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Post on 17-Mar-2020

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3 異世界コンビニおもてなし繁盛記

プロローグ

コンビニエンスストアといえば、日本に住んでいる人なら知らない人はまずいないんじゃな

いかっていうくらい、津々浦々にできていますよね。

ただ……、その多くが大手コンビニチェーンのお店だったりしています。

ですが……

地方で頑張っているコンビニエンスストアもあるんですよ。

僕、田倉良一が店長を務めている「コンビニおもてなし」も、地方で頑張るそんなコンビニ

エンスストアの一つだったりします。

創立者である爺ちゃんが、宝くじの当選金を元手にして始めたこの「コンビニおもてなし」

なんだけど、その頃はまだ今のように大手のコンビニチェーンさんも、僕が住んでいる田舎で

はそんなに店舗を展開してなかったもんだから、結構有名なコンビニだったんだ。強力なライ

バルがいなかったもんだから、爺ちゃんは悠々と支店を増やしていって、どの支店も軒並み黒

字を計上していたそうなんだ。

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ところが……

爺ちゃんが亡くなって社長が僕の父さんの代になると、状況が一変したんです。

大手のコンビニチェーンさんがこぞって地方進出を始めたもんだから、地元では有名だった

「コンビニおもてなし」も、大手コンビニの出店ラッシュの波に思いっきり飲み込まれてしま

いまして……、気が付けば業績は、みるみる右肩下がりになっていたんです。

爺ちゃんの代には、県内全域の津々浦々にまで出店していた「コンビニおもてなし」なんで

すが……気が付けば、ほとんどのフランチャイズが赤字に転落してしまいまして……その結果、

閉店せざるを得なくなっていったのですが、空いた店舗を購入してくれたのが大手のコンビニ

チェーンさんだったりしてと、まぁ皮肉なもんです、はい。

業績悪化に心を痛めた父さんの急逝を受けまして、急遽、「コンビニおもてなし」の3代目

社長に就任したのが僕なんだけど……その時にはもう、「コンビニおもてなし」は本店1店舗

しか残っていなかったわけです、はい。

とある片田舎の、草そ

社やしろ

市ってところの町外れに位置しているこの店舗。

ここは昔、爺ちゃんの家の庭部分を潰してコンビニにしていました。

……ただ、その爺ちゃんの家は父さんの時代に売り払い、「コンビニおもてなし」の裏には

大きなマンションが建っていて、今の僕は、爺ちゃんの代には社員寮として使用していた本店

5 異世界コンビニおもてなし繁盛記

2階の一室で暮らしています……まぁ社員寮といっても、父さんの代から誰も使ってなかった

んだけどね、ここ。

裏のマンションの住人の皆さんをお客に取り込めたらよかったんだけど、「コンビニおもて

なし」があるのと同じ通りに大手のコンビニさんが4軒も出店してるもんだから、全部そっち

に取られちゃってるのが現状です。

それどころか、かつてはコンビニといえば「コンビニおもてなし」しかなかった草社市内に

は、今ではコンビニが他に11店舗もある上に、24時間営業のスーパーが3店舗もできちゃって

……、「コンビニおもてなし」の経営は正直かなり苦しいわけです……

かなりの無理をして店の屋上に太陽光発電システムを導入して、店の電気代を少しでも安く

あげようとしたり、店内で販売するおにぎりや弁当の外注をやめて、全て店内での製造に切り

替えてコストを削減したりと……まぁ、あの手この手で経費を必死に切り詰めてはいるものの、

焼け石に水な感じしかしない今日この頃なわけです、はい……

そんなある日の午前4時。

けたたましく鳴り始めた目覚ましを止めると、僕は布団からはい出しました。

ここは、「コンビニおもてなし」本店の2階にある僕の部屋。

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閉店した支店から返品されてきた商品が、倉庫や地下倉庫だけでは入りきらなくて、社員寮

として使っていた他の部屋や廊下にまで山積みになっているんだけど、それでも入りきらなく

て、すでに僕の部屋の大半まで段ボールの山で埋め尽くされています。

そんなわけで、僕は、荷物の隙間に布団を敷いて寝起きしている状態でした。

「コンビニおもてなし」は、僕が店長になってからは朝6時に開店し、深夜零時に閉店してい

ます。夜間は営業していません。

もともと夜間はお客さんがほとんど来ていませんでしたからね。むしろ夜間営業をやめたお

かげで、赤字が減ったくらいです……ここで収益が上がったと言えないのがちょっとつらいと

ころですけど……

高校生のバイトも数人雇っていますけど、他のコンビニに比べて金銭面での条件が悪くてす

ぐに辞めちゃうもんですから、常時、僕が1人で接客している感じです。

そんな「コンビニおもてなし」ですが、開店してから昼過ぎまでは、当店においてもっとも

大事な時間帯になります。

弁当類を店舗内調理に切り替えて以降、地産地消をモットーにして、草社市内で採れた食材

をふんだんに使った弁当を作っているんですけど、このお弁当がそれなりのヒット商品になっ

ていまして、開店から昼過ぎまでは一番売れる時間帯なんですよ。

7 異世界コンビニおもてなし繁盛記

……もっとも、バイトも店員もいないので、全て僕が調理しているんですけどね。

今はつくづく、専門学校に通って調理師の免許を取っておいてよかったって思っている次第

です。これも、「コンビニおもてなし」の手伝いを始めたら、弁当の一部を店内調理に切り替

えて、地産地消のお弁当を販売しようって思っていたからなんだけど……まさかそれが命綱に

なるとは夢にも思っていなかったというか……

農家のお爺さんたちと仲よくなったのが縁で、猟師のお爺さんたちとも親しくなれまして、

その方々が仕留めた猪や鹿なんかをもらえるようになりました。

お爺さんたちの手ほどきを受けまして、今の僕は、猪や鹿ぐらいならなんなくさばけてしま

うほどの腕前になっています……ホント、僕ってどこに向かっているんだろうと、時々自問自

答したくなるんですよね。

そんな日々を過ごしてはや数年……すでに30歳を過ぎた僕ですけど、当然、彼女を作る暇な

んてありません。

「……はぁ、不幸だなぁ」

そんな独り言をこぼしながら、僕はレジの裏にある調理スペースでフライパンを振るってい

ました。

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◆◇◆◇◆

およそ1時間後。

いつものように、弁当やおにぎりの調理と梱包を終えた僕は、店の横に届いているはずの雑

誌類を店内に運び込もうと、裏口の扉を開けました。

「……はい?」

すっとんきょうな言葉を漏らしながら、僕は、裏口の扉をゆっくりと閉めました。

扉の向こうには、見慣れたマンションの壁……ではなく、全くもって見慣れない木製の壁が

そそり立っていた……ように見えたんだけど……

僕は、再び扉を開けてみました。

……そこには、やっぱり見覚えのない木製の壁がそそり立っています。

「……何、これ?」

僕は再び扉を閉めると、慌てて2階の自室へ駆け込み、窓のカーテンを開けました。

いつもなら、そこには幹線道路を隔てて、のどかな田園風景が広がっている……はずなので

す。…

…が、今の僕の目の前には……石畳っぽい道路を挟んで、木造と思われる見馴れない建物

9 異世界コンビニおもてなし繁盛記

が立ち並ぶ光景が広がっていたんです。

……学生時代によく読んでいたライトノベルなんかだと……こういうのって「異世界転移」

とかなんとかってやつで、そこでチートな能力とかを発揮しちゃって、世界を救っちゃったり

なんかしちゃう展開だったりするのかもしれないけど……なんというか……30代もすでに半ば

に差し掛かろうっていうごくごく一般的なおじさんでしかないこの僕に、そんな展開があるわ

けがないだろう……と、思いたいんだけど……

窓の外を見つめながら、完全に思考停止状態の僕の額に、嫌な汗が伝っていました。

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1章

どっちを向いても、異世界辺境都市ガタコンベ

「ちょっと、そこのアンタ!」

2階の窓から周囲を見回していた僕の耳に、女性の声が聞こえてきました。

道路には、1人の女性が立っているんだけど……その頭には……猫耳……だよな、あれって

ば……、その上、お尻のあたりで長い尻尾をゆらゆらさせている女性が立っていて、僕のこと

を見上げていたんです。

……コスプレ……には見えないなぁ……

「ここってさ、昨日までは空地だったはずだけど……すごいね、アンタ、一晩で店を構えちゃ

ったんだ?

ひょっとして魔法使いさん?

あ、男だから魔法使役者か」

……は?

……空地?

……一晩で店を構えちゃった?

意味がさっぱり理解できないんだけど……。と、とにかく、この女性の言葉を僕は理解でき

ているわけだし、とりあえず今、僕が置かれている状況を把握するための情報収集はできるか

11 異世界コンビニおもてなし繁盛記

も、と思った僕は、階段を下りて、女性のもとへと駆け寄っていきました。

彼女の真正面に立った僕でしたが……そんな僕の前で、女性の頭上では耳がピコピコ動いて

いて、お尻のあたりでは尻尾がゆらゆらしていました。よくよく近くで見ても、本物としか思

えません……

なんていうか……僕ってば、マジで異世界転移とかしちゃったってわけなの?「コンビニ

おもてなし」のお店ごと……!?

そう考えながら、僕は若干のめまいを覚えていました。

なんで、こんなことになってしまったんだ……と、困惑したいところではあるものの、何を

しても始まらないわけだし……

「その……出店準備というかなんというか……よく分からないうちにここに来ちゃったってい

いますか……」

「じゃあ、商店街組合への届出も済んでいないわけ?」

「商店街組合?」

「なんだ、まだなんだ。仕方ないなぁ、じゃ、アタシが案内したげるよ、ついといで」

そう言うと、猫耳の彼女は、僕を連れて歩き出しました。

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僕は身長が190㎝あるんだけど、猫耳の彼女も結構背が高くてですね、おそらく170近

くはあるんじゃないかって思います。

そんな彼女について歩き始めた道中、猫耳の女性……あ、名前はルアさんっていうそうなん

ですけど、僕よりかなり年下のようですね。ちなみに、猫キ

ャット

人ピープル

族っていう亜人種族さんなんだ

そうです。

で、そのルアさんにあれこれこの世界のことを教えてもらったんですけど……

なんでもここは、パルマっていう国の一部なんだそうです。

で、その王都……たぶん、日本でいうところの首都のことなんでしょうね、そこからすっご

く東の辺境にある地方都市ガタコンベっていう街の中なんだそうです。

……猫人族、亜人種族っていう呼称といい、王都って呼び方といい……ここってやっぱり異

世界なんだなぁ……、って、あらためて実感した僕だったりします……

僕は軽く頭痛がするのを感じながらも、ルアさんの後について歩いていきました。

「まぁさ、こんなド田舎の地方都市には、亜人種族以外は住み着かないっていうかさ、こんな

辺境に店を構えた人種族さんってことは、まぁ、なんか訳ありなんだろうけどさ、この街のみ

んなは気さくでいい人ばかりだし、気楽にいこうよ」

ルアは、そう言うと、笑いながら右手を差し出してくれました。

13 異世界コンビニおもてなし繁盛記

「改めて自己紹介だ。アタシはルア。アンタの店の真向かいで工房をやってるんだ。メインは

武具だけどさ、生活用品から家の建築までなんでもござれでやってっから、何かあったら遠慮

なく相談してくれよ。よろしくな」

……確かに訳ありではあるんだよな……いきなり異世界らしい世界に飛ばされちゃってるわ

けだし……でもルア的には、僕がこの世界のどこかの都市から、夜逃げでもしてきたって感じ

に思ってるみたいだけど……でもまぁ、説明しようとすると長くなってしまうというか、相当

難しくなりそうだし……もう笑ってごまかすしかないか……

そんな結論に思い至った僕は、

「僕は田倉良一。こちらこそ、よろしくお願いします!」

笑顔を返しながら、ルアの手を握りました。

◆◇◆◇◆

ルアに案内され、僕は、街の中心部近くにある1軒の建物の前にやってきました。

すぐ横には、大きな公園があります。その周りには建物がたくさん並んでいて、天気がよか

ったら大勢の人が集まってきそうですね。

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公園を横目に見ながら、僕はルアと一緒に建物の中へと入っていきました。

「ここがガタコンベ商店街組合の事務所さ。この都市で商売をしようと思ったら、ここに届出

をしなくちゃならない決まりなんだ」

建物の中に入ると……時間的にはまだ早朝のはずなんだけど、すでに多くの亜人種族らしい

人たちが、事務所の中を忙しそうに行き来しながら、仕事をこなしているようでした。

「あら、ルア様。今日はずいぶんお早いですですね?」

僕とルアの前に、小柄な女性が駆け寄ってきました。

一見、僕の世界の人間と大差ない感じ……と思った次の瞬間、その女性の頭部に触覚みたい

なものが伸びているのに気が付きました。しかもよく見ると、お尻のあたりに大きな丸い物体

がくっついてもいますし……あぁ、やっぱり亜人種族の方なんですね、この人も……

触覚も、お尻の物体も黒いし……そうだなぁ、蟻さん?

ってとこかな?

そんなことを考えていると、ルアがその女性に向き直りました。

「エレエやみんなも、相変わらず働き者じゃない?」

「いえいえ、私たちはこれがお仕事ですです。これくらいお仕事できないと、蟻ア

ント

人ピープル

の名折れ

ですです」

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エレエって、ルアに呼ばれた黒い触覚とお尻の女性……あぁ、やっぱり蟻さんだったんだな

……黒い触覚とお尻の女性と、ルアはしばらく世間話をしていたんだけど、

「……で、そろそろ本題を済ませとこう」

そう言うと、僕を右手で指し示しました。

「この人、タクラリョーイチってんだけどさ。閉店して更地になってたショウモンの酒場の跡

地に店を出すんだってさ。ってか、魔法かなんかで、もう店も移転済みなんだわ」

それを聞いたエレエは、目を丸くしました。

「えぇ!?

そうなのですですか?

そんなお話、私は全く聞いておりませんですですわ」

次いで、手に抱えている書類の束を大慌てでめくり始めるエレエ。

気が付くと、話を聞きつけた事務所内の蟻人さんたちが、エレエの周囲に集まって、

「なんですです?」

「新規開店ですです?」

「いえいえ、聞いてないですです」

とそんな感じで、わいわい話し合いを始めてしまったわけでして……

そりゃそうですよね……エレエたちが僕のことを知らなくて当然といいますか……なにしろ

僕本人からして、なんでこんな異世界にやってきちゃったのか分かってないんだし……ホント、

17 異世界コンビニおもてなし繁盛記

何が起きたっていうんだろう……

僕は、集団になってワイワイと話し合いを続けているエレエたちを見つめながら、そんなこ

とを考えていました。

その後、1時間近い話し合いの後……

「今後は、必ず事前に届出をしてから、お店を移転させてくださいですですよ!」

と、エレエから怒られただけで、無断で店まで移転させちゃった件に関しては不問ってこと

になりました……っていうか、いいのか!?

こんなにゆるくて?

これが日本だったら、警察が来て連行されて……今頃カツ丼を前にして、

『で、何があったのか教えてもらおうか』

ってな具合に尋問されまくってる最中だと思うんだけど……

少々困惑してた僕なんだけど……その後、エレエから商店街に出店するための申請書類を渡

され……って……書かれている文字なんだけど、まぁ、当然見たこともない言語なんだけど

……なぜかそれを頭の中で理解することができていました。

それで申請するために、僕が日本語で書類を書いたところ、

「あらあら珍しい言語ですねぇ……ふむふむ、でも理解できるので大丈夫ですです!」

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と、エレエもそう言ってくれたんですよね。

……っていうか、よく考えたら、この世界にやってきて最初に出会ったルアと普通に会話が

できていたことが、そもそも奇跡的なんだよね……?

あまりにも普通に話しかけてきてくれ

たもんだから、うっかりそのまま会話しちゃってたけどさ……

これってあれなのかな……主人公補正というか、転移者として神様の恩恵を受けてるとかで

……今は全然実感ないけど、実はレベルが2に上がったとたんにウルトラスーパーデラックス

なチート戦士になっちゃったりとか……?

いや、そこまでの夢は見ないことにしておこう……、うん。

最低限の会話と読み書きに不自由しない程度に配慮してくれたらしいこの世界の神様に、僕

は心の中で感謝しておくことにしました。

その後、僕はエレエから、

・組合に加盟した商店は、組合費を毎月納めないといけないこと

・自警団への参加が義務であること

19 異世界コンビニおもてなし繁盛記

などの基本的な決まりを、あれこれと教えてもらいました。

組合費に関しては、移転した最初の月は免除されるらしい……うん、これはマジで助かる。

なにしろ、「コンビニおもてなし」の店舗ごと転移してきたみたいであるものの、この世界の

お金なんて持ってるわけがありません。

加盟料とか請求されたらどうしよう……とドギマギしてたんだけど……、

「ルア様が紹介人ですですので、加盟料は無料ですです」

と、エレエが言ってくれたものだから、僕は心の底から安堵しました。

……で、説明を聞き終えた僕は、書類の最後にある、

・説明された、商店街組合の決まり事を守ります

と書かれている箇所の後ろにサインをして、書類を提出しました。

しばらくその書類を確認していたエレエは、

「はいはい、問題ないですです」

そう言うと、

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「では、タクラ様。ガタコンベ商店街へようこそなのですです」

にっこり微笑みながら、『ガタコンベ商店街組合加盟証明書』と書かれている書類を、僕に

渡してくれました。

これで僕は、このガタコンベ商店街の一員になれた……ってことみたいですね。

◆◇◆◇◆

その後、僕は「コンビニおもてなし」の店舗へと戻りました。

用事があるとかでルアが組合に残ったため、帰りは1人だったわけですけど……石畳の街道

の周囲を見回してみると……ここが異世界なんだってことがあらためて実感できました。

なにしろ、周囲には木製か石造りの建物しかないわけで、しかもそのどれもが中世のヨーロ

ッパを思わせる造りになっています。

街道を行き来していたり、建物の窓から顔を出している人たちも、その頭に耳があったり、

顔が動物だったりと、まぁ……僕のような一般的な人間……あ、この世界では人種族っていわ

れているそうなんだけど、僕と同じ人種族には、店に帰るまで一度も出くわしませんでした。

商店街組合に向かっている時は、ルアが話し相手になってくれていたので人種のことにまで

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気が付かなかったわけなんですけど……成り行きとはいえ、こうしてわけが分からないまま、

この世界の組合で手続きを終えて、この商店街の一員になった僕……

これから一体、どうなっちゃうんでしょうかねぇ……

「コンビニおもてなし」の店内に戻った僕は、しばらく頭を抱えていました。

……そして10分後。

「……とりあえず、いつ日本に戻れるか……というか、元の世界に戻ることができるか分から

ないわけなんだし……とりあえずは、この世界で生きていくことを考えないとなぁ……」

腕組みしながら、そんな考えに至った次第です、はい。

ずいぶん早く切り替えたなと自分でも思うのですが……まぁ、あれです、父さんが急死して

急遽、「コンビニおもてなし」を引き継いだ時の衝撃に比べればねぇ……通帳にも金庫にも全

然お金がなくって、賃金や仕入れ代金をどうやって支払ったらいいんだ!?

って、途方に暮れ

たことを昨日のように思い出すといいますか……いや、まぁ、それは済んだことだし……

そんなわけで、この世界で生きていくために何ができるのか、

「……まぁ、こうしてせっかく店舗もあることだし、コンビニの営業を再開してみるか……」

と、そう考えたわけです。

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それに伴いまして、僕は店の状況を確認して回ることにしました。

まず、びっくりといいますか、奇跡的だったのが、電気が使用可能だったことです。

蛍光灯のスイッチを入れたら全て点灯したものですから、思わず自分の目を疑ってしまいま

した。なにしろ、ここは異世界ですからね。

さっきルアと街道を歩いたわけですけど、街道の周囲には街灯のようなものは一切ありませ

んでした。

家々にも、電気が通っている様子なんてありません。

電気が使えたのは、店の屋上に設置した太陽光発電システムのおかげだったんです。

屋上に設置しているソーラーパネルで発電した電気をそのまま建物内で使え、地下倉庫の一

角に設置してある業務用の大型リチウムイオン蓄電システムに電気を貯めることもできました。

ただまぁ……この世界に太陽光発電システムを修理できる人がいるとは思えませんので、相

当大事に使用しないといけないわけです、はい。

逆に水回りに関しては、少々困った状況になっていました。

上下水道が、完全に遮断されていたんです。

23 異世界コンビニおもてなし繁盛記

店の屋上にある浄化水槽の中に水があるんですけど、水を注入する水道管がぶっつり切れて

たんですよね……。元の世界で漏れまくってるってことなんじゃ……

なんか、別の意味でも怖くなってきましたね、これは……

まぁ、今すぐには帰れない世界の話は置いておくとして……このまま水槽の水がなくなると、

水が使えなくなってしまいます。

お店を開店しても、トイレを使用してもらうことができませんし、なによりレジ裏にありま

す厨房で水が全く利用できなくなるわけなんです。

これでは、「コンビニおもてなし」名物のお弁当を作ることもできません。

それに、これから暮らしていく2階のお風呂や住居のトイレも使用できません。

「やれやれ……これは困ったなぁ」

僕が店内で腕組みをしていると、

「よう、調子はどうだ?」

商店街組合から戻ってきたらしいルアが、店内にやってきました。

「あぁ、ルア、いいところに……」

「なんだ?

何か問題でもあったのか?」

「それがさ……店内に水を引く設備が駄目になってるみたいでさ……ルアの家では水はどうや

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ってるの?」

「あぁ、水ならさ、この店のちょうど裏に川が流れててさ、川の水を引っ張ってんだよ。なん

なら、後でどうにかしてやろうか?」

「うわぁ、そりゃ助かります。ありがとうございます!」

「よせやい、困った時はお互いさまだろ」

思わずルアを拝んでしまった僕なんだけど、そんな僕にルアは笑顔で答えてくれました。

ルアってホント優しいといいますか、面倒見がよいといいますか……思わず「姉さん!」っ

て、言いたくなってしまいます、ホント。いや、僕より年下だと思うんですけどね……

「ちょっと急ぎの仕事があるからさ、それが済んだらまた来るよ……そうだな、たぶん夕方く

らいには来られると思う」

ルアはそう言って、僕の店の真正面にある工房へと戻っていきました。

小さな窓しかないので店の中までは分からないけど、中からキンコンカンコンと何か金属を

打ちつけるような音が聞こえているので、店員か弟子の人が作業しているのかもしれません。

そんなわけで……時間が空いてしまった僕は、少し思案した後、あらためて街に出てみるこ

とにしました。

25 異世界コンビニおもてなし繁盛記

なにしろ、この世界に来てまだ半日も経っていないわけでして、圧倒的に情報量が少なすぎ

ますからね。

「コンビニおもてなし」を再開するにしても、この世界というか、この街でどういった品物が

売られているのかとか、どんな品物がいくらぐらいかといったお金の相場的なことや、どんな

年齢層の人が多く暮らしているのか……いわゆる市場リサーチってやつですかね、そういうこ

とをしっかりしておかないことには何も始まらないといいますか……

「……しかしあれだなぁ……そう思い立ったものの……先立つものというか、この世界のお金

を持っていないわけだし……はてさてどうしたものか……」

「コンビニおもてなし」の中で、僕は1人、腕組みしたまま考え込んでしまいました。

◆◇◆◇◆

それから1時間ほど経過しました。

ガラガラガラ……

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