web toeic vocabularyの開発とその評価...toeic語彙2(2003) 初級 10 200 400...

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日本大学生産工学部研究報告B 2009 42 Web TOEIC Vocabulary の開発とその評価 中條清美 ,西垣知佳子 ,宮﨑海理 ,ダイアン・ラム The Development of and its Evaluation Kiyomi CHUJO , Chikako NISHIGAKI , Kairi MIYAZAKI and Diane LAMB E-learning or onlinenetwork-based languagelearning has becomemoreprevalent in higher education institutions in many parts of the world.The purpose of this study was to develop effective and user-friendlyonline vocabularylearning material, Web TOEIC Vocabulary ,and to analyze the learners’ evaluations regarding this web vocabulary learning material and its online activities. Using corpus linguistics techniques,the targeted vocabularywas selected from a 5,193-word rank list derived from a 109,672-word TOEIC corpus which was composed from retired TOEIC tests and commercialized TOEIC practicetests.It was developed into an originalCD-ROM ofTOEIC Vocabulary learning material and was used in English CALL classes from 2003 to 2005.The material was then revised and developed into an online vocabularylearning material, Web TOEIC Vocabulary ,containing a systematic structure offive learning steps and an e-quiz consolidation step which were inherited from its original version. Learners’evaluations and comments were collected from 2006 to 2008 using a web browser.Analysis of the data found that most students considered Web TOEIC Vocabulary to be useful for vocabulary learning,easy to use,and the systematic approach of five learning steps to be effective for retention. Keywords: E-Learning M aterial, Vocabulary Learning, User Feedback, TOEIC, English Education 1. はじめに 大学の英語教育をえる際,一般的な英語力育成を目 指す EGP (English for General Purposes)の英 語 教 育 と,学習者の特定の目的に対応する ESP (English for Specific Purposes)の英語教育を峻別し,両者を有機的 に組み合わせて英語教育を行う必要があるといわれ 。日本大学生産工学部の学習者のニーズ分析の結果 を見ると,学習者は英語の資格,なかでも TOEIC (Test of English for International Communication)が重要で あるとえていることがわかる(中條他,2005) 。そこ で本稿で報告する授業実践では,TOEICを学習目標の ひとつに掲げ,EGP教材と併せて学習するための ESP 用教材を開発した。TOEICは英語力判定の客観的基準 として,日本の企業で広く採用されているテストで, 19 日本大学生産工学部教養・基礎科学系准教授 千葉大学教育学部准教授 日本大学大学院生産工学研究科博士前期課程数理情報工学専攻1年 日本大学生産工学部教養・基礎科学系講師(専任扱)

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  • 論 文日本大学生産工学部研究報告B2009 年 6 月 第 42 巻

    Web TOEIC Vocabularyの開発とその評価

    中條清美 ,西垣知佳子 ,宮﨑海理 ,ダイアン・ラム

    The Development of and its Evaluation

    Kiyomi CHUJO , Chikako NISHIGAKI , Kairi MIYAZAKI and Diane LAMB

    E-learning or online network-based language learning has become more prevalent in higher education

    institutions in many parts of the world. The purpose of this study was to develop effective and

    user-friendly online vocabulary learning material,Web TOEIC Vocabulary,and to analyze the learners’

    evaluations regarding this web vocabulary learning material and its online activities.

    Using corpus linguistics techniques,the targeted vocabulary was selected from a 5,193-word rank list

    derived from a 109,672-word TOEIC corpus which was composed from retired TOEIC tests and

    commercialized TOEIC practice tests.It was developed into an original CD-ROM of TOEIC Vocabulary

    learning material and was used in English CALL classes from 2003 to 2005. The material was then

    revised and developed into an online vocabulary learning material,Web TOEIC Vocabulary,containing

    a systematic structure of five learning steps and an e-quiz consolidation step which were inherited from

    its original version.Learners’evaluations and comments were collected from 2006 to 2008 using a web

    browser.Analysis of the data found that most students considered Web TOEIC Vocabulary to be useful

    for vocabulary learning,easy to use,and the systematic approach of five learning steps to be effective

    for retention.

    Keywords: E-Learning Material,Vocabulary Learning,User Feedback,TOEIC,English Education

    1.はじめに

    大学の英語教育を える際,一般的な英語力育成を目

    指すEGP(English for General Purposes)の英語教育

    と,学習者の特定の目的に対応するESP(English for

    Specific Purposes)の英語教育を峻別し,両者を有機的

    に組み合わせて英語教育を行う必要があるといわれ

    る 。日本大学生産工学部の学習者のニーズ分析の結果

    を見ると,学習者は英語の資格,なかでもTOEIC(Test

    of English for International Communication)が重要で

    あると えていることがわかる(中條他,2005)。そこ

    で本稿で報告する授業実践では,TOEICを学習目標の

    ひとつに掲げ,EGP教材と併せて学習するためのESP

    用教材を開発した。TOEICは英語力判定の客観的基準

    として,日本の企業で広く採用されているテストで,

    ― ―19

    日本大学生産工学部教養・基礎科学系准教授

    千葉大学教育学部准教授

    日本大学大学院生産工学研究科博士前期課程数理情報工学専攻1年

    日本大学生産工学部教養・基礎科学系講師(専任扱)

  • ESPの中のビジネス分野に分類される英語である 。

    本研究で対象とする学習者の英語力の根本的な問題と

    して「語彙力の不足」があげられる 。一般に,高校まで

    の英語教科書の出現語彙を完璧に習得した場合でも学習

    者の習得語彙数は,3,000語程度にすぎないと言われ

    る 。一方,「実用」になると えられる語彙レベルに達

    するには7,000~8,000語が必要とされ ,また,TOEIC

    の受験には少なくとも3,700語程度の語彙が必要であろ

    うことも確認されている 。したがって,実用レベルの英

    語力を養成するには語彙知識を効率的,段階的に拡大し

    ていく必要のあることは明白であろう。学習者の語彙は

    主に教科書から習得されると えると,現状の学習者の

    語彙と実用の語彙の間にあるギャップを効率的に埋める

    手段の一つとして,上述のESPすなわち目的限定型の

    英語の語彙に指導を絞ることが有効である 。

    中條他 の調査結果から,語彙教材については当該学

    習者に適切なCALL(Computer-Assisted Language

    Learning)教材が存在しないことが判明していたので,

    我々は Table 1に示した3種類の語彙力養成用CD-

    ROM 教材を独自開発した。これらは当該学習者のニー

    ズのひとつであるTOEICに向けた語彙を学習する

    ESP語彙力養成教材で,2002年に「TOEIC語彙1」,

    2003年に「TOEIC語彙2」,2004年に「TOEIC語彙3」

    という順に,入門,初級,中級レベル向けCD-ROM 教材

    の開発を行った(以下,3種類をまとめて「TOEIC語彙」

    と呼ぶ)。これらの教材は学習者の語彙習熟度レベルを

    慮して学習目標語彙を選定し,音声,文字,映像情報を

    組み合わせて語彙を効果的に習得できるよう,5段階か

    ら6段階の学習ステップに従って学習を行うものであ

    る。1種類の教材を使用することで,半期に200語から

    240語の目標語彙とその目標語彙を含む用例を400例か

    ら480例を学習できる。これらの語彙教材の作成方法,

    教育効果等の詳細は中條他(2002;2003;2004)

    を参照されたい。

    「TOEIC語彙」は実践的かつ客観的研究結果に基づい

    て開発された教材であり,次のような点で独創的である。

    まず,コーパス言語学的な手法を駆使して,TOEICスコ

    アの向上という目的のために学習効率の高い語彙を選定

    したことである。具体的には,公開されているTOEIC試

    験問題と市販のTOEIC練習問題を収集して構築した

    109,672語のTOEICコーパスから5,193語のTOEIC

    語彙リストを作成し,学校英語教科書語彙リストと比較

    して,多様な学習者の習熟度レベル別に対応させるため

    に,Fig.1に示す,入門向け「TOEIC語彙1」,初級向

    け「TOEIC語彙2」の各200語と用例各400例,および,

    中級向け「TOEIC語彙3」の240語と用例480例を選定

    した。詳細は中條他(2004) を参照されたい。

    2番目の特徴としては,上で選定した語彙とその用例

    の学習効率を推定したことである 。「TOEIC語彙1」と

    「TOEIC語彙2」は1年分の語彙教材として継続使用す

    る前提で作成されており,これらの2種類の教材を合算

    した推定効果を求めた。まず,学習者の現状から大学入

    学時の学習者の語彙レベルを中学校教科書習得レベルと

    仮定した 。中学校教科書語彙をマスターした学習者

    が,「TOEIC語彙1」と「TOEIC語彙2」の各200語と

    各400用例を合わせて完璧に学習し,TOEIC第2回公

    開テスト問題を受験したと仮定する。学習後,このテス

    トの使用語彙総数の既習語の割合は76.4%から89.0%

    へ12.6ポイント上がる。この割合から「未知語に遭遇す

    る割合」を推定すると ,学習前は「4語に1語未知語に

    遭遇する割合」であったものが,学習後は「9語に1語

    の割合」に改善される。このような学習効率が推定され

    た教材を使って実際に,「TOEIC語彙1」と「TOEIC語

    彙2」の語彙指導のみを行った2クラスの教育効果を測

    定したところ,TOEICスコアは各々平 で36.9点,

    59.0点向上し,その上昇量は統計的にも有意であった。

    このことから,推定された学習効率が実際的な教育効果

    の数値においても検証されたことは意義深いと え

    る 。

    Table 1 Three-Level TOEIC Vocabulary CD-ROM Material

    語彙教材名(開発年) 対象レベル ユニット数 学習語彙数 学習用例数 学習ステップ数

    TOEIC語彙1(2002) 入門 10 200 400 5ステップ+クイズ

    TOEIC語彙2(2003) 初級 10 200 400 5ステップ+クイズ

    TOEIC語彙3(2004) 中級 12 240 480 6ステップ+クイズ

    Fig.1 Selecting Three-level TOEIC Vocabulary

    from TOEIC Corpus

    ― ―20

  • 以上の実践的・客観的研究成果にもとづいて作成され

    た「TOEIC語彙」CD-ROM 教材は,本学部の「コミュ

    ニケーション」の授業および希望者による自主学習にお

    いて,2002年から2005年まで活用された。しかし,国内

    外のネットワーク活用の拡大の動きを踏まえ,本学部の

    英語教育においても既存の学習コンテンツをスタンド・

    アローンからWebベースに移行する取り組みを開始す

    る必要が生じてきた。そこでその取り組みの第一弾とし

    て,山﨑・中條(2005)では,まず,Webテストの開発

    を行った 。この取り組みでは,それまでCD-ROM テス

    トによって収集,蓄積した語彙習熟度テストの解答デー

    タを利用してテストの測定精度を向上させ,次に,改良

    したテストをWeb上に移行させた。この研究によって

    Webテストは実施の簡易化,採点・成績集計の省力化と

    時間短縮の点で教師,学習者の両方に大きなメリットが

    あることが認められ,既存のCD-ROM 教材のWeb化

    の利点と可能性を確認することができた。

    以上のような経緯を経て,本稿の目的は,実践的かつ

    客観的研究成果に裏打ちされたCD-ROM 版の「TOEIC

    語彙」の学習コンテンツをWeb化し,そして,開発され

    た Web TOEIC Vocabularyに関して2006年から2008

    年までの3年間に収集した学習者評価の分析結果につい

    て報告することである。

    以下では,まず2節で Web TOEIC Vocabularyおよ

    び付随して開発された Web QuizとWebページの概略

    を述べる。3節で Web TOEIC Vocabularyの指導実践

    について説明する。次に4節で3年間に収集した Web

    TOEIC Vocabularyの学習者評価の分析結果を報告し,

    開発したWeb語彙教材の妥当性について 察する。5

    節はまとめである。

    2.Web TOEIC Vocabularyの開発

    2.1 Web TOEIC Vocabulary

    Web TOEIC VocabularyはHomepage Builderを使

    用してCD-ROM 教材「TOEIC語彙」を全面刷新したも

    のである。学習コンテンツのうち,語彙,用例,および

    音声データはCD-ROM 版と同じものを使用した。画像

    は,Shutterstock.com Support(http://www.shutter

    stock.com)より著作権フリーの画像を購入して使用し

    た。新たにMenu画面をウィンドウの左端に付けた。

    サーバについては,学内の授業で使用する Web TOEIC

    Vocabularyと Web Quiz等のプログラムに関しては,ア

    クセス速度を配慮して研究室内のサーバを使用した。自

    習用,公開用の Web TOEIC Vocabularyプログラムは,

    学外からのアクセスが容易で処理能力の高いレンタル

    サーバを使用している。Fig.2には Web TOEIC

    Vocabulary 3のUnit1のイントロダクションと学習ス

    テップ1~6の画面例を示した。順に各画面について説

    明していく。

    イントロダクションでは写真と日本語文によって各ユ

    ニットの学習語20語の使用状況を解説した (Fig.2-

    1)。20語は前半10語と後半10語に二分して提示し,前

    半と後半はそれぞれStep1からStep5の学習ステッ

    プに従って学習していく (Fig.2-2)。なお,Web TOEIC

    Vocabulary 3は中級レベルの学習者を対象としている

    ので学習ステップは6番目まである。Step1では各10

    語の綴りと意味が一覧表で提示される (Fig.2-3,4)。Step

    2では綴りから発音と日本語訳を学習する (Fig.2-5,6)。

    Step3では各語につき二例ずつの用例を発音とともに

    学習する (Fig.2-7,8)。Step4では日本語を見て語の綴

    りと発音を再確認する (Fig.2-9,10)。Step5は用例の発

    音を聞いてノートに書き取る短いディクテーションであ

    る (Fig.2-11,12)。上述したように,Web TOEIC

    Vocabulary 3には6番目の学習ステップ「例文による学

    習」があり,英文の空欄に学習語をword bankから選ん

    で入力する (Fig.2-13,14)。以上の学習ステップの詳細は

    中條他(2002;2003;2004)を参照されたい 。

    すべての学習ステップを終了すると,最後に定着確認

    のための Web Quizがある (Fig.3-1,2,3,4)。Web Quiz

    はキーボードで正しい綴りをタイプする5分間の空所補

    充形式のテストである。このテストは上述した山﨑・中

    條(2005)のWebテストプログラムの一部を使用してお

    り,インターネット上に構築したサーバで動作する 。学

    習者はサーバにアクセスしてテストを受験し,解答を終

    え「採点」ボタンを押すと,テストの解答データがサー

    バに送信され,瞬時に採点結果が受験者のPCに送信さ

    れて結果が表示される。同時に,成績データが各授業別

    に自動的にサーバに保存される。成績データはCSV形

    式でダウンロード可能である。

    Web TOEIC Vocabularyで採用している語彙指導法

    は,竹蓋他(1999) で提案された12ステップの「総合型」

    語彙学習システムと,それをCALL教材として実用化し

    た高橋(1999) の8ステップ指導法を参 にして開発し

    たものである。上記2種の教材は,「従来型」の語彙指導

    に比べ,様々な角度から語彙を繰り返し学習するもので,

    「学習意欲」を喚起し,同じ時間ならばより「高い効果」

    が得られることが検証されている。学習対象には,竹蓋

    (1999)は上級学習者を,高橋(1999)は中級学習者を対

    象としている。そのため,本学の学習者には難易度の高

    い学習事項が含まれている可能性が予測された。そこで

    我々は学習ステップを初級者向けに簡易化するととも

    に,本学の学習者による試用評価に基づいて,初級レベ

    ルの学習者に適合するように各学習ステップの内容を変

    更し,Web TOEIC Vocabularyの開発を継続してきた。

    ― ―21

  • Fig.2 Screenshots from the Web TOEIC Vocabulary

    ― ―22

  • 2.2 付随教材の作成

    本節では Web TOEIC Vocabularyに付随して開発さ

    れたWeb教材について述べる。Web TOEIC Vocabulary

    の学習を開始するには,学習者はWebブラウザを使用

    して Web CALLの「TOEIC Vocabulary 1,2,3」(Fig.

    4-1)のうち自分が学習する教材を選択する。また,この

    画面の「Tests」をクリックすると,付随して開発された

    各種Webテストとアンケートが選択できる (Fig.4-

    2)。

    Webテストには,「TOEIC Vocabulary 1 Test」,

    「TOEIC Vocabulary 2 Test」,「TOEIC Vocabularyま

    とめTest」の3パターンを用意した(Fig.4-2)。また,「実

    力テスト」はTOEIC Bridge練習テスト100問用と英検

    練習テスト50問用の2パターンを用意し,毎年,授業開

    始時(4月)の事前テストと授業終了時(12月または1

    月)の事後テストに活用している。その他に一般英語の

    リスニング教材用のWebテストも作成した。

    アンケート」は2パターンを用意した。1つは一般英

    語用であり,もう1つは本稿で利用した Web TOEIC

    Vocabularyに関する60項目の質問調査である。アン

    ケートの集計結果はCSV形式でダウンロード可能であ

    る。

    2.3 Webページの開設

    学習者がいつでもどこでも自学自習が可能な環境を整

    えるため,Webページ「日大CALL」を教師のホームペー

    ジ上 (http://www5d.biglobe.ne.jp/chujo/)に開設した

    (Fig.5-1)。まず,「日大CALL」の上段にある「TOEIC

    語彙1」,「TOEIC語彙2」,「TOEIC語彙3」をクリッ

    クすると講義中に配布された Web TOEIC Vocabulary

    の語彙・用例一覧のハンドアウトのPDFファイル (Fig.

    5-2)をWebページ上からダウンロードして印刷でき

    る。次に,通学などの移動時間中に学習したいという学

    習者からの要望があることから,下段の「TOEIC1音

    声」,「TOEIC2音声」,「TOEIC3音声」(Fig.5-1)をク

    Fig.2(continued) Screenshots from the Web TOEIC Vocabulary

    ― ―23

  • リックすることで Web TOEIC Vocabularyの各音声を

    MP3形式でダウンロード可能である。さらに,自宅で授

    業と同じソフトを使って自習したいという学習者からの

    要望に応えて,最下段の「TOEIC語彙1」,「TOEIC語

    彙2」(Fig.5-1)をクリックすると(現在は「TOEIC語

    彙3」も追加されている),レンタルサーバ上に設置した

    Fig.3 Screenshots from the Web Quiz

    Fig.4 Screenshots from the Web CALL and the Web Tests

    Fig.5 Screenshots from the Web Page Nichidai CALL

    ― ―24

  • Web TOEIC Vocabularyにリンクして,学外や自宅のパ

    ソコンから授業と同じ練習プログラムにアクセス可能で

    ある。

    3.Web TOEIC Vocabularyの指導実践

    本節では,2006年から 2008年の3年間に Web

    TOEIC Vocabularyを利用して実施した指導実践につ

    いて述べる。

    3.1 実施環境

    指導実践の実施環境は以下のとおりである。

    ■科目:「コミュニケーションⅠ・Ⅱ」(必修)(2006年度)

    「英語Ⅰ・Ⅱ」(必修)(2007年度,2008年度)

    ■学習者:理工系の大学1年生,6クラス(各年度2ク

    ラス)計224名

    2006年度 クラス1(C1)43名,クラス2(C2)

    52名

    2007年度 クラス3(C3)45名,クラス4(C4)

    24名

    2008年度 クラス5(C5)38名,クラス6(C6)

    22名

    学習者の英語力の目安はC1,C2,C3,C5は英検

    能力判定テストで348~372点であり,英検3級~4級

    レベルに該当する。C4,C6はTOEIC Bridge IP(180

    点満点)で平 144点であり,このスコアは英検2級

    ~準2級レベルに相当すると推定される 。

    ■学習期間:2006年4月~2007年1月(C1,C2),2007

    年4月~2008年1月(C3,C4),2008年4月~2008年

    12月(C5,C6)

    ■教材利用時間と回数:各年度とも10時間(30分×20

    回)

    ■施設:コンピュータルーム

    3.2 授業の流れ

    毎回の授業の流れはおおよそ Table 2のとおりであ

    る。EGPとESPの2種類の教材を使用して,授業時間を

    前半と後半に分割し,集中力を継続させて効率良く複数

    の英語知識やスキルを養成することを目指した。Web

    TOEIC Vocabularyは授業後半に使用された。1時間の

    授業内に2種類の教材を使用した場合,1種類の場合に

    比べて,授業中に進めるそれぞれの教材の量そのものは

    少なくなるが,1種類目の教材(EGP向けのCD-ROM

    教材使用)に少し疲れてきた頃,教師による一斉指導等

    が行われた後,2種類目の教材(ESP向けWeb教材の

    Web TOEIC Vocabulary)に切り替わるので結果的に授

    業中の学習効率が良くなることが検証されている 。

    具体的な授業の流れは以下のとおりである。まず,授

    業の前半は単語復習テスト(筆記テスト)から開始され

    た。次に,学習者はCD-ROM 教材を使用して,2006年

    度はリスニング教材学習,2007年度と2008年度はコー

    パス利用学習を行った。約30分の個別学習の後,15分間

    が教師による前半の学習のまとめと冒頭に行われた復習

    テストの返却にあてられた。

    後半25分間には Web TOEIC Vocabularyを使用し

    た語彙学習が行われた。最後にWebを利用した語彙定

    着確認のための Web Quizが実施された。このテストは

    ユニットごとに異なるパスワードを入力する必要があ

    る。パスワード(6桁の数字)を教師が英語で読みあげ,

    初級者の苦手な数字の聞き取りを行うことで,リスニン

    グの練習になるとともに学習者の集中力を高めた。テス

    トは自動採点であるのでその場でスコアを確認し,早く

    解答を終えた学習者から退室した。

    前半はEGP向けのCD-ROM 教材を利用した個別学

    習,中盤に教師による一斉学習,後半にWebにアクセス

    してESP向け教材を使った個別学習,最後に一斉にパ

    スワードを聞き取って行う個別テストという多様な学習

    形態と異なる学習内容を組み合わせて学習者の集中力を

    持続させながら英語力が向上するように授業を設計し

    た。

    3.3 学習者評価の収集方法

    Web TOEIC Vocabularyの使用に関する学習者の感

    想と意見は,20回目の学習終了後,2.2に述べたWebブ

    ラウザの Web Testsの「アンケート」を使用して収集さ

    れた。

    4.結果

    4.1 学習者の英語意識調査

    最初に,学習者の英語に対する興味・関心の平 像を

    とらえ,年間の変化を把握するため,2008年度のC5と

    C6の学習者60名を対象として,授業開始時の4月と授

    業終了時の12月に意識調査を行った。C5学習者の英語

    習熟度は英検3~4級であり本学部の平 的な学習者群

    Table 2 Classroom Procedure

    授業の流れ 時間 内 容

    導入と復習 15分 単語復習テスト(筆記テスト)

    30分

    リスニング教材CD-ROM 学習

    (2006年度)

    コーパ ス 利 用 CD-ROM 学 習

    (2007年度,2008年度)

    展 開

    15分前半の学習のまとめ

    単語復習テストの返却

    25分Web語彙学習 (Web TOEIC

    Vocabulary)

    定着の確認 5分 単語クイズ (Web Quiz)

    ― ―25

  • である。一方,英検2~準2級レベルであるC6学習者は

    本学部の上位群を代表している。英語に対する自己評価

    の変化を,「強くそう思う(5)」から「全くそう思わない(1)」

    の5段階で評定してもらい,クラス別に評定値の平 を

    Table 3に示した。Table 3の右半分のC5,C6の各列の

    上段は人数,下段は%を示し,網掛け部分は各グループ

    の意見の中で一番回答者の多いことを示す。

    4月には,「英語は好き」と5と4の肯定的評価をした

    学習者はC5では13%(0%+13%),C6では 59%

    (9%+50%)であったが,12月には C5では 32%

    (11%+21%),C6では86%(50%+36%)に増加した。

    評定値の平 は,C5は2.3から2.8へ,C6は3.6から

    4.3へと0.5ないし0.6ポイントの上昇が見られた。学

    習者は本授業以外に,英会話の授業である「オーラル・

    イングリッシュ」を週1回受講しているのでその影響も

    あるかもしれないが,いずれにせよ,1年間の英語授業

    によって学習者の英語に対する意識をプラスの方向に作

    用させたことは,様々な工夫と仕掛けを施した英語教育

    の学習支援の結果を示しているものと える。

    一方,同一の学習者が,「英語力に自信がある」という

    項目に対して,C5は1.5から1.8へ,C6は2.6から

    2.7へと微増にとどまっていること,C5,C6とも年間の

    変化があまりなく3,2,1の否定的な評定が多かった

    ことと併せて えると,英語に対する気持ちはある程度

    改善したものの,依然として英語に自信を持てないとい

    う学習者像が明らかになった。以上概観したように英語

    に対する苦手意識が強い学習者が実際に Web TOEIC

    Vocabularyの使用に対してどのような反応を示したか

    を次に報告する。

    4.2 Web TOEIC Vocabularyの全般的な評価

    本節では,2006年度から2008年度の3ヵ年について,

    各年度の指導実践の終了時に学習者から収集した評価と

    感想を観察することによって,Web TOEIC Vocabulary

    の効果を検証し,今後の英語指導への示唆を得る。

    Web TOEIC Vocabularyに対する学習者224名分の

    全般的な評価を Table 4に示した。「強くそう思う(5)」か

    ら「全くそう思わない(1)」の5段階評定の224名分の平

    値を第2列に示し,その右に各年度のクラス別の評定

    平 を示した。

    Web TOEIC Vocabularyを使った語彙学習は「①語彙

    Table 3 Students’Feelings toward English

    質 問 項 目評定平

    C5

    評定平

    C6

    C5(38名)

    5 4 3 2 1

    C6(22名)

    5 4 3 2 1

    授業開始時(4月) 2.3 3.60

    0%

    13%

    21%

    17

    45%

    21%

    9%

    11

    50%

    36%

    5%

    0%英語は好きであ

    る授業終了時(12月) 2.8 4.3

    11%

    21%

    11

    29%

    21%

    18%

    11

    50%

    36%

    9%

    0%

    5%

    授業開始時(4月) 1.5 2.60

    0%

    0%

    13%

    21%

    25

    66%

    5%

    9%

    10

    45%

    27%

    14%英語力に自信が

    ある授業終了時(12月) 1.8 2.7

    0%

    0%

    18%

    17

    45%

    14

    37%

    5%

    18%

    36%

    23%

    18%

    5:強くそう思う 4:そう思う 3:どちらともいえない 2:そう思わない

    1:全くそう思わない 上段は人数,下段は%

    Table 4 Evaluation of the Web TOEIC Vocabulary

    質 問 項 目 評定平2006年度 2007年度 2008年度

    C1 C2 C3 C4 C5 C6

    ① 語彙力の向上に役にたつ 4.1 3.6 3.8 4.3 4.3 4.2 4.4

    ② やる気になる 3.6 3.0 3.4 3.6 3.8 3.9 4.0

    ③ えながら学習できる 3.7 3.4 3.8 3.8 3.7 4.0 3.7

    ④ 飽きないで学習できる 3.3 2.7 3.0 3.4 3.3 3.7 3.7

    ⑤ 音声を聞きながらの語彙学習は記憶しやすい 4.1 3.8 3.9 4.1 4.1 4.2 4.4

    ⑥ 用例を使用した語彙学習は役にたつ 4.1 3.8 3.9 4.2 4.1 4.5 4.3

    ⑦ これからもTOEICの語彙を増強したい 3.7 3.7 3.1 3.2 4.2 3.7 4.6

    ― ―26

  • 力の向上に役にたつ」という質問に対する評定平 は

    4.1であり,語彙学習としての効果が高く評価されたこ

    とが明らかになった 。続いて,Web TOEIC Vocabulary

    を使用した学習は「②やる気になる」という質問に対す

    る評定平 は3.6であり,評定値はTable 4の右に行く

    にしたがって年度ごとに値が上昇している。Web

    TOEIC Vocabularyを使用した学習は単語以外にもフ

    レーズ単位や文単位で意味を えながら正解の候補を検

    討する必要があるが,「③ えながら学習できる」という

    項目の評価は3.7であった。また「④飽きないで学習で

    きる」の評価は3.3であった。この項目の評価について

    はどのユニットも同じパターンの学習活動であるためあ

    る程度やむをえないと えられ,次回への課題としたい。

    教材に関する質問では,「⑤音声を聞きながらの語彙学習

    は記憶しやすい」と「⑥用例を使用した語彙学習は役に

    たつ」に対する評定平 はどちらも4.1であり,学習者

    自身が音声や用例の有効性を実感したものと える。⑤

    ⑥とも評定平 は年度ごとに上昇している。「⑦これから

    もTOEIC語彙を増強したい」という質問に対する評定

    平 は3.7であり,特にC4,C6の上位群のクラスでは

    4.2,4.6と積極的な学習姿勢が示された。

    以上,多くの項目で年を追うごとに評価があがってい

    ることは,授業者自身が本教材の指導経験を積み,学習

    者の教材に対する反応を見ながら,毎年,指導に改善を

    加え,授業の質を高める努力を重ねてきた成果と える。

    また,質問項目の中でも①⑤⑥⑦のような英語力向上や

    学習効果の本質に関わる項目に対して評価が高かったこ

    と,特に上位群で評価が高かったことは,良い結果であっ

    たと える。

    4.3 ソフトウェアの評価

    ソフトウェアの操作性や難易度についての3年分の集

    計結果を Table 5に示した。○は中央値を示し,右端の数

    値は評定平 値を示す。まず,本教材の「①使いやすさ」

    の評定平 値は4.1でありソフトの操作性として満足で

    きる結果が得られた。語彙教材の「②レベル」は「易し

    い」と「難しい」のほぼ中央の3.2であることから「ちょ

    うどよい」レベルと評価されていることがわかる。学習

    者に適切な難易度の教材を割り当てることは学習者のや

    る気を引き出すためと引き出したやる気を継続させるた

    めに重要な 察事項であると指摘されているが ,本教

    材のレベルは学習者のレベルに合致していたと言えよ

    う。

    続いて,教材の構成要素の難易度に関する質問に対し

    て,「③1回の学習単語数」「④1回の学習用例数」「⑤用

    例の長さ」はそれぞれ3.9,3.9,3.7と「少し多め」あ

    るいは「少し長め」という評価が得られた。これは言語

    習得論においてクラシェン の唱えた「インプット仮説」

    で言われる「i+1」と合致する結果であろう。言語習得

    を促進するためには,学習者の現在のレベル (i)より少し

    高い「i+1」レベルの理解可能なインプット (compre-

    hensible input)が必要であるというものである。した

    がって,Web TOEIC Vocabularyを使用した学習者が

    「レベルはちょうどよい」と答えている一方で,教材は「少

    し多い,少し長い」とインプットを少し高いレベルと評

    価していることは,言語習得の視点から望ましいことと

    えられる。

    ⑥音声・文字の(情報提示の)タイミング」について

    問題はなかった。また「⑦発話者の声」は4.4と満足で

    きる結果を達成できたと える。これは音声収録に

    NHKラジオ英語講座のアシスタントとして教材制作に

    経験豊富なSandra McGoldrick氏の協力を得られた成

    果と える。

    4.4 学習ステップの評価

    本教材はStep1からStep5までの作業を行うこと

    によって,「音声」,「綴り」,「意味」を結びつけた学習が

    可能となり,学習語彙のより強固な定着が期待できるよ

    うに設計されている。そこで学習ステップに対する学習

    者の評価について,「Step1,2,3,4,5と進むにつ

    れて単語の音声や意味が学習できた」かどうかを3ヵ年

    にわたって5段階評定をしてもらった。Table 6には,結

    果の傾向を把握しやすいように,5と4の評価を「肯定」,

    3を「中立」,1と2を「否定」に含めることによって3

    段階評価に変換した結果を年度別に示した。その結果,

    各年度とも過半数の学習者が肯定的評価を示し,学習ス

    テップが高く評価されていることが判明した。

    次に,各学習ステップに対する3ヵ年分の学習者評価

    Table 5 Students’Assessment of the Web TOEIC Vocabulary

    5 4 3 2 1 平

    ① 使いやすさ 使いやすい ○ 使いづらい 4.1

    ② レベル 易しい ○ 難しい 3.2

    ③ 1回の学習単語数 多い ○ 少ない 3.9

    ④ 1回の学習用例数 多い ○ 少ない 3.9

    ⑤ 用例の長さ 長い ○ 短い 3.7

    ⑥ 音声・文字のタイミング 適切 ○ 不適切 3.9

    ⑦ 発話者の声 良い ○ 悪い 4.4

    ― ―27

  • の集計結果を質問項目とともに Table 7に示した。○は

    中央値を示し,右端の数値は評定平 値を示す。「①写真

    と日本語による導入」の評価が3.5であるが,それ以外

    の学習Step1(②)からStep5(⑥)とWeb Quiz(⑦)

    に対する評価は4.0以上と高く評価されていることが判

    明した。とりわけ「④Step3 短い用例による学習」が

    高く評価された。「語」のみを単独に覚える学習では実際

    のコミュニケーションのスピードやノイズに対応できな

    いため,より大きな単位であるフレーズなど,文脈の中

    での学習が必要である。用例の学習が実用に役立つこと

    が意識されていたことを示している。

    ①写真と日本語による導入」については,教材使用開

    始の2006年度は3.7の評価であったが,2007年度と

    2008年度は3.4の評価であった。このことから,導入ス

    テップの重要性についての指導が指導者の慣れとともに

    不足した恐れがある。この導入の画面は,まず写真によっ

    て学習語彙が使用される場面の説明などのトップダウン

    情報が与えられ,次いで,学習語彙が使用されるコンテ

    キスト(文脈)をわかりやすく日本語で解説したもので

    ある,日本語の解説文には7~8語の新語が括弧つきで

    付加され,学習語彙のプレビューとして重要な役割を果

    たしている。今後は,授業の中で,確実に解説文を学習

    するように指導を徹底させたい。

    以上,各学習ステップは高く評価されたが,次に,Step

    1から Step5までステップの順番どおりに学習したか

    どうかを質問した。結果 (Fig.6),「学習ステップを順番

    どおりに学習した」という学習者は2006年度89%,2007

    年度83%,2008年度73%と年々減少していることが判

    明した。そこで,次にその理由をたずねた。

    まず, はい,順番どおりに学習した」と答えた学習者

    にその理由を書いてもらったところ,「ちょうどよい速さ

    や段階で勉強できたと思う」,「だんだん難しくなるので

    このままでいい」,「少しずつ段々と覚えていくことがで

    きて頭にしっかりと入りやすいのでこの順番のままでい

    い」という意見であった。

    続いて,「いいえ」と答えた学習者に「ではどうすれば

    よいですか」と質問したところ,意見はほぼ一致してい

    て,「綴りの確認を用例の前に持ってきて集中的に単語の

    確認をした方が効率が良い」,「最初に単語を覚えてから

    用例を覚えた方が覚えやすかった」,すなわち「Step4」

    と「Step3」の順番を入れ替えて欲しいということで

    あった。指摘された順序は理にかなっていると えられ

    るので,これまで竹蓋(1999) の12ステップから現状の

    5ステップに至るまでレベルの適合化を行ってきた過程

    を再検討したいと える。

    4.5 Web Quizの評価

    Web Quizの作成には,単語テストの予告は単語の短

    期記憶に効果があったというHulstijin(1992)の報告

    や ,単語テスト直前の短時間の勉強は短期的には効果

    があるとした望月(1996)の研究結果を参 にした 。

    Web Quizは初級レベルの学習者が最後まで効果的に集

    中して学習できるようにする目的で導入されたもので,

    ユニットの最後に5分間で完了する8問の短い空所補充

    形式のテストである。Quizのテスト問題はランダムに出

    Table 7 Students’Assessment of the Five Learning Steps

    5 4 3 2 1 平

    ① 写真と日本語による導入 役立つ ○ 役立たない 3.5

    ② Step1 一覧表による学習 役立つ ○ 役立たない 4.1

    ③ Step2 意味の確認 役立つ ○ 役立たない 4.1

    ④ Step3 短い用例による学習 役立つ ○ 役立たない 4.3

    ⑤ Step4 綴りの確認 役立つ ○ 役立たない 4.1

    ⑥ Step5 ディクテーション 役立つ ○ 役立たない 4.0

    ⑦ Web Quizによる定着 役立つ ○ 役立たない 4.0

    Fig.6 Students’Assessment of the Learning Steps’

    Order

    Table 6 Students’Assessment of the Five Learning

    Steps

    質 問 項 目 年度 評定平 肯定 中立 否定

    2006年度 3.350

    53%

    12

    13%

    33

    35%Step1,2,3,

    4,5と進むに

    つれて単語の音

    声や意味が学習

    できた

    2007年度 3.534

    50%

    24

    35%

    10

    15%

    2008年度 3.939

    64%

    17

    28%

    8%

    上段は人数,下段は%

    ― ―28

  • 題されるため,学習者は毎回,内容や順序が異なる問題

    に取り組むことが可能である。解答形式は学習者からの

    「キーボードからも入力したい」という要望に応えて

    キーボード入力を採用した。採点ボタンを押すと「自分

    の解答(誤答は赤字),模範解答,得点」が表示され,学

    習語彙の定着度を確認することができる。即座にKR

    (Knowledge of Results)情報が学習者に与えられるの

    で,動機づけにも役立つものである。

    この Web Quizに対する学習者の5段階評定の結果

    を Table 8に示した。5段階評定の3ヵ年分の平 値を

    第2列に示し,その右に各年度の各クラスの評定平 を

    示した。

    「①この小テストがあるので勉強した」の評定平 は

    3.8,「②役立つ」は3.7,「③集中できる」は3.6といず

    れも肯定的な評価を得た。さらに Web Quizに対する自

    由な感想を書いてもらったところ,「勉強にやる気がで

    る」,「緊張感があってよい」,「勉強したことをすぐにテ

    ストで復習できるのでよい」,「確認する意味で自分がど

    れだけ覚えられたかがわかった」,「難しいと感じていた

    が徐々にできるようになってきた」,「結果と解答がすぐ

    出るので間違ったところを見直せていい」のように上記

    ①②③と同様の感想が多く見られた。

    一方,解答には正確な綴りが要求されるので,「正確に

    単語を覚えることができました」,という感想がある一方

    で,「少しでも間違えると不正解になってしまうことがあ

    るのでそこを改善してほしい」,「実際にしっかり覚えた

    単語でも打ち間違えることがあると悔しいです」という

    意見も見受けられたので,次回の改善に活かしたいと

    える。

    4.6 自由筆記

    最後に,Web TOEIC Vocabularyについて具体的な意

    見を調査するため,「従来の単語学習法と比べて Web

    TOEIC Vocabularyの良い点と改善点を自由に書いて

    ください」という項目を設けた。従来の単語学習法と比

    較してWeb語彙学習ソフトのよい点について書かれた

    122件の意見を整理して多いものから挙げると以下のと

    おりである。1番目に「音声があること」が挙がり,音

    声によって「発音がわかる」,「聞いて覚えられる」,「頭

    に入りやすい」という利点があるという意見である。2

    番目に多かったのは,結果がすぐに出るなど「はやい」

    ということであった。3番目に多かったのは,「パソコン

    だから楽しい」ということで,具体的には,「紙より新鮮」,

    「集中できる」,「タイピングが覚えられる」,「マイペー

    ス」,「何回も聞ける」といったコンピュータを用いるこ

    との有用性が示された。

    一方,改善点について収集された124件の意見をまと

    めると以下のとおりである。1番目には「書いた方が覚

    えられる」派が多かった。そのような学習者の意見に対

    応して「Step5 ディクテーション」を設けたのである

    が,その意図が充分に伝わっていなかったようである。

    今後はディクテーションの役割と効果について十分なガ

    イダンスが必要であろう。2番目に多かったのは,「入力

    をまちがえてしまうことがある」というタイプミスに関

    する意見である。これは本研究の対象者が1年生である

    ためであり,上級学年になると,このような指摘は漸減

    すると思われる。3番目に多かったのは,「単調になりや

    すい」ということである。これについては当面は授業に

    おける指導者と学習者のコミュニケーションの取り方を

    工夫することで改善したいと える。将来的には単調に

    ならないようなプログラムを開発したい。

    4.7 Webページの評価

    最後に,Web TOEIC Vocabularyの学習等をサポート

    する目的で開設したWebページ「日大CALL」の利用状

    況とそれに対する学習者の要望を収集した。3ヵ年にわ

    たる224人分の学習者のアクセス頻度を調査した結果を

    Fig.7に示した。「学期中に1回程度」が一番多く,つい

    で「2,3週間に1回程度」が続いた。四分の一の学習

    者は「1回もない」ことが判明した。

    アクセスの目的はハンドアウトの入手という目的が多

    Table 8 Students’Assessment of the Web Quiz

    質 問 項 目 評定平2006年度 2007年度 2008年度

    C1 C2 C3 C4 C5 C6

    ① この小テストがあるので勉強した 3.8 3.7 3.8 3.6 4.0 3.4 4.5

    ② 役立つ 3.7 3.6 3.6 3.3 4.0 3.6 4.2

    ③ 集中できる 3.6 3.6 3.4 3.3 3.8 3.4 4.2

    Fig.7 Access Frequency to Webpage Nichidai

    CALL

    ― ―29

  • いと予想できたので,Table 9にダウンロード等に関す

    る使用状況とそれらの今後の継続についての要望の調査

    結果を示した。43%の学習者が「ハンドアウトを印刷し

    たことがある」,22%が「音声をダウンロードしたことが

    ある」ことがわかった。68%の学習者は「日大CALL」

    から Web TOEIC Vocabularyプログラムが学習可能な

    ことを知っているものの,使ったことがある学習者は

    28%にとどまった。なお,大多数の学習者は,ハンドア

    ウト,音声データ,Web TOEIC Vocabularyのサービス

    を今後も使えるように要望していることが判明した。

    Webページ「日大CALL」についての自由記述の欄に

    寄せられた意見には,「紛失したプリント類を印刷できる

    のはとても便利だった」,「家で自由にダウンロードでき

    るのでやり易い」等のデータのダウンロードの利便性に

    関するものがもっとも多く,ついで「学校と同じことが

    家でもできるところはよかった」,「家で予習できるので

    よかった」,「どう発音するかわからない時に活用できて

    便利だった」という Web TOEIC Vocabularyのプログ

    ラム利用に関するものが続いた。一方,「音声の聞き方が

    分からなかった」,「自分が活用してなかったのは残念に

    思った」,「もっと利用すればよかった」のような意見も

    散見されたことから,利用法を周知することの必要性が

    判明した。

    5.まとめ

    我々が2002年に語彙教材の制作にとりかかった際,教

    材選定の基準として次の6項目を設定した。すなわち,

    ①学習語彙の「選定基準」が明確であること,②どのレ

    ベルの学習者が対象であるかの「難易度」が明記されて

    いること,③どの程度の効果があがるのか「学習効果の

    目安」が表示されていること,④記憶した語彙を実際の

    コミュニケーションで使えるために「用例」が示されて

    いること,⑤語彙学習は単調でつらいものであるため「動

    機付け」に配慮されていること,⑥定着率の高い「指導

    法」が使用されていることであった。

    我々は,これらの基準を満たすために,コーパス言語

    学的手法による客観的選定語彙と定着率の高い指導法を

    用いて,学習対象者を明確にしたWeb TOEIC Vocabulary

    を制作し,学習者の3年間の評価を収集してその効果を

    検証した。その結果,Web TOEIC Vocabularyは,「語

    彙力の向上に役立つ」,「やる気になる」,「使いやすい」,

    「記憶しやすい」,「これからも語彙を増強したい」という

    回答を得られた。したがって,語彙学習教材である Web

    TOEIC Vocabularyによって,初級学習者の要望を満た

    し,通期の授業に耐えうる良質の内容の教材を提供する

    ことができたと結論した。

    今後はさらに Web TOEIC Vocabularyを付随教材と

    合わせて十分に活用するために,授業開始時のガイダン

    スにおいて教材の効果的な利用法を指導するとともに,

    自学自習を推進・サポートするためにWebページの利

    用を周知する必要性があることも判明した。

    注1 その後,英検能力判定テストにより現状の学習者

    の英語力は英検3級から4級レベルと判定された

    (中條,西垣,2007) 。

    注2 C4とC6の英検レベルは TOEIC Bridge Data

    and Analysis 2007 p.5の「Ⅲ-16 実用英語技

    能検定(英検)取得者のTOEIC Bridgeスコア」

    に提供されている資料 (http://www.toeic.or.jp/

    bridge/pdf/data/Bridge2007 DAA.pdf)から推

    定した。

    注3 1年間の授業による語彙力がどの程度向上してい

    るかを見るために,2.2に述べたWebブラウザの

    Web Testsのうち「TOEIC Vocabularyまとめ

    Test」を使用して指導効果を測定した。4月と12

    月に事前・事後テストを実施できたC6学習者に

    ついて報告する。学習開始時(4月)に行った事

    前テストの得点平 は100点満点中の51.2点,1

    年間の授業終了時(12月)に行った事後テストの

    平 は85.1点であった。得点上昇は33.9点であ

    り,t検定の結果(対応ありの両側検定)は t=

    Table 9 Usage Survey of the Webpage Nichidai CALL

    質問項目 はい いいえ

    TOEIC語彙のハンドアウトを「日大CALL」から印刷したことがある 43% 57%

    上記サービスを今後も続けてほしい 92% 8%

    TOEIC語彙の音声をダウンロードしたことがある 22% 78%

    上記サービスを今後も続けてほしい 79% 21%

    授業と同じ語彙プログラムが学外から使用できるのを知っている 68% 32%

    上記サービスを使ったことがある 28% 72%

    上記サービスを今後も続けてほしい 84% 16%

    ― ―30

  • 11.500 (p<.01)であった。指導の前後の得点

    上昇量に有意な差が確認された。

    参 文献

    1) Nation, I.S.P.,Learning Vocabulary in Another

    Language.Cambridge University Press,2001.

    2) 中條清美,西垣知佳子,内堀朝子,山﨑淳史,「英語

    初級者向けCALLシステムの開発とその効果」,『日

    本大学生産工学部研究報告B(文系)』,38,2005,

    1-16.

    3) TOEIC:http://www.toeic.or.jp/

    4) 中條清美,「英語初級者向け『TOEIC語彙1,2』

    の選定とその効果」,『日本大学生産工学部研究報告

    B(文系)』,36,2003,27-42.

    5) 竹蓋幸生,中條清美,「学習語彙の有効度」,『言語行

    動の研究』,3,1993,116-122.

    6) 竹蓋順子,「大学英語教育における複合システムの実

    践的研究」,『言語行動の研究』,7,2000,1-54.

    7) Chujo,K.and Genung,M.,Comparing the Three

    Specialized Vocabularies Used in ‘Business

    English,’TOEIC, and British National Corpus

    Spoken Business Communications,Practical English

    Studies,11,2004,49-63.

    8) Chujo,K.and Nishigaki,C.,Bridging the Vocabu-

    lary Gap:from EGP to EAP, JACET Bulletin,

    36,2003,73-84.

    9) 中條清美,牛田貴啓,山﨑淳史,福島昇,須田理恵,

    木内徹,M.Genung, B.Perisse,「ビジュアルベー

    シックによるTOEIC用語彙力養成ソフトウェアの

    試作」,『日本大学生産工学部研究報告B(文系)』,

    35,2002,11-23.

    10) 中條他,2002,前掲論文.

    11) 中條清美,山﨑淳史,牛田貴啓,「ビジュアルベー

    シックによるTOEIC用語彙力養成ソフトウェアの

    試作Ⅱ」,『日本大学生産工学部研究報告B(文系)』,

    36,2003,43-53.

    12) 中條清美,牛田貴啓,山﨑淳史,マイケル・ジナン

    グ,内堀朝子,西垣知佳子,「ビジュアルベーシック

    によるTOEIC用語彙力養成ソフトウェアの試作

    Ⅲ」,『日本大学生産工学部研究報告B(文系)』,37,

    2004,29-43.

    13) 中條他,2004,前掲論文.

    14) 中條他,2003,前掲論文.

    15) 中條清美,西垣知佳子,「リメディアル教育用英語検

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    16) 中條清美,竹蓋順子,高橋秀夫,竹蓋幸生,「語彙力

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    17) 中條清美,「英語運用能力の向上を可能にする語彙指

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    18) 山﨑淳史,中條清美,「Webを利用した語彙習熟度テ

    ストの開発」,『日本大学生産工学部研究報告B(文

    系)』,38,2005,59-66.

    19) 中條他,2002,前掲論文.

    20) 中條他,2003,前掲論文.

    21) 中條他,2004,前掲論文.

    22) 山﨑,中條,2005,前掲論文.

    23) 竹蓋順子,「コミュニケーション能力の養成に寄与す

    る語彙指導システム」,Language Laboratory,36,

    1999,97-116.

    24) 高橋秀夫,「Windows版英語語彙学習用ソフトウェ

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    25) 中條他,2005,前掲論文.

    26) 竹蓋幸生,「英語CALL教材の高度化の研究」,『特定

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    27) Krashen,Stephen D.The Input Hypothesis,London,

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    29) Hulstijin, J.H.Retention of Inferred and Given

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    (H21.1.10受理)

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