003-008 jnto 国際会議開催マニュアル 序章...

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| 広義では、開会式・閉会式などの式典、パ ーティー・文化交流イベント・同伴者プログ ラムなどの社交行事(ソーシャルプログラ ム)、テクニカルツアーなどの関連行事がプ ログラムに含まれる。しかし、それらのプ ログラムは専任の委員会または専任担当 者が運営に当たるケースが多い。そこで本 章では、学術プログラムにフォーカスして 解説する。 2 プログラム 029 | 1 プログラム編成の手順とポイント p.030 2 講演依頼 p.032 4 プログラム関連制作物 p.034 3 アブストラクト p.033 5 若手による発表機会の演出 p.034

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  • |第2章 | 

    プログラム

    広義では、開会式・閉会式などの式典、パ

    ーティー・文化交流イベント・同伴者プログ

    ラムなどの社交行事(ソーシャルプログラ

    ム)、テクニカルツアーなどの関連行事がプ

    ログラムに含まれる。しかし、それらのプ

    ログラムは専任の委員会または専任担当

    者が運営に当たるケースが多い。そこで本

    章では、学術プログラムにフォーカスして

    解説する。

    第2章プログラム

    029

    |第2章 | 

    プログラム

    1 プログラム編成の手順とポイント p.030

    2 講演依頼 p.032

    4 プログラム関連制作物 p.034

    3 アブストラクト p.033

    5 若手による発表機会の演出 p.034

  • 030

    1 プログラム編成の手順とポイント

    プログラムは会議の成否を左右する重要な要素の1つである。プログラムの編成にあたり、まず会議の全体像を示唆するメインテーマを決定する(英語で設定し、日本語で共

    有できるよう和訳を添える)。メインテーマは、プログラム委員会が検討したトピックスを参考に、組織委員会(または実行委員会)が討議し、決定することが多い。定期的に開催している国際会議の場合、その会議特有のプログラム編成の踏襲を求められるケースもあるので、

    過去の開催資料の参照や国際本部への照会などにより、事前に確認しておくことが必要である。また、アブストラクト数が多い国際会議では、アブストラクトの査読やプログラム編成作業に膨大な時間を要するため、適当数の人材をプログラム委員として確保することが重要である。

    (1)プログラムの種類国際会議のプログラムは、以下に分類できる。

    区 分 名称(例) 概要

    指定セッション

    特別講演、基調講演、記念講演など

    講演を聴くことを趣旨とし、多くは質疑応答を行わない。質疑応答を行う場合は、事前にその旨を講師に告げ、本人了承のうえで計画しなければならない。

    シンポジウム複数の専門家を招聘し、それぞれの視点から会議のテーマに関連した特定分野に関する講義を行う。

    パネルディスカッション3~4名の専門家が短い発表を行った後、発表者がパネリストとして内容を掘り下げる討論を行う。セッションの最後に聴衆から質問を受け付ける場合もある。

    ラウンドテーブル(セッション)

    複数のスピーカーが集まり、それぞれの専門分野について確認や討論を行う。討論の場は、クローズド(参加者限定セッション)の場合とオープン(聴衆のいるセッション)の場合がある。※ スペシャリストである講師と少人数の参加者による相互討論もある。またスペシャリストと若手の交流プログラムとして企画される場合もある(例:Meet the Experts)。

    ワークショップ

    ① 参加者が選んだトピックスまたはオーガナイザーが設定したトピックスについて、参加者が自由討論を行う。

    ② エクササイズ(練習や実習)を通して、参加者が専門領域の知識や技術の習得を目指す。

    公募セッション

    口演発表、フリーペーパー

    複数のアブストラクトを類似テーマごとにまとめたセッション。発表者がそれぞれ5~15分程度の持ち時間内に発表を行った後、発表内容に関する討論を行う。討論は、各発表後にそれぞれ2~5分程度の時間を設ける場合と、2~3題または1セッション終了後にまとめて実施する場合がある。

    ポスター発表*継続的に掲示しておきたいアブストラクトや、図表や写真を用いて説明すべきアブストラクトの発表に適している。開催期間や会場スペースが限られているなか、より多くの発表ができるというメリットがある。

  • 031

    |第2章 | 

    プログラム

    (2)プログラム編成のスケジュール・段取りプログラムの企画・編成は、下記の流れで行われることが多い。 

    No. 項目 内容

    1 全体計画

    ・大会テーマの作成・トピックス(カテゴリー)の設定・ 全体枠組み(招待者枠・公募枠それぞれの発表方法、発表数、発表時間)の設定

    2 指定発表枠の企画・講演・セッションの種類、発表数、発表時間の設定・招聘条件の設定・候補者の推薦・選出と参加可否の打診

    3 指定発表者への講演依頼 ・正式な講演依頼書の送付(招聘状の送付)・受諾書の受領

    4 公募枠の企画 ・発表方法、発表数、発表時間の設定・公募内容(投稿規定)、公募受付方法の設定

    5 公募の告知と受付 ・発表提案を公募する旨の告知・メールまたは専用ウェブサイト受付システムによる受付の実施

    6 公募提案の査読と結果の通知

    ・応募された発表提案の査読・採否判定とプログラム概要の決定・採否通知の送付

    7 プログラム編成 ・実施が決定したすべての講演・セッション・発表からプログラムを編成・座長依頼の送付

    8 発表要領の通知 ・ 発表者ごとに発表方法や発表時間などを通知(詳細をウェブサイトに公開、またはメールなどで通知)

    9 発表データの受付 ・発表スライドなど進行上必要なデータの受領(事前または当日)

    *ポスター発表掲示物による発表。掲出したポスターの近くに発表者自身が立つことで、内容に関心を持った参加者と直接討論することも可能だ。ポスター発表の場合、ポスターの大きさ、掲示方法、進行方法、会場への搬入出経路と搬入出時間を事前に発表者に周知する必要がある。 近年では、モニター(電子ディスプレイ)を利用したポスター発表も増えてきたが、これには、画像をより鮮明に表示できる、音声や動画の再生ができるといったメリットがある一方、会場設営や機材手配など追加の費用がかかるといったデメリットもある。ポスター発表の内容や目的、分野に応じて手法を検討してほしい。 IEEE Virtual Reality 2019

  • 032

    2 講演依頼

    (1)演者プログラム骨子の決定後、特別講演など指定セッションの招聘者に講演依頼を行う。その際は、まず演者候補

    とのつながりがある者からおおよその招聘条件を提示して打診し、内諾を得た後に正式な招聘状を出すことが好ましい。承諾後は演者に対し以下に関する通知や確認、依頼を行う。

    (通知すべきこと)●講演内容(講演してほしい内容、登壇日時、参加セッション名)●招聘条件●当日使用できる機材(スペック)(確認すべきこと)●旅程の確認●最終スケジュール(依頼すべきこと)●アブストラクトおよび略歴の執筆・提出

    (2)座長演者が決定したら座長を選出または依頼し、決定する。指定セッションの場合は、事前打ち合わせの予定を調

    整するとともに、各セッション(プログラム)の演者のアブストラクトや略歴を座長に送付する。シンポジウムやパネルディスカッションなどの場合には、まず座長を選任し、座長に演者の選定を依頼することもある。一般募集アブストラクトの場合は、アブストラクト採択後に座長就任依頼をするケースが多い。アブストラクト採

    択の時期が遅れると座長決定が会期間際になるため、注意が必要である。

    スマートフォンのアプリ画面例

  • 033

    |第2章 | 

    プログラム

    3 アブストラクト

    (1)受付昨今、アブストラクトの登録は、インターネットを通じたオンライン登録が主流となっている。オンライン登録シス

    テムには、独立行政法人科学技術振興機構(JST)が構築した「科学技術情報発信・流通総合システム」(J-STAGE)や東京大学に設置されている医療情報ネットワーク(UMIN)などがあり、それらを利用する登録方法と、主催者や会議運営会社などが独自で開発するソフトウェアを利用する登録方法との2つに大別される。使用にあたり、前者は事前の申請および承認が必要なもののカスタマイズ費やサーバー使用料は基本的に無料であるのに対し、後者ではそれらが有料である。どのシステムを使う場合でも、システム構築前またはカスタマイズ前の打ち合わせは綿密に行わなければならない。

    特に以下項目に関しては、事前決定が必須である。

    ●入力必須項目●文字数●図表登録の可否●アブストラクト集の仕様、編集方法、および配布方法(印刷物/デジタル形式)●共著者の数●査読者の選定と登録、各査読者の担当カテゴリー、査読者1人当たりの査読件数(見込み)●オンライン査読の有無●査読方式(オープンレビュー/シングルブラインド/ダブルブラインド)

    アブストラクトを受け付ける際は、投稿者情報(氏名・所属)、タイトル、アブストラクトを投稿者自身に登録させることが多く、別途図表などを含んだダイジェスト版や論文(フルペーパー)の提出を求める場合もある。かつてはこれらをまとめ、アブストラクト集やプロシーディングスとして出版していたが、近年では、スマートフォン向けアプリケーション(スマホアプリ)として、あるいはウェブサイト上のオンラインプログラムとして提供するケースが増加している。

    (2)査読公募により登録されたアブストラクトは、プログラム委員会またはそのメンバーが分野ごとに委嘱した査読委員が

    内容を確認(査読)し、採否を判定する(1本のアブストラクトを複数査読委員が査読するケースが多い)。また、投稿者の氏名や所属および査読者の氏名所属を非公開にして査読するタブルブラインド方式を採用する

    ことが多く、その場合には、アブストラクトに非公開情報が含まれないよう事前に周知徹底しておくことが必要。なお、中には査読を行わない国際会議もあるため、事前に慣例を確認しておく。また、査読の方法(オンライン

    /紙媒体)、評価方法(査読者人数、採点項目)などについても事前に決定しておく。

  • 034

    4 プログラム関連制作物

    参加者に配布するプログラム関連の制作物は、大きく以下に分類される。

    プログラム集

    会議の参加者に必要な会議情報が掲載された冊子。多くは日程表、会場図(フロアマップ)、プログラムが掲載される。プログラム集とアブストラクト集を1冊にまとめた「プログラム・アブストラクト集」を発行する場合もある。※ かつては主催者、委員名なども掲載する事例が多かったが、それらの情報はウェブサイトで閲覧できることを理由に、当日必要とされる情報のみを記載するケースが増えてきた。ただし、スポンサー関連の情報は、スポンサー露出の機会を増やす(スポンサーメリットを高める)目的で掲載することが多い。また、印刷物の配布資料には簡易な日程情報とフロアマップのみを掲載し、すべての情報はスマホアプリで公開する事例も増加している。

    アブストラクト集(抄録集)

    会期前にアブストラクト原稿を収集し、会期前もしくは会期中に配布する。印刷物として配布することもあるが、最近ではCD-ROMやUSBメモリーにデータとして保存して渡す方法や、スマートフォンなどモバイル端末で閲覧できるようアプリ化する方法も多く採用されている。

    プロシーディングス(予稿集)

    最終プログラムが決定した後に論文(フルペーパー)を収集し、会議終了後に出版・配布する場合がある。※ 工学系の会議では、アブストラクト査読後にフルペーパーを収集し、当日公開することが多い。プロシーディングスの出版は、以下の2つの方法が一般的である。 ①出版社から上製本として出版 ②海外の学会誌(ジャーナル)の付録(サプリメント)として出版①は主催者の意向に沿った編集が行われるため、すべてのアブストラクトを掲載することが可能だが、②の場合には、学会誌の編集方針に従わなくてはならない。いずれの場合も、各論文に対する基本的な校正は主催者が行う。

    5 若手による発表機会の演出

    若手研究者にとって、国際会議に参加することや発表の機会を与えられることには、極めて重要な意味を持つ。そのため、学生や若手研究者を対象としたアワードを設け、財政的支援を実施する国際会議も多い。アワード対象は、公募アブストラクトの中から優れたアブストラクトを選ぶ方法や、あらかじめ設定したグラントプログラム枠に応募したアブストラクトから選ぶ方法などがあるが、いずれの場合でも、あらかじめアワードを実施することと対象条件を明示しておく必要がある。なお、採択した発表者に対し、主催者が会議に参加するための費用(旅費・宿泊費・参加費)などを補助するケー

    スが多いことも付記しておく。