生姜アミノペプチダーゼのペプチド性食品に対する...

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生 姜 ア ミノペ プ チ ダー ゼの ペ プチ ド性 食 品に 対す る 利用 1 生 姜ア ミノペ プ チダ ーゼ のペ プ チ ド性食 品 に対 す る利 用 大槻 耕三 ・佐藤 健司 ・ 中村 考志 (京都府立大学人間環境学部食保健学科食品科学研究室) 1.は じめ ペ プチ ド性 の食 品は,近 代科学 が発達 して無 機 化学,有 機化 学,生 化学 が確立 され糖質,脂 質, ア ミノ酸や ペプチ ド,タンパ ク質 がは っ きり認 識 され た時代 よ りはるか昔 か ら,我々人 間は無意 識 に利用 して きた。 それ は味 覚 を中心 に五 感 を通 し て選 り分 けられ,例 え ば味 噌,醤 油な どの大豆 発 酵製 品の 旨味 や水産 物加工 品の 旨味,牛 乳加工 品 の味 な どにな って いる。 近 年に なって も,ペ プチ ド性食 品 は様 々 に利 用 され て きてい る。 アスパ ラチル フェニ ルア ラニ ン メ チルエ ステル(Asp-Phe-OMe)の 甘 味料 と し て の利用,牛 乳か らの カゼイ ノホス フォペ プチ ド (CPP)の カル シウム 吸収 補強 剤,各 種食 品 タ ン パ ク質の プロテア ーゼ加 水分解 ペプチ ドの血圧 降 圧剤 等 の機能性 食 品 としての 利用 が ある1)。 さら にグル タ ミンやペ プチ ドが種々 の体質 改善 に働 く こ とが知 られ栄養 強化剤 としでスポー ツ飲料 や病 院 で経腸栄 養剤 と して利 用 されて きてい る2)。 この ようなペ プチ ド性 食品 を製造す る際,食 品 タンパ ク質の プロテア ーゼ加水 分解 で最 も問題 に なるの は, ①チ ーズ製造 の際 よ く見 られ るよ うに苦味ペ プチ ドが発 生す る こと3)。 ② 目的 とす るペ プチ ドが過 剰反応 で壊 され る こ と。 ③ グルタ ミンが ア ミノ末端 に なった時 には ピ ログル タ ミン酸(Pyr)が 生 成 す るこ と, であ る。 本研 究で は,新 たに見つ け られた生 姜ア ミノペ プチ ダーゼ4)を 利 用す る事 に より これ ら①②③ の 問題解 決を計 ろ うとしてい る。 この ア ミノペプ チ ダー ゼは以前 か ら知 られて いる生姜 プロテ アーゼ, GP-1,GP-II5~14'22)と は全 く異な る性 質 を持つ酵 素で あ るこ とが 明 らかに され た4)。 この 生姜 ア ミ ノペ プチダー ゼは最近 良 く使 われ てい る微 生物系 のカ ルボキ シペプ チダーぜ5)やア ミノペプ チダ ー ゼ16)や 小麦 カ ル ボキ シペ プ チ ダー ゼ17)と 異なり 「結果 と考察」の項に示すように基質特異性が高 く,安定性 も高い ので上記① ②の 問題解決 に合致 す る可能性が 高い。 また③ の問題 に対 して合成基 質 の一つ であ るピ ログル タ ミルーフ ェニル アラ ニ ルーロイシルーp一 ニ トロアニ リ ド(Pyr-Phe-Leu- pNA)18)を 使用 して,本 酵素 が この基質 の ア ミノ 末端 のPyr基を加 水分 解 する活 性 が ある か どう か を も本研究 で検 討 した。 2.実 験 方 法 2.1実験材 料 京 都府産,高 知 県産,和 歌 山県産の ひね生姜 及 び 新生 姜 を使 用 した 。カゼ イ ンはMerck社 製, ペ プチ ドや イ ンヒ ビターは㈱ペ プチ ド研 究所(大 阪),化学薬 品 は特 級 の ものを ナカ ライ テス ク社 (京都)よ り購入 した。陰イオ ン交換樹脂 の WatersAccellPlusQMAはWaters社(米 国), TSKgelSuperQとTSKG-2000SWとTSKG -3000SWは 東 ソ社製(東 京)で ある。 2.2酵素活性の測定法 酵素活性 は下 記 に示 す ような基質 を使用 して酵

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生姜アミノペプチダーゼのペプチ ド性食品に対する利用 1

生姜アミノペプチダーゼのペプチド性食品に対する利用

大槻 耕三 ・佐藤 健司 ・ 中村 考志

(京都府立大学人間環境学部食保健学科食品科学研究室)

1.は じ め に

ペプチ ド性の食品は,近 代科学が発達 して無機

化学,有 機化学,生 化学が確立され糖質,脂 質,

アミノ酸やペプチ ド,タ ンパク質がはっきり認識

された時代よりはるか昔から,我 々人間は無意識

に利用 してきた。それは味覚を中心に五感を通 し

て選 り分けられ,例 えば味噌,醤 油などの大豆発

酵製品の旨味や水産物加工品の旨味,牛 乳加工品

の味などになっている。

近年になっても,ペ プチド性食品は様々に利用

されてきている。アスパラチルフェニルアラニン

メチルエステル(Asp-Phe-OMe)の 甘味料とし

ての利用,牛 乳からのカゼイノホスフォペプチド

(CPP)の カルシウム吸収補強剤,各 種食品タン

パク質のプロテアーゼ加水分解ペプチ ドの血圧降

圧剤等の機能性食品としての利用がある1)。さら

にグルタミンやペプチ ドが種々の体質改善に働 く

ことが知られ栄養強化剤 としでスポーツ飲料や病

院で経腸栄養剤として利用されてきている2)。

このようなペプチド性食品を製造する際,食 品

タンパク質のプロテアーゼ加水分解で最も問題 に

なるのは,

①チーズ製造の際よく見られるように苦味ペ

プチドが発生すること3)。

②目的とするペプチドが過剰反応で壊される

こと。

③グルタミンがアミノ末端になった時にはピ

ログルタミン酸(Pyr)が 生成すること,

である。

本研究では,新 たに見つけられた生姜ア ミノペ

プチダーゼ4)を利用する事によりこれら①②③の

問題解決を計ろうとしている。このアミノペプチ

ダーゼは以前から知られている生姜プロテアーゼ,

GP-1,GP-II5~14'22)とは全 く異なる性質を持つ酵

素であることが明らかにされた4)。この生姜アミ

ノペプチダーゼは最近良く使われている微生物系

のカルボキシペプチダーぜ5)やアミノペプチダー

ゼ16)や小麦カルボキシペプチダーゼ17)と異なり

「結果 と考察」の項に示すように基質特異性が高

く,安 定性も高いので上記①②の問題解決に合致

する可能性が高い。 また③の問題に対して合成基

質の一つであるピログルタミルーフェニルアラニ

ルーロイシルーp一ニ トロアニリド(Pyr-Phe-Leu-

pNA)18)を 使用 して,本 酵素がこの基質のアミノ

末端のPyr基 を加水分解する活性があるかどう

かをも本研究で検討した。

2.実 験 方 法

2.1実 験材料

京都府産,高 知県産,和 歌山県産のひね生姜及

び新生姜を使用した。カゼインはMerck社 製,

ペプチドやインヒビターは㈱ペプチ ド研究所(大

阪),化 学薬品は特級のものをナカライテスク社

(京都)よ り購入 した。陰イオ ン交換樹脂 の

WatersAccellPlusQMAはWaters社(米 国),

TSKgelSuperQとTSKG-2000SWとTSKG

-3000SWは 東ソ社製(東 京)で ある。

2.2酵 素活性の測定法

酵素活性は下記に示すような基質を使用して酵

2 浦上財団研究報告書Vol.8(2000)

素反応させ,405mnに おける吸光度を550型Bio

Rad社 製マイクロプレー トリーダー(米 国)で

測定した。

(1)ア ミノペプチダーゼの活性測定法

この活性はG.Pfleidererの 方法19)を以下のよ

うに変更 して測定した。マイクロプレー ト(12×

8穴)の 各穴に酵素溶液,DTT溶 液,緩 衝溶液

を加 え,ロ イ シンーp一ニ トロアニ リ ド(Leu-

pNA)を 加 え撹拝後,37°cで 反応 させる(Fig.

1)o

他のアミノ酸のp一ニ トロアニ リドを基質にす

る時も上記と同様の方法によった。

(2)プ ロテイナーゼ活性の測定法

生姜中のプロテイナーゼ活性の測定にはスクシ

ニルカゼインを基質にトリニトロベンゼンスルホ

ン酸発色法(TNBS法)を 使用 した。Fig.1に

示すようにHatakeyamaら の方法2°)の改変法に

よって行なった。 ここでの注意点はジチオスレイ

トール(DTT)の 使用量を正確に添加すること

である。なぜならDTTもTNBSと 反応 して発

色するからで,こ の発色を低 く押え一定値に安定

させる事が必要である。

(3)ペ プチダーゼ活性の測定法

生姜アミノペプチダーゼのペプチ ド基質に対す

る活性を測定するために,上 記プロテアーゼ活性

と同様の方法を使用した。基質にはS-3一 トリメ

チルア ミノプロピルーリゾチーム(TMA一 リゾチ

ーム)25),牛 インシュリン,バ シトラシン,ア スパ

ラチルフェニルアラニンメチルエステル(Asp-

Phe-OMe),Leu-Gly-Gly,Gly-Leu,Leu-Gly,

Met-Met,His-Leu,Gly-Phe,Pyr-Phe-Leu-

pNAを 濃度0.2~0.3mMで 使用した。

2.3生 姜アミノペプチダーゼの抽出と精製

生姜根茎を水洗後,ジ ューサーで搾汁を得た

(Fig.2)。 この搾汁液か らデンプンや不溶性のも

のを除くために6,000rpmで20分 間,遠 心分離し

た。 この上清に3倍 量のアセ トンを加え酵素タン

パク質を沈殿 させ,遠 心分離で集めリン酸バッフ

ァーに溶かす。これを遠心分離にかけ上清の粗酵

素を得た。上清中のア ミノペプチダーゼを分離精

製するために,陰 イオン交換樹脂のWatersAc-

cellPlusQMA一 カラムに吸着させるが,そ のた

Fyg.1AssaysofAminopeptidaseandProteinase

生姜アミノペプチダーゼのペプチ ド性食品に対する利用 3

Fig.2PurificationofGingerAminopeptidase

めに上清液のイオン強度を下げるために0.1mM

EDTAを 含む20mMリ ン酸バ ッファー,pH6,

に透析 した。透析後,こ れをQMA一 カラム(30

Φ×60mm)に 吸着させ次に0~0.5MNaClの グ

ラジエント溶出を行なった。

3.結 果 と考察

本研究では,未 知であった生姜アミノペプチダ

ーゼを抽出,精 製し酵素的性質を検討して,ペ プ

チドの脱苦味や ピログルタ ミルペプチドの除去な

ど,高 度な利用を計画 した。生姜プロテアーゼに

ついては,道 ら5'6},Tompsonら7》 の研究があり,

その後も数編,酵 素の精製,食 肉の軟化作用,酵

素の構造などの研究報告があるa‐ia,zz)。

3.1生 姜アミノペプチダーゼの精製 とHPLC

ゲル濾過クロマ トグラフィーによる分子

量測定

生姜か らアミノペプチダーゼを抽出するには

Fig.2に 示した方法で出来るが,こ の粗酵素には

生姜プロテアーゼ(GPIとGPII)6)が 混在して

おり生姜アミノペプチダーゼの酵素的性質を知る

ためには精製しなければならない。Fig.2の 粗酵

素からアミノペプチダーゼを分離精製するために

AccellPlusQMAの 陰イオン交換樹脂クロマ ト

グラフィーを試みたところ,Fig.3に 示すような

クロマトグラムが得 られた。このパターンからプ

ロテイナーゼ活性とアミノペプチダーゼ活性部分

がよく分離できていることが判明した。本研究で

はアミノペプチダーゼが必要なので,こ の部分を

さらに精製するために25mMり ん酸バッファー,

pH6.5に 透析し,TSKgelSuperQに 吸着させ

500mMり ん酸バッファーへのグラジエント溶出

を行なったところFig.4に 示 したような分離パ

ターンが得 られた。これによりプロテイナーゼ活

性部分が取除かれアミノペプチダーゼがかなり精

製されたと考えられる。 これを分子量的に更に精

Fig.3ChromatographyofGingerProteinasesonAccellPlusQMA

(GradientelutionofNaCIin20mMphosphate,pH6.0.)

4 浦上財団研究報告書Vo1.8(2000)

Fig.4ChromatographyofGingerAminoPeptidaseonToyopearlSuperQ

(Gradientelutionfrom25to500mMphosphte,pH6.5.)

製するために東ソ社製TSKG-3000SWに よる

HPLCゲ ル濾過クロマ トグラフィーを行なった。

その結果Fig.5に 示したように6~9分 と11~

15分には活性のない不純蛋白質が溶出され,9~

11分に精製生姜アミノペプチダーゼを得ることが

できた。 このHPLCゲ ル濾過 クロマ トグラフィ

ーにより分子量的に均一になったと考えられる。

このFig.5の 溶出パターンから,こ のHPLCゲ

ル濾過クロマ トグラフィーだけでも酵素蛋白質は

約10倍精製 されたと考えられる。また分子量66

K,45K,20Kダ ルトンのマーカー蛋白質をこの

HPLCゲ ル濾過クロマ トグラフィーにか けてプ

ロットすると,こ の生姜アミノペプチダーゼは溶

出位置から分子量が約48Kダ ル トンであること

が判明した。

3.2生 姜アミノペプチダーゼのポリアクリル

アミド電気泳動および活性染色

上記のHPLCゲ ル濾過 クロマ トグラフィーで

精製 されたアミノペプチダーゼの,SDSを 含 ま

ないLaemmliの ポリアクリルア ミド電気泳動21)

およびLeu-pNAに よる活性染色法で純度検定

を行なった。その結果Fig.6の 左端2レ ーンの

Fig.5Gel-chromatographyofGingerAminopeptidaseonTSKG-3000SWXLinO.15MCH,COONH,,pH7

生姜アミノペプチダーゼのペプチ ド性食品に対する利用 5

Fig.6Activity-stainingandCBB-stainingofGingerAminopeptidaseonNative-PAGE

トレーシングの四角い囲みに活性部分(原 点0か

ら先端FへRf=0.61)が あり,中 央2レ ーンは

その実写である。右端2レ ーンは同一試料の同一

電気泳動スラブでCBB染 色した もので,ス ポッ

トの中心は活性染色の中心とは異なっていて,不

純蛋白質が未だ含まれていることを示 していた。

焦点電気泳動23》の結果か らはこの活性部分 は

pI=4.7で あった4)。

3.3生 姜アミノペプチダーゼの酵素的性質

この精製生姜アミノペプチダーゼの酵素反応の

至適pHは5.5か ら8.0で あり,最 適 はpH6.5で

あり,酵 素反応の至適温度は30~70℃ で,最 高

は65°Cであった4)。この精製アミノペプチダーゼ

の活性測定はこれまでLeu-pNAを 使用 してき

たが,そ の他の合成基質すなわち種々のアミノ酸

のパ ラニ トロアニリドへの活性 を調べたのが

Fig.7で ある。この図からLeu-pNAが 最も良

い合成基質であることがわか る。 またGlu-y-

pNAに 対 して殆 ど活性がないということはこの

生姜アミノペプチダーゼには γ一グルタミルトラ

ンスペプチダーゼ活性がないことを示している。

このLeu-pNAに たいする生姜ア ミノペプチ

ダーゼのカイネテックパラメーター を求めたの

がFig.8で あ って,こ れ か らKm=0.35mM,

Vmax=1.75で あった。

Fig.7Hydrolysisofvariousaminoacidp-nitroanilides

Fig.8DeterminationofKineticparametersofG.Amino-

peptidase

この精製 した生姜ア ミノペプチダーゼの活性に

たいする各種阻害剤の影響を調べたのがFig.9

である。活性中心が システイン残基のいわゆる

SH一酵素に働 く阻害剤は4一チオン酸カリウム,

ヨード酢酸,ビ ニルピリジン,E-64,PCMS(p一

クロロマーキュリーフェニルスルホン酸)で ある

がPCMSだ けがこのアミノペプチダーゼを失活

させた。ペプシンのようなアスパラチル酵素に働

くのがエポキシp一ニ トロフェノキシプロパンと

ペプスタチンであるが,こ れらも生姜アミノペプ

チダーゼには反応 しなかった。カルボキシペプチ

ダーゼなどの金属酵素の活性阻害剤はEDTA,

o-phenanthrolineで あるが,こ れらも生姜アミ

ノペプチダーゼには反応しなかった。さらにアミ

ノペプチダーゼの活性阻害剤アマスタチンとべス

6 浦上財団研究報告書Vol.8(2000)

Fig.9EffectsofInhibitorsonG.Aminopeptidase

タチン26)を試みたが阻害反応は見られなかった。

以上の実験か ら現在のところPCMSの みがこの

酵素の阻害剤であるが,一 般にSH一 酵素ではシ

ステインやジチオスレイトールのような還元剤を

加えると水銀系の阻害剤で失活した場合は復活す

るが,こ のア ミノペプチダーゼはPCMS阻 害失

活後,還 元剤を加えても活性が戻らなかったので,

これが疑問点として残る。

3.4生 姜アミノペプチダーゼの各種ペプチ ド,

蛋白質,食 品に対する酵素作用

牛乳100m1をpH6.0に 調整し,こ れにキウィ

フルーツジュース5mlま たはキウィフルーツプ

ロテアーゼ24)を37℃で15分間作用 させ,生 成物の

官能テス トを行ない味覚を調べたところ,す でに

多 くの研究者が報告しているように3)苦味ペプチ

ド生成による苦味が生じた。この苦みを持った溶

液に風味の改善を図るため本研究で得た精製生姜

アミノペプチダーゼを加え37℃ で反応 させた。

その結果15分間で,ほ ぼその苦味を除去できた。

精製アミノペプチダーゼのかわ りに生姜ジュー

スの濾過液2m1を 加えても同じように苦味は

除去されたが,こ れでは色々なプロテアーゼが含

まれており脱苦味反応が,ど の酵素によるものか

特定できず,ま た生姜ジュースには他にも各種の

味物質が含まれているためその遮蔽効果 ともとら

れる。 しかし今回の実験で明らかにこの精製アミ

ノペプチダーゼが脱苦味の働 きを示した。

そこでこの精製生姜ア ミノペプチダーゼがどの

ようなペ プチドを分解 するか を調べた ところ

Fig.10に 示 した ようにMet-MetやLeu-Gly-

Glyに 対 してはかなり強い分解活性が見 られ,他

のペプチ ドに対しては殆 ど分解反応しなかった。

この他Gly-Pheや 人工甘味剤ペプチドのAsp-

Phe-OMeを も分解できなかった。さらに大きな

ペプチドやタンパク質のアミノ末端加水分解には

インシュリン,TMA一 リゾチーム,カ ゼインを

基質にして酵素反応させたがそれぞれのアミノ基

末端のアミノ酸の遊離は認められなかった。以上

の結果からこの酵素はかなり基質特異性の高いア

ミノペプチダーゼであると判明した。 この点で,

この酵素は本研究の②の目的(過 剰反応しないこ

と。)に合致 していると言える。

次に本研究の第三番目の目的,③ ピログルタミ

ン酸ペプチ ドのPyr基 除去作用を合成基質 の

Pyr-Phe-Leu-pNAで 検討した。この精製生姜

アミノペプチダーゼ とこの合成基質を反応させた

生姜アミノペプチダーゼのペプチ ド性食品に対する利用 7

Fig.10HydrolysisofVariousPeptideswithG.Aminopeptidase

だけでは黄色の発色(Leu-pNA問 の切断)は 認

められずエンド型プロテアーゼ加水分解が無いこ

とを示していた。またこの反応液にTNBS試 薬

を加 えても黄色の発色(Pyr-Phe間 の切断)は

無かったので脱ピログルタミン酸反応 もこの酵素

は触媒 しないことが判明した。

以上の諸性質の他に,こ の酵素は溶液状態で冷

蔵でも約2年 間活性が安定であった。 これはこの

酵素が比較的耐熱性があり食品加工利用に適して

いることを示している。

4.要 約

ペプチドは食品工業界で広く利用されてきてい

る。本研究では食品中の色々なペプチ ドに働 く生

姜アミノペプチダーゼを単離 ・精製しその利用に

っいて検討した。通常の方法では生姜プロテアー

ゼ類(GPI,GPII)か ら分離が困難であるが,

本研究では2種 のイオン交換クロマ トグラフィー

と分子飾クロマトグラフィーによって生姜アミノ

ペプチダーゼを単離 ・精製することができた。こ

の精製生姜アミノペプチダーゼは合成基質Leu-

pNA,Ala-pNA,Glu一 α一pNA,Glu一 γ一pNAの

うちLeu-pNAに 対して最 も活性が強力だった。

ペプチ ドに対してはMet-Met,Leu-Gly-Glyに

対して活性が強 く,Leu-Gly,Gly-Leu,His-Leu

に対 しては活性は殆ど無かった。食品の甘味料の

Asp-Phe-OMeに 対 して も活性は認め られなか

った。アミノ末端が特殊な抗生物質のバシ トラシ

ンや合成基質Pyr-Phe-Leu-pNAに 対しては活

性は認められなかった。さらに高分子基質のイン

シュリンやタンパク質基質のTMA一 リゾチーム

やカゼインに対して加水分解反応をさせたが活性

は認められなかった。

これらのことからこの生姜ア ミノペプチダーゼ

は,ご く限られたペプチ ドに対してだけ加水分解

活性があることが判明した。実際にプロテアーゼ

分解で苦味を発現した牛乳にこの精製酵素を作用

させると苦味は迅速に消滅する。このことからこ

の酵素は苦味をもつ疎水性アミノ末端ペプチドの

みに(特 異性の高い)脱 苦味作用し,か つ他のペ

プチ ド等には影響を与えない(過 剰反応の心配の

ない)酵 素であるといえる。 この精製酵素溶液は

4℃ で も酵素活性が2年 間以上保存されているよ

うに,ア ミノペプチダーゼ活性の安定性が良好で

あることを考え合わせると,食 品加工工程で脱苦

味 と過剰反応の問題を解決できる重要な酵素であ

ろう。

謝 辞

本研究に対し多大のこ助成を下さいました浦上

食品 ・食文化振興財団に厚く御礼申し上げます。

また,ご 協力頂きました江角尚子氏,廣 瀬香絵氏,

高橋典果氏に感謝 します。

8 浦上財団研究報告書voi.8(2000)

文 献

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UtilizationofGingerAminopeptidasefortheImprovementofVariousPeptidesinFood 9

UtilizationofGingerAminopeptidasefortheImprovementofVarious

PeptidesinFood

KozoOhtsuki,KenjiSatoandYasushiNakamura

(DepartmentFoodScienceNutritionHealth,K}-otoPrefecturalUniversity)

Thepeptidesinfoodproductshavebeenwidelyutilizedinfoodindustry.Inthis

reportfortheheigherutilizationofvariouspeptidesinfood,especiallyfordebittering

offoodpeptide,anewaminopeptidasewasisolatedandpurifiedfromgingerrhizome

(Zingiberofficinale)byion-exchange-andgel-chromatographies.Thisaminope-

ptidaseshoweddebitteringactivityagainstthebitternessofamilk-proteinhydrolysate

byakiwifruitprotease.ThisaminopeptidasecouldhydrolyseLeu-pNA,Leu-Gly-Gly

andMet-Metverywell.Ontheotherhand,theenzymedidnothydrolyseLeu-Gly,Gly

-Leu ,Gly-Phe,His-Leu,Glu-a-pNA,Glu-y-pNA,Asp-Phe-OMe(asweetener),

bacitracinandPyr-Phe-Leu-pNA.Thisaminopeptidasecouldnothydrolyselarger

peptidesandproteins,suchasInsulin,TMA-lysozymeandcasein.Sincetheenzyme

solutionisstableformorethantwoyearsat4°Cwithoutanylossoftheactivity,this

enzymewouldbeusefulinfoodprocessing.