキ葉は肉厚で硬いために生葉を直接磨砕・抽

出してもビタミンCの抽出が不充分になり易い。そ

こで、磨二戸に短時間加熱処理を行い、柔軟にして

から磨砕・抽出すると好結果が得られる。本研究で

は短時間加熱した葉を用いて、2,6一ジクロロイン

ドフェノールナトリウムによる還元型ビタミンCの

定量を行った。その結果、カキ生果(成熟果)の還

元型ビタミンCは、甘柿(富有柿、次郎柿)では50

~60㎎%、渋柿(市田柿、蜂屋柿)では20~25卿%

で、渋柿より甘柿の万が多く、甘・渋柿の各群内の

品種による差は小さかった。また、市田の干し胎中

には3~4御%のビタミンCが含まれ、イオウ熔蒸

や乾燥によりかなり減少することがわかった。

市田柿の生葉中のビタミンCは、6~7月の初夏

のものに多く(340・一490m?96)、8月以降は減少す

る(240~330ng%)傾向がみられた。しかし、何れ

にしても桜や桑の葉に比べると、5倍以上含まれて

いることが明らかとなった。

2.論文審査結果の要旨

長野県飯田地方の干し柿(市田柿)生産は、福島、

山梨両県に続いて、全国第3位に位置している。申

Page 12: Title 学報. 号外 昭和62年第4号 大阪府立大学 - CORE2 号外 第4号 いで、両成分を所定割合に混合した各原料油を熱処 理して得たコークスの特性と原料油の組成との関係

昭和62年12月20強

請者は、この地方における農協、農業試験場及び生

産者などの技術上の助言者として、現在まで約18年

の間、カキ果に関する化学的研究を続けてきた。本

論文は、その成果を集約したものである。

カキ果の呈味成分に関する研究は、これまで数多

くなされているが、生産者の現場の要望に沿ったも

のは少なく、また誤った結果も報告されているe

本研究は、カキ果に含まれるタンニン・糖・有機

酸成分の同定と定量、カキインベルターゼの活性及

びビタミンCの定量:について研究を行うとともに、

カキ果の品種・成熟と貯蔵の過程、脱渋及び干し柿

などの加工処理によって、それらの諸成分がどのよ

うに変化するかについて検討を加えたものであり、

その結果、次のような新しい知見を得ている。

1.カキタンニンは、およそカテコールタンニン1

~3、ピロガロールタンニン6~8、フラボノー

ルタンニン(ロイコアントシアン)1以下の割合

で含まれており、薄層クロマトグラフィーでは8

種類以上の成分に分離できる。これらのうち、今

までに全く検討されなかったRf値の最も高い成

分の同定を行い、メチルガレートに近い構造を有

する化合物と決定した。

2.メチルガレートを用いて脱渋に関するモデルテ

ストを行い、メチルガレートの濃度・溶媒・光の

照射量の違いにより、それぞれ異なった脱渋反応

が起きること、また脱渋により塩化第二鉄反応を

呈しない不溶性の重合物を生成することを明らか

にした。

3.カキ果実の断面を濾紙に押し付けて、その濾紙

を風乾後、塩化第二鉄溶液を噴霧、呈色させると

いう簡便な脱渋の化学的判別法を確立し、この方

法が加工・栽培上極めて有効であることを実証し

た。

4.カキ果の糖成分の同定と定量を行い、またイン

ベルターゼの活性の消長について検討し、カキ果

の成熟・脱渋・貯蔵に伴う糖組成の変化は、イン

ベルターゼの転化および転移作用によることを明

らかにした。

5.ガスクロマトグラフィーを用いて、カキ果試料

中に添加したスクロースの変化を追跡することに

より、カキ果実中のインベルターゼ活性の敏速・

簡便な測定法を考案した。

6.エチレン添加により脱渋したカキ果、または冷

号外 第4号11

凍貯蔵中のカキ果中に、はじめてメチルβ一D一

フルクトフラノシドの存在を検出した。

7.この結果を発展させ、スクロース、インベルタ

ー四諦ひアルコール類を原料とするメチルおよび

エチルβ一D一フルクトフラノシドの酵素作用に

よる合成法を確立した。

8.糖の加水分解やα、β型の変換を伴わない分析

法を考案し、この分析法を用いてカキ生果の糖分

はスクロースが主体であること、また干し柿表面

の白粉はα一D一グルコースであることなど、こ

れまでの通説を改める結果を得た。

9。他の果実の糖●有機酸・インベルターゼ活性と

の比較を行い、カキ果の食品としての特徴を明ら

かにした。

本論文は、食用作物として広く栽培されているカキ

果を対象として、その呈味成分の組成を明らかにし、

成熟・貯蔵及び加掌中の成分の変化に新しい知見を加

えたものであり、将来、それぞれの地方で、カキ果の

栽培・加工における品質の向上と合理化をはかろうと

する時、重要な基礎資料となるのみならず、食品化学

などの分野に貢献するところ多く、学問的価値を高く

評価し得るものである。

以上により、農学博士の学位を授与することを適当

と認める。

審査委員

主査 教授 上 田 博 夫

副査 教授 北 岡 正三郎

副査教授外村健三

大阪府立大学告示第36号

大阪府立大学学位規程(昭和50年大阪府立大学規則

第2号。以下「学位規程」という。)第15条第1項の規

定に基づき、昭和62年11月30日博士の学位を授与した

ので、学位規程第16条第1項の規定により、論文内容

の要旨及ひ論文審査の結果の要旨を次のとおり公表す

る。

昭和62年12月20日

大阪府立大学長 矢 吹 萬 壽

(114)

Page 13: Title 学報. 号外 昭和62年第4号 大阪府立大学 - CORE2 号外 第4号 いで、両成分を所定割合に混合した各原料油を熱処 理して得たコークスの特性と原料油の組成との関係

12号外 第4号

St・ だ つね お称号及び氏名 農学博士 深 田 恒 夫

(学位規程第3条第2項該当者)

(大阪府 昭和23年2月21日生)

論 文 名

Studies of Factors lnftuencing tnfection

of Saimonella in Gnotobiot ic Chiclcen

(ノトバイ画一ト鶏におけるサルモネラ感染に及ぽ

す要因に関する研究)

1 論文内容の要旨

序 論

サルモネラはヒトにとって最も危険な病原菌の1

っであり、その保菌者は各種動物に広く分布してい

る。一方、各種動物にもサルモネラ感染症がみられ、

特に鶏のサルモネラ症発生頻度は他の家畜より高い

と言われている。また発症し死亡するのは、ふ化後

2週間以内の雛に多く、耐過した鶏の多くは潜在的

な保菌動物としてサルモネラを排菌し、環境を汚染

する。更に、高度に汚染した鶏肉は直接ヒトの食中

毒源ともなる。従って鶏のサルモネラ感染は公衆衛

生の観点からも重要な疾病である。

鶏の消化管のなかでも盲腸はサルモネラの好適な

保菌部位であり、盲腸コクシジウムの感染は盲腸内

のサルモネラ数を増加させることが実験的に証明さ

れている。特に盲腸コクシジウムの感染した盲腸内

の通常細菌叢は大きく変化することが報告されてお

り、サルモネラはこの変化に乗じて増殖すると考え

られている。これらの所見は普通環境下で飼育され

た鶏で観察されているが、この変化のメカニズムを

解析するには、普通鶏の腸管を用いた場合、その腸

内細菌叢が複雑なために限度がある。

本研究では鶏のサルモネラ感染に影響を与える要

因を解明する一助として、まず腸内細菌の研究に重

要な役割を果たす無菌鶏を作出した。無菌鶏に既知

の腸内細菌あるいはコクシジウムを投与してノトバ

イオート鶏とし、サルモネラを投与して本甲の動態

を調べ、サルモネラ感染に及ぼす要因の解明を試み

た。

第1章腸内細菌モノフローラ鶏における

Salmonetla tyPhfmuriumの動態

モノフローラ鶏にサルモネラを投与した場合、サ

ルモネラの菌数が先住の定着菌によって増加あるい

(115)

昭和62年12月20日

は抑制されるか否かを検討した。

モノフローラ作成に用いた鶏の腸内細菌は、普通

鶏の腸内優勢菌であるBacteroides onlgatus、

Bifidobacterium thermephilum . Laetobacillus

acidoPhil”s s腸炎など腸内が劣悪な条件の時に増加

するClostridiumρerfringens、およびふ化直後の

主な腸内細菌であるEscherichia coliの5菌種で

ある。投与したサルモネラは動物からの分離頻度の

高いSalmonella choleraesuis subsp. cholerae-

suis serovar typh血urium(以下Salmonetla

tyρhimuriumとする)である。

2日脚の無菌鶏に各々の腸内細菌約108colony

formi㎎units(CFU)を経口投与し、モノフロー

ラ鶏とした。腸内細菌の投与3日後、S.tyPhimu一一

rium約104 CFUを経口投与し、経時的に剖検して

盲腸内容および盲腸壁のS.tyρhimurium数および

腸内細菌数を測定した。対照として無菌鶏に各菌種

もしくはS.tyPhim餌riumを経口投与した。

偏性嫌気性菌である8σ.傷’即’π5,Bi.therma-

Philum,およびC.Perfringensのモノフローラ鶏では、

盲腸内容のS.tyPhimurium数は各剖検日に約108

CFUを示し、 S.tyPhimurium単独投与群との間に

差は見られなかったが、 C.Perfringensモノフロ

ーラ鶏ではやや増加の傾向を示した。盲腸壁のS.

tyPhimurium 数はばらつきがみられたが、各々の

群の間には差が見られなかった。偏性嫌気性菌3菌

種の各単数は S.tyPhimurium 投与後数日間、各

々のモノフローラ鶏より低かった。

通性嫌気性菌である乙.acidoPhilusのモノフv一

ラ鶏では、s.tyPhimurium投与翌日、盲腸内容の

S.tyPhimurium数は約106 CFU/9であったが、

以後の検査では約108CFU/gに上昇した。 L.

acidoPhil#s数は5.tyPhim”rium投与2日以降は

減少した。

E.coli(O-150)のモノフローラ鶏では、 S.tγ

Phimuriumモノフローラ鶏に比べて、盲腸内容お

よび盲腸壁のS.tyρhimurium数は減少した。 E.

coli XはS.tyPhimurium投与によって有意な変化

を受けなかった。また、他の血清型のE.coli 4株

についてもS.tyPhimu「iumを抑制するか否かを検

討した。その結果、菌株間には差があったが4株の

E.coliにおいてもs.tyPhimuriumを抑制する傾

向が見られた。

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昭和62年12月20日

以上の結果から、S.tyPhimPtriumはE.coliの

モノフローラ鶏では抑制され、L.acidoPhil”sでは

一時間に抑制されるが、他の嫌気性菌では抑制され

ないことが判明した。このことから普通鶏において

ふ化直後に、E.coliが定着することはs.tyPhi-

murium感染を抑制する見地から合目的であると思

われた。

第2章 Eimeria tenellaノトバイ四一ト鶏に

おけるSalmonella tyPhimuriumの動

態および盲腸粘膜の観察

普通鶏においてE.tenella感染はS.tyPhima一

幽門感染を増強きせることから、無菌鶏にE.

tenellaを投与しS.tyPhimurium感染に及ぼす影

響を調べた。同時にS.tyPhimurium投与によって

E.tenella 感染による盲腸の傷害が増強されるか

否かを、走査電子顕微鏡(SEM)で冒腸粘膜表面を

観察することによって検討した。

オーシスト5x104個/羽を投与したE.teneUa

ノトバイオート鶏に、S.tンPhimurium 104CFUを

投与し経時的に盲腸内容のS.tyPhimurium数を測

定した。その結果、S.tyPhimurium数は各剖検日

においてS.tyPhimurium四脚投与群よりE.tene-

lla投与群において高い脚数が得られ、 S。tyPhim-

uri”m投与後6あるいは8日に有意に高くなった。

E.tenellaの盲腸内生活環とS.tyPhimurium ma

染の関係をみるために、オーシスト5x104個/羽

を投与したE.tenellaノトバイオート鶏にE.ten-

ella投与後2、4、6あるいは8日にS.tyPhi-

murium 104 CFUを投与し、 S.tyPhimurium投与

の翌日剖検して盲腸内容。盲腸壁のS.tyPhimurium

数、また肝臓、脾臓および胆汁中のS.tyPhimurium

の有無を調べた。対照群として無菌鶏にS.tyPhi-

muriumのみを経口投与した。 S.tyPhimπriumとE.

tenella混合投与群においてE.tenella投与後5、

7および9日に剖検した盲腸内容のS.tyPhimuri一

丁罪数はS.tyPhimurium単独投与群に比べて有意

に高かった。また盲腸壁のS.tyPhim”rium数はE.

tenella投与後5および7日牛おいて混合投与群が

有意に高かった。肝臓、脾臓および胆汁中のS.ty-

Phimurium陽性率は両群について差が見られなかっ

た。

無処置群、E.tenella単独投与群および上述の2

群すなわちS.tンPhimurium単独群およびS.tyr

号外 第4号13

himuriumとE.teneUa混合投与群のそれぞれに対

してE.tenella投与後2、4、6および8日にS.

tyPhimuri”mを投与し、 S.tyPhimuri“m投与の翌

日に剖検してSEMで盲腸粘膜を観察した。

無処置群およびS.tyPhimurium蛍独投与群は、

粘膜の損傷は各剖検日において見られなかった。E.

tenella単独投与群ではE.tenella投与後5、7お

よび9日には盲腸上皮の剥離は限局していアこが、混

合投与群では同時期に損傷部は全域に認められた。

以上の結果から、 E.tenella ノトバイオート鶏

において、E.teneUa感染はS.tyPhimurium感染

を増強し、盲腸壁内へのS.tyPhimuriumの侵入を

増加させた。またS.tyPhimurium投与はE.tene-

lla感染の傷害をも増強することが判明し、両者の

感染によって鶏はそれぞれの単独感染よりも重篤な

傷害を受けることが明らかとなった。

第3章 混合投与ノトバイオート鶏における

Salmonella tyPhim”riumの動態

本章では、前2章で盲腸内のS.tyPhimuriu〃1数

に影響を与えたC.ρerfringens,E.coliおよひE.

tenetlaを用いて作出した混合投与鶏、また、サル

モネラ感染を著明に抑制する成鶏のモデルとして無

菌鶏を通常化したノトバイオート鶏についてS.ty-

Phimuriumの動態を調べた。

S.tyPhimPtriumの増強の傾向を示したC.Per-

fringensのモノフローラ鶏にE.tenellaを投与し

翌日104CFUのS.tyPhimurittmを投与してS.

tyPhimuriumの動態を経時的に調べた。対照として

C.Perfringensモノフローラ鶏にS.tyPhtmurium

のみを経口投与した。E.tenella 投与後5日から

。.PerfrtngensとE。tenella 混合感染群における

S.tyPhimurium数は対照群と比較して有意に高か

った。また、 S.tyPhimuriumを抑制したE.coli

と増強したE.tenellaの混合投与ノトバイオート鶏

におけるS.tyPhimuriumの動態を調べた。 E.coli

モノフローラ鶏にE.tenellaのオーシスト5x104

個/羽を投与し、その翌日にS.tyPhimurium lO4

CFUを投与して経時的にS.tyPhimurium数を測

定した。対照として、E.coliモノフローラ鶏に5.

tyPhimuriumのみを経口投与した。その結果、 E.

tenelia非投与群に比べてE.teneila投与群のS.

tyPhimurium数は高い傾向が見られた。従って、

このS.tPtPhimuriumの増加傾向はC.Perfringens

(116)

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14号外 第4号

と E.tenelta 混合投与群と比べてあまり差が

なかった。故に、S.tyρhimuri”m数に与える影響

は腸内細菌よりもE.tenella 感染の方が大きいと

考えられた。

無菌鶏に普通鶏の盲腸細菌叢の希釈液を経口投与

し定着させて作出した通常化鶏にS.tyPhim”rium

104CFUを投与し、経時的に盲腸内容および盲腸

壁のS . tyPhim”riecm tw e測定した。 S.tyPhimπr・一

iκm投与翌日に1羽の盲腸内容から103CFU/g

のS.tPtPhimuriumを検出したのみで、以後の検査

ではすべて検出限界以下(〈103コ組U/g)であった。

盲腸壁のS.tyPhimuri”m数もすべて検出限界以下

であった。

通常化した鶏ではS.tyPhimttrium感染は著明に

抑制された。従ってS.tyPhimuri”m感染の予防の

見地からは、初生雛に出来るだけ早く普通鶏の腸内

細菌叢を確立きせることが必要であると考えられた。

第4章 ノトバイオート鶏におけるSalmonella

tンPhimurium感染を抑制する要因

前章までにE.coliや通常化細菌叢はs.tyPhim一

π7伽〃2懲染を抑制し、 E.tenella は逆に助長する

という結果が得られた。普通鶏において、腸管内の

病原菌侵入防禦に関与する要因として腸内細菌叢、

pH、酸化還元電位(ORP)および揮発性脂肪酸

(VFA)等が報告されている。本章ではノトバイオ

ート鶏のs.tyPhimurium感染に及ぼす要因として

盲腸内容のpH, ORPおよびVFAの変化を調べた。

また先住菌の菌数あるいはpHとS.tyPhimurium

の増殖の関係をin vitroで調べた。

無菌鶏・Ba. onlgatus、Bi. thermoPhilum、

C.Perfringens、 L.acidoPhilus i E.coliおよび

S.tyPhimuriumの各モノフロ・一一ラ鶏の盲腸内容の

pH, ORPおよびVFAの変化を経時的に測定した。

その結果、pHは無菌鶏で最も高く(pH 7.01-

7.30)E.coliモノフローラ鶏では最も低かった

(pH6.27-6. 46)。 E.coliモノフローラ鶏での

低いpHはS.tyPhimuriumの戸数に影響する可能

性があると考えられた。ORPはE.coliおよびS.

tyPhimurium モノフローラ鶏においては一300

mV台で他のフローラおよび無菌鶏に比べて明らか

に高かった。VFAは無菌鶏およびいずれのモノフ

ローラ鶏でも30mM以下であり、この濃度では5.

tyPhimurium数には影響しないと思われた。

(117)

昭和62年12月20日

E.tenetla ノトバイオート鶏の盲腸内容のpH,

ORPおよびVFAを経時的に測定した。その結果、

E.tenella による盲腸壁の傷害が著しい時に無菌

鶏と比べてpH、 OR PおよびVFAは低かったが、

いずれもS.tンρhimuriumの菌数に影響を及ぼす程

の値ではなかった。

通常化した鶏の盲腸内容を経時的に測定した。そ

の結果、無菌鶏と比べてpHは低く、VFA値(平

均170mM)は著しく高かった。従って、通常化鶏

でのS.tyPhimttriumの抑制は盲腸内の低いpHと

高いVFA濃度によることが示唆された。

次ぎにin瞬70で腸内細菌(Ba. vulgatus、Bi,

thermoPhilum s L.acidophilus. C・Perfringens

およびE.coli)の存在下におけるs.tyPhimurium

の増殖曲線を調べた。各菌株の段階希釈液にS.ty-

Phimurium を接種して、経時的にS.tyρhimurium

数を測定した。その結果、用いた5菌種の各菌数の

濃度が高いほどS.tyPhim”riumの増殖が抑制され、

特にE.coliの培地にS.tyPhimuriumを接種した

場合にはS.tyPhimurium は著明に抑制された。

またin vitroでpHの違いによるS.tyPhimuriUm

の増殖曲線を調べた。その結果、pHが低い場合、

S.tyPhimuriumの増殖は抑制された。

以上のようにS.tyρhimuriumノトバイオート鶏

の盲腸内容のORPは高かったことから、 S.tyP-

himurium感染によって、先住の嫌気性菌が減少し

て、更にS.tyPhimuriumの増加することが推測さ

れた。しかし先住菌がE.coliの場合pHが低いた

め、ORPが上昇しても、 E.coliが抑制されない

ためS.tンPhimuriumの増殖が抑制されると考えら

れた。

結 論

Salmonella tyPhim”rium感染に影響を与える要

因をノトバイオート鶏を用いて検討し以下の結果が

得られた。

(1} E.coliモノフローラ鶏においてはS.tPtPhim”一

rium菌数は抑制され、 L.acidoPhitusモノフロ

ーラ鶏においてはS.tyPhimurium冊数は“時的

に抑制された。

C2} E.tenellaノトバイオート鶏では、 S.tyPhi-

mPtriecm菌数は増加し、盲腸壁へのS.tyPhimu-

rium侵入は一時的に増加した。またS.tyPhi-

murium投与によってE.tenelta感染による盲腸

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昭和62年12月20日

壁の傷害は増強された。

〔3) C.Perfringens モノフローラ鶏にE.tenella

感染させたノトバイオート鶏ではS.tyPhimuri-

um菌数は増加した。通常化した鶏ではS.tyP-

himuriumは著しく抑制された。

{4}S.tyPhimuriumを抑制する要因としては、盲

腸内容のVFAの増量すること、 pHが低いこと、

および先住菌の乱数がS.tyPhimurium投与によ

って減少しないことが挙げられる。

2.論文審査結果の要旨

サルモネラは各種動物に広く分布しており、特に

鶏のサルモネラ症の発生頻度は他の家畜よりも高い

と言われ、耐過した鶏の多くは潜在的な保菌動物と

して排菌する。高度に汚染した鶏肉はヒトの食申毒

源となり公衆衛生の点から重要視されている。鶏の

盲腸はサルモネラの好適な保菌部位であり、盲腸コ

クシジウムはサルモネラの感染を増強させることが

普通鶏を用いて証明されている。しかし普通鶏の腸

内細菌叢は複雑なため感染のメカニズムを解析する

には限度がある。

本研究では、鶏のサルモネラ感染に影響を与える

要因を解明する一助として無菌鶏を作出し、これに

既知の腸内細菌あるいは盲腸コクシジウム(Eime-

ria tenella)を投与してノトバイオート鶏とし、

ネズミチフス菌(Salmonella tyPhimurium)を投

与して本菌の動態を調べ、感染に及ぼす要因の解明

を行い次のような成績を得た。

第一一章では、普通鶏で重要とされる腸内maeg Ba-

eteroides vttlgatus . Bifidobacterium thermo-

philum i Lactobacillus acidoPhil”s . Clostrid-

ium Perfringens、またはEscherichia coliを用

いたモノフローラ鶏を作出し、ネズミチフス菌に及

ぼす影響を調べた。菌投与後、経時的に鶏を剖検し

て盲腸内の腸内細菌数およびネズミチフス菌数を測

定した。先住菌がE.coliである場合は、ネズミチ

フス菌の増殖は著しく抑制された。 L.acidoPhilus

の場合は、ネズミチフス菌は投与直後のみ抑制され、

C.Perfringensの場合は逆に増加した。併し他の腸

内細菌は影響を及ぼさなかった。他方E.coliを除

く5菌種はネズミチフス菌投与により著しく減少し

た。

第二章では、無菌鶏に盲腸コクシジウムを投与し、

号外 第4号15

ネズミチフス菌の感染に及ぼす影響を調べ、同時に

ネズミチフス菌により盲腸コクシジウム感染による

盲腸の傷害が増強されるか否かを調べた。盲腸コク

シジウムのノトバイオート鶏では、盲腸内容・壁、

肝、脾、および胆汁中においてネズミチフス菌の増

殖および感染が助長され、またネズミチフス菌およ

び盲腸コクシジウム感染によって鶏はそれぞれの単

独感染よりも重篤な傷害を受けることが明らかとな

った。

第三章では、盲腸内のネズミチフス菌数に影響を

与えたC . PerfringensあるいはE・coli、および盲

腸コクシジウムを用いて作出した混合投与のノトバ

イオート鶏において、更にサルモネラ感染を著明に

抑制する成鶏のモデルとして無菌鶏を盲腸内容で通

常化した鶏において、ネズミチフス菌の動態を調べ

た。C . PerfringensまたはE.coliのモノフローラ

鶏に盲腸コクシジウムを感染させ、ネズミチフス菌

を投与した場合、盲腸内のネズミチフス菌は著しく

増加した。この増加はC.PerfrtngensやE.coliよ

りも盲腸コクシジウムの影響が大きいことが判明し

た。無菌鶏を盲腸内容で通常化した鶏にネズミチフ

ス菌を投与した場合、盲腸内のネズミチフス菌は殆

ど検出限界以下で感染は著明に抑制されることが判

明した。

普通鶏の腸内における病原菌侵入防御の要因とし

て腸内細菌のほかpH、酸化還元電位(ORP)およ

び揮発性脂肪酸(VFA)がある。第四章ではノトバ

イオート鶏の盲腸内容のpH、 ORP、 VFA値を調

べた。pHはE.coliモノフローラ鶏で最も低く通

常化した鶏の値と差がなかった。ORPはE.coli

およびネズミチフス菌モノフローラにおいて高かっ

たが、VFA濃度はネズミチフス菌数に影響を及ぼ

す値ではなかった。通常化した鶏におけるネズミチ

フス菌の抑制は、無菌鶏やモノフローラ鶏に比べて

著しく低いpH、著しく高いVFA濃度によること

が明らかとなった。in vitroで腸内細菌5種の希

釈菌液にネズミチフス菌を接種したところ、各菌種

の濃度が高いほどネズミチフス菌の増殖は抑制され、

特にE.coliの場合は著しく抑制された。またpH

が低い場合も著明に抑制された。盲腸コクシジウム

ノトバイオート鶏盲腸内容のpH、 ORP、 VFA

は低かったが、いずれもネズミチフス菌数に影響を

及ぼす値ではなかった。盲腸コクシジウム感染下に

(118)

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16号外 第4号 昭和62年12月20日

おけるネズミチフス菌の増殖はコクシジウムのみが

引き起こすpH、 ORP、VFAの低下よりも組織

破壊によってもたらされる要因の方が大きく影響を

及ぼすことがわかった。

以上のようにネズミチフス菌を抑制する要因は、盲

腸内容のVFAが増量すること、 pHが低いこと、先

住菌の菌数がネズミチフス菌の投与によって減少しな

いことであり、盲腸コクシジウムが感染している場合

は組織破壊のもたらす要因が大きく関与していること

が判明した。これらの成績は、無菌鶏を用いてネズミ

チフス菌感染要因を明らかにしたものであり、他の腸

内感染機序の解明に大きく寄与するものである。よっ

て農学博士を授与することを適当とみとめる。

審査委員

主査 教授 荒 川 皓

副査教授尾藤行雄

副査教授堀内貞治

(1ユ9)