2-3 シンポジウムⅣ「レセプト情報電子化による利用の功罪-光 … ·...
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2-3 シンポジウムⅣ「レセプト情報電子化による利用の功罪-光と影」
「レセプト情報の電子化の意味」
石川 澄
広島大学病院医療情報部教授
2012 年度の社会保障費は総額 99兆円。医療費は 30兆円、介護17兆円、年金 53兆円であ
る。何にどう使うかが課題である。その計画に使われる原データがレセプトデータである。
電子化の背景には、レセ枚数が8億枚を越えた。電子化、オンライン化して医療機関と健康
保険基金とのやり取りの事務を効率化して、医療費の分析につなげることが目的である。2011
年 11 月レセプト総数の 89.6%, 病院・調剤薬局で 90%を超えた。厚生労働省は 2012 年 3月よ
り、健康保険請求する医療費の明細書をすべて電子的に縦覧と突合点検するということだ。
全件照合により、数百億~1 千億超える「無駄遣い」がみつかると試算している。異なっ
た日に、同一の検査を行うことを、誰がそれを制限するのか?
行ってしまった医療を、どのように問題点を指摘して、誰にどう是正を促すのか?
基金、保険者側も問題を抱えている。さらに、レセプト情報から副次的に何が得られるか?
あらたな時代を迎えた局面で、今一度、諸問題を整理したい。
レセプト電子化の意味
広島大学 病院 医療情報部
広大大学院 システム医療学 併任
石川 澄 (きよむ)
本日の目標
• レセプト情報は利用して意味がある
• 何のために利用するか
• 今後、どうすれば、意義が増すのか
ヒントになれば幸いです
K.Ishikawa M.D., D. Ms
国民が求める医療とは・・・
• 「最高の医療」を求められる
X
Y
Z
K.Ishikawa M.D., D. Ms
「最高の医療とは」
限りある資源のもとで・・・
• 最高の医療をもとめている
質
コスト満足度
期 待 => 信 頼
K.Ishikawa M.D., D. Ms
ひとびとは
わが国の年齢構成の推移
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生産年齢人口 ( 15-63 )
高齢者人口 ( 64- )
年少人口 ( 0 - 14 )
推計値
23年度社会保障費 99兆円
• 年金 53兆
• 医療 30兆
• 介護 17兆
何に、どう使うかが課題
K.Ishikawa M.D., D. Ms
21世紀初頭の 医療に対する社会ニーズ
・ 高齢化社会の到来
・生活基盤の変化 ---- 3次産業化
・家族形態の変化---- 核家族化
生活不安の増大 ーーー 医療への依存
健康の家族内管理に限界 ー ー ー社会サービスへの要求増大
K.Ishikawa M.D., D. Ms
公衆衛生統計の
「精度」をあげる可能性がある
その対策の計画立案のための「原データ」として「レセ情報」がある
K.Ishikawa M.D., D. Ms
電子レセプトの普及状況(2011.11)
病院・薬局数ベース レセプト件数ベース
• 病院(400床以上) 99.6% 99.9%
• 病院(400床未満) 98.6% 99.7%
• 診療所 80.6% 92.3%
• 歯科 34.7% 42.2%
• 調剤薬局 93.8% 99.9%
• 合計 69.9% 89.6%
K.Ishikawa M.D., D. Ms
•枚数が8億枚になった⇒ 電子化、オンライン化して
医療機関と 健康保険基金、および保険者との事務のやり取りを効率化
⇒ 医療費の詳細な分析につなげる
•厚生労働省は、2006年に電子化の移行を打ち出し、2008年から段階的に義務付けてきた
• 2011年11月レセプト総数の89.6%, 病院・調剤薬局で90%を超えた
背 景 に は
K.Ishikawa M.D., D. Ms
• 2012年3月より健康保険請求する医療費の明細書をすべて電子的に点検
今までできなかったこと
・データの蓄積による分析ができない時系列の通覧 (縦覧分析)等
・多角的な分析ができない疾病別の医療費の分析生活習慣病の成り立ちの詳細な構造分析等
・様々なデータと突合させた分析ができない健診データとの突合分析人事データとの突合による、職種別、地域別、年代別のコホート分析
あらたな疾病構造分析等
K.Ishikawa M.D., D. Ms
医療費明細の電子照合項目
• 本人の過去のレセプトと照合(縦覧点検)・回数制限を越えた診療行為がないか?
・特定の診療行為を過剰に算定していないか?
・過去に減額査定された請求と同じ請求がないか?
• 病院と薬局のレセプトを照合(突合点検)・薬の投与量が病気に対して妥当か?
・薬の投与日数が制限を越えていないか?
・薬局で併用できない薬を出していないか?
K.Ishikawa M.D., D. Ms
期待される効果
• 全件照合により、数百億~1千億超える
「無駄遣い」がみつかると試算
すなわち 生活保護医療、原爆医療など、
などに 少なからず 影響があるか?
レセオンライン化で
K.Ishikawa M.D., D. Ms
「わたしたちが」が背負う医療保険制度
• 10年先に制度はどうなっていたらよいのか?
• 何ができるようになっていたらよいのか?
K.Ishikawa M.D., D. Ms
今一度 考えるチャンスにしましょう
保険基金と保険者の目標は
• 医療費の軽減? 「適切な医療費?」
• レセプト点検⇒ 「適正な」 医療をやっているか⇒ 100% 評価する
• レセプト分析 ・ 評価⇒ 予防医療の促進⇒ どの疾患群に力を入れて、組合員を護るか?⇒ どのような効果があるか? (評価する)
(DALYs分析)
K.Ishikawa M.D., D. Ms
問題点・今後の検討課題
• 複数医療機関を受診して、同じ系統の薬を出しているなど(重複受診)が判明した場合、どのよう結果を医療機関に返すのか?
• 異なった日に、同一の検査を行うことを、誰がそれを制限するのか?
• 行ってしまった場合、問題点を指摘して、誰にどう是正を促すのか?
K.Ishikawa M.D., D. Ms
近未来の役割分担
統合分析・評価患者別点検
(名寄せ)
委託業者保険者基金医療機関患者
健診サービスの実施 ・ 健康情報の提供サービス等
③診療報酬請求
保険料の納付
②自己負担額の支払い
①診療サービス ⑧診療報酬の支払い
④審査分の請求
⑦請求金額の支払い ⑥情報分析・評価結果提供
⑤情報分析・評価委託契約
あらたな局面を迎える準委任契約
• 横断的視野で考えているか?• 独り勝ちを追及するのではなく、五方満足成就を目指す必要あり。• そのためには
・新たな情報点検と分析の役割分担・共通のデータに基づいて・相互に結果を評価し・五方がそれぞれ成り立つ解決策の立案・五方同時の制度施行
委託業者保険者基金医療機関患者
健診サービスの実施 ・ 健康情報の提供サービス等
③診療報酬請求
保険料の納付
②自己負担額の支払い
①診療サービス ⑧診療報酬の支払い
④審査分の請求
⑦請求金額の支払い ⑥情報分析・評価結果提供
⑤情報分析・評価委託契約
インターオペラビリティの確保
財務省
意識していますか?
委託業者保険者基金医療機関患者
「ホット」な関係で結ばれているでしょうか?
横の連鎖を
K.Ishikawa M.D., D. Ms取り巻く社会環境を共有しているか
厚生労働省
レセプト情報から副次的に 何が得られるか?
産業保健の領域での活用例
K.Ishikawa M.D., D. Ms
レセプト点検の精緻化による総合分析
医療費の適正化ジェネリック医薬品の利用促進重複診療の低減
保険者機能の拡大の可能性が拡がる
⇒正確なデータ分析が可能に
季節病の予知、予防に対する実態把握メタボリックシンドロームによる合併症の実態把握心筋梗塞、脳梗塞の進展の予測がん対策(予防策、治療法の適正化、標準化?)・・・・・・
(だけではない)
インフルエンザの流行期の差異
件数
件数
合計点数
合計点数(食品製造業)
件数
件数
合計点数
合計点数(小売業)
K.Ishikawa M.D., D. Ms
対象 23562
対象 24078
流行期の違い
⇒ 来期の予防接種の開始時機の企画 など
これで何が言えるか?
K.Ishikawa M.D., D. Ms
部門別有病率の比較 (事例)
K.Ishikawa M.D., D. Ms
0.00%
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管理部門 サービス部門 開発部門 工場関係
糖尿病 うつ病等
0.00%
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管理部門 サービス部門 開発部門 工場関係
業務部門別の疾病動向が浮き彫り
⇒
人事施策に反映
これで何が言えるか?
K.Ishikawa M.D., D. Ms
自己管理の重要性
施される医療から自己管理、自己防衛の医療へ
医療の意識変革を運動しよう
K.Ishikawa M.D., D. Ms
糖尿病合併症の有無による費用の差
件 数
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1,000
2 ,000
3 ,000
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7 ,000
8 ,000
9 ,000
合併症なし 合併症あり
平均点数
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6,000
合併症なし 合併症あり
合併症なし
合併症あり
K.Ishikawa M.D., D. Ms
これを効果あるものとするために
• 糖尿病の合併症として、網膜症、腎炎、感染症が起こること
その対策が急務であることは知っている
• 保険医療養担当規則にも医師の職務に保健指導が掲げられている
疾病治療から教育指導・疾患の予知・予防への
政策誘導 K.Ishikawa M.D., D. Ms
糖尿病が強く疑われる人の治療状況
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重症化予防
プライマリ・ヘルスケアの重要性
K.Ishikawa M.D., D. Ms
• 糖尿病患者の増加に伴い、糖尿病神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病足病変、糖尿病腎障害、糖尿病大血管症等の重症な合併症の発症を防止することは重要な課題となっている。
• これらの合併症のうち、「糖尿病足病変」については、重点的な指導による発症防止効果があるため、評価を行うことになった。
糖尿病合併症管理料
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糖尿病合併症管理料 170点(月1回)(外来の評価)
[算定要件]
足潰瘍、足趾・下肢切断既往、閉塞性動脈硬化症、糖尿病神経障害等の糖尿病足病変ハイリスク要因を有し、医師が糖尿病足病変に関する指導の必要性があると 認めた者に対し、専任の常勤医師又は専任の常勤看護師が、
糖尿病足病変に関する療養上の指導を30分以上行った場合に算定できることとする
・専任の常勤医師:糖尿病治療及び糖尿病足病変の診療に従事した経験を5年以上有する者
・専任の常勤看護師:糖尿病足病変の看護に従事した経験を5年以上有し、かつ、糖尿病足病変に係る適切な研修を修了した者
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「人生の損失の指標」導入の勧め
DALYs : disability adjusted life years
一人の人が、病気(または障害)になった場合
社会にもどのような損失をもたらすであろうか
K.Ishikawa M.D., D. Ms
レセプト情報の詳細な分析から
DALYs (ダリーズ)の指標死と生活障害を考慮した病気の社会負担の指標
● 「健康寿命」という概念がある。
寝たきりになっておらず、元気で活動できる人生の長さを言う。
平均寿命 - 健康寿命 = 障害調整生命年令
(ある疾患が その人を健康で失くしてしまった期間)
K.Ishikawa M.D., D. Ms
「人生の損失の年数」 をいう
ある人が、それまでずっと元気だったのだが、
• 60歳の時に、脳梗塞になり、その後、寝たきりになった。• 65歳の時に、肺炎になり、亡くなった。とする。
日本人の平均寿命は、80歳、
(1)寿命が、( 80 - 65 = ) 15年短くなり、
(2)寝たきりが、5年だったので
合計、20年の「人生の損失(年数)」
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DALYs
DALYSはこのように活用される
• ある国で、なんらかのプロジェクトを行う時には、すべての健康課題(あらゆる病気、障害、事故、他)に対してDALYsの算出を行う
• さらに、それぞれの健康課題に対して、様々な治療や予防を行ったときに、削減されるであろうDALYsを計算する。
• そして、その結果をみて、
どの病気を狙って(ターゲットして)、活動するか、
どの方法(治療や予防)を使ったほうがよいか、ということを 判断する
コスト イフェクト を 算出 K.Ishikawa M.D., D. Ms
プライバシーの保護ポリシーが曖昧
それぞれの機関・立場の間で守秘契約の締結状況の再確認を必要とする
個人情報保護で依然不安もある?
プライバシー保護とは
●私たちは、
「プライバシー保護」を日常語として使っている。
---しかし、その真の意味をどこまで理解しているか?
---単なる「守秘」を意味するのではなく、多様。
・「そっとしておいて貰うこと」
・「他人からとやかく言われないこと」
にはじまり、
・「他人に知られたくないことが守られること」
・「自らの情報を知って、態度を自ら決め得ること」
・「誤った情報または不完全な情報によって、
誤った評価をされないこと」
•「見せたくない人に情報が開示されないこと」
情報漏えい事故はオンラインが有利
出展:2008 年度情報セキュリティインシデントに関する調査報告書 日本ネットワークセキュリティ協会
K.Ishikawa M.D., D. Ms
漏れない一層の工夫
1. 教育 (従事者のモラルの高揚)
(E-Learning で定期的に(3ヶ月毎)セキュリティテスト)(100%で合格)
2.情報システム技術的
( 推奨セキュリティサイトの遵守)
3.運用管理のルールの徹底
(手順のマニュアル化、内部管理の徹底)
K.Ishikawa M.D., D. MsCompliance の徹底 が 重要
医療情報は誰のためにあるのでしょうか
1. 患者のため
2. 患者家族のため
3. 社会のため
4. 人類のため
5. あなたのため
(複数回答可)
K.Ishikawa M.D., D. Ms
「医療は社会システム」
レセプト電算化義務化は
ふたたび それを確認させるエポック