科哲ws2010 101127a
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要旨• 目的:外部の視点から哲学を哲学たらしめるコアが何かを考える
• 題材:曖昧性に関する哲学・論理学・工学(言語学)の共同研究
• ゴール:共同研究において哲学者の果たすべき役割とは?
• そのためのサブゴール:
• 哲学の研究を特徴付ける方法論・アプローチは何か?
• 「制度化された哲学」ではとらえられないものは、今どこに行っているのか?
2010年11月29日月曜日
共同研究という文脈における哲学の役割• 参考:“Vagueness at the interface between logic, philosophy, and linguistics
Pleasures and pitfalls of interdisciplinarity” (Chris Fermuller, LoMoRev
2009)の分析を紹介
• 文脈:「分野横断的共同研究における役割分担を考える」
• 異分野の異なる手法が相互補完的であれば、共同研究に価値がある
• 哲学には哲学独自の興味関心があり、無理に他分野の役に立つ必要はない、しかしそれでは「共同研究」「共同プロジェクト」と謳う必要はない
• 同一のトピックに関する分野横断的共同研究の参加者全員にとって有益となるような役に立ち方は存在するのか
2010年11月29日月曜日
哲学を特徴付けるのはトピックか方法論か?• 最初の課題:哲学を分析するためには哲学とは何かを定義する必要があるが、何を持って哲学を定義すればよいのか
• トピック:伝統的に「哲学的」と言われるトピックは、すでに他分野の領域に含まれている
• (例)曖昧性研究:哲学由来のテーマ(「真理の度合」「観察述語とエラー」)など
• 分野横断的研究が行われるような分野はみなそのはず
• 手法:手法の共通性を原点に据えた方が有効ではないか
• 本発表では「手法」を軸に、外部の目から見た哲学を考える
2010年11月29日月曜日
F1:手法の比較• 哲学:「曖昧性に関するディベート」
• new contributions consist largely in attacking previous arguments and arguing for the (only) right account
• 数理論理学:「新しい定理を見つける」
• 既存の結果を発展させ、非自明な新しい定理を見つける
• 工学・言語学:「既存のデータの整理」
• すでにある大量のデータを「強固な直感」に従って再編
2010年11月29日月曜日
F2:「砂山のパラドックスの例」
• 哲学者:可能な解決法を羅列し、そのうちのただ一つが「正しい解決法」だとみなす
• 論理学者:異なる形式化により、異なる解決法(度合理論、重付置理論、様相論理)がある。これらの異なる解決法の間の共通の性質や一般化を探る
• 言語学者・工学者:
• 「砂山のパラドックス」という現象そのものではなく、そんな現象が(もしあれば)自分の専門分野に本当に関係するのかが興味の対象。
• 関係があるとしても、例えば言語学の場合意味論ではなく語用論で適用するなど、「解決法」を応用する選択肢が広いのが特徴
2010年11月29日月曜日
ディベートという技法• 論理学者:
• 形式化を行う場合、哲学者の問題分析と提案が参考になる場合はある
• しかし「唯一の解決法」に興味はないため、ディベートの結果に興味はない
• ディベートという手法そのものが、論理学の手法(公理的方法など)と相性が悪い
• 言語学者・工学者:
• 多くの場合、実装などでなぜその手法を選んだかは、技術的理由やコストなど多くの点に依存する。そのため、多くの解決法が共存する
• 「唯一の解決法」に興味はないため、ディベートの結果に興味はない
2010年11月29日月曜日
穏健な主張• 穏健な主張:
• 「哲学者は、工学者が変なことを言い出したとき、それをいさめるのが仕事」「工学者の『強固な直感』を問い直す」
• 「哲学者の仕事は交通整理」
• 反論:
• 共同研究を行う場合、外部の人間は哲学者に「外部の人間が変に哲学的なことを言ったらそれをとがめる」以上の働きを期待している
• 時々、哲学者は問題の整理よりも論争の勝利に重点を置くことがあるようにも見える
2010年11月29日月曜日
制度化されたものから捉えられないもの?• 主張:「哲学者は、新しいアプローチのアイディアを提案するのが仕事」
• (例)ウカシエヴィッチの多値論理はアリストテレス研究から誕生
• 哲学者が提案、数学者が形式化、工学者が応用する
• 反論:
• (反例)ファジイ論理は、工学者のザデーが提唱、多値論理の工学的応用は実質的にはこれによって始まった。しかし、ザデーが既存の哲学的議論などを知っていたかどうか怪しい
• このように、「新しいアプローチ」を教えてもらうために、工学者が哲学者に意見を求める必要はない
2010年11月29日月曜日
理想的役割?• 主張:「哲学者は、複数の取り得る選択肢があるとき、選択肢を明確化し、そ
の選択の正当化をする」
• 本来はこういう役割が求められているように思われる
• 反論:
• 工学におけるアプローチ選択にはいろいろな理由がある。ディベートという手法が、本来的に折衷的な工学の用途に向いているか未知数である。
• この場合、哲学者自身が方法論を変更する(ディベートを控え、前段階の問題の論理的分析のみ行う)必要に迫られる可能性があるように思われる
• ディベートぬきの分析(「思考を掘り下げる」)は他分野の人にも可能であり、本当に哲学者が担うべきものなのか、哲学者のみにしかできないことなのかという疑問もある
2010年11月29日月曜日
まとめ曖昧性に関する分野横断的共同研究の分析は、以下の事実を示唆する(少なくとも外部の目には以下のように見える)ように思われる
• 哲学の研究を特徴付ける方法論:ディベート
• その意味で哲学者は周辺分野の研究者に直接的には役に立たない
• 「制度化された哲学」ではとらえられないもの:
• 工学分野のザデーのような人物によって担われつつある
• 分野横断的共同研究において哲学者に求められる役割:
• 共同研究において、哲学者には「複数の取り得る選択肢があるとき、選択肢を明確化し、選択の正当化をする」という役割が求められているように思われる。しかしディベートという手法が、本来的に折衷的な工学などに向いているか未知数であるため、哲学者自身が方法論を変更する必要に迫られる可能性があるように思われる
2010年11月29日月曜日