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技術論文 56 富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005 モノクロ光書込型電子ペーパー -液晶マイクロカプセル技術と応用システム- B/W Photo-addressable E-Paper: Liquid Crystal Micro - Capsulation Technology and the E-Paper Application Systems 要 旨 電子文書の利便性を有する新たな文書媒体として、コレ ステリック液晶マイクロカプセルと有機光導電体を積層 した光書込型電子ペーパーを開発している。今回、液晶分 子をマイクロカプセル内壁に対して垂直に配向させる垂 直配向液晶マイクロカプセル技術を新規に開発すること で、表示コントラスト比を従来の 5 1 から 17 1 へ大き く改善できた。この用途として、モノクロ光書込型電子 ペーパーを埋め込んだ非接触 IC カード“Visual Index Card VIC)”を開発した。 VIC では IC カードに収められ たデジタルデータを目視で確認できるため、カードの利便 性を大きく高めることができる。また、感熱リライト表示 媒体を用いた同様の IC カードよりも、書換寿命が 1 桁以 上長く経済的である。さらにこの IC カードを用いて、ファ イルサーバー上の特定の文書と VIC とを 1 1 に対応さ せる新しいドキュメント・ハンドリング・システムを開発 した。このシステムを使えば、 VIC を専用リーダーに読ま せるだけで、サーバーを経由しデジタル複写機とパーソナ ルコンピュータ間の文書移動や紙文書の電子化、電子文書 の印刷を極めて容易に行うことが可能となる。 Abstract 執筆者 氷治直樹 Naoki Hiji石井努 Tsutomu Ishii研究本部 先端デバイス研究所 Advanced Devices & Materials Laboratory, Corporate Research GroupWe are developing a photo-addressable electronic paper (PAE-Paper) comprising cholesteric liquid crystal micro-capsule (CLC-MC) and organic photoconductor (OPC) for a new document media that has the same convenience as electronic documents. The contrast ratio has now been improved from 5:1 to 17:1 by developing a novel perpendicular anchoring CLC-MC, of which the shell aligns the liquid crystal molecules perpendicular to the inner surface. For the application, “Visual Index Card (VIC)” was developed, which is wireless IC card with a monochrome PAE-Paper display window. As the user can visually confirm the digital data in the IC tag, the VIC enhances the convenience of the IC card. Furthermore, the VIC is economical than conventional wireless IC card using thermal rewrite media because it has more than 10 times longer lifetime. Additionally, a novel document handling system using VIC was developed, in which one document on a file server was corresponded to the VIC. With this system, document handling such as moving files between personal computer and file server, and printing from the server can be done extremely easy.

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Page 1: Z 6 .X.. - 富士ゼロックス株式会社/Fuji Xerox Co., Ltd.Š€術論文 56 富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005 モノクロ光書込型電子ペーパー

技術論文

56 富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005

モノクロ光書込型電子ペーパー -液晶マイクロカプセル技術と応用システム- B/W Photo-addressable E-Paper: Liquid Crystal Micro - Capsulation Technology and the E-Paper Application Systems

要 旨 電子文書の利便性を有する新たな文書媒体として、コレ

ステリック液晶マイクロカプセルと有機光導電体を積層

した光書込型電子ペーパーを開発している。今回、液晶分

子をマイクロカプセル内壁に対して垂直に配向させる垂

直配向液晶マイクロカプセル技術を新規に開発すること

で、表示コントラスト比を従来の 5:1 から 17:1 へ大き

く改善できた。この用途として、モノクロ光書込型電子

ペーパーを埋め込んだ非接触 IC カード“Visual Index Card(VIC)”を開発した。VIC では IC カードに収められ

たデジタルデータを目視で確認できるため、カードの利便

性を大きく高めることができる。また、感熱リライト表示

媒体を用いた同様の IC カードよりも、書換寿命が 1 桁以

上長く経済的である。さらにこの IC カードを用いて、ファ

イルサーバー上の特定の文書と VIC とを 1 対 1 に対応さ

せる新しいドキュメント・ハンドリング・システムを開発

した。このシステムを使えば、VIC を専用リーダーに読ま

せるだけで、サーバーを経由しデジタル複写機とパーソナ

ルコンピュータ間の文書移動や紙文書の電子化、電子文書

の印刷を極めて容易に行うことが可能となる。 Abstract 執筆者 氷治直樹 (Naoki Hiji) 石井努 (Tsutomu Ishii) 研究本部 先端デバイス研究所 (Advanced Devices & Materials Laboratory, Corporate Research Group)

We are developing a photo-addressable electronic paper (PAE-Paper) comprising cholesteric liquid crystal micro-capsule (CLC-MC) and organic photoconductor (OPC) for a new document media that has the same convenience as electronic documents. The contrast ratio has now been improved from 5:1 to 17:1 by developing a novel perpendicular anchoring CLC-MC, of which the shell aligns the liquid crystal molecules perpendicular to the inner surface. For the application, “Visual Index Card (VIC)” was developed, which is wireless IC card with a monochrome PAE-Paper display window. As the user can visually confirm the digital data in the IC tag, the VIC enhances the convenience of the IC card. Furthermore, the VIC is economical than conventional wireless IC card using thermal rewrite media because it has more than 10 times longer lifetime. Additionally, a novel document handling system using VIC was developed, in which one document on a file server was corresponded to the VIC. With this system, document handling such as moving files between personal computer and file server, and printing from the server can be done extremely easy.

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技術論文

モノクロ光書込型電子ペーパー -液晶マイクロカプセル技術と応用システム-

富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005 57

1. はじめに

近年、オフィスを取り巻く環境は大きく変化

してきた。オフィス文書は紙文書から電子文書

へとシフトし、インターネットや電子メールの

普及によって、誰もが世界中どこからでも瞬時

に情報を発信・取得できるようになり、それに

ともなって情報の流通量は飛躍的に増大してき

た。 電子文書を読むためのディスプレイは、消費

電力が大きく場所を取る CRT から、省電力で省

スペースなフラットパネルディスプレイへと進

化して、それを机上に複数台並べる人も珍しく

ないほどに普及してきた。 このような環境変化にもかかわらずペーパー

レス化は必ずしも進んでおらず、逆に情報流通

量の増大にともなって、電子メールのプリント

のような、一度見ただけで捨ててしまう短寿命

プリントが増加している。このようなプリント

の増加は、環境負荷の観点から、またユーザー

への負担増大の観点から今後問題になると予想

される。 紙文書には、「気軽に持ち運べる」、「書き込

める」、「長い文書はプリントしないと読む気が

しない」、「全体を一覧しやすい」など、ディス

プレイにはない利点があり、これが短寿命プリ

ント増加の原因と考えられる。 このような背景から、紙文書が持つよさと、

保存に場所を取らず、どこからでも瞬時にアク

セス可能で、検索性にも優れ、必要に応じて閲

覧者を制限できる電子文書の利便性とを併せ

持った新たな文書媒体として電子ペーパーの研

究が注目されている[1]。 我々は、コレステリック液晶と有機光導電体

とを用いた“光書込型電子ペーパー”の研究を

進めてきた[2][3][4]。光書込方式は全面一括書

込によって瞬間的に書き換え可能であり、電極

の微細加工や駆動 IC の実装が不要なシンプル

な構造のため、生産性が高く低コストであり、

薄さ、軽さ、フレキシブル性に優れる。このた

め、一度見てすぐ捨てられる短寿命プリントへ

の適性が高く、またオフィス文書以外にもさま

ざまな用途への展開が期待されている。 ところで従来のモノクロ光書込型電子ペー

パーにはコントラスト比が低いという問題が

あった。今回、その原因が表示材料であるコレ

ステリック液晶マイクロカプセルのシェルの配

向規制力にあることを明らかにし、新たに垂直

配向液晶マイクロカプセル技術を開発すること

でコントラスト比を改善した[5]。また、その応

用として、光書込型電子ペーパーと非接触 ICタグと組み合わせた IC カード“Visual Index Card(VIC)”を試作した。さらにこの IC カー

ドを用いて、ファイルサーバー上の特定の文書

とVICとを 1対 1に対応させる新しいドキュメ

ント・ハンドリング・システムを開発した。こ

のシステムを使えば、VIC を専用リーダーに読

ませるだけで、サーバーを経由しデジタル複写

機とパーソナルコンピュータ間の文書移動や、

紙文書の電子化、電子文書の印刷を極めて容易

に行うことが可能となる。

2. 光書込型電子ペーパーの動作原理

図 1 に光書込型電子ペーパーの基本構造を示

す。光書込型電子ペーパーはコレステリック液

晶マイクロカプセル(CLC-MC)層と有機光導

電体(OPC)層とを、透明電極を設けた一対の

フィルム基板間に挟んだ構造を持つ。 光書込操作は、OPC 層へ書込画像を投影しな

がら電極間に電圧を印加して行う。書込画像の

明部分では OPC 層が低抵抗となるため

CLC-MC 層へ高電圧が印加される。一方、書込

画像の暗部分では OPC 層が高抵抗となるため

CLC-MC 層へは低電圧しか印加されない。この

電圧変化を利用して CLC-MC 層へ画像を書き

込む。 コレステリック液晶は螺旋層状に配向した棒

状分子からなり、図 2 に示すように、螺旋軸が

基板面に垂直なプレーナ(P)配向と、螺旋軸

図 1 光書込型電子ペーパーの断面構造図 Cross-sectional drawing of photo-addressable E-Paper

フィルム基板

透明電極

書込画像

コレステリック液晶

マイクロカプセル

(CLC-MC)

有機光導電体

(OPC)

透明電極

フィルム基板

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技術論文

モノクロ光書込型電子ペーパー -液晶マイクロカプセル技術と応用システム-

58 富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005

が基板面と平行なフォーカルコニック(FC)配

向という 2 つの配向状態を有する。P 配向は螺

旋ピッチに一致した波長の入射光をブラッグ反

射するため着色しており、一方、FC 配向は入

射光を素通しするため無着色である。コレステ

リック液晶にパルス電圧を印加すると、ある閾

電圧 Vth 以下では FC 配向が安定であり、それ

以上では P 配向が安定となる。この閾電圧が前

述の電圧変化の範囲内に収まるように、膜厚や

抵抗値等のデバイス・パラメータを設定するこ

とによって、画像を CLC-MC 層内へ書き込む。

P 配向と FC 配向はともに電圧オフ時に安定な

ため、電圧を切っても表示を維持できる。

3. モノクロ用マイクロカプセル技術

3.1. CLC-MC の選択理由 我々が CLC-MC を表示材料に選んだ理由は、

CLC-MC が、1)カラー化が可能である、2)曲

げや押しなどの機械的負荷に対して強い、3)連

続塗布工程で製造できるため生産性が高い、4)良好な白表示が得られる、という4つの利点を

有するためである。以下、これらについて説明

する。 1) カラー化:コレステリック液晶は材料組成

の調整によって三原色(赤、緑、青)を容

易に作製でき、三原色の光書込型電子ペー

パーを積層することでカラー化できる[6]。この積層構成は、高反射率が得られ、微細

加工が不要で製造コストを低くでき、光書

込時に書込画像との位置合わせが不要にな

るというメリットを有する。 2) 高い機械的負荷耐性:液晶ディスプレイの

表面を押すと画像が歪む。これは内部で液

晶が流動して分子配向が乱れるためである。

常に曲げ変形に晒される電子ペーパーでは、

これは致命的な問題となる。我々はマイク

ロカプセル化によって液晶の流動を防止し

てこの問題を解決した。 3) 高い生産性: 液晶ディスプレイは数μm 離

れた 2 枚のガラスの隙間へ液晶を注入する

工程を要するが、この工程は数時間以上か

かる生産性が低い工程である。一方、

CLC-MC 層はフィルム基板を高速で巻き取

りながら連続塗布できるため、高い生産性

で製造できる。 4) 白色性:コレステリック液晶の光反射は、

狭いブラッグ反射バンドを利用しているた

め、通常は着色して見える。これはカラー

表示には都合がよいがモノクロ表示には不

都合である。しかし、CLC-MC ではシェル

の配向規制作用とカプセル間の多重散乱の

ため、図 3 に示すように、可視波長域に大

きく広がった反射スペクトルを示す。この

ためドキュメント表示に適した良好な白色

表示が可能である。

3.2. 低コントラストの原因 CLC-MC には上記のメリットがある一方で、

従来は表示コントラストが低いという問題が

あった。図 4(a)に赤色、緑色、青色の従来の

コレステリック液晶マイクロカプセルの反射ス

ペクトルを示す。FC 配向時の高反射率に起因

して、各反射スペクトルのピーク波長において

コントラスト比は 5:1 と低くかった。当初、こ

の原因として液晶と周囲の高分子との間の屈折

率差に起因した界面反射を疑った。しかし、我々

は各反射ピークを基準とした相対波数を横軸に

とって図 4(a)の反射スペクトルを再プロット

すると、図 4(b)に示すように、赤色、緑色、

プレーナ(P)配向

フォーカルコニック

(FC)配向

基板

基板

コレステリック液晶

入射光 入射光

シェル

図 2 コレステリック液晶の 2 つの配向状態 Two alignment states of cholesteric liquid crystal

0

10

20

30

40

400 500 600 700Wavelength(nm)

Ref

lect

ance

(%)

CLC平行平板セル

CLC-MC cell

図 3 CLC-MC セルとコレステリック液晶を封入した平行平板セルの

明反射スペクトル Reflection spectra of a CLC-MC cell and a flat cell containing cholesteric liquid crystal

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技術論文

モノクロ光書込型電子ペーパー -液晶マイクロカプセル技術と応用システム-

富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005 59

青色の反射スペクトルが一致することを見出し

た。これは反射スペクトルが螺旋ピッチだけで

一意に決定することを意味する。それゆえ、低

コントラストの原因は界面反射ではなく、ブ

ラッグ反射に起因すると結論付けた。 では、なぜ FC 配向時にブラッグ反射が生ず

るのか。我々はカプセルのシェル内壁の配向規

制に起因して螺旋層が歪むことが原因と考えた。

図 5(a)に示すように、FC 配向はコレステリッ

ク螺旋層が基板面に垂直に立つ状態が理想であ

るが、実際にはシェル内壁の配向規制力の影響

で、図 5(b)のようにシェル内壁に沿って湾曲

していると推測される。湾曲した螺旋層は斜め

入射光を反射するため、これが原因でコントラ

スト比が低下するものと思われる。

3.3 垂直配向液晶マイクロカプセル技術

螺旋層がシェル内壁に沿って湾曲する原因は、

シェル材料として用いているポリ尿素が、液晶

分子をシェル表面に平行に配向させる水平配向

性材料だからである。そこでシェル材料を液晶

分子がシェル表面に垂直に配向する垂直配向性

材料に変更することで、コレステリック螺旋層

の湾曲を図 5(c)のように緩和して、コントラ

スト比を改善できるのではないかと仮説を立て

た。この仮説の検証のためシェル材料を垂直配

向性を有するアルキル側鎖で修飾を試みた。 図 6 に垂直配向 CLC-MC の作製手順を示す。

はじめにコレステリック液晶と、シェル原料で

あるポリイソシアネートと、垂直配向剤である

高級アルコールと、有機溶剤とを混合して油相

液を準備した。次に油相液を水相中へ投入・攪

拌して乳化した。最後に加熱してシェル形成反

応させて CLC-MC を得た。ポリイソシアネート

は油相と水相との界面において、式(1)にした

がって水と界面重合反応してポリ尿素からなる

シェルを形成する。 -NCO + H2O+ OCN-

→ -NHCONH- + CO2↑ (1) 垂直配向剤である高級アルコールは、式(2)に

示すように、ポリイソシアネートとウレタン結

合する。これにより垂直配向性のアルキル側鎖

がシェル中へ導入される。 -NCO + HO-R → -NHCOO-R (2)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

400 500 600 700λ(mm)

Nor

mal

ized

Ref

lect

ance

B G R

R G B

(a)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

-1 -0.5 0 0.5 1

1000(1/λ -1/λp)(mm-1)

Nor

mal

ized

Ref

lect

ance

(b)

波長を横軸にプロットしたスペクトル(a)と、反射率ピークに対する

相対波数(波長の逆数)を横軸にプロットしたスペクトル(b)

図 4 従来の CLC-MC セルの反射スペクトル Reflection spectra of a conventional CLC-MC cell

コレステリック螺旋層

(b ) 水平配向 (c)垂直配向

入射光

アルキル側鎖

θ

シェル

セル表面

(a) 理想の FC配向

入射光

セル表面

図 5 FC 配向時のコレステリック螺旋層の配向 Alignment of cholestric helical layer at the FC alignment state

水相

乳化

加熱

コレステリック液晶(λp=640nm)

ポリイソソアネートR1-(NCO)n

有機溶剤

油相液

垂直配向剤高級アルコール

CnH 2n+1 OHCLC-MC分散液

図 6 CLC-MC 作製手順 Preparation procedure of the CLC-MC

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技術論文

モノクロ光書込型電子ペーパー -液晶マイクロカプセル技術と応用システム-

60 富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005

図 7 は垂直配向剤の添加によって垂直配向化

ができたことを示す偏光顕微鏡写真である。配

向の同定を容易にするため、コレステリック液

晶の代わりにネマチック液晶を用いている。配

向剤を添加したカプセルでは直交偏光子下で十

字模様が観察された。これは液晶分子が放射状

に配向していること、すなわち、シェル内面に

垂直に配向していることを意味する。 図 8 は CLC-MC の垂直配向剤添加による反

射スペクトルの変化を表わす。垂直配向剤の添

加によって FC 配向時の反射率を約 1/3 に低減

できた。図 9 は垂直配向剤の添加量に対するコ

ントラスト比の変化を表すグラフである。垂直

配向剤の添加量の増加にともないコントラスト

比は上昇し、最大で 17:1 という高い値をはじ

めて得ることができた。これによって図 10 に示

すように画像の鮮明度を大きく改善することが

できた。表 1 にモノクロ光書込型電子ペーパー

の典型的な仕様を示す。

4. Visual Index Card

光書込型電子ペーパーの用途として、これま

でパーソナルコンピュータ上で取り扱われるビ

ジネス文書やネットワーク等から配信される情

報の記録を想定し開発を行ってきた。現在は、

さらに非接触 IC タグと組み合わせた用途も視

野に入れている。当社では、この非接触 IC タ

グと光書込型電子ペーパーを一体化したリライ

ト表示付カードを、Visual Index Cardと呼び、

そのカードとともに記録装置の開発を行ってい

る。IC タグは、データの書換えが可能で、大容

量のデータを蓄積でき、セキュリティが高いた

め、近年のセキュリティやトレーサビリティへ

の関心の高まりや、one to one マーケティング

の発展にともなって急速に市場が拡大している。

VIC は、IC タグのみでは見ることができない

(b)配向剤あり(a)配向剤なし

従来の CLC-MC を用いたもの(a)と垂直配向 CLC-MC を用いたもの(b)

図 10 光書込型電子ペーパーの外観写真 Photographs of photo-addressable E-Papers using (a) conventional CLC-MC (b) perpendicular aligned CLC-MC

表 1 モノクロ光書込型電子ペーパーの仕様 Spec of B/W photo-addressable E-Paper

反射率 30%以上

コントラスト比 10:1 以上

書込波長 640nm(LED)

書込光量 200mW/cm2

駆動電圧 400v(10Hz)

厚さ 0.3mm

書換時間 1 秒以下

書換寿命 10,000 回以上

解像度 600dpi

PA

(a)配向剤なし (b)配向剤あり

RadialBipolar

図 7 直交偏光子下で観察したネマチック液晶マイクロカプセル

Microphotographs of microcapsule containing nematic liquid crystal using cross-polarizer

0

5

10

15

20

0 2 4 6配向剤添加量

(ポリイソシアネートに対する相対重量%)

コン

トラ

スト

図 9 垂直配向剤の添加量とコントラスト比の関係

Relationship between contrast ratio and perpendicular alignment reagent

図 8 CLC-MC セルの反射スペクトル Reflection spectra of CLC-MC cell

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

400 500 600 700波長(nm)

規格

化反

射率

P

FC

配向剤あり

配向剤なし

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技術論文

モノクロ光書込型電子ペーパー -液晶マイクロカプセル技術と応用システム-

富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005 61

IC チップ内の電子情報が、目視で確認できるよ

うになるため、ユーザーの利便性を向上できる。

非接触 IC タグは数万回以上の書換寿命が通常

保証されており、表示部の耐久性がないと、コ

ストの高い非接触 IC タグを無駄にする。その

点、光書込型電子ペーパーは 1 万回以上の書換

寿命があるので、数百回しか書換えできない従

来の感熱表示より有利であり、一般的な用途に

おいて十分な寿命を保証できる。また光照射に

より非接触で画像の記録が行えるので、汚れな

どの信頼性面でも有利である。 我々は、工場の工程管理、流通管理、物流管

理などの用途を想定して A4 サイズの VIC と書

込装置を試作している。その写真を図 11 に示す。

今回はそれより小型のクレジットカードサイズ

の VIC を試作した。図 12 にその写真を示す。

この VIC の用途は、交通機関の乗車券、ID カー

ド、会員証、診察券、クレジットカードなど広

範囲に存在する。基本仕様を表 2 に示す。非接

触 IC 部分には、ISO15693 規格に対応したチッ

プを採用し、メモリ容量 128 バイト、発信周波

数は 13.56MHz である。光書込型電子ペーパー

部分は、前項で説明したモノクロ表示媒体を

カードの中に実装し、表示エリアは 37×44mmである。

5. 書込装置

VIC には、光書込電子ペーパーへの画像の記

録と IC タグへのデータの読み書きとを行う書

込装置が必要である。今回、社外のパートナー

と共同でこれを開発した。試作した書込装置の

ブロック構成図を図 13 に、概観写真を図 14 に

示す。また書込装置の基本仕様を表 3 に示す。

図 11 A4 サイズ VIC のプロトタイプ

Prototype of A4-size VIC

図 12 クレジットカードサイズ VICVIC with credit card size

表 2 Visual Index Card の仕様 Spec of Visual Index Card

サイズ 54×85.7mm

厚み 0.93mm

重量 5.2g

書換寿命 1 万回以上

表示エリア 37×44mm

メモリ容量 128 バイト

発信周波数 13.56MHz

記録装置

液晶パネル

光源(LED)

非接触ICRW

電子ペーパー

駆動パルス発生回路

制御回路

搬送機構

制御信号

電源

電子ペーパー

記録装置

液晶パネル

光源(LED)

非接触ICRW

電子ペーパー

駆動パルス発生回路

制御回路

搬送機構

制御信号

電源

電子ペーパー

図 13 記録装置のブロック図 Building blocks of the recording device

図 14 記録装置 Recording device

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技術論文

モノクロ光書込型電子ペーパー -液晶マイクロカプセル技術と応用システム-

62 富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005

光源には、OPC 層に感度のある赤色 LED(ド

ミナント波長 625nm)を、空間光変調器には、

携帯電話用液晶パネル(対角 2.2 インチ、画素

数 320×240 画素)を使用した。光書込電子ペー

パーの駆動に必要な電気パルスの発生回路、装

置の制御回路、VIC に実装されている非接触 ICタグを読み書きする非接触 IC リーダーライタ

を内蔵している。記録装置は、これらの機能を

搭載し、厚み 36mm、幅 100mm、奥行き 130mm、

重量 404g で、各種機器への組み込みを可能に

している。装置の寿命は、50 万回パス(パスは、

挿入と排出の組み合わせ)である。

6. 用途、“ドキュメントハンドリングシステム”

当社では電子ペーパーを、人が手に触れるこ

とができるリアルな世界と、バーチャルな電子

の世界とを連携させるツールと位置づけている。

そこで、このコンセプトを実現する用途として、

VIC を用いて文書を操作するドキュメントハン

ドリングシステムを提案している。 このシステムは基本的に、VIC を媒体にする

ことで紙文書と電子文書を容易に連携させる。

図 15 に全体の構成図を示す。まず、紙文書から

電子文書への連携は以下のようなシーンを想定

している;(1)紙文書を電子化し、その電子文

書を VIC で持ち運ぶ。あるいは他のユーザーに

渡す(Scan To Card)、(2)次に、その VIC で

持ち運びされているもしくは他のユーザーから

渡された電子文書を、必要に応じて PC で利用

する(Card To PC)。逆に、電子文書から紙文

書への連携は以下のようなシーンを想定してい

る;(3)PC 上の電子文書を、VIC に格納し持

ち運ぶ。あるいは他のユーザーに渡す(PC To Card)、(4)次に VIC に格納された文書を、必

要に応じて紙に出力する(Card To Printer)。 実際の動作は以下のようになる。

(1) Scan To Card (図 15① VIC と紙文書の関連付け) ユーザーは、デジタルカラー複合機に、

空の VIC(VIC の IC 部及び表示部が初期

化された状態)をセットし、紙文書を読

み込む。あとは自動的に、紙文書は電子

化され、Web 対応情報共有ソフトウエア

「DocuShare」が管理するファイルサー

バー(DocuShare サーバー)に格納され

る。同時に、VIC の IC 部にはその格納先

情報が記録され、VIC の表示部には、読

み込み日時、ファイルサイズ、読み込み

データの縮小画像が記録される。VIC に

縮小画像を表示することで、ユーザーは

VIC に関連付けられた文書が何であるか

がひと目で理解できる。IC 部に格納先情

報が記録されているので、VIC から電子

文書を呼び出すことができ、データが

VIC に記録されていることとほぼ等しい

状態を実現できる。 (2) Card To PC

(図 15② 紙文書の電子的利用) ユーザーは、紙文書が関連付けられた

VIC を PC に接続されたカードリーダー

ライタにセットする。あとは自動的に、

VIC に記録されている格納先情報を利用

して、DocuShare サーバーから紙文書の

電子版が PC にダウンロードされ表示さ

れる。同時に VIC の IC 部及び表示部を

初期化し、再利用できる状態にする。こ

の様に、単にカードをやりとりするだけ、

複雑な操作もなく誰でもが簡単に紙文書

表 3 記録装置の仕様 Spec of recording device

サイズ 100×130×36mm

重量 404g

動作温度 0~50℃

消費電力 15W 以下

装置寿命 50 万回パス

記録エリア 対角 2.2 インチ

解像度 320×240 ピクセル

図 15 ドキュメントハンドリングシステム

Document handling system

Page 8: Z 6 .X.. - 富士ゼロックス株式会社/Fuji Xerox Co., Ltd.Š€術論文 56 富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005 モノクロ光書込型電子ペーパー

技術論文

モノクロ光書込型電子ペーパー -液晶マイクロカプセル技術と応用システム-

富士ゼロックス テクニカルレポート No.15 2005 63

を電子化して取り扱うことができる。 (3) PC To Card

(図 15③ VIC と電子文書の関連付け) ユーザーは、空の VIC を PC に接続され

たカードリーダーライタにセットする。

すると自動的に、PC の画面上に、ウイン

ドウが表示される。ユーザーは、そのウ

インドウに電子文書をドラッグアンドド

ロップする。あとは自動的に、電子文書

は、DocuShare サーバーに格納され、VICの IC 部に格納先の情報が記録される。同

時に、VIC の表示部には、操作日時、ファ

イルサイズ、データの縮小画像が記録さ

れる。先ほどと同様、縮小を表示するこ

とで、関連付けられた文書が何であるか

がひと目で理解できると同時に、電子文

書の呼び出しが可能になる。 (4) Card To Printer

(図 15④ VIC から紙文書の作成) 次にこのカードを、デジタルカラー複合

機にセットする。あとは自動的に、

DocuShare サーバーに格納された電子文

書がデジタルカラー複合機にダウンロー

ドされプリントアウトされる。 この様に VIC を媒体とすることによって、複

雑な操作を行わずに、誰でも簡単に、紙文書と

電子文書の間をシームレスに連携することがで

き、必要な文書を必要なときに簡単に呼び出す

事が可能になる。これにより、目指していたリ

アルな世界とバーチャルな電子の世界との橋渡

しが可能になる。

7. むすび

光書込型電子ペーパーの液晶マイクロカプセ

ル技術と、これと非接触 IC タグとを組み合わ

せた“Visual Index Card”、および Visual Index Card を用いたドキュメント・ハンドリング・シ

ステムを紹介した。VIC は富士ゼロックスが目

指す「知の創造と活用」をすすめる新たなツー

ルとして大いに期待される。今後は、これらの

商品化へ向けて邁進するとともに、何度でも瞬

時に書換えできる特長を活かして、さまざまな

用途を開拓していきたい。

8. 参考文献

1) 面谷信 ,デジタルペーパーのコンセプト整

理と適用シナリオ検討 ,日本画像学会誌第

40 巻 ,214 (2001) 2) 有澤宏ほか, “コレステリック液晶を用い

た電子ペーパー:有機感光体による光画像

書き込み”, Japan Hardcopy 2000, 89 (2000)

3) S.Yamamoto et al., “A Novel Photoaddressable Electronic Paper Utilizing Cholesteric LC Microcapsules and Organic Photoconductor”, SID’ 01 DIGEST, 362-365 (2001)

4) 有澤宏,原田陽雄,”光アドレス電子ペー

パー”,富士ゼロックス・テクニカルレポー

ト,No.14,89 (2002) 5) N.Hiji et al., “Cholesteric Liquid Crystal

Micro-Capsules with a Perpendicular Alignment Shell for Photo-Addressable Electronic Paper”, SID 05 DIGEST, 1560(2005)

6) 原田陽雄ほか, “コレステリック液晶を用

いた電子ペーパー:積層型カラー表示層の

外部駆動”, Japan Hardcopy 2000, 93 (2000)

筆者紹介

氷治 直樹 1989 年入社。TFT 駆動 EL 表示技術、反射型

液晶表示技術などの研究に従事。1999 年から

光書込型電子ペーパーの研究に従事しており、

現在はその液晶マイクロカプセル化技術を担

当。SID 会員、日本液晶学会会員、応用物理学

会会員。

石井 努 1988 年入社。フルカラー熱転写記録技術、ホ

ログラムメモリ技術などの研究に従事。2000年から光書込型電子ペーパーの研究に従事し

ており、現在は記録装置の研究開発を担当。応

用物理学会会員。