ブレイクスルーと文学 - the breakthrough and literature
DESCRIPTION
DevLOVE Beautiful Development ソフトウェアの核心にある複雑さに立ち向かう(2011/04/09)発表資料。 http://kokucheese.com/event/index/9530/TRANSCRIPT
ブレイクスルーと文学
April 9, 2011Tadayoshi Sato
http://ameblo.jp/ouobpo
The Breakthrough and Literature
でも、わかっているでしょう、私たちのあいだに名前があってはならないのです。
— Maurice Blanchot, 『私についてこなかった男』
• 仕事- Software AG 株式会社
webMethods コンサルタント- 書籍の執筆/翻訳など• Web- ブログ: http://ameblo.jp/ouobpo
- Twitter: tadayosi
• 趣味- Kindleで読書- 日本ベジタリアン協会会員
佐藤 匡剛(さとう ただよし)
http://www.flickr.com/photos/robertnyman/189691155/
本日のDDDパターン:
腐敗防止層(ANTICORRUPTION LAYER) 新しいシステムを構築していて、それが他のシステムと接する巨大なインタフェースを持たなければならないという場合、2つのモデルを関係づけることが難しいと、最終的にはその新しいモデルの意図は完全に圧倒されてしまい、結果として、もう1つのシステムのモデルに似せようとその場しのぎで修正せざるを得なくなるかもしれない。レガシーシステムのモデルは貧弱であるのが普通だが、例外的にうまく開発されていても、現在のプロジェクトの要求には合わないかもしれない。それでも、統合することには多くの価値が見出されるかもしれないし、それが絶対的な要件になっていることもある。それゆえ: 隔離するためのレイヤを作成することによって、クライアントに対して、独自のドメインモデルの用語で表現された機能を提供すること。この層は、既存のインタフェースを通して他のシステムと通信するので、他のシステムを修正する必要はほとんどないか、全くないこともある。内部的には、このレイヤが必要に応じて、2つのモデル間での変換を両方向に対して行う。
(Eric Evans, 『エリック・エヴァンスのドメイン駆動設計』より)
今日考えたいこと
ドメイン駆動設計の本質について
http://www.flickr.com/photos/redisdead/4341418604/
ドメイン駆動設計とは
• ドメインモデルをチームの共通言語とする
• ドメインモデルを実装と常に結びつける
• 継続的な知識のかみ砕きとリファクタリングによってドメインモデルを深める
http://www.flickr.com/photos/dalbera/3306523739/
ドメインモデルとは何か?
「ドメインモデルとは特定の図ではなく、図が伝えようとしている考え方である。これはドメインエキスパートの頭の中にある単なる知識ではなく、その知識が厳密に構成され、選び抜かれて抽象化されたものなのだ。」(p. 3)
(Eric Evans, 『エリック・エヴァンスのドメイン駆動設計』より)
モデルドキュメント
UML図
ソースコード
...
会話
(頭の中)
様々なビュー
モデルは頭の中にある
開発者とエキスパート
より深い洞察へ向かうリファクタリング
• 最初から核心を突いたモデルを得ることはできない
• 知識のかみ砕き、継続的学習によりモデルを洗練させ続けるしかない
「知識のかみ砕きは探求だから、最終的にどこへ行き着くかはわからないのだ。」(p. 3)
「モデリングは他の探究と同じように、本質的に構造化されていないのだ。より深い洞察へ向かうリファクタリングは、学習と深い思考が導く所であれば、どこへでも従っていかねばならない。」(p. 191)
(Eric Evans, 『エリック・エヴァンスのドメイン駆動設計』より)
ブレイクスルーBreakthrough
http://www.flickr.com/photos/wolfgangstaudt/2217173388/
深いモデルを見出す瞬間
(Eric Evans, Domain-Driven Design より)
ブレイクスルーは出来事である
• テクニックではない• いつ訪れるかは分からない• ただ到来を準備するのみ- 知識のかみ砕きとモデルのリファクタリング- しなやかな設計
そのモデルは本当に核心のモデルなのか?
http://www.flickr.com/photos/thedjudjubeast/406938928/
ドメイン駆動設計の本質
• ドメインモデルとは常に到達不可能な不在の中心
• その不在の中心へと向かう運動こそがドメイン駆動設計
たとえ断片的な書物であっても、書物というものは、それを引き寄せるひとつの中心を持っている。それは固定した中心ではなく、その書物の圧力や、その構成の持つ種々の状況によって、移動する。またそれは、固定した中心でもある。それが真の中心なら、それは、つねに同一でありつつ、ますます中心的な、かくれた、不確実な、否応ないものになりつつ移動するのだ。書物を書く人は、この中心への欲求と無知によって書いている。この中心に触れたと感ずるのは、これに達したという錯覚でしかありえまい。
(Maurice Blanchot, 『文学空間』より)
モーリス・ブランショ(1907 - 2003)
• 20世紀最大の文学批評家・小説家(フランス)
- 『文学空間』『来るべき書物』『謎の男トマ』• 20世紀までの文学をまとめ上げた
- 作家は、到達不可能な中心としての作品を追究する- 作品を完成すると作家は死に、作品は「文学空間」に存在し続ける
• 言葉 = 記号
- シニフィアン(記号の実体)
- シニフィエ(記号が指し示すもの)
• 言葉はそのシニフィエを抹消する
言葉の力
死の経験
• 死 = 不可能(経験できない)
- 人間は、死につつあることしかできない
- 経験できるのは、常に「他者の死」
文学とは• 作家は作品を書き続けるが、作品が完成すると作品は作家から切り離される
- 言葉の力、死の経験- オルフェウスの注視、セイレーンの声• 作品は文学空間に存在し続ける- 「終わりなきもの止まざるもの」• 本質的孤独、彷徨
ステファヌ・マラルメ(1842 - 1898)
• フランスの象徴派詩人- 『骰子一擲』• 完全なる「作品」- 「ある純粋な作品の恐るべきヴィジョン」
フランツ・カフカ(1883 - 1924)
• チェコの実存主義小説家- 『変身』• 一人称(私)→三人称(彼)- 「猟師グラックス」
エリック・エヴァンス(19?? - 現在)
• アメリカのシステムエンジニア- 『エリック・エヴァンスのドメイン駆動設計』
• 核心を突いたドメインモデルを追究するソフトウェア設計思想を提唱
http://www.domainlanguage.com
DDDはどこへ向かうのか
• DDDの実践に作家としての覚悟は必要なのか
- 本質的孤独、彷徨• 企業の営利活動と本質の追究にどう折り合いをつけるか
- ただし、文学も営利活動• 作品としてのドメインモデルは登場するか- TimeAndMoney
ご清聴ありがとうございました