博論・修論を肴に研究会 2014.7.11

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修論 研究会 2014.7.11 @四谷ひろば 2014年 千葉大学大学院 修了 阿部 学 博士(学術)

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博論・修論を肴に研究会2014.7.11 @四谷ひろば

2014年 千葉大学大学院 修了

阿部 学 博士(学術)

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‣ 秋田県秋田市 に生まれる。‣ 2001年、千葉大学 入学。 いろいろあって……  2014年、千葉大学 卒業。

‣ 現在、千葉大学大学院人文社会科学研究科 特別研究員千葉大学教育学部 非常勤講師(中高の教職科目)日本大学経済学部 非常勤講師(留学生教育)NPO法人企業教育研究会 理事 など

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もうちょっと詳しいワタシの履歴書‣ 2001年 入学千葉大学教育学部 中学校教員養成課程 教育基礎系(社会科)

‣ 2005年 入学千葉大学大学院教育学研究科 カリキュラム開発専攻    修士論文 ミュージシャンによる歌づくりの授業          ―中学校段階における表現活動のカリキュラム開発―

‣ 2006年 ある幼稚園に出会い、平手で横面を打たれる!

‣ 2007年 入学千葉大学大学院人文社会科学研究科 公共研究専攻 公共教育分野

‣ 2014年 やっと修了 博士(学術)   博士論文 ある「自由保育」実践のエスノグラフィー         ―〈リアリティ―ファンタジー〉構造の再検討―

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研究のパースペクティブ(強さ!と弱さ…)

‣ 保育の「ホ」の字も分からないところからスタート。「保育の、保育による、保育のための研究」…とは違うカモ。

‣ う~ん、これは、「博論執筆のエスノグラフィー」?

‣ 博論を書いてなお、関心は保育「だけ」ではない。むしろ、博論の成果を授業づくり「にも」応用したい。

‣ 保育―授業の違いより、面白い―面白くないの違いが関心事。自分が惹かれる「何か」が、違ったかたちで表れているだけ?  ex. 佐藤郁哉 氏   『暴走族のエスノグラフィー』   『現代演劇のフィールドワーク』『本を生みだす力』

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ある「自由保育」実践のエスノグラフィー―〈リアリティ―ファンタジー〉構造の再検討―

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千葉県市川市私立A幼稚園

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お話の舞台、A幼稚園‣ 1957年創設。千葉県市川市に所在。‣ 創設者の村谷壮一郎(1926~2000)は、デザイナーであり画家でもあった。幼児の画塾から、幼稚園に。

‣ 造形活動を重視しているが、技法を教え込みプロを育てようという理念ではない。

‣ 1975年頃、「一斉保育」から「自由保育」へ。試行錯誤を繰り返しながら独自の実践が行われてきた。

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年長の保育室

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何か建ってる?

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「おうち」

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「おみせ」

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リアリティの追求

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「まち」

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子どもの「おみせ」は毎年違う⇢毎年違う「まち」が生まれる

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問いの射程‣ 面白い! …けれど、この実践をどう解せばいいのか? …既存の学習・発達理論にあてはめるだけで良いのか?

‣ 問いを反転⇢A幼稚園の実践は、いかなる特徴をもつものであり、いかなる意味において既存の保育実践研究からは捉え難いものであり、そしてそれらに示唆を与えうるのか?

‣ 実証的アプローチでなく、長期の参与観察をとおして考えていく(2008年~2013年)ちなみに、最初はかなり苦労した…

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これまでの保育実践研究とA幼稚園‣ A幼稚園に関するの先行研究(新垣2008) ⇢A幼稚園の実践と他の研究の文脈にふれる必要

‣ 保育研究における「実践性の高まり」(無藤2003) ⇢「客観的科学」から「人間学」へ(柴崎1997)  「参与観察」「分厚い記述」「省察」で  「特定の園文化の枠組み」をときほぐそう (森上1994)

‣ 保育実践に関する具体的な先行研究 ⇢結城(1998)は集団生活を維持する仕組みを研究  遊びや活動の実態には踏み込まない ⇢日本の保育は多様な要素に分類される(Holloway2000)

‣ A幼稚園の特徴を包括的に語れる言葉を探そう!

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拡散する「自由保育」言説‣ 過去の「自由保育」言説とA幼稚園はどうむすびつくか?‣ 辞書的な意味は「子どもの自由な活動を尊重する 保育理念に基づく保育」(田代2008)

‣ 他方、「自由保育」をめぐる混乱が… ⇢自由vs放任? …「自由保育」では何も語れない?  一方で「本来の自由保育」(森上1994)が想定される  「子ども中心」の保育のため、子どもの内面理解を!? ⇢「心理学的アプローチ」だけでいいのか?(加藤1993) ⇢「自由保育」の構造は明らかにされていない。

‣ A幼稚園は、久保田浩の影響を受けているというが…。‣ 理念でなく、具体的に実践を指し示せる言葉を探そう!

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「ごっこ遊び」におけるリアリティとファンタジー

‣ あえて考える:A幼稚園も大がかりな「ごっこ遊び」?‣ 「ごっこ遊び」は、リアリティとファンタジーの関係から考察されている。多くは、子ども個々の虚構の認知能力に注目(高橋1993;麻生1996)

‣ リアリティの側面は軽視されている?ex.1977年のショッピングセンター(Garvey1977)と2014年のショッピングセンターは同じか?⇢言語レベルでの研究の限界

‣ 八木(1992)は「ごっこ遊び」実践の構造を明らかにしようとしている。⇢本研究の関心と近いのでは?

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現実世界

虚構世界

道具・物・場所・人…

八木(1992)を参考「ごっこ遊び」の基本構造

さて:A幼稚園はこの「二重構造」で捉えきれるか?   虚構というにはあまりに現実的? 逆もしかり?   ⇢より複雑な構造を想定し、実践をみてみたらどうか

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参与観察事例「IKEA」

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最初のうちは…

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転機となった「IKEA会議」‣ 「遠足型消費」型ごっこ遊びは、魅力的だが難しい? ・地理的な要因 ・「必ずしも必要ではないもの」をつくる ・「雰囲気」づくり ・体験的な要素

‣ そこで!「IKEAにある物をもっとつくろうよ!」「みんなが使う物を売ろうよ!」 ⇢二重の意味で、「大人の真似」?

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現実世界

虚構世界

道具・物・場所・人…

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実在のIKEA

子どもたちの「IKEA」

子ども

IKEA以外

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リアリティとファンタジーという言葉‣ 暫定的に用いたこの言葉。基本的には、言及の仕方は立場によって変わる。

‣ IKEAを再現しよう ⇢大人からすればファンタジー‣ 一方、「IKEA」をIKEAに近づけることは、子どもにとってのリアリティ(時間、空間)

‣ しかし、リアリティ一辺倒ではうまくいかない。‣ なお、「IKEA」とIKEAの区別はついている。「あのイケア」と「このイケア」リアリティを追求しつつ、ファンタジーを受容している。「かさなっている」という捉え方。

‣ 認識のかさなりの複雑さを前提に、さらに別の事例を。

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参与観察事例「メディア遊び」

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参与観察事例「しんぶんしゃ」「アナウンサー」

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リアリティ内の存在

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実社会の新聞記者編集長 記者 取材

メモ帳カメラ

コメント

記事分担

その他

「しんぶんしゃ」

K記者の選択

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編集長制度はなじまなかった。が。‣ 基本的には5歳児には、「必要なかったんだろうね」 ⇢好きに記事を書いていた方が楽しい。

‣ ただし、「カンのいい子」であるFちゃんならできたかも。‣ 「◯◯の活動は全員には難しいからやめよう」ではなく、少数の「カンのいい子」と「フォローをする子」がいれば、集団として継続できる活動になる。全員で足並みを揃えない方が、活動が深まっていく。

‣ 発達段階より、「時と場合」で判断。‣ (もちろん、人間関係も影響する。)

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Hさんのおかげで特定の子どもたちは充実した時間を過ごせました。

⇢でも、Hさんって誰?

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先生

アナウンサー

「H先生っていう アナウンサー」

子ども

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「先生」

「アナウンサー」

「H先生っていう アナウンサー」

子ども

アナウンサー

先生

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Hさんのおかげで特定の子どもたちは充実した時間を過ごせました。

⇢でも、Hさんって誰?

⇢子どもに接する私は誰? 大人もごっこ遊び?  ex. 先生―子どもの固定関係でなく「難問の前では皆平等」

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要点をまとめます。話せば話すほど、どんどん複雑になっていきますね。

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A幼稚園における〈リアリティ―ファンタジー〉構造の多層性(1)基本理念としてのリアリティ追求

(2)リアリティの選択

(3)リアリティ認識の多様性、それらをまとめるファンタジー

(4)保育者のリアリティ認識

(5)リアリティの多層性、リアリティ内の存在とのかかわり

(6)〈リアリティ―ファンタジー〉の多層化としての活動の展開

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(1)基本理念としてのリアリティ追求

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(2)リアリティの選択

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(3)リアリティ認識の多様性、それらをまとめるファンタジー

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(4)保育者のリアリティ認識

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(5)リアリティの多層性、リアリティ内の存在とのかかわり

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(6)〈リアリティ―ファンタジー〉の多層化としての活動の展開

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「まち」

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なぜ、リアリティとファンタジーがかさなっていくのか?

‣ 豊富な「リソース」 ⇢「倉庫」にはすぐに使える素材がある ⇢ないものも、用意する

‣ 「リミッター」をはずす ⇢「幼児だからダメ」「みんな一緒」ではない ⇢「去年これくらいだったからこれでOK」もない

‣ 小さな「ワクワク感」「子どもの夢は3日くらい」 ⇢「果てない夢」「一大プロジェクト」ではない  ⇢リアリティを強要してはいない

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なぜ〈リアリティ―ファンタジー〉構造が重要か‣ 「ごっこ遊び」におけるリアリティ軽視  ⇢子どもが見ているものを見ているか?  ⇢特に継続的な活動をする際への示唆

‣ 「自由保育」における「子ども中心」の意味  ⇢A幼稚園では誰が中心? 中心が無数にないとダメ?  ⇢ポリフォニー(Wertsch1991)的理解の可能性   違う音を重ねる、チューニングし、響かせる。

‣ 〈リアリティ―ファンタジー〉構造は複雑で分かりづらい  ⇢分かること、見えやすいことはいいことなのか?   ひとりひとりの心理も複雑、実践の構造も複雑   単純化した理解を省察。捉え難さから「質」を。

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課題やら展望やら‣ 「異質原理」にもとづく実践。社会ネットワーク分析の分野との接点を見いだせないか?

‣ 「おうち」の物理的意味。たとえば「引っ越し」‣ ファンタジーの面についてもっと考えたい。たとえば、林間保育。‣ 豊かな自然型でない園の工夫の仕方として提案。‣ この子たちは小学校でどうなる?‣ 〈リアリティ―ファンタジー〉構造の他分野への応用。たとえば、幼小連携、教材づくり。

‣ 〈リアリティ―ファンタジー〉構造を語る言語の問題を乗り越える。記号論、物語論、種々のメタファー、ゲーミフィケーション…。

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ある「自由保育」実践のエスノグラフィー―〈リアリティ―ファンタジー〉構造の再検討―

おしまい