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Title zu不定詞をとる 「使役動詞」 の文の意味構造 : geben 型と bringen 型 Author(s) 洞沢, 伸 Citation [岐阜大学教養部研究報告] vol.[27] p.[145]-[166] Issue Date 1991 Rights Version 岐阜大学教養部ドイツ語研究室 (Faculty of General Education, Gifu University) URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/47695 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

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Title zu不定詞をとる 「使役動詞」 の文の意味構造 : geben 型とbringen 型

Author(s) 洞沢, 伸

Citation [岐阜大学教養部研究報告] vol.[27] p.[145]-[166]

Issue Date 1991

Rights

Version 岐阜大学教養部ドイツ語研究室 (Faculty of GeneralEducation, Gifu University)

URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/47695

※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

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145岐阜大学教養部研究報告第27号 (1991)

ZU不定詞を とる 「使役動詞」

の文の意味構造

洞 沢 伸

ドイツ語研究室

(1991年10月16日受理)

geben型 と bringen型

1。 問 題 提 起

ドイ ツ語には, zu不定詞の他に3格 (Dativ) または4格 (Akkusativ) の目的語を補足語

として と り, 他者の行為に作用 ・影響を及ぼすこ とを表わす一連の動詞がある。 この表現形

式において行為の作用 ・影響を受ける他者は, 定動詞の3格目的語または4格目的語として

言語化され, それはzu不定詞句の表わす行為の意味上の主語と一致する1)。 このよ うな表現

形式を構成する動詞には, た とえば befehlen と zwingenがある。

geben-Typ und bringen-Typ

Shin HORASAW’A

Die semantische Satzstruktur kausativer

Verben mit zu十lnfinitiV

(イ) A型, B型の一連の動詞はいくつかの基本的な意味構造型に還元すること

がで きるか。

( 口) A型, B型動詞において, 3格または4格として言語化される他者は意味

的にどのよ うな捉えられ方を しているか。

本稿では, これら一連の動詞のうち分析の対象を統語構造 “(es) jmdm, zu十lnfinitiv” を

とるもの (以下, A型動詞とする) および “jmdn. (dazu) , zu十lnfinitiv” (以下, B型動詞

とする) を とるものに限定し, 次の問題 ( イ) および ( 口) を考察する。

( 1) Er hat ihnenbefohlen, dasWerk zuverlassen.

( 2) Er hat ihn (dazu) gezwungen, dieWahrheitzusagen.

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問題提起 ( イ) は, 同一の統語的 ・意味的領域に属する一連の動詞の文の意味はいくつか

の基本的な意味構造型に還元され, 各動詞の具体的な文の意味はその有限個の基本的な意味

構造型に何か特殊な規定が付加されるこ とによ り構成されているのではないか, とい う想定

に基づ く ものである2)。 問題提起 ( 口) は, この表現形式における 3格と 4格には独立的な意

味的役割が認められうるか, 否か, という格の意味機能に関するものである。

なお, この表現形式を構成する一連の動詞の意味については, 従来個別的な記述や全体的

な大まかな考察はなされてはいるものの(たとえば, Brinkmann(21971:308-321) ) , このよう

な一連の動詞の文に共通する基本的な意味構造型の抽出という形での構造的な分析はまだ行

われていない。

2。 理論的な枠組み

池上 (1981) ( 1986) では, 「場所理論」3)的観点から 日本語と英語の動詞の対照分析を行

い, その意味構造を記述するための一般的な枠組みが示されている。 それによれば, 言語の

表現対象は変化または状態であり, 変化は 〈起点〉, <到達点〉, 〈運動体〉 からなる次のよう

な 「場所の移動」 の図式 ( 3) によって表わされ, 変化の種類として例文 ( 4) -( 6) のよう

な① 「場所の変化」√② 「所有権の変化」, ③ 「状態の変化」 の3つが認められるという。

洞 沢 伸146

〈起点〉 〈到達点〉

( 4) Johncametothestationに 「場所の変化」

( 5) Johnwonfirstprizeに 「所有権の変化」

( 6) Johncametolife. 「状態の変化」

例文 ( 4) は, 〈運動体〉 Johnが 〈到達点〉 stationへ移動するという 「場所の変化」 を表

わしている。 例文 ( 5) の表わす出来事においては, <運動体〉 firstprizeが 〈到達点〉 John

へ移動するわけであるが (つま り, FirstprizewenttoJohn) , <到達点〉 が人間である場合,

その人間は 〈運動体〉 を受け取る <受け手〉 と して解釈されるのが自然であり, それが 「主

題化」 された表現が ( 5) となる。 この場合, firstprizeは必ずしも物理的に移動するわけ

ではな く , その所有権が移動することを表わす。 よってこのよ うな出来事は「所有権の変化」

と呼ばれる。 例文 ( 6) における <到達点〉 は, life という抽象的な場所 (状態) であ り,

そこへ 〈運動体〉Johnが移動するとい う表現になっている。 例文 ( 6) のよ うな出来事は「状

態の変化」 と呼ばれる。 つまり例文 ( 4) にみられるような具体的な 「場所の変化」 におい

て, その <到達点〉 と しての場所が人間であ り, それが所有権の 〈受け手〉 と して捉えられ

る場合, 「所有権の変化」 とな り, <到達点〉 が具体的 ・物理的な場所ではな く , 状態という

抽象的な場所である場合, 「状態の変化」 となるわけである。 これは具体的な出来事の表現,

つま りこの場合は 「場所の移動」 の表現が, その動詞の結び付く名詞句の種類により 「所有

権の変化」 または 「状態の変化」 といった抽象的な出来事の表現へ拡大転用されているわけ

( 3) <運動体〉 →

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Y

[X GOTO Y]

X

Z

本稿における動詞の意味構造の分析は, このよ うな 「場所理論」 的枠組みに基づいて行な

う。

ZU不定詞を とる 「使役動詞」 の文の意味構造 147

である。 このよ うな解釈は, 語の意味の変化は具体的な意味から抽象的な意味へ変わる とい

う言語学的に一般に認められている事実や幼児の言語習得の過程が具体的なものから抽象的

なものへと移行するとい うこ と と整合する。 なお, 「場所の移動」 においては 〈起点〉 と く到

達点〉 は論理的に対等の関係にあるが, 例文 ( 4 ) -( 6 ) にみられるよ うに, 言語による表現

とい う こ とに関する限 り <起点〉 の表現は有標で, 一般に変化は 「到達点指向」 であ り, <到

達点〉 のみが表示されるという4)。 そして基本的な 「場所の移動」 は次の構造式 ( 7) によっ

て規定できるとしている。 また, 構造式 ( 7) は, 出来事 (変化) を表わす基本的な構造で

あると して, 「使役」 の基本的な構造はこれに変化を引き起こす主体を第三の項 ( Z) と して

導入した構造 ( 8) によって一般的に示されるとしている。

( 7)

( 8)

GO TO

CAUSE

3 。 分 析

動詞の意味と動詞の支配する名詞の格の間には緊密な意味的関係が存在すると考えられる

(Helbig (1969:44) ) 5)。 た とえば次のA型動詞の befehlen, B型動詞の zwingen の例が示

すよ うに, 行為の作用 ・影響を受ける他者は, A型動詞においては定動詞の3格目的語, B

型動詞においては定動詞の4格目的語と して形態的に極めて対照的に言語化される。 このこ

とから 3格目的語と 4格目的語は, それぞれ独立的な意味機能を担って各タイプの文の意味

を形成 しているこ とが推察される。

(n ) lnvolviertheit:

Agentivitat:

Akk. > Dat.

Dat. > Akk.

この両者の関係は, 〈動作主〉 に対して 4格は, いわば くもの〉 的にその支配化に置かれレ出

( 9)

(10)

Er hat 治?2召夕zbefohlen, dasVVerk zu verlassen.

Er hat ih (dazu) gezwungen, die W ahrheit zu sagen.

一般的に3格目的語は間接目的語, 4格目的語は直接 目的語 と呼ばれ, 動詞の表わす行為

は前者には間接的に, 後者には直接的に及ぶとされている(Heidolph/Flamig/Motsch(1981:

583) , Glinz(1973:163) , Wegener(1985:321) ) 6)。 また, Wegener(1985:321) では, さ らに 3

格には一般に / 十belebt/ の意味特徴が認められ, 動詞の表わす出来事への組み込まれ方

(lnvolviertheit) , およびその出来事の中における動作主性(Agentivitat) について, 4格と

の間には一般に次の関係 (n ) が成 り立つとされている。

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つまりA型動詞とは異な り, B型動詞が完了形にたつ場合, 「他者が zu不定詞句の行為を実

行する」 という出来事は, B型動詞の文の意味に含意されていると考えられる。 このことを

調べるために, 各動詞を完了形にして, その後に他者がzu不定詞句の行為を実行しなかった

ことを表わす aber文をつけて, その整合性に関するイソ フ ォーマソ トテス ト7)を行なった。

その時に用いた例文とは, 次のよ うなものである。

(13) Er hat ihnenbefohlen, dasWerk zuverlassen. Aber siehaben dasWerk

nicht verlassen.

(14) Er hat ihn (dazu) gezwungen, dieWahrheit zu sagen. Aber er hat die

W ahrheit nicht gesagt.

148 洞 沢 伸

来事に直接巻き込まれる対象であるのに対し, 3格は <動作主〉 に対して <人間〉 と しての

自主性を保ち, 出来事に間接的に関与することを意味すると捉え直すこ とができる。 このこ

とに基づけば, A型動詞とB型動詞においてそめ動詞の作用 ・影響を受ける他者には, ZU不

定詞句の表わす行為の実行性に関して相違がみられるはずである。 すなわち一連の動詞の意

味内容からして, その動詞の表わす行為が完了したときに, 他者による ZU不定詞句の表わす

行為の実行性について次のこ とが予測できる。

(12) 他者が3格目的語として表現されるA型動詞においては, 他者はZU不定

詞句の表わす行為を実行しておらず, 他者が4格目的語と して表現され

るB型動詞においては, 他者は ZU不定詞句の表わす行為を実行してい

る。

このよ うな aber文が論理的に不整合である場合, 他者は zu不定詞句の行為を実行している

こ と になる。

(15) Sietrugmir auf, ihnzubesuchen.

(16) Er hat ihnenbefohlen, dasWerk zuverlassen.

(17) Der Vater erlaubteseiner Tochter, alleinzureisen.

(18) Er empfahl mir, meinenUrlaubim SUdenzuverbringen.

これらA型動詞においては, 原則として aber文は容認される8)。 これは定動詞の3格目的

語として表現される他者 (以下, 〈 3格の人〉 とする) は, zu不定詞句の行為を実行していな

いことを意味する。 したがって 「〈 3格の人〉 が zu不定詞句の行為を実行する」 という出来

事は, 文の意味に含意されておらず, よって予測 (12) と矛盾しない。

3 。1 . A型動詞の文の意味構造

A型動詞の事例と して, た とえば次のものがある。

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(15) ’ Siegabmir ,勿1ルがMzg, ihnzubesuchen.

(16) ’ Er /㎡ ihnenden BφM gegeba , dasWerk zuverlassen.

(17) ’ Der Vater即ゐseiner TochteTdieEy咄4b㎡s, alleinzureisen.

(18) ’ ET即b mtr dieEm治 h旨昭 , meinenUrlaub im SUdenzuverbringen.

また, 文 (15) -(18) は, 次のように 〈 3格の人〉 を主語化しだ 抽象名詞十bekommen”

の表現形式ヘパラフ レーズするこ と もで きる。

lch bek m (von ihr) j a y1所y昭 , ihnzubesuchen・

Sie訟ゐa (von ihm) de肴BφM bekommm , dasWerk zuverlassen.

Seine TochteTbek m (vom Vater) die Eylα14b戒s, aχlein zu reisen.

lch & 幼肖 (vonihm) (励 E叫)加随mg, meinenUrlaubim SUdenzuverbrin-

gen.

ZU不定詞を とる 「使役動詞」 の文の意味構造 149

A型動詞の事例は, “抽象名詞十geben” の表現形式ヘパラフレーズすることができる。 た

とえば, 文 ( 15) -( 18) は次のよ うにパラフレーズできる。

X(23)

〈起点〉 〈到達点〉

すなわち 「〈運動体 : X〉 (た とえばbefehlenの場合はBefehl <命令〉) が 〈動作主〉 (起点)

から 〈3格の人〉 (到達点) へ移動する」 という出来事であり, この出来事が <動作主〉 によっ

て引き起こ されているわけである。 そして zu不定詞句の行為はその抽象的な 〈運動体〉 の内

容を規定しているこ とになる。 また, 〈 3格の人〉は, 意味構造の中で抽象的な場所の移動の

〈到達点〉 (受け手) として捉えられている。 これは動詞schenkenの次の文 (24) と同一の

意味構造を もつと考えられる。

(19)

(20)

(21)

(22)

このgeben/bekommenによるパラフレーズを 「場所理論」 的に考察した場合, これら (15)

-(18) の文すべてに共通する基本的な意味構造は, 次のように図示することができる。

(例 : BefehD

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Halskette

洞 沢 伸

(24) Er schenktseiner FreundineineHalskette.

150

〈起点〉 〈到達点〉

この動詞schenken r̃ を贈る」 の文 (24) では, 「所有権の変化」 が表現されている。 すな

わち 「Halskette〈ネック レス〉 の所有権が 〈起点〉 erから 〈到達点〉 seineFreundinへ移

動する」 という出来事が引き起こされている。 A型動詞の文すべてに共通する基本的な意味

構造は, schenkenのような 「所有権の変化」 を引き起こすという意味構造に準じた 「結果中

心性」9)のものと考えるこ とができる。ただし schenkenの場合と大き 〈 異なるのは, 〈運動体〉

がHalsketteといった具体的なものではな く , た とえば, befehlenの場合は, Befehl といっ

た抽象的なものである点である。 そして各動詞は, <運動体〉 の種類の相違, つま りその <運

動体〉 が Auftrag 〈指示〉 な のか (→ (15) auftragen) , Befehl <命令〉 な のか (→( 16)

befehlen) , Erlaubnis<許可〉 なのか (→(17) erlauben) , またはEmpfehlung <勧め〉 なの

か (→(18) empfehlen) ‥‥‥といった相違に基づ くバ リエーシ ョ ンであると考えるこ とが

できる。 よって, この意味構造における行為の完了は, 〈運動体〉 (た とえば, Befehl) の<到

達点〉 ( 3格の人) への抽象的な場所の移動の完了を意味し, 〈 3格の人〉 はzu不定詞句の行

為と直接的に関係づけられるわけではない。 したがって, これらA型動詞においては, aber

文は容認されると考えられる。

以上の考察から, A型動詞の文には次の (25) のよ うな共通の基本的な文の意味構造を想

定するこ とができる。 なお, この意味構造では, 他者が移動の<到達点〉 (受け手) と して捉

えられているとい う点において特徴的であ り, その在 り方は gebenとい う基本的な動詞に

よって統括的に表現することができると思われる。 よってA型動詞の文に共通なこのよ うな

基本的な文の意味構造を geben型と呼ぶことにする。 二

B型動詞は, aber文の整合性に関して次の3つのグループに分かれた。

3 。2 . B型動詞の文の意味構造

(25) geben型

「zu不定詞句によってその内容が規定される抽象的な 〈運動体〉 (た とえ

ば, befehlenの場合はBefehl <命令〉) が, 他者 (<到達点〉) に移動す

る」 という出来事を引き起 こす。

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3 。2 . 1 . aber文が容認されないタ イプ

このタイプに属する事例には, た とえば次のものがある

Er hat mich (dazu) angestiftet, das Lager in Brand zu stecken.

Er n6tigte ihn (dazu) , die Papiere zu unterschreiben.

Siehat ihn (dazu) Uberredet, mit ihr insTheater zu gehen.

Er hat ihn (dazu) gezwungen, die W ahrhQit zu sagen.

aber文が容認されないタイプ

aber文が容認されるタイプ

aber文の整合性に関して揺れがみられるタイプ

151ZU不定詞を とる 「使役動詞」 の文の意味構造

(イ)

( 口)

(八)

(26)

(27)

(28)

(29)

(30)

〈到達点〉

すなわち 「〈運動体 : X〉 (〈 4格の人〉) がZU不定詞句の表わす行為 (〈到達点〉) へ移動する」

とい う出来事で, この出来事が <動作主〉 によって引き起こされているわけである。 この場

X 〈 4 格の人〉

これらの事例においては, aber文は容認されない。 よって 「< 4格の人〉 が zu不定詞句の

行為を実行する」 とい う出来事は文の意味に含意されてお り, これは予測 (12) と矛盾しな

い 。

これら aber文が容認されないタイプの事例は, いずれも “bringen” とその移動を引き起

こす手段を表わず durch前置詞句” による抽象的な移動表現にパラフ レーズするこ とがで

きる。 文 (26) -(29) は, た とえば次のよ うにパラフレーズできる。

(26) ’ Er k tmichdy d Anst浪皿g血zu涙bMd禄, dasLagerinBrandzustecken.

(27) ’ Er ろyxz油た ihnd皿Chl¥硲t汝tt筒g dazu, diePapierezuunterschreiben・

(28) ’ Sie加nhndr d Ubemj n g dazugebmcht, mit ihr insTheater zugehen.

(29) ’ Er 尨八hnd14ychZ加a再 dazugebmcht, dieWahrheitzusagen.

この “bringen” によるパラフレーズを 「場所理論」 的に考察した場合, (26) -(29) の文すべ

てに共通する基本的な意味構造は次のよ うに図示するこ とができる。

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152 洞 ・ 沢 伸

合, 移動の <到達点〉 を [十行為] とすれば, <起点〉 は [一行為] となり, 移動の 〈起点〉

は論理的には存在するわけであるが, 言語的には表示されない。 <起点〉の表現は有標である

とされる (池上 (1981:121-170) ) 。 また, < 4格の人〉 は, 意味構造において抽象的な移動の

〈運動体〉 と して捉えられているこ とが分かる。 これは具体的な場所の移動を表わす動詞

bringenの次の文 (31) と同一の意味構造をもつと考えられる。 二

(31) Er bringtseinenFreundmitdem Autozum Bahnhof.

sein Freund

<到達点〉

この動詞bringenの文 (31) では, 「場所の変化」 が表現されている。 すなわち 「<運動体〉

sein Freund が <到達 点 〉 Bahnhof <駅 〉 へ移動 す る 」 と い う 出来事 が <動 作主 〉 に よ っ て

mit dem A uto と い う手段 に よ り引 き起 こ さ れ る こ と を 表 わ し て い る 。 こ の タ イ プ の ( 26)

-(29) の文すべてに共通する基本的な意味構造は, 文 (31) における bringenのよ うな 「場

所の変化」 を引き起こすという意味構造に準じた丁結果中心性」 のものと考えることができ

る。 ただし, この場合 〈到達点〉 が Bahnhof 〈駅〉 といった具体的 ・物理的な場所ではな

〈 , 〈zu不定詞句が表わす行為〉という抽象的な場所であるため, 移動が抽象的なものとなっ

ている。 このタイプの意味構造における行為の完了は, 〈 4格の人〉 が zu不定詞句の行為へ

の移動の完了を意味する。 つまり < 4格の人〉 はzu不定詞句の行為へと運ばれ, それと直接

的に関係づけられるのである。 したがって, このタ イプの動詞においては, aber文は容認さ

れないと考えられる。 また, 〈 4格の人〉 は意味構造の中で 〈動作主〉 の完全なる支配下に置

かれ, <到達点〉 である行為にいわば くもの〉 的に運ばれていく対象と して捉えられている。

これはA型動詞において, た とえばBefehl 〈命令〉 の 〈受け手〉 として 〈人間〉 的に捉えら

れている < 3格の人〉 とは非常に対照的である。 そして各動詞は, (26) ’-(29) ’のパラフ レー

ズから明らかなよ うに, durch前置句によって表わされる移動を引き起こす手段の相違に基

づ く もの√すなわぢ durch Anstiftung bringen” 〈扇動〉 による移動 (→(26) anstiften)

なのか, “durch N6tigung bringen” 〈強要〉 に よ る移動 ( ラ ( 27) n6tigen) な のか, “durch

Uberredungbringen” 〈説得〉による移動(→(28) Uberreden) なのか, またぱ durchZwang

bringen” 〈強制〉による移動 (→(29) zwingen) なのか‥‥‥といった相違に基づ くバリエー

シ ョ ンである と考えられる。

以上の考察から, B型動詞のうち aber文が容認されないタイプには, 次のよ うな共通の基

本的な文の意味構造を想定することができる。 この意味構造を zwingen 型 と呼ぶこ とにす

る。

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3 。2 . 2 . aber文が容認されるタイプ

このタイプに属する事例として, た とえば auffordernがある。

(33) Er hat mich (dazu) aufgefordert, sofort abzureisen. Aber ich bin nicht

abgereist.

ZU不定詞を とる 「使役動詞」 の文の意味構造 153

(32) zwingen型

「他者 (<運動体〉) が zu不定詞句の表わす行為 (〈到達点〉) に移動する」

とい う出来事をある手段 (た とえば, zwingenの場合はdurchZwangく強

制〉 によっ七) 引き起こす。

3 。2 . 2 . 1 . ‘vergeblich’との共起が可能なタ イプ

このタイプに属する事例と して, た とえば次のものがある。

(34) Er hielt seineKinder (dazu) an, sich anstandig zubenehmen.

このよ うに一部の動詞においては, aber文は容認される。 よって 「< 4格の人〉 が zu不定

詞句の行為を実行する」 とい う出来事は, このタイプの文の意味には含意されておらず, こ

のこ とは予測 (12) と矛盾する。 したがって, このタ イプの一連の動詞の文の意味構造は,

3. 2 . 1.の zwingen型とは異なるものであると考えられる。

森 (1981) では, 副詞 ‘vergeblich’を研究手段として動詞の表わす行為の意図性に関する

分析が行なわれている。それによれば, 「ある特定の結果がその行為が行なわれるこ とによっ

て生じるとい うこ とを意図として (その意味範囲に) 内在させている動詞ぱ vergeblich’と

同一文中で容易に共起し, しかもどのよ うな意図が実現しなかったのかがたやす く推察され

る」 とい うこ とである ( ( ) は引用者による補足) 。 このこ とに基づき, aber文が容認される

一連の動詞の意図性に関する問題を調べるために, ‘vergeblich’との共起可能性に関するイ

ソフ ォーマソ トテス トを行った。 このタ イプにおいてはaber文は容認されにそれは< 4格の

人〉が zu不定詞句の行為を実行しなかったことを意味する。 それは同時に当該の動詞の表わ

す行為の 「意図する結果」 が達成されなかったこ とを意味すると考えられる。 この想定が正

しければ, このタイプに属するいずれの動詞も ‘vergeblich’と容易に共起し, しかも 「どの

ような意図が実現しなかったのか」 が一義的に決定できるはずである。 しかし, このテス ト

の結果, このタイプに属する一連の動詞ぱ vergeblich’との共起可能性に関して次の3つの

タイ プに分かれた。

( イ)

( 口)

(八)

共起可能なタイプ

共起不可能なタイプ

共起可能性に関して揺れがみられるタイプ

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(35)

(36)

(37)

このタイ プにおいてはaber文は容認され, かつ vergeblich’との共起が可能であ り, 実現

しなかった意図を一義的に決定することができる。 それは 「< 4格の人〉 に zu不定詞句の行

為を実行させるこ と」 である。 よって, このタイプに属する動詞は 「< 4格の人〉 が zu不定

詞句の行為を実行する」 という出来事の生起を行為の意図としてその意味範囲に含む動詞で

あるこ とが分かる。

このタイ プの事例はいずれも “versuchen” ど bringen” を用いて 「他者のzu不定詞句の

行為への移動を引き起こすことを意図とする行為を行な う」 という意味内容の表現にパラフ

レー。ズする こ とがで きる。 た とえば, 文 (34) -(37) は次のよ うにパラ フ レーズで きる。 な

お, このパラフレーズにおける “versuchen” はメ タ言語としての記述であ り, “versuchen,

jmdn. durchetwasdazuzubringen” は, 各動詞の表わす行為を実際に行な う こ とを意味す

るものとす る。

洞 沢 , 伸

Er trieb sie (dazu) an, mehr zu trainieren.

Er hat mich (dazu) aufgeforfert, sofort abzureisen.

Er hat ihn (dazu) gedrangt, seine Schulden zu bezahlen.

154

(38) anhalten ≦ auffordem < drangen < antreiben

以上の考察から, B型動詞のうち aber文が容認され, かっ vergeblich’と共起する動詞の

文には次のよ うな共通の基本的な意味構造を想定することができる。 この意味構造をauffor・

(34) ’ ETwysMchte, seineKindeTdwd A肴k lte11dazua ろ,佃涙,x, sichanstlindig

zubenehmen.

(35) ’ Er 叱,・swyzた, siedwchA戒犯ibm dazuzR b伽1ge筧, mehr zutrainieren.

(36) ’ ET k t 叱ySuC附, miqh dy ck A頑oydey皿g dazu m by泌g四 , sofort

abzureisen.

(37) ’ ET k t ueyswht, ihn dwd D檀肴ge筒 dazu zt4 byhlge筧, seine Schulden

zubezahlen.

‘vergeblich’との共起が可能であるこ と, およびこのパラフレーズから, このタ イプの動詞

は「行為中心性」10)の意味構造であることが分かる。 また, 動詞の表わす行為の意図の中にお

いては, 〈 4格の人〉 はzwingen型と同様に zu不定詞句の行為へ移動する 〈運動体〉 と して

捉えられている。 この意味構造は, 「< 4格の人〉 がzu不定詞句の行為へ移動する」 とい う出

来事を引き起こすことを結果としてではな く , 意図としてその意味範囲に含むものであると

言える。 この意味構造における行為の完了はその結果の生起を意図する行為に掛かり, < 4格

の人〉 はzu不定詞句の行為とは直接的に関係づけられるわけではない。 したがって, この夕

イプにおいてはaber文は容認されると考えられる。 イソフォーマソ トによれば, これらの動

詞は < 4格の人〉 に対する行為の強度の差異に基づ くバリエーシ ョ ンであ り, 行為の強度に

関して次の関係が成 り立つとい う。

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(39) auffordern型

「他者 (<運動体〉) が zu不定詞句の表わす行為 (<到達点〉) へ移動する」

とい う出来事を引き起こすこ とを意図とする行為を行な う。

3 。2 . 2 . 2 . ‘vergeblich’との共起が不可能なタ イプ

dem 型と呼ぶこ とにする。

ZU不定詞を とる 「使役動詞」 の文の意味構造 155

このタイプに属する事例には, た とえば次のものがある。

(40) ’ Er 加Xsie 伍 die L昭e gebmdt, dazu α絹eysdm z14 se泌, die Firma zu

vertreten.

(41) ’ ETk t ih11 緬 die L昭e gebmcht, dazu be花ch面t zt4 se緬, den Vertrag zu

unterschreiben.

(42) ’ DieRegierung ろg油& ihn緬 dieL昭e, dazuen功chtigtm se泌, dieVerhand-

lungen zu ftihren.

(43) ’ Er加j seineKindeT泌 dieL昭egebmckt, dazu u叫)痢chM m se緬, seinWerk

fortzufUhren.

この “bringen” によるパラフレーズを 「場所理論」 的に考察した場合, (40) -(43) の文すべ

てに共通する基本的な意味構造は次のように図示することができる。

このタイプは, aber文は容認されるが ‘vergeblich’との共起は不可能なものである。 これ

は定動詞の表わす行為が完了したときには, その行為の意図する結果がすでに達成されてい

ると考えれば説明がつ く。 つま り, その動詞の表わす行為の意図する結果が達成されたため

に, その動詞の行為はvergeblichではなかったと考えることができる。 しかし, このタイプ

においては, aber文は容認されるこ とから, その達成された結果は, zwingen型とは異な り,

「〈 4格の人〉 が zu不定詞句の表わす行為を実行する」 とい う出来事ではない。 このタイプ

における達成された結果とはどのよ うな出来事なのであろ うか。

このタイプの事例はいずれも bringen を用いて 「〈 4格の人〉 を各動詞の過去分詞によっ

て表わされ, zu不定詞句の表わす行為を実行することが可能となる状態に移動させる」 とい

う意味内容の抽象的な移動表現にパラフレーズすることができる。 たとえば, 文 (40) -(43)

は次のよ うにパラフ レーズで きる。

(40)

(41)

(42)

(43)

Er hat sie (dazu) ausersehen, die Firma zu vertreten.

Er hat ihn (dazu) berechtigt, den Vertrag zu unterschreiben.

Die Regierung ermachtigte ihn (dazu) , die Verhandlungen zu ftihren.

Er hat seine K inder ( dazu) verpnichtet, sein W erk fortzufUhren.

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156

(44)

洞 沢 伸

X < 4 格 の人 〉

Sie ist (dazu) auserseben, ihn zu vertreten.

Er ist (dazu) bestimmt, wahrend des Urlaubs das Geschaft zu fUhren.

Er ist (dazu) berechtigt, den Vertrag zu unterschreiben.

Die K inder sind (dazu) verpflichtet, sein W erk fortzufUhren.

したがって, このタイプの動詞の文の意味構造は 「結果中心性」 のものであり, zwingen型

の意味構造と同様に具体的な場所的移動の表現が, 抽象的な出来事の表現( この場合は, 「状

態の変化」) に転用されていると考えることができる。 ただし, zwingen型の意味構造と大き

< 異なるのは, その移動の <到達点〉 が zu不定詞句の表わす行為ではな く , zu不定詞句の表

わす行為の実行を可能とする状態であるという点である。 また, 移動の 〈到達点〉 を [十状

態] とすれば, <起点〉 は [一状態] となり論理的には存在するものであるが, <起点〉 はこ

れらの事例のおいても言語的には表現されない。 また, 〈 4格の人〉 は, 意味構造の中で <到

達点〉 (状態) へ移動する <運動体〉 と して捉えられている。 したがって, この意味項構造に

おける行為の完了は, < 4格の人〉 の 「状態の変化」 に掛かるのであり, < 4格の人〉 はzu不

定詞句の行為とは直接的に関係づけられるわけではない。 したがって, このタ イプにおいて

も aber文は容認されると考えられる。 また, 「状態の変化」 とい う動詞の行為の意図する結

果が生起しているからこそ, ‘vergeblich’との共起が不可能になると考えるこ とができる。

そして各動詞は, (40) ’-(43) ’のパラフ レーズから明らかなよ うに, その移動の 〈到達点〉 の

種類の相違に基づ く もの, すなわち ausersehensein<選び出された〉 状態 (→(40) auserse-

hen) なのか, bestimmtsein <決められた〉 状態 (→(41) bestimmen) なのか, berechtigt

sein 〈権利が付与された〉 状態 (→(42) berechtigen) なのか, またはverpflichtetseinく義

務づけられた〉状態 (→(43) verpflichten) なのか‥‥‥といった相違に基づ くバリエーシ ョ

ンである と考えるこ とができる。

以上の考察から, B型動詞のうち aber文が容認され, かつ vergeblich’と共起が不可能な

動詞の文には次のよ うな共通の基本的な意味構造を想定することができる。 この意味構造を

berechtigen型と呼ぶこ とにする。

〈到達点〉

すなわち 「〈運動体 : X〉 (〈 4格の人〉) がある状態へ移動する」 という出来事であり, この

出来事が 〈動作主〉 によって引き起こされているわけである。 したがって, このタイプの事

例において引き起こされる出来事は, 「状態の変化」であることが分かる。これは, このタイプ

の動詞においてはいずれも次のように状態受動の形成が可能であることからも裏付けられる11)。

(45)

(46)

(47)

(48)

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まず, これまでのB型動詞に関する考察をまとめてみることにする。

B型動詞には, ① zwingen型 (→(32) ) , ② auffordern型 (→(39) ) , ③ berechtigen型

(→(49) ) の3つの基本的な文の意味構造型が認められた。 この意味構造型において, 他者

雌いずれも 〈到達点〉 へ移動する, または移動すべき 〈運動体〉 として捉えられていること

が分かった。 この点において, ①②③の3つの意味構造型は, 他者が 〈到達点〉 (〈受け手〉)

として捉えられている geben型め意味構造とは対照的であり, その在 り方はbringen という

動詞によって統括的に表わすことができると思われる。 よって, B型動詞の①②③の意味構

造型をまとめて bringen型と呼ぶこ とにする。

このbringen型の3つの意味構造型の区分の基準を, 以上の分析の中では直接扱わなかっ

たものも含め一括して示すと次の表 (50) のよ うになる (十は可能, - は不可能であること

を表わす) 。 各意味構造型は, ( イ) aber 文の整合性, ( 口) ‘vergeblich’ との共起可能性お

よび (八) 状態受動の形成可能性の3つの基準に関して原則的に相補的な分布を示す12)。

3 。2 . 3 . aber文の容認性に関して揺れがみられるタ イプ

動詞の意味特徴

「結果中心性」

「行為中心性」

「結果中心性」

(50)

い く っかの事例においては, ‘vergeblich’ との共起可能性に関してイ ソ フ ォーマy 卜の判

断に揺れがみられた。 ‘vergeblich’の共起可能性の揺れは, aber文の容認性に関する揺れと

相関性があるので, 次の3 . 2 . 3 .でま とめて考察することにする。

ZU不定詞を とる 「使役動詞」 の文の意味構造 157

3 。2 . 2 . 3 . ‘vergeblich’ との共起可能性に関して揺れがみられるもの

(49) berechtigen型

「他者 (〈運動体〉) を当該の動詞の過去分詞によって表わされ, zu不定詞

句の表わす行為を実行するこ とが可能となる状態 (〈到達点〉) に移動す

る」 とい う出来事を引き起こす。

次に, イ ソフ ォーマソ トテス トの結果に揺れがみられる事例について考察してみる。 揺れ

がみられる事例に, た とえば次のよ うな aufhetzenの事例 (51) がある。

-

+

この文 (51) に関するイソ フ ォーマソ トの判断には, 次の表 (52) に示したよ うな揺れがみ

(51) Er hatsie (dazu) aufgehetzt, dasKaufhausinBrandzusetzen.

+

+

<到達点〉一

行 為

(行 為)

状 態

aber文 vergeblich状態受動

一 - -

+

zwingen型

auffordern型

berechtigen型

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vergeblich

3/O/4aufhetzen

テス トの結果にみられるこのよ うなイソ フ ォーマソ トの判断の揺れは, 意味構造の漠然と し

た曖昧性を示すかのよ うに思われる。 しかし, 1人 1人の, 個々のイソ フ ォーマソ トの判断

には揺れはな く , 論理的な一貫性がみられる。すなわち個々のイ ソ フ ォーマソ トの判断を追っ

てみた場合, イソ フ ォーマソ トは原則と して (aber文/ vergeblich/ 状態受動) に関して,

zwingen型 と同じ よ うに(不可能/ 不可能/ 不可能) , またはauffordem型と同じよ うに(可

能/ 可能/ 不可能) , あるいはberechtigen型と同じように (可能/ 不可能/ 可能) の何れか

の一貫した判断を示すのである。 このこ とからテス トにみられる揺れは, 個々のイソ フ ォー

マソ トの各事例の意味構造の捉え方の相違に基づ く揺れであると考えるこ とができる。 揺れ

のみられる事例は, その揺れの分布から① auffordern型またはzwingen型の意味構造を想

定できるもの ( 3 . 2 . 3 . 1 . ) と, ② auffordren型またはberechtigen型の意味構造を想

定で きるもの ( 3 . 2 . 3 . 2 . ) の2つのタ イプに分かれる。

状態受動

O/O/7

158 洞 沢 伸

られた。 表の中の数字は, それぞれ順番に (可能/ 不明/ 不可能) としたイソフ ォーマソ ト

の数を表わす。

(52) ( 十/?/-) aber文一

3/O/4

文の意味構造の捉え方の相違を aufhetzenの例文 (54) で具体的に説明すると次のように

なる。 文 (54) の意味構造を auffordem 型と して捉えているイソ フ ォーマソ トは, その文の

意味を 「デパー トに放火させよ う と して他者にけしかけた」 とい う 「行為中心性」 の意味解

釈をするのに対し, zwingen型 と して捉えているイ ソ フ ォーマソ トは 「他者にけしかけてデ

パー トに放火させた」 という 「結果中心性」 (抽象的な 「場所の変化」) の意味解釈を してい

る こ と にな る。

3 。2 . 3 . 2 . auffordem型/ berechtigen型の意味構造を想定できるもの

次に, auffordern型またはberechtigen型の意味構造を想定できるものに, た とえば次の

Er hat sie (dazu) angeleitet, h6flich zu sein. ( 6/1/O)

Er hat sie (dazu) aufgehetzt, das Kaufhaus in Brand zu setzen. ( 2/O/5)

Er hat ihn (dazu) bewogen, das H aus zu verkaufen. ( 1/O/6)

3 。2 . 3 . 1 auffQrdem 型/ zwingen型 の意味構造 を想定 で き る も の

auffordern型またはzwingen型 の意味構造を想定できるものに, た とえば次のよ うな事

例がある。 例文の後の ( ) 内の数字は, aber文の整合性に関して (可能/ 不明/ 不可能)

と答えたイ ソ フ ォーマソ トの数である。

(53)

(54)

(55)

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(5/O/2)

(3/O/4)

(5/O/2)

文の意味構造の捉え方の相違を ermutigenの例文 (58) で具体的に説明すると次のよ うに

なる。 文 (58) の意味構造を auffordem型と捉えているイソフ ォーマソ トは文の意味を 「他

者を勇気づけて仕事を継続させよう とした」 とい う 「行為中心性」 の意味解釈をするのに対

し, berechtigen型と捉えているイソ フ ォーマソ トは 「他者が仕事を継続できるよ うに勇気

づけた」 とい う 「結果中心性」 ( 「状態の変化」) の意味解釈を していることになる。

以上, イソフォーマソ トテス トにおいて揺れがみられた事例について考察を行った。 その

結果, テス トにみられる揺れは個々のイソフ ォーマソ トの文の意味構造の捉え方の相違に基

づく揺れであり, これらの事例においても zwingen型, auffordem型またはberechtigen型

の何れかの意味構造を想定できることを述べた。

zu不定詞を とる 「使役動詞」 の文の意味構造 159

よ うな事例がある。 例文の後の( ) 内の数字は, ‘vergeblich’の共起可能性に関して(可能/

不明/ 不可能) と答えたイソフ ォーマソ トの数である。

(56) lchhabeihnangewiesen, dieSachesofort zuerledigen.

(57) Er hatsie (dazu) eingeladen, mit ihm essenzugehen.

(58) Er hatmich (dazu) ermutigt, dieArbeit fortzusetzen.

A型, B型の一連の動詞は, それぞれ ( I ) “geden型”, ( H) “bringen型”といった次のよ

うな 2つの基本的な意味構造型に還元することができる。 そして各動詞の具体的な文の意味

は, これらの基本的な意味構造型に何か特殊な規定が付加されることにより形成されている

と考えられる。なお, “bringen型”は, ① zwingen型, ② auffordern型および③ berechtigen

型という 3つの意味構造型に下位区分される。

( I ) “geben型” ( A型動詞)

「zu不定詞句によってその内容が規定される抽象的な<運動体〉 (た とえば,

befehlenの場合はBefehl <命令〉) が, 他者 (<到達点〉) に移動する」 と

い,う出来事を引き起こす。

(H) “bringen型” ( B型動詞)

① zwingen型

「他者 (<運動体〉) が zu不定詞句の表わす行為 (<到達点〉) に移動する」

という出来事をある手段 (た とえば, zwingenの場合はdurchZwang <強

制〉 によって) 引き起こす。

4 。 結 論

3 . の分析から, 問題提起 ( イ) および ( 口) に対して次のような結論を得ることができる。

問題提起( イ) : A型, B型の一連の動詞はいくつかの基本的な意味構造型に還元す

るこ とがで きるか。

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** * **

160 洞 沢 伸

② auffordern型 ,。

「他者 (<運動体〉) がzu不定詞句の表わす行為 (<到達点〉) へ移動する」

とい う出来事を引き起こすこ とを意図とする行為を行な う。

③ berechtigen型

「他者 (<運動体〉) を当該の動詞の過去分詞によって表わされ, zu不定詞

句の表わす行為を実行することが可能となる状態 (<到達点〉) に移動する」

という出来事を引き起こす。

問題提起( p) : A型, B型動詞において, 3格または4格として言語化される他者

は, 意味構造の中でどのよ うな捉えられ方をしているか。

*

, A型動詞の3格目的語と して表現される他者は, その「所有権の変化」に準じだ geben型”

の意味構造において, 抽象的な <運動体〉 (た とえば, befehlenの場合はBefehl) の <到達

点〉 (〈受け手〉) と して捉えられている。 B型動詞の4格目的語と して表現される他者は, そ

の 「場所の変化」 に準じだ bringen型” の意味構造において 〈到達点〉 (zwingen型および

auffordem 型の場合は 〈行為〉, berechtigen型の場合は <状態〉) へと移動する, または移

動すべき <運動体〉 と して捉えられている。 したがって, 本稿で分析の対象とした表現形式

における 3格と 4格は独立的な意味機能を担って文の意味を構成していることが分かる。 こ

の3格と 4格には, 「言語の統語的また形態的範躊は, 偶然の産物ではな く , 言語の伝達機能

と深 く関連 している」 (Eroms(1981:102) ) とい う記述13)の妥当性がうかがえる。

*

(59) auffordem型 (「行為中心性」)

最後に, B型動詞においてイソフォーマソ トテス トの結果に揺れがみられたことに対して

仮説を述べてみたい。

3 . 2 . 3 . の分析で, イ ソフォーマソ トテス トの結果にみられた揺れは, 意味構造の漠然

とした曖昧性を示すものではな く , イ ソフォーマソ ト個人の意味構造の主観的な捉え方の相

違に基づ く揺れであること述べた。なぜ意味構造の捉え方に相違が生じるのかは, 「行為中心

性」の意味構造と「結果中心性」の意味構造の相違を比較してみると明らかになる。auffordern

型は, 「行為中心性」 の意味構造であり, その行為の意図する結果の達成 (「他者によるzu不

定詞句の行為の実行」) までは, その意味に含まない。 他方, zwingen型およびberechtigen

型は, 「結果中心性」の意味構造であり, その行為の意図する結果の達成がその意味に含まれ

る。 よって, auffordem 型はzwingen型およびberechtigen型とは, 結果の含意の有無と

いう点で異な り, その相違は次の (59) (60) のよ うに図示するこ とができる。

-

1

1

-

I

I

I

一・

結 果

** ***

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(60) zwingen型/ berechtigen型 ( 「結果中心性」)

161ZU不定詞を とる 「使役動詞」 の文の意味構造

1) zu不定詞句の行為の意味上の主語は他者と同一であることは次の統語的操作によって確認できる。

( イ) 再帰代名詞の主文の名詞句に対する一致 (Bech(1983:31ff.) )

M an befiehlt 竹ltγ, 7yltCh zu beeilen.

( 口) zu不定詞句の daB文への書換え (Helbig/Buscha(1984:115ff.) )

lch beauftragte ihn damit, die Briefeabzuholen.

lch beauftragte 効がdamit, daB の・ die Briefe abho】t.

なお, zu不定詞句の主語の同定の問題については Siebert-Ott( 1983) に詳しい記述がある。

2) これは言語の 「経済性」 にも関係する認識である。 池上 (1986) およびGrimm (1973) には次のよ うな

記述がある。

池上 (1986:33)

「……動詞の基本的な意味構造は比較的単純なものである…… そのよ うな基本的な意味構造型に関与す

[注]

この図 (59) (60) から明かなよ うに, 「行為中心性」 の意味構造と 「結果中心性」 の意味構

造は, <行為〉 と <結果〉 の関係において連続したものであるこ とが分かる。 つま り, ある対

象に対してある 〈行為〉 が行なわれ, その対象がある 〈結果〉 を被るとい う具合いに, 〈行為〉

と 〈結果〉 は連続する出来事として捉えることができる。 したがって意味構造の捉え方の相

違は, イソフ ォーマソ ト個人によ り動詞の意味範囲としてどこまで含みうるのか, すなわち

〈行為〉 だけなのか (すなわち 「行為中心性」) あるいは行為だけではな < , 〈結果〉 までも

含み うるのか (すなわち 「結果中心性」) とい う主観的な認識上の相違に基づ く ものと思われ

る。 よってB型動詞の zwingen型, auffordern型および berechtigen型の3つの意味構造

型の区分は, その間に明確な境界線を引けるものではな く , 行為と結果の関係おいて連続し

ていると考えられる。 以上のこ とから, た とえば動詞 zwingenを auffordern型の意味構造

として捉えている ドイ ツ人がいたと して も不思議ではない。その場合は, zwingenは, 表(50)

で示した 3つの意味構造型の区分の基準において auffordern 型の動詞とまった く 同じ振舞

いを示すはずである。このように意味構造の捉え方には個人差があることを考慮すると, 個々

の動詞の分類は変わり うることが予想される。 しかし, これは結論で示したB型動詞に3つ

の基本的な意味構造型が想定できるとい う分析結果そのものに抵触するものではない。また,

現在までの分析結果から, zwingen型またはberechtigen型の両方の意味構造を想定できる

動詞は見つかっていない。 これは zwingen型と berechtigen型は, その意味構造が表わす

変化の〈到達点〉が<行為〉であるのか(zwingen型) , または<状態〉であるのか(berechtigen

型) とい う点において明確に異なるためであると考えられる。 つま り, ある変化を引き起こ

すという意味構造で, その変化の〈到達点〉が<行為〉であるのか, <状態〉であるのかといっ

たこ とで揺れがみられるようなことは人間の認識上の相違として有 り得ないのではないかと

思われる。

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162 伸洞 沢

「行為中心性」, 「結果中心性」 のそれぞれの意味特徴をもつ動詞として, た とえば ( 1) schuttelnr̃ を

揺する」 と ( 2 ) scharfen r̃ を研ぐ」 をあげることができる。

「行為中心性」 : 4格目的語に対してある行為を行な うことのみを表わす意味構造

「結果中心性」 : 行為のみならず, 行為の結果として4格目的語に残る変化を も表わす意味構造

ると思われるいく つかの要因を確認し, そ してそれらの可能な組合せを考えるこ とによって, 一般的な記

述のための枠組みが規定できる ……」

Grimm( 1973 : 134f)

“Die M 6911chkeit exakter Bedeutungsanalyse wird durch die weitgehend gesicherte Einsicht

er6ffnet, daB sich alle (d. h. diepotentiell unendlicheZahl der) Bedeutungen durch einebegrenzte

Zahl von Bedeutungselementen bzw. K ombinationen dieser Elementewiedergeben lassen.”

3) 〈静止〉 や <運動〉 といった空間関係の概念を用いて格および前置詞の意味を規定しよ う とする理論 (池

上(1981:11-25) , Eroms(1981:65-90) を参照)。

4) たとえば, 「場所の変化」 表わす動詞 fahrenは, <起点〉 よ りも <到達点〉 を表わす方向規定とともに使

われる事例が圧倒的に多いこ とが Mannheimer Korpusの分析から分かっている (室井(1991) ) 。

5) Helbig( 1969 : 44) には次のよ うな記述がある。

“…, daB dieM itspieler im Satz letztlich von inharenten M erkmalen der Verben abhangig sind, mit

denen ihreeigeneninharentenM erkmalevertriiglichseinmUssen. Auf dieseW eisedeterminierendie

inharenten M erkmale der Verben die m6glichen und zugelassenen Umgebungen ( zumindest

semantischer Art) 。”

6) 動詞の表わす行為の3格目的語に対する間接性と4格目的語に対する直接性の相違は, 概念的にたとえば

次のよ うに表現されている。

( イ) 3格目的語 : ‘mittelbaresBetroffensein’ (’Zuwendungsbeziehung’) :

Heidolph/Flamig/Motsch(1981:585)

‘Zuwendgr6Be’ : Glinz( 1973:165)

‘eine am Geschehen mitwirkendeGr6Be’ : W egener( 1985:321)

( 口) 4格目的語 : ‘unmittelbaresBetroffensein’ ( ‘Patiensbeziehung’) :

Heidolph/Flamig/Motsch(1981:583)

‘Zielgr6Be’ : Glinz( 1973:163)

‘die am starksten involvierteGr6Be’ : W egener( 1985:321)

7) 次の7人の ドイ ツ人またはオース ト リア人のイソ フォーマソ トにお世話になった。 イ ソ フ ォーマソ トは

Herberg氏(50歳代) を除き, いずれも30歳代の ドイツ語教師または日本語教師である。 なお, イ ソフ ォー

マン トテス トの有意義性およびイソフ ォーマソ トの数に関する問題は, 在間 (1987a : 注5) を参照。

Franz K umpl, RenateGicomuzzi ( 以上 , 東京外国語大学 ) , Peter Gicomuzzi (東京大学 ) , Barbara

Ebert (慶応義塾大学) , lrmtraud Albrecht (独協大学) , Jutta Borchert ( フンボル ト大学) , Dieter

Herberg (岐阜大学)

8) 次のA型動詞においては, aber文は必ずし も容認されなかった。 これらの事例に関しては, 意味構造の特

殊性および語用論的な要素が関与していると思われる。

Er gew6hnte ihr ab, Zigaretten zu rauchen.

Er gew6hnte ihm an, frUher aufzustehen.

Er mutete uns zu, zwei Stunden zu warten.

9) 在間 (1987a) および Zaima (1987b) では, 文の意味構造と動詞の意味特徴の関連に関するいくつもの

実証的研究から, 動詞の基本的意味特徴として 「行為中心性」 と 「結果中心性」 の2つの意味特徴を想定

することが有意義であるとされている。 「行為中心性」 と 「結果中心性」 の意味特徴をもつ動詞の文の意

味構造は, 次のよ うに定義される。

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( 1)

( 2)

163ZU不定詞を とる 「使役動詞」 の文の意味構造

Er schUttelt den Baum.

Er scharft dasM esser.

10) 注 9) を参照。

11) 「状態の変化」 の意味構造をもつ動詞は, その変化の結果の状態的表現である状態受動の形成が可能とな

る (Litvinov/Nedjalkov (1988) ) 。

12) zwingen型動詞においては, た とえば, zwingenのように状態受動を形成するものもある。

Er ist gezwungen, dieW ahrheit zu sagen.

zwingen型はzu不定詞句の行為を 〈到達点〉 とする抽象的な 「場所の変化」 の意味構造である。 よって,

zwingenの状態受動は, 行為への移行過程の1側面を捉えた状態表現であり, 「状態の変化」 の結果表現

である berechtigen型の状態受動とは異な る。

13) Eroms(1981t102)

“…, daB die syntaktischen Kategorien bis in dieM orphologie hinab nicht zufallig so sind, wie sie

sind, sondem daB sie in Einklang mit der kommunikativen Funktion stehen, diesieerfUIlen.”

( 3 ) * Der Baum istgeschUttelt.

( 4 ) DasMesser istgescharft.

例文 ( 1) は, 〈動作主〉 er が4格目的語 Baum に対して 「揺する」 とい う行為のみを行な うこ とを表

わし, その結果 4格目的語がどうなったか という結果までは含意していない。 それに対し, 例文 ( 2) は

〈動作主〉 erが4格目的語Messerに対し , 「研ぐ」 という行為を及ぼすだけではな く , その結果「Messer

がscharfになる」 とい う結果をも含意する。 このような 「行為中心性」 と 「結果中心性」 の意味構造を

想定するこ とによ り, た とえば状態受動の形成に関する規則性が説明できる。すなわち状態受動は, 次の

文 ( 3) ( 4 ) が示すよ うに, 「行為中心性」 の意味構造をもつ動詞においては形成されるこ とはな く , 「結

果中心性」 の意味構造をもつ動詞において形成される (在間(1986) ) 。

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[参 考 文 献]

洞 沢 伸

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165ZU不定詞を とる 「使役動詞」 の文の意味構造

Die semantisehe Satzstruktur kausativer

Verben mit zu十lnfinitiv

( 1)

( 2)

geben-Typ und bringen-Typ

ln dieser Arbeit werden die folgenden Fragen gestent und beantwortet :

Er hat 仇四 竹 befohlen, dasχVerk zu verlassen.

Er hat ih (dazu) gezwungen, dieW ahrheit zu sagen.

Shin HORASA’WA 二

lm Deutschen gibt es eine Reihe von Verben, die wie “befehlen’・ in ( 1 ) oder

“zwingen” in ( 2 ) einelnfinitivkonstruktionbildenundeineW irkung bzw. einen EinnuB

auf das Verhalten des Objekts (zumeist einer Person) bezeichnen. Das Objekt wird

syntaktisch entweder im Dativ wiebei “befehlen” oder im Akkusativ wiebei “zWingen”

ausgedrUckt.

( I ) gebm-7如

(bei VerbenmitDativ, z.B. “auftragen”, “befehlen”, “erlauben”, …usw.)

Das Agens bewirkt, daB die Person im Dativ ein abstraktes “Bewe・

gungsobjekt” (z. B. Befehl imFallvon“befehlen”) , dasdurchdieHandlung

im lnfinitiv bestimmt wird, bekommt.

( H) byingen-T沙 (bei denVerbenmitAkkusativ)

Dieser Typ gliedert sich in folgendedrei Unt9rklassen :

a) m緬gm-T沖

(bei Verbenwiez.B. “anstiften”, “n6tigen”, “zwingen”, …usw.) :

DieAnalysewird, beruhendauf der “lokalistischenTheorie” vonlkegami ( 1981) ( 1986) ,

mit H ilfevon einigen lnformantenbefragungen gemacht. Eswird gezeigt, daB essich bei

diesen Verben um eine abstrakte “Ortsveranderung” handelt. Als Ergebnis erhalt man

fUr die Fragestellung (A ) folgende Prototypen semantischer Satzstruktur : ( D gebm

一乃φ (beiVerbenmitDativ) und ( H) by緬ga -TM) (bei VerbenmitAkkusativ) . Jedes

Verb kann alsVariante irgendeinesder Prototypen aufgefaBt werden.

(A) W ievieleundwasfUrprimaresemantischeSatzstrukturenliegenineinem

mit solchen Verben gebildeten Satz vor ?

( B) WelchesemantischenRollentragtdiePersonim Dativbzw. im Akkusativ

in der Satzbedeutung?

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伸166 洞 沢

Das Agens bewirkt durch eine M ethode (z.B. durch Zwang im Fall von

“zwingen”) , daBdiePersonimAkkusativzurHandlungimlnfinitivkommt.

b) α司yoydem -取 ) ・.

(bei Verbenwiez.Bバ‘antreiben”, “auffordern”, “drangen”,…usw.) :

DasAgensversucht durch eine H andlung (z.B. durch Aufforderung im Fa11

von ”auffordern”) zubewirken, daBdiePersonim Akkusativzur Handlung

im lnfinitiv kommt.

c) beyed甫gen一乃φ

(bei Verbenwiez.B. “berechtigen”, “ermachtigen”, “verpflichten”, …usw.) :

DasAgensbewirkt, daB diePerson im Akkusativ ineinedurchdasPartizip

ll des Verbs ausgedrUckte Lage ( z.B. berechtigt sein im Fall von “berech-

tigen”) kommt, dieihrdieDurchfUhrungder Handlung im lnfinitiverm6g-

licht.

AuBerdem wird davon gesprochen, daB die VVahrnehmung der semantischen Satz-

struktur auch subjektiv sein kann und dieobengenannten Prototypen zum Teil zueinan-

der offen sind, was auf dieAmbiguitat und Flexibilitat der Sprachehinweist.

Die Person im Dativ tragt die semantische Rolle “Zielpunkt” (bzw. “Emp-

fanger”) des“Bewegungsobjekts” (z.B. Auftrag, Befehl, Erlaubnis…usw.) .

Die Person im Akkusativ tragt dagegen die semantische RoIle “Bewe-

gungsobjekt”, das beim zz4庇即r und 四がoydem-TM) zur Handlung im

lnfinitiv (“Zielpunkt”) , beim be粍ck瓦gm-でゅ indiedurchdasPartizip Il

desVerbsausgedrUckteLage ( “Zielpunkt”) kommt oder kommen so11. Der

Dativ und der Akkusativ fUhren bei diesen Verben jeweils ihre eigenen

semantischen Funktionen aus.

FUr die Fragestellung ( B ) ergibt sich folgendes :