第2章 建物被害の想定手法 木造、非木造(s造...
TRANSCRIPT
45
第2章 建物被害の想定手法
2.1 揺れによる建物被害
木造、非木造(S造、RC造)別に全壊棟数、半壊棟数を算出した。
被害棟数の算出にあたって、木造建物の被害率は、近年発生した地震における建物被害
の分析を考慮した中央防災会議の手法(2013)を採用した。また、非木造建物については、
構造と階層別の被害率の違いを考慮するため、兵庫県南部地震の被害実態を基本として作
成された愛知県(2003)による被害率を用いた。
(1) 被害想定フロー
(2) データの取り扱い
市町村の課税データ等を基に、建物数をメッシュに分配した(町丁目・位置データ等
を参照)。配分にあたっては、メッシュ別の夜間人口データなども利用している。なお、
データはメッシュ別に木造6区分、非木造 15 区分で建物数を集計している。
(3) 想定結果の表現
・メッシュ別の全壊棟数、半壊棟数(分布図)
・市区町村別の全壊棟数、半壊棟数
(4) 想定手法
想定は、メッシュ単位で行っている。以下に予測式を示す。
全壊棟数(木造6区分、非木造 15 区分)
= 建物棟数(木造6区分、非木造 15 区分)
×メッシュ震度に対応した全壊率(木造6区分、非木造 15 区分)
計測震度 速度
構造別・建築年次別建物数 木造6区分、非木造 15 区分
全壊率、全半壊率テーブル 木造(中央防災会議の手法) 非木造(前回(2009)の手法)
全壊棟数・半壊棟数 半壊棟数=全半壊棟数-全壊棟数
45
46
全半壊棟数(木造6区分、非木造 15 区分)
= 建物棟数(木造6区分、非木造3区分)
×メッシュ震度に対応した全半壊率(木造6区分、非木造 15 区分)
半壊棟数=全半壊棟数-全壊棟数
○木造建物の全壊率
○木造建物の全半壊率
図 2.1 木造の被害率曲線
※震度7以上の被害率については、被害関数を推測し、算出した。
※築年の区分は以下のとおり
旧築年 1962 年以前
中築年① 1963~1971 年
中築年② 1972~1980 年
新築年① 1981~1989 年
新築年② 1990~2001 年
新築年③ 2002 年~
46
47
非木造建物の被害率は、次の被害率関数で与えられる被害率を用いる。これは、1995
年兵庫県南部地震の被害実態を基本として作成された愛知県(2003)による最大速度に
関する被害率関数である。
被害率P=Φ((ln(V-V0)-λ)/ζ)
※Φは正規分布の累積分布関数、Vは最大速度。下表に、各パラメータ(V0 被害
が発生する最大速度の下限値、λ、ζは分布関数のパラメータ)を表す。
表 2.1 対象とする建物構造、年代、階数区分
建物区分 全壊 全半壊
構造 年代 階数 λ ζ V0(cm/s) λ ζ V0(cm/s)
RC 造
-1971
1-4F 4.98 0.568
10
4.68 0.444
5
5-6F 4.87 0.609 4.57 0.579
7F- 4.36 0.399 4.32 0.430
1972-81
1-4F 5.37 0.586 4.95 0.434
5-6F 5.15 0.560 4.63 0.597
7F- 4.79 0.464 4.38 0.466
1982-
1-4F 6.07 0.792 5.41 0.607
5-6F 5.67 0.604 5.03 0.581
7F- 5.20 0.514 4.63 0.449
S 造
-1981
1-2F 4.73 0.615
10
4.49 0.620
5
3-4F 4.70 0.712 4.05 0.688
5F- 4.28 0.561 3.94 0.597
1982-
1-2F 5.29 0.417 5.21 0.671
3-4F 5.35 0.610 4.86 0.795
5F- 4.98 0.525 4.30 0.590
なお、揺れの入力値については、木造建物の入力値と合わせるため、上記の最大速度
を計測震度に変換する。変換式は以下を用いる。
計測震度=2.68+1.72LOG(最大速度)
※司・翠川(1999)による変換式
47
50
2.2 液状化による建物被害
木造、非木造(S造、RC造)別に全壊棟数、半壊棟数を算出した。微地形区分及び液
状化危険度(PL 値)による低減係数を用いて被害棟数を算出した。液状化による全壊率は、
東日本大震災における液状化発生状況を反映した東京都(2012)の手法を採用した。
(1) 被害想定フロー
(2) データの取り扱い
揺れによる建物被害のデータを利用する。なお、非木造については、階層別に集計(3
階以下、4階以上)している。
(3) 想定結果の表現
・メッシュ別の全壊棟数、半壊棟数(分布図) ・市区町村別の全壊棟数、半壊棟数(該当メッシュの数を総計)
(4) 想定手法
想定は、メッシュ単位で行っている。以下に予測式を示す。
全壊棟数(木造) = 建物棟数(木造)
×メッシュPL値に対応した液状化面積率×全壊率
全壊棟数(非木造)= 建物棟数(非木造)×(1-基礎杭のある建物比率)
×メッシュPL値に対応した液状化面積率×全壊率
半壊棟数(木造) = 建物棟数(木造)
×メッシュPL値に対応した液状化面積率×半壊率
半壊棟数(非木造)= 建物棟数(非木造)×(1-基礎杭のある建物比率)
×メッシュPL値に対応した液状化面積率×半壊率
PL 値の範囲 液状化面積率
PL=0 0%
0<PL≦5 7%
5<PL≦15 18%
15<PL 65%
構造別建物数 木造・非木造
液状化面積率 PL値
液状化による被害率
全壊棟数・半壊棟数
50
51
全壊率 半壊率
被害率 8.56% 14.38%
※前回調査(2009)の手法では、全壊率と大規模半壊率を分けて算出して
いるが、大規模半壊は全壊に含まれるものとして、被害率を設定した。
基礎杭のある建物比率
=(4階以上の建物数+1960 年以降の1~3階の建物数×20%)/全建物数
※建物被害の重複の考慮
要因別による建物被害数の重複を除くため、想定にあたっては、以下のような手順を、
メッシュ単位で行う。 ① 揺れによる建物被害と液状化による建物被害は、重複しないものとする。急傾斜
地崩壊による建物被害についても、他の要因による重複は少ないものとして、重
複を除く対象とはしない。 ② 津波については、揺れと液状化の被害を受けていても、全てを津波による被害と
する。津波による建物被害の発生率から、津波による被害と、揺れと液状化によ
る被害を重複して受けた建物数を算出し、それぞれ揺れと液状化による建物被害
数から差し引く。 ③ 火災(延焼)については、揺れ、液状化及び津波による被害を受けていても、全
てを焼失被害とする。延焼火災が発生しているメッシュについて、焼失率(焼失
棟数÷全棟数)を算出し、他の要因による建物被害棟数から焼失率に応じた棟数
を差し引く。
○津波被害の補正
津波重複補正後の全壊棟数=補正前の全壊棟数×(1-津波被災率) 津波重複補正後の半壊棟数=補正前の半壊棟数×(1-津波被災率) 津波被災率=津波被災棟数(全壊・半壊)÷全棟数
全壊
半壊
無被害
津波被害+全壊
津波被害+半壊
津波被害
津波被災棟数
全棟数
津波被害との重複部分
51
52
○焼失被害の補正
焼失重複補正後の全壊棟数=津波重複補正後の全壊棟数×(1-焼失率) 焼失重複補正後の半壊棟数=津波重複補正後の半壊棟数×(1-焼失率) 焼失率=焼失棟数÷全棟数 ※津波重複補正後の全壊棟数・半壊棟数には、津波による全壊・半壊の棟数
を合算する。
全壊(津波を含む)
無被害
焼失+全壊
焼失+半壊
焼失
焼失との重複部分
半壊(津波を含む)
焼失棟数
全棟数
52
53
2.3 急傾斜地崩壊による建物被害
急傾斜地の崩壊確率と崩壊地における人家被害率(全壊率、半壊率)から、急傾斜地崩
壊による建物被害(全壊、半壊)棟数を算出した。建物被害の計算単位は、急傾斜地崩壊
危険箇所ごとに行った。
(1) 被害想定フロー
(2) データの取り扱い
急傾斜地の指定箇所毎にデータをとりまとめる。また、各指定箇所毎に該当するメッ
シュを特定する。
(3) 想定結果の表現
・メッシュ別の全壊棟数、半壊棟数(分布図) ・市区町村別の全壊棟数、半壊棟数(該当メッシュの数を総計)
(4) 想定手法
危険箇所毎に想定を行う。以下に予測式を示す。
急傾斜地崩壊による全壊棟数= 危険箇所内人家戸数×崩壊確率
×崩壊地における震度別建物全壊率
×{1-(神奈川県の急傾斜地崩壊危険箇所整備率)}
急傾斜地崩壊による半壊棟数= 危険箇所内人家戸数×崩壊確率
×崩壊地における震度別建物半壊率
×{1-(神奈川県の急傾斜地崩壊危険箇所整備率)}
※急傾斜地崩壊危険箇所の概成箇所が特定できる場合は、個々に評価を行う。
※急傾斜地崩壊危険箇所整備率は、前回調査(2009)の手法の率を基に、概成
地区の確認を行い、数値の修正を行った。
急傾斜地崩壊危険箇所等データ
計測震度
各危険箇所の危険度ランク、人家戸数(住家棟数)
崩壊確率
全壊率・半壊率
全壊棟数・半壊棟数
53
54
震度による危険度ランク判定基準は以下のとおり。
表 2.2 震度による危険度ランク判定基準
斜面危険度ランク
13点以下 14~23点 24点以上
6強以上 A A A
6弱 B A A
5強 C B A
5弱 C C B
4 C C C
※斜面危険度ランクは、斜面評価一覧表(県土整備局データ)の資料に基づいて設
定する。斜面評価一覧表の記載から切土のり面・斜面耐震調査票Ⅰ(日本道路協
会(1979))に適合する点数を与えて、この点数を合計して、危険度を評価しラン
ク付けする。
危険度ランク別崩壊確率
ランク 崩壊確率
A 10%
B 10%
C 10%
表 2.3 震度ランクごとの全壊率・半壊率
震度4以下 震度5弱 震度5強 震度6弱 震度6強 震度7
全壊率 0 0.06 0.12 0.18 0.24 0.30
半壊率 0 0.14 0.28 0.42 0.56 0.70
54
55
2.4 津波による建物被害
中央防災会議(2013)で示された津波の浸水深と建物被害の関係を用いて、建物の全壊・
半壊棟数、床上・床下浸水棟数を算出した。
(1) 被害想定フロー
(2) データの取り扱い
揺れによる建物被害のデータを利用する。メッシュ毎に、人口集中地区(DID地区)
かどうかを判別する。 (3) 想定結果の表現
・市区町村別の全壊棟数、半壊棟数、床上浸水棟数、床下浸水棟数(該当メッシュの
数を総計) ※浸水深が 50cm 以上で半壊に至らなかった建物を床上浸水とする。浸水深が 50cm 未満は、
床下浸水とする(東日本大震災における被害状況より設定)。
(4) 想定手法
想定は、メッシュ単位で行っている。以下に予測式を示す。なお、人口集中地区(D
ID地区)かそれ以外かでそれぞれ計算(全壊率・全半壊率が異なる) 全壊棟数(木造、非木造) = 建物棟数(木造、非木造)
×津波浸水深に対応した全壊率(木造、非木造) 全半壊棟数(木造、非木造)= 建物棟数(木造、非木造)
×津波浸水深に対応した全半壊率(木造、非木造) 半壊棟数=全半壊棟数-全壊棟数
構造別建物数 木造・非木造
人口集中地区の判別
全壊棟数・半壊棟数
津波浸水深別全壊率・全半壊率
55
56
建物被害率は下式で与えられる。
被害率を算出するには、人口集中地区・人口集中地区以外別に、それぞれ求め
る被害率に対応するμとσの値を、式に代入する。なお、tは浸水深を示す。
図 2.4 津波浸水深ごとの建物被害率(人口集中地区)
図 2.5 津波浸水深ごとの建物被害率(人口集中地区以外)
56
57
表 2.3 本調査における建物の現況数
参考文献:
・中央防災会議:首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告),平成 25 年 12 月
・愛知県防災会議地震部会:愛知県東海地震・東南海地震等被害予測調査報告書 平成 14 年
度版,2003.
・東京都防災会議:首都直下地震等による東京の被害想定報告書、平成 24 年 4 月
・日本道路協会:道路の震災対策に関する調査報告(Ⅱ)のり面,斜面の耐震調査法,1979.
建物棟数
木造 S造 RC造
住家 非住家 住家 非住家 住家 非住家
横浜市 555,481 43,551 90,371 38,504 20,922 52,995
鶴見区 39,316 3,097 6,343 4,281 1,493 2,666
神奈川区 33,402 2,472 5,834 2,463 1,706 2,854
西区 11,492 624 2,079 950 665 856
中区 17,758 1,055 2,309 2,144 1,234 2,450
南区 34,584 1,719 4,769 1,192 1,305 2,633
保土ケ谷区 33,801 2,402 4,757 1,520 1,117 2,994
磯子区 24,356 1,713 3,530 1,505 915 2,440
金沢区 32,147 2,209 5,395 2,595 935 4,050
港北区 44,073 3,972 7,834 4,191 2,094 3,616
戸塚区 41,403 4,155 6,973 2,624 1,356 4,059
港南区 33,664 1,762 5,466 1,135 1,083 4,498
旭区 45,485 4,056 6,692 2,305 1,132 4,002
緑区 22,831 2,411 4,411 1,498 809 2,201
瀬谷区 24,261 1,895 3,700 1,632 415 890
栄区 20,763 1,647 4,366 871 714 1,839
泉区 31,192 2,853 4,464 1,810 458 1,470
青葉区 43,669 2,827 6,494 1,880 2,337 7,555
都筑区 21,284 2,682 4,955 3,908 1,154 1,922
川崎市 162,551 18,772 32,629 19,320 13,142 15,569
川崎区 24,621 3,810 6,319 7,779 1,626 2,446
幸区 15,623 1,743 4,025 1,659 1,031 635
中原区 21,319 2,457 5,916 2,537 2,408 1,303
高津区 21,979 2,490 3,877 2,464 2,116 1,586
多摩区 26,036 3,116 5,054 1,685 2,242 2,337
宮前区 24,966 2,538 3,510 1,859 2,173 3,273
麻生区 28,007 2,618 3,928 1,337 1,546 3,989
相模原市 135,331 12,946 22,285 10,880 5,535 2,468
緑区 40,686 7,510 5,391 3,836 956 905
中央区 46,976 3,165 8,527 4,884 2,251 728
南区 47,669 2,271 8,367 2,160 2,328 835
横須賀市 98,295 7,556 14,535 4,956 2,793 7,707
平塚市 54,346 7,445 8,783 5,935 1,662 2,102
鎌倉市 44,294 4,848 6,547 2,109 2,475 3,971
藤沢市 75,884 7,422 12,934 4,905 3,579 3,514
小田原市 48,053 14,004 6,791 5,003 1,259 2,205
茅ヶ崎市 58,724 4,500 7,612 2,761 1,540 1,579
逗子市 15,747 1,027 2,091 350 513 896
三浦市 14,967 3,454 932 959 246 965
秦野市 38,101 8,507 5,893 3,601 659 1,729
厚木市 49,905 8,313 7,864 6,375 1,311 1,917
大和市 40,228 2,717 7,738 2,998 1,918 1,238
伊勢原市 20,658 4,289 4,099 2,335 551 1,041
海老名市 27,454 3,038 3,897 2,612 655 1,100
座間市 24,756 1,821 3,340 1,747 842 974
南足柄市 13,155 3,324 1,425 918 145 483
綾瀬市 23,977 1,717 2,502 3,446 313 553
葉山町 10,671 665 1,112 179 479 553
寒川町 9,601 1,539 1,395 1,392 186 198
大磯町 10,291 900 1,142 365 240 335
二宮町 8,392 1,017 1,128 357 185 577
中井町 2,844 1,632 331 491 27 145
大井町 4,833 2,303 643 522 106 124
松田町 3,844 1,175 457 264 61 85
山北町 3,885 2,312 285 556 139 153
開成町 4,676 370 598 460 41 94
箱根町 4,869 2,280 510 532 526 2,037
真鶴町 3,647 717 255 195 670 445
湯河原町 7,925 1,492 829 416 567 521
愛川町 12,063 2,754 1,096 1,878 118 253
清川村 1,146 434 85 72 9 31
計 1,590,594 178,841 252,134 127,393 63,414 108,557
市区町村名
57