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放電テクスチャリングによる微細形状創成に関する研究 (株)日進製作所 , 浜岡 亨 , 藪中 智也 京都工芸繊維大学 機械システム工学部門 , 太田 , 安井 隼人 A Study on Micro-Structuring Using Electro Discharge Texturing Nissin Manufacturing Co., Ltd, Tooru HAMAOKA, Tomoya YABUNAKA Mechanical and System Engineering, Kyoto Institute of Technology, Minoru OTA,Hayato YASUI . 研究目的 地球温暖化やエネルギー問題など深刻化する環境問題への対応が望まれている。その対応策のひとつとし て輸送機械などの機械効率の向上があげられる。効率向上の手段のひとつとして摩擦の低減があり、一般的 には摺動部材の表面粗さを小さくすることが有効とされている。さらに、摺動部材表面に微細な凹凸形状を 創成することでトライボロジ特性を制御でき、摩擦低減や良好な潤滑状態の維持ができることが知られてい る。しかし、焼入れ鋼などの高硬度材料の小径穴内面の摺動部に微細凹凸形状の創成を可能にする有効な加 工手段はほとんど考えられていない。 そこで、それらの摺動部表面に高能率に微細凹凸形状を創成する手法として、放電加工を用いた放電テク スチャリング法 Electro Discharge TexturingEDT を提案する。本研究では、その原理を実証するために EDT 装置を製作し、個々の微細凹凸形状の大きさとテクスチャ・パターンを制御可能であるか検討することを目 的とした。 . 研究概要 2.1 放電テクスチャリング法の原理 EDT 法の加工原理を図 1 に示す。工作物の上方に工具電極を配置し、工 作物表面と工具電極の極間距離を一定に保ちながら工作物に沿って工具電極 を移動させる。このとき工作物と工具電極に電圧を印加すると放電が発生し、 工作物表面に放電痕が形成される(図 2)。 放電が発生する間隔は工具電極の移動速度と電圧を印加するタイミングに よって制御可能であり、放電痕の大きさは放電時の電気エネルギーによって 制御可能である。それにより微細凹凸形状の大きさとテクスチャ・パターン を制御し、放電加工によるテクスチャリングを可能にする。図 1 の加工原理 に基づき製作した実験装置で加工した工作物を図 3 に示す。放電痕が等間隔 に並んでいることから EDT 法の基本原理が実証できていることが確認でき た。 2.2 ふれまわり放電テクスチャリング装置の開発 高能率に円筒内面を加工する手段として、ふれまわり放電加工の原理を応 用したふれまわり放電テクスチャリング装置を図 4 に示す。工具電極の回転 系は、モーター、ストレートシャンク、軸受および工具電極で構成される。 モーターは回転数が 0 4000min -1 で調整できるものを使用した。モーター を回転させることにより工具電極は回転し、その回転数の大きさに応じたふ 平成21年度共同研究成果報告 1 EDT 法の加工原理 3 微細凹凸形状の創成 2 基本制御原理 −−

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Page 1: A Study on Micro-Structuring Using Electro …を制御し、放電加工によるテクスチャリングを可能にする。図1 の加工原理 に基づき製作した実験装置で加工した工作物を図3

放電テクスチャリングによる微細形状創成に関する研究(株)日進製作所 , 浜岡 亨 , 藪中 智也

京都工芸繊維大学 機械システム工学部門 , 太田 稔 , 安井 隼人

A Study on Micro-Structuring Using Electro Discharge Texturing

Nissin Manufacturing Co., Ltd, Tooru HAMAOKA, Tomoya YABUNAKA

Mechanical and System Engineering, Kyoto Institute of Technology, Minoru OTA,Hayato YASUI

1. 研究目的

 地球温暖化やエネルギー問題など深刻化する環境問題への対応が望まれている。その対応策のひとつとして輸送機械などの機械効率の向上があげられる。効率向上の手段のひとつとして摩擦の低減があり、一般的には摺動部材の表面粗さを小さくすることが有効とされている。さらに、摺動部材表面に微細な凹凸形状を創成することでトライボロジ特性を制御でき、摩擦低減や良好な潤滑状態の維持ができることが知られている。しかし、焼入れ鋼などの高硬度材料の小径穴内面の摺動部に微細凹凸形状の創成を可能にする有効な加工手段はほとんど考えられていない。 そこで、それらの摺動部表面に高能率に微細凹凸形状を創成する手法として、放電加工を用いた放電テクスチャリング法 Electro Discharge Texturing:EDT を提案する。本研究では、その原理を実証するために EDT

装置を製作し、個々の微細凹凸形状の大きさとテクスチャ・パターンを制御可能であるか検討することを目的とした。

2. 研究概要

2.1 放電テクスチャリング法の原理 EDT 法の加工原理を図 1 に示す。工作物の上方に工具電極を配置し、工作物表面と工具電極の極間距離を一定に保ちながら工作物に沿って工具電極を移動させる。このとき工作物と工具電極に電圧を印加すると放電が発生し、工作物表面に放電痕が形成される(図 2)。 放電が発生する間隔は工具電極の移動速度と電圧を印加するタイミングによって制御可能であり、放電痕の大きさは放電時の電気エネルギーによって制御可能である。それにより微細凹凸形状の大きさとテクスチャ・パターンを制御し、放電加工によるテクスチャリングを可能にする。図 1 の加工原理に基づき製作した実験装置で加工した工作物を図 3 に示す。放電痕が等間隔に並んでいることから EDT 法の基本原理が実証できていることが確認できた。2.2 ふれまわり放電テクスチャリング装置の開発 高能率に円筒内面を加工する手段として、ふれまわり放電加工の原理を応用したふれまわり放電テクスチャリング装置を図 4 に示す。工具電極の回転系は、モーター、ストレートシャンク、軸受および工具電極で構成される。モーターは回転数が 0 〜 4000min-1 で調整できるものを使用した。モーターを回転させることにより工具電極は回転し、その回転数の大きさに応じたふ

平成21年度共同研究成果報告

図 1 EDT 法の加工原理

図 3 微細凹凸形状の創成

図 2 基本制御原理

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Page 2: A Study on Micro-Structuring Using Electro …を制御し、放電加工によるテクスチャリングを可能にする。図1 の加工原理 に基づき製作した実験装置で加工した工作物を図3

れまわり現象を引き起こし、円筒内面に挿入した工具電極と工作物の極間距離を調整可能にする。工具電極として直径 0.3mm のタングステン・ワイヤを用い、工作物として内径 7mm 高さ 10mm の円筒形状の炭素鋼

(S45C)材を用いた。工作物は放電槽に固定し放電加工油に浸し、位置決めは X-Y テーブルにより行う。X-Y テーブルは最小分解能 1μm である。工具電極と工作物に放電加工電源により電圧が印加され、放電加工が行われる。 加工方法は円筒内に挿入した工具電極をモーターによってふれまわらせる。同時に電圧を印加しながら放電を発生させる。そして Z テーブルを移動させて工具電極を軸方向上方に移動させることによって円筒内の全面に放電痕を形成する。

2.3 ふれまわり EDT 装置によるテクスチャリング ふれまわり EDT 装置を用いて工作物にテクスチャリングを施すために、テクスチャの面積率と形状を変化させることが可能であるか実験を行なった。実験はテクスチャの面積率制御実験と放電痕形状制御実験に分けて行った。そのときの加工条件を表 1 に示す。面積率制御実験は軸方向の移動速度を変化させてテクスチャの面積率の変化をみるもので、形状制御実験は電流値および放電時間を変えて放電痕の大きさの変化を見るものである。この条件によって加工された工作物を図 5 および図 6 に示す。 図 5 より、面積率の制御実験では軸方向の移動速度を変えることで放電痕の個数を変化させることができ、面積率を制御可能であることがわかった。また、図 6 より、形状の制御実験では電流値および放電時間を変化させることで放電痕の大きさや深さを変化させることができ、テクスチャの形状は電流および放電時間によって制御可能であることがわかった。

3. 研究成果

 本研究では、高硬度材小径円筒の内面に微細形状を施すことが目的として、放電テクスチャリング法を考案し原理を実証するとともに、その基本性能を確認した。具体的には、①放電テクスチャリング法の原理を提案し、その原理に基づいて放電テクスチャリング装置を開発した。②開発した装置を用いて、工作物内面に放電痕による微細凹凸形状を創成した。③テクスチャ面積率は軸方向の移動速度に比例して増減し、放電痕の大きさや深さは電流値と放電時間に比例して増減することがわかった。

平成21年度共同研究成果報告

図 5 面積率変化の観察写真面

表1 実験条件

図 4 ふれまわり EDT 装置の構成

図 6 形状変化の観察写真面

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