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Page 4 エネルギア総研レビュー No.48

1 まえがき

 配電系統の電圧解析で使用するツールとして,様々な解析が可能で高機能・高精度なものが開発されているが(1),入力データの作成や出力結果の把握等に労力がかかるという現状がある。 本研究では,解析対象を電圧不平衡のみに絞り込み,簡単化した解析モデルにより直感的な操作性と視覚的な分かりやすさを目標に,表計算ソフトを用いた簡易評価ツールを開発したので,紹介する。

2 概  要

 近年の住宅用太陽光発電の導入量増大に伴い,配電系統において電圧不平衡の拡大が懸念されている。夕方から未明にかけて電圧不平衡率が若干増加することが知られているが(2),昼間の太陽光発電時においても電圧不平衡の対策検討が必要になると想定される。 一方,近年,計測機能付き開閉器と呼ばれる配電線途中の電圧・電流・力率等を取得可能な機器の導入が進んでおり,三相分の情報が取得できることから電圧不平衡対策への活用が期待される。 電圧不平衡とは三相の電圧の大きさと位相角差が3つとも等しくはない状態をいい,電圧不平衡が拡大すると,お客さまに与える影響としては,お客さま機器の異常停止や太陽光発電の出力抑制の一因となることや,電圧管理上の問題としては,系統内全ての受電点電圧を適正範囲に維持するために確保している電圧余裕幅が少なくなることが挙げられる。 電圧不平衡の発生原因は,線路インピーダンスの偏り(以下,「線路特性の偏り」)によるものと負荷

(あるいは発電)の偏りによるものが知られている。線路特性の偏りは,電柱に架かる3つの電線が通常直線上に配置され,電線間の距離が3つとも等しくないことが主原因と考えられる。負荷の偏りは,単相の変圧器(主に柱上変圧器)の接続相偏りによって発生する。実線路においては,2つの原因が複雑に組み合わさって電圧不平衡が拡大していると考えられる。 発生原因を比較すると,通常の配電線では,線路特性の偏りよりも負荷の偏りの方が支配的であり(3),電圧不平衡対策は負荷の平衡化が原則となってい

る。ただし,長亘長,大容量,多回線の配電線では,線路特性の偏りの影響も無視できなくなると考えられる。 電圧不平衡解析は計算が複雑なため,初めて電圧不平衡対策を検討する担当者(以下,ユーザ)が,系統内の負荷の偏りと線路特性の偏りの影響を考慮に入れながら,様々な対策の効果を容易に評価できるよう支援することを目的として,本ツールを開発した。

3 研究成果

(1)解析モデル 解析モデルは,計測機能付き開閉器単位程度の区間に区切られた三相の不平衡電線路・不平衡負荷の配電系統である。区間はユーザが区切り,区間内の負荷は線間負荷のみとした。

a.線路定数の計算 線路定数の計算は,対象を3線の架空配電線とし,相互リアクタンス分を含んだ行列形式の線路定数を装柱別に計算している。 電線種別はAOC200sq,系統周波数は60Hzとし,代表的な5種類の装柱種別の中から区間を代表する装柱を区間ごとに選ぶ。装柱は区間ごとに変えることができるが,区間内は同一の装柱とした。簡単にするため架空地線と大地帰路分は省略した。

 線路定数をカスタマイズする場合は,系統周波数,電線抵抗と外径・GMR,電線配置の座標(平面)を指定する。b.潮流計算 各区間端の線間電圧は,三相潮流計算により求め

図1 解析モデル

図2 装柱種別

研究レポート

配電系統における表計算ソフトを用いた電圧不平衡対策簡易評価支援ツールの開発

エネルギア総合研究所 系統グループ 八田 浩一

Page 5エネルギア総研レビュー No.48

る。本ツールの潮流計算は,各区間端をノードとして作成した潮流方程式から,Z行列を計算して逐次代入法により反復計算を行うシンプルな方法である。負荷は,ノードに線間負荷をPQ指定する。変電所送出点のノードを基準ノードとし,三相平衡電圧を与えて収束計算を実行する。 本ツールの特長として,エクセル関数のみで潮流計算を実現していることが挙げられる。セルに値を入力するだけで潮流計算結果が表示されるので,入力の労力が少なく,発生原因の推測や対策の策定など条件を頻繁に変えた場合の評価を容易に行うことができる。 また,対策の前と後について2つの潮流計算を実行しており,対策前後の結果が同時にグラフ表示されるため,改善効果を視覚的にも容易に比較できる。

(2)必要な情報 解析を始めるにあたり,以下の情報を準備する。a.系統情報 系統図,相配列がわかる位相図b.負荷情報 計測機能付き開閉器1日分の毎正時の計測値 (三相の線間電圧・線電流・力率,潮流方向)

(3)データの入力a.負荷データの入力 計測機能付き開閉器の計測データファイルを読み込むと,計測値はそのままエクセルシートに貼り付けられる。b.系統データの入力 系統情報は,ユーザが各区間長を入力した後,位相図にもとづき装柱と相配列を区間ごとに選択する。次に,計測機能付き開閉器の向きを指定し,開閉器端子と相配列を関連付ける。

(4)負荷按分支援 対策を検討する時間断面を選定した後,各区間の

線間負荷を求める。本ツールは,区間前後の計測機能付き開閉器の計測値から区間の通過電力を求めて差分をとり区間内の消費電力を求めている。線電流から線間の負荷は一意に定まらないので,按分した結果を必要によりユーザが補正する。ただし,負荷按分において,線路ロス分は考慮していない。

 区間長が長い等,区間によっては区間内の負荷の分布が電圧降下の計算に大きく影響するため,実系統の負荷分布に沿うように,負荷分布を指定する。

(5)計測値と計算値の合わせこみ データ入力が終わると,ツールは直ちに潮流計算を実行するが,解析モデルを簡単化したため通常は計測値と潮流計算による計算値に乖離が見られる。

 計算値と計測値に大きな乖離があると対策の評価に影響があるため,対象系統の特性を反映させるように補正を行う。例えば,SVR(自動電圧調整器)のタップはユーザが手動で指定し,計測機能付き開閉器が変電所送出直後にない場合は,送出電圧を補正する。また,電圧差の原因が,負荷の偏りと考えられる場合は負荷の配分を変え,線路特性の偏りと考えられる場合は相互リアクタンスを補正する。

(6)電圧不平衡発生原因の影響推定 解析対象の系統において,線路特性の偏りと負荷の偏りの影響の大きさを,電流と線路特性を各々平衡化させ,各原因の影響度を推定する。a.線路特性の偏りの影響推定 電流平衡化のセルにフラグを立てると,全区間の

図3 系統データ入力画面

配 電 系 統 に お け る 表 計 算 ソ フ ト を 用 い た 電 圧 不 平 衡 対 策 簡 易 評 価 支 援 ツ ー ル の 開 発

図4 負荷按分

図5 負荷分布の種類

図6 計測値と計算値の初期乖離

Page 6 エネルギア総研レビュー No.48

研究レポート

図10 無効電力機器設置の評価

図11 24時間評価(対策前・後)

ん架点以降の全区間について電線配置と負荷を変更する。

c.無効電力機器設置の評価 無効電力機器(単相SC・単相SR)を線間に設置する場合の無効電力容量を計算する。容量は,設置箇所の三相の線間電圧と,設置箇所までの線路インピーダンスから容量計算式を用いて求めている。ユーザは,設置するノード番号を指定し,ツールが求めた容量を代入する。

(8)単相柱上変圧器接続相振替の24時間評価 ある時間断面において電圧不平衡を最小化するように求めた移設量が他の時間帯においても電圧不平衡を抑制できるかどうかを,すべての時間断面の負荷データを用いて潮流計算を実行し,24時間評価を行う。ツールでは,マクロボタンを押すことで24時間評価を実行し,結果がグラフ表示される。 一方,すべての時間断面に対して最適移設量計算を実行し,移設量の時間変化とマッチングする負荷曲線を持つ単相柱上変圧器を選定する方法も考えられる。

負荷のPQが三相平衡化される。b.負荷の偏りの影響推定 線路特性平衡化のセルにフラグを立てると,全区間の電線路の相互リアクタンスが等しくなる。

(7)不平衡対策の評価a.単相柱上変圧器接続相振替の評価

(a) 接続相の均等化 一般的な電圧不平衡対策である単相柱上変圧器の接続相均等化の評価を行う。接続相均等化のセルにフラグを立てると,区間ごとに変圧器負荷を三相平衡化するために必要な相別の移設容量を計算する。

(b)移設量の最適化 接続相を均等にしても電圧不平衡が残る場合は,線路特性の影響が考えられる。移設量最適化は,全ノードの電圧不平衡率の最大値を最小化する負荷の移設量を求める。移設対象区間の指定は,1区間指定と全区間指定の2つがある。本ツールは,エクセルのソルバーを用いて最適化計算を実現しており,マクロボタンを押すことで実行する。線路特性の影響がある場合は,最適化後の系統電流は若干偏る傾向にある。

b.ねん架の評価 線路特性の影響を低減する方法にねん架がある。捻り方は5通り考えられるが,電線をクロスさせると逆回転の電圧がかかってしまうため,現実的には右廻か左廻の2種類から選ぶ。ねん架するノードにおいて,捻る方向にフラグを立てると,ツールはね

図7 電圧不平衡発生原因の影響推定

図9 ねん架の評価

図8 単相柱上変圧器の移設量最適化

Page 7エネルギア総研レビュー No.48

配 電 系 統 に お け る 表 計 算 ソ フ ト を 用 い た 電 圧 不 平 衡 対 策 簡 易 評 価 支 援 ツ ー ル の 開 発

(9)太陽光発電の影響評価a.太陽光発電新設時の評価 単相または三相の太陽光発電が新設される場合に発生する電圧不平衡を推定する。新設される太陽光発電の発電容量を,単相と三相に分けて区間ごとに合計容量を指定する。次に,各々の発電曲線と力率を指定する。単相の太陽光発電の相偏りについては,相別の容量または容量比で指定する。

b.単相太陽光発電の影響がある系統の改修評価 夕方から未明にかけての電圧不平衡に加え,太陽光発電の影響で昼間の電圧不平衡も問題になっている系統に対して,単相柱上変圧器の接続相振替により改修を行う場合を評価する。 解析方法は,発電日と非発電日の24時間計測データを準備し,非発電日の解析結果から,発電日の太陽光発電時間帯の実負荷変化をツールが推定し,(7)a.の単相柱上変圧器移設量最適化方法と同様に,各ノードの電圧不平衡率の最大値を最小化する単相太陽光発電の移設量を計算する。 なお,1つの単相柱上変圧器に対して,負荷と太陽光発電の両方が含まれている場合があるので,負荷と太陽光発電の移設容量がマッチングする単相柱上変圧器を選定する必要がある。

(10)解析結果のベクトル図表示 各ノードの三相の電圧・電流・電圧降下ベクトルが表示されるため,ユーザは区間ごとに発生する不平衡電圧と電流の大きさと向きを視覚的に把握できる。

4 あとがき

 複雑な電圧不平衡解析に対して,電圧不平衡対策の効果を容易に評価できる簡易評価支援ツールを開発した。解析モデルを簡単化したことにより,ツール開発の負担を減らして評価手法の開発に柔軟性を持たせ,表計算ソフトの利点を生かし操作性・視認性の向上を図った。  本ツールは,以下の特徴を持つ。

●計測機能付き開閉器の計測データを活用した解析●表計算ソフトエクセルの標準機能を用いた最適 化計算を含む各種電圧不平衡対策の評価●解析結果の可視化

 本ツールは,解析モデルを簡単化したため複雑なモデルの解析はできない。今後,さらに緻密で高精度な解析が必要になる場合は,潮流計算部を外部化する等,汎用の系統解析ツールと連携して評価することを考えている。

〔参考文献〕(1) 上村,三宅:「配電系統総合解析ツールの開発(その2)

-PV連系検討機能の追加と実用性の向上-」, 電力中央研究所報告書,2016-07

(2) 「配電系統における電力品質の現状と対応技術」,電気協同研究,第60巻第2号,2005-3

(3) 奥村,上村:「三相計測機能付開閉器データを活用した配電系統電圧不平衡を改善する柱上変圧器接続法」,電力中央研究所報告書,2015-07

図13 単相太陽光発電の移設量最適化

図14 解析結果のベクトル図

図12 太陽光発電新設時の評価(相偏りの違い)

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