307558 hp用(81cs6) sawai...平成22年から年間数回の定期的な「臨床遺伝セミナ...

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Osaka University Hospital 遺伝子診療部 1.スタッフ 部長(兼)教授 望月 秀樹 その他、教授 2 名、助教 1 名、医員 2 名、臨床心理士 1 名、遺伝カウンセラー3 名、技術補佐員 1 名 (兼任を含む。また、遺伝カウンセラーは特任を含 む。 2.診療内容 今やほとんどあらゆる疾患や健康の問題に遺伝子が 関係することが明らかとなっており、医学研究におい ても診療現場においても遺伝医学に基づいた対応が求 められている。また 3 省庁からの「ヒトゲノム・遺伝 子解析研究に関する倫理指針」 (平成 13 年制定、平成 25 年 2 月改正) 「バイオセーフティに関するカルタヘ ナ議定書」 「遺伝子組み換え生物等規制法」 (平成 16 年) 「個人情報保護法」 (平成 17 年) 、日本医学会の「医療 における遺伝学的検査/診断に関するガイドライン」 (平成 23 年)が施行されるに至っており、研究、医療 現場が法律によって規制されることになっている。こ のような状況下で、遺伝に関わる様々な臨床、研究に 対応する専門診療部として、平成 16 年 7 月に当部が 発足し、活動を継続している。 3.診療体制 (1) 遺伝カウンセリング外来診療スケジュール 月曜 家族性パーキンソン病 出生前検査(NIPT) 火曜 遺伝性疾患一般 遺伝性神経筋疾患 難聴 水曜 遺伝性神経筋疾患 遺伝性腫瘍 出生前検査(羊水検査、NIPT) 木曜 出生前検査(NIPT) 金曜 遺伝性疾患一般 (2) 外来診療 それぞれ臨床遺伝専門医、遺伝カウンセラー、臨床 心理士のスタッフによる遺伝カウンセリングを行って おり、具体的には、①遺伝カウンセラー及び臨床心理 士によるプレカウンセリング、②臨床遺伝専門医、遺 伝カウンセラー、臨床心理士、必要に応じて各科専門 医による遺伝カウンセリング、③遺伝カウンセラー及 び臨床心理士によるポストカウンセリングを行って終 了となる。必要があれば(遺伝学的)検査、専門他科 紹介などを行い、症例カンファレンスを経て 2 回目以 降の遺伝カウンセリングを行うというシステムを取っ ている。 (3) 診療予約 平日 10~13 時に、 遺伝カウンセラーが予約電話を受け て相談内容の確認や受診方法の説明などを行っている。 (4) 症例カンファレンス、臨床遺伝セミナー 毎月症例カンファレンスを行い、全症例についての 検討及び運営方針などについても審議している。 他診療科からの遺伝カウンセリング依頼のみならず、 遺伝子研究における遺伝カウンセリング施設としての 対応や治験に伴う遺伝カウンセリング、遺伝医学の啓 発的セミナーなども行っている。 また、毎週スタッフカンファレンスを行い、担当者 の決定、遺伝カウンセリングの方針決定など行ってい る。 (5) 診療記録 面談内容や遺伝情報に関する記録は、共通カルテと は別の当部専用紙カルテを作成していたが、本院で平 成 22 年 1 月 から全面電子カルテ化したことに対応し て、当部でも同年 6 月から電子化を行った。医療情報 部と検討の上、特定の職員 ID を持った人だけがアク セスできる当部電子カルテを別カルテとして作成し、 このカルテ上に遺伝カウンセリング内容とともに遺伝 学的検査結果なども記載している。これにより、当部 スタッフのみがアクセスできるというセキュリティに 留意した電子カルテを遺伝子診療部としては日本でも いち早く導入することに成功した。また、本院での診 療上必要な共有すべき内容、検査結果等については、 患者の同意のもと共通カルテに記載し、診療情報の共 有に努めている。また、予約情報、カンファレンスで の報告内容などは診療部専用フォルダを使用して、セ キュリティ管理にも考慮している。 4.活動実績 平成 29 年度の遺伝カウンセリング実施回数は、 新規 症例 321 組、セッション数は計 803 回(約 67 回/月) であった。特に下に示した一般枠の遺伝カウンセリン グ症例数(一般ケース数)は前年度に比べ大きく増加 している。 - 140 -

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Page 1: 307558 HP用(81CS6) sawai...平成22年から年間数回の定期的な「臨床遺伝セミナ ー」を開催し、本院内外からの参加者を募り、医療者 における臨床遺伝学的知識レベルの向上と、臨床遺伝

Osaka University Hospital

遺伝子診療部

1.スタッフ

部長(兼)教授 望月 秀樹

その他、教授 2名、助教 1名、医員 2名、臨床心理士

1名、遺伝カウンセラー3名、技術補佐員 1 名

(兼任を含む。また、遺伝カウンセラーは特任を含

む。)

2.診療内容

今やほとんどあらゆる疾患や健康の問題に遺伝子が

関係することが明らかとなっており、医学研究におい

ても診療現場においても遺伝医学に基づいた対応が求

められている。また 3 省庁からの「ヒトゲノム・遺伝

子解析研究に関する倫理指針」(平成 13 年制定、平成

25 年 2月改正)、「バイオセーフティに関するカルタヘ

ナ議定書」「遺伝子組み換え生物等規制法」(平成 16 年)、

「個人情報保護法」(平成 17 年)、日本医学会の「医療

における遺伝学的検査/診断に関するガイドライン」

(平成 23 年)が施行されるに至っており、研究、医療

現場が法律によって規制されることになっている。こ

のような状況下で、遺伝に関わる様々な臨床、研究に

対応する専門診療部として、平成 16 年 7 月に当部が

発足し、活動を継続している。

3.診療体制

(1) 遺伝カウンセリング外来診療スケジュール

月曜 家族性パーキンソン病

出生前検査(NIPT)

火曜 遺伝性疾患一般

遺伝性神経筋疾患

難聴

水曜 遺伝性神経筋疾患

遺伝性腫瘍

出生前検査(羊水検査、NIPT)

木曜 出生前検査(NIPT)

金曜 遺伝性疾患一般

(2) 外来診療

それぞれ臨床遺伝専門医、遺伝カウンセラー、臨床

心理士のスタッフによる遺伝カウンセリングを行って

おり、具体的には、①遺伝カウンセラー及び臨床心理

士によるプレカウンセリング、②臨床遺伝専門医、遺

伝カウンセラー、臨床心理士、必要に応じて各科専門

医による遺伝カウンセリング、③遺伝カウンセラー及

び臨床心理士によるポストカウンセリングを行って終

了となる。必要があれば(遺伝学的)検査、専門他科

紹介などを行い、症例カンファレンスを経て 2 回目以

降の遺伝カウンセリングを行うというシステムを取っ

ている。

(3) 診療予約

平日10~13時に、遺伝カウンセラーが予約電話を受け

て相談内容の確認や受診方法の説明などを行っている。

(4) 症例カンファレンス、臨床遺伝セミナー

毎月症例カンファレンスを行い、全症例についての

検討及び運営方針などについても審議している。

他診療科からの遺伝カウンセリング依頼のみならず、

遺伝子研究における遺伝カウンセリング施設としての

対応や治験に伴う遺伝カウンセリング、遺伝医学の啓

発的セミナーなども行っている。

また、毎週スタッフカンファレンスを行い、担当者

の決定、遺伝カウンセリングの方針決定など行ってい

る。

(5) 診療記録

面談内容や遺伝情報に関する記録は、共通カルテと

は別の当部専用紙カルテを作成していたが、本院で平

成 22 年 1 月から全面電子カルテ化したことに対応し

て、当部でも同年 6 月から電子化を行った。医療情報

部と検討の上、特定の職員 ID を持った人だけがアク

セスできる当部電子カルテを別カルテとして作成し、

このカルテ上に遺伝カウンセリング内容とともに遺伝

学的検査結果なども記載している。これにより、当部

スタッフのみがアクセスできるというセキュリティに

留意した電子カルテを遺伝子診療部としては日本でも

いち早く導入することに成功した。また、本院での診

療上必要な共有すべき内容、検査結果等については、

患者の同意のもと共通カルテに記載し、診療情報の共

有に努めている。また、予約情報、カンファレンスで

の報告内容などは診療部専用フォルダを使用して、セ

キュリティ管理にも考慮している。

4.活動実績

平成 29 年度の遺伝カウンセリング実施回数は、新規

症例 321 組、セッション数は計 803 回(約 67 回/月)

であった。特に下に示した一般枠の遺伝カウンセリン

グ症例数(一般ケース数)は前年度に比べ大きく増加

している。

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Page 2: 307558 HP用(81CS6) sawai...平成22年から年間数回の定期的な「臨床遺伝セミナ ー」を開催し、本院内外からの参加者を募り、医療者 における臨床遺伝学的知識レベルの向上と、臨床遺伝

遺伝子診療部

相談内容については、1.疾患の遺伝性に関する相談、

2.家系内の疾患再発率の相談、3.出生前診断に関する

相談、4.出生前診断後の説明(他院、他科からの紹介

を含む)、5.遺伝子検査・染色体検査(確定診断、保因

者診断、発症前診断)などが含まれている。

疾患分類では、①家族性腫瘍 62 症例、②神経・筋・

精神疾患 29 症例、③難聴 13 症例、④代謝疾患 9症例、

⑤染色体異常 4症例という構成であった。

また、遺伝学的検査に関する整備として、平成 25 年

度までに検査施設 7 施設と 110 種類以上の遺伝学的検

査の契約を締結しており、当部で遺伝カウンセリング

を実施した上で検査依頼が可能となっている。平成 29

年度までに 81 の遺伝学的検査が保険収載されており、

またその検査結果を説明する際の遺伝カウンセリング

も保険収載されるに至っている。加えて遺伝性乳癌卵

巣癌症候群(HBOC)における BRCA1/2 遺伝学的検査のコ

ンパニオン診断(保険収載)に伴い、益々遺伝カウン

セリングの需要が増加するものと予想される。

また、毎月開催している症例カンファレンスは平成

29 年度で 150 回を超えた。

5.その他

学会の施設認定については、日本人類遺伝学会、日

本遺伝カウンセリング学会認定の臨床遺伝専門医研修

施設認定を平成 27 年に更新しており、多くの臨床遺

伝専門医の育成を行っている。当部には臨床遺伝専門

医が 4 名、指導医 1 名が所属しており、院内の臨床遺

伝専門医は合計 21 名が在籍している。

平成 20 年に「遺伝子診療部における遺伝性疾患に関

する遺伝学的検査の実施と解析」という研究課題で、

遺伝診療に関連する遺伝子検査に関してヒトゲノム研

究審査を受け承認された。平成 22 年には遺伝疾患と

して 800 疾患を含む疾患リストを加える改訂を行い、

承認されている(最新承認:平成 29 年)。

平成 22 年から年間数回の定期的な「臨床遺伝セミナ

ー」を開催し、本院内外からの参加者を募り、医療者

における臨床遺伝学的知識レベルの向上と、臨床遺伝

専門医、遺伝カウンセラーの育成に実績をあげている。

現在、外来・中央診療棟 L 階の診療室での遺伝カウ

ンセリングに加え、オンコロジーセンター棟内の 2 室

では主に家族性腫瘍の遺伝カウンセリングを実施して

いる。平成 29 年度のがんゲノム医療中核拠点病院指

定に伴い遺伝子診療部に求められる役割はさらに大き

なものになっている。

加えて、平成28年より難病医療推進センターやIRUD

(未診断疾患イニシアチブ)研究の支援事業にも取り

組んでいるが、平成 30 年度から、本院が IRUD 拠点病

院に加え、IRUD 解析センターの採択を受けたことに伴

い、遺伝子診療部の活動の場はさらに多岐に渡ること

になる。

神経・筋・精神疾患神経・筋・精神疾患20

家族性腫瘍23

代謝疾患18

染色体異常15

難聴13

疾患別分類 症例数骨系統疾疾疾疾疾疾疾疾疾疾疾疾疾疾患患患患 3333免疫不全全全全全全全全全疾患 2内分泌疾疾疾疾疾疾疾疾疾疾疾疾疾疾患 2腎疾患 1眼疾患 1皮膚疾患患患患患患患患患患患患患患患 1その他 2

遺伝カウンセリング実施数

■ セッション数 総数■ 産科 NIPT セッション数■ 産科 NIPT ケース数■ 産科 羊水検査 セッション数セッション数■ 一般 セッション総数■ 一般 ケース数

283245240246

1047963

302

569

774

891

802

289

803

294

505

691

558 549

109 183 245218 191125 138 136 144 150 168 161 156

100 103 8763 79 104 121 102 109 145 133 134

114 113 100 141 16747 56 64 59 57

5787 80 92 87 86 77 101

57

130

疾患別分類 症例数

家族性腫瘍62

神経・筋・精神疾患29

難聴13

染色体異常 4循環器・呼吸器疾患 3骨・結合組織織織織織織織織織織織織織織疾疾疾疾疾疾疾疾疾疾疾疾患患患患患患 2222血液・凝固・免免免免免免免疫不全 2眼科疾患2その他 4

代謝疾患9

遺伝カウンセリング実施数(一般)

1017786

87928087575759645647

131

114134134145

109102121

1047963

113 100141

167201

267 252 252

年度 全 症例平成28年度 全101症例平成28年度 全101症例平成28年度 全101症例2016平成28年度 全101症例20162016平成28年度 全101症例2016年度平成28年度 全101症例年度年度平成28年度 全101症例年度 全平成28年度 全101症例全全平成28年度 全101症例全101平成28年度 全101症例101101平成28年度 全101症例101症例平成28年度 全101症例症例症例平成28年度 全101症例症例 年度 全 症例平成29年度 全130症例平成29年度 全130症例2017平成29年度 全130症例2017年度平成29年度 全130症例年度 全平成29年度 全130症例全130平成29年度 全130症例130症例平成29年度 全130症例症例

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