価値創造へのコスト管理(原価企画・価値工学(ve) · ve等 dtc ve等 原 価...
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価値創造へのコスト管理(原価企画・価値工学(VE))
~ 中部国際空港等での効果と社会への応用可能性 ~
2017年2月28日
東京理科大学 名誉教授
日本経営システム協会 会長
工学博士 田中 雅康
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1.価値創造へのコスト管理とは何か
1.1 コスト管理ってどんなこと? ① コスト管理はコスト(原価)そのものを管理すること(管理対象がコスト)
② コスト管理はコスト(原価)で管理すること(管理手段がコスト)
③ コスト管理はコスト(原価)でコストを管理する
コスト管理とは
経済資源を有効活用するために、コストの達成目標を設定して、
コストの責任者がコスト意識を高めて、自ら、および関連部門ス
タッフの支援や協力を得て、この目標を達成させることである
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1.2 コスト管理の体系
コスト管理
コスト管理
(従来のコスト管理)
コストコントロール
コスト改善
日常活動のコスト管理
与件決定活動のコスト管理
原価企画
(価値創造のコスト管理)
従来のコスト管理と新しいコスト管理との異同
・ 管理対象は―
・ 管理標準は―
・ 活動成果の測定手段は―
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1.3 価値創造へのコスト管理(原価企画)の考え方
(1) 原価企画の意味するもの
・ 原価企画は日本で開発された管理の考え方と方法である
原価企画とは
顧客(使用者等)にとって価値ある製品やサービスを提供するために、
その企画段階で開発設計上の諸目標を設定して、全社的活動に
よって、これらの目標を達成させる管理である。
・ 「価値ある」とはエンドユーザーが[値うちもの]だと実感するもの(満足感・
幸福感)
・ 「つくる」とは「創る」ことと「造る」ことを含む
・ 「開発設計諸目標」とは(Q、C、D、E、Sの同様)+Bの目標
・ 「全社的活動」とは製品企画・開発設計・製造準備・物流・販売・サ
ービスの活動およびサプライヤの協力活動
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③ 原価企画の使命
豊かな社会づくりへの積極的貢献
価値ある製品・
サービスの創造
価値ある公共事業
の実現等 VE等 DTC
VE等
原 価 企 画
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(2) DTC(design to cost :コストに見合う設計、採算に合う設計)とは
① アメリカ国防総省の定義(訓令5000.28-1975.5.23公布)
・ DTCとは開発段階で明確なコスト目標を設定し、性能、コスト、日程の
間のトレードオフによってシステムコスト(システムを取得し運用し補修す
ることによって発生するコスト)をコントロールして、コスト目標を達成させよ
うとする管理の考え方である。
・ コストは開発設計上、不可欠な設計パラメータである(性能・日程と同
等)。
② DTCの考え方は日本の防衛省においても1973年ごろより採り入れは
じめた。
1981年度から開発がはじまった中等練習機(MTX)では設計段階から
DTCをベースとしたコストコントロールが行われた。
③ DTCを有効に活用するにはVE(value engineering)の考え方や手法
を習得している必要がある。
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1.4 原価企画の進め方 (1) 原価企画の主要活動
① 製品企画活動
(a) 製品コンセプトづくり
・ Targetの明確化 ― 誰が、いつ、どのように使う(消費する)か
・ Benefitの明確化 ― 果たす機能とその水準
実用機能面 ― 実用的働きや便宜性の水準
魅力機能面 ― デザイン、イメージなどの水準
(b) 採算性評価
・ 原価基準の売価設定と市価基準の売価設定
・ 機能や仕様に基づく売価設定
・ CVP分析からSP・CVP分析へ
(c) 開発設計諸目標の設定
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② 開発設計の体制づくり
〈 開発準備の主要項目 〉
(a) 開発設計のチーム編成
(b) 技術課題の明確化
技術上の不安要素列挙、生煮えの技術は?、パテント侵害は?
(c) 技術課題がコストや日程に及ぼす影響の明確化
(d) 目標コストの大まかな機能分野へ細分化
(e) 目標利益の達成可能性のチェック
(f) 開発設計に関連する部門・スタッフが行う支援・共同推進の責 任・権
限の明確化(CISPAR等)
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③ 開発設計諸目標の達成管理
(a) 目標製造コストの設定法
・ 控除法(Top down)
標準的売価 ― 希望利益 = 許容製造コスト
許容製造コスト ― 管理不能製造コスト = (管理可能)目標製
造コスト
・ 加算法(Bottom up)
類似品の原価実績に基づく方法
コスト・ベンチマーキングによる方法
(b) 目標製造コストの細分化法
・ 機能分野別細分化法
・ 構造ブロック別細分化法
・ 設計者別細分化法
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(c) 開発設計の区切りごとでの達成度チェック(節目管理)
・ 開発設計の主要な節目(たとえば、構想設計、基本設計、詳細設
計、製造準備の各活動の終了時等)で事業責任者が中心となって、
関連部門の責任者と共同して、開発設計案が開発設計諸目標を
達成できるか否かを評価する
・ 達成可能と判断すれば次の段階へ進ませるが、達成不能と判断す
れば達成可能となるまで再設計等をさせる。
・ 節目管理の代表的なもの
BR(Buginess review :採算性の目標達成度のチエック)
CR(Cost review :コストの目標達成度のチエック)
DR(Design review :性能・品質の目標達成度のチエック)
ER(Environment review :環境保全の目標達成度のチェック)
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(d) 開発設計推進支援チームの協働体制
・ 三位一体型製品開発(開発設計者、原価企画推進スタッフ、開発
購買スタッフ)
・ 五位一体型製品開発(三位一体型製品開発+生産技術者・製
造スタッフ+サプライヤ)
・ 八位一体型製品開発(五位一体型製品開発+製品企画スタッフ
+物流スタッフ+販売・サービススタッフ)
④ 目標コストの達成に有益な方法・手法(実態調査結果より)
(a) VE(Value engineering)
(b) 原価見積
(c) コストレビュー(Cost review)
(d) デザインレビュー(Design review)
(e) 部品・材料の標準化・共通化、モジュール化
(f) テアダウン(Tear down)・ベンチマーキング(Bench marking)
(g)コンカレント・エンジニアリング(Concurrent engineering)
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2.原価企画を支えるVE(value engineering :価値工学)
2.1 VEの考え方 (1) 価値のとらえ方
① 経済学でいう価値
・ 価値は製品やサービスがもたらす満足、効用である
・ 価値は目的の達成に対する手段の有効性または適合性の度合いで
ある
② VEでいう価値
・ 機能の達成に対するコストの有効性または適合性の度合いである
・ VEでは使用価値を取り扱う
③ 価値の程度(V)の向上策
V =
F
C
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(2) VEの定義
VEとは
顧客にとっての価値の高い製品やサービスなどをつくるために、
機能的研究の方法を組織的に活用して、必要な機能を
最小のライフサイクル・コストで、確実に達成させる創造的な
方法である
・ 機能的研究の方法とは ―
・ 組織的に活用とは ―
・ 必要な機能とは ―
・ 最小のライフサイクル・コストとは ―
・ 創造的な方法とは ―
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2.2 VEの進め方
(1) 開発設計段階での価値創造のVEの標準的手順
基本ステップ 概 要
必要機能の明確化
① 企画要求事項確認 ② 機能定義 ③ 機能の体系化
設計目標コストの設定
④ 機能評価 ⑤ 機能別目標コストの設定 ⑥ 着手順位の決定
詳細設計案の作成
⑦ アイデア発想 ⑧ アイデアの概略評価 ⑨ 設計案の作成 ⑩ 設計諸目標の達成度評価
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(2) 機能定義
① 機能の分類
(a) 必要機能と不必要機能
(b) 必要機能=(顧客必要機能)+(社会的必要機能)
② 機能定義の方法
(a) 名詞と動詞を用いて簡潔に表現する
(b) 名詞は定量化できるもの(物性名詞)、動詞は働きかけるものを使う
(c) 状態を表す表現や否定的な表現はしない
〈演習〉
ライターの機能は
冷蔵庫の機能は
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(3) 機能評価
① 機能評価とは何か
(a) 機能評価はその機能を達成するために、本来、いくらのコストで達成
すべきであるか(あるべきコスト)を決めること(達成すべき機能コスト)
(b) または、その機能は顧客の視点で見ると、いくらの評価額になるかを決
めること(顧客機能評価値)
② 機能評価の方法
(a) 金額で評価する方法
ベンチマークコスト法、アイディア発想法、アンケート調査法
(b) 比率で相対的に評価する方法
重要度比較法、強制決定法
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3.原価企画の成果
3.1 民間企業の例
(1) トヨタ自動車
(2) キヤノン
(3) デンソー
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3.2 公共事業の例 (1) 中部国際空港
① 事業の概要
・ 1997年 事業計画立案(総事業費 7,680億円)
・ 2000年8月 工事着工
2003年度での予算措置済額 6,431億円
・ 2005年2月17日完成(総事業費 5,950億円 ― 当初事業費
の22,5%減)
☆ 2005年3月25日 愛知万博開幕
② 事業費低減の進め方
・ 事業責任者の強い意志
平野幸久社長(元トヨタ自動車取締役)のリーダーシップによる
トヨタ流原価企画・VEの強力な推進
・ 事業施設の構想設計・基本設計段階に遡った「機能とコストのレビュー」
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・ DTC・原価企画による仕様変更
旅客ターミナルビルの目標コストは710億円、設計案に対する見積
原価は831億円(17%超過)← DTC・原価企画で目標達成
・ 機能に基づく改善
設計業者、施工業者、事業管理者がそれぞれ、さらには協働して
非常に多くの改善提案を出し実施
③ 事業採算性
・ 2005年度は経常利益23,1億円、2007年度まで黒字
・ 2008年度は経常損失17,8億円、2009年度は同25億円の赤字
・ 2010年度より黒字(増益続き、2015年度は68,4億円)
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(2) 公共機関でのVEの活用等
① アメリカの場合
・ 1954年 海軍で、1955年空軍で、1956年陸軍で採用
・ 1971年 全連邦管括諸官庁の調達条項に「VE提案」をすること
が明記
② 日本の場合
・ 1997年「公共事業コスト縮減に関する行動指針」が明示
土木・建築等へのVEが浸透しはじめる。
・ 2004年(公社)日本VE協会による優れたVE実施機関に対する
表彰開始
・ 受賞機関
東京都、中部国際空港、国土交通省関東地方整備局、大分県、
群馬県、静岡県、首都高速道路、静岡市、農林水産省中国四国
農政局
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参 考 資 料
マイルズ賞とは
VEの創始者、L.D.マイルズ氏の名前を冠した権威ある賞です。
「マイルズ賞」はVEを活用して顕著な成果をあげた企業に、
「マイルズ賞本賞」はマイルズ賞受賞後も継続して成果をあげた企業に、
「マイルズ賞特別賞」は、VE制度の運用によって
公共工事のコスト縮減や
価値の高い社会資本整備に努めている公共機関 に
授与されています。 VEの創始者 マイルズ氏
マイルズ賞特別賞 受賞機関
群馬県
東京都
中部国際空港
国土交通省 関東地方整備局
大分県
静岡県
首都高速道路
静岡市
農林水産省 中四国農政局
マイルズ賞特別賞 授賞理由 年度 受賞機関 授賞理由
2004 東京都 政府策定の「公共工事コスト縮減に関する行動指針」より 10年以上も前に設計VEに着手した公共VEの先駆者。
2005 中部国際空港 株式会社
新空港の建設にVEを適用。空港機能の確保と総事業費のミニマム化を達成。当初予算から1000億円以上を削減。
2006 国土交通省
関東地方整備局 コスト意識と技術力向上を目的に「コスト構造改革アクションプログラム」を策定。職員によるインハウスVEを推進。
2007 大分県 設計VEを「行財政改革の切り札」と位置付け、全庁をあげてVEに取り組んでいる。VE資格者の育成も積極的。
2008 群馬県 VEガイドラインの策定やVE研修の義務化など、多面的に設計VEの推進を図っている。多様な事業でVEを実施。
マイルズ賞特別賞 授賞理由
年度 受賞機関 授賞理由
2009 静岡県 公共事業の視点をコスト縮減から価値向上に転換することを企図し、「静岡県公共事業生産性向上推進プログラム」にVEの考え方を盛り込むなど、VE思想が広く浸透している。
2011 首都高速道路 株式会社
VE思考が全社規模で浸透。VEを道路建設や維持管理に関するコスト削減だけでなく、機能・安全性の向上と利用者サービスの向上につなげている。
2012 静岡市 利用者満足やコスト縮減といった直接的効果に加え、チーム活動による技能や知識の伝承、コスト意識や事務改善意識の醸成など、間接的効果も狙いした活動を展開。
2014 農林水産省 中四国農政局
独自のVE教育プログラム構築をはじめ、簡易型VEマニュアルの作成、インハウスVEへの移行など、その取り組みが全国7農政局の先駆けになっている。
VEの種類
計画・設計
工事発注(入札)
契約 施工
契約後VE
施工者
入札時VE
入札参加希望者
設計VE 発注者および
委託受注者)
大 小
公共事業におけるVEの活用
コスト縮減効果
VE事例(大分県の取り組み)
・歩道の分離 ・道路の縦断勾配を2%から5%に変更 ・大規模な斜面対策工事の縮小
工事費:9億円→6億円 発生残土を6万㎥削減
●静岡市職員 ・道路保全課 3名 ・保育課 2名 ・技術政策課 4名 ●施設使用者 ・保育士 4名 ●施設利用者 ・保護者 3名 ●受託者 ・土木コンサル 4名 計20名でVEチームを編成
保育園の園庭整備事業に 保育士 や 保護者 もVE検討会に参加!
VE事例(静岡市の取り組み)