主要産業の動向と fta の影響 - jbic

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22 主要産業の動向と FTA の影響 155 主要産業の動向と FTA の影響 ベトナムの主要産業 実質 GDP でみたベトナムの産業構成比(2018 年)は、第 1 次産業が 14.3%、第 2 次産業が 35.6%、 3 次産業が 38.8%、生産上の課税補助金(Products taxes subsidies on production)が 11.3%となっ ている(図表 22-1)。比較可能な 2010 年との比較でみると、「製造業」(12.9%→18.3%)と「卸売・ 小売業」(8.0%→9.7%)の構成比が相対的に上昇し、「第 1 次産業」(18.4%→14.3%)が低下して いる。 図表 22-1 を基に次節以降、ベトナムの主要産業として、製造業では「二輪車」、「自動車」、「食 品加工」、2008 年以降の貿易収支改善に最も貢献した「携帯電話」、米国向け輸出が増加している 「縫製」、卸売・小売業ではベトナム独特のエコノミック・ニーズ・テスト(Economic Needs TestENT)の要件が残るものの日系企業の進出が増えた「小売業」を取り上げ、業界動向を詳述する。 図表 22-1 ベトナムの産業構成比(実質) (出所)ベトナム統計総局より作成 (金額:兆ドン) 2010 2018 (年率) 2010 2018 全体 2,158 3,493 6.2% (100.0%) (100.0%) ( - ) 第1次産業 397 501 3.0% (18.4%) (14.3%) (-4.0%) 第2次産業 693 1,242 7.6% (32.1%) (35.6%) (+3.4% ) 鉱業・採石業 205 208 0.2% (9.5%) (5.9%) (-3.5%) 製造業 279 640 10.9% (12.9%) (18.3%) (+5.4% ) 公益業 77 170 10.4% (3.6%) (4.9%) (+1.3% ) 建設業 133 224 6.8% (6.1%) (6.4%) (+0.3% ) 第3次産業 797 1,355 6.9% (36.9%) (38.8%) (+1.8% ) 卸売・小売 173 339 8.8% (8.0%) (9.7%) (+1.7% ) 運輸・倉庫 62 102 6.5% (2.9%) (2.9%) (+0.1% ) ホテル・レストラン 78 131 6.8% (3.6%) (3.8%) (+0.2% ) 情報・通信 20 38 8.5% (0.9%) (1.1%) (+0.2% ) 銀行・保険 117 202 7.2% (5.4%) (5.8%) (+0.4% ) 不動産 132 169 3.2% (6.1%) (4.8%) (-1.3%) 専門サービス 28 48 7.0% (1.3%) (1.4%) (+0.1% ) 公共サービス 55 94 6.9% (2.6%) (2.7%) (+0.1% ) 教育・訓練 50 89 7.4% (2.3%) (2.5%) (+0.2% ) その他サービス 83 142 6.9% (3.9%) (4.1%) (+0.2% ) 生産課税補助金 271 396 4.9% (12.5%) (11.3%) (-1.2%) 2010年基準 構成比 (差分)

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Page 1: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

155

主要産業の動向と FTA の影響

ベトナムの主要産業

実質 GDPでみたベトナムの産業構成比(2018 年)は、第 1 次産業が 14.3%、第 2 次産業が 35.6%、

第 3 次産業が 38.8%、生産上の課税補助金(Products taxes subsidies on production)が 11.3%となっ

ている(図表 22-1)。比較可能な 2010 年との比較でみると、「製造業」(12.9%→18.3%)と「卸売・

小売業」(8.0%→9.7%)の構成比が相対的に上昇し、「第 1 次産業」(18.4%→14.3%)が低下して

いる。

図表 22-1 を基に次節以降、ベトナムの主要産業として、製造業では「二輪車」、「自動車」、「食

品加工」、2008 年以降の貿易収支改善に最も貢献した「携帯電話」、米国向け輸出が増加している

「縫製」、卸売・小売業ではベトナム独特のエコノミック・ニーズ・テスト(Economic Needs Test:ENT)の要件が残るものの日系企業の進出が増えた「小売業」を取り上げ、業界動向を詳述する。

図表 22-1 ベトナムの産業構成比(実質)

(出所)ベトナム統計総局より作成

(金額:兆ドン)  2010 2018 (年率) 2010 2018全体 2,158 3,493 6.2% (100.0%) (100.0%) ( - )

第1次産業 397 501 3.0% (18.4% ) (14.3% ) (-4.0% ) 第2次産業 693 1,242 7.6% (32.1% ) (35.6% ) (+3.4% )

鉱業・採石業 205 208 0.2% (9.5% ) (5.9% ) (-3.5% ) 製造業 279 640 10.9% (12.9% ) (18.3% ) (+5.4% ) 公益業 77 170 10.4% (3.6% ) (4.9% ) (+1.3% ) 建設業 133 224 6.8% (6.1% ) (6.4% ) (+0.3% )

第3次産業 797 1,355 6.9% (36.9% ) (38.8% ) (+1.8% ) 卸売・小売 173 339 8.8% (8.0% ) (9.7% ) (+1.7% ) 運輸・倉庫 62 102 6.5% (2.9% ) (2.9% ) (+0.1% ) ホテル・レストラン 78 131 6.8% (3.6% ) (3.8% ) (+0.2% ) 情報・通信 20 38 8.5% (0.9% ) (1.1% ) (+0.2% ) 銀行・保険 117 202 7.2% (5.4% ) (5.8% ) (+0.4% ) 不動産 132 169 3.2% (6.1% ) (4.8% ) (-1.3% ) 専門サービス 28 48 7.0% (1.3% ) (1.4% ) (+0.1% ) 公共サービス 55 94 6.9% (2.6% ) (2.7% ) (+0.1% ) 教育・訓練 50 89 7.4% (2.3% ) (2.5% ) (+0.2% ) その他サービス 83 142 6.9% (3.9% ) (4.1% ) (+0.2% )

生産課税補助金 271 396 4.9% (12.5% ) (11.3% ) (-1.2% )

2010年基準 構成比

(差分)

Page 2: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

ベトナムの投資環境

156

自動車

需要が増す中、政府の自動車政策の方向性とビンファストが注目される

アジア諸国の経験則では、1 人あたり GDP が 3,000 ドルから 5,000 ドルの範囲に成長すると、

乗用車普及率が急拡大する傾向にある。2018 年のベトナムの 1 人あたり GDP は 2,551 ドルである

ことから、この経験則に基づくとまだ自動車市場は萌芽期の段階となる。2018 年の自動車販売台

数は 28.8 万台と、インドネシア(115.1 万台)、タイ(104.2 万台)、マレーシア(59.9 万台)に比

べて市場規模はまだ小さいが、フィリピン(35.7 万台)の販売台数に近づいている。

2012~2016 年にかけて販売台数は前年比 2~5 割のペースで増加したが、2017~2018 年は輸入

関税率や国内生産車保護規制の影響で、増勢の基調は一旦鈍化した。座席数が 24 席未満且つ部品

の 40%が ASEAN 諸国内で生産された自動車に対する関税率は、2016 年 1 月に 50%から 40%に、

2017 年 1 月には 30%に引き下げられ、2018 年 1 月には完全撤廃されたが、2017 年の第 4 四半期

には輸入関税率撤廃を前にした買い控えが生じ、販売が鈍化した。

2018 年は、関税の撤廃で需要は回復したものの、完成車輸入に他国政府が発行する認可証取得

を義務付けられたことで、輸入が停滞してしまった。2017 年 10 月に公布・施行された政令 116号(Decree 116/2017/ND-CP)で、完成車を輸入する場合、輸入者が「検査時に他国政府が発行す

る認可証を提出すること」や「輸入ロット(1 船)ごと・車両仕様別に交通運輸省登録局による

排気量と安全性能検査を行うこと」等を義務付けられた影響が大きかった。

完成車メーカーの輸入販売体制は 2018 年後半には整ったものの、当該政令 116 号に対する改善

要望は根強い。2019 年 9 月時点、政令 116 号は改正草案で輸入ロット毎の性能検査を通関後にす

る等の措置が検討されているが、事業者からは一層の改正を求める声も強い模様である。

図表 22-2 完成車の販売台数と生産台数の推移

(出所)ベトナム自動車製造協会(VAMA)、ASEAN AUTOMOTIVE FEDERATION より作成

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50

100

150

200

250

300

07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18

(1,000台)

(暦年)

販売台数 生産台数

Page 3: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

157

販売台数に比べ、生産台数は伸びていない。2018 年のベトナムの生産台数は 20.0 万台と、過去

最高だった 2016 年の 23.6 万台に比べて約 15%減少している(図表 22-2)。主な要因は商用車生産

の落ち込みである。ASEAN Automotive Federation の統計に基づくと、ベトナムの商用車の生産台

数は 2016 年の 9.0 万台から 2018 年には 5.7 万台へと 3.3 万台の減少となっており、これは当該期

間中の自動車生産台数の減少台数(3.6 万台)にほぼ匹敵する。

自動車に対する需要が増え、且つ ASEAN 域内からの完成車輸入の関税率が撤廃された環境に

あって、今後はベトナム政府の自動車政策の方向性と、2019 年に自動車市場に本格参入したビン

グループのビンファスト(VINFAST)の動向が注目される。

2019 年 9 月時点の現地報道等によると、政府は今後、新たな自動車産業の振興策を策定する方

針の模様である。これまでは、2014 年 7 月に決定した「2025 年までのベトナム自動車産業発展戦

略及び 2035 年までのビジョン」(1168/QD-TTg)や、2016 年 2 月に公布・施行された「自動車産

業発展計画・支援政策に関する首相決定(229/QD-TTg)」に、政府の方針が表れていた。

「2025 年までのベトナム自動車産業発展戦略及び 2035 年までのビジョン」には、国内自動車

産業の生き残り戦略、その目標及び方向性等が含まれている。例えば、乗用車分野の戦略を「交

通インフラや国民の収入に適した小型で燃費の良い車種に集中する」等と規定し、国内生産台数

(2020 年:約 23 万台、2025 年:約 47 万台、2035 年:約 153 万台)や自動車生産に対する国内

製造加工額の比率(乗用車の例、2020 年:30~40%、2025 年:40~45%、2035 年:55~60%)

が具体的な目標として挙げられた。

また、2016 年 2 月に施行された「自動車産業発展計画・支援政策に関する首相決定」では、優

遇措置を受けられる企業の条件等が規定された。優遇措置が受けられる条件は、年間 5 万台以上

の優先車種の製造能力を持つ企業や、重点部品(エンジン、ギアボックス、トランスミッション)

を生産する企業とされている。優先車種には、①1,500cc 以下で 9 人乗り以下の低燃費で購入しや

すい低価格の小型乗用車、②3t 以下の農業用小型多目的トラック、③農業用作業車、④近・中距

離バス、等が挙げられている。優遇措置の詳細は規定されていないが、「首相が決定する割合での

法人税の優遇」、「土地に関する優遇」、「機械・設備の輸入関税の優遇」、「トランスミッション、

ギアボックス、スペアパーツ等の輸入関税の優遇」等が、方針として示されている。

しかし、乗用車の現地調達比率は 1~2 割程度に留まる等、これまでのところは政府が期待する

程の自動車産業の発展には至っていない。

国産自動車メーカーのビンファストの動きは、今後一層注目を集めるものと思われる(ビング

ループの概要等については、「22 章 主要産業の動向と FTA の影響」内のひとくちメモ「事業領域

の拡大・強化を進めるビングループ」、「23 章 最近のトピックス」参照)。ビンファストは、製品

の開発や工場の運営でドイツ企業をパートナーに選び、2025 年には年産 50 万台の規模に拡大さ

せ、東南アジアでの自動車製造のリーディングカンパニーとなることを目指している。

但し、現地日系企業の中には、「同社が電気自動車に絞るならば勝機はあるかもしれないが、ガ

ソリン車や電動バイク等、投資負担の大きい事業を同時に手掛ける点が事業運営上のリスクとな

るのではないか」と指摘する企業が多かった。

Page 4: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

ベトナムの投資環境

158

セダンの人気が高い国内市場

ベトナムの自動車販売の特徴は、セダンの比率が高いことである。ベトナム自動車製造協会

(Vietnam Automobile Manufacturer Association:VAMA)の自動車販売統計は、2015 年にカテゴリー

の定義を変えたため過去との比較は難しいものの、国内自動車販売台数の推移をみると、乗用車

の構成比が上昇している。2018 年の乗用車の構成比は 69.4%と比較可能な 2015 年の 56.2%から

大幅に上昇している(図表 22-3)。

乗用車のカテゴリーの中ではセダンの人気が高い。セダンは乗用車販売台数の半分程度を占め

ている。次いで販売台数の多いのがスポーツ・ユーティリティ・ビークル(Sport Utility Vehicle:SUV)、ミニバン(Multi Purpose Vehicle:MPV)である。SUV は乗用車の約 2 割、MPV は約 1 割

に相当している。

図表 22-3 タイプ別にみた国内販売台数の推移

(出所)ベトナム自動車製造協会(VAMA)より作成

2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 20181 合計(MBV & Lexus含む) 110,938 80,630 96,692 135,774 208,548 271,820 250,612 276,234

(前年比)  - -27.3% +19.9% +40.4% +53.6% +30.3% -7.8% +10.2%

2 合計(MBV & Lexus除く) 108,642 78,522 94,963 130,309 (前年比)  -2.5% -27.7% +20.9% +37.2%

3 乗用車 41,031 26,203 34,349 46,547 117,270 159,496 146,989 191,634 (構成比)  (37.8% ) (33.4% ) (36.2% ) (35.7% ) (56.2% ) (58.7% ) (58.7% ) (69.4% )

4 多目的車 11,103 5,708 7,454 8,960 - - - - (構成比)  (10.2% ) (7.3% ) (7.8% ) (6.9% )

5 SUV 11,620 11,218 16,337 21,438 - - - - (構成比)  (10.7% ) (14.3% ) (17.2% ) (16.5% )

6 商用車 44,888 35,393 36,823 53,292 81,310 98,950 93,457 78,813 (構成比)  (41.3% ) (45.1% ) (38.8% ) (40.9% ) (39.0% ) (36.4% ) (37.3% ) (28.5% )

7 小型バス、バス 4,865 4,638 5,845 8,774 69,132 84,180 80,974 68,451 (構成比)  (4.5% ) (5.9% ) (6.2% ) (6.7% ) (33.1% ) (31.0% ) (32.3% ) (24.8% )

8 トラック、バン 40,023 30,755 30,978 44,518 12,178 14,770 12,483 10,362 (構成比)  (36.8% ) (39.2% ) (32.6% ) (34.2% ) (5.8% ) (5.4% ) (5.0% ) (3.8% )

9 特別目的車 - - - - 9,968 13,374 10,166 5,787 (構成比)  (4.8% ) (4.9% ) (4.1% ) (2.1% )

 【参考】構成比は「3.乗用車」を基に算出

3-1 セダン - - - - 67,239 78,919 72,946 98,395 (構成比)  (57.3% ) (49.5% ) (49.6% ) (51.3% )

3-2 SUV - - - - 28,636 32,443 31,072 35,641 (構成比)  (24.4% ) (20.3% ) (21.1% ) (18.6% )

3-3 クロスオーバー車 - - - - 1,557 8,830 9,003 12,243 (構成比)  (1.3% ) (5.5% ) (6.1% ) (6.4% )

3-4 MPV - - - - 11,543 16,622 15,301 20,269 (構成比)  (9.8% ) (10.4% ) (10.4% ) (10.6% )

3-5 ハッチバック - - - - 3,207 16,004 11,275 13,767 (構成比)  (2.7% ) (10.0% ) (7.7% ) (7.2% )

3-6 高級車 他 - - - - 5,088 6,678 7,392 11,319 (構成比)  (4.3% ) (4.2% ) (5.0% ) (5.9% )

Page 5: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

159

自動車販売市場におけるメーカー各社のシェア

ベトナムの自動車市場では、足下、日本の完成車メーカーのシェアが高い。2018 年のブランド

別の市場シェアは、トヨタ自動車が 23.8%(1 位)、マツダが 11.8%(2 位)、本田技研工業が 9.8%(5 位)と、上位 5 社中 3 社を日本勢が占めている。更に三菱自動車(3.7%)、いすゞ自動車(2.7%)、

スズキ(2.5%)、日野自動車(1.0%)等を加えると、自動車市場の 55.5%を日本企業が占めてい

る(図表 22-4)。

他国の外資完成車メーカーでは、韓国の起亜自動車が 10.5%(シェア 3 位)、米国のフォードが

8.9%(同 6 位)、GM が 4.5%(同 7 位)となっている。

但し、メーカー別でみると、地場のチュオンハイ(Truong Hai Auto Corporation:THACO)が最

大手である。チュオンハイは 1997 年に前身の会社が設立された地場の完成車メーカーで、日本の

マツダ、韓国の起亜自動車、フランスのプジョーの各ブランドの乗用車の生産・販売を行ってい

る。チュオンハイの市場シェアは 34.7%と、トヨタ自動車(トヨタ、レクサス合算)の 24.0%を

上回っている。

図表 22-4 自動車販売市場の各メーカーのシェア(2018 年)

(注)構成比は小数点第 2 位を四捨五入しているため、数値の合計は必ずしも 100.0%にならない (出所)ベトナム自動車製造協会(VAMA)より作成

Toyota

23.8%

Thaco

Mazda

11.8%

Thaco Kia

10.5%Thaco Truck

10.1%Honda

9.8%

Ford

8.9%

GM Vietnam

4.5%

Others

20.7%

Page 6: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

ベトナムの投資環境

160

ひとくちメモ 16: 事業領域の拡大・強化を進めるビングループ

ベトナムを代表する民間企業の 1 つにビングループ(Vingroup)がある。同社の前身は、1993 年に

複数のベトナム人の若者がウクライナで設立したテクノコム社(Technocom Corporation)である。同

社は 2000 年にベトナムに戻り、2001 年には「Vinpearl」(現在は高級志向のリゾート、ホテル、娯楽

施設、ゴルフコース事業)、2002 年には「Vincom」(現在はショッピング・モール事業)を設立した。

2012年に Vinpearl が Vincom を買収し、Vingroup(Vingroup Joint Stock Company)が誕生した。

不動産事業がビングループの中核だが、2012 年以降、同社は事業領域の拡大期に入る。2012 年には

医療事業の「VINMEC」、2013 年には教育事業の「VINSCHOOL」、2014 年には小売事業の「VinMart」と

「VinMart+」、2015年には専門店小売事業の「VinPro」と、消費者(コンシューマー)関連分野に進出

した。更に、2016 年以降は製造業の分野に進出している。2017 年には自動車・バイク製造事業の

「VINFAST」、2018 年には携帯電話等のスマートデバイス事業の「VINSMART」が設立された。2019 年 8

月時点では、医療事業では 7 つの病院と 4 つの診療所を、教育事業では 32 の学校を、小売事業ではコ

ンビニエンスストアを 2,135店、スーパーマーケットを 113店、専門店を 240店展開し、製造業では電

動バイクと乗用車の年間生産能力を各 25 万台としており、また携帯電話は 2019年末までには 2,300万

台とすることを目指している。

これらの急速な事業領域の拡大・強化には、同業の買収効果がある。特に小売分野では、2018 年 10

月にベトナム国内に 23 ヵ所のスーパーマーケットを展開していたフィビ・マートを買収し(イオンが

2014 年に資本業務提携を結び出資比率を 30%としたが、2018 年 8 月に提携解消)、2019 年 4 月にはシ

ンガポール系のコンビニエンスストア「ショップ&ゴー」を買収した。

2019 年 1-6 月期の財務諸表からセグメント別の売上高構成比をみると、不動産事業が約 70%、コン

シューマー事業が約 27%、製造事業が約 4%となっている。

ビングループの動きは引き続き活発である。2019年 7 月には航空事業への参入を、8月には配車サー

ビスを手掛ける地場のファストゴーと業務提携を、9 月には傘下で決済サービスを提供している VinID

Pay が中央銀行から電子財布(Eウォレット)サービス事業の許可取得を、10月にはホーチミンで高級

宅配スーパー事業を展開するクイーンズランド・マートの買収を発表した。

急速すぎる事業拡張は、時としてグループ全体の財務力やガバナンス機能を低下させるリスクとなり

得るが、ビングループがこれらの問題に今後どのように対処し、事業を拡大・強化していくかは非常に

注目されることだろう。

売上高

(10億ドン)構成比

売上高 61,280 (100.0% )

不動産 41,715 (68.1% )

不動産販売 34,189 (55.8% )

ホテル・娯楽 4,205 (6.9% )

リース 3,321 (5.4% )

コンシューマー 16,314 (26.6% )

小売 14,021 (22.9% )

病院 1,397 (2.3% )

教育 897 (1.5% )

製造(自動車、携帯電話) 2,445 (4.0% )

その他 806 (1.3% )

ビングループの事業構成

2019年 1-6月期

Page 7: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

161

二輪車

過去最高に迫った 2018年の生産台数

ベトナムの二輪車市場は 1990 年代の外資系メーカー進出による国内生産開始までラオス経由

で輸入されるタイ製の二輪車が主だったが、1993 年に台湾の慶豊グループ(現、三陽工業)の進

出を契機に、1995 年にスズキ、1996 年末に本田技研工業(以下、ホンダ)、1997 年 7 月にヤマハ

発動機(以下、ヤマハ)が現地生産を開始した。

国内生産増加には、ベトナム政府の二輪車政策が大きく貢献している。1998 年の完成二輪車の

輸入禁止と同年 12 月の国産化率に連動した奨励的輸入関税政策の導入により、国内二輪車生産台

数は 2000 年から急増した。ベトナム統計総局をみると 1999 年に 24 万台だった生産台数は、生産

台数のピークである 2011 年には 407 万台と約 17 倍に拡大している(図表 22-5)。2011 年以降、

二輪車生産台数は減少傾向にあったが、2015 年を境に再び増加基調に転じている。2018 年の生産

台数は前年比 3.3%増となる 399 万台だった。過去最高だった 2011 年(407 万台)には及ばなかっ

たものの、これに次ぐ生産規模となった。

図表 22-5 二輪車の生産台数の推移

(出所)ベトナム統計総局より作成

今後の二輪車生産台数を予想する上で重要となるのが、「所得水準の向上に伴う二輪車から自動

車への需要シフトの動き」となろう。IMF による予想(2019 年 4 月)では、ベトナムの 1 人あた

り GDP が、自動車普及が加速する所得水準(1 人あたり GDP=3,000 ドル)に達するのは 2021 年

とされており、本格的な需要シフトが到来するタイミングが近づいていると考えられる。

その一方で、2019 年 5 月の現地調査では「若者を中心に自動車購入に対する意欲は高いものの、

政府が特別消費税を 24 席未満の車両に賦課して車両価格を高くすることで、政府がモータリゼー

ションを抑えようとしており、本格的な自動車普及は政府次第ではないか」との意見も挙がって

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18

(1,000台)

(暦年)

Page 8: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

ベトナムの投資環境

162

いた。ベトナムの場合、都市部が自動車の使用を想定した設計になっておらず、駐車場の数も決

して多くない。近隣のインドネシア(ジャカルタ)のように、渋滞が慢性化してしまうと元の状

態には戻れないことを危惧しているとの見方である。

尚、従前、ベトナム政府は 2020 年までに二輪車の登録台数を 3,600 万台に抑制する方針を掲げ

ていたが、現地調査では特に販売台数の抑制の指導等は行われていない模様だった。

ホンダ、ヤマハの存在感が大きい二輪車市場

ベトナム統計総局には二輪車の販売台数に関する統計はないが、外資メーカー5 社から成るベ

トナム二輪車協会(Vietnam Association of Motorcycle Manufacturers:VAMM)の発表に基づくと、

2018 年の VAMM 加盟 5 社の販売台数は、前年比 3.5%増となる 338.6 万台であった(図表 22-6)。VAMM は、日系のホンダ、ヤマハ、スズキ、他の外資系では台湾系の三陽工業とイタリアのピア

ジオの 5 社で構成される。二輪車販売市場における日系メーカーの存在感は大きく、ほぼ市場を

独占している。2018 年の市場シェアはホンダが 76%と推計される。2017~2018 年の各社別の販

売台数の詳細は不明だが、例年、ヤマハが 2~3 割、スズキが 1%弱のシェアとなっている。

今後はビングループの子会社ビンファストの動きが注目される。ビンファストは 2018 年 11 月

に電動スクーターの発売を開始したが、現時点ではまだ日本メーカーの存在感を脅かすには至っ

ていない。電動スクーターの充電 1 回分の走行可能距離は約 30km と公表値(約 80km)の半分程

度のようで、1 日の往復通勤距離が 20km 程の消費者にとっては、ほぼ毎日充電する必要が生じる

ようである。通常のスクーターは 1 回の給油で 200km はカバーできることから、既存のスクータ

ーからの買い替えの動きはまだ顕著ではない模様である。

図表 22-6 二輪車の販売台数の推移

(注)2017 年の日系 3 社と 2018 年のヤマハの販売台数は不明 (出所)NNA 記事、VAMM より作成

1,3971,713

2,132 1,948 1,870 1,911 2,000 2,1002,569

643

776

988922

766 643 719844

38

34

6656

51 3723 19

22

1613,272

795

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

09 10 11 12 13 14 15 16 17 18

(1,000台)

(暦年)

スズキ

ヤマハ

ホンダ

VAMM 加盟5社

Page 9: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

163

携帯電話

貿易赤字改善の主因となった携帯電話

UNCTAD 統計に基づくと、ベトナムの「電話機器・音響機器」分野の貿易収支は恒常的に赤字

だったが、サムスン電子の携帯電話の第 1 工場が稼働した 2009 年を境に輸出が急増し、黒字に転

換した(図表 22-7)。2018 年の当該分野の貿易黒字は 317 億ドルと、全体の貿易黒字(4 億ドル、

UNCTAD ベース)を大きく上回っており、ベトナム経済におけるサムスン電子の影響は年々高まっ

ている。

図表 22-7 「電話機器・音響機器」の輸出入額と貿易収支の推移

(出所)ベトナム統計総局、ブイ・ディン・タン「サムスンのベトナム進出とベトナム経済への影響」より作成

0

10

20

30

40

50

60

95 00 05 10 15

(10億ドル)

(暦年)

輸出 輸入

■サムスン電子 … 携帯電話の組立

第1工場: 2008/5(法人設立許可) 2009/4(生産開始)

第2工場: 2013/3(法人設立許可) 2014/3(生産開始)

■サムスンSDI … 携帯電池

2009/7(法人設立許可) 2010/7(生産開始)

■サムスン電機 … 半導体回路、チップ、カメラモジュール等

2013/10(法人設立許可) 2014/8(生産開始)

■サムスンディスプレイ … 携帯・タブレット用ディスプレイ

2014/7(法人設立許可) 2015年第1四半期(生産開始)

-0.2 -0.3 -0.3 -0.3

-0.2 -0.3 -0.2 -0.3 -0.4 -0.4 -0.7 -1.0 -1.5 -1.5 -1.8 -0.4

2.9

6.9

12.1 13.8

18.7

24.8

31.1 31.7

-5

0

5

10

15

20

25

30

3595 00 05 10 15

(10億ドル)

(暦年)

貿易収支

Page 10: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

ベトナムの投資環境

164

携帯電話のベトナムへの生産シフトが進行中

ベトナム統計総局に拠れば、同国内での携帯電話生産台数は2億590万台(2018年速報ベース)。

2 年連続で年産 2 億台の大台を超えた。過去最高だった 2015 年(2 億 3,560 万台)を下回るもの

の、単価の高い高付加価値製品の輸出が増え、輸出金額は増加傾向にある。2019 年 1-9 月期の輸

出金額も、前年同期比 5.1%増の 386 億ドルに達している(図表 22-8)。

携帯電話の生産規模の拡大に伴い、ベトナムでは携帯電話に係る部品メーカー数が増加してい

る。現地報道に拠ると、2019 年時点でのサムスン電子のベトナム企業サプライヤーは、1 次サプ

ライヤーが 35 社、全体では 308 社となっている模様である。特に1次サプライヤーは 2015 年初

の 4 社から着実に増加しており、2020 年までに 50 社にまで増える見込みである。このようなサ

プライヤー数の増加に伴い、サムスン電子(第 1 工場)の現地調達率は 2014 年の 35%から 2016年には 51%、2017 年には 57%へと上昇している。同工場はベトナム北部バクニン省イエンフォ

ン工業団地に立地しているが、当工業団地には、既にカメラモジュール、プリント回路基板、レ

ンズ、ケース等の関連サプライヤーが既に集積している。

携帯電話の製造に係る歴史を振り返ると 2000 年代に携帯電話事業をリードしてきたノキアが、

スマートフォンの登場によりシェアを落としたように、サムスン電子が現在のシェア、生産台数

や単価を継続的に維持・向上させることは容易ではないが、短期的にはベトナムが中国や韓国か

ら携帯電話の生産をシフトすることで、ベトナムでの生産量は高水準で推移すると期待される。

既に、サムスン電子は 2018 年末に中国の天津市のスマートフォン工場での生産を停止し、2019年には広東省恵州市の工場の閉鎖方針を発表した。また、同業の LG 電子は、韓国での生産を停

止し、高価格帯の製品をベトナム北部のハイフォン工場に生産移管すると発表した。ベトナムの

貿易収支にとっても、サムスン電子の競争力低下は大きなリスク要因となるが、当面はベトナム

への生産移管と現地調達率の上昇で、貿易黒字が拡大する可能性が高いと予想される。

図表 22-8 携帯電話の年間生産台数と輸出額の推移

(出所)ベトナム統計総局より作成

0

20

40

60

80

100

120

140

160

0

50

100

150

200

250

300

350

400

Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4

10 11 12 13 14 15 16 17 18 19

(億ドル)(100万台)

年間/携帯電話生産台数(左軸)

四半期/電話・スペアパーツ輸出額(右軸)

Page 11: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

165

縫製

輸出増に併せて増加基調にある縫製セクターの貿易黒字

縫製業は「電話機器・音響機器」と並び、ベトナムの重要な輸出産業である。縫製関連(繊維、

生地、アパレル含む)分野は 1999 年から輸出超過が続いており、2018 年には 177 億ドルの貿易

黒字をもたらした(UNCTAD ベース)。輸出額も年々拡大し、更に近年は川中・川上企業のベト

ナム進出が増えたため、今後、輸出拡大ペース以上に貿易黒字が増加する可能性は高い(図表 22-9)。

図表 22-9 縫製関連品目(繊維、生地、アパレル)の輸出入額と貿易収支の推移

(注)SITC コード:[26] Textiles fibres and their wastes 、[65] Textile yarn and related products、[84] Articles of

apparel & clothing accessories の合算 (出所)UNCTAD より作成

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

95 00 05 10 15

(10億ドル)

(暦年)

輸出 輸入

-0.1 -0.2

0.0

-0.3

0.3 0.1 0.2 0.4 0.9 1.1 1.2 2.0

2.8 3.5 4.1

4.9 6.1

7.3

8.8

10.9 12.0

12.9 14.1

17.7

-2

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

2095 00 05 10 15

(10億ドル)

(暦年)

貿易収支

Page 12: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

ベトナムの投資環境

166

日本、米国の「脱中国」のメリットを最も受けたベトナム

ベトナムの縫製関連の輸出増は、同国が他国に比べて中国のシェア奪取に成功しているためで

ある。中国は人件費高騰の影響でアパレル産業の生産拠点としての魅力が低下している。日本の

衣類(財務省「貿易統計」概況品コード:80701、80705)の輸入相手国比率をみても、2011 年ま

では全体の 8 割以上を中国が占めていたが、2018 年には 6 割弱と急速に低下している。また、世

界最大のアパレル消費国であり、海外からの輸入額が最大の米国でも同様の傾向が窺える。米国

センサス局の統計によると、米国の縫製品(米国センサス局“International Trade Statistics”、NAICS Code: 315)輸入に占める中国品の比率は、2004 年の 18.6%から 2010 年の 40.9%まで急上昇した

ものの、2018 年には 34.0%と約 7%ポイント低下している(図表 22-10)。この傾向は、2019 年に

入っても続いている。1~8 月累計額で比較すると、前年同期比で米国では 1.3%ポイント、日本

では 3.0%ポイントも中国からの輸入比率は低下している。

このように「脱中国」が進む中、バングラデシュやミャンマーなどの労働コストが低い国から

のシェアは上昇しているが、ベトナムのシェアの伸びはこれらの国々よりも大きい。同国は、安

価で大量の労働力だけでなく、地理的にも縫製産業のサプライチェーンが構築された中国に最も

近く、生地やボタン等の副資材に係る調達のリードタイムの点で他国よりも良い環境にある点が、

最大のシフト先となった一因と考えられる。

中国からのシェア奪取の持続性のカギを握るのが、①供給力の拡大余地、②ドルベースでみた

賃金上昇率と予想される。労働集約型の縫製業では、労働コストの低い国への生産シフトが繰り

返されている。市場規模の大きい米国や日本向け輸出の増加には、安価な労働力という「量」と、

川中・川上を含めたリードタイムの短縮や歩留まり率の向上等の「質」も含めた供給力向上が求

められる。また、これまでのベトナムは 10%超の賃上げ率があっても、ベトナム通貨(ドン)安

でドルベースの労働コストが抑制されていたが、今後、為替レートや賃上げ率次第では、ベトナ

ムのシェア奪取のペースが鈍化するリスクがある。

図表 22-10 日本、米国でのアパレルの輸入国比率の推移

(出所)日本国財務省、米国センサス局統計より作成

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%

45%

0.0%

2.5%

5.0%

7.5%

10.0%

12.5%

15.0%

17.5%

20.0%

04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 17 18 19

中国(右軸) ベトナム(左軸)

インドネシア(左軸) カンボジア(左軸)

メキシコ(左軸) バングラデシュ(左軸)

(1~8月累計)

米国

50%

55%

60%

65%

70%

75%

80%

85%

90%

0.0%

2.5%

5.0%

7.5%

10.0%

12.5%

15.0%

17.5%

20.0%

04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 17 18 19

中国(右軸) ベトナム(左軸)

インドネシア(左軸) カンボジア(左軸)

ミャンマー(左軸) バングラデシュ(左軸)

(1~8月累計)

日本

Page 13: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

167

食品

食品加工業の市場規模とその推移

2018 年のベトナムの加工食品の市場規模は 269 兆ドン(119 億ドル、約 1.3 兆円、Euromonitor調べ)である(図表 22-11)。ASEAN 諸国の中では、インドネシア(282 億ドル)、タイ(134 億ド

ル)に次ぐ規模で、2018 年には人口ではベトナムを上回るフィリピンの市場規模を上回った。2008年からの 10 年間の加工食品市場の成長率(年率)は 13.4%増と名目 GDP 成長率(13.1%増)を

上回り、またこの期間の 1 人あたり加工食品売上高(現地通貨建て)は 3.2 倍と ASEAN 諸国の中

で伸びは最も高く、市場は急成長している。

更に、今後も速いスピードでの市場拡大が続くと期待される。Euromonitor が予想する 2018 年

から 2023 年にかけての年率成長率は 9.9%増と、過去 10 年間(13.4%増)に比べると低下するが、

ASEAN 主要 6 ヵ国との比較でみても、今後 5 年間の成長率は、タイ(8.0%増)、インドネシア(8.0%増)、マレーシア(6.4%増)、フィリピン(6.2%増)、シンガポール(3.5%増)に比べ、ベトナム

の成長率は高い。

図表 22-11 加工食品の売上高推移と前年比

(出所)Euromonitor より作成

カテゴリー別にみた加工食品の市場規模

Euromonitor 社では、加工食品市場を 4 つの大分類、16 の中分類、70 の小分類、104 の細分類に

分けている。図表 22-12 は 2008 年と 2018 年の各分類の売上高と構成比を表しており、これに基

づくと、当該期間中で構成比が上昇した品目は、「飲料乳製品(ミルク、豆乳等)」(+6.6%)、「ヨ

ーグルト・乳製品」(+2.3%)、「米」(+2.7%)で、低下した品目は「インスタント麺(袋タイプ)」

(▲4.7%)、「その他の食用油」(▲2.1%)、「チョコレート菓子・ガム類」(▲1.5%)であった。

0%

5%

10%

15%

20%

25%

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500

05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23

(兆ドン)

(暦年)

加工食品市場規模(左軸)

前年比(右軸)

(予想)

Page 14: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

ベトナムの投資環境

168

図表 22-12 加工食品の売上高と構成比(2008 年→2018 年)

(出所)Euromonitor より作成

分類

2008 2018 年率成長率 2008 2018 差分

加工食品 76,638 269,275 13.4% 100.0% 100.0% - 調味料・食材 19,572 58,542 11.6% 25.5% 21.7% -3.8% ↓

食用油 10,839 29,411 10.5% 14.1% 10.9% -3.2% ↓

パームオイル 1,716 3,492 7.4% 2.2% 1.3% -0.9% 大豆油 1,347 4,856 13.7% 1.8% 1.8% 0.0% その他の食用油 6,991 19,030 10.5% 9.1% 7.1% -2.1% ↓

レディー・ミール 429 2,062 17.0% 0.6% 0.8% 0.2% ソース・ドレッシング・香辛料 8,216 26,842 12.6% 10.7% 10.0% -0.8%

調味料 2,967 7,230 9.3% 3.9% 2.7% -1.2% テーブルソース 5,165 19,241 14.1% 6.7% 7.1% 0.4%

スープ - - - - - - スプレッド 89 228 9.9% 0.1% 0.1% -0.0%

乳製品等 23,827 107,235 16.2% 31.1% 39.8% 8.7% ↑

ベビーフード 9,120 33,644 13.9% 11.9% 12.5% 0.6% 乾燥ベビーフード 1,275 4,980 14.6% 1.7% 1.8% 0.2% 粉ミルク 7,792 28,442 13.8% 10.2% 10.6% 0.4%

乳製品 14,708 73,591 17.5% 19.2% 27.3% 8.1% ↑

飲料乳製品(ミルク、豆乳等) 8,830 48,899 18.7% 11.5% 18.2% 6.6% ↑

ヨーグルト・乳製品 2,383 14,588 19.9% 3.1% 5.4% 2.3% ↑

その他乳製品(コンデンスミルク等) 2,800 7,461 10.3% 3.7% 2.8% -0.9% 菓子等 12,402 37,814 11.8% 16.2% 14.0% -2.1% ↓

チョコレート菓子・ガム類 4,541 11,804 10.0% 5.9% 4.4% -1.5% ↓

ガム 1,553 2,903 6.5% 2.0% 1.1% -0.9% キャンディ等 2,251 6,611 11.4% 2.9% 2.5% -0.5%

アイスクリーム・冷凍デザート 834 3,339 14.9% 1.1% 1.2% 0.2% アイスクリーム 834 3,339 14.9% 1.1% 1.2% 0.2%

ナッツ・クラッカー類 4,352 13,659 12.1% 5.7% 5.1% -0.6% ナッツ類 752 811 0.8% 1.0% 0.3% -0.7% ソルティー・スナック 2,421 8,692 13.6% 3.2% 3.2% 0.1% その他 754 2,205 11.3% 1.0% 0.8% -0.2%

ビスケット菓子類 2,675 9,012 12.9% 3.5% 3.3% -0.1% ビスケット 2,583 8,490 12.6% 3.4% 3.2% -0.2%

主食 20,837 65,685 12.2% 27.2% 24.4% -2.8% ↓

パン類 5,813 19,099 12.6% 7.6% 7.1% -0.5% パン 2,693 7,626 11.0% 3.5% 2.8% -0.7% ケーキ 2,813 10,238 13.8% 3.7% 3.8% 0.1%

朝食用シリアル 37 180 17.2% 0.0% 0.1% 0.0% 加工果物・野菜 96 331 13.2% 0.1% 0.1% -0.0% 加工肉・シーフード 2,646 8,266 12.1% 3.5% 3.1% -0.4%

加工肉 1,211 3,265 10.4% 1.6% 1.2% -0.4% 加工シーフード 1,086 3,956 13.8% 1.4% 1.5% 0.1%

米・パスタ・麺類 12,245 37,809 11.9% 16.0% 14.0% -1.9% ↓

麺 10,343 23,693 8.6% 13.5% 8.8% -4.7% ↓

インスタント麺 10,154 23,047 8.5% 13.2% 8.6% -4.7% ↓

カップタイプ 797 2,928 13.9% 1.0% 1.1% 0.0% 袋タイプ 9,357 20,119 8.0% 12.2% 7.5% -4.7% ↓

米 1,805 13,727 22.5% 2.4% 5.1% 2.7% ↑

金額(10億ドン) 構成比

Page 15: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

169

ベトナムの加工食品市場の特徴

ベトナムは世界第 5 位のコメ(米)の生産国であり、料理にもコメが使われることが多い。国

連農業機関(FAO)の統計に基づくと、1 人あたりのコメの年間消費量(2013 年)は 144.6kg と世

界第 4 位である(日本は 59.9kg で第 33 位)。

また、ベトナムの食文化には、コメだけでなく、「フォー」(平たい米粉麺)に代表される麺や、

「バインミー」(フランスパンの中にバター、パテ、野菜、ハーブ類、肉等をはさみ、魚醤などの

ソースをかけるベトナム版サンドイッチ)などのパンも根付いている。特に麺の中ではインスタ

ント麺の消費量が多く、2018 年の 1 人あたり年間消費量は 55 食と、韓国(74 食)に次いで世界

で 2 番目に多い(世界ラーメン協会データを基に推計)。

ベトナムはコメや麺などの主食での消費量が多いことが特徴に挙げられるが、加工食品の売上

高構成比を ASEAN 主要国や日本、米国と比較すると、また「消費量」とは異なる特徴がみられ

る(図表 22-13)。

図表 22-13 加工食品市場の売上高構成比の比較(日本・米国・ASEAN 主要国)

(出所)Euromonitor より作成

分類 国名  ベトナム フィリピンインド

ネシアタイ マレーシア 日本 米国

シンガ

ポール

1人あたりGDP(ドル) 2,551 3,104 3,871 7,187 10,942 39,306 62,606 64,041加工食品 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0%

調味料・食材 21.7% 16.0% 9.3% 19.8% 17.8% 22.6% 18.8% 9.9% 食用油 10.9% 8.8% 3.2% 4.9% 12.4% 0.8% 0.9% 2.6% レディー・ミール 0.8% 0.5% 0.0% 4.0% 0.4% 10.7% 8.9% 1.4% ソース・ドレッシング・香辛料 10.0% 5.6% 5.7% 10.1% 4.3% 9.4% 6.6% 3.3%

テーブルソース 7.1% 2.6% 3.7% 5.1% 2.5% 2.9% 2.3% 1.6% スープ - 0.4% 0.0% 0.1% 0.2% 1.2% 1.2% 0.5% スプレッド 0.1% 0.7% 0.4% 0.6% 0.5% 0.5% 1.2% 2.1%

乳製品等 39.8% 22.1% 21.5% 30.6% 23.1% 12.5% 18.3% 23.5% ベビーフード 12.5% 6.7% 9.9% 7.0% 9.2% 0.5% 1.8% 6.6%

粉ミルク 10.6% 6.5% 9.2% 6.8% 8.8% 0.3% 1.3% 6.2% 乳製品 27.3% 15.4% 11.7% 23.7% 13.9% 12.0% 16.5% 16.9%

バター・マーガリン 0.3% 2.2% 0.4% 0.5% 1.0% 0.4% 1.2% 1.1% チーズ 0.7% 1.9% 0.4% 0.5% 0.4% 2.1% 5.9% 2.1% 飲料乳製品(ミルク、豆乳等) 18.2% 7.6% 6.3% 12.9% 7.2% 3.6% 4.7% 7.9% ヨーグルト・乳製品 5.4% 1.6% 1.2% 7.0% 2.6% 4.9% 2.3% 4.9% その他乳製品(コンデンスミルク等) 2.8% 2.1% 3.3% 2.9% 2.5% 0.9% 2.3% 0.9%

菓子等 14.0% 25.6% 19.1% 22.8% 15.5% 17.8% 30.6% 27.6% チョコレート菓子・ガム類 4.4% 6.8% 7.1% 5.8% 6.0% 5.2% 8.9% 10.5% アイスクリーム・冷凍デザート 1.2% 2.3% 1.5% 3.8% 2.4% 3.4% 4.2% 3.9% ナッツ・クラッカー類 5.1% 12.4% 5.6% 10.2% 5.0% 6.3% 12.3% 7.2% ビスケット菓子類 3.3% 4.2% 4.9% 3.0% 2.0% 2.9% 5.2% 6.0%

主食 24.4% 36.3% 50.0% 26.8% 43.6% 47.1% 32.4% 39.1% パン類 7.1% 8.0% 8.5% 7.3% 7.3% 11.4% 14.7% 13.5% 朝食用シリアル 0.1% 0.9% 0.3% 0.6% 1.1% 0.4% 2.7% 1.6% 加工果物・野菜 0.1% 2.0% 0.1% 0.5% 0.9% 1.2% 3.8% 0.8% 加工肉・シーフード 3.1% 16.8% 6.1% 4.8% 6.4% 23.2% 9.2% 8.9% 米・パスタ・麺類 14.0% 8.5% 35.1% 13.5% 28.0% 11.0% 2.1% 14.2%

麺 8.8% 6.0% 8.5% 4.4% 7.8% 4.9% 0.5% 2.8% インスタント麺 8.6% 5.6% 8.1% 3.7% 7.4% 3.1% 0.3% 2.4%

カップタイプ 1.1% 1.1% 0.5% 1.0% 0.6% 2.3% 0.1% 0.8% 袋タイプ 7.5% 4.5% 7.7% 2.7% 6.8% 0.8% 0.2% 1.6%

米 5.1% 1.4% 26.5% 9.0% 20.0% 5.7% 0.8% 11.0%

Page 16: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

ベトナムの投資環境

170

例えば、ベトナムの構成比で特徴的であるのが、「乳製品等」の高さである。他の ASEAN 主要

国での構成比がほぼ 2~3 割で、日本や米国では 15%前後であるのに対し、ベトナムは約 4 割と

高い。また、魚醤、醤油、ケチャップ、マヨネーズ、ソース等が含まれる「テーブルソース」の

比率が 7.1%と、他国に比べて高い比率となっている。

他方、「菓子等」と「主食」の構成比は低い。特にコメの場合は、国によっては価格を統制して

いることもあり、ベトナムの構成比は 5.1%と、消費量の割には低い。

この他、「主食」に関しては、①所得水準の高いシンガポール、米国、日本に比べ、ベトナムを

含めた他の ASEAN 主要国では、パン類の構成比が 6 割程度しかないことから、今後は所得増加

に呼応したパン市場の拡大期待が高いこと、②シンガポールを含め、ASEAN 主要国ではまだ「袋

タイプ」が主流であるが、日本の経験則のように、今後、コンビニエンスストアの店舗数が拡大

し、飲食物の取扱が増えるようであれば、「カップタイプ」へのシフトが進むと期待されること、

等が特徴として挙げられよう。

今後の見通し

Euromonitor の見通しに基づく 2018 年から 2023 年までの 5 年間の市場成長率は年率 9.9%増と

高い。また、構成比では「米」(+2.7%)や「乳製品」(+1.5%)等の上昇と、「インスタント麺(袋

タイプ)」(▲1.4%)、「食用油」(▲1.2%)の低下が見込まれている等、これまで市場が急拡大し

てきた大分類の「乳製品等」では、好調な「飲料乳製品(ミルク、豆乳等)」(+0.7%)、「ヨーグ

ルト・乳製品」(+0.9%)と厳しい「粉ミルク」(▲2.7%)の二極化が進む模様である(図表 22-14)。

「粉ミルク」の構成比は 2004 年の 8.8%から 2014 年の 12.1%まで上昇したが、以降は比率が低

下している。市場の大きさは異なるものの、同じベビーフードのカテゴリーにある「乾燥ベビー

フード」では年率 10%を超す成長が続くことから、対象となる幼児の数など、ベビーフード市場

自体が縮小期に入ったわけではないと推察される。

この他、主食分野では「麺」から「米」へのシフトが続く。特に米の比率は、過去 10 年間の上

昇幅(+2.7%)と同等の上昇がこの 5 年間で実現が予想される等、市場拡大ペースが加速する。

また、「インスタント麺」では、袋からカップへの嗜好シフトが徐々に進むと予想される。

Page 17: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

171

図表 22-14 加工食品の売上高と構成比(2018 年→2023 年)

(出所)Euromonitor より作成

分類

2018 2023 年率成長率 2018 2023 差分

加工食品 269,275 431,150 9.9% 100.0% 100.0% - 調味料・食材 58,542 92,727 9.6% 21.7% 21.5% -0.2%

食用油 29,411 41,880 7.3% 10.9% 9.7% -1.2% ↓

パームオイル 3,492 4,758 6.4% 1.3% 1.1% -0.2% 大豆油 4,856 7,846 10.1% 1.8% 1.8% 0.0% その他の食用油 19,030 26,259 6.7% 7.1% 6.1% -1.0%

レディー・ミール 2,062 3,380 10.4% 0.8% 0.8% 0.0% ソース・ドレッシング・香辛料 26,842 47,124 11.9% 10.0% 10.9% 1.0%

調味料 7,230 12,306 11.2% 2.7% 2.9% 0.2% テーブルソース 19,241 34,228 12.2% 7.1% 7.9% 0.8%

スープ - - - - - - スプレッド 228 343 8.6% 0.1% 0.1% -0.0%

乳製品等 107,235 167,272 9.3% 39.8% 38.8% -1.0% ↓

ベビーフード 33,644 42,773 4.9% 12.5% 9.9% -2.6% ↓

乾燥ベビーフード 4,980 8,364 10.9% 1.8% 1.9% 0.1% 粉ミルク 28,442 33,987 3.6% 10.6% 7.9% -2.7% ↓

乳製品 73,591 124,499 11.1% 27.3% 28.9% 1.5% ↑

飲料乳製品(ミルク、豆乳等) 48,899 81,358 10.7% 18.2% 18.9% 0.7% ヨーグルト・乳製品 14,588 27,189 13.3% 5.4% 6.3% 0.9% その他乳製品(コンデンスミルク等) 7,461 11,393 8.8% 2.8% 2.6% -0.1%

菓子等 37,814 61,084 10.1% 14.0% 14.2% 0.1% チョコレート菓子・ガム類 11,804 17,160 7.8% 4.4% 4.0% -0.4%

ガム 2,903 3,545 4.1% 1.1% 0.8% -0.3% キャンディ等 6,611 9,769 8.1% 2.5% 2.3% -0.2%

アイスクリーム・冷凍デザート 3,339 5,895 12.0% 1.2% 1.4% 0.1% アイスクリーム 3,339 5,895 12.0% 1.2% 1.4% 0.1%

ナッツ・クラッカー類 13,659 23,072 11.1% 5.1% 5.4% 0.3% ナッツ類 811 1,019 4.7% 0.3% 0.2% -0.1% ソルティー・スナック 8,692 15,382 12.1% 3.2% 3.6% 0.3% その他 2,205 3,546 10.0% 0.8% 0.8% 0.0%

ビスケット菓子類 9,012 14,958 10.7% 3.3% 3.5% 0.1% ビスケット 8,490 13,946 10.4% 3.2% 3.2% 0.1%

主食 65,685 110,066 10.9% 24.4% 25.5% 1.1% ↑

パン類 19,099 28,281 8.2% 7.1% 6.6% -0.5% パン 7,626 10,258 6.1% 2.8% 2.4% -0.5% ケーキ 10,238 16,078 9.4% 3.8% 3.7% -0.1%

朝食用シリアル 180 322 12.4% 0.1% 0.1% 0.0% 加工果物・野菜 331 469 7.2% 0.1% 0.1% -0.0% 加工肉・シーフード 8,266 12,556 8.7% 3.1% 2.9% -0.2%

加工肉 3,265 4,624 7.2% 1.2% 1.1% -0.1% 加工シーフード 3,956 6,372 10.0% 1.5% 1.5% 0.0%

米・パスタ・麺類 37,809 68,437 12.6% 14.0% 15.9% 1.8% ↑

麺 23,693 33,951 7.5% 8.8% 7.9% -0.9% インスタント麺 23,047 32,677 7.2% 8.6% 7.6% -1.0%

カップタイプ 2,928 6,328 16.7% 1.1% 1.5% 0.4% 袋タイプ 20,119 26,349 5.5% 7.5% 6.1% -1.4% ↓

米 13,727 33,774 19.7% 5.1% 7.8% 2.7% ↑

金額(10億ドン) 構成比

Page 18: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

ベトナムの投資環境

172

小売

市場概況

ベトナムの 2018 年の小売市場規模は 2,445 兆ドン(約 11.7 兆円、Euromonitor 調べ)。2008 年か

らの 10 年間の市場成長率は年率 14.1%増と、名目 GDP 成長率(13.1%増)を上回るペースで伸

び、また業態構成の変化等からは小売市場の近代化も進んでいることが窺える(図表 22-15、22-16)。

小売市場の近代化の例として、①コンビニエンスストア(CVS)やハイパーマーケット(HM)

等の近代的小売の食品小売に対する売上高比率が、2008 年の 4.5%から 2018 年には 7.7%へと上

昇していること、②インターネット小売に代表される非店舗型小売の市場規模が 2018 年には約

49 兆ドン(約 2,370 億円)と、CVS 市場(約 4 兆ドン、約 180 億円)や HM 市場(約 27 兆ドン、

約 1,310 億円)を上回り、スーパーマーケット市場(SM、約 51 兆ドン、約 2,430 億円)に匹敵す

る規模に成長していることが挙げられる。

一方、売上高構成比が 5.7%ポイント上昇した非食品専門店の中では、電化製品専門店(11.3%→17.2%)、アパレル・靴専門店(3.9%→5.1%)が目立つ。電化製品専門店では、Mobile World JSCが家電小売 Dien May Xanh(2010 年設立)と携帯電話小売 The Gioi Di Dong(2004 年設立)の店

舗数を拡大し、売上高を増やしている。他方、アパレル・靴専門店では特定ブランドのシェアが

高まっている訳ではないが、ファストファッション大手の ZARA が 2016 年、H&M が 2017 年に

進出する等、消費者の選択肢が増えていることが、市場拡大に寄与しているものと推察される。

図表 22-15 小売販売額の推移

(出所)Euromonitor より作成、予想は Euromonitor

0%

1%

2%

3%

4%

5%

6%

7%

8%

9%

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

4,500

04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23

(兆ドン)

(暦年)非店舗小売(左軸) 複合小売(左軸)

専門店(左軸) 食品小売(トラディショナルトレード、左軸)

食品小売(モダントレード、左軸) モダントレード比率(右軸)

食品小売

モダントレード … コンビニエンスストアやハイパーマーケット等の近代的な小売業態

トラディショナルレード … 市場や個人食料雑貨店等の伝統的な小売業態

(予想)

Page 19: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

173

この他では、調剤薬局(5.1%→6.3%)と時計・宝飾品(1.0%→2.0%)がシェアを伸ばしてい

る。時計・宝飾品の上昇は、所得の増加に伴いベトナムにおいても嗜好品需要が高まっているこ

とが一因と考えられる。他方、大きく比率を低下させたのが DIY(Home Improvement and Gardening Stores)で、過去 10 年間での構成比は 2.0%ポイントと低下している。

図表 22-16 業態別販売額構成比(2008 年→2018 年)

(出所)Euromonitor より作成

分類

2008 2018 年率成長率 2008 2018 差分

小売売上高 654 2,445 14.1% 100.0% 100.0% - 店舗型小売 651 2,384 13.9% 99.6% 97.5% -2.1% ↓

食品小売店 337 1,068 12.2% 51.6% 43.7% -7.9% ↓

モダントレード 15 82 18.3% 2.3% 3.3% 1.0% ↑

(内、コンビニエンスストア) 1 4 11.1% 0.2% 0.2% -0.0% (内、ハイパーマーケット) 3 27 24.3% 0.5% 1.1% 0.6% ↑

(内、スーパーマーケット) 11 51 16.7% 1.7% 2.1% 0.4% トラディショナルトレード 322 986 11.9% 49.2% 40.3% -8.9% ↓

非食品専門店 312 1,306 15.4% 47.8% 53.4% 5.7% ↑

アパレル・靴専門店 25 126 17.3% 3.9% 5.1% 1.3% ↑

電化製品専門店 74 422 19.0% 11.3% 17.2% 5.9% ↑

健康・美容関連製品専門店 44 219 17.4% 6.7% 8.9% 2.2% ↑

(内、美容専門小売店) 5 33 20.0% 0.8% 1.3% 0.5% (内、調剤薬局) 33 153 16.5% 5.1% 6.3% 1.2% ↑

(内、ドラッグストア) 5 26 18.7% 0.7% 1.1% 0.4% 日用品、家具、園芸専門店 90 278 12.0% 13.7% 11.4% -2.4% ↓

 DIY 76 234 11.9% 11.6% 9.6% -2.0% ↓

 家具・日用品専門店 14 44 12.3% 2.1% 1.8% -0.3% レジャー、スポーツ用品専門店 19 139 21.9% 2.9% 5.7% 2.8% ↑

(内、鞄)  1 12 29.6% 0.1% 0.5% 0.3% (内、時計・宝飾品) 6 49 22.9% 1.0% 2.0% 1.1% ↑

(内、メディア製品) 3 16 19.1% 0.4% 0.6% 0.2% (内、スポーツ用品) 1 10 22.8% 0.2% 0.4% 0.2% (内、文具・オフィスサプライ) 7 43 20.5% 1.0% 1.8% 0.7% ↑

その他非食品専門店 60 123 7.5% 9.1% 5.0% -4.1% ↓

百貨店等 2 10 20.2% 0.2% 0.4% 0.2% (内、デパート) 2 9 19.6% 0.2% 0.4% 0.1%

非店舗型小売 3 61 36.3% 0.4% 2.5% 2.1% ↑

訪問販売 3 10 13.9% 0.4% 0.4% -0.0% 通販(除くインターネット決済) - 1 - - 0.0% 0.0% インターネット小売 - 49 - - 2.0% 2.0% ↑

自動販売機 0 - -100.0% 0.0% - -0.0%

金額(兆ドン) 構成比

Page 20: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

ベトナムの投資環境

174

外資小売企業に係る規制の厳格化

2019 年 9 月時点では、ベトナムでは小売事業での外資比率の規制はなく、完全子会社(100%出資)の設立が可能である。但し、2013 年に一旦緩和した外国企業による小売店の設立条件は、

2018 年の改訂で再び厳しくなっている。

2018 年 1 月に、ベトナムにおける外資系企業の商品売買活動などに関する商法及び外国貿易管

理法の細則を定める政令(Decree09/2018/ND-CP)が公布・施行された。これに拠ると、株式の保

有比率にかかわらず、外国企業等が直接出資するベトナム企業(外資系企業)が小売店を展開し

ようとする場合、企業登録証明取得後 30 日以内に、小売店許可証の申請を行うことが必要となっ

た。また、1 号店の出店にあたっては、①小売店設立の財務計画を有する、②税金の滞納がない、

③出店予定地が地域の基本計画に適合している、の 3 つの条件を満たすことが規定された。更に、

2 店舗目以降の小売店舗の設立にあたっては、関連当局にエコノミック・ニーズ・テスト(Economic Needs Test:ENT)を受ける必要があると規定されている。

2013 年 4 月の商工省の通達(Circular08/2013/TT-BCT)では、この ENT を受ける必要がない例

外を規定し、「物品取引活動のために計画され既にそのインフラ設備の建設が完了している地域に

おいては、面積が 500 ㎡未満の小売店舗であれば ENT が適用されない」ことが明示されたが、2018年の政令により、ENT が免除されるのは、(1)2 店舗目の敷地が 500m2未満である、(2)ショッピン

グモール内にある、(3)コンビニエンスストアまたは小型スーパーマーケットとして指定されてい

ない、の 3 つの条件をすべて満たす場合に限られることとなった。このような改訂に拠り、特に

小型の食品小売店の出店は厳しくなったと言える。

日本企業など外資小売チェーンの進出・撤退動向

外資系企業の多店舗化に対する制約の影響もあり、既に進出している日系コンビニエンス企業

では多店舗化や収益改善に苦戦しているが、ベトナムの所得水準の向上と消費市場の拡大で、日

系小売企業の進出は増えている。2008 年の 100 円ショップ「ダイソー」を展開する大創産業(バ

ラエティ業態)の進出以降、2009 年にはファミリーマート、2009 年にはミニストップと CVS 企

業が進出し、2014 年にはイオン(HM、複合業態)、2016 年にはコーナン商事(ホームセンター)

と高島屋(百貨店)が、2017 年にはセブン&アイホールディングスの「セブン-イレブン」(CVS)が 1 号店をオープンしている。また、2019 年には、「無印良品」を展開する良品計画が現地法人

を設立(2020 年春にホーチミンに 1 号店をオープン予定)、ドラッグストアのマツモトキヨシホ

ールディングスが現地企業と合弁会社設立。更に、ユニクロがホーチミン市中心部に 1 号店をオ

ープン(2019 年 12 月予定)と、進出する専門店の分野も広がってきている。

日本以外の外資小売チェーンでベトナムに参入している企業は、欧州のアパレル企業やタイの

流通大手グループが挙げられる。また、スペインのアパレル大手インディテックスの「ZARA」

が 2016 年に、スウェーデンの H&M が 2017 年に、それぞれホーチミンに初出店した。反面、欧

州系の食品卸や食品小売企業はベトナムからの撤退が続いている。2015 年にはドイツの卸・小売

大手のメトロ・グループがベトナムでの卸売型スーパーマーケット事業をタイの総合商社バー

リ・ユッカー(BJC)に売却し、フランス企業では、2016 年、大手小売カジノが「Big C」の HM事業と CVS 事業をタイの流通大手セントラル・グループに、2019 年にはオーシャンがベトナム

事業を地場のサイゴンコープに売却した。

Page 21: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

175

今後の見通し

Euromonitor の調べでは、2018 年から 2023 年までの 5 年間のベトナムの小売市場の成長率は年

率 10.0%と予想されている(図表 22-17)。過去 10 年間(2008~2018 年)に比べて、「非食品専門

店」のシェア上昇ペースは早まり、今後 5 年間構成比の上昇幅(5.7%ポイント増)は過去 10 年

間(+5.7%)並みと見込まれている。電化製品専門店や時計・宝飾店の上昇ペースは鈍化するが、

ドラッグストアや文具・オフィスサプライ専門店等では引き続き堅調な伸びが期待され、またこ

れまで構成比が低下してきた園芸専門店(DIY)の反転の寄与が大きいと予想されている。

図表 22-17 業態別販売構成比(2018 年→2023 年)

(出所)Euromonitor より作成

分類

2018 2023 年率成長率 2018 2023 差分

小売売上高 2,445 3,934 10.0% 100.0% 100.0% - 店舗型小売 2,384 3,801 9.8% 97.5% 96.6% -0.9% ↓

食品小売店 1,068 1,458 6.4% 43.7% 37.1% -6.6% ↓

モダントレード 82 124 8.6% 3.3% 3.1% -0.2% (内、コンビニエンスストア) 4 7 14.3% 0.2% 0.2% 0.0% (内、ハイパーマーケット) 27 35 5.2% 1.1% 0.9% -0.2% (内、スーパーマーケット) 51 81 9.8% 2.1% 2.1% -0.0% トラディショナルトレード 986 1,334 6.2% 40.3% 33.9% -6.4% ↓

非食品専門店 1,306 2,325 12.2% 53.4% 59.1% 5.7% ↑

アパレル・靴専門店 126 200 9.7% 5.1% 5.1% -0.1% 電化製品専門店 422 747 12.1% 17.2% 19.0% 1.8% ↑

健康・美容関連製品専門店 219 380 11.7% 8.9% 9.7% 0.7% ↑

(内、美容専門小売店) 33 50 8.8% 1.3% 1.3% -0.1% (内、調剤薬局) 153 255 10.7% 6.3% 6.5% 0.2% (内、ドラッグストア) 26 60 17.8% 1.1% 1.5% 0.4%

日用品、家具、園芸専門店 278 558 15.0% 11.4% 14.2% 2.8% ↑

 DIY 234 478 15.3% 9.6% 12.1% 2.6% ↑

 家具・日用品専門店 44 81 12.9% 1.8% 2.0% 0.3% レジャー、スポーツ用品専門店 139 284 15.3% 5.7% 7.2% 1.5% ↑

(内、鞄)  12 25 17.0% 0.5% 0.6% 0.2% (内、時計・宝飾品) 49 94 13.7% 2.0% 2.4% 0.4% ↑

(内、メディア製品) 16 31 14.7% 0.6% 0.8% 0.1% (内、スポーツ用品) 10 25 19.7% 0.4% 0.6% 0.2% (内、文具・オフィスサプライ) 43 90 15.9% 1.8% 2.3% 0.5% ↑

その他非食品専門店 123 155 4.8% 5.0% 3.9% -1.1% ↓

百貨店等 10 18 12.5% 0.4% 0.5% 0.0% (内、デパート) 9 16 12.0% 0.4% 0.4% 0.0%

非店舗型小売 61 133 17.0% 2.5% 3.4% 0.9% ↑

訪問販売 10 15 8.9% 0.4% 0.4% -0.0% 通販(除くインターネット決済) 1 1 5.5% 0.0% 0.0% -0.0% インターネット小売 49 116 18.6% 2.0% 3.0% 0.9% ↑

自動販売機 - - - - - -

金額(兆ドン) 構成比

Page 22: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

ベトナムの投資環境

176

FTA、EPA の進捗状況

図表 22-18 から 22-20 にかけて、ベトナムの各国との自由貿易協定(Free Trade Agreement :FTA)

や経済連携協定(Economic Partnership Agreement:EPA)の交渉・発効についての進捗状況をまと

めた。ベトナムの FTA・EPA の特徴としては、ASEAN を通じた協定締結の後に、特定の相手国に

基づく二国間協定を締結していることが挙げられる。具体的には、日本との二国間協定は 2009 年

7 月に発効しているが、日本・ASEAN 包括的経済連携協定が発効したのは 2008 年 12 月であった

(注:図表 22-20 中の記載では 2018 年 3 月発効とあるが、インドネシアを除く対象 10 ヵ国は 2010年中に発効済みだった)。現在の主要貿易相手国である韓国についても同様で、ASEAN と韓国と

の自由貿易協定が 2007 年 6 月に発効したのに対し、二国間間協定は 2015 年 12 月の発効と約 8 年

が経過した後となっている。

日本貿易振興機構(JETRO)の「世界と日本の FTA 一覧(2018 年 12 月作成)」や 2019 年 6 月

までの各種報道に基づくと、日本、韓国以外で既にベトナムとの二国間協定が発効している国は、

チリ(2014 年 1 月発効)、EEU 諸国(ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギ

ス、2016 年 10 月発効)、CPTPP 参加国(日本、ニュージーランド、豪州、シンガポール、ブルネ

イ、マレーシア、チリ、ペルー、メキシコ、カナダ、2018 年 2 月発効)、ASEAN としての枠組み

では中国(2005 年 7 月発効)、インド(2010 年 1 月発効)、豪州・ニュージーランド(2010 年 1月発効)がある(図表 22-18)。

図表 22-18 ベトナムの二国間、多国間経済・貿易協定の概要

(出所)JETRO「世界と日本の FTA 一覧(2018 年 12 月作成)」より作成

タイインドネシア

マレーシア

フィリピン

シンガポール ブルネイ

<AFTA(ASEAN自由貿易地域)>

カンボジア ラオス ミャンマー

ベトナム

日本

2004年投資協定発効

2009年EPA発効

2001年通商協定発効2007年TIFA締結

<主な二国間協定>

米国

TPP11(CPTPP)

2018年12月発効。ベ

トナムでは2019年1月

より適用

<ASEANとしての協定>

中国

2005年ACFTA発効。ベ

トナムは2015年まで

に関税撤廃

インド

日本

韓国

豪州

NZ

2010年FTA発効

EU

2007年AKFTA発効。

ベトナムは2016年ま

でに関税撤廃

2008年AJCEP発効

FTA交渉中断中

2010年発効

香港

2017年11月調印。

2019年央にも発効か

2015年VKFTA発効

EU

EVFTA。2019年6月30

日調印。発効には欧州

議会の承認が必要

チリ

イスラエル

2015年よりFTA交渉中

EEU

2016年EEUVFTA発効

2014年VCFTA発効

RCEP2012年交渉開始

韓国

Page 23: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

第 22 章 主要産業の動向と FTA の影響

177

2019 年 6 月に、貿易総額の 1 割を占める EU との間で、自由貿易協定(EVFTA)に署名された。

当該 FTA では、物品貿易に関し、ベトナム側の EU 原産品に対する関税は全品目の 65%が発効と

同時に撤廃され、その他も最長 10 年の段階的な逓減期間を経て、最終的に約 99%が撤廃される

こととなった。また、EU 側もベトナム原産品への関税は 71%が即時撤廃、残りも最長 7 年の逓

減期間を経て撤廃を目指すとしている。当該 FTA により、ベトナムからの衣類・履物、農水産物

などの輸出、EU からの機械設備、自動車、医薬品などの輸入にメリットがあるとみられている。

他方、中国と韓国に次ぐ貿易相手国で、特に輸出においては最大の相手国である米国との間で

は、FTA は交渉の段階にもあがっていない。現状、ベトナムは米国からの最恵国待遇(Permanent Normal Trade Relations)を享受することで、輸出額を増やしている。元々、米国との国交が正常化

したのが 1995 年 7 月(経済制裁の解除は 1994 年)であることや、米越二国間通商協定が発効し

たのが 2001 年 12 月と比較的歴史が浅いことも、他国・地域とは異なり、FTA 交渉に進展しない

要因であった。2006 年 5 月、米国通商代表部(USTR)とベトナム商業省は、ベトナムの WTO 加

盟交渉を契機として、工業製品、IT/サービス、農産品の各分野で関税・非関税障壁の撤廃ないし

大幅削減、通信・金融・流通サービスを含む投資自由化・環境整備による市場アクセス改善や知

的所有権保護など二国間合意に達し、2007年のベトナムのWTO加盟が大きく評価されたことで、

ベトナムは米国からの最恵国待遇を享受できるようになった。

また、2010 年 1 月には ASEAN 域内での物品貿易協定(ATIGA)も発効している。この様に積

極的に FTA、EPA を進めた結果、ベトナムの貿易総額の 5 割以上が自由貿易協定を締結済みの国

からとなっている。

図表 22-19 ベトナムの署名済み・交渉中の FTA・EPA の詳細

(出所)JETRO「世界と日本の FTA 一覧(2018 年 12 月作成)」を基に作成

【署名済】

枠組 加盟国・地域 名称 署名/交渉妥結年月 備考

ASEAN 香港 香港・ASEAN自由貿易協定 2017/1

【自由貿易協定】

両協定には物品貿易、サービス貿易、投資、経済・技術協力、紛争処理解決メ

カニズムに関する内容が盛り込まれたとみられる。FTAについては、調印後、

ASEAN10ヵ国のうち4ヵ国が国内手続きを完了した時点で発効に向けた手続きが

開始されることとなる。

ベトナム EU EU・ベトナム自由貿易協定 2019/6

【自由貿易協定】

欧州委員会によれば、ベトナム側は、同協定の発効により最終的に双方の貿易

に課されている関税の99%が撤廃される。ベトナム側は同協定の発効と同時に

EUからの輸出のうち65%の関税を即時撤廃、その他の品目についても段階的に

軽減され、10年程度の期間で撤廃される見通し。ベトナムはEUへの主要輸出品

目は革靴製品、コーヒー、木工製品で、FTA締結により、更に輸出を拡大する

のが狙い。一方、EUからの主要輸入品は機械、薬剤、鉄、肥料などで、ベトナ

ム経済の潜在性が期待されている。

【交渉中】

枠組 加盟国・地域 名称 交渉開始年月 経緯

EFTA

 スイス、ノルウェー

 リヒテンシュタイン

 アイスランド

EFTA・ベトナム自由貿易

協定2012/5

EU非加盟国(スイス、リヒテンシュタイン、アイスランド、ノルウェー)とベ

トナムとの間で交渉中。2018年の第16回交渉では、知的財産保護や公共調達が

重点課題として話し合われた。また、財の貿易やサービス、原産地規則、衛生

と植物防疫のための措置等広域にわたるトピックスが話し合われた。

イスラエルベトナム・イスラエル自由

貿易協定2016/3 -

日本、中国、韓国

インド、豪州

ニュージーランド

東アジア地域包括的

経済連携 (RCEP)2013/5

2012/11:RCEP交渉立上げ宣言

2013/5~2018/10:計24回の交渉

2018/11:第2回 RCEP首脳会合開催

EU EU・ASEAN自由貿易協定 2007/5

2007/5:交渉開始

2009/5:交渉凍結。ASEAN諸国との個別交渉に移行

2013/3:交渉再開の可能性に向けて検討開始

(交渉中断中)

ベトナム

ASEAN

Page 24: 主要産業の動向と FTA の影響 - JBIC

ベトナムの投資環境

178

図表 22-20 ベトナムの発効済み FTA・EPA の詳細

(出所)JETRO「世界と日本の FTA 一覧(2018 年 12 月作成)」、各種資料を基に作成

枠組 対象国・地域 名称 発効年月 主な内容

日本日本・ベトナム経済連携

協定2009/7

【自由貿易協定】

物品貿易では、日本側は輸入額の95%を10年間で無税化。鉱工業品につき即時

関税撤廃。ベトナムにとっては初めての二国間FTA。ベトナム側は同88%を10

年間で無税化。自動車部品ではベトナム側はボルトネットが5年間、エンジ

ン・エンジン部品、ブレーキが10~15年間で関税撤廃。

チリチリ・ベトナム自由貿易

協定2014/1

【自由貿易協定】

9,000品目以上が対象。チリにとっては、豚肉や乳製品などベトナムが高関税

をかけている品目を関税削減の対象品目としたことは大きい。

韓国韓国・ベトナム自由貿易

協定2015/12

【自由貿易協定】

当該二国間協定(VKFTA)での品目ベースでの無関税率は「韓国94.7%・ベト

ナム92.2%」と、ASEANとの枠組み(AKFTA)の「韓国91.7%・ベトナム

86.2%」を更に踏み込んでいる。貨物車は即時、3,000cc以上の車両や自動車

部品、化粧品、家電製品も追加的に関税が引き下げられる。

EEUベトナム・EEU自由貿易

協定2016/10

【自由貿易協定】

ロシア、ベラルーシ、カザフスタンが加盟する関税同盟の超国家機関である

ユーラシア経済委員会がベトナムとの自由貿易交渉の開始を決定。FTA発効後

数年で、EEUのベトナムの貿易額が80~100億ドルに拡大と分析されている

(2015年の貿易額は43億ドル)。

ニュージーランド、豪州

シンガポール、チリ

ブルネイ、ペルー

マレーシア、メキシコ

カナダ、日本

環太平洋パートナーシップ

に関する包括的及び先進的

な協定 (CPTPP)

2018/2

【自由貿易協定】

元の協定であるTPPは太平洋を囲む12ヵ国による包括的な自由貿易協定として

2016年2月署名に至ったものの、2017年1月にトランプ大統領がTPPからの離脱

に関する大統領令に署名。米国を除く11ヵ国でTPP11の発効に向け交渉を進

め、2017年11月に、米国離脱に伴い凍結する20項目を発表。新協定CPTPPの中

核について合意に達したことを閣僚声明で公表した。2018年10月までに、メキ

シコ、日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、豪州が国内手続きの

完了を通知したため、TPP11の発効要件が満たされた。

日本日本・ASEAN包括的

経済連携協定 (AJCEP)

2018/3

全加盟国で

発効

【自由貿易協定】

物品貿易では、日本側は輸入額の93%を無税化。ASEAN6(タイ、インドネシ

ア、フィリピン、マレーシア、シンガポール、ブルネイ)は10年以内に貿易額

の90%(品目ベースで90%)を無税化。CLMV(カンボジア、ラオス、ミャン

マー、ベトナム)は関税撤廃・削減のスケジュールについて、それぞれの経済

発展に応じてASEAN6との差を設ける。

ASEAN 10ヵ国ASEAN物品貿易協定

(ATIGA)

1993/1:CEPT発効

2009/2:署名

2010/1:発効

【自由貿易協定】

ATIGAは、従来のAFTA-CEPT協定に盛り込まれていなかった事項やルール、措置

などを一本化したもの。域内の関税・非関税障壁撤廃による自由貿易圏作りを

目指す。ASEAN先行加盟6ヵ国(タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシ

ア、シンガポール、ブルネイ)は2010年に、新規加盟4ヵ国(カンボジア、ラ

オス、ミャンマー、ベトナム)は2015年に域内関税を撤廃。但し、新規加盟国

については総品目数の7%を上限に、2018年まで関税撤廃期間の猶予が与えら

れた。

中国中国・ASEAN自由貿易協定

(ACFTA)2005/7

【自由貿易協定】

農産品8分野の関税引き下げを2004/1開始。現在までに農産品の関税は撤廃さ

れている。物品貿易協定では、2005/7から関税引き下げを実施。中国とASEAN

先行加盟6ヵ国は物品貿易の90%について2010年までに関税を撤廃し、CLMV諸

国は2015年までに撤廃することを目指した。

センシティブ品目は、400品目以内で、且つ総輸入の10%以内、高度センシ

ティブ品目は、センシティブ品目の40%もしくは100品目のいずれか少ない方

を指定可能。センシティブ品目は2010年末まで、高度センシティブ品目は2014

年末までに現行関税を維持でき、以降、段階的に引下げ予定。

2010/1からASEAN先行加盟6ヵ国と中国との間で約89%の品目で関税が撤廃され

た。2012/1からセンシティブ品目の関税が20%以下に削減された。高度センシ

ティブ品目は2015/1から50%以下に削減された。

韓国 韓国・ASEAN自由貿易協定 2007/6

【自由貿易協定】

物品貿易では、双方は原則として2010/1までにそれぞれ輸入の90%(輸入金

額、品目数ベース、ノーマルトラック)にあたる品目について関税撤廃。2016

年までに残りの7%について関税を0~5%に引き上げ、残りの3%については、

当該品目に対する各国の状況を考慮して除外、長期間の関税引き下げ、関税割

当設定などAからEまで5つのグループを設定。また、CLMV諸国のノーマルト

ラックの関税引き下げスケジュールについては、品目数の少なくとも50%を0

~5%に(ベトナム:2013/1まで、CLM:2015/1まで)、品目数の90%を0~5%

に(ベトナム:2016/1まで、CLM:2018/1まで)、全品目の関税の完全撤廃

(ベトナム:2018/1まで、CLM:2020/1まで)等の段階を経て削減される。

インドASEAN・インド包括的

経済協力枠組協定2010/1

【自由貿易協定】

関税については、2013年末と2016年末の2つの時点で自由化・引き下げが実施

される。物品貿易では、2008/8にインド側489品目のネガティブリストを含む

内容で合意、2010/1に発効した。

豪州、ニュージーランド

ASEAN・豪州・

ニュージーランド

自由貿易協定

2010/1

インドネシアは

2012/1

【自由貿易協定】

全18章からなる極めて包括的な協定で、物品貿易や投資、サービスに加えて自

然人の移動、電子商取引、協力などを含んでいる。品目数(タリフライン)

ベースで、豪州、NZ、シンガポールは100%自由化(関税撤廃)を実現するな

ど自由化率の高いFTA。

ベトナム

ASEAN