平成19年度学位論文 教師の言葉かけが児童の学習...

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平成19年度学位論文 教師の言葉かけが児童の学習の自己効力感に与える影響 兵庫教育大学大学院 学校教育研究科学校教育専攻学校心理コース MO5099」 養父志乃 主任指導教員 古川雅文 指導教員 古川雅文

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平成19年度学位論文

教師の言葉かけが児童の学習の自己効力感に与える影響

兵庫教育大学大学院

学校教育研究科学校教育専攻学校心理コース

MO5099」 養父志乃

主任指導教員 古川雅文

指導教員 古川雅文

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目次

第1章問題・目的 1-3

第2章調査1

○予備調査

○目的

○方法

○結果

○考察

4-10

4

5

5-6

7-8

9-10

第3章調査H

○目的

○方法

○結果

○考察

11-27

11

11-14

15-23

24-27

第4章調査皿

○目的

○方法

○結果

○考察

28-32

28

28

29-3132

第5章総合考察 33-35

■引用文献

■資料

■要旨

■謝辞

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第1章 問題・目的

近年,子どもの「学力低下」をめぐって様々な論争が繰り広げら

れている。市川は,「目に見える学力」の低下以上に,むしろ深刻な

のは子どもの学習意欲や学習スキルなど「学習力」の低下ではない

だろうか,と述べている。経済的に豊かになり,社会の価値観が多

様化している現在では,子どもを学びに向わせることが非常に難し

くなってきているのである(ベネッセ,2003)。

では,子どもを学びに向わせる学習意欲を増加させたり低下させ

たりする要因にはどのようなものがあるだろうか。学習意欲との関

係において,Weiner(1979)の帰属理論によれば,学習場面における

失敗の原因を努力不足に帰属しやすい子どもは達成欲求を低下させ

ることは少ないが,自分の能力に帰属しやすい子どもは達成欲求を

低下させてしまうという。しかし,日本の子どもたちを対象とした

吉田・戸田(2004)の研究によって,失敗の努力帰属が児童の学習意

欲を高めることにはならないこと。また,失敗の能力帰属には無気

力感を強める効果があり,最も避けなければならないということが

明らかにされている。つまり,単純に失敗を努力帰属するだけでは

学習意欲の向上にはっながらないことがわかる。以上のことから吉

田ら(2004)は,失敗の努力帰属と自己効力感との間には,両者をつ

なぐ媒介要因が存在しており,その要因こそが,教師の子どもに対

する支援のポイントになるのではないかと考察している。

さらに,学習意欲の低下についてBandura(1977)は「自己効力感

理論」の中で,確固たる自己効力感の形成が,意欲の低下を防ぐこ

とを示唆し,「教育者は,子どもの勉強の不安を低減するよりも自己

効力感を促進することに努力するべきである」と述べている。

Bandura(1977)は行動変容の過程を包括的に説明するために,人が

ある事態に対処する時,それをどの程度効果的に処理できると考え

ているかという認知を重要視し,これを「自己効力感」と呼んだ。

これは,一定の結果に導く行動を自らがうまくやれるかどうかとい

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う期待であり,その期待を自ら抱いていることを自覚したときに生

じる自信のようなものである。そして,この自己効力感の程度はそ

の後の遂行行動の最も重要な予測値であることを主張している。つ

まり,学習者にとっては,ある学習に関する課題をやり遂げたり,

解決することが出来たりするか否かについて「自分には出来る」と

いう予期・自信が,学習における自己効力感といえるだろう。ある課

題に対する自己効力感が高まると,学習に対する「意欲」に関係し

ている内発的動機付けが高まり,学習活動が始まる。このことから,

本研究では,「学習面での自己効力感」を「学習意欲」発現の基とし

て関係が強いと考え,「学習面での自己効力感」について検討するこ

ととした。

また,自己効力感の促進について桜井(1997)は,Deciの理論を受け,

有能感(自己効力感),自己決定感,他者受容感という三つの要素をあ

げ,中でも唯一対人関係の要素である他者受容感が,最も大切な要素

であると述べている。他者受容感とは,「自分はまわりの大切な人か

ら受容されている」という気持ちであり,自分を養育してくれる人に

対して感じる温かい心の絆が形成されていることが重要である。また

三つの要素の中で最も基礎的な要素であり,内発的動機づけの基底に

存在するものである。有能感(「自分はできる」という自信をもって

いる感覚のこと)と自己決定感(自分のことは好んで自分で決定して

行っているんだという感覚のこと)は,他者受容感を得てはじめて育

つ。例えば,学校生活において良い結果を得たとしてもそのことに対

して,教師からの受容的な承認が得られなければ, 「自分はできる」

という自信は湧いてこないと考えられる。つまり,教師の関わりが子

どもの他者受容感を形成し,さらに他者受容感が有能感と自己決定感

を支え,内発的動機付けが高まり,学習活動に現われるといえる。学

習意欲の発現には,「教師から受容されている」と児童が感じること

ができるような教師の働きかけが非常に重要になってくるといえる

だろう。

児童が受け入れられていると感じることができるような,教師の

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働きかけの中で,最も多用されかつ重要なものとして子どもへの言

葉かけがある。西口(1998)は,特定場面において言葉かけの内容の

多様性を指摘し,問題場面の児童に対する教師による言葉かけを18

分類している。また,安達・上野・河野・芳賀(2000)によると,教

師の言葉かけと児童の感じ方の関連について,成功場面では,教師

が児童の努力や意欲を十分に認め・励ますような言葉かけを意識的

にすることが有効であり,失敗場面では,児童が自分で考えたり,

友達と相談したりしながら,児童自身のカで解決することを促すよ

うな言葉かけが次の課題解決への意欲づけになるといえると述べて

いる。しかし,前者については言葉かけの分類,後者は教師の言葉

かけをどのように児童が感じているかをもとに推測された内容であ

り,教師の言葉かけが児童の学習面での自己効力感にどのように影

響しているかは,実証的には明らかにされていない。教師は,普段

児童と関わる中で,その場その場で意識的に,あるいは無意識に言

葉かけをしているが,その言葉かけが児童の自己効力感にどのよう

に影響を与えるのか,適切な言葉かけができているのかについて検

証した研究はまだ少ないと言える。

そこで本研究では,特に場面を,学習意欲の低下の原因になるで

あろう学習における失敗場面に特定した。そして,教師が実際に児

童の失敗している場面に直面したとき,どのような言葉かけを行っ

ているのかを検討すること,児童がつまずいたときの原因帰属の仕

方によって,自己効力感が高まることにつながる言葉かけが違うの

ではないかという仮説をもとに,言葉かけと学習の自己効力感の関

連について明らかにすることを目的とする。

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第2章 調査1

予備調査

目的

児童が学習場面において失敗する,つまずく場面とはどのような

場面であるのかを分類することを目的とする。

方法

(1)調査対象者

小学校現職教員2名(大学院在学中)

(2)調査時期

2006年2月

(3)調査内容

「児童の失敗場面とはどういつだ場面があるか」について面接を行

った。回答はオープンエンドで行った。

結果と考察

「テストの点数が悪い」「何をしていいのかわからない」「あてら

れたが答えを間違えた」などがあげられたが,これらは教師から見

ての失敗であり,児童が失敗を失敗ととらえているかについては疑

問が残った。先行研究においても,失敗の事例として,「試験の予想

点とくらべて結果が悪かった場合」(西山,1997)「学習面で悩んでい

る問題において出来なかったこと」(中西,2004)を取り上げて調査を

行っているが,失敗そのものを定義するようなものはなかった。

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本調査

目的

「どんな場面において教師が児童に対して支援の言葉かけをして

いるのか」についての観察を行う。本調査では教師が児童の失敗に

対して支援の言葉かけを行う場面を,参与観察する中で分類するこ

とを第1の目的とする。

同時に「教師が児童のつまずきに対してどのような支援の言葉か

けをしているか」について観察を行う。先行研究では,問題場面の

児童に対する教師による言葉かけ(西口,1996),成功場面での教師の

言葉かけと児童の感じ方の関連について(安達ら,2000)といったよ

うに,教師が児童の学習における失敗場面に行う言葉かけの分類は

見られない。そこで本調査では,言葉そのもののカテゴリーを分類

することを第2の目的とする。

方法

(1)対象学級

A小学校6年B組 26名(男子11名,女子15名)

(2)調査時期

2006年11月22日~12月中旬に10日間程度(1日1~2時間,

計12時間丁度)実施。

(3)調査内容

国語科と算数科の授業において参与観察を行った。筆者がフィー

ルドノーツに文字記録をし,補助として,子どもの表情を中心に教

室全体を見ることができるように,ビデオカメラを教室の前方に1

台設置し,映像と音声を記録する。教室では,不自然でない程度に

子どもと相互交渉は行うが,こちらからの接触はしない。

(4)分析方法

担任教師の行う算数科の授業7時間,国語科の授業4時間を分析

対象とした。授業内容の単元は,算数科はついては「分数のかけざ

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ん・わりざん」において「計算ガイドをつくろう」,国語科は「海の

命」において「トーク番組を作ろう」であった。聞き取り可能な発

話について,教師の発問・児童の発話等をフィールドノーツに記録

した。そのうち,算数の4時間分の授業については,授業中の教師

と児童の発話の全てを文字記録におこした。

「どんな場面において教師が児童に対して支援の言葉かけをして

いるのか」「教師が児童のつまずきに対してどのような支援の言葉か

けをしているか」について,この観察記録をもとに,小学校の現職

教員2名の協力を得て現場での様子を思い起こしてもらい,アドバ

イスをもらいながら分類した。

教師の児童への言葉かけの分類の際には,教師の言葉かけを教師

のサポートの方法として考え,ソーシャル・サポートの概念を利用

した。それは以下の理由による。教師は一般的に児童に勉強を教え

る際に,学習に役立つような指導(たとえば,問題の解き方のヒント

を与えるなど)と,情緒的な側面からの指導(つまずいてやる気を失

っている児童を励ますなど)を行っていると考えられる。これは,ソ

ーシャル・サポートの道具的サポートと情緒的サポートにあたると

いえる。サポート源とサポート内容を調べた研究(森・堀野,1992)

によれば,児童は教師に教授関連のサポートを望むことが明らかに

されている。こうしたことからも児童のつまずき場面において教師

が行う言葉かけは,教師のソーシャル・サポートの一つであると考

えることができる。よってこの「道具的サポート」と「情緒的サポ

ート」の2つのカテゴリーを元に言葉かけの分類を行うことにする。

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結果

(1)教師が児童の失敗に対して支援の言葉かけを行う場面の分類

教師が児童の失敗に対し,支援の言葉かけを行う場面として,

Table1のような場面が見られた。教師の発問に対して挙手し発表す

る場面において,クラスの他の児童に自分で考えた計算の仕方を説

明しながら,途中で言いたいことがわからなくなり,止まってしま

うという事例が4例。発言を求められて間違った答え・考え方を言

ってしまう事例は7例と最も多く見られた。

Table1 教師が児童に支援の言葉かけを行う場面(16例)

場面 事例数

間違った答え・考え方を言ってしまった。 7例.

教師の発問に対して、見当違いの答えをした。 1例

発表しながら自分で言いたいことが分からなくなってしまった。 4例

教師の発問に答えられない。 2例

分からないので質問をする。 2例

(2)児童のつまずきに対して行う教師の言葉かけの分類

参与観察では,1学級のみの事象であったため,この観察データ

をもとに小学校の現職教員2名の協力を得て,児童のつまずく場面

における言葉かけについて現場での経験を思い起こしてもらいなが

ら分類をした。言葉かけの分類の際には,ソーシャル・サポートの

概念を参考にし,分類した。最も多く見られた言葉かけが.「どうで

すか?」 「じゃ,他の人?」のように,つまずいた児童を他の児童

に支援させるために「クラスの助け合いを促す」言葉かけが最も多く

7例であった。次に, 「やりたかった計算はこうじゃないの?」の

ように,教師が具体的に計算式を黒板に書いて示すなどの, 「ヒン

トを与える」言葉かけが5例みられた。その他に, 「いいこと言っ

てるなあ」のように,発表内容を認める言葉かけ, 「少数でしょう

としたんやんな?」のように,児童の発表を確認するような言葉か

けが見られた。(Table2)

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また,教師と児童のやり取りの一例をTeble3に示した。ここでは,

児童が発表の途中で,説明に行き詰って止まったときに,教師が「他,

貼ってる人どう?今のH:君のに付け加えていえる人いない?」と「ク

ラスの助け合いを促す」言葉かけをしている場面である。

Table2教師が児童のつまずきに対してどのような支援の言葉かけをしているか

カテゴ1一_ ◎

@轟_ 1 量 1事例数

妨スの助胎し齪すi「醤瓢砦献職罷な、道具的サボLト

ピン陸与えるi「やりたかった計算はこうじゃないの?」

P『ん?図ですか?」

評価をする情緒的サポート

理解をしめす

τable3教師と児童の会話事例教師:

児童:

教師=

やりたいのは7×5分の1なんや。そこが、ちょっと違ってなあってことや。な、よろしいか??他どうぞ?貼ってる人全員やで?どうぞ?

2×4分の1で答えは2分の1になって、意味は、1が4つあるうちの1つ分が4分の1やから、4分の1は1を4つに分けたうちの1つが4分の1・・… あれ?

どう?伝わったかなあ?うん、他山ってる人どう?今のH〈んのに付け加えて言える人いない?

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考察

児童が授業の中でつまずく場面としては,発表の際にもっとも明

らかに見られた。発表したが間違ったという場面は想像に易しいが,

児童らは,考えが十分まとまっていない段階で発表に臨むことが多

いということが頻繁に見られた。もしくは,頭の中で考えをまとめ

て発表に臨んでも,言葉にしていくうちに混乱してしまうというこ

とも多いと考えられる。そのため,発表中に言いたいことがわから

なくなって止まってしまい,教師がサポートの言葉かけをすること

になる。

教師の言葉かけについて,小学校の教師は児童がつまずきを感じ

ているのではないかと思うとき,できるだけ児童自身がつまずきに

よって学習意欲を低下させたり,自己効力感を低下させたりしない

ように,様々な言葉かけを行う。この言葉かけは,つまずきそのも

のを解決に向けて支援する「道具的サポート」の言葉かけと,つま

ずいた児童の心に働きかける「情緒的サポート」の言葉かけの大き

く2つにカテゴリー化されると考えた。浦(1994)の定義によると道

具的サポートを「何らかのストレスに苦しむ人に,そのストレスを

解決するのに必要な資源を提供したり,その人がその資源を手に入

れることができるような情報を与えたりするような働きかけ」,情

緒的サポートを「ストレスに苦しむ人の傷ついた自尊心や情緒に働

きかけてその傷を癒し,自ら積極的に問題解決にあたれるような状

態に戻すような働きかけ」とされており,本研究の分類はこの定義

にも従っているといえる。更に,サブカテゴリーとして道具的サポ

ートを「クラスの助け合いを促す言葉かけ」 「ヒントを与える言葉

かけ」,情緒的サポートを「評価をする言葉かけ」 「理解を示す言

葉かけ」とし,4つに分類をした。

今回の観察から見えてきたのは,道具的サポートは,児童がつま

ずいたときに何とかその児童の考えを答えまで導くことが出来るよ

うに,教師が別の手段を用意することであった。1っにはクラスの

他の児童につまずいた児童の発表の続きを言ってもらうことで,解

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決を目指す言葉かけ。もう1っは,つまずいた児童本人が教師のヒ

ントを得て最後まで解決まで向かえるように導く言葉かけである。

また,観察記録の中からは少なかったが,情緒的サポートとして「い

いこといってるなあ」などのように,つまずいてはいるものの,そ

れまでの児童が考えてきたプロセスに対して頑張りをほめることば

かけ,そして, 「小数でしょうとしたんやんな?」のように児童が

考えたこと,発表しようとした内容について理解を示し児童の気持

ちを汲み取ろうとする言葉かけが見られた。この2つの言葉かけは,

現職教員2名のインタビューの中から,授業中に教師の行う言葉か

けとして頻度が高いと判断した。これらは,児童がつまずいたとき,

つまずきによって問題解決に向かう意欲を低下させないために教師

が児童の心に働きかける言葉であるといえる。以上のことから,教

師は,授業の流れを作りながらも,児童のつまずきを支援し,学習

に対する意欲を持ち続けられるように工夫をしていることがわかっ

た。

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第3章 調査1【

目的

調査1で分類した,児童の失敗場面,その時の教師の支援の言葉

かけをもとに質問紙を作成し,原因帰属の仕方によって嬉しいと感

じる言葉かけが違ってくるという仮説のもと,どのような原因帰属

をする児童にはどのような言葉かけが自己効力感の向上につながる

かを検討する。

また,体育における教師や仲間からの言葉かけが,他者受容感に

及ぼす影響について,吉村・日角(2005)の研究がある。この中で,

教師からの言葉,仲間からの言葉,いずれにおいても,かつ,成功

場面・失敗場面のいずれにおいても,個々人が実際に嬉しいと強く

感じる言葉を他者から与えられた経験が多いほど,他者受容感が高

いことが明らかにされている。本研究においても,自己効力感の促

進に影響を及ぼすものとして,教師の言葉かけを嬉しいと感じる程

度,実際に言葉かけをもらっている頻度と自己効力感の関係を分析

することとした。

方法

(1)対象者

①A小学校6学年3クラス(計70名:男子27名,女子43名)

②C小学校6学年3クラス・5学年4クラス

(計243名:男子130名,女子113名)

(2)調査時期

①2007年3月12日~3,月16日(A小学校)

②2007年9月25日~10月5日(C小学校)

(3)調査方法

いずれも担任を通して学級ごとに一斉に実施され,回答は

成績評価とは関係が無いことを教示した。分析には,欠損値

のあるデータを除き,男子129名,女子154・名計283名を対

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象とした。(有効回答率90.1%)

(4)調査内容

1.自己効力感に関する項目

本研究では,学習面一般に対する自己効力感を扱っている

Pintrich&De Groot(1990)の尺度を,小学校高学年の児童に分かる

ように日本語訳した。日本語訳する際には,同じ尺度を利用した先

行研究(中西,2004),(松沼,2004)の目口語訳をもとに,学校心理専

攻の大学院生との相談により,より正確にわかりやすい表現を検討

して作成した。さらに,教職10年前後の経験を持つ現職小学校教諭

に目を通してもらい,児童用にふさわしい内容になっているかどう

かをチェックしてもらった。尺度の項目については,9項目のうち,

内容が重複すると考えられる1項目を除いた8項目で構成した

(Table5参照)。各項目について,「とてもそう思う」「すこしそう思

う」「あまりそう思わない」「ぜんぜんそう思わない」の4件法で回

答を求め,当てはまる程度によって4~1点を与えた。

2.場面の設定

調査1から,教師が児童に対して支援の言葉かけを行う頻度の高

かった「間違った答えを言ってしまった場面」「答えが分かっている

のに途中で言いたいことが分からなくなってしまった場面」の2場

面を採用した。

質問紙の始めに,『あなた自身がそれぞれの場面の登場人物になっ

てください。そして,そのときあなたが感じることを答えてくださ

い。』と教示した。場面として『私は授業中,問題の解き方について,

手をあげて発表しています。しかし,答えが分かっているのに途中

で言いたかったことがうまく言葉にならず,止まってしまいまし

た。』『私は授業中,問題の答えを発表しましたが,間違った答えを

言ってしまいました。』の2つの場面を順に想定してもらい,それぞ

れについて以下の問いに回答してもらった。

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3.原因帰属に関する項目

失敗の場面として採用した2っの場面について,自分自身が示さ

れた場面に直面した時に,どのような原因帰属をするのか,につい

てたずねた。原因帰属に関しては,B,Weinerの「学習の成否の帰属

の二次元分類」をもとに,「努力帰属」「能力帰属」「課題の困難さ帰

属」「運帰属」のそれぞれについて,設定された場面における帰属様

式について「とてもそう思う」「すこしそう思う」「あまりそう思わ

ない」「ぜんぜんそう思わない」の4件法で回答を求め,当てはまる

程度によって4~1点を与えた(Table4参照)。

4.教師の言葉かけに関する項目

失敗の場面として採用した2つの場面について,教師の言葉かけ

についてたずねた。教師の支援の言葉については,調査1で分類し

た「クラスの助け合いを促す」「ヒントを与える」「評価をする」「理

解を示す」の言葉を示した。そして,設定された場面を想起しても

らい,それぞれの言葉かけについて「このように言われた時どのよ

うに感じるか」について「とてもうれしい」「少しうれしい」「あま

りうれしくない」「ぜんぜんうれしくない」の4件法,「このような

言葉を先生があなたに言う回数はどのくらいあるか」について「い

つも言われる」「ときどき言われる」「あまり言われない」「ぜんぜん

言われない」の4件法で回答を求めた(Table4参照)。得点はいずれ

もあてはまる程度によって4~1点を与えた。

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丁able4 質問項目

原因帰属の項目

(1)先生が「誰か助けてあげて。」とクラスに聞く。

■このように言われた時どのように感じますか?

とてもうれしい 少しうれしい あまりうれしくない ぜんぜんうれしくない

■このような言葉を先生があなたに言う回数はどのくらいありますか?

いつも言われる ときどき言われる あまり言われない ぜんぜん言われない

_ 猛(2)先生が「こんな考え方はどうかな?」とヒントをくれる。

圏このように言われた時どのように感じますか?

とてもうれしい 少しうれしい あまりうれしくない ぜんぜんうれしくない

■このような言葉を先生があなたに言う回数はどのくらいありますか?

いつも言われる ときどき言われる あまり言われない ぜんぜん言われないジ… 沫賦?�Fデ…i(3)先生が「ここまでがんばって考えてすごいね。」と言う。

■このように言われた時どのように感じますか?

とてもうれしい 少しうれしい あまりうれしくない ぜんぜんうれしくない

■このような言葉を先生があなたに言う回数はどのくらいありますか?

いつも言われる ときどき言われる あまり言われない ぜんぜん言われない

(4)先生が「うん。あなたの言いたいことはわかるよ。」と言う。

■このように言われた時どのように感じますか?

とてもうれしい 少しうれしい あまりうれしくない ぜんぜんうれしくない

■このような言葉を先生があなたに言う回数はどのくらいありますか?

いつも言われる ときどき言われる あまり言われない ぜんぜん言われない

瓢_:::i婆:i憂:帰::薦::::::::::iもっと勉強していればしっかり発表できたのに…

とてもそう思う すこしそう思う あまりそう思わない ぜんぜんそう思わない1::::::熊:鶉::彊:薦::二:=::;私の頭がもっとよければしっかり発表できたのに…

とてもそう思う すこしそう思う あまりそう思わない ぜんぜんそう思わない1:叢藝:委:菌蕪:蕪葺=:細題が簡単だったらしっかり発表できたのに…

とてもそう思う すこしそう思う あまりそう思わない ぜんぜんそう思わないi::二::::::=:難:彊薦::::::::=::=::i今回はたまたま言えなかったけど、いつもなら言えるのに…

とてもそう思う すこしそう思う あまりそう思わない ぜんぜんそう思わない

…__躍教師の言葉かけに関する項目

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結果

(1)学習一般の自己効力感に関する尺度の検討

学習一般の自己効力感に関する尺度を検討するために,最尤法に

よる因子分析を行った。その結果,固有値1以上の因子が1つであ

ったこと,固有値の減衰状況をみると,第1固有値と第2固有値の

間において急激な減少があったことから,最も解釈しやすいと判断

した1因子解を採用した(Table5)。寄与率は53.7%であった。内的

整合性を見るために,信頼性係数(クロンバックのα)を算出する

と.88の高い値を得た。以上のことから,本研究では1因子の因子

得点を自己効力感得点として用いた。

Table5 学習一般の自己効力感尺度 (N=308)

項目 因子18

1

3

45

6

7・

2

私はよく勉強ができるほうだと思う

私は勉強が得意なほうだと思う私はよい成績をとることができると思う

私は授業で出された問題に正解できると思う私は勉強したことをたくさん覚えているほうだと思う

私はうまい勉強の仕方をしていると思う

私はこれからの授業で教えてもらうことがわかると思う

私は授業で教えてもらうことがわかると思う

.83

.78

.73

.69

.63

.61

.60

.57

(2)原因帰属様式と各言葉かけを嬉しいと感じる程度の関連の検討

学習のつまずき場面における各原因帰属の高群低群で嬉しいと感

じる言葉かけは違うのか,について分析を行った。原因帰属の4つ

の下位尺度ごとに,各原因帰属の高・低(2)×言葉かけを嬉しいと感

じる程度(4)の二要因分散分析を行った。(Table6)

15

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Table6言葉かけを嬉しいと感じる程度の平均値(SD)と分散分析結果

クラス

N客麗蛍畑野響離低評言葉か1ナ 促す

18.28**

5.00 5.46 5.72 5.36 高群 112 0.17 n.s. 18.74** (1.66) (t63) (1.79) (1.75)能力帰属 5.10 5.56 5.70 5.46 低群 171 t67 1.54 1.75 1.67

5.01 5.46 5.73 5.43 高群 155 q.61) (1.55) (1.73)、 (1.67)課題の困難さ帰属 5.13 5.78 5.67 5.41 低群 128 1.73 1.61 1.81 t75

0.05 n.s. 18,29**

+p〈.10*p〈.05**p〈.01

その結果,努力帰属について1は高・低の主効果(F(1,281)=3.94,p〈.05)と言葉かけの主効果(F(3,279)=19.68,p〈.01)

が有意であった。努力帰属の高群は低群よりも言葉かけを嬉しく感

じる程度が高いことがわかった。また,能力帰属では,言葉かけの

主効果(F(3,279)=18.74,p〈.01),課題の困難さ帰属では言葉かけの

主効果(F(3,279)=18.29,p〈.01),運帰属では言葉かけの主効果(F

(3,279)=19.79,p〈.01)が有意であった。言葉かけの主効果に関して

多重比較を行ったところ,どの原因帰属においても,得点の低い順

に「クラスの助け合いを促す」<「理解を示す」≒「ヒントを与え

る」<「評価をする」であった。このことから,いずれの帰属をし

ても嬉しいと感じる言葉かけには同じ差があり,「クラスの助け合い

を促す」言葉かけ「理解を示す」言葉かけ「ヒントをくれる」言葉

かけよりも,「評価をする」言葉かけをよりうれしいと感じることが

わかった。

次に,言葉かけを嬉しいと感じる程度によって原因帰属が違うの

かを検討するために,言葉かけをうれしいと感じる程度得点の平均

値を境に高群と低群にわけ,それぞれの言葉かけごとに,嬉しいと

16

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感じる程度高・低(2)×原因帰属(4)の二要因分散分析を行った。

(Table7)(Figure1)

Table7 原因帰属の得点の平均値(SD)と分散分析結果

努力 能力N 帰属 帰属

課題の 運帰属困難さ

F値

言葉 帰属交互作用

クラスの助け合いを促す

5.84 4.97高群 119 (t49) (1.61)

5.37 5.05低群 164 1,51 190

4.76

q.99)

5.00

t93

4.52 0.41(t60)

4.34

159

27.40** 2.76*

ヒントを与える

5.72 4.96高群 165 (1.46) (t66)

5.35 5.10低群 118 159 193

4.87

(t82)

4.95

213

4.51

0.49(t54)

4.29

167

25.39** 1.80

評価を示す

4.85

(t90)

4.97

204

4.53 2.76+(1.55)

4.25

1.65

24。35** 285*

理解を示す

4,81

(t92)

5.01

200

4.61 tO3(t61)

4.20

155

26.74** 3,04*

+p〈.10*ρ〈.05**p〈.0准

600

艇55G嘩膣 500曝鰹座§450

400

クラスの助け合いを促す言葉かげ

i前群1

藁璽盤I

I

600

艇 550唯e麗ξ500

駿鰹 45G瞳

400

評髄をする言葉かけ

努力帰属 能力帰属 課題菌難さ 運帰属

原囲帰属様式

努力帰属 能力帰属 課題函難さ 運帰属

刑罰蔵様式

囲離

600

噸 550嘩e睡500

壁駁 450瞳

400

ヒントを与える言葉かけ

努力帰羅 能力帰属 課題困難さ 運帰麗

原鴎属様式

聴群1馨低群:

600

噸 550鵬e瞑50G膿麗 450瞳

40G

理解を示す言葉かけ

努力帰属 能力帰属 課題困難さ 運帰属

鯛帰属様式

蠣轟∵

図低茎

臼gure1 言葉かけを嬉しいと感じる程度高群・野比の原因帰属得点の平均値 17

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その結果,「クラスの助け合いを促す」言葉かけでは,原因帰属の

主効果(F(3,279)=27.40,p〈.01)と交互作用(F(3,279)=2.76,

p〈.05)が見られた。原因帰属の主効果について多重比較(LSD法)を

行ったところ,帰属の強い順に「努力帰属」〉「能力帰属」≒「課

題の困難さ帰属」〉「運帰属」となった。交互作用について単純主

効果の検定の結果,努力帰属得点において「クラスの助け合いを促

す」言葉かけを嬉しいと感じる程度の高群は下思よりも有意に得点

が高かった(F(1,281)=6.64,p〈.05)。しかし,他の帰属様式につい

ては有意差が見られなかった。

「ヒントを与える」言葉かけでは,原因帰属の主効果(F

(3,279)=25。39,p〈.01)が見られた。多重比較の結果は上記と同様で

あった(「努力帰属」〉「能力帰属」≒「課題の困難さ帰属」〉「運

帰属」)。

「評価をする」言葉かけでは,原因帰属の主効果(F(3,279)=24.35,p〈.01)と交互作用(F(3,279)=2.85,p〈.05)が見られ

た。原因帰属の主効果についての多重比較の結果は上記と同様であ

った(「努力帰属」〉「能力帰属」≒「課題の困難さ帰属」〉「運帰

属」)。交互作用について単純主効果の検定の結果,努力帰属得点に

おいて「評価をする」言葉かけを嬉しいと感じる程度高群は二野よ

りも有意に得点が高かった(F(1,281)=11.78,p〈.01)。しかし,他の

帰属様式については有意差が見られなかった。

「理解を示す」言葉かけでは,原因帰属の主効果(F(3,279)ニ26.74,p〈.01)と交互作用(F(3,279)=3.04,p〈.05)が見られ

た。原因帰属の主効果についての多重比較の結果は上記と同様であ

った(「努力帰属」〉「能力帰属」≒「課題の困難さ帰属」〉「運帰

属」)。交互作用について単純主効果の検定の結果,努力帰属得点(F

(1,281)=4.73,p〈.05)運帰属得点(F(1,281)=4.87,p〈.05)において

「理解を示す」言葉かけを嬉しいと感じる程度高群は低下よりも有

意に得点が高かった。しかし,他の帰属様式については有意差が見

られなかった。

18

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以上のことから,言葉かけを嬉しいと感じる児童は努力帰属する

傾向が高いということがいえる。原因帰属の主効果について,どの

言葉かけにおいても帰属の強い順に「努力帰属」〉「能力帰属」≒

「課題の困難さ帰属」〉「運帰属」となった。児童は失敗場面に直

面したとき,その原因を努力不足に帰属する傾向があることが明ら

かになった。

(3)原因帰属と自己効力感の関連の検討

原因帰属様式のタイプによって自己効力感に差があるのかを検討

することにした。原因帰属様式の傾向を探るために,各原因帰属の

数値を基に,クラスター分析(非階層的方法;SPSSの大規模ファイル

のクラスター分析による)を行い,特徴のよく現れる5つの群に分類

した。各タイプの原因帰属得点(下位尺度)の平均値をFigure2に示

した。

努力帰属8T

評2’ 説

運帰属’ ㍉ゼ ノ

詞, 菰、

、 ,

課題の困難さ帰属

能力帰属

タイプ1

囎鰍㎝ ^イプ2

暉一日 ^イプ3

タイプ4

タイプ5

Figure2 原因帰属のクラスターTable8タイプごとの原因帰属得点の平均値(SD)と分散分析結果

タイプ1タイプ2タイプ3タイプ4タイプ5 多重比較 N 52 64 49 92 26

6.56 4.58 4.88 623 5.00努力帰属 (1.46) (1.38) (1.25) (0.90) (1.52)

6,88 3.40 3.78 6.11 3。73能力帰属 (1.18) (0.89) (0.98) (1.15) (1.22)

課題の困 7.46 3.13 6.12 4.77 2.31難さ帰属 (0.73)(0.86)(1.05)(1.34)(0.47) 4.50 3.47 5.24 4.05 6.31運帰属

163 125 1.61 120 123

1≒=4>2≒3≒4

1>4>2≒3≒5

1>3>4>2>5

5>1≒3≒4>2

19

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タイプの特徴を探るために5っのクラスターを独立変数,各原因

帰属を従属変数として分散分析を行った。その結果,全ての原因帰

属様式でタイプの主効果が認められた。努力帰属(F(4,278)=27.44,p〈.01),能力帰属(F(4,278)=122.98,p〈.01),課題

の困難さ帰属(F(4,278)=186。70,p〈.01),運帰属(F

(4,278)=25.96,p〈.01)であった。タイプの主効果について多重比較

(HSD法)を行った結果をTeble8に示した。多重比較の結果から,タ

イプ1は,努力・能力・課題の困難さに強く帰属するタイプ。タイ

プ2は全体に帰属の低いタイプ。タイプ3は,課題の困難さに強く

帰属するタイプ。タイプ4は,努力・能力に強く帰属するタイプ。

タイプ5は運に強く帰属するタイプとした。

次に,原因帰属のタイプによって自己効力感に差があるのかを,

自己効力感を従属変数にし,原因帰属の5つのタイプを要因とした

一要因分散分析を行った。(Table9)

その結果,原因帰属のタイプの主効果が見られた(F(4,278)=6.64,p〈.01)。TukeyのHSD法による多重比較を行ったとこ

ろ,タイプ1,タイプ2,タイプ3,タイプ4のそれぞれに比べ,

タイプ5の自己効力感得点が有意に高かった。このことから,運に

帰属するタイプは,自己効力感が高いということがいえる。

’Table9 原因帰属のタイプごとの自己効力感の平均値(SD)と分散分析結果

タイプ1 タイプ2 タイプ3 タイプ4 タイプ5 F値と多重比較

18.73 20.31自己効力感 (4.90) (4.30)

N 52 64

19.06 18.61 23.19

(4.24) (4.05) (4.88)

49 92 26

6.36**

(1≒2≒3≒4)<5

+p〈.10*p<.05**p〈.01

さらに,自己効力感の高さによって各原因帰属の得点に差がある

のかを検討するため,自己効力感の高群・中群・低回で各原因帰属

の得点が違うのかについて分析を行った。(Table10)自己効力感得点

の平均値から1/2SD以下を低群,1/2SD以上を高群,残りを二三と

した。自己効力感の高・中・低(3)×各原因帰属(4)の二要因分散分

析を行った。

20

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Table10原因帰属得点の平均値と(SD)と分散分析の結果

F値 努力 能力課題の 運帰属 交互N 帰属 帰属 困難さ 高申低 帰属 用

高群

自己効力感傷群

戦野

87

准11

85

5.4 4.84 4。37

(1.47) (1.7遷) (1.93)

(1:ll)(1:ll)(1:器)

5.57 5,25 5.34

t68 2,01 2.00

4.79 0.86 27.56** 6.83**(t68)

4.56

(t46)

3,85

1.54

+p〈.10*pく.05**p〈.01

「。,lr

I

I艇5noi嘩ie4.50 睡 瞭4.00

曖3.5011 3.00

L課題の困難さ 運帰属

I i

i翻高群i…

幽申群i

旦低劃1

Figure3 課題の困難さ帰属,運帰属における得点

その結果,原因帰属の主効果(F(3,279)瓢27.56,p〈.01),交互作用

(F(6,276)瓢6.83,p〈.01)が認められた。単純主効果の検定の結果,

課題の困難さ帰属(F(2,280)瓢6.03,p〈.01)と,運帰属(F

(2,280)=9.28,p〈.01)が有意であった。多重比較の結果(Figure3),

課題の困難さ帰属においては,低群≒中群〉高群,また運帰属にお

いては高群需中群〉低群であった。自己効力感高群は低群よりも課

題の困難さに帰属しにくく,自己効力感低群は高群より運に帰属し

にくいということが明らかになった。

(5) 言葉かけを嬉しいと感じる程度と自己効力感の検討

自己効力感の高さによって,言葉かけを嬉しいと感じる程度が違

うのかについて分析を行った。自己効力感の高・申・低(3)×各言葉

かけ(4)の二要因分散分析を行った。(Table11)

21

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Table11 言葉かけを嬉しいと感じる程度の得点(SD)と分散分析の結果

諭謝・恩顧を響高低F騒か1ナ

高群 87

自己効力感 中口 111

低群 85

5コ4 5.78 5.85

(t75) (t53) (1.86)

5.26 5.63 5.82

(1.63) (1.51) (1.61)

4.72 5.09 5.41

1.57 1.63 1.84

5.64 3.87* 19.04**(1.76)

5.50

(1.62)

5.09

1.71

+p〈.10*p〈.05 **p〈。01

その結果,自己効力感の主効果(F(2,280)=3.87,p〈.05),言葉か

けの主効果(F(3,279)ニ19.04,p〈.01)が認められた。自己効力感の主

効果について多重比較(LSD法)の結果,高群≒中群〉低群であった。

自己効力平等群はどの言葉かけも嬉しいと感じにくいことが分かっ

た。言葉かけの主効果について多重比較(LSD法)の結果,得点が低

い順に「クラスの助け合いを促す」<「理解を示す」≒「ヒントを

くれる」<「評価をする」であった。自己効力感の高低に関わらず,

評価をする言葉かけを他の言葉かけよりも嬉しいと感じるというこ

とがいえる。

(6)言葉かけをもらっていると感じる頻度と自己効力感の検討

自己効力感の高さによって誉言葉かけをもらっていると感じる頻

度が違うのかについて分析を行った。自己効力感の高・中・低(3)

×各言葉かけをもらっていると感じる頻度(4)の二要因分散分析を

行った。(Figure4)

その結果,言葉かけをもらっていると感じる頻度の主効果(F

(3,279)=12.09,p〈.01)が認められた。自己効力感の高群・中群・低

群で言葉かけをもらっていると感じる頻度に差はなかった。言葉か

けをもらっていると感じる頻度の主効果について多重比較(LSD法)

を行ったところ,低い順に「評価をする」<「理解を示す」<「ク

ラスの助け合いを促す」≒「ヒントをくれる」であった。

22

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自巳効力感(高申低)×言葉かけ

4.00

3.80

3.60

3.40

3.20

3.00

クラスの助け合いを促す ヒントを与える 評価をする 理解を示す

鴛麟

言葉かけ

Figure4 自己効力感の高さによる言葉かけをもらっていると

感じる頻度の変化

23

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考察

調査IIの目的は,学習意欲の低下がもっとも促進されやすいであ

ろう学習のつまずきの場面について,児童がどのような原因帰属を

しているのか。つまずいたときに教師にどのような言葉かけをして

もらうことが嬉しいと感じ,そのことが自己効力感の促進にどのよ

うに影響を及ぼしているのかを明らかにすることであった。

その結果,まず原因帰属について,児童は学習場面でつまずいた

ときの原因帰属の傾向としては,高い順に「努力帰属」〉「能力帰

属」≒「課題の困難さ帰属」〉「運帰属」となり,「もっと勉強して

いたら間違えなかったのに…」のように努力帰属傾向が強いことが

明らかになった。自己効力感に及ぼす影響としては,努力帰属・能

力帰属をする傾向の高いタイプは他の4タイプよりも自己効力感が

低いという結果になった。この結果はこれまでの失敗場面での原因

帰属と自己効力感の関係の研究(伊藤,1996)(吉田ら,2004)と一致す

るものである。失敗場面における努力帰属の傾向について,桜井

(1989)も,絶望感と原因帰属との関係で,絶望感の高い児童は失敗

事態において努力に帰属する傾向が強いことを示し,そして次のよ

うに述べている。「彼らは,失敗の原因を努力に帰属して深い抑うつ

になることを防衛している。また,彼らは,失敗の原因をいわゆる

“努力万能主義”の影響のもとに,努力不足に帰属している。しか

し,彼らは,努力しても無駄であることを知っている。」桜井の述べ

るように,日本の努力主義の教育態度が,児童の絶望感と結びつい

ているのならば,Weiner(1979)の理論にも言われているように,自

分の能力に帰属しやすい子どもは達成欲求を低下させてしまうのだ

から,努力帰属をするほうがよいと強調,重視してみたところで自

己効力感の向上を図ることは難しいと考えられる。さらに本研究で

は,運に帰属する児童は自己効力感が高いという結果が得られた。

しかし,失敗の原因を運に帰属することで自己効力感が上がるとす

ると,外的で不安定な要因に帰属することになり自己効力感向上の

要因として説明しにくいと考えられる。逆に,自己効力感が高いた

24

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めに,問題に答えられなくても「いつもは出来るんだ。今回はたま

たまだ。」と失敗の原因を運に帰属する,と考えることができるので

はないだろうか。自己効力感の低い児童はつまずきの原因を運に帰

属しにくい,という結果と合わせて考察すると,つまずきの原因を

運に帰属できる児童は自己効力感を高く持てている児童であると考

えられる。だからこそ特に,自己効力感の低い児童は,努力や能力

に帰属することになり,無気力感を強めてしまう可能性が考えられ

るのではないだろうか。

次に,言葉かけについては,「評価をする」言葉かけがもっともう

れしいと感じ,ついで「ヒントを与える」言葉かけがうれしいとい

うことが明らかになった。渡部ら(1998)によると、一般に児童は道

具的なサポートを教師に求める傾向が強く、勉強に関する問題とい

うよりもむしろ周りの友人など対人関係に関連して生じる不安の場

合は、児童は一般に「情緒的なサポート」を教師に求める,という

ことが明らかになっている。「道具的サポート」に関連して安達ら

(2000)の研究においても「児童にとって解決が困難と予想される場

面では,具体的な目標やヒントになる言葉かけが効果的である」と

いう結果が見られる。「ヒントを与える言葉かけ」は学習のつまずき

場面において勉強の不安の軽減させる,児童のつまずきを落ち着く

答えまで導いてくれるようなサポートとして児童が求めている言葉

であるということが言えそうである。一方で,本研究においては,

児童は「評価をする」言葉かけをもっとも嬉:しいと感じるという結

果が得られた。なぜ本研究において,先行研究と異なる結果が得ら

れたのかについての理由ははっきりとしない。さらに検討する必要

があると考えられる。ただ,先行研究にもあるように「評価をする」

言葉かけは,クラスの中での対人関係における不安を軽減させるも

のとしても重要であるといえる。また,予備調査における現職教員

へのインタビューの中でも「評価をする」言葉かけを教師から受け

ることによって児童は嬉しいと感じ,少し苦手なこともやってみよ

うという気持ちを持つという例があった。以上のことから,何より

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も児童はっまずいた時にさえ,まず担任の教師から認められたい,

ほめてほしいと思っているということがいえるのではないだろうか。

また,自己効力感がある程度高い児童は,教師からの言葉かけを

嬉しいと感じているが,自己効力感が低い児童はどんな言葉かけも

嬉しいと感じる程度が低くなるという結果から,教師のかかわりと

して本研究で取り上げた言葉かけが,自己効力感の低い児童に有効

なものではなかったと考えられる。そして,本研究でもっとも注目

した,嬉しいと感じる言葉かけが自己効力感に与える影響について

は,どのような関係も見られなかったことについても,本研究で取

り上げた言葉かけ以外の教師のかかわりの重要性について検討する

必要を示唆しているといえる。’

また,言葉かけをしてもらっていると感じる頻度については,自

己効力感の高さに関わらず,「ヒントを与える」言葉かけ,「クラス

の助け合いを促す」言葉かけがもっとも頻度の高い言葉かけとなっ

た。逆に,もっとも頻度として少ない言葉が「評価をする」言葉か

けであった。これは,調査1の参与観察において,最も多く見られ

た言葉かけが「他の人どうですか?」といった「クラスの助け合い

を促す」言葉かけであったという結果とも一致する。教師は,授業

を進める中である児童がつまずいたとき個人の失敗に対するフォロ

ーと同時に,これを機会にクラスの構成員の思考を深めたり,つま

ずいた児童を助けるために他の児童に意見を求めたりすることが多

い。また,授業の流れやテンポを考えて他の児童に意見を求めるこ

とも多いことが予備調査のインタビューにおいて見られた。しかし

一方で,児童がもっとも嬉しいと感じる言葉は「評価をする」言葉

かけであることから,実際に教師が授業中に行う言葉かけと児童の

求める言葉かけの間にはズレがあるといえるだろう。学習意欲に関

する児童・生徒と教師の認知のズレについて調べた研究(吉田・山

下,1987)によれば,教師と児童・生徒の間には学習意欲に影響を及

ぼす要因について認知のズレが存在し,「両者にズレがあった場合に,

教師は児童・生徒の意欲を促進する行動を意欲促進に役に立たない

26

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と考えて行動しなかったり,意欲を阻害する要因を学習意欲には影

響がないと考えて修正しないといったことが起こり,その結果,児

童・生徒の意欲の促進が抑えられたり,不当に阻害されることも考

えられる。」など,両者のズレの弊害が指摘されている。こうしたこ

とから,教師の児童への言葉かけにも効果的なものとそうでないも

のがあると考えられる。そしてその有効性は児童が教師に望む言葉

かけと教師が実際に行う言葉かけのズレの少なさに由来すると考え

られる。言葉かけが有効になるか否かは送り手と受け手の関係や,

他の特性(場面や受け手の特性)によって決まる可能性が高い。つま

り,教師が児童に有効なサポートを行うためには,場面や児童の特

性に合わせたきめ細かなサポートを提供する必要があると考えられ

る。

以上のことから,本研究で明らかにしょうとした,児童の失敗場

面について,児童の原因帰属と自己効力感をつなぐ媒介要因として

の「教師の言葉かけ」の影響は明瞭に確認することは出来なかった。

しかし,少なくとも児童は,「評価をする」ことばかけを最も嬉しい

と感じており,自己効力感がある程度高い児童は教師からの言葉か

けを嬉しいと感じるということが明らかになった。言葉かけの効果

がはっきりと検証できなかったことについて,本研究では,場面想

定法を用いており,一度きりの質問紙法で因果関係を仮定し検討す

るといった方法論をとっているため,実際の教育場面における効果

については推定に限界がある。そこで,どのようなかかわりの仕方

が児童の自己効力感の促進に影響を及ぼすのか,特に言葉かけを嬉

しいと感じにくい自己効力感の低い児童に対してのかかわりの仕方

にも目を向けながら,現職の小学校教員へのインタビューを通して

考察していくことにする。

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第4章 調査皿

目的

これまでの調査において,児童の学習におけるつまずきの場面で,

教師のどのような言葉かけが児童の学習面での自己効力感を促進す

るのかを質問紙による調査の結果から考察してきた。調査皿では,

失敗場面にとどまらず,学校生活全般において,児童の特性や場面

によって,どのようなかかわりの仕方が児童の自己効力感の促進に

影響を及ぼすのかについて明らかにしていくことを目的とする。

方法

(1)調査対象者

小学校現職教員(大学院在学中)3名

2名は教職経験:10年以上,1名は教職経験:3年の教員であり,

3名とも女性である。

(2)調査時期

2007年12月5日~7日

(3)調査内容

調査Hの結果を受けて,「学校生活の中で,児童の自己効力感

を高める,もしくは低下させないために,どのような関わり

方をしますか?」「自己効力感の低い子・高い子にはどんなか

かわりの仕方や,言葉のかけ方をしますか?」の2つの質問

をし,それぞれ1時間30分ずつ半構造化面接を行った。回答

はオープンエンドで行った。

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結果

面接で話された内容を要約し,分類したものをTable12に示した。

教師は授業の中でも給食や掃除など学校生活全般においても児童の

自己効力感を高める,または低下させないために意図的・無意識的

なかかわりをしていることがわかった。

まず,教師から見て自己効力感の低い児童は,突出してほめる部

分が見えにくく,かかわりが少なくなってしまいがちである。この

ような児童は,能力が低かったり,おとなしい性格であったりする

ために,ほめられるという経験が少なく,自信のなさからか無気力

な状態になっている。教師は,特にこのような自己効力感の低い児

童には,小さな目標や活躍の場を与え,出来たらほめ,「出来るん

だ!」という実感を繰り返し味わえるような働きかけを行っている。

また,出来ていて当たり前のことであっても,その児童が出来てい

ることをほめ,教師が自分を見てくれているんだという実感を持て

るようなかかわりをして行く,ということであった。逆に,自己効

力感の高く見える児童には,教師に評価されたいために頑張りすぎ

るということもあるということも考慮して,かかわりを持つことが

明らかになった。

自己効力感を高める,低下させないかかわりの仕方については,

自己効力感の低い児童へのかかわりとほぼ共通する部分が見られた。

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Table12 1」・学校教員への面接で語られた内容

自己効力感の低い児童とは

特徴=不器用/運動・学習においても能力が高くない/友達とのコミ

ュニケーション苦手/感情・反応が薄い/宿題をしない/発表しない

/おとなしい

見立て:無気力・喜ぶのが怖い・カラに閉じこもっている

教師からの見え方=気をつけなければほめる場面が見つけにくい

自己効力感の低い子にどのような対応をするか

①成功経験をさせる。

【Key word】

個別の目標(スモールステップ)・失敗しない課題を与える・成功経験

の積み上げ

⇒「できた!」という喜びを味わえるようにする。

②ほめる

【Key word】

当たり前のこと・その子が好きなこと・具体的に言語化して・みんな

のまえで・大げさに・繰り返しほめる

⇒先生が自分を見てくれているという実感を持たせる。

自己効力感の高い子にどのような対応をするか

①控えめに・無意識に・軽めにほめる。

過適応の場合は認められたいがために無理していることも。

先生にほめられ続けなくても,自己効力感を低下させずにいられる

ように気をつける。

30

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自己効力感を高める,低下させないための教師のかかわり

①ほめる

【Key word】

挑戦していること・みんなの前で・繰り返しほめる・当たり前のこと・

先生が見ていないだろうと児童が思って、いるところ・具体的に・さり

げなく

②成功体験のチャンスを与える

【Key word】

成功体験の積み上げ・係りを与える

③教師が児童を「気にかけているよ」というサインを送る【k,y。。,d】

顔を見る・視線を送る・机間巡視を多めに・スキンシップ

教師の持つべき姿勢とは

①謙虚である事

【Key word】

相対評価で児童を見ない・子どもに対する思い込みを持たない・様々

な関わりをする(状況によって効果的な関わりは違う)・子どもは日々

変わるのだという認識・教師は子どもの成長のコーディネータである

②子どもの可能性を信じること

【Key word】

長期的な成長を考える・子どもの特性を決め付けないこと

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考察

教師が児童の自己効力感を高め,または低下させないための働き

かけとして,もっとも多く見られたのは「ほめる」というかかわり

である。内容としては,「学校に来ていること」「席に着いているこ

と」のように,当然のこともほめる。これは,突出したことだけを

ほめるのではなく,思いもよらない部分をほめることで,児童は教

師から認められているという感覚を得ることが出来るのだろう。ま

た,「成功経験のチャンスを与える」というかかわりも重要視されて

いた。内容としては係を与えたり,小さな目標を与えたりして「で

きた!」という実感を持たせる機会を意図的に作っていくものであ

る。児童は「できるんだ」という体験の積み重ねを通して,他の事

象に対しても積極的な姿勢を持つことができるということである。

そして,「気にかけているよ,というサインを送る」かかわりも大切

である。内容としては,顔を見たり,肩に手を置いたりする。この

ことによって,児童は教師から大切にされているという安心感を得

ることができるのではないだろうか。これらのかかわりについては,

成功体験を与え,出来たらほめる,のように連続的に行われている

ものであり,中でも最も強調されていたのは,このようなかかわり

を繰り返し,何度も続けていくことであった。そのためにも,教師

の姿勢として,子どもを思い込みで判断せず謙虚な姿勢で見つめ,

子どもの可能性を信じて関わり続けることが,児童の自己効力感の

促進に繋がっていくことが分かった。

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第5章 総合考察

本研究の目的は,児童の学習における失敗場面において,教師が

どのような言葉かけを行っているのかを検討すること。児童のつま

ずいた場面での原因帰属の仕方によって,自己効力感が高まること

につながる言葉かけが違うのではないかという仮説をもとに,言葉

かけが自己効力感に与える影響について明らかにすることであっ

た。これについての直接的な証拠は得られなかったが,本研究では

それ以外に児童の自己効力感の促進についての重要な示唆を含ん

だ結果を得ることが出来た。

言葉かけについては,児童が最も嬉しいと感じる言葉かけは「ここ

までがんばってすごいね。」のように,評価をする言葉かけであった。

しかし,教師は授業の流れやクラス全体の学習の深ま.りを意識したり

他の児童の助けによって最後まで答えを導き出させようとしたりす

るため,実際に行われている言葉かけでは「誰か他の人?」のような

クラスの助け合いを促す言葉かけの頻度が高かった。このように,児

童が求めている言葉かけと実際に行われている言葉かけにはズレが

あると考えられる。吉田ら(1987)によるとこのズレによって児童の学

習意欲の促進を妨げる可能性があるという。このズレを出来るだけ減

らしていくために,教師の持つべき姿勢として,児童に対して「この

子はこういう子だ。」という思い込みを持たないこと。児童の心の変

化・状況の変化によく注意して,その場に合わせた言葉かけ・関わり

方をするように努めることが必要であることが教員へのインタビュ

ーの中から見えてきた。一般的に教師は児童を評価するとき,かなり

大まかに評価していることが多いという。光背効果のために,教師が

児童に対して思い込みをもってしまうことは,最も避けなければなら

ない。いつもやる気がない,という児童はめったにいない。必ずどこ

かでその子らしいやる気を発揮している。教師自身が児童の見方や人

間の見方について,忙しい中でもじっくり考え直す時間を持つことが

必要であると考える。

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原因帰属・学習の自己効力感・教師の言葉かけの関連については,

つまずきの原因を努力に帰属する児童は,教師の言葉かけを嬉しい

と感じるが,努力に強く帰属する傾向の児童は自己効力感が低いと

いう結果が得られた。教師へのインタビューから,自己効力感の低

い児童として,「努力したら出来る」と言い続けられているが,突出

した特徴がないこともあり,ほめてもらう経験が少なく,自信がな

いために無気力傾向のある児童の姿が浮かび上がってきた。教師は

そのような児童に対して,係の仕事を与えてほめる,当然のことで

あっても出来ていることをほめるなど,意図的に工夫をしながら成

功体験・ほめられる体験を積み上げてやるというかかわりをしてい

るという報告があった。つまり,自己効力感のみなもととしてあげ

られる「達成体験」(最も重要な要因で,自分自身が何かを達成した

り,成功したりした経験),「言語的説得」(自分に能力があることを

言語的に説明されること,言語的な励まし)を現場の教師は多く用い

ながら,児童の自己効力感の促進に日々努めているということがい

える。

また,本研究における「評価をする」言葉かけをもっともうれし

いと感じるという結果からは,他者から受容されたいという気持ち

を児童は普遍的持っているということが考えられそうである。桜井

(1997)によると,他者受容感は内発的学習意欲のみなもととしての

機能だけではなく,他者受容感を得ていることにより,自分が学習

し成長することに価値を置く熟達目標へと結びつくと述べている。

玄(1993)は引算スキルの乏しい児童に対し,出来た問題に「よくが

んばりましたね」と努力承認的評価を与える群と,出来なかった問

題に「もっと頑張って欲しいですね」と努力要求的評価を与える群,

結果のみをフィードバックする群,および統制群を設けてその効果

を調べている。その結果,出来た問題に対する努力承認的評価が最

も自己効力感とスキルを上昇させることを示した。つまり,児童の

自己効力感促進の効果的介入方法として,教師はその子どもの「で

きないところ」よりも,「できるところ」に注目し,その子どもの頑

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張りを評価し励ますことが効果的であることが明らかになっている。

このことから,教師の児童へのかかわりとして「自分もいっそう努

力すればできるのだ」という信念に影響を与える言葉かけが重要で

あると考えられる。教員へのインタビューなどを合わせて考えると,

努力を認められる,ほめられるということは,児童にとっては嬉し

いことであり,教師に認められている安心感(他者受容感)を得るこ

とが出来,やったら出来るかもしれない(自己効力感),やってみよ

う(内発的動機づけ)という気持ちが湧いてくると考えられそうであ

る。

最後に,本研究における今後の課題についてまとめておく。まず,

第1に,本研究では児童に場面を想定してもらい質問紙によって回

答を求めたため,実際の場面を捉え切れていないのではないかとい

うことが考えられる。第2に,質問紙による調査であったため,自

己効力感と言葉かけ・原因帰属の因果関係が明らかに出来なかった

と考えられる。今後は,実践的・実験的に調査を行う必要がある。

第3に,教師が児童の自己効力感を促進のために行うのは,一度き

りの言葉かけだけではなく,言語的な説得・成功体験を積み重ねる

機会を繰り返し与えていくことが重要であると考えられる。したが

って,以上のような要因を総合的に検討することも,学校における

児童の自己効力感に関する研究として必要であろう。

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資料

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あな鶴の攣轡に蘭する3己につ‘1τ

敢えτく1ピきい。

〈惨じ働に〉

・3れ惨テスト履憾あ開皆せん。

あ㊧紀”居う難じむ釜のまま答え1=くだ亡い。

・感じ方惨ひこ‘ゆこりち押うの履し

正しい答えやまちがっ鶴答え跡あ‘椿せん。

・春わ切の友だちと:箱鼓した開.見せ合った鰯しな‘岡医答えτく躍さ61。

・あな鶴”書佃たものむ、

柚のAに見せる3こ惨ないの冒婁齢しτ答えτください。

・学校の箴績こ惨、蓉っ鶴く簡捷がおいの層.釦日置に答えτください。

・簡陣門3ページあります。

・もし.何”分る喝鞍いOこ∬あ。たら、鰯に手む拳肝τ先生に聞い

τください。

年 組

男・女(61ずれ力昭二〇)

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lO答え方・例O }ロ ロ

i 次の質簡について自分にあうもの1つを蓮んでOで囲んで下さい。 iじ コ

ロ コ

i (例1)わたしは、蓮勤が得意だと思う。 i

iとてもそう思うすこし@うあまりそう思わなし・ぜんぜんそう思わないiI I

8 1

■ 1

■ 1

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I l

■ I

l l

■ 薩

ロ ロ

i (例2)わたしは、ドッジボールのゲームでまけてしまいました。 ilこのとき、あなたはなぜこうなってしまったと感じますか?もっともよく当てはま1

iるもの1つをOで歯んでください。 iコ

i (7)甥っこ:諭卑しτいれ擢蒔τたのに… il ■

ロ コ

iとても観、う すこしそう思う あまりそう思わないぜんぜんそう思わないil I

■ 1

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I I

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l 瞳

匪 騨

1 唇

i 君

i (例3)(例2)の場面において、先生に次のように言われました。 li あなたの気持ちにあうもの1つを・で歯んでくださし・・ iI I

ロ コ

i (7)先生力直「力陰ん1♂っτえらかったね。」こ言う。 iI 匿

コ サ

コ ユ

1 ■このように言われた時どのように感じますか? 1 ロ

ロ ユ

iとてもうれしい少しう◎あまりうれしくなし・ぜんぜんうれしくないi

I lロ ロ

1 ■このような言葉を先生があなたに言う回数はどのくらいありますか? 1コ じ

iいつも言われるときどき言われるあまり言わ稀、ぜんぜん言われなし、i「 ■

1 ■

I l

I l

■ 1

■ l

l 匪

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i田 (1)~(8)のそれぞれの質簡について iコ

i あなたにあうもの1つを蓮んでOで囲んで下さい。 il 膿

融 瞳

ロ ニ

i 7.瓢惨醐”得遣な倦うだこ思う。 i5 1

畳 1

1 とてもそう思う すこしそう思う あまりそう思わない ぜんぜんそう思わない ;■ 1

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i 2.瓢惨纐憲教えτもらう。こ”わ干るこ思う。 iI l

I l

コ コ

コ コ

1 とてもそう思う すこしそう思う あまりそう思わない ぜんぜんそう思わない 1辱 6

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ユ ロ

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i、 3・鮒よ6即吟むこる。こ恥きるこ問う・ iコ ユ

コ ロ

1 とてもそう思う すこしそう思う あまりそう思わない ぜんぜんそう思わない ll ■

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1 4.蝉吟搬石出され紀藺酬に自盛臨きるこ思う。 il l

■ 1

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コ コ

1 とてもそう思う すこしそう思う あまりそう思わない ぜんぜんそう思わない lI 匡

ロ ロ

i 5謝噛し能こ解く航嶽τ51砺うだ唱う。 il I

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コ コ

ロ コ

1 とてもそう思う すこしそう思う あまりそう思わない ぜんぜんそう思わない 1書 1

ロ コ

コ コ

i 6瓢けうま卸鰐の崩むしτ5甦る己思う。 il I

, 1

ロ コ

ロ コ

1 とてもそう思う すこしそう思う あまりそう思わない ぜんぜんそう思わない 1■ 1

コ ロ

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i 7鮒3抽筋撚謙えτ鶴う。こ働樋嬬う。 i量 1

暑 置

1 とてもそう思う すこしそう思う あまりそう思わない ぜんぜんそう思わない ;1 コ

コ コ

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i a瓢惨よく螢誓押角きるほらだこ思う. i

■ 1

■ 1

コ ロ

1 とてもそう思う すこしそう思う あまりそう思わない ぜんぜんそう思わない 1■ 1

■ 1

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回今から瑠箇①と場面②の2つの場面が豊鴇します。

あなた自寡がそれぞれの場面の豊瑠欠暢になりきってください。そして、そのと

きあなたが感じることを答えてください。

圃私は、獲渓宵、簡捲のとき方について、手をあげぞ轄簑をしています。

しかし、私は答えがわかっているのに蓬串で言いたかったことがうまく言

葉にならず、止まってしまいました。

このとき、あなたはこの隙菌についてどう感じますか?(1)~(4)のそれぞれの

原因についてあなたの気持ちにあうものひとつをOで囲んでください。

(7)もつご勉強していれ博しっか5溌表できたのに…

とてもそう思う すこしそう思う あまりそう思わない ぜんぜんそう思わない

(2)私の学力皓っこよ回れげしっかり発表石きたのに…

とてもそう思う すこしそう思う あまりそう思わない ぜんぜんそう思わない

(3)簡呪力噛箪だったらしっかq発表石きたのに…

とてもそう思う すこしそう思う あまりそう思わない ぜんぜんそう思わない

(4)今回1さたまたま言えなかったけと:、いつ壱なら言えるのに…

とてもそう思う すこしそう思う あまりそう思わない ぜんぜんそう思わない

→右ページにつづく

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圃において、先生に(1)~(4)のように言われました。それぞれの先生の

言葉についてあなたの気持ちにあうものひとつをOで闘んでください。

i(7)先生力潅「羅か助叶τあげτ。」こウラスに聞く。…

i ■このように言われた時どのように感じますか?i; とてもうれしい 少しうれしい あまりうれしくない ぜんぜんうれしくない…

1 ■このような言葉を先生があなたに言う回数はどのくらいありますか?…

; いつも言われる ときどき言われる あまり言われない ぜんぜん言われない;

;(2)先生力臨「うん。あなたの言いたい3こiさわかるよ。」こ言う。…

i ■このように言われた時どのように感じますか?

1 とてもうれしい 少しうれしい あまりうれしくない ぜんぜんうれしくない

; ■このような言葉を先生があなたに言う回数はどのくらいありますか?i

l いつも言われる ときどき言われる あまり言われない ぜんぜん言われない

i(3)先生が「Oんな考え回信ζうかな?」と:ヒントをくれる。11 ■このように言われた時どのように感じますか?

1 とてもうれしい 少しうれしい あまりうれしくない ぜんぜんうれしくないi

l ■このような言葉を先生があなたに言う回数はどのくらいありますか?…

; いつも言われる ときどき言われる あまり言われない ぜんぜん言われない3

1(4)先生が「{30ま15山陰んiずつτ考えτすご:いね。」こ言う。…

i ■このように言われた時どのように感じますか?

; とてもうれしい 少しうれしい あまりうれしくない ぜんぜんうれしくない…

1 ■このような言葉を先生があなたに言う回数はどのくらいありますか?

1 いつも言われる ときどき言われる あまり言われない ぜんぜん言われない

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ロコロロコロロロコ コロロコ コロ コ コ ロロ コロコココ ロロロ コロロココロロロ ロコ ロロ コ ロロコココロコ コ ロコココロ ロ ココロ ロコ コロ

i國、私は護轟・融の答えを発表しまし嵐 .i ロ

≡ 簡蓮つた答えをいってしまいまし托。 ≡葡 顧

慶昌■■■口■麺■■日■■■■■匿■■匿匿■■嗣■鵬■■■■■■,■■■■膿■■■■■■■■■昌■■■■薗■・隠..■■■■匿■■■■■■■■■■■■■■■圏■層馳

このとき、あなたはこの蹟歯についてどう感じますか?(1)~(4)のそれぞれの

原因についてあなたの気持ちにあうものひとつをOで囲んでください。

(7)もっこ勉強しτい粗♂まち”えなかったのに…

とてもそう思う すこしそう思う あまりそう思わない ぜんぜ回そう思わない

(2)私の頭力iよけれ1♂まち”えなかったのに…

とてもぞう思う すこしそう思う あまりそう思わない ぜんぜんそう思わない.

(3)問題が簡単だったらまちカiえなかったのに…

とてもそう思う すこしそう思う あまりそう思わない ぜんぜんそう思わない

(4)今回けたまたままちがったけと:、いつ壱1さできるのに…

とてもそう思うすこしそう思う.あまりそう思わないぜんぜんそう思わない

→右のページにつづく

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國において、先生に(1)~(4)のように言われました。それぞれの先生の

言葉についてあなたの気持ちにあうもの一つをOで歯んでください。

i(7)先生が「03ま1酌直ん1♂っτ考えτす二いね。」こ言う。i

l ■このように言われた時どのように感じますか?

1 とてもうれしい 少しうれしい あまりうれしくない ぜんぜんうれしくない

i ■このような言葉を先生があなたに言う回数はどのくらいありますか?

1 いつも言われる ときどき言われる あまり言われない ぜんぜん言われない

i(2)先生が「羅か助けτあげτ。」とン7弓スに聞く。…

i 圏このように言われた時どのように感じますか?

; とてもうれしい 少しうれしい あまりうれしくない ぜんぜんうれしくない…

1 ■このような言葉を先生があなたに言う回数はどのくらいありますか?

i いつも言われる ときどき言われる あまり言われない ぜんぜん言われない5一_______一一_脚__________薗___________一___}_________________一____r_______________________________.

i(3)先生が「うん。あなたの言いたい3こiさわかるよ。」こ言う。…

1 ■このように言われた時どのように感じますか?il とてもうれしい 少しうれしい あまりうれしくない ぜんぜんうれしくないi

i ■このような言葉を先生があなたに言う回数はどのくらいありますか?il いつも言われる ときどき言われる あまり言われない ぜんぜん言われない

i(4)先生力陰「3んな考え方1さζうかな?」こヒントをくれる。il ■このように言われた時どのように感じますか?

1 とてもうれしい 少しうれしい あまりうれしくない ぜんぜんうれしくないi

l ■このような言葉を先生があなたに言う回数はどのくらいありますか?

i いつも言われる ときどき言われる あまり言われない ぜんぜん言われない

つ わす みなお もういちどOを付け忘れているところがないかを見直してください。

きょうりょく ご協力ありがとうございました。

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教師の言葉かけが児童の学習の自己効力感に与える影響

【問題・目的】

学習意欲増減の要因としてWeiner(1979)

は原因帰属理論の中で失敗の努力帰属によっ

て達成欲求の低下を防ぐことが出来ると述べ

ている。しかし,後の研究(吉田・戸田,2004)

で,失敗の努力帰属は児童の学習意欲向上に効

果を持たず,失敗の原因帰属と自己効力感の間

にある教師の支援が指摘された。また,自己効

力感についてBandura(1977)は,自己効力感

の形成が学習意欲の低下を防ぐことを示唆し

ている。自己効力感とは,課題などをやり遂げ

ることが出来るという予期・自信であり,この

形成には他者受容感(周りの大切な人から受容

されているという気持ち)が最も大切であると

されている(桜井,1997)。つまり,学校生活に

おいては重要な他者である教師の児童への関

わりが重要であると考えられる。しかし,教師

の言葉かけについて,その効果はいまだ実証的

に明らかにされているとは言い難い。

そこで本研究では,特に場面を,学習におけ

る失敗場面に特定し,児童がつまずいたときの

原因帰属の仕方によって,自己効力感が高まる

ことにつながる言葉かけが異なるのではない

かという仮説をもとに,言葉かけと学習の自己

効力感の関連について検討する。

【調査1】

児童が学習においてつまずく場面,教師の言

葉かけについて分類を行う。

対象学級:A小学校6年B組 26・名

調査時期:2006年11月22日~12月中旬

調査内容:参与観察行い,文字記録と,ビデオ

専 攻 学校教育専攻

コース 学校心理コース

学籍番号 MO5099 J

氏 名 養父 志乃

によって映像と音声を記録した。この観察記録

をもとに,小学校の現職教員2名の協力を得て

失敗場面・言葉かけを分類した。

【調査1・結果と考察】

失敗場面について,「自分で考えたことを発

表しながら,途中でわからなくなり,止まって

しまう」という事例が4例。「発言を求められ

て間違った答え・考え方を言ってしまう」事例

が7例見られた。言葉かけについては,ソーシ

ャル・サポートの概念を利用し,「クラスの助

け合いを促す言葉かけ」「ヒントを与える言葉

かけ」「評価をする言葉かけ」「理解を示す言

葉かけ」の4つに分類をした。

【調査H】

調査1をもとに質問紙を作成し,児童の原因

帰属様式と,教師の言葉かけが自己効力感の向

上に及ぼす影響を検討する。

調査対象:①A小学校②c小学校の5・6学年,

計313名

調査時期:①2007年3月12日~3月16日

②2007年9月25目~10.月5目

調査方法:担任を通して学級ごとに一斉に実施。

分析には,283名を対象とした。(有

効回答率90,1%)

調査内容:

1.自己効力感に関する項目

2.原因帰属に関する項目

3。教師の言葉かけに関する項目

【調査皿・結果と考察1

0学習の自己効力感に関する尺度の検討

因子分析の結果,最も解釈しやすい1因子解

Page 47: 平成19年度学位論文 教師の言葉かけが児童の学習 …repository.hyogo-u.ac.jp/dspace/bitstream/10132/2436/1/...有能感(自己効力感),自己決定感,他者受容感という三つの要素をあ

を採用した。α係数はα〉,88であり高い信頼

性が確保された。寄与率は53.7%であった。

この因子得点を自己効力感得点として用いた。

○原因帰属様式と言葉かけの関連の検討

嬉しいと感じる言葉かけは,低い順に,「ク

ラスの助け合いを促す言葉かけ」<「理解を示

す言葉かけ」≒「ヒントを与える言葉かけ」〈

「評価をする言葉かけ」であった。原因帰属は

帰属の強い順に,「努力帰属」〉「能力帰属」

≒「課題の困難さ帰属」〉「運帰属」となった。

児童は失敗場面に直面したとき,その原因を努

力不足に帰属する傾向があることが明らかに

なった。

○原因帰属と自己効力感の関連の検討

つまずきの原因を運に帰属できる児童は自

己効力感が高かった。

0言葉かけの嬉しさと自己効力感の検討

自己効力感低群はどの言葉かけも嬉しいと

感じにくい。言葉かけを嬉しいと感じる程度の

得点が低い順に,「クラスの助け合いを促す」

〈「理解を示す」≒「ヒントをくれる」<「評

価を示す」であった。

0言葉かけの頻度と自己効力感の検討

教師の言葉かけの頻度は,低い順に,「評価

をする」〈「理解を示す」<「クラスの助け合

いを促す」≒「ヒントをくれる」,であった。

頻度と自己効力感の関連は見られなかった。

【調査皿】

児童の自己効力感の促進に影響を与える教

師の関わり

調査対象:小学校教員(大学院在学中)3名

調査時期:2007年12月5日~7日

調査方法:半構造化面接

【調査皿・結果と考察】

成功体験を与え,出来たらほめることの重要

性が明らかになった。さらに,これらの関わり

は連続的に繰り返し行うべきものとして強調

された。そのための教師の姿勢として,子ども

を思い込みで判断せず謙虚な姿勢で見つめ,子

どもの状態・場面に応じて適切な関わりを持つ

ことが,児童の自己効力感の促進に繋がってい

くことが分かった。

【総合考察】

児童の自己効力感を促す教師の言葉かけの

影響は明瞭に確認することは出来なかったが,

少なくとも児童は,「評価をする」ことばかけ

を最も嬉しいと感じており,自己効力感がある

程度高い児童は,教師からの言葉かけを嬉しい

と感じるということが明らかになった。しかし,

実際に頻度の高い教師の言葉かけは,「クラス

の助け合いを促す」言葉かけであり,このよう

なズレによって児童の学習意欲の促進を妨げ

る可能性があると言われている(吉田ら,1987)。

このズレを出来るだけ減らしていくために教

師は,児童の心や状況の変化によく注意して,

言葉かけ・関わりをするように努めることが必

要である。

また,言葉かけを含めた教師の関わりについ

て,自己効力感の低い児童に対しては特に,自

己効力感のみなもととしてあげられる「達成体

験」,「言語的説得」を多く用いながら,児童の

自己効力感促進に日々努めているようである。

評価の言葉かけを最も嬉しいと感じるという

結果からも分かるように,児童は努力を認めら

れることに喜びを感じている。つまり,教師に

認められている安心感(他者受容感)を得るこ

とによって,やったら出来るかもしれない(自

己効力感),やってみよう (内発的動機づけ)

という気持ちがわいてくるのである。

主任指導教員 古川 雅文

指導教員 古川 雅文

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謝辞

本研究の過程において、終始懇切なるご指導とこ鞭捷をいただき、本論文をまとめるに

際して親身なご助言と力強い励ましをいただいた、兵庫教育大学の古川雅文先生、学校心

理学コースの諸先生方に、心より感謝申し上げます。

また、調査の実施にあたり多大なご協力をいただきました、A小学校の植田悦司先生、

6年B組の皆さん、A小学校6学年の先生方、6学年3クラスの皆さん。快く調査を引き

受けてくださった、C小学校の小束正敏校長先生、5年生6年生の学年の先生方、5年生

6年生の皆さんに厚く御礼申し上げます。そして、適切なアドバイスと情報を下さった現

職の小学校の先生方、本研究のまとめに際し、インタビューにご協力いただきました、小

学校の先生方にも深く感謝いたします。

最後に、3年間の大学院生活の中で苦楽を共にしてきた、学校心理学コースの皆さん、

小学校教員を共に目指してきた仲間である院生の皆さんにも、感謝の意を表したいと思い

ます。

兵庫教育大学大学院

2007年12,月20日

学校心理コース 養父志乃