年 月 日 tdm(therapeutic drug monitoring)...2016/6/2 1 モーニングレクチャー...
TRANSCRIPT
2016/6/2
1
モーニングレクチャー
抗菌薬とTDM
松山赤十字病院 ICT 薬剤部 宮岡 純也
2016年 6月 2日
TDM(Therapeutic Drug Monitoring)
血中の薬物濃度に基づいて投与量を設定
どんな薬が適応になるか?
・投与量と濃度の関係にばらつき
・治療域と毒性発現域が近い
・血中濃度と効果,副作用が相関
→血中濃度=薬物治療における指標の一つ
TDM対象薬剤
• ジゴキシン
• テオフィリン
• 抗てんかん薬(バルプロ酸、フェニトイン)
• 免疫抑制剤(タクロリムス、シクロスポリン)
• 抗不整脈薬
• 抗菌薬(グリコペプチド、アミノグリコシド)
• 抗真菌薬(ボリコナゾール)
グリコペプチド系
・抗MRSA薬のバンコマイシン、テイコプラニン
アミノグリコシド系
腎障害、耳毒性の副作用のため使用頻度少。
・ゲンタマイシン・・・グラム陽性球菌に相乗効果(IEに)
・トブラマイシン、アミカシン・・・グラム陰性桿菌用
・ストレプトマイシン・・・結核等の抗酸菌治療
・アルベカシン・・・MRSAに活性
TDM対象の抗菌薬
TDMを行う意義
Offensive 効果を最大限発揮させる
Defensive 安全性確保のため
+
抗MRSA薬
TDM推奨
• VCM バンコマイシン
• TEIC テイコプラニン(タゴシッド®)
• ABK アルベカシン(ハベカシン®)
TDM不要
• DAP ダプトマイシン(キュビシン®)
• LZD リネゾリド (ザイボックス®)
腎排泄
2016/6/2
2
①VCM:バンコマイシン
• MRSA感染症治療の標準薬
• 主な副作用:腎障害
• 急速投与でレッドマン症候群(アレルギー様症状)
→1時間以上かけて点滴(1gあたり)
VCMのTDM
1.タイミング
腎機能正常者では4~5回目の投与直前(3日目)にTDMを行う
2.採決ポイント
トラフ値を評価する。 トラフ値の採血は投与前30分以内に行う
3.目標濃度
目標トラフ値は10~20 ㎍/mLに設定する
【Ccr=70ml/min】 VCM1g×2回/day 【Ccr=20ml/min】 VCM1g×1回/day
VCMのTDM 1.タイミング
・腎機能正常者では4~5回目の投与直前(3日目)にTDMを行う
✔腎機能低下例では、血中濃度を過小評価する可能性あり
2.採決ポイント
・トラフ値を評価する。 トラフ値の採血は投与前30分以内に行う
✔ピーク値の測定は不要、トラフ値が効果・副作用と関連。
3.目標濃度
・目標トラフ値は10~20 ㎍/mLに設定する。
✔重症・複雑感染症では15~20 ㎍/mLとする
✔トラフ値20μg/mL以上は腎毒性が増加
VCMの血中トラフ濃度と腎障害の関係
5%
21% 20%
33%
0%
5%
10%
15%
20%
25%
30%
35%
40%
<10 mg/L(n=95)
10-15 mg/L(n=44)
15-20mg/L(n=15)
>20 mg/L(n=12)
Rat
e o
f n
eph
roto
xici
ty
Initial trough value,
Lodise T P et al. Clin Infect Dis. 2009;49: 507-514 ・20㎍/mL以上は腎毒性が高リスクになり推奨されない
2016/6/2
3
VCMの投与量
添付文書
・通常,1日2g(0.5g×4回) または (1g×2回)
・高齢者には,(0.5g×2回) または (1g×1回)
ガイドライン等
腎機能が正常な成人には
通常1回15~20mg/kgを12時間毎に投与する
腎機能 AUC (μg/hr/ml) 半減期 (hr)
70≦Ccr 90 3
50~70 95 7
30~50 163 11
15~30 375 20
Ccr<15 683 35
VCM0.5g1回投与
腎機能とVCM体内動態の関係
VCMの投与量目安
1g×3
1g×2
500mg×3、750mg×2
500mg×2、1g×1
750mg×1
500mg×1
500mg1~2日おき投与
50
100
30
CCr
透析患者:初回1~1.5g、透析毎(後)に500mg投与
20
GFR(糸球体ろ過量)
糸球体 ろ過
原尿:1日150L (約100ml/min) =糸球体ろ過量(GFR) glomerular filtration rate クレアチニン・クリアランス≒GFR
腎機能(糸球体濾過量)の推定
■Cockcroft-Gault式 (Cr クリアランス ) ml/min
(140-年齢)×体重kg
72 × 血清Cr (mg/dl)
■eGFR推算式 ml/min/ 1.73m2 →体表面積の考慮が必要
194×血清Cr -1.094×年齢 -0.287
(女性×0.85)
(女性×0.739)
BSA 1.73 ×
検査結果のeGFRは標準体格(1.73㎡)当たりの糸球体濾過量。 体格の小さな患者で、そのまま扱うと過量投与になりうる
2016/6/2
4
腎機能(糸球体濾過量)の推定
■Cockcroft-Gault式 (Cr クリアランス ) ml/min
(140-年齢)×体重kg
72 × 血清Cr (mg/dl)
■eGFR推算式 ml/min/ 1.73m2 →体表面積の考慮が必要
194×血清Cr -1.094×年齢 -0.287
(女性×0.85)
(女性×0.739)
BSA 1.73 ×
86歳 女性 体重41kg 血清クレアチニン 0.7mg/dl eGFR:59.0(電カル表示) CCr:37.7
eGFR推算式と実測GFRの相関
75%の症例が±30%の誤差に収まる程度 あくまで推測値
簡易式による推定GFR
実測
GFR
【Ccr=70ml/min】 VCM1g×2回/day 【Ccr=20】 VCM 0.5g×1回/day
目標濃度到達に時間がかかる
2016/6/2
5
【Ccr=20】 初回1g負荷、0.5g/day維持 負荷投与有りと無し
ローディングドーズ1g
腎機能正常者 ・・・1回1g×2~3回
腎機能低下例 ・・・初回1g、以後を調節投与
→急な場合は、とりあえず1g(通常量)投与することで差し支えない
②TEIC:テイコプラニン
• VCMと同系統(グリコペプチド系)
• 腎障害、レッドネック症はVCMより少ない
• 安全域も広い(TEIC:10~30、VCM:10~20)
• 半減期が非常に長い(40~150時間)
=定常状態になるまで時間がかかる
→ローディングドーズが必須
腎機能とTEIC体内動態
※VCM:半減期3~35時間
0 6 12 18 24
血中濃度
時間
半減期8時間
半減期 ・・・薬の濃度が1/2になるのに掛かる時間
点滴直後 2時間後 4時間後 6時間後 8時間後 12時間後
1
100% 25% 6.3% 1.6% 0.4% 0.02%
4
1
16
1
64
1
4096
1
256
1
半減期1時間
半減期1時間 半減期×2 ×4 ×6 ×8 ×12
半減期の4~5倍 ・通常投与で定常状態になる期間 ・薬が体内から抜けるのにかかる期間
2016/6/2
6
【Ccr=30ml/min】 TEIC200mg×1回/day
TEIC添付文書用法
初日 2日目以降
通常 400mg又は800mg/日 を2回に分けて
200mg又は400mg/日 1日1回
敗血症 800mg/日 を2回に分けて
400mg/日 1日1回
1バイアル=200mg
Ccr=70
Ccr=30
TEIC初日400mg×2、以後400mg/日 TEICのTDM目標値
・目標トラフ値は10~30µg/mL、専門家は15µg/mL以上を推奨している
・重症例、難治例(心内膜炎,骨感染)は、20µg/mL以上に設定 (20以下で治療失敗例の報告)
・ 30µg/mL以上の維持は有効性の報告無く、
コスト面からも推奨しない
・ トラフ値40~60以上では、腎・肝・血液毒性の報告
TEICトラフ20µg/mL以上における腎障害発現率
TEICトラフ最高値 腎障害発現率
20~25 7/129例 5.2%
25~30 9/47例 19.1%
30~40 1/23例 4.3%
≧40 0/5例 0%
腎障害発現率 8.3%(17/204例)
腎障害による治療中断 2.5%(5/204例)
2012日本化療学会抗菌薬TDM ガイドライン作成委員会報告
トラフ値と腎機能低下の発生率の間に正の相関は認められなかった
トラフ濃度 (µg/mL)
腎障害発現率 P値
VCM TEIC
20~25 15/39 (38.5%) 7/61 (11.5%) 0.003
25~30 7/13 (53.8%) 3/22 (13.6%) 0.005
≧30 10/18 (55.6%) 1/13 (7.7%) 0.008
Total 32/60 (45.7%) 11/9 (11.5%) <0.001
高トラフ値におけるVCMとTEICの腎障害の比較
日本化学療法学会雑誌 2012; 60: 157-161
TEIC はVCM と比較して, トラフ値≧20 μ gmL における腎機能障害の発現リスクは少ない
2016/6/2
7
TEIC高用量投与
通常投与 (初日800mg、以降400mg/日)
高用量投与 (初日1600mg、以降800mg/日)
初回のTDMでトラフ15µg/mL以上とするには
一般的なローディングドーズでは不十分、エキスパートは400mg、1日2回を2日間連続投与を推奨している。 さらなる高用量レジメンも検討されている
上田康晴 他.日本化学療法学会雑誌 2007; 55: 8-15
トラフ 4日目 9.4 vs 16.3 µg/mL
8日目 12.2 vs 20.5 µg/mL
×2 ×2 ×2 ×2
1日目 2日目 3日目
3日目以降~は腎機能に応じて投与
TEICローディングドーズ
×2 ×3 ×3
TEICのすすめ
・腎障害の副作用が懸念される際のVCMの代替に
・血中濃度が上がりにくいためローディングドーズ必須
・重症例には積極的なローディングドーズ、高めのトラフ値を考慮
③ABK:アルベカシン
・アミノグリコシド系→グラム陰性桿菌に活性有
・肺炎、菌血症、皮膚軟部組織感染等
いずれにも第一選択薬としての推奨無し
濃度依存性抗菌薬
ピーク値 9-20 ㎍/mL (治療効果)
トラフ値 2 ㎍/mL以下 (腎毒性)
同じABK 180mg/日でも
ピーク値を確保 → 1回投与量は充分に
トラフ値を下げるため → 分割投与しない
ABKのPK-PD
推奨指標:Cpeak/MIC≧8
MIC=1 (S) ・・・ピーク8
MIC=2 (S) ・・・ピーク16 → 200mg/回でぎりぎり
MIC=4 (S) ・・・ピーク32 →臨床投与量では困難
MIC=8 (I) ・・・ピーク64
腎機能高度低下例
1回投与量を確保するとトラフ<2が困難
トラフ<2に合わせるとピーク不十分、投与数日おき
2016/6/2
8
④DAP:ダプトマイシン
・環状リポペプチド系抗菌薬 ・1日1回投与(ボーラス投与も可能)
皮膚感染:4mg/kg 敗血症:6mg/kg (8~10mg/kg高用量も推奨) ・TDMは不要、CCR<30で1日おき投与へ減量 副作用:骨格筋障害(週1でCPKをチェック)
DAP:ダプトマイシン
・肺胞で不活性化されるため肺炎には不可
・皮膚や骨への組織移行は良好(DM患者でも)
髄液移行性は悪い
・添付文書:右心系感染性心内膜炎にのみ使用すること (→試験での症例数が限られていたため、その後左心系での有効報告も見られる)
⑤リネゾリド(ザイボックス®)
・肝,腎,体重による調節不要
(成人:1回600mg、1日2回)
・内服でも注射と同等の体内動態を示す
・副作用:骨髄抑制(血小板↓) 14日以上で頻度増!
視神経障害・・・原則28日まで
・相互作用:SSRIなどのセロトニン作動薬との併用で稀にセロトニン症候群(錯乱、せん妄、情緒不安、振戦、潮紅、発汗、超高熱)
messages
★抗菌薬使用時は腎機能に注意する
★腎機能はeGFR、CCRを指標にする
(eGFRはBSA 1.73㎡あたりの値)
★推定値でしかないため、実際の患者さんの 状態を考慮する