血管炎症候群の診療ガイドライン - jcs · circulation journal vol. 72, suppl. iv, 2008...

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1253 Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006 - 2007 年度合同研究班報告) 血管炎症候群の診療ガイドライン Guideline for Management of Vasculitis Syndrome(JCS 2008) 合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本医学放射線学会,日本胸部外科学会,日本血管外科学会, 日本小児科学会,日本腎臓学会,日本心臓血管外科学会,日本心臓病学会,日本病理学会, 日本脈管学会,日本リウマチ学会 班 長 聖マリアンナ医科大学リウマチ・膠 原病・アレルギー内科 班 員 藤田保健衛生大学胸部外科 九州大学大学院医学研究科病理病態学 東京医科歯科大学大学院循環器内科 田   愛知医科大学外科学血管外科 順天堂大学附属順天堂越谷病院内科 松   東京医科大学病院第二外科 川崎医科大学胸部心臓血管外科 聖マリアンナ医科大学放射線医学  杏林大学第一内科学 愛媛大学大学院医学系研究科病態解 析学講座 山口大学大学院医学研究科放射線医 学講座 東京大学外科・血管外科 岡山理科大学理学部臨床生命科学科 東京医科大学八王子医療センター腎 臓内科学 旭川医科大学眼科学講座 協力員 杏林大学第 1 内科学 北海道大学医学部保健学科 東京医科歯科大学血管外科 聖マリアンナ医科大学リウマチ・膠 原病・アレルギー内科 山口大学医学部放射線科 岡   北海道大学大学院医学系研究科免疫 代謝内科学 協力員 関西医科大学枚方病院小児科学 日本医科大学医学部皮膚科学教室 順天堂大学附属順天堂越谷病院内科 聖マリアンナ医科大学放射線医学 名古屋大学血管外科 長崎大学医学部・歯学部附属病院放 射線科 北海道大学病院循環器外科 東京大学血管外科 旭川医科大学眼科学講座 澤   帝京大学医学部附属溝口病院第 4 内科 旭川医科大学眼科学講座 佐賀大学医学部内科学 群馬大学医学部生体統御内科学 順天堂大医学部附属越谷病院 聖マリアンナ医科大学放射線医学 群馬大学第三内科 藤田保健衛生大学リウマチ感染症内科 川崎医科大学胸部心臓血管外科 山口大学医学部放射線科 聖マリアンナ医科大学リウマチ・膠 原病・アレルギー内科 藤田保健衛生大学リウマチ感染症内科 外部評価委員 神戸大学大学院医学系研究科臨床病 態・免疫学 北海道大学大学院医学系研究科病態 内科学 旭川医科大学第一外科 聖路加国際病院 江   滋賀医科大学呼吸循環器内科学教室 (構成員の所属は2008 7 月現在)

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1253Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007年度合同研究班報告)

血管炎症候群の診療ガイドラインGuideline for Management of Vasculitis Syndrome(JCS 2008)

合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本医学放射線学会,日本胸部外科学会,日本血管外科学会,          日本小児科学会,日本腎臓学会,日本心臓血管外科学会,日本心臓病学会,日本病理学会,          日本脈管学会,日本リウマチ学会

班 長 尾 崎 承 一 聖マリアンナ医科大学リウマチ・膠原病・アレルギー内科

班 員 安 藤 太 三 藤田保健衛生大学胸部外科

居 石 克 夫 九州大学大学院医学研究科病理病態学

磯 部 光 章 東京医科歯科大学大学院循環器内科

太 田   敬 愛知医科大学外科学血管外科

小 林 茂 人 順天堂大学附属順天堂越谷病院内科

重 松   宏 東京医科大学病院第二外科

種 本 和 雄 川崎医科大学胸部心臓血管外科

中 島 康 雄 聖マリアンナ医科大学放射線医学 

中 林 公 正 杏林大学第一内科学

能 勢 眞 人 愛媛大学大学院医学系研究科病態解析学講座

松 永 尚 文 山口大学大学院医学研究科放射線医学講座

宮 田 哲 郎 東京大学外科・血管外科

由 谷 親 夫 岡山理科大学理学部臨床生命科学科

吉 田 雅 治 東京医科大学八王子医療センター腎臓内科学

吉 田 晃 敏 旭川医科大学眼科学講座

協力員 有 村 義 宏 杏林大学第1内科学

石 津 明 洋 北海道大学医学部保健学科

岩 井 武 尚 東京医科歯科大学血管外科

岡 崎 貴 裕 聖マリアンナ医科大学リウマチ・膠原病・アレルギー内科

岡 田 宗 正 山口大学医学部放射線科

片 岡   浩 北海道大学大学院医学系研究科免疫代謝内科学

協力員 金 子 一 成 関西医科大学枚方病院小児科学

川 名 誠 司 日本医科大学医学部皮膚科学教室

木 田 一 成 順天堂大学附属順天堂越谷病院内科

小 林 泰 之 聖マリアンナ医科大学放射線医学

古 森 公 浩 名古屋大学血管外科

坂 本 一 郎 長崎大学医学部・歯学部附属病院放射線科

椎 谷 紀 彦 北海道大学病院循環器外科

重 松 邦 広 東京大学血管外科

高 橋 淳 士 旭川医科大学眼科学講座

滝 澤   始 帝京大学医学部附属溝口病院第4内科

長 岡 泰 司 旭川医科大学眼科学講座

長 澤 浩 平 佐賀大学医学部内科学

野 島 美 久 群馬大学医学部生体統御内科学

橋 本 博 史 順天堂大医学部附属越谷病院

濱 口 真 吾 聖マリアンナ医科大学放射線医学

廣 村 桂 樹 群馬大学第三内科

深 谷 修 作 藤田保健衛生大学リウマチ感染症内科

正 木 久 男 川崎医科大学胸部心臓血管外科

松 本 常 男 山口大学医学部放射線科

山 田 秀 裕 聖マリアンナ医科大学リウマチ・膠原病・アレルギー内科

吉 田 俊 治 藤田保健衛生大学リウマチ感染症内科

外部評価委員熊 谷 俊 一 神戸大学大学院医学系研究科臨床病

態・免疫学

小 池 隆 夫 北海道大学大学院医学系研究科病態内科学

笹 嶋 唯 博 旭川医科大学第一外科

福 井 次 矢 聖路加国際病院

堀 江   稔 滋賀医科大学呼吸循環器内科学教室

(構成員の所属は2008年7月現在)

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

Ⅰ 総 論

1 ガイドライン作成の背景

1 血管炎症候群の分類 血管炎症候群は罹患血管のサイズから大型血管炎,中型血管炎,小型血管炎に分類される(表1).大型血管炎は大動脈および四肢・頭頸部に向かう最大級の分枝の血管炎で,高安動脈炎と側頭動脈炎が含まれる.中型血管炎は各内臓臓器に向かう主要動脈とその分枝の血管炎で,結節性多発動脈炎と川崎病が含まれるが,バージャー病もこの範疇に入る.小型血管炎は細動脈・毛細血管・

細静脈の血管炎で,時に小動脈も傷害の対象となる.この群は免疫複合体の関与するものと関与しないものとに大別される.関与する血管炎にはヘノッホ・シェーンライン紫斑病と本態性クリオグロブリン血症が含まれるが,悪性関節リウマチもこの範疇に入る.一方,非免疫複合体性の血管炎の中に,顕微鏡的多発血管炎・ウェゲナー肉芽腫症・アレルギー性肉芽腫性血管炎の3疾患があるが,これらは抗好中球細胞質抗体(ANCA)という共通の疾患標識抗体に基づきANCA関連血管炎と総称される.

2 血管炎の概念:その歴史的変遷

①大型血管炎の歴史

 高安動脈炎の歴史的変遷は沼野藤夫らがよく記載している.本疾患の最初の記載として,漢方医の矢数道明は漢方医書「橘黄医談」(1824年)を紹介している.これ

目  次

Ⅰ.総 論………………………………………………………12541.ガイドライン作成の背景 ……………………………12542.ガイドライン作成の基本方針 ………………………12593.ガイドラインの構成 …………………………………1260

Ⅱ.高安動脈炎…………………………………………………12601.疾患概念・定義・疫学 ………………………………12602.発症機序 ………………………………………………12623.病理所見 ………………………………………………12634.臨床症状 ………………………………………………12655.診断法および診断基準 ………………………………12656.治療指針および治療法ガイドライン ………………12687.予後 ……………………………………………………1275

Ⅲ.バージャー病………………………………………………12751.疾患概念・定義・疫学 ………………………………12752.発症機序 ………………………………………………12753.病理所見 ………………………………………………12764.臨床症状と検査所見 …………………………………12775.診断法および診断基準 ………………………………12786.治療指針および治療法ガイドライン ………………12827.予後 ……………………………………………………12838.今後の展望 ……………………………………………1285

Ⅳ.側頭動脈炎…………………………………………………12851.疾患概念・定義・疫学 ………………………………1285

2.発症機序・病理所見 …………………………………12863.臨床症状と検査所見 …………………………………12864.診断法および診断基準 ………………………………12865.治療指針および治療法ガイドライン ………………12876.予後 ……………………………………………………1288

Ⅴ 結節性多発動脈炎…………………………………………12891.疾患概念・定義・疫学 ………………………………12892.発症機序・病理所見 …………………………………12903.臨床症状と検査所見 …………………………………12914.診断法および診断基準 ………………………………12935.治療指針および治療法ガイドライン ………………12946.予後 ……………………………………………………1296

Ⅵ.小型血管炎…………………………………………………12961.顕微鏡的多発血管炎  (Microscopic polyangiitis:MPA) …………………12962.ウェゲナー肉芽腫症 …………………………………12993.アレルギー性肉芽腫性血管炎  (シャーグ・ストラウス症候群) ……………………13024.ヘノッホ・シェーンライン紫斑病 …………………13035.本態性クリオグロブリン血症 ………………………13056.悪性関節リウマチ ……………………………………1307

文献………………………………………………………………1310

(無断転載を禁ずる)

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血管炎症候群の診療ガイドライン

によれば著者の山本鹿洲は,右上肢の脈拍消失と左上肢の脈拍微弱を示した45歳の男性患者を記述したが,足背動脈は触知良好であったという.この患者はその後4~5年して著しいるいそうをきたし,初診から11年目で死亡した由である.本疾患の最初の科学的な報告は1908年になされ,日本眼科学会において金沢大学眼科学教授の高安右人が「奇異なる網膜中心血管の変化の一例」として報告した1).この22歳の女性例は花環状吻合の眼底所見を呈し後年盲目に陥っている.次いで同様の症例が解析され,脈なし病pulseless disease(清水・佐野 1948年)として英文で発表された2).この疾患は東アジアに多く欧米では稀な疾患であるが,このpulseless

diseaseという名称が英文誌に紹介されてからは,欧米でも広く知られるようになった.1994年のChapel Hill

分類3)にも,高安動脈炎Takayasu’s arteritisとして取り上げられている. 側頭動脈炎Temporal arteritis(giant cell arteritis)はHutchinson(1890年)による報告4)が最初であるが,その2年前にBruce(1888年)により報告5)されたリウマチ性多発筋痛症との関連が受け入れられるようになるのは20世紀後半になってからである.

②中型血管炎の歴史

 1908年および1909年にLeo Buergerは慢性下肢動静脈閉塞症の11例および19例の切断肢を解析し,血栓性閉塞を主病態と考え閉塞性血栓性血管炎 thromboangiitis

obliterance(TAO)と報告した6),7).その後,本疾患の疾患単位としての議論が行われたが,臨床的疾患単位としてのバージャー病Buerger disease は広く認知されてい

る.我が国では特発性脱疽として以前より知られている. 結節性多発動脈炎の最初の報告はKussmaul and Maier

(1866年)によりなされた壊死性血管炎の1剖検例である8).この27歳の男性症例は発熱,下痢,筋痛,全身倦怠を主訴として入院し,糸球体腎炎,末梢神経障害,リンパ節腫脹,皮下腫瘤を呈し,1ヶ月後に著明な腹痛,極度の衰弱をきたし,乏尿となり死亡している.病理解剖により全身の中等大の動脈の周囲に結節状肥厚を認め,顕微鏡的には筋層に始まる壊死性血管炎が血管全層に波及したものであるとされ,結節性動脈周囲炎periarteritis nodosaの名で報告された.これが壊死性血管炎の最初の報告であるが,炎症が必ずしも血管の「周囲」にとどまらず,「全身」の血管が侵されることから,のちに結節性多発動脈炎polyarteritis nodosa(PAN)と呼ばれるようになった(Ferrari, 1903年).のちにPAN

からいくつかの小型血管炎が分離される. 中型血管炎の川崎病は川崎富作(1967年)により初めて報告された小児の急性熱性疾患である9)が,その後,田中・直江ら(1976年)により剖検例における血栓を伴う冠状動脈炎が報告され,血管炎として認識されるようになったものである.1994年のChapel Hill分類3)にも川崎病Kawasaki diseaseとして取り上げられているが,日本循環器学会のガイドラインに独立して掲載されているので,本ガイドラインでは取り扱わないことにしている.

③小型血管炎の歴史

1)免疫複合体性血管炎 1942年,フィブリノイド変性を主たる病理学的所見

表1 罹患血管のサイズに基づく血管炎症候群の分類

分類 罹患血管 血管炎

大型血管炎 大動脈とその主要分枝 ○高安動脈炎○側頭動脈炎

中型血管炎 内臓臓器に向かう主要動脈とその分枝

○バージャー病○結節性多発動脈炎川崎病

小型血管炎 細動脈・毛細血管・細静脈.時に小動脈

ANCA関連血管炎 ○顕微鏡的多発血管炎 ○ウェゲナー肉芽腫症 ○アレルギー性肉芽腫性血管炎免疫複合体性血管炎 ○ヘノッホ・シェーンライン紫斑病 ○本態性クリオグロブリン血症 ○悪性関節リウマチ

 ○を付した疾患は本ガイドラインで取り上げた疾患である. 下線の6疾患は厚生労働省特定疾患治療研究対象疾患である.結節性多発動脈炎と顕微鏡的多発血管炎は2005年度までは「結節性動脈周囲炎」として一括して登録されていたが,2006年度より個別に登録されている.

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

とする疾患群として「膠原病」と言う概念がKlemperer

らによって提唱され,PANを含む6疾患が包括された10).さらに,Zeek(1952年)はフィブリノイド壊死と炎症性病変を有する血管病変に対して壊死性血管炎(necrotizing vasculitis)という概念を提唱し,過敏性血管炎,アレルギー性肉芽腫性血管炎,関節リウマチ,結節性多発動脈炎および側頭動脈炎の5疾患を包括・分類した11).この中には大型の血管を障害する側頭動脈炎から小型血管を炎症の場とする過敏性血管炎まで含まれており,壊死性血管炎とは形態的に壊死性病変を呈する血管炎の集合体であったと言える.過敏性血管炎は免疫複合体により形成される血管炎の表現型として認識されていたが,Henoch-Schönlein紫斑病(Schönlein 1837年,Henoch 1868年)との異同につき混乱があった.その後,免疫学的手法の進歩に伴い,Henoch-Schönlein紫斑病では血管炎局所に IgA免疫複合体が沈着していることが明らかとなり,本態性クリオグロブリン血症でも免疫複合体の沈着が証明され,免疫複合体病としての血管炎の概念が確立した.このような背景でChapel Hill分類では過敏性血管炎の名称は除かれることになる.  悪 性 関 節 リ ウ マ チmalignant rheumatoid arthritis

(MRA)の最初の報告はBevans(1954年)で,胸膜炎,心外膜炎,心内膜炎,肉芽腫性の肺・腎病変,壊死性血管炎などを主病態として電撃的な経過をとった2症例がMRAの名前で報告された12).本邦では厚生労働省の特定疾患に含まれ,「血管炎をはじめとする関節外症状を認め,難治性もしくは重篤な臨床症状を呈する関節リウマチ」と定義されている.しかし,海外ではMRAの呼称はほとんどみられず,リウマチ性血管炎 rheumatoid

vasculitisと呼ばれることが多い.血管炎の主病態は免疫複合体病である.2) ANCA関連血管炎 免疫複合体病としての血管炎の概念の一方で,明らかな免疫複合体の沈着が認められない一群の小型血管炎も知られ,寡免疫性の血管炎(pauci-immune vasculitis)として,免疫複合体病による血管炎と病因論的に区別されていた. 1923年にWohlwillは,肉眼的には異常を認めないが顕微鏡的観察により初めてPANと診断できる2剖検例を報告した13).2例ともPANに極めて類似した臨床経過をとったが,剖検にて動脈は肉眼的には正常であり,顕微鏡的観察により小動脈にPAN様病変を認めた.これが顕微鏡的PANの最初の報告例である.これに基づきArkin(1930年)は,傷害される血管のサイズによりPANを古典的PANと顕微鏡的PANの2つのカテゴリー

に分類した14).その後,後者はPANとは本質的に区別すべきカテゴリーあると考えられるようになり,その病変が細動脈のみならず毛細血管や細静脈にもみられることから顕微鏡的多発血管炎microscopic polyangiitis

(MPA)の名称が提唱され,Chapel Hill分類でも採用されている. 20世紀前半にはさらに2つの疾患がPANから分離独立された.1939年,ドイツの病理医Wegenerは,全身の血管に古典的PANと区別のつかない壊死性肉芽腫性血管炎を認め,さらに上気道と肺に壊死性肉芽腫,腎に壊死性半月体形成性腎炎を認める3剖検例を報告した15).これがのちにウェゲナー肉芽腫症Wegener’s

granulomatosis(WG)としてPANから分離独立されるに至った.一方,1951年,米国の病理医ChurgとStraussは,それまでPANとされていた症例のなかから,アレルギー性鼻炎や気管支喘息,好酸球増多症が先行し,次いで肉芽腫性血管炎をきたした13例の剖検例を報告し,この疾患をアレルギー性肉芽腫性血管炎allergic

granulomatous angiitis(AGA)と命名して,PANから分離独立させた16).今日では,このような臨床経過をたどる症例をChurg-Strauss症候群(CSS)と呼び,さらに病理所見の確定しているものをアレルギー性肉芽腫性血管炎と呼ぶことが多い. 顕微鏡的多発血管炎,ウェゲナー肉芽腫症,アレルギー性肉芽腫性血管炎の3疾患においては病変局所に明らかな免疫複合体の沈着は認められず,寡免疫性の血管炎の代表格であるが,この3疾患の共通の病因として注目されたのが,1982年に発見された抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody; ANCA)である17).対応抗原により,ミエロペロキシダーゼ(MPO)を認識するMPO-ANCAと,プロテイナーゼ3(PR3)を認識するPR3-ANCAに分けられるが,前者は顕微鏡的多発血管炎とアレルギー性肉芽腫性血管炎に関連し,後者はウェゲナー肉芽腫症に関連している.このことから,1997年に Jennette and Falkはこの3疾患をANCA関連血管炎ANCA-associated vasuculitisと総称することを提唱し18),今日まで広く受け入れられている.

3 血管炎症候群の本邦における疫学 血管炎症候群の多くは希少性で原因不明の難治性疾患であり,厚生労働省特定疾患として難治性血管炎調査研究班の研究対象疾患になっている.中でも患者数が比較的多く治療が困難な疾患は,治療研究対象疾患として治療費の一部が公費で負担され,認定された患者には医療受給者証が交付される.これらは高安動脈炎,バージャ

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血管炎症候群の診療ガイドライン

ー病,結節性多発動脈炎,顕微鏡的多発血管炎,ウェゲナー肉芽腫症,悪性関節リウマチの6疾患である(表1).この6疾患においては,毎年,認定が更新されて医療受給者証が交付されるため.その件数から患者数が推定される.この12年間の交付件数の推移を図1に示した. これによると,本邦で多い血管炎はバージャー病,高安動脈炎,悪性関節リウマチであり,これらの患者数はこの12年間で比較的一定または減少傾向にある.一方,結節性多発動脈炎とウェゲナー肉芽腫症は年々増加の一途をたどり,この12年間で2~3倍に増えている.特定疾患の申請システムから,結節性多発動脈炎と顕微鏡的多発血管炎は2005年度までは「結節性動脈周囲炎」として一括して登録されていた(2006年度からは個別に登録されるようになっている).従って,両疾患の詳細な患者数は不明であるが,1990年代の調査では顕微鏡的多発血管炎が圧倒的多数含まれていた.このことから,本邦では顕微鏡的多発血管炎とウェゲナー肉芽腫症のANCA関連血管炎の患者数が増加していることが推定される.ANCA関連血管炎の中では,顕微鏡的多発血管炎がウェゲナー肉芽腫症よりも患者数が多いのが,欧米と比較した時の本邦の特徴である.一方,大型血管炎でも欧米との疫学的差異がみられ,本邦では高安動脈炎が圧倒的に多く側頭動脈炎は極めて少ないのに対し,欧米では逆に側頭動脈炎が高頻度にみられる.このように本邦の血管炎症候群患者の疫学や病態は欧米と大きく異なっており,それが本邦独自の診療ガイドラインが求められてきた背景である.

4 血管炎症候群の共通の症候と診断のアプローチ

①共通の症候

 血管炎症候群では「血管」の「炎症」のために,多臓器の虚血や出血による症状とともに炎症所見を呈する.炎症による全身症状と局所の臓器症状に大別される.1)全身症状Ⅰ.原因不明の発熱: 発熱は38℃~39℃の高度の発熱が多く,スパイク熱の型をとることが多い.Ⅱ.全身症状: 高度の発熱が持続するため,体重減少を伴ってくることが多い.脱力感,全身倦怠感などの漠然とした症状を訴える.2)局所の臓器症状 全身の多臓器の症状が同時に(または順次に)みられるのが特徴である.臓器症状は罹患血管の障害による虚血や出血の症状であり,罹患血管のサイズにより差が見られる(表2).Ⅰ.大・中型血管炎の臓器症状(表2─Ⅰ): 大型~中型の血管は大動脈と臓器を結ぶ血管であるため,傷害された特定の血管に応じて,脈拍欠損,咬筋跛行,失明,急性腹症など,対応した臓器の障害をきたす.腎臓の中型以上の血管の傷害では,急激に進行する高血圧と腎機能障害を呈する.Ⅱ.小型血管炎の臓器症状(表2─Ⅱ): 皮疹では特に下腿に好発する,いわゆる触知可能な紫

図1 血管炎患者数の推移(特定疾患医療受給者証交付件数)

表2 大・中型血管炎と小型血管炎の臓器症状

Ⅰ.大・中型血管炎による臓器症状総頚動脈: めまい,頭痛,失神発作顎動脈: 咬筋跛行眼動脈: 失明鎖骨下動脈: 上肢のしびれ,冷感,易疲労性,上肢血圧

左右差,脈なし腎動脈: 高血圧,腎機能障害腸間膜動脈:虚血性腸炎冠動脈: 狭心症,心筋梗塞肺動脈: 咳,血痰,呼吸困難,肺梗塞

Ⅱ.小型血管炎による臓器症状皮膚: 網状皮斑,皮下結節,紫斑,皮膚潰瘍,指

端壊死末梢神経: 多発性単神経炎筋肉:  筋痛関節: 関節痛腎臓:  壊死性(半月体形成性)糸球体腎炎消化管: 消化管潰瘍,消化管出血心臓:  心筋炎,不整脈肺:   肺胞出血漿膜: 心膜炎,胸膜炎眼:   網膜出血,強膜炎

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

斑が特徴的である.多発性単神経炎は当該神経を養う中~小動脈の血管炎の症状であり,初期には感覚障害としての知覚過敏,知覚鈍麻などが出現し,進行すると運動障害を併発し下垂手や下垂足となることがある.腎臓の小血管の血管炎では,血尿,蛋白尿,円柱尿などの腎炎の臨床像を呈する.肺における細動脈炎や細静脈炎により肺胞出血が起きると泡沫上の血痰が喀出されることもある.

②診断のアプローチ

 「一見脈絡のない多彩な全身症状を呈する発熱患者」では,まず血管炎を疑うことが重要である.血管炎症候群と鑑別を要するものとして,感染症,悪性腫瘍,および膠原病やその類縁疾患を除外する.罹患血管のサイズにより,アプローチが異なる(図2).大型~中型血管炎では血管造影が有用である.小型血管炎では免疫複合体の有無により疾患が大別される.免疫複合体陽性群では IgA免疫複合体(IgA-IC)やクリオグロブリンの有無に注意する.悪性関節リウマチでも免疫複合体陽性となり,リウマトイド因子(RF)が著しく高値となる. 免疫複合体陰性群にはANCA関連血管炎が含まれ,MPO-ANCAや PR3-ANCAに注意する.大動脈とその主要分枝を障害される高安動脈炎以外では,罹患血管の生検が診断に有用である.

5 血管炎治療の治療薬とその合併症に関する注意点

①副腎皮質ステロイド剤

 多くの血管炎治療における第一選択薬である.副作用として,糖尿病,感染症,消化性潰瘍,精神症状,骨粗

鬆症・脊椎圧迫骨折,高血圧,緑内障・白内障,高脂血症などが起こる.これらの合併症は治療経過中に時期をたがえて出現するためモニターおよび合併症に対する対応策の理解が必要である.合併症を発症した場合に,消化性潰瘍治療薬など,薬剤の追加で対応できることも多いが,特に高齢者に脊椎の圧迫骨折が生じた際には,疼痛,ADL/QOLの低下,臥床による多くの合併症の増加が生じるため,ビスホスホネート製剤の予防投与が必要である19),20).感染症は血管炎の再燃であるか判断に苦慮することがある.肺の日和見感染が多いため,治療経過中に起こる,結核,ニューモシスティス肺炎,サイトメガロウィルス肺炎などに注意する21).ステロイド剤の減量(steroid sparing)目的に免疫抑制剤の併用投与が勧められる.

②シクロホスファミド(エンドキサン®)

 難治性血管炎には欠かせない薬剤である. DNAをアルキル化してDNAの複製を阻害し,細胞死をもたらす.血球減少,肝障害,感染症などに注意する.また,本薬剤の代謝産物が膀胱粘膜を刺激して出血性膀胱炎を誘発するため,投与中は水分摂取を多くし,尿排泄を頻回にするとともに,間歇静注療法に際しては,予防薬としてメスナを投与する.総投与量が5~10g以上になると発癌性が増加する.また,精巣・卵巣障害にも注意する.血管炎に対する保険適用はないため,十分なインフォームド・コンセントを得ることが勧められる.

③アザチオプリン(イムラン®,アザニン®)

 プリン代謝拮抗剤である.投与開始初期に血球減少,肝障害などの副作用に注意する. アロプリノール(ザイロリック®)との併用で骨髄抑制がおこるため,併用時には本剤を1/4~1/2量に減量する.保険適応症は,①腎移植,②移植時拒絶反応抑制である.

④メトトレキサート(メソトレキセート®, リウマトレックス®,メトレート®)

 葉酸拮抗剤である.関節リウマチには,リウマトレックス®,メトレート®が保険適応であるが,血管炎症候群の治療に対しては保険適応外となる為,この場合も十分なインフォームドコンセントを得ることが求められる. 一般に本剤は毎日内服ではなく,週に1~2日(朝,夕)の内服で投与されることが多いので注意する.本剤は催奇性があるため,妊娠希望者には6ヶ月以上の休薬期間

感染症・悪性腫瘍・膠原病を除外

血管炎症候群の症候あり

罹患血管のサイズ大型 中型 小型~毛細血管

血管造影 免疫複合体(IC)+-

生検

高安動脈炎

側頭動脈炎

バージャー病

MPO-ANCA

PR3-ANCA

クリオグロブリン

IgAIC

RF

PAN WGAGA HSP クリオグロブリン血症

MPA MRA

組織生検

図2 血管炎症候群の診断のアプローチ

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血管炎症候群の診療ガイドライン

が必要である.肝障害は用量を増すと出現し,減量すると改善する場合が多い.血球減少症は,腎障害,高齢者の脱水症に際し出現することが多い.腎排泄性のため,本剤の血中濃度が増加するためである.このため,腎不全患者には禁忌である.間質性肺炎の副作用の頻度は少ないが,基礎疾患に間質性肺炎がある症例では注意する.高齢者,呼吸器疾患のある症例では,ニューモシスティス肺炎が合併することがあり,投与中にβ-Dグルカンの測定を行い,必要時スルファメトキサゾールトリメトプリム(バクタ®2錠を週3回)の予防投与を行う.この場合,メトトレキサートとトリメトプリムの相乗効果があるため,メトトレキサートの量を減じる必要がある.

⑤アスピリン(バイアスピリン®,バッファリン81®)

 シクロオキシゲナーゼ1(Cox-1)阻害によりトロンボキサンA2の合成を阻害し,血小板の凝集を抑制する.側頭動脈炎の内膜肥厚に関与する IFN-γの発現を抑制する22).炎症やステロイド剤による動脈硬化は広く知られたことであるが,アスピリンとともに,スタチン製剤,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤の投与も考慮される.

6 血管炎の治療合併症に対する予防法・治療法

 厚生労働科学免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業,免疫疾患の合併症とその治療法に関する研究班(主任研究者 橋本博史)の以下のガイドライン21)を参照されたい. 

①ニューモシスティス肺炎

1)免疫疾患におけるニューモシスティス肺炎予防基準1次予防•年齢が50歳以上•ステロイド剤投与例

PSL1.2mg/kg/日以上,あるいは,PSL0.8mg/kg/日以上で免疫抑制剤併用中止基準:PSL0.4mg/kg/日以下

•免疫抑制剤投与例PSL0.8mg/kg/日以上併用,あるいは,末梢血リンパ球数500/μL以下中止基準:PSL0.4mg/kg/日以下併用,あるいは,安定して末梢リンパ球数500/μL以上2次予防(ニューモシッスティス肺炎に対する治療に一旦反応した後の予防)•発症例全例 中止基準:一次予防と同じ.

2)ニューモシスティス肺炎の予防法 Ⅰ.ST合剤(TMP/SMX)(バクタ®:1錠=1g)    1g/日~4g/週 (2g/回)~8g/週(4g/回) Ⅱ. イセチオン酸ぺンタミジン吸入(ベナンバック

ス®:1A=300mg)    300mg/月~300mg/2週3)検査値にて注意すること 年齢によって異なるが,末梢血リンパ球数算定し,1000/μL以下で注意,予防投与を行う.500/μL以下では予防投与を勧める.

②副腎皮質ステロイド大量使用女性患者の骨折予防と治療

 YAM80%未満では骨折のリスクが高く,治療予防の絶対適応である.骨塩量が保たれている(Tスコア>-SD)にもかかわらず,骨折を起こす例が多くあり,厳重な管理を要する.ステロイド剤長期大量使用時は,T

スコアに関わらず活性型ビタミンD3とビスフォスフォネートの併用を考慮する.高脂血症が骨折のリスクとなる可能性がある(RR=3.11).骨粗鬆症には,ビスフォスフォネートの効果が期待されるが,治療初期の骨折に対する予防効果は不明である.

2 ガイドライン作成の基本方針

1 対象とした疾患 今回,血管炎症候群の診療ガイドラインを策定するにあたり,循環器専門医および一般診療医の診療に寄与することを第一義的に考慮し,疫学や罹患血管のサイズも加味して対象疾患を選定した.その結果,次にあげる5疾患(群)についての診療ガイドラインを作成することとした.このうち本邦で患者数が多く,循環器専門医による診療機会の多い2疾患(高安動脈炎とバージャー病)については最も十分な記載を行った.逆に,本邦で患者数が少なく,リウマチ専門医による診療機会の多い残りの3疾患(群)については要点の記載にとどめた.

①高安動脈炎②バージャー病③側頭動脈炎④結節性多発動脈炎⑤小型血管炎(顕微鏡的多発血管炎,ウェゲナー肉芽腫症,アレルギー性肉芽腫性血管炎,ヘノッホ・シェーンライン紫斑病,本態性クリオグロブリン血症,悪性関節リウマチ)

1260 Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

2 適応の分類 本ガイドラインでは欧米の研究成果のみならず本邦の研究成果を取り入れて,現時点における血管炎症候群の診療に関する標準的なガイドラインの作成に努めた.患者数が限られていること,および,ランダム化比較対照試験が少ないことから,エビデンスレベルの低い研究成果も採用した.他のガイドラインにならい,治療法推奨度とエビデンスレベルは表3の分類に従った.

3 ガイドラインの構成

 本ガイドラインは,総論と各論の2部に分けて作成した.総論では血管炎症候群の理解のための血管炎の分類を解説するとともに,薬物治療の主体となる副腎皮質ステロイド薬および免疫抑制薬の注意すべき副作用をまとめた. 各論では前ページにあげた5疾患(群)につき,以下の項目につき解説した.

①疾患概念・定義・疫学②発症機序③病理所見④臨床症状と検査所見⑤診断法および診断基準⑥治療指針および治療法ガイドライン⑦予後

 血管炎症候群の理解と診断には病理所見が重要である.そのため,診断に必要な病理所見を記載し,可能な限り特徴的な写真を掲載した. 血管炎症候群の診断基準としては,世界的にはアメリカリウマチ学会(ACR)の提唱した基準が標準であるが,本邦では厚生労働省難治性血管炎調査研究班の診断基準

が主に用いられる.この両基準の感度と特異度を本邦の患者集団で厳密に検証した研究はない.従って,本ガイドラインでは主として臨床実地現場で頻用される基準を掲載し,必要に応じて両者を併記した. 治療は,現在それぞれの疾患で行われている標準的治療法に関して,薬物療法と非薬物療法に分けて指針を示した.特に,高安動脈炎とバージャー病については,本邦の血管外科分野における研究成果に基づく手術適応と手術手技,および,それらの成績につき詳細に述べた. 標準的治療法に抵抗性の症例に対して,近年,生物学的製剤の投与や,遺伝子治療,および,血管再生医療の導入が試みられてきている.本ガイドラインでは,それらの現状と今後の動向についても触れた.

Ⅱ 高安動脈炎

1 疾患概念・定義・疫学

1 疾患概念 高安動脈炎または高安病は大動脈およびその基幹動脈,冠動脈,肺動脈に生ずる大血管炎である.本邦では大動脈炎症候群と呼ばれることが多いが,欧米での呼称は高安動脈炎(Takayasu’s arteritis)である.人種や地域差があるが,我が国では若い女性に好発する.病理学的には動脈外膜側より内膜側に進展する血管炎である.免疫疾患と考えられており,側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎),結節性多発性動脈炎,川崎病などとの異同が問題となることがある.主徴は全身の炎症,血管炎による疼痛と血管狭窄・閉塞・拡張による症状であり,そのため炎症が沈静化した後も血流障害による各種臓器障害,動脈瘤が問題となる.一般に炎症は年余に及ぶが,免疫抑制剤に反応し,また自然軽快する傾向が認められる.血管合併症を残し,時に再燃する.我が国では厚生労働省の特定疾患治療研究事業の対象疾患(難病)の1つに指定されている.症状が多彩で,非特異的であり診断が遅れることも多いが,近年の画像診断の進歩により早期診断が可能となってきており,予後は改善している23).

2 歴史的変遷 本疾患の歴史的変遷は沼野藤夫らが詳細に報告している24)-26).漢方医の矢数道明によれば本疾患の記載は

表3 治療法推奨度とエビデンスレベル

(1)治療法の推奨度①クラスⅠ: 有用であるという根拠があり,適応であ

ることが一般に同意されている.②クラスⅡa: 有用であるという意見が多い.③クラスⅡb: 有用であるという意見が少ない.④クラスⅢ: 有用でないかまたは有害であり,適応で

ないことが一般に同意されている.

(2)エビデンスのレベル①レベルA: エビデンスが豊富である.②レベルB: 複数の信頼できるエビデンスがある.③レベルC: 多くの専門家の一致した意見である

1261Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

血管炎症候群の診療ガイドライン

1824年の漢方医書「橘黄医談」の記載にさかのぼるという27).この中で山本鹿洲は左右上肢の脈拍の消失,微弱を示した45歳男性患者を紹介している.欧米では,1856年に両側上肢と左頸部の脈拍欠如をきたした22歳女性例が報告されている28). 高安右人は金沢大学眼科教授であり,1908年(明治41年)に日本眼科学会において“奇異なる網膜中心血管の変化の一例”として,花環状吻合の眼底所見を示した22歳の女性を報告した1).追加発言の中で橈骨動脈の脈拍欠損が指摘されている.1942年に新見保三が高安病の呼称を初めて使用している29).1951年東京大学の脳外科医,清水健太郎,佐野圭司は自験例を含む25例をまとめ,花環状吻合を示す眼底所見,脈拍減弱ないし欠損,頸動脈洞反射の亢進を3徴として,脈なし病(pulseless disease)と名付けて報告した2).これが翌年American Heart Journalに紹介され,欧米でも本症が知られることになる30).そのため当初は高安病より「脈なし病」の名称が広く使われた. 血管炎としての記載は1940年東京大学精神科の太田邦夫がめまいと失神発作で入院し死亡した28歳女性患者の剖検所見として,大動脈をはじめその基幹動脈の内・中・外膜全層にわたる血管炎(panarteritis)であることを報告したのが初めてである. その後も本疾患の研究を進めたのは主として本邦の学者である.上田英雄,伊藤厳らは病理組織,臨床病態について広範な研究を行った31),32).aortitis syndrome(大動脈炎症候群)という病名が定着したのも上田らの功績に基づくものである.さらに沼野らは病因,診断,病理所見などについて多数例での解析を行っている.また沼野は1989年より11回にわたって国際高安動脈炎会議を主催し,研究発展に貢献した33).我が国では1975年に難病として指定され,以後調査研究が継続されている.1975年の厚生省大動脈炎症候群研究班では正式名称として高安病を使用する申し合わせを行った.

3 疫学

①年齢,性差,発生頻度

 本疾患は厚生労働省の特定疾患に指定されており,調査研究班で全例調査が行われている.現在5,000人あまりが登録されているが,図3に示すように,3年ごとの新規発症数は200~400例で減少傾向にある.現在の年齢分布は50歳代が多い34).男女比は約1:8(表4)で,女性に多い.女性における初発年齢は20歳前後にピークがあるが,中高年で初発する例もまれでない(図4).

一方男性例でははっきりとしたピークが認められない(図5).発症に女性ホルモンが関与していることを示唆するデータである.症候が多彩であり,非特異的な所見が多いことから,なお未診断例が多いものと考えられ,正確な発症頻度の推定は困難である.

②地域差

 世界的にはアジア,中近東での症例が多い.北米ではメキシコを除き報告は少ない.いずれの地域でも女性に多い傾向がみられるが,本邦における比率が最も高

図3 高安動脈炎の患者数の推移(厚生労働省特定疾患医療受給者調査から)

表4 高安動脈炎患者の男女比(文献25より改変)国 症例数 女性 男性 女性/男性日本 2,148 1,909 239 8.0/1韓国 47 40 7 5.7/1中国 500 370 130 2.8/1タイ 63 43 20 2.2/1インド 106 63 43 1.6/1イスラエル 56 32 18 1.8/1トルコ 14 11 3 3.7/1メキシコ 237 207 30 6.9/1ブラジル 73 61 12 5.1/1コロンビア 35 26 9 2.9/1

図4 本邦高安動脈炎患者年齢分布(平成10年度厚生省難治性血管炎研究班)

250

200

150

100

50

00<10 11<20 21<30 31<40 41<50 51<60 61<70 71<80 81< (歳)

人数

1262 Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

い33).我が国および南米では頸動脈病変が特徴的であるが,イスラエルをはじめとするアジア諸国では腹部大動脈を主とした病変による高血圧が多い.

2 発症機序

1 血管障害の機序 高安動脈炎の病因は依然として不明のままである.しかし,感染などのストレスがきっかけとなり,自己免疫的な炎症機序でT細胞を中心としたエフェクターによる血管組織の破壊が生じると推定されており,さらに背景として遺伝素因の存在も示されている.

①免疫学的要因

 高安動脈炎の血管傷害には従来より細胞性免疫の関与が指摘されてきた.炎症の進展に伴いT細胞が主体となった組織破壊のメカニズムは,世古らが中心となって解析しており,その研究より得られた動脈壁の傷害説を紹介する.1)細胞性免疫 細胞性免疫ではT細胞とnatural killer(NK)細胞の働きが重要となる.T細胞はその表面のT細胞受容体(TCR) で 主 要 組 織 適 合 抗 原 複 合 体(Major

histocompatibility complex: MHC)と結合して提示された抗原ペプチドを認識する.大多数のT細胞は,α鎖と

β鎖と呼ばれる2つの糖蛋白鎖から成るTCRをもち,αβT細胞とよばれる.αβT細胞にはヘルパーT細胞(Th)と細胞傷害性T細胞(CTL),およびその他のサブセットがある.これと対照的に,1つのγ鎖と1つのδ鎖からなるTCRの少数のサブセットがあり,それをもつT細胞をγδT細胞と呼ぶ.γδT細胞は腸管粘膜に多く存在し,それを活性化する抗原分子の詳細は判明していないが,MHCによる抗原提示は不要であるとも言われている.また,γδT細胞は脂質抗原を認識する.γδT細胞の役割は不明だが,現在のところは異物の侵入に対して最初に反応する細胞,調節細胞,生まれつき備わっている防御力と獲得した防御力の架け橋となる細胞などと位置付けられている. NK細胞,CTLやγδT細胞はウイルス感染細胞や癌細胞などの標的細胞に接着して,perforinなどの細胞傷害物質を放出し直接破壊するため,キラー細胞とも呼ばれている.最近では,NK細胞,CTLやγδT細胞に発現されるNKG2DレセプターがMCH ClassⅠchain-related A/

B(MICA/B)抗原を認識し,それを発現する標的細胞に対する障害を増強することも報告されている35). T細胞ではTCRを介する主シグナルの他に,副刺激シグナルがT細胞を抗原特異的に活性化するのに必要であることが明らかになっている.副刺激シグナルを伝えるシステムとしては immunoglobulin superfamilyに属する ICAM-1や B7-1(CD80),TNF receptor/ligand

superfamilyに属する4-1BB/4-1BBLやFas/FasLなどの多くの分子が同定されている.2)高安動脈炎での動脈障害機序 高安動脈炎及び粥状動脈硬化症の大動脈瘤の壁を比較し,細胞性免疫を介する血管壁傷害機序を検討したところ,ともに壁浸潤細胞はヘルパーT細胞(Th),細胞傷害性T細胞(CTL),マクロファージ,natural killer細胞(NK細胞)からなっており,特に高安動脈炎ではγδT

細胞が約30%を占めた.これに対して粥状硬化症ではマクロファージの割合が有意に多かったが,γδT細胞はほとんど認められなかった36). 正常動脈壁では中膜で65kdのheat shock protein

(HSP65)がわずかに認められるのみだが,高安動脈炎では,内膜,中膜,栄養血管(vasa vasorum)の一部でHSP65の強い発現がみられ36),標的細胞上のHSP65に反応するといわれるγδT細胞が高安動脈炎での浸潤細胞の主体となっていることと一致した所見であった. 高安動脈炎においてT細胞は非特異的なサイトカインにより動脈壁内へ浸潤するのではなく,限られた細胞のみが特異的に浸潤している可能性がある.同一患者にお

図5 本邦高安動脈炎患者発症年齢分布(上段女性,下段男性)(平成10年度厚生省難治性血管炎研究班)

140

120

100

80

60

40

20

00<5 6<10 11<15 16<20 21<25 26<30 31<35 36<40 41<45 46<50 51<55 56<60 61<65 66<70 71<75

人数

12

10

8

6

4

2

00<5 6<10 11<15 16<20 21<25 26<30 31<35 36<40 41<45 46<50 51<55 56<60 61<65 66<70 71<75

人数

(歳)

(歳)

1263Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

血管炎症候群の診療ガイドライン

ける異なる部位の病変へ浸潤しているT細胞のTCRが遺伝子的に同じ発現パターンであることから,同一の抗原刺激に対して反応している可能性が示唆される37),38). また高安動脈炎ではCTL,NK細胞,γδT細胞の細胞質内にperforinの発現を認め,perforinは細胞外に放出されて血管壁細胞を傷害していた.粥状動脈硬化病変でもCTLやNK細胞はperforinを発現していた36),39).血管壁の傷害メカニズムは同様であるが,粥状動脈硬化ではT細胞が非特異的に浸潤しているのに対して,高安動脈炎では,いまだ不明ではあるが何らかの抗原特異的に浸潤しているT細胞が傷害の主役となっていることが推測できる. 高安動脈炎の病変血管では,正常血管と比較して,主に栄養血管においてHLA classⅠ・Ⅱの著明亢進,ICAM-1の発現の亢進がみられる36).また,4-1BBLやFasは中膜や栄養血管で著明な発現亢進がみられ,浸潤細胞の大部分にはそれに対応する4-1BBやFasLの発現がみられた40).さらに,中膜や栄養血管ではMICAの著明な発現がみられ,一部の浸潤細胞にはNKG2Dレセプターの発現を認めた36).このため,これらの副刺激シグナル経路が高安動脈炎において大動脈壁傷害のメカニズムの1つであることが示唆されている.

②感染の要因

 免疫学的異常をきたす最初の引き金として,何らかのウイルス感染などのストレスが原因となっていることが推測される.主として血管壁中膜の平滑筋細胞に,ストレスで誘導されやすいといわれるMICA抗原が発現してくる.このMICAがγδT細胞を誘導することで病態形成が始まる可能性がある.かつては結核罹患との関連が指摘されたときもあったが,現在では否定的である.

2 遺伝的要因  高 安 動 脈 炎 の 遺 伝 的 素 因 と し てHLA-B52,HLA-B39.2との関連が報告されている41).さらに近年,HLA-B遺伝子の近傍にあるMICA遺伝子との関連が示唆され,MICA-1.2との強い相関があるとの報告がなされた42).高安動脈炎のHLA関連の疾患感受性遺伝子はMICA遺伝子の近傍にあることが示唆されている.高安動脈炎においてはMICAがキラー細胞の標的になっている可能性を支持している報告である.

3 動脈硬化との対比 本来高安動脈炎は動脈硬化症とその病態が異なっているが,頚動脈の内膜肥厚の測定の結果,動脈硬化の危険

因子に差がない群で比較しても,高安動脈炎患者に動脈硬化症の促進がみられたことが報告されている.動脈壁の炎症により動脈硬化が促進される可能性が示唆されているが43),治療薬(副腎皮質ステロイド薬)の影響も考えられる.

3 病理所見

 本症の病変の特徴は,弾性型動脈に限られた中膜・外膜の病変を基盤としている.特に中膜の外膜寄りに病変の主座があり,平滑筋細胞の壊死や弾力線維の破壊と線維化を伴い,外膜の炎症性肥厚を特徴とする44).さらに最近の研究からも外膜・中膜に分布する栄養血管(vasa

vasorum)の壁周囲に炎症性細胞浸潤がみられ,基本的に高安動脈炎は,栄養血管炎ともいえる. 高安動脈炎の多くの症例にみられる狭窄病変は,おもに内膜肥厚によりもたらされるが,内膜肥厚そのものは中膜病変による二次的な反応性病変と理解されている.しかし,近年画像診断の発達とともに,より早期に発見され治療がなされることにより,従来比較的若くして死亡していた症例が長く生存するようになった.それに伴い,肥厚した内膜に石灰化を伴う動脈硬化症の合併が多くなり,しばしば高安動脈炎の病理診断に窮するようになってきた.しかし,粥腫形成が少ないこと,板状の石灰化を伴うことなどが鑑別の要点になる45). 他方,大動脈の起始部の拡張性病変に起因する大動脈弁閉鎖不全症で見つかる症例が存在する.こうした症例の病理組織学的な検討によれば,概ね中膜病変が極めて高度であり,中膜に小梗塞をつくりそれを取り巻くようにして巨細胞が出現する症例が多い.その結果,動脈瘤形成やときに解離にいたる症例も報告されている.したがって,臨床的には急激な経過を取り,予後も悪いといわれている45). 以上の点を踏まえた上で,より一般的な病理学的所見をまとめると以下のようになる.罹患部位によって,解剖学的に4つの型に分けられる.(Ⅰ)大動脈弓部と弓部動脈がおかされるもの,(Ⅱ)胸腹部大動脈がおかされるもの,(Ⅲ)大動脈全体がおかされるもの,(Ⅳ)肺動脈がおかされるもの.典型的には狭窄性病変として知られているが,大動脈瘤や大動脈弁閉鎖不全症が症例の約15~30%にみられる46).病変の主座は肺動脈幹を含む主幹部動脈にあり,那須らは閉塞性増殖性幹動脈炎と命名した. 1997年,Numanoらにより新しい分類法が提唱された47).これは主に血管造影による分類法であり,Ⅰ~Ⅴ

1264 Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

型に分け,さらに冠動脈,肺動脈の病変を加味したものである.(図6) 高安動脈炎の組織像は,初期には栄養血管への細胞浸潤(perivascular cuffing)を伴う外膜の単核細胞浸潤であり,肉芽腫性全層性動脈炎を特徴とし,中膜に梗塞病変と断片化した弾力線維を貪食しているLanghans型巨細胞の浸潤とからなる症例もある.その後,中膜の広範な線維化と内膜の著明な無細胞性の線維性肥厚がみられる.リンパ球性形質細胞性細胞浸潤の中に巨細胞を認めることも認めないこともあり,形態学的には頭蓋外巨細胞性動脈炎と鑑別しがたい(図7). 瘢痕期になると,内膜は進行性の肥厚を示し,外膜は

著しい線維化を伴い肥厚する.中膜の外膜よりでは,弾力線維の特徴的な虫食い像がみられる(図8).肥厚した外膜の中に,さらに肥厚した栄養動脈をみる.終末期の動脈硬化と識別しがたいが,内膜の線維化はよく板状の石灰化を伴う.粥腫形成も少ない.分岐動脈の近位側にも及び内腔を狭窄する.したがって,罹患した大動脈は鉛管状の様相を呈し,一見して高安動脈炎の瘢痕期とわかる(図9).瘢痕期の病理組織学的所見を呈する症例でも,よく観察すると巨細胞の出現や壊死組織をみることがある. 炎症が急激に進行した場合,血管の弾力性が失われる結果,血管はむしろ拡張し動脈瘤形成をみることがある.

図7 急性期の高安動脈炎中膜の外膜よりに小梗塞が存在し,それを取り囲むように主にリンパ球浸潤がみられる.中膜の弾力線維を貪食した多核の巨細胞が認められる.これらの所見が中膜の弾力線維の虫食い状を呈するものと思われる.

図9 高安動脈炎における大動脈の肉眼的所見大動脈では著明な石灰化と粥状硬化症により壁の弾力性はほとんど消失し,いわゆる鉛管状になっている.

図8 慢性期(瘢痕期)の石灰化の少ない部位の病理組織像中膜は菲薄化し,弾力線維も少なく,外膜よりでは虫食い状になっている.内膜は著明に肥厚している.外膜も肥厚しており,栄養血管も肥厚している.

Ⅰ型: 大動脈弓分枝血管Ⅱa型: 上行大動脈.大動脈弓ならびにその分枝血管Ⅱb型: Ⅱa病変+胸部下行大動脈Ⅲ型: 胸部下行大動脈,腹部大動脈,腎動脈Ⅳ型: 腹部大動脈,かつ /または,腎動脈Ⅴ型: Ⅱb+Ⅳ型(上行大動脈.大動脈弓ならびにその分枝

血管,胸部下行大動脈に加え,腹部大動脈,かつ /または,腎動脈)

Ⅰ~Ⅴ型に加え,さらに冠動脈病変を有するものにはC(+),肺動脈病変を有するものにはP(+)と表記する.(「医学・薬学のための免疫学(第2版)豊島聰・田坂捷雄・尾崎承一著,p.163,東京化学同人,東京,2008」より引用)

図6 血管造影における高安動脈炎の分類血管造影所見からみた病変の分布より以下に分類される

Ⅰ     Ⅱa    Ⅱb    Ⅲ     Ⅳ     Ⅴ

1265Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

血管炎症候群の診療ガイドライン

特に上行大動脈は絶えず高い血圧にさらされる結果,拡張し相対的な大動脈逆流が生じ患者の予後を決定する重要な因子となっている. 肺動脈の病変は剖検例ではしばしばみられるが,肺高血圧を呈する症例はむしろ少ない.病変は肺動脈本幹から区域動脈にわたる中枢側に発生することが多い.

4 臨床症状

 初発症状は,原因不明の発熱,頚部痛,全身倦怠感などで上気道炎と類似した症状を認める.その後,血管病変の症状を呈してくる.すなわち狭窄病変では,大動脈弓部分枝病変による脳虚血症状や視力障害,上肢の乏血による血圧左右差や脈なし,腎動脈狭窄や大動脈縮窄症による高血圧,肺動脈狭窄による肺梗塞,時に冠状動脈入口部狭窄による狭心症が主たるものである. 拡張病変では大動脈瘤や大動脈解離,大動脈弁輪拡大に続発する大動脈弁閉鎖不全に基づく心不全が主たるものである.大動脈弁閉鎖不全症は約30%に認められる.これらの血管病変は多発する傾向があり,無症状で経過する例から早期に種々の症状を合併する症例まで多彩である.上肢乏血症状を訴える症例が最も多く,左右上肢の血圧差は約46%,また上肢の脈拍が触知しないのは約31%で,これが脈なし病といわれる所以である.ついで頭部乏血症状である.めまいは約33%,頭痛は約20%の症例で認められる.視力障害を持つ患者は約10%,また失明例は全体の約1.7%である.約40%の症例で高血圧を認める(表5)34),48),49).

5 診断法および診断基準

1 診断基準 若い女性で発熱や倦怠感を訴え 1)脈拍,血圧の左右差,2)血管雑音の有無 3)心雑音,特に大動脈弁閉鎖不全による雑音の有無,4)頭部乏血症状を認めるかが診断のポイントとなる(表6).

2 診断法

①血管造影所見 

 Digital Subtraction Angiography(DSA)で,大動脈の壁の不整や狭窄,閉塞,びまん性の拡張病変を認める(図10).単純のcomputed tomography(CT)では,大動脈壁の石灰化や瘤を認めることがある.大動脈弁閉鎖不全

表5 高安動脈炎の臨床症状(厚生省難治性血管炎研究班平成10年度報告書)頭部乏血症状眩暈 33.0%頭痛 20.4%失神発作 2.9%片麻痺 2.1%咬筋疲労 0.4%眼症状失明 1.7%一過性視力障害 4.8%持続性視力障害 5.0%眼前暗黒感 5.9%上肢症状脈なし 31.2%血圧左右差 46.4%易疲労感 24.9%冷感 11.3%しびれ感 12.3%心症状息切れ 19.3%動悸 20.0%胸部圧迫感 14.8%呼吸器症状血痰 1.6%息切れ 7.4%高血圧 41.1%全身症状発熱 7.9%全身倦怠感 16.5%易疲労感 22.9%

図10 高安動脈炎症例のDigital Subtraction Angiography(DSA)

1266 Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

表6 高安動脈炎の診断基準1.疾患概念と特徴大動脈とその主要分枝及び肺動脈,冠動脈に狭窄,閉塞又は拡張病変をきたす原因不明の非特異性炎症性疾患.狭窄ないし閉塞をきたした動脈の支配臓器に特有の虚血障害,あるいは逆に拡張病変による動脈瘤がその臨床病態の中心をなす.病変の生じた血管領域により臨床症状が異なるため多彩な臨床症状を呈する.若い女性に好発する.2.症  状(1) 頭 部 虚 血 症 状 :めまい,頭痛,失神発作,片麻痺など(2) 上 肢 虚 血 症 状 :脈拍欠損,上肢易疲労感,指のしびれ感,冷感,上肢痛(3) 心 症 状 :息切れ,動悸,胸部圧迫感,狭心症状,不整脈(4) 呼 吸 器 症 状 :呼吸困難,血痰(5) 高 血 圧(6) 眼 症 状 :一過性又は持続性の視力障害,失明(7) 下 肢 症 状 :間欠跛行,脱力,下肢易疲労感(8) 疼 痛 :頸部痛,背部痛,腰痛(9) 全 身 症 状 :発熱,全身倦怠感,易疲労感,リンパ節腫脹(頸部)(10) 皮 膚 症 状 :結節性紅班

3.診断上重要な身体所見(1) 上肢の脈拍ならびに血圧異常(橈骨動脈の脈拍減弱,消失,著明な血圧左右差)(2) 下肢の脈拍ならびに血圧異常(大腿動脈の拍動亢進あるいは減弱,血圧低下,上下肢血圧差)(3) 頸部,背部,腹部での血管雑音(4) 心雑音(大動脈弁閉鎖不全症が主)(5) 若年者の高血圧(6) 眼底変化(低血圧眼底,高血圧眼底,視力低下)(7) 顔面萎縮,鼻中隔穿孔(特に重症例)(8) 炎 症 所 見 :微熱,頸部痛,全身倦怠感

4.診断上参考となる検査所見(1) 炎 症 反 応 :赤沈亢進,CRP促進,白血球増加,γグロブリン増加(2) 貧     血(3) 免 疫 異 常 :免疫グロブリン増加(IgG,IgA),補体増加(C3,C4)(4) 凝 固 線 溶 系 :凝固亢進(線溶異常),血小板活性化亢進(5) H L A :HLA-B52,B39

5.画像診断による特徴(1) 大 動 脈 石 灰 化 像 :胸部単純写真,CT(2) 胸部大動脈壁肥厚 :胸部単純写真,CT,MRA(3) 動脈閉塞,狭窄病変 :DSA,CT,MRA

弓 部 大 動 脈 分 枝 :限局性狭窄からびまん性狭窄まで下 行 大 動 脈 :びまん性狭窄(異型大動脈縮窄)腹 部 大 動 脈 :びまん性狭窄(異型大動脈縮窄)

しばしば下行大動脈,上腹部大動脈狭窄は連続腹 部 大 動 脈 分 枝 :起始部狭窄

(4) 拡 張 病 変 :DSA,超音波検査,CT,MRA上 行 大 動 脈 :びまん性拡張,大動脈弁閉鎖不全の合併腕 頭 動 脈 :びまん性拡張から限局拡張まで下 行 大 動 脈 :粗大な凹凸を示すびまん性拡張,拡張の中に狭窄を伴う念珠状拡張から限局性拡張まで

(5) 肺 動 脈 病 変 :肺シンチ,DSA,CT,MRA(6) 冠 動 脈 病 変 :冠動脈造影(7) 多 発 病 変 :DSA

6.診  断(1) 確定診断は画像診断(DSA,CT,MRA)によって行う.(2) 若年者で血管造影によって大動脈とその第一次分枝に閉塞性あるいは拡張性病変を多発性に認めた場合は,炎症反応が

陰性でも高安動脈炎(大動脈炎症候群)を第1 に疑う.(3) これに炎症反応が陽性ならば,高安動脈炎(大動脈炎症候群)と診断する.(4) 上記の自覚症状,検査所見を有し,下記の鑑別疾患を否定できるもの.

7.鑑別疾患①動脈硬化症                  ②炎症性腹部大動脈瘤③血管性ベーチェット病             ④梅毒性中膜炎⑤側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎)          ⑥先天性血管異常⑦細菌性動脈瘤

1267Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

血管炎症候群の診療ガイドライン

症を多く合併するため,上行大動脈造影を行い逆流の程度をみる.しかし今では大動脈弁閉鎖不全に関しては,心エコー図の方がより情報が得られる. 肺動脈病変の合併は,約15%の症例に認められる.初発症状における肺症状の訴えは少ないが,本症の診断が疑われた場合は積極的に肺血流シンチ,IV-DSA,MRAを用いて肺動脈の評価が必要である.また冠動脈病変は約8%の例に認められる.

②眼底所見

 慢性に進行する血圧低下に伴う血流の緩徐化により,網膜血管が拡張する.この時期には毛細血管瘤が耳側周辺部眼底にみられる.進行すると毛細血管瘤は眼底全体に多発し,一方,周辺部で血管閉塞が進行し動静脈吻合を生じる.後極部で形成され,ついには視神経乳頭を取り巻いて馬蹄形または花冠状となる(図11).さらに網膜虚血が高度となり,乳頭や虹彩に新生血管が現れる.毛様体の機能も低下し,極端な低眼圧となり,併発白内障も生じ視力は低下する.低血圧による網膜中心動脈の非可逆性閉塞や網膜剥離で失明する.

③検査所見

 本症に特異的な血液,生化学検査はない.本症の活動性を知るためにCRPや血沈,白血球数,ガンマグロブリン,貧血の有無から高安動脈炎の活動性の評価を行う.炎症所見と並行して易血栓性の検討すなわち血栓準備状態(血小板凝集能,フィブリノーゲン値,PT,APTT,

ATⅢ)の評価を行う. 免疫学的検査では,免疫グロブリン(IgG,IgA)の増加,補体(C3,C4)の増加も認めることがある.HLA‒B52,HLA‒B39が有意に頻度が高い.特にHLA‒B52陽性例は,陰性例に比べて病変の程度が強いといわれている.

④その他

 非侵襲的検査としてMRA(図12)も有用である.最近,癌の検診に用いられている18F-FDG-PETが補助診断として有用なことがある(図13).

3 鑑別診断 鑑別すべき疾患として①動脈硬化症,②炎症性腹部大動脈瘤,③血管ベーチェット病,④梅毒性中膜炎,⑤側頭動脈炎,⑥先天性血管異常,⑦細菌性動脈瘤があげられる.動脈硬化症とは,年齢である程度鑑別可能である.炎症性腹部大動脈瘤は炎症を認め,水腎症を伴い,CT

でMantle signが特徴である.血管ベーチェットは,嚢状の動脈瘤をきたすことがあるが,その他の所見を参考にすれば鑑別は可能である.梅毒性中膜炎は,最近では経験することはない.側頭動脈炎は高齢者に好発し,筋痛(リウマチ性多発筋痛症)を高率に合併する.先天性血管異常としてはmid-aortic syndromeがあるが,大動脈の縮窄を認めるも壁は平滑である点から,また細菌性動脈瘤とは嚢状の動脈瘤を呈するが,それ以外に病変がな

図11 高安動脈炎症例の眼底所見図12 高安動脈炎の3D-CT所見

両側内頸動脈の著しい口径不正を認める.

1268 Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

いことから鑑別可能である.

4 合併症 合併症として,大動脈弁閉鎖不全症,大動脈瘤,大動脈解離,脳虚血発作,肺梗塞,狭心症,鎖骨下動脈盗流症候群,異型大動脈縮窄症,腎血管高血圧症があげられる.なかでも本疾患の約3分の1を合併する大動脈弁閉鎖不全症は,予後に与える重要な合併症である(表7).

6 治療指針および治療法ガイドライン

1 内科的治療

①内科的治療の現状

 高安動脈炎は,大動脈およびその分枝である総頸動脈・鎖骨下動脈・冠動脈・肺動脈・腎動脈などを炎症の主座とする慢性血管炎である.炎症性の血管炎症性の血管狭窄や拡張,および血栓形成を生じることによりさまざまな臓器障害を生じる50).かつては,鎖骨下動脈閉塞による橈骨動脈拍動触知不良により診断され,脈なし病と呼ばれていたが,近年画像診断法の進歩により,発熱・全

身倦怠感と血沈亢進,CRP上昇といった非特異的炎症所見のみ認められる早期の段階で診断できるようになってきた.そのため早期の副腎皮質ステロイド薬(以下ステロイド)投与開始により,臓器障害を生じることなく疾患のコントロールが可能となってきたが,時折ステロイド療法に抵抗性を示す例を経験することがある.そのようなステロイド抵抗例に対する新規治療法も試みられているが,確固たるエビデンスはない.現時点での内科的治療法の流れを図14に示す.

②ステロイド療法(レベルA,クラスⅠ)

 高安動脈炎の内科的治療においては,ステロイド療法がゴールデンスタンダードとされている.活動性の血管炎の存在を示唆する発熱,全身倦怠感,頸部・背部・腰部の疼痛などの自覚症状と,赤沈亢進やCRP上昇などの炎症反応がみられた場合,ステロイド療法の開始を検討する.1)初期投与量 一般に高安動脈炎はステロイド治療の反応性が良好とされている.用量反応試験のエビデンスはないが,プレドニゾロン20~30mg/日程度が一般的であり,年齢・体格・重症度・検査値を考慮し増減する51).1975年に行われた本邦の高安動脈炎150例を対象とするステロイ

表7 高安動脈炎の合併症合併症(心臓弁)大動脈弁閉鎖不全 33.8%大動脈弁変化 7.1%大動脈弁逆流評価Ⅰ 10.8%Ⅱ 7.6%Ⅲ 10.1%Ⅳ 21.7%合併症(心臓)虚血性心疾患 10.7%合併症(心臓外)眼症状 16.4%白内障 4.0%眼底所見 8.9%腹部大動脈瘤 5.0%解離性動脈瘤 0.9%腎障害 10.9%蛋白尿 8.7%腎動脈狭窄 14.7%高血圧合併症 46.8%脳虚血発作 14.9%脳血栓 5.5%脳出血 0.7%一過性脳虚血発作 5.7%

(厚生省難治性血管炎研究班平成10年度報告書)

図13 高安動脈炎の18F-FDG-PET所見PET所見では,上行大動脈から大動脈弓部にかけて強い集積を認める.PET-CT画像では大動脈壁に一致してリング状集積を示し血管壁への集積と判断可能で活動性の高安動脈炎に特徴的な所見である.

1269Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

血管炎症候群の診療ガイドライン

ド治療に関する調査では,初期投与量は27.4±11.6mg/

日であった.しかし,欧米における初期投与量は30mg/

日以上の中等量から1mg/kgの大量投与が行われる52)-

55).改善率については本邦で51.3%であり,米国で60%とステロイド療法の有効性に明らかな差はなく,この初期投与量の差異が示すところは不明である51),53).初期投与量の継続期間について,本邦では症状や検査所見の改善が2週間以上観察される時点までとしているが,欧米では1ヶ月から3ヶ月と比較的長期に初期投与量が継続される.その後のステロイド投与量は20mg/日まで5mg/週の割合で本邦の標準的な治療法より速く減量する56).なお,HLA-B52陽性患者においては,陰性患者と比較し炎症所見が強く,陰性患者平均14.6±1.2mg/

日に対し陽性患者平均20.0±1.3mg/日とより多くのステロイド初期投与量を必要とする.また,維持量に到達する期間についても,陰性患者平均3.7±1.5年に対し陽性患者平均5.7±0.9年と長く,HLA-B52陽性患者はステロイド抵抗性を示すとされている57).可能であれば治療開始前にHLAタイピングを行うことが望ましい.2)減量方法 上記に従い初期投与量から減量開始後,プレドニゾロン10mg/日までは,5mg/2週間の割合で減量し,10mg/

日以下では2.5mg/2週間の割合で減量する51).ただし,臨床症状および各種検査所見から,厚生省研究班の示す表8の重症度分類や表9の分類基準に基づき減量の可否を常に判断することが必要であり,10mg/日以下の減量

無効

無効

減量困難有効

改善

有効

有効

減量困難

減量困難

プレドニゾロン 20~30mg/日(症例により 60mg/日まで増量)

1)MTX 6~15mg/週2)CPA 50~100mg/日内服  または 300~750mg/m2点滴投与3)CsA 3mg/kg/日4)AZP 2mg/kg/日のいずれか

MMF1.5~3g/日

1)インフリキシマブ 3mg/kgまたは2)エタネルセプト 25mg週 2回

プレドニゾロン漸減

高安動脈炎の診断 ※本邦では保険適応がないためその使用においては、十分なインフォームドコンセントを得る必要がある。

図14 高安動脈炎の内科的治療プロトコール

表8 高安動脈炎の重症度分類

Ⅰ度:大動脈炎症候群(高安動脈炎)と診断しうる自覚的(脈なし,頸部痛,微熱,めまい,失神発作など),他覚的(炎症反応陽性,γグロブリン上昇,上肢血圧左右差,血管雑音,高血圧など)所見が認められ,かつ血管造影(CT,MRI,MRAを含む)にても病変の存在が認められる.ただし,特に治療を加える必要もなく経過観察するかあるいはステロイド剤を除く治療を短期間加える程度.

Ⅱ度:上記症状,所見が確認され,ステロイド剤を含む内科療法にて軽快あるいは経過観察が可能.

Ⅲ度:ステロイド剤を含む内科療法,あるいはインターベンション(PTA),外科的療法にもかかわらず,しばしば再発を繰り返し,病変の進行,あるいは遷延が認められる.

Ⅳ度:患者の予後を決定する重大な合併症(大動脈弁閉鎖不全症,動脈瘤形成,腎動脈,虚血性心疾患,肺梗塞が認められ,強力な内科的,外科的治療を必要とする.

Ⅴ度:重篤な臓器機能不全(うっ血性心不全,心筋梗塞,呼吸機能不全を伴う肺梗塞,脳血管障害(脳出血,脳梗塞),白内障,腎不全,精神障害)を伴う合併症を有し,厳重な治療,観察を必要とする.

(1999年厚生省難治性血管炎研究班)

表9 高安動脈炎の疾患活動性評価

1.発熱・筋骨格症状などの全身症状2.赤沈亢進3. 跛行,脈拍減弱・消失,血管雑音,血管痛,上肢または下肢(あるいは双方)の血圧左右差などの虚血または血管炎による症状

4.典型的血管造影所見

 以上のうち2項目以上を満たす場合,活動性が高いと判断する. 「寛解」は,1,2,3の改善と画像上の新規病変の未検出をもって定義される(文献33,36より改変).

1270 Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

は,再燃を防ぐために慎重に行うことが望ましい.3)維持量 プレドニゾロン5~10mg/日を投与する.可能であれば離脱を試みる.上記の本邦の調査では,維持量(調査期間における最終投与量)は11.2±7.7mg/日であり,ステロイド離脱例は37.4%であった.

③合併症の治療

1)臓器梗塞 高安動脈炎では血管狭窄に伴う臓器梗塞が生じる.1998年から2000年に行われた本邦における調査では,脳梗塞が14.9%,虚血性心疾患が10.7%に認められた58).肺梗塞もまれながら認められる59),60).このような臓器障害は患者予後の規定因子となるため,予防目的に少量アスピリン投与が行われる(レベルB,クラスⅡa).高安動脈炎患者の狭窄血管より採取した血液中のトロンボキサンB2レベルは健側血管と比較して上昇しており,ADP誘導血小板凝集も亢進しているが,80mgのアスピリン投与にてこれらは有意に改善したことは,少量アスピリン投与の血栓症予防の根拠となる61).しかし,アスピリンの有効性を示すランダム化大規模臨床試験は行われていない.またアスピリン同様明らかな高安動脈炎におけるエビデンスはないが,抗血小板剤として塩酸チクロピジン,シロスタゾールなど,抗凝固剤としてワーファリンも投与される.いずれの薬剤も出血性病変が存在する場合は禁忌であり,出血性梗塞の有無には注意が必要である.2)大動脈弁閉鎖不全症 本邦の報告では,1/3の患者に認められるとされ,男性26.3%と比較し,女性34.6%と女性に多い58).発症初期は無症状だが,数年の経過でうっ血性心不全を呈することがある.治療は,内科的および外科的治療法において通常の大動脈弁閉鎖不全と同様である.3)高血圧症 本邦の報告では,高血圧症は46.8%に認められた58).13%に腎動脈狭窄が認められ,高血圧症の発症に関係していると考えられる.海外の報告では,高血圧を呈する患者の74%に腎動脈狭窄が認められたとしている53).その他の高血圧の原因としては,障害血管のコンプライアンスの低下や圧受容体の機能障害が考えられている.ACE拮抗剤などの降圧剤の投与による治療が行われるが,腎動脈狭窄が著明であり,内科的治療が無効であると判断された場合は,血管拡張療法やバイパス術が検討される.

4)肺高血圧症 心エコー上肺高血圧所見を認める例は,10%強である62).息切れ,胸痛の訴えのある症例のみならず,胸部症状を認めなくとも心エコーを施行し,肺高血圧症のスクリーニングをしておくべきである.肺高血圧症の治療については,通常と同様である.

④難治例の治療

 前出の1975年に行われた本邦の集計では,ステロイド治療の効果が不変または悪化と判断された割合は,48.7%であり,明らかにステロイド抵抗例が存在する.また感染症,胃潰瘍,精神症状,血糖上昇,緑内障などステロイドの副作用により有効量の継続が困難な症例もある.その場合,以下に示す治療法が併用されているが,いずれも保険適応外使用である.表8の重症度分類,表9の活動性評価を参考に,ステロイド以外の治療法の必要性を検討し,患者に十分なインフォームド・コンセントを行った上で実施し,治療中は有害事象の発現について慎重に観察する必要がある.1) シクロホスファミド(CPA)(レベルB,推奨度クラスⅡa)

 シクロホスファミド(CPA)は抗悪性腫瘍剤であり,核酸代謝阻害作用を示す.骨髄抑制,出血性膀胱炎,悪心・嘔吐などの副作用がある.1975年の本邦における集計では,10例のステロイド併用CPA療法の効果が示されている.50~100mg/日の内服投与で投与日数は平均185日であった.約半数でステロイドの減量が不可能であり,無効との判断であった.米国での報告では,1mg/kgのステロイド治療の無効例や減量困難例7例に対し,CPA2mg/kgの経口投与を行い,6例でステロイドの減量,1例でステロイドの中止が可能となった54).ステロイド投与中に血管病変の画像上の進行が認められた6例中4例で進行の抑制が確認された.CPA間歇静注療法(以下 IVCY)は,顕微鏡的多発血管炎などのANCA

関連血管炎の治療法として標準的に行われ,経口CPA

より骨髄抑制や感染症の頻度が低く,同等の有効性を示す63).500mg/m2から750mg/m2を4週ごとに1年間投与する方法や,初めの4週のみ同量で2週ごとに行い計12回投与する方法などがある64).300mg/m2を2週ごとに4回投与し,以後4週に1回500mg/m2を計1年間投与する方法もある.出血性膀胱炎を予防するために,メスナ®

を点滴静注し,以後,24時間にわたり利尿を計る.高安動脈炎に対しても有効性を示す報告があり,安全性の面からも期待されるが,多数例を対象とした検討はいまだ行われていない65).

1271Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

血管炎症候群の診療ガイドライン

2)メトトレキサート(MTX)(レベルB,クラスⅡa) 葉酸代謝拮抗剤であるメトトレキサート(MTX)は,高安動脈炎における活性化されたリンパ球などを抑制する効果が期待できる.骨髄抑制・口内炎・肝障害・間質性肺炎などの副作用が生じる.米国でステロイド単独治療困難例16例に対し,平均17.1mg/週のMTXを併用し,うち8例が平均18ヶ月の長期寛解を維持できたとの検討がある66).ただし1例において,プレドニゾロン60mg/日+MTX20mg/週投与中にニューモシスチス肺炎を発症したため脱落している.2004年のコホート研究では,1mg/kgのステロイド治療を行い,ステロイドの減量中に再発した例に対し,15~25mg/週のMTXを併用した34例における再発率は34%であった.このコホート研究では,MTX投与例に対し葉酸1mg/日とST

合剤の週3回投与を併用し,MTXの副作用の軽減とニューモシスチス肺炎予防を行っている56).本邦での検討は不十分であり,至適用量は関節リウマチの治療を参考に決定する(6~15mg/週程度)が,併用ステロイド量が関節リウマチより多いため,ニューモシスチス肺炎などの日和見感染症については十分な注意が不可欠である.3)アザチオプリン(AZA)(レベルB,クラスⅡb) 6-メルカプトプリンのプロドラッグであり,核酸合成を阻害する.1~2mg/kg/日を内服する.骨髄抑制,肝障害,間質性肺炎の副作用がある.ステロイド+AZA

併用療法の有効性と安全性を示したインドからの報告がある67).ステロイド1mg/kg/日6週投与後12週間の間にステロイドを維持量の5~10mg/日まで減量し1年間維持量を継続するとともに,AZAを2mg/kgで1年間併用するというプロトコールである.対象患者15例全例で,全身症状の改善が認められたが,ESRやCRPの高値が持続した例が2例あった.骨髄抑制で投薬を中止した例はなかった.4)シクロスポリン(CsA)(レベルB,クラスⅡa) カルシニューリンインヒビターであるシクロスポリン(CsA)は,T細胞の活性化を阻害する.ステロイド単独治療困難例に3mg/kg/日程度を投与する.トラフ値(100ng/ml以下),血圧,BUNをモニターして投与量の調節を行う.移植領域では,AUCあるいはそれを反映する服用2時間後血中濃度(C2)により投与量調節を行う.具体的には,服用直前(C0)から4時間後(C4)まで測定し,AUCを算出して3000ng・h/ml程度になるように投与量を決定する.C2は1000ng/mlがほぼ上記AUCに相当し,心移植後対移植片反応が抑制できるため,自己免疫疾患における有効性も期待できる投与量と

考えられる68).副作用としては,腎障害,肝障害,中枢神経障害,高血圧などがある.CsAの有効性を示すエビデンスは少ないが,本疾患に壊疽性膿皮症を合併した例に対し,3~6mg/kg程度のCsAを投与し,有効であったとの報告がある69),70).同じカルシニューリンインヒビターであるタクロリムスにも有効性が期待される.5) ミコフェノール酸モフェチル(MMF)(レベルB,クラスⅡa)

 MMFはミコフェノール酸のプロドラッグであり,ミコフェノール酸は inosine monophosphate dehydrogenase

(IMPDH)を阻害し,guanosine nucleotidesのde novo合成を抑制する.活性化リンパ球で発現している IMPDH

の type Ⅱ isoformをより強力に阻害するため,MMFはリンパ球を介した血管障害を抑制する作用が期待できる薬剤である71).1.5g/日から3g/日を2回に分けて分割投与する.血球減少,胃腸障害(重度の下痢)などの副作用がある.ステロイドの減量困難例やMTX・AZP・クロラムブシルの併用無効例10例に対し,MMF2g/日を平均23.3ヶ月投与した検討では,9例で疾患活動性の低下が認められ,ステロイド投与量・赤沈・CRP値の有意な改善が認められた.頭痛のため中止した1例を除いた9例では,明らかな副作用は認められなかった72).6)TNF-α阻害療法(レベルB,クラスⅡa) 抗TNF-α抗体(インフリキシマブ)または,可溶性TNF受容体(エタネルセプト)によるTNF-α阻害療法は,高安動脈炎におけるマクロファージの活性化や末梢血単核細胞のTNF-α mRNAの発現亢進が認められることから有効であることが期待され,パイロットスタディーが行われている73).ステロイド,CPA,MTX,AZA,CsA,MMF,タクロリムスによる治療に抵抗性を示した15例に対し,8例にインフリキシマブ,7例にエタネルセプトを投与した報告では,10例で新たな血管病変が出現せず,ステロイドの中止が可能であった74).4例でステロイドの50%減量が可能となったが,残り1名は無効であった.有害事象としては,1例の投与時反応と2例の感染症(ヒストプラズモーシス,帯状疱疹)が認められた.感染症の合併に注意すれば,ステロイド抵抗例において有力な治療法となりうる.他の生物学的製剤として抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブも血管炎に対する治療効果が期待されている75).7)末梢血幹細胞移植療法 ステロイド,CPA,MTX,MMF,クロラムブシルのいずれにも抵抗性を示した症例に対し,G-CSFとCPA

で末梢血幹細胞を動員し,CD34陽性細胞に純化した後,CPAと抗胸腺抗体で前処置を行い,幹細胞移植を行っ

1272 Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

て改善したとの報告がある76).

2 外科的治療 高安病の血管病変は肺動脈や大動脈などの弾性型動脈に生じて,大動脈主要分枝の閉塞性病変と,大動脈弁閉鎖不全や大動脈瘤などの拡張性病変を呈する77)-85).内科的治療が原則であるが,以下の病態を呈した症例では外科的治療を考慮する.手術は原則的に炎症の非活動期でステロイド非使用時に行うが,症状により急ぐ必要のある場合にはステロイドで炎症を赤沈3㎜ /h以下,CRP

1.0mg/dl以下に抑えてから行う.術後も炎症反応を認める症例では,ステロイド投与を行い炎症の鎮静化と再燃防止を計ることにより良好な遠隔成績が得られる.

①心臓と拡張性病変の外科的治療

1)心臓の病変 ⅰ)大動脈弁閉鎖不全 大動脈弁尖が肥厚,短縮して逆流が生じる.弁逆流が3/4以上の症例で弁置換術を考慮する.通常機械弁を用いるが,高齢者や妊娠を希望する若い女性に対しては生体弁を用いる.炎症がコントロールされていないと術後に人工弁離脱などの縫合不全を合併するので,術前・術後ともに十分に炎症をコントロールする.炎症が沈静化している症例では通常の弁置換法で人工弁離脱の心配は少ないが,若年者では炎症がコントロールされていてもフェルトなどを用いた補強法を行ったほうが無難である.長年炎症がコントロールできない場合には,基部拡大がなくても弁付き人工血管置換(Bentall法)を行う81)

-83). ⅱ)冠動脈狭窄 狭心痛を伴うか冠動脈に有意狭窄を有すれば,冠血行再建術を行う86)-90).冠血行再建として冠動脈バイパス術を施行する場合には,グラフトの選択に熟考を要する.弓部分枝動脈に狭窄や閉塞がある場合には内胸動脈が使用できないことがある.また,内胸動脈では将来鎖骨下動脈の狭窄が進行する危惧がある.大伏在静脈や橈骨動脈でも中枢側吻合を上行大動脈に置くことになり,長期開存性に不安がある.上行大動脈に石灰化や高度の肥厚などの病変を認める症例では,中枢側の吻合部としては選択できないから,腕頭動脈などの分枝動脈を用いる.上行置換などが同時に施行される場合には,人工血管を中枢側吻合部位に用いる.本症の冠動脈病変は入口部が多いのが特徴的であり,入口部内膜摘除や入口部パッチ拡大術が有効な症例もある90).

 ⅲ)肺動脈病変 高安動脈炎によって肺動脈狭窄が生じて肺高血圧を呈すれば手術適応となり,心膜を用いたパッチ拡大術か人工血管置換が施行される.肺動脈が瘤状に拡大することもあり,他の病変と同時手術では肺動脈を部分切除して縫縮する.2)大動脈の拡張性病変 ⅰ)胸部大動脈瘤(非解離性) 血液検査で腎機能や肝機能をチェックするとともに,炎症所見の有無をみる.診断と手術適応の決定のために,体部CT検査を行う.最近の三次元CTを行えば,大動脈瘤の全体像がよく理解できる.大動脈造影を行って弓部分枝の状態や瘤との位置関係を知っておく.心エコー検査にて大動脈弁の逆流の状態をチェックしたり,冠動脈造影を行って冠動脈の様子もみておく.弓部再建時に脳保護法を行うので,脳CTを施行して術前の脳の合併症の有無を検索しておく. 外科治療の適応は体部CT検査にて50㎜以上の最大短径を有する大動脈瘤,拡大傾向が著しい大動脈瘤,破裂および症状を有する大動脈瘤,である.大動脈が全周性に石灰化している症例ではリスクが高くなるので,手術適応を慎重に行う.手術は人工血管置換を行うが,拡大が軽度であったり限局性の症例では瘤ラッピング法も有効である.再建範囲は術後の吻合部離開や仮性動脈瘤の発生を防止するために,なるべく病変部を残さないように置換すべきである.炎症のコントロールが不良な症例では,遠隔期において縫合不全などの合併症を起こすリスクが高く,フェルト補強吻合などの工夫が必要である.そして遠隔期において炎症の再燃による吻合部合併症や残存病変の進行に対して,術後長期にわたる慎重な経過観察が必要である.また,閉塞病変との合併,広範囲に及ぶ大動脈拡張性病変,多発性大動脈瘤などがあり,補助手段や手術術式に総合的な外科治療戦略が要求されることが多い79),91)-93).(a)大動脈基部拡大 高度の大動脈弁閉鎖不全を伴う症例では人工弁付き人工血管置換(Bentall手術)を行う.大動脈弁の逆流が軽度か認めない症例には,自己弁温存術式も考えられるが,炎症がコントロールされていても遠隔期に大動脈弁が変性する症例が多く,高安動脈炎では自己弁温存術式は施行しないほうがよい.炎症が存在する症例ではステロイドの投与とともに,補強縫合を考慮した術式を選択する.すなわち,弁付き人工血管置換術は人工血管内に人工弁を1cmほど挿入して縫着したのち,大動脈弁輪の外側に帯状フェルトで補強して全周にマットレス縫合

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血管炎症候群の診療ガイドライン

を置き,弁輪部には人工血管が接するように固定する,両側冠状動脈の再建はボタン法か中口径の人工血管を用いた Interposition法を行う(図15).(b)上行弓部大動脈瘤 高安動脈炎では上行弓部が紡錘状に拡大することが多い.上行部分弓部置換術と上行弓部全置換術がある.両術式ともに胸骨正中切開にて行う.部分弓部置換術の方法は,腕頭動脈の直前で近位の弓部大動脈を斜めに離断して,吻合部を帯状フェルトで補強して人工血管と縫合する.弓部全置換術の方法は,弓部3分枝再建用の分枝付き人工血管を用いて,Open distal anastomosis法にて施行する.Ⅲ度以上の大動脈弁閉鎖不全を合併していて弓部大動脈が50㎜以上に拡大しておれば,弁付き人工血管にて基部再建術と同時に上行弓部全置換術を行う.上行弓部大動脈だけでなく下行大動脈にも拡張性病変を認める症例には,elephant trunk 法を用いて二期的手術に備える(図16).弓部再建時の補助手段は原則として順行性脳分離体外循環法を用いる.(c)胸腹部大動脈瘤 高安動脈炎では遠位弓部大動脈から腹部大動脈に連な

る広範な拡張性病変を認める症例もある.比較的若年者で女性が多い.一期的胸腹部大動脈全置換も可能であるが,2回または3回に分けた staged operationを行うことも考慮する.本症では上行弓部大動脈だけでなく,胸腹部大動脈が拡大していて近い将来に胸腹部大動脈の追加手術が必要な症例がある.このような症例では初回の上行弓部全置換術時に末梢側吻合法としてelephant trunk

法を用いる.そして,右側臥位にて第6肋間開胸を行い,胸腹部大動脈置換術を二期的手術として行う.この場合補助手段は部分体外循環法を用いる. ア)腹部大動脈瘤 本症で腹部大動脈のみが瘤状に拡大する症例は少ない.胸部大動脈に拡大性病変や分枝狭窄がないか精査しておく.通常の動脈硬化性の腹部大動脈瘤と同じで,40㎜以上を手術適応として,開腹法か腹膜外到達法にてY

字型か直型人工血管置換術を行う. イ)解離性大動脈瘤 高安動脈炎に大動脈解離が合併するのは稀である94).手術適応と治療法は通常の大動脈解離に準ずる.若年者で炎症所見を認める症例では補強縫合を考慮した術式を行い,術後は内科的に抗炎症剤を投与して経過観察する.3)末梢動脈の拡張性病変 高安大動脈炎では大動脈の分枝動脈が拡大することもある95).30㎜以上の拡大に対しては炎症をコントロールして,人工血管置換を行う.他の病変と同じで,炎症のコントロールは遠隔期の縫合不全などの合併症予防に重要である.4)術後の管理  術前にステロイド投与していた症例では,直後からステロイド投与を行う.ステロイド剤投与は原疾患に対する治療薬として中断できないことが多い.特に若年者ではステロイドにより炎症所見を鎮静化させた後も,少量のステロイド薬を維持投与したほうがよい.治療に際しての炎症所見の評価はCRPや赤沈などの全身炎症マーカーを用いるが,臨床症状を参考に炎症の活動性を推測する必要がある場合もある.再建部位と残存大動脈は年1回の体部CTを行って経過観察して行く.

②狭窄性病変の外科的治療

1)総論 ⅰ)外科的治療 分枝病変では血栓内膜摘除術の成績は不良であり,バイパスが標準術式であるが,開存成績は平均2~5年の追跡で65~95%96)と良好ではない.対策として,炎症活動期に手術を行わないこと,血管吻合を病変がない部

図15 高安動脈炎における弁付き人工血管置換術

図16 高安動脈炎における大動脈基部・上行弓部再建法

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

位に行うことの重要性が指摘されている97).代用血管の選択では,弓部分枝では人工血管が,腎動脈では人工血管と静脈グラフトの両者が多く用いられている97)が,弓部分枝に静脈を勧めるものもある91),98). 本症では吻合部動脈瘤が高率であるとされ,長期経過観察の重要性が指摘されている.Miyataらの報告では20年発生率は12%であるが,10年では5%で動脈硬化症と差はなかった99).また炎症反応やステロイドの使用には影響されず,絹糸による吻合部が82%であった.したがってこの成績は,本症では若年で手術を受けるために追跡期間が長いこと,このため古い時代の手術が含まれており手術材料も理想的ではないことの影響を受けていると思われる.事実,追跡期間が短い欧米の報告や本邦の最近の報告では高率な吻合部瘤の発生は報告されていない. ⅱ)血管内治療 本症の分枝血管病変は固く,long segment病変や完全閉塞が多い.このため拡張に高圧を要し,一定の率で技術的不成功がみられるほか,特にびまん性病変で再狭窄が多い100).80~90%という高い技術的成功を示した報告でも,平均1~2年の追跡で15~35%程度の再狭窄・閉塞がみられており,stent併用による明らかな中・長期成績の改善は報告されていない96).したがって現状では,腎動脈などにみられる限局性病変や外科的血行再建手術のhigh risk例が主な適応となると考えられる97). 一方,大動脈縮窄に対する血管内治療では,stent併用により早期の圧較差減少と遠隔成績の改善が報告されており101)-103),今後の発展が期待される.しかし本邦では大動脈に適応可能な stentは認可されていない.2)各論 ⅰ)弓部分枝病変(a)手術適応 脳虚血が症候性である場合,または無症候性であっても3分枝全てに有意狭窄が認められる場合が適応である.眼底所見では,可逆変化である宇山分類第二期(毛細血管瘤期)まで,眼底血圧では30㎜Hg以下では網膜灌流が傷害されるため50㎜Hg前後が良い91).最近はDiamoxや運動負荷を加えたSPECTやPET等の核医学検査による脳虚血の証明が可能で,手術適応の決定に有用である.上肢のarm claudicationなど虚血症状が適応となる場合もある.(b)術式と成績 本症の神経合併症は塞栓ではなく血流低下の結果であり,血栓内膜摘除よりもバイパスの開存成績がよいこと104)から,後者が選択される97).最も多く施行されてい

るのは上行大動脈からのバイパスで,開存弓部分枝をinflowとするより遠隔開存率が良いとされ96),97),4~5年で90%以上の臨床的改善が報告されている105),106).しかし上行大動脈にも肥厚や石灰化などの病変はしばしば認められ,遠隔期の狭窄・閉塞の原因となる他,他部位に inflowを求めることが必要な場合もある.特殊なinflow siteとしては大腿動脈や腸骨動脈の報告があり,遠隔開存も報告されている.また下行大動脈も inflowとして用いられている.(c)術後合併症 特有なものにhyperperfusion syndromeがある.これには痙攣,意識障害など可逆的なものから,脳浮腫・出血をきたして死に至るものまであり,バイパス手術のみ成らず血管内治療後にも発生しうる.その発症には術前の高度虚血,高血圧,血行再建中の虚血,両側頸動脈同時再建などが関与しているとされ,術前術中管理の重要性と,一期的再建を避けることの重要性が指摘されている91),105). ⅱ)異型大動脈縮窄症(a)手術適応 本症では上半身高血圧,腎臓や腸管の虚血,間欠性跛行などの下肢虚血症状をきたすが,自然予後は高血圧合併症により不良であり107),いずれも血行再建術の適応となる.(b)術式と成績 大動脈-大動脈バイパス,パッチ形成術,大動脈置換,非解剖学的バイパスが行われているが,侵襲と臨床的効果のかねあいから大動脈-大動脈バイパスが推奨される107),108).腹部分枝を巻き込むものやこれら分枝に病変を合併する例では同時再建が行われる.Taketaniらの遠隔成績の報告では,術後血圧が正常化しない症例の予後が不良であった108). ⅲ)腎動脈病変(a)手術適応 心不全や不安定狭心症を伴うもの,治療抵抗性あるいは片腎萎縮を伴う腎血管性高血圧,両側あるいは機能している片腎に病変を有する腎機能低下等が適応と考えられる.(b)術式と成績 一部を除き血栓内膜摘除の成績は不良であり,バイパスと自家腎移植が行われている109).バイパス手術は,inflow

siteによりaorto-renal(infrarenal,supraceliac),hepato-

renal(gastroduodenal),spleno-renal,ilio-renalな ど,使用される代用血管により大伏在静脈,内腸骨動脈,EPTFEなどの人工血管等が報告されているが97),109),110),

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血管炎症候群の診療ガイドライン

頻用されているのは静脈による infrarenalバイパスである.Weaverらの報告では5年開存率は79%,二次開存を含めると89%であった110). 自家腎移植は腎動脈の複数の分枝に病変が及ぶ場合に用いられ,ex vivoで病変部位を切除し接合した上で,内腸骨動脈に端々吻合される場合が多い.本症の腸骨動脈は病変が少ないため良好な成績が期待できるが,大動脈縮窄を伴う場合には同時再建が必要である. ⅳ)腸間膜動脈病変(a)手術適応 有症候性(腹痛,体重減少など)のものは血行再建術の適応と考えられている.(b)術式と成績 多数例の報告は存在しない.一般に,バイパス術式には腹腔動脈上大動脈からの順行性と腎動脈下大動脈や腸骨動脈からの逆行性があり,代用血管も人工血管と自家静脈両者が用いられているが,優劣は確定していない.

7 予後

 高安動脈炎はMRAやCTによる検査の普及により早期発見・早期治療が可能となり,予後が著しく改善している.予後を決定する重要な病変は,腎動脈狭窄,大動脈縮窄,大動脈弁閉鎖不全,動脈瘤などで,それらを有する症例では早期からの適切な内科治療,および,適応例では適切な外科治療により,長期予後の改善をはかるべきである.

Ⅲ バージャー病

1 疾患概念・定義・疫学

 1879年von Winiwarter111)が57歳男性の慢性下肢動脈閉塞症患者の切断肢で動脈壁,特に内膜肥厚による内腔狭窄を認めendoarteritisの用語を用いた.1908年Leo

Buergerが11例の切断肢について6),さらに1909年に19肢の切断肢と切除静脈について検討し7),動脈壁の炎症性変化,主幹静脈や表在性静脈の血栓性静脈炎を認め,血 栓 性 閉 塞 を 主 な 原 因 と 考 え て thromboangiitis

obliterans(TAO)と呼称した.その後本疾患が一疾患単位であるかどうかについての議論が行われたが,臨床的疾患単位としてバージャー病(Buerger disease)は広

く認知されている.我が国では特発性脱疽として古来より知られている112).20~40歳代の青壮年男子にみられる四肢動静脈の分節的病変で,罹患部血管全層のびまん性,炎症性,増殖性,非化膿性変化とその部の血栓性閉塞を病理学的特徴としている113).厚生省特定疾患難治性血管炎調査研究班による診断基準が設けられており(後述),これに合致するものをバージャー病と診断している.厚生労働省特定疾患治療研究事業の対象疾患に認定されている. 人口10万人に4~5人の発生がみられるとされていたが,1970年代の後半を境に新たな発生は急速に減少しており,2006年の特定疾患の受給者数は約8,000名である.発症年齢は喫煙歴のある20~40歳代の青壮年に多く,男性がほとんどを占めている.肉体労働者に多い傾向にあるが,職業病としての特徴は認められず,遺伝的素因や地域差も認められていない.歯周病との関連が示唆されているが,疫学的には明らかにされていない.

2 発症機序

 バージャー病の成因に関しては,喫煙,感染,栄養障害,自己免疫,血管内皮細胞の活性化などがあげられており114)-116),微小循環障害が発生していることが血管撮影,病理学的検討などから指摘されている117),118).また本症は全世界で認められるが,特に南アジア,東アジア,トルコに多いことより人種差が示唆されている119).

1 喫煙 喫煙は,増悪因子として臨床的にも確認されており,禁煙した患者の94%は切断を免れたが,喫煙を続けた患者の43%は少なくとも一回以上の切断術を受けていた.また禁煙開始時に壊疽のない場合には切断術に至った症例はないと報告されている119).また本邦における110人の患者集計でも,禁煙した41例では切断に至った症例はなく,禁煙できなかった69例中13例で大切断に至っている.つまり禁煙できなかった症例においてのみ大切断に至っており,喫煙と大切断には有意な関連性が認められた120).喫煙は血管攣縮,凝固能亢進をきたすことが広く知られており121)-123),このような機序により下肢虚血が進行し切断に至ると推定される.

2 感染 古くはBuergerやHagaらは6),124),バージャー病の梅毒病因説を出したことがある.その後も腸チフス菌,連鎖球菌,皮膚真菌,リケッチァ説などが報告され,細菌

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

感染説は根強く継続した.1928年Mayo clinicのAllen

はバージャー病の感染説を疑う一因として,歯根炎が75%にみられたと報告している125).口腔内感染が全身病と関連している可能性を示唆した貴重な報告である.またバージャー病治療中に感染した外科医を紹介している.その後,菌の同定がなされぬまま,感染説は後退し,誰もこの点には注目しなかった.ところが,2000年より血管材料を歯周病科と連携して検索してきた東京医科歯科大グループが,47歳,バージャー病男性患者の下肢の閉塞動脈を採取し,検索した結果,歯周病菌の一種であるTreponema denticolaを世界で始めて検出した.その後も14例について動脈生検を行い13例(93%)に口腔内と同じ種類の歯周病菌を検出し報告した126).バージャー病の初期病変が,感染を強く疑わせることから本疾患の成因に強く関わっている可能性が示唆される.

3 血液学的異常 バージャー病では筋肉や皮膚への交感神経の電気信号は減弱しており126),127),そのために交感神経を介したアドレナリンの作用が抑制されている.喫煙に対する末梢交感神経反応の変化により血中カテコールアミン濃度が低下しており,交感神経遮断により是正されるが,喫煙により再び低下する128).またバージャー病患者では,ヘマトクリットの上昇,血液粘性の亢進,赤血球変形能の低下が認められている129).

4 HLAおよびDNA typing HLA-A9, -B5, -A1, -B8, -DR4との相関が指摘されており42),130),131),HLA-A9, -B5とともにMICA遺伝子の多型も関連性があるとの報告がある42),130).他方,HLA-B12 とは負の相関がある132).HLAと主要組織適合 遺 伝 子 複 合 体(major histocompatibility complex:

MHC)関連遺伝子との間には有意な関連性があると言われており61),133),CD14-TTとHLA-DPB*0501は本症の罹患し易さに関連しているという報告がある134).一方,HLA-DPB1*0401保有者は本症に罹患しにくく,HLA-DRB1*1302保有者の罹患頻度も低い135).またプロトロンビン20210G>A多型性と本症との間には関連性が認められており136),Glueckらは,eNOS -786 T>C多型性との関連性を報告している134).

5 血管壁における反応 バージャー病ではⅠ型,Ⅱ型,Ⅳ型コラーゲンに対する細胞性免疫応答が,閉塞性動脈硬化症や健常人と比較して亢進している115),137).また,末梢血管における内皮

依存性弛緩反応が障害されている.健常人では,前腕部血流量はアセチルコリン(内皮依存性弛緩反応)やニトロプルシド(内皮非依存性弛緩反応)の動脈注入後に増加する.しかしバージャー病患者ではアセチルコリン動脈注入による血流増加率は低い(バージャー病患者:14.1ml/min/dl,健常人:22.9 ml/min/dl).また内皮依存性血管弛緩反応は血行障害のない上肢においても反応が低下しているが,ニトロプルシド動脈注入では有意差がなく(バージャー病:13.1ml/min/dl,健常人:16.3 ml/

min/dl),内皮非依存性血管弛緩反応は障害されていない138).ICAM-1,VCAM-1やE-selectinは,バージャー病患者では内皮細胞や炎症細胞において発現が亢進している139).

6 セロトニン バージャー病患者では,全血でのセロトニンは,有意に低下しているが,血漿中の遊離セロトニンは有意に上昇している.血小板のセロトニン取り込みは低下しており,また血小板からの自然放出とも関連している.以上より,バージャー病では,血小板におけるセロトニン取り込みの低下と,血小板近傍でのセロトニン濃度の上昇により,セロトニン受容体を介して血小板が活性化しており,それによって動脈病変が引き起こされると推定されている140).

7 AECAおよびANCAとの関連 Eichhornらは118),バージャー病の活動期では血清中の 抗 内 皮 細 胞 抗 体(anti-endothelial-cell antibody:

AECA)が1857unitsと,健常人:126units,再燃期:461unitsと比較して有意に上昇していることを報告した.したがって,AECAは病気の活動性を評価するのに有用であると考えられている.また抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilcytoplasmic antibody : ANCA)は,本症の活動期または増悪期では18例中12例(66.7%)で陽性であったのに対して,寛解期では9例中3例(33.3%)のみで陽性であり有意差を認め,ANCAが本症の診断に有用である可能性が報告されている141).

3 病理所見

 四肢の筋型動脈,特に中等大ないし小動脈に好発する.病理学的に,種々の程度の炎症を伴う血栓形成に由来した分節性の内腔の閉塞を特徴とした血管炎であることから thromboangiitis obliterans(TAO)とも呼ばれる142),143).また,しばしば周囲の遊走性血栓性静脈炎を随伴する.

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血管炎症候群の診療ガイドライン

 四肢末梢の壊疽や間欠性跛行を示す慢性期症例の切断肢に見られる動脈の内腔は,高度な内膜の線維性肥厚により狭窄もしくは閉塞に陥っている(図17).一般に,この時期の肥厚内膜の炎症所見は軽微であり,時に再疎通像を示す.また内弾性板は重複や一部の断裂を認めるが概ねよく保たれている.これらの病理学的所見が血栓の器質化像に一致していることから,本疾患の病態が血栓形成を基盤として発生した血管炎であると考えられている.実際に,泡沫化マクロファージの集蔟や粥腫の形成は認められないことから,粥状動脈硬化との鑑別は,通常,容易である. 一方,本疾患の急性期にみられる特徴的な病変は,顕著な好中球浸潤を伴う血栓形成であり,しばしば内腔は血栓により閉塞されている(図18).この時期の内弾性板もよく保たれている.この好中球浸潤は動脈中膜や外

膜にも及んでおり,また血栓内に微小膿瘍の形成を認めることもある.亜急性期には浸潤白血球はマクロファージやリンパ球が主体となり,異物型ないしはラングハンス型巨細胞や活性化組織球を混在させた肉芽腫性炎症を認めることもある. 四肢動脈の他に,腸間膜動脈,冠動脈や頭蓋内動脈などに発生したバージャー病が報告されており,全身性バージャー病の存在が示唆されている.しかしながら,上述のように,本疾患の病理像には特異性が乏しいことから,本症の病理学的所見とともに臨床疫学的特徴を考慮して非特異的血栓症,血栓塞栓症や動脈硬化症と鑑別されるべきである.

4 臨床症状と検査所見

1 虚血症状

①下肢における虚血症状

 初期症状として固有趾動脈,中足骨動脈,弓状動脈などが罹患し,ついで下腿三動脈に病変が波及する.それ故,初期症状としては足趾冷感,しびれ,皮膚色調変化,疼痛,足底筋跛行などを自覚し,その後にいわゆる跛行症状を呈することが多く,この事実が閉塞性動脈硬化症と異なる.以下,具体的に解説する.1)冷感 特に足趾,つま先に生じることが多い.患者は実際の足趾の温度よりもより冷たく感じることが多いようである.2)知覚異常 さまざまな知覚異常があるが,バージャー病では特に手指,足趾,足部,手部のしびれを感じることが多い.このしびれは運動や歩行などの後に起こることが多い.3)皮膚色調変化 皮膚の色調が変化することはこの疾患の特徴である.罹患した指趾は赤みを帯び rubor様になる.この ruborはバージャー病に特異的な所見ではないが,四肢を下垂することなく体幹と水平な状態でもみられるのが特徴である.また虚血期間が長くなればチアノーゼがみられるようになる.このチアノーゼは虚血症状が危機的であることを意味する.4)間欠性跛行 ある程度の運動をした後に下肢のだるさ,痛み,筋肉の“つり”を生じ,最終的には運動続行ができなくなる

図17 バージャー病(慢性期)の病理35歳,男性の大腿動脈浅枝.内腔は,器質化血栓に由来すると考えられる血管に富む疎な線維性組織により完全に閉塞されている.内弾性板は重複して多層化しているが,中膜とともに良く保たれている.

IELIEL

IELIEL

図18 バージャー病(急性期)の病理38歳,男性の膝窩動脈分枝.動脈内腔は器質化を伴う血栓により閉塞されている.血栓の辺縁部には好中球の集蔟を,また異物型巨細胞(白矢印)も認められる.内弾性板(IEL)ならびに中膜平滑筋は良く保たれている.

IELIEL

⬆IELIEL

1278 Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

ことをいう.バージャー病の初期では膝窩動脈以下に閉塞病変が生じるため跛行症状は“土踏まず”に生じるいわゆる足底筋跛行を呈する144).また病変が膝上膝窩動脈まで伸展すると腓腹部跛行を生じるようになる.さらに腸骨動脈領域まで伸展すれば大腿・臀部に跛行症状を生じるようになる.5)安静時痛 この疾患の安静時痛の特徴として,刺すような痛み,耐え難く安眠を妨害するような痛み,という表現が当てはまる.皮膚色調は赤紫色,時に蒼白になる.疼痛はつま先,中足骨付近まで生じる.しかし,手指に覚えることは少ない.6)潰瘍・壊疽 手指,足趾,特に爪の周囲に生じることが多い.また誘因として機械的な刺激,火傷もしくは医原性のことが多い.些細なことがきっかけで潰瘍・壊疽を生じ急速に進展することがある.

②上肢における虚血症状

 下肢と同様に上肢もバージャー病に罹患する.しかしながら手指や上腕の病状は下肢に比し軽度であると言われている.上肢症状を主訴として医療機関を訪れる割合は5%程であったという報告もあるが145),名古屋大学血管外科での検討では症状を呈した患者の割合は13.9%であった146).また,臨床的に無症状の場合も含め,血管造影上は約90~100%に病変を認めた.

2 虚血症状の頻度 1993年に全国で行われた825名の患者(うち男性749名と女性76名)を対象にしたバージャー病の疫学調査によると,上肢の症状は5.1%に,下肢に症状が限局していたものは74.7%に,上下肢ともに症状が同時にあったものが20.2%に存在した.また最も多かった罹患動脈は下肢では前脛骨動脈41.4%,後脛骨動脈40.4%,上肢では尺骨動脈が11.5%であった147). 1977年から1988年の名古屋大学血管外科で治療した255名を解析したところ,初発症状としては,知覚異常,冷感,チアノーゼなど37%,足底筋跛行が15%,腓腹部跛行が16%,安静時痛が10%,潰瘍・壊疽が19%,遊走性静脈炎が3%であった.すなわち知覚異常,冷感,チアノーゼなどが37%であるのに対して跛行や安静時痛,潰瘍,壊疽などの重症虚血症状を呈したものはそれぞれ30%ほどであった.また発症から全経過を通してみれば潰瘍・壊疽は72%に,遊走性静脈炎は43%,上肢病変は90%に認められた.

3 血液学的検査 バージャー病に特異的に見られる血液検査異常は無いとされている.最近の罹患動脈壁の病理学的・免疫組織化学的検索により血管内膜の炎症性機序が報告されていることから,流血中の免疫グロブリン,免疫複合体が上昇しているといわれている116),148).またバージャー病ではその側副血行路発達が著明にみられることより血中VEGFが高いとの報告もある149).

4 内臓動脈の罹患 バージャー病では主に四肢の中小動脈および静脈が罹患し,それが内臓動脈に波及することはまれである.しかし,今までに四肢の血管以外,すなわち脳動脈,冠動脈,腎動脈,腸間膜動脈,内胸動脈の病変が報告されている.病理組織学的には四肢の血管病変と基本的には全く同じであると考えられている.つまり四肢血管以外に発症するバージャー病の診断は病理組織学的にバージャー病の急性期もしくは亜急性期を呈していなければならない.また臨床症状はバージャー病の診断基準に合致していなければならない.

5 診断法および診断基準

1 身体診察(表10)

 詳細な病歴の聴取と身体診察は,バージャー病診断の第一歩である.視診により肢端の萎縮,爪の発育不良,発毛の左右差といった虚血の存在を知ることができる.遊走性静脈炎(phlebitis migrans)の有無や表在静脈に沿う色素沈着なども見逃さない.聴診では腸骨・大腿・膝窩動脈の走行上に聴診器をあて狭窄性雑音の有無を調べる.触診では肢端の皮膚温低下や末梢動脈拍動の減弱や消失を確認する.また,アレンテストや下肢挙上下垂テストといった負荷テストにより,動脈病変の存在や側副血行路の発達の程度を知ることができる .

2 無侵襲的検査法(表11)

 無侵襲的診断法により機能的,形態学的に病態を明ら

表10 身体診察

①視診─指趾の萎縮,爪の発育不良,発毛の左右差,遊走性静脈炎

②聴診─腸骨・大腿・膝窩動脈③触診─四肢,指趾の皮膚温低下,末梢動脈拍動の減弱・消失④負荷テスト─アレンテスト陽性,下肢挙上下垂テスト陽性

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血管炎症候群の診療ガイドライン

かにしうる.機能的診断法により,動脈病変の存在,側副血行路発達の程度が分かるばかりか,治療法の選択,治療効果の判定にも役立つ(レベルA).機能的診断法のうち最も基本的な検査は血圧測定である.手指,足関節,足趾血圧をドプラ法,または脈波法により測定する.これらの値は上腕血圧に左右されるので,それぞれの値と上腕血圧の比を計測する.バージャー病の病変の首座は前腕動脈より末梢,下腿動脈より末梢にあるので,虚血徴候は肢端で最も強い.したがって手指,足趾における血圧測定は重要である.しかしながら,潰瘍病変のため足趾血圧が測定できないことも少なくない.このような場合,皮膚灌流圧は足趾血圧とよく相関するので皮膚灌流圧は有用となる(レベルB).経皮的酸素分圧は皮膚酸素動態から皮膚血流量が推測できる.サーモグラムによる皮膚温測定は皮膚温低下の確認,冷水負荷によるレイノー症状の診断に役立つ.またサーモグラムやレーザードプラは治療効果の確認に役立つ.間歇性跛行肢では,最大歩行距離測定のほか一定歩行負荷後低下した足関節・上腕血圧比(ABI)が安静時ABIに回復するまでの時間150),近赤外線分光法では歩行開始により解離するオキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンが収束するまでの時間を測定することにより151),152),側副血行路の血液供給予備力を評価することができ,重症度評価,治療法の選択,治療効果の確認が可能となる(レベルB).動脈病変の閉塞部位の確認には無侵襲なMRAや造影3D-CTを選択しうるが,特に下腿へのバイバス術の適応のある症例には血管造影が不可欠となる(レベルC).

3 血管造影所見(表12)(図19~22)

 血管造影所見の特徴として,1)下肢では必ず膝関節より末梢に病変があり,上肢では肘関節より中枢に病変が及ぶことはない,2)病変中枢側の動脈壁は平滑であり,虫喰い像,石灰沈着などの動脈硬化性の壁不整を認めない(図19,図20),3)動脈閉塞様式は途絶(abrupt

occlusion)型,先細り(tapering)型が多い(図21,図22),

4)コルクの栓抜き状(cork screw),樹根状(tree root),橋状(bridge)となった側副血行路の発達が特徴的である(図22), 5)蛇腹様所見(accordion-like appearance)は,動脈が柔らかく攣縮を起こしやすいことを意味し,本疾患に特有な所見の一つである(レベルB)153),154).血管造影所見上最も鑑別を要するのは膠原病である.膠原病での特徴としては,1)病変の大半が末梢動脈に限局しているが,まれに外腸骨,大腿動脈にみる,2)病変は先細り型,途絶型がほとんどで,特異な狭窄(narrowing,fine threadなど)や壁不整がみられる,3)側副血行路の発達が一般には不良である,4)骨変化を伴うhyperemiaなどがあげられるが,造影所見だけから両者を鑑別することは難しい(レベルB)155)-158).

表11 無侵襲的検査法

A.機能的診断法①血圧(上腕,手指,足関節,足趾)─ドプラ法,脈波法②皮膚還流圧─レーザードプラ法③皮膚酸素動態─経皮的酸素分圧④皮膚温─サーモグラム⑤皮膚血流量─レーザードプラ法⑥筋酸素動態─近赤外線分光法⑦血流量─空気容積脈波法,ストレインゲージ容積脈波法B.形態学的診断法①MRA②造影3D-CT

表12 血管造影所見

①下肢では必ず膝関節より末梢に病変がある.上肢では肘関節より中枢に病変が及ばない.

②二次血栓の延長により慢性閉塞像を示す③病変中枢側の動脈壁は平滑であり,虫喰い像,石灰沈着などの動脈硬化性の壁不整を認めない

④閉塞は途絶状,先細り状閉塞となる⑤コルクの栓抜き状,樹根状,橋状の側副血行路の発達がみられる

⑥蛇腹様所見は本疾患特有の所見である

図19 バージャー病の特徴的な下肢動脈造影所見(文献153より引用)       

膝関節より末梢に必ず病変があり,病変中枢側の動脈壁は平滑で虫喰い像,石灰沈着などの動脈硬化性の壁不整を認めない .

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

4 診断基準(表13)

本疾患の診断基準として厚生省は,以下の項目を満たす場合,バージャー病と判断する.

1 自覚症状  ①四肢の冷感,しびれ感,レイノー現象  ②間歇性跛行  ③指趾の安静時疼痛  ④指趾の潰瘍,壊死(特発性脱疽)  ⑤遊走性静脈炎(皮下静脈の発赤,硬結,疼痛など)2 理学所見  ①四肢,指趾の皮膚温の低下(サーモグラフィーに

よる皮膚温測定,近赤外線分光計による皮膚・組織酸素代謝の測定)

  ②末梢動脈拍動の減弱,消失  ③足関節圧の低下(ドプラ血流計にて測定)3 血液生化学検査所見  バージャー病に特徴的な検査所見はない.4 画像所見(血管造影)  ①四肢末梢主幹動脈の多発性分節的閉塞  ②二次血栓の延長により慢性閉塞像を示す  ③虫喰い像,石灰沈着などの動脈硬化性変化を認め

ない  ④閉塞は途絶状,先細り状閉塞となる  ⑤側副血行路として,ブリッジ状あるいはコイル状

図21 バージャー病の特徴的な動脈造影所見(文献153より引用)     

動脈閉塞様式は途絶(abrupt occlusion)型,先細り(tapering)型が多い

①abrupt obstruction,② localized stenosis,③moth-eaten,④ irregularity,⑤bridging collaterals,⑥cork screw collaterals,⑦ tree root collaterals,⑧dilatation,⑨early venous filling

④①

図22 バージャー病に特徴的な閉塞様式と側副血行路(文献154より引用)         

図20 バージャー病の特徴的な上肢動脈造影所見(文献153より引用)       

肘関節より中枢に病変が及ぶことはなく,病変中枢側の動脈壁は平滑で虫喰い像,石灰沈着などの動脈硬化性の壁不整を認めない .

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血管炎症候群の診療ガイドライン

側副血行路がみられる5 鑑別診断  ①閉塞性動脈硬化症  ②外傷性動脈血栓症  ③膝窩動脈補掟症候群  ④膝窩動脈外膜嚢腫  ⑤全身性エリテマトーデスの閉塞性血管病変  ⑥強皮症の閉塞性血管病変  ⑦血管ベーチェット6 診断の判定1) 喫煙歴を有し,上記の自覚症状・理学所見・画像所見を認める

2)動脈硬化症や糖尿病の合併は原則として認めない3) 女性例,非喫煙者,50歳代以上の症例では,鑑別診断をより厳密に行う

4)鑑別診断で該当疾患を否定する

確定診断には血管造影所見が重要であるとしているが,以下の塩野谷恵彦の臨床診断基準159)がより明解で実用的である .

1)50歳未満の若年発症2)喫煙者3)下腿動脈閉塞がある4) 上肢動脈閉塞の存在,または遊走性静脈炎の存在または既往がある

5)喫煙以外の閉塞性動脈硬化症危険因子がない

この5項目はいずれもandが条件でありorでないことに注意すべきである.この5項目を満たし,さらに鑑別すべき疾患が否定された時にはじめて本疾患の診断が確定する(レベルA).しかしながら,50歳未満の若年発症,喫煙,下腿動脈閉塞があっても,上肢動脈閉塞や遊走性静脈炎の存在のみられないこともあり,上記5項目を総て満たすものは約30%程度である .

5 鑑別診断(表14)

 バージャー病の診断には,他の慢性動脈閉塞症との鑑別を要する.閉塞性動脈硬化症,外傷性動脈血栓症,膝窩動脈補掟症候群,膝窩動脈外膜嚢腫との鑑別は比較的容易であるが,全身性エリテマトーデス,強皮症,血管ベーチェット病などの膠原病および類縁疾患との鑑別は血管造影所見だけからは困難なことが多く,他の臨床症状や検査所見を必要とする.また,バージャー病では上腕にまで病変が及ぶことはなく,上腕の罹患がある場合には胸郭出口症候群や心房細動などに起因する塞栓症を疑ってみる必要がある.

6 バージャー病の重症度分類(表15)

 バージャー病の重症度は,日常生活や社会生活を営むにあたり,間欠性跛行や堪え難い疼痛を伴う潰瘍・壊死といった臨床症状が,身体的にあるいは精神的にどの程度まで支障となっているかにより決定する.QOLを主に考慮したビュルガー病重症度分類(厚生省難治性血管炎分科会,1998年)は表15のとおりである .

表14 鑑別診断

1.閉塞性動脈硬化症2.外傷性動脈血栓症3.膝窩動脈補掟症候群4.膝窩動脈外膜嚢腫5.全身性エリテマトーデス6.強皮症7.血管ベーチェット病8.胸郭出口症候群9.心房細動

表13 診断基準

(1)50歳未満の発症(2)喫煙歴を有する(3)膝窩動脈以下の閉塞がある(4)動脈閉塞がある,または遊走性静脈炎の既往がある(5)高血圧症,高脂血症,糖尿病を合併しない以上の5項目を満たし,膠原病の検査所見が陰性の場合,バージャー病と診断できるが,女性例,非喫煙者では鑑別診断を厳密に行う.

表15 重症度分類

1度:しびれ,冷感とともに,皮膚温低下,蒼白や虚血性潮紅などの皮膚色調変化はあるが,禁煙治療や薬物治療により日常の社会生活に全く支障ない

2度:上記の症状とともに主として足底,下腿に間歇性跛行を訴えるが,禁煙や薬物療法により日常の社会生活上,その支障は許容範囲内にある

3度:指趾の色調変化と限局性の潰瘍や壊死,又は高度の間歇性跛行を伴い,通常の薬物療法のみでは社会生活上,許容範囲を超える支障がある

4度:疼痛の強い潰瘍があり日常の社会生活に著しく支障をきたすが,症状の安定,改善がなければ入院加療を要する

5度:潰瘍,壊死による激しい疼痛のため,原則的には入院により強力な内科的,外科的治療を要する(入院加療:禁煙,安静,薬物治療,鎮痛,創処置,腰部交感神経切除,バイパス術,指趾・足部・下腿切断といった外科的治療,血管新生療法など)

(1998年厚生省難治性血管炎分科会)

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

6 治療指針および治療法ガイドライン

1 治療指針 厚生労働省難治性血管炎研究班のバージャー病の治療指針を表16に示す. 一般的な治療は,禁煙を厳守し,間接喫煙も極力避け,患肢の保温や清潔保持に努め,外傷(靴ずれ)をさける160).長期経過観察において,初診後の喫煙は肢切断との相関を認めている161).禁煙すれば,患者の大多数が,切断を免れているが,喫煙を続けた約半数が切断にいたっている. 最近,原因として注目されている歯周病126)があれば,早期に治療を行う. 症状が,冷感,しびれ感であれば,薬物療法を試みる.

間欠性跛行であれば,運動療法と薬物療法を行う.安静時疼痛や潰瘍は,薬物療法を行っても改善しない場合には,バイパス手術など外科的血行再建を考慮する.潰瘍症例でも禁煙を中心とした保存的療法のみで,多くの症例で症状は軽減し,潰瘍は治癒している161).

2 治療

①薬物療法(表17)

 経口剤は,約3ヶ月投与して,改善すれば引き続き投与を継続する.途中で悪化するようであれば,注射療法を施行する.経口剤としては,シロスタゾール,ベラプロストナトリウム,塩酸サルポクレラート,リマプロストアルファデクス,塩酸チクロピジンが使用されている.慢性動脈閉塞症に対するベラプロストナトリウムと塩酸チクロピジンとの二重盲検比較試験での改善率は,ベラプロストナトリウムが,62.9%,塩酸チクロピジン45.7%でベラプロストナトリウムのほうが良好であった162).同様にシロスタゾールと塩酸チクロピジンとの二重盲検比較試験163)での改善率は,シロスタゾール72.4%,チクロピジン57.7%,塩酸サルポクレラートと塩酸チクロピジンとの二重盲検比較試験164)での改善率は,それぞれ65%,48%で,いずれも塩酸チクロピジンより改善率は有意に良好であった. 注射剤としてアルプロスタジルアルファデク(PGE1-

CD)やアルプロスタジル(lipoPGE1)が投与されており,点滴でも改善しないような場合には,動注が施行される.点滴静注の効果の有無は,約1ヶ月で評価する. アルプロスタジルアルファデクス(PGE1-CD)において,バージャー病が大多数を占める潰瘍を対象としたイノシトールヘキサニコチネートとの二重盲検比較試験165)で,イノシトールヘキサニコチネートよりPGE1-CD

の持続動注のほうが有効であった.アルプロスタジル

表16 治療指針

1.治療の原則 (1)禁煙の励行.間接喫煙も避ける (2)患肢ならびに全身の保温に努め,寒冷暴露を避ける. (3)規則正しい歩行訓練,運動療法を行う.2.一次医療機関に対する治療指針 (1)軽症例では経口薬物療法を行い,経過を観察する.  ① 症状の安定,改善が得られれば,経口薬物療法を継続

する.  ② 症状が増悪する場合には二次・三次医療機関を受診さ

せる. (2)重症例は二次・三次医療機関を受診させる.3.二次・三次医療機関に対する治療指針 (1) 軽症例,経口薬物療法で改善がみられる例は,引き続

き薬物療法を継続する. (2)症状増悪例,重症例では原則として,入院とする.  ①経口薬物療法と併用して注射療法による治療を行う.  ②治療と並行して血管造影検査を行い,鑑別診断を行う.  ③ 重症例で薬物療法が無効な例は,血行再建術や交感神

経切除術,あるいは神経節ブロック,趾指切断などの適応を決定する.

表17 薬剤の種類と投与方法

薬剤名 使用方法

経口剤 シロスタゾール ベラプロストナトリウム 塩酸サルポクレラート リマプロストアルファデクス 塩酸チクロピジン

200mg/日,分2120µg/日 ,分3300mg/日,分330µg/日 ,分3300mg/日,分3

注射剤 アルプロスタジルアルファデクス (PGE1 -CD)

アルプロスタジル(lipoPGE1)

静注法:PGE1-CD40~60µgを輸液100ml~500mlに溶解し,1~2時間かけて投与する.投与回数は1日1-2回.動注法:PGE1-CD20µgを生食水5~20mlに溶かしおよそ0.1~0.15ng/kg/分をポンプを用いて投与する.1日1回 lipoPGE1 5~10µgを生食水20mlに混和してゆっくり静注する.

1283Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

血管炎症候群の診療ガイドライン

(lipo PGE1)においては,バージャー病を対象としたイノシトールヘキサニコチネートとの二重盲検比較試験166)で,lipo PGE1の点滴静注の改善率は61.3%,イノシトールヘキサニコチネート39.4%で,lipoPGE1のほうがより有効であった.

②運動療法

 運動療法は,監督下運動療法が有用である167).運動療法の方法はさまざまであるが,通常,トレッドミル運動として,傾斜12%,速度2.4km/hで行い,歩行による痛みが中等度になった時点で,中止し,約5分休息し,再び歩行運動を行う.運動と休息を含めて1日30分から1時間を週3回行う.自宅では早足で,最大歩行距離の約80%を歩行し,3~5分休息後に,再び同じ距離を歩行する.3~6ヶ月施行して効果をみる.

③血行再建

 特に安静時疼痛や潰瘍例に対して薬物療法など保存的療法で症状が改善しない場合や悪化する場合には,血行再建を行う.しかしながら閉塞性動脈硬化症と異なり,再建可能な症例が少ない.血行再建としてバイパス術が施行されているが,末梢側吻合が下腿動脈となる例が多いため,グラフトとしては自家静脈が用いられる.ただ遊走性静脈炎の既往などで使用不可能な場合がある. 末梢側が膝下の場合の開存率168)-170)は,1年53~72%,3年47~58%,5年39~63%で,喫煙により開存率は,低下する170).腰部交感神経切除の併用により開存率が向上するとの報告もある171).ただ閉塞性動脈硬化症に比べて,大切断となることが少ない.

④交感神経切除

 血行再建が不可能な疼痛を伴う足趾,手指に限局した虚血性潰瘍に用いられる.上肢では,星状神経節の下3分の1,第2,3胸部交感神経節を切除,下肢では,第2,3腰部交感神経節を切除する.改善率は,冷感,安静時疼痛,潰瘍において約52~64%であった172),173).最近では薬物による交感神経節ブロックがよく用いられている.

⑤その他

 最近注目されている血管新生療法がある.遺伝子治療174),自己骨髄細胞(単核球)移植175),末梢血単核球細胞移植176),自家血管内皮前駆細胞(EPC)移植173)がある.HGFを用いた遺伝子治療では閉塞性動脈硬化症も含めて約60%の改善が得られている177).自

己骨髄細胞移植のTACTトライアルの中間報告では,閉塞性動脈硬化症よりバージャー病のほうが有用である結果を得ている.末梢血単核球細胞移植では,閉塞性動脈硬化症も含めて60~70%の改善が得られている.自家血管内皮前駆細胞(EPC)移植では,難治性血管炎の研究班でトライアルが施行されており,現在までの成績では,副作用も無く効果も良好で,今後期待される.

⑥疼痛管理

 疼痛が強い場合,まず経口の鎮痛剤を投与するが,鎮痛できなければ,硬膜外にカテーテルを挿入し持続硬膜外麻酔を行う.それでも疼痛管理ができなければ足趾切断を行う.閉塞性動脈硬化症に比べて足趾切断となることが多い.そのほかに硬膜外脊髄刺激療法171)があるが,個々の症例により効果は異なる.

7 予後

 バージャー病は診断基準の1項目として若年発症があげられており,生命予後は非罹患者と同様,良好とされてきた.しかしながら患者の高齢化が進むにつれ,高血圧症,高脂血症,糖尿病など年齢相応の動脈硬化のリスク因子を合併する症例や,虚血性心疾患や脳血管障害を合併する症例も多く認められるようになってきた.下肢についてもバージャー病による虚血肢に閉塞性動脈硬化症を合併し虚血症状の急性増悪を認め重症虚血化する症例も認められる.このため,生命ならびに肢の正確な予後に言及するためには高齢者に至るまでの更なる長期間にわたる成績を追跡する必要性がある.しかし,バージャー病患者の15年以上の長期にわたる経過観察は,若年発症という特徴による複数回の住居移転などの社会的事情によりあまり施行されておらず,肢の予後や生命予後について大規模の報告はごく少数である120),122),153),

161),172).

1 虚血肢の予後 バージャー病の症状は従来から閉塞性動脈硬化症同様Fontaine分類(表18)を利用して表されてきた.塩野谷の報告153)では,初診時症状の割合はⅠ度36.9%,Ⅱ

表18 Fontaine分類Fontaine分類 臨床症状Ⅰ度 しびれ・冷感Ⅱ度 間欠性跛行Ⅲ度 安静時痛Ⅳ度 潰瘍・壊死

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

度31.4%,Ⅲ度10.2%,Ⅳ度18.4%であり,経過中に潰瘍壊死を認めた(Ⅳ度)症例は72.2%に上ると報告している.また太田らは,下肢バージャー病症例において平均10年の経過観察中に78%がⅢ /Ⅳ度の症状を認めたと報告している120).一方,重松らは,平成15年度厚生労働省による難治性血管炎に関する調査研究班において全国規模でアンケート調査を行い血管外科初診時の症状は,全体の63%がFontaineⅢ,Ⅳ度でありFontaineⅠ,Ⅱ度症例は37%のみであったと報告している161).Olin

らによる北米のシリーズにおいても安静時痛を81%に,虚血性潰瘍を76%に認めたと報告されている122).これらの報告からバージャー病症例の70%の症例は経過中に一度は虚血性潰瘍や壊死を呈することになる.ただし,バージャー病の場合,閉塞性動脈硬化症と異なり病状の寛解・増悪を周期的に繰り返すことが多く,足趾に虚血性潰瘍を呈している症例の中には入院せず社会生活送っている方も多く,必ずしもⅢ・Ⅳ度の症例が肢趾切断になるわけではない. 虚血肢に対しては前章に詳述されているごとく,まず禁煙,ついで抗血小板剤による内科的治療,血行再建術や交感神経節切除などの外科的治療法が行われる.最終的に外科手術を施行しても虚血肢の疼痛コントロールができない場合や壊死が進行してしまった場合など救肢困難状況時に切断を考慮する. 塩野谷によると,12年間の経過観察中255名の症例中下肢大切断は7例(2.7%)であったと報告している153).また平均19年間の観察期間をみた重松らは,下肢大切断は10.5%に行われており172),厚生労働省班会議の全国アンケートにおいても8.8%の症例において大切断に至ったと報告されている161).血行再建術が大切断を回避する最終的な治療手段であることが多い.太田らは下肢の11.8%に大切断を施行したが,血行再建術を施行されていた症例の大切断率は14.3%(全例グラフト閉塞症例)であり,グラフト開存症例には大切断に至った症例はないと報告している120). 一方,趾切断は,重松らは16.7%の症例で最終的には施行されたと報告しており172),厚生労働省の報告書においても20.5%の症例において趾切断が行われている. 上肢は一般的に下肢に比較して虚血に対して受容性があるとされる.バージャー病においても同様であり,潰瘍形成や安静時痛を認めるFontaineⅢ・Ⅳ度症例においても,血行再建術まで必要とされる症例はごく少数であり,ほとんどの症例は保存的治療により,重症例では胸部交感神経節切除により軽快を見る.指切断になる症例は認められるが,上肢の大切断にいたることはない.

 以上から,バージャー病において禁煙が継続された症例においては外科手術も含めてさまざまな集学的な治療を行うことで,下肢大切断を回避できる可能性があるが,喫煙継続患者においては10%以上の症例は下肢大切断にいたり,20%の症例は趾切断に至ると考えられる.

2 増悪因子・改善に寄与する因子 バージャー病では,喫煙の継続が,病状の寛解期間を短くし,さらなる病状の増悪を招く因子とされてきた.症状発現後禁煙した症例は重症化せず,治療に反応し長期間寛解にいたる症例が多く,喫煙継続者は各治療に抵抗性を示し,切断になる症例が有意に多くなる.厚生労働省班会議の報告では,喫煙継続者は禁煙者と比較して有意差をもって大切断が多いと報告されており161),また本邦のみならずOlinらも,喫煙継続者の40%以上が大切断に至り禁煙者は5%に過ぎなかったと北米における報告をしている122).太田らは,喫煙を持続した患者のうち18.8%が大切断となり,喫煙と大切断に有意な関連を認めたと報告している120).このため,前章に詳述されるように,初診後まず禁煙が治療の第一歩であり,その上に抗血小板剤や血管拡張剤による保存的治療法,交感神経節切除や血行再建術が成り立つ.    外来で経過を見ている症例において,禁煙したと申告する症例の中にも喫煙継続症例が少なからずいることを念頭においてフォローするべきである.またバージャー病症例は虚血性潰瘍治療のために入院加療,局所の安静,保護が守られることにより外科的治療を行わずとも急激に改善する症例も数多くみられることから,外部からの機械的な刺激や外傷機転が排除されることで改善する可能性がある.また,入院監視は厳格な禁煙の励行にもつながる.

3 非虚血肢の予後 バージャー病の症例において患肢は1肢にとどまらず上肢も含めて多肢にわたるとされ,塩野谷らは2肢が侵される症例は16%に過ぎず,3肢41%,4肢43%と報告しており153),ほぼ全症例において2肢以上罹患する疾患である.このため非虚血肢は少ないことになるが,禁煙さえ継続して守ることができれば,虚血の高度ではないいわゆるFontaineⅠ度症例が,重症化することは少ない.しかしながら喫煙継続者においては,FontaineⅠ度症例も含めて非虚血肢が重症化し,外科的治療が必要となったり,切断を要する状態になったりすることは臨床上よく遭遇する.これらのことから,非虚血肢の予後はバージャー病の寛解状態が得られるかどうかに関わり,

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血管炎症候群の診療ガイドライン

最終的には喫煙の継続の有無によると考えてよい.

4 併存疾患ならびに生命予後 バージャー病は主として四肢の末梢の動脈から主幹動脈に炎症を伴う疾患であり ,主要臓器を栄養するvisceral

arteryに変化をもたらすことの少ない疾患で,生命予後は良好であるとされてきた.塩野谷らの最長12年の経過観察中,5例の死亡があり,3例は腸管虚血,2例は心筋梗塞であったと報告されている153).太田らは,初診後の5/10/20/25年の生存率はそれぞれ97% /94.4% /92.4% /83.3%と報告しており120),若年発症であることを考慮すると非常に良好とはいえないが,比較的良好な生存率であった.また重松らのさらに長期にわたる経過観察報告では,平均19年(12~27年)間の経過観察で,287例中33例の死亡を認めた.その死因は14例が悪性新生物であり,その他は心不全5例,脳梗塞3例,肝硬変2例,その他はくも膜下出血,多発性硬化症,腎不全,腹膜炎,膠原病,不明各1例であった172).14例の悪性新生物の中で,胃癌5例,肺癌5例,食道癌3例であった.バージャー病患者は喫煙者であり,下肢虚血性潰瘍による安静時痛によりアルコールを多飲する症例が臨床上見られることを考慮すると,生命予後の観点からは喫煙に関係あるとされる肺癌や食道癌に注意を払い経過を見る必要がある. 厚生労働省研究班における全国調査の結果では,糖尿病を13.7%,高血圧を29.6%,高脂血症を15.2%に認め,脳血管障害を8%,虚血性心疾患を6%,閉塞性動脈硬化症を5%に認めることから161),日本人の年齢相応の併存疾患を合併していることを念頭におき,高齢者には集学的な管理が必要である.

8 今後の展望

 バージャー病にみられる閉塞性病変は,主に前腕・下腿動脈より末梢側に広範に存在するため run-offが不良である例が多いこと,静脈炎を伴うことが特徴の一つであるため代用血管材料として自家静脈を得にくいことなどから血行再建の適応となる例は極めて少ない.そこで近年,細胞移植や遺伝子治療を用いた血管新生療法が注目されている. 細胞移植療法としては,自己骨髄を採取して単核球細胞を分離し虚血肢に注入する骨髄単核球細胞移植と,G-CSF(granulocyte-colony stimulating factor)で誘導した末梢血単核球を利用する末梢血幹細胞移植や末梢血から単核球を分離して移植する末梢血細胞移植が主に施行

されている.我が国ではTherapeutic Angiogenesis using

Cell Transplantation(TACT)study173)が行われて,虚血肢に対する骨髄単核球細胞移植の有用性が示されたが,バージャー病に限定した治験ではない.遺伝子治療としては,プラスミドDNAやアデノウィルスベクターを用いて血管新生因子の投与が試みられている.血管新生(成長)因子としては,血管内皮増殖因子VEGF(vascular

endothelial growth factor)や線維芽細胞増殖因子FGF

(Fibroblast growth factor), 肝 細 胞 増 殖 因 子HGF

(Hepatocyte growth factor)などが用いられている.バージャー病を対象とした臨床試験は,HGFプラスミドを用いてopen trialで行われ177),10例中7例で潰瘍の縮小,安静時疼痛の改善がみられている. 虚血肢に対する血管新生療法は種々の方法を用いて行われているが,バージャー病と閉塞性動脈硬化症とは虚血の病態が大きく異なることから,有用性の確認には,個別に,またプラセボをおいた二重盲検試験により施行する必要があると考えられる.

Ⅳ 側頭動脈炎

1 疾患概念・定義・疫学

 側頭動脈炎(temporal arteritis)または巨細胞性動脈炎(giant cell arteritis)は,50歳以上の高齢者に起こる.大動脈とその分枝の中~大型動脈に起こる動脈炎である.頭蓋外の動脈(特に浅側頭動脈)が好発部位で,最も重要な障害は失明である.リウマチ性多発筋痛症(PMR)とは臨床の表現型が異なる同一範疇の疾患として考えられている178). 50歳以上の高齢者に発症する.50歳以下はむしろ稀である.人種(北欧由来の白人に多い),遺伝的な素因(HLA-DRβ1*0401, 0404/8),地理的な偏り(北欧では南欧に比べ2倍多い)などが認められる.日本人には少ない179).我が国の調査では1997年の1年間の全国病院受療患者数は690名で,人口10万人あたりの受療率は0.65であった.男女比は1:1.7(欧米では1:2.5~3)で,発症平均年齢は71.5±10.8歳(欧米では72歳)であった179),180).スペインでの50歳以上の年間発症率は人口10万あたり,20.7名である.PMRの約1/3の頻度でみられる.

1286 Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

2 発症機序・病理所見

 血管壁内の巨細胞を伴う炎症細胞の浸潤,内膜の肥厚に伴う内腔の閉塞が病理所見で,外膜のインターフェロン -γ産生T細胞の浸潤に始まり,巨細胞は内膜に存在する.内膜の肥厚はインターフェロン -γやインターロイキン -1βの発現亢進に起因する181).

3 臨床症状と検査所見

1 全身症状 重要な自覚症状は,間欠性下顎痛(jaw claudication),複視で,重要な他覚所見は,側頭動脈の圧痛や拍動である.検査所見では赤沈の亢進,CRPの上昇をみる181).頭痛は拍動性で片側性のことが多い.視力障害は約40%に認められる.約10~20%に失明をみる.約30%にPMRの症状を伴い,頸・肩,腰の硬直感,疼痛を示す.発熱,体重減少などの非特異的な全身症状を伴うので,鑑別診断には注意を要する.約27%に胸・腹部大動脈,鎖骨下動脈,上腕動脈の病変を認める182).

2 眼の症状 側頭動脈炎は,頭蓋内の大・中血管に起こる肉芽腫性巨細胞性動脈炎であり,浅側頭動脈を好発部位とするが,その他に後毛様(体)動脈,眼動脈,ときに網膜中心動脈をも侵すことがあるため,そのような症例では重篤な視力障害をきたす.本邦での頻度は少ないものの,前部虚血性視神経症の原因疾患として常に鑑別診断に挙げられるべき疾患である183),184).前部虚血性視神経症(anterior

ischemic optic neuropathy)(図23)は,側頭動脈炎により発症する動脈炎性と,動脈硬化や小乳頭陥凹により発症する非動脈炎性に分けることができる. 動脈炎性の前部虚血性視神経症の症状としては,片眼あるいは両眼性の急激で重篤な視力障害を呈する.前駆症状として30%の症例で一過性黒内症発作を認めることがある185).片眼発症の場合,ステロイド薬による治療が遅れると数日~数週間で両眼性に移行することが多く,また一旦発症すると視力予後が不良であることが多いため,早急な診断と治療が必要である.片眼性では交互点滅対光反射試験(swinging flashlight test)で相対的入力瞳孔反射異常(RAPD:relative afferent pupillary

defect)を認める.両眼性ではRAPDがはっきりしないこともある.また中心フリッカ値測定において限界フリ

ッカ値の低下を認める.視野検査では水平半盲が特徴的であるが,中心暗点,求心性視野狭窄を呈する症例もみられる. 眼底所見としては,篩状板より末梢側での血流障害のために生じる視神経線維の軸索流や血液のうっ滞により,視神経乳頭の蒼白浮腫を生じる.乳頭視神経線維の白色混濁や火焔状の網膜浅層出血を伴った乳頭浮腫の他に,硬性あるいは軟性の網膜白斑を認めることもある.実際には視神経乳頭に発赤腫脹所見を呈することもあるので,注意が必要である.動脈炎性の前部虚血性視神経炎において視神経乳頭での火焔状の網膜浅層出血がみられることが多い.末期には視神経萎縮となる.蛍光眼底造影では視神経乳頭,及び乳頭周囲の脈絡膜に充盈欠損または遅延をみとめる186). 側頭動脈炎は前部虚血性視神経症の他に,網膜中心動脈閉塞症をはじめとする重篤な眼虚血を引き起こすことも報告されている187).眼虚血の症状として,網膜の綿花様白斑,網膜中心動脈閉塞症,低眼圧,虚血性虹彩炎,さらには新生血管形成などが挙げられている.低眼圧と虹彩炎は短毛様(体)動脈の動脈炎によるものであるが,網膜の綿花様白斑と共に重篤な視機能障害をきたす眼虚血の初期の症状として注意を要する.まれではあるが,視力予後の悪い病態であるので注意が必要である187).その他,側頭動脈炎の10%程度で複視の訴えがあるが,これは虚血性外眼筋麻痺あるいは脳幹部の虚血に伴う眼球運動障害が原因とされている.

4 診断法および診断基準

1 診断基準 1990年のアメリカリウマチ学会の分類基準を参考に

図23 側頭動脈炎症例の虚血性視神経症

1287Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

血管炎症候群の診療ガイドライン

臨床医が診断する(表19).高齢者に多いこと,臨床所見や検査所見は非特異的であるため,側頭動脈の生検で得られた組織所見が診断に重要である182).臨床の現場では,鑑別疾患の項で記載した疾患の除外診断が重要である.また,眼症状は非可逆的に失明に至るため,生検による確定診断以前においても,患者に眼症状の出現の可能性を理解させ,眼症状出現時には,内科・眼科の医療連携によって,緊急治療を行う体制を整えていることが重要である.

2 生検 側頭動脈の組織所見は診断には重要(必要)である.組織所見の偽陰性率は約15%である.病変が非連続性に分節状に出現することが多いため,病理では連続切片標本を作製することが重要である178).生検に関しては以下の報告がある.1)時期:ステロイド剤投与前が望ましい.投与後14~28日でも陽性所見を得ることもあると報告されている.2)採取する側頭動脈の長さ:2cm以上が望ましい.3)組織所見と臨床症状の関連:下顎の疼痛,側頭動脈の異常,全身症状などが組織所見陽性率と一致する.内膜肥厚の程度は視力障害と関連する.4)両側同時に生検せず,片側で良い.

3 画像診断 MRI(magnetic resonance imaging),FDG-PET

(fluorodeoxyglucose-positron emission tomography), 超音波検査が有用である.特にPETが有用であり,83%の症例に鎖骨下動脈,大動脈,大腿動脈の病変が存在すると報告されている.側頭動脈の超音波検査では,外膜の浮腫によって,動脈周囲に“halo effect”を検出される.発症初期には認められないこともあり,感度は約40%である178).

4 鑑別疾患 側頭動脈炎は高齢者の不明熱の原因疾患の一つであ

り,不明熱をきたすその他の疾患,特に悪性腫瘍,高安動脈炎,顕微鏡的多発血管炎,ウェゲナー肉芽腫症などの血管炎,眼科疾患,脳血管障害など高齢者におこる一般的な疾患の除外・鑑別が重要である.

5 治療指針および治療法ガイドライン

1 ステロイド薬 側頭動脈炎に対するステロイド薬治療の有用性に関しては異論のないところである.一般的にはプレドニゾロン(PSL)1mg/kgの投与が選択される188).本邦においては特に高齢者では体格が小さいこともあり,約半数の症例が40mg/日以下のPSL量で治療されている.これらの症例では大量投与が必要となる病状を認めない比較的軽症例であった可能性もあるが,有効率は82.9%で60mg/日以下の88.2%とほとんど同等であった180).15~20mg/日以上のPSL投与が引き続き必要となっている症例は少数である189)-192).しかし,失明の危険性を重要視し,PSL初期投与量80mg/日以上,維持量到達までに4年かける治療の報告もある193). 前部虚血性視神経症は視力予後の不良な疾患であり,一度生じた視力障害は極めて回復しにくい.また片眼発症の場合は反対眼にも発症する可能性が高いため,反対眼の発症予防が特に重要となる.したがって側頭動脈炎による動脈炎性前部虚血性視神経症が疑われた場合には,側頭動脈の生検を行いつつも確定診断をいたずらに待つことなく,可及的速やかにステロイド薬による治療を開始すべきである183),194).

 これらの報告などから以下にあげたステロイド薬初期投与が推奨される. ●眼症状,中枢神経症状,脳神経症状のない症例  PSL 30~40mg/日(レベルB,クラスⅠ) ●眼症状,中枢神経症状,脳神経症状のある症例

表19 側頭動脈炎の診断基準(1990年,アメリカリウマチ学会による)項  目 定    義

1.発症年齢が50歳以上 臨床症状や検査所見の発現が50歳以上2.新たに起こった頭痛 新たに出現した,または,新たな様相の頭部に限局した頭痛3.側頭動脈の異常 側頭動脈の拍動性圧痛,または,動脈硬化に起因しない頚動脈の拍動の低下4.赤沈の亢進 赤沈が50㎜/時間以上(Westergren法による)5.動脈生検組織の異常 単核球優位の浸潤,または,多核巨細胞を有する顆粒球による炎症所見 分類目的には,5項目中少なくても3項目を満たす必要がある*.

 (*:個々の患者の診断は臨床医が行う)

1288 Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

  PSL 1mg/kg/日(レベルB,クラスⅠ) いずれも初期投与量を3~4週間継続後,臨床症状や赤沈,CRPを指標に減量する.20mg/日までは2週ごとに10mgずつ,10mg/日までは2週ごとに2.5mgずつ,それ以降は4週ごとに1mgのペースで減量する181).維持量は10mg/日以下とするが,多くの症例ではステロイド薬の投与中止が可能である195).

2 ステロイドパルス療法(レベル B,クラスⅡb)

 ステロイドパルス療法の側頭動脈炎に対する有効性に関しては議論のあるところである.最近,ステロイドパルス療法の有用性に関し2つの無作為割付試験の結果が報告された. 一つはメチルプレドニゾロン(m-PSL)240mgの静脈内投与後0.7mg/kg/日のPSL投与群とm-PSL240mgの静脈内投与後0.5mg/kg/日のPSL投与群,0.7mg/kg/日のPSL投与群の3群間の比較である.3群間のPSL総投与量に差を認めず,ステロイドパルス療法の長期における効果は認めないとされた196).一方,m-PSL15mg/kg

(PSL1,000mg相当)3日間の経静脈投与後PSL40mg/日投与群とPSL40mg/日投与群との比較ではPSL 5mg/日以下に減量可能患者数,ステロイドを中止して維持することが可能であった患者数,ステロイド平均投与量・総投与量についてステロイドパルス療法併用群が優れ,副作用は差を認めなかった197).しかし,症例数が27例と少なく,観察期間も72週と決して十分ではないことに留意すべきである.本邦においてはPSL40mg/日以下の投与量においても有効率が80%を超えている180)点などを考慮すると,現時点ではステロイドパルス療法は眼症状,中枢神経症状,脳神経症状を認める,あるいはその出現が強く危惧される症例に選択されるべき治療法と考えられる198).

3Steroid-sparing agent:メトトレキサート(MTX)(レベルB,クラスⅡb)

 MTXについては無作為割付試験が行われている.MTXのステロイド薬との併用は側頭動脈炎のコントロールやステロイド薬の減量に関し効果がなかったとする報告199)がみられる一方,側頭動脈炎の寛解維持,ステロイド薬総投与量の減少に有用であったとの報告200)もみられる.前者でのステロイド投与は隔日投与で行われており,後者では本邦で多く行われている従来通りの連日投与であった.側頭動脈炎に対するステロイド薬の隔

日投与の有用性にも問題があり201)-204),現時点ではMTXの併用は有用な治療法と考えたい.副作用などのために十分量のステロイド薬が使用しにくい,あるいは早期の減量が必要な症例には試みられるべき治療法と考えられる205). アザチオプリン,シクロホスファミド,シクロスポリンなどは有用性を検討できる報告が見られない.

4 低用量アスピリン(レベルB,クラスⅡa)

 無作為割付試験ではないが,166例を対象とした頭蓋の虚血性合併症に関する後ろ向き調査がある.低用量のアスピリン使用群では発症時および経過中の虚血性合併症を有意に減少させていた22).低用量アスピリン併用はリスクも低く,頭蓋の虚血性合併症は側頭動脈炎におけるADLやQOLを左右する重要な合併症であり推奨したい治療法であるが,無作為割付試験の結果を待ちたい.

5 抗TNF-α製剤(レベルB,クラスⅡb)

 抗TNF-α製剤は治療抵抗性の側頭動脈炎に対し有効であったとの症例報告がいくつかみられる206)-208).しかし,第Ⅱ相試験は中間検討で有用性が示されなかったため中止となっており209),現時点では積極的に推奨する理由はない.今後,十分にデザインされた試験の施行が待たれる.

6 合併症 我が国で報告された治療や経過中の合併症は,感染症15.3%,消化性潰瘍6.8%,脳梗塞5.2%,悪性腫瘍の発症などである.

6 予後

 従来,2年以内に治療を終了できる一過性の疾患と考えられていたが,PMRとともに再燃を繰り返す疾患であることが報告された.スウェーデンの報告では,ステロイド治療期間は平均5.8年(範囲:0~12.8年)で,治療後5年に43%,9年に25%の症例がステロイド治療を継続している178).我が国の報告での死因は,悪性腫瘍,感染症,老衰の順であった.

1289Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

血管炎症候群の診療ガイドライン

Ⅴ 結節性多発動脈炎

1 疾患概念・定義・疫学

定義:結節性多発動脈炎は,中・小型の動脈に壊死性血管炎を認め,かつ細動脈炎,毛細血管炎(糸球体腎炎を含む)を認めない疾患である.表20に血管径の定義を示す. 現在の結節性多発動脈炎の基本的な疾患概念は,1866年KussmaulとMaierにより多臓器に分布する動脈の周囲に結節状に炎症がみられることより結節性動脈周囲炎という名称で提唱されたことに始まる8).その後,結節性動脈周囲炎は,動脈周囲ではなく動脈そのものに炎症があることより結節性多発動脈炎と呼ばれるようになり,さらに,肉眼的に結節を確認できる(古典的)結節性多発動脈炎と顕微鏡のみで血管炎を確認できる顕微鏡的結節性多発動脈炎の双方を含む概念となった210).その後,結節性多発動脈炎より,ウェゲナー肉芽腫症15),Churg-Strauss症候群16),川崎病血管炎211),顕微鏡的多発血管炎3)などが各々独立した疾患単位として分離し,現在の結節性多発動脈炎の概念が形成された(図24). ウェゲナー肉芽腫症,Churg-Strauss症候群,顕微鏡的多発血管炎は,抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil

cytoplasmic antibody: ANCA)が陽性の疾患群であるが,結節性多発動脈炎ではANCA陽性例は稀である. 厚生省特定疾患難病疫学調査研究班が1993年から1995年にかけて行った全国疫学調査によれば,本邦における結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa; PAN)の推計患者数は1400人(95%CI 1200~1700人)であっ

た212).人口で除した有病率は100万人あたり11.7人と推定される.発症率に関しての信頼すべき推計値は見当たらないが,1997年度にPANの医療費公費負担を新規に受給した者の総数は491人であり,100万人あたりでは3.9人 /年であった213).しかし本調査においては,PANと顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis;

MPA)が区別されておらず,我が国に多いMPAの症例が相当数含まれていると考えられる.一方,厚生省特定疾患免疫疾患調査研究班の難治性血管炎分科会が行った全国調査によると214),1988年から始まる10年間の調査対象期間において,MPA206例に対してPAN28例が集積された.この比率がMPAとPANの発症率の差を概ね反映すると仮定して先の医療費公費負担新規受領者数に当てはめると,PANの年間発症率は100万人あたり0.5人程度と推定され人口を考慮すると年間発症数は50~60人と考えられる.有病率,発症率いずれの観点からもPAN(いわゆる古典的PAN)は極めてまれな疾患といえる.抗好中球細胞質抗体(ANCA)の普及によりMPAと診断される患者数が増加しているのに対し,PANは近年むしろ減少傾向にあると考えられる.上記分科会で集積されたPAN28例の発症時平均年齢は54.8歳であり,男女比は3:1であった214).MPA206例の発症時平均年齢は61.6歳,男女比は1:1であり,MPAに比べるとPANはやや若い年齢で発症し男性に多いといえる.尚,我が国ではB型肝炎関連PANは少ない.

表20 血管径の定義

大型動脈(large artery) 大動脈および大動脈より分岐し四肢,頭部,頚部に向かう最も大きな血管中型動脈(medium-sized artery) 主要臓器に動脈血を送付する血管で,臓器実質内の動脈は除外する小型動脈(small artery) 臓器実質内の動脈で中型動脈と細動脈を結ぶ血管(皮膚,皮下組織の動脈はこれ以下の血管に該当する)細動脈(arteriole) 血管壁の平滑筋細胞は1~2層で,小型動脈と毛細血管を結ぶ動脈.毛細血管(capillary) 動脈と静脈を繋ぐ,平滑筋を欠く血管

図24 疾患概念の変遷と分離(Rosen S, Falk RJ, Jennette JC, 1991より改変)

Periarteritis nodosa(1866, Kussmaul & Maier)

Wegener’s granulomatosis(1939, Wegener)

Hypersensitivity angitis(1942, Rich)

Periarteritis nodosa(gross and microscopic form)(1948, Darson et al)

Churg-Strauss syndrome(1951, Churg & Strauss)

Microscopic polyangitis(1994, Jennette et al)

Kawasaki disease(1967, Kawasaki)

Polyarteritis Nodosa

1290 Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

2 発症機序・病理所見

1 血管炎の組織病理 一般に血管炎の組織病理学的所見には,①血管中膜のフィブリノイド変性,壊死,②血管壁への多核白血球浸潤,③リンパ球・単核球浸潤,④好酸球浸潤,⑤多核巨細胞の出現,⑥肉芽腫の形成,さらに,これらに血管傷害の2次的病変として,⑦血管内膜肥厚,血栓形成,動脈瘤形成などが加わる.これらの所見のうち優位な病理組織所見に応じて,①壊死性血管炎necrotizing vasculitis

(血管の全層を侵し,フィブリノイド変性,壊死fibrinoid degeneration,necrosisを伴うもの)215),②過敏性血管炎 hypersensitivity vasculitis(小動脈,細動脈を中心に著しい多核白血球浸潤を伴うもの)215),216),③肉芽腫性血管炎 granulomatous vasculitis(血管中膜,外膜へのリンパ球,マクロファージの浸潤を伴うもの)215),④動脈内膜炎 endoarteritis(炎症細胞浸潤,血管の破壊像が乏しい反面,血管内膜肥厚が著しいもの)217),などと表現する.これらは,あくまで組織病理学的表現であり,疾患カテゴリーではない. フィブリノイド変性は血漿成分の滲出性の病変を反映するもので,血管壁局所に免疫複合体を含め血漿中の巨大分子の沈着を伴う.血管内皮細胞の障害に伴う血管透過性の亢進や急激な血管内圧の異常亢進がその原因と考えられる.壊死性血管炎の主病変を占める多核白血球,好酸球の浸潤は,血管病変局所における種々の白血球遊走因子や,接着分子の産生の質的量的亢進を意味し,一方,リンパ球・単球優位の細胞浸潤は血管局所におけるリンパ球遊走因子の産生,また局所での免疫反応を意味する.肉芽腫性病変は局所における炎症のプロセスでの修復期を反映するが,一部の血管炎ではⅣ型アレルギー反応を示唆する. 血管炎の組織病理所見には炎症反応の時間軸の問題がある.例えば,後述するように壊死性血管炎を代表する結節性多発動脈炎ではその病期により組織病理学的バリエーションがあり,第Ⅰ期の内膜,中膜の浮腫を主とする変性期,第Ⅱ期の中膜のフィブリノイド変性と外膜への好中球浸潤を優位とする急性炎症期,第Ⅲ期の外膜,中膜に肉芽組織の形成を見る肉芽形成期,第Ⅳ期の動脈壁,動脈周囲の線維化を来す瘢痕期である.

2結節性多発動脈炎polyarteritis nodosa(PAN)の組織病理所見

 PANは中~小動脈を炎症の主座とし,細動脈,細静脈,毛細血管は含まず,また糸球体腎炎を伴うことは無く,顕微鏡的多発血管炎(MPA)とは区別される.その主な組織像は壊死性血管炎で,血管中膜のフィブリノイド壊死像が特徴である. しかし,この組織像は時間軸で異なり,Arkin14)のⅠ-Ⅳ期からなる病期分類に従うと,Ⅰ期(変性期)では,血管内膜,中膜の浮腫や,内膜下へのフィブリンあるいは硝子様物質の析出を主とする漿液性滲出性炎の所見を呈する.中膜平滑筋細胞は膨化,変性し,内弾性板の変性も見られる(図25).Ⅱ期(急性炎症期)では,フィブリン析出を伴う中膜の壊死を主病変とするもので,フィブリン滲出が外膜側へ広がり,外膜での多核白血球,好酸球,リンパ球,形質細胞の浸潤が起こり,血管壁が全層性にあるいは部分的にフィブリノイド変性に陥る(図26).この時期には,内弾性板の断裂,破壊,消失像が認められ,血栓を伴うこともある.病変が急速に進行した場合には動脈瘤が形成されることがある.Ⅲ期(肉芽形成期)では,外膜側にマクロファージ,線維芽細胞の浸潤が目立ち,肉芽組織を形成する.内膜には,筋内膜細胞の遊走(中膜平滑筋細胞の形質転換)や,線維芽細胞の浸潤もみられ,内膜肥厚による血管内腔の狭窄をきたす(図27).内膜肥厚は血管の縦軸に沿っても伸展するため,血管横断面によっては必ずしも中膜傷害病巣を伴っていないことに注意を要する.Ⅳ期(搬痕期)では,内膜の線維性肥厚,中膜の線維化,外膜の肉芽性搬痕組織の形成を認める(図28).器質化血栓や再疎通像をみることもある.血管の炎症の終末期である.完全に瘢痕化している病巣では動脈であることが判別できない場合もあり,動脈の内弾性板の残存がその決め手となるので,弾性線維染色を必要とする. Arkin分類は,厚生省特定疾患・系統的脈管障害調査研究班病理分科会における壊死性血管炎の組織学的病期分類(1988年)として,現在も使用されているが,これらの病変は同一個体でも血管傷害部位によりさまざまであり,臨床的な病期分類と必ずしも一致するものではないので,注意を要する.

1291Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

血管炎症候群の診療ガイドライン

3 臨床症状と検査所見

 PANは全身の血管炎であるため,症状は多彩である.炎症による全身症状と,罹患臓器の炎症,及び虚血・梗塞による臓器障害の症状が組み合わさって出現するのが一般的である.

1 全身症状(1)発熱:約80%の例にみられる.程度はさまざまであるが,38~39℃の熱が続くことが多い.感染症との鑑別が重要であり,本疾患では抗生剤抵抗性の発熱がみ

られる.急性感染症のような,悪寒,戦慄を伴うことは少ない.(2)体重減少:全身症状の1つとして診断基準に入っているが,発熱の程度と発症から診断に至るまでの期間に左右される.発熱がないか,あるいは微熱程度であれば,著明な体重減少が起こることは少ない.(3)高血圧:診断基準の1項目となっているが,我が国では最近その頻度は比較的低く,約20%である.腎の虚血によるレニン・アンギオテンシン系の活性化により高血圧をきたし,悪性高血圧を呈し,腎・中枢神経障害を生じる.

図26 Arkin分類のⅡ期(急性炎症期)肝動脈の壊死性血管炎所見.中膜のフィブリノイド変性と内弾性板の消失が認められる.外膜への炎症細胞浸潤は著明である.(HE染色×100,Elastica-Masson染色×100)

図28 Arkin分類のⅣ期(瘢痕期)腎の小葉間動脈の肉芽性血管炎.内膜の線維性肥厚で血管内腔はほぼ閉塞しかつ外膜の線維化を認める.(HE染色×100,Elastica-Masson染色×100)

図25 Arkin分類のI期(変性期)小腸の小動脈の初期血管炎所見.中膜の浮腫と中膜平滑筋細胞の膨化を認める.外膜への炎症細胞浸潤はわずかである.(HE染色×100,Elastica-Masson染色×100)

図27 Arkin分類のⅢ期(肉芽期)肝動脈の肉芽性血管炎.壊死性病変は消失し,筋内膜細胞の増殖に伴い,血管内腔の狭窄を来している.外膜の炎症細胞浸潤は減少している.(HE染色×100,Elastica-Masson染色×100)

1292 Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

2 臓器症状(1)腎障害:腎臓は血管炎の標的臓器となりやすく,腎障害は50%以上に出現し218),かつ最も重要な臓器障害である.腎動脈から葉間動脈~弓状動脈~小葉間動脈に至る中・小型動脈が侵される典型的なPANでは,高レニン血症を伴う高血圧を呈する.重症の場合は急性腎不全に陥り,血液透析が必要となる219).細動脈,毛細血管にまで病変が及ばないので,典型的な糸球体腎炎の像は呈さない.臨床所見としては,蛋白尿,赤血球尿がほとんどの例でみられ,血清クレアチニン値は,重症度や診断時期により,正常値から高度高値までさまざまである.一般に,診断時には正常値,あるいは軽度上昇にとどまっていることが多い.腎障害の程度は予後を規定する重要な因子となる220).(2)中枢神経症状:20~30%程度に出現する.中・小型動脈に限られる典型的なPANでは脳梗塞として現われることが多く,片麻痺や意識障害を呈する221).この場合,診断には血管造影が役立つ.高血圧性のものと血管性のものがある.さらに小型の動脈まで病変が含まれる場合は出血も見られる.精神症状は稀である.(3)心症状:冠状動脈病変による心筋梗塞,伝導障害,心外膜炎などの報告があるが,頻度としては少ない.(4)呼吸器症状:従来呼吸器病変は少ないのが特徴であるが,最近の症例には時に存在する.そのほとんどが間質性肺炎である.治療反応性は比較的良好であるが,呼吸不全にまで至る例も稀に存在する.胸膜炎や肺胞出血,喘息の合併も稀ではあるが存在する.間質性肺炎の頻度が増加しているのは,胸部CT検査を積極的に行うようになり,発見率が高くなっていることもその要因として考えられる.肺梗塞は稀である.(5)消化器症状:炎症,あるいは虚血の結果としてしばしば起こり,腹痛,及び消化管出血の形で出現することが多く,急性腹症として外科的手術を受けることもしばしばある222).消化管穿孔や腸梗塞は重症であり,予後を悪化させる重要な要因である220),222).胆嚢,膵,虫垂などが個別に傷害される事もある.(6)末梢神経症状:単神経炎,あるいは多発性単神経炎の症状が主に手足に現われる.これらの神経を栄養する中・小型動脈の炎症の結果として非常に高頻度(50%以上)でみられる218).最も多いのは感覚障害で,手足の「しびれ」を訴えることが多く,知覚鈍麻や知覚過敏も多い.進行すると運動神経も侵され,下垂足や握力低下から下垂手になることもある.この末梢神経障害は,治療によっても回復が遅れるか,障害が一部残ることが

ある.(7)皮膚症状:出現頻度は高く,我が国では半数以上にみられる.皮膚所見は多彩で,四肢,特に下腿から足に出現することが多い.皮下結節が高頻度にみられる.結節性紅斑,紫斑,網状皮斑(リベドー)などがしばしば出現し,難治性皮膚潰瘍を呈することもある.血管炎所見が皮膚のみに見られる病態を皮膚型PANと呼ぶが,全身性の病型とは異なる疾患である.(8)関節・筋肉症状:出現頻度は高く,約80%の例が関節・筋肉の痛みやこわばりを訴える.腫脹や熱感を呈する関節炎の症状を示すことは比較的少なく,あっても軽度で,関節リウマチのような変形や骨破壊を示すことはない.関節痛は対称性のことが多い.筋肉症状は関節症状と同程度あるいはそれ以上の頻度で出現する.筋肉痛,あるいは筋力低下を呈する.特に腓腹筋で著明なことが多く,この部位の筋生検で血管炎を証明できることが多い.多発性筋炎と異なり,血清筋原性酵素(CK,アルドラーゼなど)の上昇を伴うことはほとんどない.(9)眼症状:ぶどう膜炎,虹彩炎,上強膜炎,及び眼底出血などが起こり,視力低下から失明に至ることもある.しかし,小型血管炎に比べると,少ない傾向にある.(10)耳鼻症状:中耳炎や副鼻腔炎などが稀にみられるが,むしろ,細・小血管炎との関連が多い223).(11)その他の症状:外国の報告では睾丸痛がしばしばみられるが,我が国では稀な症状である.

3 検査所見(1)血液所見:特異的な自己抗体や血清学的所見は存在しない.多くの例で白血球増多と貧血・血小板増多が見られる.白血球分画では好中球を主体に増加するが,従来指摘されていた好酸球増多は少ない.CRPや赤沈などの炎症所見は著明に亢進する.血清アルブミンは低下し,高ガンマグロブリン血症を示すことが多い.腎障害の程度に応じてBUNやクレアチニンが上昇する.血清補体値は一般に上昇する.腎病変がある場合は,血清レニン値が上昇することが多い.(2)尿所見:蛋白尿,沈渣で赤血球を認める.(3)特殊検査: 抗好中球細胞質抗体(ANCA):病変が中・小型動脈に限定される典型的なPANにおいては,ANCAの陽性率は低い(20%以下).しかし,実際には中・小型動脈に加え,細・小動脈にも炎症が及ぶ例もしばしばみられ,この様な場合,ANCAの陽性率も増加するが,そのほとんどがMPO-ANCAである.この様な症例は,厳密な意味でのPANではないので,除外するのが好ましい.

1293Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

血管炎症候群の診療ガイドライン

HBs抗原:PANの中の1つの病型としてB型肝炎(HB)ウイルス感染に関連したPANの存在が認められている224).しかし,我が国ではHBs抗原陽性のPANは極めて少ない.(4)組織所見:中・小型動脈のフィブリノイド壊死性血管炎を生検にて確認する.生検部位は病変のある筋肉や腎が多いが,下肢に多発性単神経炎や筋肉痛がある場合は腓腹筋の筋生検が行いやすく,陽性率も高い.(5)画像所見:PANの特徴は中・小型動脈に炎症に伴い,多発性の小動脈瘤や狭窄,閉塞を生じることである.特に腹部大動脈分岐の腎,腸間膜,及び肝動脈領域に多く,血管造影により確認することができる225).さらに,最近ではMRAや超音波ドップラー法で血管壁や血流の異常を確認することも行われている.その他,病態により,同様の所見を筋肉や脳内に認めることもある.図29a及び図29bに下腸間膜動脈及び腎動脈の小動脈瘤と狭窄像を示す.ただし,最近我が国では組織所見で診断がついた場合,血管造影は行われない傾向にある.

4 PANの重症度 PANの予後予測や治療方法の選択のために,いくつかの重症度判定基準が提唱されている.世界で比較的よく使用されているのがBVAS(Birmingham Vasculitis

Activity Score)226)とFFS(Five Factor Score)220)である.いずれも罹患臓器や症状によってスコア化し,重症度を判定する.前者がより細かく,後者は5つだけの因子の点数化を行うものである.これらによると,最も予後に影響を与えるのは,消化器病変と腎病変であるという

220),222).しかし,実際には我が国ではこのような重症度判定はあまり利用されていないのが現状である.一方,我が国では厚生省難治性血管炎分科会による「結節性多発動脈炎および顕微鏡的多発血管炎の重症度による病型分類」(表21)や,進行性腎障害班による「重症度分類」などがあるが,PANに関してはまだきちんとした検証がなされていない.

4 診断法および診断基準

 厚生労働省特定疾患難治性血管炎班の結節性多発動脈炎の診断基準(2006年,改訂)(表22)を使用する. PANには,顕微鏡的多発血管炎(MPA)やウェゲナー肉芽腫症における抗好中球細胞質抗体(ANCA)のような標識抗体が存在しない.従って,臨床症状,一般検査所見,画像所見を参考にしながら鑑別診断を行い,可能であれば障害臓器の生検を行い確定診断に至る.特にMPAとの鑑別が問題となる.Chapel Hill Consensus

Conference(CHCC)によれば,PANは「中型および小型動脈の壊死性血管炎であり,細動脈,毛細血管,細静脈などの小血管の炎症は伴わない」と定義されている3).従って,糸球体腎炎などの毛細血管炎の存在が明らかにされればPANは診断から除外されることになる.世界的にはAmerican College of Rheumatology(ACR)が作成したPANの診断(分類)基準(ACR,1990)が用いられている227).1)4kg以上の体重減少,2)四肢,体幹の網状皮斑(リベド),3)睾丸の自発痛または圧痛,4)筋肉痛,脱力,下肢の圧痛,5)単神経炎,多発性単神

図29a 腸間膜・腸管壁の動脈瘤 図29b 腎内の葉間動脈の動脈瘤

1294 Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

経炎,多発性神経炎,6)拡張期血圧が90㎜Hg以上,7)BUNまたはクレアチニンの上昇,8)HBs抗原または抗体が陽性,9)動脈造影の異常所見,10)中型または小型動脈の炎症所見の10項目の内3項目以上を満足する場合にPANと分類される.しかしACR1990の感度は82.2%,特異度は86.6%とされており,他の血管炎の分類基準に比べて必ずしも信頼性が高くなく,本邦では用いられていない.

5 治療指針および治療法ガイドライン

 寛解導入療法と寛解維持療法に分けられる.いずれの治療も,副腎皮質ステロイド治療が原則である(クラスⅡb,レベルC)228),229).副腎皮質ステロイド治療が無効な場合には免疫抑制薬の追加治療を行う(クラスⅡb,レベルC)228),229).HBウイルス肝炎合併例では,抗ウイルス療法,血漿交換療法を施行する(クラスⅡb,レベルC)230),231).

表21 結節性動脈周囲炎の重症度分類

1度  ステロイド薬を含む免疫抑制薬の維持量ないしは投薬なしで1年以上症状が安定し,臓器病変および合併症を認めず,日常生活に支障なく寛解状態にある患者(血管拡張剤,降圧剤,抗凝固剤などによる治療は行ってもよい).

2度  ステロイド薬を含む免疫抑制療法の治療と定期的外来通院を必要とするも,臓器病変と合併症は存在しても軽微であり,介助なしで日常生活に支障のない患者.

3度  機能不全に至る臓器病変(腎,肺,心,精神・神経,消化管など)ないし合併症(感染症,圧迫骨折,消化管潰瘍,糖尿病など)を有し,しばしば再燃により入院または入院に準じた免疫抑制療法ないし合併症に対する治療を必要とし,日常生活に支障をきたしている患者.臓器病変の程度は注1のa~hのいずれかを認める.

4度  臓器の機能と生命予後に深くかかわる臓器病変(腎不全,呼吸不全,消化管出血,中枢神経障害,運動障害を伴う末梢神経障害,四肢壊死など)ないしは合併症(重症感染症など)が認められ,免疫抑制療法を含む厳重な治療管理ないし合併症に対する治療を必要とし,少なからず入院治療,時に一部介助を要し,日常生活に支障のある患者.臓器病変の程度は注2のa~hのいずれかを認める.

5度  重篤な不可逆性臓器機能不全(腎不全,心不全,呼吸不全,意識障害・認知障害,消化管手術,消化・吸収障害,肝不全など)と重篤な合併症(重症感染症,DICなど)を伴い,入院を含む厳重な治療管理と少なからず介助を必要とし,日常生活が著しく支障をきたしている患者.これには,人工透析,在宅酸素療法,経管栄養などの治療を要する患者も含まれる.臓器病変の程度は注3のa~hのいずれかを認める.注1:以下のいずれかを認めること

a. 肺線維症により軽度の呼吸不全を認め,PaO2が60~70Torr.b. NYHA2度の心不全徴候を認め,心電図上陳旧性心筋梗塞,心房細動(粗動),期外収縮あるいはST低下(0.2mV以上)の1つ以上を認める.

c. 血清クレアチニン値が2.5~4.9mg/dℓの腎不全.d. 両眼の視力の和が0.09~0.2の視力障害.e. 拇指を含む2関節以上の指・趾切断.f. 末梢神経障害による1肢の機能障害(筋力3).g. 脳血管障害による軽度の片麻痺(筋力4).h. 血管炎による便潜血反応中等度以上陽性,コーヒー残渣物の嘔吐.

注2:以下のいずれかを認めることa. 肺線維症により中等度の呼吸不全を認め,PaO2が50~59Torr.b. NYHA3度の心不全徴候を認め,胸部X線上CTR60%以上,心電図上陳旧性心筋梗塞,脚ブロック,2度以上の房室ブロック,心房細動(粗動),人工ペースメーカーの装着,のいずれかを認める.

c. 血清クレアチニン値が5.0~7.9mg/d の腎不全.d. 両眼の視力の和が0.02~0.08の視力障害.e. 1肢以上の手・足関節より中枢側における切断.f. 末梢神経障害による2肢の機能障害(筋力3).g. 脳血管障害による著しい片麻痺(筋力3).h. 血管炎による肉眼的下血・嘔血を認める.

注3:以下のいずれかを認めること1.肺線維症により高度の呼吸不全を認め,PaO2が50Torr未満.2.NYHA4度の心不全徴候を認め,胸部X線上CTR60%以上,心電図上陳旧性心筋梗塞,脚ブロック,2度以上の房室ブロック,心房細動(粗動),人工ペースメーカーの装着,のいずれか2つ以上を認める.

3.血清クレアチニン値が8.0mg/dℓ以上の腎不全.4.両眼の視力の和が0.01以下の視力障害.5.2肢以上の手・足関節より中枢側における切断.6.末梢神経障害による3肢以上の機能障害(筋力3),もしくは1肢以上の筋力全廃(筋力2以下).7.脳血管障害による完全片麻痺(筋力2以下).8.血管炎による消化管切除術を施行.

1295Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

血管炎症候群の診療ガイドライン

1 寛解導入療法(1)副腎皮質ステロイド:プレドニゾロン0.5~1mg/

kg/日(40~60mg/日)を重症度に応じて経口投与する.腎,脳,消化管など生命予後に関わる臓器障害を認めるような重症例では,パルス療法すなわちメチルプレドニゾロン大量点滴静注療法(メチルプレドニゾロン500~1000mg+ 5%ブドウ糖溶液500mlを2~3時間かけ点滴静注,3日間連続)を行う.後療法としてプレドニゾロン0.5~0.8mg/日の投与を行う232).(2)ステロイド治療に反応しない場合:シクロホスファミ ド 点 滴 静 注 療 法(intravenous cyclophosphamide:

IVCY)又は経口シクロホスファミド(CY)の経口投与(0.5~2mg/kg/日)を行う.IVCYは,シクロホスファミド500mg~600mg/生理食塩水または5%ブドウ糖溶液500mlを2~3時間かけて点滴静注し,4週間間隔,計6回をめやすに行う233),234). IVCY治療中は白血球減少に注意し3000/㎜3以下にならないように次回の IVCY量を減量する.なお,CYは腎排泄性のため腎機能低下に応じて減量投与を行う(クラスⅡb,レベルC)235).表24に年齢,腎機能に応じたIVCY量を示す.尚,IVCYは経口CYに比べて有効性は同等だが副作用が少ないと報告されている236). その他の免疫抑制薬としてアザチオプリン,メソトレキサートも用いられる(クラスⅡb,レベルC)236).いずれも腎排泄性である.アザチオプリンは腎機能低下時には減量が必要であり,メトトレキサートは腎不全には禁忌である.(3)肺・腎・消化管・膵などの重要臓器を2箇所以上傷害された重症例では,ステロイドパルスとともに血漿交換療法を行い,生命予後を改善させるようにする(クラスⅡb,レベルC)237),238).(4)活動性のHBウイルス肝炎を伴っている場合には,抗ウイルス薬および免疫複合体除去目的で血漿交換療法

表22 結節性多発動脈炎の診断基準(厚生労働省特定疾患難治性血管炎班2006年改訂)

【主要項目】(1)主要症候

①発熱(38℃以上,2週以上)と体重減少(6ヶ月以内に6kg以上)

②高血圧③急速に進行する腎不全,腎梗塞④脳出血,脳梗塞⑤心筋梗塞,虚血性心疾患,心膜炎,心不全⑥胸膜炎⑦消化管出血,腸梗塞⑧多発性単神経炎⑨皮下結節,皮膚潰瘍,壊疽,紫斑⑩多関節痛(炎),筋痛(炎),筋力低下

(2)組織所見中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在

(3)血管造影所見腹部大動脈分枝(特に腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞

(4)判定①確実 (definite) 主要症候2項目以上と組織所見のある症例②疑い(probable) (a)主要症候2項目以上と血管造影所見の存在する例 (b)主要症候のうち①を含む6項目以上存在する例

(5)参考となる検査所見①白血球増加(10,000/μ L以上)②血小板増加(400,000/μ L以上)③赤沈亢進④CRP強陽性

(6)鑑別診断①顕微鏡的多発血管炎②ウェゲナー肉芽腫症③アレルギー性肉芽腫性血管炎④川崎病血管炎⑤膠原病(SLE,RAなど)⑥紫斑病血管炎

【参考事項】(1)組織学的にⅠ期変性期,Ⅱ期急性炎症期,Ⅲ期肉芽期,

Ⅳ期瘢痕期の4つの病期に分類される.(2)臨床的にⅠ,Ⅱ期病変は全身の血管の高度の炎症を反

映する症候,Ⅲ,Ⅳ期病変は侵された臓器の虚血を反映する症候を呈する.

(3)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが,特徴的な症候と検査所見から鑑別できる.

表23 結節性多発動脈炎(PAN)と顕微鏡的多発血管炎(MPA)の比較結節性多発動脈炎(PAN) 顕微鏡的多発血管炎(MPA)

罹患血管のサイズ 中~小型の筋型動脈 細動脈・毛細血管・細静脈病理所見 壊死性動脈炎 壊死性血管炎,白血球破砕性血管炎主要徴候腎症候  高血圧肺病変

壊死性糸球体腎炎なし尿所見異常の程度軽い多いまれ

壊死性半月体形成率が高い蛋白尿・血尿が著明まれ多い(肺出血,間質性肺炎)

検査所見MPO-ANCA動脈造影

陰性(陽性率10~20%)小動脈瘤,狭窄

陽性(陽性率50~80%)正常

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

を併用する(クラスⅡb,レベルC)232),233).

2 寛解維持療法 初期治療による寛解導入後は,再燃のないことを確認しつつ副腎皮質ステロイ薬(プレドニゾロン)を漸減し維持量(5~10mg/日)とする.副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の治療期間は原則として2年を超えない(クラスⅡb,レベルC)239).CYは3ヶ月間用い,その後寛解維持薬として,より副作用の少ないアザチオプリンに変更し,半年~1年間用いる(クラスⅡb,レベルC)240). 尚,免疫抑制薬,血漿交換療法は,本疾患に対する保険適応薬でないため,投薬時には十分なインフォームドコンセントが必要である.

3 感染症対策 結節性多発動脈炎の免疫抑制療法中には,種々の日和見感染症を合併しやすい.特にニューモシスティス肺炎,サイトメガロウィルス(CMV)感染症,真菌感染症などの感染症は重症化し死因に関連する.このため,これらの感染症の予防と早期発見,治療が重要である.ニューモシスティス肺炎の予防にはST合剤(バクタ®)の1錠 /日を連日投与または2錠 /日を週2~3日の投与を行う.典型的なニューモシスティス肺炎は,乾性咳嗽,息切れ,発熱,胸部X線写真でびまん性のすりガラス様陰影を呈し,血清β-1,3-D-グルカンが高値である.確定診断は喀痰や気管支洗浄液からのP. jiroveciiの検出であるが,ニューモシスティス肺炎の進行は急速なため,上記所見がみられた時は,菌の検出結果を待たず治療を開始する.バクタ®(12~9錠 /日)または副作用でバクタ®

が使用できない時はペンタミジン静注を行う.また同様の症状で,末梢血のCMV抗原血症で陽性白血球が1個以上あれば,CMV肺炎の可能性がある.CMV感染症に対してはデノシン®点滴静注(腎機能低下例では減量必要)や抗CMV高力価ガンマグロブリンを用いる.その他,深在性真菌症(アスペルギルス感染症,カンジダ感

染症)に対しては,ファンギソン®液の含嗽やイトリゾール®の内服(100~200mgを1日1回食直後)またはミカファンギン150mg/日の点滴を行う.

6 予後

 結節性多発動脈炎の予後は,発症3ヶ月以内の治療によるところが大きく,急性期がおさえられ治療管理されれば,その後の経過は比較的良好である.ステロイドと免疫抑制薬の併用による5年生存率は80%である218),233)

(クラスⅡb,レベルC).死因は,脳出血,消化管出血,腎不全,心筋梗塞,心不全,感染症などである.再燃率は,40%程度と高い.なお,HBウイルス関連結節性多発動脈炎では再燃は8%程度と稀である.

Ⅵ 小型血管炎

 この章ではANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎,ウェゲナー肉芽腫症,アレルギー肉芽腫性血管炎)および免疫複合体性血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病,クリオグロブリン血管炎,悪性関節リウマチ)につき述べる.

1 顕微鏡的多発血管炎(Microscopic polyangiitis:MPA)

1 疾患概念・定義・疫学 1994年にChapl Hillで開かれた国際会議において,これまで結節性多発動脈炎(PAN)と診断されていた症例のうち,中型の筋性動脈に限局した壊死性血管炎のみを古典的結節性多発動脈炎とし,小血管(毛細管,細小動静脈)を主体とした壊死性血管炎のうち肉芽腫性病変のみられないものをMPAと定義した.男女比はほぼ 1:1 で,好発年齢は55~74歳と高齢者に多い241). 年間発症率はドイツにおける3人 /百万人から英国における8.4人 /百万人と報告されている242).我が国では,発症率や有病率は不明である.2006年から結節性多発動脈炎と顕微鏡的多発血管炎が別個の調査票に分けられて調査が開始されている.

表24 シクロホスファミド・パルス療法における投与量と    年齢,腎機能による補正年齢 血清Cr < 3.4mg/dl 血清Cr > 3.4mg/dl60歳未満 15mg/kg/pulse 12.5mg/kg/pulse60歳以上,70歳未満 12.5mg/kg/pulse 10mg/kg/pulse70歳以上 10mg/kg/pulse 7.5mg/kg/pulse難病医学研究財団 /難病情報センター :http://www.nanbyou.or.jp/sikkan/025_2_i.htm免疫疾患調査研究班(難治性血管炎に関する調査研究班)参考資料より

1297Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

血管炎症候群の診療ガイドライン

2 発症機序 日本人におけるMPAの発症に,遺伝的素因としてHLA-DRB1*0901-DQB1*0303ハプロタイプの関連が報告されている243).発症の外因性要素としてシリコン244),抗甲状腺薬やD-ペニシラミンなどの薬剤245),農業従事者246)などが報告されている.抗好中球細胞質抗体(ANCA)の産生機序については不明である.しかし,ミエロペロキシダーゼ(MPO)と特異的に反応するMPO-ANCAは,顕微鏡的多発血管炎の病態形成に密接に関係することが明らかにされている.感染症などの非特異的炎症により活性化された好中球は,細胞質内のMPOを細胞表面に発現し,そこにMPO-ANCAが結合するとFcγRを介して好中球をさらに活性化させ,活性酸素の産生や蛋白分解酵素を放出して血管内皮細胞や血管壁を障害することが実験的に証明されている247)-250).さらに in vivoの動物実験系でMPO-ANCAが壊死性半月体形成性糸球体腎炎や肺胞出血を来すことが証明されている251),252).

3 病理所見 小血管(毛細管,細小動静脈)を主体とした壊死性血管炎で,血管壁への免疫複合体沈着がほとんどみられない.肉芽腫性病変を欠くことがウェゲナー肉芽腫症やChurg-Strauss症候群(アレルギー性肉芽腫性血管炎)との相違である.腎と肺が好発部位である.腎では,糸球体毛細管や尿細管周囲の毛細管に血管炎による虚血と破綻出血を来し,半月体形成を伴う壊死性糸球体腎炎+尿細管間質障害による腎機能障害が急性ないし亜急性に進行する.肺では,肺胞毛細管炎による肺胞基底膜障害,肺胞出血をきたすため,病態が急性かつ広範囲に進行するとびまん性肺胞出血,慢性かつ限局性散在性に進行するとUIP型の間質性肺炎の病状を呈する.約10%に中型の筋性動脈まで血管炎が及ぶ症例がある.約80%で抗好中球細胞質抗体(ANCA)が陽性であり,特にMPO-ANCA陽性例が多い.

4 臨床症状と検査所見 発熱,体重減少,易疲労などの全身症状(約70%)とともに組織の虚血・梗塞や出血による徴候が出現する.壊死性糸球体腎炎が最も高頻度であり,尿潜血,赤血球円柱の出現に続いて尿蛋白が出現,血清クレアチニンが上昇し始める.数週間から数ヶ月で急速に腎不全に移行することが多いので,早期診断が極めて重要である.古典的結節性多発動脈炎に比べると高血圧は少ない(約

30%).その他高頻度にみられるのは,皮疹(約60%:紫斑,皮膚潰瘍,網状皮斑,皮下結節),多発性単神経炎(約60%),関節痛(約50%),筋痛(約50%)などである.肺毛細管炎による間質性肺炎(約25%)や肺胞出血(約10%)を併発すると咳,労作時息切れ,頻呼吸,血痰,喀血,低酸素血症をきたす.心筋病変による心不全は約18%にみられるが,消化管病変は約20%と,他のANCA関連血管炎に比べて少ない.

5 診断法および診断基準(表25)

 全身症状とともに血管炎による臓器障害がみられた場合,本症を疑い,障害組織の生検を行う.免疫複合体沈着に乏しい毛細管~細小動静脈主体の壊死性血管炎を証明する.腎生検では,半月体形成や糸球体のフィブリノイド壊死を伴う壊死性巣状糸球体腎炎で免疫グロブリンや補体の沈着がないか乏しいことを確認する.Goodpasture症候群と異なり,糸球体や間質の新旧病変(急性期壊死性病変と線維化した硬化性病変)が混在する点が特徴である.腎生検が困難な場合は,病変のある皮膚,腓腹神経,筋,肺などが生検対象となり,細小血管壁に好中球浸潤を伴う壊死性血管炎で免疫複合体や補体成分の沈着がないことで診断する.ANCAの測定が早期診断に有用である.ANCAの測定は2種類の方法がある.間接蛍光抗体法はp-ANCAとc-ANCAを判別し,ELISA法はMPO-ANCAやPR3-ANCAなど抗原特異的ANCAを同定する.顕微鏡的多発血管炎では,p-ANCA

の感受性は58%,特異度は81%,MPO-ANCAではそれぞれ58%,91%であった253).両者のいずれかが陽性の場合,感受性は67%,特異度は99%に上昇する.したがって,血管炎を疑った場合は両方法で測定することが薦められる.しかし,ANCAの測定で組織診断の代用とすることは回避すべきである.重篤な副作用の危険が高い薬物療法を長期間行う現行の治療法を考慮すると,鑑別診断とともに生検組織診断による確定診断を行うことが原則的にすべての症例で推奨される(クラスⅠ).鑑別すべき疾患として,他の全身性血管炎症候群(特にウェゲナー肉芽腫症とChurg-Strauss症候群),SLEなどの膠原病,全身性に血栓をきたす病態(抗リン脂質抗体症候群,細菌性心内膜炎,髄膜炎菌性髄膜炎,心房粘液 種, 血 栓 性 微 小 血 管 障 害(Thrombotic

microangiopathy:TMA)などを念頭に検索する.

6 治療指針および治療法ガイドライン

 MPAを対象としたランダム化比較対照試験は皆無であるため,質の高い治療のエビデンスはない.最近にな

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

り,欧米で行われたランダム化比較対照試験の成績が相次いで報告され,ANCA関連血管炎に対する質の高いエビデンスが提示された.これらは欧米で頻度の多いウェゲナー肉芽腫症を主体とした成績であり,顕微鏡的多発血管炎の治療に応用する場合は慎重な吟味を必要とする.我が国においても,質の高いエビデンスを確立する必要がある.2004年,難治性血管炎に関する調査研究班(主任研究者 尾崎承一)並びに進行性腎障害に関する調査研究班(主任研究者 富野康日巳)による共同研究として,MPO-ANCA関連血管炎に対する重症度別治療プロトコールが作成され,その検証のための前向き臨床試験が開始された.血管炎は,血管壁の破綻出血または虚血・梗塞により環流組織や臓器に進行性かつ非可逆的障害をきたす.したがって,可及的早期に確定診断をつけ,迅速に治療を開始して血管炎を寛解させること(寛解導入療法)が第1に重要である.寛解とは,血管炎による活動性病変(後遺症ではない)が認められない状態

をさし,国際的には,Birmingham vasculitis activity

score(BVAS)<1という定義が客観的指標として用いられている.次に寛解状態を維持して再燃を防ぐ寛解維持療法が重要である.

①寛解導入療法

 シクロホスファミドとステロイドの併用療法が推奨される240)(クラスⅠ).シクロホスファミドと併用するステロイドの投与量は,初期にはプレドニソロン換算1mg/kgが用いられるが,2ヶ月以内に20mg/日ないし3ヶ月以内に15mg/日以下まで早期に減量して副作用を軽減させることが推奨される(クラスⅠ).シクロホスファミドの投与量は,年齢と腎機能によって減量調節し,過剰投与(による日和見感染や骨髄抑制)を回避する(クラスⅡa).びまん性肺胞出血を来した症例に対しては,標準的寛解導入療法に血漿交換療法を併用することが推奨される254)(クラスⅡb).シクロホスファミドは2mg/

kgの経口連日投与法または15mg/kgの間歇静注投与法が推奨される(推奨度A).経口連日投与法と間歇静注投与法を比較したメタ解析によると,前者に比べて後者において寛解導入率が有意に高く,感染症併発率が有意に低かった.再燃率は後者の方が高い傾向がみられた254).日和見感染症,特にニューモシスティス肺炎予防にST合剤(Ⅰ.総論2-6を参照)の予防投与が推奨される(クラスⅠ).シクロホスファミドと併用するステロイドの投与量は,初期にはプレドニソロン換算1mg/kgが用いられるが,2ヶ月以内に20mg/日ないし3ヶ月以内に15mg/日以下まで早期に減量して副作用を軽減させることが推奨される(レベルA).血清クレアチニン5.7mg/dl以上の重度腎障害例やびまん性肺胞出血をきたした症例に対しては上記寛解導入療法に加え血漿交換療法の併用が推奨される255),256)(レベル B).重要臓器障害がないか軽度の症例の治療法に関しては,前向き臨床試験がない.ウェゲナー肉芽腫症を主体としたRCT

において,MTX15~25mg/週はシクロホスファミドに劣らない寛解導入率が得られた.シクロホスファミド以外の毒性の弱い免疫抑制薬の併用や,ステロイド単独投与が推奨される(レベルB).

②寛解維持療法

 一旦,寛解導入されたら,シクロホスファミドよりも毒性の弱い免疫抑制薬の使用が推奨される.寛解導入後から12ヶ月後までシクロホスファミドを継続する群(n=79)とアザチオプリンに切り替えた群(n=76)とを比較するランダム化比較対照試験が行われ,対象は39

表25 顕微鏡的多発血管炎(MPA)の診断基準主要症候

1.急速進行性糸球体腎炎2.肺出血または間質性肺炎3.腎・肺以外の臓器症状  紫斑,皮下出血,消化管出血,多発性単神経炎など

主要検査所見1.MPO-ANCA陽性2.CRP陽性3.蛋白尿・血尿・BUN・血清クレアチニン値の上昇4.胸部X線所見:浸潤陰影(肺胞出血),間質性陰影

組織所見細動脈・毛細血管・後毛細血管細静脈の壊死,血管周囲の炎症性細胞浸潤

判定1.確実(definite)

a)主要症候の2項目以上を満たし,組織所見が陽性の例b) 主要症候の1および2を含め2項目以上を満たし,

MPO-ANCAが陽性の例2.疑い(probable)

a)主要症候の3項目を満たす例b)主要症候の1項目とMPO-ANCAが陽性の例

鑑別診断1.古典的PN2.ウェゲナー肉芽腫症3.アレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss症候群)4.Goodpasture症候群

参考事項1. 主要症候の出現する1~2週間前に先行感染(多くは上気道感染)を認める例が多い

2. 主要症候1,2は約半数で同時に,その他の例ではいずれか一方が先行する

3. 多くの例でMPO-ANCAの力価は疾患活動性と並行して変動する

4.治療を早く中止すると,再発する例がある5.古典的PNと顕微鏡的PNの相違を表23に示す

(厚生省特定疾患難治性血管炎分科会平成10年度研究報告書.p.241, 1999より改変)

1299Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

血管炎症候群の診療ガイドライン

%のMPAを含む全身型ANCA関連血管炎患者で,観察期間は計18ヶ月,再燃率はアザチオプリン群で15.5%,シクロホスファミド群で13.7%と差がなかった.重要臓器の血管炎再燃は両群とも5例であった.ウェゲナー肉芽腫症の再燃率18%に比べ,MPAの再燃率は8%と有意に少なかった254).寛解維持療法薬として,アザチオプリンの他にメトトレキサートやミコフェノール酸モフェチルも推奨される(クラスⅢ).

7 予後 我が国のMPAの症例は発症後6ヶ月以内に30%が死亡し,1年以内の死亡率は全体では35%,全身型では45%,腎限局型では10%である.1年目以降の死亡率は低下する.主な死因は感染症,肺胞出血,腎不全である.

2 ウェゲナー肉芽腫症

1 疾患概念・定義・疫学 ウェゲナー肉芽腫症(Wegener’s granulomatosis: WG)は,①鼻,眼,耳,上気道(E)および肺(L)の壊死性肉芽腫性炎,②腎(K)の巣状分節性壊死性糸球体腎炎,③全身の中・小型動脈の壊死性血管炎の3つを臨床病理学的な特徴とする難治性血管炎で,1939年にドイツの病理学者Wegenerにより報告された疾患である15).本症は30~50歳台に多く発症し,明らかな性差はない257).自己免疫機序が疑われているが,詳細は不明である.

2 発症機序 1985年Woudeら は 抗 好 中 球 細 胞 質 抗 体(Anti-

neutrophil cytoplasmic antibody: ANCA) の う ちcytoplasmic(C)-ANCAがWGに高率に陽性を呈することを発見した258).C-ANCAの対応抗原は好中球細胞質の一次顆粒に含まれる29kDaのproteinase 3(PR3)である.WGの未治療活動期で80~96%にC-ANCA

(PR-3 ANCA)が陽性を示し,免疫抑制療法の導入によりANCA力価は低下し,疾患活動性とANCA値が相関する傾向を示す259).一方,PR3-ANCAとWGの成因に関しては,現在,ANCAと炎症性サイトカイン(TNF-αなど)が同時に作用してPR3などのプロテアーゼを放出し組織障害に働き,PR3の持つ蛋白分解機能,白血球の分化・増殖促進作用によりWGの壊死性血管炎,肉芽腫,壊死性半月体形成性腎炎を呈するとのANCA-サイトカイン sequence説が有力である3).

3 病理所見 上気道(E)や肺(L)では,実質の壊死像や肉芽腫性炎症所見(図30)が認められる260).もうひとつの特徴的所見である壊死性血管炎は,中型から小型の動静脈および毛細血管に認め,EVG 染色では,炎症の強い部位で部分的な弾性線維の消失を認める(図31)260).腎(K)の特徴的な組織所見は,巣状分節状または半月体形成性腎炎の所見であり(図32),免疫グロブリンや補体の有意な沈着は認めないpauci-immune型の腎炎である260).腎においてはおよそ50%以下の症例でフィブリノイド壊死型血管炎の所見を認める.フィブリノイド型血管炎は,腎以外の全身の諸臓器にも広範に分布する.脾臓においてはフィブリノイド型血管炎とともに不規則な地図状の梗塞像を認める.消化管においては肉眼的にびらんや潰瘍を認め,組織学的には小動脈の壁のフィブリノイド壊死を認める.皮膚においては肉眼的に紫斑を呈し,組織学的に白血球破砕性血管炎の所見を呈する.

図30 肺の壊死性肉芽腫.多核巨細胞が認められる

図31 肺の肉芽腫内の壊死性血管炎(EVG染色)

1300 Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

4 臨床症状

 Wegenerが報告した例は,上気道(E),肺(L),腎(K)の3つの病変がそろっている全身型であった15).これに対し,上気道(E),または肺(L)のみの病変を呈し,腎(K)の病変を欠く症例も経験され,限局型として区別される.WGの初発症状は上気道(E)の症状の出現が約90%と多く,鼻出血,膿性鼻汁,鼻中隔穿孔,鞍鼻変形などを示し,まれに声門下気管狭窄を呈する例もある.つぎに,肺症状(L)はWGの80%に認め,咳,息切れ,血痰・喀血などが認められる.初発時48%,全経過では85%に何らかの呼吸器症状が認められる.全身症状としての発熱,体重減少とともに,肺炎,肺悪性腫瘍との鑑別を要することも多い.症状は一般的に亜急性で進行性であるが,時に一時的に自然軽快を示す場合がある.胸部画像所見:多発性あるいは単発性の空洞を伴う結節性病変を認めるのが典型的である.大きさは数センチ大が多く,CTでは50%に空洞を認める.壁の厚さはさまざまで,画像所見のみから悪性腫瘍や結核などとの鑑別は困難である.また,浸潤影(consolidation)も認められ,区域性の分布を示し,感染性肺炎との鑑別を要する.びまん性肺胞出血ではスリガラス陰影を示す.胸水は約10%,肺門・縦隔リンパ節腫大を数%に認める.WGの約20%に初発症状として蛋白尿・血尿の腎症候(K)を認め,全経過を通じて70~80%の例でpauci-

immune型巣状壊死性半月体形成性腎炎を示す.しばしば急速進行性糸球体腎炎の経過をとり,早期に強力な免疫抑制療法を施行しないと不可逆性腎不全に至る.発熱,体重減少などの全身症状とともに,①上気道(E)の症状(膿性鼻漏,鼻出血,鞍鼻,中耳炎,視力低下,咽喉頭潰瘍,嗄声など),②肺(L)の症状(血痰,呼吸困難,肺浸潤など),③腎(K)の症状(血尿,乏尿,急速進

行性腎炎など),④その他の血管炎を思わせる症状(紫斑,多発関節痛,多発神経炎など)が起こる.通常は,①→②→③の順で起こることが多く,①,②,③のすべての症状がそろう場合を全身型,③を除き①あるいは②のいずれか二つ以上の症状を示す場合を限局型WGと呼ぶ.全身症状として抗生物質に抵抗性の高熱,疲労感,遊走性関節炎,筋肉痛,眼球突出,視神経炎,強膜炎などの眼症状,多発性神経炎,まれに中枢神経症候を示す260)-264).

5 診断法および診断基準 本症の診断には,1998年に厚生省より提唱された診断基準が用いられる(表26).この診断基準における主要症状は,1.上気道(E)の症状,2.肺(L)の症状,3.腎(K)の症状,4.血管炎による症状があげられている.また,主要組織所見としては,①E,L,Kの巨細胞を伴う壊死性肉芽腫性炎,②免疫グロブリン沈着を伴わない壊死性半月体形成腎炎,③小・細動脈の壊死性肉芽腫性血管炎の存在があげられている.E,L,Kのそれぞれ一臓器症状を含め主要症状の3項目以上を示す例,または,E,L,K,血管炎による主要症状の2項目以上および,組織所見①,②,③の1項目以上を示す例,もしくは,E,L,K,血管炎による主要症状の1項目以上と組織所見①,②,③の1項目以上およびC-ANCA(PR3-ANCA)陽性の例を確実例と判定する.E,L,K,血管炎による主要症状のうち2項目以上の症状を示す例や,E,L,K,血管炎による主要症状のいずれか1項目および,組織所見①,②,③の1項目を示す例,または,E,L,K,血管炎による主要症状のいずれか1項目とC-ANCA(PR3-ANCA)陽性を示す例は疑い例と判定するが,他の原因による肉芽腫性疾患(サルコイドーシスなど)や顕微鏡的多発血管炎,アレルギー性肉芽腫性血管炎などの他の血管炎症候群との鑑別が必要である263),264).

6 治療指針および治療法ガイドライン 厚生省研究班によるWGに対する新たな治療指針が提唱された.WGの治療上の基本的理念は,WGの早期診断を下し,WGの3主徴である上・下気道の肉芽腫性炎,壊死性血管炎,腎の壊死性半月体形成性腎炎の病期のなるべく早期で,C-ANCA(PR3-ANCA)力価およびCRP値が高値の時期に,病型別に強さを変えた至適免疫抑制療法を施行することにより寛解へ導くことである.WGに対して免疫抑制剤に副腎皮質ステロイド剤を併用する治療により,WGの生命予後は著しく改善した257)(クラスⅠ).しかし,シクロホスファミドの長期大

図32 巣状分節状壊死性糸球体腎炎

1301Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

血管炎症候群の診療ガイドライン

量投与は感染症,造血抑制,膀胱出血,悪性腫瘍などの種々の副作用を招きやすい.この短所を考え,シクロホスファミドに代えてアザチオプリンの投与,あるいは,欧米では急速進行性糸球体腎炎や急性肺出血などのWG

の生命を脅かす病型以外に対してのみ,プレドニゾロンと併用したメソトレキセートの少量間歇投与も試みられている263)(クラスⅡb).1980年代後半よりST合剤が上・下気道に限局したWGの病期の寛解維持に有用との報告がみられ,1997年の治療指針に示された,E,Lの病型の活動性のあまり高くない症例には試みてよい治療と思われる265)(クラスⅢ).WGの疾患活動性は血管炎症候である発熱,体重減少,上気道(E),肺(L),腎(K)の臓器症状に加え,検査所見として,急性相反応物質(白

血球数,CRP,血沈ほか)の増加,およびWGに高率に見出されるC-ANCA(PR3-ANCA)力価を参考に判定し,全身型,限局型,最重症型の病型別に免疫抑制療法を行う.一方,WGの死因は感染症,呼吸不全が多い点に留意して,免疫抑制療法の合併症,特に感染症対策に十分配慮して,治療・管理にあたることが重要である260),

263),264).

7 予後 全身の多臓器障害を伴う重症のWGは,無治療では2年後に90%が死亡する.シクロホスファミドとステロイド薬の併用で90%に寛解が導入されるようになったが,再発も多い.主たる死因は敗血症や呼吸器感染症で

表26 ウェゲナー肉芽腫症の診断基準診断基準項目

1)主要症状(1)上気道(E)の症状

E:鼻(膿性鼻漏,出血,鞍鼻),眼(眼痛,視力低下,眼球突出),耳(中耳炎),口腔・咽頭痛(潰瘍,嗄声,気道閉塞)(2)肺(L)の症状

L:血痰,咳嗽,呼吸困難(3)腎(K)症状

K:血尿,蛋白尿,急速に進行する腎不全,浮腫,高血圧(4)血管炎による症状

(1)全身症状:発熱(38℃以上,2週以上),体重減少〈6ヶ月以内に6㎏以上〉(2)臓器症状:紫斑,多関節炎(痛),上強膜炎,多発性単神経炎,虚血性心疾患,消化管出血,胸膜炎

2)主要組織所見(1)E,L,Kの巨細胞を伴う壊死性肉芽腫性炎(2)免疫グロブリン沈着を伴わない壊死性半月体形成性腎炎(3)小・細動脈の壊死性肉芽腫性血管炎

3)主要検査所見 proteinase 3(PR3)ANCA(蛍光抗体法でcytoplasmic pattern, c-ANCA)陽性

判定基準1)確実(definite)(1)上気道(E),肺(L),腎(K)のそれぞれ一臓器症状を含め主要症状の3項目以上を示す例(2) 上気道(E),肺(L),腎(K),血管炎による主要症状の2項目以上および,組織所見(1),(2),(3)の1項目以上を示

す例(3) 上気道(E),肺(L),腎(K),血管炎による主要症状の1項目以上と組織所見(1),(2),(3)の1項目以上およびc-(PR3)

-ANCA陽性の例2)疑い(probable)(1)上気道(E),肺(L),腎(K),血管炎による主要症状のうち2項目の症状を示す例(2) 上気道(E),肺(L),腎(K),血管炎による主要症状のいずれか1項目および組織所見(1),(2),(3)の1項目を示す

例(3)上気道(E),肺(L),腎(K),血管炎による主要症状のいずれか1項目とc-(PR3)-ANCA陽性を示す例

参考となる検査所見(1)白血球数,CRPの上昇(2)BUN,血清クレアチニンの上昇

鑑別診断(1)E,Lの他の原因による肉芽腫性疾患(サルコイドーシスなど)(2)他の血管炎症候群(顕微鏡的多発血管炎,アレルギー性肉芽腫性血管炎〈Churg-Strauss症候群〉など)

参考事項(1) 上気道(E),肺(L),腎(K)のすべてが揃っている例は全身型, 上気道(E), 下気道(L)のうち単数もしくは2つの臓

器に止まる例を限局型とよぶ(2)全身型はE,L,Kの順に症状が発現することが多い(3)発症後しばらくすると,E,Lの病変に黄色ブドウ球菌を主とする感染症を合併しやすい(4)E,Lの肉芽腫による占居性病変の診断にCT,MRI検査が有用である(5)PR3-ANCAの力価は疾患活動と並行しやすい

(厚生省難治性血管炎分科会,1998年修正)

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

ある.

3 アレルギー性肉芽腫性血管炎(シャーグ・ストラウス症候群)

1 疾患概念・定義・疫学 アレルギー性肉芽腫性血管炎(AGA)はシャーグストラウス(Churg-Strauss症候群,CSS)とも呼ばれ,気管支喘息が先行し末梢血好酸球増多と共に種々の血管炎症候をきたす疾患である.好発年齢は30~60歳で,男:女=4:6でやや女性に多い.我が国における発症頻度は2.4人 /100万人で,年間新規患者数は約100名,年間の医療受給者数は約450名である.

2 発症機序・病理所見 病因は不明であるが,気道への抗原刺激が繰り返されることにより,T細胞などの活性化を介して好酸球が活性化される.活性化された好酸球から種々の組織障害因子が放出され気管支喘息,さらに末梢神経障害など好酸球増多に基づく障害が起こる.一方,IgEや IgGが抗原と結合して免疫複合体を形成して血管壁に沈着して壊死性血管炎を生ずる.また活性化T細胞から分泌されたサイトカインはマクロファージも活性化して類上皮細胞を形成し,肉芽腫を生ずる.抗好中球細胞質抗体(ANCA)の中の抗ミエロペルオキシダーゼ(MPO)抗体が50%の症例で検出される.好酸球ペルオキシダーゼ(EPO)がMPOとアミノ酸配列で50~60%の共通性を有している.過剰に分泌されたEPOに対し,抗EPO抗体が産生され,MPO-ANCAと交差反応性を持つと考えられている.血中の好酸球増加,好酸球性組織障害因子の上昇,IgE高値が存在する.血管炎の組織では,好酸球の著明な増加を伴った壊死性血管や白血球破砕性血管炎が認められる.時に,血管外に肉芽腫形成が観察される.

3 臨床症状と検査所見 アレルギー性鼻炎・気管支喘息の前駆症状期,好酸球増多期,全身性血管炎期の3相に分けられる.気管支喘息から血管炎発症までは3年以内のことが多い.血管炎症候としては,末梢神経症状(多発性単神経炎),中枢神経症状(脳出血,脳梗塞など),皮膚症状(紫斑,結節性病変,紅斑,水疱,潰瘍など),呼吸器症状(肺胞出血,好酸球性肺炎,間質性肺炎,胸膜炎など),循環器症状(心外膜炎,心筋炎,心筋梗塞など),消化器症状(胃腸炎,腹膜炎,胆嚢炎など),腎障害(巣状壊死

性糸球体腎炎)など多彩な所見が認められる.多発性単神経炎は大部分の例でみられる. 胸部症状:気管支喘息の先行が特徴的である.喘息はしばしば重症で経口ステロイド依存性である.このような喘息の経過中に高度の末梢血好酸球の増加(1500/ul

以上)をみた場合は,本症を疑う必要がある.最近,ロイコトリエン受容体拮抗薬治療中にAGA発症した報告が相次いだが,比較試験では明らかでなく,潜在例に同薬が使用され症状改善につれてステロイドが減量されたためにAGA顕在化したと解釈されている.胸部画像所見:肺の浸潤陰影が認められるが,一過性,移動性であることが多く,病理学的にも血管炎を認めることは稀で,本症に特徴的なものではない.

4 診断法および診断基準 気管支喘息や好酸球増加が先行し,血管炎による症状が発症する.厚生省の診断基準では,主要臨床所見として(1)気管支喘息あるいはアレルギー性鼻炎,(2)好酸球増加,(3)血管炎による症状(発熱(38度以上,2週以上),体重減少(6ヶ月以内に6kg以上),多発性単神経炎,消化管出血,紫斑,多関節痛(炎),筋肉痛,筋力低下のうちのひとつ),主要組織所見として(1)好酸球浸潤を伴う細小血管の肉芽腫性またはフィブリノイド壊死性血管炎,(2)血管外肉芽腫の存在,がある.そして主要臨床所見として(1)(2)(3)を満たし,臨床経過の特徴を示すとCSS,主要組織所見の1項目以上も満たす場合にはAGAとする(表27).

5 治療指針および治療法ガイドライン 多くの患者では副腎皮質ステロイド薬によく反応するが,重症例には免疫抑制薬の併用が必要となることもある(クラスⅠ・Ⅱa)266).まずステロイド薬の大量療法が第一選択薬となる.プレドニゾロン(PSL)換算で0.6~1.0mg/kg/日の初期投与量を1ヶ月以上続け,以後病状に応じて漸減する.メチルプレドニゾロン0.5~1.0g/日のパルス療法を3日間施行してから上記の経口投与に移ることもある(クラスⅡb).重症例や血管炎症候群の著しい例にはシクロホスファミド大量静注療法(IVCY)0.5~0.75g/m2またはシクロホスファミド(CY)0.5~2.0mg/kg/日の経口投与を開始し,併用療法を行う.IVCYの投与間隔は1回 /3~4週間とし,IVCY投与2週間後の白血球数が3500/μl以上を保つように投与量を調節する.CYが用いられない場合にはアザチオプリンなどを経口投与する.寛解導入後は,CYからアザチオプリンに変更しても再発率は変わらない240).また難治例

1303Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

血管炎症候群の診療ガイドライン

や免疫抑制薬が使用しにくい場合には,ガンマグロブリン製剤の大量静注療法が効果を出すことがある(クラスⅡb)267).ただこれらの免疫抑制薬やガンマグロブリン療法は適用外であり,使用にあたっては十分なインフォームド・コンセントをとり,副作用にも十分注意する.気管支喘息に対しては,一般の気管支喘息治療に用いられる薬剤を適宜使用する.

6 予後 主な死因は消化管出血,脳出血,心筋梗塞などである.多発単神経炎による運動麻痺は長期にわたり持続する.

4 ヘノッホ・シェーンライン紫斑病

1 疾患概念・定義・疫学

 ヘノッホ・シェーンライン紫斑病(Henoch- Schönlein

purpura: HSP)は皮膚症状(出血斑,丘疹,局在性浮腫),関節症状(腫脹,疼痛),腹部症状(腹痛,下血)を三主徴とする非血小板減少性紫斑病で,全身性の小血管炎が本態である.重要な合併症として腎炎がある.同義語としてアナフィラクトイド紫斑病,アレルギー性紫斑病などがある. 小児では最も頻度の高い血管炎で,年間10万人当たり10人程度の発症率である.好発年齢は4歳から7歳で,

表27 アレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss症候群)の診断基準概  念

Churg-Straussが古典的PNから分離独立させた血管炎であり,気管支喘息,好酸球増加,血管炎による症状を示すものをChurg-Strauss症候群,典型的組織所見を伴うものをアレルギー性肉芽腫性血管炎とする

診断基準項目1)主要臨床所見(1)気管支喘息あるいはアレルギー性鼻炎(2)好酸球増加(3) 血管炎による症状(発熱〈38℃以上,2週間以上〉,体重減少〈6ヶ月以内に6㎏以上〉,多発性単神経炎,消化器出血,

紫斑,多関節痛〈炎〉,筋肉痛,筋力低下)2)臨床経過の特徴

主要臨床所見(1),(2)が先行し,(3)が発症する3)主要組織所見(1)周囲組織に著明な好酸球浸潤を伴う細小血管の肉芽腫性,またはフィブリノイド壊死性血管炎の存在(2)血管外肉芽腫の存在

判定基準1)確実(definite)(1) 主要臨床所見のうち気管支喘息あるいはアレルギー性鼻炎,好酸球増加および血管炎による症状のそれぞれ1つ以上を

示し同時に,主要組織所見の1項目以上を満たす場合(アレルギー性肉芽腫性血管炎)(2)主要臨床項目3項目を満たし,臨床経過の特徴を示した場合(Churg-Strauss症候群)

2)疑い(probable)(1)主要臨床所見1項目および主要組織所見の1項目を満たす場合(アレルギー性肉芽腫性血管炎)(2)主要臨床所見3項目を満たすが,臨床経過の特徴を示さない場合(Churg-Strauss症候群)

参考となる検査所見(1)白血球増加(1万/μℓ以上)(2)血小板増加(40万/μℓ以上)(3)血清 IgE増加(600U/mℓ以上)(4)MPO-ANCA陽性(5)リウマトイド因子陽性(6)肺浸潤陰影(これらの検査所見はすべての例に認められるとは限らない)

鑑別診断肺好酸球増加症候群,他の血管炎症候群(ウェゲナー肉芽腫症,結節性多発動脈炎)との鑑別を要する

参考事項(1)ステロイド未治療例では末梢血好酸球数は2,000μg/mℓ以上の高値を示すが,ステロイド投与後は速やかに正常化する(2)気管支喘息はアトピー型とは限らず,重症例が多い.気管支喘息の発症から血管炎の発症までの期間は3年以内が多い(3)胸部X線所見は結節性陰影,びまん性粒状陰影など,多様である(4)肺出血,間質性肺炎を示す例もみられる(5)血尿,蛋白尿,急速進行性腎炎を示す例もみられる(6)血管炎症候寛解後にも,気管支喘息は持続する例がかなりある(7)多発性単神経炎は後遺症が持続する例が多い

(厚生省難治性血管炎分科会,1998年修正)

1304 Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

93%は10歳以下である268).若干男児に多く秋から冬に多い.

2 発症機序 明確な病因は不明であるが,病初期の血清 IgA高値やIgA型免疫複合体の存在,および IgA型自己抗体(抗血管内皮細胞抗体など)の存在から「IgAの関与する免疫複合体病」と考えられる.また本症では IgAサブクラス・IgA1の構造異常が指摘されている.食物・薬剤アレルギーが関与した例も報告されている(表28).抗好中球細胞質抗体(ANCA)は,陰性とする報告が多い.

3 病理所見 組織学的には小血管周囲の多核白血球を中心とした炎症性細胞浸潤と血管壁の IgA沈着によって特徴づけられる.

4 臨床症状と検査所見 50%の症例で先行感染として上気道炎の既往がある(先行感染から発症までの期間は1~2週間).皮膚症状,消化器症状,関節症状が三大主徽であるが,出現順位に一定の傾向はなく,約40%で関節炎や腹痛が紫斑に先行する.(1)皮膚症状:ほぼ全例に左右対称性の隆起性紫斑が下肢や背部にみられる(図33).その他,血管神経性浮腫(Quinckeの浮腫)が顔面,足背・手背や陰嚢に出現することもある.

(2)関節症状関節の疼痛と腫脹が70~80%にみられる.下肢の大関節(足関節や膝関節)が侵されることが多いが,1/3の例では手関節,肘関節も侵される.

(3)消化器症状腹痛,嘔吐,血便,下血などが50~70%にみられる.

血管炎による消化管壁の浮腫と出血による.その他,腸重積症,腸閉塞,腸管穿礼,壊死性腸炎,腸管内大量出血,蛋白漏出性胃腸症などもみられることがある.

(4)腎症状10~50%に合併する.他の症状よりも遅れて出現するが,80%は1ヶ月以内に出現する.一般に検尿での顕微鏡的血尿や蛋白尿で発見される(血尿のみの例が90%で,血尿と蛋白尿の両者を有するものは3%程度269))が,ときに肉眼的血尿,腎機能低下やネフローゼ症候群を呈する.病理組織所見は腎機能予後によく相関する(図34).

(5)その他の症状 神経症状(けいれん,頭痛)や睾丸・陰嚢症状(腫脹,疼痛)も少なからず(<40%)みられる.その他,虹彩炎,ブドウ膜炎,心筋障害,心電図異常,尿管狭窄・閉塞の報告がある.

表28 ヘノッホ・シェーンライン紫斑病の原因病因 原因病原体および物質感染症

ウイルス EBウイルス,アデノウイルス,パルボウイルスB19,水痘,麻疹,風疹

細菌 A群β溶連菌,マイコプラズマ,キャンピロバクター・ピロリ,バルトネラ・ヘンセラ

アレルギー

薬剤 ペニシリン,テトラサイクリン,エリスロマイシン,アスピリン,サイアザイド

食物 ミルク,卵,魚肉,トマト,チョコレート,ジャガイモ,小麦

その他 虫刺症(ハチ,蚊),寒冷曝露

図33 ヘノッホ・シェーンライン紫斑病の   典型的な下肢の紫斑(5歳,女児)

図34  ヘノッホ・シェーンライン紫斑病(5歳,女児)に合併した腎炎(紫斑病性腎炎)の典型的な腎組織所見:糸球体のメサンジウム細胞と基質の増生を認める(PAS染色×100)

1305Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

血管炎症候群の診療ガイドライン

5 診断法および診断基準 270)

 診断を確定する特異検査はないが,血漿第ⅩⅢ因子活性は約3/4の例で低下しており,臨床的に重症なほど低値をとる.毛細血管抵抗減弱を示すRumpel-Leede試験は約30%で陽性を示す.その他,病初期に血清 IgAが約60%で上昇する.アメリカリウマチ学会の診断基準で4項目(①隆起性の紫斑,②急性の腹部疼痛,③生検組織での小動静脈壁の顆粒球の存在,④年齢が20歳以下)のうち2つ以上を満たせば診断できる(表29).同時に関節痛,腹痛,腎炎を示唆する尿所見などがあれば診断には苦慮しない.皮膚生検が必要となることは少ないが,病理組織学的には白血球破壊性血管炎(leukocytoclastic vasculitis)の像を呈し,小血管周囲の多核白血球や単核球浸潤と血管壁の IgA,C3や IgGの沈着を認める.一方,皮膚症状が遅れて出現した場合は診断に難渋する.消化器症状が先行し,急性虫垂炎として開腹手術を行われることもある.その他,腸重積症や感染性胃腸炎などとの鑑別も必要である.関節症状の鑑別としては若年性関節リウマチ,また出血斑に対する鑑別診断としては白血病,特発性血小板減少性紫斑柄や 結節性多発動脈炎などがあげられる271).睾丸・陰嚢症状がある場合,睾丸捻転と鑑別を要する.

6 治療指針および治療法ガイドライン 特別な治療はない.安静を保ち症状に応じて対症療法を行う(レベルⅡb).先行感染が疑われる場合,感受性のある抗生剤を投与し,食物・薬剤などの原因が明らかな場合は原因物質を避ける.(1)腎症の合併がなく,関節症状や腹部症状も軽微なとき:溶連菌感染の可能性を考慮し,ペニシリン系抗生

剤を2週間経口投与する.(2)皮膚の有痛性浮腫や掻痒感が強いとき :抗ヒスタミン剤を投与する.

(3)関節症状や睾丸の腫脹・疼痛が強いとき :安静や湿布で様子をみて,鎮まらなければ非ステロイド系消炎鎮痛剤を投与する.血漿第ⅩⅢ因子が低下している例では血漿第ⅩⅢ因子製剤が有効なことがある(レベルⅡa).

(4)腹部症状が強いとき:鎮痛剤の投与を行っても鎮まらない場合はステロイドを投与し,1~2週間で漸減中止する.血漿第ⅩⅢ因子が低下している場合,投与を考慮する(レベルⅡa).

(5)腎症が出現したとき:血尿のみか軽度蛋白尿(<1g/

日)の場合は抗血小板剤を投与する(レベルⅡc).ネフローゼ症候群,腎機能低下や高度蛋白尿(>1g/日)の持続(1ヶ月以上)を認める場合,腎生検を行い組織学的重症度に応じてステロイドを中心としたカクテル療法などを行う(レベルⅡa).HSPの死亡率は1%未満(腸穿孔や大量消化管出血)で,短期予後は良好である(数週間以内に回復).通常,単相性の臨床経過を呈するが,約1/3の例で再発を,まれに(<5%)症状の持続を示す.一方,長期予後は腎炎の合併の有無に左右される.腎不全への移行率は1%程度であるが,ネフローゼ症候群や急性期に腎機能低下を認めたもの,腎組織で50%以上の糸球体に半月体を認めたものは腎不全に進行するリスクが高い.

7 予後 小児では腎炎を約半数に認めるが,末期腎不全に至ることは少ない.成人では85%が腎炎をきたし,末期腎不全への移行も多く予後不良である.

5 本態性クリオグロブリン血症

1 疾患概念・定義・疫学 クリオグロブリンとは,低温にて沈降し,37℃に加温すると溶解する蛋白質である.クリオグロブリンが血液中に異常に増加した状態をクリオグロブリン血症といい,基礎疾患のない本態性と,血液疾患や膠原病,肝疾患などを基礎疾患として生じる続発性のものがある. クリオグロブリン血症の頻度は稀であるが,臨床病態が多様なため認知されない症例もある.男女比は1:3,平均罹患年齢は42~52歳とされる.

表29 ヘノッホ・シェーンライン紫斑病の診断基準基準項目 定  義

1. 触知可能な紫斑: 血小板減少に起因しないわずかに隆起した“触知可能な”出血性皮膚病変

2. 発症年齢20歳以下: 初期症状発現時の年齢は20歳以下3. 腹部アンギーナ: 食後悪化する広範性腹痛あるいは

腸虚血があり,通常出血性下痢を伴う.

4. 生検における血管壁への顆粒球浸潤:細動脈あるいは細静脈の血管壁において顆粒球の存在を示す組織学的変化がみられる.

(アメリカリウマチ学会,1990年)分類上,上記4項目中2項目以上が認められる場合,ヘノッホ・シェーンライン紫斑病と判定する.項目の種類を問わず2項目以上認められれば感度87.1%,特異性87.7%である.

1306 Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

2 発症機序 クリオグロブリンの構成成分に基づいて3型に分類される272)(表30).単一性(Ⅰ型)クリオグロブリンは単クローン性免疫グロブリン(通常 IgMあるいは IgG.IgA,light chainは低頻度)で構成され,およそ25%を占める.多発性骨髄腫やマクログロブリン血症でみられる.一方,混合性(Ⅱ型,Ⅲ型)クリオグロブリンは,IgMリウマトイド因子(稀に IgGあるいは IgA)と,多クローン性 IgGとが複合体を形成したものである.このうちⅡ型のリウマトイド因子は単クローン性,Ⅲ型では多クローン性である.頻度はそれぞれ25%,50%程度であり,種々の感染症,結合組織疾患,その他の炎症性疾患,稀にリンパ増殖性疾患でみられる.近年,HCV

抗体陽性例が多く集積され273),特にⅡ型に多い.

3 臨床症状と検査所見 Ⅰ型では血液粘度亢進による血栓形成が主体であり,Raynaud症状,四肢のチアノーゼ,網状皮斑,潰瘍,壊疽が出現し,心筋梗塞,脳梗塞,眼底出血などを伴う. Ⅱ型,Ⅲ型では免疫複合体による血管炎が病態形成に関与し,多彩な臨床症状を呈する272).発熱,全身倦怠感,筋・関節症状を生じ,皮膚症状はほぼ全例に出現する.下肢を中心とする斑状ないし丘疹状の紫斑,褐色色素沈着,血疱,網状皮斑,潰瘍,寒冷蕁麻疹がみられる(図35). 腎病変は5~60%にみられ,血尿,蛋白尿をしばしば認め,ときにネフローゼ症候群,急性腎不全をきたし,

表 30 クリオグロブリン血症の分類Ⅰ型 Ⅱ型 Ⅲ型

構成分単一性 混合性 混合性単クローン性 IgMまたは IgGときに IgA, light chain

単クローン性 IgM(RF)と多クローン性 Igとの混成

多クローン性 IgM(RF)と多クローン性 Igの混成

病態 微小血栓 免疫複合体性血管炎 免疫複合体性血管炎

関連疾患

●リンパ増殖性疾患多発性骨髄腫マクログロブリン血症その他 

●本態性●感染性ウイルス性:A,B,C型肝炎,伝染性単核球症溶連性連鎖球菌性糸球体腎炎,ハンセン病,梅毒,ライム病日本住血吸虫,トキソプラズマ,マラリアなど●膠原病 SLE,RA,PN,Sjögren症候群など●リンパ増殖性疾患 マクログロブリン血症,慢性リンパ性白血病,悪性リンパ腫など●その他 膜性増殖性糸球体腎炎,サルコイドーシスなど

頻度 25% 25% 50%

図35 混合性クリオグロブリン血症の皮膚症状と病理組織像足背の紫斑と下腿の潰瘍.紫斑部位の病理組織学的所見はフィブリン様物質の顕著な沈着を伴う壊死性血管炎である.

1307Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

血管炎症候群の診療ガイドライン

本症の予後を左右する.末梢神経障害(知覚・運動神経)は70~80%にみられる,知覚神経がより侵されやすい.肺症状(呼吸困難,咳嗽,胸部痛)は40~50%にみられる.腹痛は2~22%に出現する.

4 診断法および診断基準 寒冷曝露との関連性のある血管性病変をみた時,血清クリオグロブリンの検査,原因疾患の検索を行う. クリオグロブリンの証明には,温めた注射シリンジで採血,37℃下で血清を分離し,4℃に冷却し5~7日間放置した後,遠沈して沈殿物の存在を確認し,クリオスタットや分光光度計によって定量する.さらに,その組成を免疫学的に分析する. Ⅰ型では単クローン性蛋白血症,X線所見など,Ⅱ型ではリウマトイド因子,低補体血症,自己抗体,HCV

抗体価やRNA量が診断の参考になる.皮膚や腎臓の病理組織所見では,Ⅰ型では非炎症性の好酸性無構造物質による微小血栓を示す.Ⅱ,Ⅲ型では真皮上層~中層の細小血管に壊死性血管炎を認め,腎では膜性増殖性糸球体腎炎の組織像が特徴的である.

5 治療指針および治療法ガイドライン 寒冷曝露を避け,保温を第一とする.NSAIDsは,全身倦怠,関節痛に用いられる.副腎皮質ステロイド薬(パルス療法を含む),他の免疫抑制薬(シクロフォスファミド,アザチオプリンなど),抗凝固薬の併用投与は,腎症状,進行性神経症状,重篤な皮膚症状に用いられる.血漿交換療法(+副腎皮質ステロイド薬,免疫抑制薬による後療法)は,生命を脅かす重症合併症に適応になる274),275). 続発性クリオグロブリン血症では原疾患の治療が必要である.HCV肝炎では interferon-α,ribavirin(guanosine

nucleoside analog)の単独ないし併用投与が,血管炎症状および血液検査異常(肝機能,クリオグロブリン値,HCV RNA量など)を改善したとの報告がある276)-279).その他,難治例に rituximab(抗CD20単クローン抗体)の有効性が報告されている280),281).[クリオグロブリン血症における治療法とその適応評価]クラスⅠ (レベルC)   NSAIDs,副腎皮質ステロイド,免疫抑制薬,抗凝固薬

クラスⅡa (レベルC)  血漿交換療法,クラスⅡb

  interferon-α,ribavirin,rituximab

クラスⅢ  該当なし

6 予後 混合性クリオグロブリン血症による血管炎の予後は50%においては良好な経過をとる.しかし,全症例の1/3においは,肝不全や腎不全に至るような重篤な経過をとる場合もある282).

6 悪性関節リウマチ

1 疾患概念・定義・疫学 関節リウマチ(RA)は,20~50歳の女性に好発し,多関節炎と関節破壊により関節機能障害をきたす原因不明の全身性炎症性疾患である.その臨床像は多彩で,しばしば血管炎をはじめとする関節外症状をきたし,難治性もしくは生命予後の不良な臨床病態がみられる.1954年,Bevansらはこのような症例を2例報告し,悪性関節リウマチ(malignant RA,MRA)と称した12).MRAの特徴を要約すると,(1)明らかなRAが存在する,(2)心,肺,消化管,神経などの内臓病変が同時に存在する,(3)これらの内臓病変は難治性で,時に生命予後を左右する. したがって,RAの関節病変が進行し,関節の機能不全により身体障害に至る場合には,内臓障害がなければMRAには含まれない. 日本におけるMRAの症例数は,RAの約0.6%とされ,約4,200人と推定されている.MRAの発症年齢は50歳代にピークをもち,RAよりやや高齢である.性別ではより男性の占める割合が大きく,男女比は1:2である.

2 発症機序 RAと同様に原因不明であるが,その病因に遺伝・素因と環境因子,自己免疫機序の関与が示唆されている.MRA患者におけるRA家族内発症は14%にみられ,体質・遺伝性が示唆される.HLA抗原ではRAと同様にDR4と相関するが,その相関性はRAよりも強いことが指摘されている.

3 病理所見 MRAでは,RAにみられる多彩な免疫異常をかねそなえている.リウマトイド因子は高値陽性を示し,IgG

リウマトイド因子,7SIgMリウマトイド因子が効率に認められ,これらのリウマトイド因子を含む免疫複合体が血管炎に関与していることが示唆されている.

1308 Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

 MRAにみられる血管病変は組織学的に次の3型に分類される.(1)RA型(32%);血管壁にリウマトイド結節様病変を示す壊死性血管炎で,亜型として巨細胞出現を伴った汎動脈炎が含まれる.(2)壊死性血管炎型(PN

型)(56%);多発性動脈炎様のフィブリノイド血管炎を示すもので,亜型として内膜のみ,また血管炎の一部にフィブリノイド変性を伴った血管炎が含まれる.(3)閉塞性動脈内膜炎型(EA型)(12%);閉塞性動脈内膜炎で,亜型として内膜の増殖のみのものも含まれる.

4 臨床症状と検査所見 RAの経過中に,発熱,体重減少,筋痛・筋力低下,皮下結節,上強膜炎など血管病変を反映する症状をみる.皮膚症状も皮膚の小血管病変によるところが大きく,梗塞,潰瘍,壊疽の他,爪床や爪縁の出血,紫斑,足背・下腿の浮腫などがみられる.内臓病変では図36に示すような間質性肺炎・肺線維症,胸膜炎,肉芽腫性肺病変などの肺病変,心外膜炎,心筋炎,時に冠動脈炎による狭心症ないし心筋梗塞などの心病変をみる.神経症状では,脳実質障害は稀で,よくみられるのは多発性単神経炎である.運動,知覚いずれの障害もみられ,時に下垂手,尖足がみられる.腸間膜動脈の血管病変により腸梗塞,イレウス症状を呈することがあり,腹痛,下血など

をみる.RAにおける腎病変は,アミロイドーシスをはじめ,治療薬剤の影響(特に金剤,D-ペニシラミン,非ステロイド抗炎症剤),腎病変をきたす他の膠原病とのoverlap,クリオグロブリン血症などの関与が考えられるが,MRAにおいては,クリオグロブリン血症に伴う腎病変と間質性腎炎,抗好中球細胞質抗体(ANCA)陽性をみる半月体形成性糸球体腎炎に留意する. CRPは強陽性を示し,赤沈も亢進する.白血球,血小板の増加をみ,貧血や低蛋白血症,抗γ-グロブリン血症も認められる.関節のX線所見ではStageⅢ以上の症例(86%)が多い.リウマトイド因子は高値陽性を示す.しかし,陰性の症例もみられ,これはリウマトイド因子の質的な変化によると考えられ,IgGリウマトイド因子陽性率も高い.血清低補体価や血中免疫複合体も多く,ANCAも少なからず認められる.皮膚,筋,末梢神経などの組織生検により血管病変をみる.

5 診断法および診断基準 RAと診断され,上記の臨床症状と検査所見が認められればMRAが強く疑われる.厚生労働省調査研究班より提唱されているMRA診断基準を表に示す(表31)283).この基準では,判定(1)の場合に感度88.7%,特異度93.8%,判定(2)の場合に感度95.7%,特異度100%を示す.鑑別すべき疾患として,感染症,アミロイドーシス,フェルティ症候群,全身性エリテマトーデスなどがあげられる.

6 治療指針および治療法ガイドライン 治療法として,ステロイド薬,免疫抑制薬,D-ペニシラミン,血漿交換療法,抗凝固療法などが治療法として用いられるが,その適応は臨床病態により異なる.厚生労働省調査研究班よりMRAの病態による治療指針が提唱されている284).すなわち,基本方針として,(1)それまでの抗リウマチ剤によるRA寛解導入の為の治療は継続して行うことを原則とする,(2)関節機能保全に留意し治療を行う,(3)MRAの臨床病態が寛解するまで入院治療を原則とする,(4)MRAの病態に応じ,以下の治療法を加える.病態として,血管炎による臓器虚血,間質性肺炎,心筋炎,運動障害を伴う多発性単神経炎などでは,プレドニゾロン(PSL)1日40~80mgより治療開始する(クラスⅡa).ステロイド薬に十分反応しない場合には,パルス療法ないしは免疫抑制剤が併用され,また,免疫複合体高値,クリオグロブリン血症,過粘稠度が認められる場合には,血漿交換が適用される(クラスⅡb).図36b 悪性関節リウマチ 肺リウマチ結節組織像

図36a 悪性関節リウマチ 胸部CT所見

1309Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

血管炎症候群の診療ガイドライン

7 予後 合併症としてもっともよくみられるのは感染症,消化管潰瘍,悪性腫瘍,アミロイドーシスなどである.また,MRAの死亡率は43%と予後不良である.その主たる死因は,呼吸不全,感染症,心不全である.

 皮膚潰瘍,四肢壊疽,少量の貯留液をみる奨膜炎などでは,PSL 1日20~40mgより治療開始する.また,肺線維症,閉塞性動脈内膜炎などに対してはステロイド少量投与とD-ペニシラミンの併用が治療の基本型となる(クラスⅡa).

表31 悪性関節リウマチの診断基準既存の関節リウマチ(RA)に,血管炎をはじめとする関節外症状を認め,難治性もしくは重篤な臨床病態を伴う場合,これを悪性関節リウマチ(MRA)と定義し,以下の基準により診断する.

A 

臨床症状・検査所見

多発性神経炎 知覚障害,運動障害いずれを伴ってもよい皮膚潰瘍または梗塞または指 感染や外傷によるものは含まれない指壊疽皮下結節

骨突起部,伸側表面もしくは関節近傍にみられる皮下結節

上強膜炎または虹彩炎 眼科的に確認され,他の原因によるものは含まない滲出性胸膜炎または心嚢炎 感染症など,他の原因によるものは含まない.癒着のみの所見は陽性にとらない心筋炎 臨床症状,炎症反応,筋原性酵素,心電図,心エコーなどにより診断されたものを陽性とす

る間質性肺炎または肺線維症 理学的所見,胸部X線,肺機能検査により確認されたものとし,病変の広がりは問わない臓器梗塞 血管炎による虚血,壊死に起因した腸管,心筋,肺などの臓器梗塞リウマトイド因子高値 2回以上の検査で,RAHAテストまたはRAPAテスト2,560倍以上(RF定量テストで960IU/ml

以上)の高値を示すこと血清低補体価または血中免疫複合体陽性

2回以上の検査で,C3,C4などの血清補体成分の低下またはCH50による補体活性化の低下をみること,または2回以上の検査で血中免疫複合体陽性(C1q結合能を基準とする)をみること(但し,医療保険が適用されていないので検査のできる施設に限る)

B組織所見

皮膚,筋,神経,その他の臓器の生検により,小ないし中動脈に壊死性血管炎,肉芽腫性血管炎 ないしは閉塞性内膜炎を認めること

判 定:1987年のアメリカリウマチ学会の関節リウマチの診断基準を満たし,上記に掲げる項目の中で,(1)Aの項目の3項目以上満たすもの,または,(1)Aの項目の1項目以上とBの項目があるもの,をMRAと診断する.

鑑別疾患:感染症,アミロイドーシス,フェルティ症候群,全身性エリテマトーデス,多発性筋炎,MCTDなど.

(厚生省特定疾患難治性血管炎調査研究班1989年)

1310 Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007 年度合同研究班報告)

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