2014『india essen』出席報告*
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は じ め に
2014年10月28日(火)~30日(木)の3日間にわたり,イ
ンド最大の商業都市ムンバイにて溶接・切断関係の展示
会「6th INDIA ESSEN WELDING & CUTTING FAIR(以下『INDIA ESSEN』と記す)」が2012年以来,2年振りに開催された.幸運にも,2014年4月に開催された『WELDINDIA』に引き続き,両方の展示会を訪問する機会に恵まれたので,両展示会を比較しながら,『INDIA ESSEN』の展示内容,雰囲気などをご報告したい.また,あわせて
インドの産業と溶接事情ついても紙面を借りて紹介して
みたい(図1).
インドにおける溶接展示会
現在,インドでは以下の2大溶接展示会が隔年ごとに
定期開催されている(図2).
◆『WELD INDIA』(主催:IIW-FABTECH 2014年4月開催)
◆『INDIA ESSEN』(主催:IWS-DVS-MESSE ESSEN 2014年10月開催)
元々単独で開催されていた『WELD INDIA』が,2014年から米 FABTECHと共催となった事で,双方のショーが世界的な展示会資本の傘下に取り込まれる事となった.共
催化の効果として,『WELD INDIA』では世界各地のFABTECHで紹介した内容をそのままインドで再現しており,わざわざ海外のショーを訪問すること無く,最新
の機器や技術動向に触れる事が可能となった.
一方,今回行われた『INDIA ESSEN』は,地元企業の出展が中心であり,欧米の有力な溶接総合メーカーが殆ど
出展を見送った事から,ローカル色の強い展示会となっ
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2014『INDIA ESSEN』出席報告*
大 木 俊 二**
Report of ‘6th INDIA ESSEN WELDING & CUTTING FAIR’*by OKI Shunji**
インド,展示会,溶接事情キーワード
*原稿受付 平成26年12月11日** ㈱神戸製鋼所 KOBE STEEL, LTD.
図1 インド地図
図2 溶接展示会の比較
ている.展示内容も,機器,溶接材料とも汎用製品の紹
介が中心となっており,インドの溶接事情を素直に反映
していると言う意味では興味深い展示会となっている.
出 展 状 況
今回の『INDIA ESSEN』には,130社の企業・団体が出展を行った.インド溶接メーカーの雄である,ADORが,材料,溶接装置,切断機のフルラインナップを出展した
(写真1)(写真2).また D&H,EWAC,と言った地元
の有力企業が出展を行った(写真3)(写真4).
また,今回の展示会では DVS(German Welding Society)が共催している縁もあり,独企業34社が大ブースにて共
同出展を行っていた(写真5).その他,中国からも31社
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36 じょうほう通 大木:2014 『INDIA ESSEN』出席報告
写真1 地元の雄 ADOR ①
写真2 地元の雄 ADOR ②
写真3 D&H SECHERON
写真4 EWAC
写真5 独企業ブース
写真6 中国製 溶接機
写真7 中国製 伸線機
の出展があり,トーチ周り部品,溶接材料,溶接機の他
に,生産工場向けに原材料,伸線機などの生産設備の紹
介を行っていた(写真6)(写真7).
尚,『INDIA ESSEN』の共催者でもある IWS(IndianWelding Society)の要職を,インド国営重電メーカーで,インド溶接界で指導的な地位を占める BHEL社(BharatHeavy Electricals Limited,)の幹部が兼任していることから,BHELと歴史的につながりの深いインドの地元溶接メーカーは『INDIA ESSEN』に積極的に出展していると思われる.
一方,欧米勢は,Lincoln,ESAB,ITWGr(Miller,Hobart),SAF,Bohler,Fronius,ABB,KUKA,IGMと全て不参加であり,唯一,ロボット・電源関連では
CLOOSがパネル及び溶接機を数台展示していたのみであった(写真8).尚,ESABは『WELD INDIA』に続き,今回の展示会にも出展していなかった.
また日系企業については,現地代理店の代理出展も含め
OBARA, NIPPON CUTTING&WELDING EQUIPEMENT,Panasonic溶接システム,タセト,神戸製鋼が出展を行った.『WELD INDIA』には主要な日系企業が全て参加していた事を考えるとやや寂しい気がしたが似たような規模の
展示会でもあり,各社どちらかの展示会に参加すれば十
分との判断があったように察している.その他,韓国勢
では,KISWEL,現代総合金属の地元販売店が代理出展を行っていた.
展 示 内 容
4月の『WELD INDIA』では各社が自慢の溶接プロセス装置を展示しており Lincolnの HOTWIRE MIG,SAW狭開先システム,バーチャル溶接シュミレータ―,あるい
は Froniusの新MIG/MAG電源,CMT肉盛システム,ITW(MILLER)のパイプ溶接システムなどのデモストレーションが行われ,見どころの多い展示であった(写真9)
(写真10).
一方,今回の『INDIA ESSEN』では地元の溶接材料メーカーのパネルでの出展中心であり,機械を動かしての実
演そのものが極めて少なかった(写真11).
ロボット関連では,当社,神戸製鋼が溶接ロボット・
アークマンMP×メタル系コアードワイヤの溶接実演を
行ったが,アークを出しているブースが少なかったせいか,
実演の度に大勢の来場者に集まって頂いた(写真12).
L&Tの System Integrator部門でもある EWACは,KUKAのマニピュレータにMETAのレーザセンサを搭載し,実際の溶接線事前に作成したプログラムから,ずれ
ている場合でも溶接前にレーザセンサを用い,溶接線を
読み込めば,ロボットがその溶接線に合わせて,自動で
補正出来ることを PRしていた.このようなニーズは世界各国で見られるものだが,板の加工精度がまだまだ低
いインドではこのような機能が自動化するにあたって,特
にニーズの高いものだと思われる.
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写真8 CLOOS写真9 WELD INDIAの様子(LINCOLN)
写真10 WELD INDIAの様子(FRONIUS)
写真11 会場風景 パネル展示が目立つ
装置系では,Orbital Welding(パイプ周溶接機)の文字があちこちで目立っており,流行なのか溶接機1台に複
数の送給装置を搭載するタイプの装置が複数展示されて
いた(写真13).
溶接機全般で言えばインド,中国メーカーの汎用の
TIG/MIG溶接機ばかりで,さして興味を引くものは見当たらなかった.
その他,ADORはじめ,数社がライン化提案を模型やビデオで行っており,例えば,PEMAは造船パネルライン向けのライン提案として罫書き,切断,搬送,板継,ロン
ジ溶接工程のシームレス化を提案していたが,このよう
なフルラインでの自動化の提案がインドで受け入れられ
るには未だ人海戦術が主流のインド市場においては相当時
間を要すると思われる.
溶接材料では,需要の多い E6013,E7018 系の電弧棒,E71T1 クラスの FCW,ソリッドワイヤはインドではメジャーである ER70S-2 系の TIG/MAG展示ばかりで,特に注目すべき新商品の紹介は皆無であった.
高合金系の材料では,インドには,Venus,Superonはじめステンレス専業メーカーが存在する事から幅広いラ
インナップの紹介を行っており,2相系ステンレス
(2209,2594系)アーク棒,MIGワイヤ,Ni合金では625系(ERNiCrMo-3,ERNiCr-3 系)のワイヤの展示があった.但し,インドでは一部顧客を除き,殆ど高付加価値
製品の需要が無いため,単に技術力を誇示するための展
示と思われる.その他,近年の展示会では目に付く,ア
ルミ材料(4043,5356系)の展示は4社ほどにとどまり,
主要なアルミ需要家である,造船,車両,二輪車関連の
すそ野が未だ小さい事を伺わせた(写真14).
驚いた点として,あるメーカーのパネルには,民族衣
装を着た女性が,保護手袋などの安全防具無しに切断作
業を行っている写真が大きく掲載されていた.安全が何
よりも優先する日本では決して考えられない写真である
が,現地の一般感覚では,特段問題視する内容ではない
のかも知れない(写真15).
インドの産業と溶接事情
簡単にインドの産業と溶接事情について触れておきた
い.インドの製造業は,発展段階にありながらも生産台
数で世界第6位の四輪車生産,粗鋼生産量第4位の鉄鋼
業,その他造船,石油化学と一通りの産業が出揃ってい
る(図3)(図4)(図5).
また,12億人の人口を背景としたインフラ整備関連に
ついても,発電所,鉄道,道路整備への投資が今後継続
的に続いて行くと見られている.これに比して粗鋼生産
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38 じょうほう通 大木:2014 『INDIA ESSEN』出席報告
写真12 神戸製鋼所 溶接ロボット
写真13 パイプ周溶接機
写真14 VENUS ステンレス製品
写真15 安全意識の差
あるいは鉄鋼の国内需要は更に伸長すると推定されてお
り,2020年にはインド国内の鉄鋼需要だけでも1.5億トンに達するとの見方もでている.
溶接材料需要についても,現状では日本より若干多い
年間37万トンと言われているが,遠からず年間100万トン
程度まで市場が膨らむ可能性があり,内外の溶接メーカ
ーも注目している市場である(図6).
インド国内での溶接材料(棒)生産の歴史を手繰ってい
くと,商業的生産は1950~60年頃に開始されており,溶
接棒生産の基本技術は,スウェーデン,ドイツ,米国お
よびイギリスから外国企業との協力およびジョイントベ
ンチャーによって導入された.
またインド溶接界の発展を目的として,インド政府によ
り「溶接研究協会(Welding Research Institute)」が,1975年
11月に Tiruchirapalliにある Bharat Heavy ElectricalsLimitedを母体として設立され,今なおインド溶接研究の中心となっている.
現状の溶接材料の生産メーカーとしてはインド溶接市
場のリーダーである,ESAB India Ltdと Ador WeldingLtd(旧 Advani-Oerlikon Ltd)を初めとしてある程度の生産規模のあるメーカーは被覆アーク溶接棒で約30社および
連続溶接用ワイヤで約15社ほどが存在している.さらに
特定の地域だけをマーケットとする約200社の小規模メ
ーカーが存在していると見られている(図7).
200社もあればそれだけ競合が厳しく,E6013,ER70S-6などの汎用材はインドローカルメーカーであっても薄利
多売なビジネスとなっている.国土が広く,物流コスト
が高いインドで,遠方まで輸送してしまうとビジネスが
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図7 インドの主要溶接メーカー4)
図4 インドの粗鋼生産量推移2)
図5 インドの造船3)
図6 インドの溶接市場4)図3 インドの4輪車生産1)
成り立たないため,せいぜい半径 200Km圏を商権としたおらが町の溶接材料メーカーがあるというのは点はイ
ンドの溶接事情の特徴となっている.
最 後 に
ムンバイの街中のそこ此処で“INDIA ESSEN WELD-ING&CUTTING”の広告が出されており,今回の展示会の規模を考えると若干違和感を感じるほどであった.そ
れでも“WELDING”の文字を街中で見かけるのは,気分の良いものであり,“溶接”が産業のキーテクノロジー
として重要視されている事を改めて感じた.
ビジネスの面ではすでに多くの日系企業がインド各地
に進出されており,販売拠点あるいは,生産拠点を構え
ている.恐らく,言葉の問題,複雑な法制や税制,市場
価格の低さ,物流網の未整備等々に悩まれている方々も
多いと推察する.
筆者も幾つかの国でのビジネス経験があるが,インド
ビジネスの厳しさは別格であると感じている.
それでもインドは大親日国であり,日本人や日本製品
に対する信頼は絶大である.これがなかなかうまく商売
につながらないのがつらいところではあるが,安易な現
地化に走らず,時間をかけてでも日本流のまじめなビジ
ネスを貫き通す事が重要ではないのかと考えている.
参 考 文 献1) International Organization of Motor Vehicle Manufacturers2) World Steel Association3) 日本造船工業会4) 当社調査資料
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2015.4.26~29 18th International Conference on JoiningMaterials In association with the IIW
JOM, Osama Al-Erhayem
Helsingør,Denmark
開 催 日 会 議 名 主 催 開催場所
2015.4.28~308th European Stainless Steel Conference 2015 ‒ Science
and Market and the Duplex Steel Conference & Exhibition 2015 (http://www.stainlesssteel2015.org/)
ASMET(The Austrian Society for Metallurgy andMaterials)
CongressGraz, Austria