ahs安全合流支援サービスの開発...ahs安全合流支援サービスの開発 平井節生...

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<第 6 回 ITS シンポジウム 2007> AHS安全合流支援サービスの開発 平井節生 *1 ・畠中秀人 *1 ・平沢隆之 *1 ・綾貴穂 *1 ・西井禎克 *1 ・長野和夫 *2 国土交通省国土技術政策総合研究所 高度情報化研究センターITS 研究室 *1 技術研究組合 走行支援道路システム開発機構 *2 日本の都市高速道路で、合流部は急カーブ部に次ぐ事故多発箇所である。著者らは、首都高速道路の合流 部をフィールドに、路車協調による安全な合流部走行を支援するサービスを開発している。開発にあたって、 まずサービス要件や実現のためのシステム構成を検討し、これに基づき、合流部の見通しが十分でない5号 池袋線(下り)東池袋ランプ合流部及び谷町JCT合流部への適用の検討を行うとともに、公道実験を実施 し、被験者からの評価を参考に実用に向けた調整を行っているところである。本論文ではこれらの開発状況 を報告する。 Developing a AHS Safety Service for Driving Support in Merging Sections Setsuo HIRAI *1 , Hideto HATAKENAKA *1 , Takayuki HIRASAWA *1 , Takao AYA *1 , Sadayoshi NISHII *1 Kazuo NAGANO *2 ITS Division, National Institute for Land and Infrastructure Management *1 Advanced Cruise-Assist Highway System Research Association *2 The merging sections of urban expressways in Japan have become accident prone areas. We considered the possibility of realizing an AHS safety service that supports safe driving in merging sections through vehicle highway cooperation utilizing ITS on-board units. A pilot study was conducted to verify the effectiveness and other elements of the service to introduce the service on the Tokyo Metropolitan Expressway, a merging ramp in Higashi Ikebukuro and a merging junction in Tanimachi, through expressway trial. Keyword: Advanced cruise-assist Highway System, Merging Section, Cooperative Vehicle-Highway System 1. はじめに 日本の都市高速道路で、合流部は急カーブ部に 次ぐ事故多発箇所である。 1)2) 警戒標識、路面標 示、可変情報板、車線規制などの対策が既に講じ られているが、箇所によっては利用ユーザの改善 ニーズに十分には応えられてはいない状況である。 ハード施策は膨大な費用と時間が必要であること から、ソフト対策としての ITS の活用が期待され ている。 著者らは、これまでに路車協調を可能にする 331

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Page 1: AHS安全合流支援サービスの開発...AHS安全合流支援サービスの開発 平井節生 *1・畠中秀人・平沢隆之・綾貴穂*1・西井禎克*1・長野和夫*2

<第 6 回 ITS シンポジウム 2007>

AHS安全合流支援サービスの開発

平井節生*1・畠中秀人*1・平沢隆之*1・綾貴穂*1・西井禎克*1・長野和夫*2

国土交通省国土技術政策総合研究所 高度情報化研究センターITS 研究室*1

技術研究組合 走行支援道路システム開発機構*2

日本の都市高速道路で、合流部は急カーブ部に次ぐ事故多発箇所である。著者らは、首都高速道路の合流

部をフィールドに、路車協調による安全な合流部走行を支援するサービスを開発している。開発にあたって、

まずサービス要件や実現のためのシステム構成を検討し、これに基づき、合流部の見通しが十分でない5号

池袋線(下り)東池袋ランプ合流部及び谷町JCT合流部への適用の検討を行うとともに、公道実験を実施

し、被験者からの評価を参考に実用に向けた調整を行っているところである。本論文ではこれらの開発状況

を報告する。

Developing a AHS Safety Service for Driving Support

in Merging Sections

Setsuo HIRAI*1, Hideto HATAKENAKA*1, Takayuki HIRASAWA*1, Takao AYA*1, Sadayoshi NISHII*1

Kazuo NAGANO*2

ITS Division, National Institute for Land and Infrastructure Management*1

Advanced Cruise-Assist Highway System Research Association*2

The merging sections of urban expressways in Japan have become accident prone areas. We considered the possibility

of realizing an AHS safety service that supports safe driving in merging sections through vehicle highway cooperation

utilizing ITS on-board units. A pilot study was conducted to verify the effectiveness and other elements of the service to

introduce the service on the Tokyo Metropolitan Expressway, a merging ramp in Higashi Ikebukuro and a merging

junction in Tanimachi, through expressway trial.

Keyword: Advanced cruise-assist Highway System, Merging Section, Cooperative Vehicle-Highway System

1. はじめに 日本の都市高速道路で、合流部は急カーブ部に

次ぐ事故多発箇所である。1)2)警戒標識、路面標

示、可変情報板、車線規制などの対策が既に講じ

られているが、箇所によっては利用ユーザの改善

ニーズに十分には応えられてはいない状況である。

ハード施策は膨大な費用と時間が必要であること

から、ソフト対策としての ITS の活用が期待され

ている。 著者らは、これまでに路車協調を可能にする

331

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ITS 車載器を活用した合流部走行支援の AHS(走

行支援道路システム)安全サービスの実現を目指

して、サービス概念の確立を行い、さらに事前検

証を行っている。3)4)本稿では、本サービスの導

入効果について、公道実験を通して得られた車両

挙動分析やアンケート調査等の結果から分析を行

うものである。

2. これまでの取り組み3)4) 2-1 サービスの選定

合流部走行支援サービスとして、著者らは、様々

なサービスの種類を検討し、まず、本線側車両に合

流車が来ることを情報提供するサービスについて検

討することとした。これは、今回のサービスが、視

認困難な合流車の見落としなどを防止するための事

前の注意喚起であること及び合流車の検知もれ時の

過信の影響が少ないサービスであることによるもの

である。

2-2 サービスの基本枠組み 合流部走行支援 AHS 安全サービスの基本枠組み

は図 1 に示すとおりであり、概要は次のとおりであ

る。

1) 合流車を検知し、その速度に応じて本線車に適

切なタイミングで注意喚起する。速度検知には

超音波感知器を用いる。

2) 本線車への注意喚起は路車間通信に拠る。具体

的には DSRC 路側無線装置と ITS 車載器間の無

線通信方式(5.8GHz)とする。

3) ドライバーへの注意喚起を実現するヒューマ

ン・マシン・インターフェイス(HMI)には、喚

起音、音声、画像を用いる。合流部の錯綜が予

想される場合には合流車を注意喚起する情報

(Aパターン)を提供し、そうでない場合にも

合流部の存在を示す情報(Bパターン)を提供

することで、合流車が存在しない場合でも走行

に関する一定の注意を促すとともに、機器の故

障による合流車の情報を提供できない場合と区

別する。なお、渋滞発生時およびそのおそれの

ある時には追い越し車線への避走による交通流

の悪影響を避けるため、合流車の有無に関わら

ず合流部の存在を示す情報(Bパターン)を提

供する。(図 2)

2-3 情報提供位置の考え方

情報提供位置については、ハードノーズまでに提

供情報の認知及び判断が終了すれば、それ以降は互

いの見通しのきく状態の中で反動時間を含めて回避

動作が可能と考え、ハードノーズより、最小限4秒

手前で車両に伝達させることとした。4秒の根拠は

図 3 に示すとおりである。サービスの対象とする車

両の最高速度を 90km/h と設定した場合、ハードノー

ズより最低 100m 手前に DSRC を設置する必要があ

る。

図1 合流部安全走行支援AHSサービスの基本枠組み

合流車線

本線

車両感知器

DSRC ビーコン

ハードノーズ

車載器

遅れ時間1s

喚起音+音声情報提供時間

3s(判断時間1.5sを含む)

反動時間等

90km/hの場合100m

情報伝達位置近接限界点

反応時間=判断時間+反動時間 判断時間:1.5s(障害物などを発見した後、運転者がブレー

キを踏むかどうか判断する時間) (反動時間:1s(判断してからブレーキを踏むまでの時間))

図 3 情報提供位置の考え方

正不検知過検知

合流車なし

検知もれ正検知合流車あり合流車

線の状態

故障状態(提供が不可能な場合)

--合流車を不

検知合流車を検知インフラの状態

-渋滞状態渋滞が起こる恐れがある状

態通常走行状態本線の状態

正不検知過検知

合流車なし

検知もれ正検知合流車あり合流車

線の状態

故障状態(提供が不可能な場合)

--合流車を不

検知合流車を検知インフラの状態

-渋滞状態渋滞が起こる恐れがある状

態通常走行状態本線の状態

合流車が来ることを伝える

合流車線が有ることを伝える 何も伝えないことにより故障を知らせる

ピ!「左から合流車、注意」 ピ! 無表示

左から合流車、注意

!!合流注意合流注意

Aパターン Bパターン

図 2 情報提供の種類

332

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2-4 サービス箇所の選定 サービスの先行

的な導入箇所とし

て、道路構造、事

故発生件数等を考

慮し、取り組みの

開始箇所として、

ランプ合流におい

ては東池袋ランプ

合流部(5号池袋

線下り)、ジャンク

ション合流におい

ては谷町ジャンク

ション(JCT)合流部

(都心環状線外回

り)を選定した。

(図 4) 東池袋ランプ合

流部は、合流前の本線車両と合流車両相互の視認性

が良好でなく、合流長も十分な余裕がないため、当

該箇所の運転に慣れていないドライバーに緊張を強

いる箇所である。谷町 JCT 合流部は3号渋谷線から

都心環状線への合流側の交通量が多く、合流に起因

する事故が多発する箇所である。

2-5 サービスの事前検証 ドライバーの受容性を事前に確認するため、一般

の被験者を対象としたDS(ドライビングシミュレ

ータ)実験を実施し、情報提供内容の理解度、画面

の長時間注視の有無、情報提供による急制動の有無

等の点から、カーナビへの画面表示が妥当であるこ

とを確認した。また、国土交通省国土技術政策総合

研究所試験走路(テストコース)において同様の確

認実験を実施し、その妥当性を実車走行においても

確認した。

3. 公道実験 3-1 実験の概要 首都高速道路の東池袋ランプ及び谷町 JCT におい

て DSRC 機器等を設置し、被験者に ITS 車載器を搭

載した試験車両を運転してもらい、サービスの提供

による挙動変化及びサービスの評価についての実験

を行った。実験の実施概要については表 1 のとおり

である。 なお、安全性に考慮して、被験者は運転歴5年以

上、首都高経験者、カーナビ利用者とし、あらかじ

め HQL 運転行動チェックシートの実施により特異

な運転挙動を行わないドライバーである旨のチェッ

クを行った。 表 1 実験概要

東池袋ランプ 谷町 JCT 実験期間 2007/4/23~5/7 2007/9/18~9/25 実験車両 レンタカー3台 レンタカー5台 対象箇所 首都高速5号

池袋線下り 東池袋ランプ

首都高速都心環状 外回り谷町 JCT

被験者 50名 (20~60 歳代)

50名 (20~60 歳代)

走行回数 サービスなし 75 回 サービスあり 175 回

サービスなし 84 回

サービスあり 191 回

実施項目 ・車両挙動データの収集 ・路側カメラによる合流シーンの記録 ・車載カメラ(前方状況及び足下撮影)に

よる走行シーンの記録 ・アンケート調査

3-2 実験の結果 1)HMI の評価

①情報提供の理解度

図 5 に今回の情報提供内容について理解できたか

どうかの結果を示す。ほぼ全被験者が情報内容を理

解できたと回答している。

図 5「情報内容が理解できたか」に対する回答結果

また、情報内容のわかりやすさについての結果を

図 6 に示す。東池袋ランプ、谷町 JCT ともに『左か

ら合流車注意』(A パターン)については、わかりや

すいと回答した割合が高く、一方、『合流注意』(Bパターン)は「ややわかりにくい」という意見も見

られる。 この情報内容がわかりやすい(わかりにくい)と

いう回答した理由についてとりまとめたものを図 7

図 4 サービス選定箇所

96.2%

100%

100%

80%

3.8%

0%

0%

20%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

『左から合流車注意』

(Aパターン)

『合流注意』

(Bパターン)

『左から合流車注意』

(Aパターン)

『合流注意』

(Bパターン)

東池

袋ラ

ンプ

谷町

JCT

はい いいえ

333

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に示す。わかりやすい理由としては「音声」や「喚

起音」を挙げる意見が多かった。また、わかりにく

い理由としては、音声(音質)が分かりづらいとい

うものも見られた。 図 6「情報内容がわかりやすかったか」に対する回答結果

図 7情報内容がわかりやすい(わかりにくい)理由(複数

回答可)

②提供タイミング

情報提供のタイミングについての意見をとりまと

めたものを図 8 に示す。「左から合流注意」について

は、約7割~8割が適切と回答しているものの、「合

流注意」の場合にはそれと比較して「遅い」、「やや

遅い」と回答する割合が高くなっている。これは、

合流車線の存在についてもっと早いタイミングで知

りたいというニーズを示すものであると考えられる。

今後、合流車線の存在をまず知らせた上で、合流車

の存在を知らせる二段階の情報提供等も視野に入れ

て検討していく余地があるといえる。

図 8 情報提供タイミングについての回答結果

2)有効性の評価

①意識の変化

今回の情報提供を受けたときにドライバーがどの

ような行動を取ったかについてとりまとめたものを

図 9 に示す。 「情報提供にびっくりし、あわてた」等のネガティ

ブな反応はほとんどなかった。また、そのように回

答したサンプルについても、その車両挙動データを

詳しく分析したところ、情報提供直後の急な挙動は

見られなかった。(図 10) 図 9「情報提供を受けたときどのように感じたか」に対す

る回答結果

65.4%

57.1%

66%

19.2%

25.7%

23%

80%

11.5%

5.7%

6%

11.4%

6%

20%

3.8%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

『左から合流車注意』

(Aパターン)

『合流注意』

(Bパターン)

『左から合流車注意』

(Aパターン)

『合流注意』

(Bパターン)

東池

袋ラ

ンプ

谷町

JCT

わかりやすい ややわかりやすい どちらともいえない

ややわかりにくい わかりにくい

73%

77%

42%

46%

46%

4%

4%

4%

0%

8%

69%

0%

40%

43%

40%

0%

0%

9%

3%

14%

63%

66%

29%

31%

26%

6%

11%

3%

9%

9%

40%

0%

20%

40%

0%

0%

0%

0%

20%

0%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

喚起音が鳴るので気づきやすかった

音声で情報提供されるのでわかりやすかっ

画面が目につきやすく気づきやすかった

図形表示もあるため、内容を理解しやす

かった

サービスの内容を事前に理解していたので

わかりやすかった

運転に集中し、カーナビの画面をよく見るこ

とができなかった

運転に集中し、音声が聞き取れなかった

情報提供内容になれていないので、わかる

のに時間がかかった

カーナビやETCからの他の情報表示や音

などにまぎれてしまいわかりにくかった

その他

東池袋ランプ 『左から合流車注意』

(Aパターン)

東池袋ランプ 『合流注意』

(Bパターン)谷町JCT『左から合流車注意』

(Aパターン)

谷町JCT『合流注意』

(Bパターン)

4%

2%

1%

4%

3%

7%

80%

75%

70%

57%

13%

19%

21%

29%

3%

1%

14%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

『左から合流車注意』

(Aパターン)

『合流注意』

(Bパターン)

『左から合流車注意』

(Aパターン)

『合流注意』

(Bパターン)

東池

袋ラ

ンプ

谷町

JC

早い やや早い 適切 やや遅い 遅い

80%

64%

9%

18%

4%

18%

4%

2%

85%

41%

6%

8%

3%

39%

2%

1%

80%

38%

16%

3%

1%

2%

7%

2%

7%

100%

0%

14%

14%

14%

0%

0%

0%

0%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

注意しようとする気持ちになった

減速しようとする気持ちになった

車線変更しようとする気持ちになった

情報が煩わしいと思った

合流車を視認するまではそのままの走行

で問題ないと考えた

自車が有線なので、合流車がよけてくれ

ると思った

情報提供に少しびっくりしたが、注意しよ

うとする気持ちになった

情報提供にびっくりし、あわてた

その他

東池袋ランプ 『左から合流車注意』

(Aパターン)

東池袋ランプ 『合流注意』

(Bパターン)谷町JCT『左から合流車注意』

(Aパターン)

谷町JCT『合流注意』

(Bパターン)

334

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図 10「情報提供にびっくりし、あわてた」と回答したサ

ンプルの車両挙動データ

②行動の変化

図 11 に情報提供後の行動の変化についてとりま

とめたものを示す。 東池袋ランプ・谷町 JCT 共に、「急ブレーキをか

けた」、「急に車線変更をした」とのネガティブな反

応は見受けられなかった。また、いずれの情報内容

でも「合流車線に視線を向けた」との回答が最も多

く、約 7 割を占める結果となっている。加えて、「左

から合流車注意」では「合流注意」の場合に比べて、

減速行動(「アクセルオフ」、「ブレーキに足をかける」、

「ゆっくりブレーキをかける」)の割合が高い結果と

なった。一方、「合流注意」では「左から合流車注意」

に比べて 、「そのまま走行した(何もしなかった)」

との回答率が高い結果となった。

図 11 情報提供後の行動

③サービスの有無による危険性感覚への影響

図 12 に合流車に遭遇した時の危険度感覚につい

てサービスの有無別に調べた結果を示す。東池袋ラ

ンプでは、「サービスなし」と比較して「サービスあ

り」が危険を感じると回答した割合が高くなってい

るのに対して、谷町 JCT においては、「サービスあ

り」の方が危険を感じなかったと回答する割合が高

く、結果が相反することとなった。 東池袋ランプは、本線部から合流車の存在が確認

しづらく、合流車の交通量も比較的少ないことから、

ドライバーが合流車線の存在を認識していない状況

の中で、車載器より合流車の存在を突然通知された

ことで緊張感が発生したのではないかと考えられる。

一方、谷町JCTは、合流車交通量が多く、ドライ

バーが前もって合流車の存在をある程度予測してお

り、車載器からの通知で合流車の存在が確実になっ

たことによって安心感が向上したのではないかと考

えられる。 また、東池袋ランプの「サービスなし」で約 12%

が「合流車に遭遇しなかった」となっているが、こ

のサンプルについて詳しくビデオ解析を進めたとこ

ろ、図 13 のように実際には合流車が存在し、本線車

から死角となり認識できていないことが判明した。

このような合流車が存在しながら、それを認識して

いない状況は危険な状況であり、「サービスあり」で

その割合が減少していることは、本サービスの効果

と考えることができる。 図 12 「合流車に遭遇した時どの程度危険を感じたか」

に対する回答結果

13%

63%

41%

32%

25%

0%

2%

0%

0%

29%

63%

29%

11%

10%

0%

0%

0%

1%

11%

71%

39%

21%

24%

5%

0%

0%

10%

29%

71%

14%

0%

0%

14%

0%

0%

0%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80%

そのまま走行した

合流車線に視線を向けた

アクセルオフにした

ブレーキに足をかけた

ゆっくりブレーキをかけた

安全を確かめ、車線変更した

急ブレーキをかけた

急に車線変更をした

その他

東池袋ランプ 『左から合流車注意』

(Aパターン)

東池袋ランプ 『合流注意』

(Bパターン)

谷町JCT『左から合流車注意』

(Aパターン)

谷町JCT『合流注意』

(Bパターン)

24%

8%

4%

26%

35%

45%

62%

54%

11%

3%

1%

29%

34%

23%

18%

34%

3%

1%

12%

3%

6%

1%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

サービスなし

サービスあり

サービスなし

サービスあり

東池

袋ラ

ンプ

谷町J

CT

全く危険を感じなかった あまり危険を感じなかった

どちらともいえない やや危険を感じた

非常に危険を感じた 合流車に遭遇しなかった

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900

距離(m)

速度(km/h)

-0.5

-0.4

-0.3

-0.2

-0.1

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

角速度(×50deg/s)速度(km/h) 角速度(×50deg/s) 前後加速度1秒移動平均(G)

サービスイン 07/09/19 18:45:22 左から合流車、注意

  情報提供位置

谷町JCT

前後加速度(G)

DSRC位置

ソフトノーズ

テーパー端

335

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図 13 東池袋ランプにおける「サービスなし」で「合流車

に遭遇しなかった」と回答したサンプルの合流状況

のビデオ画像

④安全運転支援効果

図 14 にサービスの安全運転への役立ちについて

の回答結果を示す。東池袋ランプ・谷町 JCT ともに

7割以上が「役に立った」、「どちらかといえば役立

った」と回答している。特に東池袋ランプについて

は、約9割が肯定的に回答しており、合流部の中で

も本線から合流車線が認識しにくい箇所における本

サービスの提供は非常に有効であるといえる。 図 14 本サービスの安全運転への役立ちについての回答

結果

3-3 サービスの改良 今回の実道実験を踏まえ、車載器・路側機・カー

ナビ・自動車の各メーカーが参加した公道実験を実

施し、意見を収集した。その結果、主な改善要望と

して、「喚起音が通常の情報提供の音と同じであり、

見過ごす可能性があるため、変えた方がよい。」、「音

質が機械的であり改善した方がよい。」が挙がった。 このうち、喚起音については、専用の喚起音を設

定し、改善を行った。音質についても改善を実施し

たところであり、今後は車載器メーカーによりさら

なる改善が図られるものと見込まれる。 公道実験については現在も実施中であり、改善す

べき意見を収集し、システムの改善を図っていく予

定である。

4. 今後の予定 合流走行支援の高度化として、合流部に関するサ

ービスの存在を示す事前の情報提供と組み合わせた

二段階方式の情報提供の他、合流車両への情報提供、

本線車両と合流車両が同調して合流することを支援

する情報提供への発展が考えられる。これらについ

ても将来的に順次検討を進めることとしている。 5. おわりに 本論文では、合流部走行支援AHS安全サービス

のシステムの概要を紹介するとともに、東池袋ラン

プ及び谷町 JCT で行っている実道実験の結果を示し、

効果が認められることを報告した。 今後は、実用化に向けて更なる検証を進める予定

である。 本開発に当たり、首都大学東京大口教授、東京大

学清水准教授、慶應大学大門准教授に多大の教示を

頂いた。ドライビングシミュレータ検証に当たって

は、慶應大学川嶋・大門研究室のご支援をいただき、

実施した。関係各位に感謝の意を表するものである。

【参考文献】

1)“都市高速の走り方”、JAF Mate 2007/8・9、pp21-25. 2)首都高速道路株式会社、“首都高交通事故多発地点マッ

プ” 3)平井・畠中・綾・長野:“AHS安全合流支援サービス

の実用化に向けた取り組み”、第27回交通工学研究発

表会、2007.11. 4)S.HIRAI, H. HATAKENAKA, T. HIRASAWA, T. AYA,

S.NISHII, E.NOMURA, H.MIZUTANI, K. NAGANO: “AHS Safety Service Utilizing an ITS On-Board Unit for Driving Support in Merging Sections”, 14th World Congress on ITS, 2007.10.

5)清水哲夫:“合流部安全走行支援システムの HMI に関す

る研究”、ITS 新サービス導入に係る HMI 検討手法及び

導入効果に関する先端的研究報告書、国土技術政策総合

研究所・慶応義塾大学、2007.3.

役立った

54%

41%

どちらかと

いえば役立った

37%

34%

どちらとも

いえない

6%

11%

あまり

役立たなかった

3%

14%

役立た

なかった

0% 20% 40% 60% 80% 100%

凡例

東池袋ランプ

谷町JCT

実験車(本線)

合流車

実験車(本線)

合流車

336