0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 45% 50% 4 ......ついては,どの校種も...

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4.校種間の比較から見えるキャリア教育の現状と課題 キャリア教育を通じて育成したい力を学校の特色や児童生徒の実態に応じて明確 化しているのは,小学校の約5割,中学校の約6割,高等学校の約6割である。他 方で,各教科(・科目)等での学習のうち一部をキャリア教育として位置付け,実 施しているのは,小学校では約6割であるが,中学校では約4割,高等学校では約 3割にとどまる。教育課程全体をキャリア教育の観点から整理しているのは,小学 校の約2割,中学校の約3割,高等学校の約2割に限られる(→ A)。 キャリア教育の全体計画を立てている学校は,小学校と高等学校の約8割,中学校 の約9割である。また,年間指導計画を立てている学校は,小学校の約5割,中学 校,高等学校の約8割となっている。一方,計画通りに実施していると回答した学 校の割合は小学校の約4割,中学校,高等学校の約7割にとどまる。検証改善サイ クルのうちの評価と改善を実施している学校は,どの校種も4割に達していない。 検証改善サイクルの確立はなお課題である(→ A)。 「『 キ ャ リ ア・パ ス ポ ー ト 』を 作 成 し て い な い 」学 校 は ,小 学 校 で 約 7 割 ,中 学 校 で 約6割,高等学校で約5割に上る(→ B)。 「1冊のノートやファイルとしてまとめている」という様式を選択する学校が最多 であるものの,「キャリア・パスポート」を実施している学校のおよそ半数にとどま る。「学年をまたいで継続的に蓄積している」や「学年等に応じて,異なるフォーマ ットを使用している」を選ぶ学校も多くはない。様式の観点からは模索の段階にあ ることがうかがえる(→ B)。 「キャリア・パスポート」の記載内容については「自己の成長(がんばったこと)」 がどの校種でも採用されている。趣旨にのっとって「キャリア・パスポート」が普 及しつつあることが見て取れる。一方,中学校では「事業所における体験活動の記 録・振り返り」,高等学校では「学校行事の記録・振り返り」も多く選ばれており, 校種ごとの特色もかいま見える(→ B)。 他の校種への引継ぎが行われている学校は多くはない。「キャリア・パスポート」の 「校種を越えて持ち上がる」機能の充実については喫緊の課題である(→ B)。 「キャリア・パスポート」を児童生徒理解に活用している教員のうち,児童生徒 の学習意欲の向上を実感している者が担任する児童生徒の学習意欲の高まりにつ いて確認すると,教員と児童生徒の認識の一致状況については校種による違いが 見られる。今後,児童生徒理解に資するものとなるよう,更なる「キャリア・パ スポート」の開発・改善が望まれる。(→トピックス)。 A キャリア教育におけるカリキュラム・マネジメントの現状と課題 これまでキャリア教育は「特定の活動や指導方法に限定されるものではなく,様々 な 教 育 活 動 を 通 し て 実 践 さ れ る 」も の で あ り ,「 一 人 一 人 の 発 達 や 社 会 人・職 業 人 と し − 39 −

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Page 1: 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 45% 50% 4 ......ついては,どの校種も 40%に達しておらず,課題 であることがうかがえる。 キャリアの「発達を促すには

4.校種間の比較から見えるキャリア教育の現状と課題

・ キャリア教育を通じて育成したい力を学校の特色や児童生徒の実態に応じて明確化しているのは,小学校の約5割,中学校の約6割,高等学校の約6割である。他方で,各教科(・科目)等での学習のうち一部をキャリア教育として位置付け,実施しているのは,小学校では約6割であるが,中学校では約4割,高等学校では約3割にとどまる。教育課程全体をキャリア教育の観点から整理しているのは,小学校の約2割,中学校の約3割,高等学校の約2割に限られる(→A)。

・ キャリア教育の全体計画を立てている学校は,小学校と高等学校の約8割,中学校の約9割である。また,年間指導計画を立てている学校は,小学校の約5割,中学校,高等学校の約8割となっている。一方,計画通りに実施していると回答した学校の割合は小学校の約4割,中学校,高等学校の約7割にとどまる。検証改善サイクルのうちの評価と改善を実施している学校は,どの校種も4割に達していない。検証改善サイクルの確立はなお課題である(→A)。

・ 「『キャリア・パスポート』を作成していない」学校は,小学校で約7割,中学校で約6割,高等学校で約5割に上る(→B)。

・ 「1冊のノートやファイルとしてまとめている」という様式を選択する学校が最多であるものの,「キャリア・パスポート」を実施している学校のおよそ半数にとどまる。「学年をまたいで継続的に蓄積している」や「学年等に応じて,異なるフォーマットを使用している」を選ぶ学校も多くはない。様式の観点からは模索の段階にあることがうかがえる(→B)。

・ 「キャリア・パスポート」の記載内容については「自己の成長(がんばったこと)」がどの校種でも採用されている。趣旨にのっとって「キャリア・パスポート」が普及しつつあることが見て取れる。一方,中学校では「事業所における体験活動の記録・振り返り」,高等学校では「学校行事の記録・振り返り」も多く選ばれており,校種ごとの特色もかいま見える(→B)。

・ 他の校種への引継ぎが行われている学校は多くはない。「キャリア・パスポート」の「校種を越えて持ち上がる」機能の充実については喫緊の課題である(→B)。

・ 「キャリア・パスポート」を児童生徒理解に活用している教員のうち,児童生徒の学習意欲の向上を実感している者が担任する児童生徒の学習意欲の高まりについて確認すると,教員と児童生徒の認識の一致状況については校種による違いが見られる。今後,児童生徒理解に資するものとなるよう,更なる「キャリア・パスポート」の開発・改善が望まれる。(→トピックス)。

A キャリア教育におけるカリキュラム・マネジメントの現状と課題

これまでキャリア教育は「特定の活動や指導方法に限定されるものではなく,様々な教育活動を通して実践される」ものであり,「一人一人の発達や社会人・職業人とし

*p<.05

図 4 キャリア教育の課題 ※優先順位の高いもの 3 つ選択

6.1%

10.7%

15.6%

26.6%

31.6%

9.0%

39.3%

18.4%

25.4%

10.7%

2.0%

17.6%

15.6%

13.1%

15.6%

4.9%

3.7%

4.1%

11.5%

4.8%

11.0%

20.5%

30.8%

28.1%

10.3%

38.4%

16.4%

32.2%

11.0%

2.1%

11.0%

11.0%

10.3%

15.8%

3.4%

6.2%

3.4%

14.4%

8.9%

8.9%

21.9%

25.4%

29.6%

6.5%

35.5%

14.2%

40.8%

10.1%

2.4%

13.0%

14.8%

9.5%

12.4%

8.3%

5.3%

5.9%

13.0%

9.3%

11.1%

22.2%

27.8%

33.3%

11.1%

37.0%

11.1%

35.2%

9.3%

0.0%

11.1%

13.0%

13.0%

20.4%

3.7%

3.7%

1.9%

18.5%

0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 45% 50%

キャリア教育の計画の作成にあたって,ガイダンスの機能の充実を図ること

キャリア教育の計画の作成にあたって,カウンセリングの機能の充実を図ること

生徒の実態や学校の特色,地域の実態を反映した計画を立案すること

生徒が,学年末や卒業時までに「〇〇ができるようになる」など,具体的な目標を立てること

教育課程全体をキャリア教育の観点から整理すること

各教科・科目等の学習のうち適したものを,キャリア教育として位置付け,実施すること

取組の目標や方法,育てたい力などについて,教員間や校務分掌間で共通理解を図ること

キャリア教育の担当者を中心とする組織体制を確立すること

教員がキャリア教育に関する研修などに参加し,指導力の向上を図ること *

保護者や地域,外部団体との連携を図ること

キャリア教育に関して他校との連携を図ること

キャリア教育の取組に対して評価を行うこと

キャリア教育の評価結果に基づいて取組の改善を行うこと

キャリア教育を実施するための時間を確保すること

キャリア教育のための予算を確保すること

キャリア教育にかかわる体験活動(就業体験活動(インターンシップ)やボランティア活動,アカデミック・インターンシップ等)を実施すること

キャリア教育にかかわる体験活動の前後の学習を,事前指導・事後指導として関連づけること

キャリア・カウンセリングを実施すること

「キャリア・パスポート」を活用すること

普通科進学校(N=244)普通科進路多様校(N=146)専門学科(N=169)総合学科(N=54)

− 39 −− 38 −

Page 2: 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 45% 50% 4 ......ついては,どの校種も 40%に達しておらず,課題 であることがうかがえる。 キャリアの「発達を促すには

ての自立を促す視点から,変化する社会と学校教育との関係性を特に意識しつつ,学校教育を構成していくための理念と方向性を示すもの」(「今後の学校におけるキャリア教育・職業指導の在り方について(答申)」,平成 23 年)とされてきた。このことは,平成 29・30 年告示学習指導要領におけるカリキュラム・マネジメントの3つの側面とその趣旨を同じくするものと考えられる。そこで,カリキュラム・マネジメントの3つの側面のうち,①教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと,②教育課程の実施状況を評価してその改善を図っていくこと,の2点に照らして,キャリア教育の現状を示す。 キャリア教育の現状を尋ねた項目のうち,キャリア教育の目標達成に必要な教育内容の配列に関する項目を抜粋したのが図1である。キャリア教育を通じて育成したい力を学校の特色や児童生徒の実態に応じて明確化しているかについては,小学校の53.7%,中学校の 60.1%,高等学校の 60.8%が,全校的に行っている(設問の表現では「当てはまる」)と回答している。他方で,各教科(・科目)等での学習のうち適したものを,キャリア教育として位置付け,実施しているかについては,小学校では 66.2%で行われているが,中学校では 36.4%,高等学校では 29.1%で行われるにとどまっている。さらに,教育課程全体をキャリア教育の観点から整理しているかについては,行っているのは小学校の 19.7%,中学校の 25.0%,高等学校の 23.9%に限られている。図2に示すとおり,全体計画は小学校の 79.9%,中学校の 89.9%,高等学校の 79.9%で立てられており,年間指導計画も小学校の 50.5%,中学校の 80.8%,高等学校の 77.3%で立てられるようになっていることから,こうした計画の作成時に,育成したい力を学校の特色や児童生徒の実態に応じて明確化することや,各教科(・科目)等での学習で適したものをキャリア教育として位置付けること等を一層意識することが望まれる。こうした観点からの計画の作成は,教育課程全体をキャリア教育の観点で整理することに資するものと考えられる。 他方で,教育課程の実施状況の評価改善という観点から,キャリア教育の現状を尋ねた項目のうち関連するものを抜粋したのが図3である。計画を立てている学校の割合に比して,計画通りに実施していると回答した学校の割合は下回っており,小学校の 38.8%,中学校の 67.7%,高等学校の 66.5%にとどまっていることが見て取れる。不測の事態等による計画変更でなければ,立てた計画が活用されない事態は徒労感を招きかねないため,避けられるべきであろう。また,評価と改善を実施している学校については,どの校種も 40%に達しておらず,課題であることがうかがえる。 キャリアの「発達を促すには,外部からの組織的・体系的な働きかけが不可欠」(「今後の学校におけるキャリア教育・職業指導の在り方について(答申)」,平成 23 年)とされていることに鑑みても,①教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと,②教育課程の実施状況を評価してその改善を図っていくことについては今後も一層の充実を図る必要がある。

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Page 3: 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 45% 50% 4 ......ついては,どの校種も 40%に達しておらず,課題 であることがうかがえる。 キャリアの「発達を促すには

図1 キャリア教育の現状(学校調査 小学校問 13,中学校問 13,高等学校問 15)

図2 全体計画・年間指導計画の有無

(学校調査 小学校問 4(1)A, 4(2)A,中学校問 4(1)A, 4(2)A,高等学校問 5(1)A, 5(2)A)

図3 キャリア教育の現状(学校調査 小学校問 13,中学校問 13,高等学校問 15)

B 「キャリア・パスポート」の現状と課題

平成 29・30 年告示学習指導要領に基づき,特別活動において「学校,家庭及び地域における学習や生活の見通しを立て,学んだことを振り返りながら,新たな学習や生活への意欲につなげたり,将来の生き方を考えたりする活動を行う」こととなった。その際に,児童生徒が「活動を記録し蓄積する教材等」(以下,「キャリア・パスポート」)

53.7%

60.1%

60.8%

66.2%

36.4%

29.1%

19.7%

25.0%

23.9%

0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0%

小学校

中学校

高等学校

キャリア教育を通じて育成したい力を貴校の特色や児童/生徒の実態に応じて明確化している各教科(・科目)等での学習のうち適したものを,キャリア教育として位置付け,実施している教育課程全体をキャリア教育の観点から整理している

79.9%

89.9%

79.9%

50.5%

80.8%

77.3%

0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0%

小学校

中学校

高等学校 全体計画年間指導計画

38.8%

67.7%

66.5%

18.3%

36.6%

32.0%

15.4%

33.1%

28.8%

0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0%

小学校

中学校

高等学校

キャリア教育の諸計画は,計画通り実施されているキャリア教育の取組に対して評価を行っているキャリア教育の評価結果に基づいて取組の改善を行っている

ての自立を促す視点から,変化する社会と学校教育との関係性を特に意識しつつ,学校教育を構成していくための理念と方向性を示すもの」(「今後の学校におけるキャリア教育・職業指導の在り方について(答申)」,平成 23 年)とされてきた。このことは,平成 29・30 年告示学習指導要領におけるカリキュラム・マネジメントの3つの側面とその趣旨を同じくするものと考えられる。そこで,カリキュラム・マネジメントの3つの側面のうち,①教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと,②教育課程の実施状況を評価してその改善を図っていくこと,の2点に照らして,キャリア教育の現状を示す。 キャリア教育の現状を尋ねた項目のうち,キャリア教育の目標達成に必要な教育内容の配列に関する項目を抜粋したのが図1である。キャリア教育を通じて育成したい力を学校の特色や児童生徒の実態に応じて明確化しているかについては,小学校の53.7%,中学校の 60.1%,高等学校の 60.8%が,全校的に行っている(設問の表現では「当てはまる」)と回答している。他方で,各教科(・科目)等での学習のうち適したものを,キャリア教育として位置付け,実施しているかについては,小学校では 66.2%で行われているが,中学校では 36.4%,高等学校では 29.1%で行われるにとどまっている。さらに,教育課程全体をキャリア教育の観点から整理しているかについては,行っているのは小学校の 19.7%,中学校の 25.0%,高等学校の 23.9%に限られている。図2に示すとおり,全体計画は小学校の 79.9%,中学校の 89.9%,高等学校の 79.9%で立てられており,年間指導計画も小学校の 50.5%,中学校の 80.8%,高等学校の 77.3%で立てられるようになっていることから,こうした計画の作成時に,育成したい力を学校の特色や児童生徒の実態に応じて明確化することや,各教科(・科目)等での学習で適したものをキャリア教育として位置付けること等を一層意識することが望まれる。こうした観点からの計画の作成は,教育課程全体をキャリア教育の観点で整理することに資するものと考えられる。 他方で,教育課程の実施状況の評価改善という観点から,キャリア教育の現状を尋ねた項目のうち関連するものを抜粋したのが図3である。計画を立てている学校の割合に比して,計画通りに実施していると回答した学校の割合は下回っており,小学校の 38.8%,中学校の 67.7%,高等学校の 66.5%にとどまっていることが見て取れる。不測の事態等による計画変更でなければ,立てた計画が活用されない事態は徒労感を招きかねないため,避けられるべきであろう。また,評価と改善を実施している学校については,どの校種も 40%に達しておらず,課題であることがうかがえる。 キャリアの「発達を促すには,外部からの組織的・体系的な働きかけが不可欠」(「今後の学校におけるキャリア教育・職業指導の在り方について(答申)」,平成 23 年)とされていることに鑑みても,①教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと,②教育課程の実施状況を評価してその改善を図っていくことについては今後も一層の充実を図る必要がある。

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Page 4: 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 45% 50% 4 ......ついては,どの校種も 40%に達しておらず,課題 であることがうかがえる。 キャリアの「発達を促すには

を活用することが予定されている。 平成 29・30 年告示学習指導要領の完全実施に向けて,移行期間に入っている令和元(平成 31)年度での各校種の「キャリア・パスポート」にかかる取組状況を示したのが図4である。選択肢の表現の関係で,図に示したのは「『キャリア・パスポート』を作成していない」を選択した割合である。小学校においては 74.8%の学校が,中学校においては 55.8%の学校が,高等学校においては 48.0%の学校が「作成していない」と回答している。 「キャリア・パスポート」の活用に既に取り組み始めている,小学校の 25.2%,中学校の 44.2%,高等学校の 52.0%でどのような様式を採用しているかを示したのが図5である。いずれの校種においても,最多であった選択肢は「1冊のノートやファイルとしてまとめている」であるが,それでも各校種でおよそ半数の学校にとどまっている。また,次に選ばれた選択肢である「学年をまたいで継続的に蓄積している」(小学校,高等学校)ないし「学年等に応じて,異なるフォーマットを使用している」(中学校)も,小学校の 9.5%,高等学校の 22.1%,中学校の 14.1%と多くはない。様式については,模索の段階にあることがうかがえる。 これらの「キャリア・パスポート」にどのような記載内容が採用されているかを示したのが図6である。「自己の成長(がんばったこと)」はどの校種でも採用されている。趣旨にのっとって「キャリア・パスポート」が普及しつつあることが見て取れる一方,中学校では「事業所における体験活動の記録・振り返り」,高等学校では「学校行事の記録・振り返り」も多く選ばれており,校種ごとの特色もかいま見える。 移行期間で既に取り組み始めている学校で得られた実践の知見が共有され,今後,

各地域・各学校にて「キャリア・パスポート」の更なる推進と充実が図られることが期待される。その際の課題として,既に取り組んでいる学校においても他の校種に引継ぎが行われている学校は決して多くはないことが挙げられる(図7)。「キャリア・パスポート」の「校種を越えて持ち上がる」機能の充実については喫緊の課題である。

図4 「『キャリア・パスポート』を作成していない」の選択割合 (学校調査(小学校問 15(1),中学校問 15(1),高等学校問 17(1)))

74.8%

55.8%

48.0%

0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0%

小学校

中学校

高等学校

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図5 「『キャリア・パスポート』をどのように作成していますか」の選択肢上位2つ

(学校調査(小学校問 15(1),中学校問 15(1),高等学校問 17(1)))

図6 「キャリア・パスポート」の記載内容の選択肢上位2つ

(学校調査(小学校問 15(2),中学校問 15(2),高等学校問 17(2)))

図7 「キャリア・パスポート」の引継ぎの現状

(学校調査(小学校問 15(1),中学校問 15(1),高等学校問 17(1)))

13.7%

9.5%

23.5%

14.1%

26.5%

22.1%

0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0%

1冊のノートやファイルとしてまとめている

学年をまたいで継続的に蓄積している

1冊のノートやファイルとしてまとめている

学年等に応じて,異なるフォーマットを使用している

1冊のノートやファイルとしてまとめている

学年をまたいで継続的に蓄積している

小学校

中学校

高等学校

23.6%

19.4%

35.9%

34.1%

36.9%

35.1%

0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0%

自己の成長(がんばったこと)

今後の課題(これからがんばりたいこと)

自己の成長(がんばったこと)

事業所における体験活動(職場体験活動等)の記録・振り返り

学校行事の記録・振り返り

自己の成長(がんばったこと)

小学校

中学校

高等学校

7.9%

6.4%

3.6%

0.9%

0.0% 2.0% 4.0% 6.0% 8.0% 10.0%

中学校に引き継いでいる

小学校で蓄積されたものを引き継いでいる

高等学校等に引き継いでいる

中学校で蓄積されたものを引き継いでいる

小学校

中学校

高等学校

を活用することが予定されている。 平成 29・30 年告示学習指導要領の完全実施に向けて,移行期間に入っている令和元(平成 31)年度での各校種の「キャリア・パスポート」にかかる取組状況を示したのが図4である。選択肢の表現の関係で,図に示したのは「『キャリア・パスポート』を作成していない」を選択した割合である。小学校においては 74.8%の学校が,中学校においては 55.8%の学校が,高等学校においては 48.0%の学校が「作成していない」と回答している。 「キャリア・パスポート」の活用に既に取り組み始めている,小学校の 25.2%,中学校の 44.2%,高等学校の 52.0%でどのような様式を採用しているかを示したのが図5である。いずれの校種においても,最多であった選択肢は「1冊のノートやファイルとしてまとめている」であるが,それでも各校種でおよそ半数の学校にとどまっている。また,次に選ばれた選択肢である「学年をまたいで継続的に蓄積している」(小学校,高等学校)ないし「学年等に応じて,異なるフォーマットを使用している」(中学校)も,小学校の 9.5%,高等学校の 22.1%,中学校の 14.1%と多くはない。様式については,模索の段階にあることがうかがえる。 これらの「キャリア・パスポート」にどのような記載内容が採用されているかを示したのが図6である。「自己の成長(がんばったこと)」はどの校種でも採用されている。趣旨にのっとって「キャリア・パスポート」が普及しつつあることが見て取れる一方,中学校では「事業所における体験活動の記録・振り返り」,高等学校では「学校行事の記録・振り返り」も多く選ばれており,校種ごとの特色もかいま見える。 移行期間で既に取り組み始めている学校で得られた実践の知見が共有され,今後,

各地域・各学校にて「キャリア・パスポート」の更なる推進と充実が図られることが期待される。その際の課題として,既に取り組んでいる学校においても他の校種に引継ぎが行われている学校は決して多くはないことが挙げられる(図7)。「キャリア・パスポート」の「校種を越えて持ち上がる」機能の充実については喫緊の課題である。

図4 「『キャリア・パスポート』を作成していない」の選択割合 (学校調査(小学校問 15(1),中学校問 15(1),高等学校問 17(1)))

74.8%

55.8%

48.0%

0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0%

小学校

中学校

高等学校

− 43 −− 42 −

Page 6: 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 45% 50% 4 ......ついては,どの校種も 40%に達しておらず,課題 であることがうかがえる。 キャリアの「発達を促すには

トピックス 児童生徒の学習意欲を「キャリア・パスポート」を通じて理解する

平成 29 年・30 年告示学習指導要領への移行期間中である令和元(平成 31)年度においても,既に「キャリア・パスポート」の実践に取り組んでいる学校並びに教職員がいたことは,前項で示したとおりである。この時点で「キャリア・パスポート」に取り組んだ教職員と児童生徒の経験から,「キャリア・パスポート」の意義の一端を示す。 「キャリア・パスポート」を活用する意義として「教師にとっては児童生徒理解を深めるためのものとなること」が言われている。そこで,児童生徒の諸側面のうち,学習意欲に限定して,児童生徒理解を深める一助となりうるのかを確認する。 「キャリア・パスポート」が児童生徒理解を深めることを促すならば,「キャリア・パスポート」を児童生徒理解の資料として使っている担任教員のうち,児童生徒の学習意欲の向上を実感している者が担任する児童生徒は,学習意欲が高い傾向にあることが予想される。 そこで,各校種の担任調査で,「キャリア・パスポート」を「児童/生徒を理解する

ための資料として活用している」かを尋ねた設問,及び,「児童/生徒はキャリア教育に関する学習や活動を通して,学習全般に対する意欲が向上してきている」かを尋ねた設問,並びに,児童生徒調査の「これからもっとたくさんのことを学びたいと思う」かを尋ねた設問への回答でクロス表を作成した。その結果が,図8である。 回答結果からは,校種による違いが見受けられた。 小学校においては「キャリア・パスポート」を児童理解に活用している担任教員で,

「学習意欲が向上してきている」と認識する者が受け持つ学級の児童の方が,「これからもっとたくさんのことを学びたい」と回答する傾向にある。つまり,「キャリア・パスポート」に期待される意義のとおりに利活用されていると考えられる。 中学校においては,小学校同様の傾向もかいま見えるものの,注目すべきは,「キャ

リア・パスポート」を生徒理解に活用していない担任教員で「学習意欲が向上してきている」と認識していない者が受け持つ学級の生徒の方が「これからもっとたくさんのことを学びたい」と回答する傾向にあることである。「キャリア・パスポート」を生徒理解には利活用していないため,キャリア教育による学習意欲の高まりを見過ごしたケースとも解釈できる。 高等学校においては,「キャリア・パスポート」を生徒理解に活用している担任教員

で,「学習意欲が向上してきている」と認識していない者のホームルームの生徒の方が,「これからもっとたくさんのことを学びたい」との問いに「どちらかといえば,当てはまる」と回答することが多い傾向にある。しかし,いずれも統計的に有意な差とまではいえず,「キャリア・パスポート」の利活用が,生徒の学習意欲についての理解につながるとは,今回のデータからは確認できなかった。今後,一層の利活用が期待される。 「キャリア・パスポート」活用の意義として,教員にとっては児童生徒理解を深めるものとなることを前述したが,これは「キャリア・パスポート」が児童生徒理解を促す機能を有していることの指摘であると同時に,そうした機能を十全に活用するように

− 44 −

Page 7: 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 45% 50% 4 ......ついては,どの校種も 40%に達しておらず,課題 であることがうかがえる。 キャリアの「発達を促すには

実践すべきことを指摘していると捉えることもできるだろう。 本トピックスでは学習意欲という限られた側面を扱ったため,児童生徒の他の側面

の理解を促すかについては更なる調査研究を要する。また,本調査結果は移行期間に先進的に取り組んだ学校の回答結果に基づくものであるという限りがある。今後,更なる「キャリア・パスポート」の開発・改善が進み,児童生徒理解により資するものへと発展していくことが予想される。取組の充実が進み,その時点で更なる調査研究を実施すれば,本トピックスで得られた結果に比して「キャリア・パスポート」をより機能的に利活用している結果が得られると考えられ,また,そうであることが望まれる。その観点からは,本トピックスの結果は,「キャリア・パスポート」の展開のベースラインとして解釈されることが望ましい。 なお,「キャリア・パスポート」を「学期末・年度末などに記録を振り返るための時

間を設けている」教員,及び,「児童/生徒を理解するための資料として活用している」教員は,「学級・ホームルームでキャリア教育を適切に実施していく上で,現状からみて,今後どのようなことが重要だと思」うかという問いに「『キャリア・パスポート』を活用すること」を重要だと回答する傾向にある(図9)。また,「『キャリア・パスポート』を作成していない」教員ほど,重要ではないと回答する傾向にもある(図 10)。「適切に実施」という表現を,学習指導要領を遵守することと捉えた教員も含まれているかもしれないため,慎重な解釈が求められるものの,この 2 点から言えるのは,「キャリア・パスポート」に先進的に取り組み,その意義にのっとって利活用した教員には重要性が実感されている,ということである。このことからも,取組の更なる推進とその充実が望まれる。

トピックス 児童生徒の学習意欲を「キャリア・パスポート」を通じて理解する

平成 29 年・30 年告示学習指導要領への移行期間中である令和元(平成 31)年度においても,既に「キャリア・パスポート」の実践に取り組んでいる学校並びに教職員がいたことは,前項で示したとおりである。この時点で「キャリア・パスポート」に取り組んだ教職員と児童生徒の経験から,「キャリア・パスポート」の意義の一端を示す。 「キャリア・パスポート」を活用する意義として「教師にとっては児童生徒理解を深めるためのものとなること」が言われている。そこで,児童生徒の諸側面のうち,学習意欲に限定して,児童生徒理解を深める一助となりうるのかを確認する。 「キャリア・パスポート」が児童生徒理解を深めることを促すならば,「キャリア・パスポート」を児童生徒理解の資料として使っている担任教員のうち,児童生徒の学習意欲の向上を実感している者が担任する児童生徒は,学習意欲が高い傾向にあることが予想される。 そこで,各校種の担任調査で,「キャリア・パスポート」を「児童/生徒を理解する

ための資料として活用している」かを尋ねた設問,及び,「児童/生徒はキャリア教育に関する学習や活動を通して,学習全般に対する意欲が向上してきている」かを尋ねた設問,並びに,児童生徒調査の「これからもっとたくさんのことを学びたいと思う」かを尋ねた設問への回答でクロス表を作成した。その結果が,図8である。 回答結果からは,校種による違いが見受けられた。 小学校においては「キャリア・パスポート」を児童理解に活用している担任教員で,

「学習意欲が向上してきている」と認識する者が受け持つ学級の児童の方が,「これからもっとたくさんのことを学びたい」と回答する傾向にある。つまり,「キャリア・パスポート」に期待される意義のとおりに利活用されていると考えられる。 中学校においては,小学校同様の傾向もかいま見えるものの,注目すべきは,「キャ

リア・パスポート」を生徒理解に活用していない担任教員で「学習意欲が向上してきている」と認識していない者が受け持つ学級の生徒の方が「これからもっとたくさんのことを学びたい」と回答する傾向にあることである。「キャリア・パスポート」を生徒理解には利活用していないため,キャリア教育による学習意欲の高まりを見過ごしたケースとも解釈できる。 高等学校においては,「キャリア・パスポート」を生徒理解に活用している担任教員

で,「学習意欲が向上してきている」と認識していない者のホームルームの生徒の方が,「これからもっとたくさんのことを学びたい」との問いに「どちらかといえば,当てはまる」と回答することが多い傾向にある。しかし,いずれも統計的に有意な差とまではいえず,「キャリア・パスポート」の利活用が,生徒の学習意欲についての理解につながるとは,今回のデータからは確認できなかった。今後,一層の利活用が期待される。 「キャリア・パスポート」活用の意義として,教員にとっては児童生徒理解を深めるものとなることを前述したが,これは「キャリア・パスポート」が児童生徒理解を促す機能を有していることの指摘であると同時に,そうした機能を十全に活用するように

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Page 8: 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 45% 50% 4 ......ついては,どの校種も 40%に達しておらず,課題 であることがうかがえる。 キャリアの「発達を促すには

図8 担任教員と児童生徒の認識の関連(担任調査 小学校問 7・問 10,中学校問 7・問

10,高等学校問 8・問 11,児童生徒調査 小学校問 7,中学校問 13,高等学校問 15)

59.0%

62.0%

52.4%

68.9%

65.6%

60.4%

61.3%

68.8%

59.1%

61.5%

55.3%

52.9%

32.2%

32.1%

39.4%

29.7%

27.7%

32.0%

28.8%

24.8%

34.0%

30.7%

32.9%

41.2%

7.0%

4.5%

6.5%

1.4%

5.1%

4.7%

7.5%

6.4%

4.6%

6.1%

10.5%

2.9%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

学習意欲向上を認識していない

学習意欲向上を認識している

学習意欲向上を認識していない

学習意欲向上を認識している

学習意欲向上を認識していない

学習意欲向上を認識している

学習意欲向上を認識していない

学習意欲向上を認識している

学習意欲向上を認識していない

学習意欲向上を認識している

学習意欲向上を認識していない

学習意欲向上を認識している

児童理解に活

用していない

児童理解に活

用している

生徒理解に活

用していない

生徒理解に活

用している

生徒理解に活

用していない

生徒理解に活

用している

小学校

中学校

高等学校

当てはまる どちらかと言えば、当てはまる どちらかと言えば、当てはまらない 当てはまらない

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Page 9: 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 45% 50% 4 ......ついては,どの校種も 40%に達しておらず,課題 であることがうかがえる。 キャリアの「発達を促すには

図8 担任教員と児童生徒の認識の関連(担任調査 小学校問 7・問 10,中学校問 7・問

10,高等学校問 8・問 11,児童生徒調査 小学校問 7,中学校問 13,高等学校問 15)

59.0%

62.0%

52.4%

68.9%

65.6%

60.4%

61.3%

68.8%

59.1%

61.5%

55.3%

52.9%

32.2%

32.1%

39.4%

29.7%

27.7%

32.0%

28.8%

24.8%

34.0%

30.7%

32.9%

41.2%

7.0%

4.5%

6.5%

1.4%

5.1%

4.7%

7.5%

6.4%

4.6%

6.1%

10.5%

2.9%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

学習意欲向上を認識していない

学習意欲向上を認識している

学習意欲向上を認識していない

学習意欲向上を認識している

学習意欲向上を認識していない

学習意欲向上を認識している

学習意欲向上を認識していない

学習意欲向上を認識している

学習意欲向上を認識していない

学習意欲向上を認識している

学習意欲向上を認識していない

学習意欲向上を認識している

児童理解に活

用していない

児童理解に活

用している

生徒理解に活

用していない

生徒理解に活

用している

生徒理解に活

用していない

生徒理解に活

用している

小学校

中学校

高等学校

当てはまる どちらかと言えば、当てはまる どちらかと言えば、当てはまらない 当てはまらない

図9 キャリア教育の現状(担任調査 小学校問 10・問 13,中学校問 10・問 13,高

等学校問 11・問 14)

図 10 キャリア教育の現状(担任調査 小学校問 10・問 13,中学校問 10・問 13,高

等学校問 11・問 14)

13.8%

31.7%

14.3%

30.2%

13.6%

26.4%

13.4%

25.4%

9.9%

27.2%

9.9%

23.9%

53.7%

55.8%

53.4%

57.9%

52.0%

62.5%

51.5%

64.5%

47.4%

58.4%

47.1%

59.1%

28.1%

9.8%

27.9%

9.4%

29.4%

10.4%

29.9%

10.1%

34.5%

13.5%

34.7%

16.5%

4.3%

2.7%

4.3%

2.5%

5.0%

0.7%

5.2%

0.0%

8.1%

0.9%

8.3%

0.5%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

実施していない

実施している

実施していない

実施している

実施していない

実施している

実施していない

実施している

実施していない

実施している

実施していない

実施している

学期末・年度末

などに記録を振

り返るための時

間を設けている

教員が児童を理

解するための資

料として活用し

ている

学期末・年度末

などに記録を振

り返るための時

間を設けている

教員が児童を理

解するための資

料として活用し

ている

学期末・年度末

などに記録を振

り返るための時

間を設けている

教員が児童を理

解するための資

料として活用し

ている

小学校

中学校

高等学校

とても重要だと思う ある程度重要だと思う あまり重要だとは思わない まったく重要だとは思わない

26.0%

12.0%

19.8%

12.2%

16.4%

8.9%

57.1%

52.6%

62.1%

47.9%

58.5%

43.3%

13.6%

30.9%

16.3%

33.8%

22.5%

37.9%

3.3%

4.5%

1.8%

6.1%

2.6%

9.9%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

作成している

作成していない

作成している

作成していない

作成している

作成していない

小学校

中学校

高等学校

とても重要だと思う ある程度重要だと思う あまり重要だとは思わない まったく重要だとは思わない

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