20120729 interop innov_tradeoff
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オープン・ライセンスの互換性とイノベーション
渡辺智暁クリエイティブ・コモンズ・ジャパン 常務理事
国際大学 GLOCOM 主任研究員 / 准教授2012.7.29.
オープンデータ・ライセンス勉強会
自己紹介・クリエイティブ・コモンズ・ジャパン:ライセンス
関連の支援業務、海外とのリエゾンなど・ GLOCOM :情報通信政策、情報社会に関する調査研究 最近では日本のオープンデータ政策、欧州のオープン
データ(公共セクター情報利用促進)政策の状況など・ Open Knowledge Foundation Japan グループ: 立ち上げ準備、政策提言、本部とのリエゾンなど・オープン化への関与はウィキペディアがきっかけ
※法学者、弁護士などではありません。※発言内容は個人の意見で、組織の公式見解などではあ
りません。
本日のメニュー
A ライセンスの互換性はどうして大切なのか
B ライセンスのイノベーション(変化)の例
C イノベーションと互換性の関係
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A ライセンスの互換性はどうして大切なのか
B ライセンスのイノベーション(変化)の例
C イノベーションと互換性の関係
オープン・ライセンスとは ?
オープン:複製や改変や配布が、誰にでも許諾されているような状態。(一定の制約条件はつく。)
著作権のデフォルト・ルール:許諾無しに、他人の著作物を利用してはいけない。
(利用:複製、上演、改変、等)
オープンライセンス:著作物(やデータ)をオープンにする法的なツール。
オープン・ライセンスの典型的な形
・普通のウェブサイトの「著作権について」「利用規約」などのページには「許可なく転載などをしてはなりません」という旨の記述がある。
・オープンライセンスはその代わりに「以下の条件に従って、以下の範囲でどなたでも転載や改変ができます」というような記述をする。
オープン性の定義 Definition of Free Cultural Works (Wikimedia 系 ) http://freedomdefined.org/Definition 使用、研究、複製と配布、改変とその配布(クレジット付与、条件継承、ソースコード提供、
オープンフォーマット利用、 DRM 等による制約をしないこと、の義務付けは OK )
Open Definition (OKF 系 ) http://opendefinition.org/ 利用・再利用・再配布 (クレジット付与、条件継承、の義務付けは O
K )
オープン性の定義 The Free Software Definition (FSF) http://www.gnu.org/philosophy/free-swプログラムの使用、研究、複製物の配布、改変物の配布(条件継承、改変の場合の作品名の変更 * 、改変の場合
の著者名など変更、配布する場合の特定の配布方法の採用、の義務付けは OK )
* プログラム名の改変が他プログラムからの呼び出しに差し支える場合は、作品名変更を義務付けるのは NG
他の定義・解説例http://opensource.org/docs/definition.html (OSI) http://www.debian.org/social_contract#guidelines (debian)
ライセンスの 2 種類の利用者
・権利者(ライセンサー)どんな条件であれば、作品(やデータ)を利用
させてもよいか、選好がある。→選択肢(複数のライセンス)があるほうが
よい
・利用者(ライセンシー)→制約条件の緩いライセンスになっているほ
うがよい
ライセンスの数が多いと・・・
・利用者は、使いたい作品ごとに異なる制約条件に従わなければならない
・利用者は、様々なライセンスを読んで、理解しなければならない→マッシュアップのコストが高くなる
まとめ選択肢が多い 選択肢が少ない
権利者 ・理想のライセンスがある可能性高・探す手間は多い
・ 低・ 少
利用者 ・利用条件を理解するコスト 高
・ 低
社会全体 ・作品数は 多・組み合わせ 難
・ 少・ 易
トレードオフ
ライセンスの種類が少なすぎる:作品がオープン化されない
ライセンスの種類が多過ぎる:作品どうしの組み合わせが難しい
トレードオフを克服する工夫
・ライセンス間の違いを、明快に体系化・整理
( GPL と LGPL 、 CC-BY と CC-BY-SA と CC-BY-NDなど、略号レベルで整理できると◎)
・類似のライセンスを新しく作らない・わかりやすい構造、文言・似たようなライセンスなら、互換性を持た
せる
ライセンスにおける互換性・ライセンス A で提供されている作品 Xライセンス B で提供されている作品 Y
・この両者を組み合わせて、ひとつの作品として公表できるなら、 A と B のライセンス間には互換性がある。(少なくとも部分的には)
・組み合わせた作品の利用条件が X と Y両方の遵守ではなく、どちらか一方でよければなおよい。
・いわゆる Viral 条項の入ったライセンス間は特に互換性が欠如しがち。(コモンズの分断)
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A ライセンスの互換性はどうして大切なのか
B ライセンスのイノベーション(変化)の例
C イノベーションと互換性の関係
ライセンスは変化する必要がある
・技術などの環境が変わる・現行バージョンに不具合が見つかる・ライセンスの利用者層が変わる・…・…..
CC ライセンスの場合ver. リリース時期 主な変更点
1.0 2002.12.
2.0 2004.05 BY要素がないライセンスを廃止URL をクレジット表示の一部に音楽と映像の同期は改変にあたると明記音楽作品の法定ロイヤルティの扱いに関する規定SA ライセンス間の互換性確立
2.5 2005.06 クレジットを Wiki 、スポンサーなどの主体にも付与可能に
3.0 2007.02 クレジット付与は支持表明のように使えない事を明記( Parallel Distribution 条項の議論→不採用)
4.0 2012.10-12* クレジットなどの条件簡素化GFDL との互換性確立準備
CC ライセンスの過去のバージョン更新についての詳細は、http://wiki.creativecommons.org/License_versions4.0 は現在開発中。詳細は http://wiki.creativecommons.org/4.0 に
CC ライセンスの BY要素
CC のコアライセンスは、現在 6 種CC-BYCC-BY-NC CC-BY-ND CC-BY-SACC-BY-NC-ND CC-BY-NC-SA( CC-BY-ND-SA は論理的に矛盾を孕む為不在)当初、 CC ライセンス ver.1.0 では BY を含ま
ないライセンスも 5 種類あった。→利用率が著しく低いため、廃止。
「支持表明」禁止条項
・原作品の著作者などを明記する(クレジットを付与する)義務
→ その際に、著作者などから(改変作品への)支持表明があるかのように扱わない、という義務づけ
※MIT など著名機関の懸念に応えたとされる
GFDL との互換性準備GFDL と CC-BY-SA はライセンスとして類似している
が、 GFDL の文書( e.g. ウィキペディア)と CC-BY-SAの画像を組み合わせてよいかは不明。
( FSF スタッフが否定的にコメントしたことも)
ウィキメディア財団からのよびかけ( CC ライセンスへの乗換え希望者も)
→CC側の対応として他のライセンスとの互換性確立の手続きを制定した。
(結局互換性確立は実現されていない / ウィキメディア・プロジェクトのライセンスの「乗換え」もできなかった)
技術環境の変化への対応・ DRM の発達・普及・ DRM の回避の違法化→CC ライセンスに Parallel Distribution 条項を入れるべきか ?
・具体的に困っているという例が乏しかった・ DRM は廃れるという予想があった・ Debian があまりこの点にこだわらない様子も見せ
た→その後も DRM は普及し、日本のデジタル放送にも適用されている。(いわゆるダビング 10 )
→Parallel Distribution 条項の再論に
ライセンスの変更理由
・著名な採用者からのリクエストに対応( MIT 、 Debian 、 Wikipedians )・採用動向を見て対応( BY要素の除去)・オープンカルチャー界の動向に対応(ウィキペディアと互換性)
対応しなければ、ライセンスが採用されなかったり、共有資源のプールの拡大に妨げになったりする。
廃止された個別 CC ライセンス
・ DevNations :途上国地域に限定した CC-BY→オープンアクセスの隆盛に鑑みて、地域限定ライセンスは不適当と判断、廃止
・ Sampling :リミックス利用のみの許諾→FSF などから CC のライセンスに共通の中核
的「自由」が存在しないことに批判があったことに対応。全ライセンスで非商用の複製は OK, というベースラインを設定した。
「 CC は無節操」説
・商業利用や改変を禁止するライセンスをサポートしている。
・逆に、「改変しなければ利用できない」という Sampling ライセンスも提供していた。
・「 CC ライセンスで提供されています」というロゴは、そうすると、「何かに使えます」という以上の意味を持たない。
・オープン化の推進者から見ると、かなり無節操で危険なアプローチともとれる。
オープン性の定義 Definition of Free Cultural Works (Wikimedia 系 ) http://freedomdefined.org/Definition 使用、研究、複製と配布、改変とその配布(クレジット付与、条件継承、ソースコード提供、
オープンフォーマット利用、 DRM 等による制約をしないこと、の義務付けは OK )
Open Definition (OKF 系 ) http://opendefinition.org/ 利用・再利用・再配布 (クレジット付与、条件継承、の義務付けは OK )
オープン性の定義 The Free Software Definition (FSF) http://www.gnu.org/philosophy/free-swプログラムの使用、研究、複製物の配布、改変物の配布(条件継承、改変の場合の作品名の変更 * 、改変の場合
の著者名など変更、配布する場合の特定の配布方法の採用、の義務付けは OK )
* プログラム名の改変が他プログラムからの呼び出しに差し支える場合は、作品名変更を義務付けるのは NG
他の定義・解説例http://opensource.org/docs/definition.html (OSI) http://www.debian.org/social_contract#guidelines (debian)
データ系ライセンス:法の変化に対応
・欧州ではデータベース権が設定される他人のデータベースの実質的な部分を、無断で利用
してはいけない。(著作権的な独占権)→データベースのオープン化にも、ライセンスが必要になる。
CC ライセンスはデータベース権に対応していなかった(当初)→ 3.0 では、「データベース権のみで、著作権に関係のない利用行為については、ライセンスの制約がかからない」という扱い
→ODbL などの欧州のライセンスの誕生の背景
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A ライセンスの互換性はどうして大切なのか
B ライセンスのイノベーション(変更)の例
C イノベーションと互換性の関係
互換性と変更のトレードオフ
・ライセンスを変更する→変更前のライセンスと変更後のライセン
スは「同一」ではない→互換性は損なわれる
バージョン変更への対応策
・「このライセンスのバージョン n で提供されている作品は、バージョン n 以降のこのライセンスの条件に従って利用できます。」
→GFDL 、 CC-BY-SA などで採用している
※法的な有効性を疑う余地もあるかも知れない。(特に、まだ存在していない将来のバージョン
について言及している部分)
互換性確保の試み: OG 系ライセンス
独自ライセンスを作成している場合であっても、互換性をライセンス内で明記している例:
・イギリスの Open Government License → CC-BY ライセンス(全バージョン) → ODC-BY ライセンス・フランスの License Ouverte → CC-BY 2.0 ライセンス → ODC-BY ライセンス → Open Government License
まとめ
・ライセンスはやたらに増やしてはいけない・ライセンスは一度作っておしまいというわ
けにもいかない
・新しいライセンスやライセンスバージョンを作成する際には、旧版との互換性に要注意
・特効薬のない難しい問題だが、手立てはある
ご清聴ありがとうございました!
本発表資料のライセンスこの発表資料を 2 種類のライセンスで提供し、利用者が選べる
ようにするために、利用許諾に関する注意書きを以下に記します。
・ この発表資料は、 CC-BY 2.1 JP (http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/ ) でライセンスされています。
・ この発表資料は、 CC-BY-SA 2.1 JP (http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/ ) でライセンスされています。
参考までに、本作品のタイトルは「オープン・ライセンスの互換性とイノベーション」で、原著作者は渡辺智暁です。本作品に係る著作権表示はなく、許諾者が本作品に添付するよう指定した URI もありません。