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- 1 - コミュニケーションを図る楽しさを体験する外国語活動の在り方 -英語劇を取り入れた活動を通して- 研究の概要 本研究では,「言語活動の充実」の視点を踏まえて,『英語ノート2』の物語教材の単元を応用し, 英語劇を取り入れた活動の意義と工夫について考察した。それに基づいて検証授業を実施し,その結 果,児童がコミュニケーションを図る楽しさを体験できたか,さらに児童にとって満足感や達成感を 味わう機会となったかを,様々な側面から明らかにした。 キーワード 言語活動の充実 コミュニケーション能力の素地 コミュニケーションの楽しさ 満足感・ 達成感 英語劇「ももたろう」 主題設定の理由 以下の1~4の理由から,この主題を設定した。 小学校外国語活動の全面実施に向けて 学習指導要領改訂により,平成23年度より小学校高学年において外国語活動が必修となる。移行措 置期間の今年度も,既に教育課程の中に位置付け,実施している学校も多いが,いよいよ4月からの 全面実施を控えて,方向性を定めスムーズな導入を図るために,先行研究の意義は極めて大きいと考 える。「外国語活動」という大海への船出に備えて,有効なアイディアや資料を提供し,外国語活動の 指導に資することを目指して研究を進めていきたい。 新学習指導要領には,「外国語を通じて,言語や文化について体験的に理解を深め,積極的にコミュ ニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら, コミュニケーション能力の素地を養う。」との目標が掲げられている(小学校学習指導要領第2章外国 語活動の目標及び内容1目標)。このことを踏まえつつ,何より児童が英語でコミュニケーションを図 る楽しさを体験できるような活動を工夫していきたい。コミュニケーションの楽しさを体験すること によってはじめて「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度」が生まれ,そしてそれこそが 「コミュニケーション能力の素地の育成」につながっていくと考えるからである。また,「外国語活動 は楽しい」という実感を味わい,子供たちが中学校の外国語学習に希望と期待をもって進学すること は,中学校外国語科の目標である「(前略)コミュニケーション能力の基礎を養う」土台にもなる大切 な要素であると考えている。 言語活動の充実を図る一方策として 「言語活動の充実」が全教科等を通じて求められている今日,英語・日本語にかかわらず,児童が 幼少の頃から知っている物語を改めて読み直し,その楽しさ・面白さを再発見することは,大いに意 味のあることだと考える。 本研究では,『英語ノート2』の物語教材を応用して,日本の昔話を英語劇に仕立て,児童たちに発 表の機会を設定する。それによって,英語による言語活動の充実を図ることはもちろん,グループで 一つのものを創りあげる過程において,英語・日本語による友達同士での言語活動が活発に行われる ことをも期待している。また,与えられたストーリーにオリジナルのせりふを付け加えることにより, 自己表現の場をさらにふくらませ,主体的な言語活動へと発展させることも目指している。 自国の文化である昔話を,身振り手振りを交えながら拙いながらも英語で表現するということは, バーバル(=言葉による)・ノンバーバル(=言葉を用いない)な言語活動である。またそうした学習 を通して,日本の昔話の面白さを再発見したり外国の物語との共通点・相違点に気付いたりすること は,能動的かつ発信的な異文化理解であると言える。

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Page 1: › center › kenkyukaihatu › 22 › kiyou › h22kiyoucd › ... · コミュニケーションを図る楽しさを体験する外国語活動の在り方2011-03-16 · *古荘純一(2009)『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか』(光文社新書)第3章「自尊感情が低い日本

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コミュニケーションを図る楽しさを体験する外国語活動の在り方-英語劇を取り入れた活動を通して-

研究の概要本研究では,「言語活動の充実」の視点を踏まえて,『英語ノート2』の物語教材の単元を応用し,

英語劇を取り入れた活動の意義と工夫について考察した。それに基づいて検証授業を実施し,その結

果,児童がコミュニケーションを図る楽しさを体験できたか,さらに児童にとって満足感や達成感を

味わう機会となったかを,様々な側面から明らかにした。

キーワード言語活動の充実 コミュニケーション能力の素地 コミュニケーションの楽しさ 満足感・

達成感 英語劇「ももたろう」

Ⅰ 主題設定の理由以下の1~4の理由から,この主題を設定した。

1 小学校外国語活動の全面実施に向けて学習指導要領改訂により,平成23年度より小学校高学年において外国語活動が必修となる。移行措

置期間の今年度も,既に教育課程の中に位置付け,実施している学校も多いが,いよいよ4月からの

全面実施を控えて,方向性を定めスムーズな導入を図るために,先行研究の意義は極めて大きいと考

える。「外国語活動」という大海への船出に備えて,有効なアイディアや資料を提供し,外国語活動の

指導に資することを目指して研究を進めていきたい。

新学習指導要領には,「外国語を通じて,言語や文化について体験的に理解を深め,積極的にコミュ

ニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら,

コミュニケーション能力の素地を養う。」との目標が掲げられている(小学校学習指導要領第2章外国

語活動の目標及び内容1目標)。このことを踏まえつつ,何より児童が英語でコミュニケーションを図

る楽しさを体験できるような活動を工夫していきたい。コミュニケーションの楽しさを体験すること

によってはじめて「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度」が生まれ,そしてそれこそが

「コミュニケーション能力の素地の育成」につながっていくと考えるからである。また,「外国語活動

は楽しい」という実感を味わい,子供たちが中学校の外国語学習に希望と期待をもって進学すること

は,中学校外国語科の目標である「(前略)コミュニケーション能力の基礎を養う」土台にもなる大切

な要素であると考えている。

2 言語活動の充実を図る一方策として「言語活動の充実」が全教科等を通じて求められている今日,英語・日本語にかかわらず,児童が

幼少の頃から知っている物語を改めて読み直し,その楽しさ・面白さを再発見することは,大いに意

味のあることだと考える。

本研究では,『英語ノート2』の物語教材を応用して,日本の昔話を英語劇に仕立て,児童たちに発

表の機会を設定する。それによって,英語による言語活動の充実を図ることはもちろん,グループで

一つのものを創りあげる過程において,英語・日本語による友達同士での言語活動が活発に行われる

ことをも期待している。また,与えられたストーリーにオリジナルのせりふを付け加えることにより,

自己表現の場をさらにふくらませ,主体的な言語活動へと発展させることも目指している。

自国の文化である昔話を,身振り手振りを交えながら拙いながらも英語で表現するということは,

バーバル(=言葉による)・ノンバーバル(=言葉を用いない)な言語活動である。またそうした学習

を通して,日本の昔話の面白さを再発見したり外国の物語との共通点・相違点に気付いたりすること

は,能動的かつ発信的な異文化理解であると言える。

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3 「外国語は楽しい!」を実感する機会として外国語を習得する方法や過程は,母語を習得する場合とは当然異なる。外国語学習の上では,語彙

と言葉のルール(=文法)を意図的にインプットし,そのルールを覚えて運用できるようになるまで

何度も練習するという地道な努力が求められる。特に,日本語との距離が遠い(文法的にも,発音上

も,また使用文字においても)英語のような外国語を習得するためには,文法,語彙,発音等の学習

を意識的・機械的に繰り返し行うという作業を避けて通ることはできない。文法は外国語を短期間で

習得するための“最強ツール”である。綴りと発音の法則性(=フォニックス)を学ぶこともまた必

要である。このような学習方法は中学校以降の英語の授業で重視すべき事柄だろう。

しかし,ルールを理論的に学ぶ,スペリングをこつこつ覚えるなどの活動から外国語学習を始める

と,言語を学ぶ楽しさを味わうよりむしろ抵抗感をもつ生徒も生まれかねない。そのような危惧を避

けるためにも,外国語を聞いたり話したりすることのときめき,外国語でコミュニケーションするこ

との楽しさ,そうした情意面をまず小学校で耕しておくことは大きな意義をもつ。中学校での外国語

学習に,希望と期待をもって意欲的に臨めるような子供たちを育成することこそが,小学校外国語活

動の目標であり,使命である。「小学校外国語活動は,中学校の外国語学習の前倒しではない」と言わ

れる所以もここにある。このことを念頭に置いて,今回の活動を通して,子供たちが「外国語を聞い

たり話したりすることは楽しい!」という実感をもてるよう,様々な工夫をしていきたい。

4 満足感・達成感を味わう機会として「日本の子供たちは自尊感情が低い」とたびたび指摘される 。グループで協力し合って英語劇を完*

成させ,クラス内外で発表の場をもつことにより,子供たちに,「自分のせりふが英語でちゃんと言え

た」「友達同士で助け合って一つのものを創りあげることができた」という満足感や達成感を味わわせ

てあげたい。こうした小さな成功体験を積み重ねることにより,自信や自尊感情が育まれ,それがま

たコミュニケーションを図る楽しさの体験につながるという循環も期待できる。そのためには,指導

者もそうした子供たちの努力をきちんと受け止め評価するよう心がけることが大切である。

さらに,卒業を間近に控えた子供たちにとって,少々高めのゴールを目指してクラスの仲間と協力

して取り組むという活動が,クラス内の結束を強め,小学校時代の思い出に残る体験の一つとなるよ

う願ってこの研究を進めたい。

古荘純一(2009)『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか』(光文社新書)第3章「自尊感情が低い日本*

の子どもたち」pp.67-110 参照

Ⅱ 研究の目標外国語活動の授業に英語劇を取り入れ,児童がコミュニケーションを図る楽しさを体験でき,さら

に満足感や達成感を味わえるような指導の在り方を探る。それにより,中学校での外国語の学習に期

待と意欲をもって進むことのできる児童の育成を目指す。

Ⅲ 研究の基本的な考え方

1 「コミュニケーション能力の素地」とは?前述の小学校外国語活動の目標を分解してみる。

外国語を通じて

①言語や文化について体験的に理解を深め →→→→→→→ →言語や文化の体験的理解

②積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り→ →コミュニケーションへの意欲

③外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませ →→→→→→→ →外国語への慣れ親しみ

ながら,コミュニケーション能力の素地を養う。

②と,①,③は,多少異なった側面をもつ。①,③は外国語学習の内容に関わる目標であり,②は

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情意的な目標と分類してよいだろう。①,③の目標は,まず②がベースにあってはじめて達成可能に

なるとも言える。そういう意味では,②がコミュニケーション能力の素地育成のために最も重要な要

素と言ってよいのではないか。しかし,逆に,①,③の要素が②のコミュニケーションへの意欲の喚

起につながるという流れもあるだろう。つまり,目標の①,③と,②は,双方向性をもち,相互に補

完し合う関係にあると言えるのではないだろうか。この3つの目標が絡み合って相乗効果を生むこと

で,「コミュニケーション能力の素地」が養われる。そしてそれが中学校外国語科の学習の目標である..

「コミュニケーション能力の基礎」を養うことにつながっていくと考えている。(傍点:筆者)..

①言語や文化の体験的理解 + ③外国語への慣れ親しみ

②コミュニケーションへの意欲

2 「楽しく」「積極的に」コミュニケーションを図るために必要な要素

①内容に関して

・素材・話題そのものへの興味・関心

・異文化・自国の文化への気付き・発見

・相手に伝えたい情報・思い→自己表現

・相手から得たい情報・思い→他者理解 +②情意面に関して

・相互への興味・関心

・満足感・達成感・成功体験

→自信・自尊感情・グループとしての一体感

・開かれた集団,意見を言いやすい雰囲気・安心感

3 英語劇を取り入れた活動に関して(1) 内容・活動等

①外国や日本の物語を聞いて,英語の表現やリズムを楽しみ,日本語との違いに気付く。

②英語でのせりふに慣れ親しみ,気持ちを込めてせりふを言ったり振りを付けたりする。

③物語にオリジナルのせりふを付け加えたり,物語の続きを考えたりして,自己表現の場を拡げる。

④指導者や友達の演技を鑑賞する。

⑤地域に住む外国の人(ALT等)や同学校の他学年の児童の前で発表する。

(2) 英語劇を取り入れた活動の良さ

物語を英語劇仕立てにした教材を授業に取り入れることにより,次のような利点が考えられる。

①なじみのあるストーリーを使うことにより,子供たちが親近感をもつことができる。

②絵本やビデオなどを活用することにより,音声以外に視覚的に理解を助けることができる。

③児童一人一人に活躍の場が設定できる。

④グループで協力して一つのものを創り上げることにより,達成感を味わえる。

⑤人前で発表することにより,自己表現の場が設定できる。

⑥自国の文化を英語で発信する機会となる。

しかし反面,次のような困難さも危惧されるので,工夫や配慮が必要である。

①シンプルで,なおかつ高学年の知的好奇心に合致するストーリー選びが難しい。

②高学年になると,人前で演じることに羞恥心を覚える子供もいる。

③覚える英語表現が多くなりがちで,子供の負担が大きくなる。

④発表のための準備(練習及び小道具・大道具の製作等)が大変である。

外国語による積極的な

コミュニケーション

外国語を使わなければなら

ない必然的な場の設定

コミュニケーションの楽しさ

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⑤外国の人に鑑賞してもらうなど,物語を英語で演じる必然的な場を設けるのが大変である。

こうした難点を克服するために,物語を英語劇にして演じるという発表形態の他に,次のような表

現方法を取り入れることを考えてみるのも一案であろう。

①朗読 ②絵本づくり ③紙芝居 ④人形劇(パペット,ペープサート*,指人形等)*ペープサート:人物の絵などを描いた紙に棒をつけたものを動かして演じる紙人形劇(「ウィキペディア」より)

(3) 英語劇の教材

では,英語劇の教材として具体的にどのようなものが適しているだろうか。その条件を挙げてみた。

①単純明快なストーリー

②繰り返し表現・対比表現があるもの

③リズム感がいいもの

④メッセージ性があるもの

こうした条件をほぼ満たすものとして,昔話・おと

ぎ話は英語劇の教材として最適なものと言える。

(4) なぜ「ももたろう」か

①日本古来の昔話の中でも,最もポピュラーな物語の一つである。

*事前調査では,研究協力校の児童29人中28人が「『ももたろう』を知っている」,さらに内10人が「『ももたろう』

が好き」と回答している(「ぐりとぐら」「モチモチの木」各11人に次いで多い回答数)。(→p.9アンケート結果参照)

②勧善懲悪の単純明快なストーリーで分かりやすい。

③繰り返しの場面がある。

④日本の物語を英語で演じることにより,日本文化の発信という形で,外国の人々へ発表の機会を

設けることができ,英語で演じる必然性も生まれる。

⑤登場人物の数が,5人前後の班で演じるのに適している。

(5) 「ももたろう」のシナリオ及び歌の英訳に際し留意した点

◆シナリオに関して

①ストーリーの展開をシンプルにし,ナレーション等も工夫して,せりふを必要最小限にとどめる。

②既習表現や繰り返し表現を用い,できるだけ平易な英語で表す。

③「桃太郞」,「鬼ヶ島」などの固有名詞はそのまま用いる。

④歌詞とリンクさせて,覚える表現が多くならないように配慮する。

⑤班員(4~5人)全員が参加できるように,1シーンの登場人物やせりふの数を工夫する。

⑥班の創意工夫でオリジナルせりふが付け加えられる余地を残す。

◆歌に関して

①既習表現の活用と日本語の適宜使用,及び繰り返しの多用により,子供の負担感を軽減する。

②振り付けがしやすい表現にする。

③単語のシラブル(音節)の数と曲の拍数の一致に留意する。

(6) 英語劇の意義・“6C's”外国語活動に英語劇を取り入れることの意義を“C”で始まる6つのキーワードにまとめてみた。

好奇心をもって自国・外国の文化・言語に慣れ親しむ。

→友達とのコミュニケーションを図り協力して作品を完成させる。 = 外国語活動の意義

→満足感を味わい,ひいてはそれが自信につながる。

Curiosity 好奇心Culture 文化

Communicationコミュニケーション

Cooperation 協力

Contentment 満足Confidence 自信

☆ 教材として適している物語の例 ☆・ももたろう ・うらしまたろう・いっすんぼうし ・ねずみのよめいり・三びきのこぶた ・赤ずきん・大きなかぶ ・はらぺこあおむし・三びきのやぎのがらがらどん・Brown Bear, Brown Bear etc.

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Ⅳ 研究の内容と方法

1 研究の内容次のような児童の活動を取り入れて検証授業を実施する。

①日本や外国の物語の一場面を電子黒板で視聴し,それらの物語の生まれた国を考える。

②指導者が演じる(「ももたろう」の英語劇を鑑賞する。

③6場面に分けた「ももたろう」から演じたい場面を各班で一つずつ選んで,班ごとに英語劇の練

習をする(オリジナルのせりふも付け加えてみる)。

④班ごとに一場面ずつ英語劇を演じる(クラス全体で「ももたろう」の英語劇を完成させる)。

⑤他の班の演技を鑑賞する。

⑥物語のテーマソングを英語で歌う。

2 研究の方法検証授業観察及び児童への事前・事後アンケート等により,指導の有効性を探り,目標の達成に迫

ることができたかを検証する。

(1) 検証授業の実施

①対象…県内公立小学校6年生1クラス(児童数29人)

②単元…『英語ノート2』 Lesson 8 Please help me. 「オリジナルの劇をつくろう」

③実施時期及び授業時間数…平成22年11月~12月・全4時間

④指導者…学級担任,ALT (*補助として研究協力員も一部支援)

(2) 検証方法

①研究協力員等による授業観察

②パフォーマンス(英語劇の発表)の評価

②児童が記述したふりかえりカードの内容分析

④児童が回答した事前・事後アンケートの集計・分析

3 検証授業指導案(1) 単元名 『英語ノート2』 Lesson 8 Please help me. 「オリジナルの劇をつくろう」

(2) 単元のねらい

①世界の物語に興味をもつ。

②物語の中で使われる英語表現に慣れ親しむ。

③「ももたろう」の劇を英語で演じる楽しさを味わう。

④友達の演じる劇を見て楽しむ。

(3) 語彙・表現

<語彙> peach, river, home, boy, dog, monkey, bird, devil, present, big, strong, happylive, find, take, look, eat, become, meet, give, follow, beat, reach, fight

<表現> I want to eat your kibidango. Will you give me kibidango?I'll give you kibidango if you follow me to Onigashima.I will go and help you fight. Let's beat devils on Onigashima.

*これらは,「ももたろう」の歌を英訳した歌詞に出てくる表現。これ以外に班ごとに,割り当て

られたシーンの語彙・表現を練習する。

(4) 教材・教具

『英語ノート2』,『英語ノート2』デジタル版,ペープサート,絵カード,単語カルタ,劇の小道

具(お面,おもちゃの刀,きびだんごの代わりのボール等),コンピュータ,電子黒板

(5) 内容・活動等

・世界の物語を聞いて,基本的な英語の表現や物語の出自を知る。

・指導者が演じる「ももたろう」の英語劇を鑑賞し,英語の表現やリズムを楽しみながら,日本語

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との表現やリズムの違いに気付く。

・「ももたろう」の英語劇に出てくる単語や表現に慣れ親しむ。

・グループで協力して,「ももたろう」の物語を英語で演じる。さらに原作にはないオリジナルのせ

りふを考えて付け加える。

・気持ちを込めてせりふを言ったりジェスチャーを付けたりして,表現する楽しさを味わう。

・友達の演じる「ももたろう」を見て楽しむ。

・「ももたろう」の歌を英語で歌うことを楽しむ。

・「ももたろう」の英語劇を1年生の前で演じる。(*これは4時間の授業外の活動)

(6) 評価規準

◆本単元の評価の観点及び評価規準

コミュニケーションへの 外国語への慣れ親しみ 言語や文化に関する気付き

関心・意欲・態度 (関) (慣) (気)

・先生や友達と積極的にコミュニケー ・世界の物語に使われてい ・外国の物語を知る。

ションを図ろうとしている。 る英語表現を聞き取ろう ・日本の物語を英語で表現

・グループの中で互いにコミュニケー としながら親しんでいる。 したとき,日本語との違

ションを楽しんでいる。 ・英語劇や英語の歌に出て いに気付いている。

・グループで協力して「ももたろう」 くるせりふや歌詞に親し

の英語劇をつくろうとしている。 んでいる。

*参考資料

◎文部科学省通知(H22.5.11)「小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習

評価及び指導要録の改善等について」より

2.外国語活動の記録 (1)評価の観点及びその趣旨

観 コミュニケーションへの 外国語への慣れ親しみ 言語や文化に関する気付き

点 関心・意欲・態度

コミュニケーションに関心を 活動で用いている外国語を聞 外国語を用いた体験的なコミュニケー

趣 もち,積極的にコミュニケー いたり話したりしながら,外 ション活動を通して,言葉の面白さや

旨 ションを図ろうとする。 国語の音声や基本的な表現に 豊かさ,多様なものの見方や考え方が

慣れ親しんでいる。 あることなどに気付いている。

(7) 単元の指導と評価の計画

1 網掛・太字部分はその時間のポイントとなる評価項目を示す。*

2 毎時間記入するふりかえりカードの記述内容も,評価方法の一つとする。*

○目 標 評 価

・活 動 評価規準(観点) 1 評価方法 2* *

1 ○世界の物語を楽しもう。

・いくつかの世界の物語の一場面を電子 ・世界の物語を聞いて,その表現を 発言,行動観察

黒板で視聴し,物語の生まれた国を考 楽しみ,どの物語か推測している。

える。 また,なじみのある物語のルーツ

を知る。 (関)(気)

・「ももたろう」の物語を学級担任(以 ・HRTとALTが英語で語る物語を楽 行動観察

下HRTと表記)とALTがせりふを分担 しんで聞いている。 (関)(慣)

して演じる。

・ペープサートや絵カードを見ながら ・「ももたろう」に出てくる登場人物 発言,行動観察

「ももたろう」に出てくる登場人物や や単語の英語での言い方に慣れ親

単語の英語での言い方に慣れる。 しんでいる。 (関)(慣)

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・「ももたろう」の歌を日本語で歌う。

・「ももたろう」の歌の英語版を聞く。

2 ○「ももたろう」のストーリーを英語

で味わおう。

・ミッシングゲーム,単語カルタを通し ・ゲームを通して「ももたろう」に 発言,行動観察

て,「ももたろう」に出てくる登場人 出てくる登場人物や単語を英語で

物や単語を英語で確認する。 確認している。 (関)(慣)

・「ももたろう」の物語を英語で聞いて, ・「ももたろう」のどの場面なのか推 発言,行動観察

6枚の絵のどの場面か当てる。 測しながら聞いている。(関) (慣)・6場面の中から班ごとに演じたい場面 ・班員同士が積極的に話し合い,意 発言,行動観察

を選び,役割分担も決める。 欲的に取り組んでいる。 (関)

・「ももたろう」の歌を英訳したものを ・「ももたろう」の歌の英語版に耳を 行動観察

聞き,その後一緒に歌ってみる。 傾け,また歌おうとしている。(関)

3 ○「ももたろう」の一場面を班ごとに

英語で練習しよう。

・「ももたろう」の歌を英語で歌う。

・「ももたろう」に出てくる単語の発音 ・単語の意味を確認しながら言おう 発言,行動観察

と意味を確認する。 としている。 (関)(慣)

・「ももたろう」の物語全体を聞く。 ・自分たちの分担のシーンを確認し 行動観察

て聞いている。 (関)

・「ももたろう」の劇の一場面を英語の ・日本語との違いに注意しながら英 発言,行動観察

せりふをつけて班ごとに練習する。振 語のせりふを言おうとしている。

りも付けられたら付ける。また,シナ また,オリジナルのせりふを考え

リオにあるせりふ以外にオリジナルの ようとしている。 (関)(気)

せりふを付け加えてみる。 ・班での活動を楽しんでいる。(関) 行動観察

・自分の班のせりふを言ってみる。

4 ○「ももたろう」の英語劇を協力して

演じよう。

・「ももたろう」の歌を英語で歌う。 ・「ももたろう」の歌を英語で歌うこ 行動観察

とを楽しんでいる。 (関)(慣)

・「ももたろう」の劇のそれぞれの分担 ・班で協力して練習している。(関) 行動観察

場面を英語で班ごとに練習する。

・「ももたろう」の劇のそれぞれの分担 ・日本語との違いや共通点を感じな 演技,行動観察

場面を順番にみんなの前で班ごとに演 がら,自分たちの発表を楽しんで

じる。 いる。また,友達の発表も同様に

鑑賞している。 (関)(気)

・「ももたろう」の劇を演じた感想を述 ・自分たちががんばったことや友達 発言,行動観察

べ合う。 のよかった点を認め合おうとして

いる。 (関)

(8) ふりかえりカードの評価項目(3段階で自己評価) (→ p.12の「ふりかえりカード」参照)

評 価 項 目

毎時間共通 ①楽しく活動しよう。 ②一生けんめい聞こう。 ③自分から進んで話そう。

各時の 第1時…世界の物語を楽しもう。

ポイント 第2時…「ももたろう」のストーリーを英語で味わおう。

(④今日の 第3時…「ももたろう」の一場面を班ごとに英語で練習しよう。

POINT) 第4時…「ももたろう」の英語劇を協力して演じよう。

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(9) 授業の展開(第2時のみ掲載)

<第2時> 目標:「ももたろう」のストーリーを英語で味わおう。

過 程 児童の活動 学級担任(HRT=H) 及びALT(=A)の活動 ◎指導上の留意点

(分) ◆評価規準

挨拶 ・挨拶をする。 ・挨拶をする。(H&A) ◎これから楽しく外国語活動

(3) Hello. I'm fine/ good... Hello, how are you? を行うことを意識させるよう

It's December 3rd. What's the date today? に,指導者は明るく元気よく

It's Friday. What day is today? 挨拶をする。また,挨拶を通

It's sunny/ cloudy/ rainy. How is the weather? して,子供たちの健康状態な

・本時のポイントや流れを説明する。(H) ども確認する。

導入 ・「ももたろう」に出て ・「ももたろう」に出てくる登場人物や

(15) くる登場人物や単語の発 単語の発音を確認する。(H&A)音を確認する。 peach, dog, monkey, bird, devil,peach, dog, monkey, present, etc.bird, devil, present, etc.・ミッシングゲームをす ・ミッシングゲームの説明をし,ゲーム ◎ゲームを通して,単語の確

る。 を主導する。(H) 認をするようにする。

・単語カルタをする。 ・単語カルタを主導する。(H&A) ◆ゲームを楽しみながら単語

を繰り返し発音している。

(関)(慣)

展開 ・「ももたろう」の物語 ・「ももたろう」の物語の6場面の絵カ ◆「ももたろう」の物語のど

(20) を聞いて,6枚の絵のど ードを黒板に貼り,HRTとALTが英語で の場面か推測しながら聞いて

の場面かあてる。 順不同で演じる。 いる。 (関)(慣)

(それぞれのシーンの特徴的なせりふの

み抽出して演じる。ナレーションはなし)

・6場面の中から,自分 ・6場面の中から,班ごとに演じたい場 ◎演じたい場面が重なった場

たちの班の演じたい場面 面を選ばせる。(H) 合は,じゃんけんなどで決め

を選ぶ。 る。

・役割分担を決める。(配 ◎少なくとも一人1せりふは

役,小道具の準備など) 言うように配慮する。

◆班員同士が積極的に話し合

い,意欲的に取り組んでいる。

(関)

ま と ・「ももたろう」の歌の ・「ももたろう」の歌の英語版を流す。(H) ◎歌の英語版はまず1回聞い

め ・ 英語版を聞く。 てから,2度目に児童は指導

挨拶 ・「ももたろう」の歌を ・「ももたろう」の歌を英語で歌う。 者の後をついて歌えるような

(7) 英語で歌ってみる。 (H&A) ら歌うようにする。必要に応

Let's sing "Momotaro" in English! じて,繰り返したりゆっくり

歌ったりする。

◆「ももたろう」の歌の英語

版に耳を傾け,また歌おうと

・ふりかえりカードに記 ・次時の予告をする。(H) している。 (関)(慣)

入する。

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- 9 -

 物語をどんな方法で勉強したいですか(複数回答)

0

2

4

6

8

10

12

① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧(人)

Ⅴ 研究の結果と考察

1 児童へのアンケート結果より◎事前アンケート:平成22年9月9日 ◎事後アンケート:平成22年12月21日 (いずれも29人回答)

(1) 英語及び物語教材に関する意識調査より (*事前アンケート時に実施)

D 日本や世界の物語の中で,好きなものを選んでください。(いくつ選んでもいいです。)→ 図4 図5

また,これ以外に好きな物語があったら,書いてください。 (→後半の質問については,回答掲載略)

◆英語及び物語教材に関する意識調査の分析

・小学校の段階で文字を書くことへの欲求もかなり高い(29人中17人)ことが分かる(→図1)。

・英語を学習する効用として,「外国人とのコミュニケーションや海外旅行に役立つ」といった回答

が多いのは当然としても,「中学校での英語学習に役立つ」「将来の仕事に必要」など,子供なり

に現実的かつ実用的な側面を挙げる児童も多い(→図2)。

・物語の学習に関しては,読み聞かせ以外に,劇・人形劇・ペープサートなどの活動に興味をもっ

ている児童も少なからずいる。→ 図3

*好きな物語については,日本・世界の物語の選択肢を17ずつ設け,それ以外に自由記述の形をとった。

好きな物語(世界)

02468

101214

三び

きの

こぶ

人魚

マッチ

売りの

少女

白雪

スイ

ミー

みに

くいあ

ひる

の子

シン

デレ

赤ず

きん

(人)

*各項目の後の( )内の数字は回答者数

A 小学校のうちに少しでも英語を話したり書いたりできるようになりたいですか。 → 図1

①話したり書いたり両方できるようになりたい (17)②書けなくてもいいけど話せるようにはなりたい (9)③別に話したり書いたりできなくてもいい (3)

B 英語の学習はどんなときに役に立つと思いますか。(いくつ選んでもいいです。)→ 図2

①外国の人と話せる (22)②外国の文化や習慣などがわかる (9)③英語の歌や映画が楽しめる (9)④中学校に行ってから,英語の学習に役立つ (21)⑤海外旅行に行った時コミュニケーションがとれる

(18)⑥大人になって仕事をする上で役立つ (16)⑦その他 (留学をしたいので 1)

C 物語をどんな方法で勉強したいですか。(いくつ選

んでもいいです。)→ 図3①劇 (8)②人形劇 (7)③紙芝居 (4)④ペープサート (7)⑤歌 (5)⑥朗読 (6)⑦先生による読み聞かせ (11)⑧その他 (無回答 2)

図2

図3

  小 学 生 の う ち に 少 しで も英 語 を話 した り書 いた りで き る よ う に な りた い で すか

0

5

10

15

20

① ② ③

(人 )

英語の学習はどんなときに役に立つと思いますか(複数回答)

0

5

10

15

20

25

① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦

(人)

図1

好きな物語(日本)

02468

1012

ぐりとぐら

モチ

モチ

の木

ももた

ろう

さるか

にば

なし

ごん

ぎつ

つる

のお

んが

えし

はな

さかじ

いさ

(人)

図5図4

上位7位まで 上位8位まで

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(2) 事前・事後アンケート *各項目の後の( )内の数字は回答者数

5 このレッスンをふり返って答えてください(「はい」の数)

05

1015202530

① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦

(人)

4 レッスンを終えてどんなことを感じましたか(複数回答)

05

101520

2530

① ② ③ ④ ⑤ ⑥

(人)

1<事前>学校での英語の学習は楽しいですか。<事後>「ももたろう」の英語劇の学習は楽しかったですか。→ 図5

①とても楽しい(楽しかった)②まあまあ楽しい(楽しかった)③あまり楽しくない(楽しくなかった)④楽しくない(楽しくなかった)

2<事前>(問い1で①,または②と答えた人に)

どんなところが楽しいですか。(いくつ選んで

もいいです。)→ 図6①英語であいさつ・文などが言える (14)②友達と英語で話す (14)③ALTの先生など外国の人と話す (6)④英語の文字を書く (5)⑤外国の文化や習慣の違いを知る (12)⑥英語の歌を歌う (11)⑦ゲームをする (23)⑧英語で劇などをする (2)

3<事後>(問い1で①,または②と答えた人に)

どんなところが楽しかったですか。(いくつ選ん

でもいいです。)→ 図7①英語で「ももたろう」の単語やせりふなどを言った

り聞いたりしたこと (18)②担任の先生やALT,他の先生と話したこと (10)③外国の物語を聞いたり,何の話かどこの国の話か

考えたりしたこと (13)④英語で「ももたろう」の歌を歌ったこと (12)⑤班の友達と「ももたろう」の劇の練習をしたこと

(24)⑥班で協力して「ももたろう」の劇を演じたこと(24)⑦先生たちが演じた「ももたろう」の劇を見たこと

(13)⑧他の班が演じた「ももたろう」の劇を見たこと(29)⑨単語カルタなどのゲームをしたこと (15)⑩お面づくりなど劇の準備をしたこと (12)

4<事後>このレッスンを終えてどんなことを感じましたか。(いくつ選んでもいいです。)→ 図8

①班で協力して1シーンを演じた満足感 (23)②班の中での役割が果たせたという安堵感 (13)③「やればできる!」という自信 (20)④先生や友達に褒められたうれしさ (8)⑤日本語と英語の共通点や違いの面白さ (13)⑥友達や先生の新たな一面発見の楽しさ (13)

5<事後>このレッスンの学習全体をふり返って答えてください。→ 図9

①活動に楽しく取り組めましたか。 (はい:29)②友達と仲良く活動できましたか。 (29)③先生や友達の英語を一生懸命聞きましたか。 (29)④自分から進んで話しましたか。 (22)⑤日本語と英語の違う点に気付きましたか。 (28)⑥「ももたろう」の英語劇を1年生の前で演じたこと

は楽しかったですか。 (25)⑦このような活動をまたやってみたいですか。 (22)

3 どんなところが楽しかったですか(複数回答)

0

5

10

15

20

25

30

① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩

(人)

1 英語の学習は楽しい(楽しかった)ですか。(事前・事後の比較)

0

5

10

15

20

25

(人)

事前

事後

事前 15 12 2 0

事後 23 6 0 0

①とても ②まあまあ ③あまり ④いいえ

図5

2 どんなところが楽しいですか(複数回答)

0

5

10

15

20

25

30

① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧

(人)

図9

図6

図8

図7

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◆事前・事後アンケートの分析

・事前アンケートでもほとんどの児童が英語学習は「楽しい」と答えているが,英語劇「ももたろ

う」の学習を終えた段階で,「とても楽しかった」と回答した児童がさらに増加している(→図5)。

今までの外国語活動ではほとんど扱ってこなかった英語劇という活動に挑戦して,「(最初は大変

そうだったが)やってみたら楽しかった」と感じた児童が多かったのではないか。

・「楽しい」の内容は,事前では「ゲーム」いう回答が圧倒的に多い。「英語で劇をする」と答えて

いる児童は,そうした経験があまりないせいもありごくわずかである(→図6)が,事後では「他

の班の劇の鑑賞」(29人),「劇の練習」「劇の発表」(各24人)を選んでいる児童が目立っている(→

図7)。友達のパフォーマンスを見ることはもちろん,班員同士が協力して練習したり,自分自身

も演じたりといった,英語劇に関わる楽しさを感じていることが分かる。

・英語劇の活動を通して,満足感(23人),自信(20人)を感じた児童が多数いる。「こんなことで

きるのかな」と一抹の不安を抱えながら取り組んだ活動も,「できた!成功した!」という実感を

得たことにより,満足感や自信につながったのではないか。また,英語と日本語の共通点や違い,

友達や先生の新たな一面等を発見した面白さを感じている児童も半数近くいる(→図8)。普段と

違う活動を通して,こうした発見ができたことも英語劇の効用の一つと言ってよいだろう。

・このレッスン全体に関する設問5では,いずれの項目に対しても「はい」との回答が多数を占め

ている(→図9)。特に,①,②,③の問いには29人全員が「はい」と答えており,児童が「もも

たろう」の英語劇を中心とした活動に楽しく積極的に参加していた様子が見て取れる。また,「日

本語と英語の違いに気付いた」「1年生の前で演じたことは楽しかった」と答えている児童も相当

数に上っており,本単元の評価規準に照らしてみても,成果があったと確認できる。

(3) 事後アンケート自由記述(選択アンケート以外に書きたいことがあれば記述)より

検証に関わる言葉(キーワード)を選定し,それによって下図のように整理してみた。

2 児童のふりかえりカードより児童が毎時間記入していたふりかえりカードの,主に第4時の記述からいくつか拾ってみた。

・どの班の発表も楽しかった。

・緊張したけど,今までの練習の成果が出せた。

・班で協力して演じることができてよかった。

・みんな大きい振りで恥ずかしがらないでやっていてよかった。

・○○さんは,台本にないせりふを言っていてすごいと思った。

・桃太郞に振りを付けたら,いろいろな先生に褒めてもらえてうれしかった。

・せりふや動きをぎりぎりになって変えたりしたけど,うまくできたしとても楽しかった。

・(最初は)不安,嫌,やりたくない(4人)・(最初は)難しいと思った (7人)・(最初は)恥ずかしかった (2人)

・楽しい,楽しくなった (13人)(cuoriosity,communication, cooperation)

・言えた,暗記できた,成功した,いい劇ができた (21人)

(confidence)

・うれしい (7人)・よかった (4人)

(contentment)

・緊張した(4人)

・先生の指導やアドバイ

スのおかげ(17人)

・日本語・英語の共通点や違いがわかった(2人)

・またやってみたい,

違う劇にも取り組み

たい (5人)

* ( )内の数字はそういう言葉を書いた児童の数

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・どの班も一生懸命練習してあ

って楽しくできた。1年生も

今日みたいに笑ってほしい。

・他の班の演技がとても面白か

ったし,自分たちの班もしっ

かりできたので,1年生にも

伝わると思う。本番(1年生

の前での発表)では交代する

ところをスムーズにしたい。

・本番がんばりたい。1年生,

喜んでくれるかな?

←①~④のポイントは3段階評価で。

さらに自由記述欄に文で記入。

3 授業者及び授業観察者の意見・感想より (○:成果 ▲:課題)

(1) 第4時の「授業を観る視点」(ア~エ)を基にしてア 児童は,班の中で協力して英語劇の練習や発表に取り組んでいたか。○オリジナルのせりふを加えたり,動作を考えたり,とみんなで協力している姿が見られた。○英語が得意な子供が苦手な友達に教えている姿があった。○日頃より「学び合い,高め合う」という学級の姿勢ができているクラスの子供たちだけあって,外国語活動でもその成果が出ていたと思う。

イ 児童は,英語劇の練習や発表を楽しんでいたか。○演じる楽しさを十分味わいながら,発話していたように見受けられた。○どの子も楽しそうに生き生きと演じていた。

ウ 児童は,友達の発表を関心をもって鑑賞し,評価していたか。○自分たちの班と比較しながら,友達はどう頑張ったのか,興味をもちながら鑑賞していた。○友達のいいところを見つけようという姿勢で鑑賞していた。○他の班の発表を楽しんでいた。感想 も的を射た前向きなものだった。*

*児童の感想より:「恥ずかしがらずに演じていてかっこよかった」「(桃太郎を見送る)おじいさん,おばあさんの心配している様子がよく表現されていた」「鬼との戦い方や,鬼の倒れ方などが上手だった」「○○さんのせりふがしゃきしゃきしていてよかった」等

▲児童は,せりふよりむしろ友達の振り付けや所作に関心をもっていたように見えた。各班のオリジナルせりふなどにもう少し注目させ,意味を考えさせるなどの工夫が必要だったのではないか。

エ 「ももたろう」のシナリオや歌は,子供たちの発達段階に適し,効果的であったか。○台本がシンプルでよかった。それにさらにオリジナルせりふを付け加えることで,より一層自分たちの劇という意識が生まれたと思う。

○第1時から第4時に至る過程で,形を変えながらのインプットが効果的に行われ,無理なくせりふが言えるようになったのだと思う。

○今できることより少し高いハードルを設けるという点ではちょうどよかったと思う。○「ももたろう」の歌の英語版が子供によって歌われたものだったので,児童も親近感を覚え,また意欲付けにも効果的だったと思う。

▲オリジナルせりふを付け加えるという活動はよかったが,台本そのもののレベルはもう少し高くてもよかったのではないか。一人の児童がオリジナルの長いせりふを言ったとき,それまで笑っていた子供たちがしーんと静まりかえった。「長いせりふを言えてすごいな」という友達への賛辞と,言葉そのものへの関心が高まったことの表れだと思われる。→もう1時間あれば,言葉への関心を喚起する活動も仕組むことも可能だったかもしれない。

<参考> オリジナルせりふの例・“Thank you.”(きびだんごをもらって)

・“It's very good.”(きびだんごを食べて)

・“He looks very lonely. Let's go with him.”(桃太郞が犬を見つけて)

・“Stop, stop. We are friends.”(犬と猿がけんかする展開にして,桃太郞がなだめる場面で)

・“Momotaro, the dog, the monkey and the bird left for Onigashima.”(一行が気持ちを一つにしたところでナレーターが)

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4 研究のまとめ(1) コミュニケーションを図る楽しさと満足感や達成感を実感するということ

筆者自身,この研究に着手する前は,「果たして子供たちはしらけずに,また諦めずに,こうした活

動を楽しんでくれるだろうか」という不安があった。現に,今までほとんど体験したことのない英語

劇という活動に対し,当初は難しさを感じたり乗り気でなかったりした児童もいた。しかし,子供た

ちの事後アンケートの回答やふりかえりカードの記述を見ると,最終的には「楽しかった」「やってよ

かった」「また別の劇もやってみたい」と感想を述べる児童の割合が予想以上に高かった。また,さら

に授業参観者の観察からも「生き生きと笑顔で活動していた」「班で協力する姿が見られた」等の指摘

があり,端から見ても楽しそうに取り組んでいる様子が窺えた。

周到な準備をした上で,無理のない段階を踏んだ指導過程を組み,それによって授業を進めるうち

に,子供たちは少々難しいと思うことでも,徐々に楽しさを感じるようになる。そして,楽しくなれ

ば,多少困難なことにも挑戦してみよう,努力しようという前向きな気持ちが生まれてくる。その結

果,最初は「できるかな?」と思っていたことが「自分にもできた!」という喜びに変わり,それが

満足感や達成感,さらには自信につながるのではないかと思う。

(2) 自己表現の欲求とゴールを明確にするということ

人前で何らかのパフォーマンス(ここでは劇)を披露するということは,大人はもちろん,子供に

とっても緊張を強いられるタスクであり,恥ずかしさも加わって,できればやりたくない活動である

かもしれない。しかし,日本語でなら躊躇してしまうようなせりふややりとりも,英語という負荷が

かかることにより,羞恥心が軽減されるということも考えられる。さらに,人間には本来「自分を表

現したい」「形あるものをつくってそれを人に見てもらいたい」という欲求があることも,また否めな

い真実ではないだろうか。英語劇を取り入れた活動は,「英語だからこそやれる」という利点に自己表

現の欲求を絡ませることであり,そういう意味では成功に導ける可能性も高いのではないか。そして,

なおかつ,「1年生の前で英語劇を演じる」というゴールを設けたことが,「6年生になるとこんなこ

ともできるんだよ」という,上級生ならではのプライドを満たすことにもつながり,「やってよかっ

た!」という達成感を味わわせる結果をもたらしたのだと考えている。

(3) 言語活動の充実と望ましい学習集団の形成ということ

何の授業においても,まずはその学級の児童同士,或いは児童と指導者との間に良好な人間関係が

築かれ,“学び合い,高め合う”という関係が形成されていて,はじめて学習の成果もあがる。このよ

うな学習集団は,日頃からコミュニケーション活動が活発に行われ,言語活動の充実が図られている

中で醸成され,そうした学習集団の中で,言語活動はなお一層拡がりと深まりを増すという望ましい

サイクルが生まれる。殊に,コミュニケーション活動に重点を置いた外国語活動においては,こうし

(2) 全体を通して

○「1年生の前で発表する」とのゴールが明確であったことが強い動機付けになり,また英語で劇をす

るという必然性も生んだと言える。

○指導者が毎回劇のモデルを示していることが,子供たちの意欲喚起につながったと思う。

○外国語活動を効果的に進めるために,日頃の学級づくりの重要性,友達同士の協力関係を培っておく

ことの大切さを改めて認識した。

▲子供同士のコミュニケーションは活発だったが,子供たちとALTとのやりとりがもう少しあるとよか

った(第4時)。(*特に第4時の活動内容には,ALTとのやりとりの場面設定が少なかったせいもある。)

▲劇を演ずるテクニック的なこと(立ち位置,体の向きなど)も指導するとなおよかった。

▲劇の中に何度か出てくる基本表現(Where are you going? , Give me kibidango, please. など)は,タ

ーゲットセンテンスとして,クラス全体で練習してもよかった。また,me, you などの紛らわしい代

名詞は振りを付けながら練習すると覚えやすいかもしれない。

▲この英語劇の活動を4時間で完成させるのはかなり大変ではないか。

*実際には,お面作りのために図工の授業を1時間充てる,朝読書の時間に3回ほど劇の練習をする(子供た

ちが自主的に)など,4時間の外国語活動の授業以外にも準備の時間を取った。

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た学級の基盤なしには成功は望めない。そういう意味でも,今回の研究に協力してくれた学級の担任

の先生及び子供たちには本当に感謝している。この場を借りて,お礼申し上げたい。

5 今後の課題今回の研究を通して,英語劇を取り入れたことにより,微力ながら,子供たちにコミュニケーショ

ンを図る楽しさや満足感・達成感を味わう機会を提供できたことについては嬉しく思う。しかし,研

究を進める過程で,いくつかの課題が見えてきたこともまた事実である。以下に列挙してみる。

①英語劇などパフォーマンス型の授業における準備の効率化・負担の軽減方法

②ALTとのティーム・ティーチング(T-T)の在り方,役割分担の確認等

→担任主導のT-Tはどうあるべきか,ALTとの打合せの時間をどう確保するか,など

③小中連携の進め方,中学校の指導者との共通理解の図り方

→小学校外国語活動と中学校の外国語学習の趣旨の確認,系統的な指導・協力体制の構築等

④小学校における文字指導,発音指導の在り方

→文字に関心をもつ児童への指導をどうするか,発音を覚えるための補助としての片仮名表記を

どこまで許容するか,など

⑤校内の研究体制,教員の研修の在り方

→全校一丸となっての取組,指導者の英語力の向上等

⑥評価の在り方・方法等

→評価の観点と評価規準の関連,数値ではなく文言による評価の方法等

この研究が少しでも,学校現場の明日からの授業に役立つことを願いつつ,今後も上記課題を中心

に研究を進めていきたい。

【参考文献】文部科学省 (2009) 『英語ノート2』『英語ノート2 指導資料』文部科学省 (2008) 『小学校学習指導要領解説 外国語活動編』文部科学省 (2008) 『中学校学習指導要領解説 外国語編』文部科学省 (2010)「小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び

指導要録の改善等について」(通知)学校教育研究所 編・発行 (2010)『新しい学習指導要領と信頼される学校教育の実現』田中耕治 (2010) 『新しい「評価のあり方」を拓く』 日本標準古荘純一 (2009) 『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか』 光文社新書白井恭弘 (2008) 『外国語学習の科学』 岩波新書アレン玉井光江 (2010)『小学校英語の教育法-理論と実践』 大修館書店大津由紀雄 編著 (2007)『日本の英語教育に必要なこと』 慶應義塾大学出版会小川隆夫 (2008) 『先生、英語やろうよ!』 松香フォニックス研究所佐藤久美子 (2010) 『こうすれば教えられる 小学生の英語』 朝日出版社ゲイル・エリス ジーン・ブルースター (2008) 『先生、英語のお話を聞かせて!』 玉川大学出版部影浦攻 編 直山木綿子 著 (2007) 『「読み聞かせ」の指導テキスト』 明治図書影浦攻 他 編 (2009) 『小学校英語セミナーNo.33「英語ノート」の役立つ使い方情報』 明治図書中山兼芳 監修 (2009) 『日本昔話1 ももたろう Momotaro, The Peach Boy』 学習研究社和田秀樹 総監修 (2004)『声に出す えいご絵本』 アルクジャパンタイムズ「週刊ST」編 (2010)『英語で読む日本昔話 Book 1』鴻巣彩子 監修 神戸万知 著 (2010)『えいごよみきかせ絵本1』 成美堂出版『語研ブックレット3 小学校英語』 (2010) 語学教育研究所『英語教育』2010年10月号,2010年10月増刊号 大修館書店『悠+[はるか・プラス]』2010年12月号 ぎょうせい

【研究協力校】南アルプス市立白根飯野小学校 校長 市川 和郎

【研究協力員】石原 裕 南アルプス市立白根飯野小学校 教諭中澤 博美 昭和町立西条小学校 教諭古屋 和久 身延町立大河内小学校 教諭加賀美 かずみ 山梨県立巨摩高等学校 教諭

平成22年度

山梨県総合教育センター

執筆者 主幹・研修主事

秋山 和江